説明

真空断熱材

【課題】 本発明は、ガラス繊維を主体とした繊維層からなる芯材を使用した真空断熱材において、断熱性能を高めるためにガラス繊維の平均繊維径を2μm以下に構成しても、真空断熱材組み立て時の芯材乾燥効率の低下がなく、ガラス繊維の劣化やガラス繊維同士の接着に起因した芯材の強度低下や断熱性能低下が生じにくい真空断熱材を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の真空断熱材は、平均繊維径2μm以下のガラス繊維を主体とした繊維層(繊維以外の副材料を含んでもよい)からなる芯材を外装材にて梱包し真空引きしてなる真空断熱材であって、前記繊維層が、乾燥状態の繊維層を25℃、50RH%の恒温恒湿槽内に24時間放置した時の吸着水分率が0.3重量%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維を主体とした繊維層からなる芯材を外装材にて梱包し真空引きしてなる真空断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維を主体とした繊維層からなる芯材を用いた真空断熱材においては、芯材の断熱性を高めるため、ガラス繊維中のショット(未繊維化の固まり、太い繊維など)の含有率を低下させたり、ガラス繊維を伝熱方向に対して垂直方向に配列させて熱伝導率を低くする等の方法が提案されている。
【0003】
前記ガラス繊維中のショットは、サイズが大きく、数が多いと、芯材中の空隙のサイズと数が増加し、大きな空隙中の空気の対流による熱伝達により、熱伝導率が高くなり、断熱性が低下することが分かっている。
【0004】
また、前記ガラス繊維は細ければ細いほど、繊維同士の接合点面積が減少するので、熱移動経路が複雑となり、断熱性が向上することが分かっている。
【0005】
このため、最近では、特許文献1に開示されるように、平均繊維径が2μm以下の微細径のガラス繊維からなる抄造シートを芯材として使用することも提案されている。この場合、ショット含有率を実質上ゼロとすることができ、また、熱移動経路も複雑化し長くできるので、高い断熱性能を有した真空断熱材が得られる。
【0006】
また、芯材を実質的にガラス繊維のみで構成すると、真空引き時に水分以外のガス発生がないので真空断熱材中にガス吸収剤を入れる必要がなくなり、特性上及びコスト上のメリットがもたらされる。
【0007】
また、芯材を抄造シートにて構成すると、シート厚さが均一であるため、芯材の外表面に凹凸がなくなり、断熱特性の均一性がもたらされる。
【0008】
更に最近では、特許文献2に開示されるように、ガラス繊維中のアルカリ金属酸化物成分を20〜40重量%にしてガラス自体の熱伝導率を1W/mK以下として、高性能な熱伝導率の真空断熱材を得る提案もなされている。
【0009】
【特許文献1】特開平7−139691号公報
【特許文献2】特開2005−344871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
真空断熱材用芯材として、平均繊維径が2μm以下の微細径のガラス繊維からなる繊維層(以下、芯材用ガラス繊維層)、特に前記微細径ガラス繊維からなる抄造シート(以下、芯材用ガラス繊維シート)とした場合、上記のような利点がもたらされたが、逆に、次のような弊害も有していた。
【0011】
前記芯材用ガラス繊維層は、当然乾燥状態の繊維層として供給されるのであるが、ガラス繊維自体、水との親和性が高いこと(接触角は0度)、また平均繊維径2μm以下の微細径であるが故に比表面積が大きいことから、供給された芯材用ガラス繊維層は、真空断熱材として組み立てられるまでの間に、空気中の水分を吸着(吸湿)してしまうという問題がある。通常、芯材用ガラス繊維層が真空断熱材として組み立てられるまでの間に0.5〜1.0重量%程度の水分を繊維表面に吸着している。
【0012】
