説明

眼鏡レンズ

【課題】青色光が眼に与える影響を低減するための手段の提供。
【解決手段】レンズ基材上に直接または間接に多層蒸着膜を有する眼鏡レンズ。前記多層蒸着膜は、レンズ基材側から、SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚25〜32nmの第一層、Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚7〜9nmの第二層、SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚360〜390nmの第三層、Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚10〜13nmの第四層、SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚34〜38nmの第五層、Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚42〜45nmの第六層、SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚110〜115nmの第七層、をこの順に含み、前記多層蒸着膜を有する側のレンズ表面において420〜450nmの波長域の入射光を反射する性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズに関するものであり、詳しくは、入射光による眼への負担を軽減可能な眼鏡レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼に入射する光には様々な波長の光が含まれているが、短波長光ほどエネルギーが強く散乱しやすいため眼に大きな負担をかけ、眼精疲労や眼の痛みの原因となる。そこで短波長光である紫外線の眼への入射を防ぐために、眼鏡レンズの物体側表面に紫外線反射膜や紫外線吸収膜を設けることが広く行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−31701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のデジタル機器のモニター画面はブラウン管から液晶に替わり、最近はLED液晶も普及しているが、液晶モニター、特にLED液晶モニターは、紫外線の波長に近い420nm〜450nm程度の波長を持つ、いわゆる青色光と呼ばれる短波長光を強く発光する。そのため、パソコン等を長時間使用する際に生じる眼精疲労や眼の痛みを効果的に低減するためには、紫外線をカットするよりも、青色光に対して対策を講じる必要がある。
【0005】
そこで本発明の目的は、青色光が眼に与える影響を低減するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、青色光を反射可能な多層蒸着膜を設けることで眼鏡レンズを介して眼に入射する青色光の量を低減することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、上記目的は、
レンズ基材上に直接または間接に多層蒸着膜を有する眼鏡レンズであって、
前記多層蒸着膜は、レンズ基材側から、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚25〜32nmの第一層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚7〜9nmの第二層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚360〜390nmの第三層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚10〜13nmの第四層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚34〜38nmの第五層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚42〜45nmの第六層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚110〜115nmの第七層、
をこの順に含み、前記多層蒸着膜を有する側のレンズ表面において420〜450nmの波長域の入射光を反射する性質を有することを特徴とする、前記眼鏡レンズ、
に関する。
【0008】
更に本発明によれば、前記多層蒸着膜を、レンズ基材の物体側表面および眼球側表面上にそれぞれ有し、物体側表面および眼球側表面における420〜450nmの波長域のすべての光線に対する反射率が3〜8%の範囲である、前記眼鏡レンズも提供される。このように眼鏡レンズの両面に青色光を反射可能な上記多層蒸着膜(以下、「青色光反射膜」ともいう。)を設けることにより、片面のみに青色光反射膜を設けることで、物体側表面から入射し眼鏡レンズを介して眼鏡装用者の眼に入射する青色光の量を、両面に青色光反射膜を設ける場合と同レベルまで低減するよりも効果的に、青色光による眼への負担を低減することができる。これは主に以下の理由による。
