相互侵入ネットワーク、およびそれに関連する方法および組成物
【課題】本発明は、相互侵入高分子ネットワーク(IPN)およびそれに関係する方法および組成物を提供する。
【解決手段】本発明のヒドロゲル素材は、2つ以上の高分子ネットワークの相互侵入ネットワークを含み、その高分子ネットワークの少なくとも1つが、バイオポリマーをベースとする。第1高分子ネットワークと第2高分子ネットワークとを結合することを含む、ヒドロゲル素材を製造する方法であって、第1高分子ネットワークまたは第2高分子ネットワークがバイオポリマーをベースとする、方法も提供される。本出願は、IPNヒドロゲル素材から製造されるデバイスおよびその使用もまた開示する。
【解決手段】本発明のヒドロゲル素材は、2つ以上の高分子ネットワークの相互侵入ネットワークを含み、その高分子ネットワークの少なくとも1つが、バイオポリマーをベースとする。第1高分子ネットワークと第2高分子ネットワークとを結合することを含む、ヒドロゲル素材を製造する方法であって、第1高分子ネットワークまたは第2高分子ネットワークがバイオポリマーをベースとする、方法も提供される。本出願は、IPNヒドロゲル素材から製造されるデバイスおよびその使用もまた開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互侵入高分子ネットワーク構造を有するヒドロゲル素材に関する。さらに詳しくは、本発明は、相互侵入高分子ネットワーク構造を有するヒドロゲル素材であって、その少なくとも1つの構成ネットワーク成分がバイオポリマーをベースとする、ヒドロゲル素材、およびその使用方法、ならびにヒドロゲル素材から製造されるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学は、組織および臓器機能の交換または回復を目的とする多くの技術を含む急速に成長中の分野である。組織工学における主要な目的は、正常な組織機能を回復させるための、既存組織内に組み込むことができる素材の使用による、欠損組織の再生である。したがって、組織工学では、細胞の過成長、内殖またはカプセル化、および多くの場合には神経再生を支持することができる素材が求められている。
【0003】
特許文献1には、コンタクトレンズの型においてラジカル開始剤として過硫酸アンモニウムおよびメタ重硫酸ナトリウムを38℃で使用し、コラーゲン(約0.12〜0.14%(w/w))および2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)から製造された、上皮細胞成長を促進するコラーゲン−ヒドロゲルが記載されている。HEMAのみを架橋するために、エチレングリコールジメタクリレートが、架橋剤として使用されている。この特許では、コラーゲン濃度は非常に低く、コラーゲンは架橋されない。かかるシステムでは、コラーゲンは、周囲の水性培地に浸出してしまう。
【0004】
特許文献2には、コラーゲンおよびエチレン性不飽和化合物および架橋剤(例えばN−イソプロピルアクリルアミドおよびN,N−メチレンビスアクリルアミド)に、60Coを照射して構成されるコンタクトレンズ素材としての生物学的に安定化されたヒドロゲルが記載されている。この特許では、コラーゲンと合成ポリマーとが幾分結合されている。最終コラーゲン含有率は、約7%(w/w)である。このゲルシステムでは、エチレン性不飽和化合物のみが効率的に架橋され、コラーゲンは、総線量1.0メガラドのγ線照射によって、わずかにしか架橋されない。
【0005】
特許文献3には、最終コラーゲン−エチレン性不飽和化合物ヒドロゲル中のコラーゲン濃度約が1.5%である水性コーティング組成物が記載されている。非生分解性であり、かつ移植すると、角膜細胞および神経を再生させる、視力向上眼科素材の例が報告されている。しかしながら、これらの特性にもかかわらず、これらの素材は、最適条件下で用いられないと(特に開発途上国などで用いられると)、手術時に容易にハンドリングするには、まだ弾性および最適な靱性を欠く。
【0006】
したがって、眼科デバイスで使用することができ、かつ手術時のハンドリングに必要とされる弾性および靱性を有する素材が依然として必要とされている。
【0007】
この背景知識は、本発明に関連している可能性があると出願人によって考えられる周知の情報を開示する目的のために提供されている。したがって、先の情報のいずれかが、本発明に対する先行技術を構成すると認められるわけではなく、必ずしもそのように意図されるわけではないし、解釈されるべきでもない。
【特許文献1】米国特許第5716633号明細書
【特許文献2】米国特許第4388428号明細書
【特許文献3】米国特許第4452929号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、相互侵入高分子ネットワーク(IPN)、およびそれに関連する方法および組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様では、その高分子ネットワークの少なくとも1つがバイオポリマーをベースとする、2種類以上の高分子ネットワークの相互侵入ネットワーク構造を有するヒドロゲル素材が提供される。
【0010】
本発明の他の態様では、第1高分子ネットワークと第2高分子ネットワークとを結合することを含む、本発明によるヒドロゲル素材を製造する方法であって、第1高分子ネットワークまたは第2高分子ネットワークがバイオポリマーをベースとする方法を提供する。
【0011】
本発明の他の態様では、(i)2種類以上の高分子ネットワークの相互侵入高分子ネットワークであって、その高分子ネットワークのうちの少なくとも1つがバイオポリマーをベースとする、相互侵入高分子ネットワーク;(ii)それを製造するための説明書;を含む、本発明によるヒドロゲル素材を製造するためのキットを提供する。
【0012】
本発明の他の態様では、これに限定されないが、移植片(例えば、角膜移植片)、角膜アンレー(corneal onlay)、神経管、血管、薬物送達デバイスおよびカテーテル、治療用レンズ、眼内レンズを含むIPNヒドロゲル素材から製造されるデバイス、およびその製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明に関係する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0014】
本明細書で使用される「ヒドロゲル」という用語は、溶解することなく水または水溶液中で膨潤し、かつその構造内に一定の水または水溶液を保持する能力を示す、架橋ポリマーを意味する。
【0015】
本明細書で使用される「ポリマー」という用語は、互いに連結された個々のモノマーからなる分子を意味する。本発明においてポリマーは、端と端で連結された直鎖状分子を形成するモノマー群、または互いに連結された分岐状構造を形成するモノマー群を含み得る。
【0016】
本明細書で使用される「バイオポリマー」という用語は、天然ポリマーを意味する。天然ポリマーとしては、限定されないが、タンパク質および炭水化物が挙げられる。「バイオポリマー」という用語は、本発明の合成ポリマーとの架橋が促進するように修飾された天然ポリマーの誘導体も含む。
【0017】
本明細書で使用される「合成ポリマー」という用語は、天然ではなく、かつ化学合成または組換え遺伝子による合成によって生成されたポリマーを意味する。
【0018】
本明細書で使用される「相互侵入ネットワーク」または「IPN」という用語は、2種類以上のネットワークを形成するポリマーを結合させた相互侵入高分子ネットワークを意味する。ネットワーク間には絡み合いおよび相互作用がある。溶媒中で膨潤した場合、ポリマーのいずれも溶媒に溶解しない。
【0019】
本明細書で使用される「光学的に透明な」とは、少なくとも85%の白色光透過率を意味する。特定の実施形態において「光学的に透明な」とは、例えば、90%を超える白色光透過率および3%未満の散乱率を有する、健康な角膜に等しい光学的透明性を意味する。
【0020】
本明細書で使用される「角膜アンレー」は、ヒトまたは動物の眼の、上皮または上皮細胞層と、ボーマン膜との間に配置されるように、特定のサイズおよび形状で構成された眼用移植片またはデバイスである。「コンタクトレンズ」と比較すると、「コンタクトレンズ」は、眼の上皮上に配置されるように構成される。一方、角膜アンレーは、ボーマン膜全体に載っているか、またはボーマン膜まで広がる1つまたは複数の部材を含み得る。かかる部材は、デバイスの一部(デバイスの面積または体積の50%未満など)となる。
【0021】
本明細書で使用される「角膜インレー」は、眼の基質に配置されるように構成されるデバイスまたは移植片である。角膜インレーは、基質にフラップまたはポケットを形成することによって基質に配置される。角膜インレーは、眼のボーマン膜下に配置される。
【0022】
本明細書で使用される「全層角膜移植片」とは、眼房水の前に位置する不健康な眼の角膜のすべてまたは一部を交換するために構成されたデバイスを意味する。
【0023】
IPNヒドロゲル素材
本発明のIPNヒドロゲル素材は、限定されないが、臨床、治療、予防または美容用途を含む様々な用途で使用するのに適しているIPNを含む。IPNヒドロゲル素材を使用して、必要がある対象の組織および/または臓器機能を交換、回復および/または増強することができる。
【0024】
本発明のIPNヒドロゲル素材は、低細胞毒性または非細胞毒性、細胞および/または神経成長を促進する性能、および/または成形性を特徴とする。この素材は、縫合、組み込み後の耐摩耗性および耐引裂き性を含む、ハンドリング、移植等を可能にするための十分な機械的性質および構造的性質も有する。本発明の一実施形態によれば、IPNヒドロゲル素材から作られるデバイスは、成形型を用いて製造される。このようなデバイスとしては、限定されないが、所望のサイズおよび形状に形成された、成形眼用アンレーおよびインプラントが挙げられる。
【0025】
本発明の非制限的な特定の実施例では、IPN素材は眼用デバイスに使用される。その素材は、デバイスが装着される個体に、以下の利点のうちの1つまたは複数が提供されうる。(i)所望の屈折率、(ii)所望の光学的透明性(同等な厚さの健康なヒト角膜素材に等しいかまたはそれよりも優れた、可視光に対する光透過率および光散乱率)、(iii)所望の視力向上光学倍率などの光学倍率(optical power)、(iv)快適さの向上、(v)角膜および上皮の健康の向上、(vi)例えば、眼の疾患、障害または外傷性損傷の治療における治療上の利点。
この実施形態によれば、本発明の素材は、透明に、または光学的に透明に製造されることができる。この素材は、視力補正曲率(vision corrective curvature)を有するように成形されることもできる。
【0026】
本発明の素材は、一つには、眼用デバイスでの使用に適している。なぜなら、(i)許容可能な光学倍率を有するマトリックスが形成されるように形成可能(例えば成形可能)であり、(ii)デバイス内での、かつ/またはデバイス上での神経成長の促進に有効であり、(iii)光学的に透明または視覚的に透明に製造することができるからである。デバイスが角膜アンレーである場合には、そのデバイスは、デバイスの前面上での再上皮化の促進に有効である。
【0027】
本発明のIPN素材は、その特定の用途に要求されるガスまたは栄養素拡散を可能にするように製造することができる。例えば角膜アンレーの場合、アンレーを製造するための素材は、ボーマン膜と上皮との間のガスおよび栄養素のやりとりを提供し、または可能にし、完全に機能する生存状態の上皮を維持する。かかる栄養素としては、グルコース、および上皮細胞などの細胞の生存、成長、および分化を促進または向上させる因子または作用物質(agent)が挙げられる。前記やりとりは、健康なヒト角膜に匹敵、またはそれよりも優れるべきである。栄養素および/または薬物に対する素材の透過性は、従来の技術を用いてモニターすることができる。さらに、素材を通して栄養素および/または薬物が移動しても、素材の光学的性質は大きく変化しない。アンレーまたはレンチクルは完全に生体適合性であり、上皮のアンレーへの迅速な接着が実現され、神経支配および神経感度、例えば触覚感度の修復を可能にする。
【0028】
本発明のIPNヒドロゲル素材は、2種類以上の高分子ネットワークの組み合わせを含む。高分子ネットワークのうちの少なくとも1つは、バイオポリマーから形成される。第2高分子ネットワークは、合成ポリマーまたは第2バイオポリマーから形成される。本発明の素材は、連続的なIPN法によって形成された第3またはそれ以上の高分子ネットワークを含み得る。例えば、IPN素材は、架橋剤と共に第3モノマー中で膨潤し、硬化後に更なるネットワークを形成することができる。第3モノマーは、第1または第2モノマーと同じでもよい。
【0029】
バイオポリマー
バイオポリマーは、タンパク質および炭水化物などの天然ポリマーおよびその誘導体である。本発明の素材は、ネットワーク状のバイオポリマーまたはその誘導体を含む。本発明で使用するのに適しているバイオポリマーの例としては、コラーゲン(I、II、III、IV、VおよびVI型)、変性コラーゲン(またはゼラチン)、組換えコラーゲン、フィブリン−フィブリノゲン、エラスチン、糖タンパク質(これらに限定されない);アルジネート、キトサン、N−カルボキシメチルキトサン、O−カルボキシメチルキトサン、N,O−カルボキシメチルキトサン、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチンおよびグリコサミノグリカン(またはプロテオグリカン)などの多糖類(これらに限定されない);酸化コンドロイチン硫酸塩(oxidized chondroitin sulphate)、酸化アルジネート(oxidized alginate)および酸化ヒアルロン酸などの酸化多糖類(これらに限定されない)が挙げられる。
【0030】
本発明で使用するのに適しているバイオポリマーは、様々な製造元から購入することができ、または標準技術によって天然源から製造することができる。
【0031】
バイオポリマーまたはその誘導体は、以下の特性のうちの1つまたは複数を基準に選択される。(1)バイオポリマーは生体適合性であり、かつ任意に、細胞接着および成長を促進し、かつ/または神経成長を促進する(2)バイオポリマーは、様々な架橋剤によって架橋され(例えば限定されないが、EDC/NHS化学反応などによって架橋され)、IPNの1つの成分を形成することができる反応性基を含む(3)バイオポリマーは架橋されてヒドロゲルを形成することができる。つまり、キレートイオンを介して架橋されるか、またはpHまたは温度によって物理的に架橋されることができる、ネットワークの1つの成分である。一実施例では、アルジネート水溶液にCa2+を添加することによって、アルジネートを架橋し、ヒドロゲルが形成される(4)コラーゲンなどの他のバイオポリマーを架橋するために、誘導体化バイオポリマー、例えば酸化多糖類(酸化コンドロイチン硫酸塩はアルデヒド基を有する)を選択し、IPNの一成分を形成することができる(5)バイオポリマーは、眼用デバイス用途のために合成ポリマーと共に透明IPNを形成することができる。しかしながら、非透明IPNもまた、強膜パッチなどの他の用途または他の組織工学分野において使用される。
【0032】
合成ポリマー
合成ポリマーを形成するモノマーとしては、例えば、限定されないが、種々のアルキルアクリルアミド、水溶性ポリエチレングリコールジアクリレート、アクリル酸およびその誘導体、アルキルアシレート、メチルアクリル酸およびその誘導体、アルキルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ビニルピロリドン、糖モノマー(本明細書において、誘導体化単糖または誘導体化オリゴ糖、例えば、グリコシルオキシエチルメタクリレートおよび2−メタクリルオキシエチルグルコシドである、重合性モノマーを意味する)が挙げられる。得られるポリマーは、生体適合性、生物学的に安全であり、バイオポリマーと混和性を有する。
【0033】
原料モノマーは、親水性であり、かつ通常重合性二重結合を含有する。その重合は、約37℃未満で行われるか、またはコラーゲンなどのバイオポリマーとしてのタンパク質が、もう一方の成分として使用されてIPNが形成される場合には、そのタンパク質の変性温度未満の温度で行われる。
【0034】
生理活性剤
本発明のIPNヒドロゲル素材は、1種または複数種の生理活性剤を含有するように製造されてもよい。適切な生理活性剤または薬剤の組み合わせの選択は、素材の用途に基づいてなされる。素材に組み込まれる生理活性剤の、非制限的な例としては、例えば、成長因子、レチノイド、酵素、細胞接着因子、細胞外マトリックス糖タンパク質(ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン等)、ホルモン、骨形成因子、サイトカイン、抗体、抗原、および他の生物活性タンパク質、特定の医薬化合物、ならびにペプチド、生物活性タンパク質由来の断片またはモチーフが挙げられる。生理活性剤は、抗菌剤および抗ウイルス剤も含む。
【0035】
IPNベースのヒドロゲル素材を製造する方法
上述のように、IPNは相互侵入高分子ネットワークである。反応剤は1つのポットに順に添加され、そして両方のネットワークの架橋反応を同時に起こさせる。例えば、NiColl/MPC IPN(実施例I)を製造するためには:コラーゲンは、EDC/NHSによって架橋され、一方の高分子ネットワークが形成される;MPCは、PEG−ジアクリレートによって架橋され、もう一方の高分子ネットワークが形成される。これら2種類の高分子ネットワークは、相互侵入しており、互いにIPNを形成する。デバイスの機械的性質および任意に光学的性質に重要である熱力学的に適切な相互侵入高分子ネットワークを製造するため、モノマーおよびポリマーならびに架橋剤の相対量が特定の範囲で制御される。1つの成分の量が過剰であると、ミクロドメインのサイズが大きくなり、明らかな相分離が起こり、その結果、デバイスの特性が悪くなる。したがって、IPNにおける成分の量の選択は、まずIPNの基本要求条件を満たすべきである。成分の比は、眼科用途の透明IPNを製造するために調整することができる。最終的なヒドロゲルの機械的性質を満たすために、成分の比を調整することもできる。
【0036】
IPNベースのヒドロゲル素材の試験
本発明に従って、組織工学目的のために生体内移植に適するようにするために、生理活性剤が添加された、または添加されていないヒドロゲル素材は、生理学的温度でその形状を維持しなければならない。ハンドリングおよび縫合に対して適度に頑丈であり、水に実質的に不溶性であり、細胞の成長を支持し、血管、カテーテルまたは白内障手術用の眼内レンズとして使用するために不活性でなければならない。素材が神経の成長を支持することも望ましい。特定の特殊用途では、素材には他の特性が必要とされることは容易に理解されよう。例えば、外科手術用途では、素材は、比較的柔軟であり、縫合糸および針での外科処置を支えるために十分な強度を有することが必要である。そして、角膜修復および交換などの眼科用途では、素材の光学的透明性が重要であるだろう。IPN素材の成分およびその相対量は、必要とされる特性が得られるように選択される。
【0037】
物理的/化学的試験
組織工学用途に使用する場合、外科的処置にさらされた場合に、素材が裂けたり断裂したりすることを防ぎ、かつ素材内および素材周囲の所定の位置で、細胞増殖を適切に支持するために必要な機械的性質を示さなければならない。剪断力および裂けに耐える素材の性能は、その固有の機械的強度、素材の形および厚さ、かけられる張力に関係する。
【0038】
剪断力および裂けに耐える素材の性能は、2つの鉗子を使用して試験片に反対方向に力を加えることによって、大まかに評価することができる。代替方法としては、適切な装置を使用して、剪断力に耐える素材の性能を定量的に測定することができる。このための張力計は、例えば、MTS社、インストロン社、およびコールパーマー社から市販されている。
【0039】
試験のために、素材は、シート状に形成され、次いで適切なサイズの細片に切断されてもよい。代替方法としては、組織工学用途のために、素材を所望の形に成形し、成形素材全体を試験することができる。引張り強さを計算するために、素材が破断および「破損」する際の力を試験試料の断面積で割り、単位面積当たりの力(N)で表した値を得る。素材の剛性(モジュラス)は、応力/ひずみ曲線の直線部分の傾きから計算される。ひずみは、ある試験時間経過時に試験試料の長さを測定し、測定された値を、試験開始前の試験試料の初期長さで割った値である。破断強度は、試料が破断したときの試験試料の最終長さから試験開始前の試験試料の長さを引いて得られた値を、試験開始前の試験試料の長ささで割ったものである。
【0040】
当業者は、ヒドロゲルを測定装置にセットしても、ヒドロゲルの軟かさおよび水性成分の浸出のために、意味のある引張り試験データをヒドロゲルから得ることは難しいことを理解するであろう。ヒドロゲルにおける引張り強さの定量的特性解析は、例えば、成形素材試料に縫合糸引き抜き測定法(suture pull-out measurement)を用いることによって達成することができる。一般に、試験試料の端から約2mmに縫合糸が縫い付けられ、試料を通る縫合糸を引き剥がすために必要な力のピークが測定される。例えば、ヒト角膜の形状および厚さに成形された、眼科用途用の素材の試験試料では、まず素材内に正確に対向する2本の縫合糸を挿入する(この挿入は、眼の移植における第1段階で必要な処置であると思われる)。次いで、2本の縫合糸を、約10mm/分にてインストロン引張試験機などの適切な装置で引き離す。素材の破断に対する強さは、破断点伸びおよび弾性率と共に計算される(例えば、Zeng et al., J. Biomech., 34:533-537 (2001)参照)。外科手術用途の素材においては、素材に、哺乳類の組織ほどの強度(つまり、同程度の耐引き裂き性能を有する)は求められないことが、当業者によって理解されよう。かかる用途における素材の強度の決定因子は、それが熟練の外科医によって所定の位置に縫合されることができるかどうかである。
【0041】
