説明

眼鏡レンズ用塗布液塗布装置

【課題】レンズ面に塗布液の層を厚みが薄くかつレンズ面の全域にわたって均等になるように形成できる眼鏡レンズ用塗布液塗布装置を提供する。
【解決手段】スプレーノズル2から塗布液を霧状に噴出させて眼鏡レンズ4のレンズ面4aに塗布する塗布液塗布部5を備える。塗布液塗布部5は、スプレーノズル2から噴出する噴霧の中心線L1がレンズ面4aの目標塗布位置6を通る法線L2と略一致するようにスプレーノズル2をレンズ面4aに対向させながら、スプレーノズル2をレンズ面4aに沿って移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズにハードコート液などの塗布液をスプレーノズルによって塗布する眼鏡レンズ用塗布液塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡用プラスチックレンズ(以下、単に眼鏡レンズという)にハードコート膜を形成するためには、眼鏡レンズにハードコート液を塗布し、このハードコート液を硬化させて行われている。眼鏡レンズにハードコート液を塗布する方法としては、浸漬法、スピンコート法、スプレー法、インクジェット法などが知られている。これらの塗布方法のうちスプレー法は、特許文献1に記載されているように、ハードコート液からなる塗布液をスプレーノズルから噴出させてレンズ面に塗布する方法である。特許文献1に開示されているスプレーノズルは、レンズの上方に固定されており、塗布液をレンズ面の全体にわたって吐出するように構成されている。
【0003】
ところで、ハードコート膜は、膜厚が均一になるように形成しなければならない。この理由は、膜厚が均一ではないと、眼鏡レンズのレンズ面に干渉縞が生じ易くなるからである。
干渉縞は、たとえば特許文献2に開示されているように、ハードコート膜の厚みを9.1μm以上とすることによって生じ難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−140745号公報
【特許文献2】特開2010−128420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている方法でハードコート液をレンズ面に塗布し、ハードコート膜を形成すると、干渉縞が生じ易くなるという問題があった。この理由は、ハードコート液からなる層の厚みがレンズ面の全域にわたって均等になるようにハードコート液をレンズ面に塗布することができないからであると考えられる。
【0006】
このような干渉縞が生じるという不具合は、特許文献2に記載されているようにハードコート膜の膜厚を9.1μm以上とすることによってある程度は解消することができる。
しかしながら、ハードコート膜の膜厚を9.1μm以上とするためには、この膜を形成するためのハードコート液の使用量が著しく増大してしまい、コストアップになってしまう。しかも、ハードコート膜の全体の体積が増加するために、塗布後の硬化(乾燥)時に体積変化等に起因してクラックが発生し易くなるという問題もあった。
【0007】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、レンズ面に塗布液の層を厚みが薄くかつレンズ面の全域にわたって均等になるように形成できる眼鏡レンズ用塗布液塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置は、スプレーノズルから塗布液を霧状に噴出させて眼鏡レンズのレンズ面に塗布する塗布液塗布部を備え、前記塗布液塗布部は、前記スプレーノズルから噴出する噴霧の中心線が前記レンズ面の目標塗布位置を通る法線と略一致するように前記スプレーノズルを前記レンズ面に対向させながら、前記スプレーノズルを前記レンズ面に沿って移動させるものである。
【0009】
本発明は、上記発明において、前記塗布液塗布部は、前記スプレーノズルを前記噴霧の中心線とは直交する方向に延びる第1の軸線を中心として回動させる第1の回動部と、前記スプレーノズルを前記第1の軸線と直交する第2の軸線を中心として回動させる第2の回動部と、前記スプレーノズル、前記第1の回動部および前記第2の回動部を支持するとともに、前記眼鏡レンズの径方向および眼鏡レンズに対して接離する方向に移動させる腕部とを有する多関節ロボットを備えているものである。
【0010】
本発明は、上記発明において、前記塗布液塗布部は、前記眼鏡レンズを光軸が中心となるように回転させるレンズ回転部を備えているものである。
【0011】