眼鏡装用者の眼に入射する光は物体側表面から入射する光に限られず、斜め後方からレンズの眼球側表面に入射した光も、眼球側表面からの反射光として装用者の眼に入射する。そしてこの眼球側表面からの反射光には、眼球側表面を反射面とする光のほかに、眼球側から入射し物体側表面で反射され戻り光としてレンズから出射する光も含まれる。物体側表面で多くの青色光を反射しようと物体側表面に設ける青色光反射膜の青色光反射率を高めるほど、眼球側表面から入射した青色光が物体側表面に設けた青色光反射膜で反射し戻る量も多くなるため、結果的に戻り光として眼に入射する青色光が多くなり、これが眼に負担を掛けることになる。したがって、物体側表面のみに青色光を反射しカットする機能をもたせるよりも、物体側、眼球側に上記機能を分散することで、青色光が眼に与える負担を、より一層低減することが可能となるのである。
【0009】
更に本発明の眼鏡レンズは、前記多層蒸着膜に、導電性酸化物を主成分とする蒸着源を用いる蒸着材料により形成された蒸着膜を更に含むことができる。これにより、レンズ表面の帯電を防止し、静電気により塵や埃が付着することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パソコン使用時などの眼精疲労や眼の痛みを防止ないし軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】比較例1で作製した眼鏡レンズの凸面側表面における波長380〜780 nmにおける分光反射スペクトルである。
【図2】実施例1で作製した眼鏡レンズの凸面側表面における波長380〜780 nmにおける分光反射スペクトルである。
【図3】実施例2で作製した眼鏡レンズの凸面側表面における波長380〜780nmにおける分光反射スペクトルおよび分光透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、レンズ基材上に直接または間接に多層蒸着膜(青色光反射膜)を有する眼鏡レンズに関する。本発明の眼鏡レンズは、眼鏡レンズを介して眼鏡装用者の眼に入射する青色光の量を低減することができるものであって、該青色光反射膜はレンズ基材側から、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚25〜32nmの第一層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚7〜9nmの第二層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚360〜390nmの第三層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚10〜13nmの第四層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚34〜38nmの第五層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚42〜45nmの第六層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚110〜115nmの第七層、
をこの順に含み、前記青色光反射膜を有する側のレンズ表面において420〜450nmの波長域の入射光を反射する性質を有するものである。上記青色光反射膜は、低屈折率層であるSiO2を主成分とする蒸着層と、高屈折率層であるTa2O5またはZrO2を主成分とする蒸着層が上記の順に、眼鏡レンズに青色光を反射する機能を付与することを目的として膜材料の屈折率と反射すべき青色光の波長に基づく光学的シミュレーションにより決定した上記膜厚で積層されていることで、上記青色光反射膜を有する側のレンズ表面において420〜450nmの波長域の入射光(青色光)を反射する性質をもたらすものである。また、前記膜材料が前記の膜厚で堆積した多層蒸着膜は透明性が高いため、この膜の存在により眼鏡レンズの透明性を大きく低下させることはない。なお本発明において主成分とは、蒸着源または蒸着層において最も多くを占める成分であって、通常は全体の50質量%程度〜100質量%、更には90質量%程度〜100質量%を占める成分である。蒸着源においてSiO2が50質量%程度以上含まれれば、形成される蒸着層は低屈折率層として機能し得るものとなり、蒸着源としてTa2O5またはZrO2が50質量%程度以上含まれれば、形成される蒸着層は高屈折率層として機能し得るものとなる。なお蒸着源には、不可避的に混入する微量の不純物が含まれる場合があり、また、主成分の果たす機能を損なわない範囲で他の成分、例えば他の無機物質や蒸着を補助する役割を果たす公知の添加成分が含まれていてもよい。
