説明

真空ポンプ

【課題】ポンプユニットが非正規に分解されるのを、確実に防止することができる真空ポンプの提供。
【解決手段】ポンプユニットは、複数の分解検知用データが記憶されるデータ記憶部452と、ポンプユニットが組立状態から非組立状態になると、データ記憶部452に記憶されている分解検知用データを消去する分解検出スイッチ451と、を備え、コントロールユニット30の主制御部31は、データ記憶部452に複数の分解検知用データが記憶されているか否かをそれぞれ判定し、複数の分解検知用データの少なくとも一つに関して記憶されていないと判定されるとポンプユニットの運転を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ分解を検出する機能を備えた真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプでは、固定側のタービン翼に対して、タービン翼が形成されたロータを高速回転することで気体を排気している。これらの固定側タービン翼およびロータは、吸気口フランジが形成されたポンプケーシング内に配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、ターボ分子ポンプを使用する場合には、定期的なメンテナンスやオーバーホールが必要となる。例えば、メカニカルベアリングで支持するタイプのターボ分子ポンプにおいては、メカニカルベアリングの定期的な交換が必須である。また、磁気軸受式のターボ分子ポンプであって、タッチダウンベアリングとして使用されているメカニカルベアリングが、ポンプの長期使用により摩耗して交換が必要となる場合がある。さらにまた、腐食性ガスを排気するような装置で用いられる場合には、ポンプ内のガス流路に生成物が固着してポンプ運転に支障をきたすので、生成物を除去するためのメンテナンスが必要となる。
【0004】
ターボ分子ポンプに限らず真空ポンプにおいては、真空性能や安全性を確保するためにポンプ組み立てに当たっては厳しい組み立て精度が要求される。そのため、真空ポンプの分解および組み立てを伴うメンテナンスは、訓練を受けた専門の作業者によって、すなわちポンプ製造メーカや指定のメンテナンス業者によって行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−038844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、真空ポンプの分解および組み立て作業においては、特殊な工具等を必要としないため、ポンプ製造メーカや指定のメンテナンス業者以外の業者にメンテナンスを委託したり、使用者自身がメンテナンスを行ったりすることも可能である。しかしながら、メンテナンス作業が正しく行われないと、ポンプ性能が低下したりポンプ寿命を縮めたりするだけでなく、故障が発生したり安全性が損なわれたりするという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ロータを回転させて真空排気を行うポンプユニットと、ポンプユニットを駆動制御するコントロールユニットとを備える真空ポンプに適用され、ポンプユニットは、複数の分解検知用データが記憶されるデータ記憶部と、該ポンプユニットが組立状態から非組立状態になると、データ記憶部に記憶されている分解検知用データを消去する消去手段と、を備え、コントロールユニットは、データ記憶部に複数の分解検知用データが記憶されているか否かをそれぞれ判定する分解履歴判定部と、複数の分解検知用データの少なくとも一つに関して分解履歴判定部により記憶されていないと判定されるとポンプユニットの運転を禁止する運転禁止設定部と、を備えることを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の真空ポンプにおいて、複数の分解検知用データは、データ記憶部の所定の記憶領域にそれぞれ対応付けられて記憶されており、コントロールユニットは、所定の解除データが入力されると、複数の分解検知用データをデータ記憶部の所定の記憶領域にそれぞれ記憶させるデータ書き込み手段を備えることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載の真空ポンプにおいて、分解履歴判定部は、複数の分解検知用データが対応する所定の記憶領域にそれぞれ記憶されているか否かを判定し、運転禁止設定部は、複数の分解検知用データの全てに関して、対応する所定の記憶領域にそれぞれ記憶されていると分解履歴判定部により判定された場合以外は、ポンプユニットの運転を禁止することを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、複数の分解検知用データに、ポンプユニットの制御に使用される制御パラメータが含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポンプユニットが非正規に分解されるのを、確実に防止することができ、真空ポンプの安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る真空ポンプの一実施の形態を示す図である。
