説明

相変化型インク,インクジェットシステム,及び画像形成方法

【課題】改良された導電率向上剤を有する相変化型インクを提供する。
【解決手段】インクベヒクルと導電率向上剤を有する相変化型インクにおいて、改良された導電率向上剤は、少なくともの一個の長い炭化水素鎖を有する有機塩基と酸から誘導される有機塩とし得る。本明細書に記載のインクは、整合性ある導電率を備え、インクジェット装置においてインク溜レベル検出用の入力信号として使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載されるのは、整合性ある導電率を備え、これをインクジェット装置のインク溜のレベル検出用入力信号として使用し得る固形相変化型インクまたはホットメルト型インクのようなインクである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット装置は、技術的によく知られている。米国特許第6,547,380号は、その全文を本明細書に参照文献として引用するものであるが、ここに記載のように、インクジェット印刷システムには一般に、連続流とドロップ・オンデマンドの二つのタイプがある。連続流インクジェットシステムでは、インクは、少なくとも一本のオリフィスまたはノズルを通って圧力下に吐出される。インク流れは、摂動作用を加えると、オリフィスから一定の距離でインク滴に細かく分裂する。この分裂の点で、インク滴は、デジタルデータ信号に従って帯電され、電界の中を通過すると、各インク滴の軌道が調整され、インク滴は記録媒体上の具体的な位置に導かれるとともに、一部は再循環用の溝に入る。一方、ドロップ・オンデマンドのシステムでは、インク滴は、デジタルデータ信号に従ってオリフィスから直接記録媒体の位置に吐出される。インク滴は、記録媒体に配置させる必要がない限り、形成されもしないし、吐出されもしない。ドロップ・オンデマンドのインクジェットシステムには、一般に三つのタイプがある。ドロップ・オンデマンドシステムの一つのタイプは、圧電気式装置で、主要コンポーネントとして一端にノズルを備えるインク充填のチャネルまたは通路と、他端に圧力パルスを発生させる圧電気トランスデューサとを備える。ドロップ・オンデマンドシステムの別のタイプは、アコースティック式インク印刷として知られる。既知のように、アコースティックビームは、ビームが衝突する物体に放射圧力を加える。従って、アコースティックビームが液体プールの自由表面(すなわち、液体/空気の界面)に下から衝突すると、プール表面に加えられる放射圧力が十分に高レベルに達し、表面張力の束縛力にもかかわらず、個々のインク液滴をプールから放出し得る。プール表面の上、またはその近くにビーム焦点を合わせることにより、所与の入力パワー量で加えられる放射圧力は強化される。ドロップ・オンデマンドシステムのさらに別のタイプは、サーマルインクジェットまたはバブルジェット(登録商標)として知られ、高速のインク滴を形成するものである。このタイプのドロップ・オンデマンドシステムの主要コンポーネントは、インク充填のチャネルと、このチャネルの一端のノズルと、このノズル近くの熱発生用抵抗器である。デジタルの情報を示す印刷シグナルにより、オリフィスまたはノズル近傍の各インク通路内の抵抗層に電流パルスが発生すると、すぐ近傍のインクベヒクル(通常は水)がほとんど瞬時に蒸発し、バブルが形成される。その結果、オリフィスの箇所のインクが、バブルが拡大するにつれて押し出され、インク滴として吐出される。
【0003】
圧電気式インクジェット装置の典型的な設計では、画像形成は、画像受理部材または中間転写部材のような基板をインク噴出ヘッドに関して4〜18回転(増分動作)する間に、適切に着色されたインク印字ヘッドが小さな動きをする。このアプローチにより、印字ヘッドの設計が簡素化され、前記の小さな動きにより、インク滴レジストレーションが確実に行われる。ジェット操作温度で、インクの液滴が印刷装置から吐出される。インク液滴が、直接的にしろ、中間の加熱された転写ベルトまたはドラム経由にしろ、記録基板の表面に接触すると、インク液滴は迅速に固化し、既定のパターンの固化したインク滴点が形成される。相変化型インクジェット法は周知であり、例えば、米国特許第4,601,777号、第4,251,824号、第4,410,899号、第4,412,224号、および第4,532,530号に記載されている。前記特許各々の開示内容全文を参照文献として引用する。
【0004】
インクジェット印刷プロセスは、室温で固体であって、高温では液体となるインクを採用し得る。そのようなインクは、ホットメルト型インク、または相変化型インクと称される。例えば、米国特許第4,490,731号は、開示内容全文を参照文献として引用するものであるが、この特許には、固形インクを使用して紙のような基板に印刷する装置が開示されている。ホットメルト型インクを採用するサーマルインクジェット印刷法では、固形インクは、印刷装置のヒータで溶融され、従来のサーマルインクジェット印刷プロセスと同様な方法で利用(すなわち、噴出)される。印刷基板と接触すると、溶融しているインクは、急速に固化し、着色剤は、毛細管作用で基板(例えば、紙)に吸収される代わりに、基板の表面に実質的に残留することが可能になり、その結果、一般に液体インクで得られるものより高い印刷密度を得ることが可能である。従って、インクジェット印刷に使用される相変化型インクの利点としては、取扱の際にインクが流出する可能性がなくなること、広範囲の印刷密度と印刷品質が得られること、紙の皺または歪みが最小限に抑えられること、およびノズルに蓋を被せなくともノズル閉塞の危険なしに無限に印刷しない期間をとることが可能なことが挙げられる。
【0005】
インクジェット装置では、装置は相変化型インクの導電率を測定し、これを装置のインク溜レベルを示す入力信号として使用し得る。例えば、操作の際に、装置は、測定されたインク導電率とインクレベルを示す所定のインク導電率との間の比較を常に行い得る。比較の結果として、印刷プロセスの間にインク溜に再供給するに要する追加インク量の液化を開始したり、あるいは停止したりする。このメカニズムは、プリンタのインク溜のオーバーフローを防止するのに効果的である。インクがオーバーフローすると、敏感なプリンタ部分の損傷が生ずる危険性がある。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,490,731号明細書
【特許文献2】米国特許第4,601,777号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、改良された導電率向上剤を有する相変化型インクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の相変化型インクは、インクベヒクルと、少なくとも一つの着色剤と、導電率向上剤とを有する相変化型インクにおいて、前記導電率向上剤が有機の塩である。
【0009】
また、本発明のインクジェットシステムは、インクベヒクルと有機の塩である導電率向上剤とを有する少なくとも一個の相変化型インクと、前記少なくとも一個の相変化型インク用の一本またはそれ以上の本数のチャネルからなるインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドの前記一本またはそれ以上の本数のチャネルに前記少なくとも一個の相変化型インクを装填する一個またはそれ以上の個数のインク溜から前記少なくとも一個の相変化型インクを供給する供給通路とを備えるインクジェット装置と、を備え、前記一個またはそれ以上の個数のインク溜が、内部に前記少なくとも一個の相変化型インクの導電率を測定するセンサを装備する。
【0010】
また、本発明の画像形成方法は、インクベヒクルと、少なくとも一つの着色剤と、有機の塩である導電率向上剤とから成る相変化型インクを、インク溜で加熱するステップと、前記加熱されたインクを、インクがゲルを形成する第二温度に維持されている画像受理基板に噴出するステップとを含み、インク溜が、インク溜内部にインクの導電率を測定するセンサを備え、インクの前記測定された導電率が、インク溜のレベルを示す値と比較され、インク溜に送られるインクの追加が、前記測定された導電率とインクレベルを示す前記値との比較に応答して継続または停止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