芯材用ガラス繊維層(ガラス繊維製芯材)が水分を多く吸着していると、真空断熱材を組み立てる際の芯材の乾燥工程に多くの時間を取られ、また水分除去が不完全であると多量のゲッター剤(吸着剤)を必要としたり断熱性能の低下を招くという問題がある。
【0013】
また、芯材用ガラス繊維層が水分を多く吸着していると、芯材用ガラス繊維層の保管中に、ガラス繊維中のアルカリ金属酸化物成分(NaO、KO、Liなど)が溶出し、ガラス繊維が劣化したり、ガラス繊維同士が接着してしまう。ガラス繊維が劣化すると、ガラス繊維の強度が低下し真空断熱材組み立て時に繊維が破壊されたり真空断熱材用芯材の強度低下が生じたりする問題がある。
【0014】
また、ガラス繊維同士が接着すると、ガラス繊維が実質的に太くなってしまい、前述したような、ガラス繊維中にショットが含まれる場合やガラス繊維の繊維径が太い場合と実質同様の条件となり、芯材中の空隙が拡大し空気の対流による熱伝達により熱伝導率が高まること、繊維同士の接合点面積が増大し熱移動経路が簡素化されることにより、真空断熱材の断熱性能が低下するという問題がある。
【0015】
また、特許文献2のような、ガラス組成中にアルカリ金属酸化物成分を20〜40重量%含有するガラス繊維を使用したガラス繊維製芯材では、ガラス繊維径(平均繊維径)は3.5μmとやや太いものの、アルカリ金属酸化物成分が多いため、保管中のガラス繊維中のアルカリ金属酸化物成分の溶出は顕著となり、上記したガラス繊維の劣化やガラス繊維同士の接着が避けられない。
【0016】
したがって、ガラス組成中にアルカリ金属酸化物を20〜40重量%含有するガラス繊維を使用したガラス繊維製芯材(または芯材用ガラス繊維層)を通常の雰囲気下で保管することは実質不可能となり、ガラス繊維層作製後吸湿現象が進む前に真空断熱材の組み立てを完了させるようにすればよいが、実際には、このような生産体制は工業的には実現不可能である。
【0017】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、ガラス繊維を主体とした繊維層からなる芯材を使用した真空断熱材において、断熱性能を高めるためにガラス繊維の平均繊維径を2μm以下に構成しても、真空断熱材組み立て時の芯材乾燥効率の低下がなく、ガラス繊維の劣化やガラス繊維同士の接着に起因した芯材の強度低下や断熱性能低下が生じにくい真空断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の真空断熱材は、前記目的を達成するべく、請求項1に記載の通り、平均繊維径2μm以下のガラス繊維を主体とした繊維層(繊維以外の副材料を含んでもよい)からなる芯材を外装材にて梱包し真空引きしてなる真空断熱材であって、前記繊維層が、乾燥状態の繊維層を25℃、50RH%の恒温恒湿槽内に24時間放置した時の吸着水分率が0.3重量%以下であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項2記載の真空断熱材は、請求項1記載の真空断熱材において、前記ガラス繊維のSiO成分が59〜65重量%、Al成分が2〜10重量%であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項3記載の真空断熱材は、請求項2記載の真空断熱材において、前記ガラス繊維のアルカリ金属酸化物成分(Li+NaO+KO)が1重量%以上、20重量%未満であることを特徴とする。
【0021】
また、請求項4記載の真空断熱材は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の真空断熱材において、前記繊維層が、前記ガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなることを特徴とする。
【0022】
