説明

着脱可能に締め付け固定される切削体を備えた工具

本発明は、担持体(10)と、担持体(10)に着脱可能に配置される切削体(30)と、切削体(30)を担持体(10)に対し相対的に位置正確に固定するための締め付け固定爪(20)とを備え、切削体(30)が担持体(10)に設けた支持面(14)に対し面押圧される工具(1)、特に工作物を加工するための、特に切削加工するための円形回転型工具に関する。本発明によれば、締め付け固定爪(20)は、担持体(10)と一体に形成され、且つマテリアルヒンジ(13)を介して担持体(10)と結合されている。さらに、切削体(30)はマテリアルヒンジ(13)の方向において締め付け固定爪(20)の端面側支持面(22)で支持され、担持体(10)に設けた支持面(14)は、締め付け固定爪(20)の端面側支持面(22)に対し鋭角(α)を成し、且つマテリアルヒンジ(13)側へ向いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カッティングプレート、たとえばスローアウェイチップを備えた工具は、通常、機能面を最大限精密に加工し、同時に工具の使用期間をできるだけ長く保って、比較的高価な工具の経済性を可能な限り高いレベルに保持するために使用される。この種の工具を構成する種々の試みが知られている。
【0003】
たとえば特許文献1からは、切削体を固定するため、特にスローアウェイチップを固定するため、締め付け固定爪を使用する工具が知られている。締め付け固定爪は締め付けねじを用いて担持体に対し押圧され、その際、突出端部部分によって切削体に対して押し付けられ、切削体はこれによって担持体に設けた第1の支持面に対し面で締め付け固定される。担持体に設けた前記支持面は該担持体に設けた第2の支持面に対し鋭角を成しており、これにより、締め付け固定爪を締め付け固定すると、切削体は担持体に設けた第2の支持面の方向に力成分を蒙る。同様に担持体に形成された第3の支持面により、前記両支持面に対し平行な方向で担持体に対する切削体の相対位置が特定されている。従って、担持体に対する切削体の相対位置は、担持体に設けた3つの支持面によって一義的に設定されている。たとえば半径方向における切削体の微調整は行われない。締め付けねじをねじ込んだときに締め付け固定爪が一緒に回転することは、締め付け固定爪の対応する溝に係合するように担持体に固定されたピンの形態の回転阻止部によって達成される。それにもかかわらず、締め付けねじをねじ込んだ際の締め付け固定爪と回転阻止ピンとの間の相対運動を可能にするには、前記ピンは(たとえ最小ではあっても)側方に遊びをもって締め付け固定爪の溝で案内されていなければならない。従って、締め付け固定爪が一緒に回転すること、よって切削体が担持体に対し相対的にスリップすることを完全に阻止することはできない。
【0004】
特許文献2は、切削体が同様に締め付け固定爪により担持体に設けた支持面に対し面で押圧されるようにした工具を開示し、説明している。特許文献1と異なるのは、切削体が締め付け固定爪に設けたポケットで受容され、締め付け固定爪がポケットに受容されている切削体とともに担持体に対し相対的に微細に位置決め可能なことである。
【0005】
冒頭で述べたように、この種の工具は、機能面を高品質で狭い公差条件で経済的に加工する場合に使用される。工具の調整時間または組み換え時間を可能な限り短くするため、この種の工具には、切削体の作用刃を担持体に対して、たとえば担持体の回転軸線に対して、または、担持体によって担持される他の工具に対して最短時間で正確な調整を行うことができるように要求される。それ故、切削体が、特にスローアウェイチップの形態の切削体が担持体によって安定に担持されるばかりでなく、基本的位置決めを行った後に手動操作で迅速に微調整して締め付け固定されるように工具を構成することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第3037576A1号明細書
【特許文献2】欧州特許第1293280B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、冒頭で述べた種類の工具を、切削体、特にDINに記載のスローアウェイチップを、簡潔な構成で常に位置正確に且つ安定に担持体に固定することができるように改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1の構成を備えた工具によって解決される。本発明の有利な構成は従属項の対象である。
【0009】