導電率向上剤を含む相変化型インクは、また、例えば、室温の約20℃〜27℃の温度で固体であり、特に約40℃以下の温度で固体である。しかし、相変化型インクは、加熱すると、噴出温度で溶融状態になる。従って、前記インクは、インクジェット印刷に好適な高温、例えば、約50℃〜約150℃の温度で、約1〜約20センチポアズ(cP)、例えば、約5〜約15cP、または約8〜約12cPの粘度を有する。
【0012】
この点では、本発明のインクは低エネルギーインクといってよい。低エネルギーインクは、約40℃以下の温度で固体であり、約50℃〜約150℃、例えば、約70℃〜約120℃または約80℃〜約120℃の噴出温度では約5〜約15cPの粘度を有する。これらのインクは、上記のように低温で吐出するので、必要な噴出エネルギー量は少ない。
【0013】
好適なインクベヒクルなら、どんなものも使用し得る。適当なベヒクルとしては、パラフィン、微結晶性ワックス、ポリエチレンワックス、エステルワックス、脂肪酸と他のワックス様材、含脂肪アミド材、スルホンアミド材、相異なる天然材料から製造された樹脂様材(例えば、トールオイルロジンやロジンエステル)と多くの合成樹脂、オリゴマ、ポリマ、さらに以下に記載のコーポリマ、およびこれらの混合物などがある。他の例としては、エチレン/プロピレンのコーポリマ;酸化された合成または石油ワックスのウレタン、尿素、アミドおよびイミド誘導体;n−パラフィン、枝分かれパラフィン、および/または芳香族系の、普通は、炭素数約5〜約100、例えば、約20〜約180、または約30〜約60の炭化水素;高度に枝分かれした炭化水素;脂肪アミド、例えば、モノアミド、テトラアミド、これらの混合物など;高分子量の鎖状アルコール;炭化水素を基材とするワックス;およびポリオレフィンの修飾無水マレイン酸炭化水素アダクトなどが、挙げられる。
【0014】
相変化型インクに適当なインクベヒクルの追加例としては、グリセリルアビエテートのようなロジンエステル(KE−100(登録商標));ポリアミド;二量体酸アミド;ARAMID Cを含む脂肪酸アミド;エポキシ樹脂、例えば、Riechold Chemical Co.から入手可能のEPOTUF 37001など;流動パラフィンワックス;微結晶性流動パラフィンワックス;フィッシャー・トロプシュワックス;ポリビニルアルコール樹脂;ポリオール;セルロースエステル;セルロースエーテル;ポリビニルピリジン樹脂;脂肪酸;脂肪酸エステル;KETJENFLEX MHとKETJENFLEX MS80を含むポリスルホンアミド;安息香酸エステル、例えば、Velsicol Chemical Co.から入手可能のBENZOFLEX S552など;フタレート可塑剤;シトレート可塑剤;マレエート可塑剤;ポリビニル/ピロリジノンコーポリマ;ポリビニルピロリドン/ポリビニールアセテートコーポリマ;ノボラック樹脂、例えば、Occidental Chemical Co,から入手可能のDUREZ 12 686など;そして、天然生産物、例えば、蜜蝋、モンタンワックス、カンデリラワックス、GILSONITE(American Gilsonite Co.)など;鎖状第一級アルコールと鎖状長鎖アミドまたは脂肪酸アミドの混合物、例えば、炭素数約6〜約24で、PARICIN9(プロピレングリコールモノヒドロキシステアレート)、PARICIN13(グリセロールモノヒドロキシステアレート)、PARICIN15(エチレングリコールモノヒドロキシステアレート)、PARICIN220(N(2−ヒドロキシエチル)−12−ヒドロキシステアラミド)、PARICIN285(N,N‘−エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアラミド)、FLEXRICIN185(N,N‘−エチレン−ビス−リシノールアミド)などを含む混合物などが挙げられる。さらに、炭素数約4〜約16の鎖状長鎖スルホン、例えば、ジフェニルスルホン、n−アミルスルホン、n−プロピルスルホン、n−ペンチルスルホン、n−ヘキシルスルホン、n−ヘプチルスルホン、n−オクチルスルホン、n−ノニルスルホン、n−デシルスルホン、n−ウンデシルスルホン、n−ドデシルスルホン、n−トリデシルスルホン、n−テトラデシルスルホン、n−ペンタデシルスルホン、n−ヘキサデシルスルホン、クロロフェニルメチルスルホンなどが、好ましいインクベヒクル材料である。
【0015】
本発明のインクベヒクルは、一つまたはそれ以上の前記好適な材料から構成し得る。本明細書で用いるとき、一つまたはそれ以上や、少なくとも一つ、というのは、本明細書に開示の所与の機能を1〜約10、例えば、1〜約8、または1〜約5の数だけ有することを称する。
【0016】
本発明のインクベヒクルは、インクの約25重量%〜約99.5重量%、例えば、約30重量%〜約90重量%、またはインクの約50重量%〜約85重量%から構成し得る。
【0017】
相変化型インクの多くのインクベヒクルが有する導電率は、実質的にゼロである。従って、導電率向上剤をインクベヒクルに添加して、整合性ある導電率をインクに付与し得る。この導電率は、インクジェット装置のインク溜のレベルセンサ用に用いる入力信号として使用される。
【0018】
相変化型インクが顔料や染料などの着色剤やドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)を含んでいる場合は、相変化型インクの従来のコンポーネントが導電率に寄与していた可能性がある。しかし、導電率向上剤としてこれらの成分を利用することには、問題が多い。
【0019】
着色剤は、インクにある種のカラー(明度、彩度、および色調)を与えるが、このカラーはインク中の染料濃度に依存する。最終インクのカラー領域が指定されてしまえば、インク中の着色剤濃度を変えることによって導電率を調整することは、極めて困難であるし、または単に実際的でないといえる。さらに、多くの着色剤の溶解度は、分子の双極子モーメントが相当程度大きいので、インクベヒクルの非極性マトリクス混合物中では限定的である。換言すれば、インクベヒクル中の着色剤の濃度は、無限には増加し得ず、増加しようとすれば液相状態で相分離が生ずる危険を冒すことになる。さらに、すべての着色剤がインク処方物に導電率を同じ程度に増加するとは限らないし、多くは導電率に全く影響を与えないものである。従って、導電率を付与するために着色剤を使用することは、実際的でなく、このやり方では、整合性、かつ信頼性ある導電率を有するインクは得られないのである。
【0020】
DDBSAは最初、マゼンタインク向けのプロトン供与現像剤として使用され、また安価かつ極めて強力な導電率向上剤としてインクに使用されてきている。相変化型インクに容易に溶解するけれども、多くの欠点も有する。DDBSAの欠点としては以下が挙げられる。(1)DDBSAは、比較的低濃度でも印字ヘッドの重要な機械部分を化学的に侵し、印字ヘッドの寿命を相当程度短くする。(2)DDBSAは常温で液体であるので、インク処方物を可塑化する危険性がある。(3)DDBSAは、操作温度下で液化したインクの粘度に影響し、従って、処方に当たって追加的対策が必要とされる。(4)DDBSAは、より高い濃度で分解と劣化が生じるので寿命が限定される。
【0021】
従って、好適な導電率向上剤が依然として所望されている。実施の形態では、本発明の導電率向上剤は、有機の塩基と酸から形成される有機の塩である。本発明の導電率向上剤は、他の導電率向上剤(例えば、DDBSA)とは相異なり、プリンタ部分(例えば、インクジェット装置の印字ヘッドまたはインク溜)に悪影響を及ぼさない。
【0022】
導電率向上剤の有機塩の有機塩基は、有機アミンであり、少なくとも一本の長い炭化水素鎖を有する有機アミンとし得る。「長い炭化水素鎖」は、例えば、炭素数約10〜約50、例えば、炭素数約15〜約40、または炭素数約15〜約30のリニア型または枝分かれカ型カーボンアルキルまたはアリール鎖のことを称する。有機塩の長い炭素鎖を使用すると、インクベヒクルに容易に混和せることが可能となる。
【0023】
本発明に使用に好適な有機塩の例は、以下の一般式を有する第三級アミン化合物から誘導され、次のトリヘキサデシルアミン(ARMEEN(登録商標)316、分子量689):
【化1】

