説明

眼内レンズ

【課題】硝子体内の圧力と同じないし近似する圧力をリアルタイムに測定することにより、緑内障の進行リスクを抑制する眼内レンズを提供する。
【解決手段】所定の屈折力を有する光学部と、水晶体嚢内にて前記光学部を支える支持部とを備える眼内レンズであって、前記支持部には、前記水晶体嚢における後嚢を介して硝子体内の圧力を測定するセンサ部が設けられ、前記光学部には、前記センサ部にて測定された前記圧力を外部に伝達するアンテナ部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズに関し、特に、水晶体嚢内へ装着する眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼に関する疾患として、白内障が知られている。この「白内障」は、眼球の内部でレンズ機能を果たす水晶体が白く濁ることで、視力の低下等を招く病気である。
【0003】
この白内障を発症した患者の視力を回復するために白内障手術+眼内レンズ移植術が行われている。上記の手術は、白く濁った水晶体を取り除き、そこに人工の眼内レンズ(IOL:IntraOcular Lens)を挿入する手術である。
【0004】
眼内レンズ移植術で眼内に移植される眼内レンズは、水晶体に代わりに所定の屈折力を有する光学部と、光学部を支える支持部とによって構成されている。この種の眼内レンズは、水晶体を摘出した後に残る水晶体嚢の内部に収容される事が最も望ましい。その結果、白く濁った水晶体の代わりに、眼内レンズにより正常な視力を確保することができる。
【0005】
ところが、視力を喪失させる人間の眼に関する疾患として緑内障が存在する。この緑内障は白内障と共に発症している場合も少なくない。また、白内障しか発症していないとしても、後々、緑内障を発症する可能性も否定できない。
【0006】
この「緑内障」は、視野異常(具体的に言うと視野欠損)を及ぼす進行性の病気である。この緑内障を発症して視野を欠損すると、一度欠損した視野は回復させることが困難なため、失明の原因になり得る。
【0007】
ここで、緑内障およびその発症要因(進行要因)として考えられる事項について簡単に説明する。
図5は、緑内障の概要についての説明図である。
図5(a)に示すように、眼球1は、常に丸く保たれている。これは、眼球1の中は硝子体というゲル状の物質と水溶性の房水によって満たされている。眼球1が形状を保てているのは、毛様体上皮10から産生される房水と隅角からのその流出のバランスと上強膜静脈圧とによって決定されている眼圧があるからである。
【0008】
房水は、図5(b)に示すように、毛様体上皮10という部位から分泌され、水晶体嚢8と虹彩6との間を通って前房に至り、線維柱帯18aを経てシュレム管18bから排出され、眼外の血管へ流れていくという定まった経路で循環している。なお、線維柱帯18aを含む房水の流出路の場所のことを隅角18と言う。
【0009】
図5(c)に示すように、緑内障は、この眼圧が上昇して視神経15を障害し、特徴的な視神経乳頭障害と視野異常などの視機能異常を来たす疾患である。つまり、できるだけ正確に眼圧を測定することが、緑内障の進行を予防できる可能性がある。
【0010】
この眼圧を測定する装置については、種々のものが公知になっている。以下、説明の便宜上、人間の眼球等のように共通する項目については、特許文献1〜5においても本願図面(特に図1及び図5)に記載の符号と同じ符号を付す。
【0011】
例えば特許文献1では、プローブペンの先端を眼球1に接触させ、振動伝播液体を介しつつ、眼圧を測定する方法が開示されている。
【0012】
また、特許文献2では、被検眼の角膜2に空気を噴射し、当該角膜2の変形を光学的に検出し、当該角膜2の圧平を検出した際の空気圧に基づき被検眼の眼圧を測定する方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献3では、被検眼の眼球1に入射されるパルス波の状態と、入射されたパルス波が眼球1から反射されてくる反射波の状態とに基づいて眼圧を測定する方法が開示されている。
【0014】
また、特許文献4では、アンテナとしてコイルが外周に設けられた環状支持部材の内側に、眼内レンズを配置したものについて開示されている。なお、この環状支持部材の一部には、眼内レンズと接触するような位置に電子モジュールが設けられている。この電子モジュールにはセンサが設けられており、眼内レンズを受け入れる水晶体嚢において、毛様小帯(チン小帯)9を挟んで眼外側(水晶体嚢8から見て角膜2がある方向)の部分(略楕円状の前半分)を前嚢8aとし、チン小帯9を挟んで眼内側(水晶体嚢8から見て視神経15がある方向)の部分(略楕円状の後半分)を後嚢8bとすると、このセンサは前嚢8aの方の圧力を測定するように構成されている。それを示すべく、特許文献4の図1及び図2(平面図)においてはセンサが前嚢8a側向きになっており、特許文献4の図4(断面図)においてはセンサが前嚢8a側向きに露出している。
【0015】
また、特許文献5では、アンテナとして用いられている触角及びセンサを有する眼内レンズが開示されている(例えば特許文献5の図99A〜C)。このセンサの用途としては、眼圧測定であることが、例えば同文献の段落[0127]に開示されている。また、アンテナとして用いられている触角の1つにセンサをつけることが、同文献の段落[0865]に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2004−267299号公報
【特許文献2】特開2007−275315号公報
【特許文献3】特開2010−172464号公報
【特許文献4】特許第4251387号公報
【特許文献5】特開2011−005261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1〜2に記載の眼圧測定装置では、被検眼の角膜2の変位量を測定し、この変位量から眼圧を算出するという動作を行っている。一方、被験者の角膜2の厚さや弾力性等には個人差がある。そのため、従来の眼圧測定装置を用いた場合、本当は緑内障の症状が出始めており眼圧が高まっているにも拘わらず、被験者の角膜2の特性上、角膜2の変位量が低く測定されてしまい、緑内障のおそれがないという判断が下される可能性も否定できない。
【0018】
そのため、どの被験者に対しても絶対値的なパラメータとして得られるもの(例えば眼圧)について、緑内障の進行の可能性を判断するための絶対値基準を設ける必要がある。
【0019】
更に、特許文献1〜3に記載の眼圧測定装置では、被験者が測定装置を装着して初めて、被験者の眼圧が判明する。別の言い方をすると、被験者の眼圧が正常か異常かは、眼圧測定装置にて眼圧を測定して初めて判明する。つまり、眼圧を測定した時には、既に緑内障を発症し視野欠損を既に引き起こしている可能性もあり得る。そのため、緑内障の進行を予防するという観点で言えば、被験者の眼圧をリアルタイムに測定することが極めて望ましい。
【0020】
