説明

眼科用レンズ

【課題】老眼を矯正又は最小限化することができ、又は近視予防レンズ用として機能することができる、眼科用レンズを提供する。
【解決手段】オプチカルゾーン110を含み、このオプチカルゾーン110が、第一の面及び反対側の第二の面を有し、眼科用レンズの頂部108から底部109まで垂直方向に指向されたコマ収差様波面収差を含む。オプチカルゾーン110の第一の面及び第二の面の少なくとも一方が、スプラインベースの数学的関数又は二以上の数学的関数の組み合わせによって表わされ、オプチカルゾーン110の第一の面及び第二の面の少なくとも一方が非対称であり、オプチカルゾーン110が、オプチカルゾーン110の頂部108から底部109まで増大して行く光学度数を有する。眼科用レンズは、コンタクトレンズ、有水晶体眼内レンズ、又は無水晶体眼内レンズであっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、垂直方向コマ収差様波面収差を有し、老眼を矯正する、又は子供の眼が重度の近視になることを予防することができる、コンタクトレンズ及び眼内レンズをはじめとする眼科用レンズに関する。加えて、本発明は、老眼を最小限化/矯正する、又は子供の眼が重度の近視になることを予防する方法を提供する。
【0002】
発明の背景
老眼は、歳をとるにつれ、水晶体がその弾性を失い、最終的には眼が近距離、たとえは普通にものを読むときの距離及び場合によっては中間距離に合焦する能力を失うときに起こると考えられている。老眼の人(老視者)は、近距離作業を行う際に困難を訴える。老眼を補正するためには、遠見矯正のための眼科用レンズよりもプラス度数が強い又はマイナス度数が弱い眼科用レンズが必要である。一部の老視者は、近見視力及び遠見視力の両方の障害を有し、視力を正しく矯正するためには、単一視レンズではなく、セグメント化二重焦点もしくは多焦点レンズ又は累進多焦点レンズを要する。
【0003】
老視者の多くは乱視性屈折異常をもかかえている。乱視は、眼における光学度数経線依存性屈折異常である。これは普通、一以上の屈折面、もっとも一般的には前部角膜がトロイダル形状を有することによる。また、一以上の面が横方向に変位又は傾斜していることによることもある。乱視は通常、正乱視であり、それは、主(最大及び最小度数)経線が互いに対して垂直であることを意味する。乱視の人はすべての距離で不鮮明な視覚を有するが、これは、乱視のタイプに依存して、遠見又は近見で悪化するおそれがある。これらの人々は、厳しい視覚的作業に伴って眼の痛み及び頭痛を訴えることもある。乱視は、通常は一つの球面及び一つのトロイダル(円柱)面を有する乱視用眼科レンズによって矯正することができる。
【0004】
近視及び遠視ならびに乱視は、眼の光学系の低次(デフォーカス及び非点収差)及び高次収差又は不正確な軸長によって生じるが、老眼は、水晶体の弾性の損失によって生じる。
【0005】
眼の収差の問題を矯正するための手法は、従来、水晶体の調節機能の損失の問題を矯正するための手法とは両立しない。視力矯正の手法は、それぞれ近視及び乱視を生じさせるデフォーカス(度数)及び非点収差(瞳孔方位角依存性度数)のみを計測し、補正する手法である。老眼は通常、それとは別に処置される。老眼を矯正する場合に収差は利用又は考慮されてこなかった。本発明は、収差を利用して老眼を矯正するためのレンズを設計し、製造するための新規な手法を提示する。
【0006】
発明の概要
本発明は、一つの態様で、老眼を矯正又は最小限化することができる、又は近視予防レンズとして機能することができる眼科用レンズを提供する。眼科用レンズは、コンタクトレンズ、有水晶体眼内レンズ又は無水晶体眼内レンズであることができる。眼科用レンズはオプチカルゾーンを含み、このオプチカルゾーンが、第一の面及び反対側の第二の面を有し、眼科用レンズの頂部から底部まで垂直方向に指向されたコマ収差様波面収差を含む。
【0007】
本発明は、もう一つの態様で、単独で、又は眼の光学系と組み合わさって、垂直方向コマ収差様波面収差を作り出すオプチカルゾーンを含むカスタマイズされた眼科用レンズを提供する。
【0008】
本発明は、さらなる態様で、老眼を矯正/最小限化する、又は子供の眼が重度の近視になることを予防する方法を提供する。
【0009】
一つの実施態様で、本発明の方法は、眼科用レンズを製造手段によって製造する工程を含み、この眼科用レンズがオプチカルゾーンを含み、このオプチカルゾーンが、第一の面及び反対側の第二の面を有し、眼科用レンズの頂部から底部まで垂直方向にあるコマ収差様波面収差を含むものである。
【0010】
垂直方向コマ収差様波面収差は、老眼を最小限化/矯正する、又は近視予防手段として機能するために導入される。オプチカルゾーンはまた、好ましくは、デフォーカス、非点収差、プリズム又はそれらの組み合わせを矯正するための光学度数を提供することができる。
【0011】
もう一つの実施態様で、本発明の方法は、角膜を再形成して垂直方向コマ収差様波面収差を作り出す工程を含む。
【0012】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、好ましい実施態様の以下の記載を図面と併せて理解することによって明らかになる。当業者には自明であるように、開示の新規な概念の本質及び範囲を逸することなく、本発明の多くの変形及び改変を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1Aは、本発明の好ましい実施態様のコンタクトレンズを示す図である。図1Bは、図1Aに示すレンズの断面図である。
【図2】本発明の好ましい実施態様の光学面を示す図である。
【図3】図2の光学面の光学度数プロフィールを示す図である。
【図4】本発明の好ましい実施態様のコンタクトレンズの前面を示す図である。
【0014】
好ましい実施態様の詳細な説明
以下、本発明の実施態様を詳細に説明する。図面を参照すると、全図を通じて同じ参照番号が同種の要素を示す。本明細書の記載及び請求の範囲で使用される以下の語は、文脈が明らかに別の意味を指す場合を除き、本明細書で明示的に対応する意味をとる。名詞の単数形は複数の指示対象をも包含し、「中(in)」の意味は「中(in)」及び「上(on)」を包含する。断りない限り、本明細書で使用されるすべての専門用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用される術語及び実験手順は当該技術で周知であり、一般に使用されている。これらの手順には、当該技術及び種々の一般的参考文献で提供されているような従来方法が使用される。
【0015】