を含み得る。
【0024】
実施の形態において、前記有機塩は、トリオクタデシルアミン、トリドデシルアミン、トリテトラデシルアミン、トリエイコシルアミン、トリドコシルアミン、トリテトラコシルアミン、さらにジドデシルオクタデシルアミン、ジドコシルテトラコシルアミン、ジテトラコシルテトラデシルアミンのような混合形アミンなど、およびアリール−脂肪族系化合物、例えば、次のジ(1−デシル−4−ノニル−フェニル)ドコシルアミン:
【化2】

または、下に示される4−ノニルフェニルジオクタデシルアミン:
【化3】

から誘導し得る。
【0025】
実施の形態では、本発明の有機塩は、第一級、第二級、または第三級のアミンとし得る。好適な第一級アミンの例は、次の一般式で表し得る。
【化4】

式中、Xは約1〜約50,例えば、約10〜約40、または約12〜約30の整数で、これは、例えば、ヘキサデシルアミンである。
【0026】
好適な第二級アミンの例は、次の一般式で表し得る。
【化5】

式中、Xは約1〜約50,例えば、約10〜約40、または約12〜約30の整数で、これは、例えば、ジ−オクタデシルアミンである。
【0027】
酸は、上記の有機塩基と反応し、有機の塩を形成する。酸アニオン中の高い電気陰性度を有する置換基、例えば、フッ素原子は、酸と塩基との間の反応を容易にし、大量の分子状アニオンとカチオンとを生成するのに、望ましい。これらの分子状アニオンとカチオンは、印加された外部電気界で、電荷のキャリアとして機能し得る。酸アニオンの置換基は、これを分子中のある種の官能基の十分に近くに配置すると、潜在的に酸であるO−HまたはC−H結合から電子を引き離し得る。これにより、正に帯電した水素原子(プロトン)を分子から容易に分離することが可能となる。これらの易動性プロトンは次いで塩基の分子に結合し、当該塩基の分子カチオンを形成する。従って、酸の分子に電気陰性度の高い置換基が存在すると、中性の酸と塩基との平衡を帯電された化学種の方向にシフトする傾向が生じ得る。すると今度は、これらの帯電された化学種が、電荷を有するキャリアのソースとなり得るのである。
【0028】
別の一つの点は、本発明の使用に好適な酸の分子イオンが、高い移動度を有するので、相変化型インクの導電率が向上するということである。この高い移動度は、分子量が小さいイオンを使って達成可能である。しかし、分子量が小さいイオンを使用すると、有機塩の溶解度が減少する。従って、分子イオンのサイズは、相変化型インクに存在する有機塩の溶解度を維持するに十分でなければならず、同時に、相変化型インクの導電率を向上するために十分な移動度を維持しなければならない。
【0029】
本発明に使用し得る好適な酸生成の分子イオンの例としては、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、およびトリフルオロメタンスルホン酸のような酸のイオンが挙げられる。そのような酸は、約25〜約250、例えば、約25〜約225、または約50〜約250の分子量を有し得る。
【0030】
約120℃の定温下における本発明の有機塩の半減期は、約15日〜約250日、例えば、約20日〜約225日、または約20日〜約200日と見積もられている。これは、本明細書に開示の導電率向上剤が、長期間安定し続けることを示す。これと比較すると、DDBSAの半減期は約3日である。従って、本発明の導電率向上剤は、活性が継続し、長期間、すなわち、一般にプリンタの運転期間を超える期間にわたってプリンタ内の導電率センサによって検出可能である。
【0031】
本明細書に開示の相変化型インクは、一つの種類の有機塩、または一つまたはそれ以上の種類の好適な有機塩の混合物、例えば、約1〜約10、例えば、約1〜約4または約1〜約2の種類の有機塩混合物から構成し得る。個々の有機塩は、例えば、インクの約0.001重量%〜約8重量%、例えば、約0.1重量%〜約5重量%または約0.25重量%〜約5重量%の効果的量でインクに存在する。
【0032】
本明細書に開示の有機塩は、高イオン移動度を備える分子に十分に解離することによって高導電率を相変化型インクに付与する。特に、本発明の有機塩は、イオン、すなわち、アニオンとカチオンに解離し、インクジェット装置の運転に当たって高導電率を相変化型インクに付与する。
【0033】
本明細書に開示の導電率向上剤を有する相変化型インクの導電率は、約0.01μS/cm〜約5μS/cm、例えば、約0.05μS/cm〜約4μS/cm、または約0.09μS/cm〜約2.5μS/cmとなり得る。導電率は、どのような既知の方法によっても測定でき、本発明では、約120℃の溶融条件の下で、溶融したインクにチタン電極を設置し、60Hzの周波数でRosemount型1054BLC導電率計の抵抗率出力を読むことによって測定される。一般に、ある材料の伝導率は、抵抗率の逆数ということで測定し得る。電気抵抗率は、材料に特有で、温度に依存する測定値であり、電気抵抗を表す値である。
【0034】
本明細書に開示の有機塩は、相変化型インクの非極性有機環境の中で可溶性であり、インクジェット装置の動作中にサーマル安定性を示し、室温でワックスのような固体であり、印刷後の固形インクの機械的耐久性に好影響を与え得るものであり、相変化型インクに見出される有機塩に接触する可能性のあるプリンタ部分を腐食・侵食しないものである。
【0035】
本発明の相変化型インクは、また、少なくとも一つの種類の着色剤、例えば、1〜約10、例えば、1〜約4、または1〜約2の種類の着色剤を含有する。着色剤は、インクに所望の量、典型的にはインクベヒクルまたはインクベヒクル/推進剤の約0.5〜約75重量%、例えば、インクベヒクルまたはインクベヒクル/推進剤の約1〜約50重量%の所望量で存在する。
【0036】
好適な着色剤の例としては、顔料、染料、顔料と染料の混合物、顔料の混合物、染料の混合物などが挙げられる。どのような染料または顔料でも選択し得るが、条件としては、インクベヒクル中に溶解または分散し得て、他のインクコンポーネントと相溶性であるということである。
【0037】
