説明

着色シート材

【課題】
太陽光に長時間暴露される環境で用いても蒸れにくく、快適性に優れた着色シート材を提供する。
【解決手段】
シート基材上に、貫通孔を有する着色樹脂層を有する着色シート材であって、白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕が40℃以下であることを特徴とする着色シート材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色シート材に関する。詳しくは、太陽光に長時間暴露される環境で用いても蒸れにくく、快適性に優れた着色シート材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シート基材上に着色樹脂層を有する着色シート材としては、塩化ビニルレザー、合成皮革、人工皮革、天然皮革などがあり、その優れた外観や風合い、耐久性、イージーケア性などが認められ、車両用内装材、椅子、家具、靴、衣料、鞄、雑貨など様々な分野で用いられている。
【0003】
しかしながら、このような構成の着色シート材は、一般に通気性や透湿性が悪く、例えば椅子張り地や靴地として用いられる場合、この椅子や靴を長時間使用すると、人体との接触面が蒸れて、不快に感じるという問題があった。
【0004】
樹脂層を有するシート材に通気性や透湿性を付与するための提案は多く、代表的には、ニードルパンチングや(特許文献1)、放電(特許文献2)、レーザー照射(特許文献3)などの手段により、樹脂層に孔を形成する方法を挙げることができる。しかしながら、用途によっては、例えばカーシートなど太陽光に長時間暴露されるような環境で用いられる用途においては、着色シート材の表面温度が上昇し、さらには車両内空間の温度をも上昇させる結果、蒸れやすく、不快感を十分に解消できないでいた。
【0005】
長時間使用しても蒸れたり暑くなったりすることのない椅子として、特許文献4には、フォームなど通気性を有する基材に蓄熱性粒子を含有させてなる温度調整材を、人体接触面の少なくとも一部に配設させてなる椅子が開示されている。しかしながら、太陽光に長時間暴露される環境で用いた場合に発生する蒸れに対して、十分に対応できるものではなかった。さらに、蓄熱性粒子は、シェル内に潜熱蓄熱剤が内包されたマイクロカプセルであるため、異物混入により耐摩耗性が低下するという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭54−138102号公報
【特許文献2】特公昭48−174号公報
【特許文献3】特開平1−246480号公報
【特許文献4】特開2001−299495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、太陽光に長時間暴露される環境で用いても蒸れにくく、快適性に優れた着色シート材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、通気および/または透湿のための孔が形成された着色樹脂層を有する着色シート材において、着色樹脂層に太陽光による温度上昇を抑制する機能を具備させることにより長時間使用時の蒸れ感を軽減することができること、その手段として、特定の顔料を用いて樹脂層を着色することにより太陽光による温度上昇を抑制することができることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は第1に、シート基材上に、貫通孔を有する着色樹脂層を有する着色シート材であって、白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕が40℃以下であることを特徴とする着色シート材である。
本発明は第2に、着色樹脂層の780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下であることを特徴とする、上記着色シート材である。
本発明は第3に、演色性〔CR(D65:F6)〕が0.4以下であることを特徴とする、上記着色シート材である。
本発明は第4に、着色樹脂層の610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上であることを特徴とする、上記着色シート材である。
本発明は第5に、着色樹脂層が、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下であり、かつ、610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上である顔料を含有することを特徴とする、上記着色シート材である。
本発明は第6に、貫通孔の平均孔径が5〜200μmであることを特徴とする、上記着色シート材である。
本発明は第7に、貫通孔の平均密度が1〜10000個/inchであることを特徴とする、上記着色シート材である。
【0010】
従来、樹脂層を着色するための着色剤としては顔料が用いられ、有彩色顔料と黒色顔料とを組み合わせることにより目標とする色相を得ている。特に黒色顔料としては炭素を主成分とするカーボンブラック顔料が用いられているが、カーボンブラック顔料は赤外線(波長領域780〜1800nm)の吸収率が高いため、これを含有する着色樹脂層に太陽光などの赤外線を含む光が照射されると、赤外線を吸収して発熱するのである。本発明はこのメカニズムに着目してなされたものである。すなわち、赤外線の吸収が少ない顔料を選択して樹脂層を着色することにより、着色樹脂層の温度上昇を抑制し、もってこれに伴う蒸れ感の増大を抑制しようとするものである。
【0011】
