説明

真空成形用化粧シート

【課題】優れた成形加工性を有し、成形加工後に層間での剥離が生じないで、かつ高輝度意匠性に優れる真空成形用化粧シートを提供すること。
【解決手段】基材上に装飾層、接着層、及び透明樹脂層をこの順に有する真空成形用化粧シートであって、該基材がポリオレフィンフィルムからなり、該透明樹脂層がポリエステルフィルムからなり、かつ該装飾層に含まれるパール顔料の体積基準平均粒径が20μm以下であることを特徴とする真空成形用化粧シート及びそれを基体に貼付した化粧板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の内外装用や家電製品の装飾用として好適な真空成形用化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の内外装用や家電製品の装飾用として用いられる化粧シートとして、従来ポリ塩化ビニルを含有する塩ビシートが多用されてきた。塩ビシートは、層間密着性が高く、加工が容易であるとの利点を有していた。特に、ポリ塩化ビニル樹脂からなる基材シート上に絵柄を印刷し、その印刷面に透明なポリ塩化ビニル樹脂からなる表面保護層を設けた複層構成の塩ビシートは、印刷層が保護され、加工性に優れ、耐久性も高いことから広く一般に使用されていた。
しかし、塩化ビニル樹脂は燃焼時に塩素ガスや塩化水素ガスを発生させ、さらにダイオキシンなどの有害物質発生の原因となることから、ポリ塩化ビニルに代わる材料を用いた化粧シートが開発されてきた。
【0003】
ポリ塩化ビニル樹脂に代わる材料としては、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂など、塩素を含有しないものが用いられ、これらを用いた化粧シートが実用化されている。しかし、これらの樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂と比較して接着性に劣り、多層からなる化粧シート、例えば上述の複層構成の化粧シートでは、層間での剥離が問題となっていた。
そこで、これまで層間の接着強度を高めるための接着剤などが検討され、例えば、熱可塑性樹脂からなる基材シート上に、アクリル−ポリエステル−塩酢ビ系樹脂からなる熱接着性樹脂層を介して熱可塑性樹脂からなる表面樹脂層が積層されてなる化粧シートが提案されている(特許文献1、特許請求の範囲参照)。
しかしながら、複層構成の真空成形用化粧シートは、真空成形加工時に、貼り合わせる基材の形状に沿って過度に伸ばされる為、成形後にシート層間の密着強度が低下(剥離)するような懸念が依然としてあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−326451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上述の複層構成の化粧シートの層間にパール顔料を用いた装飾層を配置することにより、化粧シートの意匠感を高めることを企図した。真空成形時には、化粧シートは場所によって、伸び率100%程度となり、化粧シートの厚さは半分程度になるように伸ばされるので、化粧シートの層間部分に配置される装飾層に、真空成形を想定しない仕様と同様の粒径を持ったパール顔料を用いると、真空成形後の強度低下が確認された。
本発明は上記問題点に鑑み、優れた成形加工性を有し、成形加工後に層間での剥離が生じないで、かつ高輝度意匠性に優れる真空成形用化粧シートを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、パール顔料の体積基準平均粒径を制御することによって、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、基材上に装飾層、接着層、及び透明樹脂層をこの順に有する真空成形用化粧シートであって、該基材がポリオレフィンフィルムからなり、該透明樹脂層がポリエステルフィルムからなり、かつ該装飾層に含まれるパール顔料の体積基準平均粒径が20μm以下であることを特徴とする真空成形用化粧シート及びそれを基体に貼付した化粧板を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた成形加工性を有し、成形加工後に層間での剥離が生じないで、かつ高輝度意匠性に優れる真空成形用化粧シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の化粧シートの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1を参照しつつ、本発明の化粧シートの構成について詳細に説明する。本発明の真空成形用化粧シート1は、基材2上に装飾層3、接着層4、及び透明樹脂層5、及び所望により設けられる表面保護層6をこの順に有する。
【0010】
[基材]
本発明の化粧シートにおける基材2は、ポリオレフィンフィルムからなる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体などが挙げられ、これらのうち基材の曲面に追従する加工性・柔軟性の点から、ポリエチレンが最も好ましい。
本発明で用いるポリオレフィンフィルムは、その引張弾性率を330MPa以下とし、かつ100℃で15分間加熱した後の加熱収縮率を3.2%以下に制御することが好ましい。
【0011】
ポリオレフィンフィルムの引張弾性率が330MPa以下であれば、成形加工性がより良好になる。
なお、引張弾性率は以下の測定方法により測定する。
<引張弾性率の測定方法>
