説明

直接メタノール型燃料電池

【課題】カソード用セパレータの酸化性ガス流路内での液滴詰り(フラッティング)現象を抑制することが可能な直接メタノール型燃料電池を提供する。
【解決手段】メタノール水溶液が燃料として供給されるアノード1と、酸化性ガスが供給されるカソード2と、前記アノード1とカソード2の間に介在される電解質膜3と、前記アノード1側に配置され、前記アノード1と対向する面に燃料流路5が形成されたアノード用セパレータ4と、前記カソード2側に配置され、前記カソード2と対向する面に酸化性ガス流路8が形成されたカソード用セパレータ7とを備え、少なくとも前記カソード用セパレータ7は、少なくとも前記酸化性ガス流路8内面に撥水性官能基およびイオン性官能基を有する高分子重合体を含む被膜9、11が形成されていることを特徴とする直接メタノール型燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接メタノール型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
直接メタノール型燃料電池は、メタノール水溶液が燃料として供給されるアノードと、酸化性ガスが供給されるカソードと、これらの極間に介在される電解質膜と、前記アノードに配置され、燃料流路を有する燃料用セパレータと、前記カソードに配置され、酸化性ガス流路を有するカソード用セパレータとを備える。各セパレータは、従来、カーボンプレート、SUSプレートが用いられている。
【0003】
直接メタノール型燃料電池において、発電時に、主にカソード用セパレータの酸化性ガス流路には水−メタノールの結露が発生する。結露の発生は、酸化性ガス流路の液滴詰り、いわゆるフラッティングを生じ、空気のような酸化性ガスの流通を妨げる。その結果、カソードの還元反応が阻害されて、燃料電池の出力および信頼性を低下させる。
【0004】
特許文献1には、カソード用セパレータの酸化性ガス流路表面の一部または全部にフッ素含有化合物を含む撥水層を形成することが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1のように酸化性ガス流路表面に撥水層を形成しても、結露発生に伴う液滴の詰りを十分に防止することが困難である。すなわち、酸化性ガス流路表面への撥水層の形成は撥水作用により流路に対する液滴の接触性を下げて液滴を弾き、弾かれた液滴を酸化性ガスの供給力で流動させて流路の外部に排出する。このため、折れ曲がった流路部分では液滴の流動性が低下し、酸化性ガスの供給力で流路の外部に排出することが困難になり、結果的に流路は液滴詰りが生じる。したがって、特許文献1の場合でも空気のような酸化性ガスの流通を妨げられ、カソードの還元反応が阻害されて、燃料電池の出力および信頼性を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−185901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、カソード用セパレータの酸化性ガス流路内での液滴詰り(フラッティング)現象を抑制することが可能な直接メタノール型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、メタノール水溶液が燃料として供給されるアノードと、酸化性ガスが供給されるカソードと、前記アノードとカソードの間に介在される電解質膜と、前記アノード側に配置され、前記アノードと対向する面に燃料流路が形成されたアノード用セパレータと、前記カソード側に配置され、前記カソードと対向する面に酸化性ガス流路が形成されたカソード用セパレータとを備え、
少なくとも前記カソード用セパレータは、少なくとも前記酸化性ガス流路内面に撥水性官能基およびイオン性官能基を有する高分子重合体を含む被膜が形成されていることを特徴とする直接メタノール型燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カソード用セパレータの酸化性ガス流路内での液滴詰り(フラッティング)現象を抑制してカソードの還元反応を促進して出力を向上した直接メタノール型燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る直接メタノール型燃料電池を示す断面図。
【図2】実施形態に係る直接メタノール型燃料電池の変形例を示す断面図。