なお、特許文献4〜5には確かに、眼内レンズにセンサを設けることが記載されている。だが、緑内障の発症メカニズムは、上述の通り、眼内における硝子体11を構成する房水の量が多くなって眼圧の上昇を引き起こしてしまい、視神経15の圧迫をもたらすことにより視野欠損が引き起こされる、というものである。その結果、視野欠損を進行させないためには、水晶体嚢8の内部の圧力を測定するよりも、視神経15を直接圧迫する硝子体11の圧力を測定するのが極めて望ましい。なお、硝子体11によって視神経15が圧迫される際の硝子体11の圧力のことを「硝子体11内の圧力」とも言う。
【0021】
しかしながら、水晶体嚢8の内部ではなく、硝子体11内の圧力をリアルタイムに測定する方法については未だ公知となっていない。更に言えば、緑内障の進行を予防すべく、水晶体嚢8内の圧力ではなく、硝子体11内の圧力を測定する動機づけとなる文献についても未だ公知となっていない。
【0022】
そこで本発明は、硝子体内の圧力と同じないし極めて近似する圧力をリアルタイムに測定することにより、緑内障の進行リスクを抑制する眼内レンズを提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、「水晶体嚢8の内部に配置した眼内レンズによって、いかにして硝子体11内の圧力を測定するか」について検討した。その上で、「硝子体11内の圧力に即した数値をいかにしてリアルタイムで測定するか」についても検討した。
【0024】
この検討に際して、上記の特許文献について再検討した。そして、特許文献の中でも1〜2について再検討を行った。
【0025】
特許文献1のような接触型の眼圧測定装置にせよ、特許文献2のような非接触型の眼圧測定装置にせよ、被検眼の角膜2の変位量を眼圧測定の基として使用していた。仮に、眼内レンズによって上記特許文献のように被検眼の角膜2の変位量を測定するセンサを設けるとするのならば、眼内レンズにおいて光学部(その中でも、眼内レンズを装用する者の視野に入らない部分)にセンサ及びその周囲を覆う部材を設けるのが当業者にとっては好ましいはずである。なぜなら、角膜2の変位量を測定するためには、変位量が最も大きい部分の近傍にセンサ部を設けた方が、実際の変位量を正確に測定できるためである。
なお、以降、眼内レンズを装用する者のことを単に「装用者」とも言う。また、センサ及びその周囲を覆う部材のことを単に「センサ部」とも言う。
【0026】
そのような状況下で、本発明者は特許文献1〜2のような眼圧測定方法から離れて、緑内障の原因について再検討した。その際、緑内障というものは、眼内全体の圧力というよりも、視神経15を圧迫する硝子体11内の圧力が、緑内障の主な要因となることに着目した。この着目に基づき、本発明者が鋭意研究を進めた結果、水晶体嚢8の後嚢8bを介してならば、硝子体11内の圧力を極めて忠実に眼内レンズへと伝達され得るという知見を得た。
【0027】
ところが、この知見を実現しようとして従来のように光学部にセンサ部を設けると、諸々の不都合が生じることおそれがあることに、本発明者は気付いた。即ち、従来だと角膜2の変位量を測定するために変位量が最も大きい部分の近傍(即ち光学部)にセンサ部を設けていたものの、上記の知見を実現するためにはセンサ部が後嚢8bと常時ないしほぼ常時接触する必要がある。そうしなければ、硝子体11内の圧力を、リアルタイムでセンサ部へと正確に伝達できないためである。
【0028】
これを実現するためには、眼内レンズは、水晶体嚢8における後嚢8bとの接触状態を解除しないよう、水晶体嚢8内にて常時あまり変位しない方が好ましい。
しかしながら、眼内レンズにおける光学部は、水晶体嚢8内に配置するとなると水晶体嚢8内の略中心部分に位置することになる。そして、特許文献1〜2のような眼圧測定を行う際のみならず、眼内レンズの装用者が眼を擦る等の動作を行うことにより、眼内レンズに衝撃が加えられ、水晶体嚢8内において、眼内レンズが光学部の光軸方向に変位することになる。そうなると、水晶体嚢8における後嚢8bと眼内レンズとの接触状態が解除されてしまう。特に、眼内レンズにおける光学部は、水晶体嚢8内において支持部に支えられて吊るされる形となるため、特に変位量が多くなり、後嚢8bとの接触状態が解除されやすくなってしまう。その結果、リアルタイムな硝子体11内の圧力測定が困難となってしまう。
【0029】
本発明者によって得られた上記課題を解決すべく、本発明者は、光学部にセンサ部を設けるのではなく、後述する図3(d)のように、水晶体嚢8内に配置した際に変位量が比較的小さい支持部22にセンサ部40を設けるという構成を想到した。そして、支持部22におけるセンサ部40から、光学部21におけるアンテナ部30へと硝子体11内の圧力の数値を伝達し、更には外部へその圧力の数値を伝達するという構成を想到した。
【0030】
つまり、角膜2を変位させて眼圧を測定すべく変位量が大きな部分である光学部21にセンサ部40を設けるのではなく、それとは全く逆に、変位量が比較的小さい部分である支持部22にセンサ部40を設け、後嚢8bから伝えられる硝子体11内の圧力を測定するという知見を得た。
【0031】
以上の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
所定の屈折力を有する光学部と、水晶体嚢内にて前記光学部を支える支持部と、を備える眼内レンズであって、
前記支持部には、前記水晶体嚢における後嚢を介して硝子体内の圧力を測定するセンサ部が設けられ、
前記光学部には、前記センサ部にて測定された前記圧力を外部に伝達するアンテナ部が設けられている
ことを特徴とする眼内レンズである。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記センサ部は、前記支持部における、前記光学部と前記支持部との境界近傍の部分に設けられている
ことを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、
眼内レンズを水晶体嚢内に挿入したとき、前記センサ部が前記後嚢の近傍に位置するように、前記センサ部が前記支持部に設けられている
ことを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1から第3の態様のいずれか1態様に記載の発明において、
前記光学部は軟質材料から形成され、
前記支持部における、前記光学部と前記支持部との境界近傍の少なくとも一部は、前記軟質材料に比べて硬質な材料から形成されており、
前記少なくとも一部に、前記センサ部が設けられている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、硝子体内の圧力と同じないし極めて近似する圧力をリアルタイムに測定することにより、緑内障の進行リスクを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】眼球の平面的な断面構造を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る眼内レンズの構成例を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)はA−A’方向から見た側面図、(c)はB−B’線における断面図、(d)は眼内レンズにおける光学部と支持部の境界部分を拡大したときのB−B’線における断面図である。なお、A−A’線は、眼内レンズの折り畳み線でもある。