JIS K6732に準拠したダンベル型試験片に打ち抜いたシートを用意し、25℃の温度環境下にて、引張圧縮試験機(オリエンテック(株)製 テンシロンRTC−1250A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離80mmの条件で測定して得られた引張応力−ひずみ曲線の初めの直線部分から、次の式によって計算した。
E=Δρ/Δε
E:引張弾性率
Δρ:直線上の2点間の元平均断面積による応力差
Δε:同じ2点間のひずみ差
【0012】
上記ポリオレフィンフィルムの引張弾性率を制御する方法としては、種々の方法があり、例えば、ポリオレフィンフィルムの結晶化度を上げることにより、引張弾性率を高めることができる。したがって、結晶化度を制御することにより、ポリオレフィンフィルムの引張弾性率を330MPa以下に制御することができる。その他、引張弾性率を330MPa以下に制御する方法としては、後に記載する顔料の添加及びその添加量を制御すること、炭酸カルシウムなどの無機フィラーの添加及びその添加量を制御すること、基材に例えば電子線を照射するなどの処理をすることによっても、引張弾性率を330MPa以下に制御することができる。
【0013】
また、本発明で用いるポリオレフィンフィルムは、上述のように、100℃で15分間加熱した後の加熱収縮率を3.2%以下に制御することが好ましい。該加熱収縮率が3.2%以下であれば、成形加工した後に基材と透明樹脂層が層間で剥離ことをより好適に防止できる。
なお、加熱収縮率は以下の測定方法により測定する。
<加熱収縮率の測定方法>
1辺120mmの正方形の化粧シートを用意し、シートの中心部分を通る縦方向と横方向に100mmの直線を形成する。この化粧シートを100℃、15分間加熱後、室温まで急冷し、縦方向及び横方向の前記直線の長さを測定する。縦方向及び横方向の直線の長さの変化を算出し、加熱前の直線の長さ(100mm)に対する百分率の平均を加熱収縮率とした。(JIS K7133に準拠する。)
【0014】
上記ポリオレフィンフィルムの加熱収縮率を3.2%以下に制御する方法としては、例えば、ポリオレフィンの合成時にエラストマー成分を添加する方法や平均分子量や結晶化度の異なる複数のポリオレフィンを配合する方法がある。
【0015】
基材2の厚さとして、特に制限はないが、耐久性及び汎用性の観点から、通常20〜300μm程度、好ましくは30〜200μmの範囲である。
また、基材2は、着色された樹脂で形成されることが好ましい。着色された樹脂を用いることで、化粧シートの表面に形成される絵柄層の色調の安定性を確保することができ、化粧シート貼り付けられる被着体である基体の表面色相がばらついている場合に、ばらついた表面の色相を良好に隠蔽することができる。
【0016】
上述の目的で用いられる着色剤は、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、基材2を有色透明や、有色不透明に着色することができる。一般的には被着体の表面を隠蔽することが必要であるため、有色不透明とすることが好ましい。着色剤としては、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルーなどの無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルーなどの有機顔料又は染料、後述するパール顔料などが用いられる。
着色剤の添加量は、通常、上述の基材2を形成する樹脂材料100質量部に対し、1〜50質量部程度である。
【0017】
本発明の化粧シートにおける基材は、基材と他の層との層間密着性や、各種の被着材との接着性の強化などのためのプライマー層や、裏面プライマー層を形成するなどの処理を施してもよい。プライマー層の形成に用いられる材料としては特に限定されず、アクリル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどが挙げられる。なお、裏面プライマー層に用いられる材料は被着材によって、適宜選択される。
さらに、該基材には、必要に応じて、無機充填剤を添加してもよく、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、シリカ(二酸化珪素)、アルミナ(酸化アルミニウム)等の粉末等が挙げられる。無機充填剤の添加量は、通常、上述の基材2を形成する樹脂材料100質量部に対し、1〜50質量部程度である。
なお、基材2には、必要に応じてその他の各種添加剤、例えば、発泡剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が配合されていてもよい。
【0018】
[装飾層]
本発明に係る装飾層3はパール顔料を含有することを要し、そのパール顔料の体積基準平均粒径が20μm以下であることを要する。20μmを超えると真空成形後の化粧シート層間密着強度が低下してしまうからである。パール顔料の体積基準平均粒径は、5〜20μmであることが好ましく、7〜20μmであることが更に好ましい。
平均粒径の基準としては、体積基準平均粒径、質量基準平均粒径、個数基準平均粒径などがあるが、本発明においては、装飾層を界面とした密着強度を高める観点から体積基準平均粒径であることを要する。
【0019】
装飾層3に用いられるインキとしては、バインダーに着色剤としての上記のパール顔料に加えて、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを、さらに必要に応じその他の着色剤や体質顔料を、適宜混合したものが使用される。
バインダー100質量部に対して、パール顔料3〜15質量部を配合することが好ましい。3質量部以上であれば高輝度意匠性を享受することができるので好ましく、15質量部以下であれば真空成形後の化粧シート層間密着強度が確保され易く好ましい。