【図3】実施例1〜4および比較例1の評価用単セルの温度50℃における電流−電圧曲線を示す図。
【図4】実施例1〜4および比較例1における一定電流密度に保持しながら、長時間稼動させた時の評価用単セルの電圧変化を示す図。
【図5】実施例5−1〜5−4および比較例2におけるメタノールの浸漬時間と被膜の接触角の関係を示す図。
【図6】調製例1で得られたプレポリマーの重合体被膜の膜厚とその重合体被膜の接触角の関係を示す図。
【図7】実施例1において第2モノマー(2)の重合度n=50のとき、第1モノマー(1)の重合度mの値を2から320まで変化させた重合体の被膜が流路内面に形成されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータを用いたときの評価用単セルの電圧変化を示す図。
【図8】実施例1において第1モノマー(1)の重合度m=50のとき、第2モノマー(2)の重合度nの値を1から300まで変化させた重合体の被膜が流路内面に形成されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータを用いたときの評価用単セルの電圧変化を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る直接メタノール型燃料電池を図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
この実施形態に係る直接メタノール型燃料電池は、メタノール水溶液が燃料として供給されるアノードと、酸化性ガスが供給されるカソードと、前記アノードとカソードの間に介在される電解質膜と、前記アノード側に配置され、前記アノードと対向する面に燃料流路が形成されたアノード用セパレータと、前記カソード側に配置され、前記カソードと対向する面に酸化性ガス流路が形成されたカソード用セパレータとを備える。少なくとも前記カソード用セパレータは、少なくとも前記酸化性ガス流路内面に撥水性官能基およびイオン性官能基を有する高分子重合体を含む被膜が形成されている。
【0013】
具体的な直接メタノール型燃料電池は、図1に示す構造を有する。
【0014】
図中の1は、メタノール水溶液が燃料として供給されるアノード、2は酸化性ガスが供給されるカソードである。電解質膜3は、これらのアノード1とカソード2の間に介在されている。アノード1は、電解質膜3に接する触媒層1aと、この触媒層1aに積層されたカーボンペーパのような拡散層1bとから構成されている。カソード2は、電解質膜3に接する触媒層2aと、この触媒層2aに積層されたカーボンペーパのような拡散層2bとから構成されている。
【0015】
アノード用セパレータ4は、アノード1側に配置され、アノード1と対向する面に例えば蛇行した燃料流路5が形成されている。燃料流路5は、一端にセパレータ4を貫通して形成された燃料供給口(図示せず)と、他端にセパレータ4を貫通して形成された燃料排出口(図示せず)を有する。シール材6は、アノード1とセパレータ4の間に燃料流路5を囲むように配置されている。
【0016】
カソード用セパレータ7は、カソード2側に配置され、カソード2と対向する面に例えば蛇行した酸化性ガス流路8が形成されている。酸化性ガス流路8は、一端にセパレータ7を貫通して形成された酸化性ガス供給口(図示せず)と、他端にセパレータ4を貫通して形成された酸化性ガス出口(図示せず)を有する。撥水性官能基およびイオン性官能基を有する高分子重合体を含む被膜9は、少なくとも酸化性ガス流路8内面、例えば酸化性ガス流路8内面に形成されている。枠状シール材10は、カソード2とセパレータ8の間に酸化性ガス流路8を囲むように配置されている。
【0017】
アノード用セパレータ4、アノード1、電解質膜3、カソード2およびカソード用セパレータ7は図示しないボルトおよびナットで相互に固定されている。
【0018】
前記被膜に含まれる高分子重合体は、主鎖に撥水性官能基および環状ホウ素官能基が結合された第1モノマーと主鎖にイオン性官能基および環状ホウ素エーテル官能基が結合された第2モノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0019】
前記高分子重合体は、下記一般式(I)にて表わされるブロック共重合体であることがさらに好ましい。
【化1】

【0020】
