説明

直接型メタノール型燃料電池

【課題】高出力、低α、および高効率を維持しつつ発電寿命を向上させた燃料電池の提供。
【解決手段】電解質膜と、アノード電極と、カソード電極とからなる起電単位部材を含む燃料電池。アノード電極は2つの撥水性多孔質層を有し、そのうち電解質膜から遠い撥水性多孔質層25はもうひとつの撥水性多孔質層26よりガス透過性が低くなっている。また、前記起電部材のアノード電極側燃料流路の流路面積がアノード触媒層の面積に占める割合が高くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接メタノール型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ここ近年、リチウムイオンバッテリーに代わる小型のポータブル電源の一つとして、燃料電池がその開発対象とされている。そのなかでも特に直接メタノール型燃料電池(以下、DMFCという)は、燃料の取扱の簡便さや運転温度の観点で注目されている。
【0003】
DMFCの内部で起こる基本反応は、以下のとおりである。
アノード電極: CHOH+HO → CO+6H+6e (式1)
カソード電極: (3/2)O+6H+6e → 3HO (式2)
【0004】
式1に示される通り、アノード電極における反応で必要となる反応原料はメタノールと水である。このアノード電極における反応によって、例えば白金とルテニウムを主とする合金触媒の存在下、各1molのメタノールと水から1molの二酸化炭素、6molのプロトンと6molの電子が生成される。電子は外部電気回路を経由させることにより電力出力として利用される。
【0005】
また、式2に示される通り、カソード電極における反応で必要となる反応原料(反応物)は酸素、プロトン、および電子である。6molの電子は、アノード極で発生し、プロトン伝導性を有する電解質膜を経由して移動してきた6molのプロトンとカソード電極で反応し、3molの水を生成する。すなわちDMFCは、理論的には、燃料としてメタノールと水との混合物(モル比としてMeOH:HO=1:1)をアノード電極へ供給することにより発電を行うことができる。
【0006】
ここでプロトンを通すことができる電解質として種々のものが知られているが、一般にプロトン伝導性の高いものにおいては、同時に水分子の拡散性(透過性)も高い傾向がある。発電時、カソード電極において生成した水は、供給される空気などのガス中に蒸発し、乾燥する傾向にある。カソード電極が乾燥すると、水透過性の高いプロトン伝導性電解質を通して、アノード電極からカソード電極への水の拡散移動が引き起こされる。この水の移動が多すぎると、プロトン伝導性を維持するための電解質中の水の欠乏が引き起こされ、プロトン抵抗の増大即ち電力出力の低下に繋がる。
【0007】
このような観点から、種々の電解質が検討されている。しかし、これまでのところ、プロトン伝導性は高く、かつ水(又はメタノール)の透過性がほとんど無い、という電解質は見出されていない。すなわち、現実にメタノールと水を化学量論的に等モル含まれた燃料を用いて発電を行うと、メタノールとホルムアルデヒドなどの副生成物が高濃度に反応生成物中に含まれるようになるか、低効率での運転を強いられるか、もしくは発電運転制御に大きな労力が必要となる。
【0008】
水の欠乏を解決するためには、単純に燃料中の水の比率を多くする(メタノール濃度を小さくする)ことが考えられる。しかし、カートリッジ(交換式燃料容器)から直接燃料を電極に供給するシステムではカートリッジ単位体積あたりのエネルギー密度が小さくなるという問題が発生する。さらにこのような構成では、水が多量に電解質膜を通過してカソードへ移動する(以下、水のクロスオーバーということがある)ため、カソード電極側で水を回収する機構を設ける必要が生じる。
【0009】
これらのDMFCに係る「水の管理」と「高出力」の両方を満足する方法として、本発明者らは、アノード電極側のアノード流路とアノード触媒層の間に150μm以上の厚みを有する多孔質層(Micro Porous Layer、以下MPLという)を挿入することで、高出力かつ非水回収のDMFCに適用できる膜電極接合体(Membrane Electrode Assembry:以下、MEAという)を開発した(特許文献1)。このような水回収が不要なMEAを、以下「低α型MEA」という。α値とは、水の透過量の定義の一つであり、運転時にカソードから排出される水の量から発電による生成水とクロスオーバーしたメタノールの酸化により生成する水を除き、それをプロトンの移動量で割ったものである。より具体的には、α値は次式で表されるものである。
【数1】

ここで、mはプロトンの移動に同伴される水の量(mol/h)、Aは起電部単位の面積 (cm)、Iは一定負荷電流密度(A/cm)、Fはファラデー定数であり96500とする。