装飾層3の厚さとしては、1〜20μmが好ましい。1μm以上であれば、高輝度意匠性を享受することができるので好ましく、20μm以下であれば、真空成形後の化粧シート層間密着強度が確保され易くなり、好ましい。
【0020】
装飾層3に用いられるパール顔料としては、天然雲母又は人工雲母の表面をチタン、ジルコニウム、ケイ素、アルミニウム、セリウム等の金属の金属酸化物及び/又は金属酸化物水和物で被覆した雲母ベースのパール顔料などが挙げられ、例えば、二酸化チタン被覆雲母が好適に用いられる。
さらに、着色剤としては、所望により、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料などを高輝度意匠性に悪影響しない範囲で加えてもよい。
【0021】
装飾層3に用いられるバインダーとしては特に制限はなく、例えば、ポリウレタン系樹脂、ウレタンアクリル系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂などの中から任意のものが、1種単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0022】
本発明の化粧シートにおける装飾層3は、本発明の化粧シートに装飾性を付与するもので、全面を被覆する一様均一な着色層であってもよいし、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される絵柄層であってもよい。また、これらの両者を有していてもよい。
絵柄層の模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等があり、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成される。
【0023】
[接着層]
本発明の化粧シートにおける接着層4を構成する接着剤としては、通常化粧シートで用いられる接着剤を用いることができ、その厚さは0.1〜50μm程度である。厚さが0.1μm以上であると十分な接着性が得られ、50μm以下であると成形加工性の点で有利である。以上の観点から、接着剤層の厚さは、3〜30μmの範囲が好ましい。
接着剤としては、特に制限はなく、例えば、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤等が挙げられ、なかでも、ウレタン系接着剤が接着力等の点で好ましい。なお、この様なウレタン系接着剤としては、2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤などがあり、2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等の各種ヒドロキシル基含有化合物と、トリレンジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネート等の各種ポリイソシアネート化合物を含む2液硬化型ウレタン樹脂を利用した接着剤である。
また、アクリル−ポリエステル−塩酢ビ系樹脂なども加熱により容易に接着性を発現し、高温での使用でも接着強度を維持し得る好適な接着剤である。
接着層は、これら樹脂等からなる接着剤組成物を用いて、塗工法など公知の層形成法で形成することができる。
【0024】
[透明樹脂層]
本発明の化粧シートにおける透明樹脂層5は、透明性を有するポリエステル樹脂からなる。なお、ここで透明とは、無色透明の他、着色透明及び半透明も含むものである。
ポリエステル樹脂としては特に限定されず、化粧シートの分野で通常用いられているものが使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある。)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート、エチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体、ポリアリレート等が挙げられる。この中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
また、ポリエステル樹脂は各種ホモポリマーの他、樹脂の柔軟化等の目的で各種の共重合成分又は改質成分を添加した共重合ポリエステル系樹脂、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が使用できる。例えばPETであれば、テレフタル酸とエチレングリコールとの縮合重合反応において、ジカルボン酸成分として、例えば、セバシン酸、エイコ酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の長鎖脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂環式ジカルボン酸を導入することができる。また、ジオール成分としてポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の両末端に水酸基を有するポリエーテル系ジオールを導入することができる。
本発明の化粧シートは、透明樹脂層5にポリエステル樹脂を用いていることから、鏡面仕上げをする場合に有利である。
【0025】
本発明において、透明樹脂層5として用いるポリエステルフィルムは、例えば、カレンダー法、インフレーション法、Tダイ押し出し法等によりフィルム化され、2軸延伸することで調製される。
透明樹脂層の厚さとしては、50〜400μm程度である。厚さが50μm以上であると化粧板に加工する際、被着体の凹凸を拾いにくく、表面が美しく仕上がる。一方、400μm以下であると、成形加工性の点で有利である。以上の観点から、透明樹脂層の厚さは、100〜300μmの範囲が好ましい。