ただし、式中のR1は炭素数が2〜6の脂肪族系のフッ化炭素、シラノール骨格を持つ有機ケイ素化合物を示し、R2は下記構造式(A)に示すN,N,N’,N’−ビス(ペンタメチレン)ウロニウムヘキサフルオロフォスフェートまたは下記構造式(B)に示すN,N,N’,N’−ビス(テトラメチレン)ウロニウムヘキサフルオロフォスフェートを示し、m、nはそれぞれ第1、第2のモノマー(1)、(2)の重合度を示し、それぞれm=5〜220,n=30〜260である。
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
一般式(I)のR1である炭素数が2〜6の脂肪族系のフッ化炭素の例は、CF2CF2CF3を含む。一般式(I)のR1であるシラノール骨格を持つ有機ケイ素化合物の例はCH2OSi(CH22Si(CH33を含む。
【0023】
一般式(I)の第1モノマーの重合度mは15〜140であることが好ましい。
【0024】
一般式(I)の第2モノマーの重合度nは130〜230であることが好ましい。
【0025】
前記被膜は、例えば1〜200μmの厚さを有することが結露した液滴に撥水性およびイオン性を十分に与えるために好ましい。
【0026】
なお、撥水性官能基およびイオン性官能基を有する高分子重合体を含む被膜は、図1に示すようにカソード用セパレータの酸化性ガス流路内面に形成する場合に限らない。例えば図2に示すように撥水性官能基およびイオン性官能基を有する高分子重合体を含む被膜11は、アノード用セパレータ4の少なくとも燃料流路5内面、例えば燃料流路5内面に形成してもよい。
【0027】
また、前記被膜は酸化性ガス流路内面のみならず、その流路を含むカソード用セパレータ7の表面全体に形成してもよい。同様に、前記被膜をアノード用セパレータの燃料流露内面に形成する場合、その流路を含むアノード用セパレータの表面全体に形成してもよい。
【0028】
以上説明した実施形態によれば、撥水性官能基およびイオン性官能基を有する高分子重合体を含む被膜を少なくともカソード用セパレータの少なくとも酸化性ガス流路の内面に形成することによって、カソード用セパレータの酸化性ガス流路内での液滴詰り(フラッティング)現象を抑制することができる。
【0029】
すなわち、カソード用セパレータの酸化性ガス流路に水−メタノールの結露により発生した液滴は僅かであるがイオン化(主にマナスイオン化)している。前記被膜に含まれる高分子重合体は撥水性官能基およびイオン性官能基を有するため、酸化性ガス流路に液滴が生じた場合、撥水性官能基が位置する撥水部で液滴を弾き、そのマナスイオン化した液滴をイオン性官能基が位置するプラス帯電したイオン化部で引っ張る。このような撥水部での液滴の弾き、イオン化部でのマナスイオン化した液滴の引っ張りを繰り返すことにより液滴の流動性を促進できる。その結果、折れ曲がった流路部分で発生した液滴をも酸化性ガスの供給力で容易に流動して効率よく流路から排出できる。したがって、カソード用セパレータの酸化性ガス流路内での液滴詰り(フラッティング)現象を抑制してカソードの還元反応を促進して出力向上を達成した直接メタノール型燃料電池を提供できる。
【0030】
特に、主鎖に撥水性官能基および環状ホウ素官能基が結合された第1モノマーと主鎖にイオン性官能基および環状ホウ素エーテル官能基が結合された第2モノマーとの共重合体を高分子重合体として含む被膜は、第1モノマーが位置する撥水部での液滴を弾く作用を高めることができるため、折れ曲がった流路部分で発生した液滴をも酸化性ガスの供給力で容易に流動して一層効率よく流路から排出できる。
【0031】
また、前記一般式(I)で表わされる高分子重合体を含む被膜は第1モノマー(1)が位置する撥水部での液滴を弾く作用を高めることができ、かつ第2モノマー(2)が位置するイオン化部で弾かれたマナスイオン化液滴を引っ張る作用を高めることができる。その結果、液滴の流動性をより一層促進できるため、折れ曲がった流路部分で発生した液滴をも酸化性ガスの供給力で容易に流動させて流路から一層効率よく排出できる。
【0032】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、実施例中の「部」は「重量部」を意味する。
【0033】
(プレポリマーの調製例1)