【図3】本発明の一実施形態に係る眼内レンズの使用方法を示す説明図であり、(a)は眼内レンズが水晶体嚢内に挿入されるところを示す説明図、(b)は挿入後を示す説明図、(c)は眼内レンズの挿入後、水晶体嚢が眼内レンズに馴染む様子を示す説明図、(d)は後嚢(及びセンサの周囲を覆う部材)を介して硝子体内の圧力がセンサ部へと伝達される様子を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る眼内レンズの製造方法の説明図である。
【図5】緑内障の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.眼球の構造
A)眼球の全体構造
B)水晶体
C)水晶体嚢
2.眼内レンズ
A)眼内レンズの全体構造
B)光学部(含むアンテナ部)
C)支持部(含むセンサ部)
3.眼内レンズの製造方法
4.眼内レンズの使用方法
5.実施の形態による効果
6.変形例
【0035】
<1.眼球の構造>
ここで、本発明に係る眼内レンズの説明に先立ち、当該眼内レンズが用いられる眼球の構造について説明する。
【0036】
A)眼球の全体構造
図1は、眼球の平面的な断面構造を説明する図である。
図例のように、眼球1は、全体に球状をなし、前方の角膜2の部分を除いて強膜3により被覆保護されている。角膜2周囲の強膜3の表面は結膜4で覆われている。角膜2は、眼球保護機能のほかに、外から入ってくる光を屈折させるレンズ機能を果たす。角膜2の内側(裏側)には、房水で満たされた前房5があり、この前房5に面して虹彩6の中央に瞳孔7がある。
【0037】
虹彩6は、瞳孔7の大きさ(開口の寸法)を調節することにより、眼球1の内部に入射する光の量を調整する機能を果たす。瞳孔7には水晶体嚢8の前面が臨んでいる。水晶体嚢8には、毛様小帯(チン小帯)9を介して毛様体上皮10がつながっている。毛様体上皮10は、水晶体嚢8の厚さを制御してピント合わせを行う筋肉組織である。
【0038】
水晶体嚢8の裏側には硝子体11がある。硝子体11は、眼球1の内部の大部分を占めている。硝子体11は、ゼリー状の無色透明な組織であり、眼球1の形状と弾性を維持している。また、硝子体11は、水晶体嚢8で屈折された光線を網膜13まで送る働きをする。網膜13は、眼球1の内部で最も内側に位置する膜組織である。網膜13には、瞳孔7を通して眼球1内に入射する光を感じ、その強さ、色、形などを識別する視細胞が存在する。
【0039】
網膜13の外側には脈絡膜14がある。脈絡膜14は、強膜3の内側(つまり、強膜3と網膜13の間)に位置する膜組織である。脈絡膜14は、血管に富んでおり、眼球1の各組織への血流路として、眼球1内に栄養を与える役目も果たす。さらに、眼球1の後側(裏側)には視神経15がつながっている。視神経15は、網膜13が受けた光刺激を脳に伝える神経である。視神経15がつながる部分には盲点16が存在する。盲点16は、中心窩17から4〜5mmほど離れたところにある。
【0040】
B)水晶体
水晶体は、水晶体嚢8を介して、無色透明で凸レンズ形状を有しており、毛様体上皮10と呼ばれる筋肉がつながり、チン小帯9で支えられている。そして、水晶体は、近くを見るときは毛様体上皮10が収縮しチン小帯9が弛緩することで厚くなる。また、遠くを見るときは逆に毛様体上皮10が弛緩しチン小帯9が引っ張られることで薄くなる。このようにして、水晶体は、遠近にピントを合わせるようになっている。
【0041】
C)水晶体嚢
水晶体の表面は、水晶体嚢8と呼ばれる薄い膜で包まれている。水晶体嚢8は、弾性に富む膜様の構造物であり、恒常的な圧力下でその性質を維持する。先にも述べた定義付けであるが、以降、水晶体嚢8において、毛様小帯(チン小帯)9を挟んで眼外側の部分を「前嚢」とし、チン小帯9から見て眼内側の部分を「後嚢」とする。
【0042】
<2.眼内レンズ>
次いで、眼内レンズについて説明する。本実施形態における眼内レンズは、眼球の白内障手術で水晶体を摘出したときに装着されるものとする。
【0043】
A)眼内レンズの全体構造
図2は、眼内レンズ20の構成例を示す説明図である。
図2に示すように、眼内レンズ20は、平面視にて略円形状をなす光学部21と、その光学部21の外周部から延びる2本の腕状且つワイヤ状の支持部22と、から構成されている。光学部21と支持部22は、互いに異なる材料によって形成され得るが、本実施形態においては、両者は一体に形成されている。
【0044】
本実施形態においては、光学部21には軟質材料(ソフトアクリル)を用い、支持部22には軟質材料(ソフトアクリル)及び硬質材料(PMMA(ポリメチルメタクリレート))を用いた場合について説明する。なお、支持部22における、光学部21と上記支持部22との境界近傍の部分及び光学部21中心から見て最も外側の部分(以降、先端部22cとも言う。)にはPMMAを用い、それ以外の支持部22の部分にはソフトアクリルを用いている。
【0045】
また、本実施形態においては、光学部21と支持部22との境界部分に段差部21aを設けている。この段差部21aによって、光学部21が水晶体嚢8の後嚢8bに確実に密着しやすくなる。そのため、眼内レンズ20の後面20b側への水晶体上皮細胞の遊走を抑制することが可能になり、水晶体上皮細胞に起因する後発白内障の進行リスクを抑制することができる。
【0046】
なお、段差部21aの段差は、支持部22のセンサ部40と後嚢8bとが常時ないしほぼ常時接触できる程度の段差であることが好ましく、一例を挙げれば0.05mm程度の段差とするのが挙げられる。
【0047】
B)光学部(含むアンテナ部)
光学部21は、眼内レンズ20全体における略中心に位置し、その形状は平面視で円状ないし楕円状の部分である。光学部21は、所定の屈折力を有している。この屈折力は、白内障に対応すべく取り除かれた水晶体が有していた屈折力を担保する。つまり、眼内レンズ20が水晶体嚢8内に挿入され、眼外からの光が光学部21を通ることにより、眼内レンズ20の装用者は、水晶体を取り除く前の屈折力を得ることができる。図2には、眼内レンズ20(特に光学部21)の前面20a及び後面20bが両方とも凸形状を有している場合を示す。
【0048】
そして、この光学部21の外周部には、アンテナ部30が形成されている。アンテナ部30が受電した電力により、支持部22におけるセンサ部40(後述)は動作可能となる。
【0049】
このアンテナ部30は、光学部21を構成する部材によって複数の近接コイル巻線31が覆われることにより構成される。このコイル巻線31は、光学部21の光軸を中心に周回するよう環状に配置されており、コイル巻線31は複数、互いに近接して配置されている。そして、この複数のコイル巻線31は、光学部21の内部に埋め込まれている。
