説明

真空コーティング設備の中で物体を旋回させるための装置、真空コーティング設備の中で物体を旋回させるための方法ならびに装置および方法の使用

本発明は、真空コーティング設備の中で物体(12)を旋回させるための装置に関する。この装置は、支持体(2)上で回転軸(23)を中心として回転自在に取り付けられている、物体(12)のためのホルダ(10)と、力発生器による回転軸(23)を中心とした回転によってホルダ(10)を旋回させる旋回手段(2,4,28)と、を具備する。本発明では、旋回手段(2,4,8)が、機械的な連結なしに、および旋回手段(2,4,8)とホルダ(10)との間の可動な機械的な構成部材なしにホルダ(10)を旋回させる力を発生させることが提案されている。本発明は、物体(12)を旋回するための対応の方法に関し、特に眼科用のプラスチックレンズ(12)を旋回するための装置または方法の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を、特に、例えばレンズのような光学素子あるいは例えばドリルのような非光学素子を、コーティング前にまたはコーティング中にまたはコーティング後に真空コーティング設備の中で旋回させるための請求項1の前提部に記載の装置、この物体を真空コーティング設備の中で旋回させるための請求項21に記載の方法ならびに装置および方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
真空コーティング設備は、ここでは、真空条件、特に高真空条件下で複数の物体をコーティングすることができる設備を意味する。この設備には、例えば、カソードスパッタリング設備(スパッタリング設備)、蒸着設備または化学的な気相蒸着設備が属する。
【0003】
光学素子は、以下、規定に従って、電磁放射線、例えば、可視光、紫外線または赤外線を吸収し、伝達し、反射し、屈折しまたは散乱する機能を有する物体を意味する。光学素子には、特に、レンズ、例えばメガネレンズまたはコンタクトレンズが属する。更に、平面光学素子および円形光学素子、プリズム、球面レンズまたは非球面レンズ、丸みのあるレンズ、楕円形のレンズ等も光学素子に属する。非光学素子は、以下、他の種類の実用品を意味する。ツールまたはツールの部品、例えばドリルまたは設備の部品を例示しよう。
【0004】
只の回転過程とは逆の物体の旋回は、以下、物体の、コーティング源に向いた上面が変化してなる過程を意味する。只の回転過程では、コーティング源に向いた面が、コーティング源に対し自らの位置を変化するが、引き続きコーティング源に向いたままである。180°の旋回後に、光学素子の裏面が、コーティング源に向いている。
【0005】
以下、本発明を、眼科用のプラスチックレンズを旋回するための装置および方法を例に説明する。しかしながら、眼科用のプラスチックレンズの代わりに、他の物体も、装置によっておよび方法によって旋回することができる。
【0006】
メガネレンズをコーティングするために、薄い光学層がレンズの表面に塗布される。コーティング層は、高真空設備において製造される。この目的のために、従来の方法で、光学的に有効な材料を、高真空中で、蒸着源から蒸着し、スパッタリング源からスパッタリングし、レンズの表面に析出する。レンズは、ホルダリングにあるか、締め付けられた状態で締付リングにあり、各々のレンズ面は、蒸着源またはスパッタリング源に向けられている。リング(レンズホルダ)は、通常、支持プレートの、挿入のための切り欠きに挿入される。支持プレートは、蒸着源の上方に半球体状に取り付けられており、回転装置によって半球体の対称軸を中心として回転する。この場合、支持プレートは、半球体のセグメントを形成し、あるいは、只1つのプレートの場合には、半球体自体である。締付リングの使用の際には、レンズホルダは、締め付けられたレンズと共に、静的に支持プレートにあり、第1のレンズ面のコーティング後に、第2のレンズ面のコーティングのために、レンズと共に手動で旋回される。このプロセス技術は、一般的に高い収率を達成することを特徴とする。高い収率に寄与するのは、レンズが、真空チャンバにおける機械的に可動の構成部材の磨耗粒子による汚染に晒されていることなく、一般に、真空プロセスを通過することである。
【0007】
レンズホルダのための自動旋回装置は、第1のレンズ面のコーティング後に、手動での旋回のために真空チャンバを換気し、続いて新たに真空にする必要なしに、レンズを旋回することを可能にする。このことによって、プロセスおよび設備の型に応じて、レンズの両面のコーティングのために必要な全加工時間が著しく短縮されることができる。しかし、通常の旋回装置は、真空内でのコーティング過程のために、複数の欠点、例えば、真空内の追加の表面、追加の摩擦面、真空チャンバにおける追加の所要面積、追加の洗浄コストおよび設備の追加の複雑さを伴う。