また、装飾層を有する基材と接着層を介して透明樹脂層を積層する方法としては、ドライラミネーション、又は熱融着による方法などを用いることができる。
【0026】
[表面保護層]
本発明の化粧シートでは、耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性などを付与するために、透明樹脂層の上に表面保護層6を設けることが好ましい。
表面保護層は、透明樹脂層の上に直接又は他の層を介して、硬化性樹脂を含有する樹脂組成物を塗工し、これを架橋硬化したもので構成される。表面保護層を硬化性樹脂の架橋硬化物で構成することにより、化粧シートの表面特性を向上させることができる。
ここで用いられる硬化性樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂や2液硬化性樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられ、これらを複数用いる、例えば、電離放射線硬化性樹脂と熱硬化性樹脂を併用する、いわゆるハイブリッドタイプであってもよい。
これらのうち、表面保護層を形成する樹脂の架橋密度を高め、表面の耐摩耗性や耐擦傷性を向上させ得るとの観点から、電離放射線硬化性樹脂が好ましく、また、無溶媒で塗工することができ、取り扱いが容易との観点から、電子線硬化性樹脂がさらに好ましい。
一方、加工性を考慮した場合には、硬化性樹脂として後に詳述する2液硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
(電離放射線硬化性樹脂)
電離放射線硬化性樹脂とは、電磁波又は荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂を指す。具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。
代表的には、重合性モノマーとして、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートが好ましい。なお、ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。多官能性(メタ)アクリレートとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートであればよく、特に制限はない。これらの多官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
次に、重合性オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えばエポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系などが挙げられる。
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマーなどがある。
【0029】
本発明においては、前記多官能性(メタ)アクリレートなどとともに、その粘度を低下させるなどの目的で、単官能性(メタ)アクリレートを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。これらの単官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
表面保護層を形成するための、樹脂組成物の塗工は、硬化後の厚さが通常1〜20μm程度となるように、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコートなどの公知の方式、好ましくはグラビアコートにより行う。また、優れた耐候性とその持続性、さらには透明性と防汚性とを得る観点から、硬化後の厚さは、好ましくは2〜20μmである。
【0031】
本発明において、電離放射線樹脂組成物の塗工により形成した未硬化樹脂層は、電子線、紫外線などの電離放射線を照射して架橋硬化することで、表面保護層となる。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚さに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。
【0032】
照射線量は、電離放射線硬化性樹脂の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜200kGy(1〜20Mrad)、さらに好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
また、電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。
【0033】
また、表面保護層は、凹部を有していてもよい。表面保護層に凹部を施す方法については特に制限はなく、例えばエンボス加工により施される。エンボス加工は、公知の枚葉又は輪転式のエンボス機を使用する通常の方法により行えばよい。
【0034】
本発明の化粧シートの表面保護層を構成する樹脂組成物中には、その性能を阻害しない範囲で、上記以外の各種添加剤を含有することができる。各種添加剤としては、例えば重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、接着性向上剤、酸化防止剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤などが挙げられる。
【0035】
[プライマー層]