【0050】
このコイル巻線31は、光軸と直交する平面内に環状に存在する。そうすることにより、眼内レンズ20(ひいては光学部21)を折り畳む際、アンテナ部30の損傷を抑制して高い送受信特性を維持することができるとともに、眼内レンズ20を比較的容易に折り畳むことができる。
【0051】
アンテナ部30におけるコイル巻線31が、光学部21の外周部に配置されることにより、眼内レンズ20が小型化したとしてもコイル巻線31における一定の長さを確保することができる。その結果、アンテナ部30における電子モジュール32(後述)と支持部22におけるセンサ部40に対し、電磁誘導を利用した外部からの給電が可能になる。更には、後述する支持部22におけるセンサ部40によって得られる硝子体11内の圧力の数値を、眼外の受信デバイス(図示せず)へと安定して送信することができる。
【0052】
また、ここでの「外周部」とは、光学部21の一部であって、眼内レンズ20の装用者がアンテナ部30を視認しない程度に、光学部21の幾何中心から離れた外周部分のことを言う。
【0053】
なお、このコイル巻線31の材質としては、電磁誘導を利用した外部からの受電を自在に行い、アンテナ部30として上記圧力の数値を送信自在とできるものであれば公知のものを用いても良い。一例を挙げると、貴金属、特に金で作られるのが、導電性及び折り畳む際の柔軟性を考慮すると好ましい。
【0054】
また、コイル巻線31の埋め込みについてであるが、光学部21に予めコイル巻線31用の溝を形成しておき、その溝にコイル巻線31を嵌め込んだ後、光学部21と同じ材質の部材でコイル巻線31を埋め込み、アンテナ部30を形成する。
【0055】
また、このアンテナ部30は、コイル巻線31とは別に、少なくとも一つの電子モジュール32を備えている。電子モジュール32は、センサ部40から送信される硝子体11内の圧力の数値を受信し、更にはこの数値を無線方式で眼外の受信デバイスに送信自在とする機能を有している。なお、その際の電力は、コイル巻線31により外部から給電される。
【0056】
上記機能を発揮するため、電子モジュール32はアンテナ機能を有するコイル巻線31と接触している。電子モジュール32とコイル巻線31との接触を容易にするために、電子モジュール32近傍において、コイル巻線31は、平面視において円弧状ではなく略直線状とするのが好ましい。
【0057】
また、この電子モジュール32の内部に、メモリを設けても良い。このメモリが、後述のセンサ部40によってリアルタイムに測定されて連続的に記録された硝子体11内の圧力値を記憶する。これらの圧力値が、適宜決められたインターバルでこのメモリから検索でき、眼外にある受信デバイスに送信される。なお、この受信デバイスは公知のものを用いることができる。
【0058】
また、電子モジュール32は折り畳み可能な物質から構成される。その結果、眼内レンズ20の小型化にも対応することができ、ひいては眼内レンズ20を水晶体嚢8内に挿入するための創傷を最小限に食い止めることができる。とはいえ、電子モジュール32に与えるダメージを最小限にするために、眼内レンズ20を折り畳む際に、折り畳み位置(図2(a)のA−A’線上)に存在しないように、光学部21に電子モジュール32を配置するのが好ましい。一例を挙げるとすると、図2(a)に示すように、光学部21における、光学部21と支持部22との境界近傍の部分に電子モジュール32を配置するのが好ましい。
【0059】
C)支持部(含むセンサ部)
本実施形態において、支持部22は眼内レンズ20の一部であって、当該光学部21から開ループ形状且つ2本の腕状に外方へと延出している部分である。眼内レンズ20を平面視したとき、図2(a)に示すように、支持部22は、光学部21と支持部22との境界近傍の部分から先端部22cにかけて滑らかに連続した円弧を描いた輪郭を有している。また、当該光学部21と支持部22とは、一体成型されている。そして、眼内レンズ20が水晶体嚢8内に挿入されたとき、水晶体嚢8の内側の膜と支持部22とが接触することにより、支持部22を介して水晶体嚢8内に光学部21が保持されることになる。つまり、支持部22は、水晶体嚢8内において光学部21を支える役割を担う。
【0060】
そして、この支持部22における、光学部21と支持部22との境界近傍の部分(以降、「付け根22a」とも言う。)には、センサ部40が設けられている。このセンサ部40は、従来のように単に眼圧を測定するためのものではなく、水晶体嚢8における後嚢8bを介して硝子体11内の圧力を測定する機能を有する。
【0061】
後述する<4.眼内レンズの使用方法>で述べるが、本発明の一実施形態に係る眼内レンズ20の使用方法を示す説明図である図3に示すように、本実施形態における眼内レンズ20が水晶体嚢8内に挿入されると(図3(a)(b))、水晶体嚢8は略楕円形状をある程度維持しながらも、水晶体嚢8が眼内レンズ20に馴染むことにより、水晶体嚢8が一定度合い縮小し、眼内レンズ20と水晶体嚢8とが接触することになる(図3(c))。
【0062】
本実施形態においては、眼内レンズ20と水晶体嚢8(特に後嚢8b)とが接触することを利用し、上記のようにセンサ部40を支持部22に設けている。こうすることにより、眼内レンズ20と水晶体嚢8とが接触していることから、センサ部40には、水晶体嚢8の後嚢8bから圧力が加わることになる。このとき、水晶体嚢8と硝子体11の配置関係から、後嚢8bに加えられる圧力の主要因は、硝子体11内の圧力となっている。その結果、眼内レンズ20が上記のような構成を有することにより、水晶体嚢8の後嚢8bを介して、硝子体11内の圧力がセンサ部40へと忠実に伝達されることになる(図3(d))。そして、硝子体11内の圧力と同じないし極めて近似する圧力をリアルタイムに測定することができる。
【0063】
図2(a)(b)(d)からもわかるように、支持部22の中でも付け根22aは、支持部22の端部(眼内レンズ20を平面視したとき、光学部21の中心から見て外方にある部分)に比べて、光学部21の中心に比較的近い位置に存在する。一方、水晶体嚢8が断面視で略楕円形であること及び水晶体嚢8と硝子体11との相互配置から、後嚢8bの中でも光学部21の中心に近い部分ほど、硝子体11内の圧力が伝わりやすくなる。その結果、支持部22の中でも光学部21の中心に比較的近い部分(即ち付け根22a)にセンサ部40を設けることにより、光学部21にセンサ部40を設けないにも関わらず、水晶体嚢8の後嚢8bを介して、硝子体11内の圧力が、支持部22におけるセンサ部40へと更に忠実に伝達される。
【0064】
なお、先にも述べたように、眼内レンズ20を平面視したとき、支持部22において、光学部21の中心に近い位置にセンサ部40を設けている。これに加え、眼内レンズ20を断面視したとき、支持部22において、後嚢8b側にセンサ部40を設けるのが好ましい。つまり、厚さ方向において、後嚢8b側にセンサ部40を設ける。こうすることにより、眼内レンズ20を水晶体嚢8内に挿入したとき、センサ部40が上記後嚢8bの近傍に位置するように配置することができる。そうなると、更に、硝子体11内の圧力がセンサ部40へと忠実に伝達され、本実施形態における効果が増幅されることになる。