【図2】分解検出部45の一例を示すブロック図である。
【図3】ポンプ分解検出構造の一例を示す図である。
【図4】分解検出スイッチ451の開閉動作を説明する図。
【図5】データ記憶部452とデータ記憶部接続用信号線83との接続関係を示すブロック図である。
【図6】(a)はデータ書き込みの手順を示すフローチャートであり、(b)はデータ読み出しの手順を示すフローチャートである。
【図7】データ記億部452に記憶されているデータを利用したポンプ分解の検出動作を示すフローチャートである。
【図8】ポンプ分解状態からの復帰動作を示すフローチャートである。
【図9】データ堅牢性を説明する図である。
【図10】ポンプ分解検出構造の第2の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明に係る真空ポンプの一実施の形態を示す図であり、磁気軸受式ターボ分子ポンプの全体構成を示す図である。ターボ分子ポンプは、ポンプユニット1と、ポンプユニット1を駆動制御するためのコントロールユニット30とを備えており、ポンプユニット1とコントロールユニット30との間には、電力を供給する電源ケーブルと、制御信号用の制御ケーブル80とが設けられている。なお、図1では電源ケーブルの図示を省略した。
【0011】
ロータ2が取り付けられたシャフト3は、ベース4に設けられた電磁石51,52によって非接触支持されている。シャフト3の浮上位置は、ベース4に設けられたラジアル変位センサ71およびアキシャル変位センサ72によって検出される。ラジアル磁気軸受を構成する電磁石51と、アキシャル磁気軸受を構成する電磁石52と、変位センサ71,72とで5軸制御型磁気軸受が構成される。なお、磁気軸受が作動していない状態では、シャフト3はメカニカルベアリング27,28によって支持される。
【0012】
シャフト3の下端には円形のディスク41が設けられており、このディスク41を上下に挟むように電磁石52が設けられている。そして、電磁石52によりディスク41を吸引することによりシャフト3がアキシャル方向に浮上する。ディスク41はナット部材42によりシャフト3の下端部に固定されている。45はベース4側に設けられた分解検出部である。後述するように、分解検出部45には、制御パラメータなどポンプ運転に必要なデータやポンプ認識のためのシリアルナンバーなど(本実施形態ではバックアップデータと呼ぶことにする)を記憶するデータ記憶部が設けられている。ベース4の底面には、ポンプ分解時に取り外される裏蓋43がボルト固定されている。裏蓋43とベース4との隙間はOリング44により密封される。
【0013】
ロータ2には、回転軸方向に複数段の回転翼8が形成されている。上下に並んだ回転翼8の間には固定翼9がそれぞれ配設されている。これらの回転翼8と固定翼9とにより、ポンプユニット1のタービン翼段が構成される。各固定翼9は、スペーサ10によって上下に挟持されるように保持されている。スペーサ10は、固定翼9を保持する機能とともに、固定翼9間のギャップを所定間隔に維持する機能を有している。
【0014】
さらに、固定翼9の後段(図示下方)にはドラッグポンプ段を構成するネジステータ11が設けられており、ネジステータ11の内周面とロータ2の円筒部12との間にはギャップが形成されている。ロータ2と、スペーサ10によって保持された固定翼9とは、吸気口13aが形成されたケーシング13内に納められている。ロータ2が取り付けられたシャフト3を電磁石51,52により非接触支持しつつモータ6により回転駆動すると、吸気口13a側のガスは背圧側に排気され、背圧側に排気されたガスは排気口26に接続された補助ポンプにより排出される。
【0015】
コントロールユニット30には、主制御部31の他に、磁気軸受を駆動制御する磁気軸受駆動制御部32およびモータ6を駆動制御するモータ駆動制御部33が設けられている。主制御部31は、ポンプユニット1の分解検出部45のデータ記憶部に記憶されているバックアップデータに基づいて、磁気軸受駆動制御部32やモータ駆動制御部33などを制御してポンプ運転を行う。コントロールユニット30の警報部34は、ポンプ起動が不可能な場合に、警報を出力する。警報部34には、警告音を発生するスピーカや警告を表示する表示装置などが設けられている。
