説明

着色されたブランクおよび歯型部品の調製のためのプロセス

【課題】従来技術の欠点を回避すること、均一に分布した着色化合物を含有し、その均一に着色された酸化物粉末から歯科修復品に更に加工されるために適切な酸化物粉末を調製することならびに、均一に分布した着色化合物を含有するか又は、着色化合物を勾配またはゾーン構造で含有する、単色又は多色の成形体、ブランクおよび歯型部品を提供すること。
【解決手段】本発明は、一実施形態において着色化合物を含有するブランクおよび歯型部品を調製するためのプロセスを提供し、上記プロセスにおいて、a)酸化物粉末が着色物質でコーティングされ;b)コーティングされた粉末が必要に応じて等級付けされ、そして必要に応じて圧縮鋳型に充填され;c)着色された粉末が圧縮されて成形体を与え、そして;d)圧縮された成形体が焼結されてブランクを製造し、そして;e)必要に応じて歯型部品がブランクから形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物セラミックから作製される、単色または多色の、成形体、ブランクおよび歯型部品、これらの調製のためのプロセス、歯科修復成形部品の調製のためのこれらの使用、ならびにまた、これらの製造のために特に適切な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物セラミックの、歯科修復品のための枠組み材料としての使用は、長い間、技術水準である。この材料は、優れた生体適合性および顕著な機械特性により、特徴付けられる。多年にわたり、この材料はまた、移植材料として、およびプロテーゼのために、広範に使用されている。過去数年において、部分的に安定化されたZrOセラミックに基づくセラミックが、特に使用されている。
【0003】
これらのセラミックの、歯科工学における加工は、機械的であり、この加工において、部分的にのみ焼結されたセラミックを、CAD/CAM加工ユニットによるミリングにより加工することは、受け入れられている。この場合、約40%〜60%の密度の成形品の、95%を超える密度への濃密焼結(dense sintering)の間に起こる収縮は、この機械加工の間にすでに考慮されている。示される密度は、それぞれの理論密度に関して示される。
【0004】
ZrOセラミックの欠点は、低い半透明性、およびそれらの乳白色である。従って、着色されておらず、コーティングもされていない修復品または修復部品は、単に、不自然な歯のように見える。従って、美的な歯の修復のために、患者の状況に一致するようにZrOセラミックを着色することは、必須である。
【0005】
従来技術による焼結セラミックの特に大きな欠点は、これらのセラミックが、自然の歯に対応して多色であるかまたは異なる色のゾーン構造を有する、CAD/CAM加工のためのブランクを、開放気孔形態においても濃密焼結形態においても、製造しないことである。
【0006】
従来技術から公知であることは、着色されているが多色ではないブランクに対する一連の技術的解決策のみである。しかし、これらの解決策は、自然な歯の色、色勾配、多色性(polychromatism)、等級付けされた不透明性および色の明るさが達成されなかったという欠点を有する。これらの公知の解決策は、以下に記載される:
開放気孔を有する、着色されて白色のY含有ZrOブランクは、特許文献1に従って、液体から、Zrイオン、Yイオン、Alイオン、Gaイオン、Geイオン、Inイオン、Feイオン、ErイオンおよびMnイオンを含有する塩化物からの共沈殿により、達成される。共沈殿および引き続く「か焼」によって、調製された粉末は、すでに、成形前に着色イオンを含有する。Fe、ErおよびMnOの群の酸化物は、着色化合物として選択される。特許文献1の発明の欠点は、着色された粉末を得る目的で、共沈殿プロセスおよび引き続く「か焼」という、非常に費用がかかる、面倒な方法が実施されなければならないことである。このことは、このプロセスが、1つの色ごとに実施されなければならないことを意味する。
【0007】
以下の特許文献において、1つの特定の色を可能にするので多色性を示さないモノリシックセラミックが提供される。
【0008】
特許文献2(Yoshidaら)は、歯科用途(ブラケット)のための象牙色の成形体
の調製を記載する。特許文献2において、溶液中での安定化ZrOセラミックの調製の間、着色化合物が、「か焼」の前に添加されるか、または着色酸化物の粉末混合物が、「か焼」後に添加される。望ましい象牙色の色合いを達成する目的で、Fe、Pr11およびErの添加が必要である。しかし、このプロセスは、多段階プロセスであるという欠点を有する。
【0009】
特許文献3による従来技術から、着色成分をZrOの出発粉末と混合し、粉砕し、そして一緒に焼結することが、さらに公知である。Fe、CeOおよびBiが、着色酸化物として記載されている。
【0010】
特許文献4は、5重量%〜49重量%のCeOの含有量によって着色が達成されることを記載する。
【0011】
アーク炉プロセスでの、完全に三次元的に安定化した二酸化ジルコニウムの調製について、特許文献5によれば、1種以上の安定化酸化物および着色酸化物、またはこれらの前駆体が、ZrO供給源に添加される。焼結プロセス後に、Pr、Ce、Sm、Cd、Tbの元素の着色酸化物が、ZrOの結晶格子に挿入される。
【0012】
特許文献6は、希土類の酸化物、酸化ホウ素、酸化アルミニウムおよび/または酸化ケイ素を含有する、酸化ジルコニウム成形体の調製に関する。これらの成形体は、二酸化ジルコニウムを、正方晶系のZrOと単斜晶系のZrOとの混合相として含有する。例えば、Pr、ErおよびYbの元素の酸化物が、着色酸化物として、焼結されたセラミックに導入される。
【0013】
技術的解決策は、着色されたブランクが液体の浸透によって得られる従来技術により、さらに公知である。しかし、これらの技術的解決策は、着色が予備焼結プロセス後に起こるので、液体が開放気孔セラミック体に導入されるという、重大な欠点を有する。従って、着色は、完全には均質でなく、そしてまた、多色での着色は、達成され得ない。
【0014】
ZrOおよびAlのような焼結セラミックとは異なり、多色ガラスセラミックブランクの調製のためのプロセスが、ガラスセラミックの材料群において公知である(特許文献7)。しかし、多色ZrOブランクの調製は、特許文献7には記載されていない。
【0015】
従来技術による公知の解決策の欠点は、多色焼結セラミックブランクが調製され得ないことである。さらに、従来技術による解決策は、非常に費用がかかり、そして品質の問題を発生させる。品質の問題は、例えば、浸透技術に当てはまる。浸透技術において、部分的に焼結されたブランクまたは成形された鹿製品の引き続く着色に起因して、出発粉末の部分的に焼結した粒子の間の空隙(細孔)のみが、着色イオンにより占有され得る。その結果、同様に、粒子の表面の不連続な領域のみが、着色酸化物の層で着色され、焼結粉末の粒子の表面の連続的な被覆が、不可能である。浸透に付随するさらに大きな欠点は、外部から内部への着色の濃度勾配である。多孔体が着色溶液に導入される場合、その出発溶液は、溶解した着色イオンの一部を、この多孔体の外部から開始して内部へと移動させ、これによって、この着色溶液は、その着色物質のいくらかを「消耗する」。この結果として、成形体の内部よりも外部において、着色イオンまたは続いて生じる酸化物の濃度が高くなる。さらに、浸透技術によって、ある程度の深さの浸入のみが、達成され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1 210 054号明細書
【特許文献2】米国特許第5,263,858号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第781 366号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0 955 267号明細書
