説明

真空排気ヘッド

【課題】高温の炉内で製品の排気口に蓋部材を押圧して封止できる真空排気ヘッドを提供する。
【解決手段】真空排気ヘッド1は、開口が製品2によって封止されて真空引き可能な真空排気空間5、および、開口と反対側に位置し、真空排気空間5と変形可能な隔壁7によって区分され、真空排気空間5と独立して真空引き可能な差圧駆動空間6を画定するヘッド本体4と、隔壁7に支持され、製品2の排気口9を封止する封止部材10を保持し、隔壁7の変形によってヘッド本体4の開口に向かって移動可能な保持部材11とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の排気口の封止機構を備える真空排気ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルなどの製造工程では、製品内部の空気を真空排気し、必要に応じてガスを封入して、製品の排気口を封止する作業が必要とされる。高真空を実現するためには、製品を加熱しながら真空引きすることが必要である。排気口の封止方法としては、排気口に取り付けたチップ管を溶断する方法と、排気口に蓋部材を熱溶融性の接着剤(溶融金属など)で接着する方法とがある。
【0003】
特許文献1乃至3に記載されているような真空排気ヘッドは、製品の排気口の周囲に密着することで封止される内部空間を有し、内部空間を真空引きすることで製品を真空引きすることができる。また、これらの真空排気ヘッドは、内部空間に、蓋部材を保持し、真空引き後に製品の排気口に蓋部材を押圧するロッドを備えているが、ロッドの摺動部の軸封が難しいので、製品の真空引きに際して、ロッドの軸封部を加熱しないようにする必要がある。
【0004】
このため、特許文献1乃至3の真空排気装置では、真空排気ヘッド全体を炉内で加熱することができず、ロッドの軸封部を加熱炉(チャンバ)の外に出したまま真空引きを行う。さらに、これらの真空排気装置は、ロッドの先端またはその近傍に、小型のヒータを設けて、接着剤を溶融して蓋部材で排気口を封止する際にも、ロッドの軸封部に過剰な熱が加わらないようにしている。
【0005】
一方、真空排気工程の効率化には、特許文献4に記載されているように、多数の製品を保持し、それぞれの製品に真空排気ヘッドを押圧できるカートを用い、カートごと加熱炉内で加熱して、多数の製品の真空引きを同時に行うことが好ましい。
【0006】
しかしながら、上述のように、排気口に蓋部材を押圧するロッドを設けると、ロッドの軸封のために真空排気ヘッド全体を炉内で加熱することができないため、生産効率を高めることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−139935号公報
【特許文献2】特開2001−195983号公報
【特許文献3】特開2004−55480号公報
【特許文献4】特許第3866085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記問題点に鑑みて、本発明は、高温の炉内で製品の排気口に蓋部材を押圧して排気口を封止できる真空排気ヘッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明による真空排気ヘッドは、開口が製品によって封止されて真空引き可能な真空排気空間、および、前記開口と反対側に位置し、前記真空排気空間と変形可能な隔壁によって区分され、前記真空排気空間と独立して真空引き可能な差圧駆動空間を画定するヘッド本体と、前記隔壁に支持され、前記製品の排気口を封止する封止部材を保持し、前記隔壁の変形によって前記ヘッド本体の開口に向かって移動可能な保持部材とを有するものとする。
【0010】
この構成によれば、真空排気空間と差圧駆動空間とを同時に真空引きして、製品内の気体を真空排気し、差圧駆動空間に空気を導入することで、隔壁を真空排気空間側に膨張させて保持部材を製品に向かって移動させ、製品の排気口に蓋部材を押圧して封止できる。また、この構成では、保持部材の駆動機構に軸封が必要ないので、真空排気ヘッドを炉内で加熱した状態でも駆動できる。
【0011】
また、本発明の真空排気ヘッドは、前記保持部材は、前記隔壁に支持され、前記開口に向かって延伸するロッドの先端に設けられ、さらに、前記真空排気空間内に、前記ロッドを軸方向に摺動可能に保持する案内部材を有してもよい。