【0016】
ところで、ポンプユニット1をオーバーホールする際には、裏蓋43を固定しているボルト(不図示)を外し、スラスト制御用の電磁石52(裏蓋側の電磁石52)を外す。そして、ロータディスク41をシャフト3に固定しているナット部材42を外して、ロータディスク41をシャフト3から抜き取ることで、ロータ2およびシャフト3からなる回転体をポンプユニット1から取り外すことが可能となる。例えば、ロータ2に固着した生成物を除去するような場合には、ロータ2をシャフト3から外して除去作業を行う。再組み立てを行う際には、ロータ2をシャフト3に組み付けた後にバランス取りを行い、上述した手順とは逆の手順で回転体をポンプユニットに取り付ける。このような分解・組み立て作業を行うには特殊な技能を必要とするため、通常は、メーカにおいてメンテナンス作業が行われる。
【0017】
しかしながら、ロータ2やシャフト3をポンプユニット1から取り外す作業には特殊な工具を必要としないため、ユーザ側において容易に分解・組み立てを行うことが可能である。ユーザで組み立てた場合、回転体のバランスが崩れたり、部品間のクリアランスが保てない場合があり、運転中に接触し、故障する場合があり安全性に問題があった。そこで、本実施の形態のターボ分子ポンプでは、図1に示すように分解検出部45をポンプ内に設けて、ポンプユニット1の分解を実行した場合には、所定の手続きを経ない限り再組み立て後のポンプ起動動作が行えないようにした。
【0018】
図2は、図1に示したターボ分子ポンプの分解検出部45の一例を示すブロック図である。分解検出部45は、分解検出スイッチ451と、データ記憶部452と、データ記憶部452の電圧保持部として機能する電源453とを備えている。データ記憶部452には上述したデータ記憶部接続用信号線83が接続され、コントロールユニット30との間でデータの受送信が行われる。詳細な動作は後述する。
【0019】
分解検出スイッチ451は、ポンプが分解されると回路が開かれた状態となり、ポンプが組み立てられると回路が閉じた状態となるスイッチであり、例えば、機械式の自動復帰接点のスイッチが用いられる。データ記憶部452には制御パラメータなどポンプ運転に必要なデータ(本実施形態ではバックアップデータと呼ぶことにする)が記憶されており、例えば、SRAM等が用いられ、電源452がバックアップ電源として用いられる。
【0020】
コントロールユニット30に設けられている主制御部31(図1参照)は、データ記憶部452に記憶されているバックアップデータに基づいて、ポンプ運転を行う。分解検出スイッチ451の接点が開くと、データ記憶部452への電源供給が途絶え、データ記憶部452に記憶されているバックアップデータは消去されることになる。コントロールユニット30内の主制御部31は、起動時にこのバックアップデータを読み込み、読み込んだデータと予め主制御部の保持している参照データとを比較し、両者が異なるときに運転禁止と判断し、警報部34により警報を出力させる。
【0021】
分解検出スイッチ451でポンプ分解を検出するための構造としては、例えば、図3に示すような構造がある。図3に示す例では、裏蓋43をベース4に固定することによって形成される空間に、分解検出部45を構成する部品(分解検出スイッチ451、電源453およびデータ記憶部452)が収納されている、裏蓋43の内面側には、分解検出スイッチ451のプッシュボタン451aと対向する位置に凸部43aが形成されている。そのため、裏蓋43をベース4に固定すると、分解検出スイッチ451のプッシュボタン451aが凸部43aにより押し込まれた状態となる。
【0022】
図4は、分解検出スイッチ451の開閉動作を説明する図である。分解検出スイッチ451はノーマルオープンタイプのスイッチであって、裏蓋43の凸部43aによってプッシュボタン451aが押し込まれると、図4(a)に示すように分解検出スイッチ451の接点が閉じる。その結果、電源453からデータ記憶部452へ電源が供給され、データ記憶部452に記憶されたバックアップデータは保持されたままとなる。
【0023】
一方、ポンプメンテナンス作業のために、図3(b)に示すように裏蓋43を外すと、プッシュボタン451aを押していた凸部43aがプッシュボタン451aから外れる。その結果、図4(b)に示すように分解検出スイッチ451が開状態となり、電源453からデータ記憶部452への電源供給が途絶え、データ記憶部452に記憶されていたバックアップデータが消去される。
【0024】