【特許文献5】欧州特許第1 076 036号明細書
【特許文献6】米国特許第5,656,564号明細書
【特許文献7】独国特許発明第197 14 178号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を回避すること、および均一に分布した着色化合物を含有し、その均一に着色された酸化物粉末から歯科修復品にさらに加工されるために適切な酸化物粉末を調製すること、ならびに均一に分布した着色化合物を含有する成形体、開放気孔ブランクおよび歯型部品である。
【0018】
本発明のさらなる目的は、着色化合物を勾配またはゾーン構造で含有する、単色または多色の成形部品、ブランクおよび歯型部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
着色化合物を含有するブランクおよび歯型部品を調製するためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
a) 酸化物粉末が、着色物質でコーティングされ、
b) 該コーティングされた粉末が、必要に応じて等級付けされ、そして必要に応じて、圧縮鋳型に充填され、
c) 該着色された粉末が、圧縮されて成形体を与え、そして
d) 該圧縮された成形体が、焼結されてブランクを製造し、そして
e) 必要に応じて、該歯型部品が、該ブランクから形成される、
プロセス。
(項目2)
前記工程a)の後に、さらなる着色されていない酸化物粉末が、少なくとも1種のさらなる着色物質でコーティングされ、そして引き続いて、圧縮鋳型に充填される、項目1に記載のプロセス。
(項目3)
周期表のd元素またはf元素の着色金属塩の水溶液が、着色物質として使用される、項目1または2に記載のプロセス。
(項目4)
硝酸塩の水和物または塩化物の水和物が、着色物質として使用される、項目1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目5)
Pr(NO・5HO、Fe(NO・9HO、Tb(NO・5HOまたはCrCl・6HOが、着色物質として使用される、項目1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目6)
前記着色物質が、水溶性結合剤と共に水に溶解され、そして均質化される、項目1〜5のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目7)
前記酸化物粉末のコーティングが、流動床反応器内で行われる、項目1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目8)
使用される前記酸化物粉末が、ZrOを含有する、項目1〜7のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目9)
前記酸化物粉末が、Ce、Y、Al、Caおよび/またはMgの安定化酸化物をドープされている、項目1〜8のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目10)
前記成形体への圧縮が、50MPa〜500MPaの圧力で行われる、項目1〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目11)
前記酸化物セラミックの粉末が、前記ブランクへの圧縮の前に着色される、項目1〜10のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目12)
前記成形体が、最初に予備焼結される、項目1〜11のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目13)
前記成形体が、最初に800℃〜1300℃の温度で予備焼結されて、ブランクを製造する、項目1〜12のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目14)
前記予備焼結プロセスの持続時間が、1時間〜4時間である、項目12または13のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目15)
前記歯型部品が、前記予備焼結されたブランクからの材料除去プロセスによって調製され、そして1200℃〜1600℃の温度で濃密焼結される、項目12〜14のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目16)
前記濃密焼結の持続時間が、5分間〜2時間である、項目1〜15のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目17)
前記成形体およびブランクの調製のための酸化物セラミックとして、98.0重量%〜99.9999重量%のナノスケールZrO粉末を含有する粉末が使用される、項目1〜16のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目18)
前記ナノスケールZrO粉末が、100m−1以上の比表面積を有し、そして0.0001重量%〜2重量%の別の酸化物成分を含有する、項目17に記載のプロセス。(項目19)
さらなる酸化物成分として、100m−1未満の比表面積を有するZrO化合物、着色されたZrO化合物、または着色酸化物、あるいは着色酸化物の混合物が使用される、項目18に記載のプロセス。
(項目20)
前記歯型部品が、前記予備焼結されたブランクからの材料除去プロセスによって調製され、そして1000℃〜1250℃の温度で濃密焼結される、項目17〜19のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目21)
前記ブランクまたは前記歯型部品が、項目27〜40のいずれか1項に記載の組成物を含有するか、あるいは該ブランクまたは該歯型部品が、項目42〜46において定義されるとおりである、項目1〜20のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目22)
着色された酸化物セラミック粉末から作製された、単色または多色の、成形体、ブランクまたは歯型部品であって、該着色された酸化物セラミック粉末は、100重量部:0.0001重量部〜2.0重量部の、酸化物セラミック成分対着色酸化物または着色酸化物の混合物の比を有する、単色または多色の、成形体、ブランクまたは歯型部品。
(項目23)
前記着色酸化物が、周期表のd元素およびf元素の酸化物から選択される、項目22に
記載の単色または多色の、成形体、ブランクまたは歯型部品。
(項目24)
前記着色酸化物が、Pr、Fe、Tbおよび/またはCr、ならびにさらなる酸化物である、項目22または23のいずれか1項に記載の単色または多色の、成形体、ブランクまたは歯型部品。
(項目25)
さらなる酸化物として、Mn、V、Ti、Nd、Eu、Dy、Erおよび/またはYbの元素の酸化物を含有する、項目24に記載の単色または多色の、成形体、ブランクまたは歯型部品。
(項目26)
歯科修復部品の調製のための、項目22〜25のいずれか1項に記載の単色または多色の、成形体、ブランクまたは歯型部品の使用。
(項目27)
ZrOベースの組成物であって、該組成物は、以下の成分:
Prとして計算されるPr、
Feとして計算されるFe、
Tbとして計算されるTb、および
Mnとして計算されるMn
を、0.0001重量%〜0.75重量%の総量で含有する、組成物。
(項目28)
前記成分を0.0001重量%〜0.6重量%の総量で含有する、項目27に記載の組成物。
(項目29)
前記成分を0.0004重量%〜0.37重量%の総量で含有する、項目27または28のいずれか1項に記載の組成物。
(項目30)
前記成分を、以下の量:
【0020】
【表6】

