説明

眼内を長期タンポナーデするための部分的フッ素化エーテル類、その組成物、およびその利用

【解決課題】 本発明は、長期間手術後タンポナーデ剤として利用するための部分的にフッ素化されたエーテル液を含む一個の高純度液体を提供する。
【解決手段】組成物は、DEPEからなる液状タンポナーデ剤で、部分的にフッ素化されたエーテルと、シリコン液(もしくはオイル)または透明で無色、不活性で比重の小さな過フッ化炭化水素液(または他の液体もしくはオイル)のいずれかとからなる可溶性混合液を含む薬剤である。比重が1.1から1.5の間の部分的にフッ素化されたエーテル液がタンポナーデ剤として用いられる場合、シリコンと過フッ化炭化水素液の欠点をうまくなくすのに適している。部分的にフッ素化されたエーテル液、およびその混合液は、目と長期間適合できるために手術後に目に残ったままでもよく、そのため網膜の再付着および治癒行程の首尾を改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間手術後タンポナーデ剤としての部分的にフッ素化されたエーテル液に向けられた組成物、利用、および方法に関わる。
【0002】
この明細書は、著作権の保護の下にある材料を含む。この著作権の所有者は、幾分か、および全ての著作権の権利を別途制限しない限り、米国特許商標庁の特許文献または記録において明らかであるように、何人も特許文献または特許明細書の複製をすることに依存はない。
【0003】
全ての特許出願書、公開された特許出願、交付および認可された特許、並びにこの明細書で引用された文献参考物は、その全体が参照文献としてこの明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0004】
網膜断裂または網膜剥離を修復する外科手術の後で、外科医は網膜の外科的再付着を維持したり支持したりするのを助けるために、手術後タンポナーデ剤を利用することがよくある。網膜色素上皮(RPE)に近接する神経性網膜を維持する効力を発揮することによって、手術後タンポナーデ剤は再付着した網膜を治癒させる助けとなる。手術後タンポナーデ剤の例には、硝子体内の気体、シリコンの液体(およびオイル)、および過フッ化炭化水素液が含まれる。しかしながらこれらの物質はそれぞれ、手術後タンポナーデ剤としては限界がある。
【0005】
例えば硝子体内または眼内の気体(例えばパーフロロメタン、パーフロロエタン、パーフロロプロパン、およびサルファヘキサフロライド)では、再付着させた網膜上のガス圧を維持させるために、頭部をある位置に維持させることが患者に要求される場合が多い。このことは、頭部を動かさないことに応じることのできない子供やお年寄りのような患者にとっては問題となる可能性がある。また空気とともに移動させる必要のある患者では、大気圧が急に変化すると、損傷レベルまで眼内圧を上昇させる急激な気泡の膨張が引き起こされる可能性があるために問題となる。同様に、歯科的治療や他の外科的な介入を行う必要のある患者に対しては一般的な吸入麻酔を用いることができない。というのは、吸入ガス(例えば亜酸化窒素)の溶解度が高いために眼内の気泡に急速に拡散してしまう可能性があり、気泡膨張の増加と眼内圧の増加を引き起こしてしまうからである。シリコン液にも浮揚性の問題がある。シリコン液は水よりも軽い(比重が0.97)ためシリコンの小滴は上方へ向かう浮力を伴って網膜に接触し、結果的にまっすぐに座っている患者では下方網膜には事実上、ほとんど填塞が施されない。この欠点を修正する目的で、水よりも密度が大きいことからシリコン液のフッ素化誘導体を使用する試みがなされている。しかしながらフッ素化シリコン液は著しい炎症反応に関与しており、それはそれらの組成物が短鎖ポリマーからなるために高純度でこれらの液体を単離する際の難しさにある程度関連するのであろう(Gabel, V. -P.ら、Br. J. Ophthalmol, 71: 262 (1987))。
【0006】
また過フッ化炭化水素液は水よりも重く(1.6以上の比重を有している)、それによって浮揚性や位置づけの問題を示すことのないタンポナーデ剤となる潜在性がある。しかしながら過フッ化炭化水素液は重すぎて、一週間よりも長い時間が過ぎると過フッ化炭化水素液の下降力によって結果的に下方網膜の外側網状層に低粘稠化が生じたり(Changら、Retina, 11: 367-374 (1991))、または他の有意なマイナスの作用が引き起こされる。こうしてタンポナーデ剤には、水よりも重く、過フッ化炭化水素液よりも軽く、かつ長期間目に悪影響を与えないことが望まれる。
【特許文献1】国際特許出願PCT/JP03/15279号
【特許文献2】米国特許第4,490,351号
【特許文献3】米国特許第5,037,384号
【非特許文献1】Gabel, V. -P.et al. Br. J. Ophthalmol, 71: 262 (1987)
【非特許文献2】Chang et al. Retina, 11: 367-374 (1991)
【非特許文献3】網膜−硝子体−斑(Retina-Vitreous-Macula), 編集者Guyer, Dら、W. B. Saunders Company, 1999における1320-1337頁のChangおよびSparrowによる「硝子体の置換」という章
【非特許文献4】Bourke, RおよびCooling, R, Australian and New Zealann J. Ophthalmol., 1995, 23 (3): 165-171
【非特許文献5】Comaratta, M.およびChang, S., Curr. Opinion Ophthalol., 1991, 2: 291-198