本発明は、上記発明において、前記塗布液塗布部は、前記スプレーノズルを前記噴霧の中心線とは直交する方向に延びる第1の軸線を中心として回動させる第1の回動部と、前記スプレーノズルを前記第1の軸線と直交する第2の軸線を中心として回動させる第2の回動部と、前記スプレーノズル、第1の回動部および第2の回動部を支持するとともに、前記眼鏡レンズに対して接離する方向に移動させる間隔設定部と、前記間隔設定部を前記眼鏡レンズの径方向に平行移動させる平行移動部と、前記眼鏡レンズを光軸が中心となるように回転させるレンズ回転部とによって構成されているものである。
【0012】
本発明は、上記発明において、前記塗布液塗布部は、前記塗布液からなる微粒子が付着したときの濡れ性が高くなるようにレンズ面に表面改質処理を行う表面改質処理装置を備えているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スプレーノズルから噴出して霧状となった塗布液の微粒子は、レンズ面の法線に沿って飛行してレンズ面の目標塗布位置に付着する。この微粒子は、レンズ面に斜めに当たると、レンズ面に当たった後にレンズ面上を移動したり、塗布パターン形状が変化してしまうため、形成された膜厚が変化してしまうおそれがある。しかし、本発明においては、前記微粒子がレンズ面の目標塗布位置に垂直に当たるから、この微粒子の大部分は、目標塗布位置に留まり、目標通りの塗布パターンが形成できるものと考えられる。
【0014】
すなわち、目標塗布位置に塗布される塗布液の量は、スプレーノズルから噴出する塗布液の量に基づいて間接的に量ることが可能になる。このことは、塗布液が硬化した後に形成される膜の厚みが所望の厚みになるように、塗布液を塗布することが可能になることを意味する。
【0015】
上述したようにスプレーノズルから塗布液が噴出している状態で目標塗布位置がレンズ面の未塗布の部位に移るようにスプレーノズルをレンズ面に沿って移動させることによって、レンズ面の全域に前記微粒子が均等に付着する。
したがって、本発明によれば、レンズ面の全域に薄くかつ均等な厚みとなるように塗布液の層を形成することができる。この結果、本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置によれば、塗布液としてハードコート液を使用することによって、例えば厚みが1〜5μm程度の均一な膜厚を有するハードコート膜を眼鏡レンズに形成することができる。このハードコート膜は、膜厚を薄く形成できるから従来から行われている膜厚にて塗布することができ、しかも、膜厚が均一であるから干渉縞が生じることがないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置の概略の構成を説明するための側面図である。
【図2】本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置の概略の構成を説明するための正面図である。
【図3】眼鏡用塗布液塗布装置の具体的な構成を説明するための側面図である。
【図4】眼鏡レンズ用塗布液塗布装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】要部を拡大して示す斜視図である。
【図6】スプレーノズルの軌道の一例を示す平面図である。
【図7】スプレーノズルの軌道の一例を示す平面図である。
【図8】スプレーノズルの軌道の一例を示す平面図である。
【図9】塗布液塗布部の他の実施の形態を示す側面図である。
【図10】塗布液塗布部の他の実施の形態を示す正面図である。
【図11】表面改質処理を行う場合の動作を説明するためのフローチャートである。
【図12】本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置の他の実施の形態を示す正面図である。
【図13】他の実施の形態による塗布液塗布装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る眼鏡用塗布液塗布装置の一実施の形態を図1〜図6によって説明する。
図1に示す眼鏡用塗布液塗布装置1は、スプレーノズル2から塗布液3を噴出させて眼鏡用プラスチックレンズ4(以下、単に眼鏡レンズという)のレンズ面4aに塗布する塗布液塗布部5を備えている。前記スプレーノズル2は、塗布液3を霧状に噴出させるものである。
【0018】
このスプレーノズル2から噴出される塗布液3からなる噴霧の形状は、図1に示すように、細い棒状である。すなわち、スプレーノズル2は、噴霧の中心線L1が指向する位置に塗布液3が塗布され、しかも、塗布範囲を特定できるものが用いられている。この実施の形態で用いる塗布液3はハードコート液である。このハードコート液としては、熱硬化型のものや紫外線硬化型のものを用いることができる。なお、塗布液3としては、ハードコート液の他に調光レンズ用のフォトクロ液も使用可能である。
