説明

真空ポンプ段

【課題】粘性流れ範囲内においてのみならず、分子流れ範囲内においてもまた、圧縮および排気速度を有する真空ポンプ段を提供する。
【解決手段】粘性流れ範囲内においてのみならず、分子流れ範囲内においてもまた、圧縮および排気速度を有する真空ポンプ段を提供するために、ロータ部分が構造要素(114、116)を有し、これらの構造要素により、分子流れ範囲内においてはゲーデ(Gaede)に基づくポンプ作用が発生され、およびより高い圧力範囲内においてはサイド・チャネル原理に基づくポンプ作用が発生されることが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の真空ポンプ段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの工業プロセスは、分子流れ範囲内の真空条件下で行われる。このような真空条件を発生するために、真空ポンプまたは真空ポンプから構成された真空ポンプ・スタンドが使用される。真空ポンプ内においては、ガスを希望の最終真空から大気まで圧縮するために、異なる圧力範囲に適合された、異なる作動原理に基づく真空ポンプ段が使用される。
【0003】
大気に向けて圧縮するときには、例えばサイド・チャネル・ポンプ段が使用される。サイド・チャネル・ポンプ段内において、羽根はチャネル内を円運動し、且つ入口および出口間で渦巻状のガス流れを供給する。ガス流れは円運動をするときに羽根に追従し、且ついわゆるスクレーパにおいて剥離されて出口に供給される。この原理に基づいて形成されたポンプ段は、粘性流れ範囲内においてのみ作動し、分子流れへの移行においては、渦巻状のガス流れがもはや発生可能ではないので、きわめて急速に圧縮および排気速度を失うということが欠点である。
【0004】
粘性流れ範囲に隣接する分子範囲のきわめて低い絶対圧力においては、特にゲーデ(Gaede)ポンプ段が使用される。圧縮および排気速度は分子条件下においてのみ良好であり、且つ粘性範囲内においては圧縮および排気速度がきわめて急速に低下することがゲーデ・ポンプ段の欠点である。
【0005】
真空ポンプはしばしばサイクル運転で使用されるので、上記の欠点は厳しくなり、したがって、個々のポンプ段は、全運転期間において、しばしば、それが最適ではない流れ範囲内において作動することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、粘性流れ範囲内においてのみならず、分子流れ範囲内においてもまた、圧縮および排気速度を有する真空ポンプ段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴を有する真空ポンプ段により解決される。従属請求項2−7は有利な変更態様を与える。
請求項1の特徴を有する真空ポンプ段は、粘性流れ範囲内においてのみならず、分子流れ範囲内においてもまた、圧縮および排気速度を有している。したがって、この真空ポンプ段は、両方の流れ範囲内において、およびそれらの間の移行範囲内において使用可能であることが有利である。
【0008】
請求項2−4に記載の変更態様は、構造要素が低コストで製造可能であるので有利である。
請求項5に記載のように、ロータ・ディスクの面内にロータ部分の構造要素を配置することは、好ましい質量分布が存在するので、製造上有利であるばかりでなく、ロータの動特性においても有利である。さらに、ガス流れにより対称の力が発生する。
【0009】
請求項6および7に記載の真空ポンプは、ゲーデ段またはサイド・チャネル段を有する真空ポンプ段に比較して、圧縮経過および排気速度特性に基づいてより低い有利な電力消費を特徴とする。
【0010】
実施例およびそれらの変更態様に基づき、本発明を詳細に説明し且つそれらの利点を解明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ロータ部分および構造要素を有する真空ポンプ段の断面図を示す。
【図2】図2は、第2の実施例によるロータ部分内構造要素の展開図を示す。
【図3】図3は、第2の実施例によるロータ部分内構造要素の断面図を示す。
【図4】図4は、第3の実施例によるロータ部分内構造要素の展開図を示す。
【図5】図5は、第3の実施例によるロータ部分内構造要素の断面図を示す。
【図6】図6は、多段真空ポンプの略断面図を示す。