本発明の化粧シートでは、必要に応じて、各層間密着性を向上させるために、各層間のいずれかにプライマー層を設けることができる。プライマー層は、透明又は半透明な層であり、上述の装飾層に用いたのと同様のバインダー樹脂などで形成することができる。プライマー層の厚さについては、通常、0.5〜20μm程度であり、好ましくは、1〜5μmの範囲である。
【0036】
本発明の化粧シートを構成する基材及び各層には、必要に応じて、耐候剤を含有させることができる。耐候剤としては、紫外線吸収剤(UVA)及び光安定剤から選ばれる少なくとも1種を含有させることが好ましい。
紫外線吸収剤としては、無機系、有機系のいずれでもよく、無機系紫外線吸収剤としては、平均粒径が5〜120nm程度の二酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを好ましく用いることができる。また、有機系紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、具体的には、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、ポリエチレングリコールの3−[3−(ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸エステルなどが挙げられる。
光安定剤としては、例えばヒンダードアミン系(以下「HALS」と記載する。)、具体的には2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2’−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートなどが挙げられる。また市販品としては、チバスペシャリティケミカルズ製、商品名「チヌビン123」などが挙げられる。
紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の含有量は、基材及び各層を構成する樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましく、3〜10質量部がさらに好ましい。紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の含有量が上記範囲内であれば、該吸収剤等がブリードアウトすることなく、また十分な紫外線吸収能が得られるので、優れた耐候性が得られる。
【0037】
[化粧板]
本発明の化粧板は、上記化粧シートを真空成形により積層して得られる。被着体である基体としては各種素材の平板、曲面板等の板材、立体形状物品、シート(或いはフィルム)等が挙げられる。例えば、木材単板、木材合板、パーティクルボード、MDF(中密度繊維板)等の木質繊維板等の板材や立体形状物品等として用いられる木質板素材、鉄、アルミニウム等の板材、立体形状物品或いはシート等として用いられる金属素材、ガラス、陶磁器等のセラミックス、石膏等の非セメント窯業系材料、ALC(軽量気泡コンクリート)板等の非陶磁器窯業系材料等の板材や立体形状物品等として用いられる窯業系素材、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、セルロース系樹脂、ゴム等の板材、立体形状物品或いはシート等として用いられる樹脂素材等が挙げられる。
【0038】
被着体に本発明の化粧シートを積層する真空成形方法としては、固定枠に固定した化粧シートが軟化する所定の温度になるまでシリコーンゴムシートを介してヒーターで加熱し、加熱され軟化した化粧シートに真空成形金型を押し付け、同時に真空成形金型から真空ポンプ等で空気を吸引し化粧シートを真空成形金型にしっかりと密着させる。必要に応じ、更に適宜化粧シート側からの圧空押付けを併用してもよい。
真空成形加工時には、化粧シートが伸ばされながら貼りあわされ、そのために化粧シートには最大100%程度伸び、その事で化粧シートの厚さも半分程度になる。
化粧シートが真空成形金型に密着した後、化粧シートを冷却し、成形した化粧シートから真空成形金型をはずし、固定枠から成形された化粧シートをはずす。真空成形は通常80〜130℃程度、好ましくは90〜120℃程度で行われる。
【0039】
以上のようにして製造される化粧板は、また、該化粧板を任意切断し、表面や木口部にルーター、カッター等の切削加工機を用いて溝加工、面取加工等の任意加飾を施すことができる。そして種々の用途、例えば、壁、天井、床等の建築物の内装又は外装材、窓枠、扉、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具の表面化粧板、キッチン、家具又は弱電、OA機器等のキャビネットの表面化粧板、車両の内装、外装等に用いることができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)パール顔料の体積基準平均粒径
株式会社セイシン企業製 レーザー回折散乱式粒度分布測定器「LMS−2000e」用いて、体積基準平均粒径(μm)を測定した。
(2)成形加工後の層間密着強度
各実施例及び比較例にて製造した化粧シートについて、メンブレン型真空成形加工機を用いて加工した後、基材の小口面にあたる部分、すなわち、最もシートが伸ばされてしまった部分(実施例、比較例のいずれもシートの伸び率が100%となり、シートの厚さが真空成形前の1/2に減少した部分)を選んで、化粧シート層間密着強度を測定した。測定は引張試験機{(株)エー・アンド・デイ社製「テンシロン万能試験機RTC−1250A」}を用いて行い、90度方向に引っ張ったときの剥離強度にて評価した(kgf/inch)。また、剥離強度が、1kgf/inch未満の場合を「×」、1kgf/inch以上の場合を「○」とした。