任意選択として、相変化型インクに、推進剤を含有させることが可能である。相変化型インク向けに好適な推進剤は、好適な量、例えば、インクの約10〜約90重量%、例えば、約20〜約50重量%の量で存在し、一般に約50℃〜約150℃、例えば、約80℃〜約120℃の沸点を有する。別の実施の形態では、推進剤は、一般に、約180℃〜約250℃、例えば、約200℃〜約230℃の沸点を有する。さらに、インクの運転温度で液状態の推進剤の表面張力は、約20〜約65ダイン/センチ、例えば、約40〜約65ダイン/センチを有すれば、詰替の速度、紙の濡性、およびカラー混合性を向上し得る。さらに、推進剤は、理想的には、インクの動作温度で約1〜約20cP、例えば、約1〜約15cPの粘度を有すれば、詰替性、噴出性、および基板貫通性を向上し得る。推進剤は、また、溶融状態でサーマル安定性を備えることによって、ガス状生成物を生成したり、ヒータ堆積物を形成したりするような分解を防止し得る。
【0038】
実施の形態のインクは、さらに従来の添加物を含有し、そのような従来の添加物に関連した既知の機能を活用し得る。そのような添加物としては、例えば、殺菌剤、脱泡剤、スリップ・レベリング剤、可塑剤、顔料分散剤、粘度調整剤、酸化防止剤、吸収剤などが挙げられる。
【0039】
任意選択の殺菌剤は、インクの約0.1〜約1.0重量%の量で存在し得る。さらに、分散剤や界面活性剤のような他の任意選択の添加物は、一般に約0.01〜約20重量%の量で存在し得る。可塑剤も、インクベヒクルに添加し得て、インクのインクベヒクル成分の約1%〜100%を構成し得る。可塑剤は、インクベヒクルとして機能するし、あるいは、一般に極性であるインク推進剤と、一般に非極性であるインクベヒクルとの間に相溶性を生じさせる添加剤としても機能し得る。
【0040】
インクに任意選択で加えられる酸化防止剤は、画像を酸化から防止し得るが、同時にインク溜で加熱された溶融物として存在する際のインク成分を酸化から防止し得る。
【0041】
インクは、UV吸収剤も任意選択で含有し得る。任意選択のUV吸収剤は、主に、印刷後の画像をUV劣化から保護するものである。存在するとき、任意選択のUV吸収剤は、インクに、例えば、インクの重量基準で約1%〜約10%、またはインクの重量基準で約3%〜約5%の所望の量または効果的な量で存在し得る。
【0042】
相変化型インク組成物は、すべての構成成分(有機の塩基と酸はそれぞれ個々の成分と考えられる)を混合し、得られた混合物を少なくともその融点、例えば、約50℃〜約120℃に加熱し、さらにこの混合物を、例えば、約5秒〜約10分以上攪拌し、実質的に均一、均質な溶融物を得ることによって調製し得る。顔料が、選択された着色剤であるときは、溶解混合物は、摩砕装置またはボールミル装置で粉砕操作にかけ、顔料をインクベヒクル中によく分散させる。形成完了後は、インクは、室温、例えば、約23℃〜約27℃に冷却すれば、インクジェット装置に直ちに使用し得る。
【0043】
選択肢として、本明細書に開示の相変化型インクは、最初に有機塩を生成することによって調製し得る。先ず、有機塩基を、約80℃〜約160℃、例えば、約85℃〜約150℃、または約90℃〜約140℃の温度にて溶融する。有機塩基の溶融後、有機塩基を攪拌し、酸を添加する。有機の塩基と酸とが溶融している混合物は、有機塩基が約60重量%〜約95重量%、例えば、溶融している混合物中に有機塩基が約63重量%〜95重量%、または約68重量%〜約95重量%から成る。溶解している混合物の残りの部分は、酸から成る。有機塩基のカチオンは、酸のアニオンと反応し、本明細書に開示の有機塩を形成する。溶融物は、約5分〜約2時間、例えば、約10分〜約1.5時間、または約15分〜約1時間そのまま保持される。このように生成された溶融状態の有機塩を、冷却し、固化する。次いで、得られた有機塩を溶融状態のインクベヒクルに添加する。
【0044】
印刷画像の形成は、本明細書に記載のインクをインクジェット装置、例えば、サーマル式インクジェット装置、アコースティック式インクジェット装置、または圧電気式インクジェット装置に装填し、同時的に溶融状態のインクの粒子を基板、例えば、紙やOHPフィルム用紙にパターン状に吐出することによって行われ、これが、画像として認識され得る。インクは、一般に、インクを吐出するためのインクジェットヘッドの吐出チャネルとオリフィスに好適な供給装置で接続された少なくとも一個のインク溜に装填される。インク吐出を行う段階で、インクジェットヘッドは、好適な方法でインクの吐出温度に加熱し得る。従って、相変化型インクは、固体の状態から溶融の状態に変換され、吐出される。インクジェット装置のコンポーネント、例えば、吐出チャネルやオリフィスの数を記載するのに用いられる少なくとも一つ、または一つまたはそれ以上は、インクジェット装置に見出されるそのようなコンポーネントを1〜約200万の数だけ、例えば、約1,000〜約150万、または約10,000〜約100万の数だけ有することを称する。インクジェットヘッド、インク溜、供給装置などのようなインクジェット装置の他のコンポーネントを記載するのに用いられる少なくとも一つ、または一つまたはそれ以上は、インクジェット装置に見出されるそのようなコンポーネントを1〜約15、例えば、1〜約8、または1〜約4の数だけ有することを称する。
【0045】
本発明のインクは、間接的(オフセット)印刷方式のインクジェット用途にも採用し得る。この方式では、溶融状態のインクの粒子が画像パターンで記録基板の上に噴出されるとき、当該記録基板は、中間転写部材であって、画像パターンのインクは、その後中間転写部材から最終的記録基板、例えば、紙やOHPフィルム用紙に転写される。
【0046】
本明細書に開示の導電率向上剤を有する相変化型インクは、どのようなインクジェット装置でも利用可能であり、特に、少なくとも一つのインク溜に残存するインク量の決定のためにインク溜のインク導電率を測定する装置に使用するのに好適である。本明細書の開示内容を限定するものではないが、各カラー、例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イェローに対するインク溜は各々、電極を備えたセンサを具備していると考えられる。プリンタ内で、これらの電極は、モニタリング装置に接続されている。モニタリング装置は、電圧を電極に印加して、コンダクタンス、従って導電率を測定する。測定されたコンダクタンスは、次いで、プリンタのプロセッサ装置のメモリに記憶されている数値と比較される。コンダクタンスの測定された値と記憶された値との差が、閾値より小さくなれば、ある信号が、インクジェット装置のヒータ装置に送られ、ヒータ装置は、固形インクを溶融し、インク溜に流し込む。これは、上記の差が最小限またはゼロになるまで行われる。
【0047】
