眼球下転量測定装置及び眼球下転量測定方法
【課題】装用者の個々に応じて眼球下転量を正確かつ安価に求めることができる眼球下転量測定装置の提供。
【解決手段】装用者の遠用アイポイントに対応する視線の位置と近用アイポイントに対応する視線の位置とを検出する視線位置検出手段3と、視線位置検出手段3で検出された遠用アイポイントの位置と近用アイポイントの位置との間の距離を演算する演算手段5とを備える。視線位置検出手段3は、基端が回動可能とされるとともに装用者の眼球Eの側方位置に位置するアーム部材32と、このアーム部材32の先端側に設けられ装用者の眼球Eの正面位置を検出するカメラ33と、アーム部材32の回動角度を検出するアーム回動角検出手段34とを有する。
【解決手段】装用者の遠用アイポイントに対応する視線の位置と近用アイポイントに対応する視線の位置とを検出する視線位置検出手段3と、視線位置検出手段3で検出された遠用アイポイントの位置と近用アイポイントの位置との間の距離を演算する演算手段5とを備える。視線位置検出手段3は、基端が回動可能とされるとともに装用者の眼球Eの側方位置に位置するアーム部材32と、このアーム部材32の先端側に設けられ装用者の眼球Eの正面位置を検出するカメラ33と、アーム部材32の回動角度を検出するアーム回動角検出手段34とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズにおける眼球下転量測定装置及び眼球下転量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズには単焦点眼鏡レンズの他に累進屈折力眼鏡レンズがある。この累進屈折力レンズは、遠方視に対応する屈折力(度数)を持つ遠用部領域と近方視に対応する屈折力を持つ近用部領域とを備えた非球面レンズである。遠用部領域はレンズの上方位置に設定され、近用部領域はレンズの下方位置に設定され、これら両領域の間で屈折力が累進的に変化する累進帯を備えている。これらの領域には境目がなく1枚のレンズで遠くのものから近くのものまで見ることができる。遠用部領域、近用部領域および累進帯は、個々の使用目的(遠近重視、中近重視、近々重視、フルタイム使用、パートタイム使用、静的使用、動的使用など)に合わせて調整を行う必要がある(光学的フィッティング)。光学的フィッティングの中でも、累進屈折力レンズにおいては眼球下転量が重要である。眼球下転量とは、眼鏡装着者が水平視した状態でのレンズ上の視線位置を遠用アイポイント(FP)とし、近用視線の状態でのレンズ上の視線位置を近用アイポイント(NP)としたとき、遠用アイポイントから近用アイポイントまで眼球を下転させる距離である。
【0003】
このような眼鏡レンズを設計するにあたり、眼球運動測定装置からの情報を得て眼鏡をかけた状態での個人の眼球運動経路をソフトウェアで分析することにより、1つ以上のアイポイント又は平均的な領域を特定し、その情報を元に標準レンズを個々人の眼に合わせて修正した眼鏡レンズをカスタム設計する従来例がある(特許文献1)。この特許文献1の従来例では、アイポイントを測定するために眼球運動測定装置が用いられている。
また、頭追跡システムと、装用者の動作統計モデルの統計分析結果から引き出される値を使用し、装用者の個々の視覚動作パターンを判定し、フレーム選択指導や、公知の複数のレンズから最適なレンズデザインを奨励する従来例(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−521027号公報
【特許文献2】特表2003−523244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の従来例では、眼球運動測定装置を用いるので、装置全体が高価なものとなる。遠用アイポイントや近用アイポイントの決定に際しては、頭及び眼球運動だけでなく、眼鏡を装着している人(装用者)の姿勢もかかわってくるので、頭と眼球運動だけで決定する特許文献1では正確な測定値を得ることができない。
特許文献2の従来例では、特許文献1と同様に、頭追跡システムを用いているので、装置全体が高価なものになるだけでなく、装用者の姿勢によっては正確な測定を行うことができない。
【0006】
本発明の目的は、装用者の個々に応じて眼球下転量を正確かつ安価に求めることができる眼球下転量測定装置及び眼球下転量測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の眼球下転量測定装置は、装用者が実際に装着するとともに上辺部と下辺部とを有するフレームに装着される眼鏡レンズの遠用アイポイントから近用アイポイントまでの長さを測定する装置であって、装用者の前記遠用アイポイントに対応する視線の位置と前記近用アイポイントに対応する視線の位置とを検出する視線位置検出手段と、この視線位置検出手段で検出された前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を演算する演算手段とを備え、前記視線位置検出手段は、一端が回動可能とされるとともに装用者の眼球の側方位置に位置するアーム部材と、このアーム部材の他端側に設けられ装用者の眼球の正面位置を検出する正面検出機構と、前記アーム部材の回動角度を検出するアーム回動角検出手段とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成の本発明では、眼鏡をかけた状態で視線位置検出手段によって、眼の視線の位置が異なる近用アイポイントと遠用アイポイントとをそれぞれ検出する。これらの検出にあたっては、まず、アーム部材の回動可能とされた一端を装用者の眼球側方に位置するように位置決めし、その後、例えば、装用者に正面を向いてもらい、その状態でのアーム部材の傾斜角をアーム回動角検出手段で検出し、さらに、装用者に視線を下げてもらい、その状態で装用者の瞳孔が正面に位置するようにアーム部材を傾斜させて正面検出機構で検出し、この位置でのアーム部材の傾斜角をアーム回動角検出手段で検出する。このアーム部材の眼球下転角度に基づいて遠用アイポイントの位置と近用アイポイントの位置との間の距離である眼球下転量を演算手段で演算する。
そのため、本発明では、装用者の姿勢にかかわらず自然な姿勢で、遠用アイポイントと近用アイポイントとをそれぞれ検出するので、眼球下転量を正確かつ簡単に測定すること
が可能となる。しかも、従来例のような高額な眼球運動測定装置やこの装置で出力された情報から眼球運動経路を分析する高額なソフトウェアが不要とされるので、安価に装置を提供することができる。特に、視線位置検出手段を、アーム部材、正面検出機構及びアーム回動角検出手段を備えて構成したので、遠用アイポイントと近用アイポイントとを求めるにあたり、装用者の瞳孔の位置を画像で検出するのではなく、アーム部材の傾斜角で求めるので、視線位置検出手段の構造がより簡易となり、装置のコスト低下を徹底することができる。
【0009】
本発明では、前記アーム部材の一端側はアーム支持部材に回動可能に支持され、このアーム支持部材は支柱に回動可能に取り付けられている構成が好ましい。
この構成の本発明では、アーム部材のアーム支持部材に対する回動角度を調整し、さらに、アーム支持部材の支柱に対する回動角度を調整することで、アーム部材の回動可能とされる一端の装用者への位置決めを容易に行うことができることになり、眼球下転量の測定を精度よく行うことができる。
【0010】
前記アーム支持部材は伸縮可能とされている構成が好ましい。
この構成の本発明では、アーム支持部材を伸縮することで、アーム部材の一端の装用者への位置決めを容易に行うことができることになり、眼球下転量の測定を精度よく行うことができる。
【0011】
前記支柱を挟んでそれぞれ反対側に配置された装用者用椅子を備え、前記アーム支持部材は、その先端側が前記支柱を挟んで互いに反対側に位置するように回動可能とされる構成が好ましい。
この構成の本発明では、2カ所に配置された装用者用椅子のうち一方に装用者が座り、前述の手順をもって装用者の片方(右眼)の眼球における眼球下転量を測定し、その後、他方の装用者用椅子に装用者が座り直し、アーム支持部材を支柱に対して180度回動させ、この状態で、前述の手順をもって装用者の片方(左目)の眼球における眼球下転量を測定する。
従って、本発明では、左右の眼球において、眼球下転量が異なっても、左右異なる眼球下転量を正確に測定することができる。
【0012】
前記正面検出機構はカメラである構成が好ましい。
この構成の本発明では、カメラを用いることにより、装用者の正面位置を正確かつ確実に撮像することができるので、測定精度をこの点からも向上させることができ、しかも、装置のコストを低いものにできる。
【0013】
本発明の眼球下転量測定方法は、前述の構成の眼球下転量測定装置を用いて眼球下転量を測定する方法であって、前記装用者に前記眼鏡レンズを装着した状態で正面を向かせ前記眼鏡レンズの装用者の瞳孔に対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定する遠用アイポイントライン決定工程と、前記アーム部材の回動可能とされる一端を前記装用者の眼球の側方位置に位置させるアーム部材の位置決め工程と、前記遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この正面位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第一角度検出工程と、前記装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに前記装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第二角度検出工程と、前記第一角度検出工程で検出された傾斜角と前記第二角度検出工程で検出された傾斜角との差から求められる眼球下転角度に基づいて前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を前記演算手段で求める算出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の眼球下転量測定方法は、前述の構成の眼球下転量測定装置を用いて眼球下転量を測定する方法であって、前記装用者に前記眼鏡レンズを装着した状態で正面を向かせ前記眼鏡レンズの装用者の瞳孔に対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定する遠用アイポイントライン決定工程と、前記アーム部材の回動可能とされる一端を前記装用者の眼球の側方位置に位置させるアーム部材の位置決め工程と、前記装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに前記装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第一角度検出工程と、前記装用者が視線を上げた状態で前記遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この正面位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第二角度検出工程と、前記第一角度検出工程で検出された傾斜角と前記第二角度検出工程で検出された傾斜角との差から求められる眼球下転角度に基づいて前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を前記演算手段で求める算出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
これらの眼球下転量測定方法によれば、前述の眼球下転量測定装置を用いて、簡単かつ正確に眼球下転量を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態にかかる眼球下転量測定装置で測定される眼鏡レンズの概略図。
【図2】前記実施形態にかかる眼鏡レンズ選択システムの全体構成を示すブロック図。
【図3】前記実施形態にかかる眼球下転量測定装置の概略構成図。
【図4】前記眼球下転量測定装置の要部を示す概略図。
【図5】(A)は遠用アイポイントを求めるための概略図、(B)は近用アイポイントを求めるための概略図。
【図6】(A)(B)は眼鏡をかけた装用者をカメラで撮像した画像の概略図。
【図7】側面撮像手段で撮像された画像の概略図。
【図8】遠用アイポイントの長さを求めることを説明するための概略図。
【図9】近用アイポイントの長さを求めることを説明するための概略図。
【図10】水平注視野角と眼鏡装用距離との関係が示された概略図
【図11】(A)〜(C)は遠用部領域の狭いタイプにおいて水平注視野幅の長さが異なる3種類の眼鏡レンズを示す概略図。
【図12】(A)は遠用部領域の広いAタイプの眼鏡レンズの収差図、(B)は遠用部領域の中程度のBタイプの眼鏡レンズの収差図、(C)は遠用部領域の狭いCタイプの眼鏡レンズの収差図。
【図13】演算部で演算された結果を示すテーブルの概略図。
【図14】(A)は累進帯の加入度特性のグラフ、(B)は累進帯の光学特性のグラフ。
【図15】眼球下転量を求める一例の手順を示すフローチャート。
【図16】眼球下転量を求める他の例の手順を示すフローチャート。
【図17】眼鏡レンズ選択方法を説明するフローチャート。
【図18】(A)〜(C)は遠近重視のタイプの眼鏡レンズにおいて、遠用部領域の広さの異なる3タイプを示す概略図。
【図19】(A)〜(C)は中近重視のタイプの眼鏡レンズにおいて、遠用部領域の広さの異なる3タイプを示す概略図。
【図20】近近重視のタイプの眼鏡レンズにおいて、遠用部領域の広さの異なる3タイプを示す概略図。
【図21】アーム部材の設定誤差と眼球下転量の誤差との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、眼鏡レンズとして累進屈折力レンズを使用する。また、本実施形態では、眼鏡を装着した場合の鉛直方向を上下方向、眼鏡を装着した場合の水平方向を左右方向として説明する。
[眼鏡レンズ]
図1に示すように、眼鏡レンズ10は、上方に位置する遠用部領域11と、下方に位置する近用部領域12と、これら遠用部領域11と近用部領域12との間に位置する累進帯13と、累進帯13の側方に隣接した側方領域14と、を有している。
【0018】
遠用部領域11は、遠方視するのに適した相対的にプラス度数の低い平均度数を備えている。特に、装着者が正面視をした場合に瞳中心を通る水平線(つまり視線)が通過する位置を遠用アイポイントFPとする。この遠用アイポイントFPは、眼鏡レンズの幾何学中心を鉛直上方向に伸ばした線と遠用アイポイントラインFLとの交点に位置する。
近用部領域12は、近方視(例えば、読書)するのに適した相対的にプラス度数の高い平均度数を備えている。特に、装着者が近方視(下方視)した場合の視線が通過する位置を近用アイポイントNPとする。
【0019】
累進帯13は、遠用部領域11と近用部領域12との間で相対的なプラスの平均加入度数が累進的に変化する領域である。遠用アイポイントFPを通過して左右方向に延びる直線を遠用アイポイントラインFLとする。遠用アイポイントラインFLの上で遠用アイポイントFPから遠用部領域11と側方領域14との境界線までの距離を水平注視野幅Fwとする。