赤外線吸収率が低い顔料を用いた着色シート材としては、例えば、特許文献5および6が知られているが、これに記載のものは、通気性や透湿性に対する配慮がなされておらず、蒸れ感を解消あるいは軽減するものではなかった。
【0012】
【特許文献5】特開平7−42084号公報
【特許文献6】特開2004−314596号公報
【発明の効果】
【0013】
本発明の着色シート材は、太陽光などの赤外線を含む光に長時間暴露される環境で用いても表面温度が上昇しにくいため、蒸れにくく、快適性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の着色シート材は、シート基材上に、貫通孔を有する着色樹脂層を有するものである。
【0015】
本発明においてシート基材とは、織物、編物、不織布などの繊維布帛や、天然皮革など、シート状の形態を有するものをいう。また、繊維布帛に、従来公知の無溶剤系、溶剤系または水系の高分子化合物、好ましくは、ポリウレタン樹脂やその共重合体、あるいはポリウレタン樹脂を主成分とする混合物を塗布または含浸し、乾式凝固または湿式凝固させたものを用いることもできる。繊維布帛において、繊維の種類は特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができる。なかでも強度の観点から合成繊維、特にはポリエステル繊維から成る編物が好ましく用いられる。このようなシート基材は、本来、本発明において好適な通気性および/または透湿性を備えたものである。
【0016】
また、シート基材は、染料または顔料により着色されたものであっても良い。着色に用いられる染料や顔料は特に制限されるものでないが、先に述べたカーボンブラック顔料のように赤外線の吸収率が高いものを用いることは、太陽光に長時間暴露される環境で用いた場合、着色シート材の温度上昇が懸念されるため好ましくない。
【0017】
本発明の着色シート材は、上記シート基材上に、貫通孔を有する着色樹脂層を有するものであり、典型的には、シート基材の片面または両面に直接または接着層を介して着色樹脂層を接合後、着色樹脂層を貫通する孔を形成することにより得られるものである。
【0018】
具体的には、所定の着色樹脂液を、ナイフコーティング、ロールコーティング、グラビア、スプレーなどの方法でシート基材の片面または両面に塗布後、乾式凝固または湿式凝固させることにより、直接、着色樹脂層を接合する。もしくは、所定の着色樹脂液を、上記ナイフコーティングなどの方法で離型性基材に塗布後、乾式凝固または湿式凝固させることにより着色樹脂層を調製し、これをシート基材の片面または両面に圧着することにより、直接、着色樹脂層を接合する。さらにもしくは、上記離型性基材上に調製された着色樹脂層を、シート基材の片面または両面に接着剤を用いて貼り合わせることにより、着色樹脂層を接合する。次いで、ニードルパンチング、放電、レーザー照射など従来公知の手段により、着色樹脂層にその表面からシート基材との接合面(着色樹脂層裏面)まで到達する貫通孔を形成する。
【0019】
なお、本発明の着色シート材は、上記方法より得られたものに限定されない。例えば、予め貫通孔を形成した着色樹脂層を調製しておき、これをシート基材上に接合することにより得られたものであっても良い。また、着色樹脂液に溶剤可溶性物質を含有させておき、着色樹脂層を調製後または調製とともに、溶剤可溶性物質を溶解除去することにより貫通孔を形成したものであっても良い。
【0020】
着色樹脂層の調製に用いられる樹脂は特に限定されるものでなく、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸樹脂、塩化ビニル樹脂、SBR樹脂、NBR樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの共重合体など、従来公知の合成樹脂を挙げることができ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐摩耗性、風合いなどの観点から、ポリウレタン樹脂やその共重合体、またはポリウレタン樹脂を主成分とする混合物が好ましく、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂がより好ましい。樹脂のタイプは、無溶剤系、溶剤系、水系など特に限定されない。
【0021】
樹脂には、後述する顔料の他、必要に応じて、従来公知の添加剤、例えば可塑剤、安定剤、充填剤、滑剤、塗料、発泡剤、離型剤などを含有させても良い。
【0022】
本発明において特徴的であるのは、着色シート材の白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕が40℃以下であることである。白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕とは、白熱電球を5分間照射することによる表面温度の上昇分を表すものであり、この値が小さいほど、太陽光に長時間暴露されても表面温度が上昇しにくいことを意味する。
【0023】
白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕の測定方法は以下の通りである。30cm四方に裁断した試験片(着色シート材)を同じく30cm四方に裁断した厚さ10mmの発泡ウレタンに、着色樹脂層が上になるように重ねる。雰囲気温度30℃の条件下で、試験片から30cm離れたところから300Wの白熱電球を100Vで5分間照射した後、赤外線放射温度計で試験片の表面温度を測定する。このときの表面温度から雰囲気温度30℃を引いた値をFAT(5min)とする。
【0024】