【0008】
レンズを自動的に旋回するためには、多数の機械的に作用する旋回装置が提案された。例えば、DE 39 21 672 C2からは、レンズホルダである、ばね付きのリング対を有し、高真空蒸着設備の中で、レンズ、特にメガネレンズを保持しかつ旋回するための装置が公知である。レンズホルダは、半球体状の支持プレートに、回転軸上に取り付けられる。歯車がしっかり接続した状態でこの回転軸にあって、回転軸は、直角に湾曲したフィンガで終わっている。フィンガは、支持プレート上に載り、かくて、軸の回転可能性を約180°に限定する。支持プレートの上方にあるレーキ(Rechen)の、歯車への機械的な作用の故に、回転軸を回転することができる。レンズホルダは、レンズと共に旋回される。半球体の反転のたび毎の、繰り返される機械的な接触を回避するために、旋回過程のために、個々のレンズホルダのほかに、レーキも機械的に動かされる。
【0009】
更に、DE 37 15 831 A1からは、半球体のセグメントが旋回され、セグメントにしっかり取り付けられたレンズホルダは、旋回前および旋回後に蒸着源に関して夫々のレンズ面の出来る限り良い方向づけを維持するために、自らの回転軸を中心として極僅か傾動してなる真空コーティング設備が公知である。
【0010】
US 3,396,696は、磁石によって多数のレンズホルダを旋回する装置を開示する。レンズホルダは、回転可能な支持体に取り付けられている。支持体の静止の際に、磁石によって、夫々に割り当てられた駆動装置によってレンズホルダを旋回させるシャフトを動かすことができる。
【0011】
更に、蒸着設備において蒸着のために用いられる面の大部分を要する多数の機械的な旋回装置が知られている。所要面積の大きさに関連した容量の減少は、レンズの両面のコーティングの全工程の短縮という利点を妨げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】DE 39 21 672 C2
【特許文献2】DE 37 15 831 A1
【特許文献3】US 3,396,696
【発明の概要】
【0013】
従って、旋回装置を有しない支持プレートの方法技術的な利点が、旋回装置による処理量の増大という利点に結びつけられていてなる装置および方法を提供するという課題が、本発明の基礎になっている。更に、装置および方法の特に適切な使用を提示することが意図される。
【0014】
この課題は、真空コーティング設備の中で、物体、特に眼科用のプラスチックレンズを旋回するための、請求項1の特徴を有する装置によって、真空コーティング設備の中で、物体、特に眼科用のプラスチックレンズを旋回するための、請求項21の特徴を有するための方法によって、ならびに、請求項25に記載の本発明に係わる装置および方法の使用によって解決される。
【0015】
本発明の好都合な実施の形態および改善は、従属請求項に記載されている。
【0016】
従って、本発明は、真空コーティング設備の中で物体、特に眼科用のプラスチックレンズを旋回させるための装置を提案する。この装置は、支持体上で回転軸を中心として回転自在な、特に回転自在に取り付けられた、物体のためのホルダと、回転軸を中心としたホルダの回転のために必要な力発生器を有し、回転軸を中心とする回転によってホルダを旋回させる旋回手段と、を具備する。旋回手段、あるいは力発生器は、上に略述した従来の技術とは逆に、旋回手段とホルダの間の機械的な連結なしにホルダを旋回させる力を発生させる。眼科用のプラスチックレンズのための旋回手段の場合には、従って、力発生器とレンズホルダとの間の、および/または力発生器とレンズとの間の機械的結合が存在しないし、あるいは、力発生器と、レンズホルダ場合によってはレンズとの間に力を伝達するための、機械的に可動な構成部材場合によっては構成要素が設けられていない。この場合、支持体自体が旋回されることなく、ホルダを旋回するための支持体が可動である。この代わりにまたは追加的に、ホルダを旋回するための力発生器は、(例えば、支持体自体が旋回されなくても)、ホルダの回転軸に対して相対的に可動である。
【0017】