図5は、データ記憶部452とデータ記憶部接続用信号線83との接続関係を示すブロック図である。データ記憶部452(SRAM)には、一般的に特定の役割を果たすピンが3種類ある。すなわち、読み出し/書き込み選択ピン、アドレスピン、データピンである。
【0025】
一つ目の「読み出し/書き込み選択ピン」は、例えば、データ記憶部452のデータを読み出したいときにはこのピンに「0」を、逆に記億部にデータを書き込みたいときには「1」を入力する。「読み出し/書き込み選択ピン」には読み出し/書き込み選択線83aが接続される。
【0026】
2つ目の「アドレスピン」は、データの読み出しまたは書き込みの際にデータ記億部内の場所を指定するのに用いる。「アドレスピン」に接続されるアドレス線83bはmビットである。ただし、実際にはデータ記億部の452の容量によって決まる。
【0027】
3つ目の「データピン」は、読み出しの時にこのピンに出力される信号を読み出し、また、書き込みの時にこのピンに主制御部31からデータを入力する。「データピン」に接続されるデータ線83cはnビットである。これら3種類のピンヘのアクセスを利用することで,データ記億部452に対するデータの書き込みと読み出しの両方が容易となる。
【0028】
図6(a)は、データ記億部452に対するデータ書き込みの手順を示すフローチャートである。一方、図6(b)は、データ記億部452に対するデータ読み出しの手順を示すフローチャートである。図6(a)に示す処理では、まず、ステップS101で、読み出し/書き込み選択線83aに主制御部31から「1」を出力し、データ記億部452を書き込み設定に切り替える。ステップS102では、アドレス線83bにアドレスを出力し、データを書き込むアドレスを指定する。ステップS103では、データ線83cに書き込みデータを出力し,そのデータをデータ記億部452に書き込む。
【0029】
図6(b)に示す処理では、まず、ステップS201で、読み出し/書き込み選択線83aに「0」を出力し、データ記億部452を読み出し設定に切り替える。その後、ステップS202で、アドレス線83bにアドレスを出力し、読み出すべきデータのアドレスを指定する。ステップS203では、データ線83cからデータを読み出す。
【0030】
図7は、データ記億部452に記憶されているデータを利用したポンプ分解の検出動作を示すフローチャートである。コントロールユニット30を起動すると、主制御部31において分解検出プログラムが実行され、図7のフローチャートの処理が開始される。ステップS301では、図6(a)に示した手順でデータ記憶部452に記憶されているバックアップデータを読み込む処理が実行される。ステップS302では、データ記億部452から読み込んだバックアップデータと、主制御部31に記憶されている分解認識用参照データとが一致するか否かで、ポンプユニット1が分解されたか否かを判定する。なお、主制御部31には、データ記億部452に記憶されているべきバックアップデータと同一のデータが分解認識用参照データとして予め記憶されている。
【0031】
前述したように、ポンプユニット1が分解されるとデータ記億部452のバックアップデータは消去される。そのため、ステップS302において、バックアップデータと分解認識用参照データとが一致せず分解履歴が有ると判定され、ステップS303へ進んでポンプ起動が禁止される。その後、ステップS304に進んで、ポンプ分解が有ったことを知らせる警報を警報部34により発生させる。警報は表示でも良いし、音声でも良い。
【0032】
一方、ポンプユニット1が分解されなければ、ステップS302でバックアップデータと分解認識用参照データとが一致すると判定され、すなわち、分解履歴が無いと判定され、ステップS305へ進み通常の起動動作処理が実行される。このような制御を行うことにより,ユーザによる非正規なポンプ分解が有った場合には、ポンプ起動が禁止されるので、ポンプ運転に関する安全を確保することができる。
【0033】
上述したように、ポンプ分解履歴があった場合には、ポンプ起動が禁止され警報が発報される。そのため、ポンプ分解・再組み立て後、ポンプを使用可能とするためにユーザは以下に説明するような復帰作業を行う必要がある。図8は、データ記億部452の書き込み機能を利用した、ポンプ分解状態からの復帰動作を示すフローチャートである。このプログラムは、図7の処理でポンプ分解が検出され、運転禁止状態となっている状態においてコントロールユニット30を起動するとスタートする。例えば、図7のステップS304の後に、図8に示す処理を自動的に起動するようにしても良い。
【0034】