本発明による工具においては、締め付け固定爪は担持体と一体に形成され、且つマテリアルヒンジを介して担持体と結合されている。従って、締め付け固定爪は工具ブランクまたは担持体ブランクから加工されたものである。切削体側へ突出している締め付け固定爪と担持体とをマテリアルヒンジを介して固定結合することにより、担持体に対する締め付け固定爪の望ましくない相対運動が阻止されている。それ故、締め付け固定爪を切削体に対して締め付け固定する際の該締め付け固定爪の望ましくない相対運動ははじめから阻止されている。さらに、締め付け固定爪が担持体と固定結合されているために、部品数を最小限に制限でき、これによって切削体の作用刃から担持体への動力伝達も最適化される。締め付け固定爪が担持体と一体に形成されているので、構成空間も少なくて済み、その結果本発明による締め付け固定原理はあらゆる種類の工具、すなわち作業径が小さな工具に対しても適用可能であり、および、あらゆる種類の工具材料に対し適用可能である。担持体と同様にすべての慣用の加工材から製造されていてよい切削体の担持体への固定が、直接に行われるのではなくて締め付け固定爪を介して行われるので、たとえば中心部に締め付けねじを受容するための破断部が設けられていることにより非常に脆くなるような極めて小さな切削体をも使用することができる。それ故、切削体は広い面積で担持体に当接することができる。
【0010】
本発明によれば、締め付け固定爪はその突出端部部分に端面側支持面を有し、該端面側支持面は切削体をマテリアルヒンジの方向に支持している。担持体にて画成されている支持面は締め付け固定爪にて画成されている端面側支持面に対し鋭角(たとえば75゜と85゜の間、好ましくは80゜)を成して、マテリアルヒンジ側へ向いている。マテリアルヒンジ側へ向くように担持体に設けた支持面と締め付け固定爪に設けた端面側支持面との間の鋭角は、担持体に設けた支持面に対して切削体を締め付け固定する際に、該切削体が同時にマテリアルヒンジの方向に力成分を蒙るよう保証する。有利には、この方向は工具の送り方向とは逆の方向であり、すなわち穿孔工具、座ぐり工具またはリーマ工具の場合には軸線方向に相当しており、フライス工具の場合には実施態様に応じて軸線方向または半径方向に相当している。締め付け固定爪に設けた端面側支持面も、この支持面に対し鋭角を成すように担持体に設けた支持面も、好ましくはマテリアルヒンジの「ヒンジ軸線」と平行に配向されている。いかなるケースにおいても、本発明による構成により、担持体にて画成されている支持面に対しても、締め付け固定爪にて画成されている端面側支持面に対しても、支持体が一義的に決定されるような当接を行うことが保証されており、よって確実な安定な当接を行うことが保証されている。
【0011】
担持体にて画成されている支持面および締め付け固定爪にて画成されている端面側支持面に対して平行な方向での切削体の他の支持態様は、好ましくは、担持体に固定して付加的に設けられる支持面によって行うのではなく、担持体で受容される位置調整要素によって行う。この位置調整要素は、担持体にて画成されている支持面および締め付け固定爪にて画成されている端面側支持面に対して平行な方向での切削体の微調整を保証する。従って、担持体にて画成されている支持面と、締め付け固定爪にて画成されている端面側支持面と、位置調整要素とは、切削体用の受容部または着座部を画成している。この受容部または着座部において、切削体は静力学的に特定されるとともに、担持体にて画成されている支持面および締め付け固定爪にて画成されている端面側支持面に対して平行な方向で位置調整可能に支持される。
【0012】
他の有利な構成では、切削体を締め付け固定爪にて画成されている端面側支持面で軸線方向に支持する場合、切削体は、付加的に、担持体にて画成されている支持面で半径方向に調整可能に支持される。担持体にて画成されている支持面および締め付け固定爪にて画成されている端面側支持面に対して平行な方向での切削体の付加的な支持は、好ましくは、担持体で位置調整可能に保持される円錐ねじによって行う。円錐ねじは工具の端面から操作可能である。円錐ねじを用いた半径方向での微調整は実際的に優れている。
【0013】
担持体による締め付け固定爪の境界づけは、好ましくは、マテリアルヒンジを起点として軸線平行に延在するL字状のスリットによって行われる。この他の構成では、締め付け固定爪は軸線方向に突出し、マテリアルヒンジの「ヒンジ軸線」は工具の回転軸線に対し垂直に位置する。筒状の横断面を備えた円形回転型工具の場合には、たとえばフライス工具を用いて互いに90゜ずれている2つの面内で担持体ブランクを加工することにより、締め付け固定爪を担持体から境界づけるL字状のスリットを簡単に生成することができる。締め付け固定爪の横断面に関し担持体への均一な動力伝達を得るため、締め付け固定爪は、軸線方向に見て、少なくともマテリアルヒンジに境界を接している縦部分においては、好ましくは実質的に直方体形状の横断面を有している。これにより、締め付け固定爪の幾何学的形態を非常に簡単に維持することができる。