総括すると、導電率測定値が、時間に関して統計的分布をしていると考えられるとき、時間に関して一定とされ得る平均値と標準偏差で導出される変動とが得られる。導電率の平均値(および所望の狭い範囲の変動)を用いると、インク溜内のセンサ(複数を含む)は、満杯と空の状態を区別可能である。空が、インク溜で測定されると、追加的インクの液化が行われ、空のインク溜に供給し得る。本明細書に開示の添加物は、使用に当たって、時間に関して安定な導電率の測定値が得られ、一方、インクの成分とインクジェット装置の部分に対しては中性で影響を与えない。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を変えない限り、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0049】
(実施例1)
前もって溶融したARMEEN 316(MW=689)約100gを磁石式攪拌羽根装備の236.56mLフラスコに装入した。フラスコを100℃の油浴に配置し、攪拌を始めた。トリフルオロ酢酸(MW=114)約16.5gを慎重に添加した。激しい気泡の発生が観察された。約1/2時間攪拌した後、内容物をアルミニウム型に注入し、固化させた。
【0050】
(実施例2)
前もって溶融したARMEEN 316(MW=689)約50gを磁石式攪拌羽根装備の118.28mLフラスコに装入した。フラスコを100℃の油浴に配置し、攪拌を始めた。メタンスルホン酸(MW=96)約7.0gを慎重に添加した。激しい気泡の発生が観察された。約1/2時間攪拌した後、内容物をアルミニウム型に注入し、固化させた。
【0051】
(実施例3)
前もって溶融したARMEEN 316(MW=689)約47gを磁石式攪拌羽根装備の118.28mLフラスコに装入した。フラスコを100℃の油浴に配置し、攪拌を始めた。トリフロオロメタンスルホン酸(MW=150)約10.0gを慎重に添加した。激しい気泡の発生が観察された。約1/2時間攪拌した後、内容物をアルミニウム型に注入し、固化させた。
【0052】
(実施例4)
POLYWAX(登録商標)を基剤とする相変化型インクのキャリア(以下特にインクキャリアと称する)397gを、溶融するまで全部で約2.5時間約135℃の温度にてオーブンで加熱した。この時間の後、同液状インク基剤を加温した(例えば、約120℃)金属ビーカーに注いだ。次いでビーカーを120℃に予熱したマントルに設置し、上記液状インク基剤の攪拌を直ちに開始した。10分後、サーマル平衡に達したので、導電率計プローブを上記インク溶融物に挿入した。導電率計プローブを上記インク溶融物に挿入したことで、温度は120℃以下に低下した。約30分のさらなる待機時間の後、サーマル平衡が再び達し、ベースラインの導電率値0.0023μS/cmが測定された。
【0053】
その後、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフロオロメチルスルホネートを上記インク溶融物に添加し、導電率測定を行った。添加量を増やして試験を幾つか実施した。
【0054】
上と同じ手順を行って、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネート(前記インクキャリア397gに混合、インク基剤導電率0.0021μS/cm)と、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテート(前記相変化型インクキャリア336.5gに混合、インク基剤導電率0.0022μS/cm)と、DDBSA(参照として使用、前記インクキャリア402gに混合、インク基剤導電率0.0025μS/cm)とに関して、それぞれ導電率測定を行った。
【0055】
(実施例5)
インクキャリア各々400gの5バッチを、全部で約2.5時間溶融するまでオーブンで加熱した。その後、個々の液状インク基剤を、個々の加温した(例えば、約120℃)金属ビーカーに注いだ。次いで、個々のビーカーを、120℃に予熱したマントルに設置し、前記液状基剤を直ちに攪拌した。サーマル平衡が達成した後、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートを添加した。添加量は、次のように幾つか量を変えて行った。
【0056】
(1)1g、インクキャリア中のトリフルオロアセテート0.25重量%溶液となる。(2)3.02g、インクキャリア中のトリフルオロアセテート0.75重量%溶液となる。(3)5.06g、インクキャリア中のトリフルオロアセテート1.25重量%溶液となる。(4)10.26g、インクキャリア中のトリフルオロアセテート2.5重量%溶液となる。(5)21.05g、インクキャリア中のトリフルオロアセテート5.0重量%溶液となる。
【0057】
上記溶液をさらに約45分間攪拌し、次いでアルミニウム皿に注ぎ、固化させた。
【0058】
(実施例6)
マゼンタPOLYWAX(登録商標)を基剤とする相変化型インク(マゼンタインク)409.5gを、溶融するまで全部で約2時間約135℃までオーブン装置で加熱した。この時間の後、前記インクを加温した(例えば、約120℃)金属ビーカーに注いだ。次いでビーカーを120℃に予熱したマントルに設置し、上記液状インクを直ちに攪拌した。約25分後、サーマル平衡に達したので、21.55gのトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートを添加した。次いで、このマゼンタインク中のトリフルオロアセテート5重量%溶液をさらに2時間120℃で攪拌し、その後アルミニウム皿に注いで固化した。
【0059】
この手順をさらに2回、すなわち、(1)マゼンタインク414.75gとトリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネート21.83gと、(2)マゼンタインク417.65gとトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロメチルスルホネート21.95gとを使用して行って、マゼンタインク中で各塩の濃度が5重量%となる溶液を得た。
【0060】
(実施例7)
120℃で攪拌しながら、予め処方した量のDDBSAを相変化型インクキャリア402gに数段階に分けて添加した。インクキャリアは、上の実施例4に記載のように調製したものであった。約30分間待った後、導電率を測定し、さらに次の段階の量のDDBSAの添加した。添加したDDBSAの量、DDBSAの濃度、および導電率の測定値は、以下の表1に要約される。
【0061】
【表1】