【図7】図7は、従来技術および本真空ポンプ段の圧縮経過の比較線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す真空ポンプ段100はハウジング102を有している。ハウジング内に入口104が設けられ、入口からガスが真空ポンプ段内に吸い込まれる。真空ポンプ段の内部で供給されたガスは出口106から排出される。入口および出口はチャネル108により相互に結合されている。このチャネル内に、ハウジング内に回転可能に配置されたロータ112がロータ部分を入り込ませ、この場合、チャネルおよびロータ部分は協働してポンプ作用を発生する。ロータ部分は、ロータの回転軸から半径方向に見てチャネルの内側限界118を超えてチャネル内に突出するロータの部分を含む。図1に示す実施例においては、ロータ部分は、構造要素、即ち羽根114および少なくとも1つの平滑部分116により形成される。平滑部分はロータの1つの領域により形成され、この領域は、羽根底半径120を超えて外半径122まで突出し、且つ周囲に沿ってある角度範囲124にわたって伸長する。羽根底半径は、ほぼチャネルの内側限界の半径付近に存在する。外半径は、一方ではスクレーパ110に対して小さい隙間のみを残し、他方ではチャネル深さ126の一部のみが利用されるように選択されている。スクレーパは、ロータ部分において同伴されたガス流れを分離し、且つ入口と出口との間の直接流れを阻止する。平滑部分は、分子流れ範囲内において、チャネルと協働して圧縮および排気速度を発生し、且つゲーデの原理に基づいて作動する。羽根114は、粘性流れ範囲内において、チャネルと協働するサイド・チャネル・ポンプ構造として作動する。
【0013】
複数の平滑部分が、質量平衡が得られるようにロータの周囲にわたって分配されることが有利である。これは、例えば、向かい合う2つの平滑部分によって達成される。さらに、この形態は、羽根および平滑部分の寸法が、向かい合うそれぞれの質量の値が一致するように決定されることにより、改良可能であることは有利である。
【0014】
このようなロータの製造は、例えば、はじめに中実ディスクが製造され、中実ディスクから複数の羽根が鋸引きにより削り出されるので、コスト的に有利である。平滑部分の範囲内においては、鋸引きによる削り出しが不要である。
【0015】
一変更態様において、チャネルが、図示のようにディスク面内に配置されず、軸方向にオフセットされて配置されている。このとき、羽根および平滑部分は図面平面から飛び出している。
【0016】
次に、第2の実施例を図2および3により説明する。図2にチャネルおよびロータ部分が展開図で示され、図3は線I−I′による断面図を示す。
ハウジング202内に、チャネル深さ226をもつチャネル208が設けられている。チャネルの内側限界218を超えてロータ部分がチャネル内に入り込んでいる。チャネル内に、構造要素として羽根214が設けられ、羽根はロータの回転によりチャネル内を円運動する。羽根は運動方向に厚さ228を有している。羽根の少なくとも1つは、次の羽根との間隔230の約1/5より大きい厚さを有している。この厚さにより、チャネル壁240、242および244に向かい合う羽根表面250、252および254は、分子流れ範囲内において、ゲーデ・ポンプ構造のように作動する。粘性流れ範囲内においては、ロータ部分は羽根によりサイド・チャネル・ポンプ段として作動する。この場合もまた、他の2つの例で説明したように、チャネルがロータの面234に対して軸方向にオフセットされて配置されていてもよい。このとき、構造要素は、図においてロータの横の左側または右側に配置されている。しかしながら、ロータ動特性を改善するために、構造要素特に羽根214をロータ212の面234内に存在するように配置することが有利である。これは、質量分布および作用力に関して有利である。
【0017】
一変更態様において、少なくとも1つの羽根214が、次の羽根との間隔230とほぼ同じ厚さまたはそれより大きい厚さを有している。
他の一実施例が図4および5に示されている。図4に、チャネルおよびロータ部分が展開図で示され、図5は線II−II′による断面図を示す。
【0018】