着色シート材の白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕が40℃以下であることにより、周辺温度(雰囲気温度)の上昇を抑制することができ、また、表面温度の上昇後に空冷することで比較的早く表面温度を周辺温度まで冷却することができる。このため、着色シート材を人体と接触させて用いた場合でも、着色シート材と接触する部分の皮膚は汗をかきにくく、蒸れにくいため、快適性に優れた着色シート材となるのである。さらには、着色シート材自体が高温になりにくく、熱老化による強度劣化を防ぐこともできる。白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕が40℃を越えると、上記作用効果を得ることができない。
【0025】
着色シート材の白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕が40℃以下であるためには、着色樹脂層の780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下であることが好ましい。
【0026】
着色樹脂層の所定の波長領域における平均吸収率の測定方法は以下の通りである。フィルム状に形成した着色樹脂層(樹脂および顔料の種類、配合比、樹脂層厚みは目的に応じて適宜設定)について、反射率と透過率のスペクトルを分光光度計(UV−3100PC、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。そのスペクトルから、所定の波長領域における平均反射率と平均透過率を求め、式1に基づいて平均吸収率を算出する。
【0027】
〔式1〕
平均吸収率(%)={100−(平均反射率+平均透過率)}(%)
【0028】
赤外線の波長領域である780〜1800nmにおける平均吸収率が30%以下であることにより、太陽光などの赤外線を含む光が照射された場合に生じる赤外線の吸収による発熱を抑制することができるため、着色樹脂層の温度上昇が少なく、したがって表面温度の上昇しにくい着色シート材となる。こうして、白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕が40℃以下であり、蒸れによる不快感を軽減可能な着色シート材を確実に得ることができるのである。着色樹脂層の780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%を越えると、上記作用効果を得ることができない虞がある。
【0029】
また、本発明の着色シート材は、演色性〔CR(D65:F6)〕が0.4以下であることが好ましい。着色シート材を実際に使用するにあたっては、昼光(D65光源)と白色蛍光灯(F6光源)など、照射される光によって色彩が変化する、いわゆる演色性が問題となる場合が多い。特に黒色など中濃色の場合には、演色性が大きいと光源の違いによる色彩差が目立つため、工業製品として成り立たたないという深刻な問題に発展する虞がある。
【0030】
演色性〔CR(D65:F6)〕の測定方法は以下の通りである。着色シート材の着色樹脂層側について、D65光源照射時とF6光源照射時の色彩値(L、a、b)を分光光度計(Color i5、GretagMacbeth,LLC製)を用いて測定し、式2に基づいて演色性〔CR(D65:F6)〕を算出する。
【0031】
〔式2〕
CF(D65:F6)=[{L(D65)−L(F6)}
+{a(D65)−a(F6)}+{b(D65)−b(F6)}1/2

(D65)、a(D65)、b(D65):D65光源での色彩値
(F6)、a(F6)、b(F6):F6光源での色彩値
【0032】
着色シート材の演色性〔CR(D65:F6)〕が0.4以下であることにより、D65光源照射時とF6光源照射時での着色シート材の色彩差が目視では判別しにくい状態となり、光源の違いによる色彩差の少ない、いわゆる、演色性が小さい着色シート材となる。演色性〔CR(D65:F6)〕が0.4を越えると、上記作用効果を得ることができない虞がある。
【0033】
着色シート材の演色性〔CR(D65:F6)〕が0.4以下であるためには、着色樹脂層の610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上であることが好ましい。
【0034】
D65光源とF6光源では、赤色の波長領域である610〜780nmにおける分光分布が大きく異なるため、この波長領域における平均吸収率が低いと、具体的には60%未満であると、赤色の部分で演色性が大きくなって、着色シート材の演色性〔CR(D65:F6)〕が0.4を越える虞がある。これに対し、着色樹脂層の610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上であると、演色性〔CR(D65:F6)〕が0.4以下であり、演色性が小さい着色シート材となる。
【0035】
樹脂層の着色に用いられる顔料としては、例えば、キノン系、ペリレン系、アゾメチン系、フタロシアニン系などの有機顔料や、酸化チタン系、酸化鉄系、複合酸化物系などの無機顔料を挙げることができる。なかでも、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である顔料が好ましく、より好ましくは、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下であり、かつ、610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上である顔料である。
【0036】
