説明

直流高速度遮断器

【課題】小電流遮断対策が施されていないHSCBの小電流遮断を確実にする。
【解決手段】直流電源の正極Pに接続される母線11には、HSCB12の入力側を接続し、その出力側にはき電線接続線13を介して直流電気鉄道のき電線に接続される。HSCB12の出力側には小電流遮断のための回路開閉機器14と抵抗器15からなる電流加算回路16を介して直流電源の負極Nに接続される。上記構成において、事故遮断時は大電流となるので、HSCB12の能力で遮断されるが、事故遮断時以外にHSCB12が開放されるときには、小電流遮断となる。このような小電流遮断の場合、HSCB12を開放動作させるときに回路開閉機器14を投入し、正極P→HSCB12→回路開閉機器14→抵抗器15→負極Nの回路に加算電流を流すことにより、遮断時の負荷電流に加算電流が加わり、アークを十分に引き延ばす電磁力が得られるため、小電流遮断が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小電流遮断対策が施されていない直流高速度遮断器でも小電流遮断が行えるようにした直流高速度遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
直流電気鉄道等に用いられる直流高速度遮断器(以下HSCBと称す)は、直流事故電流を気中で遮断するために、主回路短絡電流による磁束とアーク電流による電磁力でアークを引き延ばして遮断を行っている。このため、遮断電流が小さくなると電磁力が低下し、遮断が難しくなる。なお、遮断電流がさらに小さくなると開極時の機械力で遮断を行うことができるようになる。
【0003】
上記のことから、小電流遮断の対策を行っていないHSCBにおいては、電磁力で遮断される最小電流と機械力で遮断される電流との変化点で遮断時間が極端に長くなる等の問題が発生する。
【0004】
JEC規格(電気学会電気規格調査会)で製作されるHSCBでは、小電流でも確実に遮断できるように圧縮空気等をアークに吹き付け、電磁力が弱い場合でも圧縮空気によりアークを引き延ばして遮断する等の対策が採られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、上記の他にHSCBとして、直流回路に直列接続された主遮断器および副遮断器と、前記主遮断器に並列接続されたコンデンサと転流スイッチを有し、前記直流回路に逆方向転流電流を重畳する転流回路とを備えたものがある(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
このHSCBは、主遮断器が開極を始めて転流回路から転流電流が注入され、主遮断器の電極間で直流電流を遮断し、この直流電流が直流回路の抵抗で減衰して電流零点を向かえるとき、副遮断器を開極させるようにしたものである。
【0007】
上記のようにJEC規格では、小電流遮断対策が採られているが、IEC規格(国際電気標準会議)等で製作されたHSCBの場合には、遮断時間は、長くなるが必ず遮断できるとして小電流遮断対策を採用していない。
【0008】
ところが、国内では下記(1)−(3)の理由により小電流遮断対策(数百ms以内で遮断する対策)を採用することがユーザから要求されている。
【0009】
(1)遮断器と断路器の連動操作の場合、断路器が小電流を遮断することにより、断路器の損傷、地絡事故の可能性があるため、
(2)保守点検時、遮断器切り信号により遠制(遠隔制御)が遮断器開放を保守員に通報し、保守作業を実施しているが、この際に遮断が行われず、保守員の感電等の危険があるため、
(3)き電線の加圧表示器が加圧継続するため、インターロック等により他変電所からのき電が行えず、系統運用に支障が生じるため、
等である。
【0010】
このため、国内におけるHSCBの小電流遮断対策は、図2に示すような空気吹付け装置21からゴムホース22、絶縁管23を介して、主回路接触子24間に発生したアークに圧縮空気吹き出し口25から圧縮空気を吹付けて遮断を行うようにしている。
【0011】
図2において、空気吹き付け装置21は、HSCB遮断時に図示しない遮断機構に連結、連動されるロッド26と、このロッド26の端部に設けられたリンク機構27と、このリンク機構27に連結された空気吹付け装置21のピストンロッド28から構成されている。
【0012】
空気吹付け装置21は、その装置21を説明するために装置21の概略構成を下部に記載したシリンダ21aと、ピストン21bと、バネ21cから構成され、HSCB遮断時には、バネ21cの力でピストン21bを図示右方向へ動作させて圧縮空気を作り、主回路接触子24間に発生したアークに圧縮空気を吹付けて小電流遮断を行っている。なお、ゴムホース22は、空気吹付け装置21の図示右側に符号29で示す部位に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開平02−018237号公報(実用登録2023765号)
【特許文献2】特開2004−171849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したHSCBでは、小電流遮断機構(遮断時に発生するアークに圧縮空気を吹付けるパッファ−形など)を備えているが、小電流遮断機構を持たないHSCBでは、小電流時に電流遮断が速やかにできない場合があり、信頼性の低い機器となってしまう問題があった。
【0015】
また、転流式HSCBでは、常にコンデンサを充電待機する必要があり、使い勝手が良いものとは言えないことや、遮断に必要な容量のコンデンサが必要となり、転流回路を構成することにより全体の装置が大型化してしまう問題もある。
【0016】
本発明の目的は、上記の事情に鑑みてなされたもので、小電流遮断対策が施されていないHSCBでも小電流遮断が確実かつ速やかに行えるようにした直流高速度遮断器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を達成するために、請求項1に係る発明は、直流回路電源の正負母線間に遮断器と負荷を接続し、前記遮断器の負荷事故時に事故電流を高速度に遮断するものにおいて、