以下、本発明の眼鏡レンズについて、更に詳細に説明する。
【0013】
本発明の眼鏡レンズは、前記青色光反射膜をレンズ基材上に直接有していてもよく、一層または二層以上の機能性膜を介して間接に有していてもよい。レンズ基材としては、特に限定されるものではなく、眼鏡レンズのレンズ基材に通常使用される材料、例えば、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のプラスチック、無機ガラス、等からなるものを用いることができる。レンズ基材の厚さおよび直径は、特に限定されるものではないが、通常、厚さは1〜30mm程度、直径は50〜100mm程度である。本発明の眼鏡レンズが視力矯正用の眼鏡レンズの場合、レンズ基材としては、屈折率ndが1.5〜1.8程度のものを使用することが通常である。レンズ基材としては、通常無色のものが使用されるが、透明性を損なわない範囲で着色したものを使用することもできる。
【0014】
レンズ基材と前記青色光反射膜との間に存在し得る機能性膜は特に限定されるものではなく、例えば耐久性向上に寄与する機能性膜であるハードコート層、密着性向上のためのプライマー層(接着層)を挙げることができる。これらの任意に形成される機能性膜の膜厚は、所期の機能を発揮し得る範囲に設定すればよく、特に限定されるものではない。なおレンズ基材は、保管時ないし流通時の傷の発生を防止するためにハードコート層付きで市販されているものもあり、本発明ではそのようなレンズ基材を使用することもできる。
【0015】
レンズ基材上に形成される前記青色光反射膜の第一層〜第七層を構成する膜材料および各層の膜厚については前述の通りである。前記青色光反射膜によれば、該膜を有する側のレンズ表面において、420〜450nmの波長域の入射光(青色光)を反射する性質を、眼鏡レンズに付与することができる。本発明では、上記波長域のすべての光線に対して3%以上の反射率を示すことを、反射する性質(反射性能)を有するというものとする。上記反射率が3%以上であれば、眼鏡レンズにより青色光が遮断されて刺激が低減されていることを眼鏡装用者が認識することができるからである。また、上記反射率は8%以下であることが好ましい。眼鏡レンズの物体側表面に上記反射率が8%を超えるほどの青色光反射性能が付与されると、先に説明したように眼球側から入射した青色光が戻り光として眼鏡装用者の眼に入射する量が多くなり、眼鏡装用者の眼に大きな負担を掛けることになるからである。また、眼鏡レンズの眼球側表面に上記反射率が8%を超えるほどの青色光反射性能が付与されると、眼球側から入射した青色光が眼球側表面で反射して眼鏡装用者の眼に入射する量が多くなり、やはり眼鏡装用者の眼に大きな負担を掛けることになるからである。
【0016】
本発明の眼鏡レンズには、物体側表面、眼球側表面のいずれか一方のみに前記青色光反射膜を設けることができる。眼鏡装用者の眼に入射する青色光の多くは物体側表面から入射するが、物体側表面から入射した青色光は、眼球側表面に設けられた青色光反射膜によっても反射され得る。物体側表面から入射する青色光を効果的に遮断するためには、前記青色光反射膜をレンズ両面のいずれか一方のみに設ける場合には、物体側表面に設けることが好ましい。また、上記した理由から眼鏡レンズの片面のみに多くの青色光反射性能を付与することは望ましくないが、その反面、眼鏡装用者の眼に入射する青色光を少なくすることは、眼鏡装用者の眼への負担の軽減につながる。したがって本発明の眼鏡レンズは、眼鏡レンズの物体側表面と眼球側表面に青色光反射性能を分散して付与することで、眼鏡レンズ全体として高い青色光反射性能を実現することが望ましい。この点から本発明の眼鏡レンズには、物体側、眼球側の両表面に前記青色光反射膜を設けることが好ましい。なお前記青色光反射膜をレンズ両面に設ける場合、両面の前記反射率の合計が15%以下、更には12%以下、例えば9〜11%程度となるように、レンズ両面に青色光反射性能を分散付与することが、眼鏡装用者に良好な視野を与えるうえで好ましい。なお物体側表面とは、本発明の眼鏡レンズが枠入れされて作製された眼鏡が装用された際に物体側に配置される面をいい、眼球側表面とは眼球側に配置される面をいう。物体側表面、眼球側表面に同等の青色光反射性能を付与してもよく(例えば物体側表面、眼球側表面でそれぞれ前記反射率を5%程度とすることができる)、いずれか一方に多くの青色光反射性能を付与してもよい。後者の場合には、物体側表面に多くの青色光反射性能を付与することが、青色光の多くを効果的に遮断しつつ眼球側表面から入射する光が戻り光となり眼鏡装用者の眼に入射する量を少なくするうえで好ましい。
【0017】