α値が低いということは、カソードへの水の移動が少ないことを意味する。
【0010】
従来のMEAは、アノード電極側には液体の透過性が低く、かつ厚みの薄いMPLを配置するか、あるいはこのようなMPLは配置しないか、のいずれかの構成であった。このようなDMFCは、非常に高いα値を示す傾向にある。ゆえに、カソード電極側における水の滞留量が多くなるため、発電理論量よりはるかに多くの空気(酸素)を供給しなければならないという問題点があった。
【0011】
この問題に対し、特許文献1におけるMEAは、カソード触媒層への液体成分のクロスオーバーをほぼ阻止しつつ、カソード触媒層での水蒸気濃度を高く保つことができる。このため、不必要なカソード側への水の移動も制限することが出来る。すなわち、特許文献1におけるMEAを用いた場合には、従来のような過大な空気の供給は不要となる。
【0012】
しかし、上記対処を施した場合においても、以下の問題が残る。まず、DMFCは水素ガスよりも反応速度の遅いメタノールを燃料として用いる。このため、実用的な出力を得るには、カソード電極およびアノード電極のいずれにも多量の貴金属触媒が必要である。一般に、水素ガスを触媒に供給するタイプの固体高分子膜型燃料電池(以下、PEMFCという)に比べて、DFMCは10倍前後の貴金属触媒を使用する。よってDFMCはアノード触媒層がPEMFCに比較して非常に厚くなる。このようにアノード触媒層が厚いことにより、酸素および燃料ガスの拡散性がPEMFCに比べて大きく阻害され、寿命が非常に短くなっている。
【特許文献1】特開2008−84538号公報
【非特許文献1】G.Q. Lu, et al Electrochimica Acta 49(2004)821〜828
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記問題点に鑑み、本発明は、触媒量と空気供給量に制限がある場合においても、高い出力と長い寿命を両立する起電部材およびこの起電部材を用いた直接メタノール型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施態様による直接型メタノール燃料電池は、
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に、前記電解質膜側から順に、アノード触媒層、第2の撥水性多孔質層、および第1の撥水性多孔質層を具備し、前記第1の撥水性多孔質層のガス透過性が第2の撥水性多孔質層のガス透過性よりも低いものであるアノード電極と
前記電解質膜の反対側の面に、前記電解質膜側から順に、カソード触媒層、および第3の撥水性多孔質層を具備したカソード電極と
を具備した起電部材単位を具備し、
前記起電部材のアノード電極側の表面に燃料流路が、前記起電部材のカソード電極側の表面に空気流路が配置されており、
前記アノード触媒層の面積に対する前記燃料流路の面積の比率が50〜90%であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の他の一実施態様による起電部材は、
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に、前記電解質膜側から順に、アノード触媒層、第2の撥水性多孔質層、および第1の撥水性多孔質層を具備し、前記第1の撥水性多孔質層のガス透過性が第2の撥水性多孔質層のガス透過性よりも低いものであるアノード電極と
前記電解質膜の反対側の面に、前記電解質膜側から順に、カソード触媒層、および第3の撥水性多孔質層を具備したカソード電極と
を具備した起電部材単位を具備し、
前記第1の撥水性多孔質層の気体透過度が、1.4×10−5〜2.9×10−4cm(STP)/(cm・s・Pa)であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、触媒量と空気供給量に制限がある場合においても、高い出力と長い寿命を両立する起電部材およびこの起電部材を用いた直接メタノール型燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1および図2は本発明による第1の実施の形態に係る直接メタノール型燃料電池の立面断面図および平面断面図を示すものである。図1中のA及びBの記号は、図2中に示すA及びBの記号に対応する面における断面図である事を示している。
【0018】
直接メタノール型燃料電池(DMFC)1には、起電部単位11が設けられている。起電部単位11のアノード触媒層側には燃料を供給するための燃料供給口12が設けられたアノード側燃料流路板13が設けられている。また、起電部単位11のカソード触媒層側には酸素を含む空気を供給するための空気供給口14が設けられたカソード側流路板15が設けられている。