で含有する、項目27〜29のいずれか1項に記載の組成物。
(項目31)
Prとして計算されるPrを、0.0005重量%〜0.01重量%の量で含有する、項目27〜30のいずれか1項に記載の組成物。
(項目32)
Feとして計算されるFeを、0.005重量%〜0.4重量%の量で含有する、項目27〜31のいずれか1項に記載の組成物。
(項目33)
Tbとして計算されるTbを、0.0001重量%〜0.075重量%の量で含有する、項目27〜32のいずれか1項に記載の組成物。
(項目34)
Mnとして計算されるMnを、0.0001重量%〜0.075重量%の量で含有する、項目27〜33のいずれか1項に記載の組成物。
(項目35)
前記成分を、以下の量:
【0021】
【表7】

で含有する、項目27〜34のいずれか1項に記載の組成物。
(項目36)
前記成分を、以下の量:
【0022】
【表8】

で含有する、項目27〜34のいずれか1項に記載の組成物。
(項目37)
前記成分を、以下の量:
【0023】
【表9】

で含有する、項目27〜34のいずれか1項に記載の組成物。
(項目38)
前記成分を、以下の量:
【0024】
【表10】

で含有する、項目27〜34のいずれか1項に記載の組成物。
(項目39)
4重量%〜8重量%のYを含有する、項目27〜38のいずれか1項に記載の組成物。
(項目40)
1重量%までのAlを含有する、項目27〜39のいずれか1項に記載の組成物。
(項目41)
項目27〜40のいずれか1項に記載の組成物を含有する、成形体。
(項目42)
ブランク、歯型部品または歯科修復品として存在する、項目41に記載の成形体。
(項目43)
多色である、項目41または42に記載の成形体。
(項目44)
前記多色が、異なる色の層によってもたらされる、項目43に記載の成形体。
(項目45)
少なくとも2つ、そして好ましくは8つまでの異なる色の層を有する、項目44に記載の成形体。
(項目46)
少なくとも1つの層が、組成物を含有し、特に、項目35〜38のいずれか1項に記載の組成物を含有する、項目44または45に記載の成形体。
(項目47)
歯科修復品の調製のための、項目27〜40のいずれか1項に記載の組成物、または項目41〜46のいずれか1項に記載の成形体の使用。
(項目48)
前記歯科修復品が、歯冠であり、そして特に、ブリッジである、項目47に記載の使用。
【0025】
本発明の第一の目的は、
a) 酸化物粉末が、着色物質でコーティングされ、
b) このコーティングされた粉末が、必要に応じて等級付けされ、そして必要に応じて圧縮鋳型に充填され、
c) この着色された粉末が圧縮されて、成形体を与え、そして
d) この圧縮された成形体が焼結されて、ブランクを製造し、そして
e) 必要に応じて、このブランクから歯型部品が形成される、
プロセスによって、達成される。
【0026】
本発明のさらなる目的は、単色または多色の成形体、ブランクおよび歯型部品により達成される。これらの成形体、ブランクおよび歯型部品は、着色された酸化物セラミック粉末、または着色された酸化物セラミック粉末と着色されていない酸化物セラミック酸化物粉末とから製造され、この酸化物セラミック粉末は、重量部で100:0.0001〜2
.0の、酸化物セラミック成分対着色酸化物または着色酸化物混合物の比を有する。
【0027】
層とは、この文脈において、単色の成形体、ブランクまたは歯型部品を製造する、個々の構成要素を意味する。用語「層」は、多色の成形体、ブランクまたは多色の歯型部品の色の勾配またはゾーン構造のような、色の移行を示す。
【0028】
本発明はまた、歯科修復品の調製のための、単色または多色の、成形体、ブランクまたは歯型部品の使用に関する。
【0029】
本発明は、自然の歯によく似た歯科修復品を製造するために、非常に少量の着色物質ですでに処理され得る、ZrOベースの組成物にさらに関する。
【0030】
本発明は、ZrOベースの組成物、ならびに酸化物セラミックから作製される単色ブランクおよび多色ブランク、ならびにこれらの調製のためのプロセス、ならびに歯科修復品の調製のためのこれらのブランクの使用に関する。このプロセスにおいて、
a) 酸化物セラミック粉末が、着色溶液でコーティングされ、
b) このコーティングされた粉末が、好ましくは、等級付けされ、そして少なくとも1種の着色された粉末が、圧縮鋳型に充填され、
c) この着色された粉末が、圧縮されて、成形体が製造され、そして
d) この圧縮された成形体が焼結されて、ブランクを製造する。
【発明の効果】
【0031】
従来技術の欠点が回避され、そして、均一に分布した着色化合物を含有し、その均一に着色された酸化物粉末から歯科修復品にさらに加工されるために適切な酸化物粉末を調製し、さらに、均一に分布した着色化合物を含有するか、または、着色化合物を勾配またはゾーン構造で含有する、単色または多色の成形体、ブランクおよび歯型部品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明によるプロセスを用いると、酸化物セラミックの着色は、ブランクの圧縮前、従って、予備焼結プロセスまたは焼結プロセスの前に、実施される。多色の成形体、ブランクまたは歯型部品の調製のために、更なる着色物質でのコーティングが実施され得る。この目的で、第一工程において、第一の着色物質が、着色されていない酸化物セラミック粉末に塗布される。次いで、第二工程において、次の着色物質が、さらなる着色されていない酸化物セラミック粉末に塗布される。所望の色の数に依存して、さらなる数工程で、さらなる着色物質でのさらなる着色が、さらなる着色されていない酸化物セラミック粉末に対して実施され得る。従って、この結果として、異なる色の化合物を含有する酸化物粉末の粒子が生じる。