人の眼の光学系は、視覚を不鮮明にする収差をかかえている。眼の波面収差は、光学部品又は光学系と同様に、種々の数学的関数によって記述することができる。これらの数学的関数はまた、このような収差を矯正するための光学系を製造するためのモデルを造るためにも使用することができる。典型的な数学的関数としては、円錐及び二次関数、任意の度の多項式、ゼルニケ(Zernike)多項式、指数関数、三角関数、双曲線関数、有理関数、フーリエ級数及びウェーブレットがある。また、これらの数学的関数を組み合わせて使用して、眼科用レンズの前面及びベース面(後面)を記述することができる。
【0016】
波面収差は一般に、単位円の上で直交する関数のセットであるゼルニケ多項式で定量化される。この多項式は、収差波面の形状を記述するのに有用である。この多項式にはいくつかの異なる正規化及びナンバリング方式が存在する。ゼルニケ多項式は通常、極座標(ρ、θ)で画定される。ただし、ρは、0〜1の範囲の動径座標であり、θは、0〜2πの範囲の方位角成分である。各ゼルニケ多項式は、三つの成分、すなわち正規化因数、ラジアル依存成分及び方位角依存成分からなる。ラジアル成分は多項式であるが、方位角成分は正弦波である。関数を明瞭に記述するためには、指数nがラジアル多項式の最高度数又は次数を記述し、指数mが方位角成分の方位角周波数を記述する2指数方式が有用である。
【0017】
ゼルニケ多項式は直交多項式であるため、収差は分離可能であり、以下のように処理することができる。一次ゼルニケモードは一次項である。二次ゼルニケモードは二次項であり、度数及び非点収差に対応する。三次ゼルニケモードは、コマ収差及び三つ葉収差に対応する三次項である。四次ゼルニケモードは、球面収差、二次非点収差及び四つ葉収差である。五次ゼルニケモードは高次の不正収差である。瞳孔内の波面における局所的不規則性がこれらの高次ゼルニケによって表される。
【0018】
七次までのOSA(Optical Society of America)規格案ゼルニケ多項式の表を以下に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
デフォーカス(近視及び遠視)、非点収差及びプリズムは、低次収差と分類することができる。本明細書で使用する眼の「高次」収差とは、デフォーカス及び非点収差を超える単色波面収差、すなわち三次、四次、五次及びより高次数の波面収差をいう。
【0021】
デフォーカス(近視及び遠視)、非点収差及びプリズムとは違い、老眼は、収差によって生じるものではない。老眼は、水晶体の調節機能の損失、すなわち、水晶体がその弾性を失い、したがって、光を速やかに網膜上に合焦させる際に形状を変化させることができなくなることによって生じる。垂直方向コマ収差様波面収差を眼の光学系に加えることによってこの焦点深度の損失を最小限化することができることがわかった。
【0022】
垂直方向コマ収差様波面収差を有するコンタクトレンズが子供用の近視予防レンズとして働くことができると考えられている。現在、最近の研究によると、子供はますます近視になっている。これは、一部には、子供が広く日常的に近距離でものを見る行動、たとえばビデオゲームなどでの遊びに没頭し、したがって、子供達の眼が長時間に亘って、一定の調節状態にあることによる。眼をほぼ一定にストレス状態におくこの状態が正視化過程を妨げると考えられる。垂直方向コマ収差様波面収差を有することにより、コンタクトレンズは、近見視力のためのオプチカルゾーン下寄り部分に度数を付加し、近くでものを見る行動に要する眼の調節レベルを軽減し、それにより、眼が重度の近視になることを予防することができる。
【0023】
「コマ収差様波面収差」とは、OSA(Optical Society of America)規格案ゼルニケ多項式の三次、五次、七次ゼルニケコマ収差様項及びそれらの組み合わせのいずれかによって記述される波面収差又はその等価物である波面収差をいう。
【0024】
一つの態様で、本発明は、老眼を矯正又は最小限化することができる、又は近視予防レンズとして使用することができる眼科用レンズ、たとえばコンタクトレンズ、有水晶体眼内レンズ又は無水晶体眼内レンズを提供する。本発明の眼科用レンズはオプチカルゾーンを含み、このオプチカルゾーンが、第一の面及び反対側の第二の面ならびにレンズの頂部から底部まで垂直方向にあるコマ収差様波面収差を含む。
【0025】
本発明のコンタクトレンズは、ハードレンズ又はソフトレンズのいずれであることもできる。本発明のソフトコンタクトレンズは、好ましくは、ソフトコンタクトレンズ材料、たとえばケイ素もしくはフッ素含有ヒドロゲル又はHEMAでできている。任意のレンズ材料を本発明の眼科用レンズの製造に使用することができることが理解されよう。
【0026】
本発明の眼科用レンズのオプチカルゾーンは、デフォーカス、非点収差、プリズム又はそれらの組み合わせを矯正するための光学度数を提供するだけでなく、老眼を矯正又は最小限化する、又は眼がさらに近視になることを予防するための理想収差パターンをレンズのオプチカルゾーンに造ることができる数学モデル又は代替表現にしたがって設計される。理想収差パターンは垂直方向コマ収差様収差である。本発明にしたがって造られるオプチカルゾーンは、少なくとも一つの非対称光学面と、オプチカルゾーンの頂部から底部まで異なる光学度数プロフィールとを有する。オプチカルゾーンの下寄り部分は、オプチカルゾーンの上寄り部分よりも大きな光学度数を有する。通常、非対称面の、オプチカルゾーンをはさんでの沈み差(すなわち、頂点と表面上の任意点との高さの差)は10μm以下のオーダであることができるが、オプチカルゾーンの光学度数プロフィールは、数ジオプトリのオーダで異なることができる。
【0027】
光学度数と同様に、眼科用レンズのオプチカルゾーンの第一の面及び反対側の第二の面を設計し、最適化することにより、垂直方向コマ収差様波面収差を眼科用レンズに導入することができることは当業者に周知である。まず、光学モデルレンズの第一の面を数学的記述の形態で設計し、次いで、たとえば光線追跡技術を使用することにより、モデルレンズの第二の面を設計し、最適化して、一以上の低次波面収差を矯正するための所望の量の垂直方向コマ収差様波面収差及び光学度数をモデルレンズに付与することができる。光学モデルレンズの第一の面及び反対側の第二の面のいずれか又は両方を最適化して、所望の量の垂直方向コマ収差様波面収差を作り出すことができると理解される。
【0028】
光線追跡技術は当該技術で周知である。いくつかの市販の光学設計ソフトウェアパッケージは光線追跡プログラムを含む。典型的な光学設計ソフトウェアパッケージとしては、Focus Software社のZemax及びBreault Research OrganizationのAdvanced System Analysis Program(ASAP)がある。