前記遮断器の負荷接続部側と前記直流回路電源の負極部間に電流加算回路を設け、外部指令により前記遮断器を開放するときに、前記電流加算回路に加算電流を流すことを特徴とするものである。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記電流加算回路は、回路開閉機器と抵抗器との直列回路からなり、外部指令により前記遮断器を開放するときに、前記回路開閉機器を投入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、小電流遮断対策が施されていないHSCBに電流加算回路を付加して加算電流を流すことで確実かつ速やかに小電流遮断でき、かつ、電流加算回路は既存の回路開閉機器(例えば、電磁接触器(MGSW)などの継電器)と抵抗器との直列回路で構成できるので、HSCB本来の遮断性能に影響を及ぼさず、抵抗器への電流通流時間が短時間(500ms)であり、損失等は殆んど発生しない利点もある。
【0020】
また、「負荷電流+電流加算電流」は、常にHSCBの正方向となり、逆流遮断を持たない遮断器でも小電流遮断を行なうことができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、直流高速度遮断器の実施例を示す概略構成図である。
【図2】図2は、従来のHSCBの小電流遮断対策を施した機構説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明の実施例1を示す概略構成図で、図1において、11は直流回路電源の正極Pに接続される母線で、この母線11の正極Pには、HSCB12の入力側を接続し、その出力側(負荷接続部側)には、き電線接続線13を介して図示しない直流電気鉄道(負荷)へ電力を供給するための、き電線(図示省略)が接続される。
【0024】
また、HSCB12の出力側(負荷接続部側)には、小電流遮断のための回路開閉機器14と抵抗器15とからなる電流加算回路16を介して直流回路電源の負極Nに接続される。
【0025】
上記のように構成された実施の形態において、事故遮断時は大電流となるので、本来のHSCB12の能力で事故電流を高速度に遮断することができる。ここで、事故遮断時以外に外部指令によりHSCB12が開放されるときには、小電流遮断となるために、電流加算回路16に加算電流を流すことによって、小電流遮断を可能とする。このときの小電流遮断の特性として例を挙げると、例えば、「0〜15Aの場合、機械力で遮断が行われ、遮断時間は500ms以下」、「15〜50Aの場合、電磁力、機械力による遮断が難しく、遮断時間は500ms〜1700ms以上」、「50A以上の場合、電磁力で遮断を行い、500ms以下」で遮断される。
【0026】
上記のような小電流遮断の場合、HSCB12が外部指令により開放されるとき、HSCB12の開放動作と共に、電流加算回路16を構成する回路開閉機器14を投入し、正極P→HSCB12→回路開閉機器14→抵抗器15→負極Nからなる回路に加算電流(小電流)を流す。
【0027】
この動作により、HSCB12の遮断時の電流(負荷電流)に加算電流が加算されて、HSCB12は、アークを十分に引き延ばす電磁力が得られるようになり、HSCB12が遮断し難い小電流遮断を容易に行なうことができるようになる。
【0028】
例えば、上述した小電流遮断の特性として示した例で、上記電流が50A程度を目標とすると、HSCB12には、「負荷電流+加算電流」が流れる。このため、HSCB12の遮断電流は、常に加算電流以上(この例では50A以上)となり、遮断器の特性から500ms以下でHSCB12により電流は遮断されることになる。その後、図示しないタイマー設定により600ms程度で回路開閉機器14を開放し、次の開放に備える。
【0029】
上記のように構成することにより、本実施例1では以下のような効果が得られる。
(1).小電流遮断のため、高速(数十ms以下)で遮断を行う必要がなく、回路開閉機器14の投入(100ms以下)で良い。
(2).抵抗器15に通流する時間は500msと短時間であり、損失は殆んどなく、抵抗器15の電流容量は少なくてすみ、抵抗器15の構成も小型で良い。
(3).回路開閉機器14を使用していても、回路開閉機器14の動作回数の耐久性は、HSCB12よりも長寿命である。
(4).抵抗器15により電流が抑制されるため、回路開閉機器14が大電流を開放することがない。
(5).小電流(50A以下)が、き電線→HSCB→正極Pへ流れていた場合においても、回路開閉機器14の投入によりHSCB12には、加算電流が流れ、遮断が行われる。
【0030】
上記の他に本実施例1では、次のような効果も得られる。
【0031】
1.HSCB12の本体を変更することなく、小電流遮断が確実にできるようになる。このため、HSCB12本来の遮断性能が変化せず、小電流遮断対策が施されていないHSCBでも小電流遮断対策を必要とするユーザに適用できる。また、HSCB12を変更しないため、本来の大電流遮断性能、機器の耐久性等に影響を及ぼさない。
【0032】
2.既存の機器である回路開閉機器14と抵抗器15で構成することができるため、新たに機器を開発する必要がない。
【0033】
3.抵抗器15への通流時間は短時間(500ms程度)であるから損失等は殆んど発生しない。
【0034】
4.加算電流を流す方向が常に正方向となり、逆流遮断が行えないHSCBにおいても小電流遮断が行える利点がある。
【符号の説明】
【0035】
11…母線
12…直流高速度遮断器(HSCB)
13…き電線接続線
14…回路開閉機器
15…抵抗器
16…電流加算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流回路電源の正負母線間に遮断器と負荷を接続し、前記遮断器の負荷事故時に事故電流を高速度に遮断するものにおいて、
前記遮断器の負荷接続部側と前記直流回路電源の負極部間に電流加算回路を設け、外部指令により前記遮断器を開放するときに、前記電流加算回路に加算電流を流すことを特徴とする直流高速度遮断器。
【請求項2】
前記電流加算回路は、回路開閉機器と抵抗器との直列回路からなり、外部指令により前記遮断器を開放するときに、前記回路開閉機器を投入することを特徴とする請求項1記載の直流高速度遮断器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−198815(P2010−198815A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40180(P2009−40180)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】