図1に示す眼鏡レンズ4は、凸面からなるレンズ面4aが上方を指向する状態でレンズ支持装置(図示せず)に支持されている。なお、この眼鏡用塗布液塗布装置1が塗布液3を塗布するレンズ面4aは、凸面に限定されることはなく、凹面でもよい。
【0019】
塗布液塗布部5は、下記の第1〜第3の機能を用いて上述した塗布を実施する。
第1の機能は、塗布液3をスプレーノズル2に供給し、スプレーノズル2から霧状に噴出させる機能である。塗布液塗布部5は、第1の機能を実現するにあたって、塗布液3を予め定めた噴出圧力に加圧するポンプ(図示せず)と弁(図示せず)とを用いている。この弁は、塗布液3が噴出する状態と噴出が停止する状態とを切り替えるためのものである。
【0020】
第2の機能は、塗布液3がレンズ面4aに垂直に吹き掛けられるように、眼鏡レンズ4に対するスプレーノズル2の角度を変える機能である。塗布液塗布部5は、塗布液3がレンズ面4aに垂直に当たるように、スプレーノズル2から噴出する噴霧の中心線L1と、レンズ面4aの目標塗布位置6(塗布液3が当たる位置)を通る法線L2とを比較する。すなわち、塗布液塗布部5は、噴霧の中心線L1が前記法線L2と略一致するようにスプレーノズル2の設置角度を変える。
【0021】
前記法線L2は、図示していない測定器を用いて測定したレンズ面4aの形状データや、眼鏡レンズ4の製造に用いた形状データなどを利用して求めることができる。法線L2は、レンズ面4aの微小な区分領域毎に求める。前記区分領域とは、レンズ面4aを多数の領域に分けたうちの一つをいう。区分領域の面積は、固定状態のスプレーノズル2から噴出した塗布液3が塗布される範囲の面積と同等か、この面積より小さいことが望ましい。
【0022】
すなわち、塗布液塗布部5は、目標塗布位置6に含まれる区分領域の法線L2と、塗布液3の噴霧の中心線L1とを略一致させる。この法線L2のデータは、塗布液3を塗布する以前に塗布液塗布部5内のメモリ(図示せず)に記憶させておく。
第3の機能は、前記スプレーノズル2をレンズ面4aに沿って移動させる機能である。ここでいう「レンズ面4aに沿って移動させる」とは、レンズ面4aとスプレーノズル2との間隔を略一定に保持しながら、スプレーノズル2を眼鏡レンズ4の径方向に移動させることを意味する。
【0023】
上述した機能を有する塗布液塗布部5は、例えば図3に示すように、多関節ロボット11を用いて実現できる。
図3に示す多関節ロボット11は、回動部を6つ有する6軸ロボットである。この多関節ロボット11は、スプレーノズル2を回動させるための第1、第2の回動部12,13と、前記スプレーノズル2、前記第1の回動部12および前記第2の回動部13を支持する腕部14とを備えている。
【0024】
前記第1の回動部12は、スプレーノズル2を支持部材15に対して第1の軸線A1を中心として回動させる構成が採られている。第1の軸線A1は、スプレーノズル2から噴出する噴霧の中心線L1とは直交する方向(図3の紙面と直交する方向)に延びている。
第2の回動部13は、前記支持部材15を後述する腕部14(第3アーム16)に対して第2の軸線A2を中心として回動させる構成が採られている。第2の軸線A2は、前記第1の軸線A1と直交する方向(第3アーム16の長手方向)に延びている。
【0025】
前記腕部14は、前記スプレーノズル2と、第1、第2の回動部12,13とを支持するとともに、これらを眼鏡レンズ4の径方向(水平方向)および眼鏡レンズ4に対して接離する方向(上下方向)に移動させるものである。この実施の形態による前記腕部14は、図3に示すように、基台17と、第3〜第6の回動部18〜21とを備えている。
前記第3の回動部18は、基台17の上で第3の軸線A3を中心として回転台22を回動させる構成が採られている。第3の軸線A3は、上下方向に延びている。
【0026】
第4の回動部19は、前記回転台22に対して第4の軸線A4を中心として第1アーム23を回動させる構成が採られている。第4の軸線A4は、水平方向(図3の紙面と直交する方向)に延びている。
第5の回動部20は、前記第1アーム23に対して第5の軸線A5を中心として第2アーム24を回動させる構成が採られている。第5の軸線A5は、前記第4の軸線A4と平行な水平方向(図3の紙面と直交する方向)に延びている。
【0027】
第6の回動部21は、前記第2アーム24に対して第6の軸線A6を中心として第3アーム16を回動させる構成が採られている。第6の軸線A6は、第2アーム24の長手方向(第5の軸線A5と直交する方向)に延びている。なお、この第6の回動部21は、省略することができる。この場合の多関節ロボット11は5軸のものとなる。
