説明

眼科手術用レーザービーム特性の動的測定システムと方法

【課題】本発明は、レーザーによる角膜の切除量を決定し監視する方法とシステムに関し、特に手術処理実施中に、較正処理を実時間で実行できるようにする。
【解決手段】本発明の方法は、パルス型治療用レーザーからのビームのレーザーショットを、参照部分としてサンプリングすることを含む。そして、該参照部分のビームのフルエンス分布を測定し、測定したフルエンス分布からレーザービーム特性を算出する。レーザーによる角膜の切除量を決定し監視するためのシステムは、ビームスプリッターを含み、該ビームスプリッターは、パルス型治療用レーザーからのビームのレーザーショットを、角膜部分と参照部分とに分割する位置に設定する。上記システムの各装置は、ビームの参照部分のフルエンス分布を測定し、および測定したフルエンス分布からレーザーショット当りの切除量を算出することを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科手術用レーザーに直接関するものであり、より詳細に述べれば、レーザーによる眼科手術用装置のレーザービーム特性を、実時間で監視し評価するシステムと方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科手術において、レーザーシステムは、注意深く較正する必要がある。例えば、一般的にエキシマレーザー・システムを使用するレーザーによる屈折矯正手術において、各レーザーショットによって切除される物質量は、正しく較正する必要がある。較正用測定を、人間の角膜に似せて選んだプラスチックの合成物質上で行うことは、現在当業者に知られている。そして、レーザーショットによって切除される量は、所定数のレーザーショットによって生成された「クレーター(crater)」の切除部分の直径によって算出される。
【0003】
上記算出方法の基礎となる理論は、下記のいくつかの仮定をベースとしている。
(1)レーザー放射によるプラスチック物質への切除効果は、レーザーショットの数に依存する。
(2)較正に使用するプラスチック物質でのレーザーのショット当りの切除量と、角膜でのレーザーのショット当りの切除量との間には、良く知られた関係がある。
(3)エキシマレーザーのプロファイルは、ガウス分布を示しかつ回転対称であるとの前提で、レーザーのショット当りの切除量が算出される。
【0004】
また、レーザーシステムの他の特性も、較正する必要がある。例えば、超高速のレーザーシステムにおいて、手術処理期間中に、一時的応答でどのような変化があったか確定させておくことは重要なことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザー外科手術システムにおいて較正を実行するために、より確実なシステムと方法とを実現することは有益なことである。具体的には、較正処理を、手術処理実施中に実時間で実行できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、レーザーによる角膜の切除量を決定し監視するシステムおよび方法に関連する。提示する方法は、パルス型治療用レーザーからのビームのレーザーショットを、参照部分においてサンプリングするステップを含む。ビームの参照部分でのフルエンス分布を測定し、測定したフルエンス分布から、ショット当りの切除量を算出する。「フルエンス」は、単位面積当りに照射されたエネルギーの総量として規定し、測定する。測定値は、例えばジュール/平方センチメートルで規定する。
【0007】
角膜でのレーザー切除量を決定し監視するシステムは、ビームスプリッターのようなビームサンプラを含む。このビームスプリッターは、パルス型治療用レーザーからのビームのレーザーショットを分割し、手術装置の各々の入射部分に入射するように設定される。例えば、分割された入射部分は、一方が治療を実施する部分であり、また別の一方がサンプリングもしくは参照用とする部分である。上記システムが有する手段は、サンプリングによりビームのフルエンス分布を測定すること、および測定したフルエンス分布からレーザーショット当りの切除量を算出することである。
【0008】
本発明を特徴付ける特長は、処理の組織化と秩序化との両方に関連し、添付図面に関連する以下の説明から、本発明の目標と便利性と共に、より一層理解されるであろう。図面は、図解および説明の目的であり、本発明の限界を規定することを意図したものでないことは明確に理解すべきである。本発明によって得られる種々の別の目標および実現する便利性も、添付図面に関連して以下の記述に読むにしたがい、充分に一層明解になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好ましい実施例の説明を、図1A〜図2に関連して記述する。角膜のレーザー切除を実施するシステム10は、パルス型治療用レーザー11を具備し、このレーザー11は、例えばエキシマレーザーにすることができる(図1A、1B参照)。光学システム12は、レーザー11の光学的経路内に設定する。コントローラ13は、所定の切除用プロファイルに基づき、治療用レーザー11からのショット配列を制御するために、光学システム12と信号交信を行う。切除用プロファイルは、当業者には既知なので、通常、眼15の角膜14に対して事前に決定することができる。
【0010】
ビームスリッターのようなビームサンプラ16は、治療用レーザー11からのレーザーショット17を、治療部分18と参照部分19とでサンプリングするように設定する。角膜の屈折矯正手術の一実施例において、例えば治療部分18のレーザーショットは角膜14に入射される。以下では、治療部分18を「角膜部分」として呼ぶ。本発明の方法100(図2参照)において、好ましいことに、較正は、角膜部分18のフルエンス分布を決定するために、手術前に実行される(図2におけるブロック101の処理)。例えば、上記較正は、レーザービームのフルエンス観測記録装置またはエネルギー計測器のような測定装置20の使用によって実行される(図1A参照)。本発明の方法100を、角膜の屈折矯正手術の例示的な実施例に関連して説明することになるが、しかし本発明の方法を別タイプのレーザー治療に使用することを制限するものではない。
【0011】
ビームの参照部分のフルエンス分布を測定する手段、例えばレーザービームのフルエンス観測記録装置21は、角膜平面(すなわち、治療用平面)22の所に設定する。治療の間(図1B参照)、所定の切除用プロファイルが完成するように、ビームスリッター16は、コントローラ13の指示のもと、角膜部分18を角膜14に所定のパターンで導く(ブロック102の処理)。切除用プロファイルは、ショット当りの角膜細胞の切除量(VPS:Volume of corneal tissue ablated Per Shot)の仮定に基づくことになるが、この切除量の値を、的確にかつ周期的に、実時間での較正を実行することは、結果として有益になると考える。
【0012】
上記のような較正処理を実現するために、参照部分19は、以下で説明する計算式を使用して、レーザービームのフルエンス観測記録装置21によって監視される(ブロック103の処理)。角膜平面におけるエキシマレーザー・ビームスポットの特定点で、放射輝度フルエンスすなわち放射露光がF0のとき、ベールの法則(Beer's Law)を使用してパルス当りの切除深度を算出することができる。ベールの法則は、光学的吸収媒体における光の減衰を下式で表現する。
【数1】