顔料の所定の波長領域における平均吸収率の測定方法は以下の通りである。ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(クリスボンNY−328、大日本インキ化学工業株式会社)とジメチルホルムアミドからなる溶液を調製する。ここで、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の固形分含量は溶液に対して25重量%とする。この溶液に顔料を樹脂固形分に対し固形分で15重量%となるように含有させて厚さ20μmのフィルムを調製する。このフィルムについて、反射率と透過率のスペクトルを分光光度計(UV−3100PC、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。そのスペクトルから、所定の波長領域における平均反射率と平均透過率を求め、式3に基づいて平均吸収率を算出する。
【0037】
〔式3〕
平均吸収率(%)={100−(平均反射率+平均透過率)}(%)
【0038】
780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である顔料を用いて樹脂層を着色することにより、着色樹脂層の780〜1800nmの波長領域における平均吸収率を30%以下とすることが容易となる。同様に、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下であり、かつ、610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上である顔料を用いて樹脂層を着色することにより、着色樹脂層の780〜1800nmの波長領域における平均吸収率を30%以下とし、かつ、610〜780nmの波長領域における平均吸収率を60%以上とすることが容易となる。
【0039】
780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下である顔料を選択するにあたって特に問題となるのは黒色顔料である。前述のように、黒色顔料として主要に用いられているカーボンブラック顔料は、赤外線の吸収率が高く上記条件を満足することができない。上記条件を満足する黒色顔料として具体的には、ペリレン系の有機顔料であるPaliogen Black L0084(BASF Aktiengesellschaft製)、Paliogen Black L0086(BASF Aktiengesellschaft製)、アゾメチアゾ系の有機顔料であるクロモファインブラックA−1103(大日精化工業株式会社製)、などを挙げることができる。
さらに、上記条件を満足し、かつ、610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上であるという条件をも満足する黒色顔料として具体的には、Paliogen Black L0086(BASF Aktiengesellschaft製)を挙げることができる。
【0040】
また、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下であり、かつ、610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上である有彩色顔料としては、赤色の波長領域である610〜780nmから離れていて、紫色、藍色、青色の波長領域である380〜500nmを吸収する顔料をあげることができる。
【0041】
なお、樹脂層の着色に用いることのできる顔料は、上記条件を満足する顔料に限定されない。上記条件を満足しない顔料であっても、全体として着色樹脂層が、780〜1800nmの波長領域において30%以下の平均吸収率を有するように、好ましくは、780〜1800nmの波長領域において30%以下の平均吸収率を有し、かつ、610〜780nmの波長領域において60%以上の平均吸収率を有するように、適量配合される限り問題ない。
【0042】
次に、着色樹脂層が有する貫通孔について説明する。本発明の着色シート材は、着色樹脂層が、その表面からシート基材との接合面(着色樹脂層裏面)まで到達する貫通孔を有するものである。このように、貫通孔は、少なくとも着色樹脂層を貫通するものであるが、シート基材をも含む着色シート材全体を貫通するものであってもよい。
【0043】
着色樹脂層が貫通孔を有することにより、着色シート材は通気性および/または透湿性を備えたものとなる。例えば、着色シート材を人体と接触させて用いることにより、接触部の皮膚が汗ばみ、着色シート材−人体間の空気が湿気を含んだ場合であっても、この湿気を含んだ空気は貫通孔を通ってシート基材に達し、シート基材が有する通気性や透湿性により、湿度が低減されることになる。こうして、長時間にわたって着色シート材と人体が接触し、汗をかきやすい状況であっても、蒸れにくく、快適性に優れた着色シート材となるのである。なお、着色シート材は、通気性および透湿性のうち少なくとも一方を備えていればよい。
【0044】
貫通孔の平均孔径は、5〜200μmであることが好ましく、より好ましくは30〜100μmである。平均孔径が5μm未満であると、十分な通気性・透湿性が得られず、蒸れによる不快感を十分に軽減することができない虞がある。平均孔径が200μmを越えると、着色シート材としての外観品位が損なわれる虞がある。
【0045】
貫通孔の平均密度は、1〜10000個/inchであることが好ましく、より好ましくは100〜2000個/inchである。平均密度が1個/inch未満であると、十分な通気性・透湿性が得られず、蒸れによる不快感を十分に軽減することができない虞がある。平均密度が10000個/inchを越えると、着色シート材としての外観品位が損なわれたり、耐摩耗性が低下したりする虞がある。
【0046】