この実施の形態による塗布液塗布部5は、前記多関節ロボット11と隣接する位置にレンズ支持装置25を備えている。
【0028】
このレンズ支持装置25は、眼鏡レンズ4の下面を吸着して眼鏡レンズ4を支持するものである。眼鏡レンズ4は、レンズ面4aが上方を指向する状態でレンズ支持装置25に支持されている。また、このレンズ支持装置25は、必要に応じて眼鏡レンズ4を光軸4bが中心となるように回転させることができるように構成されている。このレンズ支持装置25によって、請求項3記載の発明でいう「レンズ回転部」が構成されている。
【0029】
次に、本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置1によって眼鏡レンズ4に塗布液3を塗布する方法を図4に示すフローチャートを用いて説明する。
先ず、図4のフローチャートに示すレンズ支持ステップS1において、眼鏡レンズ4をレンズ支持装置25に支持させる。眼鏡レンズ4の支持は、作業者が眼鏡レンズ4を手で把持してレンズ支持装置25に吸着させたり、眼鏡レンズ4を搬送用トレイから上方に押し上げて保持するレンズ移載機構(図示せず)を用いて行うことができる。レンズ面4aの形状が特殊な形状である場合は、眼鏡レンズ4をレンズ支持装置25に支持させるときに眼鏡レンズ4を周方向に位置決めする。特殊な形状のレンズ面を有する眼鏡レンズとしては、例えば累進屈折力レンズがある。
【0030】
次に、形状データ設定ステップS2において、入力または計測によって得た形状データから前記区分領域毎の法線L2のベクトルデータを求める。なお、形状データ設定ステップS2は、レンズ支持ステップS1が実行される以前に行うことができる。
その後、ノズル配置ステップS3において、図5に示すように、スプレーノズル2を塗布液3が噴出していない状態でレンズ面4aの目標塗布位置6に対向させる。このとき、レンズ面4aの目標塗布位置6を通る法線L2と、スプレーノズル2から噴出する噴霧の中心線L1とが略一致するようにスプレーノズル2の設置角度を設定する。また、ノズル配置ステップS3においては、レンズ面4aとスプレーノズル2との間隔も予め定めた距離に設定される。この設置角度と間隔の設定は、前記多関節ロボット11を用いて行う。レンズ面4aとスプレーノズル2との間隔は、例えば約6cm〜約10cmに設定することができる。
【0031】
このように塗布準備が終了した後、塗布ステップS4を実行する。塗布ステップS4においては、スプレーノズル2から塗布液3を霧状に噴出させながら、前記目標塗布位置6がレンズ面4aの未塗布の部位に移るように、スプレーノズル2をレンズ面4aに沿って移動させる。スプレーノズル2が塗布液3を噴出するときの塗布圧は、0.05〜0.08Mpaに設定することができる。この移動時の移動経路は、前記形状データを用いて設定される。このため、例えば眼鏡レンズ4が累進屈折力レンズである場合は、スプレーノズル2がレンズ面4aの凹凸に倣って上昇、下降しながら移動する。このときのスプレーノズル2の移動も前記多関節ロボット11によって行う。
【0032】
塗布ステップS4は、レンズ支持装置25上で眼鏡レンズ4を停止させた状態で行う場合と、レンズ支持装置25によって眼鏡レンズ4を回転させながら行う場合とがある。
眼鏡レンズ4を停止させて塗布ステップS4を実施する場合は、多関節ロボット11の動作のみによって目標塗布位置6が移動する。一方、眼鏡レンズ4をレンズ支持装置25によって回転させながら塗布ステップS4を実施する場合は、多関節ロボット11の動作と、眼鏡レンズ4の回転とによって、目標塗布位置6が移動する。
【0033】
ステップS4で眼鏡レンズ4を停止させた状態で塗布液3をレンズ面4aの全域に均等に塗布するためには、スプレーノズル2を例えば図6に示す軌道26または図7に示す軌道27に沿って移動させることによって行うことができる。
図6に示す軌道26の形状は、スプレーノズル2が眼鏡レンズ4の外に位置する移動開始点26aから反時計方向へ径が次第に小さくなる螺旋を描くように3周し、その後、眼鏡レンズ4の中心部から反時計方向へ径が次第に大きくなる螺旋を描くように3周して主点26bに到達する形状である。終点26bは移動開始点26aと同一の位置である。軌道26の螺旋部分は、移動開始点26aと終点26bが眼鏡レンズ4の外に位置しているために、これら両点26a,26bに向けて螺旋が膨らむような形状である。
【0034】
図7に示す軌道27の形状は、スプレーノズル2が移動開始点27aから横方向と縦方向とに移動して終点27bに到達する形状である。終点27bは、移動開始点27aと同一の位置である。軌道27は、右方向移動部27cと、第1の上方向移動部27dと、第1の左方向移動部27eと、下方向移動部27fと、第2の左方向移動部27gと、第2の上方向移動部27hとによって構成されている。これらの移動部27c〜27hは、詳しくは後述するが、いずれも眼鏡レンズ4の光軸の方向から見て直線状に伸びている。