所望の場合には、ヒドロゲル素材の下限臨界溶解温度(LCST)は、標準技術を用いて測定することができる。例えば、LCSTは、約0.2℃/分にてマトリックス試料を加熱し、曇点を視覚的に観察することによって計算することができる(例えば、H. Uludag, et al., J. Appl. Polym. Sci. 75:583 - 592 (2000)参照)。
【0042】
素材の透過性は、透過性細胞および/または原子間力顕微鏡を使用したPBS透過性評価などの標準技術を用いて、素材のグルコース透過係数および/または平均孔径を評価することによって測定することができる。
【0043】
透過および散乱の両方を測定する特別な装置を使用して、眼科用途の素材の光の透過率および光散乱率も測定することができる(例えば、Priest and Munger, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 39: S352 (1998)参照)。
【0044】
in vitroでの試験
素材は、生体内での使用に適するように、非細胞毒性であるか、または最小限に/許容可能に細胞毒性であり、かつ生体適合性を有しなければならないことは容易に理解されよう。素材の細胞毒性は、変異原活性をスクリーニングするエイムズ(Ames)アッセイ、哺乳類細胞系における遺伝子突然変異を誘導する能力を有する物質をスクリーニングするマウスリンパ腫アッセイ、マトリックスによって誘導されるDNA再構成および損傷をスクリーニングする、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)を使用した生体外染色体異常アッセイなどの標準技術を用いて評価することができる。その他のアッセイとしては、マトリックスによって誘導される染色体アーム間の交換を測定する姉妹染色分体アッセイ(sister chromatid assay)、および染色体または紡錘体への損傷を測定するためのin vitroマウス小核アッセイが挙げられる。これらのおよび他の標準アッセイのプロトコルは、当技術分野で公知であり、例えば、OECD Guidelines for the Testing of Chemicals およびISOによって開発されたプロトコルを参照すればよい。
【0045】
素材の細胞増殖を支持する性能も、標準技術を用いてin vitroで評価することができる。例えば、ヒト上皮細胞などの適切な細胞系からの細胞を素材上または素材を囲む適切な担体上に直接播種する。適切な培地の存在下で適切な時間成長させた後、素材の共焦点顕微鏡観察および組織検査を行い、素材表面上および/または素材内で細胞が成長しているかどうかを評価することができる。
【0046】
神経細胞の内殖を支持する性能も、in vitroで評価することができる。例えば、後根神経節などの神経源が、素材を囲む適切な担体内に包埋されるか、または素材内に直接挿入される。適切な担体の一例としては、ソフトコラーゲンベースのゲルが挙げられる。次いで、適切な細胞系からの細胞を、素材上または素材を囲む適切な担体上に直接播種し、適切な培地の存在下にて所定の時間、素材をインキュベートする。例えば、神経特異的なマーカーの存在下で、神経特異的な蛍光マーカーを使用した免疫蛍光法および共焦点顕微鏡観察によって、および/または、直接に、神経成長について素材を検査することによって、神経の内殖を支持する性能が示される。
【0047】
素材の細胞増殖を支持する性能を評価する実験において、成長サプリメントを培地もしくは素材に、またはその両方に添加することができる。用いられる特定の成長サプリメントは、評価される細胞の種類に依存し(例えば、ヒドロゲル素材の目的の用途を考慮して)、当業者によって容易に決定されることができる。神経細胞に適しているサプリメントとしては、例えば、ラミニン、レチニルアセテート、レチノインおよび神経成長因子が挙げられる。
【0048】
in vivoでの試験
素材の生体適合性および生体内での細胞増殖を支持する性能を評価するために、免疫原性、炎症、放出および分解研究、ならびに細胞増殖の評価のために適している動物モデルに、素材を移植する。適切な対照動物が評価に含まれる。適切な対照の例としては、例えば、無処置の動物、ドナー動物からの同様な大きさの同種の移植片を受けている動物および/または一般的な標準移植素材の同様な大きさの移植片を受けている動物が挙げられる。
【0049】
移植後の様々な段階で、生体検査を行い、移植片表面上および/または移植片内の細胞増殖を評価し、組織検査および免疫組織化学技術を用いて、神経の内殖が起こっているかどうかを、および炎症性細胞または免疫細胞が移植片の部位に存在するかどうかを評価する。例えば、様々な細胞特異的な染色、ならびに神経細胞の有無を示すために使用することができる抗ニューロフィラメント抗体などの、様々な細胞特異的な抗体を使用して、存在する細胞の種類を確認することができる。さらに、標準技術を用いた神経の活動電位の測定によって、神経が機能しているかどうかが確認される。生体内共焦点顕微鏡検査を用いて、処置後の選択時間での動物の細胞および神経成長をモニターすることができる。しかるべき場合には、当技術分野で公知の技術によって、例えば触覚計を使用して、触覚感度を測定することができる。触覚感度の回復から、機能する神経の再生が示される。
【0050】
用途
本発明は、生体適合性かつ非細胞毒性(または最小限の細胞毒性)であり、したがって生体内での組織再生を可能にする足場(scaffold)として使用するのに適したIPNヒドロゲル素材を提供する。例えば、損傷組織あるいは切除された組織と取り替えることを目的とした患者への移植のため、または創傷被覆のために、素材を使用することができる。あるいは組織シーラントまたは接着剤や代用皮膚または代用角膜、あるいは角膜ベニア(veneer)として、素材を使用することができる。素材は、移植前に適切な形状に成形することができ、例えば、損傷または切除組織によって残された空間を埋めるように、それを予備成形することができる。例えば、眼内レンズまたは治療用レンズとして使用する場合に望ましい素材は、担体/足場(scaffold)として使用されてもよく、このような担体/足場(scaffold)は必ずしも組織の再生を誘導しなくともよい。
【0051】
さらに、本発明のIPNヒドロゲル素材は、例えば以下の用途において使用することができる。i)角膜移植片を用いた移植;ii)角膜インレー、アンレー、移植可能なコンタクトレンズ、IOLによる屈折補正;iii)白内障手術−IOL;iv)任意にフィブリン(血管形成による血管の内殖を誘導するため)と併用した皮膚の再生;v)幹細胞増殖および分化を刺激するための薬物、ペプチドまたは成長因子の送達(この用途の特定の例としては、包帯コンタクトレンズまたは眼用移植片または老化防止または若返り分野(美容外科)において、コラーゲン単独よりも長期間効果が持続する、皺を除去するための美容剤があげられる。この点に関しては、ラットにおいて30日後の皮下生体適合性および安定性が試験によって実証されている);vi)血友病Aの治療における送達システムのために、因子VIIIを産生する遺伝子操作された細胞(例えば、骨髄幹細胞)を送達すること;vii)特に繊維が強化される場合の神経の足場;viii)足場が必要とされる他の臓器または組織内への移植−例えば、心臓パッチおよび軟骨置換。
【0052】
本出願は大部分がヒドロゲル素材に関するが、この素材は、皮膚の再生、心臓パッチ、移植用の遺伝子操作された細胞(例えば、血友病に対して8因子を生成する細胞)のカプセル化および神経再建のために、ベース素材として使用することができることは当業者には明らかであろう。生理活性因子、成長因子の組み合わせ、ペプチドを添加し、これらのベース素材を分化させ、これらの他の組織工学/再生医療分野で使用されることができる。
【0053】
本発明の一実施形態において、組織工学用途に適している形状に素材を予備成形する。他の実施形態において、全層人工角膜として、または角膜ベニアに適している部分層(partial thickness)素材として素材を予備成形する。
【0054】
本発明の他の実施形態では、神経成長の促進に有効である本発明の素材を含有するデバイス本体を含むデバイスが提供される。当該デバイスは、デバイス本体を介して個体に配置される。例えば個体の眼に配置される場合、素材は、デバイス本体を通じて神経成長を促進し、それによって、デバイス(1つまたは複数)を配置された角膜はその触覚感度を維持することができる。特定の場合には、個体の眼に配置される眼用デバイスのデバイス本体は、光学倍率を有するようにされることができる。つまり、そのデバイス本体はレンズ体であると理解されうる。本明細書に記述されるように、眼用デバイスは、角膜アンレー、角膜インレー、または全層角膜移植片となるサイズおよび形状などに、形成されうる。特定の実施形態において、眼用デバイスは、光学倍率を持たない屈折異常補正デバイスである。例えば、本発明の開示内容に従った屈折異常補正デバイスは、患者の角膜上皮とボーマン膜の間、または患者の角膜基質中に置かれるブランク(blank)であると理解されてよい。
【0055】
本発明の素材は、患者の特定の領域に生理活性剤を送達するための送達システムとしても使用されうる。例えば、拡散律速プロセスを介して、体内で素材から生理活性剤が放出される。または生理活性剤が素材に共有結合している場合には、素材からの酵素切断、化学的または物理的切断、その後の拡散律速プロセスによる放出によって、素材から生理活性剤が放出される。あるいは、生理活性剤は、素材内部からその作用を及ぼす。
【0056】
本発明の一実施形態において、生合成素材が人工角膜として使用される。本用途では、素材は、全層人工角膜として、または角膜ベニアに適している部分層素材として、予備成形される。この実施形態では、ヒドロゲルは、高い光透過率および低い光散乱率を有するように設計される。
【0057】
キット
本発明は、ヒドロゲル素材を含むキットも企図する。このキットは、既製の素材を含むか、または適切な割合で素材を調製するのに必要な個々の成分を含む。キットは任意に、1種または複数種の生理活性剤をさらに含む。キットはさらに、使用説明書、1種または複数種の適切な溶媒、動物の体内への最終素材組成物の注入または配置を補助する1つまたは複数の装置(シリンジ、ピペット、鉗子、点眼器または医学的に認可されている送達賦形剤など)、またはその組み合わせを含み得る。キットの個々の部品は、別々の容器に包装される。キットはさらに、生物学的製品の製造、使用または販売を規制する行政機関により定められた形での注意を含み得る。その注意は、ヒトまたは動物用途用の製造、使用または販売の機関による承認を反映する。
【0058】
本明細書に記載の本発明のより良い理解を得るために、以下の実施例を示す。これらの実施例は、単なる実例として示されていることを理解されたい。したがって、本発明の範囲を決して制限するものではない。
【実施例】
【0059】
実施例I−NiColl/MPC IPNヒドロゲル
材料
ニッポンコラーゲン(ブタ皮膚);
0.625Mモルホリノエタンスルホン酸(Aalizarin Red S pH指示薬(6.5mg/100ml水)を含有するMES);
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC)と、N−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS)と、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)は、Biocompatibles International社(英国)から購入した。
NaOH溶液(2N)と、PEG−ジアクリレート(Mw=575ダルトン)と、過硫酸アンモニウム(APS)と、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)は、シグマ・アルドリッチ社から購入した。
【0060】
NiColl/MPC IPNヒドロゲルの調製
まず、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、13.7重量%ニッポンコラーゲン溶液0.3mlおよび0.625M MES0.1mlを混合した。続いて、MPC12.9mg(コラーゲンとMPCの比は4:1(w/w))をMES0.25mlに溶解し、得られた溶液の0.2mlを、100μlマイクロシリンジで上記の混合物中に注入した。次いで、PEG−ジアクリレート4.6μlを、500μlマイクロシリンジを使用して注入し、PEG−ジアクリレートとMPCとの重量比を1:2にした。別段の指定がない限り、PEG−ジアクリレートとMPCの比は、1:2で一定である。次いで、その溶液を完全に混合した。次に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25μlを、100μlマイクロシリンジで注入し、続いてEDC/NHS溶液(MES中)57μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を3:3:1にした。この研究では、EDCとコラーゲンの比も一定に維持した。NaOH(2N)を使用して、pHを約5に調整した。均一な混合物をガラス製の型に流し込み、室温にて湿度100%で16時間インキュベートした。後硬化するために、その型を37℃で5時間インキュベータに移した。
同様の方法で、コラーゲンとMPCの比1:1、2:1、3:1を有する「NiColl/MPC IPNヒドロゲル」と示されるIPNを調製した。
【0061】
本発明の実施例で使用される、「NiColl/MPC IPN4−3」、「NiColl/MPC IPN3−3」、「NiColl/MPC IPN2−3」および「NiColl/MPC IPN1−3」という用語は、コラーゲン:MPC比4/1、3/1、2/1および1/1をそれぞれ有する、13.7%ニッポンコラーゲンから得たIPNゲルを意味する。
【0062】
特性解析
屈折率(RI)
VEE GEE屈折計を使用して、試料の屈折率を測定した。
光の透過率
特注設計の装置を使用して、白色の波長、450、500、550、600および650nmで試料の光の透過率を測定した。
機械的性質
インストロン電気機械式試験機(3340モデル)を使用して、試料の応力、破断ひずみおよびモジュラスを測定した。試料のサイズは、5mm×5mm×0.5mmであった。
含水率
以下の式によって、試料の含水率を計算した。
(W−W0)/W%
(式中、W0およびWはそれぞれ、乾燥試料および膨潤試料の重量を示す)
【0063】
結果
屈折率
表1は、コラーゲンヒドロゲル屈折率値を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
光の透過率
表2は、光の透過率の結果を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
機械的性質
表3は、IPN試料の機械的性質を示す。NiColl/MPC IPN4−3によって、360KPaと高い破断応力が実証された。
【表3】
【0068】
平衡含水率
コラーゲンゲルの平衡含水率も測定した(表4)。
【0069】
【表4】
【0070】
生体適合性アッセイ
in vitroでの生体適合性アッセイから、上述のIPNヒドロゲルが、上皮の適切な成長を、対照(培養プレート)よりも大幅に促進することが示された。in vivoの研究によって、IPNを含有するコラーゲン/MCPが神経成長を支持することが実証された。
【0071】
図19は、術後6ヶ月の一般的な移植片の生体内共焦点画像を示しており、未処理角膜の画像(対側の対照角膜の画像)と比較している。(EDC/NHS)架橋組換えヒトコラーゲンおよび医療用のブタコラーゲン−MPC IPNのいずれにおいても、神経が基質および上皮下神経網目へ再成長したこと(矢印)を示す。
これは、IPN(右側のカラム)を、架橋組換えヒトコラーゲン(中央のカラム)、および未処理対照(左側のカラム)と比較している。これらの結果から、合成成分を有するにもかかわらず、IPNは、コラーゲンのみ(つまり、完全に天然のポリマー)と比較して、同程度の神経再生の効果を有することが示された。
【0072】
参考文献
1. Schrader ME and Loeb GL (Eds), Modern approaches to wettabilty: theory and applications, Plenum Press, New York, pp 231-248 (1992).
2. Konno T, HasudaH, Ishihara K, Ito Y. Photo-immobilization of a phospholipidpolymer for surface modification. Biomaterials 2005, 26 :1381-1388.
3. Lewis AL, Crosslinkablecoatings from phosphorylcholine-based polymers. Biomaterials 2001, 22: 99-111.
【0073】
実施例II−NiColl/MPC IPNヒドロゲル
本実施例では、コラーゲン溶液濃度を13.7%から20%に上げることによって、EDC/コラーゲンNH2比を1.5:1にし、実施例Iと同様に製造されたIPNの特性を変化させる能力を実証することを目的に実験を行った。さらに、pH指示薬を含有しないMESを使用した。
【0074】
材料
ニッポンコラーゲン(ブタ皮膚);
0.625Mモルホリノエタンスルホン酸[pH指示薬を含有しないMES];
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC);
N−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS):
MPCは、Biocompatibles International社(英国)から購入した。
NaOH溶液(2N)、PEG−ジアクリレート(Mw=575ダルトン)、過硫酸アンモニウム(APS)、およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)をシグマ・アルドリッチ社から入手した。
【0075】
NiColl/MPC IPNヒドロゲルの調製
まず、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、20.0重量%ニッポンコラーゲン溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.1mlを混合した。次に、MPC12.9mg(コラーゲンとMPCの比4:1(w/w))をMES0.25mlに溶解した。得られた溶液の0.2mlを、100μlマイクロシリンジで上記の混合物中に注入した。次いで、PEG−ジアクリレート4.6μlを500μlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとMPCとの重量比を1:2にした。その溶液を完全に混合した。次に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25μlを100μlマイクロシリンジで注入し、続いてEDC/NHS溶液(MES中)86μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を1.5:1.5:1にした。均一な混合物をガラス製の型またはプラスチック製の型(厚さ500μm)に流し込み、室温にて湿度100%で16時間インキュベートした。後硬化するために、その型を37℃で5時間インキュベータに移した。
【0076】
本明細書で使用される、NiColl20/MPC IPNとは、20%コラーゲン溶液から製造されたIPNを意味する。
【0077】
特性の測定
屈折率(RI)
VEE GEE屈折計を使用して、試料の屈折率を測定した。
光の透過率
特注設計の装置を使用して、白色の波長、450、500、550、600および650nmでヒドロゲル試料の透過率を測定した。
機械的性質
インストロン電気機械式試験機(3340モデル)を使用して、ヒドロゲル試料の引張り強さ、破断点伸びおよび弾性率を測定した。試料のサイズは、5mm×5mm×0.5mmであった。
含水率
以下の式によって、ヒドロゲル(WA)の含水率を計算した。
(W−W0)/W×100%
(式中、W0およびWはそれぞれ、乾燥試料および膨潤試料の重量を示す)
【0078】
結果
屈折率
20%溶液から得たIPNヒドロゲルは、透明かつ均一であった(図1に示すように)。その屈折率は約1.3519であった。
【0079】
光の透過率
表5は、光の透過率の結果を示す。
【0080】
【表5】
【0081】
機械的性質
表6には、ゲルの機械的性質を示す。NiColl20/MPC IPNの引張り強さおよび弾性率は、実施例1で製造されたヒドロゲルと比較して向上した。重要なことには、このゲルは、柔軟であるが硬い(例えば、鉗子を使用して破壊されない)。
【0082】
【表6】
【0083】
平衡含水率
この平衡含水率は88.97%であった。
【0084】
in vitroでの生体適合性アッセイによって、NiColl20/MPC IPNヒドロゲルが、上皮の適切な成長を、対照(培養プレート)より大幅に促進することが示された。
【0085】
実施例III−視力向上眼用デバイスのための新規な生合成素材
この実施例における組織工学素材は、従来から知られている素材と比較して、向上した靱性および弾性を有する、本質的に頑丈な移植素材である。この素材はコラーゲンをベースとするが、キトサンなどのバイオミメティック分子(biomimeticmolecule)も組み込まれる。バイオミメティック分子は、ヒト角膜中で発見された天然細胞外マトリックス分子(ECM)に匹敵し、それと同時に引張り強さを著しく向上させる。さらに、コラーゲン/キトサン足場を安定化するため、ハイブリッド架橋システムが開発されて使用され、素材の弾性および靱性がさらに向上した。これらの向上した素材の機械的性質、光学的性質、および生物学的性質を試験した。その結果から、足場は、強靭、弾性であり、かつ光学的透明性においてアイバンクのヒト角膜よりも優れており、in vitroでの角膜細胞および神経の再生を可能にすることが示唆されている。
【0086】
材料および方法