近用アイポイントNPを通過して左右方向に延びる直線を近用アイポイントラインNLとする。遠用アイポイントラインFLと近用アイポイントラインNL間の距離(長さ)は眼球下転量Indihである。
【0020】
遠用部領域11と累進帯13との境界線から遠用アイポイントFPまでが遠用アイポイント高さFhである。遠用部領域11と累進帯13との境界線から累進帯13と近用部領域12との境界線までの長さ(距離)が累進帯長SPhである。
累進帯13と近用部領域12との境界線から近用部領域12の光学中心NCまでの長さ(距離)が近用部高さNhである。この近用部領域12の光学中心NCは近用部領域の光学設計をする際の光学中心である。
近用部領域12の光学中心NCと、近用部領域12と累進帯13との境界線との間の長さ(距離)が近用部高さNhである。
側方領域14は、非点収差領域と呼ばれるエリアである。側方領域14を通して見ると物が二重に見えたりするため、通常、装着者は側方領域14を通して物を見ない。
【0021】
眼鏡レンズ10は、このような累進屈折力レンズを成形加工することにより得られ、得られた眼鏡レンズ10はフレーム20に装着されて眼鏡となる。
フレーム20は、眼鏡レンズ10を装着して枠状に取り囲むフレーム枠21と、左右のフレーム枠21を連結するブリッジ22と、フレーム枠21からヒンジを介して回動可能に取り付けられたテンプル23(図7参照)とを備えている。フレーム枠21は上辺部21Uと下辺部21Dと側辺部21Sとを有する。これらの上辺部21Uと下辺部21Dとの間の距離が眼鏡レンズの玉型高さBhであり、遠用アイポイントFPからフレームの上辺部までの距離が上部フレーム高さOhである。フレーム枠21の下辺部21Dから近用アイポイントNPまでの距離が下部フレーム高さUhである。
【0022】
図2は本実施形態の眼鏡レンズ選択システムの全体構成を示すブロック図が示されている。
図2において、眼鏡レンズ選択システムは、眼球下転量測定装置1と、この眼球下転量測定装置1から送られるデータから複数タイプの眼鏡レンズから1つの眼鏡レンズを選択する選択装置7とを備え、この選択装置7は、選択制御部70と、第一入力部71と、第二入力部72と、データ出力部73と、選択制御部70を制御するCPU74とを備えて構成されている。
第一入力部71は、キーボードやペン等から構成され、選択装置7に直接入力する入力手段である。
第二入力部72は、インターネットや電話回線等の通信手段を介してレンズ製造メーカーから必要な情報が入力される手段である。
【0023】
眼球下転量測定装置1は、遠用アイポイントFPから近用アイポイントNPまでの長さの眼球下転量Indihを測定するものであり、本実施形態では、その一例として図3から図6に眼球下転量測定装置1の構成が示されている。
図3は眼球下転量測定装置1の概略構成図である。
図3において、眼球下転量測定装置1は、装用者の視線の位置を検出する視線位置検出手段3と、眼鏡レンズ10が設けられたフレームの前傾角θを測定する側面撮像手段4と、これらの視線位置検出手段3及び側面撮像手段4からの出力に基づいて眼球下転量Indihを演算するパソコンからなる演算手段5とを備えている。
【0024】
視線位置検出手段3は、装用者の遠用アイポイントFPに対応する視線の位置と近用アイポイントNPに対応する視線の位置とを検出するものであり、基台30と、この基台30に設けられたロッド状のアーム支持部材31と、このアーム支持部材31に基端が回動可能に設けられるアーム部材32と、このアーム部材32の先端に設けられる正面検出機構としてのカメラ33と、このカメラ33に設けられアーム部材32の回動角度を検出するアーム回動角検出手段34とを備えている。
基台30は、ベース300と、このベース300に設けられた支柱301と、この支柱301を挟んでそれぞれ反対側に配置された装用者用椅子302とを備えている。
【0025】
支柱301の上端側にはアーム支持部材31が回動可能に取り付けられている。アーム支持部材31は、所定位置、例えば、支柱301に対して直交されるとともに先端が図3中左側に向いた位置を始点とし、鉛直面内で支柱301を挟んで反対側の右方向に向いた位置まで回動自在とされる。つまり、アーム支持部材31は、その先端側が支柱301を挟んで互いに反対側に位置するように回動可能とされる。
本実施形態では、アーム支持部材31が支柱301に回動自在に取り付けられているのであれば、その具体的な取付構造は限定されるものではなく、例えば、支柱301の左右の幅方向の中心位置に設けられたヒンジ構造であってもよい。なお、アーム支持部材31の回動操作を自動的に行うため、支柱301にモーター等の駆動源やギア等からなる回動機構(図示せず)が設けられているが、本実施形態では、この回動機構を省略して手動でアーム支持部材31を回動操作するものでもよい。支柱301に対してアーム支持部材31は任意の角度で固定可能とされる。
【0026】
図4にはアーム支持部材31の構成が示されている。図4において、アーム支持部材31は、基端部が支柱301に回動自在に支持された角柱部310と、この角柱部310が進退自在に収納された角筒部311とを備え、その軸方向に進退自在に構成されている。
アーム支持部材31は、さらに、角筒部311を角柱部310に対して任意の位置で固定する固定部材(図示せず)を備えている。この固定部材は、適宜な構造を採用することができるものであり、例えば、角筒部311の側面部に螺合されるボルトであって、その先端部が角柱部310の周面に押圧可能とされるものであってもよい。
角筒部311の先端部とアーム部材32の基端部とには、アーム部材32をアーム支持部材31に鉛直面内で回動自在に支持するための回動機構312が設けられている。この回動機構312は、軸方向が水平方向に延びるとともにアーム部材32と角筒部311とを連結する軸状の回動部312Aと、この回動部312Aを回動中心として角筒部311に対してアーム部材32を回動させる駆動機構(図示せず)とを備えており、この駆動機構はモーターやギア等から構成されている。回動部312Aはアーム支持部材31を伸縮しあるいは支柱301に対して回動することで、装用者用椅子302に座った装用者の眼球の側方位置に位置させることが可能となる。なお、本実施形態の回動機構312は、アーム部材32を角筒部311に対して任意の角度を回動させ、その位置で固定できる構造であれば、具体的な構造を問われるものではなく、例えば、駆動機構を省略するものでもよい。
【0027】
カメラ33はアーム部材32の先端において回動部312Aに向けて配置されたレンズ330を有し、その撮像信号はデジタル信号として演算手段5に出力される。カメラはアーム部材32の回動範囲において装用者用椅子302に座った装用者の正面のうち片側の眼を中心として撮像するものであり、例えば、図5(A)に示される通り、遠用アイポイントの位置を得るために、レンズ330を水平方向に向けて装用者の左眼を中心とした正面を撮像し、図5(B)に示される通り、近用アイポイントの位置を得るために、レンズ330を下から斜め上方に向けて装用者の左眼を中心とした正面を撮像する。図5(A)(B)において、瞳孔部分が正面となった場合が遠用アイポイント又近用アイポイントの位置である。
【0028】
アーム回動角検出手段34は、アーム部材32の傾斜角度を検出する検出部本体がケーシングに収納されたデジタル角度計であり、ケーシングはカメラ33の上部に磁石その他の手段で固定される。
アーム回動角検出手段34は、任意の傾斜角をゼロにセット可能である。アーム回動角検出手段34で検出された検出信号は演算手段5に出力される。
カメラ33で撮像された画像33Aと、アーム回動角検出手段34で検出された傾斜角表示部33Bとは演算手段5のディスプレー部5Aに表示される(図6(A)(B)参照)。つまり、ディスプレー部5Aは、眼鏡レンズ10を装着した装用者正面の画像33Aをアーム部材32の傾斜角に応じて表示するとともに、その際のアーム部材32の傾斜角を傾斜角表示部33Bに表示する構成である。
【0029】
図3に戻り、側面撮像手段4は、前傾角測定手段として機能するものであり、眼鏡レンズ10が設けられた眼鏡を装着した装用者の側面を撮像するカメラと、このカメラで撮像された画像に基づいてフレーム20の前傾角θを求める画像処理部とを備える。
側面撮像手段4で撮像された画像が図7に示されている。
図7には、装用者が水平方向を向いた状態が撮像されているが、この装用者のフレーム20のテンプル23の位置やフレーム枠21の位置等の画像に基づいて画像処理部が前傾角θを算出する。この画像処理部で算出された前傾角θのデータは演算手段5に送られる。なお、本実施形態では、画像処理部を省略し、カメラで撮像された画面から作業員が前傾角θを直接求め、この数値を演算手段5に別途入力するものでもよい。
【0030】
図3において、演算手段5は、キーボード等の外部入力部と、ディスプレー部5Aと、演算部とを有するパソコンであり、カメラ33と側面撮像手段4とのそれぞれ出力された情報やその他の情報に基づいて眼球下転量Indihを演算するものである。
眼球下転量Indihは、遠用アイポイントラインFLと近用アイポイントラインNL間の距離(長さ)である。本実施形態では、0.5mm単位で眼球下転量Indihが演算される。
図8には遠用アイポイントの長さを求めることを説明するための概略図が示され、図9には近用アイポイントの長さを求めることを説明するための概略図が示されている。
【0031】
図8及び図9に示される通り、側面撮像手段4から入力される前傾角θ、カメラ33で求められた眼球中心と遠用アイポイントFPとを結ぶ正面視線LF、眼球中心と近用アイポイントNPとを結ぶ下方視線LN、正面視線LFと下方視線LNとのなす角度の眼球下転角度α、下方視線LNと眼鏡レンズの眼球側平面OLとのなす角度β、眼鏡レンズの眼球側平面OLと正面視線LFとのなす角度γ、眼鏡レンズの眼球側平面OLと下端20Pの位置から下方視線LNにおろした法線VLとのなす角度δ、フレーム20の眼鏡側面の下端20Pの位置と正面視線LFとの間の距離K、眼鏡側面の下端20Pの位置から下方視線LNにおろした法線VLの距離Mから、フレーム20の下端20Pから近用アイポイントNPまでの近用アイポイントの長さNは次の(a)〜(d)の式から求められる。なお、距離Kは眼鏡レンズ10の遠用アイポイントFPと下端20Pとのみかけ上の長さでもあり、距離Mは眼鏡レンズ10の近用アイポイントNPと下端20Pとのみかけ上の長さでもある。
【0032】
N=M/COSδ (a)
δ=180°−(β+90°) (b)
β=180°−(α+γ) (c)
γ=180°−(90°+θ) (d)
また、フレーム20の眼鏡側面の下端20Pから遠用アイポイントFPまでの遠用アイポイントの長さLは次の(e)の式から求められる。
L=K/COSθ (e)
さらに、眼球下転量Indihは遠用アイポイントFPと近用アイポイントNPとの間の距離であるので、眼球下転量Indihは次の式(f)から求められる。
Indih=L−N (f)
【0033】
本実施形態では、以上の式を演算手段5のメモリーに記録させておく。
なお、フレーム20の眼鏡側面の下端20Pの位置と正面視線LFとの間の距離Kはカメラ33で正面視線LFを中心で受光する位置から下端20Pを中心で受光する位置まで移動させた場合の移動距離として求めることができる。同様に、下端20Pの位置と下方視線LNとの間の距離Mはカメラ33で下方視線LNを中心で受光する位置から下端20Pを中心で受光する位置まで移動させた場合の移動距離として求めることができる。カメラ33の移動軌跡は円弧上であるが、移動距離が眼球とカメラ33との間の距離に比べて短いので、平行移動と近似することができる。
【0034】
図10は水平注視野角と眼鏡装用距離との関係が示された概略図である。図10において、水平注視野幅Fwは実際に装着する眼鏡レンズ10の遠用アイポイントFPから水平に延びる線分であって装用者が頭の向きを変更せずに見ることが可能な範囲の長さである。つまり、眼鏡レンズ10の眼球側面の遠用アイポイントラインFLの上で、眼鏡レンズ10の眼鏡レンズの幾何学中心を鉛直上方向に伸ばした線と遠用アイポイントラインFLとの交点に位置する遠用アイポイントFPから側方に向けて視線をずらした際に頭部を振らずに見える位置SPまでの距離が水平注視野幅Fwである。
【0035】
遠用アイポイントFPを通過する正面視線LFと、眼球中心CEと位置SPとを結ぶ直線LSとのなす角度を水平注視野角Faとする。遠用アイポイントFPと眼球中心CEとの距離を眼鏡装用距離ELとすると、水平注視野幅Fwは次の式で求めることができる。
Fw=ELtanFa (g)
側面撮像手段4は水平注視野幅Fwを決定する水平注視野幅決定装置としても機能する。
【0036】
側面撮像手段4は、カメラで撮像された画像に基づいて、装用者の眼球中心CEの位置を眼球Eの大きさ等から推測し、この眼球中心CEと遠用アイポイントFPとの距離である眼鏡装用距離ELを画像に基づいて測定するとともに、この眼鏡装用距離ELと予め入力された水平注視野角Faとから式(g)に基づいて水平注視野幅Fwを算出する画像処理部を有する。この画像処理部で算出された水平注視野幅Fwのデータは演算手段5に送られる。なお、本実施形態では、画像処理部を省略し、カメラで撮像された画面から作業員が眼鏡装用距離ELを直接求め、この数値を演算手段5に別途入力して演算手段5で水平注視野幅Fwを算出する構成としてもよい。
【0037】
本実施形態では、これらの水平注視野角Faは既知のデータを参照して求めた値である。個人差は若干あるが、眼球だけで探索する範囲は左右水平方向で10°〜15°とされ、それ以上の広い視野では頭部を回転させて見やすい状態を作っている(日本眼光学会編:眼鏡の科学:1977年Volume1第35頁〜第37頁「両眼視機能と眼鏡」畑田豊彦著参照)。
図11には遠用部領域11の狭いタイプにおいて水平注視野幅Fwの長さが異なる3種類の眼鏡レンズ10が示されている。
図11(A)は遠近重視の眼鏡レンズ10の水平注視野幅Fwが示されている。遠近重視の眼鏡レンズ10は遠方の景色と近方の書類との双方を見るために使用するものである。図11(A)で示される眼鏡レンズ10では、例えば、水平注視野角Faは13°以上であり、水平注視野幅Fwは6mm以上である。
図11(B)では、中近重視の眼鏡レンズ10の水平注視野幅Fwが示されている。中近重視の眼鏡レンズ10は中距離の景色と近方の書類との双方を見るために使用するものである。図11(B)で示される眼鏡レンズ10では、例えば、水平注視野角Faは0°より大きく13°より小さい値であり、水平注視野幅Fwは0mmより大きく6mmより小さい。
図11(C)では、近近重視の眼鏡レンズ10の水平注視野幅Fwが示されている。近近重視の眼鏡レンズ10はそれぞれ近方に位置するデスク上の書類と手元の書類との双方を見るために使用するものである。図11(C)で示される眼鏡レンズ10では、例えば、水平注視野幅Fwは0mm以下である。
【0038】