【0035】
前記右方向移動部27cにおいては、スプレーノズル2が眼鏡レンズ4の外径より長い所定距離だけ右側に移動する。前記第1の上方向移動部27dにおいては、スプレーノズル2が相対的に短い所定距離だけ図7において上側に移動する。前記第1の左方向移動部27eにおいては、スプレーノズル2が眼鏡レンズ4の外径より長い所定距離だけ左側に移動する。前記下方向移動部27fにおいては、スプレーノズル2が眼鏡レンズ4の外径より長い所定距離だけ図7において下側に移動する。前記第2の左方向移動部27gにおいては、スプレーノズル2が相対的に短い距離だけ左側に移動する。前記第2の上方向移動部27hにおいては、スプレーノズル2が眼鏡レンズ4の外径より長い距離だけ図7において上側に移動する。眼鏡レンズ4を停止させた状態でスプレーノズル2のみを移動させるときの軌道26,27は、図6,7に示す形状に限定されることはなく、適宜変更可能である。
【0036】
一方、ステップS4で眼鏡レンズ4を回転させながら塗布液3をレンズ面4aの全域に均等に塗布するためには、眼鏡レンズ4を例えば毎分15回転程度の回転速度で回転させ、スプレーノズル2を図8に示す軌道28に沿って移動させることによって実現できる。軌道28の形状は、スプレーノズル2が移動開始点28aから眼鏡レンズ4の外周部に沿うように移動した後、眼鏡レンズ4の中心部の近傍で円を描くように1回転し、その後、眼鏡レンズ4の外周部に沿って移動して終点28bに到達するような形状である。図8に示す軌道28に沿ってスプレーノズル2を移動させる場合、眼鏡レンズ4の回転方向は図8において反時計方向である。眼鏡レンズ4を回転させるときの回転数は、上述した毎分15回転に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。また、眼鏡レンズ4を回転させながらスプレーノズル2を移動させるときの軌道28は、図8に示す形状に限定されることはなく、適宜変更可能である。
【0037】
塗布ステップS4において、スプレーノズル2の移動や眼鏡レンズ4の移動に伴って目標塗布位置6が変わると、その都度前記設置角度が変更される。すなわち、塗布ステップS4は、レンズ面4aの目標塗布位置6を通る法線L2と、スプレーノズル2から噴出する噴霧の中心線L1とが略一致するように、前記設置角度を変えながら行われる。
塗布ステップS4は、レンズ面4aの全域に塗布液3が塗布された後に終了する。レンズ面4aの全域に塗布液3が塗布された眼鏡レンズ4は、レンズ支持装置25から図示していない搬送用トレイに移され、塗布液3を硬化させる装置(図示せず)に送られる。
【0038】
このように構成された眼鏡レンズ用塗布液塗布装置1によれば、スプレーノズル2から噴出して霧状となった塗布液3の微粒子は、レンズ面4aの法線L2に沿って飛行してレンズ面4aの目標塗布位置6に付着する。この微粒子は、レンズ面4aに斜めに当たると、レンズ面4aに当たった後にレンズ面4a上を移動したり、塗布パターン形状が変化してしまうため、形成された膜厚が変化してしまうおそれがある。しかし、この実施の形態においては、前記微粒子がレンズ面4aの目標塗布位置6に垂直に当たるから、この微粒子の大部分は、目標塗布位置6に留まり、目標通りの塗布パターンが形成できると考えられる。
【0039】
すなわち、目標塗布位置6に塗布される塗布液3の量は、スプレーノズル2から噴出する塗布液3の量に基づいて間接的に量ることが可能になる。このことは、塗布液3が硬化した後に形成される膜の厚みが所望の厚みになるように、塗布液3を塗布することが可能になることを意味する。
上述したようにスプレーノズル2から塗布液3が噴出している状態で目標塗布位置6がレンズ面4aの未塗布の部位に移るようにスプレーノズル2をレンズ面4aに沿って移動させることによって、レンズ面4aの全域に前記微粒子が均等に付着する。
【0040】
したがって、この実施の形態によれば、レンズ面4aの全域に薄くかつ厚みが均等となるように塗布液3(ハードコート液)の層を形成することができる。この結果、この眼鏡レンズ用塗布液塗布装置1によれば、塗布液3としてハードコート液を使用しているから、例えば1〜5μm程度の均一な膜厚を有するハードコート膜を眼鏡レンズ4に形成することができる。このハードコート膜は、厚みが9.1μm未満であるにもかかわらず、膜厚が均一であるから、眼鏡レンズ4に干渉縞が生じることはない。
【0041】