【0029】
「光学モデルレンズ」とは、コンピュータシステムで設計され、一般に眼科用レンズの部品である他の非光学系を含まない眼科用レンズをいう。コンタクトレンズの典型的な非光学系としては、ベベル、レンチキュラー、配向又は安定化構造及びコンタクトレンズの前面と後面とをつなぐエッジがあるが、これらに限定されない。眼内レンズ(有水晶体又は無水晶体)の典型的な非光学系としては、非限定的に、ハプティックがある。
【0030】
「ベベル」とは、コンタクトレンズの後面のエッジに位置する非光学面ゾーンをいう。一般に、ベベルは、有意な程度さらにフラットなカーブであり、普通、コンタクトレンズのベースカーブ(光学後面)と複合しており、エッジの近くの上向きテーパとして見える。これは、より急峻なベースカーブ半径が眼をつかむことを防ぎ、エッジがわずかに浮き上がることを可能にする。このエッジの浮き上がりは、角膜上の涙の適切な流れにとって重要であり、レンズをより快適にフィットさせる。
【0031】
「レンチキュラー」とは、コンタクトレンズ前面の、オプチカルゾーンとエッジとの間の非光学面ゾーンをいう。レンチキュラーの主な機能は、レンズエッジの厚さを抑制することである。
【0032】
眼科用レンズのオプチカルゾーンの前面及び反対側の後面を記述するためには、当該レンズの設計を最適化することを可能にする十分な動的範囲を有する限り、いかなる数学的関数を使用してもよい。典型的な数学的関数としては、円錐、双円錐及び二次関数、任意の度の多項式、ゼルニケ多項式、指数関数、三角関数、双曲線関数、有理関数、フーリエ級数及びウェーブレットがある。好ましくは、スプラインベースの数学的関数又は二以上の数学的関数の組み合わせを使用して、オプチカルゾーンの第一面及び第二面を記述する。二以上の数学的関数の組み合わせとしては、好ましくは、ゼルニケ多項式、さらに好ましくは、三次、五次及び七次コマ収差様項の少なくとも一つがある。
【0033】
一つの実施態様では、本発明の眼科用レンズのオプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方は、双円錐関数と少なくとも一つの垂直方向コマ収差様ゼルニケ項又はその等価物との組み合わせによって記述することができる。垂直方向ゼルニケコマ収差係数の大きさは、OSA ゼルニケ規格案に基づくと、好ましくは、直径6mmのオプチカルゾーンの場合で0.1μm RMS(二乗平均平方根)〜2μm RMSである。最適な値は、老眼矯正の程度及び/又は眼のコマ収差の大きさ及び向きに依存する。
【0034】
本発明にしたがって、好ましくは、少なくとも垂直方向三次コマ収差様ゼルニケ項Z7(OSA規格案ゼルニケ多項式に基づく)を双円錐関数と組み合わせて使用して、本発明の眼科用レンズのオプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方を記述する。このような数学的記述は、以下の式によって表すことができる。
【0035】
【数1】

【0036】
式中、
Z(ρ、θ)は、光学面を記述し、
xは、x′方向における曲率(半径の逆数)であり、
yは、y′方向における曲率(半径の逆数)であり、
xは、x′方向における円錐定数であり、
yは、y′方向における円錐定数であり、
rは、光学面の半径に等しく、
ρは、正規化瞳孔座標(r/rmax)に等しく、
θは、角成分であり、
Z7は、RMS(二乗平均平方根)μm単位の垂直コマ収差項の係数である。
【0037】
式(1)は、Z(ρ、θ)=A(ρ)+B(ρ、θ)の形態にあり、第一の成分A(ρ)が度数及び非点収差を矯正し、第二の成分B(ρ、θ)が、老眼を矯正又は最小限化するためのコマ収差様収差を導入する。双円錐関数の長軸及び短軸x′及びy′は、一般に、垂直及び水平の向きには対応しない。好ましくは、最適な量の収差を導入するためには、式(1)のZ7の値は、直径6mmのオプチカルゾーンの場合で0.1〜2μm RMSである。数値の極性は、図2及び3に示すようにオプチカルゾーンの下寄り部分がオプチカルゾーンの上寄り部分よりも大きな光学度数を有するような極性である。
【0038】
あるいはまた、少なくとも垂直方向の五次コマ収差様ゼルニケ項Z17又は七次コマ収差様ゼルニケ項Z31(OSA規格案ゼルニケ多項式に基づく)を、好ましくは双円錐関数と組み合わせて使用して、本発明の眼科用レンズのオプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方を記述することもできる。
【0039】
もう一つの実施態様では、円錐関数と少なくとも一つの垂直方向コマ収差様ゼルニケ項(たとえば、OSA規格案ゼルニケ多項式に基づくZ7、Z17、Z31又はそれらの組み合わせに基づく)との組み合わせにより、本発明の眼科用レンズのオプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方を記述することができる。
【0040】
もう一つの実施態様では、本発明の眼科用レンズのオプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方は、垂直方向にオフセットしたスプラインベースの面(一以上のスクラインベースの関数によって画定される)を有する非対称面である。
【0041】
本発明の眼科用レンズがコンタクトレンズである場合、コンタクトレンズは、好ましくは、一以上の配向/安定化構造を含む。適当な配向/安定化構造を本発明で使用することができる。典型的な配向/安定化構造としては、非限定的に、変化する厚さプロフィールを使用してレンズの向きを制御するプリズムバラストなど、レンズ形状の一部を除去してレンズの向きを制御するファセット面、まぶたと係合することによってレンズを配向させるリッジ構造、眼の上でレンズの向きを維持するための、上スラブオフゾーン及び下スラブオフゾーンを有するダブルスラブオフ構造ならびに装用者がレンズを正しい向きに挿入することができるようにするレンズ上の視覚的な合図、レンズの周辺ゾーンの非プリズムバラスト構造がある。
【0042】
好ましくは、本発明のコンタクトレンズの配向/安定化構造は、斜面付きリッジゾーンをレンズの前面に含む。斜面付きリッジゾーンは、オプチカルゾーンの下方に配置され、上縁、斜面付き下縁、前面から外に延びる緯線方向リッジ及び斜面付き下縁から下に延び、斜面付きリッジゾーンと下まぶたとの間で、下まぶたが斜面付きリッジゾーンのどこに当たるかに依存して異なる程度の相互作用を提供する湾曲又は斜面を有する傾斜部を含む。下まぶたは、斜面付きリッジゾーンの少なくとも一部と常に係合する。このような斜面付きリッジゾーンは、装用者の快適さを提供することができ、また、第一注視における眼の上でのコンタクトレンズ位置及び/又は眼が遠くの物体を注視する状態から中間距離もしくは近くの物体を注視する状態に変化するときの眼の表面上の並進量を制御することができる。好ましくは、最適化された光学モデルレンズの設計を機械的レンズ設計に変換するとき、一群のコンタクトレンズに共通のいくつかの構造を組み込むことができる。