例えば具体的には、回転軸を中心として旋回可能であり、かつ、高真空設備のプロセスチャンバに設けられた回転可能な支持体に取り付けられているレンズホルダを有し、レンズ、特に、高真空蒸着設備または高真空スパッタリング設備の中でコーティングされるメガネレンズを保持しかつ旋回するための装置から出発するとき、本発明に基づいて提案されていることは、回転可能な支持体を駆動するための力のほかに、締め付けられたレンズを有するレンズホルダを、自身の回転軸を中心として回転させるために必要である力が、力発生器とレンズホルダとの間に、あるいは力発生器とレンズとの間の機械的な結合なしに伝達されることである。第1に、支持プレートを、比較的小さくて、簡単な、非可動の構造体であって、旋回装置を有しない類似の半球体に比較して容量を減少しないか僅かしか減少しない構造体によって、改良することができる。第2に、旋回運動のための力を、追加の機械的に可動な構成部材なしに、レンズホルダへ伝達することができる。第3に、レンズホルダの回転の際に摩擦面および摩擦力を、磨耗粒子によるレンズの汚染が無視できるほどに、小さく保つことができる。ホルダを完全に旋回するために、追加的に、回転可能な支持体の回転運動、あるいはホルダの回転軸に対する力発生器の相対運動が用いられるのであって、支持体自体が旋回されることはない。
【0018】
これに応じて、真空コーティング設備の中での、物体の、特に、眼科用のプラスチックレンズの旋回は、本発明では、以下のステップで、すなわち、
a)物体を、支持体上で回転軸を中心として回転可能な、例えば、回転自在に取り付けられたホルダによって、保持すること、
b)回転軸を中心とした回転によって、物体を保持するホルダを旋回すること、によって、なされる。この場合、物体を保持するホルダの旋回は、ホルダとの機械的な連結なしに力によって実行される。回転軸を中心としたホルダの回転は、力発生器によって発生された力によってなされる。この力は、機械的に可動な構成要素なしに、ホルダに伝達される。この場合、ホルダを旋回するための支持体は、支持体自体が旋回されることなく、例えば直線運動または回転運動されることが可能である。この代わりにまたは追加的に、ホルダの回転軸に対してホルダを旋回するための力発生器は、例えば直線運動または回転運動することができる。
【0019】
旋回装置とホルダの間の機械的な連結なしにホルダを旋回させる力は、特に慣性力を含むことができる。その代わりにまたは追加的に、この力は、永久磁石の、または、電流によって励起された磁石コイルの磁力も含むことができる。第1の場合には、ホルダは、ホルダが自らの慣性の結果として旋回するように、加速または減速される。第2の場合には、ホルダは、磁気相互作用によって旋回される。2つの変形例は、旋回過程のための無接触の力の伝達を特徴とする。真空コーティング設備に、コーティングされる物体を備えることは、このような方法で非常に容易化される。何故ならば、機械的な接続を形成する必要がないからである。つまりは、機械的な結合の形成は、手動のみで行なわれることができるので、時間がかかり、エラーを生じ易い。
【0020】
特に好都合な実施の形態では、回転可能な支持体、特に半球体が設けられている。支持体には、ホルダが回転軸を中心として回転自在に取り付けられている。支持体の回転運動を、物体を保持するホルダを旋回するために用いることができる。当然ながら、支持体は、例えば、この支持体が、連続コーティング設備の構成要素であるときは、直線的に動くように実行されることができる。
【0021】
第1の変形例では、締め付けられた物体と共にホルダを自身の回転軸を中心として回転させるために必要な力を、支持体の運動の(例えば、支持体が回転可能であるときの回転運動の、または支持体が直線的に可動であるときの直線運動の)マイナスのまたはプラスの加速によって、引き起こすことができる。換言すれば、支持体が、慣性の結果として、自らの回転軸を中心として回転され、その際に、保持された物体を旋回するように、支持体を、例えば回転状態でまたは線状に加速または減速することができる。この変形例は、該変形例が、上記のタイプの従来の装置において容易に実行することができることを特徴とする。この目的のためには、通常は、回転可能な支持体の適切な起動で十分である。
【0022】
この変形例の特に好都合な実施の形態は、物体を保持するホルダの重心が、ホルダの回転軸の中心点よりも高い位置にあることを引き起こすことにある。例えば回転可能なまたは直線可動な支持体の加速または減速の際に、従って、支持体が、不可避的に、他の外力なしに、自らの回転軸を中心として、所望の方向に回転する。
【0023】
第2の変形例では、締め付けられた物体と共にホルダを自身の回転軸を中心として回転させるために必要な力を、磁気相互作用によって、引き起こすことができる。換言すれば、例えば、支持体を、運動の際に(例えば回転運動または直線運動の際に)、力の磁場によって動かすことができる。ホルダが、支持体の運動(例えば回転運動または直線運動)の際に、ホルダが旋回されるように、磁気力と相互作用することが提案されている。その代わりに、磁気的な力発生器を(例えば回転状態でまたは線状に)動かすことができる。力発生器とホルダの回転軸との間の相対運動のみが基準となる。この変形例も、上記タイプの従来の設備が、簡単な変更によって、改良されることが可能であることを特徴とする。