まず、ステップS401において、ユーザによって警報解除のためのボタン入力またはコマンド通信が行われたか否かを判定する。ここで、ボタン入力とは、例えば、コントロールユニット30に設けられているユーザインターフェース用途のボタンを特定の順番で特定の回数押すことであり、その操作により解除入力と主制御部31が判断する。また、コマンド通信とは、コントロールユニット30にはRS−232Cのようなシリアル通信が備えられているので、その通信を用いて警報解除の特定の文字列を受信した場合を指し、その場合には、解除の入力がなされたと主制御部31が判断する。
【0035】
ステップS401において肯定判定されると、ステップS402において解除入力または通信コマンドが正しい内容かどうかを判定する。ステップS402において解除入力または通信コマンドが正しいと判定されるとステップS403に進み、図6(a)に示した手順で、主制御部31の記憶部に記憶されている分解認識用参照データをバックアップデータとして、データ記憶部452に書き込む。一方、ステップS402において解除入力または通信コマンドが正しくないと判定されると、バックアップデータの書き込み処理は行わず、復帰動作のプログラムを終了する。
【0036】
ポンプの製造メーカにおいては、上述の解除入力および解除コマンドの通信の両方の内容を把握し、情報管理することで、製造メーカの許可を受けていない作業者が分解を行ったポンプが運転されることはなくなり、ポンプの安全性が確保される。
【0037】
主制御部31は、図8の復帰動作のプログラムが終了した後、書き込まれたバックアップデータが正しいか検証するために、図7の分解検出プログラムを自動でスタートさせる。バックアップデータが正常に書き込まれていたら、図7のフローチャートに従って,通常起動処理に移行することができ、ポンプを運転することが可能となる。一方、図8のステップS402において解除入力が不正常であると判断されると、ステップS403のバックアップデータの書き込みがスキップされるため、ステップS302で分解履歴があると判断され、ステップS303のアラーム発報に進む。
【0038】
このように,本発明の形態においては、ポンプ分解があった場合には上述のように特定の作業者にしか運転禁止状態の解除ができない構成となっているため、非正規の分解作業が防止されポンプの安全性が確保される。
【0039】
さらに、図8に示したようなリセット機能が設けられているため、復帰作業を容易に行うことができる。例えば、このようなリセット機能が無い場合、例えば、専用のデータ書き込み装置や、書き込み用ソフトウェアがインストールされたPC等を、専用のケーブルでポンプユニット1と接続し、データ記憶部452に直接アクセスしてデータを書き込む必要がある。そのため、復帰作業に非常に手間がかかると共に、復帰作業のための装置を揃えなければならない。このような場合と比較して、本実施の形態では、復帰作業に要する時間を大幅に短縮することができると共に、追加の装置を必要としない。
【0040】
(データ堅牢性の説明)
次に、復帰時のデータに関する堅牢性について説明する。上述した説明では、正規の作業者が復帰動作させる場合について説明したものであり、主制御部31で実行されるソフトウェアによって自動的にバックアップデータがデータ記憶部452に記憶されるような構成となっている。しかしながら、非正規に分解した場合であっても、何らかの手段でデータ記憶部452に試行錯誤によりデータを記録させることで、手間はかかるが運転禁止状態のポンプを不正に復帰させることが可能である。
【0041】
上述した実施の形態では、データ記億部452に記憶されるデータの個数に関し、説明を簡潔にする目的のために、バックアップデータが1つ(1種類)だけの場合について記載している。しかしながら、実際上は、複数個または複数種類のバックアップデータをデータ記億部452に記憶させ、分解検知の際はそれら複数のデータをチェックすることが、データの堅牢性を高めるために重要となる。以下では、データ記億部452に記憶されるバックアップデータの個数が1つの場合と2つの場合とを比較し、データの個数と堅牢性との関係について説明する。
【0042】
ここでは、説明を簡単にするために、アドレス線83bが2本、データ線83cが2本の場合を例に説明する。データ記憶部452においてデータが記憶される場所は、アドレス線83bが2本なので4つのアドレス00,01,10,11によって指定される。一方、データ線83cは2本なので、00,01,10,11の4つのデータが可能である。
【0043】