また、請求項5記載の真空断熱材は、請求項4記載の真空断熱材において、前記繊維層が、前記ガラス繊維のみで構成された湿式抄造シートからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ガラス繊維を主体とした繊維層からなる芯材を使用した真空断熱材において、断熱性能を高めるためにガラス繊維の平均繊維径を2μm以下に構成しても、前記芯材を構成する繊維層として、乾燥状態の繊維層を25℃、50RH%の恒温恒湿槽内に24時間放置した時の吸着水分率が0.3重量%以下であるような繊維層を用いるようにしたので、真空断熱材組み立て時の芯材乾燥に係る生産性低下を避けられるとともに、ガラス繊維からのアルカリ金属酸化物成分の溶出に伴うガラス繊維の劣化やガラス繊維同士の接着に起因した芯材の強度低下や断熱性能低下が生じにくい真空断熱材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の真空断熱材用芯材は、平均繊維径2μm以下のガラス繊維を主体とした繊維層(繊維以外の副材料を含んでもよい)からなり、前記繊維層として、乾燥状態の繊維層を25℃、50RH%の恒温恒湿槽内に24時間放置した時の吸着水分率が0.3重量%以下(但し、ゼロは含まない)であることが必要である。
【0025】
前記繊維層の吸着水分率が0.3重量%以下となるようにするため、つまり前記繊維層が空気中の水分を吸着しにくくするため、前記ガラス繊維のSiO成分が59〜65重量%、Al成分が2〜10重量%であることが好ましい。
【0026】
SiO成分は、ガラスの骨格となる主成分であり、耐酸性を向上させる成分であるが、純粋なSiOは溶融温度が2000℃を超え、65重量%を超えて成分量を増やすと、ガラス原料を均一に溶融することができない。また、SiO成分が59重量%未満の場合は耐酸性が悪くなり、微細径のガラス繊維としては問題となる。
【0027】
Al成分は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス製造時の粘度、失透温度の調整成分である。機能的にはガラスの耐水性を向上させる成分である。Al成分が2重量%未満の場合は、粘度、失透温度の調整がしにくくなるとともに、微細ガラス繊維の耐水性が低下し繊度低下の原因となり断熱性能が低下する。また、Al成分が10重量%を超えると、ガラスの融点が高くなるので原料の均一溶解が困難となり生産性を悪化させる。
【0028】
この場合、KI値は10以下となり、生体内溶解性が非常に悪くなり、発ガンの可能性が高くなる危険性がある。但し、EガラスのKI値は2以下であり、これと比べると安全性は高い。ここで、KI値は次の指標で示される。
KI=Σ(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)−2Al
【0029】
また、失透とは、溶融したガラス素地内部に生成され、成長した結晶を言い白濁した状態で目視される部分である。このような結晶塊が存在すると、ガラス繊維を溶融炉から引き出す時に、繊維切れを生じガラス繊維を連続的に得ることができなくなる。
【0030】
また、前記ガラス繊維のアルカリ金属酸化物成分(Li+NaO+KO)は1重量%以上、20重量%未満であることが好ましい。アルカリ金属酸化物成分を20重量%未満にすることで、ガラス繊維からのアルカリ金属酸化物成分の溶出を抑えられ、それに伴うガラス繊維の劣化やガラス繊維同士の接着を抑えられ、芯材の強度低下や断熱性能低下を生じにくくできる。
【0031】
アルカリ金属酸化物成分は、ガラス製造時の粘度、失透温度の調整成分であり、アルカリ金属酸化物をまったく含まないと、ガラスの溶融温度が高くなるため、原料を均一に溶解することが困難になり、ガラス繊維を形成できなくなる。よって、アルカリ金属酸化物成分は1重量%以上であることが好ましい。
【0032】
Li成分は、ガラスの融点を下げガラスの均一溶解を助けるが、ガラスの耐久性を悪くする度合いが他のアルカリ金属酸化物成分に比べ高いので、導入しないことが好ましい。
【0033】