【0024】
磁力を発生させるために、前に既に示したように、磁気コイルおよび/または永久磁石を用いることができる。永久磁石は、ホルダ(または保持される物体)にならびにこのホルダとの距離をあけて、取り付けられる。他方、磁気コイルは、磁気コイルの通電に基づき、好ましくはホルダとの距離をあけて設けられる。但し、磁気コイルをホルダに設けることも、所定の適用の場合、利点を有するとしても、である。磁気コイルおよび/または永久磁石および/またはホルダにおける磁化可能部分の、磁気コイルおよび/または永久磁石および/またはホルダからの距離をあけた磁化可能部分との相互作用は、ホルダを旋回させるために用いられる。
【0025】
磁気コイルおよび/または永久磁石が、(特に、下方から上方へコーティングがなされるとき)、(例えば回転可能な)支持体の上方に取り付けられていることは好ましい。一方では、かくして、磁気コイルおよび/または永久磁石によってコーティングが阻止または少なくとも減少され、他方では、そこに、磁気コイルおよび/または永久磁石を設けるための十分なスペースがある。上方から下方へコーティングがなされる稀な場合には、磁気コイルおよび/または永久磁石を支持体の下方にあることは好ましい。
【0026】
従来の設備一般と同様に、ホルダは、物体を環状に取り囲むように保持する保持リングを有することができる。磁気コイルおよび/または永久磁石によって磁場線の下方出口面で取り囲まれた面が、保持リングによって囲まれた面の少なくとも0.2倍であることは好ましい。この措置は、ホルダに作用する磁場強度の、距離に従った出来る限り僅かな低下のための十分な条件である。このことは、同様に、旋回過程のために必要な磁場強度の達成に関する磁場発生器の設計を容易ならしめる。
【0027】
磁気的相互作用に基づく旋回装置の、特に好都合な変形例では、ホルダが、磁化可能な、特に強磁性の部分を有することが提案されている。ホルダの、磁化可能な、特に強磁性の部分は、ホルダの不可欠な構成要素であり、あるいは、単独部材としてホルダに取り付けられていてもよい。
【0028】
ホルダの、磁化可能な、特に強磁性の部分は、ホルダの回転軸によって分割される、ホルダの2つの面のうちの1にのみ位置決めされており、それ故に、この側にのみ、旋回のための磁場が効果的に作用することができ、従って、磁場によって引き起こされる対抗する力が生じないことが、好都合であることが明らかになった。
【0029】
ホルダ自体には磁化可能な、特に強磁性の部分が取り付けられない場合には、磁化可能な、特に強磁性の部分が、物体にも、特に、眼科用のプラスチックレンズに取り付けられていることが可能である。物体自体の、場合によっては存する磁化可能なまたは強磁性の特性を、旋回の前記目的のために使用することも可能である。
【0030】
半球体である支持体の回転を利用して、ホルダの旋回のための力の消費が最小限になるのは、ホルダの回転軸が、支持体の(例えば半球体の)回転線の接線に対し直角にすなわち90°の角度範囲で向けられており、この回転線が、支持体の(例えば半球体の)回転中に、支持体(例えば半球体)に挿入されたホルダの回転軸の中心点の動きによって、生じる仮想の線である場合である。ホルダを支持体(例えば半球体)に取り付けるためには、回転軸の一端または両端に、支持体(例えば半球体)にスペースが必要である。出来る限り多くのホルダを支持体(例えば半球体)に収容するために、従って、スペースの理由から、回転線の接線に対し0°ないし90°の角度範囲でのホルダの回転軸の他の方向づけが好都合である。0°は、上記回転線の接線に対し平行な、ホルダの回転軸の、その方向づけに対応する。
【0031】
ホルダの外側には、2つの向かい合ったハブが取り付けられていることが可能であり、これらのハブは、ホルダの回転軸の両端を形成している。ホルダの外側におけるハブの取付は、ホルダに保持可能なレンズ寸法と、ホルダの、すなわち、支持体におけるホルダの所要面積の寸法との出来る限り大きな割合を作り出すという利点を有する。
【0032】
各々のハブが、軸受の内側にあることは好ましい。各々の軸受は、支持体(例えば半球体)に接続されており、2つの軸受は、ハブの回りで閉じられており、2つの軸受のうちの、支持体上に低い位置にある軸受は、下端に、エンド・キャップを有する。ハブの回りで閉じられている軸受は、旋回過程中に作用する遠心力または磁力による取付状態からのホルダのあり得る外れを防止する。支持体上に低い位置にある軸受の下端に設けられたエンド・キャップは、軸受にあるハブの端部の支持点として用いられる。その目的は、ホルダを、支持体の切り欠きにおける所定の位置に、すなわち、旋回過程がホルダと支持体の間の接触によって阻止されない位置に回転自在に保つためである。
