説明

眼鏡用レンズ及びその製造方法

本発明は、新規の型の眼鏡用レンズ及びその製造方法に関する。本発明の第1実施形態によると、レンズは全体として(1)と呼ばれる。レンズ(1)は、透明基板(2)を含み、前記基板(2)と金などの貴金属の層(3)との間に複合層が設けられており、前記複合層は2つの層(4)及び(5)を含む。前記複合層の好ましい組み合わせは、前記基板(2)上に直接塗布され、クロムなどの金属から作られている層(4)を含み、層(4)は酸化ケイ素から有利に作られている。本発明は、サングラス及び眼科眼鏡に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規の型の眼鏡用レンズ及びそれを得るための方法に関する。
【0002】
本技術分野は、サングラスのものであれ、補正眼鏡のものであれいずれにせよ、眼鏡用レンズの分野である。「眼鏡」という用語には、着用者の目を保護する、及び/又は着用者の視力を向上させるように設計されたいかなる器具も含まれる。
【0003】
実施形態において、レンズは、レンズを見る観察者に対して金属外観をもたらす。例えば、この金属外観は、金などの貴金属の外観でもよい。本明細書中の「金属外観」は、前記レンズ中に層の形で存在する貴金属の外観を観察者に与えるレンズを含むと理解される。
【0004】
実施形態による眼鏡はある程度の保護を二次的に実現するが、実施形態の第1の目的は、使用者の保護ではなく、上で定義した眼鏡は、使用者を赤外線などの放射から保護するように基本的に設計されていない。
【背景技術】
【0005】
使用者を保護するように設計された既知の器具の中で、バイザーが高温に耐性の金の層で被覆されており、したがって消防士を火の強力な放射から保護する消防士マスクを挙げることができる。同様のマスク、すなわち、バイザーが使用者を有害な放射から保護する金の層で被覆されたマスクは、宇宙飛行士が宇宙空間を移動する際にも使用され、又は戦闘機の操縦士によっても使用される。
【0006】
さらに、上記のマスクの場合、金の層の厚さが比較的大きいことにより、この層が堆積しているレンズにおいて、使用者に面するレンズの面に高程度の反射が生じる。しかし、マスクが包囲しており、したがってマスクの内側、すなわちこのマスクの着用者に面する面に反射しうる光をかなり制限しているため、この程度の反射は、上記職業の人にとって厄介ではない。
【0007】
眼鏡の場合に使用者にとって厄介な反射の問題は、仏国特許第2003177号によって部分的に解決された。この特許では、使用者に向かう反射の程度を減少させるために、金などの金属の層が2つの透明な層の間に挟まれており、金属フィルムが配置されている。この特許に記載のレンズの目的は実に、人の目にとって有害な赤外波長及び紫外波長の放射を取り除くことである。しかしながら、金の層が2つの透明な層の間に挟まれているこの開示によるレンズの金属外観の付与は、金の層の金属外観が変更され得るので不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実施形態によるレンズは、金などの貴金属の層の厚さを減少させ、したがって光透過を向上させ、使用者に向かう反射の程度を減少させながら、金属外観をかなり実質的に向上させる。
【0009】
実施形態によるレンズの設計は、前記レンズの最適な利用を可能にし、観察者に対してレンズに金属外観を付与するという主要な目的に適い、以下の記述にあるようないくつかの利点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態において、レンズの設計はいくつかの層を備え、前記層の1つは透明基板であり、前記レンズの観察者に面する別の層は貴金属から作られており、前記基板と前記貴金属層との間に反射防止層が配置されており、前記反射防止層は、
以下の物質:クロム、ニッケル、鉄、チタン、アルミニウム、亜鉛、鉛、スズ、タンタル、タングステン及びこれらの合金から選択される、前記透明基板と接した層と、
以下の物質:酸化ケイ素、酸化チタン、酸化タンタル又は酸化ジルコニウムから選択される、前記レンズの観察者に面する層と
を含む、各々が反射防止である少なくとも2つの層を備える複合層の形である。