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、網膜の再付着を目的とする手術後タンポナーデ剤として主に利用される、例えばデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル(「DFPD」)のような比重が約1.1から約1.5の部分的にフッ素化されたエーテルに向けられる。比重が約1.1から約1.5であることに加えて、手術後タンポナーデ剤として最も適した部分的にフッ素化されたエーテル液は以下の特徴を有するとよい。即ち、目には反応せず、かなり高い純度で入手可能であって、目に長期間残っても悪影響がなく、疎水性であり、視覚的に透明であってかつ水性液とは区別でき、さらに蒸気圧が低い。以前のタンポナーデ剤とは違って本発明の部分的にフッ素化されたエーテル液は、目の下方と後方に向かって充分な力を与えることができるため浮揚性や位置づけの問題点が現れることがなく、その一方で大きすぎる力が与えられることもないため、手術後の長期間、目に存在しても網膜が損傷を受けることがない。さらに本発明は、シリコンおよび/または過フッ化炭化水素液単独を用いた場合の問題点を回避できる長期タンポナーデ剤として使用するための、部分的フッ素化エーテルおよびシリコンまたは過フッ化炭化水素類(または比重の小さい他の透明、無色、および不活性な液体)を含む可溶性液体を提供する。部分的にフッ素化されたエーテルとシリコンおよび/または過フッ化炭化水素液との組み合わせ(ここでは部分的にフッ素化されたエーテルが可溶性であるような液体)はまた、網膜の上方と下方に対して同時にうまく支持できる手術後タンポナーデ剤を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある観点では本発明は、デカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル(「DFPE」)を含む液状タンポナーデ剤を提供する。別の観点では本発明は、本質的にDFPEからなる液状タンポナーデ剤を提供する。ある観点では液状タンポナーデ剤が本質的にDFPEからなる場合、その薬剤はDFPEが約99%、99.9%、99.95%、または99.97%以上であろう。
【0009】
一観点では本発明は、部分的にフッ素化されたエーテル液と、不活性で透明、無色、そして比重が小さい他の何らかの液体(類)またはオイル(類)(または他の液体(類)およびオイル(類)の組み合わせ)との可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤を提供する。例えば不活性で透明、および無色の液体またはオイル(またはそれらの組み合わせ)は、比重が約0.85から約1まで(または約1より小さい値まで)、約0.9から約1まで(または約1より小さい値まで)、約0.95から約1まで(または約1より小さい値まで)、または約0.96から約0.99まで、または約0.96から約0.98まで、または約0.97である。一観点では本発明は、部分的にフッ素化されたエーテル液とシリコンオイルとの可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤を提供する。別の観点では本発明は、部分的にフッ素化されたエーテル液と過フッ化炭化水素液との可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤を提供する。
【0010】
この液状タンポナーデ剤に関しては、部分的にフッ素化されたエーテル液は化学式(I):Rf(CH2)nO(CH2)nRfであって、式中Rfがフッ素化されたC1-4の一価の飽和有機官能基であり、またnが3または4であるような化学式のフッ素化エーテルを含んでいる。一観点ではRfはC1-4ポリフロロアルキル基、C1-4過フッ化アルキル基、または−C2F5であり、別の観点ではnは3である。
【0011】
別の観点では本発明の液状タンポナーデ剤は比重が1より大きくかつ1.6より小さい。別の観点では液状タンポナーデ剤は、比重が約1.2または約1.3である。別の観点では液状タンポナーデ剤は比重が約1.02から約1.02である。
【0012】
別の観点では液状タンポナーデ剤の可溶性混合液はデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル(C2F5CH2CH2CH2OCH2CH2CH2C2H5)(「DFPE」)を含む。
【0013】
別の観点では液状タンポナーデ剤はDFPEおよびシリコンオイルの可溶性混合液を含んでいて、この場合の可溶性混合液には、約10%から約20%の間のDFPEと、約90%から約80%の間のシリコンオイルとが含まれている。別の観点では液状タンポナーデ剤はDFPEとシリコンオイルの可溶性混合液を含んでいて、この場合の可溶性混合液には約15%から約18%の間のDFPEと約85%から約82%の間のシリコンオイルが含まれている。別の観点では液状タンポナーデ剤はDFPEとシリコンオイルからなる可溶性混合液を含んでいて、この場合の可溶性混合液は約20%のDFPEと約80%のシリコンオイルとを含んでいる。別の観点ではDFPEとシリコンオイルとからなる可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤は水よりも比重が大きい。一観点ではそのような混合液は、比重が約1.00から約1.06の間である。一観点ではそのような混合液は、比重が約1.02から約1.03の間である。
【0014】
もう一つの観点では液状タンポナーデ剤には、部分的にフッ素化されたエーテル液と過フッ化炭化水素液との可溶性混合液が含まれる。過フッ化炭化水素液は例えば、パーフロロ−n−オクタン(「PFnO」)、パーフロロフェナントレン、パーフロロデカリン、またはパーフロロエチルシクロヘキサンであることができる。別の観点では、部分的にフッ素化されたエーテルと過フッ化炭化水素液とからなる可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤は、比重が1.6よりも小さい。
【0015】
本発明はまた、目の疾患、目の異常、または目の損傷を治療する目的で行われた手術の手術後タンポナーデ剤として、ここに開示されている液状タンポナーデ剤のいずれかを利用することについても提供している。これには上述したような可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤の利用、および部分的にフッ素化されたエーテル液単独の利用も含まれており、この際の部分的にフッ素化されたエーテル液は化学式(I):Rf(CH2)nO(CH2)nRfであって、式中Rfはフッ素化されたC1-4の一価の飽和有機官能基であり、またnは3または4である。他の観点ではRfはC1-4ポリフロロアルキル基、C1-4過フッ化アルキル基、または−C2F5である。もう一つの観点ではnは3である。別の観点では本発明は、DFPE単独、即ちタンポナーデ剤として「正味」の利用法について提供している。
【0016】
本発明において手術後タンポナーデの利用または方法は、例えば増殖性硝子体網膜症、糖尿病合併型網膜剥離、網膜の大規模断裂、外傷性網膜剥離、網膜下出血、硝子体出血、レンズ断片もしくはレンズ移植片のずれ、黄斑ホールに続いて起こる網膜剥離といった、目の異常、目の疾患、もしくは目の損傷を治療するための手術の後で、または異物の除去もしくは目の外傷の修復を行った後でなされる可能性がある。