ここで、F0は、分離設定された受光表面でのフルエンスであり、αは媒体の吸収係数である。および、Fは、吸収媒体の深さzにおけるフルエンスである。
【0013】
切除用フルエンスの閾値が既知と仮定すると、切除領域Aの地点(x,y)でのレーザーフルエンス、すなわちこの地点での切除深度は、下式で与えられる。
【数2】

【0014】
レーザーパルス当りの切除量、すなわちショット当りの切除量VPSは、下式で与えられる。
【数3】

ここで、Aは、F(x,y)=FTHで規定できるパルス切除領域を表す。
【0015】
従って、パルス型エキシマレーザー11のフルエンス分布を角膜平面22で測定すること、および式(3)を適用することは、ショット当りの切除量の正確な推定値を得ることになる(ブロック104の処理)。
【0016】
好ましいことに、参照部分での計算は、角膜切除処理中に所定の時間間隔で実行される(ブロック105)。VPSの値を、前回の測定値から実質的に変更しないとき(ブロック106の判断)、切除用プロファイルは変更されずに従来からの手順が続行される(ブロック107)。VPSの値を、実質的に変更するとき(ブロック106の判断)、手順続行(ブロック107)前に、システムを調整する(ブロック108)。この処理は、プロファイルが完成するまで続行される(ブロック109の判断)。
【0017】
一層正確な、実時間での較正は、ビームのプロファイルに関する仮定をしなくても、また、角膜と合成物質との等価に関する仮定をしなくても、ショット当りの切除値で実行できることが理解できる。
【0018】
上記までの説明で、いくつかの用語は、簡潔明解にかつ理解できるように使用しているが、しかし、このことから、不必要な制限が、従来技術の要求を超えることを示唆するものでもない。何故なら、このような用語は、この中で説明の目的に使用するもので、広く解釈されることを意図している。さらに、この中で図示および説明した装置の実施例は、一例であって、本発明の範囲は、構成の具体的な詳細事項に限定されるものではない。
【0019】
本発明をここまで説明してきたが、本発明の構成、処理、および好ましい実施例での使用、ここで得られた好都合な新規で有効な結果、新規で有効な構成、および同業者に明白な妥当なメカニカルな等価内容は、特許請求の範囲の中に記述している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】本発明の較正用に設定した切除および監視システムの概略図である。
【図1B】本発明の治療用に設定した切除および監視システムの概略図である。
【図2】本発明の典型的な一実施例における方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0021】
11 レーザー
12 光学システム
13 コントローラ
14 角膜
15 眼
16 ビームサンプラ
17 レーザーショット
18 治療部分(角膜部分)
19 参照部分
20 フルエンス観測記録装置
21 フルエンス観測記録装置
22 角膜平面(治療用平面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科治療用レーザーのレーザービーム特性を決定し監視する方法であって、
パルス型治療用レーザーからのビームのレーザーショットを、参照部分としてサンプリングするステップ、
前記ビームの参照部分のフルエンス分布を測定するステップ、および
測定した前記フルエンス分布からレーザービーム特性を算出するステップ、を含む方法。
【請求項2】
前記フルエンス分布を治療用平面で測定する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザービーム特性は、前記レーザーショットが覆う切除領域の各地点における切除深度関数として算出されるショット当りの切除量からなる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ショット当りの切除量は、前記切除領域全てにおける前記切除深度を積分することで算出し、前記切除深度は下式で算出し、
【数1】

ここで、αは吸収係数を、Fは場所(x、y)での前記フルエンスを表し、およびFTHは角膜のフルエンス閾値を表す請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記切除領域全てにおける前記切除深度の前記積分は、下式に等しく、
【数2】

