説明

真空計

【課題】従来より広い範囲の気体の圧力を十分な精度で測定することができるようにした真空計を提供する。
【解決手段】振動体4と、振動体4と対向して静電力により振動体4を駆動する加振電極5と、振動体4と対向する検出電極6と、振動体4と検出電極6との間の静電容量を検知することにより振動体4の振動を検出する振動検出部と、振動体4を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極5に印加し振動体4を共振状態に保持して、振動体4の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、圧力測定部の測定出力信号による測定圧力レベルを基準圧力レベルと比較する圧力レベル判定部を有するとともに、圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて振動体4と検出電極6との間の電位差を可変する電位差変更手段を備えてなる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体を利用した真空計に関し、特に、広い範囲の気体の圧力を測定することができるようにした真空計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音叉型振動体を利用して雰囲気の圧力を測定する真空センサが知られている(特許文献1参照)。音叉型振動体を利用して雰囲気の圧力を測定する原理は、振動体を振動させ、その振動特性から雰囲気の真空圧力を特定するものである。振動体の加振には静電力を利用し、振動体と振動検出電極との電極間距離の変化に対応する静電容量の変化を検出することで振動体の振動を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−137533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
共振状態における振動体の振幅Aは、振動特性の1つであるQ値と下記の式(1)の関係がある。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、Fは振動体に印加した駆動力、Mは振動体の質量、ωは振動体の固有角周波数である。また、Q値とは、共振のピークの鋭さを表す無次元数であり、Q値が高い振動体ほど1周期の間に系から散逸するエネルギーが小さい。すなわち、同じ駆動力Fを印加したときQ値が低い振動体はQ値が高い振動体と比較して散逸するエネルギーが大きいため振幅Aは小さくなる。振動体は様々な要因によってエネルギーを散逸し、振動体のQ値は低下する。例えば、気体の抵抗によってエネルギーを散逸し、振動体のQ値は低下する。分子流領域においては、気体の抵抗によって制限されるQ値であるQは下記の式(2)で与えられる。
【0007】
【数2】

【0008】
ここで、Cは振動体の形状に依存する係数である。式(2)より、気体の圧力Pが高いほど振動体のQ値は低下するため、振動体のQ値を測定することで気体の圧力を測定することが可能である。しかし、振動体は気体の抵抗以外の要因によってもエネルギーを散逸し、振動体のQ値が低下する。その1つとして電気的にエネルギーを散逸することが知られている。静電容量の変化から振動体の振幅を測定する場合、振動体と検出電極との間に電位差ΔEを印加されており、振動体が振動することによる静電容量の変化に応じた電流Iが流れる。そして、この電流Iは下記の式(3)で示される。
【0009】
【数3】

【0010】
ここで、ΔEは振動体と振動検出電極との間の電位差、Cは振動体と振動検出電極との間の静電容量である。この電流Iを電圧などの他の物理量に変換することで振動体の振動を検出する。しかし、この電流Iとシリコンの配線抵抗などの抵抗成分Rによって損失が発生する。その結果、振動体のエネルギーが散逸され、振動体のQ値が低下する。一般的に、この電気的な損失によって制限されるQ値であるQは下記の式(4)で与えられる。
【0011】
【数4】

【0012】
ここで、εは誘電率、Sは電極の面積、dは振動状態での中立位置における振動体と振動検出電極との間の距離である。このように、複数の損失要因が存在する場合、振動体の総合のQ値は下記の式(5)で与えられる。
【0013】
【数5】