【0011】
種々の貴金属は、実施形態によるレンズに付与されるべき外観に応じて使用することができ、これらの金属として、金に加えて、銀、白金、パラジウム、チタン、ロジウム、ジルコニウム又はルテニウム並びにこれらの金属から得られる合金を挙げることができる。
【0012】
実施形態によると、前記基板は、2つの傷防止ワニス層の間に挟まれており、前記傷防止ワニス層は、好ましくは熱硬化性ポリシロキサンに基づいている。
【0013】
実施形態によると、前記基板及び種々の層で構成される集合体は、2つの傷防止ワニス層の間に挟まれており、前記傷防止ワニス層は、好ましくはチオール基を含む少なくとも1つのアルコキシシロキサンが添加されている熱硬化性ポリシロキサンに基づいている。
【0014】
種々の層の厚さが、実施形態によるレンズ及び前記レンズから作られている眼鏡にとって最適の結果を得るための決定要因である。
【0015】
本発明は、図を参照して、以下の記載を読むことによってさらに理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態によるレンズの断面図である。
【図2】一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、実施形態によるレンズの断面を示す。この図では、レンズを全体として(1)と称する。このレンズ(1)は、透明基板(2)で構成され、この基板は、ポリカーボネートなどの無機若しくは有機材料、ポリアミド又は熱可塑性若しくは熱硬化性樹脂などの眼鏡レンズに使用される他の任意の材料から作ることができる。
【0018】
基板(2)と金などの貴金属の層(3)との間に複合層が配置されており、この図1に示される実施形態によると、複合層は、各々が反射を防止する2つの層(4)及び(5)で構成される。この複合層はいずれも、以下に明示するような組成をとるので、貴金属層(3)の厚さが減少しても金属外観を強化し、且つレンズ着用者にとって厄介なミラー効果を減少させる。この複合層の組み合わせには、基板(2)に直接塗布され、クロムなどの金属から作られている層(4)が含まれうる。この金属層(4)は、所望の金属外観を強化するが、上記のミラー効果を十分には減少させない。したがって、酸化ケイ素の層(5)を添加する必要性により、それ単独でミラー効果を減少させる。驚くことに、使用者への反射の程度を減少させることにより上記のミラー効果を減少させ、且つ金属外観、例えば金の外観を強化して、さらには貴金属の使用を少なくするのを可能にし、したがってこの貴金属の層の厚さを減少させるのは、金属層(4)及び酸化ケイ素層(5)のこの組み合わせであることが分かった。
【0019】
層(4)及び(5)について他の組み合わせが可能である。例えば、層(4)は、上で示したようにクロムから作ることができるが、以下の金属:ニッケル、鉄、チタン、アルミニウム、亜鉛、鉛、スズ、タンタル、タングステン及びこれらの合金の中から選択することもできる。同様に、層(5)の酸化ケイ素は、酸化チタン、酸化タンタル又は酸化ジルコニウムと交換することができる。
【0020】
有利には、基板(2)の厚さが2mmの場合、例えばクロムから作られている層(4)の厚さは1〜15nmとなり、好ましい値は約4nmとなり、例えば酸化ケイ素から作られている層(5)の厚さは好ましくは約20〜70nmであり、最適値は約50nmであり得る。これらの種々の厚さの値及び基板のこの選択により、使用する貴金属に応じて、貴金属層の厚さが1nmと100nmとの間、好ましくは10nmと50nmとの間となり、貴金属が金の場合には最適の厚さは約30nmとなる。
【0021】
したがって、満足な光透過率を守りながら、非常に限られたミラー効果しか有さない、金などの金属外観を備えたレンズが得られる。
【0022】
図2は、前記レンズの中に他の層が組み込まれた実施形態を示す。
【0023】
この図2において、レンズは全体として(1)と称し、透明基板(2)と、金属外観が望まれている貴金属層(3)と、前記基板(2)の面に位置するクロムなどの金属の層(4)及びレンズの観察者の面に位置する酸化ケイ素の層(5)で構成される複合層とを備える。