【0012】
この構成によれば、ロッドの姿勢および移動方向が案内部材によって規制されるので、保持部材の移動が安定し、排気口の封止が確実である。
【0013】
また、本発明の真空排気ヘッドにおいて、前記差圧駆動空間は、前記真空排気空間よりも断面積が小さくてもよい。
【0014】
この構成によれば、真空排気空間と差圧駆動空間との境界に、段差ができるため、この段差に隔壁を固定できる。また、差圧駆動空間の容積を小さくすることで、真空排気空間と差圧駆動空間とを同時に真空引きすると、先に差圧駆動空間の内圧が低下するので、製品の真空引きが完了する前に保持部材が突出して製品の排出口を塞いでしまうことがない。
【0015】
また、本発明の真空排気ヘッドにおいて、前記開口の周囲に、前記製品と密着するOリングを有してもよい。
【0016】
この構成によれば、真空排気ヘッドと製品との間の気密が確保できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、真空排気ヘッド内部の隔壁の変形によって保持部材を駆動し、製品の排気口を封止する蓋部材を製品に押圧するので、保持部材および保持部材の駆動機構が完全に真空排気ヘッドの内部に収容されている。このため、駆動機構の軸封が不要であり、熱に弱い部分がないので、真空排気ヘッド全体を加熱炉内で高温に晒すことができる。これにより、真空排気工程の簡素化や、処理能力の増大が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態の真空排気ヘッドの断面図である。
【図2】図1の真空排気ヘッドの排気口封止時の断面図である。
【図3】図1の真空排気ヘッドを多数備える処理カートである。
【図4】本発明の第2実施形態の真空排気ヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の第1実施形態の真空排気ヘッド1を示す。真空排気ヘッド1は、プラズマディスプレイパネルのような中空の製品2と、真空源3とを接続し、製品2の内部の気体を真空排気して封止するためのものである。
【0020】
真空排気ヘッド1は、上部が開口した概略有底筒状のヘッド本体4を有する。ヘッド本体4の内部空間は、上側の断面積の大きな真空排気空間5と、下側(開口と反対側)の断面積が小さい差圧駆動空間6とに、ゴム製の隔壁(ダイアフラム)7によって区分されている。ダイアフラム7は、真空排気空間5と差圧駆動空間6との段差部分に接着固定されている。
【0021】
ダイアフラム7の中央には、ヘッド本体4の開口に向かって垂直に延伸するロッド8が固定されている。ロッド8は、上端に製品2の排気口9を封止するための蓋部材10を保持するテーブル状の保持部材11を有する。また、ロッド8は、真空排気空間5内に配設した板状の案内部材12に摺動可能に保持されている。案内部材12には、空気の通過を許す穴12aが形成されている。
【0022】
ヘッド本体4は、真空排気空間5および差圧駆動空間6にそれぞれ開口する排気路13,14を有する。真空排気空間5および差圧駆動空間6は、それぞれ、耐圧ホース15,16を介して、真空源3から真空圧を供給(真空引き)するための真空回路17に接続されている。
【0023】
また、上端に開口を取り囲むようにOリング18を有し、製品2に気密に密着する。さらに、ヘッド本体4は、冷水源19から供給される冷却水を循環させる冷却流路20を有する。
【0024】
真空回路17は、真空排気空間5を真空遮断弁21および流量調節弁22を介して真空源3に接続し、真空排気空間5の内圧を検出するための圧力スイッチ23を備える管路と、真空排気空間5に接続される前記管路から分岐し、連絡弁24を介して差圧駆動空間6に接続され、差圧駆動空間6の内圧を検出するための圧力スイッチ25を備える管路とを有する。
【0025】
真空排気空間5に接続される管路には、真空排気空間5を大気開放するための真空排気空間開放弁26が設けられ、差圧駆動空間6に接続される管路には、差圧駆動空間6を流量調節弁27を介して大気開放する差圧駆動空間開放弁28が設けられている。
【0026】