図9(a)は、バックアップデータが一つのデータで構成される場合を示している。例えば、正規のバックアップデータとして、データ11がアドレス01に入力されているとする。このとき、非正規にバックアップデータをデータ記憶部452に書き込んで、不正にポンプ運転禁止状態を解除しようとした場合、アドレス毎にデータ00,01,10,11を順に書き込む操作をそれぞれ4回、すなわち16通りのデータ入力操作を行う必要がある。
【0044】
一方、図9(b)は、バックアップデータが二つのデータで構成される場合を示している。この場合、正規のバックアップデータは、データ11がアドレス01に入力され、かつ、データ01がアドレス11に入力されている状態である。この場合には、96(=×4×4=6×4×4)通りのデータ入力操作を行う必要がある。このように、データ数が増えるとデータ入力操作の回数が増加し、運転禁止解除のためのバックアップデータに関する堅牢性、すなわち不正に運転禁止が解除されるのを防止するためのバックアップデータの堅牢性が向上する。
【0045】
例えば、現実的な構成として、読み出し/書き込み選択線83aに1本、アドレス線83bに4本(4ビット)、データ線83cに16本(16ビット)使用するとして、1つのデータをデータ記億部452に保存する場合を考える。この場合、のパターンは2の4乗(2)通りの場所に、2の16乗(216)通りのデータが入るので、入力パターンの数は2の20乗=1,048,576通りとなる。例えば、コンピュータ等を用いた装置で1秒に1通りの速度で入力パターンを順番に入力して解除データの解読を試みたとすると、解除までにかかる時間は約13日程度かかる計算になる。
【0046】
一方、2つのデータを書き込む場合、入力パターンの数は515,396,075,520(=16×216×216)通りとなり、データの数を―つ増やすだけでバックアップデータに関する堅牢性が桁違いに高くなることがわかる。上述の方法と同様にコンピュータ等を用いた装置で解除データの解読を試みたとすると、解除までにかかる時間は約16,300年以上かかる計算になる。
【0047】
なお、上述した例では、特定の分解認識用データを予めデータ記億部452および主制御部31のメモリに記憶させておき、それらを比較することで分解履歴を判定したが、ポンプ運転に使用する制御パラメータの―つ(例えば、磁気軸受制御の制御パラメータ)を、分解認識用データを行使する複数のデータの内の一つとして用いても良い。この場合、ポンプ分解によって制御パラメータが消去されてしまうと、正常な磁気浮上ができなくなって自動的にポンプ起動不可状態となるので、図7に示すような制御を採用しなくても、非正規なポンプ分解が有った場合のポンプ起動の禁止をすることができる。また、モータ駆動に関する制御パラメータでも良い。この場合にはモータ駆動ができなくなるので、上述の場合と同様に自動的に起動不可状態となる。
【0048】
また、上述した説明では、アドレスとデータをパラレルに送信する構成としたが、アドレスとデータとから成る連続するシリアルデータを主制御部31からデータ記憶部451送るようにしても良い。その場合、図3のデータ記憶部451の手前に、シリアルデータをアドレスとデータとに変換する変換回路(例えば、シリアル-パラレル変換ICと,パラレル出力の下位nビットとデータ線83cが接続され,その上位mビットとアドレス線83bとが接続されるような信号線を配置した回路)を設ける。
【0049】
分解検出スイッチ451でポンプ分解を検出するための構造例としては、上述した図3の構造の他に、例えば、図10に示すような構造もある。ターボ分子ポンプのメンテナンス時にロータ30を外す際には、ポンプケーシング13もベース4から外される。そこで、図10に示す構造例では、分解検出スイッチ451を、ポンプケーシング13のフランジ部13bとベース4との間に配置するようにした。分解検出スイッチ451はベース4上に設置され、フランジ部13bは、分解検出スイッチ451と対向する領域に窪み130が形成されている。
【0050】
図10(a)に示すように、ポンプケーシング13がベース4に固定された状態では、分解検出スイッチ451のプッシュボタン451aは窪み130の底面によって押し込まれた状態となる。すなわち、分解検出スイッチ451は閉状態になっている。一方、図10(b)に示すようにポンプケーシング13を外すと、プッシュボタン451aを押していた窪み130がプッシュボタン451aから外れ、電源453からデータ記憶部452への電源供給が途絶えて、データ記憶部452に記憶されていたバックアップデータが消去される。
【0051】