【0065】
なお、このセンサ部40は、先にも述べたように、硝子体11内の圧力を測定するためのセンサ41と、その周囲を覆う部材42とからなる。本実施形態の場合、このセンサ41は、センサ部40の本体であって電子モジュールからなるセンサ41である(アンテナ部30における電子モジュール32と区別するために、センサ部40における電子モジュールを「センサ41」と言う)。
【0066】
このセンサ41は、後嚢8bから加えられる圧力(即ち硝子体11内の圧力)を感知するための感圧素子と、測定された圧力をアンテナ部30へと伝達するための電気回路と、を備えている。
【0067】
また、周囲を覆う部材42は、支持部22を構成する材料である。つまり、本実施形態においては、支持部22の付け根22aにセンサ41を埋め込んでいる。
【0068】
なお、このセンサ41としては、後嚢8bから加えられる圧力をリアルタイムに測定できる圧力センサであれば、公知の圧力センサを用いても良い。更に、アンテナ部30における電子モジュール32と同様に、センサ41の内部にメモリを設けても良い。
【0069】
また、センサ41の支持部22への埋め込みについてであるが、アンテナ部30におけるコイル巻線31と同様、支持部22に予めセンサ41用の孔を形成しておき、その孔にセンサ41を嵌め込んだ後、支持部22と同じ材質の部材でセンサ41を埋め込み、支持部22を形成する。
【0070】
また、先にも述べたように、光学部21にはソフトアクリルが用いられており、支持部22にはソフトアクリル及びPMMAが用いられている。ここで、支持部22における、光学部21と上記支持部22との境界近傍の部分に硬質材料であるPMMAを用いている。そしてこのPMMAからなる部分に、センサ41を埋め込んでいる。
【0071】
こうすることにより、センサ41を衝撃から保護するという効果が得られるのみならず、本実施形態の特徴である「変位量が比較的小さい」ことを更に確実に実行することができ、本実施形態の効果を更に奏することができる。即ち、センサ41の周囲を、硬質材料であるPMMAで構成することにより、軟質材料の場合に比べて、眼内レンズ20に衝撃が与えられた際の変位量をより小さくすることができる。その結果、変位量が小さい支持部22において、更に変位量を小さくすることができ、後嚢8bとセンサ部40との接触をほぼ常に保つことができる。そうして、視神経15に圧迫を加えている硝子体11内の圧力をリアルタイムに常時安定して観察することが可能となる。
【0072】
なお、本実施形態においては、支持部22の付け根22a以外にも、支持部22における先端部22cにもPMMAを用いている。こうすることにより、眼内レンズ20を折り畳んだ後、眼内レンズ20を水晶体嚢8内で再び元の形状に戻す際、先端部22cと光学部21との硬軟の差及び粘着力の差によって、折り畳みが容易に解除されるようになる。
【0073】
なお、支持部22における、先端部22cと付け根22a以外の部分(以降、「支持部本体22b」とも言う。)は、ソフトアクリルにより構成されている。このように支持部22を構成することにより、眼内レンズ20を折り畳む場合に支持部22も折り畳むことになるが、折り畳みの際の支持部22の破損を抑制することができる。また、後述する<6.変形例>で述べるが、眼内レンズ20を縫着型としたときに支持部22が破損するのを抑制することができる。
【0074】
また、支持部本体22bと先端部22cとの区分けであるが、先端部22cと支持部本体22bとは、光学部21の中心を同心とする円弧線を描いたときに、当該円弧線を境界線として区分されている。更に、支持部本体22bと付け根22aとも、光学部21の中心を同心とする円弧線を描いたときに、当該円弧線を境界線として区分されている。
【0075】
また、支持部22における付け根22aは、平面視したとき、光学部21の幾何中心に向けて山裾状に幅広に形成され、最も幅広の部分で光学部21につながっている。この付け根22aに対し、支持部本体22bは、上記付け根22aから外方へと、斜め外向きに円弧を描くように細長く延出している。そして、先端部22c分は、支持部本体22bに比べて少し幅広に形成されている。
【0076】
また、先端部22cは、水晶体嚢8に接触してもこれにダメージを与えないように、丸みを帯びている。また、支持部22を構成する先端部22c及び付け根22a並びに支持部本体22bは、それぞれの部位の材料が異なるだけで、構造的には一体化されている。
【0077】
また、支持部22の形状であるが、図2(b)(c)(d)に示すように、断面視したとき、前面20a側は、主表面が光学部21と支持部22とで連続した表面形状を有していても良い。一方、後面20b側には、先に述べたように、光学部21と支持部22との境界部分に段差部21aを設けても良い。また、図2(b)に示すように、支持部22の断面視形状は、光学部21の中心から外方に向けて、始めは略水平に延出し、その後、前面20a側に傾きを有して延出し、最終的には略水平に延出しても良い。このように構成することにより、水晶体嚢8内に眼内レンズ20を挿入した時、支持部22によって光学部21が光軸方向に過度に変位するのを抑制することができる。
【0078】
<3.眼内レンズの製造方法>
続いて、本発明の第1の実施の形態に係る眼内レンズ20の製造方法について説明する。眼内レンズ20の製造方法は、主に4つの工程に分けて考えることができる。以下、図4を用いて、工程の流れに従って説明する。
【0079】
(第1工程)
まず、図4(a)に示すように、公知の成形方法により、例えばPMMA(硬質材料)を用いて、円環形状の外側硬質材料部201を得る。そして、外側円孔101’を挟んで、更に外側円孔101’の内側に内側硬質材料部202を形成しておく。そして、内側硬質材料部202を挟んで、更に内側硬質材料部202の内側に内側円孔102’を形成する。外側硬質材料部201、外側円孔101’、内側硬質材料部202及び内側円孔102’は、同心に配置されている。
【0080】
(第2工程)
次に、図4(b)に示すように、外側円孔101’ 及び内側円孔102’内に、例えば重合後にソフトアクリルの原料液を注入して重合を完了させる。これにより、外側円孔101’及び内側円孔102’が存在した場所に、平面視ドーナツ状の外側軟質材料部101と、平面視円形状の内側軟質材料部102が形成される。その結果、外側硬質材料部201及び内側硬質材料部202と、外側軟質材料部101及び内側軟質材料部102とが一体化した構造の中間部材300が得られる。
【0081】
(第3工程)