【0062】
(実施例8)
120℃で攪拌しながら、予め処方した量のトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロメチルスルホネートをインクキャリア397gに数段階に分けて添加した。インクキャリアは、実施例4に記載のように調製したものであった。約30分間待った後、60Hzの周波数でローズマウント(Rosemount)型1054BLC導電率計を用いて導電率を測定し、さらに次の段階の量のトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロメチルスルホネートを添加した。添加したトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロメチルスルホネートの量、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロメチルスルホネートの濃度、および導電率の測定値は、以下の表2に要約される。
【0063】
【表2】

【0064】
これと同一の手順を、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートとトリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネートに対して行った。結果は、以下の表3と表4に要約される。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
(実施例9)
実施例4に略記された手順に従い、インクキャリア中のDDBSA溶液を調製した。その初期導電率は、120℃で1.52μS/cmであった。この溶液を、約120℃の温度に保持し、約6日間攪拌した。その間、導電率を不規則な時間間隔で測定した。導電率は、そのような過濃度の溶液では時間が経過するにつれて減少した。反応速度モデルの時定数は、約0.24日−1が最も適合した値となり、半減期は、約2.7日と決定された。
【0068】
(実施例10)
実施例4に略記された手順に従い、インクキャリア中のトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロメチルスルホネート溶液を調製した。その初期導電率は、120℃で1.08μS/cmであった。この溶液を、約120℃の温度に保持し、約5日間攪拌した。その間、導電率を不規則な時間間隔で測定した。
【0069】
反応速度モデルの時定数は、約0.011日−1が最も適合した値となり、半減期は、約63日と決定された。
【0070】
(実施例11)
実施例4に略記された手順に従い、インクキャリア中のトリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネート溶液を調製した。その初期導電率は、120℃で0.38μS/cmであった。この溶液を、約120℃の温度に約6日間保持した。その間、導電率を不規則な時間間隔で測定した。
【0071】
反応速度モデルの時定数は、約0.0048日−1が最も適合した値となり、半減期は、約143日と決定された。
【0072】
実施例9、10、および11に記載の試験と同様な試験をトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートに対して実施した。試験結果に基づき、導電率低下挙動に対する簡単な反応速度モデルのパラメータが計算された。得られたモデルパラメータは、以下の表5に要約される。
【0073】
【表5】