上述したように、本実施の形態の真空ポンプは、ロータ2を回転させて真空排気を行うポンプユニット1と、ポンプユニット1を駆動制御するコントロールユニット30とを備え、ポンプユニット1は、複数の分解検知用データが記憶されるデータ記憶部452とを備え、主制御部31は、ポンプユニット1が組立状態から非組立状態になるとデータ記憶部452に記憶されている分解検知用データを消去する。そして、コントロールユニット30の主制御部31は、データ記憶部452に複数の分解検知用データが記憶されているか否かをそれぞれ判定し、複数の分解検知用データの少なくとも一つに関して記憶されていないと判定すると、ポンプユニット1の運転を禁止する。
【0052】
さらに、複数の分解検知用データは、データ記憶部452の所定の記憶領域にそれぞれ対応付けられて記憶されており、コントロールユニット30は、所定の解除データが入力されると、複数の分解検知用データをデータ記憶部452の所定の記憶領域にそれぞれ記憶させる種制御部31を備える。
【0053】
なお、上述した例では、複数の分解検知用データの全てに関して、対応する所定の記憶領域(アドレス)にそれぞれ記憶されていると判定された場合にのみ、分解履歴がないと判定した。しかし、アドレスには関係なく複数の分解検知用データが記憶されているか否かだけで、分解履歴があるか否かを判定することも可能である。また、その複数のデータが同じ種類のものであっても良いし、異なる種類のものであっても良い。さらには、データの種類や値に関係なく、特定のアドレスにデータが記憶されているか否かだけでも、分解履歴があるか否かを判定することは可能である。
【0054】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態では、真空ポンプとして磁気軸受式ターボ分子ポンプを例に説明したが、磁気軸受式でなくても良いし、ターボ分子ポンプの他にドラッグポンプのような真空ポンプでも良い。
【符号の説明】
【0055】
1:ポンプユニット、2:ロータ、3:シャフト、8:回転翼、30:コントロールユニット、31:主制御部、32:磁気軸受駆動制御部、33:モータ駆動制御部、34:警報部、43:裏蓋、45:分解検出部、83:データ記憶部接続用信号線、83a:読み出し/書き込み選択線、83b:アドレス線、83c:データ線、451:分解検出スイッチ、452:データ記憶部、453:電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前記ロータを回転させて真空排気を行うポンプユニットと、前記ポンプユニットを駆動制御するコントロールユニットとを備える真空ポンプにおいて、
前記ポンプユニットは、複数の分解検知用データが記憶されるデータ記憶部と、該ポンプユニットが組立状態から非組立状態になると、前記データ記憶部に記憶されている分解検知用データを消去する消去手段と、を備え、
前記コントロールユニットは、前記データ記憶部に前記複数の分解検知用データが記憶されているか否かをそれぞれ判定する分解履歴判定部と、前記複数の分解検知用データの少なくとも一つに関して前記分解履歴判定部により記憶されていないと判定されると前記ポンプユニットの運転を禁止する運転禁止設定部と、を備えることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記複数の分解検知用データは、前記データ記憶部の所定の記憶領域にそれぞれ対応付けられて記憶されており、
前記コントロールユニットは、所定の解除データが入力されると、前記複数の分解検知用データを前記データ記憶部の所定の記憶領域にそれぞれ記憶させるデータ書き込み手段を備えることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプにおいて、
前記分解履歴判定部は、前記複数の分解検知用データが対応する前記所定の記憶領域にそれぞれ記憶されているか否かを判定し、
前記運転禁止設定部は、前記複数の分解検知用データの全てに関して、対応する前記所定の記憶領域にそれぞれ記憶されていると前記分解履歴判定部により判定された場合以外は、前記ポンプユニットの運転を禁止することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記複数の分解検知用データに、前記ポンプユニットの制御に使用される制御パラメータが含まれることを特徴とする真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−219737(P2012−219737A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87291(P2011−87291)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】