図11(A)〜(C)に示される通り、水平注視野幅Fwは、図11(A)で示される遠近重視の眼鏡レンズ10が最も長く、図11(C)で示される近近重視の眼鏡レンズ10が最も短く、図11(B)で示される中近重視の眼鏡レンズは中間の長さである。このように、水平注視野幅Fwが眼鏡レンズ10のタイプによって異なる。本実施形態では、水平注視野角Faは、例えば、遠近重視の眼鏡レンズ10ではFw≧13°であり、中近重視並びに近近重視の眼鏡レンズ10では0<Fw<13°である。これらの遠近重視の眼鏡レンズ10、中近重視の眼鏡レンズ10並びに近近重視の眼鏡レンズ10において、それぞれ一定の値とする。
【0039】
図2において、選択制御部70は、眼鏡情報データ入力部701と、演算部702と、レンズタイププロファイル部703と、判定部704とを備えている。
眼鏡情報データ入力部701は、眼鏡調製データ入力部705と、レンズ設計データ部706と、画像解析データ入力部707とを備えている。
眼鏡調製データ入力部705は、使い方のデータ、検眼データ、フレームデータ、フィッティングデータ等のデータが記憶されるものであり、これらのデータは第一入力部71から入力される。眼鏡調製データ入力部705に記憶されるデータには、レンズの度数、加入度数、球面度数、乱視度数、乱視軸、プリズム度数等のレンズ処方データの他、遠用アイポイント高さFh、近用部高さNh、玉型高さBh、累進帯長SPhが含まれる。これらの遠用アイポイント高さFh、近用部高さNh、玉型高さBh、累進帯長SPhは0.5mm単位でデータが入力される。
レンズ設計データ部706は、処方レンズ設計プロファイルが記憶されるものであり、このデータは第二入力部72で入力される。処方レンズ設計プロファイルはレンズ設計に必要な種々のデータであってレンズメーカーから提供される情報である。この処方レンズ設計プロファイルには演算部702で用いられる計算式も含まれる。
画像解析データ入力部707は、眼球下転量Indih及び眼鏡装用距離ELのデータ、正面視眼画像解析データ、下方視画像解析データが記憶されるものであり、これらのデータは眼球下転量測定装置1から送られる。
【0040】
演算部702は、眼鏡調製データ入力部705、レンズ設計データ部706及び画像解析データ入力部707から送られるデータに基づいて後述する演算を実施する。
つまり、演算部702は、眼球下転量Indih、遠用アイポイント高さFh、累進帯長SPh、近用部高さNhに基づいて(h)(i)の式からΔEを求め、このΔEと、前記眼鏡レンズの玉型高さBhと、上部フレーム高さOhと、遠用アイポイント高さFh、累進帯長SPh及び近用部高さNhの合計長さthと、下部フレーム高さUhとに基づいて(j)の式からΔBhを求める。
th=Fh+SPh+Nh (h)
ΔE=Indih-th (i)
ΔBh=Bh-(Oh+th+ΔE+Uh) (j)
レンズタイププロファイル部703は、遠近重視の眼鏡レンズ10、中近重視の眼鏡レンズ10及び近近重視の眼鏡レンズ10の各種類毎に、遠用部領域11の広いAタイプ、中程度のBタイプ、狭いCタイプの3タイプの基本情報が入力されている。これらの情報は第一入力部71や第二入力部72等の入力手段から入力されている。
【0041】
図12にはAタイプからCタイプの眼鏡レンズ10の収差図が示されている。図12(A)にはAタイプの眼鏡レンズ10が示され、(B)にはBタイプの眼鏡レンズが示され、(C)にはCタイプの眼鏡レンズ10が示されている。
図12(A)で示される遠用部領域11の広いAタイプの眼鏡レンズ10は側方領域14の収差が大きく、初めて累進屈折力眼鏡レンズを利用する装用者には向かないが、図12(C)で示される遠用部領域11の狭いCタイプの眼鏡レンズ10は側方領域14の収差が小さいので、初めて累進屈折力眼鏡レンズを利用する装用者に向くものである。図12(B)で示される遠用部領域11が中程度の眼鏡レンズ10はAタイプとCタイプとの中間である。
【0042】
図2において、判定部704は演算部702とレンズタイププロファイル部703とからのデータに基づいて、遠近重視の眼鏡レンズ10、中近重視の眼鏡レンズ10及び近近重視の眼鏡レンズ10毎に、4mm≦Fh、3mm<Fh<4mm及び1mm≦Fh≦3mmの場合において、それぞれ0mm≦ΔE≦2mm、かつ、0mm<ΔBhの条件を満たすか否かを判定する。
判定部704の具体的な構成について図13に基づいて説明する。
図13には演算部702で演算された結果を示すテーブル8が示されている。
図13において、最も左の欄には遠用アイポイント高さFhを設定するFh設定欄81が示されており、その右隣には眼球下転量Indihを表示する眼球下転量表示欄82が示されている。この眼球下転量表示欄82では、0.5mm単位で眼球下転量Indihが表示されている。眼球下転量表示欄82の右隣には演算結果表示部83が示されている。この演算結果表示部83は眼球下転量表示欄82で表示された眼球下転量Indihの数値に対応し(H)の式に基づいたΔEの演算値が表示される。演算結果表示部83の最上列830はスタンダードな累進帯長の長さが表示される。
【0043】
判定部704は、演算値を、ΔEが0mm以上となる使用可能領域83Aと、ΔEがマイナスの数値となる使用不可能領域83Bとにわける。さらに、使用可能領域83Aを、0mm≦ΔE≦1mmの数値をとるボーダー領域83Cと、1mm<ΔEの数値をとる安全領域83Dとにわける。この安全領域83Dで、ΔEの数値は小さい方が好ましく、本実施形態では、1mm<ΔE≦2mmの数値をとる範囲を最適領域83Eとして使用する。
例えば、眼球下転量Indihが18mmである場合、安全領域83Dの行83Sで示される範囲の数値は使用可能であり、行83Sで示される数値のうち最も低い数値である「2」に対応するスタンダートな累進帯長Sは10mmである。このS10の列において、最適領域83Eに含まれる数値は「2」である。
この安全領域83Dの範囲内の行83Sの中にある該当する複数の値から数値の小さいもの(最適領域83Eの値)を次の理由から選択する。
【0044】
図14(A)には累進帯の加入度特性のグラフが示され、図14(B)には累進帯の光学特性のグラフが示されている。図14(A)において、加入度を3D上げるために累進帯長を18mmとする場合と、8mmとする場合の2つの例が示されている。図14(B)から、加入度を3D上げるために累進帯長を18mmとする場合が8mmとする場合に比べてばらつきが小さい。つまり、図14から、同じ加入度を上げるには累進帯長が長い方がぼけにくく、装用者が見易いことがわかる。また、式(h),(i)から、累進帯長Sphが長いほどΔEが小さくなる。したがって、ぼけにくく装用者が見易い眼鏡レンズは、ΔEの小さい眼鏡レンズとなる。本実施形態では、累進帯長の選択肢が複数ある場合には、安全領域83Dの中の行83Sの中で、最も数値の小さい数値を選択する。
図13で示される例では、判定部704は、安全領域83Dの中の行83Sに含まれる数値の小さい「2」をΔEとして利用する。
【0045】
図2に戻り、データ出力部73は、眼鏡情報データ入力部701と判定部704とから、フレームデータ、装用データ、処方データ、遠用部領域11の広いAタイプ、中程度のBタイプ、狭いCタイプの遠用部領域11の広さを基準とした眼鏡レンズのタイプ、遠近重視、中近重視、近近重視の使用目的を基準とした眼鏡レンズのタイプ、レンズ加工データ、その他レンズを製造する上で必要な情報が出力されるもので、例えば、ディスプレー等が具体的に例示することができる。
【0046】
次に、本発明の一実施形態にかかる眼鏡レンズ選択方法について説明する。
[水平注視野幅決定工程]
水平注視野幅決定工程は遠用アイポイントFPから水平に延びる水平注視野幅Fwを決定する工程である。眼鏡装用距離ELと、予め設定された水平注視野角Faとから水平注視野幅Fwを算出する。
[眼球下転量測定工程]
眼球下転量測定工程は眼球下転量測定装置1を用いて、眼球下転量Indihを求める工程である。
これらの工程を図15で示される手順に従って実施する。
【0047】
図3に示される通り、まず、眼球下転量測定装置1の2つある装用者用椅子302のうち片側、例えば、左側に図示される装用者用椅子302に装用者が座り、装用フレームのフィッティングを行う(S11)。この工程では、装用者用椅子302に座った装用者が検査対象となる眼鏡レンズ10の眼鏡をかけ、自然な状態で、装用者に遠くをみるように正面に視線を向けてもらう。なお、この工程において、装用者の側面を側面撮像手段4で撮像し、眼鏡装用距離ELを求める。
その後、装用者の片方の眼、例えば、左眼の遠用アイポイントラインを決定する(S12)。そのため、装用者に正面を向いてもらい、眼鏡レンズ10において装用者の瞳孔部分ECに対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定し、この位置に検査員が所定の印、例えば、赤い印を片側の眼球レンズにつける。さらに、頭位置フリー環境で近方視状態を確認する(S13)。装用者に頭部を自然な状態にしてもらい、近用アイポイントの位置を推測する。
【0048】
その後、アーム部材の位置決め工程を実施する(S14)。そのため、アーム支持部材31を支柱301に対して回動し、さらに、アーム支持部材31を伸縮し、アーム部材32をアーム支持部材31に対して回動させてアーム部材32の回動端部である回動部312Aを装用者の眼球Eの側面に位置させる(図4参照)。
その後、装用者の遠用アイポイントラインと眼球中心である瞳孔部分ECとを一致させる(S15)。そのため、装用者に遠用アイポイントラインとして記した部分を見てもらい、この装用者の正面をカメラ33で撮像する(図5(A)参照)。カメラ33で撮像された画像33Aを検査員が見ながら確認し、その際のアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34でゼロセットし、このゼロとされた傾斜角を第一角度として検出する(S16)。ゼロセットのための操作は演算手段5のキーボード等の入力手段を通じて行うことも可能である。
【0049】
次に、装用者の近用アイポイントラインと眼球中心とを一致させる(S17)。そのため、装用者に自然に視線を下げてもらう。例えば、図3に示される通り、装用者に書類Dを手に持ってもらい、自然に手元の書類Dに視線を落としてもらう。近用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置するまでアーム部材32を回動させる(図5(B)参照)。このアーム部材32の回動に伴って傾斜角表示部33Bで表示される傾斜角の数値が大きくなる。近用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置したなら、それをカメラ33で撮像された画像33Aを検査員が見ながら確認し、その際のアーム部材32の傾斜角を第二角度としてアーム回動角検出手段34で検出する(S18)。なお、眼鏡レンズ10の下端20Pの位置が正面の位置となるまでカメラ33を下方にゆっくり移動させ、その位置を求め、眼鏡レンズ10の近用アイポイントNPと下端20Pとの間のみかけ上の長さMを測定しておく。
さらに、この第二角度検出工程で検出された傾斜角に基づいて遠用アイポイントFPの位置と近用アイポイントNPの位置との間の距離を演算手段5で算出する(S19)。
ここで、本実施形態では、図15で示される手順に限定されるものではなく、図16で示される手順でも実施可能である。つまり、第一角度検出工程では装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに装用者の瞳孔が正面に位置することを検出し(S25,S26)、装用者が視線を上げた状態で遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置することを検出し(S27)、この正面位置でのアーム部材32の傾斜角を第二角度検出工程で検出する(S28)。他の手順S21〜S24,S29は図15で示される手順S11〜S14,S19と同じである。
演算手段5では、前述の式(a)〜(f)に基づいて眼球下転量Indihが算出される。
【0050】
本実施形態では、両眼で眼球下転量Indihを算出する。そのため、前述の工程で算出していない片方の眼、例えば、右眼についても同様の工程を実施する。まず、装用者は今まで座っていた左側の装用者用椅子302を離れて右側の装用者用椅子302に座り直し、支柱301に対してアーム支持部材31を180度以上回動させる。これにより、カメラ33は装用者の右眼を中心とした正面を撮像できることになる。そして、前述の工程を右眼でも実施する。
【0051】
眼鏡レンズ選択方法を図17のフローチャートに従って説明する。
図17に示される通り、まず、水平注視野幅Fwのデータは選択装置7に入力される(S101)。さらに、眼球下転量Indihのデータは選択装置7に入力される(S102)。
そして、選択装置7に遠用アイポイント高さFh、近用部高さNh、玉型高さBh、累進帯長SPh、上部フレーム高さOh、下部フレーム高さUh、その他のレンズ情報やフレーム情報が入力される(S103)。
[演算工程]
以上のデータは演算部702に送られ、この演算部702では、眼球下転量Indih、遠用アイポイント高さFh、累進帯長SPh及び近用部高さNhに基づいて、ΔEを演算し、さらに、このΔEと、玉型高さBhと、上部フレーム高さOhと、遠用アイポイント高さFhと、累進帯長SPhと、近用部高さNhと、下部フレーム高さUhとに基づいてΔBhを演算する(S104)。
【0052】
[判定工程]
演算部702からの演算結果と水平注視野幅Fwとに基づいて判定部704では、前述の通り、3種類の眼鏡レンズ10のそれぞれについて判定をする。
例えば、図18で示される遠近重視のタイプの眼鏡レンズ10では、Fh>4mm、0mm≦ΔE≦2mm、0mm<ΔBhの条件を満たすか否かを判定し(S105)、条件を満たす場合には図18(A)で示されるCタイプの眼鏡レンズ10を選択し(S106)、条件を満たさない場合にはBタイプのレンズが条件を満たすか否かを判定する(S107)。
Bタイプのレンズの選択条件は、3mm<Fh≦4mm、0mm≦ΔE≦2mm、0mm<ΔBhであり、これらの条件を満たす場合には図18(B)で示されるBタイプの眼鏡レンズ10を選択し(S108)、条件を満たさない場合にはAタイプのレンズが条件を満たすか否かを判定する(S109)。
Aタイプのレンズの選択条件は、1mm≦Fh≦3mm、0mm≦ΔE≦2mm、0mm<ΔBhであり、これらの条件を満たす場合には図18(C)で示されるAタイプの眼鏡レンズ10を選択し(S110)、条件を満たさない場合にはAからCタイプ以外の他のレンズを選択する(S111)。
【0053】
図19で示される中近重視のタイプの眼鏡レンズ10では、図17で示されるフローチャートに従って、図19(A)で示されるCタイプの眼鏡レンズ10の選択が実施され、図19(B)で示されるBタイプの眼鏡レンズ10の選択が実施され、図19(C)で示されるAタイプの眼鏡レンズ10又は他のレンズの選択が実施される。
図20で示される近近重視のタイプの眼鏡レンズ10では、図17で示されるフローチャートに従って、図20(A)で示されるCタイプの眼鏡レンズ10の選択が実施され、図20(B)で示されるBタイプの眼鏡レンズ10の選択が実施され、図20(C)で示されるAタイプの眼鏡レンズ10又は他のレンズの選択が実施される。