この実施の形態による前記塗布液塗布部5は、第1、第2の回動部12,13と腕部14とを有する多関節ロボット11を用いて構成されている。第1の回動部12は、前記スプレーノズル2を塗布液3の噴霧の中心線L1とは直交する方向に延びる第1の軸線A1を中心として回動させるものである。第2の回動部13は、前記スプレーノズル2を前記第1の軸線A1と直交する第2の軸線A2を中心として回動させるものである。前記腕部14は、前記スプレーノズル2、前記第1の回動部12および前記第2の回動部13を支持するとともに、これらを前記眼鏡レンズ4の径方向および眼鏡レンズ4に対して接離する方向に移動させるものである。
【0042】
この実施の形態によれば、前記多関節ロボット11に支持されたスプレーノズル2を使用してレンズ面4aに塗布液3が塗布される。このため、塗布液3をレンズ面4aに塗布するときのスプレーノズル2の移動経路の自由度が高くなる。したがって、この実施の形態によれば、累進屈折力レンズのレンズ面のような複雑な形状のレンズ面にも塗布液3を塗布液層の厚みが均等になるように塗布することが可能である。
【0043】
この実施の形態による前記塗布液塗布部5は、前記眼鏡レンズ4を光軸4bが中心となるように回転させるレンズ支持装置25(レンズ回転部)を備えている。
このため、眼鏡レンズ4を回転させて目標塗布位置6をスプレーノズル2と対向する位置に移動させることができる。したがって、スプレーノズル2のみを移動させてレンズ面4aの全域に塗布液3を塗布する場合に較べると、塗布に要する時間が短縮され、塗布作業の効率が向上する。
【0044】
(第2の実施の形態)
本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置の塗布液塗布部は、図9に示すように構成することができる。図9において、前記図1〜図6によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図9に示す塗布液塗布部5は、第1、第2の回動部12,13と、間隔設定部31と、平行移動部32と、レンズ回転部33とによって構成されている。
【0045】
第1の回動部12は、前記スプレーノズル2を前記噴霧の中心線L1とは直交する方向の第1の軸線A1を中心として回動させるものである。第2の回動部13は、前記スプレーノズル2を前記第1の軸線A1と直交する第2の軸線A2を中心として回動させるものである。
【0046】
前記間隔設定部31は、前記スプレーノズル2、第1の回動部12および第2の回動部13を支持するとともに、前記眼鏡レンズ4に対して接離する方向(上下方向)に移動させるものである。この間隔設定部31は、後述する平行移動部32に支持されている。
前記平行移動部32は、前記間隔設定部31を前記眼鏡レンズ4の径方向(水平方向)に平行移動させるためのものである。
【0047】
この実施の形態による平行移動部32は、塗布液塗布装置1の天井部材34に設けられたガイドレール35と、このガイドレール35に沿って移動するスライダ36とを備えている。前記間隔設定部31は、前記スライダ36に支持されている。
前記レンズ回転部33は、前記眼鏡レンズ4を光軸4bが中心となるように回転させるもので、上述したレンズ支持装置25と同一のものである。
この実施の形態によれば、下記の第1〜第4の動作が行われることによって、レンズ面4aの全域に塗布液3が塗布される。第1の動作は、第1、第2の回動部12,13で塗布液3の噴霧の中心線L1をレンズ面4aの目標塗布位置6を通る法線L2とを略一致させる動作である。
【0048】
第2の動作は、間隔設定部31でスプレーノズル2とレンズ面4aとの間隔を目標塗布位置6毎に変える動作である。
第3の動作は、平行移動部32でスプレーノズル2を眼鏡レンズ4の径方向に平行移動させる動作である。
第4の動作は、レンズ回転部33で眼鏡レンズ4を回転させる動作である。すなわち、この塗布液塗布部5においては、平行移動部32によるスプレーノズル2の水平方向への移動と、レンズ回転部33による眼鏡レンズ4の回転とによって、目標塗布位置6が移動する。
【0049】
したがって、この実施の形態による眼鏡レンズ用塗布液塗布装置1は、スプレーノズル2をレンズ面4aの全域にわたって塗布液3が塗布されるように移動させるにあたって、多関節ロボット11を使用する場合に較べると占有スペースが狭くなる。この結果、この実施の形態によれば、コンパクトな眼鏡レンズ用塗布液塗布装置を提供することができる。
【0050】
(第3の実施の形態)
本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置の塗布液塗布部は、図10および図11に示すように構成することができる。図10および図11において、前記図1〜図9によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0051】