【0019】
起電部単位11とアノード側流路板13との間、および起電部単位11とカソード側空気流路板15との間には、それぞれパーフルオロアルコキシアルカン(以下、PFAという)製のガスケット16が設けられている。ガスケット16は、起電部単位11とアノード側流路板13との間から燃料、および起電部単位11とカソード側流路板15との間から空気の漏洩を防止するために設けられている。
【0020】
アノード側流路板13には、燃料をアノード触媒層に供給するための燃料流路13−1が設けられている。同様にカソード側流路板15には、空気をカソード触媒層に供給するための空気流路15−1が設けられている。燃料流路13−1と空気流路15−1は、例えば図2(代表してアノード側流路板13を図示)に示す様に、燃料供給口12から燃料排出口17に向かってサーペンタイン状に設けられている。燃料流路13−1と空気流路15−1は、起電部単位11の長手方向側に伸びる平行流路部分13−2と、平行流路部分の流路が1本に合流し起電部単位11の短手方向に伸びる共通流路部分13−3とを有する。具体的には、アノード触媒の断面の大きさが30×40mmである場合、流路の幅は1.5mm、深さは0.7mm、隣り合う流路同士の凸部の幅は0.5mm、長手方向の長さは37mmとし、流路は6回折り返すことができる。
【0021】
ここで、アノード触媒層の面積に対する燃料流路の面積の比率(%)について説明すると以下の通りである。
【0022】
図3において、アノード側流路板13には逆S字状の燃料流路13−1が形成されている。この流路13−1の破線で囲われた面積が燃料流路の流路面積S2である。すなわち、流路面積とは流路13−1が対向する起電部材11に対し開口しており、燃料を起電部材に供給可能な面積のことをいう。
次に、この燃料流路13−1をアノード触媒層22に正投影し、各頂点を結んだ時に最大の面積を有する図形の面積(図3においてはハッチングを施した矩形の面積が相当)S1がアノード触媒層22の面積、すなわち、アノード触媒層面積である。
そして、アノード触媒層の面積S1に対する燃料流路の面積S2の割合r=S2/S1×100を「アノード触媒層の面積に対する燃料流路の面積の比率(以下、簡単に流路面積比ということがある)」とする。
【0023】
本発明によるDMFCにおいては、燃料通路の流路面積が、アノード触媒面積の30〜95%であることが一般的に必要である。ただし、実用的な範囲を考えた場合、流路面積比率は50〜90%とされ、寿命をより延ばすためには75〜90%であることが好ましい。流路面積比がこの範囲よりも小さいと触媒機能率と発電寿命が顕著に低下するという問題がある。また、流路面積がこの範囲より大きいと、凸部(リブ部)の肉厚が薄くなり、燃料電池の機械的強度が維持できなくなることがある。さらには、流路直下で発生した電子がリブ部まで移動するまでの電気抵抗値が大きくなるうえ、リブ部の断面積が下がるためにリブ部そのものを電子が通過する際の抵抗値が急激に増大する。また、特に燃料やガスの漏洩を防止するため、燃料電池を積層して締め付けた時に凸部(リブ)が坐屈し、隣接する燃料流路間で燃料がショートカットするなど問題が生じることもある。また、流路を形成する空間にMPLが食い込み、流路が確保できなくなることもある。
【0024】
空気流路の形状は燃料流路の形状と同等とされ、その面積も同等となるのが理想的である。すなわち、電解質膜を介して、燃料流路と空気流路が対称に配置されることで反応効率が最良となるからである。もし、カソード側空気流路の面積よりアノード側燃料流路の面積が大きいと、カソード側の酸素の拡散が至らない領域にまで水とメタノールが過剰に透過してしまうことから発電効率を下げ、アノード側燃料流路の面積よりカソード側空気流路の面積が大きいと、反応が成り立たない領域から不必要に水を蒸発させてしまうため発電効率を下げてしまう。
ここで、上記燃料流路と同様に、空気流路の流路面積S3を観念すると、燃料流路の面積S2と空気流路の面積S3は、その差が小さいことが好ましい。具体的には、燃料流路の流路面積S2に対する空気流路の流路面積S3の比(S3/S2)が1.07〜0.93であることが好ましく、実質的に同じ(すなわち比が1)であることが最も好ましい。一般的に、この比率は1となるように設計されるが、実際には製造時に誤差が発生することがあり、たとえば、1.5mmの流路幅で設計されたときに、0.1mmの工作誤差があった場合、この範囲となる。
【0025】
アノード側流路板13の起電部単位11とは反対側およびカソード側流路板15の起電部単位11とは反対側には、起電部単位11において発電された電力を外部に接続された電気的負荷へ供給するための端子板18が設けられている。端子板18は金属製の板を用いることができる。