また、着色樹脂層表面から見た貫通孔の形状は、角のない形状、具体的には円形もしくは楕円形であることが好ましい。貫通孔の形状が角のあるものであると、着色シート材表面に摩耗負荷がかかると、角の部分に負荷が集中し、樹脂層に亀裂が生じ破壊する虞がある。
【0047】
着色シート材のフラジール法評価試験(JIS L1096 8.27.1 A法)による通気度は、0.1cc/cm/sec以上であることが好ましく、より好ましくは0.5cc/cm/sec以上である。通気度が0.1cc/cm/sec未満であると、蒸れによる不快感を十分に軽減することができない虞がある。なお、貫通孔の平均孔径および平均密度との関係から、通気度は最大でも20cc/cm/sec程度である。
着色シート材の塩化カルシウム法(JIS K1099 A−1法)による透湿度は、1000g/cm/day以上であることが好ましく、より好ましくは3000g/cm/day以上である。透湿度が1000g/cm/day未満であると、蒸れによる不快感を十分に軽減することができない虞がある。
前述のように、通気度および透湿度の規定のうち少なくとも一方を満足すればよい。
【0048】
かくして、太陽光などの赤外線を含む光に長時間暴露される環境で用いても表面温度が上昇しにくく、もって蒸れにくい、快適性に優れた着色シート材を提供することができる。
【0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
温感度、体感湿度、蒸れ感、演色性および外観品位は以下の方法で評価した。
【0050】
(1)温感度
30cm四方に裁断した試験片(着色シート材)を同じく30cm四方に裁断した厚さ10mmの発泡ウレタンに、着色樹脂層が上になるように重ね雰囲気温度30℃の条件下で、試験片から30cm離れたところから300Wの白熱電球を100Vで5分間照射した後、被験者(10人)に触ってもらい、以下の基準に従って官能評価を行った。
一番人数の多い評価を、着色シート材の評価とした。
◎・・・快適(熱く感じずに触れることができる)
○・・・やや快適(熱く感じるが触れることができる)
△・・・やや不快(熱く感じ長時間触れることができない)
×・・・不快(熱く感じ全く触れることができない)
【0051】
(2)体感湿度
温度25℃、湿度50%RHの環境下で、着色シート材を、厚さ10mmの発泡ウレタンに、着色樹脂層が上になるように重ね、ともにカーシートフレームに張り込んで、カーシートを作成した。着座部から1m離れた左右斜め45°の2方向から300Wの白熱電球を100Vで10分間照射した後、被験者の着座直後から1分毎に最長10分まで大腿部の湿度を測定した。
【0052】
(3)蒸れ感
(2)と同様の条件下、被験者(10人)が着座してから10分後の蒸れ感について、以下の基準に従って官能評価を行った。
一番人数の多い評価を、着色シート材の評価とした。
◎・・・快適(蒸れない)
○・・・やや快適(やや蒸れる)
△・・・やや不快(蒸れる)
×・・・不快(汗をかく)
【0053】
(4)演色性
着色シート材を、被験者(10人)にD65光源を照射した場合とF6光源を照射した場合で目視してもらい、着色シート材の色の見え方に差があるか否か、以下の基準に従って官能評価を行った。
一番人数の多い評価を、着色シート材の評価とした。
◎・・・色差なし
○・・・やや色差あり
△・・・色差あり
×・・・非常に色差あり
【0054】
(5)外観品位
着色シート材を、被験者(10人)に目視してもらい、着色樹脂層に形成された貫通孔が目立つか否か、以下の基準に従って官能評価を行った。
一番人数の多い評価を、着色シート材の評価とした。
◎・・・孔が全く見えない
○・・・孔が極少量見える
△・・・孔が見える
×・・・孔が著しく見える
【実施例1】
【0055】
下記処方1にて調製した粘度2000cpsの着色樹脂液を、離型紙へ塗布厚200μmになるようにナイフコーティングした後、100℃で2分間乾燥することにより、厚さ40μmの着色樹脂層を得た。
得られた着色樹脂層に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(クリスボンTA−205、大日本インキ化学工業株式会社製)にDMF(ジメチルホルムアミド)を加え粘度5000cpsに調整した接着剤を塗布厚200μmになるようナイフコーティングし、100℃で1分間予備乾燥した後、ポリエステルトリコット布と重ねて4kgf/cmで1分間加圧することにより、ポリエステルトリコット布上に着色樹脂層を接合した。次いで、ニードルパーフォレーター(シュミット株式会社製)を用いて、ポリエステルトリコット布の側から着色樹脂層を貫通する、平均孔径60μm、平均密度620個/inchの孔を形成することにより、本発明の着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【0056】
〔処方1〕
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂 100部
(クリスボンNY−328、大日本インキ化学工業株式会社製)
DMF 40部
ペリレン系黒色顔料 3部
(Paliogen Black L0084、BASF Aktiengesellschaft製)
【実施例2】
【0057】
着色樹脂液の処方を下記処方2とし、貫通孔の平均孔径を20μmとした以外は、実施例1と同様にして本発明の着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【0058】
〔処方2〕
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂 100部
(クリスボンNY−328、大日本インキ化学工業株式会社製)