オーバーヘッドスターラー、ジムロート冷却管を取り付けた丸底反応容器にN,N−ジメチルホルムアミド30部を入れた。この反応器にcis−1,2−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボラン−2−イル)−9−ボラビシクロ[3,3,1]ノナン−ヘキサフルオロプロピレン−エチレンモノマー[HFPと称す](第1モノマー)50部とcis−1,2−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボラン−2−イル)−ビス[N,N,N’,N’−ビス(ペンタメチレン)ウロニウムヘキサフルオロフォスフェート]−エチレンモノマー[PUHと称す](第2モノマー)50部を入れ、溶解させた。つづいて、反応器内の溶液にアゾビスイソブチロニトリル0.5部を添加した。反応器内の溶液をオイルバスで60℃に加熱しながら、溶液を3分間攪拌した後、ベンゾフェノン0.5部を添加した。その後、溶液をさらに5分間攪拌することによりプレポリマーを調製した。
【0034】
(プレポリマーの調製例2)
第1モノマーとしてHFPを50部用い、第2モノマーとしてcis−1,2−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボラン−2−イル)−ビス[N,N,N’,N’−ビス(テトラメチレン)ウロニウムヘキサフルオロフォスフェート]−エチレンモノマー[TUHと称す]を50部用いた以外、前記調製例1と同様な方法によりプレポリマーを調製した。
【0035】
(プレポリマーの調製例3)
第1モノマーとしてcis−1,2−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボラン−2−イル)−9−ボラビシクロ[3,3,1]ノナン−トリメチルシリロキシジメチルシリロキシメチル−エチレンモノマー[TMSと称す]を50部用い、第2モノマーとしてPUHを50部用いた以外、前記調製例1と同様な方法によりプレポリマーを調製した。
【0036】
(プレポリマーの調製例4)
第1モノマーとしてTMSを50部用い、第2モノマーとしてTUHを50部用いた以外、前記調製例1と同様な方法によりプレポリマーを調製した。
【0037】
調製例1〜4により得られたプレポリマーを後述する波長250nm〜450nmの紫外線で照射して重合体(ブロック共重合体)としたときの同定結果を下記表1に示す。
【表1】

【0038】
(実施例1)
[アノードの作製]
白金ルテニウム担持炭素粉末20部および5%パーフルオロアルキルスルホン酸重合体(デュポン社製商標名:ナフィオン(Nafion))溶液80部を混合、分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーをカーボンペーパ(東レ社製:TPG−H−120)上にコーターを用いて白金ルテニウムの担持量が2mg/cm2になるよう塗布してアノードを作製した。
【0039】
[カソードの作製]
白金担持炭素粉末30部および5%パーフルオロアルキルスルホン酸重合体(デュポン社製商標名:ナフィオン(Nafion))溶液100部を混合、分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーをカーボンペーパ(東レ社製:TPG−H−120)上にコーターを用いて白金の担持量が1mg/cm2になるよう塗布してカソードを作製した。
【0040】
[アノードおよびカソード用セパレータの作製]
2枚のカーボン板に切削加工によりサーペンタイン流路をそれぞれ形成した。各流路内面に前記調製例1で得られたプレポリマーをそれぞれ塗布した。その後、紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製:ECS−1511U型)を用いて波長250nm〜450nmの紫外線を各塗布膜に1分間照射することによりプレポリマーを重合して流路内面に重合体被膜が固定化されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータをそれぞれ作製した。
【0041】
[膜電極の作製]
得られたアノードおよびカソードをそれらの触媒層が対向するように配置し、これらの電極間に高分子電解質膜(デュポン社製NafionTM117)を配置した。その後、積層物をホットプレスして電極面積5cm2の膜電極を作製した。
【0042】
[単セルの組立]
得られた膜電極の両面に表面処理した流路を有する前記アノード用セパレータおよび前記カソード用セパレータを枠状シール材を介して挟み、ボルト締めすることにより評価用単セルを組立てた。
【0043】
(実施例2)