【0033】
高い位置にある軸受が、より低い位置にある軸受のハブよりも長いことは好ましい。何故ならば、このことによって、ホルダの外れに対して保護されており、十分に低い、軸受における、2つのハブの取付が保証される。このことは利点であり得るが、機能性のためには必ずしも必要ではない。高い位置にある軸受に挿入されるハブは、ホルダの挿入の際に、まず挿入され、続いて、第2のハブを、より低い位置にあり、かつ下端に閉じられた軸受の、その開口部の手前に案内する。重力に支援されて、続いて、ホルダは、下方の軸受のエンド・キャップまで案内される。この場合、高い位置にある軸受にあるハブが、低い位置にある軸受の内側長さだけ、高い位置にある軸受から外へ出る。こ支持体を、へ出ることによって、低い位置にある軸受にあるハブの取付の深さが減少される。
【0034】
ホルダの載置面が、支持体に、回転軸に対し直角に非対称的に構成されているので、回転軸に関して、一側が、他側より重く、ホルダの重いほうの側が支持体に載っており、他方、他側が支持体接触しないことが、特に好都合であることが分かった。かようにして、前記面におけるホルダの重心が、回転軸の外側で、ホルダの重いほうの側にある。支持体における一側の載置との組合せにおける重心の位置は、コーティング中の直立または望ましくない旋回を抑制する。但し、支持体(例えば半球体)が、十分に適度な速度で回転するにしても、である。他方で、この重心位置を、直立および続いての旋回のために用いることができるのは、支持体(例えば半球体)が、十分に高い速度で回転され、続いて減速される場合である。
【0035】
支持体に載っている側またはこの側の一部分が、ホルダの磁化可能部分を形成することは好ましい。その目的は、旋回過程の最中に支持体の上方でこの部分を動かすことができるためであり、同様に、支持体の上方に取り付けられた磁場発生器の上記利点を利用するためである。
【0036】
本発明では、前記装置および前記方法を、光学素子の、例えば眼科用のレンズの旋回のために用いることは好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】眼科用のプラスチックレンズを旋回するための本発明に係わる装置を有する、高真空蒸着設備のプロセスチャンバを示す。
【図2】眼科用のプラスチックレンズを旋回するための装置を拡大斜視図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
今や、図面を参照して本発明を詳述する。図1は、メガネレンズ12のための高真空蒸着設備の構造を略示する。横断面で示された真空チャンバ1のカバープレート20には、ドライブ・モジュール3に、レンズホルダ10およびレンズ12を有する半球体2が取り付けられている。ドライブ・モジュールは、半球体2を、対称軸(回転軸36)を中心として回転運動させる。カバープレート20で、半球体2の上方には、更に、1つまたは複数の磁気コイル4が取り付けられている。真空チャンバ1の底部21に位置している蒸着源6から見れば、複数の磁気コイル4はシールド5の後方に位置している。その目的は、磁気コイル4の蒸着を広範囲に回避するためである。蒸着源6には、蒸着材料(図示せず)が、例えば、電気ヒータ(図示せず)によってまたは電子ビーム(図示せず)によって、蒸着または昇華するまで加熱される。真空チャンバ1の側壁22に、開口部7も示されている。開口部は、示されていない真空ポンプシステムに通じている。
【0039】
図2には、半球体2の部分が示されている。半球体2の支持プレート8は、レンズホルダ10のための円形の切り欠き9を有する。切り欠き9は、半球体2の図示した部分に例示されている。切り欠きには、レンズホルダ10がある。レンズホルダは、大きい半リング18と、小さい半リング19と、2つのハブ13,14と、レンズ12が締め付けられてなる締付ばね11とからなる。半リング18,19各々の端部は、ハブ13,14に結合されている。ハブ13,14は互いに向かい合っており、レンズホルダ10の回転軸23の両端を形成する。レンズホルダ10が挿入されているとき、各々のハブ13,14は、軸受15、16の内側にある。軸受は、夫々、支持プレート8に結合されている。支持プレート8に低く位置している軸受16の下端は、エンド・キャップ17で閉じられている。エンド・キャップ17と、ハブ13,14の軸23の回りを閉じている軸受15,16とによって、レンズホルダ10は、特に、半球体2の回転の最中に、切り欠き9の中で、2点24,25に保持される。レンズホルダ10の大きいほうの半リング18は、同時に、強磁性体部分28を形成し、小さいほうの半リング19に比べて大きい質量の故に、レンズホルダ10の重心27を、回転軸23から移動させる。このことによって、大きいほうの半リング18の、支持プレート8への支持部29は、軸受15,16におけるハブ13,14の2つの支持領域30,31のほかに、安定的な3点支持の第3の点26になる。すなわち、大きいほうの半リング18が、3点支持の第3の支持部38を形成する。