この実施の形態による塗布液塗布部5は、図10に示すように、表面改質処理装置41を備えている。この表面改質処理装置41は、塗布液3からなる微粒子が付着したときの濡れ性が高くなるようにレンズ面4aに表面改質処理を行うものである。
この実施の形態による表面改質処理装置41は、大気中で放電ヘッド41aにおいてコロナ放電41bを発生させ、その放電電子を眼鏡レンズ4のレンズ面4a(被塗布面)に照射するものである。
【0052】
すなわち、この表面改質処理装置41は、いわゆるコロナ放電処理装置によって構成されている。なお、表面改質処理装置41としては、コロナ放電処理装置の他に、プラズマ処理装置(図示せず)を用いることができる。
この表面改質処理装置41は、前記スプレーノズル2の下方に眼鏡レンズ4を送る搬送路の上流側に位置付けられている。
【0053】
このように表面改質処理装置41を併用する場合の塗布液塗布方法は、図11に示すように、レンズ支持ステップS1が実施される以前に改質処理ステップP1が実施される。
このため、この表面改質処理装置41を有する塗布液塗布装置1においては、スプレーノズル2から噴出してレンズ面4aに付着した塗布液3の微粒子がレンズ面4a上で濡れ拡がり、微粒子どうしの間が塗布液3で満たされるようになる。したがって、レンズ面4a上に塗布液3が塗布されていない部位が生じることを確実に防ぐことができるから、塗布液3の層の厚みをより一層薄く形成することが可能になる。
【0054】
(第4の実施の形態)
本発明に係る眼鏡レンズ用塗布液塗布装置は、図12および図13に示すように構成することができる。図12および図13において、前記図1〜図11によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図12に示す眼鏡レンズ用塗布液塗布装置51は、塗布液が飛散することを防ぐために、箱状の筐体52を備えている。この筐体52は、後述する各装置を支持する基台53と、この基台53の上方に塗布室54を形成するための前壁55、左側壁56、右側壁57、後壁58および天井壁59などを備えている。
【0055】
前記前壁55と、左側壁56と、右側壁57および後壁58は、塗布室54を水平方向の四方から囲んでおり、塗布室54内を外から目視できるように、透明な材料によって形成されている。前記四つの壁55〜58は、塗布室54内に外部から紫外線が照射されることを阻止するために、紫外線を遮断できるように形成されている。前壁55には、メンテナンス用の扉55aが開閉可能に設けられている。この扉55aも透明な材料によって形成されており、しかも、紫外線の透過を阻止するように構成されている。
【0056】
前記天井壁59には、換気装置61が取付けられている。この換気装置61は、塗布室54内の空気を吸引し、フィルター(図示せず)を通してから塗布室54の外に排出させる。前記基台53には、塗布室54内に外気を導入するために、多数の空気穴62が形成されている。すなわち、塗布室54内の空気は、換気装置61が作動することにより下方から上方に流れる。
【0057】
前記左側壁56の外側には、塗布液塗布部5の一部を構成する表面改質処理装置41が配置されている。この表面改質処理装置41は、前記基台53に支持されている。この実施の形態による表面改質処理装置41は、ケース63の中で眼鏡レンズ4の表面改質処理を行うもので、ケース63に対して眼鏡レンズ4を出し入れするための可動ステージ64を備えている。可動ステージ64は、左側壁56に形成された入口56aの近傍と、ケース63内との間で眼鏡レンズ4を移動させる構成が採られている。この表面改質処理装置41は、コロナ放電処理装置やプラズマ処理装置などによって構成することができる。
【0058】
前記筐体52の中には、多関節ロボット11と、後述する塗布液硬化装置65とが水平方向に並ぶように設けられている。多関節ロボット11は、前記表面改質処理装置41と協働して塗布液塗布部5を構成するもので、第1の実施の形態で示したものと同等のものが用いられている。この多関節ロボット11のスプレーノズル2から噴出する塗布液は、紫外線硬化型のハードコート液である。
塗布液硬化装置65は、紫外線硬化型のハードコート液が塗布された眼鏡レンズ4に紫外線を照射させてハードコート液を硬化させるものである。この塗布液硬化装置は、前記多関節ロボット11と筐体52の右側壁57との間に配置されている。
【0059】