【0014】
構成上簡潔で、実際的に優れている、切削体に対する締め付け固定爪の締め付け固定は、締め付け固定爪に設けた貫通孔内に配置されて担持体に螺合している締め付けねじにより得られる。
【0015】
好ましくは、切削体は、長尺のカッティングプレートとして、好ましくは直径方向に対向している切刃を備えたスローアウェイチップとして形成され、且つ締め付け固定爪が形状拘束的に係合している繰り抜き部を縦エッジに沿って有している。繰り抜き部は、製造技術上の理由から、互いに直角に位置する2つの面によって画成されている。繰り抜き部が係合している、締め付け固定爪の端面側端部部分は、繰り抜き部との形状拘束的係合のために補完的に成形されている。切削体への締め付け固定爪の形状拘束的係合は、切削体に対する締め付け固定爪の一義的に特定される安定な当接を保証し、これによって組み立て、組み換えが容易になる。
【0016】
切削体の作製を容易にするため、繰り抜き部は切削体をその全長にわたって貫通するように構成され、すなわち繰り抜き部は切削体の両端面に起点を発している。組み立てのためには、締め付け固定爪が繰り抜き部に係合するように、担持体にて画成されている支持面上へ切削体を設置し、切削体が付加的な支持面に当接するまで、担持体にて画成されている支持面および締め付け固定爪にて画成されている支持面に対し平行な方向へ変位させるだけでよい。
【0017】
好ましくは、締め付け固定爪の、切削体に設けた繰り抜き部に係合する端面側端部部分は、実質的に切削体の全長にわたって繰り抜き部に面で係合するようなサイズに選定されている。これによって得られる締め付け固定爪と切削体との広い面積にわたる当接により、切削体への均一な締め付け力伝達が得られる。
【0018】
前述した構成により、切削体の負荷、特にスローアウェイチップの負荷は、切削体が広い面積でその都度一方では締め付け固定爪に、他方では担持体に設けた支持面に当接するように行われる。これによって接触応力を低減でき、これは、特に、たとえば硬質金属、セラミックス材、またはサーメット材のような極めて硬質の材料を切削体に使用する場合に利点がある。また、切削体にもたらされる締め付け力を高くすることもできる。さらに、切削体が担持体に設けた支持面と締め付け固定爪に設けた端面側支持面との双方に面接触するので、締め付け固定爪を締め付け固定する際の切削体の負荷をうまくコントロールすることができる。これに対応して、たとえば切削体の半径方向位置の微調整を行う前に切削体をすでに十分大きな力で担持体に設けた支持面に対し押圧させることができる。
【0019】
本発明による切削体締め付け固定のコンセプトは、特に、工具を回転駆動される円形回転型工具として、たとえば座ぐり工具のような穴後加工工具として構成する場合に有利であることが明らかになった。このケースは構成の簡潔性の点で特に優れている。というのは、構成空間か減少したことが工具の振動挙動に補助的にポジティブに影響するからである。この場合、切削体のための締め付け固定構造によって切屑の搬出がほとんど阻害されないことも付加的な利点であり、しかも切削体の機能刃が小径上にある場合ですらそうである。回転駆動される円形回転型工具の場合、締め付け固定爪は工具の回転軸線に対し平行な方向へ突出し、マテリアルヒンジの「ヒンジ軸線」は回転軸線に対し垂直に、たとえば半径方向に位置する。このケースでは、締め付け固定爪の端面側支持面は切削体を工具の軸線方向で支持する。しかし、これとは択一的に、締め付け固定爪がたとえば回転軸線に対し垂直な方向に、たとえば半径方向に突出し、マテリアルヒンジの「ヒンジ軸線」が回転軸線に対し平行に延在してよい。この択一的ケースでは、締め付け固定爪の端面側支持面は切削体を回転軸線に対し垂直な方向で支持する。工具が静止している場合、たとえば旋削工具の場合は、締め付け固定爪がたとえば切り込み方向に突出し、マテリアルヒンジの「ヒンジ軸線」が切り込み方向に対し垂直な方向に配向されていてよい。
【0020】
それ故、本発明による工具は特定のタイプの工具に限定されているものではない。請求の範囲に記載し、上述のように評価した、担持体に切削体を締め付け固定するためのコンセプトは、(技術的に可能であれば)種々のタイプの工具または軸線方向および/または半径方向に支持されるべき切削体を締め付け固定するための工具に適用可能である。
【0021】