【0026】
端子板18の起電部単位11とは反対側には、ヒータ19が設けられている。ヒータ19は起電部単位11を所定の温度範囲に加熱するために設けられている。
【0027】
起電部単位11、アノード側流路板13、カソード側流路板15、ガスケット16、端子板18およびヒータ19は積層され、例えば締め付けボルト等を用いて断熱材20を介して押さえ板40にて締め付けられている。押さえ板40にて締め付けられた結果、燃料流路13−1および空気流路15−1はガスケット16によって燃料および空気の漏洩が防止される。なお、必要に応じて、起電部単位11、アノード側流路板13、カソード側流路板15およびガスケット16の組を複数電気的に直列に配置し、直接メタノール型燃料電池の出力電圧を高くすることができる。
【0028】
図4は、直接メタノール型燃料電池の起電部単位11の詳細な断面図を示すものである。
【0029】
起電部単位11には、Catalyst Coated Membrane(以下CCMという)24が設けられている。CCM24には電解質膜21が設けられている。電解質膜21の一方の面には、式1に示す反応を促進するためのアノード触媒層22が設けられている。また、電解質膜21の他方の面には、式2に示す反応を促進するためのカソード触媒層23が設けられている。
【0030】
CCM24は特許文献1の段落[0021]乃至[0026]に記載の方法とほぼ同様の手順用いて作成することができる。この方法を用いて得られたCCM24の厚みは約80μmとなった。
以下、本発明における厚み測定は、マイクロメータを用い、100μm/s以下の送り速度においてスピンドル先端が試料に当たり、ラチェットが2回鳴った状態における数値とした。なお、ここではマイクロメータとして株式会社ミツトヨ製MDC−25MT(商品名)を用いたが、その他のものであっても同仕様のものであれば用いることができる。
【0031】
アノード触媒層22、カソード触媒23も特許文献1の段落[0021]乃至[0026]に記載の方法とほぼ同様の手順を用いて作成することができる。
【0032】
CCM24のアノード触媒層22側には、第1の撥水性多孔質層として第1のアノードMPL25が設けられている。アノード触媒層22とアノードMPL25との間には、第2の撥水性多孔質層として第2のアノードMPL26が設けられている。ここで、第1のアノードMPL25は第2のアノードMPL26よりも緻密であり、ガス透過性が低いことが必要である。
例えば、第1のアノードMPLの気体透過度は1.4×10−5〜2.9×10−4cm(STP)/(cm・s・Pa)であることが好ましい。そして、これに対して、第2のアノードMPLの気体透過度は、第1のアノードMPLの気体透過度よりも高いものであるが、その気体透過度が1.3×10−4〜2.6×10−3cm(STP)/(cm・s・Pa)であることが好ましい。ここで、気体透過度の低いMPLを作製するための方法は、特許文献1の特に段落[0037]〜[0054]に記載の方法などが挙げられる。
ここで気体透過度は、膜試料の直径5mmの円形部分に対し垂直に50(cc/min)の乾燥空気を通過させるのに必要な圧力から算出できる。
【0033】
たとえば、特許文献1に記載の方法で形成したMPL25(厚さ250μm)、LT2300W、LT2500W、およびTPPH−090(30wt%) Wetproofed(それぞれ商品名、すべてE−TEK社製)の気体透過度は、それぞれ1.61×10−4、1.42×10−3、2.98×10−3、および1.04×10−1(単位cm(STP)/(cm・s・Pa))であった。
【0034】
上記した第1の撥水性多孔質層の気体透過度は、燃料濃度が一般的な1M程度の場合に対応するものである。しかしながら、より高い濃度の燃料を用いる場合には、気体透過度をより低く設定することもできる。理論反応式においてはメタノールと水は等モルで供給されるため(約10M)、最大で気体透過度を10分の1程度に設計することが適当である。一方、燃料濃度が低い場合を考えると、0.6M前後が触媒層中で反応が起きる限界とされており、その場合の気体透過度は約2倍程度に大きくすることが可能である。
【0035】
更に、それぞれの測定における値のばらつきは部材の製造上の不均一性から、最大で10%程度の誤差を想定した方が良い。
【0036】
ゆえに、本発明における第1の撥水性多孔質層の気体透過度は、上記した方法で測定された場合、1.4×10−5〜2.9×10−4cm(STP)/(cm・s・Pa)が推奨される。
【0037】
第2の撥水性多孔質層の気体透過度は、第1の撥水性緻密層の使用濃度の範囲と同様に考え、第1の撥水性緻密層の透気度を越えない条件において、1.3×10−4〜2.6×10−3cm(STP)/(cm・s・Pa)であることが好ましい。