【0024】
この実施形態によると、基板(2)は2つの傷防止ワニス層(6)と(7)の間に挟まれている。この傷防止ワニスは、熱硬化性ポリシロキサンに有利に基づき、前記基板(2)を保護する。この熱硬化性ポリシロキサン組成物は、例えば、有機官能性アルコキシシランの加水分解及びプレ重合によって得られる。この組成物は、有機材料から作られている物品を被覆し、それらを摩耗から保護するために特によく使用される。
【0025】
追加の層(8)は貴金属層(3)と酸化ケイ素層(5)との間に挿入されるのが有利であり、この層(8)は貴金属層(3)の良好な接着性をもたらす。この層(8)は、金属、好ましくはクロムから作られている金属フィルムであるが、ニッケル、鉄、チタン、アルミニウム、亜鉛、鉛、スズ、タンタル、タングステン又はこれらの金属の合金などの他の金属からも作ることができる。
【0026】
基板(2)を保護するのに加えて、傷防止ワニス層(6)がまた、クロム層(4)の良好な接着性をもたらすことがさらに示された。
【0027】
実施形態において、上記の集合体、すなわち、基板(2)並びに種々の層(3)、(4)、(5)、(6)、(7)及び(8)は、チオール基を有する少なくとも1つのアルコキシシロキサンが添加されている熱硬化性ポリシロキサンに基づく傷防止ワニスから作られている2つの層(9)と(10)の間に挟まれており、金が層(3)の貴金属である場合、金に対するより良好な接着を可能にする。これらの2つの層(9)及び(10)は、上記の集合体を保護する機能を有する。しかしながら、使用する貴金属が強い場合は、これらの層(9)及び(10)をなしで済ますことが可能であるが、それは容易に傷が付く金には当てはまらない。
【0028】
実施形態において、以下の層の厚さにより、レンズの金属外観の付与が得られた。
透明基板(2):約2mm。
貴金属層(3):10〜50nmなど、1〜100nm。貴金属が金の場合、約30nmが選択される。
層(4):1〜15nm、好ましくは約4nm。
層(5):2〜70nm、好ましくは約50nm。
傷防止ワニス層(6)(7):1〜10μm。
層(8):1〜5nm。
傷防止ワニス層(9)(10):1〜10μm。
【0029】
これらの種々の値をとることにより、使用する貴金属の量と、前記レンズの観察者に対する金属外観の付与と、反射防止効果の制限との間の折り合いがつき、それにより実施形態によるレンズの着用者にとっての快適さが保証される。これらの値を使用すると、前記レンズを通る正しい光透過も保証される。
【0030】
上で言及した図1及び図2に示される実施形態は、2つの層、この場合、層(4)及び(5)を備える複合層を備え、この2つの層の各々は反射防止層であり、これは反射防止機能を生み出す複合層中の層の最小数である。望ましい特徴によると、及びそれによって本開示の枠組みから逸れることなしに、この複合層は3以上の層から作ることができるということが理解される。
【0031】
本開示は、眼鏡が補正眼鏡又はサングラスのいずれにせよ、実施形態によるレンズから作られている眼鏡に関し、透明基板の組成は、選択される用途に応じて変化するだろうということが理解される。
【0032】
実施形態によるレンズを得る方法をここで説明する。
【0033】
基板(2)は、従来の方法に従って作られている、すなわち、前記基板が有機材料の場合、おそらく顔料を添加した、この溶解した材料が鋳型の中へ注入される。
【0034】
傷防止ワニス層(6)、(7)、(9)及び(10)は、基板(2)、又は基板(2)と層(3)、(4)、(5)、(6)、(7)及び(8)で構成される集合体のいずれかをワニス槽に浸漬することによって有利に塗布され、前記浸漬の後に乾燥及びオーブンによる硬化を行う。
【0035】
他の層、すなわち層(3)、(4)、(5)及び(8)は、真空蒸着によって一つずつ配置することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板層と、
レンズの観察者に面する貴金属層と、
前記基板と貴金属層との間に配置されている複合反射防止層と
を含む多数の層を備える眼鏡レンズであって、
複合反射防止層が、