次に、図4(c)に示すように、中間部材300の面形状を、完成予定の光学部21および支持部22の面形状に合わせて整える。具体的には、面加工と溝入れ加工との共用バイト61(一例を挙げるとすると、先端の曲率R=0.2、先端からの傾斜30°、先端において傾斜が無い部分の半径は0.1mm)を装着した精密旋盤装置を用いて、中間部材300の前後面にミーリング加工等の面形成加工を施す。これにより、光学部21の凸状の曲面と支持部22の根元部分の斜面とそれ以外の平坦面に合わせて、中間部材300の面形状を整える。即ち、光学部21の前面20aと後面20bとの両面の光学面の曲面形状、並びに、2本の支持部22の上記光学部21の前面20a側と後面20b側との両側に位置する表面形状を形成する。これにより、眼内レンズ20の前面20a及び後面20bの形状を反映した円板状の中間部材300が得られる。
【0082】
(第4工程)
そして、第3工程と共に、上記光学部21および支持部22の平面視したときの輪郭に合わせて中間部材300の形状を整えるべく、溝入れ用バイト62を装着した精密旋盤装置により、円板状の中間部材300に溝入れ加工を施し、完成予定の眼内レンズ20の輪郭に沿って、中間部材300から眼内レンズ20を削り出す。具体的には、光学部21の光軸を中心とする円であって、中間部材300における光学部21となる領域と2本の支持部22となる領域との境界部を通る円に沿って、溝入れ用バイト62を装着した精密旋盤装置により、第1の中間部材に溝入れ加工を施す。そうして、中間部材300にミーリング加工等の外形加工を施すことにより、眼内レンズ20として不要な部分を中間部材300から取り除く。
【0083】
なお、この溝入れ加工は、上記面形成加工の際のバイトとして面加工と溝入れ加工との共用バイト61を用いれば、上記面形成加工に続いて一連の工程で行うことができる。溝入れ用バイト62の径は1.5mmである。なお、上記溝入れ加工は、上記旋盤加工時に行なわず、後述するミーリング装置で輪郭形状を形成するときに、そのミーリング装置によって行なっても良い。
その後、必要な箇所に研磨加工を施す。
【0084】
以上の工程により、ワンピースタイプの眼内レンズ20が得られる。ただし、上記の製造方法に限らず、例えば、上述した第1工程〜第4工程のすべてをキャストモールド製法によって同時に行っても良い。また、第1工程〜第2工程をキャストモールド製法によって同時に行い、その後で第3工程〜第4工程を行っても良い。もちろんそれ以外の公知の方法(例えばスピンキャスト製法やレースカット製法)を用いても良い。
【0085】
<4.眼内レンズの使用方法>
眼内レンズ20の使用の形態は2つある。一つは、眼内レンズ20を非縫着型として使用する場合である。もう一つは、眼内レンズ20を縫着タイプとして使用する場合である。本実施形態においては、眼内レンズ20を非縫着タイプとして使用する場合における眼内レンズ20の使用方法について、図3を用いて説明する。なお、縫着型については、後述の<6.変形例>にて説明する。
【0086】
眼内レンズ20を眼内に挿入するにあたっては、それに先立って眼球1の表面に創口を形成し、この創口を通して水晶体(水晶体皮質、水晶体核)を摘出しておく(図3(a))。
【0087】
なお、白内障水晶体の水晶体嚢8内からの摘出は、水晶体嚢8の前嚢8aに6mm程度の小さな円形開口(CCC:Continuous Curvilinear CapsulorhexisまたはContinuous Circular Capsulorhexis)19を形成し、超音波乳化吸引術(PEA)を利用して行えばよい。
【0088】
一方、眼内レンズ20は予め小さく折り畳んでおく。このとき、2つの支持部22が互いに重ならないように、光学部21を図2(a)のA−A’線にて二つ折りするかたちで、眼内レンズ20を折り畳む。その際、支持部22も付け根22aで折り畳み、折り畳んだ支持部22を光学部21で包む。
【0089】
具体的には、眼内レンズ20を折り畳んだまま、これをインジェクター50に挿入する。インジェクター50は、眼内レンズ20を眼内に挿入するために使用する手術器具である。
【0090】
次に、眼内レンズ20が装着されたインジェクター50の先端部51を眼球1の円形開口19に臨ませ、その状態でインジェクターから眼内レンズ20を押し出すことにより、円形開口19を通して眼内レンズ20を眼内(水晶体嚢8)に挿入する。この段階では眼内レンズ20が折り畳まれた状態になっている。
【0091】
次に、折り畳まれた状態の眼内レンズ20を、鑷子等を用いて元の形状に展開させる(図3(b))。その際、水晶体嚢8が眼内レンズ20に馴染むことにより、水晶体嚢8が一定度合い縮小し、眼内レンズ20と水晶体嚢8とが接触することになる(図3(c))。これにより、光学部21から延びる支持部22が水晶体嚢8の後嚢8bと接触し、この接触圧を利用して光学部21が適正な位置に支持される。
【0092】
この接触によって、硝子体11内の圧力が支持部22に伝達されることになる。本実施形態においては、この圧力の伝達を、支持部22の付け根22aにあるセンサ部40にて行うことになる。センサ部40のセンサ41にて、後嚢8b(及びセンサ41の周囲を覆う部材42)を介して硝子体11内の圧力を測定し、その値をアンテナ部30の電子モジュール32へと送信する(図3(d))。そして、この電子モジュール32から外部へとこの圧力の値をリアルタイムで送信する。
なお、円形開口19は、術後に公知の方法で閉じれば良い。
【0093】
<5.実施の形態による効果>
本実施形態に係る眼内レンズ20では、従来のような「角膜2の変位量」から眼圧を換算するのではなく、硝子体11内の圧力を忠実に反映した「後嚢8bの圧力」を測定している。つまり、本実施形態においては、どの患者に対しても絶対値的なパラメータとして得られるもの(本実施形態においては硝子体11内の圧力)に関して、緑内障の進行の可能性を判断するための絶対値基準を設けることに成功している。
【0094】
また、眼内レンズ20にアンテナ部30及びセンサ部40を設けていることから、硝子体11内の圧力をリアルタイムに測定することができる。しかも、視神経15を直接圧迫する硝子体11内の圧力を、角膜2の変位量→圧力という変換を行うことなく後嚢8bを介して測定できる。そのため、硝子体11内の圧力を忠実に再現した値をセンサ部40によって測定することができる。また、眼内レンズ20は常に装用者の眼内に存在することから、装用者の硝子体11内の圧力が正常か異常かをリアルタイムに把握することができ、この圧力が増加傾向にある等の緑内障の兆候を早期に把握することができる。
【0095】
更に、本実施形態においては、硝子体11内の圧力をリアルタイムで正確にセンサ部40へと伝達するため、センサ部40が後嚢8bと常時ないしほぼ常時接触するよう、支持部22にセンサ部40を配置している。その上で、光学部21にアンテナ部30を設けている。つまり、支持部22にて圧力を測定し、光学部21にてその圧力を外部に伝達する、という役割分担を行っている。
【0096】
光学部21においては、アンテナ部30におけるコイル巻線31が、光学部21の外周部に配置されることにより、眼内レンズ20が小型化したとしてもコイル巻線31における一定の長さを確保することができる。その結果、安定して硝子体11内の圧力の数値を送受信することができる。
【0097】