【0017】
もう一つの観点では手術後タンポナーデ剤として用いられる部分的にフッ素化されたエーテル液はDFPEである。別の観点では手術後タンポナーデ剤として用いられる部分的にフッ素化されたエーテル液は以下の特徴を持つ。即ち、かなりの高純度で入手可能、疎水性、光学的に透明、水性溶液から区別可能、低蒸気圧、および比重が約1.1から約1.5の間といった特徴を持つ。ある観点では部分的にフッ素化されたエーテル液は、純度が約99.9%よりも大きい。別の観点ではその純度は、約99.95%よりも大きい。別の観点ではその純度は約99.97%よりも大きい。別の観点ではその部分的にフッ素化されたエーテル液はさらに、目に不活性であるという特徴も持っている。
【0018】
別の観点では本発明は、一日以上、一週間以上、二週間以上、一ヶ月以上、二ヶ月以上、六ヶ月以上、約一年まで、約二年またはそれ以上までの期間、目に有意な悪影響を与えることなく、手術後の目に残存したままにできるタンポナーデ剤(上記に記載したような可溶性混合物または部分的にフッ素化されたエーテル単独のいずれか)を提供する。有意な悪影響に関して言うと、最小の悪影響が網膜修復の観点でバランスをとっている場合、幾分かの悪影響があっても許容されると当業者は理解する。一観点では、目への悪影響には網膜下方にある外網状層の希薄化がある。他の観点での悪影響としては、関わっている網膜に現れる次の一つまたはそれ以上の兆候が挙げられるであろう。即ち、光受容体が杆状体および錐状体に凝集して変位すること(光受容体の下降)、光受容体の外側セグメントの歪曲、外側網状層の狭域化、および網膜の色素上皮細胞肥大化である。さらに本発明が網膜上方と網膜下方に同時に力を加えるタンポナーデ剤を提供している場合には、そのタンポナーデ剤は網膜上方に良くない兆候(上述した兆候に類似する)を生じさせることなく手術後長期間用いることができる。
【0019】
もう一つの観点では本発明は、液状タンポナーデ剤の有効量を目の硝子体空間に投与する行程を含む、目の手術後タンポナーデを行う方法を提供する。その液状タンポナーデ剤は上述したとおりの可溶性混合液であるとよいし、またその薬剤は、簡単に言うならばやはり上述したとおりの部分的にフッ素化されたエーテル液であるとよい。このように一観点において、目の手術後タンポナーデを行うための方法は、液状タンポナーデ剤の有効量を目の硝子体空間に投与する行程を含んでいて、この場合の液状タンポナーデ剤は部分的にフッ素化されたエーテル液であり、さらにその部分的にフッ素化されたエーテル液は化学式(I):Rf(CH2)nO(CH2)nRfで、式中Rfがフッ素化されたC1-4の一価の飽和有機官能基、またnが3または4であるような化学式(I)のフッ素化エーテルを含んでいる。他の観点では、RfはC1-4ポリフロロアルキル基、C1-4過フッ化アルキル基であってもよいし、またはRfは−C2F5であってもよい。もう一つの観点ではnは3である。もう一つの観点では部分的にフッ素化されたエーテル液はDFPEである。
【0020】
手術後タンポナーデを行う方法においてそのタンポナーデは、目の異常、目の疾患、または目の損傷を治療するための手術の後で行える。目の異常、目の疾患、または目の損傷は、例えば増殖性硝子体網膜症、糖尿病合併型網膜剥離、網膜の大規模断裂、外傷性網膜剥離、網膜下出血、硝子体出血、レンズ断片もしくはレンズ移植片のずれ、黄斑ホールに続いて起こる網膜剥離である場合もあるし、または異物の除去もしくは目の外傷の修復を行った後で起こる場合もある。
【0021】
手術後タンポナーデを行う方法のもう一つの観点ではタンポナーデ剤は部分的にフッ素化されたエーテル液であり、その部分的にフッ素化されたエーテル液は次の特徴を持つ。即ち、かなりの高純度で入手可能、疎水性、光学的に透明、水性溶液から区別可能、低蒸気圧、および比重が約1.1から約1.5の間といった特徴を持つ。ある観点ではその純度は約99.9%よりも大きい。別の観点ではその純度は約99.95%よりも大きい。別の観点ではその純度は約99.97%よりも大きい。別の観点ではその部分的にフッ素化されたエーテル液はさらに、目に不活性であるという特徴も持っている。
【0022】
別の観点では本発明は、一日以上、一週間以上、二週間以上、一ヶ月以上、二ヶ月以上、六ヶ月以上、約一年以上の期間、または約二年(またはそれ以上)までの期間、目に有意な悪影響を与えることなく、手術後の目に残存したままにできる。ある観点では目に対する悪影響には、網膜下方にある外核層、または外網状層の低粘稠化が挙げられる。
【0023】
本発明の別の観点では、液状タンポナーデ剤は網膜色素上皮(RPE)に近い神経部網膜を維持する。
【0024】
もう一つの観点では本発明は、部分的にフッ素化されたエーテル液または部分的にフッ素化されたエーテル液の可溶性混合液と、過フッ化炭化水素液および/またはシリコン液を、手術後タンポナーデを行うために眼内ガスと組み合わせた利用法を提供する。眼内ガスは例えば過フッ化炭化水素ガスである。過フッ化炭化水素ガスは、例えばパーフロロメタン、パーフロロエタン、パーフロロプロパン、またはサルファヘキサフロライドでありうる。
【0025】
別の観点では本発明は、部分的にフッ素化されたエーテルタンポナーデ剤を除去するための方法、即ち過フッ化炭化水素液の利用法を提供する。この観点では、部分的にフッ素化されたタンポナーデ剤よりも揮発性が高く、かつ粘度の低い過フッ化炭化水素を目から部分的にフッ素化されたエーテルの痕跡を洗い流して除去するために用いるとよく、洗浄が行われた後には目に残っている過フッ化炭化水素液の痕跡は、蒸気圧により部分的にフッ素化されたエーテルの痕跡よりも容易に目から拡散除去されるであろう。
【0026】