次に、本発明を、円形回転型工具、たとえば座ぐり工具を例にして説明する。この円形回転型工具においては、スローアウェイチップが回転軸線に関し半径方向に突出するように担持体に設けた着座部に受容され、軸線方向において、軸線方向に突出する締め付け固定爪で支持されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による工具の端面側切削部分の斜視図である。
【図2】図1の本発明による工具の切削部分の軸線方向平面図である。
【図3】図1の本発明による工具の切削部分の一部領域の側面図である。
【図4】図1の本発明による工具の切削部分を、本発明による工具の回転軸線に関し図3に比べて90゜回転させた角度位置で示した側面図である。
【図5】図1の本発明による工具の担持体の斜視図である。
【図6】図1の本発明による工具の切削体の側面図である。
【図7】図6の切削体の平面図である。
【図8】図1の本発明による工具の相対調整ねじの側面図である。
【図9】図1の本発明による工具の締め付けねじの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、回転軸線3を備えた座ぐり工具の形態の本発明による工具1を示している。工具1は担持体10と、該担持体10に着脱可能に且つ位置調整可能に配置されている切削体30と、担持体10と一体に形成されている、切削体30を担持体10に対し位置正確に固定するための締め付け固定爪20と、該締め付け固定爪20を切削体30に対し締め付け固定するための締め付けねじ40と、切削体30を回転軸線3に対し垂直な方向に位置調整するための位置調整要素50とを有している。工具1の担持体10は、図面には図示していない、工具1を適当な工具受容部に締め付け固定するための通常の締め付け固定軸を有している。
【0024】
図2からわかるように、担持体10は筒状のブランクから作製されており、ブランクはその前部領域において工具1の端面まで軸線平行に面取りされている。
【0025】
図1ないし図5から認められるように、担持体10は端面側および周側からアクセス可能な角形の凹部11を有し、該凹部に切削体30が着座している。さらに、締め付け固定爪20が担持体10と一体に形成されていることも認められる。
【0026】
担持体10と一体に形成されている締め付け固定爪20は、横断面にてL字状のスリット12によって担持体10から境界づけられている。L字状のスリット12はマテリアルヒンジ13を起点として軸線平行に工具端面方向に延在している。それ故、L字状のスリット12によって担持体10から境界づけられている締め付け固定爪20は軸線方向に突出している。L字状のスリット12は、たとえばフライス工具を用いて担持体ブランクを加工することにより、互いに90゜ずれた2つの面に生成させることができる。マテリアルヒンジ13は、該マテリアルヒンジ13を弾性変形させて締め付け固定爪20を担持体10に対し回動可能であるようにするために、回転軸線3に対し垂直な「ヒンジ軸線」を定義している。前述の担持体10の面取りにより、締め付け固定爪20は、軸線方向に見て、実質的に直方体形状の横断面をほぼ全長にわたって有し、しかし少なくとも、マテリアルヒンジ13を形成している縦部分において直方体形状の横断面を有している。
【0027】
締め付け固定爪20は、その突出端部部分21に、端面側支持面22を有し、該端面側支持面は切削体30をマテリアルヒンジ13の方向で支持し、すなわち図面に図示した工具の軸線方向および送り方向で支持している。端面側支持面22は回転軸線3に対し垂直であり、且つマテリアルヒンジ13の「ヒンジ軸線」に対し平行に延在している。突出端部部分21は、さらに、端面側支持面22に対し直角に、下面側の締め付け固定面23を有し、該下面側の締め付け固定面は切削体30上に載置されて、締め付け力を、凹部11を形成するように担持体10に設けた底部側の支持面14の方向に伝達させる。
【0028】
締め付け固定爪20を担持体20に対し相対的に締め付け固定するため、締め付け固定爪20に設けた貫通孔25内で受容される締め付けねじ40が設けられ、該締め付けねじは担持体20に対応的に設けたねじ孔にねじ込まれる。締め付けねじ40は図9に図示されている。たとえば六角穴を備える、締め付けねじ40の円錐状のねじ頭41を受容するため、貫通孔25は、担持体20の平坦部にある縦部分に、締め付けねじ40の円錐面41が当接する円錐形陥没部26を有している。
【0029】
図2からわかるように、締め付けねじ40の回転軸線は、(工具1の端面から軸線方向に見て)直径面Eに対したとえば15゜の鋭角βで調整されている。直径面Eは、締め付け固定爪20の端面側支持面22と担持体10の底部側支持面14とに対し直角に位置している。それ故、締め付けねじ40を用いて、切削体30を介在させて締め付け固定爪20を担持体20に対し締め付け固定させることができる。
