説明

相転移物質からなる弁及びその製造方法

【課題】相転移物質からなる弁及びその製造方法を提供する。
【解決手段】チャンネル内の所定領域に充填されて凝固した相転移物質、前記相転移物質が凝固した前記所定領域の両端部分に設けられた、前記チャンネルよりも広い横断面を有する拡管領域と、を備えることを特徴とする相転移物質からなる弁である。かかる構造の弁は、相転移物質が既定された位置に正確に凝固されて製作されるので、これを採用すれば、所望の時点において正確に弁を開放することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギーで溶解することによって、閉鎖されていたチャンネルを開放して、流体が流出できるようにする相転移物質からなる弁とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、血液検査のような生化学反応実験では、試験液である血液を比重の異なる成分ごとに相分離させ、試薬を投与して所望の成分の性状を変化させてみるなど、多くの段階の処理工程を経て所望の結果物を得る。しかし、このような一連の工程を手作業で一段階ずつ処理するとすれば、長時間がかかるだけでなく、次の工程に進むために試験液を移す都度、誤差成分が含まれる可能性が非常に高くなるため、最近では図1に示すような、このような一連の過程を一箇所で、自動的かつ迅速に行えるようにするための生化学反応用チップ10が多く利用される。
【0003】
このチップ10の内部には、試験液1と試薬2とを流すためのチャンネル13が形成されており、所望の時点において試験液1と試薬2とをチャンネル13を経て流出させることにより上記の一連の工程を一度に実行する。例えば、相分離された試験液1のうちの上層の液体に試薬2が混合された後、流出口12から結果物が流出する簡単なシーケンスは次のように実行される。すなわち、試験液1を注入口11から注入した後に、モータ14を稼動してチップ10を回転させると、対象液1が遠心力を受けて相分離される。このとき、相分離が完了する前に試験液1がチャンネル13に流出してはならないので、相転移物質からなる弁15aでチャンネル13を塞ぎ、相分離が完了した時点で弁15aを開放する。このような弁15aは、ワックスのような疎水性物質をチャンネル13内の所定領域に充填して凝固させたものであり、熱エネルギーによってワックスが溶解してチャンネル13を開放する。したがって、対象駅1の相分離が完了して、上層に所望の成分が集まるのに十分な時間が経過したときに、レーザーダイオード16で弁15aにレーザー光を照射して弁15aを溶解する。それにより、チャンネル13が開放され、試験液1中の上層の液体がチャンネル13を通って流出する。さらに、試薬2が流出しないようにチャンネル13を塞いでいた相転移物質からなる弁15bをレーザー照射で溶解すると、試験液1と試薬2とが混合して所望の結果物が生成し、流出口12から流出する。このような一連の工程は、コントローラ(図示せず)によって自動的に制御されるので、作業者は、試験液1を注入口11に注入した後に装置を作動させるだけで、自動的に処理工程を進行させて結果物を得ることができるようになる。
【0004】
一方、このような一連の自動工程が円滑に進められるためには、前記相転移物質からなる弁15a、15bが所望の時点において正確に開放される必要があるが、そのためには、弁15a、15bは、既定の箇所に既定のサイズで正確に凝固していなければならない。すなわち、前述のように、弁15a、15bの開放は、レーザーダイオード16からレーザー光を照射して熱エネルギーで溶解することによって実行されるが、レーザーダイオード16から照射されるレーザー光のフォーカシング領域は弁15a、15bのサイズより少し大きくなるように設定され、レーザー光は既定の領域を正確に照射するように自動制御される。したがって、もし、弁15a、15bが既定の領域から外れた位置に凝固しているか、または既定のサイズよりも大きいサイズで凝固している場合には、レーザー光を照射してもチャンネル13が完全に開放されないという問題がある。
【0005】
この問題は、ワックスなどをチャンネル13内の所定領域に注入して弁15a、15bを製造する場合に頻繁に発生する。例えば、図2Aのように、領域L内に正確に弁を形成しようとして、注入口10aからワックス15を注入しても、実際には図2Bのように(図2Cは、図2Bの状況を実際に撮影した写真である)、片側に寄った状態で凝固するか、または図2Dのように、意図したよりも大きく拡大した領域に亘って凝固する場合が多い。これを解決するためには、ワックス15注入後、外部からその凝固位置を再調整する操作を付加的に実行しなければならず、弁形成作業が非常に難しくて複雑になるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題点を勘案して創出されたものであって、外部からの付加的な操作を別途実行しなくても所望の位置に正確に形成できるように改善された相転移物質からなる弁と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の相転移物質からなる弁は、チャンネル内の所定領域に充填されて凝固する相転移物質からなる管状領域と、前記管状領域の両端部分に設けられ、前記チャンネルの横断面よりも広い横断面を有する所定領域に充填されて凝固した相転移物質からなる拡張領域と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記目的を達成するための相転移物質からなる弁の製造方法は、チャンネル内の、相転移物質を注入して凝固させる所定領域の両端部分に、前記チャンネルの横断面よりも広い横断面を有する拡張領域を形成するステップと、前記拡張領域内に前記相転移物質を注入して凝固させるステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
前記拡張領域は、四角形、V字形、U字形、及び蟻溝(dovetail)形状のうち、少なくとも1つの水平断面形状を含み、前記相転移物質は、ワックス、ゲル、及び熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の相転移物質からなる弁は、相転移物質が既定の位置に正確に凝固することにより製作されるので、これを採用すれば、弁の開放を所望の時点において正確に行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の望ましい実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図3、図4A、および図4Bは、本発明による相転移物質からなる弁110が採用された生化学反応用チップ100の主要部の斜視断面図、平面図、及び実際の撮影写真をそれぞれ示す図である。
【0013】