【0074】
表5に示されるデータは、インクキャリア中のDDBSA溶液と比較するとき、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネートとトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロスルホネート溶液の導電率の表示値が高い安定性を有することを示す。
【0075】
上記の有機塩の目的の一つは、ホットメルト型インクにある種の安定な導電率を与えることである。従って、これら有機塩がインクの他の特性に与える影響は相対的には重要ではない。
【0076】
以下の実施例は、多岐にわたる添加物と、それらがインク特性に及ぼす影響を詳細に示す。
【0077】
(実施例12)
ダイナミック振動シアー・タイムスキャンをTAインスツルメンツ社(TA Instruments,Inc.)製のARES(Advanced Rheometric Expansion System)レオメータで行った。コーン&プレート型式を使用した。上記のダイナミック振動シアー・タイムスキャンは、140℃にて実施例5で得られた溶液5例と、導電率向上添加物を含まないインクキャリアについて行った。50mm直径のコーンとプレートのコンビネーションを使って行った。歪みは約70%、周波数は約5ラジアン/秒であった。各組成物について測定は3回行った。平均複素粘度は表6に示される。
【0078】
【表6】

【0079】
以前に、純粋なトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートの複素粘度を、約140℃で同じダイナミックパラメータを使って測定した。その時測定値は、5.90センチポアズ(cP)であった。従って、新しい添加物がインク基剤処方物に粘度を低下させる効果を与えることは予期可能であった。
【0080】
表6のデータが証明するのは、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートが、140℃で極めて僅かの粘度低下効果しか有しないことで、約0.04cP/重量%しかならないことである。
【0081】
(実施例13)
定常シアー・レート・ランプ・スキャンをTAインスツルメンツ社(TA Instruments,Inc.)製AR−100レオメータで100℃にて、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテート、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネート、およびトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロスルホネートを各5重量%含有した実施例6で得られた溶液と、導電率向上添加物を含有しないマゼンタインクキャリアについて行った。40mm直径のコーンとプレートのコンビネーションを使って行った。速度は約1,000〜約39秒―1で変化させて行った。各組成物について2回のスキャンを行って測定した。平均粘度値は表7に示される。
【0082】
【表7】