ベース材料は、I型アテロコラーゲン10%(w/v)とキトサン3%(w/v)の混合物を含む。日本ハム株式会社(日本)から入手した凍結乾燥されたブタコラーゲン粉末を冷水(滅菌dd H2O)に溶解し、4℃で攪拌して、濃度10%(w/v)を得た。0.2N塩酸(HCl)にキトサン粉末(フルカ社から入手、MW40000)を溶解し、4℃で攪拌することによって、3%(w/v)キトサン溶液も調製した。次いで、架橋前に均一なブレンドを調製するために、2つの溶液を所定の比で、シリンジシステム中で混合した。様々な架橋剤(つまり、PEGジアルデヒドおよびEDC/NHS)を使用して、架橋剤およびバイオミメティック成分(biomimeticcomponent)の種類および濃度に基づく特有の性質を有する相互侵入ネットワーク(IPN)を形成した(表7参照)。
【0087】
コラーゲンベースの角膜移植片(IPN−I)の作製
一般に、ルアーガラス製シリンジにおいて、3%キトサン溶液0.12mLを、10%コラーゲン溶液[モル比0.5:1のキトサン:コラーゲン]0.6mLに添加した。次いで、テフゼル(Tefzel)T字管を使用して、この組成物をMESバッファー0.4mlと混合した。次いで、MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、その混合物をEDC/NHS架橋剤[コラーゲン/キトサン中でのEDC:NH2のモル当量比が3:1であり、EDC:NHSのモル当量比が1:1である]と混合した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0088】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させた。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive-residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0089】
IPN−I(EP10−2):
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて、コラーゲン/キトサンブレンドを架橋した。コラーゲン/キトサンブレンド、およびEDC/NHS架橋剤を酸性pH約5にて共に混合し、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)バッファーを使用してpHの急上昇(surge)を防いだ。十分に混合した後、混合組成物の一部を型に注ぎ、型で硬化させて、ネットワークを形成した。
【0090】
コラーゲンベースの角膜移植片(IPN−II)の作製
ルアーガラス製シリンジにおいて、3%キトサン溶液0.02mlを10%コラーゲン溶液0.6mlに添加した[モル比0.1:1のキトサン:コラーゲン]。次いで、テフゼル(Tefzel)T字管を使用して、この組成物をMESバッファー0.4mlと混合した。次いで、MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、その混合物をハイブリッド架橋剤[PEG:NH2のモル当量比が0.25:1であり、EDC:NH2のモル当量比が4.5:1であり、EDC:NHSのモル当量比が1:1である]と混合した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0091】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させた。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0092】
IPN−II(EP10−11):
PEG−ジブチルアルデヒド(MW4132ダルトン、ネクター社から入手)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で構成されるハイブリッド架橋システムを使用して、コラーゲン/キトサンブレンドを架橋した。コラーゲン/キトサンブレンド、およびPEG−EDC/NHSハイブリッド架橋剤を酸性pH約5にて共に混合し、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)バッファーを使用してpHの急上昇(surge)を防いだ。十分に混合した後、混合組成物の一部を型に注ぎ、型内で硬化させて、IPN−IIを形成した。
【0093】
結果
ハイブリッド架橋を用いて製造されたIPNヒドロゲルは、縫合、組み込み後の摩耗および引き裂きを含み得るハンドリング、移植に耐えるのに十分な機械的または構造的性質を有する。図2に示すように、そのIPNヒドロゲルは、EDC/NHSによって架橋された10%コラーゲン(対照Iおよび対照II)から作製された、以前に報告されている眼科素材よりも機械的に強い。例えば、IPN−IおよびIPN−IIをそれぞれ対照Iおよび対照IIと比較した場合に、最終引張り強さ、および靱性は、著しく向上していた。
【0094】
特に、架橋剤の増加により誘導される引張り強さの向上は、一般的に最終伸び率を低下させる(図2における対照Iと比較したIPN−Iの値を参照)。その一因はおそらく、高分子ネットワークの移動度の付加的制限である。この挙動は、対照IIおよびIPN−Iと比較して、IPN−IIヒドロゲルには認められなかった。IPN−IIヒドロゲルでは、弾性を含むすべての機械的性質が向上した。これは、おそらくキトサンおよびPEGをコラーゲン足場に組み込んだときの相互浸入ネットワークの形成によるものである。EDC/NHSにより生成される架橋長さがゼロであるのに対し、PEGで生成されるか架橋長さは長い。これは、コラーゲン分子がより自由に移動することを可能にし、その結果、より弾性の高い足場が生じる。
表7に要約し、かつ図3に図示するように、IPNヒドロゲルは、光学的に透明である。IPNヒドロゲルは、健康なヒト角膜およびウサギ角膜に等しい、またはそれより優れた、可視光に対する所望の光学的透明度、光の透過率および光散乱を提供する。これら2種類の素材は、非細胞毒性でもある。図4Aおよび図4Bに示すように、これらの素材は、角膜上皮細胞の再生を可能にする。図5には、IPN−II上での神経成長が実証されている。この素材は、神経に親和的であり(nerve-friendly)、ヒドロゲル上で、かつおそらくヒドロゲル内部で神経が成長することを可能にすると思われる。
【0095】
【表7】
【0096】
EP10−11では、アルブミンおよびグルコースに対するヒドロゲルの透過性はそれぞれ、1.67×10−7および2.8×10−6であることが判明した。
【0097】
生体適合性/安定性を実証するためにもEP10−11ヒドロゲルを研究した。ラットの皮下に移植片を30日間挿入し、生体適合性および安定性を測定した。免疫細胞のいくらかの浸潤が3つの試料のうちの1つで観察されたが、試料は30日後でもまだ損なわれておらず、安定性が示された。
【0098】
3種の細菌種(黄色ブドウ球菌、肺炎連鎖菌および緑膿菌)の成長を評価する実験を行った。製造された角膜基質は、天然角膜の光学的透明度と共に、ヒト角膜と同じ曲率および寸法に成形された、タンパク質コラーゲンと合成N−イソプロピルアクリルアミドをベースとするポリマーとの複合素材であった。各合成角膜をin vitroで死後ヒト角膜の縁に縫合し、その角膜の引張り強さおよび縫合性を評価した。異なる相対パーセンテージの水、コラーゲンおよびポリマーを使用して、10通りの異なる角膜作成物を作製した。各構造物を5つ、3セット複製し、記載の細菌を各セットにそれぞれ100μl(0.1mL)を注入した。注入後、角膜を室温で24〜48時間インキュベートし、細菌の成長を評価した。
【0099】
結果
アイバンクから入手したヒト角膜と比較して、EP10−11ベースの角膜作成物では、細菌数が少ないことが確認された。
【0100】
図7は、表層角膜移植(分層移植)によりユカタンミニブタの角膜に移植されたEP10−11の写真である。厚さ500μm、直径5mmの移植片をブタの角膜内に挿入した(ブタ角膜の平均厚は、約700〜1000μmである)。
【0101】
実施例IV−コラーゲン/PAA IPNヒドロゲル
材料
ニッポンコラーゲン(ブタ皮膚)
0.625Mモルホリノエタンスルホン酸[Aalizarin Red S pH指示薬(6.5mg/100ml水)を含有するMES]
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC)、N−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS)
アクリル酸(AA)をアルドリッチ社から購入した。
PEG−ジアクリレート(Mw575)、過硫酸アンモニウム(APS)およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)は、アルドリッチ社によって提供された。
【0102】
コラーゲン/PAA IPNヒドロゲルの調製
第1に、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、10.0重量%ニッポンコラーゲン溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.1mlを混合した。第2に、AA30μl(コラーゲンとAAの比1/1(w/w))を上記混合物中に100μlマイクロシリンジで注入した。第3に、PEG−ジアクリレート5.0μlを50μlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとAAとの重量比を1:5にした。別段の指定がない限り、PEG−ジアクリレートとAAの比は、1:5で一定である。次いで、その溶液を完全に混合した。第4に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25μlを100μlマイクロシリンジで注入し、続いて、EDC/NHS溶液(MES中)57μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を6:6:1にした。本実施例では、EDCとコラーゲンの比も一定に維持した。均一な混合物をガラス製の型に流し込み、室温にて湿度100%で16時間インキュベートした。次いで、後硬化するために、得られた型を37℃で5時間インキュベータに移した。得られたヒドロゲルは、頑丈かつ透明であった。
【0103】
実施例V−角膜に対する、眼への、薬物、生理活性因子送達システムにおける素材の適用
生理活性ペプチドまたは成長因子が組み込まれた生合成素材が開発されている。これらの素材は、主に角膜代替物として有用であり、特に、生理活性YIGSR(ラミニン)ペプチドを組み込んだ後に、角膜細胞の再生および切断された角膜神経の再成長を促進することが示されている(Li et al. 2003, 2005)。素材は、成長因子の送達に適応させることもできる(Klenker et al. 2005)。
【0104】
本実施例の目的は、角膜に生理活性因子を治療的に送達する2つの異なる様式:1)移植可能な送達システム(例えば、ベニア、アンレー、インレー、層状移植片);2)治療用コンタクトレンズ;による様式のうちの1つに使用することができる素材を開発することである。
【0105】
コラーゲン角膜シールドが、1984に角膜包帯レンズとして開発され、現在では、白内障および屈折矯正手術(refractive surgery)、外傷性上皮欠損後の眼球表面保護のために市販されている。それらは、ブタまたはウシのコラーゲンから製造され、12、24、および72時間の溶解時間を有する、3種の異なるコラーゲンシールドが現在入手可能である。理論的、実験的および臨床的証拠から、薬物送達デバイスとしての、かつ上皮および基質の治癒の促進における、コラーゲン角膜シールドの役割が裏付けられる。
【0106】
しかしながら、これらのデバイスの欠点としては、その比較的短い寿命が挙げられる。これらのデバイスの多くの最長使用時間は72時間である。さらに、これらは本質的に不透明であり、視覚的に閉鎖的(occlusive)である。このため、かかるデバイスは、広く普及していないと思われる。
【0107】
光学的適用に加えて、コンタクトレンズデバイスは、痛みの緩和、機械的な保護および構造的な支え、薬物送達などのために、現代の眼科診療において広範囲の治療用途を有する。
【0108】
これらの完全に合成されたヒドロゲルレンズは、天然生体素材で構成されていないことから、完全に生体適合性ではない。合成包帯コンタクトレンズに伴う合併症は、軽症から重症の範囲である。その例としては、上皮、基質、および内皮の損傷を引き起こし得る角膜生理機能の変化、レンズの沈着、アレルギー性結膜炎、巨大乳頭結膜炎、末梢神経浸潤、細菌性角膜炎、および新生血管形成が挙げられる。
【0109】
したがって、薬物を充填することもできる、高い生体適合性を有し連続装用に適した治療用コンタクトレンズが非常に望まれている。適切なレンズは、2つの主なグループの素材をベースとして製造することができる。
【0110】
・キトサン−合成ポリマーIPNヒドロゲルレンズ
甲殻類の外骨格の主要成分であるキトサンは近年、医療および薬学分野において高い関心を集めている。創傷治癒を促進し、静菌作用を有することも報告されている。約20年前、キトサンは、コンタクトレンズの製造に関して優れた素材として提案されたが、中性の水に可溶性ではなく、キトサンゲルの機械的強度が良くないことから、成果を挙げていなかった。
【0111】
本明細書で記述される、キトサンおよびキトサン誘導体は、移植の角膜代替物として使用するための素材の開発に使用された。これらの素材は、ヒドロゲルにおいて優れた機械的強度および弾性を有することが判明した。その素材は、in vitroにて、かつ動物の皮下においても試験され、LKP手術(LKP surgeries)におけるげっ歯類およびブタモデルで現在、試験されている。
【0112】
治療用コンタクトレンズデバイスの開発
本発明の一態様に従って、治療用途の高生体適合性包帯コンタクトレンズは、以下の特徴を有する。
1.創傷治癒の促進
2.静菌性
3.神経栄養性角膜炎の治療のための、NGF−βなどの様々な薬物を充填可能
4.2〜3週間またはそれ以上の連続装用
5.視覚を与える、透過性(光透過率>90%、散乱率<3%)
【0113】
これは、合成ヒドロゲルと生合成ポリマーとを結合し相互侵入ネットワークを形成し、合成ヒドロゲルの機械的性質とキトサンの生物学的性質とを組み合わせることで達成された。これらの素材の特性は、コラーゲンを添加することによって高めることができる。コラーゲンとは、動物源から抽出される糖タンパク質(例えば、ブタアテロコラーゲン、または、例えばフィブロジェン社から市販のI型およびIII型コラーゲンのような組換えヒトコラーゲン)を意味する。さらに、以前に開発された方法を用いて、様々な生理活性因子(例えば、ペプチド、成長因子または薬物)を組み込むことができる。
【0114】
製造方法
水溶性キトサンと部分カルボキシメチル化キトサンを使用した。合成モノマーまたは架橋剤、例えば、アクリル酸、PEG−ジアクリレート、メタクリル酸およびビニルピロリドン等が使用される。
【0115】
・コラーゲンベースの生合成レンズ
含水率88.9%、屈折率1.35、光透過率約88%(厚さ500μmの試料に関して;図6参照)を有する、ある種類のコラーゲン合成コポリマーIPNが現在、開発されている。
【0116】
これらのヒドロゲルで達成された機械的性質は以下の通りである。
引張り強さ(KPa) 破断点伸び(%) 弾性率(MPa)
566.0±243.9 49.08±6.73 2093±1157
【0117】
例えば、屈折率、光透過率を高めることによって、または機械的強度を向上させることによって、これらのヒドロゲルの特徴をさらに改善することが可能である。機械的強度を高めるためには、コラーゲンおよび合成モノマーなどの成分を高濃度で使用しIPNを形成したり、または1種または複数種のモノマーを含有する溶液にヒドロゲルを浸漬して、1種または複数種の更なる高分子ネットワークを形成することができる。それにより、ヒドロゲルの強度が高められるはずである。この素材は、in vitroで、および皮下移植片としてin vivoで、生体適合性であることが判明し;角膜代替物として、かつ生理活性因子を組み込むためのベース素材として、移植することができる。
【0118】
本明細書に記載の素材を使用して、生体適合性であり、かつ創傷治癒を促進し、かつ/または静菌性である、コンタクトレンズを製造することが可能である。かかるコンタクトレンズは、様々な充填薬物、生理活性ペプチドおよび/または神経栄養性角膜炎の治療のためのNGFなどの成長因子を含有することができる。さらに、このキトサン合成レンズにコラーゲンを組み込み、生体適合性および充填される薬物の容量を高めることができる。製造されるコンタクトレンズは任意に、2〜3週間またはそれ以上の連続装用に適している。
【0119】
実施例VI−眼の前区画(anterior compartment)および後区画(posterior compartment)のための接着剤
角膜断裂などの角膜穿通性創傷を修復するために、縫合は、有効な方法であった。しかしながら、縫合には、手術時間が長くなったり、外科技術が必要とされるなど、いくつかの不利点がある。縫合は、著しい局所的な歪みおよび高レベルの乱視も生じさせる恐れがある。緩い縫合は、細菌の温床となり、炎症および組織の壊死を起こす恐れがある。さらに、縫合によって、著しい不快感が起こり得る。さらに、非生分解性縫合糸は、除去する必要があり、そのため患者の経過観察が長くなる。
【0120】
様々な種類の組織接着剤において同様な用途が見出されている接着剤は、合成接着剤(例えば、シアノアクリレート誘導体)と生物学的接着剤(例えば、フィブリンベースの接着剤)とに分けることができる。シアノアクリレート誘導体は、水または血液などの基礎物質と接触して迅速に重合し、強い結合を形成する、極めて高い引張り強さを有する化合物である。シアノアクリレート誘導体は人工合成物であり非生分解性であるため、通常、外面上で使用され、新生血管形成および組織壊死などの炎症性異物反応を誘発し得る。眼科学において、シアノアクリレート誘導体は、様々な他の眼科手術において試されているが、主に角膜穿孔および重篤な角膜菲薄化(severe thinning)の管理に使用されている。
【0121】
それに対して、フィブリンベースの接着剤は、引張り強さが低く、重合が遅いが、生体由来かつ生分解性であり、表面被覆層下(例えば、結膜や羊膜)で使用することができ、誘発される炎症は極めてわずかである。これらの接着剤は、角膜菲薄化および角膜穿孔、眼球表面の障害および緑内障を治療するために眼科で使用されている。ごく最近には、フィブリンベースの接着剤が、無縫合の表層角膜移植を実施するため、かつ露出強膜に羊膜を取り付けるために、使用されている。残念なことに、フィブリン接着剤にはヒトトロンビンが使用されているため、この血液製剤は依然として、汚染されたドナープールからの感染およびウイルス伝達のリスクを有する。さらに、フィブリンベースの糊の製造および適用は、シアノアクリレート糊よりも極めて複雑である。
【0122】
天然生体高分子またはその誘導体を使用して、生体適合性、生分解性、高い引張り強さの、非毒性および安全な組織接着剤を製造することができる。二成分系接着剤(two-component glue)として、そのゲル化速度をペンダント基の修飾によって調整することができる。薬物、生理活性ペプチドおよび成長因子も、徐放用のゲル化システムに組み込むことができる。さらに、ゲル化速度ならびに粘度も制御することができるため、このシステムは、幹細胞および前駆細胞の送達に使用することもできる。
【0123】
この組織接着剤は、2つの成分:1)酸化コンドロイチン硫酸塩、2)水溶性キトサンを有する。これらの2つの成分を混合すると、これらの2つの成分は、コンドロイチン硫酸塩のアルデヒド基とキトサンのアミン基との反応によって、糊またはゲルを形成する。コンドロイチン硫酸塩の隣接ヒドロキシル基の酸化度を調整することによって、ゲル化速度を調節することができる。
【0124】
薬物、成長因子(例えば、NGF−β)および生理活性ペプチド(例えば、ラミニン、フィブロネクチン、syngistic物質PおよびIGF様ペプチドの組み合わせ)もまた、徐放用ゲル化システムに組み込むことができる。
【0125】
コンドロイチン硫酸塩ベースの素材を使用して、図8に示されるように、内皮前駆細胞(EPC)を筋試験システム中に送達し、血管形成により血管内に標識EPC(以下の図において標識グリーン)の取り込みを誘導できる。図8は、硫酸コンドロイチンベースの素材が内皮前駆細胞(EPC)を筋試験システム中に送達し、血管形成により血管内に標識EPC(以下の図において標識グリーン)の取り込みを誘導している様子を示す。図8は、(A)ラットの虚血後肢からの骨格筋におけるEPC(グリーン標識された)の注入部位(矢印)、(B)注入されたマトリックスから組織中へ移動するEPC(矢印)の拡大画像、(C)血管構造内で観察されたEPC(矢印)を示す。
【0126】
参考文献
Klenkler B.J., Griffith M., Becerril C., West-Mays J., Sheardown H. (2005) EGF-grafted PDMS surfaces in artificial cornea applications. Biomaterials 26: 7286-7296.
Li, F., Carlsson, D.J., Lohmann, C.P., Suuronen, E.J., Vascotto, S., Kobuch, K., Sheardown, H., Munger, M. and Griffith, M. (2003) Cellular and nerve regeneration within a biosynthetic extracellular matrix: corneal implantation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 15346-15351.
Li, F., Griffith, M., Li, Z., Tanodekaew, S., Sheardown, H., Hakim, M. and Carlsson, D.J. (2005) Recruitment of multiple cell lines by collagen-synthetic copolymer matrices in corneal regeneration. Biomaterials 26:3039-104.