【0030】
図1と図3からわかるように、端面側支持面22は軸線方向において工具の端面から所定の間隔で終端を有しており、その結果切削体30の主切刃31は担持体20の端面から所定量だけ突出している。
【0031】
切削体30は、図1と図3に示したように、担持体10の凹部11内に着座している。切削体30は底部側で支持面14で支持され、該支持面は端面側支持面22に対しほぼ80゜の鋭角αを成してマテリアルヒンジ13のほうへ向いている。マテリアルヒンジ13のほうへ向くように担持体10に設けた支持面14は、締め付け固定爪20に設けた端面側支持面22に対し鋭角αを成しているため、楔面として作用する。すなわち、切削体30を担持体10に設けた支持面14に対し締め付け固定する際、切削体はこの楔面に沿ってマテリアルヒンジ13の方向に力成分を蒙り、図面に図示した工具の場合には軸線方向または送り方向とは逆の方向に力成分を蒙る。
【0032】
凹部11内に着座している切削体30は、担持体10にて画成された支持面14および締め付け固定爪20にて画成された端面側支持面22に対し平行に、担持体10に設けられた円錐ねじ51の形態の位置調整要素50に当接している。円錐ねじ50は、図8に図示されているように、円錐面51を有し、該円錐面に切削体30が当接している。図1に認められるように、円錐ねじ50は、担持体10内に偏心して配置され且つ軸線平行に延在しているねじ孔16に受容されている。切削体30は半径方向において円錐ねじ50の円錐面51で支持されており、その結果切削体は円錐ねじ50をねじ孔16内へねじ込むことによって半径方向に位置調整可能である。
【0033】
従って、担持体10にて画成された支持面14と、締め付け固定爪20にて画成された端面側支持面22と、円錐ねじ50とにより、担持体20に対する切削体30の相対位置は軸線方向および半径方向に設定されている。
【0034】
切削体30は、長尺のスローアウェイチップとして、互いに直径方向に対向している2つのカッティングエッジ31,32を備え、これらのカッティングエッジの間には縦エッジに沿って繰り抜き部33が形成され、該繰り抜き部に締め付け固定爪20の端面側端部部分が形状拘束的に係合している。この点は図1と図3において最もよく見てとれる。繰り抜き部33は、端面側支持面22およびこれに対し直角に配置される締め付け固定面23に対応して、互いに直角に位置する2つの面34,35によって画成され、これらの面は、図7から見てとれるように、スローアウェイチップ30の全長にわたって貫通するように形成されている。
【0035】
スローアウェイチップ30の両主切刃31,32の交換を実現するため、スローアウェイチップ30を(取り外した状態で)まず縦軸線のまわりに90゜回転させ、次にこれに対し垂直な軸線のまわりにさらに180゜回転させる。それ故、繰り抜き部33に対向している縦エッジ36および繰り抜き部33も、スローアウェイチップ30の交換の際には常に担持体20に対し相対的に同じ位置に留まる。スローアウェイチップ30の位置に応じては、締め付け固定爪20の端面側支持面22での軸線方向支持が行われ、それ故両面34,35の一方または他方の面での切削体側締め付け固定面30の載置が行われる。
【0036】
切削体30の、繰り抜き部33を形成している前記面34,35は、マテリアルヒンジ13の方向において、すなわち図面に図示した工具の場合には軸線方向において、締め付け固定爪20の下面側締め付け固定面23よりも所定量だけ小さいようなサイズに選定されている。これにより、切削体30の取り付け状態で締め付け固定爪20がその端面側支持面22だけで切削体30を軸線方向に支持するよう保証されている。
【0037】
図1は、さらに、切削体30に設けた繰り抜き部33に係合する締め付け固定爪20の端部部分21が、半径方向において、実質的に切削体30の全長にわたって繰り抜き部33に係合するようなサイズに選定されていることも示している。
【0038】
組み立てのためには、締め付け固定爪20が繰り抜き部33に係合するように、工具操作者が切削体30を担持体10にて画成されている凹部11内に置き、次に切削体30が円錐ねじ50の円錐面51に当接するまで切削体を半径方向に変位させるだけでよい。
【0039】