【0014】
式(5)に示されているように、最もエネルギーを散逸する要因が支配的となる。そのため、気体の抵抗によるエネルギーの損失以外の要因が大きい場合、気体の抵抗以外の要因が支配的となり、気体の圧力と振動体のQ値(総合のQ値)との相関関係がなくなることにより、気体の圧力を測定することができなくなる。図13はQおよびQのみを考慮した場合における振動体のQ値と圧力との関係を示す図である。気体の抵抗によるエネルギーの散逸が支配的な圧力領域(より圧力が高い領域)では圧力Pに反比例して振動体のQ値(総合のQ値)は低下する。すなわち、振動体のQ値(総合のQ値)から気体の圧力を測定することが可能である。一方、気体の圧力に依存しないQが支配的な圧力領域(より圧力が低い領域)では気体の圧力Pに関係なく振動体のQ値(総合のQ値)は概ね一定値となり、この圧力領域では気体の圧力を測定することができない。
【0015】
このように、振動体を利用した従来の真空計では、測定可能な圧力領域を低圧側に広げる上で、上述のような「電気的な損失によって制限されるQ値(Q)」に起因する限界が有った。
【0016】
本発明は、上記した課題を解決して、従来より広い範囲の気体の圧力を十分な精度で測定することができるようにした真空計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の真空計は、振動体と、該振動体と対向して静電力により振動体を駆動する加振電極と、該振動体と対向する検出電極と、振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより振動体の振動を検出する振動検出部と、振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極に印加し振動体を共振状態に保持して、振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、圧力測定部の測定出力信号による測定圧力レベルを基準圧力レベルと比較する圧力レベル判定部を有するとともに、該圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて振動体と検出電極との間の電位差を可変する電位差変更手段を備えてなる、ことを特徴とする(請求項1の発明)。
【0018】
上記請求項1の発明によれば、圧力測定部の測定出力信号による測定圧力レベル(P)を基準圧力レベル(P)と比較する圧力レベル判定部を有するとともに、該圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて振動体と検出電極との間の電位差(ΔE)を可変する電位差変更手段を備えるようにしている。
【0019】
これにより、測定圧力レベル(P)が基準圧力レベル(P)未満である領域では、電位差変更手段でもって振動体と検出電極との間の電位差(ΔE)をより小さく設定することで「電気的な損失によって制限されるQ値(Q)」の値を高くすることによって、気体の圧力と振動体のQ値(総合のQ値)と間の相関関係がより低圧側でも良好になるようにすることができ、測定できる圧力の範囲をより低圧側に広げることができるようになる。なお、本発明における振動検出部は振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより振動体の振動を検出する方式であり、その振動検出の精度は振動体と検出電極との間の電位差(ΔE)と静電容量の変化量とに依存する。この点において、圧力が低い領域では振動体のQ値が高いため振幅が大きく静電容量の変化量が十分に大きいことから、振動体と検出電極との間の電位差(ΔE)が小さい状態であっても、振動体の振動を十分な精度で検出することができる。
【0020】
一方、測定圧力レベル(P)が基準圧力レベル(P)以上である領域では、電位差変更手段でもって振動体と検出電極との間の電位差(ΔE)をより大きく設定することで振動検出の精度をより高くして圧力測定の精度を向上させることができるようになる。なお、圧力が高い領域では、「気体の抵抗によって制限されるQ値(Q)」が「電気的な損失によって制限されるQ値(Q)」に対して十分低いため、振動体と検出電極との間の電位差(ΔE)をより大きく設定することによって「電気的な損失によって制限されるQ値(Q)」が低くなることによる影響は小さいものとすることができる。
【0021】
また、上記請求項1に記載の真空計において、前記電位差変更手段は、測定圧力レベルが基準圧力レベル以上のとき、測定圧力レベルが基準圧力レベル未満のときに対して、上記電位差をより大きくする構成とすることができる(請求項2の発明)。
【0022】
また、上記請求項1または2に記載の真空計において、振動検出部における静電容量検出回路の検出バイアス電圧を生成する検出バイアス電圧生成部を備え、前記電位差変更手段は、圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて検出バイアス電圧を可変することにより検出電極の電位を可変する構成とすることができる(請求項3の発明)。
【0023】
上記請求項3の発明のように、圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて検出バイアス電圧(V)を可変することによって、振動体と検出電極との間の電位差(ΔE=V−V)を可変することができる。
【0024】
また、上記請求項1または2に記載の真空計において、振動体に印加される振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部を備え、前記電位差変更手段は、圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて振動体バイアス電圧を可変することにより振動体の電位を可変する構成とすることができる(請求項4の発明)。
【0025】
上記請求項4の発明のように、圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて振動体バイアス電圧(V)を可変することによっても、振動体と検出電極との間の電位差(ΔE=V−V) を可変することができる。
【0026】
また、上記請求項1ないし4のいずれか1項に記載の真空計において、前記駆動信号生成部は、振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより振動体を加振する駆動信号を生成する構成とすることができる(請求項5の発明)。
【0027】
また、上記請求項5に記載の真空計において、前記駆動信号生成部は、駆動信号の電圧が一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整するものであり、前記圧力測定部は、振動検出部の検出信号の大きさに基づいて圧力を測定する構成とすることができる(請求項6の発明)。
【0028】
また、上記請求項5に記載の真空計において、前記駆動信号生成部は、振動検出部の検出信号の大きさが一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整するものであり、前記圧力測定部は、駆動信号の電圧に基づいて圧力を測定する構成とすることができる(請求項7の発明)。
【0029】
また、上記請求項5ないし7のいずれか1項に記載の真空計において、前記駆動信号生成部は、振動体の固有周波数に対応した周波数の初期励振信号を出力する初期励振用信号源を備えるとともに、振動体の初期駆動時には、前記駆動信号として、振動検出部の検出信号に基づく駆動信号の代わりに、初期励振信号に基づく初期駆動信号を加振電極に印加する構成とすることができる(請求項8の発明)。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、圧力が低い領域では、電位差変更手段でもって振動体と検出電極との間の電位差をより小さく設定することで「電気的な損失によって制限されるQ値」を高くすることによって、測定できる圧力の範囲をより低圧側に広げることができるとともに、圧力が高い領域では、電位差変更手段でもって振動体と検出電極との間の電位差をより大きく設定することで振動検出の感度をより高くして圧力測定の精度を向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1に係る真空計の機構部分を成す振動体の平面図である。
【図2】図1に示す構造体の側面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例1における圧力変換回路の出力電圧と圧力との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例1における検出バイアス電圧、振動体バイアス電圧と圧力との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例1における振動体のQ値と圧力との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例1における振動体の振幅と圧力との関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例1における容量電圧変換回路の出力電圧と圧力との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例2に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施例2における検出バイアス電圧、振動体バイアス電圧と圧力との関係を示す図である。
【図11】本発明の実施例2における振動体の振幅と圧力との関係を示す図である。