本発明の別の観点では部分的にフッ素化されたエーテル液は、網膜の断裂、破壊、穴あき、またはしわを取り扱う助けとなる手術用液体ツールとして用いることが可能で、レーザ光凝固術の使用と相容れることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、長期間手術後タンポナーデ剤としての部分的にフッ素化されたエーテル液に向けられた組成物、利用、および方法を提供する。この組成物は、部分的にフッ素化されたエーテルと、比重の小さい透明、無色、不活性な液体(例えばシリコン液(またはオイル)および過フッ化炭化水素液)との可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤に関連する。その組成物はまた、DFPEを含むか、本質的にDFPEからなる液状タンポナーデ剤に関連する。比重が1.1から1.5の間の部分的にフッ素化されたエーテル液は、それらがタンポナーデ剤として用いられる場合、シリコンと過フッ化炭化水素液の欠点をうまくなくすのに適している。本発明の可溶性混合液は、浮揚性の問題が起きないような特定の比重(水よりも密度が大きい)を持ち、しかも機械的な力から後方網膜を損傷してしまうほどは大きくない特定の比重(1.6よりも小さい比重)を持つように設計するとよい。この混合液はまた、網膜上方と網膜下方の両方に対して同時にタンポナーデするように機能できる比重を持つように設計することも可能である。本発明はそのような可溶性混合液、また部分的にフッ素化されたエーテル液単独を、手術後タンポナーデの利用および方法のために提供する。このように部分的にフッ素化されたエーテル液、およびその混合液は、目と長期間適合できるために手術後に目に残ったままでもよく、そのため網膜の再付着および治癒行程の首尾を改善できる。
【0028】
部分的にフッ素化されたエーテル液の特徴。本発明で考慮されている部分的にフッ素化されたエーテル液は、化学式(I):Rf(CH2)nO(CH2)nRfで、式中Rfがフッ素化されたC1-4の一価の飽和有機官能基、またnが3または4であるような化学式(I)によって一般的に記載される。Rfは例えばC1-4ポリフロロアルキル基、C1-4過フロロアルキル基、またはC2F5であって、その際のnは3である。Rf基は線形であってもよいし、分枝型であってもよい。Rfが過フッ化炭素原子構造である場合、Rf基は炭素原子とフッ素原子を含んでいる。本発明に用いられる特定の部分的にフッ素化されたエーテル液の例は、DFPE(デカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル;C2F5CH2CH2CH2OCH2CH2CH2C2F5)、CF3CH2CH2CH2OCH2CH2CH2CF3、および(CF3)2CFCH2CH2CH2OCH2CH2CH2CF(CF3)2である。本発明で想定されたフッ化エーテル(およびこれらのエーテルを作成するための方法)は、国際特許出願PCT/JP03/15279号にも記載されている。
【0029】
Rfについては、部分的にフッ素化されたエーテル液の比重を約1.5より小さく維持するため、4個より多くの炭素原子を含まないことが望ましい。液状タンポナーデ剤の比重が1.5を超えると、重いタンポナーデ剤によって与えられる長期間の機械的な(後方)力のために、網膜後方に損傷が起こる可能性が増加する。このように化学式(I)の部分的にフッ素化されたエーテル液を利用すれば、過フッ化炭化水素液の比重は1.6よりも大きいために、過フッ化炭化水素液よりも有利である。化学式(I)の部分的にフッ素化されたエーテル液の重量は軽いため、長期間にわたる加圧により網膜が損傷を受けるのを小さくできる。
【0030】
したがって化学式(I)によって記載された部分的にフッ素化されたエーテル液は水よりも密度が大きい(化学式(I)の部分的にフッ素化されたエーテル液の比重の範囲は、約1.1から約1.5の間である)。このことは、水よりも軽いタンポナーデ剤(液体、オイル、または気体)は、目の中で浮揚性の問題を生じるために重要である。これらの軽い薬剤は患者が直立している場合、目の上方端に向かう。こうして水よりも軽いタンポナーデ剤を手術後に網膜後方の損傷の治癒を助けるために用いるのであれば、その際は薬剤の浮揚力が後方に向かうことができるように、患者は頭を不便な位置に維持しなくてはならない。しかしながらそのような不便な位置に頭を保つことは、子供やお年寄りのような患者にとっては困難である。さらに空気とともに移動させる必要のある患者にとっては硝子体内部の気体も、大気圧の急激な変化によって気泡の急激な膨張が引き起こされ、損傷レベルにまで眼内圧力が増加する可能性があるために問題となる。同様に、歯科的治療や他の外科的な介入を行う必要のある患者に対しては一般的な吸入麻酔を用いることができない。というのは、吸入ガス(例えば亜酸化窒素)の溶解度が高いために眼内の気泡に急速に拡散してしまう可能性があり、気泡膨張の増加と眼内圧の増加を引き起こしてしまうからである。
【0031】
そのうえシリコン液は水よりも軽い(比重が0.97)ため、シリコンの小滴は上方へ向かう浮力を伴って網膜に接触し、結果的にまっすぐに座っている患者では下方網膜や後方網膜には事実上、ほとんど填塞が施されない。この欠点を修正する目的で、水よりも密度が大きいことからシリコン液のフッ素化誘導体を使用する試みがなされている。しかしながらフッ素化シリコン液は著しい炎症反応に関与しているのであるが、このことはそれらの組成物が短鎖ポリマーからなるために高純度でこれらの液体を単離する際の難しさに起因しているのであろう。この困難性は、これらの短鎖ポリマーの特徴を明らかにするのが困難であるという事実からさらに大きくなり、それ自体の不純物を隠してしまう可能性がある。
【0032】
長期間の手術後タンポナーデ剤として用いられる部分的にフッ素化されたエーテル液の持つ他の有利な特徴としては、かなり高い純度で入手可能であること、疎水性(過フッ化炭化水素と同じ範囲にほとんど入る)であること、視覚的に透明であること、水性液とは区別可能であること、蒸気圧が低いこと、低粘度であること、および目に不活性であることが挙げられる。かなり高い純度とは、本発明では部分的にフッ素化されたエーテル液が約99.9%よりも高い純度で単離できることを意味している。他の態様では部分的にフッ素化されたエーテル液は約99.95%よりも高く、または約99.97%よりも高い純度で単離できる。部分的にフッ素化されたエーテル液の分析は、例えば核磁気共鳴スペクトル分析、ガスクロマトグラフィー、およびマススペクトル分析を用いて行うことができる。疎水性と水性液からの光学的な識別性についての特徴があるため、部分的にフッ素化されたエーテル液が目からなくなることが容易になる。さらに光学的に透明であるため、部分的にフッ素化されたエーテル液の利用によって視野が妨げられない。その重量が軽い(過フッ化炭化水素液よりも)ことに加え、部分的にフッ素化されたエーテル液は、目に実質的に不活性であるという特徴があるために長期間にわたって目とさらに適合することができる。
【0033】