【0033】
着色物質でのコーティングは、好ましくは、流動床反応器内で実施される。当業者に公知の他のコーティング方法もまた、本発明に従って使用され得る。
【0034】
適切な流動床方法は、他の技術分野から公知である。これらの方法は、歯科の分野において使用される酸化物セラミック粉末の着色のためには、これまで使用されていない。
【0035】
微細に粉砕された固体粒子のキャリア媒体(気体または液体)によって緩められた材料が、流動床(流体床ともまた称される)内で移動される。この目的で、気体が、酸化物セラミック粉末を含有する固定充填物を通って底部から頂部へと流れる。この酸化物セラミック粉末は、1μm〜100μm、好ましくは、30μm〜80μmの平均顆粒直径の顆粒を有する。特定の流量(ゆるみ点(loosening point)、流動点)にお
いて、この充填物は、流動床に移動する。従って、所定の平均顆粒直径を有する粉末が好ましい。この流動コーティングの間、ボトムスプレー(bottom spray)またはトップスプレー(top spray)のいずれが使用されてもよい。
【0036】
流動床が形成されると、固体粒子の重力(weight force)が、キャリア媒体の逆方向の流れ力によって中和される。次いで、この固体は、液体と同様に挙動する。すなわち、この固体は、操作の間、容易に供給または除去され得る。材料および熱の交換が、かなり集約的に流動床において起こる。その結果、酸化物セラミック粉末の着色が、本発明に従って、着色物質を含有する流体の使用により達成され得る。
【0037】
酸化的に焼結されたセラミックは、好ましくは、酸化物セラミック粉末として使用され得る。特に好ましくは、ZrO粉末が使用される。
【0038】
焼結されたセラミックとは、焼結による熱処理プロセスにおいて、結晶性の原材料から製造される生成物であって、この生成物において、その結晶部分の大部分が保持されており、そして小部分のみ(ほとんどの場合、5体積%よりかなり低い)のガラス相部分が、個々の結晶の間に形成されている、生成物を意味する。
【0039】
本発明によれば、ZrOはまた、さらなる金属酸化物をドープされ得る。例えば、CeO、Y、MgOまたはCaOでのドーピングが可能である。HfOおよびAlもまた、ZrO粉末中に含有され得る。
【0040】
元素の周期表のd元素およびf元素の酸化物が、着色酸化物として使用され得る。着色酸化物である、Pr、Fe、Tbおよび/またはCr、ならびにさらなる酸化物が、好ましくは、この目的で使用される。
【0041】
好ましくは、Pr、FeおよびTbが、着色酸化物として使用される。
【0042】
Mn、V、Ti、Nd、Eu、Dy、Erおよび/またはYbの元素の酸化物、特に、Mnの酸化物が、さらなる着色酸化物として使用され得る。
【0043】
種々の塩の水溶液が、好ましくは、着色物質として使用され得る。周期表のd元素またはf元素の水溶性の塩が、好ましい。硝酸塩または塩化物の水和物が、特に好ましい。使用され得る塩の例は、Pr(NO3・5HO、Fe(NO3・9HOまたはTb(NO3・5HOである。
【0044】
着色物質に加えて、適切な水溶性結合剤もまた、粉末のための圧縮助剤として使用され得る。これらの結合剤は、好ましくは、記載された塩と一緒に水に溶解され、そして均質化される。ポリビニルアルコールが、結合剤として特に好ましい。
【0045】
界面活性剤をこの粉末に添加することが、さらに好ましい。なぜなら、これにより、圧縮性が驚くべきほど改善されるからである。このことは、同じ圧力における、より高い圧縮密度により示される。非イオン性界面活性剤または両性界面活性剤(例えば、ポリグリコールエーテルまたはアルキルスルホネート)が、特に好ましい。
【0046】
着色物質でコーティングされた酸化物セラミック粉末は、好ましくは、第二工程において、等級付けされる。例えば、90μm未満のメッシュ幅を有するふるいを使用して、ふるい分けされる。この工程は、特に、粉末のアグロメレーションが強すぎる場合に、実施され得る。
【0047】
次いで、この必要に応じて等級付けされた粉末は、通常、圧縮鋳型に導入される。多色ブランクの調製が意図される場合、上に記載された第一のプロセス工程が、他の着色物質またはより高濃度の着色物質を用いて数回実施され、その結果、異なる色の粉末が製造される。第二工程において、これらの異なる色の粉末は、等級付け後、圧縮鋳型に少しずつ注がれる。
【0048】
成形体の圧縮(好ましくは、コールドアイソスタティック圧縮)は、50MPa〜500MPa、特に好ましくは、70MPa〜300MPa、非常に好ましくは、100MPa〜200MPaの圧力で実施される。本発明によれば、一軸圧縮もまた可能である。
【0049】
さらなるプロセス工程において、得られた成形体は、焼結される。具体的には、予備焼結される。好ましくは800℃〜1300℃、特に好ましくは1000℃〜1200℃、特に好ましくは1050℃〜1150℃の温度が、この目的で使用される。酸化物セラミックの理論密度が少なくとも30%、好ましくは40%〜75%の密度を有する多孔性ブランクが、この予備焼結プロセスにより得られる。所定の温度での予備焼結の持続時間は、1時間〜4時間、好ましくは、1.5時間〜2.5時間である。加熱および冷却のプロセスを包含する完全な予備焼結工程は、通常、38時間〜72時間続けられる。
【0050】
成形体の結合剤除去は、予備焼結プロセスの間に同時に行われる。結合剤除去とは、有機物成分(具体的には、結合剤)を焼き尽くすことを意味する。しかし、この結合剤除去は、別のプロセス工程においてもまた実施され得る。
【0051】