【0043】
好ましくは、本発明のコンタクトレンズの配向/安定化構造は、非プリズムバラスト構造をレンズの周辺ゾーンに含む。コンタクトレンズが、レンズ頂部から垂直経線及び垂直経線に平行な線それぞれに沿って下向きに累進的に増大してオプチカルゾーンとエッジゾーンとの間の位置で最大値に達したのち、エッジゾーンの縁まで減少する厚さを有することを特徴とするレンズ厚さプロフィールを周辺ゾーン(オプチカルゾーンを包囲する非光学ゾーン)に有する場合、このようなコンタクトレンズを眼の上で所定の向きに維持することができることがわかった。従来のレンズバラストと同様に、このような配向構造は、レンズ底部に加重してレンズを眼の上で均衡位置に来させることによって作用する。このような配向構造により、最適な視覚性能を提供することができる前面のオプチカルゾーンを独立して設計することができる。
【0044】
「垂直経線」とは、コンタクトレンズが眼の上で所定の向きに維持されるときコンタクトレンズの頂部から中心を通過して底部まで垂直に延びる仮想の線をいう。「水平経線」とは、コンタクトレンズが眼の上で所定の向きに維持されるときコンタクトレンズ前面の左側から中心を通過して右側まで水平に延びる仮想の線をいう。水平経線と垂直経線とは互いに対して垂直である。
【0045】
本発明の眼科用レンズが眼内レンズ(有水晶体又は無水晶体)である場合、眼内レンズはハプティックを含む。公知の適当なハプティックを本発明で使用することができる。
【0046】
図1A及び1Bは、本発明の好ましい実施態様のコンタクトレンズ100を示す。コンタクトレンズ100は、前面106、後面104、頂部108及び底部109を含む。前面106は、オプチカルゾーン110、斜面付きリッジゾーン112、リッジオフゾーン122及びレンチキュラーゾーン150を有している。
【0047】
オプチカルゾーン110は、そこを通過する光を屈折させる。光線は、オプチカルゾーン110を通過すると、実焦点(遠視レンズの場合)又は虚焦点(近視レンズの場合)で合焦して、それによって鮮明な視覚を人に提供する。
【0048】
斜面付きリッジゾーン112は、レンズのための垂直方向並進支持を提供する。斜面付きリッジゾーン112は、上縁114、下縁116、第一の側縁118及び第二の側縁120を有している。斜面付きリッジゾーン112はオプチカルゾーン110の下方に配置されている。リッジオフゾーン122は、オプチカルゾーン110、斜面付きリッジゾーン110の第一の側縁118及び斜面付きリッジゾーン110の第二の側縁120から外に延びている。リッジオフゾーン112は、レンズの回転安定性を増し、レンズ100の快適さを改善する。レンズ100はまた、さらなる快適さ及びより良好な角膜被覆のために、リッジオフゾーン160及び斜面付きリッジゾーン112の斜面付き下縁116から半径方向外側に延びる、狭い端部まで先細りするレンチキュラーゾーン150を含むことができる。
【0049】
図4は、本発明のもう一つの好ましい実施態様のコンタクトレンズの正面図(前面)である。コンタクトレンズ100の前面106は、中心102、水平経線403、垂直経線405、オプチカルゾーン110、複合ゾーン420、周辺ゾーン430及び円形エッジゾーン440を有している。
【0050】
複合ゾーン420は、オプチカルゾーン110から外に周辺ゾーン430まで延びている。複合ゾーン420は、中央オプチカルゾーン110、複合ゾーン420及び周辺ゾーン430が互いに正接することを保証する面を有している。複合ゾーン420の面は、オプチカルゾーン110の外周縁から周辺ゾーン430の内周縁まで第一及び/又は第二導関数で連続している。複合ゾーン420の面は、好ましくは一以上のスプラインベースの数学的関数によって記述される。
【0051】
周辺ゾーン430は、後面104と組み合わさって、(1)レンズ頂部から垂直経線及び垂直経線に平行な線それぞれに沿って下向きに累進的に増大して前面オプチカルゾーンとエッジゾーンとの間の位置で最大値に達したのち、エッジゾーンの縁まで減少するレンズ厚さを有すること、又は(2)垂直経線を横断する平面に関して鏡像対称性を有し、水平経線の周囲の領域で実質的に一定の厚さを有し、水平経線から垂直経線及び垂直経線に平行な線それぞれに沿ってコンタクトレンズの頂部又は底部まで累進的に減少する厚さを有することを特徴とする厚さプロフィールをレンズの周辺ゾーンに提供する面を有する。
【0052】
周辺ゾーン430は、好ましくは一連の等値線を含み、これらの等値線に沿ってコンタクトレンズの厚さが実質的に一定である。等値線の一つは、中心102を水平に通過する水平経線103と合致し、残りの等値線は好ましくは弧である。中央の水平等値線よりも上にある弧それぞれは互いに異なり、所与の開眼位置での人の上まぶたの周縁の一つの弧を模す。中央の水平等値線よりも下にある弧それぞれは互いに異なり、所与の開眼位置での人の下まぶたの周縁の一つの弧を模す。
【0053】
上下のまぶたが、完全もしくは部分的に開いた又は完全に閉じた眼の位置に依存して、異なる形状の弧(曲率半径)を有することができるということは当業者に周知である。眼が完全に閉じているとき、上まぶたの縁及び下まぶたの縁を表す両方の弧は直線状に閉じている。眼が完全に開いているとき、上まぶたの縁及び下まぶたの縁を表す両方の弧は急峻な曲率を有する。上まぶたの縁及び下まぶたの縁を表す両方の弧の曲率の間のこのような関係、すなわち等値線が水平経線に近づけば近づくほど等値線の曲率が平坦に近くなるという関係が、好ましくは、図4に示すような本発明のコンタクトレンズの設計に取り込まれる。
【0054】
前面106の周辺ゾーン430は、好ましくは斜面付きリッジゾーンを含む。好ましくは、周辺ゾーンの厚さは、前面の頂部から垂直経線405及び垂直経線405に平行な線それぞれに沿って下向きに累進的に減少してオプチカルゾーンとエッジゾーンとの間の位置で最大値に達したのち、エッジゾーンの縁まで減少する。中央オプチカルゾーン110の外のレンズ厚さは、好ましくは、垂直経線405を通過する平面に関して鏡像対称性を有している。円形のエッジゾーン440は、周辺ゾーン430の外周縁から外に延びている。エッジゾーン440は、周辺ゾーンに正接し、後面と組み合わさって、眼の上への快適なレンズフィットを提供することができる実質的に均一な厚さを提供する。
【0055】