切削体30を交換または反転するには、まず切削体30を担持体10の凹部11から取り出すことができる程度に締め付けねじ40を緩める。次に凹部11をクリーニングし、新しい切削体を凹部11に挿着するか、或いは、古い切削体を反転状態で再び凹部11に挿着して半径方向において円錐ねじ50に対し押圧させる。この状態で、切削体30が担持体20の凹部11内で軽く締め付けられた状態で着座する程度に締め付けねじ40を引き締める。次に、円錐ねじ50を操作することにより、切削体30を半径方向へ位置調整して仕上げ寸法を設定する。最後に、締め付けねじ40を必要なトルクで引き締める。
【0040】
上述の工具1の場合、切削力は凹部11で捕捉され、これによって極めて静音である。切削体30を締め付け固定爪20と担持体10との間で簡単に且つ安定に締め付け固定することにより、工具の長期耐用期間と、加工された工作物表面の優れた表面品質とが得られる。本発明による工具1により、予め軽く締め付けた状態で切削体30の半径方向位置を簡単に調整することが可能であり、これによって非生産時間を短縮させることができる。次に切削体30を締め付け固定しても、該切削体30の位置が担持体10に対し相対的に著しく変化することがなく、これによりコンスタントな加工精度が維持される。
【0041】
以上は、本発明を円形回転型工具、たとえば座ぐり工具を例にとって説明した。すなわち、スローアウェイチップ30は回転軸線3に関し半径方向に配向されるように担持体20に設けた凹部11で受容され、軸線方向においては軸線方向に突出する締め付け固定爪20で支持され、半径方向においては円錐ねじ50で支持されていた。
【0042】
しかし、同じ効果は本発明による締め付け固定コンセプトを他のタイプの工具または他の工具に適用しても得られ、その結果本発明の基本思想を逸脱しなければ、前述の実施形態と異なっていてもよい。
【0043】
従って、冒頭で述べたように、本発明による締め付け固定コンセプトは、請求の範囲および本明細書の導入部で説明されているように、図面に図示した工具に限定されるものではなく、軸線方向および/または半径方向或いは工具送り方向/供給方向で支持される切削体を締め付け固定するものであれば、種々の円形回転型工具または静止型工具に適用可能である。
【0044】
締め付け固定爪20は、L字状のスリット12の代わりに、他の態様でも担持体10によって画成されていてよく、たとえば締め付け固定爪20と担持体10との間に他の態様で成形したスリットまたは材料節減部によって画成されていてよい。
【0045】
切削体を半径方向に位置調整するために軸線方向に位置調整可能な円錐ねじ50の代わりに、締め付け固定爪の端面側支持面22および担持体の底部側支持面14に対し平行な方向での切削体30の微調整を、実際から知られている微調整用の他の調整要素または調整システムを使用して行ってよい。
【0046】
さらに、締め付け固定爪20に設けた端面側支持面22は、(前述の実施形態でのように)マテリアルヒンジ13の「ヒンジ軸線」に対し平行に延在している必要はなく、マテリアルヒンジ13の「ヒンジ軸線」に対し角度を成して配向されていてよい。すなわち、締め付け固定爪20を切削体30に対し締め付け固定する際、切削体はマテリアルヒンジ13の方向だけでなく、マテリアルヒンジ13の「ヒンジ軸線」に対し平行な方向の力成分、たとえば工具1の回転軸線3方向への力成分をも蒙るように角度を成して配向されていてよい。換言すれば、締め付け固定爪20の端面側支持面22と担持体10に設けた支持面14とは、締め付け固定爪20の締め付け固定の際に切削体30が必要な位置精度に適した力成分を蒙るように、互いに相対的に且つ担持体10に対し相対的に配置し配向させることができる。
【0047】
以上は1個の切削体のみを備える工具について説明したが、本発明による締め付け固定コンセプトは、基本的には、複数個の切削体を備えた工具に対しても適している。1個の工具が複数個の切削体を必要とする場合、これら切削体はそれぞれ付設の締め付け固定爪を用いて1個の担持体に締め付け固定することができる。このケースでは、切削体は周方向および/または軸線方向にずらして配置されていてよい。
【0048】
従って本発明は、担持体が少なくとも1つの切削体を、特にスローアウェイチップを位置正確に担持するようにした工具、特に工作物を加工するための、特に切削加工するための円形回転型工具を提供する。担持体と一体に形成される締め付け固定爪の形態の締め付け固定装置が設けられ、この締め付け固定装置により切削体を担持体に対する特定の相対位置に次のようにして固定可能であり、すなわち締め付け固定爪が切削体を担持体に設けた支持面に対し面押圧させ、切削体が締め付け固定爪を担持体と結合させているマテリアルヒンジの方向において締め付け固定爪の端面側支持面で支持されているようにして固定可能である。好ましくは、締め付け固定爪と担持体との間に配置された切削体は、さらに、担持体に設けた支持面および締め付け固定爪の端面側支持面の方向において担持体に対し相対的に位置調整可能に配置され、調製位置において締め付け固定爪を用いて固定可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持体(10)と、該担持体(10)に着脱可能に配置される切削体(30)と、該切削体(30)を前記担持体(10)に対し相対的に位置正確に固定するための締め付け固定爪(20)とを備え、前記切削体(30)が前記担持体(10)に設けた支持面(14)に対し面押圧される工具(1)、特に工作物を加工するための、特に切削加工するための円形回転型工具において、