得られた単色ブランクまたは多色ブランクは、例えば、歯科実験室または歯科診療所において、歯型部品に成形される。これは、好ましくは、CAD/CAMユニットによるミリングまたは切削によって、実施され得る。次いで、歯科修復品の歯型部品の、このように得られた大型プリフォームは、1200℃〜1600℃、特に好ましくは1300℃〜1550℃、そして特に好ましくは1400℃〜1500℃の温度で、濃密焼結される。この濃密焼結の持続時間は、好ましくは、5分間と2時間との間である。10分間〜30分間が、特に好ましい。加熱および冷却を伴う、完全な濃密焼結プロセスは、一般に、約8時間続けられる。このミリングプロセスは、その歯型部品が、濃密焼結の間の成形部品の収縮を考慮した過剰分を示すように、実施される。
【0052】
濃密焼結はまた、マイクロ波エネルギーを使用して実施され得る。マイクロ波エネルギーは、一般に、プロセス時間の短縮をもたらす。
【0053】
調製された歯型部品は、すでに最終の歯科修復品に相当し得るか、または最終の歯科修復品を生じる目的でさらに加工される(例えば、前装を提供される)。
【0054】
記載された様式で調製される歯型部品は、従来技術から以前に公知であった歯型部品とは異なり、色の高い均一性により特徴付けられる。着色イオンが水相に存在し、そして酸化物セラミック粉末の表面に、具体的には流動床において、均一に適用される。粉末の総量に対して約0.001重量%という非常に低い濃度においてさえも、この粉末の均質なコーティングが得られる。本発明により、混合された色が得られ得、そしてブランクは、この様式で、多色の形態で調製され得ることもまた、有利である。
【0055】
本発明は、ZrOセラミックの濃密焼結後に修復歯科医療のための多色製品が得られるように、多色ブランクを使用することを特に強調する。この多色性は、とりわけ、マルチスパンブリッジについて非常に有利である。従って、自然な歯は、このような歯科修復品によって、完全に修復され得る。なぜなら、この修復品は、1つの色のみからなるので
はなく、色の勾配および不透明性の差異、ならびに歯の内部の異なる色の明るさを有するからである。本発明による多色ブリッジが、ここで調製される場合、上記要件または自然な歯の特性が、容易に確実にされ得る。例えば、複雑な歯科修復品の歯型部品(例えば、マルチスパンブリッジ)の調製がこのように容易であることは、本発明に従って、歯科技術者が、最も自然な外観を達成する目的で、多色セラミックブリッジに、ほんの数層、またはほんの1つでさえの焼結セラミックまたは焼結ガラスセラミックの前装を適用する必要しかないという事実により示される。数層が、前装として、特定の色効果を達成する目的で、着色されていないセラミックに適用される必要がある。単色セラミックの場合には、種々の焼結がまた必要である。従って、本発明による操作は、従来技術による操作より効果的である。
【0056】
さらなる利点は、細孔の均一な分布が、前提条件ではないことである。逆に、浸透技術は、少なくともある程度まで認容可能な着色を得る目的で、細孔の可能な限り均一な分布に依存する。従って、異なる粗さおよび接近不可能な細孔に起因して、完全に異なる着色特性が、従来技術に従って得られる。
【0057】
本発明による、粉末の表面上の着色物質の均質な分布を介する、酸化セラミック粉末または粉末の一次粒子からの凝集物の着色を用いると、着色物質の蓄積が起こらないことは、本発明によるさらなる利点である。これによって、構造の不完全性が、確実に回避される。上記プロセスが、異なる色の酸化物セラミック粉末を用いて実施される場合、圧縮、結合剤除去および焼結の後の結果として、自然な歯の色勾配に好ましく対応する色勾配を有する多色ブランクが得られる。
【0058】
さらに、セラミックの内部での顆粒の成長が、焼結の間に不利な影響を受けない。有色イオンの分布は、色勾配または有色イオンの蓄積が、人間の目によっても走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)を用いても、見えもせず分析可能でもないように、好都合である。
【0059】
最後に、本発明によるプロセスは、ブランクまたはこのブランクから調製される歯型部品もしくは歯科修復品が、以下に記載される、本発明による組成物を含有する点で好ましい。
【0060】
本発明による組成物は、ZrOをベースとし、そして以下の成分:
Prとして計算されるPr、
Feとして計算されるFe、
Tbとして計算されるTb、および
Mnとして計算されるMn
を、0.0001重量%〜0.75重量%の総量で含有する。
【0061】
驚くべきことに、このような組成物は、着色成分(すなわち、Pr、Fe、TbおよびMn)の総量が非常に少ないにもかかわらず、自然な歯の材料を良好に模倣する目的で望ましい様式で強く着色された、ブランク、歯型部品および最終的には、歯科修復品の調製を可能にすることが示された。
【0062】
成分Pr、Fe、TbおよびMnは、組成物中で、異なる酸化状態で存在し得る。好ましくは、0以外の酸化状態で存在する。
【0063】
本発明による上記プロセスによる組成物の調製の間、特に、予備焼結工程または濃密焼結工程が実施された後に、イオンの形態の成分の、ZrOの結晶格子への挿入が起こることが、仮定される。例えば、これらのイオンが、ZrO格子の欠陥部に挿入されるこ
とが可能である。
【0064】
従って、この組成物は、好ましくは、焼結された形態で存在する。さらに、この組成物は、好ましくは均質に分布した、所定の成分を含有する。
【0065】
この組成物が、上記成分を、0.0001重量%〜0.6重量%の総量、特に、0.0004重量%〜0.37重量%の総量で含有することが、さらに好ましい。
【0066】
さらに、上記成分を以下の量で含有する組成物は、特に好ましいことが示された:
【0067】
【表11】