DMF 40部
ペリレン系黒色顔料 3部
(Paliogen Black L0086、BASF Aktiengesellschaft製)
【実施例3】
【0059】
着色樹脂液の処方を下記処方3とし、貫通孔の平均孔径を120μmとした以外は、実施例1と同様にして本発明の着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【0060】
〔処方3〕
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂 100部
(クリスボンNY−328、大日本インキ化学工業株式会社製)
DMF 40部
ペリレン系黒色顔料 2部
(Paliogen Black L0084、BASF Aktiengesellschaft製)
フタロシアニン系有彩色顔料 15部
(DIALAC BLUE L−1779S、大日本インキ化学工業株式会社製)
酸化鉄系有彩色顔料 2部
(DIALAC YELLOW L−1778S、大日本インキ化学工業株式会社製)
【実施例4】
【0061】
下記処方4にて調製した粘度約40秒(アネスト岩田製粘度カップ(NK−2)使用による塗料吐出落下時間測定)の着色樹脂液を、天然皮革(クラスト)表面へ塗布量150g/mになるようにスプレー噴霧した後、80℃で2分間乾燥することにより、厚さ50μmの着色樹脂層を形成した。
得られた着色樹脂層を有する天然皮革に、エンボス加工、ミリング加工を施した後、ニードルパーフォレーター(シュミット株式会社製)を用いて、着色樹脂層の側から着色樹脂層のみを貫通する、平均孔径60μm、平均密度620個/inchの孔を形成することにより、本発明の着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【0062】
〔処方4〕
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂 150部
(BAYDERM Bottom 51UD、ランクセス株式会社製)
アクリル樹脂 150部
(PRIMAL SB−100、ランクセス株式会社製)
ペリレン系黒色顔料 100部
(Paliogen Black L0086、BASF Aktiengesellschaft製)
水 100部
ウレタン系増粘剤 適量
(ACRYSOL RM−1020、ランクセス株式会社製)
【実施例5】
【0063】
着色樹脂液の処方を前記処方2とし、貫通孔の平均密度を3000個/inchとした以外は、実施例1と同様にして本発明の着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【実施例6】
【0064】
着色樹脂液の処方を前記処方2とし、貫通孔の平均密度を60個/inchとした以外は、実施例1と同様にして本発明の着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【比較例1】
【0065】
着色樹脂液の処方を下記処方5とし、貫通孔を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【0066】
〔処方5〕
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂 100部
(クリスボンNY−328、大日本インキ化学工業株式会社製)
DMF 40部
カーボンブラック顔料 15部
(DIALAC BLACK L−1770S、大日本インキ化学工業株式会社製)
【比較例2】
【0067】
貫通孔を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【比較例3】
【0068】
着色樹脂液の処方を前記処方5とした以外は、実施例1と同様にして着色シート材を得た。顔料に関するデータを表1に、評価結果を表2、3に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材上に、貫通孔を有する着色樹脂層を有する着色シート材であって、白熱電球吸収温度〔FAT(5min)〕が40℃以下であることを特徴とする着色シート材。
【請求項2】
着色樹脂層の780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の着色シート材。
【請求項3】
演色性〔CR(D65:F6)〕が0.4以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の着色シート材。
【請求項4】
着色樹脂層の610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上であることを特徴とする、請求項3に記載の着色シート材。
【請求項5】
着色樹脂層が、780〜1800nmの波長領域における平均吸収率が30%以下であり、かつ、610〜780nmの波長領域における平均吸収率が60%以上である顔料を含有することを特徴とする、請求項1〜4いずれか一項に記載の着色シート材。
【請求項6】
貫通孔の平均孔径が5〜200μmであることを特徴とする、請求項1〜5いずれか一項に記載の着色シート材。
【請求項7】
貫通孔の平均密度が1〜10000個/inchであることを特徴とする、請求項1〜6いずれか一項に記載の着色シート材。

【公開番号】特開2008−87167(P2008−87167A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267035(P2006−267035)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】