クロム、ニッケル、鉄、チタン、アルミニウム、亜鉛、鉛、スズ、タンタル、タングステン及びこれらの合金からなる群から選択される材料から作られている、前記透明基板と接した第1反射防止層と、
酸化ケイ素、酸化チタン、酸化タンタル及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される材料から作られている、レンズの観察者に面する第2反射防止層と
を含む、上記眼鏡レンズ。
【請求項2】
第1反射防止層の厚さが1〜15nmであり、第2反射防止層の厚さが20〜70nmである、請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
第1反射防止層の厚さが4nmであり、第2反射防止層の厚さが50nmである、請求項2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記反射防止層と前記基板との間に第1傷防止ワニス層が挿入されており、
前記第1ワニス層と反対側の前記基板の面に第2傷防止ワニス層が配置されており、
第1傷防止ワニス層と第2傷防止ワニス層との間に前記基板が挟まれている、
請求項1に記載のレンズ。
【請求項5】
前記傷防止ワニス層の両方が、熱硬化性ポリシロキサンに基づいている、請求項4に記載のレンズ。
【請求項6】
前記傷防止ワニス層の各々の厚さが、1μmと10μmとの間にある、請求項4に記載のレンズ。
【請求項7】
貴金属層と第2反射防止層との間に金属フィルムが配置されている、請求項1に記載のレンズ。
【請求項8】
金属フィルムが、クロム、ニッケル、鉄、チタン、アルミニウム、亜鉛、鉛、スズ、タンタル、タングステン及びこれらの合金からなる群から選択される、請求項7に記載のレンズ。
【請求項9】
金属フィルムの厚さが、1nmと5nmとの間にある、請求項8に記載のレンズ。
【請求項10】
貴金属層の厚さが、1nmと100nmとの間にある、請求項1に記載のレンズ。
【請求項11】
貴金属層の厚さが、10nmと50nmとの間にある、請求項10に記載のレンズ。
【請求項12】
前記基板、貴金属層、第1及び第2反射防止層、前記第1及び第2ワニス層並びに金属フィルムを含む集合体が、第3傷防止ワニス層と第4傷防止ワニス層との間に挟まれている、請求項7に記載のレンズ。
【請求項13】
第3及び第4傷防止ワニス層が、チオール基を有する少なくとも1つのアルコキシシロキサンが添加されている熱硬化性ポリシロキサンに基づいている、請求項12に記載のレンズ。
【請求項14】
第3及び第4傷防止ワニス層の厚さが、1μmと10μmとの間にある、請求項13に記載のレンズ。
【請求項15】
貴金属層が金から作られており、第1反射防止層及び金属フィルムがクロムから作られており、第2反射防止層が酸化ケイ素から作られている、請求項1に記載のレンズ。
【請求項16】
前記基板、貴金属層並びに第1及び第2反射防止層で構成される集合体をワニス槽に浸漬することにより、傷防止ワニス層を塗布するステップと、
浸漬した集合体を乾燥させるステップと、
乾燥した集合体をオーブンで硬化させるステップと
を含み、
貴金属層並びに第1及び第2反射防止層が、真空蒸着によって一つずつ配置されたものである、
請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項17】
請求項1に記載のレンズを含む一対の眼鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−520147(P2011−520147A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507957(P2011−507957)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000506
【国際公開番号】WO2009/138592
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510133883)クリスチャン ダロズ スノプティクス ソシエテ パル アクスィヨンズ サンプリフィエ (エセアエセ) (3)
【Fターム(参考)】