【0040】
半球体2の上方には、磁気コイル4が取り付けられている。磁気コイル4と、半球体2、詳しくは、半球体2の、磁気コイル4の直ぐ下方にある切り欠き9との間の間隔は、レンズホルダ10の大きいほうの半リング18の半径33よりも幾らか大きい。それ故に、旋回過程が磁気コイル4の直ぐ下で生じることがある。レンズホルダ10を、組み込まれたレンズ12と共に旋回するためには、十分に強い磁場が、コイル4によって発生される。磁場線(図示せず)は、少なくとも部分的に、半球体2の方向に向いている。半球体2が、ゆっくりと、レンズホルダ10の強磁性体部分28がレンズホルダ10の回転軸23の前に来てなる方向に回転されるときに、レンズホルダ10の反転がなされる。反転がなされるのは、レンズホルダ10が、半球体の回転と共に、作動されたコイル4の下方を移動される場合である。レンズホルダ10が、回転軸23上で回転する。詳しくは、レンズホルダは、磁場線(図示せず)のコースに応じて、コイル4に向けられ、強磁性体部分28が、切り欠き9の、最初の位置に対し反対側に再度載っているまで、レンズホルダは留まっている。
【0041】
強磁性体部分28を、旋回過程の後に、例えば、現存のコイル4を用いた経時的に減少する交番磁場の誘導によって、完全に減磁することができる。
【0042】
レンズホルダ10およびレンズ12のシステムの重心35が、レンズホルダ10の回転軸23の中心点34よりも高い位置にあり、半球体2の回転の際に、回転軸23が、回転方向で重心35の前に来る。このような別の場合には、レンズホルダ10の旋回は、磁場なしにまたは磁場発生器4なしに実行されることができる。詳しくは、半球体の回転が、強く減速され、すなわちマイナスに加速され、マイナスの加速度のベクトルの、重心35に定められておりかつ重力の方向と逆方向に向いている成分の、その値は、重心35に定められた重力加速度の値よりも大きい。その際に結果として生じる力は、レンズホルダ10の180°の回転のための3点支持の第3の支持部38を持ち上げる。旋回過程のこの変形例のためには、3点支持の第3の支持部38が、強磁性である必要はない。
【0043】
旋回過程は、レンズホルダ10およびレンズ12のシステムの重心35に結果として生じる遠心力が、3点支持の第3の支持部18を持ち上げるために十分であるまでに、半球体2の回転速度が増加されることによって、開始することができる。遠心力が増大するとき、レンズホルダは、最初の位置に対し90°の角度で立てられる。続いての半球体の減速の際には、レンズホルダ10の回転が継続されて、第3の支持部18が、図2に示すように、切り欠き32の、最初の位置に対し反対側に再度載っているようになる。
【0044】
本発明は、知られた旋回装置の上記の利点を有する。これに対し、欠点の作用は、欠点の影響が最小限度に減じられるか、あるいは全く無くなる。何故ならば、駆動のための、または力の伝達のための可動部材が用いられないからである。詳しくは、知られた旋回装置の比較した利点が、以下の点によって達成されるのである。
【0045】
本発明では、摩擦面が最小限に減じられる。摩擦面は、蒸着源6に対し遮蔽されている領域に位置しており、機械的にごく僅かに荷重を受ける。それ故に、本発明に係わる使用では、摩擦による剥がしによるレンズ12の汚染が、生じない。定期洗浄のコストは、旋回機構を有しない設備のためのコストに著しく対応している。半球体2の全重量は、旋回機構を有しない装置のための全重量よりもごく僅かしか大きくない。基板2上で装置のために追加的に必要なスペースは、比較的少ない。それ故に、容量は僅かしか減少されないし、あるいは全く減少されない。
【符号の説明】
【0046】
1 真空チャンバ
2 半球体
3 ドライブ・モジュール
4 磁気コイル
5 シールド
6 蒸着源
7 開口部
8 支持プレート
9 切り欠き
10 レンズホルダ
11 締付ばね
12 眼科用のプラスチックレンズ
13 ハブ
14 ハブ
15 軸受
16 軸受
17 エンド・キャップ
18 大きいほうの半リング
19 小さいほうの半リング
20 カバープレート
21 底部
22 側壁
23 回転軸
24 第1の点
25 第2の点
26 第3の点
27 レンズホルダの重心
28 強磁性体部分
29 支持部
30 支持部
31 支持部
32 支持部