また、真空回路17は、真空排気空間5および差圧駆動空間6の内圧をオペレータが目視確認できるように、圧力計29,30も有している。
【0027】
真空排気ヘッド1で製品2を真空引きするときは、ロッド8の保持部材11に、接着剤31を塗布した蓋部材10を載置する。ロッド8は、真空排気空間5および差圧駆動空間6を大気開放した状態で、保持部材11を真空排気空間5内に保持し、蓋部材10を真空排気ヘッド1上に配置した製品2の排気口9から十分に離間させる。尚、このとき、ダイアフラム7は、ロッド8や保持部材11などの重量によって、僅かに差圧駆動空間6側にたわんでいる。
【0028】
真空排気ヘッド1および製品2を加熱炉内に配置して加熱を行いながら、真空回路17の連絡弁24を開放してから、真空遮断弁21を開放することで、真空排気空間5および差圧駆動空間6を同時に真空引きする。真空排気ヘッド1は、Oリング18によって製品2と密着し、製品2の排気口9、真空排気空間5内に配設された案内部材12の穴12aおよび排気路13を通して、製品2内の気体を真空回路17へ排気する。
【0029】
このとき、真空排気空間5は、製品2の内部空間と連通しているため容積が大きく、容積の小さい差圧駆動空間6が先に真空になる。このため、ゴム製の隔壁7は、差圧駆動空間6側に張り出すように弾性変形し、ロッド8を下降させる。これにより、製品2の真空引きが完了する前に、ロッド8が上昇して、接着剤31を製品2に当接させることがない。
【0030】
製品2の真空引きが完了すると、真空排気空間5と差圧駆動空間6との圧力差がなくなるので、隔壁7は、真空排気空間5および差圧駆動空間6を大気開放したときとほぼ同じ位置にロッド8を支持する。
【0031】
真空回路17は、製品2を真空引きした後、例えばプラズマディスプレイパネル用の発光ガス等の微量のガスを、真空排気空間5を介して製品2の内部に導入できるように、ガス供給路を有してもよい。
【0032】
製品2の真空引きが完了(圧力スイッチ23が所定の真空圧を検出)し、必要に応じて製品2にガスを供給したなら、真空回路17の連絡弁24を閉鎖してから、差圧駆動空間開放弁28を開放して、差圧駆動空間6だけを大気開放する。すると、差圧駆動空間6の内圧が、真空排気空間5の内圧に比して高くなるので、図2に示すように、隔壁7は、真空排気空間5側に張り出し、ロッド8を押し上げる。これによって、保持部材11は、ヘッド本体4の開口に向かって移動し、蓋部材10を製品2に押圧して、蓋部材10によって排気口9を覆う。
【0033】
ヘッド本体4は、冷却流路19内を循環する冷却水によって冷却され、ゴム製の隔壁7およびOリング18を耐熱温度以下に維持する。冷却水によって直接冷却されない製品2の排気口9周囲は、炉内温度の上昇に伴って温度が高くなるので、押圧された蓋部材10に塗布した接着剤31を融解させる。
【0034】
その後、差圧駆動空間6の内圧を真空排気空間5よりも高く維持して蓋部材10を押圧したまま、炉内温度を下げて接着剤31を固化することで、排気口9の蓋部材10による封止を確実なものとする。
【0035】
続いて、炉内から真空排気ヘッド1を製品2と共に取り出した後、真空遮断弁21を閉鎖してから真空排気空間開放弁26を開放することによって、真空排気空間5を大気開放する。すると、再び、真空排気空間5と差圧駆動空間6との圧力差がなくなるので、隔壁7が下降して、ロッド8を後退させる。このとき、真空排気空間5が大気圧になることで、Oリング18の密着力も失われ、真空排気ヘッド1と製品2とを分離して、製品2を次工程に送ることができるようになる。
【0036】
真空排気ヘッド1において、隔壁7は、冷却水によって冷却されるヘッド本体4の内部に収容されており、直接、加熱炉の熱に晒されることがない。このため、隔壁7は、耐熱性に劣るとしても、真空排気ヘッド1を加熱炉内に配置した状態で、破断することなく膨張収縮可能である。尚、冷却水に変えて他の種類の冷却流体を用いてもよい。
【0037】
また、真空排気ヘッド1において、差圧駆動空間6の大気開放速度、つまり、差圧駆動空間6への空気の供給速度を、流量調節弁27の開度によって調節すれば、ロッド8の上昇速度を調節でき、接着剤31の飛散を防止できる。
【0038】