ただし、中近重視の眼鏡レンズ10と近近重視の眼鏡レンズ10は図18で示される遠近重視の眼鏡レンズ10の場合に比べて水平注視野幅Fwが相違する。
本実施形態では、以上の工程で説明した眼鏡レンズ10の選択を、左右の眼で実施する。
【0054】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)装用者の遠用アイポイントFPに対応する正面視線LFの位置と近用アイポイントNPに対応する下方視線LNの位置とを検出する視線位置検出手段3と、この視線位置検出手段3で検出された遠用アイポイントFPの位置と近用アイポイントNPの位置との間の距離を演算する演算手段5とを備えて眼球下転量測定装置1を構成した。眼球下転量Indihを測定するにあたり、装用者が眼鏡をかけた状態であるので、装用者の姿勢にかかわらず、遠用アイポイントFPと近用アイポイントNPとをそれぞれ正確に検出することができ、眼球下転量Indihを正確かつ簡単にしかも低いコストで測定することができる。
【0055】
(2)視線位置検出手段3は、基端が回動可能とされるとともに装用者の眼球Eの側方位置に位置するアーム部材32と、このアーム部材32の先端側に設けられ装用者の眼球Eの正面位置を検出するカメラ33と、アーム部材32の回動角度を検出するアーム回動角検出手段34とを有する構成とした。そのため、装用者の姿勢にかかわらず自然な姿勢で、遠用アイポイントFPと近用アイポイントNPとをそれぞれ検出することが可能となり、眼球下転量Indihを正確かつ簡単に測定することができる。特に、遠用アイポイントFPと近用アイポイントNPとを求めるにあたり、装用者の瞳孔部分ECの位置を画像で検出するのではなく、アーム部材32の傾斜角で求めるので、視線位置検出手段3の構造がより簡易となり、装置のコスト低下を徹底することができる。なお、本実施形態では、アーム部材32の基端を装用者の眼球Eの側方になるように設定することが必要であるが、図21のアーム部材の設定誤差と眼球下転量の誤差との関係を示すグラフに示される通り、S1〜S10で示される各サンプルにおいても、設定誤差が+5.0mmから−5.0mmの範囲となっても、最終的な眼球下転量の誤差が+0.30mmから−0.3mmの範囲に収まることになり、事実上、設定誤差に伴う影響が少ないことがわかる。
【0056】
(3)アーム部材32の基端側をアーム支持部材31に回動可能に支持し、このアーム支持部材31を支柱301に回動可能に取り付けたから、アーム部材32のアーム支持部材31に対する回動角度を調整し、アーム支持部材31の支柱301に対する回動角度を調整することで、アーム部材32の回動基端の装用者の眼球Eの側方位置への位置決めを容易に行うことができることになり、眼球下転量Indihの測定を精度よく行うことができる。
【0057】
(4)アーム支持部材31を、基端部が支柱301に回動自在に支持された角柱部310と、この角柱部310が進退自在に収納された角筒部311とを備え、その軸方向に進退自在に構成したから、アーム支持部材31を伸縮することで、アーム部材32の回動基端の装用者への位置決めをより容易に行うことができる。
(5)支柱301を挟んでそれぞれ反対側に装用者用椅子302を配置し、これらの装用者用椅子302に対応するように、アーム支持部材31の先端側が支柱301を挟んで互いに反対側に位置するように回動可能としたので、装用者の左右の眼球において、眼球下転量Indihが異なっても、左右異なる眼球下転量Indihを正確に測定することができる。
【0058】
(6)装用者の正面を撮像するためにカメラ33を用いたので、装用者の正面位置を正確かつ確実に撮像することができる。つまり、装用者の顔の大きさに応じてカメラ33のフォーカス機能を有効に利用することで、装用者の撮像を精度よく行うことができ、しかの、装置自体のコストを低いものにできる。
【0059】
(7)演算手段5は、前傾角θと、下方視線LNと眼鏡レンズ10の眼球側平面OLとのなす角度βと、眼鏡レンズ10の眼球側平面OLと正面視線LFとのなす角度γと、眼鏡レンズ10の眼球側平面OLとフレーム20の眼鏡側面の下端20Pの位置から下方視線LNにおろした法線VLとのなす角度δと、下端20Pの位置から下方視線LNにおろした法線VLの距離Mとに基づいて近用アイポイントの長さNを前述の(a)〜(d)の式から演算する構成とした。そのため、(a)〜(d)の式を演算手段5のメモリーに予め登録しておくことで、近用アイポイントの長さNを眼鏡レンズ10の厚さにかかわらず、簡単かつ正確に算出することができる。
【0060】
(8)演算手段5は、前傾角θと、フレームの下端20Pの位置と正面視線LFとの間の距離Kとに基づいて、遠用アイポイントの長さLを前述の(e)の式から演算する構成とした。そのため、(e)の式を演算手段5のメモリーに予め登録しておくことで、遠用アイポイントの長さLを眼鏡レンズ10の厚さにかかわらず、簡単かつ正確に算出することができる。
(9)フレーム20の前傾角θを測定する側面撮像手段4を備えたから、前傾角θを装用者が眼鏡を装用した状態で計測できるので、装用状態にかかわらず、正確な前傾角θを求めることができる。
【0061】
(10)装用者に眼鏡レンズ10を装着した状態で正面を向かせ瞳孔部分ECに対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定し、アーム部材32の回動基端を装用者の眼球Eの側方位置に位置させ、遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置することをカメラ33で検出し、この正面位置でのアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34で検出し、さらに、装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに瞳孔部分ECが正面に位置することをカメラ33で検出し、この位置でのアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34で検出し、これらの工程で検出された傾斜角の差から求められる眼球下転角度αに基づいて遠用アイポイントFPの位置と近用アイポイントNPの位置との間の距離を求める構成とすれば、前述の構成の装置を用いて簡易に眼球下転量Indihを求めることが可能となる。
【0062】
(11)同様に、装用者に眼鏡レンズ10を装着した状態で正面を向かせ瞳孔部分ECに対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定し、アーム部材32の回動基端を装用者の眼球Eの側方位置に位置させ、近用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置することをカメラ33で検出し、この正面位置でのアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34で検出し、さらに、装用者が視線を上げた状態で遠用アイポイントに瞳孔部分ECが正面に位置することをカメラ33で検出し、この位置でのアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34で検出し、これらの工程で検出された傾斜角の差から求められる眼球下転角度αに基づいて遠用アイポイントFPの位置と近用アイポイントNLの位置との間の距離を求める構成とすれば、前述の構成の装置を用いて簡易に眼球下転量Indihを求めることが可能となる。
【0063】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
例えば、前記実施形態では、両眼で眼球下転量Indihを算出して眼鏡レンズ10を選択したが、本発明では、片側の眼、例えば、左眼のみで眼球下転量Indihを算出して眼鏡レンズ10を選択するものでもよい。例えば、穴あきカードを用いて優位眼(通称、利き目)を測定し、その優位眼についてのみ眼球下転量Indihを算出して眼鏡レンズ10を選択するものでもよい。
前記実施形態では、アーム回動角検出手段34をゼロセット可能な構成としたが、本発明では、ゼロセット可能な構成とはせず、アーム部材32の水平面に対する傾斜角の情報を演算手段5に直接出力し、この演算手段5で傾斜角の差を求める構成としてもよい。
【0064】
また、前記実施形態では、遠用部領域11が広いAタイプ、遠用部領域11が中間のBタイプ及び遠用部領域11が狭いCタイプの3種類のタイプの眼鏡レンズ10から1つの最適な眼鏡レンズ10を選択することにしたが、本発明では、遠用部領域11の広さを大きく2つに区分し、これらの2つのタイプから選択するようにしてもよく、あるいは、遠用部領域11の広さを4つ以上に区分し、これらの4つ以上のタイプから1つの眼鏡レンズを選択することにしてもよい。
【0065】
さらに、水平注視野幅決定工程において、水平注視野角Faを装用者個々に応じて設定するものでもよい。また、水平注視野角Faを、遠近重視の眼鏡レンズ10、中近重視の眼鏡レンズ10及び近近重視の眼鏡レンズ10でも共通としてもよい。
また、図13で示されるテーブル8をマニュアル用として予め作成し、このマニュアルに基づいて眼鏡レンズを選択するものでもよい。
前記実施形態では、フレーム20の前傾角θを測定する側面撮像手段4を備えて眼球下転量測定装置1を構成したが、本発明では、装用者が正しい姿勢で眼鏡をかけているものであれば、前傾角θは設計上のデータを眼球下転量の測定にそのまま用いることができ、前傾角測定手段4を省略することができる。
また、画像33Aには必ずしも傾斜角表示部33Bを設けることを要しない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、累進屈折力レンズを選択する装置として、眼鏡の販売店等で広く利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…眼球下転量測定装置、3…視線位置検出手段、5…演算手段、7…選択装置、10…眼鏡レンズ、11…遠用部領域、12…近用部領域、13…累進帯、20…フレーム、20P…下端、21…フレーム枠、21D…下辺部、21U…上辺部、30…基台、31…アーム支持部材、32…アーム部材、33…カメラ(正面検出機構)、34…アーム回動角検出手段、301…支柱、302…装用者用椅子、70…選択制御部、71…第一入力部、72…第二入力部、73…データ出力部、701…眼鏡情報データ入力部、702…演算部、703…レンズタイププロファイル部、704…判定部、EP…遠用アイポイント、Indih…眼球下転量、NP…近用アイポイント、α…眼球下転角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズにおける眼球下転量測定装置及び眼球下転量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズには単焦点眼鏡レンズの他に累進屈折力眼鏡レンズがある。この累進屈折力レンズは、遠方視に対応する屈折力(度数)を持つ遠用部領域と近方視に対応する屈折力を持つ近用部領域とを備えた非球面レンズである。遠用部領域はレンズの上方位置に設定され、近用部領域はレンズの下方位置に設定され、これら両領域の間で屈折力が累進的に変化する累進帯を備えている。これらの領域には境目がなく1枚のレンズで遠くのものから近くのものまで見ることができる。遠用部領域、近用部領域および累進帯は、個々の使用目的(遠近重視、中近重視、近々重視、フルタイム使用、パートタイム使用、静的使用、動的使用など)に合わせて調整を行う必要がある(光学的フィッティング)。光学的フィッティングの中でも、累進屈折力レンズにおいては眼球下転量が重要である。眼球下転量とは、眼鏡装着者が水平視した状態でのレンズ上の視線位置を遠用アイポイント(FP)とし、近用視線の状態でのレンズ上の視線位置を近用アイポイント(NP)としたとき、遠用アイポイントから近用アイポイントまで眼球を下転させる距離である。
【0003】
このような眼鏡レンズを設計するにあたり、眼球運動測定装置からの情報を得て眼鏡をかけた状態での個人の眼球運動経路をソフトウェアで分析することにより、1つ以上のアイポイント又は平均的な領域を特定し、その情報を元に標準レンズを個々人の眼に合わせて修正した眼鏡レンズをカスタム設計する従来例がある(特許文献1)。この特許文献1の従来例では、アイポイントを測定するために眼球運動測定装置が用いられている。
また、頭追跡システムと、装用者の動作統計モデルの統計分析結果から引き出される値を使用し、装用者の個々の視覚動作パターンを判定し、フレーム選択指導や、公知の複数のレンズから最適なレンズデザインを奨励する従来例(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−521027号公報
【特許文献2】特表2003−523244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の従来例では、眼球運動測定装置を用いるので、装置全体が高価なものとなる。遠用アイポイントや近用アイポイントの決定に際しては、頭及び眼球運動だけでなく、眼鏡を装着している人(装用者)の姿勢もかかわってくるので、頭と眼球運動だけで決定する特許文献1では正確な測定値を得ることができない。
特許文献2の従来例では、特許文献1と同様に、頭追跡システムを用いているので、装置全体が高価なものになるだけでなく、装用者の姿勢によっては正確な測定を行うことができない。
【0006】
本発明の目的は、装用者の個々に応じて眼球下転量を正確かつ安価に求めることができる眼球下転量測定装置及び眼球下転量測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の眼球下転量測定装置は、装用者が実際に装着するとともに上辺部と下辺部とを有するフレームに装着される眼鏡レンズの遠用アイポイントから近用アイポイントまでの長さを測定する装置であって、装用者の前記遠用アイポイントに対応する視線の位置と前記近用アイポイントに対応する視線の位置とを検出する視線位置検出手段と、この視線位置検出手段で検出された前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を演算する演算手段とを備え、前記視線位置検出手段は、一端が回動可能とされるとともに装用者の眼球の側方位置に位置するアーム部材と、このアーム部材の他端側に設けられ装用者の眼球の正面位置を検出する正面検出機構と、前記アーム部材の回動角度を検出するアーム回動角検出手段とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成の本発明では、眼鏡をかけた状態で視線位置検出手段によって、眼の視線の位置が異なる近用アイポイントと遠用アイポイントとをそれぞれ検出する。これらの検出にあたっては、まず、アーム部材の回動可能とされた一端を装用者の眼球側方に位置するように位置決めし、その後、例えば、装用者に正面を向いてもらい、その状態でのアーム部材の傾斜角をアーム回動角検出手段で検出し、さらに、装用者に視線を下げてもらい、その状態で装用者の瞳孔が正面に位置するようにアーム部材を傾斜させて正面検出機構で検出し、この位置でのアーム部材の傾斜角をアーム回動角検出手段で検出する。このアーム部材の眼球下転角度に基づいて遠用アイポイントの位置と近用アイポイントの位置との間の距離である眼球下転量を演算手段で演算する。