【0083】
以前に、純粋なトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテート、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネート、およびトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロスルホネートについて約110℃でシェア粘度を測定した。その時、10.8、21.4、および22.5cPの値がそれぞれ測定された。このデータに基づいて、表7に正または負の粘度増加率が示される。トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートに関しては、約110℃で粘度への影響がほとんど存在しないことが分かる。
【0084】
(実施例14)
RSAIIソリッドアナライザ(レオメトリック科学(Rheometric Scientific)社製)を用いるダイナミックメカニカルアナリシス(DMA)温度スキャンを1Hzの周波数で実施例5から得られた溶液5例全部と純粋な相変化型キャリアとに付いて行った。デュアルカンチレバー形式を用いた。各組成物について測定はそれぞれ2回行った。tanδ対温度曲線の最高点を決定し、最高点の温度をガラス転移温度としてレポートした。平均ガラス転移温度を以下の表8に列挙する。
【0085】
【表8】

【0086】
表8のデータが示すのは、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートが相変化型インクキャリアのガラス転移温度に与える比較的強い低下効果があるということで、約−0.61K/wt%(ケルビン/重量%)に達している。この添加物は、インク基剤を効果的に軟化する傾向を有する。これは、未修飾のインク基剤で測定された値と比較して、そのような添加物を含む溶液について測定された貯蔵弾性係数(E')が低いことによって確認される。
【0087】
(実施例15)
DMA温度スキャンを1Hzの周波数で、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテート、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネート、およびトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロスルホネートを各5重量%含有した実施例6で得られた溶液3例すべてと、導電率向上添加物を含まないマゼンタインクの参照サンプルとについて行った。デュアルカンチレバー形式を用いた。各混合物についてスキャンは1回測定した。同インクのサーモメカニカル挙動はtanδ−曲線に最高点が二つ存在することが特徴で、ガラス転移温度が二つあることを示す。両ガラス転移温度、および添加物との混合によるガラス転移温度増加率を表9に示す。
【0088】
【表9】

【0089】
表9のデータが示唆するのは、インクのガラス転移温度に対してはトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートが強い影響を有し、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロスルホネートの方は、比較的に弱い影響を有するということである。
【0090】
堅牢性は、固形インクの望ましい特性で、媒体に接触したときに示される耐久性と直接に比例する特性である。簡単な言葉で言えば、堅牢性が大きければ大きいほど、耐久性が大きく、媒体上のインク性能が優れているということである。
【0091】
堅牢性の大きさは、DMA測定結果を半対数グラフにプロットしたtanδ対温度曲線の下の領域である。この計算された領域のサイズが、堅牢性に直接比例する。
【0092】
(実施例16)
DMA温度スキャンを1Hzの周波数で実施例5から得られた溶液5例全部と純粋な相変化型キャリアとに付いて行った。デュアルカンチレバー形式を用いた。各組成物について測定は各2回行った。tanδ対温度曲線の下の領域を決定し、インク堅牢性の大きさとしてレポートした。それぞれの曲線の下の平均領域を、以下の表10に列挙する。
【0093】
【表10】

【0094】
表10のデータが示すのは、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートが相変化型インクキャリアに与える堅牢性の低下効果が弱く、約−0.32単位/重量%になっていることである。添加物は、考慮の濃度範囲ではインク基剤の堅牢性に与える影響はほとんど有しないが、5重量%超の濃度ではインク基剤は、より脆くなる可能性もある。
【0095】
(実施例17)
DMA温度スキャンを1Hzの周波数で、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテート、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネート、およびトリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロスルホネートを各5重量%含有した実施例6で得られた溶液3種すべてと、導電率向上添加物を含まないマゼンタインクの参照サンプルとについて行った。デュアルカンチレバー形式を用いた。各混合物についてスキャンは1回測定した。インク堅牢性は、tanδ曲線で二つの最高点の下の領域を積分することによって決定された。このことについては、実施例15で言及済みである。インク堅牢性、および新しい添加物と混合することによって生ずる堅牢性の増加率は、以下の表11に示される。
【0096】
【表11】

【0097】
表11のデータが示唆するのは、3つの添加物すべてにおいてインク堅牢性に及ぼす影響は弱く、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロアセテートとトリ−ヘキサデシルアンモニウム−メチルスルホネートとはインクをより脆くする弱い傾向があり、トリ−ヘキサデシルアンモニウム−トリフルオロスルホネートは、インクをより強靱にする弱い傾向があるということである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクベヒクルと、少なくとも一つの着色剤と、導電率向上剤とを有する相変化型インクにおいて、前記導電率向上剤が有機の塩であることを特徴とする相変化型インク。
【請求項2】
インクジェットシステムが、
インクベヒクルと有機の塩である導電率向上剤とを有する少なくとも一個の相変化型インクと、
前記少なくとも一個の相変化型インク用の一本またはそれ以上の本数のチャネルからなるインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドの前記一本またはそれ以上の本数のチャネルに前記少なくとも一個の相変化型インクを装填する一個またはそれ以上の個数のインク溜から前記少なくとも一個の相変化型インクを供給する供給通路とを備えるインクジェット装置と、
を備え、前記一個またはそれ以上の個数のインク溜が、内部に前記少なくとも一個の相変化型インクの導電率を測定するセンサを装備することを特徴とするインクジェットシステム。
【請求項3】
画像を形成する方法が、
インクベヒクルと、少なくとも一つの着色剤と、有機の塩である導電率向上剤とから成る相変化型インクを、インク溜で加熱するステップと、
前記加熱されたインクを、インクがゲルを形成する第二温度に維持されている画像受理基板に噴出するステップと、
を含み、インク溜が、インク溜内部にインクの導電率を測定するセンサを備え、インクの前記測定された導電率が、インク溜のレベルを示す値と比較され、インク溜に送られるインクの追加が、前記測定された導電率とインクレベルを示す前記値との比較に応答して継続または停止されることを特徴とする画像形成方法。

【公開番号】特開2007−297626(P2007−297626A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118907(P2007−118907)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】