【図12】本発明の実施例2における容量電圧変換回路の出力電圧と圧力との関係を示す図である。
【図13】従来技術における振動体のQ値と圧力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図1〜図12に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[本発明の実施形態]
【実施例1】
【0033】
本発明の実施例1は、振動体4と検出電極6との間の電位差ΔEを可変する電位差変更方式として、特に、振動検出部における容量電圧変換回路7(静電容量検出回路)の検出バイアス電圧Vを可変するようにしたものである。
【0034】
(イ)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、実施例1に係る真空計の機構部分を成す構造体について説明する。図1は、本発明の実施例1に係る真空計の機構部分を成す振動体を模式的に示す平面図であり、図2は、図1に示す構造体の側面図である。図1および図2において、真空計の機構部分を成す構造体は、錘1、梁2および振動体固定部3よりなる振動体4と、振動体4を加振するための加振電極5と、振動体4の振動を検出するための振動検出電極6とから構成されている。そして、加振電極5は振動体4と対向して配置され、加振電極5に駆動信号を印加することによって静電力により振動体4が駆動される。また、振動検出電極6も振動体4と対向して配置され、振動体4と検出電極6との間の静電容量を検知することによって振動体4の振動が検出される。なお、図1〜2に示す構造体は、振動体4が加振電極5と対向する位置を,振動体4が振動検出電極6と対向する位置よりも振動体固定部3に近い位置としてなる構成とされているが、本発明における構造体の構成は上記構成に限定されるものではない。
【0035】
(ロ)真空計の回路構成:
次に、実施例1に係る真空計の回路構成について説明する。図3は本発明の実施例1に係る真空計の回路構成を示すブロック図であり、図1〜2と同一の符号は図1〜2と同一名称の部分を示す。図3に示されるように、実施例1に係る真空計の回路は、振動体4と振動検出電極6との間の静電容量の変化を電圧の変化に変換する容量電圧変換回路7、容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAを気体の圧力Pに対応した電圧信号である圧力測定信号Vに変換する圧力変換回路10、上記振動検出信号VCAの位相をシフトする位相シフト回路8、増幅のゲインの調整により位相シフト回路8の出力信号VCAPの電圧を制御し駆動信号VAPとして加振電極5に出力する電圧制御回路9、圧力変換回路10の出力電圧V(圧力測定信号Vの電圧)と基準電圧源12の電圧Vとを比較するとともに比較結果に基づき圧力レベル判定信号S1を出力する電圧比較回路11、振動体4を初期加振するための初期励振信号VAIを生成する初期加振用信号源19、加振電極5に印加する駆動信号を選択するスイッチ回路18、振動体4に印加される振動体バイアス電圧Vを生成する振動体バイアス電圧源13から構成される。
【0036】
容量電圧変換回路7は、真空計の振動検出部における静電容量検出回路として振動検出電極6に接続され、振動体4が振動することによる振動体4と振動検出電極6との間の静電容量の変化を電圧の変化に変換し、振動検出信号VCAとして出力するものであり、図3にはチャージアンプとしての回路構成例が示されている。図3において、容量電圧変換回路7は、差動増幅器14、抵抗15、キャパシタ16、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1に応じた検出バイアス電圧Vを出力する検出バイアス電圧源17から構成されている。そして、容量電圧変換回路7において、抵抗15とキャパシタ16との並列回路が差動増幅器14の反転入力端子と出力端子との間に接続されるとともに、検出バイアス電圧源17から出力される検出バイアス電圧Vが差動増幅器14の非反転入力端子に印加されており、これにより、振動検出電極6の電圧Vも検出バイアス電圧Vと同じ電圧となっている。また、検出バイアス電圧源17は、電圧比較器11からの圧力レベル判定信号S1に応じて出力電圧Vを可変する機能を有する構成となっている。なお、本発明における容量電圧変換回路は、図3の構成に限定されるものではない。
【0037】
(ハ)振動体の加振動作:
次に、実施例1における駆動信号生成部からの駆動信号による振動体4の加振動作について説明する。図3において、振動体4が初期加振される場合、スイッチ回路18はAとBとが接続され、加振電極5に印加する駆動信号Vとして初期加振信号VAIが選択された状態となっている。この初期加振状態では、初期加振用信号源19より振動体4の固有振動数fに対応した周波数の正弦波電圧信号、もしくは、上記固有周波数fに対応した繰り返し周波数のパルス電圧信号からなる初期加振信号VAIが出力され、この初期加振信号VAIが駆動信号Vとして加振電極5に印加されることにより振動体4が加振される。初期加振用信号源19は初期加振にのみ使用され、振動体4が振動し始めた後は、スイッチ回路18が切り替えられ、AとCとが接続される。
【0038】
そして、スイッチ回路18のAとCとが接続され、加振電極5に印加する駆動信号Vとして電圧制御回路9からの駆動信号VAPが選択された状態において、振動検出部における容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAに基づき、この振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路8でシフトし、位相シフト回路8の出力信号VCAPの電圧を電圧制御回路9における増幅のゲインの調整により制御することによって生成した駆動信号VAPを駆動信号Vとして加振電極5に印加することで振動体4の共振状態を保持する。
【0039】
なお、スイッチ回路18は、上述のように、振動体4の振幅に応じて接続を切り替えるように動作するものであり、例えば、振動体4の振幅A、すなわち、振動体4の変位に応じて出力される容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAの大きさが予め設定した値に到達したことを図示されないスイッチ回路用制御部で検出し、その検出タイミングで前記スイッチ回路用制御部からスイッチ回路18にB側からC側への切替信号を与えることにより、振動体4の振幅に応じた接続切り替え動作を行うことができる。
【0040】
(ニ)圧力変換回路の出力特性:
次に、実施例1における圧力変換回路10の出力特性について説明する。図4は、本発明における圧力変換回路10の直流出力電圧V(圧力測定信号Vの電圧)と気体の圧力Pとの関係図であり、圧力Pが高くなるに従い、出力電圧Vも高くなる。なお、図4は圧力変換回路10の出力特性の一例を示すものであり、圧力Pが高くなるに従い、出力電圧Vは低くなるような出力特性としても良い。また、圧力変換回路10は、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1に応じて、その出力特性を切り換える機能を備えている。
【0041】
(ホ)圧力測定動作:
次に、実施例1における圧力測定動作は、例えば加振電極5に印加される駆動信号の電圧Vが一定となるように,容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路8でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路9における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、振動体4のQ値に対応して変化する振動体4の振幅A、すなわち容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAの大きさを、圧力変換回路10で圧力P値に対応する圧力測定信号Vに変換することにより圧力Pを測定する方式(駆動電圧一定方式)とすることができる。
【0042】
なお、上述の駆動電圧一定方式における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)から圧力P値(圧力測定信号V)への変換方法としては、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)をQ値に変換し,さらに,このQ値を圧力P値(圧力測定信号V)に変換するようにしてもよく、また、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)を,Q値を介さないで,直接的に圧力P値(圧力測定信号V)に変換するようにしてもよい。
【0043】
(ヘ)検出バイアス電圧の切り替え動作:
次に、実施例1における検出バイアス電圧源17から出力される検出バイアス電圧Vの切り替え動作について説明する。図5は本発明の実施例1における検出バイアス電圧源17から出力される検出バイアス電圧V、振動体バイアス電圧源13から出力される振動体バイアス電圧Vと圧力Pとの関係を示す図である。なお、ここでは、圧力変換回路10の出力特性が上述の図4のような特性であるものとする。
【0044】
気体の圧力Pが基準圧力レベルP(例えばP=1Pa)であるときに圧力変換回路10の出力電圧VがVである場合、基準電圧源12の出力電圧をVに設定する。電圧比較回路11において圧力変換回路10の出力電圧Vと基準電圧源12の出力電圧Vとを比較し、その圧力レベル判定結果がV<V(すなわちP<P)である場合、検出バイアス電圧VをV=VR1とする。このときの振動体4と振動検出電極6との電位差ΔEは、下記の式(6)で示される。
【0045】
【数6】