そして支持部22においては、支持部22にセンサ部40を配置することにより、センサ41が光軸方向に変位するのを抑えることができる。その結果、水晶体嚢8における後嚢8bとの接触状態を常時ないしほぼ常時、維持することができ、リアルタイムな硝子体11内の圧力測定が可能になる。
【0098】
以上の結果、本実施形態に係る眼内レンズ20ならば、硝子体11内の圧力と同じないし極めて近似する圧力をリアルタイムに測定することにより、緑内障の進行リスクを抑制することができる。
【0099】
<6.変形例>
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0100】
(眼内レンズの構成)
本実施形態においては、中間部材の段階から光学部21と支持部22とが一体となった一体型眼内レンズ20について説明した。一方、本発明の適用範囲は、一体型ではないマルチピース型の眼内レンズ20にも及ぶ。つまり、マルチピース型の眼内レンズ20であっても、支持部22にセンサ部40を設け、光学部21にアンテナ部30を設け、硝子体11内の圧力をセンサ部40にて後嚢8bを介して測定すれば、本実施形態の効果を奏する。
【0101】
また、本実施形態においては支持部22と光学部21との境界部分に段差部21aを設けたが、支持部22のセンサ部40に後嚢8bが接触しやすくすべく、段差部21aを小さくする又は段差部21aを設けないという構成を採用しても良い。
【0102】
(光学部の材質)
光学部21は、当該光学部21を折り畳み可能とする軟質材料によって構成されているのが好ましい。ここで記述する「折り畳み可能」という用語は、光学部21を含めて眼内レンズ20を少なくとも二つ折りにできるという意味で使用している。従って、光学部21を構成する軟質材料は、光学部21を折り畳める程度の高い柔軟性を有する材料であれば良い。ソフトアクリル以外で具体例を挙げるとすれば、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ハイドロゲル、ウレタン系樹脂などの軟質材料を用いることができる。
【0103】
その一方で、もちろん、折り畳みを要しない眼内レンズに本発明を適用しても構わない。その場合、硬質材料であるPP(ポリプロピレン)、ポリイミド、PMMA等を用いても良く、光学部21として使用できる材料であれば公知のものを用いても構わない。ただし、その場合、角膜2への創傷が大きくなってしまうことから、折り畳み可能な眼内レンズに本発明を適用するのが好ましい。
【0104】
(光学部の形状)
本実施形態においては、眼内レンズ20(特に光学部21)の前面20a及び後面20bが両方とも凸形状を有している場合について説明したが、片面又は両面が凹形状を有している場合にも本発明の思想はもちろん適用され得る。
【0105】
(光学部の寸法)
本実施形態における光学部21は、平面視円形の凸レンズ形状に形成されている。光学部21の直径は、眼内レンズ20を眼内の水晶体嚢8に挿入するのに適した寸法であれば、どのような寸法に設定してもかまわない。具体的な寸法設定例を記述すると、光学部21の直径Dは、好ましくは、5mm〜7mmの範囲に設定すればよく、より好ましくは6mmに設定すればよい。光学部21の厚みは、所望の屈折率等に合わせて設定すればよい。
【0106】
(支持部の材質)
本実施形態における支持部22は、光学部21とは硬さの異なる材料によって構成されていたが、本発明の思想を具体化する上では材質に制限は加わらない。ただ、水晶体嚢8内にて光学部21を支持するという点を考慮すると、支持部22(少なくとも付け根22a)を硬質材料で構成するのが、光学部21を安定して配置する上では好ましい。支持部22の材料として、PMMA以外で具体例を挙げるとすれば、ポリプロピレンやポリアミドなどの硬質材料を用いることができる。また、支持部22全体を同一の材料で構成しても良いし、先端部22c、支持部本体22b及び付け根22aを各々別材料で構成しても良いし、それらの組み合わせを同一の材料で構成しても良い。
【0107】
更に、眼内レンズ20の折り畳み際の破損を抑制すべく、付け根22aに対して一定の強度と柔軟性を兼ね備えるために、付け根22aにおいては、硬質材料と軟質材料を混合したものを材料として用いても良い。
【0108】
また、付け根22aの光学部21側から先端側に向けて、硬質材料の含有比を変更(例えば減少)させても良いし、支持部22の厚さ方向において、硬質材料の含有比を変更(例えば減少)させても良い。こうすることにより、付け根22aの光学部21側の柔軟性が更に高まり、折り畳みの際の破損を更に抑制することができる。
【0109】
(支持部の形状)
本実施形態における支持部22は、開ループ状且つ外方に延出した腕状に形成されており、それが2本形成されている。一方、本発明に適用される支持部22としては、これ以外の形状であっても良い。具体例を挙げるとすれば、開ループ状ではなく閉ループ状の支持部22や、腕状ではなく平板状の支持部22や、2本ではなく1つ又は3つ以上の支持部22であっても良い。
【0110】
(支持部の寸法)
本実施形態における支持部22には寸法の制限は特にないが、標準的な水晶体嚢8のサイズを考慮すると、眼内レンズ20を水晶体嚢8に挿入した際に眼内レンズ20全体の直径が10mm程度になるよう支持部22の全長を設定するのが良い。
【0111】
(先端部の着色)
支持部22における先端部22cを、公知の着色料を含有したPMMAで構成しても良い。こうすることにより、眼内レンズ20を折り畳んで水晶体嚢8内に挿入し、再び眼内レンズ20を元の形状に戻す際、手術を行う術者が、先端部22cを視認しやすくなる。その結果、術者が先端部22cを摘み易くなり、手術をスムーズに行うことが可能となる。なお、本実施形態においては支持部22が2本存在するが、各々の先端部22cを異なる色で着色しても良い。そうすれば、手術中であっても、眼内レンズ20においてどちらが前面20a又は後面20bかを容易に識別できる。なお、先端部22c以外の部分に対して、公知の着色料を含有させてももちろん構わない。
【0112】
(縫着型レンズ)
本実施形態においては眼内レンズ20を非縫着型とした場合の眼内レンズ20について述べたが、以下、縫着型とした場合の眼内レンズ20について述べる。
【0113】
まず、縫着型の眼内レンズ20とは、眼内レンズ20を水晶体嚢8に収容した状態で支持部22を縫合糸によって眼球1に固定することにより、光学部21を適正な位置に保持するタイプの眼内レンズ20ことである。そして、この縫合糸を眼内レンズ20に通すべく、先端部22cに孔を設けても良い。以下、孔の一例を示す。
【0114】
孔は、支持部22の延出端側において、この支持部22の厚み方向に貫通する状態で形成されている。また、孔は、平面視において円形の貫通孔として形成されている。この孔は、支持部22を眼球1に固定するときに用いる縫合糸の巻き付けを許容し、かつ巻き付けた縫合糸の位置ずれを防止する係止部に相当するものである。孔は、先端部22cに設けられていても良いし、それ以外の部分に設けられていても良い。
【0115】