【0127】
実施例VII−コラーゲン12.1%(w/w)を有する組換えヒトIII型コラーゲン−MPC IPN
第1に、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、12.1重量%III型コラーゲン溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.1mlを混合した。第2に、MPC(コラーゲンとMPCの比1/1(w/w))50mgをMES0.138mlに溶解し、その0.1mlを100μlマイクロシリンジで上記混合物中に注入した。第3に、PEG−ジアクリレート(Mn=575)16μlを100μlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとMPCとの重量比を1:2にした。次いで、その溶液を完全に混合した。第4に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25μlを100μlマイクロシリンジで注入し、続いて、EDC/NHS溶液(MES中)57μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を3:3:1にした。均一な混合物をガラス製またはプラスチック製の型(厚さ500μm)に流し込み、室温に湿度100%で16時間放置した。次いで、後硬化するために、その型を37℃で5時間インキュベータに移した。
【0128】
得られたヒドロゲルは、頑丈かつ光学的に透明であるのに対して、同じ条件で製造されたニッポンコラーゲン/MPCコラーゲンは不透明であった。rhcIII型の利点は、広範囲のpHおよび架橋剤含有率で透明性を維持する性能である。
【0129】
実施例VIII−コラーゲンまたはコラーゲンヒドロゲル
実施例IIIと同様に、このセクションに記載の眼科素材は、従来から知られている素材と比較して、向上した靱性および弾性を有する、本質的に頑丈な移植可能な素材である。この素材はコラーゲンをベースとするが、ヒト角膜中で発見された天然細胞外マトリックス分子(ECM)に匹敵し、それと同時に引張り強さを著しく向上させる、キトサンなどのバイオミメティック分子(biomimeticmolecule)も組み込まれる。さらに、架橋システムが開発され、コラーゲンおよびコラーゲン/キトサン足場を安定化するために使用され、素材の弾性および靱性がさらに向上した。これらの向上した素材の機械的性質、光学的性質、および生物学的性質に関して試験した。その結果から、足場は、強靭、弾性であり、かつ光学的透明性においてアイバンクのヒト角膜よりも優れており、in vitroでの角膜細胞および神経の再生を可能にすることが示唆されている。
【0130】
材料および一般法
ベース材料は、I型アテロコラーゲン10%(w/v)とキトサン3%(w/v)の混合物を含む。日本ハム株式会社(日本)から入手した凍結乾燥されたブタコラーゲン粉末を冷水(滅菌dd H2O)に溶解し、4℃で攪拌して、濃度10%(w/v)とした。0.2N塩酸(HCl)にキトサン粉末(フルカ社から入手、MW40000)を溶解し、4℃で攪拌することによって、3%(w/v)キトサン溶液も調製した。次いで、架橋前に均一なブレンドを調製するために、2つの溶液を所定の比でシリンジシステムにおいて混合した。PEG−ジブチルアルデヒド(MW3400ダルトン、ネクター社)および1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)などの様々な架橋剤を使用して、架橋剤およびバイオミメティック成分(biomimeticcomponent)の種類および濃度に基づいた特有の性質を有する相互侵入ネットワークを形成した(表8参照)。
【0131】
実施例IX−EDC/NHSおよびPEG−ジブチルアルデヒドによって架橋されるコラーゲンヒドロゲル(HPN−3)の製造
ルアーガラス製シリンジにおいて、テフゼル(Tefzel)T字管を使用して、10%コラーゲン溶液0.6mLをMESバッファー0.4mlと混合した。PEG−ジブチルアルデヒドおよびEDC/NHS[PEG:NH2のモル当量比が0.36:1であり、EDC:NH2のモル当量比が5.4:1であり、EDC:NHSのモル当量比が1:1である]で構成される架橋システムを使用して、MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、コラーゲンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0132】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−3を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0133】
実施例X−EDC/NHSおよびPEG−ジブチルアルデヒドで架橋されるコラーゲン−キトサンヒドロゲルの製造(HPN−4)
ルアーガラス製シリンジにおいて、15%コラーゲン溶液0.6mLに3%キトサン0.036mLを添加した[キトサン:コラーゲンのモル比を0.01:1とした]。次いで、テフゼルT字管を使用して、この組成物をMESバッファー0.4mlと混合した。MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、PEG−ジブチルアルデヒドおよびEDC/NHS[PEG:NH2のモル当量比は0.3:1であり、EDC:NH2のモル当量比は4.5:1であり、EDC:NHSのモル当量比は1:1である]で構成されるハイブリッド架橋システムを使用して、コラーゲン/キトサンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0134】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−4を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0135】
実施例XI:EDC/NHSおよびPEG−ジブチルアルデヒドによって架橋されるコラーゲンヒドロゲルの製造(HPN−5)
テフゼルT字管を使用して、ルアーガラス製シリンジ中の15%コラーゲン溶液0.6mLをMESバッファー0.4mlと混合した。MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、PEG−ジブチルアルデヒドおよびEDC/NHS[PEG:NH2のモル当量比が0.36:1であり、EDC:NH2のモル当量比が5.4:1であり、EDC:NHSのモル当量比が1:1である]で構成されるハイブリッド架橋システムを使用して、コラーゲンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0136】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−5を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0137】
実施例XII:PEG−ジブチルアルデヒドによって架橋されるコラーゲンヒドロゲルの製造(HPN−6)
テフゼルT字管を使用して、ルアーガラス製シリンジ中の20%コラーゲン溶液0.6mLをMESバッファー0.4mlと混合した。MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、PEG−ジブチルアルデヒド[PEG:NH2のモル当量比が1:1である]を使用して、コラーゲンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0138】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−6を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0139】
実施例XIII:PEG−ジブチルアルデヒドによって架橋されるコラーゲンヒドロゲルの製造(HPN−7)
一般に、テフゼルT字管を使用して、ルアーガラス製シリンジ中の20%コラーゲン溶液0.6mLをMESバッファー0.4mlと混合した。MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、PEG−ジブチルアルデヒド[PEG:NH2のモル当量比が2:1である]を使用して、コラーゲンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0140】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−7を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0141】
【表8】
【0142】
実施例XIV:組換えヒトI型コラーゲンおよびEDC/NHSから製造されるコラーゲンマトリックス
気泡を含有しないシリンジ混合システム中に、組換えヒトI型コラーゲン溶液(12.7%(w/w))のアリコートを添加した。第2のシリンジからセプタム(septum)を通して、計算量のEDCおよびNHS(どちらも10%(w/v)、EDC:コラーゲン−NH2比=0.4:1;EDC:NHS比=1:1)を添加し、再び0℃で完全に混合した。最終溶液を直ちに、ガラスプレート上に分配し、平坦なフィルムを形成した。その平坦なフィルムを湿度100%で硬化させた(21℃で24時間、次いで37℃で24時間)。フィルムを新たなPBSで3回洗浄し、クロロホルム1%を含有するPBS中に保存し、無菌に維持した。他の比のEDC/コラーゲンNH2を有するゲルを同じ方法で製造した。
【0143】
【表9】
【0144】
実施例XV:組換えヒトIII型コラーゲンおよびEDC/NHSから製造されるコラーゲンマトリックス
気泡を含有しないシリンジ混合システム中に、組換えヒトIII型コラーゲン溶液(12.7%(w/w))のアリコートを添加した。第2のシリンジからセプタム(septum)を通して、計算量のEDCおよびNHS(どちらも10%(w/v)、EDC:コラーゲン−NH2比=0.4:1;EDC:NHS比=1:1)を添加し、再び0℃で完全に混合した。最終溶液を直ちに、ガラスプレート上に分配し、平らなフィルムを形成した。その平らなフィルムを湿度100%で硬化させた(21℃で24時間、次いで37℃で24時間)。フィルムを新たなPBSで3回洗浄し、クロロホルム1%を含有するPBS中に保存し、無菌に維持した。他の比のEDC/コラーゲンNH2を有するゲルを同じ方法で製造した。
【0145】
【表10】
【0146】
実施例XVI:組換えヒトI型およびIII型デュアルコラーゲンおよびEDC/NHSから製造される角膜マトリックス
気泡を含有しないシリンジ混合システム中に、組換えヒトI型コラーゲン溶液(12.7%(w/w))のアリコートを添加し、計量した。等量の組換えヒトコラーゲンIII型溶液(12.7%(w/w))のアリコートを同じシリンジ混合システム中に添加し、シリンジ混合システムにおいてコラーゲンI型およびIII型溶液の50/50(wt/wt)%溶液を得た。第2のシリンジからセプタム(septum)を通して、計算量のEDCおよびNHS(どちらも10%(w/v)、EDC:NH2比=0.4:1;EDC:NHS比=1:1)を添加し、再び0℃で完全に混合した。最終溶液を直ちに、ガラスプレート上に分配し、平らなフィルムを形成した。その平らなフィルムを湿度100%で硬化させた(21℃で24時間、次いで37℃で24時間)。フィルムを新たなPBSで3回洗浄し、クロロホルム1%を含有するPBS中に保存し、無菌に維持した。他の比のEDC/コラーゲンNH2を有するゲルを同じ方法で製造した。最終ゲルの含水率は、93.3%であった。
【0147】
【表11】
【0148】
【表12】
【0149】
【表13】
【0150】
実施例XVII:コラーゲン−合成相互侵入高分子ネットワーク
材料
ニッポンコラーゲン(ブタ皮膚);
0.625Mモルホリノエタンスルホン酸[Aalizarin Red S pH指示薬(6.5mg/100ml水)を含有するMES];
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC)、N−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS)、NaOH溶液(2N)、PEG−ジアクリレート(Mw575)、過硫酸アンモニウム(APS)およびN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)をシグマ・アルドリッチ社から購入した。
【0151】
N,N−ジメチルアクリルアミド(99%)をシグマ・アルドリッチ社から購入した。シグマ・アルドリッチ社から購入した抑制剤除去剤を使用して、抑制剤を除去した。
【0152】
コラーゲン−DMAIPNヒドロゲルの製造
第1に、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、13.7重量%ニッポンコラーゲン溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.3mlを混合した。第2に、DMA(コラーゲンとDMAとの比3/1(w/w))14.2mlを50μlマイクロシリンジで上記混合物中に注入した。第3に、PEG−ジアクリレート(Mn=575)6.14μlを100μlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとDMAとの重量比を1:2にした。別段の指定がない限り、PEG−ジアクリレートとDMAの比は1:2で一定である。次いで、その溶液を完全に混合した。第4に、DMAに対して1%APSおよび1%TEMED溶液(MES25μl中)を100μlマイクロシリンジで注入し、続いて、EDC/NHS溶液(MES中)57μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を3:3:1にした。本実施例では、EDCとコラーゲンの比も一定に維持した。均一な混合物をガラス製の型に流し込み、室温にて湿度100%で16時間放置した。次いで、後硬化するために、その型を37℃で5時間インキュベータに移した。コラーゲンとDMAの比1:1、2:1および4:1を有するコラーゲン−DMA IPNヒドロゲルを製造した。
【0153】
ヒドロゲルの特性
図12、図13および図14は、DMA:コラーゲン=1:1、1:2、1:3および1:4(w/w)から得たゲルすべての引張り、ひずみおよびモジュラス試験の結果を示す。
【0154】
図15は、コラーゲン−DMAヒドロゲルの白色光透過率の結果を示す。1:1のゲルを除いて、いずれの比率のゲルも、白色光透過は90%を超え、ヒト角膜と同等またはヒト角膜よりも優れていた。
【0155】
コラーゲン−DMAヒドロゲルは、極めて高い生体適合性を有し、上皮の過成長を支持する(図16参照)。上皮細胞は、3日間の培養でコンフルエント(confluent)になった。
【0156】
実施例XVIII:生理活性剤を含有する眼科デバイス
抗菌剤、抗ウイルス剤などの生理活性剤または神経栄養因子などの成長因子を組み込んだヒドロゲル素材は、例えば、角膜移植に有用な、または薬物送達または創傷治癒のための治療用レンズとして有用である、改良型デバイスを構成する。IPNヒドロゲル中に組み込まれる抗菌性ペプチドの例としては、限定されないが:
ペプチド番号1:
酸−CGSGSGGGZZQOZGOOZOOZGOOZGY−NH2
ペプチド番号2:
酸−GZZQOZGOOZOOZGOOZGYGGSGSGC−NH2
が挙げられる。
【0157】
これらのペプチドは、Giangasperoら(Giangaspero, A., Sandri, L., and Tossi, A. , Amphipathic alpha helical antimicrobial peptides. A systematic study of the effects of structural and physical properties on biological activity. Eur. J. Biochem. 268, 5589-5600, 2001)によって報告されている基本ペプチド配列を含む。その代わりとして、またはさらに、角膜マトリックス中にデフェンシンを組み込むことができる。
【0158】
角膜マトリックス中への生理活性剤の組み込み方法
以下の方法を使用することができる:
1.吸収および放出(absorption and release)
生理活性剤で飽和した溶液中にIPNヒドロゲル素材を添加し、生理活性剤を角膜マトリックス中に浸透させる。平衡に達したら、角膜マトリックスは、眼球包帯レンズまたは移植片として使用される。
2.マトリックス内/上への化学的グラフト化
この手順は、上記の手順1と同様であるが、IPNヒドロゲル素材中/上へのペプチドの化学結合を促進するために、1種(または複数種)の化学物質が使用される。生理活性ペプチド充填角膜マトリックスは、移植片および薬物送達用の包帯レンズの両方に優れている。
3.ナノスフェアまたはミクロスフェア(nano- or microspheres)中への生理活性剤の組み込み、およびマトリックス中へのナノスフェアまたはミクロスフェアの組み込み
この手順によって、生理活性剤の徐放性を有するIPNヒドロゲルが生成される。得られたマトリックスは、移植片および薬物送達用の包帯レンズの両方に優れている。図17は、生理活性剤を封入するために作られたアルジネートミクロスフェアの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。生理活性剤を充填した後、これらのミクロスフェアは、薬物の徐放のためにマトリックス中に組み込まれる。
【0159】
アルジネートミクロスフェアを製造する手順
アルジネートスフェアは、文献(C.C. Ribeiro, C.C. Barrias, M.A. BarbosaCalcium phosphate-alginate microspheres as enzyme delivery matrices, Biomaterials 25 4363-4373, 2004)に従って製造される。
【0160】
実施例XIX:コラーゲン−MPC IPNヒドロゲルのin vitroでの生分解
手順:
水和ヒドロゲル50〜80mgを0.1M PBS(pH7.4)5mlを含有するバイアルに入れ、続いてコラゲナーゼ(ヒストリチクス菌、EC3.4.24.3、シグマケミカル社)(1mg/mL)60μlを添加した。次いで、バイアルを37℃で異なる時間間隔にてオーブン内でインキュベートし、表面の水を拭き取って計量するためにゲルを取り出した。初期膨潤重量に基づいて、ヒドロゲルの残存量の時間経過を追跡した。各ヒドロゲル試料において、3つの試験片を試験した。ヒドロゲルの残存量%を以下の等式で計算した:
残存量%=Wt/Wo
(上記式中、Woは、ヒドロゲルの初期重量であり、Wtは、各時点でのヒドロゲルの重量である。)
【0161】
結果および考察
コラーゲンおよびIPNヒドロゲルのin vitroでの生分解の時間経過
図18に示すように、EDC/NHSで架橋されたブタコラーゲンヒドロゲルは非常に急速に分解した。3時間後には、完全に分解した。MPCおよびPEGの組み込みによって、分解速度が遅くなり、IPN−4−1およびIPN−3−1の完全分解はそれぞれ10時間後および15時間後であった。ヒドロゲル中のMPC含有率をさらに増加すると(つまり、IPN−2−1およびIPN−1−1では)、分解は著しく抑えられた。48時間以内に、IPN−2−1の残存量は約79%のままであったのに対して、IPN−1−1は、質量が6%減少しただけだった。48時間後、その残存量をさらに7日間追跡した。IPN−2−1およびIPN−1−1ヒドロゲルのどちらも、その残存量が一定のままであることが判明した。したがって、相互浸入ネットワークは、コラーゲンヒドロゲルの生物学的安定性の向上に有効である。
【0162】
実施例XX:III型コラーゲン−MPC IPNヒドロゲルの特性およびin vitroでの生分解
III型組換えヒトコラーゲン(rhc)−MPC IPNヒドロゲルの製造
第1に、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、13.7重量%rhcIII溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.1mlを混合した。第2に、MPC溶液(MES中、MPC/コラーゲン=2/1(w/w))250μlを500mlマイクロシリンジで上記混合物中に注入した。第3に、PEG−ジアクリレート9.3mlを100mlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとMPCとの重量比を1:2にした。次いで、その溶液を完全に混合した。第4に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25mlを100mlマイクロシリンジで注入し、続いて、EDC/NHS溶液(MES中)19mlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を1:1:1にした。均一な混合物をガラス製の型に流し込み、室温、湿度100%でN2下にて24時間放置した。次いで、後硬化するために、型を37℃で24時間インキュベータに移した。生成物は、Coll−III−MPC IPN2−1−1とコード化した。
【0163】
EDC/NHS/コラーゲンNH2=3/3/1であることを除いて同じ条件で、他のrhcIII/MPC IPNを製造した。コードColl−III−MPC IPN4−1−3、Coll−III−MPC IPN3−1−3、Coll−III−MPC IPN2−1−3、Coll−III−MPC IPN1−1−3はそれぞれ、rhcIII/MPC=4/1、3/1、2/1および1/1(w/w)であるIPNを意味する。
【0164】
機械的性質および光学的性質
表14および15は、III型コラーゲン−MPC IPNヒドロゲルの機械的性質および光学的性質を示す。
【0165】
【表14】
【0166】
【表15】
【0167】
in vitroでの生分解:
III型コラーゲン−MPC IPNヒドロゲルのin vitroでの生分解手順は、ブタコラーゲン−MPC IPNヒドロゲルと同じである。in vitroでの生分解試験は、Coll−III−MPC IPN2−1−1のみ行った。ゲルは、少なくとも20日間、コラゲナーゼ溶液(12μg/mL)中で安定であった。
【0168】
実施例XXI:アルジネートグラフト化巨大分子
この実施例において、本発明者らは、コラーゲンベースの人工角膜マトリックスの後面にアルジネート巨大分子を共有結合でグラフトし、内皮細胞付着および増殖を防ぐ、二段階プラズマ補助表面改質技術(two-stage plasma-assisted surface modification technique)を開発した。
【0169】
凍結乾燥されたブタI型コラーゲン粉末を日本ハム株式会社(日本)から入手し、冷水(滅菌dd H2O)に容易に溶解し、4℃で攪拌して、濃度10%(w/v)を得た。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)をシグマ・アルドリッチ社から購入した。0.2N塩酸(HCl)にキトサン粉末(フルカ社から入手、MW40000ダルトン)を溶解し、4℃で攪拌することによって3%キトサン溶液を調製した。
【0170】
表16に示すように、均一なブレンドを調製するために、10%コラーゲン溶液、3%(w/w)キトサン溶液、およびEDC/NHS架橋剤を所定の比でシリンジシステム(syringe system)において混合した。
【0171】
【表16】
【0172】
内皮細胞成長試験から得られた結果から、アルジネート表面グラフト化は、角膜ヒドロゲルの後面への内皮細胞移動および付着を阻止することが示された。図20は、基質素材、プラズマ電力(plasma power)、およびアルジネート溶液濃度の関数として、播種後5日目の角膜素材の後面に付着した内皮細胞の数を示す。内皮細胞成長の一般的な抑制は、対照表面と比較した場合に、すべてのアルジネートグラフト化表面で認められた。対照の非修飾表面は、すべての図および表においてRF電力およびアルジネート濃度ゼロによって示される。
【0173】
図20に図示されるように、各群の変動を示す区間プロットは、信頼区間をプロットする。プラズマ電力100W、アルジネート濃度5%で処理された表面が、内皮細胞成長を99%有効に抑制することを示し、一方、プラズマ電力40W、アルジネート濃度5%で処理された表面が、内皮細胞成長を約89%抑制することを示す。
【0174】
本明細書に記載のすべての出版物、特許および特許出願は、本発明が関係する当業者のレベルを示すものであり、あたかも個々の出版物、特許または特許出願が具体的かつ個々に、参照により組み込まれることを意味されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0175】
本発明はこのように述べられているが、多くの点でそれを変更することができることは明らかであるだろう。このような変更は、本発明の精神および範囲からの逸脱とみなされず、当業者には明らかであろう、このようなすべての修正は、以下の特許請求の範囲内に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明の一実施形態によるNiColl20/MPC IPNヒドロゲルの写真である。
【図2】本発明の特定の実施形態による2種類のIPNの機械的性質(強度、伸び、および靱性)を図示する。
【図3】対照I、対照II、ヒトおよびウサギ角膜と比較した、IPN−IおよびIPN−IIの光学的性質(光透過率%)を図示する。
【図4A】IPN−Iヒドロゲル上のヒト上皮細胞の成長を図示する。
【図4B】IPN−IIヒドロゲル上のヒト上皮細胞の成長を図示する。
【図5】IPN−II(EP10−11)ヒドロゲル表面上の神経成長を示す。
【図6】コラーゲン−合成コポリマーIPNの写真である。
【図7】表層角膜移植(分層移植)によりユカタンミニブタの角膜に移植された上記ポリマー(EP10−11)の写真である。
【図8】硫酸コンドロイチンベースの素材が内皮前駆細胞(EPC)を筋試験システム中に送達し、血管形成により血管内に標識EPC(標識グリーン)の取り込みを誘導する様子を示す。(A)ラットの虚血後肢からの骨格筋におけるEPC(グリーン標識された)の注入部位(矢印)、(B)注入されたマトリックスから組織中へ移動するEPC(矢印)の拡大画像、(C)血管構造内で観察されたEPC(矢印)。
【図9】対照1、対照2、HPN−1(IPN−I)、およびHPN−2(IPN−II)と比較した、HPN−3〜HPN−5材質の機械的性質(強度、伸び、および靱性)を図示する。
【図10】HPN−1(IPN−I)、HPN−2(IPN−II)ならびにヒトおよびウサギ角膜と比較した、HPN−3〜HPN−7の光学的性質(光透過%)を図示する。