そのため、本発明では、装用者の姿勢にかかわらず自然な姿勢で、遠用アイポイントと近用アイポイントとをそれぞれ検出するので、眼球下転量を正確かつ簡単に測定すること
が可能となる。しかも、従来例のような高額な眼球運動測定装置やこの装置で出力された情報から眼球運動経路を分析する高額なソフトウェアが不要とされるので、安価に装置を提供することができる。特に、視線位置検出手段を、アーム部材、正面検出機構及びアーム回動角検出手段を備えて構成したので、遠用アイポイントと近用アイポイントとを求めるにあたり、装用者の瞳孔の位置を画像で検出するのではなく、アーム部材の傾斜角で求めるので、視線位置検出手段の構造がより簡易となり、装置のコスト低下を徹底することができる。
【0009】
本発明では、前記アーム部材の一端側はアーム支持部材に回動可能に支持され、このアーム支持部材は支柱に回動可能に取り付けられている構成が好ましい。
この構成の本発明では、アーム部材のアーム支持部材に対する回動角度を調整し、さらに、アーム支持部材の支柱に対する回動角度を調整することで、アーム部材の回動可能とされる一端の装用者への位置決めを容易に行うことができることになり、眼球下転量の測定を精度よく行うことができる。
【0010】
前記アーム支持部材は伸縮可能とされている構成が好ましい。
この構成の本発明では、アーム支持部材を伸縮することで、アーム部材の一端の装用者への位置決めを容易に行うことができることになり、眼球下転量の測定を精度よく行うことができる。
【0011】
前記支柱を挟んでそれぞれ反対側に配置された装用者用椅子を備え、前記アーム支持部材は、その先端側が前記支柱を挟んで互いに反対側に位置するように回動可能とされる構成が好ましい。
この構成の本発明では、2カ所に配置された装用者用椅子のうち一方に装用者が座り、前述の手順をもって装用者の片方(右眼)の眼球における眼球下転量を測定し、その後、他方の装用者用椅子に装用者が座り直し、アーム支持部材を支柱に対して180度回動させ、この状態で、前述の手順をもって装用者の片方(左目)の眼球における眼球下転量を測定する。
従って、本発明では、左右の眼球において、眼球下転量が異なっても、左右異なる眼球下転量を正確に測定することができる。
【0012】
前記正面検出機構はカメラである構成が好ましい。
この構成の本発明では、カメラを用いることにより、装用者の正面位置を正確かつ確実に撮像することができるので、測定精度をこの点からも向上させることができ、しかも、装置のコストを低いものにできる。
【0013】
本発明の眼球下転量測定方法は、前述の構成の眼球下転量測定装置を用いて眼球下転量を測定する方法であって、前記装用者に前記眼鏡レンズを装着した状態で正面を向かせ前記眼鏡レンズの装用者の瞳孔に対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定する遠用アイポイントライン決定工程と、前記アーム部材の回動可能とされる一端を前記装用者の眼球の側方位置に位置させるアーム部材の位置決め工程と、前記遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この正面位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第一角度検出工程と、前記装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに前記装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第二角度検出工程と、前記第一角度検出工程で検出された傾斜角と前記第二角度検出工程で検出された傾斜角との差から求められる眼球下転角度に基づいて前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を前記演算手段で求める算出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の眼球下転量測定方法は、前述の構成の眼球下転量測定装置を用いて眼球下転量を測定する方法であって、前記装用者に前記眼鏡レンズを装着した状態で正面を向かせ前記眼鏡レンズの装用者の瞳孔に対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定する遠用アイポイントライン決定工程と、前記アーム部材の回動可能とされる一端を前記装用者の眼球の側方位置に位置させるアーム部材の位置決め工程と、前記装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに前記装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第一角度検出工程と、前記装用者が視線を上げた状態で前記遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この正面位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第二角度検出工程と、前記第一角度検出工程で検出された傾斜角と前記第二角度検出工程で検出された傾斜角との差から求められる眼球下転角度に基づいて前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を前記演算手段で求める算出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
これらの眼球下転量測定方法によれば、前述の眼球下転量測定装置を用いて、簡単かつ正確に眼球下転量を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態にかかる眼球下転量測定装置で測定される眼鏡レンズの概略図。
【図2】前記実施形態にかかる眼鏡レンズ選択システムの全体構成を示すブロック図。
【図3】前記実施形態にかかる眼球下転量測定装置の概略構成図。
【図4】前記眼球下転量測定装置の要部を示す概略図。
【図5】(A)は遠用アイポイントを求めるための概略図、(B)は近用アイポイントを求めるための概略図。
【図6】(A)(B)は眼鏡をかけた装用者をカメラで撮像した画像の概略図。
【図7】側面撮像手段で撮像された画像の概略図。
【図8】遠用アイポイントの長さを求めることを説明するための概略図。
【図9】近用アイポイントの長さを求めることを説明するための概略図。
【図10】水平注視野角と眼鏡装用距離との関係が示された概略図
【図11】(A)〜(C)は遠用部領域の狭いタイプにおいて水平注視野幅の長さが異なる3種類の眼鏡レンズを示す概略図。
【図12】(A)は遠用部領域の広いAタイプの眼鏡レンズの収差図、(B)は遠用部領域の中程度のBタイプの眼鏡レンズの収差図、(C)は遠用部領域の狭いCタイプの眼鏡レンズの収差図。
【図13】演算部で演算された結果を示すテーブルの概略図。
【図14】(A)は累進帯の加入度特性のグラフ、(B)は累進帯の光学特性のグラフ。
【図15】眼球下転量を求める一例の手順を示すフローチャート。
【図16】眼球下転量を求める他の例の手順を示すフローチャート。
【図17】眼鏡レンズ選択方法を説明するフローチャート。
【図18】(A)〜(C)は遠近重視のタイプの眼鏡レンズにおいて、遠用部領域の広さの異なる3タイプを示す概略図。
【図19】(A)〜(C)は中近重視のタイプの眼鏡レンズにおいて、遠用部領域の広さの異なる3タイプを示す概略図。
【図20】近近重視のタイプの眼鏡レンズにおいて、遠用部領域の広さの異なる3タイプを示す概略図。
【図21】アーム部材の設定誤差と眼球下転量の誤差との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、眼鏡レンズとして累進屈折力レンズを使用する。また、本実施形態では、眼鏡を装着した場合の鉛直方向を上下方向、眼鏡を装着した場合の水平方向を左右方向として説明する。
[眼鏡レンズ]
図1に示すように、眼鏡レンズ10は、上方に位置する遠用部領域11と、下方に位置する近用部領域12と、これら遠用部領域11と近用部領域12との間に位置する累進帯13と、累進帯13の側方に隣接した側方領域14と、を有している。
【0018】
遠用部領域11は、遠方視するのに適した相対的にプラス度数の低い平均度数を備えている。特に、装着者が正面視をした場合に瞳中心を通る水平線(つまり視線)が通過する位置を遠用アイポイントFPとする。この遠用アイポイントFPは、眼鏡レンズの幾何学中心を鉛直上方向に伸ばした線と遠用アイポイントラインFLとの交点に位置する。
近用部領域12は、近方視(例えば、読書)するのに適した相対的にプラス度数の高い平均度数を備えている。特に、装着者が近方視(下方視)した場合の視線が通過する位置を近用アイポイントNPとする。
【0019】
累進帯13は、遠用部領域11と近用部領域12との間で相対的なプラスの平均加入度数が累進的に変化する領域である。遠用アイポイントFPを通過して左右方向に延びる直線を遠用アイポイントラインFLとする。遠用アイポイントラインFLの上で遠用アイポイントFPから遠用部領域11と側方領域14との境界線までの距離を水平注視野幅Fwとする。
近用アイポイントNPを通過して左右方向に延びる直線を近用アイポイントラインNLとする。遠用アイポイントラインFLと近用アイポイントラインNL間の距離(長さ)は眼球下転量Indihである。
【0020】
遠用部領域11と累進帯13との境界線から遠用アイポイントFPまでが遠用アイポイント高さFhである。遠用部領域11と累進帯13との境界線から累進帯13と近用部領域12との境界線までの長さ(距離)が累進帯長SPhである。
累進帯13と近用部領域12との境界線から近用部領域12の光学中心NCまでの長さ(距離)が近用部高さNhである。この近用部領域12の光学中心NCは近用部領域の光学設計をする際の光学中心である。
近用部領域12の光学中心NCと、近用部領域12と累進帯13との境界線との間の長さ(距離)が近用部高さNhである。
側方領域14は、非点収差領域と呼ばれるエリアである。側方領域14を通して見ると物が二重に見えたりするため、通常、装着者は側方領域14を通して物を見ない。
【0021】
眼鏡レンズ10は、このような累進屈折力レンズを成形加工することにより得られ、得られた眼鏡レンズ10はフレーム20に装着されて眼鏡となる。
フレーム20は、眼鏡レンズ10を装着して枠状に取り囲むフレーム枠21と、左右のフレーム枠21を連結するブリッジ22と、フレーム枠21からヒンジを介して回動可能に取り付けられたテンプル23(図7参照)とを備えている。フレーム枠21は上辺部21Uと下辺部21Dと側辺部21Sとを有する。これらの上辺部21Uと下辺部21Dとの間の距離が眼鏡レンズの玉型高さBhであり、遠用アイポイントFPからフレームの上辺部までの距離が上部フレーム高さOhである。フレーム枠21の下辺部21Dから近用アイポイントNPまでの距離が下部フレーム高さUhである。
【0022】
図2は本実施形態の眼鏡レンズ選択システムの全体構成を示すブロック図が示されている。
図2において、眼鏡レンズ選択システムは、眼球下転量測定装置1と、この眼球下転量測定装置1から送られるデータから複数タイプの眼鏡レンズから1つの眼鏡レンズを選択する選択装置7とを備え、この選択装置7は、選択制御部70と、第一入力部71と、第二入力部72と、データ出力部73と、選択制御部70を制御するCPU74とを備えて構成されている。
第一入力部71は、キーボードやペン等から構成され、選択装置7に直接入力する入力手段である。
第二入力部72は、インターネットや電話回線等の通信手段を介してレンズ製造メーカーから必要な情報が入力される手段である。
【0023】
眼球下転量測定装置1は、遠用アイポイントFPから近用アイポイントNPまでの長さの眼球下転量Indihを測定するものであり、本実施形態では、その一例として図3から図6に眼球下転量測定装置1の構成が示されている。
図3は眼球下転量測定装置1の概略構成図である。
図3において、眼球下転量測定装置1は、装用者の視線の位置を検出する視線位置検出手段3と、眼鏡レンズ10が設けられたフレームの前傾角θを測定する側面撮像手段4と、これらの視線位置検出手段3及び側面撮像手段4からの出力に基づいて眼球下転量Indihを演算するパソコンからなる演算手段5とを備えている。
【0024】
視線位置検出手段3は、装用者の遠用アイポイントFPに対応する視線の位置と近用アイポイントNPに対応する視線の位置とを検出するものであり、基台30と、この基台30に設けられたロッド状のアーム支持部材31と、このアーム支持部材31に基端が回動可能に設けられるアーム部材32と、このアーム部材32の先端に設けられる正面検出機構としてのカメラ33と、このカメラ33に設けられアーム部材32の回動角度を検出するアーム回動角検出手段34とを備えている。
基台30は、ベース300と、このベース300に設けられた支柱301と、この支柱301を挟んでそれぞれ反対側に配置された装用者用椅子302とを備えている。
【0025】
支柱301の上端側にはアーム支持部材31が回動可能に取り付けられている。アーム支持部材31は、所定位置、例えば、支柱301に対して直交されるとともに先端が図3中左側に向いた位置を始点とし、鉛直面内で支柱301を挟んで反対側の右方向に向いた位置まで回動自在とされる。つまり、アーム支持部材31は、その先端側が支柱301を挟んで互いに反対側に位置するように回動可能とされる。
本実施形態では、アーム支持部材31が支柱301に回動自在に取り付けられているのであれば、その具体的な取付構造は限定されるものではなく、例えば、支柱301の左右の幅方向の中心位置に設けられたヒンジ構造であってもよい。なお、アーム支持部材31の回動操作を自動的に行うため、支柱301にモーター等の駆動源やギア等からなる回動機構(図示せず)が設けられているが、本実施形態では、この回動機構を省略して手動でアーム支持部材31を回動操作するものでもよい。支柱301に対してアーム支持部材31は任意の角度で固定可能とされる。
【0026】
図4にはアーム支持部材31の構成が示されている。図4において、アーム支持部材31は、基端部が支柱301に回動自在に支持された角柱部310と、この角柱部310が進退自在に収納された角筒部311とを備え、その軸方向に進退自在に構成されている。
アーム支持部材31は、さらに、角筒部311を角柱部310に対して任意の位置で固定する固定部材(図示せず)を備えている。この固定部材は、適宜な構造を採用することができるものであり、例えば、角筒部311の側面部に螺合されるボルトであって、その先端部が角柱部310の周面に押圧可能とされるものであってもよい。