【0046】
一方、圧力レベル判定結果がV≧V(すなわちP≧P)である場合、下記の式(7)〜(8)に示すように、検出バイアス電圧VをV=VR2として、振動体4と振動検出電極6との電位差ΔEがΔEに対してn倍(ここでn>1)となるようにする。
【0047】
【数7】

【0048】
【数8】

【0049】
このように、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1(圧力レベル判定結果)に応じて振動体4と振動検出電極6との電位差ΔEを基準圧力レベルPを境にして切り替える。なお、図5ではV>Vとなるような構成を示しているが、V<Vとなるような構成としてもよい。
【0050】
(ト)振動体のQ値と圧力との関係:
次に、実施例1における振動体のQ値と圧力Pとの関係について説明する。図6は、本発明の実施例1における振動体のQ値と圧力との関係を示す図であって、一例として、電位差ΔEを電位差ΔEに対して7倍(n=7、ΔE=0.5V、ΔE=3.5V)に設定した条件での関係を示すものである。図6において、ΔE=ΔEである場合は実線で示した特性となり、ΔE=ΔEである場合は破線で示した特性となる。
【0051】
なお、電気的な損失によって制限されるQ値(Q)に関する上述の式(4)において、下記の式(9)に示される条件では、ΔE=ΔEである場合はQ≒112500、ΔE=ΔEである場合はQ≒2300である。
【0052】
【数9】

【0053】
そして、ΔE=ΔEである場合、Qがより高いため、図6に示されるように、ΔE=ΔEである場合と比較して、より低い圧力まで測定可能である。
(チ)振動体の振幅と圧力との関係:
次に、実施例1における振動体の振幅Aと圧力Pとの関係を説明する。図7は、本発明の実施例1における振動体の振幅Aと圧力Pとの関係を示す図である。振動体4の振幅Aは上述の式(1)で表される。また、一般的に駆動力Fは、加振電極に印加される駆動信号の電圧Vと振動体バイアス電圧Vとの積に比例し、下記の式(10)で示される。
【0054】
【数10】