前記繊維層の形態としては、前記ガラス繊維をシート化したもの、更に該シートを複数枚積層したもの、あるいは、シート化せずウール状のガラス繊維を単に集綿積層したものなどが挙げられるが、前記ガラス繊維を主体として湿式抄造したシートからなることが好ましい。
【0034】
前記繊維層として、ガラス繊維製湿式抄造シートから構成した場合、上記したウール状ガラス繊維を集綿積層し圧縮して得た繊維層よりも、厚さと密度の精度に優れ、安定した品質とすることができる。また、ガラス繊維製湿式抄造シートの1枚当たりの厚さを薄くし複数枚積層するように構成した場合は、芯材の水平方向(シートの積層方向に対して垂直方向)へのガラス繊維の配列度合いが高くなり、芯材の表裏方向での熱伝導に対して水平方向に整列されたガラス繊維が熱伝導を阻害して、真空断熱材の断熱性能が向上する。
【0035】
前記ガラス繊維としては、上述のガラス成分条件に沿って適宜選択された組成ガラスを溶融、紡糸後、バーナの火炎でエネルギを与え、吹き飛ばして得られるガラス短繊維や、ガラスを溶融した後、紡糸したガラス長繊維が好適に用いられる。但し、前記ガラス短繊維の場合、バーナの火炎のエネルギが不均一若しくは不足していると、本来のガラス短繊維に混じって、繊維の端部に涙滴状の塊状物が付いたもの、繊維が部分的に太くなったもの、バーナで吹き飛ばす前の太い繊維がそのまま残ったもの等の本来のガラス短繊維に対して比較的大きなサイズを有した粒状物や繊維状物(ショット)が少量混入する場合がある。
【0036】
このような火炎法や、その他遠心法等の製法によって得られるガラス繊維は、その繊維構造が表面積の小さい円柱状に形成されており、パルプ繊維等のように枝分かれ(フィブリル化)していないため、芯材用繊維層としてガラス繊維製湿式抄造シートにより構成する場合には、湿式抄造時に抄紙原料液(抄紙スラリ)中の繊維が一定方向に走行するフォーミングワイヤに引っ張られても、繊維が引っ掛かってシート表面の地合が崩れたり、孔が開いたりする等の不都合がない。
【0037】
また、芯材用繊維層としてガラス繊維製湿式抄造シートにより構成する場合には、表面凹凸等をなくして湿式抄造するためや、熱伝導率を悪化させるガラスショットや太い繊維を除去するために、例えば、ガラス繊維を分散媒体に分散させた抄紙原料液(抄紙スラリ)の遠心分離を行い、スクリーン・フィルタを通過させる等して、抄紙原料液中の粒径30μm以上の粒状物及び直径10μm以上の繊維状物の含有率を実質上0%近くまで除去するようにして、抄造されたシート中の粒径30μm以上の粒状物及び直径10μm以上の繊維状物の含有率を0.1重量%以下まで低減することができる。
【0038】
前記ガラス繊維を主体とした繊維層は、ガラス繊維の他に、ガラス繊維以外の無機繊維(セラミック繊維、スラグウール繊維、ロックウール繊維など)や、有機バインダ、無機バインダ、有機繊維等のバインダ効果のある副材料や、有機粉体、無機粉体、その他、マイクロカプセル粒体等、前記シートの強度、均一性、取り扱い性を向上させる効果のある副材料を混入させることが可能であるが、減圧時や真空時に水分以外の余計なガス発生をなくすという観点からは、ガラス繊維のみで構成するようにするのが好ましい。
【0039】
前記ガラス繊維の平均繊維径としては、前述した通り、繊維同士の接合点面積を減らし、熱移動経路を複雑化して、高い断熱性能を得るため、2μm以下であることが必要であり、更には1μm以下であることが好ましい。また、平均繊維径が2μmを超える場合は、芯材用繊維層としてガラス繊維製湿式抄造シートにより構成する場合、上述したように減圧時や真空時に水分以外の余計なガス発生をなくす観点からガラス繊維のみで湿式抄造するとシート強度が不足する不都合がある。
【0040】
また、前記ガラス繊維の平均繊維径は、0.2μm以上であることが好ましい。平均繊維径が0.2μm未満であると、芯材用繊維層としてガラス繊維製湿式抄造シートにより構成する場合、湿式抄造によるシート化自体は可能であるが、ろ水性が悪いため製造コストが高くなり、工業製品として実用に適さないという不都合がある。
【0041】