図2は、式(1)によって記述される光学面を有するオプチカルゾーン200を示す。この表面はコマ収差様形状を有している。オプチカルゾーン200は、上寄り部分202及び下寄り部分204を有している。上寄り部分202は、遠見視力、たとえば近視及び遠視を矯正するための遠見度数を提供する。下寄り部分204は、老眼の人のための近見視力を矯正するための付加又は近見度数を提供する。
【0056】
オプチカルゾーンの度数は表面の第二導関数に比例する。したがって、図2に示すコマ収差様面を有するオプチカルゾーンは、図3に示す傾斜面と類似した光学度数プロフィールを有することができる。
【0057】
図3は、オプチカルゾーン200の光学度数プロフィール300を示す。光学度数プロフィールは光学度数軸302に対して表されている。オプチカルゾーンの下寄り部分204は、より大きな光学度数を有し、それが領域304によって表されている。上寄り部分202は、より小さな光学度数を有し、それが領域306によって表されている。
【0058】
もう一つの態様で、本発明は、単独で、又は眼の光学系と組み合わさって、垂直方向コマ収差様波面収差を作り出すオプチカルゾーンを含むカスタマイズされた眼科用レンズを提供する。
【0059】
本明細書で使用する「カスタマイズされた眼科用レンズ」とは、(1)個人の眼の収差計測値の入力を使用して設計されている眼科用レンズ及び/又は(2)個人の眼の角膜トポグラフィーを受け入れる面の一つを有する眼科用レンズをいう。
【0060】
個人の眼の波面収差は、Shack-Hartmann技術、Tscherning技術、網膜光線追跡技術及び空間分解屈折計測技術をはじめとする当業者に公知の適当な方法によって測定することができる。たとえば、Liangらは、J. Optical Soc. Am. 11:1-9で、Hartmann-Shackシステムを使用して、異なる瞳孔直径で眼の波面収差を測定する方法を教示している。
【0061】
好ましくは、個人の眼の角膜トポグラフィーデータを使用して、カスタマイズされたコンタクトレンズの後面を、その眼の角膜トポグラフィー又は人口の一部分を統計的に表す角膜トポグラフィーを受け入れるように設計することができる。角膜トポグラフィーデータは、角膜トポグラファィー又はビデオケラトスコープを使用して取得することができる。角膜トポグラフィーデータは、眼科用レンズを設計する際の使用に適したいかなる形態にあってもよい。
【0062】
典型的な形態としては、ゼルニケ多項式、点群データなどがあるが、これらに限定されない。好ましくは、角膜トポグラフィーデータは、眼の波面収差が定量化される形態にある。角膜トポグラフィーデータはまた、集団研究から導出された平均化角膜トポグラフィーであることもできる。このような平均化角膜トポグラフィーデータは、人口の一部分を表すことができ、カスタマイズされたコンタクトレンズの後面を設計するために使用することができる。
【0063】
ある眼の角膜トポグラフィー又は人口の一部分を統計的に表す角膜トポグラフィーを受け入れることができる後面を有するコンタクトレンズは、その眼の角膜に対する良好又は十分なフィットを提供し、したがって、装用者の快適さを高める。コンタクトレンズの後面は眼の角膜トポグラフィーに完全に適合する必要はないと考えられている。完全な適合とは、コンタクトレンズの後面が角膜トポグラフィーにぴったり重畳可能であることを意味する。眼の角膜トポグラフィーに完全に適合する後面を有するコンタクトレンズは、眼の上でのレンズの動きが不十分であり、装用者の快適さに悪影響を及ぼすおそれがある。
【0064】
個人の眼の収差計測値に基づき、カスタマイズされたコンタクトレンズのオプチカルゾーンは多様な方法で設計されて、低次収差(デフォーカス、非点収差及びプリズム)を矯正するだけでなく、単独で、又は眼の光学系と組み合わさって、垂直方向コマ収差様波面収差を造る。
【0065】
個人の眼が、垂直方向コマ収差様波面収差をはじめとする高次波面収差を有する場合、本発明の眼科用レンズは、垂直方向コマ収差様波面収差以外の波面収差を矯正又は最小限化するように設計することができる。場合によっては、垂直方向コマ収差様波面収差を眼科用レンズに導入して、眼科用レンズ+眼の垂直方向コマ収差様波面収差の全体量を増大させる。
【0066】
個人の眼が一般に支配的な垂直方向コマ収差様波面収差を有さず、他の高次波面収差を有する場合、本発明の眼科用レンズは、垂直方向コマ収差様波面収差を得るために、支配的な高次波面収差それぞれの全部又は一部を矯正するように設計することができる。
【0067】
本発明のカスタマイズされた眼科用レンズは、好ましくは、PCT特許出願公開公報WO02/088830に記載されている方法を使用して設計し、製造することができる。
【0068】
本発明の眼科用レンズ又はカスタマイズされた眼科用レンズは、公知の適当な光学設計システムを使用して設計することができる。光学モデルレンズを設計するための典型的な光学コンピュータ援用設計システムとしてはZEMAX(Focus Software社)があるが、これに限定されない。好ましくは、ZEMAX(Focus Software社)を使用して光学設計を実施する。光学モデルレンズの設計は、たとえば、機械的コンピュータ援用設計(CAD)システムにより、物理的レンズを製造するための機械的パラメータのセットに変換することができる。公知の適当な機械的CADシステムを本発明に使用することができる。光学モデルレンズの設計は、受け側のシステム、すなわち光学CAD又は機械的CADが所期の設計のNURBs(不均一有理Bスプライン)又はBeizier面を構成することを可能にする変換フォーマットを使用して、光学CADシステムと機械的CADシステムとの間で両方向に変換することができる。典型的な変換フォーマットとしては、VDA(verband der automobilindustrie)及びIGES(Initial Graphics Exchange Specification)があるが、これらに限定されない。このような変換フォーマットを使用することにより、レンズの全面を、半径方向非対称形状を有するレンズの製造を容易にする連続形状にすることができる。Beizier及びNURBs面は、多数のゾーンを複合し、解析し、最適化することができるため、オプチカルゾーン及び非光学ゾーンを含む複数のゾーンを有するレンズに特に有利である。より好ましくは、機械的CADシステムは、高次面を正確かつ数学的に表すことができる。このような機械的CADシステムの一例は、Parametric TechnologyのPro/Engineerである。光学モデルレンズの設計を機械的パラメータのセットに変換する場合には、一群の眼科用レンズに共通の特徴パラメータをレンズ設計過程で組み込むことができる。そのようなパラメータの例は、収縮、非光学エッジゾーン及びその曲率、中心厚さ、光学度数の範囲などを含む。