さらに、特に好ましい範囲はまた、個々の成分について、以下のように存在する:
0.0005重量%〜0.01重量%の量での、Prとして計算されるPr、
0.005重量%〜0.4重量%の量での、Feとして計算されるFe、
0.0001重量%〜0.075重量%の量での、Tbとして計算されるTb、
0.0001重量%〜0.075重量%の量での、Mnとして計算されるMn。
【0068】
最後に、驚くべきことに、特別な組成物が、歯科修復品の調製において、基本の色として非常に有利に使用され得ることが示された。これらは、本発明による組成物の、以下に記載される、上記成分の含有される量を与える特に好ましい4つの実施形態である:
【0069】
【表12】

本発明による組成物は、なおさらなる物質を、さらに含有し得る。このなおさらなる物質は、例えば、特に、0.0001重量%〜0.1重量%の量での、Crとして計算されるCrである。
【0070】
さらに、この組成物が、Yのような安定化剤を含有するならば、さらに有利である。従って、4重量%〜8重量%のYを含有する組成物は、特に好ましい。
【0071】
この組成物はまた、好ましくは、1重量%までのAl3-を含有する。これは、熱
水条件下での、本発明による組成物の安定性を増加させる。この安定性の増加は、本発明による組成物を歯科材料として使用する場合に、特に重要である。
【0072】
この組成物はまた、HfOを含有し得る。
【0073】
95重量%より多く、特に、98重量%より多くのZrOを含有する組成物は、特に好ましい。組成物のZrO+HfO+Yの含有量が95重量%より多い組成物もまた、好ましい。
【0074】
本発明による組成物は、特に、歯科材料として使用される。本発明による組成物は、特に、ZrOベースの粉末が、成分の供給源(例えば、Pr、Tb、FeおよびMnの化合物)で、特に、流動コーティングによってコーティングされるプロセスによって、調製され得る。
【0075】
最後に、本発明はまた、本発明による組成物を含有する成形体、および特に、成形体全体の内部にPr、Tb、FeおよびMnの成分の均質な分布を有し、従って優れた色均質性を有する成形体に関する。この成形体は、特に、ブランク、歯型部品または歯科修復品として、すなわち、好ましくは、焼結された成形体として、存在する。本発明による成形体は、ブランクおよび歯型部品の調製のために、特に、本発明による上記プロセスによって製造され得る。
【0076】
本発明による、3.0g/cm〜3.5g/cm、特に、3.1g/cm〜3.2g/cmの密度を有するブランクが、特に好ましい。
【0077】
多色であり、その多色性が、特に数層の異なる着色された層によってもたらされる成形体が、さらに好ましい。少なくとも2つの異なる色の層を有し、そして好ましくは、8つまでの異なる色の層を有する成形体が、特に好ましいことが示された。
【0078】
自然な歯の材料は、少なくとも3つの異なる色の層を有する、ちょうどこのような成形体(例えば、ブランク)によって、非常に良好に模倣され得る。自然な歯の材料は、大まかに、3つの領域(すなわち、頸部領域、中心領域および切端領域)に分割され得、これらの領域の各々が、視覚的外観に関して、異なる要件を有する。従って、視覚的な外観に関して、1つの層は、好ましくは、自然な歯の頸部領域に適合し、そして他の2つの層は、好ましくは、歯の中心領域および切端領域に適合する。本発明による整形対の少なくとも1つの層が、本発明による組成物、特に、本発明の上記特に好ましい4つの実施形態の組成物を含有する場合に、特に好ましいこともまた示された。さらに、この少なくとも1つの層が、上記4つの特定の実施形態の混合物を含有し、従って、これらの実施形態によって表される基本の色が改変され得ることもまた、可能である。
【0079】
ZrOに基づく従来の着色された組成物との比較は、本発明による組成物の特別な成分が、少量であってさえも、求められる色の強度が得られることを可能にすることを示した。従来の系は、この目的で、より多量の着色成分を頻繁に必要とし、このことは、この組成物から製造される成形体の構造体の不完全性をもたらす。本発明による組成物の場合に使用される着色成分の、かなり少ない量は、この組成物から製造される成形体の構造における不完全性を本質的に引き起こさず、その結果、これらの成形体、および特に、最終的に調製される歯科修復品は、優れた物理的特性(例えば、強度および化学的安定性)を有する。
【0080】
従って、最後に、本発明はまた、本発明による組成物、または本発明による成形体の、歯科修復品の調製のための使用に関する。この歯科修復品は、特に、歯冠であり、そして特に好ましくは、ブリッジである。ブリッジに関しては特に、置き換えられるべき自然の歯に存在する様々な色が、可能な限り忠実に模倣され得ることは、特に重要である。しかし、このことは、本発明による組成物およびこの組成物から調製される成形品を用いて、対応して色が異なる領域(例えば、異なる色の層)を提供することにより、優れた様式で可能である。
【0081】
本発明は、以下で、実施例によってより詳細に説明される。
【実施例】
【0082】
実施例の構成において与えられる全ての光学値L、aおよびbを、DIN 5033またはDIN 6174の標準に従って、L*=93.11、a*=0.64およびb*=4.22の値を有する白色参照サンプルとの比較を実施することにより、決定した。値Cは、aとbとのベクトルの合計を表す。色の測定を、Konica−Minolta CM−3700d分光計によって実施した。CR値を、BS 5612の標準に従って決定した。これは、不透明性の尺度である。
【0083】
Tosoh社製の、部分的に安定化したZrO粉末(例えば、TZ−YまたはTZ−YSB−C)(これらは、以下の組成を有する)を、本発明による組成物、ならびにこれらの組成物から調製される成形体、ブランクおよび歯型部品のための出発物質として使用した:
ZrO+HfO+Y >99.0重量%
4.5重量%〜5.4重量%
HfO ≦5.0重量%
Al 0.2重量%〜0.5重量%
他の酸化物 ≦0.5重量%
放射能 <200Bq kg−1
かさ密度 3.09〜3.21g・cm−3
【0084】
有色イオンと水溶性結合剤(例えば、ポリビニルアルコール(例えば、Zschimmer & Schwarz社製のOptapix PAF2またはPAF35))との両方を含有する水溶液を、流動床コーティングのための着色溶液として使用した。この着色溶液は、濃密焼結後の所望の着色を達成する目的で、1種以上の着色イオンを含有し得る。(コーティングされるべき粉末の量に対して)約0.1〜2重量%の結合剤を含有する水性着色溶液は、それぞれの着色イオンを含有した。この溶液を、約30分間(磁気攪拌子などで)均質化した。次いで、このように調製した着色溶液を、流動床顆粒形成機によって、コーティングされるべきZrO粉末に完全に塗布した。この工程の間、コーティングされるべき粉末を、圧縮空気(0.15バール〜0.30バール)によって懸濁状態(流動床)に維持し、そして同時に、この着色溶液を、この流動床の上方に配置されたノズルに通して噴霧し、そして粉末に塗布した。ここでの噴霧圧力は、2バールと6バールとの間であった。さらに、流動床を維持するために必要とされた圧縮空気を、約30℃〜80℃に加熱した。従って、この圧縮空気は、このプロセスの間に同時に、粉末を乾燥させ得た。
【0085】
(単色ZrOブランクの調製)
ZrO粉末(TZ−3YSB−C)を、Fe(III)、Pr、CrおよびTbの化合物に基づく水性着色溶液でコーティングした。このように着色された粉末を、圧縮鋳型に導入し、そして約200MPaでのコールドアイソスタティック圧縮に供した。次いで、この成形体を、1125℃の温度で約120分間にわたり予備焼結してブランクを製造し、次いで、CAD/CAM技術によって加工した。次いで、この加工品を、約1500℃で濃密焼結した。歯型部品は、この濃密焼結後に、わずかに黄色がかった色を有した。好ましくは、正方形のブランクが調製され、このブランクは、好ましくは、以下の寸法を有した:
長さ 約15〜約60mm
幅 約10〜約20mm
高さ 約15〜約20mm。
【0086】
しかし、円筒形のブランクの調製もまた可能である。部分的に焼結したブランクの結晶サイズは、SEMにより分析すると、約200nm〜約400nmであった。濃密焼結し
た修復品の結晶サイズは、約400nm〜約800nmであった。
【0087】
以下の表は、実施例1〜10による、異なる色のブランクの組成を、濃密焼結後の光学値と一緒に与える。これらの成分のレベルは、それぞれの三価酸化物のレベルとして表されている。4重量%〜8重量%のYを含有する、Tosoh(Japan)製のZrO粉末を、出発物質として使用した。これらの粉末は、それらの主要な粒子サイズ、比表面積および結合剤含有量が異なった。これらの粉末に、上記のように、着色成分を提供した。
【0088】
【表13】