次に、本発明の芯材用繊維層としてガラス繊維製湿式抄造シートにより構成する場合の製造方法の一例について説明する。本発明の芯材用ガラス繊維製湿式抄造シートは、傾斜抄紙機或いは長網抄紙機を用いて製造することができる。
(1)原料として、例えば、平均繊維径1μmのガラス繊維を所定量計量し、ミキサ、パルパ等の分離機により前記繊維を水中に均一に分散・混合する。尚、ガラス繊維はパルプと異なりフィブリル化はしないため、ビータのような刃物を備えた叩解機を使用すると折れて粉状となるため、パルパを使用する。この抄紙原料液を貯蔵タンクに輸送、貯蔵する。
(2)次に、前記抄紙原料液中のガラス繊維には、本来のガラス繊維に対して比較的大きなサイズを有した粒状物や繊維状物が少量混入していると推測されるため、前記抄紙原料液を遠心分離機にて遠心した後、スクリーン・フィルタを通過させて抄紙原料液中の粒径30μm以上の粒状物及び直径10μm以上の繊維状物の含有率を実質上0%近くまで低減させる。
(3)次に、種口弁・白水バルブで抄紙原料液の供給量を制御し、ステップディフューザ等を介してヘッドボックスから抄紙原料液を噴出し、走行するフォーミングワイヤ上に堆積させ、下方から脱水して、湿紙状態のガラス繊維シートに形成させた後、ドライヤを通過させて水分を十分に乾燥させて乾紙状態のガラス繊維シートを得る。
(4)次に、幅広の連続シートである前記ガラス繊維シートを長さ方向の所定寸法にカットし、真空断熱材用芯材シートとする。該シートは、真空断熱材用芯材として必要な断熱性能及び厚さに合わせて単層あるいは所定枚数積層して用いることができる。
(5)次に、前記芯材シートを所定サイズに裁断し、吸着微量水分を蒸発除去するため熱風乾燥機で加熱処理(180℃,8時間)後、水分の再吸着を防ぎながら、直ちに必要厚さに重ねて袋状の外装材に挿入し、真空引き(0.04torr,10分)を行い、加熱封印して真空断熱材を得る。
尚、上記説明における加熱乾燥方法、温度や時間については、特に制限をするものではない。また、本発明における真空引きの程度は、特に制限はないが、0.08torr以下程度とすることができる。
また、外装材としては、その内部を真空状態に保つことができるものであれば特に制限はない。その一例として、アルミ箔とPETなどからなる多層ラミネートフィルムを挙げることができる。
【0042】
次に、本発明の実施例を従来例とともに説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。特性評価試験方法は以下に示す通りである。
(実施例および従来例)
ガラス組成が表1に示す組成になるようにガラス原料を調合して実施例および従来例のガラスを作製した。次に、これらガラス原料を用いて火炎法により平均繊維径0.8μmのガラス繊維を得た。得られたガラス繊維100重量%を前述した製造方法(傾斜型抄紙機を使用)にしたがって湿式抄造して、厚さ2.0mm、坪量280g/mの真空断熱材用芯材用ガラス繊維シートを得た。
【0043】
〈ガラス繊維の劣化条件試験〉
(1)表1の実施例および従来例の各種ガラス繊維を10g採取し、ガラスマット上に置く。
(2)50℃、95RH%に設定した恒温恒湿槽に上記試料を入れ、3日間保持する。
(3)3日後試料を取り出し、120℃で2時間乾燥させる。
【0044】
〈ガラス繊維の繊度(レールス)劣化維持率試験〉
(1)ガラス繊維の劣化条件試験で強制劣化させたガラス繊維を2g採取し、水0.8リットルを加えてミキサで100秒離解する。
(2)離解後、メスシリンダに移し、水を加えて1リットルとする。
(3)ショッパ型叩解度試験機(JIS P8121)に試料水を投入した後、円錐弁を開けて、試料水を流下させる。
(4)側管からの排水が停止した後、排水量(X)を読み取る。
(5)ショッパろ水度(SR)を次式により求める。
SR(度)=(1000−X)/10
(6)温度補正表よりSR値を補正し、SR/繊度換算表より繊度(レールス)を求める。
(7)強制劣化前のガラス繊維のレールスを求めておく。