【0055】
例えば、上述のように、圧力測定動作として、加振電極5に印加される駆動信号の電圧Vが一定となるように電圧制御回路9における増幅のゲインを調整する制御を行なう方式(駆動電圧一定方式)を適用する場合、駆動信号の電圧Vが一定であるとともに、実施例1では圧力Pの全領域において振動体バイアス電圧Vも一定であるため、圧力Pの全領域において駆動力Fは一定となる。このとき、ΔE=ΔEである場合は図7(a)における実線で示した特性となり、ΔE=ΔEである場合は図7(a)における破線で示した特性となる。ここで、図7(a)および後述の図7(b)の縦軸「振幅(m)」における「1.00E−10」〜「1.00E−04」との各目盛数値の記載は、それぞれ「1.00×10−10」〜「1.00×10−4」を示すものである。
【0056】
なお、共振状態における振動体4の振幅Aに関する上述の式(1)に示されているように、駆動力Fが一定の条件では、振動体4のQが等しい場合、振動体4の振幅Aも等しくなる。このため、圧力が高い領域、すなわち基準圧力レベルP(例えば1Pa)以上の領域では、振動体4のQ値(総合のQ値)をもたらす複数の損失要因のうち気体の抵抗によるエネルギーの散逸が支配的であることにより、電位差条件(ΔEおよびΔEのいずれであるか)に関わらず、振動体4のQ値(総合のQ値)がほぼ同等となり、振動体4の振幅Aは概ね一致している。
【0057】
そして、式(1)において下記の式(11)に示される条件では、検出バイアス電圧Vを切り替える基準圧力レベルPを例えば1Paとすると、圧力の低い側から高い側までの全領域における圧力P−振幅A特性は、図7(b)における実線で示した特性となる。
【0058】
【数11】

【0059】
(リ)容量電圧変換回路の出力電圧と圧力との関係:
次に、実施例1における容量電圧変換回路7の出力電圧VCA(振動検出信号VCAの電圧)と圧力Pとの関係について説明する。図8は、本発明の実施例1における容量電圧変換回路7の出力電圧VCAと圧力との関係を示す図である。振動体4と振動検出電極6との間の距離に対して振動体4の振幅Aが十分に小さい場合、容量電圧変換回路7の出力電圧VCAは振動体4の振幅Aに概ね比例する。また、電圧VCAは振動体4と振動検出電極6との間の電位差ΔEにも比例する。そのため、比例定数をmとすると、容量電圧変換回路7の出力電圧VCAは下記の式(12)で表すことができる。
【0060】
【数12】