【図11】播種後6日目の(a)培養皿対照表面、(b)HPN−3、(c)HPN−4、および(d)HPN−5ヒドロゲル上でのヒト上皮細胞の成長を示す。
【図12】コラーゲンとDMAとの異なる比を有するヒドロゲルの最大強度(kPa)(±標準偏差)を図示する。
【図13】コラーゲンとDMAとの各比に対するヒドロゲルの破断ひずみ%(±標準偏差)を図示する。
【図14】コラーゲンとDMAとの比に対するモジュラス(kPa)(±標準偏差)を図示する。
【図15】コラーゲン−DMAヒドロゲルの白色光透過率を図示する。
【図16】コラーゲン−DMA(3:1(w/w))ヒドロゲル上のin vitroでの上皮細胞成長、細胞集合を示す3日目の光学画像を示す。
【図17】アルジネートのミクロスフェア(平均直径:300ミクロン)の走査型電子顕微鏡写真画像である。
【図18】コラーゲンおよびIPNヒドロゲルのin vitroでの生分解を図示する。
【図19】IPN(右側のカラム)と架橋組換えヒトコラーゲン(中央のカラム)との比較を示す。左側のカラムは未処理対照を示す。(図19)術後6ヶ月の一般的な移植片の生体内共焦点画像を示しており、未処理角膜の画像(対側の対照角膜の画像)と比較している。(EDC/NHS)架橋組換えヒトコラーゲンおよび医療用のブタコラーゲン−MPC IPNのいずれにおいても、神経が基質および上皮下神経網目へ再成長したこと(矢印)を示す。
【図20】内皮付着増殖に対する、プラズマ処理コラーゲン/キトサンIPN上へのアルジネートグラフト化の作用を示す。群A:高周波電力(RFP)=0w;群B:RFP=40w;群C:RFP=100w。青色の棒:アルジネート0%;緑色の棒:アルジネート1%;オレンジ色の棒:5%。
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互侵入高分子ネットワーク構造を有するヒドロゲル素材に関する。さらに詳しくは、本発明は、相互侵入高分子ネットワーク構造を有するヒドロゲル素材であって、その少なくとも1つの構成ネットワーク成分がバイオポリマーをベースとする、ヒドロゲル素材、およびその使用方法、ならびにヒドロゲル素材から製造されるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学は、組織および臓器機能の交換または回復を目的とする多くの技術を含む急速に成長中の分野である。組織工学における主要な目的は、正常な組織機能を回復させるための、既存組織内に組み込むことができる素材の使用による、欠損組織の再生である。したがって、組織工学では、細胞の過成長、内殖またはカプセル化、および多くの場合には神経再生を支持することができる素材が求められている。
【0003】
特許文献1には、コンタクトレンズの型においてラジカル開始剤として過硫酸アンモニウムおよびメタ重硫酸ナトリウムを38℃で使用し、コラーゲン(約0.12〜0.14%(w/w))および2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)から製造された、上皮細胞成長を促進するコラーゲン−ヒドロゲルが記載されている。HEMAのみを架橋するために、エチレングリコールジメタクリレートが、架橋剤として使用されている。この特許では、コラーゲン濃度は非常に低く、コラーゲンは架橋されない。かかるシステムでは、コラーゲンは、周囲の水性培地に浸出してしまう。
【0004】
特許文献2には、コラーゲンおよびエチレン性不飽和化合物および架橋剤(例えばN−イソプロピルアクリルアミドおよびN,N−メチレンビスアクリルアミド)に、60Coを照射して構成されるコンタクトレンズ素材としての生物学的に安定化されたヒドロゲルが記載されている。この特許では、コラーゲンと合成ポリマーとが幾分結合されている。最終コラーゲン含有率は、約7%(w/w)である。このゲルシステムでは、エチレン性不飽和化合物のみが効率的に架橋され、コラーゲンは、総線量1.0メガラドのγ線照射によって、わずかにしか架橋されない。
【0005】
特許文献3には、最終コラーゲン−エチレン性不飽和化合物ヒドロゲル中のコラーゲン濃度約が1.5%である水性コーティング組成物が記載されている。非生分解性であり、かつ移植すると、角膜細胞および神経を再生させる、視力向上眼科素材の例が報告されている。しかしながら、これらの特性にもかかわらず、これらの素材は、最適条件下で用いられないと(特に開発途上国などで用いられると)、手術時に容易にハンドリングするには、まだ弾性および最適な靱性を欠く。
【0006】
したがって、眼科デバイスで使用することができ、かつ手術時のハンドリングに必要とされる弾性および靱性を有する素材が依然として必要とされている。
【0007】
この背景知識は、本発明に関連している可能性があると出願人によって考えられる周知の情報を開示する目的のために提供されている。したがって、先の情報のいずれかが、本発明に対する先行技術を構成すると認められるわけではなく、必ずしもそのように意図されるわけではないし、解釈されるべきでもない。
【特許文献1】米国特許第5716633号明細書
【特許文献2】米国特許第4388428号明細書
【特許文献3】米国特許第4452929号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、相互侵入高分子ネットワーク(IPN)、およびそれに関連する方法および組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様では、その高分子ネットワークの少なくとも1つがバイオポリマーをベースとする、2種類以上の高分子ネットワークの相互侵入ネットワーク構造を有するヒドロゲル素材が提供される。
【0010】
本発明の他の態様では、第1高分子ネットワークと第2高分子ネットワークとを結合することを含む、本発明によるヒドロゲル素材を製造する方法であって、第1高分子ネットワークまたは第2高分子ネットワークがバイオポリマーをベースとする方法を提供する。
【0011】
本発明の他の態様では、(i)2種類以上の高分子ネットワークの相互侵入高分子ネットワークであって、その高分子ネットワークのうちの少なくとも1つがバイオポリマーをベースとする、相互侵入高分子ネットワーク;(ii)それを製造するための説明書;を含む、本発明によるヒドロゲル素材を製造するためのキットを提供する。
【0012】
本発明の他の態様では、これに限定されないが、移植片(例えば、角膜移植片)、角膜アンレー(corneal onlay)、神経管、血管、薬物送達デバイスおよびカテーテル、治療用レンズ、眼内レンズを含むIPNヒドロゲル素材から製造されるデバイス、およびその製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明に関係する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0014】
本明細書で使用される「ヒドロゲル」という用語は、溶解することなく水または水溶液中で膨潤し、かつその構造内に一定の水または水溶液を保持する能力を示す、架橋ポリマーを意味する。
【0015】
本明細書で使用される「ポリマー」という用語は、互いに連結された個々のモノマーからなる分子を意味する。本発明においてポリマーは、端と端で連結された直鎖状分子を形成するモノマー群、または互いに連結された分岐状構造を形成するモノマー群を含み得る。
【0016】
本明細書で使用される「バイオポリマー」という用語は、天然ポリマーを意味する。天然ポリマーとしては、限定されないが、タンパク質および炭水化物が挙げられる。「バイオポリマー」という用語は、本発明の合成ポリマーとの架橋が促進するように修飾された天然ポリマーの誘導体も含む。
【0017】
本明細書で使用される「合成ポリマー」という用語は、天然ではなく、かつ化学合成または組換え遺伝子による合成によって生成されたポリマーを意味する。
【0018】
本明細書で使用される「相互侵入ネットワーク」または「IPN」という用語は、2種類以上のネットワークを形成するポリマーを結合させた相互侵入高分子ネットワークを意味する。ネットワーク間には絡み合いおよび相互作用がある。溶媒中で膨潤した場合、ポリマーのいずれも溶媒に溶解しない。
【0019】
本明細書で使用される「光学的に透明な」とは、少なくとも85%の白色光透過率を意味する。特定の実施形態において「光学的に透明な」とは、例えば、90%を超える白色光透過率および3%未満の散乱率を有する、健康な角膜に等しい光学的透明性を意味する。
【0020】
本明細書で使用される「角膜アンレー」は、ヒトまたは動物の眼の、上皮または上皮細胞層と、ボーマン膜との間に配置されるように、特定のサイズおよび形状で構成された眼用移植片またはデバイスである。「コンタクトレンズ」と比較すると、「コンタクトレンズ」は、眼の上皮上に配置されるように構成される。一方、角膜アンレーは、ボーマン膜全体に載っているか、またはボーマン膜まで広がる1つまたは複数の部材を含み得る。かかる部材は、デバイスの一部(デバイスの面積または体積の50%未満など)となる。
【0021】
本明細書で使用される「角膜インレー」は、眼の基質に配置されるように構成されるデバイスまたは移植片である。角膜インレーは、基質にフラップまたはポケットを形成することによって基質に配置される。角膜インレーは、眼のボーマン膜下に配置される。
【0022】
本明細書で使用される「全層角膜移植片」とは、眼房水の前に位置する不健康な眼の角膜のすべてまたは一部を交換するために構成されたデバイスを意味する。
【0023】
IPNヒドロゲル素材
本発明のIPNヒドロゲル素材は、限定されないが、臨床、治療、予防または美容用途を含む様々な用途で使用するのに適しているIPNを含む。IPNヒドロゲル素材を使用して、必要がある対象の組織および/または臓器機能を交換、回復および/または増強することができる。
【0024】
本発明のIPNヒドロゲル素材は、低細胞毒性または非細胞毒性、細胞および/または神経成長を促進する性能、および/または成形性を特徴とする。この素材は、縫合、組み込み後の耐摩耗性および耐引裂き性を含む、ハンドリング、移植等を可能にするための十分な機械的性質および構造的性質も有する。本発明の一実施形態によれば、IPNヒドロゲル素材から作られるデバイスは、成形型を用いて製造される。このようなデバイスとしては、限定されないが、所望のサイズおよび形状に形成された、成形眼用アンレーおよびインプラントが挙げられる。
【0025】
本発明の非制限的な特定の実施例では、IPN素材は眼用デバイスに使用される。その素材は、デバイスが装着される個体に、以下の利点のうちの1つまたは複数が提供されうる。(i)所望の屈折率、(ii)所望の光学的透明性(同等な厚さの健康なヒト角膜素材に等しいかまたはそれよりも優れた、可視光に対する光透過率および光散乱率)、(iii)所望の視力向上光学倍率などの光学倍率(optical power)、(iv)快適さの向上、(v)角膜および上皮の健康の向上、(vi)例えば、眼の疾患、障害または外傷性損傷の治療における治療上の利点。
この実施形態によれば、本発明の素材は、透明に、または光学的に透明に製造されることができる。この素材は、視力補正曲率(vision corrective curvature)を有するように成形されることもできる。
【0026】
本発明の素材は、一つには、眼用デバイスでの使用に適している。なぜなら、(i)許容可能な光学倍率を有するマトリックスが形成されるように形成可能(例えば成形可能)であり、(ii)デバイス内での、かつ/またはデバイス上での神経成長の促進に有効であり、(iii)光学的に透明または視覚的に透明に製造することができるからである。デバイスが角膜アンレーである場合には、そのデバイスは、デバイスの前面上での再上皮化の促進に有効である。
【0027】
本発明のIPN素材は、その特定の用途に要求されるガスまたは栄養素拡散を可能にするように製造することができる。例えば角膜アンレーの場合、アンレーを製造するための素材は、ボーマン膜と上皮との間のガスおよび栄養素のやりとりを提供し、または可能にし、完全に機能する生存状態の上皮を維持する。かかる栄養素としては、グルコース、および上皮細胞などの細胞の生存、成長、および分化を促進または向上させる因子または作用物質(agent)が挙げられる。前記やりとりは、健康なヒト角膜に匹敵、またはそれよりも優れるべきである。栄養素および/または薬物に対する素材の透過性は、従来の技術を用いてモニターすることができる。さらに、素材を通して栄養素および/または薬物が移動しても、素材の光学的性質は大きく変化しない。アンレーまたはレンチクルは完全に生体適合性であり、上皮のアンレーへの迅速な接着が実現され、神経支配および神経感度、例えば触覚感度の修復を可能にする。
【0028】
本発明のIPNヒドロゲル素材は、2種類以上の高分子ネットワークの組み合わせを含む。高分子ネットワークのうちの少なくとも1つは、バイオポリマーから形成される。第2高分子ネットワークは、合成ポリマーまたは第2バイオポリマーから形成される。本発明の素材は、連続的なIPN法によって形成された第3またはそれ以上の高分子ネットワークを含み得る。例えば、IPN素材は、架橋剤と共に第3モノマー中で膨潤し、硬化後に更なるネットワークを形成することができる。第3モノマーは、第1または第2モノマーと同じでもよい。
【0029】
バイオポリマー
バイオポリマーは、タンパク質および炭水化物などの天然ポリマーおよびその誘導体である。本発明の素材は、ネットワーク状のバイオポリマーまたはその誘導体を含む。本発明で使用するのに適しているバイオポリマーの例としては、コラーゲン(I、II、III、IV、VおよびVI型)、変性コラーゲン(またはゼラチン)、組換えコラーゲン、フィブリン−フィブリノゲン、エラスチン、糖タンパク質(これらに限定されない);アルジネート、キトサン、N−カルボキシメチルキトサン、O−カルボキシメチルキトサン、N,O−カルボキシメチルキトサン、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチンおよびグリコサミノグリカン(またはプロテオグリカン)などの多糖類(これらに限定されない);酸化コンドロイチン硫酸塩(oxidized chondroitin sulphate)、酸化アルジネート(oxidized alginate)および酸化ヒアルロン酸などの酸化多糖類(これらに限定されない)が挙げられる。
【0030】
本発明で使用するのに適しているバイオポリマーは、様々な製造元から購入することができ、または標準技術によって天然源から製造することができる。
【0031】
バイオポリマーまたはその誘導体は、以下の特性のうちの1つまたは複数を基準に選択される。(1)バイオポリマーは生体適合性であり、かつ任意に、細胞接着および成長を促進し、かつ/または神経成長を促進する(2)バイオポリマーは、様々な架橋剤によって架橋され(例えば限定されないが、EDC/NHS化学反応などによって架橋され)、IPNの1つの成分を形成することができる反応性基を含む(3)バイオポリマーは架橋されてヒドロゲルを形成することができる。つまり、キレートイオンを介して架橋されるか、またはpHまたは温度によって物理的に架橋されることができる、ネットワークの1つの成分である。一実施例では、アルジネート水溶液にCa2+を添加することによって、アルジネートを架橋し、ヒドロゲルが形成される(4)コラーゲンなどの他のバイオポリマーを架橋するために、誘導体化バイオポリマー、例えば酸化多糖類(酸化コンドロイチン硫酸塩はアルデヒド基を有する)を選択し、IPNの一成分を形成することができる(5)バイオポリマーは、眼用デバイス用途のために合成ポリマーと共に透明IPNを形成することができる。しかしながら、非透明IPNもまた、強膜パッチなどの他の用途または他の組織工学分野において使用される。
【0032】
合成ポリマー
合成ポリマーを形成するモノマーとしては、例えば、限定されないが、種々のアルキルアクリルアミド、水溶性ポリエチレングリコールジアクリレート、アクリル酸およびその誘導体、アルキルアシレート、メチルアクリル酸およびその誘導体、アルキルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ビニルピロリドン、糖モノマー(本明細書において、誘導体化単糖または誘導体化オリゴ糖、例えば、グリコシルオキシエチルメタクリレートおよび2−メタクリルオキシエチルグルコシドである、重合性モノマーを意味する)が挙げられる。得られるポリマーは、生体適合性、生物学的に安全であり、バイオポリマーと混和性を有する。
【0033】
原料モノマーは、親水性であり、かつ通常重合性二重結合を含有する。その重合は、約37℃未満で行われるか、またはコラーゲンなどのバイオポリマーとしてのタンパク質が、もう一方の成分として使用されてIPNが形成される場合には、そのタンパク質の変性温度未満の温度で行われる。
【0034】
生理活性剤
本発明のIPNヒドロゲル素材は、1種または複数種の生理活性剤を含有するように製造されてもよい。適切な生理活性剤または薬剤の組み合わせの選択は、素材の用途に基づいてなされる。素材に組み込まれる生理活性剤の、非制限的な例としては、例えば、成長因子、レチノイド、酵素、細胞接着因子、細胞外マトリックス糖タンパク質(ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン等)、ホルモン、骨形成因子、サイトカイン、抗体、抗原、および他の生物活性タンパク質、特定の医薬化合物、ならびにペプチド、生物活性タンパク質由来の断片またはモチーフが挙げられる。生理活性剤は、抗菌剤および抗ウイルス剤も含む。
【0035】
IPNベースのヒドロゲル素材を製造する方法
上述のように、IPNは相互侵入高分子ネットワークである。反応剤は1つのポットに順に添加され、そして両方のネットワークの架橋反応を同時に起こさせる。例えば、NiColl/MPC IPN(実施例I)を製造するためには:コラーゲンは、EDC/NHSによって架橋され、一方の高分子ネットワークが形成される;MPCは、PEG−ジアクリレートによって架橋され、もう一方の高分子ネットワークが形成される。これら2種類の高分子ネットワークは、相互侵入しており、互いにIPNを形成する。デバイスの機械的性質および任意に光学的性質に重要である熱力学的に適切な相互侵入高分子ネットワークを製造するため、モノマーおよびポリマーならびに架橋剤の相対量が特定の範囲で制御される。1つの成分の量が過剰であると、ミクロドメインのサイズが大きくなり、明らかな相分離が起こり、その結果、デバイスの特性が悪くなる。したがって、IPNにおける成分の量の選択は、まずIPNの基本要求条件を満たすべきである。成分の比は、眼科用途の透明IPNを製造するために調整することができる。最終的なヒドロゲルの機械的性質を満たすために、成分の比を調整することもできる。
【0036】
IPNベースのヒドロゲル素材の試験
本発明に従って、組織工学目的のために生体内移植に適するようにするために、生理活性剤が添加された、または添加されていないヒドロゲル素材は、生理学的温度でその形状を維持しなければならない。ハンドリングおよび縫合に対して適度に頑丈であり、水に実質的に不溶性であり、細胞の成長を支持し、血管、カテーテルまたは白内障手術用の眼内レンズとして使用するために不活性でなければならない。素材が神経の成長を支持することも望ましい。特定の特殊用途では、素材には他の特性が必要とされることは容易に理解されよう。例えば、外科手術用途では、素材は、比較的柔軟であり、縫合糸および針での外科処置を支えるために十分な強度を有することが必要である。そして、角膜修復および交換などの眼科用途では、素材の光学的透明性が重要であるだろう。IPN素材の成分およびその相対量は、必要とされる特性が得られるように選択される。
【0037】
物理的/化学的試験
組織工学用途に使用する場合、外科的処置にさらされた場合に、素材が裂けたり断裂したりすることを防ぎ、かつ素材内および素材周囲の所定の位置で、細胞増殖を適切に支持するために必要な機械的性質を示さなければならない。剪断力および裂けに耐える素材の性能は、その固有の機械的強度、素材の形および厚さ、かけられる張力に関係する。
【0038】
剪断力および裂けに耐える素材の性能は、2つの鉗子を使用して試験片に反対方向に力を加えることによって、大まかに評価することができる。代替方法としては、適切な装置を使用して、剪断力に耐える素材の性能を定量的に測定することができる。このための張力計は、例えば、MTS社、インストロン社、およびコールパーマー社から市販されている。
【0039】
試験のために、素材は、シート状に形成され、次いで適切なサイズの細片に切断されてもよい。代替方法としては、組織工学用途のために、素材を所望の形に成形し、成形素材全体を試験することができる。引張り強さを計算するために、素材が破断および「破損」する際の力を試験試料の断面積で割り、単位面積当たりの力(N)で表した値を得る。素材の剛性(モジュラス)は、応力/ひずみ曲線の直線部分の傾きから計算される。ひずみは、ある試験時間経過時に試験試料の長さを測定し、測定された値を、試験開始前の試験試料の初期長さで割った値である。破断強度は、試料が破断したときの試験試料の最終長さから試験開始前の試験試料の長さを引いて得られた値を、試験開始前の試験試料の長ささで割ったものである。
【0040】
当業者は、ヒドロゲルを測定装置にセットしても、ヒドロゲルの軟かさおよび水性成分の浸出のために、意味のある引張り試験データをヒドロゲルから得ることは難しいことを理解するであろう。ヒドロゲルにおける引張り強さの定量的特性解析は、例えば、成形素材試料に縫合糸引き抜き測定法(suture pull-out measurement)を用いることによって達成することができる。一般に、試験試料の端から約2mmに縫合糸が縫い付けられ、試料を通る縫合糸を引き剥がすために必要な力のピークが測定される。例えば、ヒト角膜の形状および厚さに成形された、眼科用途用の素材の試験試料では、まず素材内に正確に対向する2本の縫合糸を挿入する(この挿入は、眼の移植における第1段階で必要な処置であると思われる)。次いで、2本の縫合糸を、約10mm/分にてインストロン引張試験機などの適切な装置で引き離す。素材の破断に対する強さは、破断点伸びおよび弾性率と共に計算される(例えば、Zeng et al., J. Biomech., 34:533-537 (2001)参照)。外科手術用途の素材においては、素材に、哺乳類の組織ほどの強度(つまり、同程度の耐引き裂き性能を有する)は求められないことが、当業者によって理解されよう。かかる用途における素材の強度の決定因子は、それが熟練の外科医によって所定の位置に縫合されることができるかどうかである。
【0041】
所望の場合には、ヒドロゲル素材の下限臨界溶解温度(LCST)は、標準技術を用いて測定することができる。例えば、LCSTは、約0.2℃/分にてマトリックス試料を加熱し、曇点を視覚的に観察することによって計算することができる(例えば、H. Uludag, et al., J. Appl. Polym. Sci. 75:583 - 592 (2000)参照)。
【0042】
素材の透過性は、透過性細胞および/または原子間力顕微鏡を使用したPBS透過性評価などの標準技術を用いて、素材のグルコース透過係数および/または平均孔径を評価することによって測定することができる。
【0043】
透過および散乱の両方を測定する特別な装置を使用して、眼科用途の素材の光の透過率および光散乱率も測定することができる(例えば、Priest and Munger, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 39: S352 (1998)参照)。
【0044】
in vitroでの試験
素材は、生体内での使用に適するように、非細胞毒性であるか、または最小限に/許容可能に細胞毒性であり、かつ生体適合性を有しなければならないことは容易に理解されよう。素材の細胞毒性は、変異原活性をスクリーニングするエイムズ(Ames)アッセイ、哺乳類細胞系における遺伝子突然変異を誘導する能力を有する物質をスクリーニングするマウスリンパ腫アッセイ、マトリックスによって誘導されるDNA再構成および損傷をスクリーニングする、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)を使用した生体外染色体異常アッセイなどの標準技術を用いて評価することができる。その他のアッセイとしては、マトリックスによって誘導される染色体アーム間の交換を測定する姉妹染色分体アッセイ(sister chromatid assay)、および染色体または紡錘体への損傷を測定するためのin vitroマウス小核アッセイが挙げられる。これらのおよび他の標準アッセイのプロトコルは、当技術分野で公知であり、例えば、OECD Guidelines for the Testing of Chemicals およびISOによって開発されたプロトコルを参照すればよい。
【0045】
素材の細胞増殖を支持する性能も、標準技術を用いてin vitroで評価することができる。例えば、ヒト上皮細胞などの適切な細胞系からの細胞を素材上または素材を囲む適切な担体上に直接播種する。適切な培地の存在下で適切な時間成長させた後、素材の共焦点顕微鏡観察および組織検査を行い、素材表面上および/または素材内で細胞が成長しているかどうかを評価することができる。
【0046】
神経細胞の内殖を支持する性能も、in vitroで評価することができる。例えば、後根神経節などの神経源が、素材を囲む適切な担体内に包埋されるか、または素材内に直接挿入される。適切な担体の一例としては、ソフトコラーゲンベースのゲルが挙げられる。次いで、適切な細胞系からの細胞を、素材上または素材を囲む適切な担体上に直接播種し、適切な培地の存在下にて所定の時間、素材をインキュベートする。例えば、神経特異的なマーカーの存在下で、神経特異的な蛍光マーカーを使用した免疫蛍光法および共焦点顕微鏡観察によって、および/または、直接に、神経成長について素材を検査することによって、神経の内殖を支持する性能が示される。
【0047】
素材の細胞増殖を支持する性能を評価する実験において、成長サプリメントを培地もしくは素材に、またはその両方に添加することができる。用いられる特定の成長サプリメントは、評価される細胞の種類に依存し(例えば、ヒドロゲル素材の目的の用途を考慮して)、当業者によって容易に決定されることができる。神経細胞に適しているサプリメントとしては、例えば、ラミニン、レチニルアセテート、レチノインおよび神経成長因子が挙げられる。
【0048】
in vivoでの試験
素材の生体適合性および生体内での細胞増殖を支持する性能を評価するために、免疫原性、炎症、放出および分解研究、ならびに細胞増殖の評価のために適している動物モデルに、素材を移植する。適切な対照動物が評価に含まれる。適切な対照の例としては、例えば、無処置の動物、ドナー動物からの同様な大きさの同種の移植片を受けている動物および/または一般的な標準移植素材の同様な大きさの移植片を受けている動物が挙げられる。
【0049】