角筒部311の先端部とアーム部材32の基端部とには、アーム部材32をアーム支持部材31に鉛直面内で回動自在に支持するための回動機構312が設けられている。この回動機構312は、軸方向が水平方向に延びるとともにアーム部材32と角筒部311とを連結する軸状の回動部312Aと、この回動部312Aを回動中心として角筒部311に対してアーム部材32を回動させる駆動機構(図示せず)とを備えており、この駆動機構はモーターやギア等から構成されている。回動部312Aはアーム支持部材31を伸縮しあるいは支柱301に対して回動することで、装用者用椅子302に座った装用者の眼球の側方位置に位置させることが可能となる。なお、本実施形態の回動機構312は、アーム部材32を角筒部311に対して任意の角度を回動させ、その位置で固定できる構造であれば、具体的な構造を問われるものではなく、例えば、駆動機構を省略するものでもよい。
【0027】
カメラ33はアーム部材32の先端において回動部312Aに向けて配置されたレンズ330を有し、その撮像信号はデジタル信号として演算手段5に出力される。カメラはアーム部材32の回動範囲において装用者用椅子302に座った装用者の正面のうち片側の眼を中心として撮像するものであり、例えば、図5(A)に示される通り、遠用アイポイントの位置を得るために、レンズ330を水平方向に向けて装用者の左眼を中心とした正面を撮像し、図5(B)に示される通り、近用アイポイントの位置を得るために、レンズ330を下から斜め上方に向けて装用者の左眼を中心とした正面を撮像する。図5(A)(B)において、瞳孔部分が正面となった場合が遠用アイポイント又近用アイポイントの位置である。
【0028】
アーム回動角検出手段34は、アーム部材32の傾斜角度を検出する検出部本体がケーシングに収納されたデジタル角度計であり、ケーシングはカメラ33の上部に磁石その他の手段で固定される。
アーム回動角検出手段34は、任意の傾斜角をゼロにセット可能である。アーム回動角検出手段34で検出された検出信号は演算手段5に出力される。
カメラ33で撮像された画像33Aと、アーム回動角検出手段34で検出された傾斜角表示部33Bとは演算手段5のディスプレー部5Aに表示される(図6(A)(B)参照)。つまり、ディスプレー部5Aは、眼鏡レンズ10を装着した装用者正面の画像33Aをアーム部材32の傾斜角に応じて表示するとともに、その際のアーム部材32の傾斜角を傾斜角表示部33Bに表示する構成である。
【0029】
図3に戻り、側面撮像手段4は、前傾角測定手段として機能するものであり、眼鏡レンズ10が設けられた眼鏡を装着した装用者の側面を撮像するカメラと、このカメラで撮像された画像に基づいてフレーム20の前傾角θを求める画像処理部とを備える。
側面撮像手段4で撮像された画像が図7に示されている。
図7には、装用者が水平方向を向いた状態が撮像されているが、この装用者のフレーム20のテンプル23の位置やフレーム枠21の位置等の画像に基づいて画像処理部が前傾角θを算出する。この画像処理部で算出された前傾角θのデータは演算手段5に送られる。なお、本実施形態では、画像処理部を省略し、カメラで撮像された画面から作業員が前傾角θを直接求め、この数値を演算手段5に別途入力するものでもよい。
【0030】
図3において、演算手段5は、キーボード等の外部入力部と、ディスプレー部5Aと、演算部とを有するパソコンであり、カメラ33と側面撮像手段4とのそれぞれ出力された情報やその他の情報に基づいて眼球下転量Indihを演算するものである。
眼球下転量Indihは、遠用アイポイントラインFLと近用アイポイントラインNL間の距離(長さ)である。本実施形態では、0.5mm単位で眼球下転量Indihが演算される。
図8には遠用アイポイントの長さを求めることを説明するための概略図が示され、図9には近用アイポイントの長さを求めることを説明するための概略図が示されている。
【0031】
図8及び図9に示される通り、側面撮像手段4から入力される前傾角θ、カメラ33で求められた眼球中心と遠用アイポイントFPとを結ぶ正面視線LF、眼球中心と近用アイポイントNPとを結ぶ下方視線LN、正面視線LFと下方視線LNとのなす角度の眼球下転角度α、下方視線LNと眼鏡レンズの眼球側平面OLとのなす角度β、眼鏡レンズの眼球側平面OLと正面視線LFとのなす角度γ、眼鏡レンズの眼球側平面OLと下端20Pの位置から下方視線LNにおろした法線VLとのなす角度δ、フレーム20の眼鏡側面の下端20Pの位置と正面視線LFとの間の距離K、眼鏡側面の下端20Pの位置から下方視線LNにおろした法線VLの距離Mから、フレーム20の下端20Pから近用アイポイントNPまでの近用アイポイントの長さNは次の(a)〜(d)の式から求められる。なお、距離Kは眼鏡レンズ10の遠用アイポイントFPと下端20Pとのみかけ上の長さでもあり、距離Mは眼鏡レンズ10の近用アイポイントNPと下端20Pとのみかけ上の長さでもある。
【0032】
N=M/COSδ (a)
δ=180°−(β+90°) (b)
β=180°−(α+γ) (c)
γ=180°−(90°+θ) (d)
また、フレーム20の眼鏡側面の下端20Pから遠用アイポイントFPまでの遠用アイポイントの長さLは次の(e)の式から求められる。
L=K/COSθ (e)
さらに、眼球下転量Indihは遠用アイポイントFPと近用アイポイントNPとの間の距離であるので、眼球下転量Indihは次の式(f)から求められる。
Indih=L−N (f)
【0033】
本実施形態では、以上の式を演算手段5のメモリーに記録させておく。
なお、フレーム20の眼鏡側面の下端20Pの位置と正面視線LFとの間の距離Kはカメラ33で正面視線LFを中心で受光する位置から下端20Pを中心で受光する位置まで移動させた場合の移動距離として求めることができる。同様に、下端20Pの位置と下方視線LNとの間の距離Mはカメラ33で下方視線LNを中心で受光する位置から下端20Pを中心で受光する位置まで移動させた場合の移動距離として求めることができる。カメラ33の移動軌跡は円弧上であるが、移動距離が眼球とカメラ33との間の距離に比べて短いので、平行移動と近似することができる。
【0034】
図10は水平注視野角と眼鏡装用距離との関係が示された概略図である。図10において、水平注視野幅Fwは実際に装着する眼鏡レンズ10の遠用アイポイントFPから水平に延びる線分であって装用者が頭の向きを変更せずに見ることが可能な範囲の長さである。つまり、眼鏡レンズ10の眼球側面の遠用アイポイントラインFLの上で、眼鏡レンズ10の眼鏡レンズの幾何学中心を鉛直上方向に伸ばした線と遠用アイポイントラインFLとの交点に位置する遠用アイポイントFPから側方に向けて視線をずらした際に頭部を振らずに見える位置SPまでの距離が水平注視野幅Fwである。
【0035】
遠用アイポイントFPを通過する正面視線LFと、眼球中心CEと位置SPとを結ぶ直線LSとのなす角度を水平注視野角Faとする。遠用アイポイントFPと眼球中心CEとの距離を眼鏡装用距離ELとすると、水平注視野幅Fwは次の式で求めることができる。
Fw=ELtanFa (g)
側面撮像手段4は水平注視野幅Fwを決定する水平注視野幅決定装置としても機能する。
【0036】
側面撮像手段4は、カメラで撮像された画像に基づいて、装用者の眼球中心CEの位置を眼球Eの大きさ等から推測し、この眼球中心CEと遠用アイポイントFPとの距離である眼鏡装用距離ELを画像に基づいて測定するとともに、この眼鏡装用距離ELと予め入力された水平注視野角Faとから式(g)に基づいて水平注視野幅Fwを算出する画像処理部を有する。この画像処理部で算出された水平注視野幅Fwのデータは演算手段5に送られる。なお、本実施形態では、画像処理部を省略し、カメラで撮像された画面から作業員が眼鏡装用距離ELを直接求め、この数値を演算手段5に別途入力して演算手段5で水平注視野幅Fwを算出する構成としてもよい。
【0037】
本実施形態では、これらの水平注視野角Faは既知のデータを参照して求めた値である。個人差は若干あるが、眼球だけで探索する範囲は左右水平方向で10°〜15°とされ、それ以上の広い視野では頭部を回転させて見やすい状態を作っている(日本眼光学会編:眼鏡の科学:1977年Volume1第35頁〜第37頁「両眼視機能と眼鏡」畑田豊彦著参照)。
図11には遠用部領域11の狭いタイプにおいて水平注視野幅Fwの長さが異なる3種類の眼鏡レンズ10が示されている。
図11(A)は遠近重視の眼鏡レンズ10の水平注視野幅Fwが示されている。遠近重視の眼鏡レンズ10は遠方の景色と近方の書類との双方を見るために使用するものである。図11(A)で示される眼鏡レンズ10では、例えば、水平注視野角Faは13°以上であり、水平注視野幅Fwは6mm以上である。
図11(B)では、中近重視の眼鏡レンズ10の水平注視野幅Fwが示されている。中近重視の眼鏡レンズ10は中距離の景色と近方の書類との双方を見るために使用するものである。図11(B)で示される眼鏡レンズ10では、例えば、水平注視野角Faは0°より大きく13°より小さい値であり、水平注視野幅Fwは0mmより大きく6mmより小さい。
図11(C)では、近近重視の眼鏡レンズ10の水平注視野幅Fwが示されている。近近重視の眼鏡レンズ10はそれぞれ近方に位置するデスク上の書類と手元の書類との双方を見るために使用するものである。図11(C)で示される眼鏡レンズ10では、例えば、水平注視野幅Fwは0mm以下である。
【0038】
図11(A)〜(C)に示される通り、水平注視野幅Fwは、図11(A)で示される遠近重視の眼鏡レンズ10が最も長く、図11(C)で示される近近重視の眼鏡レンズ10が最も短く、図11(B)で示される中近重視の眼鏡レンズは中間の長さである。このように、水平注視野幅Fwが眼鏡レンズ10のタイプによって異なる。本実施形態では、水平注視野角Faは、例えば、遠近重視の眼鏡レンズ10ではFw≧13°であり、中近重視並びに近近重視の眼鏡レンズ10では0<Fw<13°である。これらの遠近重視の眼鏡レンズ10、中近重視の眼鏡レンズ10並びに近近重視の眼鏡レンズ10において、それぞれ一定の値とする。
【0039】
図2において、選択制御部70は、眼鏡情報データ入力部701と、演算部702と、レンズタイププロファイル部703と、判定部704とを備えている。
眼鏡情報データ入力部701は、眼鏡調製データ入力部705と、レンズ設計データ部706と、画像解析データ入力部707とを備えている。
眼鏡調製データ入力部705は、使い方のデータ、検眼データ、フレームデータ、フィッティングデータ等のデータが記憶されるものであり、これらのデータは第一入力部71から入力される。眼鏡調製データ入力部705に記憶されるデータには、レンズの度数、加入度数、球面度数、乱視度数、乱視軸、プリズム度数等のレンズ処方データの他、遠用アイポイント高さFh、近用部高さNh、玉型高さBh、累進帯長SPhが含まれる。これらの遠用アイポイント高さFh、近用部高さNh、玉型高さBh、累進帯長SPhは0.5mm単位でデータが入力される。
レンズ設計データ部706は、処方レンズ設計プロファイルが記憶されるものであり、このデータは第二入力部72で入力される。処方レンズ設計プロファイルはレンズ設計に必要な種々のデータであってレンズメーカーから提供される情報である。この処方レンズ設計プロファイルには演算部702で用いられる計算式も含まれる。
画像解析データ入力部707は、眼球下転量Indih及び眼鏡装用距離ELのデータ、正面視眼画像解析データ、下方視画像解析データが記憶されるものであり、これらのデータは眼球下転量測定装置1から送られる。
【0040】
演算部702は、眼鏡調製データ入力部705、レンズ設計データ部706及び画像解析データ入力部707から送られるデータに基づいて後述する演算を実施する。
つまり、演算部702は、眼球下転量Indih、遠用アイポイント高さFh、累進帯長SPh、近用部高さNhに基づいて(h)(i)の式からΔEを求め、このΔEと、前記眼鏡レンズの玉型高さBhと、上部フレーム高さOhと、遠用アイポイント高さFh、累進帯長SPh及び近用部高さNhの合計長さthと、下部フレーム高さUhとに基づいて(j)の式からΔBhを求める。
th=Fh+SPh+Nh (h)
ΔE=Indih-th (i)
ΔBh=Bh-(Oh+th+ΔE+Uh) (j)
レンズタイププロファイル部703は、遠近重視の眼鏡レンズ10、中近重視の眼鏡レンズ10及び近近重視の眼鏡レンズ10の各種類毎に、遠用部領域11の広いAタイプ、中程度のBタイプ、狭いCタイプの3タイプの基本情報が入力されている。これらの情報は第一入力部71や第二入力部72等の入力手段から入力されている。
【0041】
図12にはAタイプからCタイプの眼鏡レンズ10の収差図が示されている。図12(A)にはAタイプの眼鏡レンズ10が示され、(B)にはBタイプの眼鏡レンズが示され、(C)にはCタイプの眼鏡レンズ10が示されている。
図12(A)で示される遠用部領域11の広いAタイプの眼鏡レンズ10は側方領域14の収差が大きく、初めて累進屈折力眼鏡レンズを利用する装用者には向かないが、図12(C)で示される遠用部領域11の狭いCタイプの眼鏡レンズ10は側方領域14の収差が小さいので、初めて累進屈折力眼鏡レンズを利用する装用者に向くものである。図12(B)で示される遠用部領域11が中程度の眼鏡レンズ10はAタイプとCタイプとの中間である。
【0042】
図2において、判定部704は演算部702とレンズタイププロファイル部703とからのデータに基づいて、遠近重視の眼鏡レンズ10、中近重視の眼鏡レンズ10及び近近重視の眼鏡レンズ10毎に、4mm≦Fh、3mm<Fh<4mm及び1mm≦Fh≦3mmの場合において、それぞれ0mm≦ΔE≦2mm、かつ、0mm<ΔBhの条件を満たすか否かを判定する。
判定部704の具体的な構成について図13に基づいて説明する。
図13には演算部702で演算された結果を示すテーブル8が示されている。
図13において、最も左の欄には遠用アイポイント高さFhを設定するFh設定欄81が示されており、その右隣には眼球下転量Indihを表示する眼球下転量表示欄82が示されている。この眼球下転量表示欄82では、0.5mm単位で眼球下転量Indihが表示されている。眼球下転量表示欄82の右隣には演算結果表示部83が示されている。この演算結果表示部83は眼球下転量表示欄82で表示された眼球下転量Indihの数値に対応し(H)の式に基づいたΔEの演算値が表示される。演算結果表示部83の最上列830はスタンダードな累進帯長の長さが表示される。
【0043】
判定部704は、演算値を、ΔEが0mm以上となる使用可能領域83Aと、ΔEがマイナスの数値となる使用不可能領域83Bとにわける。さらに、使用可能領域83Aを、0mm≦ΔE≦1mmの数値をとるボーダー領域83Cと、1mm<ΔEの数値をとる安全領域83Dとにわける。この安全領域83Dで、ΔEの数値は小さい方が好ましく、本実施形態では、1mm<ΔE≦2mmの数値をとる範囲を最適領域83Eとして使用する。
例えば、眼球下転量Indihが18mmである場合、安全領域83Dの行83Sで示される範囲の数値は使用可能であり、行83Sで示される数値のうち最も低い数値である「2」に対応するスタンダートな累進帯長Sは10mmである。このS10の列において、最適領域83Eに含まれる数値は「2」である。