【0061】
電位差ΔEがΔE=0.5V、ΔE=3.5V(n=7)となるように検出バイアス電圧Vをそれぞれ設定すると、ΔE=ΔEである場合は図8(a)における実線で示した特性となり、ΔE=ΔEである場合は図8(a)における破線で示した特性となる。ここで、図8(a)および後述の図8(b)の縦軸「出力電圧(V)」における「1.00E−07」〜「1.00E+00」との各目盛数値の記載は、それぞれ「1.00×10−7」〜「1.00×10」を示すものである。
【0062】
上述の圧力P−振幅A特性は、図7(a)に示されるように、基準圧力レベルP(=1Pa)以上の領域では、電位差条件(ΔEおよびΔEのいずれかであるか)に関わらず振動体4の振幅Aが概ね一致する特性となっているが、圧力P−出力電圧VCA特性は、図8(a)に示されるように、基準圧力レベルP(=1Pa)以上の領域では、ΔE=ΔEである場合はΔE=ΔEである場合と比較して容量電圧変換回路7の出力電圧VCAが高くなる特性となっている。
【0063】
そして、圧力の低い側から高い側までの全領域における圧力P−出力電圧VCA特性は、図8(b)における実線で示した特性となる。
なお、圧力の低い側から高い側までの全領域における圧力P−出力電圧VCA特性が図8(b)に示されるように基準圧力レベルP(=1Pa)で切り替わることに対応するため、容量電圧変換回路7の出力電圧VCAに応じた直流電圧Vを出力する圧力変換回路10では、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1に応じて、その出力特性を切り換えて、圧力測定範囲の全体にわたって圧力Pに比例した直流電圧Vが圧力測定信号として出力されるようにする。
【0064】
(ヌ)このように、実施例1においては、検出バイアス電圧源17から出力される検出バイアス電圧Vを基準圧力レベルP=Pで切り替えることによって、圧力が高い領域(P≧Pである状態)では、電位差ΔEを圧力が低い領域(P<Pである状態)より大きく設定することで、容量電圧変換回路7の出力電圧VCAをより高くし、振動検出の感度をより高くして圧力測定の精度を向上させることが可能となる。
【0065】
(ル)また、実施例1においては、圧力が低い領域(P<Pである状態)では、電位差ΔEを圧力が高い領域(P≧Pである状態)より小さく設定することで、上記(ト)項で述べたように「電気的な損失によって制限されるQ値(Q)」をより高くすることができ、これにより、測定できる圧力の範囲をより低圧側に広げることが可能となる。
【実施例2】
【0066】
本発明の実施例2は、上述の実施例1とは異なり、振動体4と検出電極6との間の電位差ΔEを可変する電位差変更方式として、特に、振動体4に印加される振動体バイアス電圧Vを可変するようにしたものである。
【0067】
(イ)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、実施例2に係る真空計の機構部分を成す構造体は、上述の図1〜2で説明した実施例1における構造体と同様の構成とすることができる。
【0068】
(ロ)真空計の回路構成:
次に、実施例2に係る真空計の回路構成について説明する。図9は本発明の実施例2に係る真空計の回路構成を示すブロック図であり、図3と同一の符号は同一名称の部分を示す。図9においては、図3と比較して、図3のように電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1に応じて検出バイアス電圧源17から出力される検出バイアス電圧Vを可変する代わりに、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1に応じて振動体バイアス電圧源13Aから出力される振動体バイアス電圧Vを可変する点が異なっており、その他の点は図3と同様である。なお、図9における振動体バイアス電圧源13Aは、図3における振動体バイアス電圧源13とは異なり、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1に応じて出力電圧Vを可変する機能を有する構成となっている。また、図9における検出バイアス電圧源17Aには、図3における検出バイアス電圧源17とは異なり、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1に応じて出力電圧Vを可変する機能は不要である。
【0069】
(ハ)振動体の加振動作:
次に、実施例2における駆動信号生成部からの駆動信号による振動体4の加振動作は、実施例1における加振動作と同様に行う。
【0070】
(ニ)圧力変換回路の出力特性:
次に、実施例2における圧力変換回路10の出力特性、すなわち直流出力電圧V(圧力測定信号Vの電圧)と気体の圧力Pとの関係は、実施例1の場合(図4)と同様とする。また、実施例1と同様に、圧力変換回路10は、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1に応じて、その出力特性を切り換える機能を備えている。
【0071】
(ホ)圧力測定動作:
次に、実施例2における圧力測定動作は、実施例1と同様に、例えば、加振電極5に印加される駆動信号の電圧Vが一定となるように,容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路8でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路9における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、振動体4のQ値に対応して変化する振動体4の振幅A、すなわち容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAの大きさを、圧力変換回路10で圧力P値に対応する圧力測定信号Vに変換することにより圧力Pを測定する方式(駆動電圧一定方式)とすることができる。
【0072】
なお、上述の駆動電圧一定方式における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)から圧力P値(圧力測定信号V)への変換方法としては、実施例1と同様に、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)をQ値に変換し,さらに,このQ値を圧力P値(圧力測定信号V)に変換するようにしてもよく、また、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)を,Q値を介さないで,直接的に圧力P値(圧力測定信号V)に変換するようにしてもよい。
【0073】
(へ)振動体バイアス電圧の切り替え動作:
次に、実施例2における振動体バイアス電圧源13Aから出力される振動体バイアス電圧Vの切り替え動作について説明する。図10は本発明の実施例2における検出バイアス電圧源17Aから出力される検出バイアス電圧V、振動体バイアス電圧源13Aから出力される振動体バイアス電圧Vと圧力Pとの関係を示す図である。なお、ここでは、圧力変換回路10の出力特性が上述の図4のような特性であるものとする。
【0074】
実施例1の場合と同様に、気体の圧力Pが基準圧力レベルP(例えばP=1Pa)であるときに圧力変換回路10の出力電圧VがVである場合、基準電圧源12の出力電圧をVに設定する。電圧比較回路11において圧力変換回路10の出力電圧Vと基準電圧源12の出力電圧Vとを比較し、その圧力レベル判定結果がV<V(すなわちP<P)である場合、振動体バイアス電圧VをV=VB1とする。このときの振動体4と振動検出電極6との電位差ΔEは、下記の式(13)で表される。
【0075】
【数13】

【0076】
一方、圧力レベル判定結果がV≧V(すなわちP≧P)である場合は、下記の式(14)〜(15)に示すように、振動体バイアス電圧VをV=VB2として、振動体4と振動検出電極6との電位差ΔEがΔEに対してn倍(ここでn>1)となるようにする。
【0077】
【数14】