ここで、Aは、F(x,y)=FTHによって規定されるパルスの前記切除領域を表し、またFTHは角膜のフルエンス閾値を表す請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記測定するステップは、レーザービーム・フルエンス観測記録装置を使用することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプリングするステップは、前記ビームのレーザーショットを治療部分と前記参照部分とに分割することを含み、および、前記測定するステップでの前記ビームの参照部分の前記フルエンス分布を較正するために、該治療部分のフルエンス分布を決定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
眼科手術実施期間中、所定の時間間隔で、前記測定するステップと前記算出するステップとを繰り返すことを含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記所定の時間間隔で、算出された前記レーザービーム特性に基づく前記眼科手術実施期間中に実行する治療手順を調整するステップを、さらに含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
レーザービーム特性を決定し監視するシステムにおいて、
パルス型治療用レーザーからのビームのレーザーショットを、参照部分としてサンプルするように設定されたサンプラ、
前記ビームの参照部分のフルエンス分布を測定する手段、および
測定した前記フルエンス分布から、レーザービーム特性を算出する手段、を含むシステム。
【請求項11】
前記フルエンス分布を測定する手段を治療用平面に設定する請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記レーザービーム特性は、前記レーザーショットが覆う切除領域の各地点における切除深度関数として算出されるショット当りの切除量からなる請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記ショット当りの切除量は、前記切除領域全てにおける前記切除深度を積分することで算出し、前記切除深度は下式で算出し、
【数3】

ここで、αは吸収係数を、Fは場所(x、y)での前記フルエンスを表し、およびFTHは角膜のフルエンス閾値を表す請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記切除領域全てにおける前記切除深度の前記積分は、下式に等しく、
【数4】

ここで、Aは、F(x,y)=FTHによって規定されるパルスの前記切除領域を表し、またFTHは角膜のフルエンス閾値を表す請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記測定する手段は、レーザービーム・フルエンス観測装置からなる請求項10に記載のシステム。
【請求項16】
前記サンプラは、前記ビームのレーザーショットを治療部分と前記参照部分とに分割するビームスリッターを含み、および、前記測定する手段での前記ビームの参照部分の前記フルエンス分布を較正するために、該治療部分のフルエンス分布を決定するための手段をさらに含む請求項10に記載のシステム。
【請求項17】
眼科手術実施期間中、所定の時間間隔で実行する前記測定する手段と前記算出する手段とを、信号伝達するコントローラをさらに含む請求項10に記載のシステム。
【請求項18】
前記所定の時間間隔で、算出された前記レーザービーム特性に基づく前記眼科手術実施期間中に実行する治療手順を調整する手段を、さらに含む請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
眼科手術処理を実行するシステムにおいて、
パルス型治療用レーザー、
前記パルス型治療用レーザーの光学的経路内の光学システム、
所定の治療手順に基づいてレーザービーム特性を制御するために、前記光学システムと信号通信状態にあるコントローラ、
前記治療用レーザーからのビームのレーザーショットを、参照部分としてサンプルするように設定されたサンプラ、
前記ビームの参照部分のフルエンス分布を測定する手段、
測定した前記フルエンス分布からレーザービーム特性を算出する手段、および
算出した前記レーザービーム特性に基づく治療手順を調整するために、前記コントローラと通信状態にする手段、を含むシステム。
【請求項20】
前記フルエンス分布を測定する手段を治療用平面に設定する請求項21に記載のシステム。
【請求項21】
前記レーザービーム特性は、前記レーザーショットが覆う切除領域の各地点における切除深度関数として算出されるショット当りの切除量からなる請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
前記ショット当りの切除量は、前記切除領域全てにおける前記切除深度を積分することで算出し、前記切除深度は下式で算出し、
【数5】

ここで、αは吸収係数を、Fは場所(x、y)での前記フルエンスを表し、およびFTHは角膜のフルエンス閾値を表す請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記切除領域全てにおける前記切除深度の前記積分は、下式に等しく、
【数6】

ここで、Aは、F(x,y)=FTHによって規定されるパルスの前記切除領域を表し、またFTHは角膜のフルエンス閾値を表す請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記測定する手段は、レーザービーム・フルエンス観測装置からなる請求項19に記載のシステム。
【請求項25】
前記サンプラは、前記ビームのレーザーショットを治療部分と前記参照部分とに分割するビームスリッターを含み、および、前記測定する手段での前記ビームの参照部分の前記フルエンス分布を較正するために、該治療部分のフルエンス分布を決定するための手段をさらに含む請求項19に記載のシステム。
【請求項26】
眼科手術実施期間中、所定の時間間隔で実行する前記測定する手段と前記算出する手段とを、信号伝達するコントローラをさらに含む請求項19に記載のシステム。
【請求項27】
算出された前記レーザービーム特性に基づく前記眼科手術実施期間中に実行する治療手順を調整するために、前記調整する手段が前記所定の時間間隔で動作する請求項26に記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−167654(P2007−167654A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−341758(P2006−341758)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(504230051)アルコン リフラクティブホライズンズ,インコーポレイティド (12)
【Fターム(参考)】