この安全領域83Dの範囲内の行83Sの中にある該当する複数の値から数値の小さいもの(最適領域83Eの値)を次の理由から選択する。
【0044】
図14(A)には累進帯の加入度特性のグラフが示され、図14(B)には累進帯の光学特性のグラフが示されている。図14(A)において、加入度を3D上げるために累進帯長を18mmとする場合と、8mmとする場合の2つの例が示されている。図14(B)から、加入度を3D上げるために累進帯長を18mmとする場合が8mmとする場合に比べてばらつきが小さい。つまり、図14から、同じ加入度を上げるには累進帯長が長い方がぼけにくく、装用者が見易いことがわかる。また、式(h),(i)から、累進帯長Sphが長いほどΔEが小さくなる。したがって、ぼけにくく装用者が見易い眼鏡レンズは、ΔEの小さい眼鏡レンズとなる。本実施形態では、累進帯長の選択肢が複数ある場合には、安全領域83Dの中の行83Sの中で、最も数値の小さい数値を選択する。
図13で示される例では、判定部704は、安全領域83Dの中の行83Sに含まれる数値の小さい「2」をΔEとして利用する。
【0045】
図2に戻り、データ出力部73は、眼鏡情報データ入力部701と判定部704とから、フレームデータ、装用データ、処方データ、遠用部領域11の広いAタイプ、中程度のBタイプ、狭いCタイプの遠用部領域11の広さを基準とした眼鏡レンズのタイプ、遠近重視、中近重視、近近重視の使用目的を基準とした眼鏡レンズのタイプ、レンズ加工データ、その他レンズを製造する上で必要な情報が出力されるもので、例えば、ディスプレー等が具体的に例示することができる。
【0046】
次に、本発明の一実施形態にかかる眼鏡レンズ選択方法について説明する。
[水平注視野幅決定工程]
水平注視野幅決定工程は遠用アイポイントFPから水平に延びる水平注視野幅Fwを決定する工程である。眼鏡装用距離ELと、予め設定された水平注視野角Faとから水平注視野幅Fwを算出する。
[眼球下転量測定工程]
眼球下転量測定工程は眼球下転量測定装置1を用いて、眼球下転量Indihを求める工程である。
これらの工程を図15で示される手順に従って実施する。
【0047】
図3に示される通り、まず、眼球下転量測定装置1の2つある装用者用椅子302のうち片側、例えば、左側に図示される装用者用椅子302に装用者が座り、装用フレームのフィッティングを行う(S11)。この工程では、装用者用椅子302に座った装用者が検査対象となる眼鏡レンズ10の眼鏡をかけ、自然な状態で、装用者に遠くをみるように正面に視線を向けてもらう。なお、この工程において、装用者の側面を側面撮像手段4で撮像し、眼鏡装用距離ELを求める。
その後、装用者の片方の眼、例えば、左眼の遠用アイポイントラインを決定する(S12)。そのため、装用者に正面を向いてもらい、眼鏡レンズ10において装用者の瞳孔部分ECに対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定し、この位置に検査員が所定の印、例えば、赤い印を片側の眼球レンズにつける。さらに、頭位置フリー環境で近方視状態を確認する(S13)。装用者に頭部を自然な状態にしてもらい、近用アイポイントの位置を推測する。
【0048】
その後、アーム部材の位置決め工程を実施する(S14)。そのため、アーム支持部材31を支柱301に対して回動し、さらに、アーム支持部材31を伸縮し、アーム部材32をアーム支持部材31に対して回動させてアーム部材32の回動端部である回動部312Aを装用者の眼球Eの側面に位置させる(図4参照)。
その後、装用者の遠用アイポイントラインと眼球中心である瞳孔部分ECとを一致させる(S15)。そのため、装用者に遠用アイポイントラインとして記した部分を見てもらい、この装用者の正面をカメラ33で撮像する(図5(A)参照)。カメラ33で撮像された画像33Aを検査員が見ながら確認し、その際のアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34でゼロセットし、このゼロとされた傾斜角を第一角度として検出する(S16)。ゼロセットのための操作は演算手段5のキーボード等の入力手段を通じて行うことも可能である。
【0049】
次に、装用者の近用アイポイントラインと眼球中心とを一致させる(S17)。そのため、装用者に自然に視線を下げてもらう。例えば、図3に示される通り、装用者に書類Dを手に持ってもらい、自然に手元の書類Dに視線を落としてもらう。近用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置するまでアーム部材32を回動させる(図5(B)参照)。このアーム部材32の回動に伴って傾斜角表示部33Bで表示される傾斜角の数値が大きくなる。近用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置したなら、それをカメラ33で撮像された画像33Aを検査員が見ながら確認し、その際のアーム部材32の傾斜角を第二角度としてアーム回動角検出手段34で検出する(S18)。なお、眼鏡レンズ10の下端20Pの位置が正面の位置となるまでカメラ33を下方にゆっくり移動させ、その位置を求め、眼鏡レンズ10の近用アイポイントNPと下端20Pとの間のみかけ上の長さMを測定しておく。
さらに、この第二角度検出工程で検出された傾斜角に基づいて遠用アイポイントFPの位置と近用アイポイントNPの位置との間の距離を演算手段5で算出する(S19)。
ここで、本実施形態では、図15で示される手順に限定されるものではなく、図16で示される手順でも実施可能である。つまり、第一角度検出工程では装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに装用者の瞳孔が正面に位置することを検出し(S25,S26)、装用者が視線を上げた状態で遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置することを検出し(S27)、この正面位置でのアーム部材32の傾斜角を第二角度検出工程で検出する(S28)。他の手順S21〜S24,S29は図15で示される手順S11〜S14,S19と同じである。
演算手段5では、前述の式(a)〜(f)に基づいて眼球下転量Indihが算出される。
【0050】
本実施形態では、両眼で眼球下転量Indihを算出する。そのため、前述の工程で算出していない片方の眼、例えば、右眼についても同様の工程を実施する。まず、装用者は今まで座っていた左側の装用者用椅子302を離れて右側の装用者用椅子302に座り直し、支柱301に対してアーム支持部材31を180度以上回動させる。これにより、カメラ33は装用者の右眼を中心とした正面を撮像できることになる。そして、前述の工程を右眼でも実施する。
【0051】
眼鏡レンズ選択方法を図17のフローチャートに従って説明する。
図17に示される通り、まず、水平注視野幅Fwのデータは選択装置7に入力される(S101)。さらに、眼球下転量Indihのデータは選択装置7に入力される(S102)。
そして、選択装置7に遠用アイポイント高さFh、近用部高さNh、玉型高さBh、累進帯長SPh、上部フレーム高さOh、下部フレーム高さUh、その他のレンズ情報やフレーム情報が入力される(S103)。
[演算工程]
以上のデータは演算部702に送られ、この演算部702では、眼球下転量Indih、遠用アイポイント高さFh、累進帯長SPh及び近用部高さNhに基づいて、ΔEを演算し、さらに、このΔEと、玉型高さBhと、上部フレーム高さOhと、遠用アイポイント高さFhと、累進帯長SPhと、近用部高さNhと、下部フレーム高さUhとに基づいてΔBhを演算する(S104)。
【0052】
[判定工程]
演算部702からの演算結果と水平注視野幅Fwとに基づいて判定部704では、前述の通り、3種類の眼鏡レンズ10のそれぞれについて判定をする。
例えば、図18で示される遠近重視のタイプの眼鏡レンズ10では、Fh>4mm、0mm≦ΔE≦2mm、0mm<ΔBhの条件を満たすか否かを判定し(S105)、条件を満たす場合には図18(A)で示されるCタイプの眼鏡レンズ10を選択し(S106)、条件を満たさない場合にはBタイプのレンズが条件を満たすか否かを判定する(S107)。
Bタイプのレンズの選択条件は、3mm<Fh≦4mm、0mm≦ΔE≦2mm、0mm<ΔBhであり、これらの条件を満たす場合には図18(B)で示されるBタイプの眼鏡レンズ10を選択し(S108)、条件を満たさない場合にはAタイプのレンズが条件を満たすか否かを判定する(S109)。
Aタイプのレンズの選択条件は、1mm≦Fh≦3mm、0mm≦ΔE≦2mm、0mm<ΔBhであり、これらの条件を満たす場合には図18(C)で示されるAタイプの眼鏡レンズ10を選択し(S110)、条件を満たさない場合にはAからCタイプ以外の他のレンズを選択する(S111)。
【0053】
図19で示される中近重視のタイプの眼鏡レンズ10では、図17で示されるフローチャートに従って、図19(A)で示されるCタイプの眼鏡レンズ10の選択が実施され、図19(B)で示されるBタイプの眼鏡レンズ10の選択が実施され、図19(C)で示されるAタイプの眼鏡レンズ10又は他のレンズの選択が実施される。
図20で示される近近重視のタイプの眼鏡レンズ10では、図17で示されるフローチャートに従って、図20(A)で示されるCタイプの眼鏡レンズ10の選択が実施され、図20(B)で示されるBタイプの眼鏡レンズ10の選択が実施され、図20(C)で示されるAタイプの眼鏡レンズ10又は他のレンズの選択が実施される。
ただし、中近重視の眼鏡レンズ10と近近重視の眼鏡レンズ10は図18で示される遠近重視の眼鏡レンズ10の場合に比べて水平注視野幅Fwが相違する。
本実施形態では、以上の工程で説明した眼鏡レンズ10の選択を、左右の眼で実施する。
【0054】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)装用者の遠用アイポイントFPに対応する正面視線LFの位置と近用アイポイントNPに対応する下方視線LNの位置とを検出する視線位置検出手段3と、この視線位置検出手段3で検出された遠用アイポイントFPの位置と近用アイポイントNPの位置との間の距離を演算する演算手段5とを備えて眼球下転量測定装置1を構成した。眼球下転量Indihを測定するにあたり、装用者が眼鏡をかけた状態であるので、装用者の姿勢にかかわらず、遠用アイポイントFPと近用アイポイントNPとをそれぞれ正確に検出することができ、眼球下転量Indihを正確かつ簡単にしかも低いコストで測定することができる。
【0055】
(2)視線位置検出手段3は、基端が回動可能とされるとともに装用者の眼球Eの側方位置に位置するアーム部材32と、このアーム部材32の先端側に設けられ装用者の眼球Eの正面位置を検出するカメラ33と、アーム部材32の回動角度を検出するアーム回動角検出手段34とを有する構成とした。そのため、装用者の姿勢にかかわらず自然な姿勢で、遠用アイポイントFPと近用アイポイントNPとをそれぞれ検出することが可能となり、眼球下転量Indihを正確かつ簡単に測定することができる。特に、遠用アイポイントFPと近用アイポイントNPとを求めるにあたり、装用者の瞳孔部分ECの位置を画像で検出するのではなく、アーム部材32の傾斜角で求めるので、視線位置検出手段3の構造がより簡易となり、装置のコスト低下を徹底することができる。なお、本実施形態では、アーム部材32の基端を装用者の眼球Eの側方になるように設定することが必要であるが、図21のアーム部材の設定誤差と眼球下転量の誤差との関係を示すグラフに示される通り、S1〜S10で示される各サンプルにおいても、設定誤差が+5.0mmから−5.0mmの範囲となっても、最終的な眼球下転量の誤差が+0.30mmから−0.3mmの範囲に収まることになり、事実上、設定誤差に伴う影響が少ないことがわかる。
【0056】
(3)アーム部材32の基端側をアーム支持部材31に回動可能に支持し、このアーム支持部材31を支柱301に回動可能に取り付けたから、アーム部材32のアーム支持部材31に対する回動角度を調整し、アーム支持部材31の支柱301に対する回動角度を調整することで、アーム部材32の回動基端の装用者の眼球Eの側方位置への位置決めを容易に行うことができることになり、眼球下転量Indihの測定を精度よく行うことができる。
【0057】
(4)アーム支持部材31を、基端部が支柱301に回動自在に支持された角柱部310と、この角柱部310が進退自在に収納された角筒部311とを備え、その軸方向に進退自在に構成したから、アーム支持部材31を伸縮することで、アーム部材32の回動基端の装用者への位置決めをより容易に行うことができる。
(5)支柱301を挟んでそれぞれ反対側に装用者用椅子302を配置し、これらの装用者用椅子302に対応するように、アーム支持部材31の先端側が支柱301を挟んで互いに反対側に位置するように回動可能としたので、装用者の左右の眼球において、眼球下転量Indihが異なっても、左右異なる眼球下転量Indihを正確に測定することができる。
【0058】
(6)装用者の正面を撮像するためにカメラ33を用いたので、装用者の正面位置を正確かつ確実に撮像することができる。つまり、装用者の顔の大きさに応じてカメラ33のフォーカス機能を有効に利用することで、装用者の撮像を精度よく行うことができ、しかの、装置自体のコストを低いものにできる。
【0059】
(7)演算手段5は、前傾角θと、下方視線LNと眼鏡レンズ10の眼球側平面OLとのなす角度βと、眼鏡レンズ10の眼球側平面OLと正面視線LFとのなす角度γと、眼鏡レンズ10の眼球側平面OLとフレーム20の眼鏡側面の下端20Pの位置から下方視線LNにおろした法線VLとのなす角度δと、下端20Pの位置から下方視線LNにおろした法線VLの距離Mとに基づいて近用アイポイントの長さNを前述の(a)〜(d)の式から演算する構成とした。そのため、(a)〜(d)の式を演算手段5のメモリーに予め登録しておくことで、近用アイポイントの長さNを眼鏡レンズ10の厚さにかかわらず、簡単かつ正確に算出することができる。
【0060】
(8)演算手段5は、前傾角θと、フレームの下端20Pの位置と正面視線LFとの間の距離Kとに基づいて、遠用アイポイントの長さLを前述の(e)の式から演算する構成とした。そのため、(e)の式を演算手段5のメモリーに予め登録しておくことで、遠用アイポイントの長さLを眼鏡レンズ10の厚さにかかわらず、簡単かつ正確に算出することができる。
(9)フレーム20の前傾角θを測定する側面撮像手段4を備えたから、前傾角θを装用者が眼鏡を装用した状態で計測できるので、装用状態にかかわらず、正確な前傾角θを求めることができる。
【0061】