前記締め付け固定爪(20)が、前記担持体(10)と一体に形成され、且つマテリアルヒンジ(13)を介して前記担持体(10)と結合され、
前記切削体(30)が前記マテリアルヒンジ(13)の方向において前記締め付け固定爪(20)の端面側支持面(22)で支持され、前記担持体(10)に設けた前記支持面(14)が、前記締め付け固定爪(20)の前記端面側支持面(22)に対し鋭角(α)を成し、且つ前記マテリアルヒンジ(13)側へ向いていることを特徴とする工具(1)。
【請求項2】
前記切削体(30)が前記担持体(10)に設けた前記支持面(14)および前記締め付け固定爪(20)の前記端面側支持面(22)に対し平行な方向において位置調整可能に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の工具(1)。
【請求項3】
前記締め付け固定爪(20)の前記端面側支持面(22)と前記担持体(10)に設けた前記支持面(14)とが前記マテリアルヒンジ(13)のヒンジ軸線に対し平行に延在していることを特徴とする、請求項1または2に記載の工具(1)。
【請求項4】
位置調整要素(50)が、前記工具(1)の端面(4)を起点として軸線方向に位置調整可能な、円錐側面(51)を備えた円錐ねじから形成され、前記円錐側面に前記切削体(30)が当接していることを特徴とする、請求項3に記載の工具(1)。
【請求項5】
前記締め付け固定爪(20)が、前記マテリアルヒンジ(13)を起点にして軸線方向に延在しているL字状のスリット(12)によって前記担持体(20)から境界づけられていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一つに記載の工具。
【請求項6】
前記締め付け固定爪(20)が、軸線方向に見て、実質的に直方体形状の横断面を有していることを特徴とする、請求項5に記載の工具。
【請求項7】
前記締め付け固定爪(20)が、該締め付け固定爪に設けた貫通孔内に配置されて前記担持体(10)に螺合している締め付けねじ(40)により、前記切削体(30)に対し締め付け固定可能であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一つに記載の工具。
【請求項8】
前記切削体(30)が、長尺のカッティングプレートとして、好ましくは直径方向に対向している切刃(31,32)を備えたスローアウェイチップとして形成され、且つ前記締め付け固定爪(20)が形状拘束的に係合している繰り抜き部(33)を縦エッジに沿って有していることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一つに記載の工具。
【請求項9】
前記繰り抜き部(33)が互いに直角に位置する2つの面(34,35)によって画成されていることを特徴とする、請求項8に記載の工具。
【請求項10】
前記繰り抜き部(33)が前記切削体(30)をその全長にわたって貫通していることを特徴とする、請求項8または9に記載の工具。
【請求項11】
前記締め付け固定爪(20)が実質的に前記切削体(30)の全長にわたって前記繰り抜き部(33)に面で係合していることを特徴とする、請求項10に記載の工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−513905(P2012−513905A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542672(P2011−542672)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国際出願番号】PCT/DE2009/001790
【国際公開番号】WO2010/072206
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(511118517)
【Fターム(参考)】