このように上記の特徴は、化学式(I)の部分的にフッ素化されたエーテル液の比重特性と組み合わせたことで、目に損傷を与えることなく、また効力、便利性、および生物学的適合性を改善させつつ長期間利用することが可能になる。例えばデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル(体温での比重が1.31である)に対する網膜の許容性についての研究は、長期間にわたって悪影響がないことを示していた。図4および5は、三ヶ月後の目において網膜電図検査法の反応の不応答時間と増幅度によって示されているように、DFPEが何らネガティブな効果を現さないことを図示している。さらに、目の中でDFPEタンポナーデ液の気泡が、例えば曇ったり(それは良くない生理学的反応の兆候でもある)、乳化したり、しずくに分解したりして劣化することが何もなかった。このデータは、DFPEを用いた目を平衡化塩溶液を用いた目に比べた場合、目の中の下方の反応が全くないことを示している。本発明は、手術後のある期間、例えば数時間、数日、数週間、一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月、三ヶ月より長く、六ヶ月より長く、一年まで、二年またはそれ以上までもの間、化学式(I)にかかる部分的にフッ素化されたエーテル液を含む液状タンポナーデ剤を利用することを考慮している。一般的に一年を越える期間、タンポナーデを行う必要はない。しかしながら本発明は、一年を超える期間用いられる長期間型手術後タンポナーデ剤として化学式(I)の部分的にフッ素化されたエーテルを用いることを必ずしも除外してはいない。
【0034】
DFPE液は安定である。DFPE液は環境温度で時間(少なくとも二年間)が経過しても安定であるし、95℃までの温度にさらしても安定であるし、また日光にさらしても安定である(例えば、透明なガラス容器に入れて保存した場合、一週間まで安定である)。そのうえシリコンに入れたDFPEの混合液(20%のDFPE(w/w)および80%のシリコン(w/w))は、少なくとも18ヶ月間、日々の温度変化(20-40℃)を経ても安定である。さらに水への不溶性に関しては、1リットルの水に加えた一滴のDFPE(約50 ppm)が目に見えていて、長期間(少なくとも8ヶ月より長く)変化しないし、溶け込まない。さらにガスクロマトグラフィーによる分析から、一ヶ月間の滞留時間を経た後に目から回収されたDFPEは、DFPEの組成物中の変化が0.05%よりも小さいため有意な変性を何ら示しておらず、このことはおそらく、目の中での滞留の前に例えばシリンジやフィルターなどのさまざまな外部材料と接触していたことに起因するのであろう。
【0035】
また部分的にフッ素化されたエーテル液の特徴は、網膜の手術の際に利用できることにある。しかしながら過フッ化炭化水素液はその重量が重いために剥離した網膜に対して大きな平面化力(flatting force)を持っているのであるが、そのような場合、部分的にフッ素化されたエーテル液は手術後タンポナーデを行うのに一般的に最高に適していて、かつ最高に有利である。こうして本発明は、目の中に入れる長期間手術後タンポナーデ剤としての部分的にフッ素化されたエーテル液の利用を提供し、その場合のこれらのエーテル液は、硝子体内部の気体、シリコン液(およびオイル)、および過フッ化炭化水素液のような以前のタンポナーデ剤よりずっと有効である。
【0036】
下記の表1は、種々のタンポナーデ剤についてのいくつかの物理的および化学的特徴を列記している(タンポナーデを行う力は化学式によって算出される。;タンポナーデ力=タンポナーデ剤と流動性硝子体との間の比重の違いであり、この場合、流動性硝子体は比重が1.03であり、タンポナーデ剤の容量(5mL)によって操作した)。
【0037】
【表1】


部分的にフッ素化されたエーテル液の可溶性混合液。化学式(I)の構造における炭化水素鎖の存在は、分子の溶解性能に大きな影響を与える。化学式(I)の部分的にフッ素化されたエーテル液は、例えばパーフロロ−n−オクタン(「PFnO」)(C8F18)、パーフロロエチルシクロヘキサン(C8F16)、パーフロロデカリン(C10F18)、およびパーフロロフェナントレン(C14F24)のようなある種の過フッ化炭化水素を用いて完全に混和できる。過フッ化炭化水素を用いて化学式(I)の液体が溶解するため、重量に起因する網膜損傷のおそれが減少するように比重が1.6または1.5より小さい長期間術後タンポナーデ剤として用いることのできる可溶性混合液の設計が可能になる。例えば一般的に用いられる手術用過フッ化炭化水素、PFnOは、比重が約1.7である。このようにPFnOとDFPE(比重が約1.3である)からなり、比重が1.6または1.5よりも小さい可溶性混合液を作成する目的で、その可溶性混合液の比重を減少できるようにより多くのDFPEを利用してもよい。例えば、約25%のPFnOと約75%のDFPEを含む混合液は、体温で比重が1.39である(表1参照)。より軽い部分的にフッ素化されたエーテル液を過フッ化炭化水素液と混合する一般的な戦略は、化学式(I)のどれかの液体と過フッ化炭化水素液とを用い、それらを混和するだけで誘導できる。さらに好ましい比重を持つ液状タンポナーデ剤を得るために、別個の部分的にフッ素化されたエーテル液同士から可溶性混合液を作成することもできる。
【0038】
さらに浮揚性の問題を解決するとともにタンポナーデ力を増加させる目的で、化学式(I)の部分的にフッ素化されたエーテル液をシリコンのようなさらに軽いタンポナーデ液とともに混合する戦略を用いることもできる。前述したようにシリコン液は水よりも軽く、かつ水に混和しないため、シリコン液は上記の水性溶液を上昇する小滴を形成する。この問題を解決するため、可溶性混合液の比重が1.0よりも大きくなるように部分的にフッ素化されたエーテル液をシリコン液およびオイルとともに混合すればよい。一態様においては部分的にフッ素化されたエーテルとシリコンの溶液は、比重が約1.00から約1.06の間である。例えばDFPEはシリコンオイル(例えばジメチルシロキサン)と混合し、そしてDFPEが約20%(重量に対する重量(w/w))までになるようにシリコンオイルに溶解してもよい。このように本発明はDFPEとシリコンの混合液を想定しており、そこではDFPEは溶液中、約10%から約20%の間で含まれ、またシリコンは溶液中、約90%から約80%の間で含まれる。一態様における可溶性混合液は、約15%から約18%(w/w)のDFPEと約85%から約82%(w/w)のシリコンオイルとを含む。別の態様においては、約18%(w/w)のDFPEと約82 %(w/w)のシリコンオイルとからなる可溶性混合物の比重は37℃で約1.02である。別の態様における約20%(w/w)のDFPEと約80 %(w/w)のシリコンオイルとからなる可溶性混合物は、比重が約1.02−1.03である。過フッ化炭化水素液はシリコン液とは容易に混合できないのであるが、それは過フッ化炭化水素液が炭化水素を有しておらず、ほんの約1000ppmより少なくしかシリコンと溶解しないためである。