移植後の様々な段階で、生体検査を行い、移植片表面上および/または移植片内の細胞増殖を評価し、組織検査および免疫組織化学技術を用いて、神経の内殖が起こっているかどうかを、および炎症性細胞または免疫細胞が移植片の部位に存在するかどうかを評価する。例えば、様々な細胞特異的な染色、ならびに神経細胞の有無を示すために使用することができる抗ニューロフィラメント抗体などの、様々な細胞特異的な抗体を使用して、存在する細胞の種類を確認することができる。さらに、標準技術を用いた神経の活動電位の測定によって、神経が機能しているかどうかが確認される。生体内共焦点顕微鏡検査を用いて、処置後の選択時間での動物の細胞および神経成長をモニターすることができる。しかるべき場合には、当技術分野で公知の技術によって、例えば触覚計を使用して、触覚感度を測定することができる。触覚感度の回復から、機能する神経の再生が示される。
【0050】
用途
本発明は、生体適合性かつ非細胞毒性(または最小限の細胞毒性)であり、したがって生体内での組織再生を可能にする足場(scaffold)として使用するのに適したIPNヒドロゲル素材を提供する。例えば、損傷組織あるいは切除された組織と取り替えることを目的とした患者への移植のため、または創傷被覆のために、素材を使用することができる。あるいは組織シーラントまたは接着剤や代用皮膚または代用角膜、あるいは角膜ベニア(veneer)として、素材を使用することができる。素材は、移植前に適切な形状に成形することができ、例えば、損傷または切除組織によって残された空間を埋めるように、それを予備成形することができる。例えば、眼内レンズまたは治療用レンズとして使用する場合に望ましい素材は、担体/足場(scaffold)として使用されてもよく、このような担体/足場(scaffold)は必ずしも組織の再生を誘導しなくともよい。
【0051】
さらに、本発明のIPNヒドロゲル素材は、例えば以下の用途において使用することができる。i)角膜移植片を用いた移植;ii)角膜インレー、アンレー、移植可能なコンタクトレンズ、IOLによる屈折補正;iii)白内障手術−IOL;iv)任意にフィブリン(血管形成による血管の内殖を誘導するため)と併用した皮膚の再生;v)幹細胞増殖および分化を刺激するための薬物、ペプチドまたは成長因子の送達(この用途の特定の例としては、包帯コンタクトレンズまたは眼用移植片または老化防止または若返り分野(美容外科)において、コラーゲン単独よりも長期間効果が持続する、皺を除去するための美容剤があげられる。この点に関しては、ラットにおいて30日後の皮下生体適合性および安定性が試験によって実証されている);vi)血友病Aの治療における送達システムのために、因子VIIIを産生する遺伝子操作された細胞(例えば、骨髄幹細胞)を送達すること;vii)特に繊維が強化される場合の神経の足場;viii)足場が必要とされる他の臓器または組織内への移植−例えば、心臓パッチおよび軟骨置換。
【0052】
本出願は大部分がヒドロゲル素材に関するが、この素材は、皮膚の再生、心臓パッチ、移植用の遺伝子操作された細胞(例えば、血友病に対して8因子を生成する細胞)のカプセル化および神経再建のために、ベース素材として使用することができることは当業者には明らかであろう。生理活性因子、成長因子の組み合わせ、ペプチドを添加し、これらのベース素材を分化させ、これらの他の組織工学/再生医療分野で使用されることができる。
【0053】
本発明の一実施形態において、組織工学用途に適している形状に素材を予備成形する。他の実施形態において、全層人工角膜として、または角膜ベニアに適している部分層(partial thickness)素材として素材を予備成形する。
【0054】
本発明の他の実施形態では、神経成長の促進に有効である本発明の素材を含有するデバイス本体を含むデバイスが提供される。当該デバイスは、デバイス本体を介して個体に配置される。例えば個体の眼に配置される場合、素材は、デバイス本体を通じて神経成長を促進し、それによって、デバイス(1つまたは複数)を配置された角膜はその触覚感度を維持することができる。特定の場合には、個体の眼に配置される眼用デバイスのデバイス本体は、光学倍率を有するようにされることができる。つまり、そのデバイス本体はレンズ体であると理解されうる。本明細書に記述されるように、眼用デバイスは、角膜アンレー、角膜インレー、または全層角膜移植片となるサイズおよび形状などに、形成されうる。特定の実施形態において、眼用デバイスは、光学倍率を持たない屈折異常補正デバイスである。例えば、本発明の開示内容に従った屈折異常補正デバイスは、患者の角膜上皮とボーマン膜の間、または患者の角膜基質中に置かれるブランク(blank)であると理解されてよい。
【0055】
本発明の素材は、患者の特定の領域に生理活性剤を送達するための送達システムとしても使用されうる。例えば、拡散律速プロセスを介して、体内で素材から生理活性剤が放出される。または生理活性剤が素材に共有結合している場合には、素材からの酵素切断、化学的または物理的切断、その後の拡散律速プロセスによる放出によって、素材から生理活性剤が放出される。あるいは、生理活性剤は、素材内部からその作用を及ぼす。
【0056】
本発明の一実施形態において、生合成素材が人工角膜として使用される。本用途では、素材は、全層人工角膜として、または角膜ベニアに適している部分層素材として、予備成形される。この実施形態では、ヒドロゲルは、高い光透過率および低い光散乱率を有するように設計される。
【0057】
キット
本発明は、ヒドロゲル素材を含むキットも企図する。このキットは、既製の素材を含むか、または適切な割合で素材を調製するのに必要な個々の成分を含む。キットは任意に、1種または複数種の生理活性剤をさらに含む。キットはさらに、使用説明書、1種または複数種の適切な溶媒、動物の体内への最終素材組成物の注入または配置を補助する1つまたは複数の装置(シリンジ、ピペット、鉗子、点眼器または医学的に認可されている送達賦形剤など)、またはその組み合わせを含み得る。キットの個々の部品は、別々の容器に包装される。キットはさらに、生物学的製品の製造、使用または販売を規制する行政機関により定められた形での注意を含み得る。その注意は、ヒトまたは動物用途用の製造、使用または販売の機関による承認を反映する。
【0058】
本明細書に記載の本発明のより良い理解を得るために、以下の実施例を示す。これらの実施例は、単なる実例として示されていることを理解されたい。したがって、本発明の範囲を決して制限するものではない。
【実施例】
【0059】
実施例I−NiColl/MPC IPNヒドロゲル
材料
ニッポンコラーゲン(ブタ皮膚);
0.625Mモルホリノエタンスルホン酸(Aalizarin Red S pH指示薬(6.5mg/100ml水)を含有するMES);
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC)と、N−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS)と、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)は、Biocompatibles International社(英国)から購入した。
NaOH溶液(2N)と、PEG−ジアクリレート(Mw=575ダルトン)と、過硫酸アンモニウム(APS)と、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)は、シグマ・アルドリッチ社から購入した。
【0060】
NiColl/MPC IPNヒドロゲルの調製
まず、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、13.7重量%ニッポンコラーゲン溶液0.3mlおよび0.625M MES0.1mlを混合した。続いて、MPC12.9mg(コラーゲンとMPCの比は4:1(w/w))をMES0.25mlに溶解し、得られた溶液の0.2mlを、100μlマイクロシリンジで上記の混合物中に注入した。次いで、PEG−ジアクリレート4.6μlを、500μlマイクロシリンジを使用して注入し、PEG−ジアクリレートとMPCとの重量比を1:2にした。別段の指定がない限り、PEG−ジアクリレートとMPCの比は、1:2で一定である。次いで、その溶液を完全に混合した。次に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25μlを、100μlマイクロシリンジで注入し、続いてEDC/NHS溶液(MES中)57μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を3:3:1にした。この研究では、EDCとコラーゲンの比も一定に維持した。NaOH(2N)を使用して、pHを約5に調整した。均一な混合物をガラス製の型に流し込み、室温にて湿度100%で16時間インキュベートした。後硬化するために、その型を37℃で5時間インキュベータに移した。
同様の方法で、コラーゲンとMPCの比1:1、2:1、3:1を有する「NiColl/MPC IPNヒドロゲル」と示されるIPNを調製した。
【0061】
本発明の実施例で使用される、「NiColl/MPC IPN4−3」、「NiColl/MPC IPN3−3」、「NiColl/MPC IPN2−3」および「NiColl/MPC IPN1−3」という用語は、コラーゲン:MPC比4/1、3/1、2/1および1/1をそれぞれ有する、13.7%ニッポンコラーゲンから得たIPNゲルを意味する。
【0062】
特性解析
屈折率(RI)
VEE GEE屈折計を使用して、試料の屈折率を測定した。
光の透過率
特注設計の装置を使用して、白色の波長、450、500、550、600および650nmで試料の光の透過率を測定した。
機械的性質
インストロン電気機械式試験機(3340モデル)を使用して、試料の応力、破断ひずみおよびモジュラスを測定した。試料のサイズは、5mm×5mm×0.5mmであった。
含水率
以下の式によって、試料の含水率を計算した。
(W−W0)/W%
(式中、W0およびWはそれぞれ、乾燥試料および膨潤試料の重量を示す)
【0063】
結果
屈折率
表1は、コラーゲンヒドロゲル屈折率値を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
光の透過率
表2は、光の透過率の結果を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
機械的性質
表3は、IPN試料の機械的性質を示す。NiColl/MPC IPN4−3によって、360KPaと高い破断応力が実証された。
【表3】
【0068】
平衡含水率
コラーゲンゲルの平衡含水率も測定した(表4)。
【0069】
【表4】
【0070】
生体適合性アッセイ
in vitroでの生体適合性アッセイから、上述のIPNヒドロゲルが、上皮の適切な成長を、対照(培養プレート)よりも大幅に促進することが示された。in vivoの研究によって、IPNを含有するコラーゲン/MCPが神経成長を支持することが実証された。
【0071】
図19は、術後6ヶ月の一般的な移植片の生体内共焦点画像を示しており、未処理角膜の画像(対側の対照角膜の画像)と比較している。(EDC/NHS)架橋組換えヒトコラーゲンおよび医療用のブタコラーゲン−MPC IPNのいずれにおいても、神経が基質および上皮下神経網目へ再成長したこと(矢印)を示す。
これは、IPN(右側のカラム)を、架橋組換えヒトコラーゲン(中央のカラム)、および未処理対照(左側のカラム)と比較している。これらの結果から、合成成分を有するにもかかわらず、IPNは、コラーゲンのみ(つまり、完全に天然のポリマー)と比較して、同程度の神経再生の効果を有することが示された。
【0072】
参考文献
1. Schrader ME and Loeb GL (Eds), Modern approaches to wettabilty: theory and applications, Plenum Press, New York, pp 231-248 (1992).
2. Konno T, HasudaH, Ishihara K, Ito Y. Photo-immobilization of a phospholipidpolymer for surface modification. Biomaterials 2005, 26 :1381-1388.
3. Lewis AL, Crosslinkablecoatings from phosphorylcholine-based polymers. Biomaterials 2001, 22: 99-111.
【0073】
実施例II−NiColl/MPC IPNヒドロゲル
本実施例では、コラーゲン溶液濃度を13.7%から20%に上げることによって、EDC/コラーゲンNH2比を1.5:1にし、実施例Iと同様に製造されたIPNの特性を変化させる能力を実証することを目的に実験を行った。さらに、pH指示薬を含有しないMESを使用した。
【0074】
材料
ニッポンコラーゲン(ブタ皮膚);
0.625Mモルホリノエタンスルホン酸[pH指示薬を含有しないMES];
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC);
N−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS):
MPCは、Biocompatibles International社(英国)から購入した。
NaOH溶液(2N)、PEG−ジアクリレート(Mw=575ダルトン)、過硫酸アンモニウム(APS)、およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)をシグマ・アルドリッチ社から入手した。
【0075】
NiColl/MPC IPNヒドロゲルの調製
まず、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、20.0重量%ニッポンコラーゲン溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.1mlを混合した。次に、MPC12.9mg(コラーゲンとMPCの比4:1(w/w))をMES0.25mlに溶解した。得られた溶液の0.2mlを、100μlマイクロシリンジで上記の混合物中に注入した。次いで、PEG−ジアクリレート4.6μlを500μlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとMPCとの重量比を1:2にした。その溶液を完全に混合した。次に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25μlを100μlマイクロシリンジで注入し、続いてEDC/NHS溶液(MES中)86μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を1.5:1.5:1にした。均一な混合物をガラス製の型またはプラスチック製の型(厚さ500μm)に流し込み、室温にて湿度100%で16時間インキュベートした。後硬化するために、その型を37℃で5時間インキュベータに移した。
【0076】
本明細書で使用される、NiColl20/MPC IPNとは、20%コラーゲン溶液から製造されたIPNを意味する。
【0077】
特性の測定
屈折率(RI)
VEE GEE屈折計を使用して、試料の屈折率を測定した。
光の透過率
特注設計の装置を使用して、白色の波長、450、500、550、600および650nmでヒドロゲル試料の透過率を測定した。
機械的性質
インストロン電気機械式試験機(3340モデル)を使用して、ヒドロゲル試料の引張り強さ、破断点伸びおよび弾性率を測定した。試料のサイズは、5mm×5mm×0.5mmであった。
含水率
以下の式によって、ヒドロゲル(WA)の含水率を計算した。
(W−W0)/W×100%
(式中、W0およびWはそれぞれ、乾燥試料および膨潤試料の重量を示す)
【0078】
結果
屈折率
20%溶液から得たIPNヒドロゲルは、透明かつ均一であった(図1に示すように)。その屈折率は約1.3519であった。
【0079】
光の透過率
表5は、光の透過率の結果を示す。
【0080】
【表5】
【0081】
機械的性質
表6には、ゲルの機械的性質を示す。NiColl20/MPC IPNの引張り強さおよび弾性率は、実施例1で製造されたヒドロゲルと比較して向上した。重要なことには、このゲルは、柔軟であるが硬い(例えば、鉗子を使用して破壊されない)。
【0082】
【表6】
【0083】
平衡含水率
この平衡含水率は88.97%であった。
【0084】
in vitroでの生体適合性アッセイによって、NiColl20/MPC IPNヒドロゲルが、上皮の適切な成長を、対照(培養プレート)より大幅に促進することが示された。
【0085】
実施例III−視力向上眼用デバイスのための新規な生合成素材
この実施例における組織工学素材は、従来から知られている素材と比較して、向上した靱性および弾性を有する、本質的に頑丈な移植素材である。この素材はコラーゲンをベースとするが、キトサンなどのバイオミメティック分子(biomimeticmolecule)も組み込まれる。バイオミメティック分子は、ヒト角膜中で発見された天然細胞外マトリックス分子(ECM)に匹敵し、それと同時に引張り強さを著しく向上させる。さらに、コラーゲン/キトサン足場を安定化するため、ハイブリッド架橋システムが開発されて使用され、素材の弾性および靱性がさらに向上した。これらの向上した素材の機械的性質、光学的性質、および生物学的性質を試験した。その結果から、足場は、強靭、弾性であり、かつ光学的透明性においてアイバンクのヒト角膜よりも優れており、in vitroでの角膜細胞および神経の再生を可能にすることが示唆されている。
【0086】
材料および方法
ベース材料は、I型アテロコラーゲン10%(w/v)とキトサン3%(w/v)の混合物を含む。日本ハム株式会社(日本)から入手した凍結乾燥されたブタコラーゲン粉末を冷水(滅菌dd H2O)に溶解し、4℃で攪拌して、濃度10%(w/v)を得た。0.2N塩酸(HCl)にキトサン粉末(フルカ社から入手、MW40000)を溶解し、4℃で攪拌することによって、3%(w/v)キトサン溶液も調製した。次いで、架橋前に均一なブレンドを調製するために、2つの溶液を所定の比で、シリンジシステム中で混合した。様々な架橋剤(つまり、PEGジアルデヒドおよびEDC/NHS)を使用して、架橋剤およびバイオミメティック成分(biomimeticcomponent)の種類および濃度に基づく特有の性質を有する相互侵入ネットワーク(IPN)を形成した(表7参照)。
【0087】
コラーゲンベースの角膜移植片(IPN−I)の作製
一般に、ルアーガラス製シリンジにおいて、3%キトサン溶液0.12mLを、10%コラーゲン溶液[モル比0.5:1のキトサン:コラーゲン]0.6mLに添加した。次いで、テフゼル(Tefzel)T字管を使用して、この組成物をMESバッファー0.4mlと混合した。次いで、MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、その混合物をEDC/NHS架橋剤[コラーゲン/キトサン中でのEDC:NH2のモル当量比が3:1であり、EDC:NHSのモル当量比が1:1である]と混合した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0088】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させた。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive-residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0089】
IPN−I(EP10−2):
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて、コラーゲン/キトサンブレンドを架橋した。コラーゲン/キトサンブレンド、およびEDC/NHS架橋剤を酸性pH約5にて共に混合し、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)バッファーを使用してpHの急上昇(surge)を防いだ。十分に混合した後、混合組成物の一部を型に注ぎ、型で硬化させて、ネットワークを形成した。
【0090】
コラーゲンベースの角膜移植片(IPN−II)の作製
ルアーガラス製シリンジにおいて、3%キトサン溶液0.02mlを10%コラーゲン溶液0.6mlに添加した[モル比0.1:1のキトサン:コラーゲン]。次いで、テフゼル(Tefzel)T字管を使用して、この組成物をMESバッファー0.4mlと混合した。次いで、MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、その混合物をハイブリッド架橋剤[PEG:NH2のモル当量比が0.25:1であり、EDC:NH2のモル当量比が4.5:1であり、EDC:NHSのモル当量比が1:1である]と混合した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0091】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させた。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0092】
IPN−II(EP10−11):
PEG−ジブチルアルデヒド(MW4132ダルトン、ネクター社から入手)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で構成されるハイブリッド架橋システムを使用して、コラーゲン/キトサンブレンドを架橋した。コラーゲン/キトサンブレンド、およびPEG−EDC/NHSハイブリッド架橋剤を酸性pH約5にて共に混合し、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)バッファーを使用してpHの急上昇(surge)を防いだ。十分に混合した後、混合組成物の一部を型に注ぎ、型内で硬化させて、IPN−IIを形成した。
【0093】
結果
ハイブリッド架橋を用いて製造されたIPNヒドロゲルは、縫合、組み込み後の摩耗および引き裂きを含み得るハンドリング、移植に耐えるのに十分な機械的または構造的性質を有する。図2に示すように、そのIPNヒドロゲルは、EDC/NHSによって架橋された10%コラーゲン(対照Iおよび対照II)から作製された、以前に報告されている眼科素材よりも機械的に強い。例えば、IPN−IおよびIPN−IIをそれぞれ対照Iおよび対照IIと比較した場合に、最終引張り強さ、および靱性は、著しく向上していた。
【0094】
特に、架橋剤の増加により誘導される引張り強さの向上は、一般的に最終伸び率を低下させる(図2における対照Iと比較したIPN−Iの値を参照)。その一因はおそらく、高分子ネットワークの移動度の付加的制限である。この挙動は、対照IIおよびIPN−Iと比較して、IPN−IIヒドロゲルには認められなかった。IPN−IIヒドロゲルでは、弾性を含むすべての機械的性質が向上した。これは、おそらくキトサンおよびPEGをコラーゲン足場に組み込んだときの相互浸入ネットワークの形成によるものである。EDC/NHSにより生成される架橋長さがゼロであるのに対し、PEGで生成されるか架橋長さは長い。これは、コラーゲン分子がより自由に移動することを可能にし、その結果、より弾性の高い足場が生じる。
表7に要約し、かつ図3に図示するように、IPNヒドロゲルは、光学的に透明である。IPNヒドロゲルは、健康なヒト角膜およびウサギ角膜に等しい、またはそれより優れた、可視光に対する所望の光学的透明度、光の透過率および光散乱を提供する。これら2種類の素材は、非細胞毒性でもある。図4Aおよび図4Bに示すように、これらの素材は、角膜上皮細胞の再生を可能にする。図5には、IPN−II上での神経成長が実証されている。この素材は、神経に親和的であり(nerve-friendly)、ヒドロゲル上で、かつおそらくヒドロゲル内部で神経が成長することを可能にすると思われる。
【0095】
【表7】
【0096】
EP10−11では、アルブミンおよびグルコースに対するヒドロゲルの透過性はそれぞれ、1.67×10−7および2.8×10−6であることが判明した。
【0097】
生体適合性/安定性を実証するためにもEP10−11ヒドロゲルを研究した。ラットの皮下に移植片を30日間挿入し、生体適合性および安定性を測定した。免疫細胞のいくらかの浸潤が3つの試料のうちの1つで観察されたが、試料は30日後でもまだ損なわれておらず、安定性が示された。
【0098】
3種の細菌種(黄色ブドウ球菌、肺炎連鎖菌および緑膿菌)の成長を評価する実験を行った。製造された角膜基質は、天然角膜の光学的透明度と共に、ヒト角膜と同じ曲率および寸法に成形された、タンパク質コラーゲンと合成N−イソプロピルアクリルアミドをベースとするポリマーとの複合素材であった。各合成角膜をin vitroで死後ヒト角膜の縁に縫合し、その角膜の引張り強さおよび縫合性を評価した。異なる相対パーセンテージの水、コラーゲンおよびポリマーを使用して、10通りの異なる角膜作成物を作製した。各構造物を5つ、3セット複製し、記載の細菌を各セットにそれぞれ100μl(0.1mL)を注入した。注入後、角膜を室温で24〜48時間インキュベートし、細菌の成長を評価した。
【0099】
結果
アイバンクから入手したヒト角膜と比較して、EP10−11ベースの角膜作成物では、細菌数が少ないことが確認された。
【0100】
図7は、表層角膜移植(分層移植)によりユカタンミニブタの角膜に移植されたEP10−11の写真である。厚さ500μm、直径5mmの移植片をブタの角膜内に挿入した(ブタ角膜の平均厚は、約700〜1000μmである)。
【0101】
実施例IV−コラーゲン/PAA IPNヒドロゲル
材料
ニッポンコラーゲン(ブタ皮膚)
0.625Mモルホリノエタンスルホン酸[Aalizarin Red S pH指示薬(6.5mg/100ml水)を含有するMES]
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC)、N−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS)
アクリル酸(AA)をアルドリッチ社から購入した。
PEG−ジアクリレート(Mw575)、過硫酸アンモニウム(APS)およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)は、アルドリッチ社によって提供された。
【0102】
コラーゲン/PAA IPNヒドロゲルの調製