【0078】
【数15】



【0079】
このように、電圧比較回路11からの圧力レベル判定信号S1(圧力レベル判定結果)に応じて振動体4と振動検出電極6との電位差ΔEの絶対値の大きさを基準圧力レベルPを境にして切り替える。なお、図10ではV>Vとなるような構成を示しているが、V<Vとなるような構成としてもよい。
【0080】
(ト)振動体のQ値と圧力との関係:
次に、実施例2における振動体のQ値と圧力Pとの関係は、ΔEおよびΔEを実施例1の場合と同様に設定すると、実施例1と同様に上述の図6に示したようになる。そして、実施例2でも、実施例1と同様に、ΔE=ΔEである場合、Qがより高いため、図6に示されるように、ΔE=ΔEである場合と比較して、より低い圧力まで測定可能である。
【0081】
(チ)振動体の振幅と圧力との関係:
次に、実施例2における振動体の振幅Aと圧力Pとの関係を説明する。図11は本発明の実施例2における振動体の振幅Aと圧力Pとの関係を示す図である。振動体4の振幅Aは上述の式(1)で表される。また、上述の式(10)で示したように、一般的に駆動力Fは、加振電極に印加する電圧Vと振動体バイアス電圧Vとの積に比例する。
【0082】
例えば、上述のように、圧力測定動作として、加振電極5に印加される駆動信号の電圧Vが一定となるように電圧制御回路9における増幅のゲインを調整する制御を行なう方式(駆動電圧一定方式)を適用する場合、駆動信号の電圧Vは一定であるが、実施例2では圧力Pの領域に応じて振動体バイアス電圧Vを切り替えるため、振幅Aも切り替わることになる。
【0083】
例えば、V=0V、VB1=−0.5V、VB2=−3.5V(ΔE=0.5V、ΔE=3.5V)、P=1Paとすると、ΔE=ΔEである場合は図11(a)における実線で示した特性となり、ΔE=ΔEである場合は図11(a)における破線で示した特性となる。なお、図11(a)および後述の図11(b)の縦軸「振幅(m)」における「1.00E−10」〜「1.00E−04」との各目盛数値の記載は、それぞれ「1.00×10−10」〜「1.00×10−4」を示すものである。
【0084】
ここで、共振状態における振動体4の振幅Aに関する上述の式(1)に示されているように、振動体4の振幅Aは駆動力FとQ値との積に比例する。このため、圧力が高い領域、すなわち基準圧力レベルP(例えば1Pa)以上の領域では、振動体4のQ値(総合のQ値)をもたらす複数の損失要因のうち気体の抵抗によるエネルギーの散逸が支配的であることにより、電位差条件(ΔEおよびΔEのいずれであるか)に関わらず、振動体4のQ値はほぼ同等となるが、ΔE=ΔEである場合の方が振動体バイアス電圧Vの絶対値が大きい(すなわち|VB1|<|VB2|である)ことにより駆動力Fが大きくなるため、振幅Aも大きくなる。
【0085】
そして、振動体バイアス電圧Vを切り替える基準圧力レベルPを例えば1Paとすると、圧力の低い側から高い側までの全領域における圧力P−振幅A特性は、図11(b)における実線で示した特性となる。
【0086】
(リ)容量電圧変換回路の出力電圧と圧力との関係
次に、実施例2における容量電圧変換回路7の出力電圧VCA(振動検出信号VCAの電圧)と圧力Pとの関係について説明する。図12は、本発明の実施例2における容量電圧変換回路の出力電圧VCAと圧力との関係を示す図である。実施例2における振動体4の振幅Aと容量電圧変換回路7の出力電圧VCAとの関係は実施例1と同様に上述の式(12)で表される。
【0087】
上記(チ)項に記載の条件、すなわち、V=0V、VB1=−0.5V、VB2=−3.5V(ΔE=0.5V、ΔE=3.5V)、P=1Paの条件では、ΔE=ΔEである場合は図12(a)における実線で示したような特性となり、ΔE=ΔEである場合は図12(a)における破線で示したような特性となる。なお、図12(a)および後述の図12(b)の縦軸「出力電圧(V)」における「1.00E−07」〜「1.00E+00」との各目盛数値の記載は、それぞれ「1.00×10−7」〜「1.00×10」を示すものである。
【0088】
実施例2では、出力電圧VCAに関する上述の式(12)において、ΔE=ΔEである場合における振動体バイアス電圧Vの設定条件として、特にVの絶対値がΔE=ΔEである場合より大きくなるように設定したときには、振動体4の振幅Aも大きくなるため、容量電圧変換回路7の出力電圧VCAが実施例1の場合と比較してより高くなる。
【0089】
そして、振動体バイアス電圧Vを切り替える基準圧力レベルPを例えば1Paとすると、圧力の低い側から高い側までの全領域における圧力P−出力電圧VCA特性は、図12(b)における実線で示した特性となる。
【0090】
なお、実施例1と同様に、圧力の低い側から高い側までの全領域における圧力P−出力電圧VCA特性が図12(b)に示されるように基準圧力レベルP(=1Pa)で切り替わることに対応するため、容量電圧変換回路7の出力電圧VCAに応じた直流電圧Vを出力する圧力変換回路10では、電圧比較器11からの圧力レベル判定信号S1に応じて、その出力特性を切り換えて、圧力測定範囲の全体にわたって圧力Pに比例した直流電圧Vが圧力測定信号として出力されるようにする。
【0091】
(ヌ)このように、実施例2においては、振動体バイアス電圧源13Aから出力される振動体バイアス電圧Vを基準圧力レベルP=Pで切り替えることによって、圧力が高い領域(P≧Pである状態)では、電位差ΔEを圧力が低い領域(P<Pである状態)より大きく設定することで、容量電圧変換回路7の出力電圧VCAをより高くし、振動検出の感度をより高くして圧力測定の精度を向上させることが可能となる。
【0092】
(ル)また、実施例2においては、圧力が低い領域(P<Pである状態)では、電位差ΔEを圧力が高い領域(P≧Pである状態)より小さく設定することで、実施例1と同様に「電気的な損失によって制限されるQ値(Q)」をより高くすることができ、これにより、測定できる圧力の範囲をより低圧側に広げることが可能となる。
(本発明の実施形態における他の構成例)
(イ)なお、上述の実施例1および実施例2では1点の基準圧力レベル(P)で振動体4と振動検出電極6との電位差ΔEを切り替える構成としているが、複数点の基準圧力レベル(PS1、PS2・・・)でそれぞれ電位差ΔEを切り替える構成とすることも可能である。また、検出バイアス電圧Vもしくは振動体バイアス電圧Vを切り替える基準圧力レベル(P)の設定にヒステリシスを持たせることで、基準圧力レベル(P)付近で電圧VもしくはVが急激に切り替わる動作が頻繁に繰り返すことを防ぐことができる。
【0093】