(3)高輝度意匠性
作製した化粧シートの表面を目視観察し、以下の基準により評価した。
パール顔料による輝度感が認められたものを「○」、顕著に認められたものを「◎」、輝度感が全く認められなかったものを「×」とした。
【0041】
実施例1
基材2として、引張弾性率150MPa、加熱収縮率1.6%の白色ポリエチレン樹脂シート(厚さ100μm)を準備し、該基材2上に厚さ3μmの装飾層3(塗布量3g/m2)を設けた。装飾層3を構成する着色剤組成物としては、ウレタンアクリル系樹脂からなるバインダー100質量部に対して、顔料として、体積基準平均粒径18.5μmのパール顔料を10質量部含有するものを用いた。
次に、透明樹脂層5を構成する樹脂シートとして透明PET基材(菱成樹脂(株)製「ディアクレール AK004」、厚さ200μm)を準備し、該樹脂シートにウレタン系接着剤組成物からなる厚さ10μmの接着層4を設けた。
次いで、装飾層3と接着層4が接するように、基材2と上記樹脂シートをドライラミネート方式でラミネートした。
次に、透明樹脂層5の上に下記の電子線硬化性樹脂組成物を乾燥後の厚さが5μmとなるように塗布し、165kV及び5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射し、電子線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させて、表面保護層を形成して、実施例1の化粧シートを得た。該化粧シートについて、上記方法にて評価した結果を第1表に示す。
表面保護層を形成する電子線硬化性樹脂組成物は次のとおりである。
2官能ウレタンアクリレートオリゴマー:100質量部
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤:3質量部
商品名「チヌビン479」、BASFジャパン株式会社製
反応性官能基を有する光安定剤(反応性HALS):3質量部
1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレート、
商品名「サノールLS−3410」、日本乳化剤株式会社製
【0042】
実施例2
体積基準平均粒径12.6μmのパール顔料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、化粧シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0043】
実施例3
体積基準平均粒径9.9μmのパール顔料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、化粧シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0044】
比較例1
体積基準平均粒径24.6μmのパール顔料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、化粧シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0045】
比較例2
パール顔料を用いず、代わりに酸化チタン顔料10質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、化粧シートを得た。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により得られた真空成形用化粧シートは、住宅等の建築物の内外装用や家電製品の装飾用として有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 化粧シート
2 基材
3 装飾層
4 接着層
5 透明樹脂層
6 表面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に装飾層、接着層、及び透明樹脂層をこの順に有する真空成形用化粧シートであって、該基材がポリオレフィンフィルムからなり、該透明樹脂層がポリエステルフィルムからなり、かつ該装飾層に含まれるパール顔料の体積基準平均粒径が20μm以下であることを特徴とする真空成形用化粧シート。
[体積基準平均粒径の測定方法
レーザー回折散乱式粒度分布測定器を用いて、体積基準平均粒径を測定する。]
【請求項2】
前記ポリオレフィンがポリエチレンである請求項1に記載の真空成形用化粧シート。
【請求項3】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1又は2に記載の真空成形用化粧シート。
【請求項4】
前記透明樹脂層の上に表面保護層を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空成形用化粧シート。
【請求項5】
前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂組成物の架橋硬化物である請求項4に記載の真空成形用化粧シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化粧シートを基体に貼付した化粧板。

【図1】
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【公開番号】特開2013−67094(P2013−67094A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207898(P2011−207898)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】