【0069】
本発明の眼科用レンズは、たとえばコンピュータ制御可能な製造装置、成形などをはじめとする簡便な製造手段によって製造することができる。「コンピュータ制御可能な製造装置」とは、コンピュータシステムによって制御することができ、眼科用レンズを直接製造する、又は眼科用レンズを製造するための光学ツールを製造することができる装置をいう。公知の適当なコンピュータ制御可能な製造装置を本発明に使用することができる。典型的なコンピュータ制御可能な製造装置としては、旋盤、研磨機、成形設備及びレーザがあるが、これらに限定されない。好ましくは、コンピュータ制御可能な製造装置は、45°圧電カッタを有する2軸旋盤又は米国特許第6,122,999号でDurazo及びMorganによって開示されている旋盤装置又は数値制御式旋盤、たとえばPrecitech社の、Variform(登録商標)もしくはVarimax圧電セラミック高速ツールサーボアタッチメントを有するOptoform(登録商標)超精密旋盤(モデル30、40、50及び80)である。
【0070】
好ましくは、コンタクトレンズは、レンズが型で流し込み成形されるときコンタクトレンズ表面を模す成形面を含むコンタクトレンズ型から成形される。たとえば、数値制御式旋盤を備えた光学切削ツールを使用して、本発明のコンタクトレンズの前面の構造を取り入れた金属光学ツールを形成することができる。そして、そのツールを使用して前面型を製造したのち、それを後面型と関連させて、適当な液体レンズ形成材料を両型の間に使用し、次いでレンズ形成材料を圧縮し、硬化させることによって本発明のレンズを形成する。
【0071】
好ましくは、本発明の眼科用レンズ又は同眼科用レンズを製造するために使用される光学ツールは、数値制御式旋盤、たとえばPrecitechの、Variform(登録商標)又はVarimax圧電セラミック高速ツールサーボアタッチメントを有するOptoform(登録商標)超精密旋盤(モデル30、40、50及び80)を使用して製造される。
【0072】
実例として、図1に示す斜面付きリッジゾーンを有するコンタクトレンズの製造を以下の工程で実施することができる。第一に、ユーザがパラメータのセット、たとえば表面許容差、同軸性許容差、レンズ設計の向き、ゼロ点を0、0に形成して前面及び後面それぞれに生成されるスポークの数、Z軸の向き及び形状に変換されるレンズ表面のタイプ(凹面又は凸面)を設定する。「表面許容差」とは、レンズ設計の表面上の理想位置からの投影点の許される位置逸脱をいう。逸脱は、レンズ設計の中心軸に対して平行又は垂直のいずれの方向であることもできる。「同軸性許容差」とは、所与の弧からのある点の許される逸脱をいう。「スポーク」とは、中心軸から外に放射状に延び、中心軸に対して垂直である光線をいう。「半直径スポーク」とは、レンズ設計の中心軸からエッジまでの線分をいう。「等間隔の半直径スポーク」とは、すべての半直径スポークが中心軸から外に放射状に延び、一つの等しい角度だけ互いに離れていることをいう。「点間隔」とは、半直径スポーク沿いの二つの点の間の距離をいう。
【0073】
第二に、ユーザが、中心軸に対して平行な方向で多数の等間隔の半直径スポークそれぞれに沿ってレンズ設計の表面(たとえば前面)に投影する点の数を決定する。前面の二つの突起の一方が位置する方位角にある半直径スポークを半直径プロービングスポークとして選択する。等間隔の点を、点の各対が10ミクロンの点間隔によって分けられる半直径プロービングスポークに沿って投影する。次に、投影した点すべてを、それぞれが3個の連続する点、すなわち第一の点、中間点及び第三の点で構成される一連の群に分割する。各点は、一つの群又は二つの群に属することができる。一度に一群ずつ、中間点と、対応する群の第一の点及び第三の点を連結する線との距離を所定の表面許容差と比較することにより、中心軸からエッジまで又はエッジから中心軸まで、群の中間点の表面の曲率を解析する。中間点と、群の第一の点及び第三の点を連結する線との距離が所定の表面許容差よりも大きいならば、その点での表面の曲率は鋭く、その群の第一の点と中間点との間にさらなる点を投影する。第一の点とさらなる点との間の点間隔は、さらなる点と中間点との間の点間隔に等しい。さらなる点を追加したのち、新たに追加された点を含むすべての点を再分類し、一連の群それぞれの中間点における表面の曲率を解析する。一連群それぞれの中間点と、対応する群の第一及び第三の点をプロービングスポークに沿って連結する線との距離が所定の表面許容差以下になるまで、このような反復手順を繰り返す。このようにして、所望の数の等間隔の半直径スポークそれぞれに沿ってレンズ設計の表面に投影される点の数及び隣接する点の一連の対の点間隔を決定する。
【0074】
次に、上記のように決定した数の点を、24、96又は384個の半直径スポークそれぞれに沿ってレンズ設計の前面に投影する。半直径スポークそれぞれに関して、第一導関数で連続的である半経線を生成する。半経線は、一連の弧及び場合によっては直線を含み、各弧は、少なくとも3個の連続する点を所望の同軸性許容差内で球面数学的関数に当てはめることによって画定される。各直線は、少なくとも3個の連続する点を接続することによって得られる。好ましくは、中心軸からエッジまでの弧当てはめルーチンを開始する。同様に、上記手順にしたがって、レンズ設計の後面の形状への変換を実施することができる。
【0075】
レンズ設計を、製造システムで製造されるコンタクトレンズの形状に変換したのち、ヘッダの情報及びレンズの形状に関する情報を含むミニファイルを作成する。このミニファイルはまた、半径方向位置それぞれにおける他の経線それぞれの平均高さに基づき、その振動計算を基づかせることができるゼロ位置をVariformに与えるゼロ半経線を含む。このミニファイルで、すべての半経線は同じ数のゾーンを有する。これは、すべての経線に関してゾーンの数を均等化するための回数だけ半経線の最後のゾーンをコピーすることによって達成される。ミニファイルが完成したのち、それを、Variform(登録商標)圧電セラミック高速ツールサーボアタッチメントを有するOptoform(登録商標)超精密旋盤(モデル30、40、50又は80)にロードし、実行して本発明のコンタクトレンズを製造する。
【0076】
本発明は、さらなる態様で、本発明の眼科用レンズを製造する方法を提供する。方法は、眼科用レンズを製造手段によって製造する工程を含み、この眼科用レンズがオプチカルゾーンを含み、このオプチカルゾーンが、第一の面及び反対側の第二の面を有し、眼科用レンズの頂部から底部まで垂直方向にあるコマ収差様波面収差を含むものである。垂直方向コマ収差様波面収差は、老眼を最小限化/矯正するために、又は正視化過程を妨害する、眼の調節機能が受けるストレスを軽減する(たとえば近視予防レンズの場合)ために導入される。