以上説明した青色光反射膜は、前記の蒸着源を用いて順次蒸着を行うことによりレンズ基材上に形成することができる。蒸着は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法、イオンアシスト法、反応性スパッタリング法等により行うことができ、高い膜硬度と良好な密着性を得るためにはイオンアシスト法が好ましい。イオンアシスト法において、成膜を良好に行うためには、加速電圧は50〜700V程度、 加速電流は30〜250mA程度とすることが好ましい。イオンアシスト法において使用するアシストガス(イオン化ガス)は、酸素、窒素、またはこれらの混合ガスを用いることが成膜中の反応性の点から好ましい。
【0018】
前記青色光反射膜は、前記の第一層〜第七層が前述の順に積層されたものであるが、眼鏡レンズが帯電し塵や埃が付着することを防ぐために、導電性酸化物を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された一層または二層以上の蒸着膜(以下、「導電性酸化物層」ともいう。)を更に含むこともできる。当該導電性酸化物層を設けることで、青色光反射膜側のレンズ表面において、例えば5x109〜9x1010Ω/□程度の表面抵抗値を実現することができ、これによりレンズ表面への塵や埃の付着を効果的に抑制することが可能となる。上記導電性酸化物としては、眼鏡レンズの透明性を低下させることのないように透明導電性酸化物として知られる酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、およびこれらの複合酸化物を用いることが好ましく、透明性および導電性の観点から特に好ましい導電性酸化物としては、インジウム−スズ酸化物(ITO)を挙げることができる。上記導電性酸化物層の厚さは4〜6nm程度とすることが、青色光反射性能と眼鏡レンズの透明性を良好に維持するうえで好ましい。
【0019】
本発明の眼鏡レンズは、以上説明した青色光反射膜の表面に、ハードコート層、撥水層等の公知の機能性膜を有することもできる。
【0020】
眼鏡レンズは眼鏡装用者に良好な視界をもたらすために高い透明性を有することが好ましいが、前記青色光反射膜は高い透明性を有するため、眼鏡レンズの透明性を損なうことなく、青色光反射性能を眼鏡レンズに付与することができるものである。これにより、良好な視界を確保しつつ、青色光による眼精疲労や眼の痛みを低減することができる眼鏡の提供が可能となる。例えば本発明の眼鏡レンズは、レンズ基材がカラーが施されていない無色レンズの場合、青色光反射性能とともに、視感透過率として90%以上、更には95%以上、例えば95〜99%の範囲の高い透明性を有することができる。なお本発明における視感透過率とは、JIS T7330にしたがい測定される値とする。
【0021】
以上説明したように、本発明によれば眼への青色光の入射量を少なくすることで、青色光が眼に与える影響を低減し得る眼鏡レンズを提供することができる。本発明の眼鏡レンズを、眼鏡店において、または眼鏡店からの受注を受けた製造メーカーにおいて眼鏡に加工することで、青色光カット機能を有する眼鏡を提供することが可能となる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0023】
[比較例1]
両面が光学的に仕上げられ予めハードコートが施された、物体側表面が凸面、眼球側表面が凹面であるプラスチックレンズ基材(HOYA(株)製商品名アイアス、屈折率1.6、無色レンズ)の凸面側のハードコート表面に、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、表1に示す条件でイオンアシスト法により合計8層の蒸着膜を順次形成した。なお本比較例および後述の実施例では、不可避的に混入する可能性のある不純物を除けば表中に記載の酸化物からなる蒸着源を使用した。以下に示す膜厚は、成膜条件から算出された物理膜厚である。8層目の蒸着層を形成した後、当該層の上に9層目の膜として撥水層を、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物である信越化学工業(株)製KY130およびKY500を質量%で50%:50%となるように混合した混合物を蒸着源として、ハロゲン加熱により蒸着を行い形成した。
【0024】
【表1】

【0025】
[実施例1]
1層目〜8層目の蒸着膜を形成する条件を、表2に示すように変更した点以外は比較例1と同様の方法で成膜を行った。
【0026】
【表2】

【0027】
青色光反射性能の評価
日立分光光度計U-4100を用いて、比較例1、実施例1で作製した眼鏡レンズの凸面側表面において波長380nm〜780nmにおける分光反射スペクトルを測定した。比較例1で作製した眼鏡レンズについて得られた分光反射スペクトルを図1に、実施例1で作製した眼鏡レンズについて得られた分光反射スペクトルを図2に、それぞれ示す。