(ロ)また、上述の実施例1および実施例2では、圧力測定動作として、加振電極5に印加される駆動信号の電圧Vが一定となるように,容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路8でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路9における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、振動体4のQ値に対応して変化する振動体4の振幅A、すなわち容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAの大きさを、圧力変換回路10で圧力P値に対応する圧力測定信号Vに変換することにより圧力Pを測定する方式(駆動電圧一定方式)を例示している。しかしながら、本発明における圧力測定動作は上記方式に限定されるものではなく、振動体4の振幅A(変位量)に応じた容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAが一定となるように,容量電圧変換回路7からの振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路8でシフトした信号に対する電圧制御回路9における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、加振電極5に印加される駆動信号の電圧Vに基づいて圧力Pを測定する方式(振幅一定方式)を適用することも可能である。
【0094】
(ハ)また、上述の実施例1および実施例2では、圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて振動体と検出電極との間の電位差を可変する電位差変更方式として、検出バイアス電圧源17から出力される検出バイアス電圧Vを切り替える構成、および、振動体バイアス電圧源13Aから出力される振動体バイアス電圧Vを切り替える構成を示したが、本発明における電位差変更方式は、振動体と検出電極との間の電位差をステップ的に切り替える方式に限定されるものではなく、例えば、振動体と検出電極との間の電位差をランプ状に変える方式を適用することもできる。
【符号の説明】
【0095】
1・・・錘
2・・・梁
3・・・振動体固定部
4・・・振動体
5・・・加振電極
6・・・振動検出電極
7・・・容量電圧変換回路
8・・・位相シフト回路
9・・・電圧制御回路
10・・・圧力変換回路
11・・・電圧比較回路
12・・・基準電圧源
17,17A・・・検出バイアス電圧源
13,13A・・・振動体バイアス電圧源
14・・・差動増幅器
15・・・抵抗
16・・・キャパシタ
18・・・スイッチ回路
19・・・初期加振用信号源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体と、該振動体と対向して静電力により振動体を駆動する加振電極と、該振動体と対向する検出電極と、振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより振動体の振動を検出する振動検出部と、振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極に印加し振動体を共振状態に保持して、振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、
圧力測定部の測定出力信号による測定圧力レベルを基準圧力レベルと比較する圧力レベル判定部を有するとともに、該圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて振動体と検出電極との間の電位差を可変する電位差変更手段を備えてなる
ことを特徴とする真空計。
【請求項2】
請求項1に記載の真空計において、
前記電位差変更手段は、測定圧力レベルが基準圧力レベル以上のとき、測定圧力レベルが基準圧力レベル未満のときに対して、上記電位差をより大きくすることを特徴とする真空計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空計において、
振動検出部における静電容量検出回路の検出バイアス電圧を生成する検出バイアス電圧生成部を備え、
前記電位差変更手段は、圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて検出バイアス電圧を可変することにより検出電極の電位を可変することを特徴とする真空計。
【請求項4】
請求項1または2に記載の真空計において、
振動体に印加される振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部を備え、
前記電位差変更手段は、圧力レベル判定部の判定出力信号に応じて振動体バイアス電圧を可変することにより振動体の電位を可変することを特徴とする真空計。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の真空計において、
前記駆動信号生成部は、振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより振動体を加振する駆動信号を生成することを特徴とする真空計。
【請求項6】
請求項5に記載の真空計において、
前記駆動信号生成部は、駆動信号の電圧が一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整するものであり、
前記圧力測定部は、振動検出部の検出信号の大きさに基づいて圧力を測定することを特徴とする真空計。
【請求項7】
請求項5に記載の真空計において、
前記駆動信号生成部は、振動検出部の検出信号の大きさが一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整するものであり、
前記圧力測定部は、駆動信号の電圧に基づいて圧力を測定することを特徴とする真空計。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項に記載の真空計において、
前記駆動信号生成部は、振動体の固有周波数に対応した周波数の初期励振信号を出力する初期励振用信号源を備えるとともに、振動体の初期駆動時には、前記駆動信号として、振動検出部の検出信号に基づく駆動信号の代わりに、初期励振信号に基づく初期駆動信号を加振電極に印加することを特徴とする真空計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−196831(P2011−196831A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64121(P2010−64121)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】