調製例1で得たプレポリマーの代わりに調製例2で得たプレポリマーを用いて、2枚のカーボン板のサーペンタイン流路内面に塗布し、紫外線照射を行なって流路内面に重合体被膜が固定化されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータを作製した以外、実施例1と同様な方法で評価用単セルの組立てを行なった。
【0044】
(実施例3)
調製例1で得たプレポリマーの代わりに調製例3で得たプレポリマーを用いて、2枚のカーボン板のサーペンタイン流路内面に塗布し、紫外線照射を行なって流路内面に重合体被膜が固定化されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータを作製した以外、実施例1と同様な方法で評価用単セルの組立てを行なった。
【0045】
(実施例4)
調製例1で得たプレポリマーの代わりに調製例4で得たプレポリマーを用いて、2枚のカーボン板のサーペンタイン流路内面に塗布し、紫外線照射を行なって流路内面に重合体被膜が固定化されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータを作製した以外、実施例1と同様な方法で評価用単セルの組立てを行なった。
【0046】
(比較例1)
調製例1で得たプレポリマーの代わりにポリシロキサン(信越化学株式会社製:信越シリコーンKE−103)を用いて、2枚のカーボン板のサーペンタイン流路内面に塗布し、乾燥することにより流路内面にポリシロキサン被膜が固定化されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータを作製した以外、実施例1と同様な方法で評価用単セルの組立てを行なった。
【0047】
[単セル評価]
実施例1〜4および比較例1の単セルのアノード側に3重量%濃度のメタノール水溶液(燃料)を5mL/分の流速でそれぞれ送液し、カソード側に空気を10mL/分の流速でそれぞれ供給した。50℃の各単セルの電流−電圧特性を測定した。その結果を図3に示す。
図3から明らかなように実施例1〜4の単セルは、比較例1の単セルに比べて高い出力電圧を取り出すことができることがわかる。
また、実施例1〜4および比較例1の単セルのアノード側に3重量%濃度のメタノール水溶液(燃料)を5mL/分の流速でそれぞれ供給し、単セルのカソード側に空気を10mL/分の流速でそれぞれ供給した。温度50℃にて、電流密度を100mA/cm2に一定に保持しながら1000時間稼動させるときの電位変化を観察した。その結果を図4に示す。
【0048】
図4から明らかなように実施例1〜4の単セルは、比較例1の単セルに比べて長時間稼動後にも高い電位保持率を示し、信頼性の高い発電を遂行できることがわかる。
【0049】
(実施例5−1〜5−4および比較例2)
[耐メタノール性の評価]
30mm×30mm×4mmのカーボンプレートに調製例1〜4で得られたプレポリマーをそれぞれ塗布し、各塗布膜に紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製:ECS−1511U型)を用いて波長250nm〜450nmの紫外線を1分間照射することによりプレポリマーを重合して厚さ40μmの重合体被膜を形成し、4つの試験片(実施例5−1〜5−4)を作製した。
【0050】
また、30mm×30mm×4mmのカーボンプレートにポリシロキサン(信越化学株式会社製:信越シリコーンKE−103)を塗布し、乾燥することにより厚さ40μmのポリシロキサン被膜を有する試験片(比較例2)を作製した。
【0051】
得られた各試験片を100ccのメタノールに浸漬し、100時間経過毎にメタノール水溶液に対する接触角を測定した。接触角は、各試験片の被膜に85量%濃度のメタノール水溶液を滴下し、その液滴の接触角をジャスコインターナショナルFTA社の接触角計FTA−1000を用いて測定した。その結果を図5に示す。
【0052】
図5から明らかなように調製例1〜4により得られたプレポリマーからなる一般式(I)で表わされる重合体被膜(実施例5−1〜5−4)は、ポリシロキサン被膜(比較例2)に比べてメタノールに長時間浸漬後も高い接触角、つまり高い撥水性を有し、優れたメタノール耐性を示すことがわかる。
【0053】
(実施例6)
30mm×30mm×4mmのカーボンプレートに調製例1で得られたプレポリマーをそれぞれ厚さを変えて塗布し、各塗布膜に紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製:ECS−1511U型)を用いて波長250nm〜450nmの紫外線を1分間照射することによりプレポリマーを重合して0.5μm〜260μmの厚さの重合体被膜を形成した試験片を作製した。