【0038】
このように、第1の撥水性多孔質層の気体透過度を第2の撥水性多孔質層の気体透過度よりも低いものとすることにより、第1の撥水性多孔質層はより緻密(rigid)になる。気体透過度のより低い、すなわちよりリジッドな層を流路側に配置することにより、多孔質層が流路に食い込むことが少なくなる。この様子を模式的に示すと図5の通りである。すなわち、気体透過度の高い層を流路側に配置すると、流路板13が圧着されたMPL70が変形し、図5(A)に示したような燃料流路への食い込み71が現れる。一方、気体透過度の低い層を流路側に配置すると、図5(B)に示すように燃料流路13−1はその断面が適切な形状に維持され、流路抵抗が低下し、第1の撥水性多孔質層、第2の撥水性多孔質層への燃料の拡散も適切に行うことが可能となる。
【0039】
CCM24のカソード触媒層23側には、第3の撥水性多孔質層としてカソードMPLが設けられるが、このMPLに多孔質ガス拡散層の機能を兼ねさせた、カソードMPL/カソード電極側多孔質ガス拡散層(Gas Diffusion Layer、以下GDLという)27を設けることもできる。ここで、カソード側MPL(第3のMPL)には、第1のMPLと同じ、緻密な多孔質層を用いることもできる。
【0040】
MPL25は、特許文献1に記載された方法で作成された、厚さ約250μmのMPLを用いた。ここで、MPL25(すなわち第1のMPL)の厚さは、100μm以上であることが好ましく、200〜300μmであることがより好ましい。MPL25は両面に違いを持たせてあり、多孔質となっている面を外側(アノード流路に当たる面)とした。
【0041】
MPL26は、E−TEK社のLT−2300−Wを用い、繊維による凹凸が露になっていない平滑な面をアノード触媒層側に配置した。
【0042】
MPL27は、E−TEK社のLT−2500−Wを用い、繊維による凹凸が露になっていない平滑な面をカソード触媒層側に配置した。
【0043】
MEAは、以上のように配置された3種類のMPLとCCMを、125℃、10MPaで熱圧着することにより作製した。作製されたMEAの厚さは、約900μmとなった。
【0044】
この厚さに作製された起電部単位に対しては、PFA製ガスケット16の厚さをアノード側で400μm、カソード側で350μmとした。
【0045】
実施例1および比較例1
上記した起電部単位11を1つ用いた、本発明による直接メタノール型燃料電池の発電試験を行った。発電試験を行った直接メタノール型燃料電池100は図4に示すとおりの構造を有するものであった。なお、本発明の第1の実施の形態に係る直接メタノール型燃料電池と同一部分は、同一符号で示し、その説明を省略する。
【0046】
温度センサ101、および102はそれぞれアノード側流路板13、カソード側流路板15に設けられた穴に挿入した。温度センサ101はアノード側流路板13の温度を測定するために設けられており、その測定値はアノード側流路板13側に設けられたヒータ19−1を制御するために利用した。同様に、温度センサ102はカソード側流路板15の温度を測定するために設けられており、その測定値はカソード側流路板15側に設けられたヒータ19−2を制御するために利用した。
【0047】
燃料供給口12から、濃度1.0mol/Lのメタノール水溶液燃料を、燃料供給量0.8cc/minで供給した。
【0048】
空気供給口14から、酸素濃度20.5%、湿度30%の空気(酸化剤)を、空気供給量60cc/minで供給した。
【0049】
図示しない温度調節器によりアノード側流路板13およびカソード側流路板15に設けられた温度センサ101、および102で測定される温度がそれぞれ60℃となるように調整し、空気および燃料の予備加熱は行わなかった。
【0050】
一方で、0.17A/cmでの一定電流負荷運転を行い、カソード側流路板15から液体および気体として排出された所定時間での水分を回収し、その水分重量からプロトン移動に伴う同伴水の量を測定し、それをもとにα値を算出した。
【0051】
α値の算出は特許文献1に記載された方法で行った。その結果は表1に示す通りであった。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1において流路の幅は、カソード側およびアノード側のいずれも1.5mm、凸部(リブ部)の幅は0.5mmと、アノード触媒層の面積に対する流路面積の比率を75%とした。一方、比較例では流路の幅は流路の幅を1.0mm、凸部の幅を1.0mmとし、アノード触媒層の面積に対する流路面積の比率を50%とした。この場合の電流電圧特性は図7に示すとおりであった。
【0054】