33 大きいほうの半リングの半径
34 回転軸の中心点
35 レンズおよびレンズホルダのシステムの重心
36 回転軸
37 回転線
38 支持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空コーティング設備の中で物体(12)を旋回させるための装置であって、
支持体(2)上で回転軸(23)を中心として回転自在である、前記物体(12)のためのホルダ(10)と、
前記回転軸(23)を中心とした前記ホルダ(10)の回転のために必要な力発生器を有し、前記回転軸(23)を中心とする回転によって前記ホルダ(10)を旋回させる旋回手段(2,4,28)と、を具備する装置において、
前記力発生器(2,4,8)は、機械的に可動な構成部材なしに前記力発生器(2,4,28)から前記ホルダ(10)へ伝達される、前記回転軸(23)を中心とした前記ホルダ(10)の回転のための力を発生させること、および、
前記ホルダ(10)を旋回させるための前記支持体(2)は、この支持体(2)自体が旋回されることなく、可動でありおよび/または前記ホルダ(10)をこのホルダ(10)の回転軸に対し相対的に旋回させる力発生器が可動であることなく、可動であることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記力は慣性力を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記支持体(2)は直線的に可動または回転自在に形成されており、前記支持体(2)の直線運動または回転運動(ω)は、前記ホルダ(10)が旋回されるように、加速可能または減速可能であることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記物体を保持する前記ホルダ(10)の重心(35)は、前記ホルダ(10)の前記回転軸(23)の中心点(34)よりも高い位置にあることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記力は磁気力を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載の装置。
【請求項6】
前記支持体(2)は、直線的に可動または回転自在に形成されており、前記ホルダ(10)は、前記支持体(2)の直線運動または回転の際に、前記ホルダ(10)が旋回されるように、前記磁気力と相互作用することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記磁気力を発生させるために、磁気コイル(4)および/または永久磁石が設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
前記磁気コイル(4)および/または前記永久磁石は、前記支持体(2)の上方に取り付けられていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記ホルダ(10)は、大きいほうの半リング(18)および小さいほうの半リング(19)を含み、これらの半リングは、両端で互いに結合されており、その結果、前記物体(12)を環状に囲むように保持していることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1に記載の装置。
【請求項10】
前記磁気コイル(4)および/または永久磁石によって磁場線の下方出口面で取り囲まれた面が、前記大きいほうの半リング(18)および前記小さいほうの半リング(19)の組合せによって囲まれた面の少なくとも0.2倍であることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記ホルダ(10)は、磁化可能な、特に強磁性の部分(28)を有することを特徴とする請求項5ないし10のいずれか1に記載の装置。
【請求項12】
前記ホルダ(10)の前記磁化可能な、特に強磁性の部分(28)は、前記ホルダ(10)の不可欠な構成要素であり、あるいは、単独部材として前記ホルダ(10)に取り付けられていることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記ホルダ(10)の前記磁化可能な、特に強磁性の部分(28)は、前記ホルダ(10)の唯一の部分(28)として磁化可能、特に強磁性であることを特徴とする請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
前記ホルダ(10)の前記磁化可能な、特に強磁性の部分は、前記物体(12)、特に、眼科用のプラスチックレンズ(12)に取り付けられていることを特徴とする請求項5ないし13のいずれか1に記載の装置。