第1に、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、10.0重量%ニッポンコラーゲン溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.1mlを混合した。第2に、AA30μl(コラーゲンとAAの比1/1(w/w))を上記混合物中に100μlマイクロシリンジで注入した。第3に、PEG−ジアクリレート5.0μlを50μlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとAAとの重量比を1:5にした。別段の指定がない限り、PEG−ジアクリレートとAAの比は、1:5で一定である。次いで、その溶液を完全に混合した。第4に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25μlを100μlマイクロシリンジで注入し、続いて、EDC/NHS溶液(MES中)57μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を6:6:1にした。本実施例では、EDCとコラーゲンの比も一定に維持した。均一な混合物をガラス製の型に流し込み、室温にて湿度100%で16時間インキュベートした。次いで、後硬化するために、得られた型を37℃で5時間インキュベータに移した。得られたヒドロゲルは、頑丈かつ透明であった。
【0103】
実施例V−角膜に対する、眼への、薬物、生理活性因子送達システムにおける素材の適用
生理活性ペプチドまたは成長因子が組み込まれた生合成素材が開発されている。これらの素材は、主に角膜代替物として有用であり、特に、生理活性YIGSR(ラミニン)ペプチドを組み込んだ後に、角膜細胞の再生および切断された角膜神経の再成長を促進することが示されている(Li et al. 2003, 2005)。素材は、成長因子の送達に適応させることもできる(Klenker et al. 2005)。
【0104】
本実施例の目的は、角膜に生理活性因子を治療的に送達する2つの異なる様式:1)移植可能な送達システム(例えば、ベニア、アンレー、インレー、層状移植片);2)治療用コンタクトレンズ;による様式のうちの1つに使用することができる素材を開発することである。
【0105】
コラーゲン角膜シールドが、1984に角膜包帯レンズとして開発され、現在では、白内障および屈折矯正手術(refractive surgery)、外傷性上皮欠損後の眼球表面保護のために市販されている。それらは、ブタまたはウシのコラーゲンから製造され、12、24、および72時間の溶解時間を有する、3種の異なるコラーゲンシールドが現在入手可能である。理論的、実験的および臨床的証拠から、薬物送達デバイスとしての、かつ上皮および基質の治癒の促進における、コラーゲン角膜シールドの役割が裏付けられる。
【0106】
しかしながら、これらのデバイスの欠点としては、その比較的短い寿命が挙げられる。これらのデバイスの多くの最長使用時間は72時間である。さらに、これらは本質的に不透明であり、視覚的に閉鎖的(occlusive)である。このため、かかるデバイスは、広く普及していないと思われる。
【0107】
光学的適用に加えて、コンタクトレンズデバイスは、痛みの緩和、機械的な保護および構造的な支え、薬物送達などのために、現代の眼科診療において広範囲の治療用途を有する。
【0108】
これらの完全に合成されたヒドロゲルレンズは、天然生体素材で構成されていないことから、完全に生体適合性ではない。合成包帯コンタクトレンズに伴う合併症は、軽症から重症の範囲である。その例としては、上皮、基質、および内皮の損傷を引き起こし得る角膜生理機能の変化、レンズの沈着、アレルギー性結膜炎、巨大乳頭結膜炎、末梢神経浸潤、細菌性角膜炎、および新生血管形成が挙げられる。
【0109】
したがって、薬物を充填することもできる、高い生体適合性を有し連続装用に適した治療用コンタクトレンズが非常に望まれている。適切なレンズは、2つの主なグループの素材をベースとして製造することができる。
【0110】
・キトサン−合成ポリマーIPNヒドロゲルレンズ
甲殻類の外骨格の主要成分であるキトサンは近年、医療および薬学分野において高い関心を集めている。創傷治癒を促進し、静菌作用を有することも報告されている。約20年前、キトサンは、コンタクトレンズの製造に関して優れた素材として提案されたが、中性の水に可溶性ではなく、キトサンゲルの機械的強度が良くないことから、成果を挙げていなかった。
【0111】
本明細書で記述される、キトサンおよびキトサン誘導体は、移植の角膜代替物として使用するための素材の開発に使用された。これらの素材は、ヒドロゲルにおいて優れた機械的強度および弾性を有することが判明した。その素材は、in vitroにて、かつ動物の皮下においても試験され、LKP手術(LKP surgeries)におけるげっ歯類およびブタモデルで現在、試験されている。
【0112】
治療用コンタクトレンズデバイスの開発
本発明の一態様に従って、治療用途の高生体適合性包帯コンタクトレンズは、以下の特徴を有する。
1.創傷治癒の促進
2.静菌性
3.神経栄養性角膜炎の治療のための、NGF−βなどの様々な薬物を充填可能
4.2〜3週間またはそれ以上の連続装用
5.視覚を与える、透過性(光透過率>90%、散乱率<3%)
【0113】
これは、合成ヒドロゲルと生合成ポリマーとを結合し相互侵入ネットワークを形成し、合成ヒドロゲルの機械的性質とキトサンの生物学的性質とを組み合わせることで達成された。これらの素材の特性は、コラーゲンを添加することによって高めることができる。コラーゲンとは、動物源から抽出される糖タンパク質(例えば、ブタアテロコラーゲン、または、例えばフィブロジェン社から市販のI型およびIII型コラーゲンのような組換えヒトコラーゲン)を意味する。さらに、以前に開発された方法を用いて、様々な生理活性因子(例えば、ペプチド、成長因子または薬物)を組み込むことができる。
【0114】
製造方法
水溶性キトサンと部分カルボキシメチル化キトサンを使用した。合成モノマーまたは架橋剤、例えば、アクリル酸、PEG−ジアクリレート、メタクリル酸およびビニルピロリドン等が使用される。
【0115】
・コラーゲンベースの生合成レンズ
含水率88.9%、屈折率1.35、光透過率約88%(厚さ500μmの試料に関して;図6参照)を有する、ある種類のコラーゲン合成コポリマーIPNが現在、開発されている。
【0116】
これらのヒドロゲルで達成された機械的性質は以下の通りである。
引張り強さ(KPa) 破断点伸び(%) 弾性率(MPa)
566.0±243.9 49.08±6.73 2093±1157
【0117】
例えば、屈折率、光透過率を高めることによって、または機械的強度を向上させることによって、これらのヒドロゲルの特徴をさらに改善することが可能である。機械的強度を高めるためには、コラーゲンおよび合成モノマーなどの成分を高濃度で使用しIPNを形成したり、または1種または複数種のモノマーを含有する溶液にヒドロゲルを浸漬して、1種または複数種の更なる高分子ネットワークを形成することができる。それにより、ヒドロゲルの強度が高められるはずである。この素材は、in vitroで、および皮下移植片としてin vivoで、生体適合性であることが判明し;角膜代替物として、かつ生理活性因子を組み込むためのベース素材として、移植することができる。
【0118】
本明細書に記載の素材を使用して、生体適合性であり、かつ創傷治癒を促進し、かつ/または静菌性である、コンタクトレンズを製造することが可能である。かかるコンタクトレンズは、様々な充填薬物、生理活性ペプチドおよび/または神経栄養性角膜炎の治療のためのNGFなどの成長因子を含有することができる。さらに、このキトサン合成レンズにコラーゲンを組み込み、生体適合性および充填される薬物の容量を高めることができる。製造されるコンタクトレンズは任意に、2〜3週間またはそれ以上の連続装用に適している。
【0119】
実施例VI−眼の前区画(anterior compartment)および後区画(posterior compartment)のための接着剤
角膜断裂などの角膜穿通性創傷を修復するために、縫合は、有効な方法であった。しかしながら、縫合には、手術時間が長くなったり、外科技術が必要とされるなど、いくつかの不利点がある。縫合は、著しい局所的な歪みおよび高レベルの乱視も生じさせる恐れがある。緩い縫合は、細菌の温床となり、炎症および組織の壊死を起こす恐れがある。さらに、縫合によって、著しい不快感が起こり得る。さらに、非生分解性縫合糸は、除去する必要があり、そのため患者の経過観察が長くなる。
【0120】
様々な種類の組織接着剤において同様な用途が見出されている接着剤は、合成接着剤(例えば、シアノアクリレート誘導体)と生物学的接着剤(例えば、フィブリンベースの接着剤)とに分けることができる。シアノアクリレート誘導体は、水または血液などの基礎物質と接触して迅速に重合し、強い結合を形成する、極めて高い引張り強さを有する化合物である。シアノアクリレート誘導体は人工合成物であり非生分解性であるため、通常、外面上で使用され、新生血管形成および組織壊死などの炎症性異物反応を誘発し得る。眼科学において、シアノアクリレート誘導体は、様々な他の眼科手術において試されているが、主に角膜穿孔および重篤な角膜菲薄化(severe thinning)の管理に使用されている。
【0121】
それに対して、フィブリンベースの接着剤は、引張り強さが低く、重合が遅いが、生体由来かつ生分解性であり、表面被覆層下(例えば、結膜や羊膜)で使用することができ、誘発される炎症は極めてわずかである。これらの接着剤は、角膜菲薄化および角膜穿孔、眼球表面の障害および緑内障を治療するために眼科で使用されている。ごく最近には、フィブリンベースの接着剤が、無縫合の表層角膜移植を実施するため、かつ露出強膜に羊膜を取り付けるために、使用されている。残念なことに、フィブリン接着剤にはヒトトロンビンが使用されているため、この血液製剤は依然として、汚染されたドナープールからの感染およびウイルス伝達のリスクを有する。さらに、フィブリンベースの糊の製造および適用は、シアノアクリレート糊よりも極めて複雑である。
【0122】
天然生体高分子またはその誘導体を使用して、生体適合性、生分解性、高い引張り強さの、非毒性および安全な組織接着剤を製造することができる。二成分系接着剤(two-component glue)として、そのゲル化速度をペンダント基の修飾によって調整することができる。薬物、生理活性ペプチドおよび成長因子も、徐放用のゲル化システムに組み込むことができる。さらに、ゲル化速度ならびに粘度も制御することができるため、このシステムは、幹細胞および前駆細胞の送達に使用することもできる。
【0123】
この組織接着剤は、2つの成分:1)酸化コンドロイチン硫酸塩、2)水溶性キトサンを有する。これらの2つの成分を混合すると、これらの2つの成分は、コンドロイチン硫酸塩のアルデヒド基とキトサンのアミン基との反応によって、糊またはゲルを形成する。コンドロイチン硫酸塩の隣接ヒドロキシル基の酸化度を調整することによって、ゲル化速度を調節することができる。
【0124】
薬物、成長因子(例えば、NGF−β)および生理活性ペプチド(例えば、ラミニン、フィブロネクチン、syngistic物質PおよびIGF様ペプチドの組み合わせ)もまた、徐放用ゲル化システムに組み込むことができる。
【0125】
コンドロイチン硫酸塩ベースの素材を使用して、図8に示されるように、内皮前駆細胞(EPC)を筋試験システム中に送達し、血管形成により血管内に標識EPC(以下の図において標識グリーン)の取り込みを誘導できる。図8は、硫酸コンドロイチンベースの素材が内皮前駆細胞(EPC)を筋試験システム中に送達し、血管形成により血管内に標識EPC(以下の図において標識グリーン)の取り込みを誘導している様子を示す。図8は、(A)ラットの虚血後肢からの骨格筋におけるEPC(グリーン標識された)の注入部位(矢印)、(B)注入されたマトリックスから組織中へ移動するEPC(矢印)の拡大画像、(C)血管構造内で観察されたEPC(矢印)を示す。
【0126】
参考文献
Klenkler B.J., Griffith M., Becerril C., West-Mays J., Sheardown H. (2005) EGF-grafted PDMS surfaces in artificial cornea applications. Biomaterials 26: 7286-7296.
Li, F., Carlsson, D.J., Lohmann, C.P., Suuronen, E.J., Vascotto, S., Kobuch, K., Sheardown, H., Munger, M. and Griffith, M. (2003) Cellular and nerve regeneration within a biosynthetic extracellular matrix: corneal implantation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 15346-15351.
Li, F., Griffith, M., Li, Z., Tanodekaew, S., Sheardown, H., Hakim, M. and Carlsson, D.J. (2005) Recruitment of multiple cell lines by collagen-synthetic copolymer matrices in corneal regeneration. Biomaterials 26:3039-104.
【0127】
実施例VII−コラーゲン12.1%(w/w)を有する組換えヒトIII型コラーゲン−MPC IPN
第1に、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、12.1重量%III型コラーゲン溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.1mlを混合した。第2に、MPC(コラーゲンとMPCの比1/1(w/w))50mgをMES0.138mlに溶解し、その0.1mlを100μlマイクロシリンジで上記混合物中に注入した。第3に、PEG−ジアクリレート(Mn=575)16μlを100μlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとMPCとの重量比を1:2にした。次いで、その溶液を完全に混合した。第4に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25μlを100μlマイクロシリンジで注入し、続いて、EDC/NHS溶液(MES中)57μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を3:3:1にした。均一な混合物をガラス製またはプラスチック製の型(厚さ500μm)に流し込み、室温に湿度100%で16時間放置した。次いで、後硬化するために、その型を37℃で5時間インキュベータに移した。
【0128】
得られたヒドロゲルは、頑丈かつ光学的に透明であるのに対して、同じ条件で製造されたニッポンコラーゲン/MPCコラーゲンは不透明であった。rhcIII型の利点は、広範囲のpHおよび架橋剤含有率で透明性を維持する性能である。
【0129】
実施例VIII−コラーゲンまたはコラーゲンヒドロゲル
実施例IIIと同様に、このセクションに記載の眼科素材は、従来から知られている素材と比較して、向上した靱性および弾性を有する、本質的に頑丈な移植可能な素材である。この素材はコラーゲンをベースとするが、ヒト角膜中で発見された天然細胞外マトリックス分子(ECM)に匹敵し、それと同時に引張り強さを著しく向上させる、キトサンなどのバイオミメティック分子(biomimeticmolecule)も組み込まれる。さらに、架橋システムが開発され、コラーゲンおよびコラーゲン/キトサン足場を安定化するために使用され、素材の弾性および靱性がさらに向上した。これらの向上した素材の機械的性質、光学的性質、および生物学的性質に関して試験した。その結果から、足場は、強靭、弾性であり、かつ光学的透明性においてアイバンクのヒト角膜よりも優れており、in vitroでの角膜細胞および神経の再生を可能にすることが示唆されている。
【0130】
材料および一般法
ベース材料は、I型アテロコラーゲン10%(w/v)とキトサン3%(w/v)の混合物を含む。日本ハム株式会社(日本)から入手した凍結乾燥されたブタコラーゲン粉末を冷水(滅菌dd H2O)に溶解し、4℃で攪拌して、濃度10%(w/v)とした。0.2N塩酸(HCl)にキトサン粉末(フルカ社から入手、MW40000)を溶解し、4℃で攪拌することによって、3%(w/v)キトサン溶液も調製した。次いで、架橋前に均一なブレンドを調製するために、2つの溶液を所定の比でシリンジシステムにおいて混合した。PEG−ジブチルアルデヒド(MW3400ダルトン、ネクター社)および1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)などの様々な架橋剤を使用して、架橋剤およびバイオミメティック成分(biomimeticcomponent)の種類および濃度に基づいた特有の性質を有する相互侵入ネットワークを形成した(表8参照)。
【0131】
実施例IX−EDC/NHSおよびPEG−ジブチルアルデヒドによって架橋されるコラーゲンヒドロゲル(HPN−3)の製造
ルアーガラス製シリンジにおいて、テフゼル(Tefzel)T字管を使用して、10%コラーゲン溶液0.6mLをMESバッファー0.4mlと混合した。PEG−ジブチルアルデヒドおよびEDC/NHS[PEG:NH2のモル当量比が0.36:1であり、EDC:NH2のモル当量比が5.4:1であり、EDC:NHSのモル当量比が1:1である]で構成される架橋システムを使用して、MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、コラーゲンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0132】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−3を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0133】
実施例X−EDC/NHSおよびPEG−ジブチルアルデヒドで架橋されるコラーゲン−キトサンヒドロゲルの製造(HPN−4)
ルアーガラス製シリンジにおいて、15%コラーゲン溶液0.6mLに3%キトサン0.036mLを添加した[キトサン:コラーゲンのモル比を0.01:1とした]。次いで、テフゼルT字管を使用して、この組成物をMESバッファー0.4mlと混合した。MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、PEG−ジブチルアルデヒドおよびEDC/NHS[PEG:NH2のモル当量比は0.3:1であり、EDC:NH2のモル当量比は4.5:1であり、EDC:NHSのモル当量比は1:1である]で構成されるハイブリッド架橋システムを使用して、コラーゲン/キトサンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0134】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−4を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0135】
実施例XI:EDC/NHSおよびPEG−ジブチルアルデヒドによって架橋されるコラーゲンヒドロゲルの製造(HPN−5)
テフゼルT字管を使用して、ルアーガラス製シリンジ中の15%コラーゲン溶液0.6mLをMESバッファー0.4mlと混合した。MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、PEG−ジブチルアルデヒドおよびEDC/NHS[PEG:NH2のモル当量比が0.36:1であり、EDC:NH2のモル当量比が5.4:1であり、EDC:NHSのモル当量比が1:1である]で構成されるハイブリッド架橋システムを使用して、コラーゲンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0136】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−5を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0137】
実施例XII:PEG−ジブチルアルデヒドによって架橋されるコラーゲンヒドロゲルの製造(HPN−6)
テフゼルT字管を使用して、ルアーガラス製シリンジ中の20%コラーゲン溶液0.6mLをMESバッファー0.4mlと混合した。MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、PEG−ジブチルアルデヒド[PEG:NH2のモル当量比が1:1である]を使用して、コラーゲンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0138】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−6を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0139】
実施例XIII:PEG−ジブチルアルデヒドによって架橋されるコラーゲンヒドロゲルの製造(HPN−7)
一般に、テフゼルT字管を使用して、ルアーガラス製シリンジ中の20%コラーゲン溶液0.6mLをMESバッファー0.4mlと混合した。MESバッファー0.35ml中にて約0〜4℃で気泡捕捉せず、PEG−ジブチルアルデヒド[PEG:NH2のモル当量比が2:1である]を使用して、コラーゲンブレンドを架橋した。MESバッファーを使用して、架橋反応中、pH5を維持した。T字管を通して第1シリンジと第2シリンジの間で繰り返しポンピング(pumping)することによって、その組成物を完全に混合した。
【0140】
実質的に均一な各溶液のアリコートを直ちに、500ミクロンの移植片型に分配し、湿度100%の環境下において、まず室温で16時間、次いで37℃で16時間かけて硬化させ、HPN−7を作製した。リン酸緩衝液(PBS)に2時間浸した後、それぞれの最終移植片試料をその型から慎重に外した。最後に、架橋した移植片ヒドロゲルを20℃のPBS溶液(PBS中0.5%、クロロホルム1%を含有する)に浸漬し、反応性残基(reactive residue)を停止させ、反応副生成物を抽出除去した。
【0141】
【表8】
【0142】
実施例XIV:組換えヒトI型コラーゲンおよびEDC/NHSから製造されるコラーゲンマトリックス
気泡を含有しないシリンジ混合システム中に、組換えヒトI型コラーゲン溶液(12.7%(w/w))のアリコートを添加した。第2のシリンジからセプタム(septum)を通して、計算量のEDCおよびNHS(どちらも10%(w/v)、EDC:コラーゲン−NH2比=0.4:1;EDC:NHS比=1:1)を添加し、再び0℃で完全に混合した。最終溶液を直ちに、ガラスプレート上に分配し、平坦なフィルムを形成した。その平坦なフィルムを湿度100%で硬化させた(21℃で24時間、次いで37℃で24時間)。フィルムを新たなPBSで3回洗浄し、クロロホルム1%を含有するPBS中に保存し、無菌に維持した。他の比のEDC/コラーゲンNH2を有するゲルを同じ方法で製造した。
【0143】
【表9】
【0144】
実施例XV:組換えヒトIII型コラーゲンおよびEDC/NHSから製造されるコラーゲンマトリックス
気泡を含有しないシリンジ混合システム中に、組換えヒトIII型コラーゲン溶液(12.7%(w/w))のアリコートを添加した。第2のシリンジからセプタム(septum)を通して、計算量のEDCおよびNHS(どちらも10%(w/v)、EDC:コラーゲン−NH2比=0.4:1;EDC:NHS比=1:1)を添加し、再び0℃で完全に混合した。最終溶液を直ちに、ガラスプレート上に分配し、平らなフィルムを形成した。その平らなフィルムを湿度100%で硬化させた(21℃で24時間、次いで37℃で24時間)。フィルムを新たなPBSで3回洗浄し、クロロホルム1%を含有するPBS中に保存し、無菌に維持した。他の比のEDC/コラーゲンNH2を有するゲルを同じ方法で製造した。
【0145】
【表10】
【0146】
実施例XVI:組換えヒトI型およびIII型デュアルコラーゲンおよびEDC/NHSから製造される角膜マトリックス
気泡を含有しないシリンジ混合システム中に、組換えヒトI型コラーゲン溶液(12.7%(w/w))のアリコートを添加し、計量した。等量の組換えヒトコラーゲンIII型溶液(12.7%(w/w))のアリコートを同じシリンジ混合システム中に添加し、シリンジ混合システムにおいてコラーゲンI型およびIII型溶液の50/50(wt/wt)%溶液を得た。第2のシリンジからセプタム(septum)を通して、計算量のEDCおよびNHS(どちらも10%(w/v)、EDC:NH2比=0.4:1;EDC:NHS比=1:1)を添加し、再び0℃で完全に混合した。最終溶液を直ちに、ガラスプレート上に分配し、平らなフィルムを形成した。その平らなフィルムを湿度100%で硬化させた(21℃で24時間、次いで37℃で24時間)。フィルムを新たなPBSで3回洗浄し、クロロホルム1%を含有するPBS中に保存し、無菌に維持した。他の比のEDC/コラーゲンNH2を有するゲルを同じ方法で製造した。最終ゲルの含水率は、93.3%であった。
【0147】
【表11】
【0148】
【表12】
【0149】
【表13】
【0150】
実施例XVII:コラーゲン−合成相互侵入高分子ネットワーク
材料
ニッポンコラーゲン(ブタ皮膚);
0.625Mモルホリノエタンスルホン酸[Aalizarin Red S pH指示薬(6.5mg/100ml水)を含有するMES];
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCl(EDC)、N−ヒドロキシ−スクシンイミド(NHS)、NaOH溶液(2N)、PEG−ジアクリレート(Mw575)、過硫酸アンモニウム(APS)およびN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)をシグマ・アルドリッチ社から購入した。
【0151】
N,N−ジメチルアクリルアミド(99%)をシグマ・アルドリッチ社から購入した。シグマ・アルドリッチ社から購入した抑制剤除去剤を使用して、抑制剤を除去した。
【0152】
コラーゲン−DMAIPNヒドロゲルの製造
第1に、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、13.7重量%ニッポンコラーゲン溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.3mlを混合した。第2に、DMA(コラーゲンとDMAとの比3/1(w/w))14.2mlを50μlマイクロシリンジで上記混合物中に注入した。第3に、PEG−ジアクリレート(Mn=575)6.14μlを100μlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとDMAとの重量比を1:2にした。別段の指定がない限り、PEG−ジアクリレートとDMAの比は1:2で一定である。次いで、その溶液を完全に混合した。第4に、DMAに対して1%APSおよび1%TEMED溶液(MES25μl中)を100μlマイクロシリンジで注入し、続いて、EDC/NHS溶液(MES中)57μlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を3:3:1にした。本実施例では、EDCとコラーゲンの比も一定に維持した。均一な混合物をガラス製の型に流し込み、室温にて湿度100%で16時間放置した。次いで、後硬化するために、その型を37℃で5時間インキュベータに移した。コラーゲンとDMAの比1:1、2:1および4:1を有するコラーゲン−DMA IPNヒドロゲルを製造した。