ここでは、ハウジング302内にチャネル308が設けられ、チャネルは、回転軸への方向に内側限界318によって制限される。ロータ部分内に構造要素として羽根314が設けられ、羽根は、粘性流れ範囲内において、サイド・チャネル・ポンプ作用を導く。さらに、ロータ部分はベース・ウェブ340を有し、ベース・ウェブは、内側限界を超えてチャネル内に入り込んでいる。図5の断面図に、ベース・ウェブ高さ332をもつベース・ウェブが内側限界を超えて突出していることが示されている。これにより、ベース・ウェブの側面342はチャネル内を円運動する。側面は、分子流れ範囲内において、チャネル壁と協働してゲーデ・ポンプ段として作動する。この場合もまた、他の2つの例で既に説明したように、チャネルはロータの面334に対して軸方向にオフセットされて配置されていてもよい。このとき、構造要素は、図においてロータの横の左側または右側に配置されている。しかしながら、構造要素即ちベース・ウェブおよび羽根は、ディスク形ロータ312の面334内に存在することが有利であり、これにより、ロータの動特性はより良好となる。
【0019】
一変更態様において、ベース・ウェブは、ロータの周囲の一部に沿ってのみ設けられている。
実施例の個々の手段は組み合わされてもよい。即ち、それにより、分子流れ範囲内においてはゲーデに基づくポンプ作用が発生され、およびより高い圧力範囲内においてはサイド・チャネル原理に基づくポンプ作用が発生される構造要素をロータ部分内に形成するために、ベース・ウェブが、より厚い羽根および/または平滑部分と共に利用されてもよい。
【0020】
上記の形態の有利な作用が、図7の測定曲線から明らかである。それぞれそれらの最大値に正規化された4つの測定曲線が示されている。ゼロ流量における圧縮、即ち、ポンプ段入口からのガス流れなしに測定された、出口圧力の入口圧力に対する比が、背圧に対して示されている。
【0021】
曲線70は純ゲーデ・ポンプ段に対する経過を示す。分子流れ範囲内においては、より急な上昇が観察され、一方、より高い圧力に対して、特に1hPa以上においては、顕著な圧縮が発生していない。
【0022】
曲線72は純サイド・チャネル・ポンプ段の経過を示す。ここでは、圧縮はより高い圧力においてその最大値に到達する。
曲線74は図1に示す平滑部分をもつ実施例に対する圧縮経過を示し、曲線76は図2および3に示す厚い羽根をもつ実施例に対する経過を示す。
【0023】
これらの曲線経過は、実施例に示す形状を使用することにより、分子流れ範囲78内においてのみならず、粘性流れ範囲80内においてもまた、圧縮が達成されることが有利であることを表わす。この圧縮は、分子流れ範囲内においては純サイド・チャネル・ポンプ段よりも良好であり、粘性流れ範囲内においては純ゲーデ段よりも良好である。
【0024】
図6に、上記の真空ポンプ段の利点が特に顕著である真空ポンプ600が、原理構造図で示されている。
真空ポンプのハウジング602内に軸640が設けられ、軸は軸受650および652により回転可能に支持される。軸受は、グリス潤滑またはオイル潤滑の転がり軸受、ガス軸受、滑り軸受または磁気軸受であってもよい。これらの軸受構造形式は混在して使用されてもよく、この場合、オイル等のような潤滑剤は、むしろ、軸受652の側に見られる背圧の範囲内において使用される。
【0025】
ポンプ入口680からガスが真空ポンプ内に流入し、且つ高真空ポンプ段620に到達する。高真空ポンプ段はホルベック・ポンプ段またはターボ分子ポンプ段として形成されていることが有利であり、且つそれ自身多段として形成されていてもよい。これらの個々の段内に異なるポンプ原理が使用されてもよい。高真空ポンプ段の出口622からガスが流出し、且つ多重範囲段610の入口604に到達し、多重範囲段は図1−5に記載のデータに基づいて形成されている。
【0026】
入口604は吸込開口612とガス流れ結合をなしているので、多重範囲段610は、この吸込開口からのみならず、高真空ポンプ段の出口622からもまたガスを吸い込む。多重範囲段内で圧縮されたガスは出口606から排出され、且つ背圧段630に供給される。背圧段はサイド・チャネル・ポンプ段として形成されていることが有利であり、それ自身、複数のポンプ段を含んでいてもよい。ポンプ出口682を通過して、ガスは、真空ポンプから、例えば大気にまたは背圧ポンプへの供給配管内に排出される。
【0027】
ポンプ段610、620および630は駆動手段660により共通に駆動される。
この装置により、多重範囲段は、純ゲーデ・ポンプ段または純サイド・チャネル・ポンプ段よりも、単位消費電力当たり、より良好な圧縮特性および排気速度特性を有する圧力範囲および流れ範囲内において作動することが有利である。