(実施例11)
(ZrOベースの多色ブランクの調製)
異なる色の粉末(異なる歯の色)を、圧縮鋳型に、望ましい層の厚さおよび色の移行に従って、連続的に均質的に注いだ。この粉末を、200MPaでのコールドアイソスタテ
ィック圧縮に共し、次いで、1125℃で約120分間予備焼結した。次いで、歯型部品のプリフォームをこのブランクから製造し、そして濃密焼結した。次いで、この歯型部品を、長さ方向に切り開くと、浸透技術によってはそのように調製され得ない色勾配が見られた。この自然な色勾配、すなわち、自然な歯の視覚特性の再現は、横の歯用の3スパンブリッジの場合に、特に明白になった。本発明によるブランクを使用して、濃密焼結された歯型部品におけるさらなるコーティング技術なしに、自然な色の移行を再構築することが可能であることが示された。本発明による横の歯用のブリッジの色の移行は、歯の咬頭の領域においてよりも、歯の裂溝および頸部において、より高い彩度(より強い色)が実現されることにより、特徴付けられる。従来技術の物質および材料と比較して、より良好な美しさが、このように得られた。さらに、完全にコーティングされた修復品の調製の際に歯科技術者によって費やされる時間が、減少され得る。
【0089】
可溶性無機化合物(好ましくは、塩化物および硝酸塩)を含む水性系を、着色溶液として使用した。
【0090】
例えば2色〜10色までを含む色の移行を有するブランクが、大きな均質性で、単色ブランクおよび多色ブランクとして、このプロセスを用いて製造され得た。
【0091】
(実施例12)
(従来技術による比較例)
3スパンブリッジの枠組みを、IPS e.max ZirCAD(登録商標)ブリッジブロックから、CAD/CAMユニット(Sirona inLab(登録商標))において切削した。空間軸あたり約20%の収縮因子を、切削の間の対応する拡大比によって考慮した。この切削プロセスを湿式で実施し、その結果、この枠組みを、浸透プロセス前に乾燥させなければならなかった。この乾燥プロセスを、約80℃で2時間、赤外ランプの下で実施した。再加工(ハンドピースの除去および縁部の再切削)された枠組みに、色の均質性の差を確かめる目的で、以下の着色用の溶液(値は重量%)を浸透させた:
【0092】
【表14】