【0039】
さらに部分的にフッ素化されたエーテル液は、上方向、下方向、および後方向に同時にタンポナーデ力が発揮できるタンポナーデ剤を設計するために、過フッ化炭化水素液またはシリコン液と混合することができる。本発明はまた、上方向、下方向、および後方向に同時にタンポナーデ力が発揮できるように部分的にフッ素化されたエーテル液を、透明、無色、不活性であって、さらに比重が小さい(即ち、例えば約0.85から約1まで、または1より小さい)、本質的に液体またはオイル(または一種よりも多い液体の組み合わせ、一種よりも多いオイルの組み合わせ、もしくは液体とオイルの組み合わせ、もしくは一種よりも多くの液体と一種よりも多くのオイルとの組み合わせとともに混合される)と混合することのできる発明を提供する。
【0040】
さらに本発明はまた、手術後にタンポナーデを行うべく部分的にフッ素化されたエーテル液(およびその可溶性混合液)を硝子体内部の気体と組み合わせて利用することも包含する。一態様において本発明は、手術後にタンポナーデを行えるように部分的にフッ素化されたエーテル液(およびその可溶性混合液)を、例えばパーフロロメタン、パーフロロエタン、パーフロロプロパン、およびサルファヘキサフロライドのような過フッ化炭化水素ガスと組み合わせて利用することを提供する。
【0041】
利用および技術の適応症。手術後タンポナーデを行う本発明の方法および利用では、タンポナーデは目の異常、目の疾患、または目の損傷を治療するための手術の後で行うことができる。目の異常、目の疾患、または目の損傷は例えば、増殖性硝子体網膜症、糖尿病合併型網膜剥離、網膜の大規模断裂、外傷性網膜剥離、網膜下出血、硝子体出血、異物の存在、レンズ断片もしくはレンズ移植片のずれ、黄斑ホールまたは目の外傷に続いて起こる網膜剥離であったり、または異物の除去もしくは目の外傷の修復を行った後に起きたりする(これらの異常に対する手術中の治療説明については、網膜−硝子体−斑(Retina-Vitreous-Macula), 編集者Guyer, Dら、W. B. Saunders Company, 1999における1320-1337頁のChangおよびSparrowによる「硝子体の置換」という章の記載参照)。本発明の液状タンポナーデ剤は、目に過フッ化炭化水素液を導入するために用いられる同じ標準的な方法を用いて目に入れられる(一般的な方法については、米国特許第4,490,351号、米国特許第5,037,384号、Bourke, RおよびCooling, R, Australian and New Zealann J. Ophthalmol., 1995, 23 (3): 165-171、およびComaratta, M.およびChang, S., Curr. Opinion Ophthalol., 1991, 2: 291-198参照)。
【0042】
本発明の液状タンポナーデ剤を除去するためには、PFnO(または揮発性が高く粘度の小さい他の過フッ化炭化水素液)を用いて硝子体腔を洗い流すことで目から部分的にフッ素化されたエーテル液を容易に除去できる。標準的な手法を用いて硝子体腔からフッ素化されたエーテル液の大部分を除去した後、目に残るフッ素化されたエーテル液の痕跡はPFnOを用いて目を洗浄することによって除去すればよい。洗浄した後に目に残っている残留の、または痕跡量のPFnOは、PFnOの揮発性が高いために部分的にフッ素化されたエーテル液よりも素早く拡散するであろう。
【0043】
組成物およびキット。本発明の液状タンポナーデ剤は部分的にフッ素化されたエーテル単独と、その可溶性混合液を含んでいて、何らかの他の成分または保存料なしで使用することができる。本発明はまた、容器(5ml容器、10ml容器、15ml容器など)内に例えば高純度の部分的にフッ素化されたエーテル、または部分的にフッ素化されたエーテルを含む高純度の可溶性混合液などを入れた市販のキットを企画している。一態様において高純度とは、部分的にフッ素化されたエーテルまたはその可溶性混合液が、99.9%よりも大きい純度であることを意味するであろう。このキットはさらに、微生物濾過ユニット、10ccシリンジ、ベベル針(例えば、20ゲージ×11/2ベベル針)を備えていてもよい。全てのキット構成要素は滅菌性で用いられ、例えば濾過または加熱によって滅菌が可能である。
【0044】
記載されたような本発明の範囲および精神を逸脱することなく、種々の変更を上記の方法、利用および組成物に行うことが可能であるため、上述した説明に記載されていて添付した図面に示され、かつ付随した請求の範囲に定義された全ての構成要素は、例示として、そして制限を加える意味ではなく解釈される。
【実施例1】
【0045】
下記に記載された実施例は、本発明のある観点を例示するために提供されたものであって、本発明を制限する目的で包含されているのではない。ここでの開示を考慮して当業者は、数多くの変形を本発明の精神および意図する範囲を逸脱することなく行うことができると認識するであろう。
【0046】
実施例1: 手術後タンポナーデ剤としてのDFPEの利用
部分的にフッ素化されたエーテル液であるデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテルが、硝子体切除術に関して硝子体置換物として用いることができる。硝子体切除術は微細外科手術法であり、そこでは特殊な装置や行程が網膜の異常を修復するために用いられる。この行程の最初のステップは通常、目の壁に非常に小さな(〜1.4mm)切開を行って硝子体の液体(または「ゲル」)を除去することである。外科医は、さまざまな倍率で硝子体の腔と網膜のはっきりとした視界が得られるようにする特殊な手術用顕微鏡とコンタクトレンズを用いるとよい。外科医が処置している間、目の内側を照らすために高強度のファイバーオプティック光源が用いられる。硝子体のゲルは、小型のハンディー型切断装置と同時に行う吸引によって除去する。次のステージでは過フッ化炭化水素液が網膜を平坦にし、操作してから再−配置するための柔軟ツールとして用いられる。続いてその過フッ化炭化水素液を除去してから、手術後タンポナーデ剤として使用するデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル液を、液体−液体交換、または液体−空気−液体交換のような手法で硝子体の腔に導入する。