【0077】
本発明の眼科用レンズは、公知の適当な光学度量衡システムを特徴とすることができる。レンズの垂直方向コマ収差様収差及び他の波面収差は、Shack-Hartmann技術、Tschering技術、網膜光線追跡技術及び空間分解屈折計測技術をはじめとする当業者に公知の適当な方法によって測定することができる。
【0078】
本発明は、なおさらなる態様で、老眼を矯正又は最小限化する方法を提供する。本発明の方法は、角膜を再形成して垂直方向コマ収差様波面収差を作り出す工程を含む。
【0079】
角膜の形状は、種々の方法によって改変することができる。本発明による一つの方法は、角膜の光学面に対するレーザビームのエネルギー分布を制御する方法である。本発明によるもう一つの方法は、角膜の光学面に対するフライングスポットレーザパターンを制御する方法である。本発明によるさらに別の方法は、角膜の光学面に対する切除角を制御する方法である。本発明によるさらに別の方法は、数学モデルにしたがって角膜を切除する方法である。
【0080】
上記実施態様は、例示のためのだけに記載したものである。本発明を逸することなく、本明細書で開示した具体的な実施態様に多くの変更を加えることができることが容易に理解されよう。したがって、本発明の範囲は、具体的に記載した上記実施態様に限定されるのではなく、請求の範囲によって決定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オプチカルゾーンを含む眼科用レンズであって、オプチカルゾーンが、第一の面及び反対側の第二の面を有し、レンズの頂部から底部まで垂直方向に指向されたコマ収差様波面収差を含み、
オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方が、スプラインベースの数学的関数又は二以上の数学的関数の組み合わせによって表わされ、
オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方が非対称であり、オプチカルゾーンが、オプチカルゾーンの頂部から底部まで増大して行く光学度数を有する眼科用レンズ。
【請求項2】
垂直方向ゼルニケコマ収差係数の大きさが、OSA ゼルニケ規格案に基づくと、直径6mmのオプチカルゾーンの場合で約0.1μm RMS(二乗平均平方根)〜約2μm RMSである、請求項1記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記少なくとも一つの垂直方向コマ収差様ゼルニケ項が垂直方向三次コマ収差様ゼルニケ項Z7(OSA規格案ゼルニケ多項式に基づく)であり、オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の前記少なくとも一方が、以下の式
【数2】


(式中、
Z(ρ、θ)は、オプチカルゾーンを記述し、
xは、x′方向における曲率(半径の逆数)であり、
yは、y′方向における曲率(半径の逆数)であり、
xは、x′方向における円錐定数であり、
yは、y′方向における円錐定数であり、
rは、少なくとも一方の面の半径に等しく、
ρは、正規化瞳孔座標(r/rmax)に等しく、
θは、角成分であり、
Z7は、RMS μm単位の垂直コマ収差の係数である)
によって表わされる、請求項1記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記少なくとも一つの垂直方向コマ収差様ゼルニケ項が垂直方向五次コマ収差様ゼルニケ項Z17である、請求項1記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記少なくとも一つの垂直方向コマ収差様ゼルニケ項が垂直方向七次コマ収差様項Z31である、請求項1記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記少なくとも一つの垂直方向コマ収差様ゼルニケ項が、垂直方向三次コマ収差様ゼルニケ項Z7、Z17又は七次コマ収差様項Z31(OSA規格案ゼルニケ多項式に基づく)である、請求項1記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
コンタクトレンズである、請求項1〜6のいずれか記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
コンタクトレンズが一以上の配向又は安定化構造を含む、請求項7記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
前記一以上の配向/安定化構造が、変化する厚さプロフィールを使用してレンズの向きを制御するプリズムバラストなど、レンズの形状の一部を除去してレンズの向きを制御するファセット面、まぶたと係合することによってレンズを配向させるリッジ構造、眼の上でレンズの向きを維持するための、上スラブオフゾーン及び下スラブオフゾーンを有するダブルスラブオフ構造ならびにレンズのオプチカルゾーンを包囲する、レンズの周辺ゾーンの非プリズムバラスト構造からなる群より選択される、請求項8記載の眼科用レンズ。
【請求項10】
コンタクトレンズが、オプチカルゾーンの下方に配置され、上縁と、斜面付き下縁と、前面から外に延びる緯線方向リッジと、斜面付き下縁から下に延び、斜面付きリッジゾーンと眼の下まぶたとの間で、下まぶたが斜面付きリッジゾーンのどこに当たるかに依存して異なる程度の相互作用を提供する湾曲又は斜面を有する傾斜部と、を含む斜面付きリッジゾーンをレンズの前面に含む、請求項8記載の眼科用レンズ。
【請求項11】
コンタクトレンズが、
後面と、
垂直経線、水平経線、前面オプチカルゾーン、前面オプチカルゾーンから外に延びる複合ゾーン、複合ゾーンを包囲する周辺ゾーン及び周辺ゾーンに外接し、正接するエッジゾーンを含む反対側の前面と
を含み、
前面オプチカルゾーンが、オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の一方であり、複合ゾーンが、周辺ゾーン、複合ゾーン及び前面オプチカルゾーンが互いに正接することを保証する面を有し、周辺ゾーンが、後面と組み合わさって、(1)レンズの頂部から垂直経線及び垂直経線に平行な線それぞれに沿って下向きに累進的に増大して前面オプチカルゾーンとエッジゾーンとの間の位置で最大値に達したのち、エッジゾーンの縁まで減少するレンズ厚さを有すること、又は(2)垂直経線を横断する平面に関して鏡像対称性を有し、水平経線の周囲の領域で実質的に一定の厚さを有し、水平経線から垂直経線及び垂直経線に平行な線それぞれに沿ってコンタクトレンズの頂部又は底部まで累進的に減少する厚さを有することを特徴とする厚さプロフィールをレンズの周辺ゾーンに提供する面を有する、請求項8記載の眼科用レンズ。