【0054】
得られた各試験片の重合体被膜のメタノール水溶液に対する接触角を測定した。接触角は、各試験片の重合体被膜に85重量%濃度のメタノール水溶液を滴下し、その液滴の接触角をジャスコインターナショナルFTA社の接触角計FTA−1000を用いて測定した。その結果を図6に示す。
【0055】
図6から明らかなように重合体被膜は、厚さが1.5〜160μmの範囲で高い接触角、つまり高い撥水性を示すことがわかる。
【0056】
(実施例7)
実施例1において第2モノマー(2)の重合度n=50のとき、第1モノマー(1)の重合度mの値を2から320まで変化させた重合体の被膜が流路内面に形成されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータを用い、電流密度100mW/cm2での単セルの電位を測定したときの結果を図7に示す。
【0057】
図7から明らかなように第1モノマーの重合度mは10〜220の範囲において高い電位が観測されることがわかる。
【0058】
(実施例8)
実施例1において第1モノマー(1)の重合度m=50のとき、第2モノマー(2)の重合度nの値を1から300まで変化させた重合体の被膜が流路内面に形成されたアノード用セパレータおよびカソード用セパレータを用い、電流密度100mW/cm2での単セルの電位を測定したときの結果を図8に示す。
【0059】
図8から明らかなように第2モノマーの重合度nは30〜220の範囲において高い電位が観測されることがわかる。
【符号の説明】
【0060】
1…膜状電極ユニット、1…アノード、2…カソード、3…電解質膜、4…アノード用セパレータ、5…燃料流路、6、10…シール材、7…カソード用セパレータ、8…酸化性ガス流路、9、11…被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール水溶液が燃料として供給されるアノードと、酸化性ガスが供給されるカソードと、前記アノードとカソードの間に介在される電解質膜と、前記アノード側に配置され、前記アノードと対向する面に燃料流路が形成されたアノード用セパレータと、前記カソード側に配置され、前記カソードと対向する面に酸化性ガス流路が形成されたカソード用セパレータとを備え、
少なくとも前記カソード用セパレータは、少なくとも前記酸化性ガス流路内面に撥水性官能基およびイオン性官能基を有する高分子重合体を含む被膜が形成されていることを特徴とする直接メタノール型燃料電池。
【請求項2】
前記高分子重合体は、主鎖に撥水性官能基および環状ホウ素官能基が結合された第1モノマーと主鎖にイオン性官能基および環状ホウ素エーテル官能基が結合された第2モノマーとの共重合体であることを特徴とする請求項1記載の直接メタノール型燃料電池。
【請求項3】
前記高分子重合体は、下記一般式(I)にて表わされるブロック共重合体であることを特徴とする請求項1記載の直接メタノール型燃料電池。
【化1】

ただし、式中のR1は炭素数が2〜6の脂肪族系のフッ化炭素、シラノール骨格を持つ有機ケイ素化合物を示し、R2は下記構造式(A)に示すN,N,N’,N’−ビス(ペンタメチレン)ウロニウムヘキサフルオロフォスフェートまたは下記構造式(B)に示すN,N,N’,N’−ビス(テトラメチレン)ウロニウムヘキサフルオロフォスフェートを示し、m、nはそれぞれ第1、第2のモノマー(1)、(2)の重合度を示し、それぞれm=5〜220,n=30〜260である。
【化2】

【化3】

【請求項4】
前記カソード側、アノード側の流路板はカーボンまたはSUSにより作られることを特徴とする請求項1記載の直接メタノール型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−113740(P2011−113740A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267820(P2009−267820)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【特許番号】特許第4691189号(P4691189)
【特許公報発行日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】