【0153】
ヒドロゲルの特性
図12、図13および図14は、DMA:コラーゲン=1:1、1:2、1:3および1:4(w/w)から得たゲルすべての引張り、ひずみおよびモジュラス試験の結果を示す。
【0154】
図15は、コラーゲン−DMAヒドロゲルの白色光透過率の結果を示す。1:1のゲルを除いて、いずれの比率のゲルも、白色光透過は90%を超え、ヒト角膜と同等またはヒト角膜よりも優れていた。
【0155】
コラーゲン−DMAヒドロゲルは、極めて高い生体適合性を有し、上皮の過成長を支持する(図16参照)。上皮細胞は、3日間の培養でコンフルエント(confluent)になった。
【0156】
実施例XVIII:生理活性剤を含有する眼科デバイス
抗菌剤、抗ウイルス剤などの生理活性剤または神経栄養因子などの成長因子を組み込んだヒドロゲル素材は、例えば、角膜移植に有用な、または薬物送達または創傷治癒のための治療用レンズとして有用である、改良型デバイスを構成する。IPNヒドロゲル中に組み込まれる抗菌性ペプチドの例としては、限定されないが:
ペプチド番号1:
酸−CGSGSGGGZZQOZGOOZOOZGOOZGY−NH2
ペプチド番号2:
酸−GZZQOZGOOZOOZGOOZGYGGSGSGC−NH2
が挙げられる。
【0157】
これらのペプチドは、Giangasperoら(Giangaspero, A., Sandri, L., and Tossi, A. , Amphipathic alpha helical antimicrobial peptides. A systematic study of the effects of structural and physical properties on biological activity. Eur. J. Biochem. 268, 5589-5600, 2001)によって報告されている基本ペプチド配列を含む。その代わりとして、またはさらに、角膜マトリックス中にデフェンシンを組み込むことができる。
【0158】
角膜マトリックス中への生理活性剤の組み込み方法
以下の方法を使用することができる:
1.吸収および放出(absorption and release)
生理活性剤で飽和した溶液中にIPNヒドロゲル素材を添加し、生理活性剤を角膜マトリックス中に浸透させる。平衡に達したら、角膜マトリックスは、眼球包帯レンズまたは移植片として使用される。
2.マトリックス内/上への化学的グラフト化
この手順は、上記の手順1と同様であるが、IPNヒドロゲル素材中/上へのペプチドの化学結合を促進するために、1種(または複数種)の化学物質が使用される。生理活性ペプチド充填角膜マトリックスは、移植片および薬物送達用の包帯レンズの両方に優れている。
3.ナノスフェアまたはミクロスフェア(nano- or microspheres)中への生理活性剤の組み込み、およびマトリックス中へのナノスフェアまたはミクロスフェアの組み込み
この手順によって、生理活性剤の徐放性を有するIPNヒドロゲルが生成される。得られたマトリックスは、移植片および薬物送達用の包帯レンズの両方に優れている。図17は、生理活性剤を封入するために作られたアルジネートミクロスフェアの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。生理活性剤を充填した後、これらのミクロスフェアは、薬物の徐放のためにマトリックス中に組み込まれる。
【0159】
アルジネートミクロスフェアを製造する手順
アルジネートスフェアは、文献(C.C. Ribeiro, C.C. Barrias, M.A. BarbosaCalcium phosphate-alginate microspheres as enzyme delivery matrices, Biomaterials 25 4363-4373, 2004)に従って製造される。
【0160】
実施例XIX:コラーゲン−MPC IPNヒドロゲルのin vitroでの生分解
手順:
水和ヒドロゲル50〜80mgを0.1M PBS(pH7.4)5mlを含有するバイアルに入れ、続いてコラゲナーゼ(ヒストリチクス菌、EC3.4.24.3、シグマケミカル社)(1mg/mL)60μlを添加した。次いで、バイアルを37℃で異なる時間間隔にてオーブン内でインキュベートし、表面の水を拭き取って計量するためにゲルを取り出した。初期膨潤重量に基づいて、ヒドロゲルの残存量の時間経過を追跡した。各ヒドロゲル試料において、3つの試験片を試験した。ヒドロゲルの残存量%を以下の等式で計算した:
残存量%=Wt/Wo
(上記式中、Woは、ヒドロゲルの初期重量であり、Wtは、各時点でのヒドロゲルの重量である。)
【0161】
結果および考察
コラーゲンおよびIPNヒドロゲルのin vitroでの生分解の時間経過
図18に示すように、EDC/NHSで架橋されたブタコラーゲンヒドロゲルは非常に急速に分解した。3時間後には、完全に分解した。MPCおよびPEGの組み込みによって、分解速度が遅くなり、IPN−4−1およびIPN−3−1の完全分解はそれぞれ10時間後および15時間後であった。ヒドロゲル中のMPC含有率をさらに増加すると(つまり、IPN−2−1およびIPN−1−1では)、分解は著しく抑えられた。48時間以内に、IPN−2−1の残存量は約79%のままであったのに対して、IPN−1−1は、質量が6%減少しただけだった。48時間後、その残存量をさらに7日間追跡した。IPN−2−1およびIPN−1−1ヒドロゲルのどちらも、その残存量が一定のままであることが判明した。したがって、相互浸入ネットワークは、コラーゲンヒドロゲルの生物学的安定性の向上に有効である。
【0162】
実施例XX:III型コラーゲン−MPC IPNヒドロゲルの特性およびin vitroでの生分解
III型組換えヒトコラーゲン(rhc)−MPC IPNヒドロゲルの製造
第1に、氷水浴中の、プラスチック製T字管で連結された2つのシリンジにおいて、13.7重量%rhcIII溶液0.3mlおよびMES(0.625M)0.1mlを混合した。第2に、MPC溶液(MES中、MPC/コラーゲン=2/1(w/w))250μlを500mlマイクロシリンジで上記混合物中に注入した。第3に、PEG−ジアクリレート9.3mlを100mlマイクロシリンジで注入し、PEG−ジアクリレートとMPCとの重量比を1:2にした。次いで、その溶液を完全に混合した。第4に、2%APSおよびTEMED溶液(MES中)25mlを100mlマイクロシリンジで注入し、続いて、EDC/NHS溶液(MES中)19mlを注入し、EDC:NHS:コラーゲンNH2のモル比を1:1:1にした。均一な混合物をガラス製の型に流し込み、室温、湿度100%でN2下にて24時間放置した。次いで、後硬化するために、型を37℃で24時間インキュベータに移した。生成物は、Coll−III−MPC IPN2−1−1とコード化した。
【0163】
EDC/NHS/コラーゲンNH2=3/3/1であることを除いて同じ条件で、他のrhcIII/MPC IPNを製造した。コードColl−III−MPC IPN4−1−3、Coll−III−MPC IPN3−1−3、Coll−III−MPC IPN2−1−3、Coll−III−MPC IPN1−1−3はそれぞれ、rhcIII/MPC=4/1、3/1、2/1および1/1(w/w)であるIPNを意味する。
【0164】
機械的性質および光学的性質
表14および15は、III型コラーゲン−MPC IPNヒドロゲルの機械的性質および光学的性質を示す。
【0165】
【表14】
【0166】
【表15】
【0167】
in vitroでの生分解:
III型コラーゲン−MPC IPNヒドロゲルのin vitroでの生分解手順は、ブタコラーゲン−MPC IPNヒドロゲルと同じである。in vitroでの生分解試験は、Coll−III−MPC IPN2−1−1のみ行った。ゲルは、少なくとも20日間、コラゲナーゼ溶液(12μg/mL)中で安定であった。
【0168】
実施例XXI:アルジネートグラフト化巨大分子
この実施例において、本発明者らは、コラーゲンベースの人工角膜マトリックスの後面にアルジネート巨大分子を共有結合でグラフトし、内皮細胞付着および増殖を防ぐ、二段階プラズマ補助表面改質技術(two-stage plasma-assisted surface modification technique)を開発した。
【0169】
凍結乾燥されたブタI型コラーゲン粉末を日本ハム株式会社(日本)から入手し、冷水(滅菌dd H2O)に容易に溶解し、4℃で攪拌して、濃度10%(w/v)を得た。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)をシグマ・アルドリッチ社から購入した。0.2N塩酸(HCl)にキトサン粉末(フルカ社から入手、MW40000ダルトン)を溶解し、4℃で攪拌することによって3%キトサン溶液を調製した。
【0170】
表16に示すように、均一なブレンドを調製するために、10%コラーゲン溶液、3%(w/w)キトサン溶液、およびEDC/NHS架橋剤を所定の比でシリンジシステム(syringe system)において混合した。
【0171】
【表16】
【0172】
内皮細胞成長試験から得られた結果から、アルジネート表面グラフト化は、角膜ヒドロゲルの後面への内皮細胞移動および付着を阻止することが示された。図20は、基質素材、プラズマ電力(plasma power)、およびアルジネート溶液濃度の関数として、播種後5日目の角膜素材の後面に付着した内皮細胞の数を示す。内皮細胞成長の一般的な抑制は、対照表面と比較した場合に、すべてのアルジネートグラフト化表面で認められた。対照の非修飾表面は、すべての図および表においてRF電力およびアルジネート濃度ゼロによって示される。
【0173】
図20に図示されるように、各群の変動を示す区間プロットは、信頼区間をプロットする。プラズマ電力100W、アルジネート濃度5%で処理された表面が、内皮細胞成長を99%有効に抑制することを示し、一方、プラズマ電力40W、アルジネート濃度5%で処理された表面が、内皮細胞成長を約89%抑制することを示す。
【0174】
本明細書に記載のすべての出版物、特許および特許出願は、本発明が関係する当業者のレベルを示すものであり、あたかも個々の出版物、特許または特許出願が具体的かつ個々に、参照により組み込まれることを意味されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0175】
本発明はこのように述べられているが、多くの点でそれを変更することができることは明らかであるだろう。このような変更は、本発明の精神および範囲からの逸脱とみなされず、当業者には明らかであろう、このようなすべての修正は、以下の特許請求の範囲内に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明の一実施形態によるNiColl20/MPC IPNヒドロゲルの写真である。
【図2】本発明の特定の実施形態による2種類のIPNの機械的性質(強度、伸び、および靱性)を図示する。
【図3】対照I、対照II、ヒトおよびウサギ角膜と比較した、IPN−IおよびIPN−IIの光学的性質(光透過率%)を図示する。
【図4A】IPN−Iヒドロゲル上のヒト上皮細胞の成長を図示する。
【図4B】IPN−IIヒドロゲル上のヒト上皮細胞の成長を図示する。
【図5】IPN−II(EP10−11)ヒドロゲル表面上の神経成長を示す。
【図6】コラーゲン−合成コポリマーIPNの写真である。
【図7】表層角膜移植(分層移植)によりユカタンミニブタの角膜に移植された上記ポリマー(EP10−11)の写真である。
【図8】硫酸コンドロイチンベースの素材が内皮前駆細胞(EPC)を筋試験システム中に送達し、血管形成により血管内に標識EPC(標識グリーン)の取り込みを誘導する様子を示す。(A)ラットの虚血後肢からの骨格筋におけるEPC(グリーン標識された)の注入部位(矢印)、(B)注入されたマトリックスから組織中へ移動するEPC(矢印)の拡大画像、(C)血管構造内で観察されたEPC(矢印)。
【図9】対照1、対照2、HPN−1(IPN−I)、およびHPN−2(IPN−II)と比較した、HPN−3〜HPN−5材質の機械的性質(強度、伸び、および靱性)を図示する。
【図10】HPN−1(IPN−I)、HPN−2(IPN−II)ならびにヒトおよびウサギ角膜と比較した、HPN−3〜HPN−7の光学的性質(光透過%)を図示する。
【図11】播種後6日目の(a)培養皿対照表面、(b)HPN−3、(c)HPN−4、および(d)HPN−5ヒドロゲル上でのヒト上皮細胞の成長を示す。
【図12】コラーゲンとDMAとの異なる比を有するヒドロゲルの最大強度(kPa)(±標準偏差)を図示する。
【図13】コラーゲンとDMAとの各比に対するヒドロゲルの破断ひずみ%(±標準偏差)を図示する。
【図14】コラーゲンとDMAとの比に対するモジュラス(kPa)(±標準偏差)を図示する。
【図15】コラーゲン−DMAヒドロゲルの白色光透過率を図示する。
【図16】コラーゲン−DMA(3:1(w/w))ヒドロゲル上のin vitroでの上皮細胞成長、細胞集合を示す3日目の光学画像を示す。
【図17】アルジネートのミクロスフェア(平均直径:300ミクロン)の走査型電子顕微鏡写真画像である。
【図18】コラーゲンおよびIPNヒドロゲルのin vitroでの生分解を図示する。
【図19】IPN(右側のカラム)と架橋組換えヒトコラーゲン(中央のカラム)との比較を示す。左側のカラムは未処理対照を示す。(図19)術後6ヶ月の一般的な移植片の生体内共焦点画像を示しており、未処理角膜の画像(対側の対照角膜の画像)と比較している。(EDC/NHS)架橋組換えヒトコラーゲンおよび医療用のブタコラーゲン−MPC IPNのいずれにおいても、神経が基質および上皮下神経網目へ再成長したこと(矢印)を示す。
【図20】内皮付着増殖に対する、プラズマ処理コラーゲン/キトサンIPN上へのアルジネートグラフト化の作用を示す。群A:高周波電力(RFP)=0w;群B:RFP=40w;群C:RFP=100w。青色の棒:アルジネート0%;緑色の棒:アルジネート1%;オレンジ色の棒:5%。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の高分子ネットワークの相互侵入ネットワーク構造を有するヒドロゲル素材であって、
前記高分子ネットワークのうちの少なくとも1つがバイオポリマーをベースとする、ヒドロゲル素材。
【請求項2】
前記バイオポリマーが、変性ゼラチン、フィブリン−フィブリノゲン、エラスチン、糖タンパク質、多糖類、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、もしくは酸化多糖類またはこれらのいずれかの組み合わせである、請求項1に記載のヒドロゲル素材。
【請求項3】
前記コラーゲンが、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、変性コラーゲンまたは組換えコラーゲンである、請求項2に記載のヒドロゲル素材。
【請求項4】
前記多糖類が、アルジネート、キトサン、N−カルボキシメチルキトサン、O−カルボキシメチルキトサン、N,O−カルボキシメチルキトサン、ヒアルロン酸または硫酸コンドロイチンである、請求項2に記載のヒドロゲル素材。
【請求項5】
前記酸化多糖類が、酸化コンドロイチン硫酸塩(oxidized chondroitin sulphate)、酸化アルジネート(oxidized alginate)または酸化ヒアルロン酸である、請求項2に記載のヒドロゲル素材。
【請求項6】
前記高分子ネットワークのうちの少なくとも1つが、合成ポリマーをベースとする、請求項1に記載のヒドロゲル素材。
【請求項7】
前記合成ポリマーが、アルキルアクリルアミド、水溶性ポリエチレングリコールジアクリレート、アクリル酸およびその誘導体、アルキルアクリレート、メチルアクリル酸およびその誘導体、アルキルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ビニルピロリドンまたは糖モノマーである、請求項6に記載のヒドロゲル素材。
【請求項8】
前記素材が、低細胞毒性、非細胞毒性、細胞および/もしくは神経成長を促進する性能、成形性、またはハンドリング、移植、縫合および/もしくは移植後の耐摩耗性および耐引裂き性のうちの少なくとも1つを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材。
【請求項9】
生理活性剤または薬物をさらに含む、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材。
【請求項10】
眼用アンレーまたは眼用移植片として使用される、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材。
【請求項11】
薬物送達に使用される、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材。
【請求項12】
第1高分子ネットワークと第2高分子ネットワークとを結合することを含む、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材を製造する方法であって、前記第1の高分子ネットワークと前記第2の高分子ネットワークとを結合するステップを含み、
前記第1高分子ネットワークおよび前記第2高分子ネットワークのうちの少なくとも1つが、バイオポリマーをベースとし、かつ
得られた反応混合物は、相互侵入ネットワークの形成に適した条件下で維持される、方法。
【請求項13】
前記第1高分子ネットワークと第2高分子ネットワークとが、少なくとも1種類の架橋剤によって結合される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記反応混合物が酸性pHで維持される、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応混合物が型に注がれて硬化される、請求項12〜請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材を含有するデバイスであって、哺乳動物に施すのに適しているデバイス。
【請求項17】
眼用デバイスである、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記デバイスが、前記哺乳動物内に送達するための生理活性剤または薬物を含有する、請求項16または請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記生理活性剤または薬物が前記ヒドロゲル中に分散される、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記薬物が、前記ヒドロゲル素材中に分散されたナノスフェア(nanosphere)またはミクロスフェア(microsphere)に含まれる、請求項18に記載のデバイス。
【請求項21】
前記生理活性剤が、成長因子、レチノイド、酵素、細胞接着因子、細胞外マトリックス糖タンパク質、ホルモン、骨形成因子、サイトカイン、抗体、抗原、生物活性タンパク質、医薬化合物、ペプチド、生物活性タンパク質由来の断片またはモチーフ、抗菌剤または抗ウイルス剤である、請求項19に記載のデバイス。
【請求項1】
2種類以上の高分子ネットワークの相互侵入ネットワーク構造を有するヒドロゲル素材であって、
前記高分子ネットワークのうちの少なくとも1つがバイオポリマーをベースとする、ヒドロゲル素材。
【請求項2】
前記バイオポリマーが、変性ゼラチン、フィブリン−フィブリノゲン、エラスチン、糖タンパク質、多糖類、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、もしくは酸化多糖類またはこれらのいずれかの組み合わせである、請求項1に記載のヒドロゲル素材。
【請求項3】
前記コラーゲンが、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、変性コラーゲンまたは組換えコラーゲンである、請求項2に記載のヒドロゲル素材。
【請求項4】
前記多糖類が、アルジネート、キトサン、N−カルボキシメチルキトサン、O−カルボキシメチルキトサン、N,O−カルボキシメチルキトサン、ヒアルロン酸または硫酸コンドロイチンである、請求項2に記載のヒドロゲル素材。
【請求項5】
前記酸化多糖類が、酸化コンドロイチン硫酸塩(oxidized chondroitin sulphate)、酸化アルジネート(oxidized alginate)または酸化ヒアルロン酸である、請求項2に記載のヒドロゲル素材。
【請求項6】
前記高分子ネットワークのうちの少なくとも1つが、合成ポリマーをベースとする、請求項1に記載のヒドロゲル素材。
【請求項7】
前記合成ポリマーが、アルキルアクリルアミド、水溶性ポリエチレングリコールジアクリレート、アクリル酸およびその誘導体、アルキルアクリレート、メチルアクリル酸およびその誘導体、アルキルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ビニルピロリドンまたは糖モノマーである、請求項6に記載のヒドロゲル素材。
【請求項8】
前記素材が、低細胞毒性、非細胞毒性、細胞および/もしくは神経成長を促進する性能、成形性、またはハンドリング、移植、縫合および/もしくは移植後の耐摩耗性および耐引裂き性のうちの少なくとも1つを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材。
【請求項9】
生理活性剤または薬物をさらに含む、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材。
【請求項10】
眼用アンレーまたは眼用移植片として使用される、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材。
【請求項11】
薬物送達に使用される、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材。
【請求項12】
第1高分子ネットワークと第2高分子ネットワークとを結合することを含む、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材を製造する方法であって、前記第1の高分子ネットワークと前記第2の高分子ネットワークとを結合するステップを含み、
前記第1高分子ネットワークおよび前記第2高分子ネットワークのうちの少なくとも1つが、バイオポリマーをベースとし、かつ
得られた反応混合物は、相互侵入ネットワークの形成に適した条件下で維持される、方法。
【請求項13】
前記第1高分子ネットワークと第2高分子ネットワークとが、少なくとも1種類の架橋剤によって結合される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記反応混合物が酸性pHで維持される、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応混合物が型に注がれて硬化される、請求項12〜請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載のヒドロゲル素材を含有するデバイスであって、哺乳動物に施すのに適しているデバイス。
【請求項17】
眼用デバイスである、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記デバイスが、前記哺乳動物内に送達するための生理活性剤または薬物を含有する、請求項16または請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記生理活性剤または薬物が前記ヒドロゲル中に分散される、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記薬物が、前記ヒドロゲル素材中に分散されたナノスフェア(nanosphere)またはミクロスフェア(microsphere)に含まれる、請求項18に記載のデバイス。
【請求項21】
前記生理活性剤が、成長因子、レチノイド、酵素、細胞接着因子、細胞外マトリックス糖タンパク質、ホルモン、骨形成因子、サイトカイン、抗体、抗原、生物活性タンパク質、医薬化合物、ペプチド、生物活性タンパク質由来の断片またはモチーフ、抗菌剤または抗ウイルス剤である、請求項19に記載のデバイス。
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図18】
【図20】
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図16】
【図17】
【図19】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図18】
【図20】
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図16】
【図17】
【図19】
【公表番号】特表2009−507110(P2009−507110A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529440(P2008−529440)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001520
【国際公開番号】WO2007/028258
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(505050555)オタワ ヘルス リサーチ インスティテュート (11)
【出願人】(504347337)ユニバーシティ・オブ・オタワ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001520
【国際公開番号】WO2007/028258
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(505050555)オタワ ヘルス リサーチ インスティテュート (11)
【出願人】(504347337)ユニバーシティ・オブ・オタワ (2)
【Fターム(参考)】
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