筐体52は、多関節ロボット11と塗布液硬化装置65とに眼鏡レンズ4を送るために搬送装置71を備えている。この搬送装置71は、眼鏡レンズ4が載せられたトレイ72を前記左側壁56の入口56aから多関節ロボット11の前方を通して塗布液硬化装置65に送るように構成されている。塗布液硬化装置65でハードコート液の硬化処理が施された眼鏡レンズ4は、筐体52の右側壁57の出口(図示せず)から筐体52の外に取出される。
【0060】
この実施の形態による塗布液塗布装置51を用いる眼鏡レンズの製造方法は、図13に示すように、塗布ステップS4の後に塗布液硬化装置65により硬化ステップP2が実施される。このため、この塗布液硬化装置65を有する塗布液塗布装置51においては、ハードコート液の塗布と硬化とを一つの筐体52内で行うことができるから、塵埃等が付着することなくハードコート液を硬化させることができる。したがって、この実施の形態によれば、より一層品質が高いハードコート膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…眼鏡レンズ4用塗布液塗布装置、2…スプレーノズル、4…眼鏡レンズ4、4a…レンズ面、4b…光軸、5…塗布液塗布部、6…目標塗布位置、11…多関節ロボット11、12…第1の回動部、13…第2の回動部、14…腕部、25…レンズ支持装置、31…間隔設定部、33…レンズ回転部、32…平行移動部、41…表面改質処理装置41、51…塗布液塗布装置、52…筐体、65…塗布液硬化装置、L1…噴霧の中心線、L2…法線、A1…第1の軸線、A2…第2の軸線、S1…レンズ支持ステップ、S2…形状データ設定ステップ、S3…レンズ配置ステップ、S4…塗布ステップ、P1…改質処理ステップ、P2…硬化ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーノズルから塗布液を霧状に噴出させて眼鏡レンズのレンズ面に塗布する塗布液塗布部を備え、
前記塗布液塗布部は、前記スプレーノズルから噴出する噴霧の中心線が前記レンズ面の目標塗布位置を通る法線と略一致するように前記スプレーノズルを前記レンズ面に対向させながら、前記スプレーノズルを前記レンズ面に沿って移動させるものであることを特徴とする眼鏡レンズ用塗布液塗布装置。
【請求項2】
請求項1記載の眼鏡レンズ用塗布液塗布装置において、
前記塗布液塗布部は、前記噴霧の中心線とは直交する方向に延びる第1の軸線を中心として回動させる第1の回動部と、
前記スプレーノズルを前記第1の軸線とは直交する第2の軸線を中心として回動させる第2の回動部と、
前記スプレーノズル、前記第1の回動部および前記第2の回動部を支持するとともに、前記眼鏡レンズの径方向および眼鏡レンズに対して接離する方向に移動させる腕部とを有する多関節ロボットを備えていることを特徴とする眼鏡レンズ用塗布液塗布装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の眼鏡レンズ用塗布液塗布装置において、前記塗布液塗布部は、前記眼鏡レンズを光軸が中心となるように回転させるレンズ回転部を備えていることを特徴とする眼鏡レンズ用塗布液塗布装置。
【請求項4】
請求項1記載の眼鏡レンズ用塗布液塗布装置において、
前記塗布液塗布部は、前記スプレーノズルを前記噴霧の中心線とは直交する方向に延びる第1の軸線を中心として回動させる第1の回動部と、
前記スプレーノズルを前記第1の軸線と直交する第2の軸線を中心として回動させる第2の回動部と、
前記スプレーノズル、第1の回動部および第2の回動部を支持するとともに、前記眼鏡レンズに対して接離する方向に移動させる間隔設定部と、
前記間隔設定部を前記眼鏡レンズの径方向に平行移動させる平行移動部と、
前記眼鏡レンズを光軸が中心となるように回転させるレンズ回転部とによって構成されていることを特徴とする眼鏡レンズ用塗布液塗布装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうち何れか一つに記載の眼鏡レンズ用塗布液塗布装置において、前記塗布液塗布部は、前記塗布液からなる微粒子が付着したときの濡れ性が高くなるようにレンズ面に表面改質処理を行う表面改質処理装置を備えていることを特徴とする眼鏡レンズ用塗布液塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−80012(P2013−80012A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218655(P2011−218655)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(509333807)ホヤ レンズ タイランド リミテッド (25)
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
【Fターム(参考)】