図1に示すように、比較例1で作製した眼鏡レンズは、多層蒸着膜表面における波長420〜450nmの光線に対する反射率は0〜0.2%であり、青色光に対して反射性能を示さなかった。
これに対し、図2に示すように、実施例1で作製した眼鏡レンズは、多層蒸着膜表面における波長420〜450nmにおけるすべての光線に対する反射率は約5%(4.6〜5.4%)であり、青色光を反射する性質を有するものであった。
以上の結果から、本発明によれば前記の第一層〜第七層をレンズ基材側から順に形成することで、青色光反射性能を有する眼鏡レンズが得られることが示された。
また、実施例1で作製した眼鏡レンズの凸面側表面の表面抵抗値を測定したところ、約2x1010Ω/□であり、ITO蒸着層を形成したことで帯電防止機能が付与されたことが確認された。
【0028】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で凸面側に多層蒸着膜を形成した後、表2に示す膜厚となるように凹面側のハードコート表面にも同様の条件でイオンアシスト法により多層蒸着膜を積層して、更に同様の方法で撥水層を形成して眼鏡レンズを得た。本実施例で凸面側に作製した多層蒸着膜は実施例1と同じものであるため、図2に示す反射性能を示すものである。また、凹面側に作製した多層蒸着膜も実施例1と同じものであるため、同様に図2に示す反射性能を有するものである。即ち、本実施例で作製した眼鏡レンズは、レンズ両面において、波長420〜450nmの波長域のすべての光線に対して約5%の反射率を示すものである。
【0029】
青色光反射性能の評価
実施例2で作製した眼鏡レンズの凸面側表面における波長380nm〜780nmにおける分光反射スペクトルおよび分光透過スペクトルを日立分光光度計U-4100を用いて測定し、得られたスペクトルから視覚透過率を求めた。得られた分光反射スペクトルおよび分光透過スペクトルを図3に示す。図3に示すように、実施例2で作製した眼鏡レンズは、レンズ両面に上記多層蒸着膜を有することで、420〜450nmの波長域のすべての光線を約10%カット(反射)することができるものであった。また、算出された視感透過率は97.8%であり、眼鏡レンズに求められる高い透明性を有することも確認された。
【0030】
以上説明した実施例では、高屈折率膜材料としてTa2O5を用いたが、Ta2O5と同等の屈折率を有する高屈折率物質であるZrO2を用いて同様の結果が得られることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、眼鏡レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材上に直接または間接に多層蒸着膜を有する眼鏡レンズであって、
前記多層蒸着膜は、レンズ基材側から、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚25〜32nmの第一層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚7〜9nmの第二層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚360〜390nmの第三層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚10〜13nmの第四層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚34〜38nmの第五層、
Ta2O5またはZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚42〜45nmの第六層、
SiO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された、膜厚110〜115nmの第七層、
をこの順に含み、前記多層蒸着膜を有する側のレンズ表面において420〜450nmの波長域の入射光を反射する性質を有することを特徴とする、前記眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記多層蒸着膜を、レンズ基材の物体側表面および眼球側表面上にそれぞれ有し、物体側表面および眼球側表面における420〜450nmの波長域のすべての光線に対する反射率が3〜8%の範囲である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記多層蒸着膜は、導電性酸化物を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された蒸着膜を更に含む、請求項1または2に記載の眼鏡レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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