【0047】
硝子体の置換として部分的にフッ素化されたエーテル液を利用するには、他の硝子体置換物である、過フッ化炭化水素液やシリコン液などを組み合わせても良い。部分的にフッ素化されたエーテル液は光学的に透明であるため、それは外科の手術領域を見えにくくしないであろう。外科医は網膜剥離や増殖性糖尿病性網膜症の硬化における網膜の断裂を治療するための内部光凝固術(眼内構造を処置するためにレーザを使用する)を利用することができる。また、鉗子、はさみ、およびピックのような小型外科的装置は、傷組織や異物の除去と同様に、眼内構造を操作するために用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、前後方向の断面を通る目の内部構造を図示している。
【図2】図2は、目の別の構造を図示している。図の上部は目の前方端(角膜方向)に対応していて、図の底部は目の後方端(視覚神経方向)に対応している。
【図3A】図3Aは、網膜剥離を図示している。
【図3B】図3Bは、網膜剥離を図示している。
【0049】
網膜が剥離すると目の後壁から分離し、血液供給と栄養の供給源が絶たれ、網膜色素上皮に近くなる。その網膜は変性するであろうし、剥離したままなら機能する能力は失われる。中心視野は黄斑が剥離したままならば失われるであろう。網膜剥離は次の三つの主要なカテゴリーに分けられる。即ち、(1)裂孔原性網膜剥離、それは液状の硝子体が網膜を破壊し、剥離させて通過できるようになる網膜の破壊または断裂に起因する、(2)滲出性網膜剥離、それは網膜を剥離させる液体(浸出液)を生じる網膜の下からの漏れに起因する−腫瘍および炎症性疾患が滲出性の剥離を起こす可能性がある、(3)牽引性網膜剥離、それは一般に硝子体空間内の繊維−血管組織から網膜上で牽引することに起因する−増殖性糖尿病性網膜症は牽引性網膜剥離の一般的な原因である。
【図4】図4は、目のデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテルに対する長期間にわたる生物適合性を示す結果を図示する。
【図5】図5は、目のデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテルに対する長期間にわたる生物適合性を示す結果を図示する。
【0050】
デカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル(DFPE)に対する網膜許容性は、長期間にわたって悪影響が出ないことによって明らかとなる。例えば図4および図5は、三ヶ月後の目において網膜電図検査法の反応の不応答時間と増幅度によって示されているように、DFPEが何らネガティブな効果を現さないことを図示している。さらに、DFPEタンポナーデ液の気泡が残存している凝集液は、乳化したりしずくに分解したりする傾向を示さなかったし、また生理学的反応の結果を悪くするであろう曇りを示さなかった。DFPEを用いた目は、平衡塩溶液(BSS)を用いた目と比較して目の機能に差異を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的フッ素化エーテル液および他の液体またはオイルからなる可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤であって、その他の液体またはオイルが透明、無色、不活性であり、さらに比重が約0.85から約1.0以下であるような液状タンポナーデ剤。
【請求項2】
部分的フッ素化エーテル液およびシリコンオイルからなる化合性混合液を含む液状タンポナーデ剤。
【請求項3】
部分的フッ素化エーテル液および過フッ化炭化水素からなる可溶性混合液を含む液状タンポナーデ剤。
【請求項4】
前記部分的フッ素化エーテル液が、化学式(I):Rf(CH2)nO(CH2)nRfであって、式中Rfがフッ素化されたC1-4の一価の飽和有機官能基であり、またnが3または4であるような化学式のフッ素化エーテルを含む、請求項1、2または3の液状タンポナーデ剤。
【請求項5】
RfがC1-4ポリフロロアルキル基、C1-4過フッ化アルキル基、または−C2F5である、請求項4の液状タンポナーデ剤。
【請求項6】
前記nが3である、請求項5の液状タンポナーデ剤。
【請求項7】
前記可溶性混合物は、比重が1以上で1.6以下である、請求項1、2、または3の液状タンポナーデ剤。
【請求項8】
前記部分的フッ素化エーテル液が、デカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル(C2F5CH2CH2CH2OCH2CH2CH2C2F5)である、請求項1、2、または3の液状タンポナーデ剤。
【請求項9】
前記部分的フッ素化エーテル液がデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテルであり、また前記可溶性混合液が約10%から約20%の間のデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテルと約90%から約80%の間のシリコンオイルを含んでいる、請求項1、2、または3の液状タンポナーデ剤。
【請求項10】
前記液状タンポナーデ剤は水よりも比重が大きい、請求項9の液状タンポナーデ剤。
【請求項11】
前記過フッ化炭化水素液は、パーフロロ−n−オクタン、パーフロロフェナントレン、パーフロロデカリン、またはパーフロロエチルシクロヘキサンからなる、請求項3の液状タンポナーデ剤。
【請求項12】
本質的にデカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテルからなる液状タンポナーデ剤。
【請求項13】
手術後のタンポナーデ剤として用いられる液状タンポナーデ剤の利用において、その手術が目の疾患、目の異常、または目の損傷を治療するための手術である、請求項1−12のいずれか一項に記載の液状タンポナーデ剤の利用。
【請求項14】
手術後のタンポナーデ剤として用いられる部分的フッ素化エーテル液の利用において、その手術が目の疾患、目の異常、または目の損傷を治療するための手術であり、また前記部分的フッ素化エーテル液が化学式(I):Rf(CH2)nO(CH2)nRfで、式中RfがC1-4の一価の飽和有機官能基、またnが3または4であるような化学式(I)のフッ素化エーテルを含んでいることを特徴とする、部分的フッ素化エーテル液の利用。
【請求項15】