【請求項12】
単独で、又は眼の光学系と組み合わさって、垂直方向コマ収差様波面収差を作り出すオプチカルゾーンを含むカスタマイズされた眼科用レンズであって、
オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方が、スプラインベースの数学的関数又は二以上の数学的関数の組み合わせによって表わされ、
オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方が非対称であり、オプチカルゾーンが、オプチカルゾーンの頂部から底部まで増大して行く光学度数を有する眼科用レンズ。
【請求項13】
オプチカルゾーンが、「眼科用レンズ+眼」の垂直方向コマ収差様波面収差の所望の全体量に達するように導入された垂直方向コマ収差様波面収差を有する、請求項12記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項14】
垂直方向コマ収差様波面収差を得るために眼の支配的な高次波面収差それぞれの全部又は一部を矯正する、請求項12記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項15】
オプチカルゾーンが、「眼科用レンズ+眼」の垂直方向コマ収差様波面収差の所望の全体量に達するように導入された垂直方向コマ収差様波面収差を有する、請求項13記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項16】
コンタクトレンズである、請求項12〜15のいずれか1項記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項17】
コンタクトレンズの後面が、眼の角膜トポグラフィー又は人口の一部分を統計的に表す角膜トポグラフィーを受け入れるための形状を有する、請求項16記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項18】
コンタクトレンズが一以上の配向/安定化構造を含む、請求項16記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項19】
前記一以上の配向/安定化構造が、変化する厚さプロフィールを使用してレンズの向きを制御するプリズムバラストなど、レンズの形状の一部を除去してレンズの向きを制御するファセット面、まぶたと係合することによってレンズを配向させるリッジ構造、眼の上でレンズの向きを維持するための、上スラブオフゾーン及び下スラブオフゾーンを有するダブルスラブオフ構造ならびにレンズのオプチカルゾーンを包囲する、レンズの周辺ゾーンの非プリズムバラスト構造からなる群より選択される、請求項18記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項20】
コンタクトレンズが、レンズの前面に、オプチカルゾーンの下方に配置され、上縁、斜面付き下縁、前面から外に延びる緯線方向リッジ及び斜面付き下縁から下に延び、斜面付きリッジゾーンと眼の下まぶたとの間で、下まぶたが斜面付きリッジゾーンのどこに当たるかに依存して異なる程度の相互作用を提供する湾曲又は斜面を有する傾斜部を含む斜面付きリッジゾーンを含む、請求項19記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項21】
コンタクトレンズの前面が、垂直経線、水平経線、前面オプチカルゾーン、前面オプチカルゾーンから外に延びる複合ゾーン、複合ゾーンを包囲する周辺ゾーン及び周辺ゾーンに外接し、正接するエッジゾーンを含み、前面オプチカルゾーンが、オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の一方であり、複合ゾーンが、周辺ゾーン、複合ゾーン及び前面オプチカルゾーンが互いに正接することを保証する面を有し、周辺ゾーンが、後面と組み合わさって、(1)レンズの頂部から垂直経線及び垂直経線に平行な線それぞれに沿って下向きに累進的に増大して前面オプチカルゾーンとエッジゾーンとの間の位置で最大値に達したのち、エッジゾーンの縁まで減少するレンズ厚さを有すること、又は(2)垂直経線を横断する平面に関して鏡像対称性を有し、水平経線の周囲の領域で実質的に一定の厚さを有し、水平経線から垂直経線及び垂直経線に平行な線それぞれに沿ってコンタクトレンズの頂部又は底部まで累進的に減少する厚さを有することを特徴とする厚さプロフィールをレンズの周辺ゾーンに提供する面を有する、請求項19記載のカスタマイズされた眼科用レンズ。
【請求項22】
眼科用レンズを製造手段によって製造する工程を含む、眼科用レンズを製造する方法であって、眼科用レンズがオプチカルゾーンを含み、オプチカルゾーンが、第一の面及び反対側の第二の面を有し、レンズの頂部から底部まで垂直方向にあるコマ収差様波面収差を含み、
オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方が、スプラインベースの数学的関数又は二以上の数学的関数の組み合わせによって表わされ、
オプチカルゾーンの第一の面及び第二の面の少なくとも一方が非対称であり、オプチカルゾーンが、オプチカルゾーンの頂部から底部まで増大して行く光学度数を有する方法。
【請求項23】
三次、五次及び七次コマ収差様ゼルニケ項の前記少なくとも一つが、OSA規格案ゼルニケ多項式に基づく垂直方向三次コマ収差様ゼルニケ項Z7、五次コマ収差様ゼルニケ項Z17又は七次コマ収差様項Z31である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
製造手段がコンピュータ制御可能な製造装置である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
コンピュータ制御可能な製造装置が数値制御式旋盤である、請求項24記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−37373(P2013−37373A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200545(P2012−200545)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【分割の表示】特願2006−501637(P2006−501637)の分割
【原出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】