実施例1と比較例1とを比較すると、流路部分の面積が違うため燃料供給条件の調整が異なるが、長時間の寿命試験を行った場合の出力電圧の経時変化を測定したところ、図8に示された結果が得られ、1.5mmとした流路幅の広い実施例1は劣化率が比較例1の約半分となっていることが分かる。
【0055】
この理由は、以下のように考えられる。図9は、燃料の拡散を考慮に入れた起電部の断面概念図である。運転時には、流路直下には燃料および空気が供給されるが、凸部13直下の領域には原則的に燃料および空気が供給されない。ただし、燃料および空気は流路幅より若干広く拡散しながら触媒層まで浸透していくので、図9のYに示されるような領域に供給される。しかしそれであっても、特に流路と流路との中間に相当する領域X1では、燃料および空気が拡散しにくいため、触媒層22の、X1の直下における触媒(X2)はほとんど発電反応に寄与できない。
【0056】
これに対し、すなわち凸部(リブ)の幅d2を薄くし、領域X1を小さくする、すなわち、流路面積比を大きくすると、これまで有効に使われていなかった触媒(X2)の領域が減少する。これにより、これまで有効に使われていなかった触媒に対して燃料および空気が供給されるようになる。
【0057】
このような構成を採用することにより、起電部材として同じ電流密度を得ている場合であっても、利用されている触媒の量が相対的に多くなる。すなわち、本発明のDMFCは、触媒の負担が小さく、劣化しにくいと解される。
【0058】
比較例2
実施例1に対し、アノード側MPL25と26の位置を交換させたものを作製し、発電試験を行った。作製方法、発電試験方法は実施例1と同様である。
比較例2と実施例1での電流電圧特性を比較すると図10に示すとおりであった。また、α値等の特性値は表1に示すとおりであった。
【0059】
アノードMPL25と26はいずれも高い撥水性を示し、60℃前後まではほとんどカソード側へ液体を通さない。しかし両者は構造が異なり、MPL25は26に比べて緻密であるために硬く、気孔度(通気度)が小さい。即ちより緻密で固いMPLを流路側に配置させた方が、高い電圧が得られることが分かる。
【0060】
実施例2
実施例1に対し、更に、カソード側MPL/GDL27にもMPL25と同じ部材を適用した。
【0061】
MEAの作製手順および発電評価手順は、実施例1と同様とした。ただし、実施例2においては、縦12.5mm横80mmの10cmの細長いMEA形状とし、流路形状は長手方向に流路が伸びる設計とした。流路幅は実施例1と同様に1.5mm、凸部幅が0.5mm、深さが0.4mmとした。(流路面積比率として約75%)
【0062】
実施例2について得られた結果は表2に示す通りであった。表2には、実施例2と同じMEA形状であるが、構成を実施例1のままとしたMEAによるDMFCについての結果(実施例3)もあわせて示されている。
【0063】
実施例1とはMEA面積等が異なるため運転条件もことなるが、実施例2の構成では実施例3の構成に比べてほぼ同じ出力のままα値が0.1近く削減できていることが分かる。
【0064】
これは、実施例1において使用されたアノードMPLが、実施例2での発電条件においては、出力の低下を大きく引き起こすことなく水蒸気の拡散を抑制しているためであり、ポータブル用途のDMFCのMEAとして、より好ましい特性を有することを示している。
【0065】
実施例1において、DMFCの寿命を延ばすための手段として流路面積比率を大きくした。ここで、アノード側流路に接するMPL27の材料として。MPL25と同じ緻密な層を配置しているためMPLの流路への食い込みは起こりにくい。実施例2においてはこれと同じ効果がカソード側においても得られ、また、両面から硬いMPLで挟むことで、長期発電において起こり易いMEAの歪みを抑えることが出来るため、より優れた効果を奏する。
【0066】
以上、説明したように、本発明により、出力低下と発電効率の低下を抑制しつつ、DMFC用低α型MEAの触媒利用効率を上げ、発電寿命のより向上したMEAと直接メタノール型燃料電池を提供することが出来る。言い換えれば、高出力、低α、および高効率という3つの特徴を維持しつつ発電寿命を向上させた燃料電池を提供することができる。
【0067】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による第1の実施の形態に係る直接メタノール型燃料電池の立面断面図。
【図2】本発明による第1の実施の形態に係る直接メタノール型燃料電池の平面断面図。
【図3】アノード触媒層の面積に対する燃料流路の面積の比率を説明するための模式図。
【図4】直接メタノール型燃料電池の起電部単位の断面図。
【図5】流路の断面形状を示す概念図。
【図6】実施例1における直接メタノール型燃料電池の立面断面図。