本発明の真空排気ヘッド1は、小型で、炉内で製品2と共に加熱することができるので、図3に示すように、多数の製品2を保持するカート32に並列に取り付けて、多数の製品2を同時に真空排気、封止可能とできる。
【0039】
図4に、本発明の第2実施形態の真空排気ヘッド1aを示す。本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0040】
真空排気ヘッド1aは、ロッド8の下端に円板33が設けられ、ヘッド本体4の底壁と円板33とによって両端を封止された金属製のベローズ34により、差圧駆動空間6が画定されている。つまり、本実施形態では、ベローズ34が真空排気空間5と差圧駆動空間6とを区分する隔壁である。
【0041】
この真空排気ヘッド1aにおいても、真空排気空間5と差圧駆動空間6との圧力差によって、ベローズ34を伸縮させ、ロッド8を昇降することができる。
【0042】
以上の実施形態では、案内部材12によってロッド8の姿勢および移動方向を規制しているが、隔壁の膨張および収縮が安定していれば、案内部材12を省略してもよく、それに伴ってヘッド本体4の高さを低くしてもよい。
【0043】
また、本実施形態の真空回路17の差圧駆動空間6に接続された管路には、エアコンプレッサ等からなる圧空源35から、レギュレータ36で圧力調整した圧縮空気が、圧空供給弁37を介して供給できるようになっている。
【0044】
差圧駆動空間6を大気開放した後、或いは、大気開放を省略して、連絡弁24および差圧駆動空間開放弁28を閉鎖した状態で、差圧駆動空間6に圧縮空気を供給することで、蓋部材10を製品2により強い力で押圧することができる。これにより、差圧駆動空間6の断面積が小さい場合にも、蓋部材10の製品2に対する密着を確保できる。
【0045】
また、真空排気ヘッド1aと製品2とを分離する際、真空排気空間開放弁26を開放せず、連絡弁24を開放して圧縮空気を真空排気空間5にも供給すれば、真空排気空間5に素早く空気を供給して、真空排気ヘッド1aを迅速に製品2から分離できる。これは、真空回路17の管路や耐圧ホース15,16の径が小さく、経路長が長い場合に、特に、有効である。
【符号の説明】
【0046】
1…真空排気ヘッド
2…製品
3…真空源
4…ヘッド本体
5…真空排気空間
6…差圧駆動空間
7…隔壁
8…ロッド
9…排気口
10…蓋部材
11…保持部材
12…案内部材
13,14…排気路
17…真空回路
18…Oリング
19…冷水源
20…冷却流路
31…接着剤
32…カート
33…円板
34…ベローズ(隔壁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口が製品によって封止されて真空引き可能な真空排気空間、および、前記開口と反対側に位置し、前記真空排気空間と変形可能な隔壁によって区分され、前記真空排気空間と独立して真空引き可能な差圧駆動空間を画定するヘッド本体と、
前記隔壁に支持され、前記製品の排気口を封止する封止部材を保持し、前記隔壁の変形によって前記ヘッド本体の開口に向かって移動可能な保持部材とを有することを特徴とする真空排気ヘッド。
【請求項2】
前記保持部材は、前記隔壁に支持され、前記開口に向かって延伸するロッドの先端に設けられ、
さらに、前記真空排気空間内に、前記ロッドを軸方向に摺動可能に保持する案内部材を有することを特徴とする請求項1に記載の真空排気ヘッド。
【請求項3】
前記差圧駆動空間は、前記真空排気空間よりも断面積が小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の真空排気ヘッド。
【請求項4】
前記開口の周囲に、前記製品と密着するOリングを有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の真空排気ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−44308(P2011−44308A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191096(P2009−191096)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000211123)中外炉工業株式会社 (170)
【Fターム(参考)】