【請求項15】
前記ホルダ(10)の前記回転軸(23)は、前記支持体(2)の回転線(37)の接線に対し、0°ないし90°の角度範囲で向けられており、この回転線(37)は、前記支持体(2)の回転(ω)中に、前記支持体(2)に挿入されたホルダ(10)の前記回転軸(23)の中心点(34)の動きによって、生じる仮想の線であることを特徴とする請求項3ないし14のいずれか1に記載の装置。
【請求項16】
前記ホルダ(10)の外側には、2つの向かい合ったハブ(13,14)が取り付けられており、これらのハブは、前記ホルダ(10)の前記回転軸(23)の両端を形成していることを特徴とする請求項1ないし15のいずれか1に記載の装置。
【請求項17】
各々のハブ(13,14)は、前記支持体(2)に夫々接続されている軸受(15,16)の内側に位置しており、2つの軸受(15,16)は、前記ハブ(13,14)の回りで閉じられており、前記2つの軸受(15,16)のうちの、前記支持体(2)上に低い位置にある前記軸受(16)は、下端に、前記低い位置にある前記軸受(16)を支持するエンド・キャップ(17)を有することを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
高い位置にある前記軸受(15)にあるハブ(13)は、前記低い位置にある軸受(16)のハブ(14)よりも長いことを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記ホルダ(10)の一部分は、前記軸受(15,16)に設けられた前記ハブ(13,14)の2つの支持領域(30,31)のほかに、前記支持体(2)上の3点支持部(24,25,26)の第3の点(26)として用いられる支持部(38)として、デザインされていることを特徴とする請求項17または18に記載の装置。
【請求項20】
前記支持部(38)は、前記磁化可能な、特に強磁性の部分(28)によって形成されていることを特徴とする請求項19に記載の装置。
【請求項21】
真空コーティング設備の中で物体(12)を旋回させるための方法であって、以下のステップ、すなわち、
支持体(2)上で回転軸(23)を中心として回転可能なホルダ(10)によって前記物体(12)を保持すること、および
前記物体(12)を保持する前記ホルダ(10)を、前記回転軸(23)を中心とした回転によって旋回させること、を有する方法において、
力発生器(2,4,22)によって発生され、かつ機械的に可動な構成部材なしに前記ホルダ(10)に伝達される力によって、前記ホルダ(10)を、前記回転軸(23)を中心として回転させること、および
前記ホルダ(10)を旋回させるための前記支持体(2)を、この支持体(2)自体を旋回することなくおよび/または前記ホルダ(10)をこのホルダ(10)の回転軸(23)に対し相対的に旋回させる力発生器(4)を動かすことなく、動かすことを特徴とする方法。
【請求項22】
前記ホルダ(10)を、このホルダ(10)がその慣性に結果として旋回するように、加速または減速することを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ホルダ(10)を磁気的相互作用によって旋回することを特徴とする請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記支持体(2)を回転状態にまたは直線的に動かすことを特徴とする請求項21ないし23のいずれか1に記載の方法。
【請求項25】
光学素子、特に眼科用のレンズ(12)を、コーティング前におよび/またはコーティング中におよび/またはコーティング後に真空コーティング設備の中で旋回させるための、請求項1ないし20のいずれか1に記載の装置のまたは請求項21ないし24のいずれか1に記載の方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−501734(P2010−501734A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525968(P2009−525968)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007522
【国際公開番号】WO2008/025519
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(509060202)
【氏名又は名称原語表記】Macionczyk Frank
【住所又は居所原語表記】Weingartenstr. 77, 73447 Oberkochen, Germany
【Fターム(参考)】