本発明の相転移物質からなる弁110は、相転移物質の一つであるワックス111をチャンネル120内の所望の領域に充填して凝固させた後、必要に応じて熱エネルギーを加えて溶解することによりチャンネル120を開放するという従来技術と同様の基本構造を備えている。しかしながら、本発明による相転移物質からなる弁110は、ワックス111が充填される領域の両端部分に、チャンネル120よりも広い横断面を有する拡管領域130を形成した点を特徴とする。このように、両端部分に拡管領域130を形成する理由は、ワックス111が既定の領域からはみ出ないように、正確にその領域内に凝固させるためである。すなわち、ワックス111が充填される領域の両端部分に拡管領域130を設けると、溶融状態のワックス111が注入後にチャンネル120内を流動しても、その拡管領域130に到達するとそこで停止しそれ以上流動しない。これは、ワックス111は、チャンネル120の壁面に沿って流動するが、拡管領域130に到達すると、チャンネル120の横断面の面積が急激に大きくなるため、ワックス111の周囲には突然に大きな空間が出現することになるが、この状態になると、溶融状態のワックス111の先端が、図4A及び図4Bに示すように表面張力によって円形に凝集して流れを停止するためである。したがって、ワックス111は、拡管領域130によって区画された領域の外端からはみ出すことなく、その領域の内部に充填され、一定時間が経過すると凝固する。これにより、所望の領域内で正確にワックス111が凝固して弁110が形成されるので、レーザー光を照射してワックス111を溶融することにより、正確な弁の開放操作が可能になる。
【0014】
このような本発明の弁110を製造する際には、図3に示すように基板101にプレス工程などによって拡管領域130を備えたチャンネル120を形成し、その上部をカバー102で覆った後、注入口103から溶融ワックス111を注入する。その後、チャンネル120内を流れる溶融ワックス111は前記拡管領域130で停止し、その状態のまま凝固して弁110を形成する。
【0015】
したがって、このように正確な領域に配置された弁110を有するチップ100を用いて実験を行なえば、所望の時点においてレーザー光を照射することで当該弁110を正確に溶融してチャンネル120を開放することが可能になるので、実験を精密かつ正確に進めることができる。
【0016】
一方、本実施形態では、拡管領域130の水平断面が四角形を含む場合を例示したが、必要に応じて、図5A及び図5Dのように水平断面がU字形を有する拡管領域131、図5B及び図5Eのように水平断面がV字形を有する拡管領域132、図5C及び図5Fのように水平断面が蟻溝(dovetail)形状を有する拡管領域133のような多様な形状が採用されうる。図面から分かるように、拡管領域は、チャンネルの両側に左右対称に形成されてもよく、片側にのみ形成されてもよい。
【0017】
そして、相転移物質としては、ワックス以外にも、ゲル及び熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方が選択されうる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、生化学反応用チップ関連の技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の相転移物質からなる弁が採用された生化学反応用チップを示す図である。
【図2A】図1に示す弁の製造時に発生する問題点を説明する図である。
【図2B】図1に示す弁の製造時に発生する問題点を説明する図である。
【図2C】図1に示す弁の製造時に発生する問題点を説明する図である。
【図2D】図1に示す弁の製造時に発生する問題点を説明する図である。
【図3】本発明による相転移物質からなる弁を示す図である。
【図4A】図3に示す弁の平面図である。
【図4B】図3に示す弁の中心部分を撮影した写真である。
【図5A】図3に示す弁の変形例を示す図である。
【図5B】図3に示す弁の変形例を示す図である。
【図5C】図3に示す弁の変形例を示す図である。
【図5D】図3に示す弁の変形例を示す図である。
【図5E】図3に示す弁の変形例を示す図である。
【図5F】図3に示す弁の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
100 生化学反応用チップ、
101 基板、
102 カバー、
103 注入口、
110 弁、
111 ワックス、
120 チャンネル、
130 拡管領域、
131 拡管領域、
132 拡管領域、
133 拡管領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンネル内の所定領域に充填されて凝固した相転移物質と、
前記相転移物質が凝固した前記所定領域の両端部分に設けられた、前記チャンネルよりも広い横断面を有する拡管領域と、を備えることを特徴とする相転移物質からなる弁。
【請求項2】
前記拡管領域の水平断面は、四角形、V字形、U字形、及び蟻溝(dovetail)形状のうち、少なくとも1つの形状を含むことを特徴とする請求項1に記載の相転移物質からなる弁。
【請求項3】
前記相転移物質は、ワックス、ゲル、及び熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載の相転移物質からなる弁。
【請求項4】
チャンネル内の、相転移物質を注入して凝固させる所定領域の両端部分に、前記チャンネルよりも広い横断面を有する拡管領域を形成するステップと、
前記チャンネル内の、前記拡管領域どうしの間の領域に前記相転移物質を注入して凝固させるステップと、を含むことを特徴とする相転移物質からなる弁の製造方法。
【請求項5】
前記拡管領域の水平断面は、四角形、V字形、U字形、及び蟻溝(dovetail)形状のうち、少なくとも1つの形状を含むことを特徴とする請求項4に記載の相転移物質からなる弁の製造方法。
【請求項6】
前記相転移物質は、ワックス、ゲル、及び熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項4または5に記載の相転移物質からなる弁の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図2C】
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【図4B】
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【公開番号】特開2007−303674(P2007−303674A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74854(P2007−74854)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】