ブリッジの枠組みを、溶液1に2分間浸漬し、浸透を、毛管作用により起こした。減圧または大気圧を超える圧力の使用は、なしで済ませた。浸透後、この枠組みをこの溶液から取り出し、そして過剰の着色溶液をその表面から除去する目的で、ペーパータオルで軽くたたいて乾燥させた。この乾燥に続いて、赤外ランプの下に80℃で約2時間置いた。この時点ですでに、この枠組みの露出部分(例えば、咀嚼表面である枠組みの咬頭であり、表面の曲率が高い)のFeイオンの濃度は、明らかであった。1500℃で30分間の濃密焼結後でさえも、これにより生じる色の不均質性は、明瞭に見られた。外側の均一な着色は、実現不可能であった。
【0093】
さらなるブリッジの枠組みを、着色溶液2に2分間浸漬して、色の均質性を改善させた。後処理を、上記のように実施した。表面的な色の不均一性という欠点は、有機成分を添加することにより着色溶液の粘度を増加させることによって、対処され得た。焼結をまた、上記のように実施した。しかし、このブリッジの枠組みをその長手方向軸に沿って鋸で切断した後に、この着色は、約0.6mm〜1.0mmの外側層のゾーンにおいてのみ起こっており、従って、この枠組み全体としては、均質に着色されなかった。このことはおそらく、橋脚歯の歯冠のためには充分であるが、ブリッジのコネクタの領域および中間セ
クションの領域においては、大きな疑問がある。歯科技術者による引き続く切削の間、着色されていない領域が部分的に露出し、そしてもともと意図された着色の効果が失われる危険性がある。
【0094】
比較例は、浸透が着色プロセスとして使用される場合、表面的な着色のみが達成され得るか、または強度(有色イオンの濃度)が場所により変動するほんの不均一な着色のみを用いて完全な徹底的な着色が達成されることを示す。これらの欠点は、本発明により回避される。ブランク全体の均質な着色が、常に示されるべきである。
【0095】
ナノスケールのZrO粉末(5nmと50nmとの間の主要粒子サイズおよび100m・g−1を超える比表面積)が、ブロックの調製のために出発物質として使用されると、有利であることもまた示された。ブリッジの枠組みを製造するための加工後、この材料は、濃密焼結の間の明らかに低下した温度を示す。従って、使用される材料に依存して、1250℃未満の温度が達成され、これは、通常の歯科用焼き窯での濃密焼結を可能にする。着色されたブロック(単色および多色)を調製するために、上記で使用された着色された粉末を、いわゆる色濃縮物として、ナノスケールのZrO粉末に、0.0001重量%〜2.0重量%の割合で添加した。濃密焼結の間の温度変化は、必要ではない。
【0096】
(実施例13〜17)
本発明によるさらなる特に好ましい組成物を、実施例1〜10に関して上に与えられた様式で調製し、そしてブランク、歯型部品および歯科修復品にさらに加工した。成分の割合(それぞれの三価酸化物として計算した)、ならびにまた、これらの着色成分の全体的な割合および成形体への圧縮の間におそらく存在する添加剤の存在が、以下の表1に列挙される。これらの割合は、組成物全体の1kgあたりの成分のmgとして与えられる。
【0097】
界面活性剤は、ポリグリコールエーテルまたはアルキルスルホネートであった。
【0098】
これらの組成物、および特に、実施例13および実施例17による組成物を、代表的な歯の色として使用し得る。驚くべきことに、着色成分の量が非常に少ないにもかかわらず、これらの組成物は、強く着色された歯科修復品、特に、歯冠およびブリッジに、加工され得る。
【0099】
これらの組成物から調製された、着色された濃密焼結されたブランクの光学特性が、以下の表2に列挙される。
【0100】
【表15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrOベースの組成物であって、該組成物は、以下の成分:
Prとして計算されるPr、
Feとして計算されるFe、
Tbとして計算されるTb、および
Mnとして計算されるMn
を、0.0001重量%〜0.75重量%の総量で含有する、組成物。
【請求項2】
前記成分を0.0001重量%〜0.6重量%の総量で含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記成分を0.0004重量%〜0.37重量%の総量で含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記成分を、以下の量:
【表1】

で含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
Prとして計算されるPrを、0.0005重量%〜0.01重量%の量で含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
Feとして計算されるFeを、0.005重量%〜0.4重量%の量で含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
Tbとして計算されるTbを、0.0001重量%〜0.075重量%の量で含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
Mnとして計算されるMnを、0.0001重量%〜0.075重量%の量で含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記成分を、以下の量:
【表2】

で含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記成分を、以下の量:
【表3】

で含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記成分を、以下の量:
【表4】

で含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記成分を、以下の量:
【表5】

で含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
4重量%〜8重量%のYを含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
1重量%までのAlを含有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
98.0重量%〜99.9999重量%のナノスケールZrO粉末を含有する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記ナノスケールZrO粉末が、100m−1以上の比表面積を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物であって、ここで、該ナノスケールのZrO粉末が5〜50nmの間の主要粒子サイズを有する、組成物。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物であって、ZrOに基づく粉末が、Pr、Tb、Feおよび/またはMnの化合物でコーティングされるプロセスにより入手可能である、組成物。
【請求項19】
前記粉末が流動床コーティングによってコーティングされる、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物を含有する、成形体。
【請求項21】
ブランク、歯型部品または歯科修復品の形態である、請求項20に記載の成形体。
【請求項22】
多色である、請求項20または21に記載の成形体。
【請求項23】
前記多色が、異なる色の層によってもたらされる、請求項22に記載の成形体。
【請求項24】
少なくとも2つの異なる色の層を有する、請求項23に記載の成形体。
【請求項25】
8つまでの異なる色の層を有する、請求項24に記載の成形体。
【請求項26】
少なくとも1つの層が、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物を含有する、請求項23〜25のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項27】
少なくとも1つの層が、請求項9〜12のいずれか1項に記載の組成物を含有する、請求項26に記載の成形体。
【請求項28】
歯科修復品の調製のための、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物、または請求項20〜27のいずれか1項に記載の成形体の使用。
【請求項29】
前記歯科修復品が、歯冠またはブリッジの形態である、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
着色された酸化物セラミック粉末から作製された、単色体もしくは多色体、単色もしくは多色のブランクまたは単色もしくは多色の歯型部品であって、該着色された酸化物セラミック粉末は、100重量部:0.0001重量部〜2.0重量部の、酸化物セラミック成分対着色酸化物または着色酸化物の混合物の比を有する、単色体もしくは多色体、単色もしくは多色のブランクまたは単色もしくは多色の歯型部品。
【請求項31】
前記着色酸化物が、周期表のd元素およびf元素の酸化物から選択される、請求項30に記載の単色体もしくは多色体、単色もしくは多色のブランクまたは単色もしくは多色の歯型部品。
【請求項32】
Pr、Fe、および/またはTbが着色酸化物として使用される、請求項30または31に記載の単色体もしくは多色体、単色もしくは多色のブランクまたは単色もしくは多色の歯型部品。
【請求項33】
さらなる酸化物として、Mn、V、Ti、Nd、Eu、Dy、Erおよび/またはYbの酸化物が使用される、請求項32に記載の単色体もしくは多色体、単色もしくは多色のブランクまたは単色もしくは多色の歯型部品。
【請求項34】
さらなる酸化物として、Mnの酸化物が使用される、請求項33に記載の単色体もしくは多色体、単色もしくは多色のブランクまたは単色もしくは多色の歯型部品。
【請求項35】
歯科修復部品の調製のための、請求項30〜34のいずれか1項に記載の単色体もしくは多色体、単色もしくは多色のブランクまたは単色もしくは多色の歯型部品の使用。

【公開番号】特開2012−180351(P2012−180351A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−82050(P2012−82050)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2007−134832(P2007−134832)の分割
【原出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】