【符号の説明】
【0028】
70 純ゲーデ・ポンプ段に対する経過
72 純サイド・チャネル・ポンプ段の経過
74 平滑部分をもつ実施例に対する圧縮経過
76 厚い羽根をもつ実施例に対する経過
78 分子流れ範囲
80 粘性流れ範囲
100、610 真空ポンプ段(多重範囲段)
102、202、302、602 ハウジング
104、604 入口
106、606 出口
108、208、308 チャネル
110 スクレーパ
112、212、312 ロータ
114、214、314 羽根(構造要素)
116 平滑部分(構造要素)
118、218、318 チャネルの内側限界
120 羽根底半径
122 外半径
124 角度範囲
126、226 チャネル深さ
228 厚さ
230 間隔
234、334 ロータの面
240、242、244 チャネル壁
250、252、254 羽根表面
332 ベース・ウェブ高さ
340 ベース・ウェブ(構造要素)
342 ベース・ウェブの側面
600 真空ポンプ
612 吸込開口
620 高真空側ポンプ段(高真空ポンプ段)
622 高真空側ポンプ段の出口
630 大気側ポンプ段(背圧段)
640 軸
650、652 軸受
660 駆動手段
680 ポンプ入口
682 ポンプ出口
圧縮
p 背圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口(104;604)、出口(106;606)、ロータ(112;212;312)およびチャネル(108;208;308)を備え、この場合、ロータはロータ部分をチャネル内に入り込ませ、且つロータ部分とチャネルとの協働によりポンプ作用が達成され、および
入口と出口との間に配置されたスクレーパ(110)を備えた、真空ポンプ段(100;610)において、
前記ロータ部分が構造要素(114、116;214;314、340)を有し、これらの構造要素により、分子流れ範囲内においてはゲーデ(Gaede)に基づくポンプ作用が発生され、およびより高い圧力範囲内においてはサイド・チャネル原理に基づくポンプ作用が発生されることを特徴とする真空ポンプ段。
【請求項2】
前記構造要素が羽根(114;214;314)を含み、この場合、少なくとも1つの羽根(214)が、次の羽根との間隔(230)の約1/5より大きい厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ段。
【請求項3】
前記構造要素が羽根(114;214;314)を含み、この場合、少なくとも1つの羽根(214)が、次の羽根との間隔(230)と同じ厚さまたはそれより大きい厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ段。
【請求項4】
前記構造要素がベース・ウェブ(340)を含み、ベース・ウェブはチャネル内に入り込んでいることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の真空ポンプ段。
【請求項5】
前記構造要素(114、116;214;314、340)がほぼロータ(112;212;312)の面(234;334)内に存在するように配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の真空ポンプ段。
【請求項6】
真空ポンプが、高真空側ポンプ段(620)と大気側ポンプ段(630)との間のガス流れ内に配置されている、請求項1ないし5のいずれかに記載の真空ポンプ段(610)を含むことを特徴とする真空ポンプ(600)。
【請求項7】
前記真空ポンプ段(610)が、吸込開口(612)および高真空側ポンプ段(620)の出口(622)とガス流れ結合をなしていることを特徴とする請求項6に記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−236900(P2011−236900A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95953(P2011−95953)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(391043675)プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハー (44)
【Fターム(参考)】