眼内レンズ20を縫着型とした場合でも、本実施形態ならば、支持部本体22bがソフトアクリルで構成されているため、光学部21の径方向に弾性変形可能な構成になっている。図2(a)(b)に示すように、支持部本体22bは、全体的に細長く延びている。そして、これを構成する材料自体も適度な柔軟性をもっている。このため、先端部22cを通して光学部21の中心に向かう外力を受けると、この外力にしたがって支持部本体22bが光学部21の径方向に弾性変形し得る構成となっている。
【0116】
更に、本実施形態において、孔が設けられた先端部22cは、支持部本体22bよりも硬い硬質材料によって構成されるのが好ましい。当該孔に縫合糸を縛りつける場合に、多少強く縛りつけてもその部分(先端部22c)がちぎれるおそれを抑制することができるためである。
【0117】
(眼内レンズの保持具)
本実施形態に係る眼内レンズ20を水晶体嚢8内へ装着する場合、水晶体赤道線の円形を保持することがレンズ固定の安定化に寄与することが知られている。そのため、水晶体嚢8内への眼内レンズ20の装着にあたり、嚢内リングと呼ばれるレンズ装着のための補助具(嚢内保持具)を用いても良い。ただし、嚢内リングに眼内レンズ20を嵌め込んだ場合であっても、支持部22におけるセンサ部40と後嚢8bとが接触状態を維持できるように眼内レンズ20及び嚢内リングを構成する必要がある。
なお、水晶体嚢8そのものを切除した場合であっても、水晶体嚢8の代わりとなる保持具に上記の眼内レンズ20を装着しても良い。具体的には、センサ部において、後嚢8bを介してではなく、センサ部40と硝子体11を直接接触させることにより硝子体内の圧力を測定する。この場合の具体的な構成を、後述の[付記]にて記載する。
【0118】
(電子モジュール/センサの数)
本実施形態においてはアンテナ部30の電子モジュール32とセンサ部40のセンサ41を1個ずつ設けた場合について述べたが、もちろん各々複数設けても良い。特にセンサ41については、各支持部22に1個設けても良い。
【0119】
(電子モジュール/センサの埋め込み)
本実施形態においては、アンテナ部30の電子モジュール32とセンサ部40のセンサ41の埋め込みにおいて、各々、光学部21を構成する材料そして支持部22を構成する材料での埋め込みを行った場合について述べた。一方、埋め込み用の部材を別途用意しても良く、光学部21又は支持部22を構成する材料とは別の材料を埋め込み用に別途用意しても良い。
【0120】
更に、埋め込み用の部材による埋め込みという形ではなく、電子モジュール32とセンサ41用の隙間を光学部21と支持部22に予め設けておき、電子モジュール32とセンサ41を光学部21と支持部22に収容した後、別途作製しておいた蓋を用いて電子モジュール32とセンサ41が収容された隙間に蓋をするという形も考えられる。ただし、この蓋にせよ、上記の埋め込み用部材にせよ、装用者の眼に対して与える影響が軽微な材料を選択する必要がある。
【0121】
(コイル巻線の巻き方)
アンテナ部30として機能するのならば、コイル巻線31の巻き方に制限はないが、一例を挙げるとすれば、コイル巻線31は、光学部21の半径方向に向けて、互いに隣接するように巻線して平面且つ環状にアンテナ部30を形成しても良い。また、この平面のアンテナ部30を積層し、コイル巻線31からなる複数の平面を形成し、アンテナ部30としても良い。
【0122】
(センサ部の位置)
本実施形態においては、センサ部40は、支持部22における、光学部21と支持部22との境界近傍の部分に設けられている例を挙げた。また、眼内レンズ20を水晶体嚢8内に挿入したとき、センサ部40が後嚢8bの近傍に位置するように、センサ部40が支持部22に設けられている例を挙げた。その一方、後嚢8bを介して硝子体11内の圧力をセンサ41が感知可能ならば、上記以外の支持部22の場所にセンサ部40を配置しても良い。上記の感知を担保できるのならば、支持部22の先端部22cにセンサ部40を設けても構わない。また、後嚢8bを介して硝子体11内の圧力を正確に感知できるのならば、厚さ方向において前嚢8a側にセンサ部40を設けても構わない。
【0123】
以下、その他の好ましい形態を付記する。
[付記1]
所定の屈折力を有する光学部と、前記光学部を支える支持部と、を備える眼内レンズであって、
前記支持部には、硝子体と接触させることにより硝子体内の圧力を測定するセンサ部が設けられ、
前記光学部には、前記センサ部にて測定された前記圧力を外部に伝達するアンテナ部が設けられている
ことを特徴とする眼内レンズ。
【符号の説明】
【0124】
1 眼球
2 角膜
3 強膜
4 結膜
5 前房
6 虹彩
7 瞳孔
8 水晶体嚢
8a 前嚢
8b 後嚢
9 毛様小帯(チン小帯)
10 毛様体上皮
11 硝子体
13 網膜
14 脈絡膜
15 視神経
16 盲点
17 中心窩
18 隅角
18a 線維柱帯
19 円形開口
20 眼内レンズ
20a 前面
20b 後面
21 光学部
22 支持部
22a 付け根
22b 支持部本体
22c 先端部
30 アンテナ部
31 コイル巻線
32 電子モジュール
40 センサ部
41 センサ
42 周囲を覆う部材
50 インジェクター
51 インジェクターの先端部
61 共用バイト
62 溝入れ用バイト
101 外側軟質材料部
101’ 外側円孔
102 内側軟質材料部
102’ 内側円孔
201 外側硬質材料部
202 内側硬質材料部
300 中間部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の屈折力を有する光学部と、水晶体嚢内にて前記光学部を支える支持部と、を備える眼内レンズであって、
前記支持部には、前記水晶体嚢における後嚢を介して硝子体内の圧力を測定するセンサ部が設けられ、
前記光学部には、前記センサ部にて測定された前記圧力を外部に伝達するアンテナ部が設けられている
ことを特徴とする眼内レンズ。
【請求項2】
前記センサ部は、前記支持部における、前記光学部と前記支持部との境界近傍の部分に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
眼内レンズを水晶体嚢内に挿入したとき、前記センサ部が前記後嚢の近傍に位置するように、前記センサ部が前記支持部に設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
前記光学部は軟質材料から形成され、
前記支持部における、前記光学部と前記支持部との境界近傍の少なくとも一部は、前記軟質材料に比べて硬質な材料から形成されており、
前記少なくとも一部に、前記センサ部が設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−239530(P2012−239530A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110085(P2011−110085)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】