(10)装用者に眼鏡レンズ10を装着した状態で正面を向かせ瞳孔部分ECに対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定し、アーム部材32の回動基端を装用者の眼球Eの側方位置に位置させ、遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置することをカメラ33で検出し、この正面位置でのアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34で検出し、さらに、装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに瞳孔部分ECが正面に位置することをカメラ33で検出し、この位置でのアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34で検出し、これらの工程で検出された傾斜角の差から求められる眼球下転角度αに基づいて遠用アイポイントFPの位置と近用アイポイントNPの位置との間の距離を求める構成とすれば、前述の構成の装置を用いて簡易に眼球下転量Indihを求めることが可能となる。
【0062】
(11)同様に、装用者に眼鏡レンズ10を装着した状態で正面を向かせ瞳孔部分ECに対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定し、アーム部材32の回動基端を装用者の眼球Eの側方位置に位置させ、近用アイポイントラインに装用者の瞳孔部分ECが正面に位置することをカメラ33で検出し、この正面位置でのアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34で検出し、さらに、装用者が視線を上げた状態で遠用アイポイントに瞳孔部分ECが正面に位置することをカメラ33で検出し、この位置でのアーム部材32の傾斜角をアーム回動角検出手段34で検出し、これらの工程で検出された傾斜角の差から求められる眼球下転角度αに基づいて遠用アイポイントFPの位置と近用アイポイントNLの位置との間の距離を求める構成とすれば、前述の構成の装置を用いて簡易に眼球下転量Indihを求めることが可能となる。
【0063】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
例えば、前記実施形態では、両眼で眼球下転量Indihを算出して眼鏡レンズ10を選択したが、本発明では、片側の眼、例えば、左眼のみで眼球下転量Indihを算出して眼鏡レンズ10を選択するものでもよい。例えば、穴あきカードを用いて優位眼(通称、利き目)を測定し、その優位眼についてのみ眼球下転量Indihを算出して眼鏡レンズ10を選択するものでもよい。
前記実施形態では、アーム回動角検出手段34をゼロセット可能な構成としたが、本発明では、ゼロセット可能な構成とはせず、アーム部材32の水平面に対する傾斜角の情報を演算手段5に直接出力し、この演算手段5で傾斜角の差を求める構成としてもよい。
【0064】
また、前記実施形態では、遠用部領域11が広いAタイプ、遠用部領域11が中間のBタイプ及び遠用部領域11が狭いCタイプの3種類のタイプの眼鏡レンズ10から1つの最適な眼鏡レンズ10を選択することにしたが、本発明では、遠用部領域11の広さを大きく2つに区分し、これらの2つのタイプから選択するようにしてもよく、あるいは、遠用部領域11の広さを4つ以上に区分し、これらの4つ以上のタイプから1つの眼鏡レンズを選択することにしてもよい。
【0065】
さらに、水平注視野幅決定工程において、水平注視野角Faを装用者個々に応じて設定するものでもよい。また、水平注視野角Faを、遠近重視の眼鏡レンズ10、中近重視の眼鏡レンズ10及び近近重視の眼鏡レンズ10でも共通としてもよい。
また、図13で示されるテーブル8をマニュアル用として予め作成し、このマニュアルに基づいて眼鏡レンズを選択するものでもよい。
前記実施形態では、フレーム20の前傾角θを測定する側面撮像手段4を備えて眼球下転量測定装置1を構成したが、本発明では、装用者が正しい姿勢で眼鏡をかけているものであれば、前傾角θは設計上のデータを眼球下転量の測定にそのまま用いることができ、前傾角測定手段4を省略することができる。
また、画像33Aには必ずしも傾斜角表示部33Bを設けることを要しない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、累進屈折力レンズを選択する装置として、眼鏡の販売店等で広く利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…眼球下転量測定装置、3…視線位置検出手段、5…演算手段、7…選択装置、10…眼鏡レンズ、11…遠用部領域、12…近用部領域、13…累進帯、20…フレーム、20P…下端、21…フレーム枠、21D…下辺部、21U…上辺部、30…基台、31…アーム支持部材、32…アーム部材、33…カメラ(正面検出機構)、34…アーム回動角検出手段、301…支柱、302…装用者用椅子、70…選択制御部、71…第一入力部、72…第二入力部、73…データ出力部、701…眼鏡情報データ入力部、702…演算部、703…レンズタイププロファイル部、704…判定部、EP…遠用アイポイント、Indih…眼球下転量、NP…近用アイポイント、α…眼球下転角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装用者が実際に装着するとともに上辺部と下辺部とを有するフレームに装着される眼鏡レンズの遠用アイポイントから近用アイポイントまでの長さを測定する装置であって、
装用者の前記遠用アイポイントに対応する視線の位置と前記近用アイポイントに対応する視線の位置とを検出する視線位置検出手段と、
この視線位置検出手段で検出された前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を演算する演算手段とを備え、
前記視線位置検出手段は、一端が回動可能とされるとともに装用者の眼球の側方位置に位置するアーム部材と、このアーム部材の他端側に設けられ装用者の眼球の正面位置を検出する正面検出機構と、前記アーム部材の回動角度を検出するアーム回動角検出手段とを有する
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼球下転量測定装置において、
前記アーム部材の一端側はアーム支持部材に回動可能に支持され、このアーム支持部材は支柱に回動可能に取り付けられている
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載された眼球下転量測定装置において、
前記アーム支持部材は伸縮可能とされている
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載された眼球下転量測定装置において、
前記支柱を挟んでそれぞれ反対側に配置された装用者用椅子を備え、前記アーム支持部材は、その先端側が前記支柱を挟んで互いに反対側に位置するように回動可能とされる
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載された眼球下転量測定装置において、
前記正面検出機構はカメラである
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載された眼球下転量測定装置を用いて眼球下転量を測定する方法であって、
前記装用者に前記眼鏡レンズを装着した状態で正面を向かせ前記眼鏡レンズの装用者の瞳孔に対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定する遠用アイポイントライン決定工程と、
前記アーム部材の回動可能とされる一端を前記装用者の眼球の側方位置に位置させるアーム部材の位置決め工程と、
前記遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この正面位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第一角度検出工程と、
前記装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに前記装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第二角度検出工程と、
前記第一角度検出工程で検出された傾斜角と前記第二角度検出工程で検出された傾斜角との差から求められる眼球下転角度に基づいて前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を前記演算手段で求める算出工程と、
を備えたことを特徴とする眼球下転量測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載された眼球下転量測定装置を用いて眼球下転量を測定する方法であって、
前記装用者に前記眼鏡レンズを装着した状態で正面を向かせ前記眼鏡レンズの装用者の瞳孔に対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定する遠用アイポイントライン決定工程と、
前記アーム部材の回動可能とされる一端を前記装用者の眼球の側方位置に位置させるアーム部材の位置決め工程と、
前記装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに前記装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第一角度検出工程と、
前記装用者が視線を上げた状態で前記遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この正面位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第二角度検出工程と、
前記第一角度検出工程で検出された傾斜角と前記第二角度検出工程で検出された傾斜角との差から求められる眼球下転角度に基づいて前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を前記演算手段で求める算出工程と、
を備えたことを特徴とする眼球下転量測定方法。
【請求項1】
装用者が実際に装着するとともに上辺部と下辺部とを有するフレームに装着される眼鏡レンズの遠用アイポイントから近用アイポイントまでの長さを測定する装置であって、
装用者の前記遠用アイポイントに対応する視線の位置と前記近用アイポイントに対応する視線の位置とを検出する視線位置検出手段と、
この視線位置検出手段で検出された前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を演算する演算手段とを備え、
前記視線位置検出手段は、一端が回動可能とされるとともに装用者の眼球の側方位置に位置するアーム部材と、このアーム部材の他端側に設けられ装用者の眼球の正面位置を検出する正面検出機構と、前記アーム部材の回動角度を検出するアーム回動角検出手段とを有する
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼球下転量測定装置において、
前記アーム部材の一端側はアーム支持部材に回動可能に支持され、このアーム支持部材は支柱に回動可能に取り付けられている
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載された眼球下転量測定装置において、
前記アーム支持部材は伸縮可能とされている
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載された眼球下転量測定装置において、
前記支柱を挟んでそれぞれ反対側に配置された装用者用椅子を備え、前記アーム支持部材は、その先端側が前記支柱を挟んで互いに反対側に位置するように回動可能とされる
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載された眼球下転量測定装置において、
前記正面検出機構はカメラである
ことを特徴とする眼球下転量測定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載された眼球下転量測定装置を用いて眼球下転量を測定する方法であって、
前記装用者に前記眼鏡レンズを装着した状態で正面を向かせ前記眼鏡レンズの装用者の瞳孔に対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定する遠用アイポイントライン決定工程と、
前記アーム部材の回動可能とされる一端を前記装用者の眼球の側方位置に位置させるアーム部材の位置決め工程と、
前記遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この正面位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第一角度検出工程と、
前記装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに前記装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第二角度検出工程と、
前記第一角度検出工程で検出された傾斜角と前記第二角度検出工程で検出された傾斜角との差から求められる眼球下転角度に基づいて前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を前記演算手段で求める算出工程と、
を備えたことを特徴とする眼球下転量測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載された眼球下転量測定装置を用いて眼球下転量を測定する方法であって、
前記装用者に前記眼鏡レンズを装着した状態で正面を向かせ前記眼鏡レンズの装用者の瞳孔に対応する位置を遠用アイポイントラインとして決定する遠用アイポイントライン決定工程と、
前記アーム部材の回動可能とされる一端を前記装用者の眼球の側方位置に位置させるアーム部材の位置決め工程と、
前記装用者が視線を下げた状態で近用アイポイントに前記装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第一角度検出工程と、
前記装用者が視線を上げた状態で前記遠用アイポイントラインに装用者の瞳孔が正面に位置することを前記正面検出機構で検出し、この正面位置での前記アーム部材の傾斜角を前記アーム回動角検出手段で検出する第二角度検出工程と、
前記第一角度検出工程で検出された傾斜角と前記第二角度検出工程で検出された傾斜角との差から求められる眼球下転角度に基づいて前記遠用アイポイントの位置と前記近用アイポイントの位置との間の距離を前記演算手段で求める算出工程と、
を備えたことを特徴とする眼球下転量測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−75977(P2011−75977A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229408(P2009−229408)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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