【図7】実施例1および比較例1の電流電圧特性を示すグラフ。
【図8】実施例1および比較例1の出力電圧の経時変化を示すグラフ。
【図9】燃料の拡散を考慮に入れた起電部の断面概念図。
【図10】実施例1ならびに比較例1電流電圧特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0069】
1、100 直接メタノール型燃料電池
11 起電部単位
13 アノード側燃料流路板
15 カソード側空気流路板
21 電解質膜
22 アノード触媒層
23 カソード触媒層
24 CCM
25 第1のアノードMPL
26 第2のアノードMPL
27 カソード側MPL/GDL27

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に、前記電解質膜側から順に、アノード触媒層、第2の撥水性多孔質層、および第1の撥水性多孔質層を具備し、前記第1の撥水性多孔質層のガス透過性が第2の撥水性多孔質層のガス透過性よりも低いものであるアノード電極と
前記電解質膜の反対側の面に、前記電解質膜側から順に、カソード触媒層、および第3の撥水性多孔質層を具備したカソード電極と
を具備した起電部材単位を具備し、
前記起電部材のアノード電極側の表面に燃料流路が、前記起電部材のカソード電極側の表面に空気流路が配置されており、
前記アノード触媒層の面積に対する前記燃料流路の面積の比率が50〜90%であることを特徴とする、直接型メタノール燃料電池。
【請求項2】
前記第1の撥水性多孔質層の気体透過度が、1.4×10−5〜2.9×10−4cm(STP)/(cm・s・Pa)である、請求項1に記載の直接型メタノール燃料電池。
【請求項3】
前記第2の撥水性多孔質層の気体透過度が、1.3×10−4〜2.6×10−3cm(STP)/(cm・s・Pa)である、請求項1または2に記載の直接型メタノール燃料電池。
【請求項4】
前記燃料流路の面積に対する前記空気流路の面積の比が1.07〜0.93である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の直接型メタノール燃料電池。
【請求項5】
前記第3の撥水性多孔質層が、前記第1の撥水性多孔質層と同種の材料により形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の直接型メタノール燃料電池。
【請求項6】
前記カソード電極が、さらにガス拡散層を具備している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の直接型メタノール燃料電池。
【請求項7】
前記第1の撥水層多孔質層が、多孔質シート状支持体上に炭素粉末と撥水性ポリマーとを含んだスラリーを塗布した後、焼成することにより形成されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の直接型メタノール燃料電池。
【請求項8】
前記第1の撥水性多孔質層の厚さが、100μm以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載の直接型メタノール燃料電池。
【請求項9】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に、前記電解質膜側から順に、アノード触媒層、第2の撥水性多孔質層、および第1の撥水性多孔質層を具備し、前記第1の撥水性多孔質層のガス透過性が第2の撥水性多孔質層のガス透過性よりも低いものであるアノード電極と
前記電解質膜の反対側の面に、前記電解質膜側から順に、カソード触媒層、および第3の撥水性多孔質層を具備したカソード電極と
を具備した起電部材単位を具備し、
前記第1の撥水性多孔質層の気体透過度が、1.4×10−5〜2.9×10−4cm(STP)/(cm・s・Pa)である起電部材。
【請求項10】
前記第3の撥水性多孔質層が、前記第1の撥水性多孔質層と同種の材料により形成されている、請求項10に記載の起電部材。
【請求項11】
前記カソード電極が、さらにガス拡散層を具備している、請求項9または10に記載の起電部材。
【請求項12】
前記第1の撥水性多孔質層の厚さが、100μm以上である請求項9〜11のいずれか1項に記載の起電部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−40281(P2010−40281A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200548(P2008−200548)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】