(8)ガラス繊維の繊度劣化率(以下、繊度劣化維持率)を次式により求める。
繊度劣化維持率(%)=強制劣化後繊度/強制劣化前繊度×100
【0045】
〈耐水性試験〉
(1)試料約5gを105℃で乾燥後、デシケータで放冷して重量(W)を精秤する。
(2)蒸留水200mlが入ったビーカ中に精秤した試料を入れ、80℃の恒温槽で5時間の浸漬を行う。
(3)試料をガラスフィルタでろ過する。
(4)試料を105℃で乾燥後、デシケータで放冷して重量(W)を精秤する。
(5)耐水性を次式により求める。
耐水性(%)=(W−W)/W×100
【0046】
〈熱伝導率試験〉
(1)前記ガラス繊維シートを25cm角に裁断して、10mm厚さの真空断熱材用芯材を得る。
(2)180℃、5時間熱風乾燥炉で水分を蒸発させた後、アルミ箔とPET等からなるガスバリアラミネートの袋状の外装材に挿入し、0.04torrで10分間、真空引きした後、加熱封印して真空断熱材を得る。
(3)平均温度23℃で熱伝導率を測定する。
(4)劣化前後のガラス繊維シートでも同様に熱伝導率を測定する。
【0047】
次に、実施例1〜5、従来例1〜3の真空断熱材及び真空断熱材用芯材用ガラス繊維シートのガラス組成、繊度劣化維持率、耐水性、初期熱伝導率、劣化後熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示す結果から以下のことが分かった。
(1)実施例1〜5の耐水性は3.2%以下であり、水への耐久性が高いことが確認できる。また耐水性が高いため、繊度劣化維持率は55%以上で、特にAl量が4重量%以上の組成では75%以上と良好であり、ガラス繊維同士の接着が少ないので、劣化後の芯材で真空断熱材を作製しても熱伝導率の上昇悪化が2〜17%と少ない。
(2)従来例1はAl量が2重量%未満であるため、耐水性は4.0%と悪化している。実施例より耐水性が劣るため、繊度劣化維持率は45%と低くガラス繊維同士の接着があると推定され、劣化後の芯材で真空断熱材を作製すると熱伝導率の上昇悪化が18%と高くなる。
(3)従来例2および3は、Al量が2重量%未満であることに加え、アルカリ金属酸化物成分(NaO+KO)が30重量%以上であることから、耐水性はそれぞれ5.6重量%、7.5重量%と大幅に悪化している。実施例より大幅に耐水性が劣るため、繊度劣化維持率は40%以下と一層低くガラス繊維同士の接着があると推定され、劣化後の芯材で真空断熱材を作製すると熱伝導率の上昇悪化が4倍以上と著しく高くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径2μm以下のガラス繊維を主体とした繊維層(繊維以外の副材料を含んでもよい)からなる芯材を外装材にて梱包し真空引きしてなる真空断熱材であって、前記繊維層が、乾燥状態の繊維層を25℃、50RH%の恒温恒湿槽内に24時間放置した時の吸着水分率が0.3重量%以下であることを特徴とする真空断熱材。
【請求項2】
前記ガラス繊維のSiO成分が59〜65重量%、Al成分が2〜10重量%であることを特徴とする請求項1記載の真空断熱材。
【請求項3】
前記ガラス繊維のアルカリ金属酸化物成分(Li+NaO+KO)が1重量%以上、20重量%未満であることを特徴とする請求項2記載の真空断熱材。
【請求項4】
前記繊維層が、前記ガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の真空断熱材。
【請求項5】
前記繊維層が、前記ガラス繊維のみで構成された湿式抄造シートからなることを特徴とする請求項4記載の真空断熱材。

【公開番号】特開2008−232257(P2008−232257A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72451(P2007−72451)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】