前記目の疾患、目の異常または目の損傷が、増殖性硝子体網膜症、糖尿病合併型網膜剥離、大きな網膜断裂、外傷性網膜剥離、網膜下出血、硝子体出血、レンズ断片または移植レンズのずれ、黄斑ホール、または外来異物の除去後もしくは眼球外傷の修復後に引き続いて二次的に起こる網膜剥離を含む、請求項13または14の利用。
【請求項16】
RfがC1-4ポリフロロアルキル基、C1-4過フロロアルキル基、またはCfが−C2F5である、請求項14の利用。
【請求項17】
nが3である、請求項16の利用。
【請求項18】
前記部分的フッ素化エーテル液が、デカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル(C2F5CH2CH2CH2OCH2CH2CH2C2F5)である、請求項14の利用。
【請求項19】
前記部分的フッ素化エーテル液は以下の特徴、即ち非常に純度が高く、疎水性であり、光学的に透明であって、水性液とは区別でき、蒸気圧が低く、比重が約1.01から約1.5の間であるという特徴を備えている、請求項14の利用。
【請求項20】
前記比重が約1.1から約1.4である請求項19の利用。
【請求項21】
前記純度が約99.9%以上である請求項19の利用。
【請求項22】
前記純度が約99.95%以上である請求項19の利用。
【請求項23】
前記部分的フッ素化エーテル液はさらに、目を無活動化する特徴がある請求項19の利用。
【請求項24】
前記タンポナーデ剤は、目の手術後に、目に対してネガティブな影響を与えることなく約2年を超える期間、目に残したままにできる請求項13または14の利用。
【請求項25】
前記タンポナーデ剤は、目の手術後に、目に対してネガティブな影響を与えることなく約2年までもの期間、目に残したままにできる請求項13または14の利用。
【請求項26】
目に対するネガティブな影響には、網膜下部にある外側網状層の低粘稠化が含まれる、請求項24または25の利用。
【請求項27】
請求項1−12のいずれか一項の液状タンポナーデ剤の有効量を目の硝子体房に投与する行程を含む、目の手術後のタンポナーデを行うための方法。
【請求項28】
前記液状タンポナーデ剤が部分的フッ素化エーテル液であり、またその部分的フッ素化エーテル液が化学式(I):Rf(CH2)nO(CH2)nRfで、式中Rfがフッ素化されたC1-4の一価の飽和有機官能基であって、またnが3または4であるような化学式(I)のフッ素化エーテルを含んでいることを特徴とする、液状タンポナーデ剤の有効量を目の硝子体房に投与する行程を含む、目の手術後のタンポナーデを行うための方法。
【請求項29】
前記手術は目の疾患、目の異常または目の損傷を治療するために行われた、請求項27または28の方法。
【請求項30】
前記目の疾患、目の異常または目の損傷が、増殖性硝子体網膜症、糖尿病合併型網膜剥離、大きな網膜断裂、外傷性網膜剥離、網膜下出血、硝子体出血、レンズ断片または移植レンズのずれ、黄斑ホール、または外来異物の除去後もしくは眼球外傷の修復後に引き続いて二次的に起こる網膜剥離を含む、請求項29の方法。
【請求項31】
RfがC1-4ポリフロロアルキル基、C1-4過フロロアルキル基、またはCfが−C2F5である、請求項28の方法。
【請求項32】
nが3である、請求項31の方法。
【請求項33】
前記部分的フッ素化エーテル液が、デカフロロ−ジ−n−ペンチルエーテル(C2F5CH2CH2CH2OCH2CH2CH2C2F5)である、請求項31の方法。
【請求項34】
前記部分的フッ素化エーテル液は以下の特徴、即ち非常に純度が高く、疎水性であり、光学的に透明であって、水性液とは区別でき、蒸気圧が低く、比重が約1.1から約1.4の間であるという特徴を備えている、請求項31の方法。
【請求項35】
前記純度が約99.9%以上である請求項31の方法。
【請求項36】
前記純度が約99.95%以上である請求項31の方法。
【請求項37】
前記部分的フッ素化エーテル液はさらに、目を無活動化する特徴がある請求項34の利用。
【請求項38】
前記タンポナーデ剤は、目の手術後に、目に対してネガティブな影響を与えることなく約2年を超える期間、目に残したままにできる請求項27または28の方法。
【請求項39】
前記タンポナーデ剤は、目の手術後に、目に対してネガティブな影響を与えることなく約2年までもの期間、目に残したままにできる請求項27または28の方法。
【請求項40】
目に対するネガティブな影響には、網膜下部にある外側網状層の低粘稠化が含まれる、請求項38または39の利用。
【請求項41】
前記液状タンポナーデ剤は網膜の色素上皮(RPF)に近い神経性網膜を維持する、請求項27−40のいずれか一項の方法。
【請求項42】
手術後のタンポナーデ剤として眼内ガスと組み合わせて用いられる請求項1−12のいずれか一項の液状タンポナーデ剤の利用において、前記手術が、目の疾患、目の異常、または目の損傷を治療するための手術であることを特徴とする利用。
【請求項43】
眼内ガスと組み合わせる手術後のタンポナーデ剤としての部分的フッ素化エーテル液の利用において、前記手術が目の疾患、目の異常、または目の損傷を治療するための手術であり、そして前記部分的フッ素化エーテル液が化学式(I):Rf(CH2)nO(CH2)nRfで、式中Rfがフッ素化されたC1-4の一価の飽和有機官能基であって、またnが3または4であるような化学式(I)のフッ素化エーテルを含むことを特徴とする部分的フッ素化エーテル液の利用。
【請求項44】
前記眼内ガスが過フッ化炭化水素ガスである、請求項42または43の利用。
【請求項45】
前記過フッ化炭化水素ガスが、パーフロロメタン、パーフロロエタン、パーフロロプロパン、またはサルファヘキサフロライドである、請求項44の利用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−501032(P2008−501032A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515447(P2007−515447)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/018921
【国際公開番号】WO2005/117850
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(306018457)ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (25)
【出願人】(506395998)
【Fターム(参考)】