説明

着色汚濁水浄化機能水の製造方法及びその使用方法

【課題】着色汚濁水を汚泥を発生させることなく効率よく脱色浄化できる機能を持った電解機能水の製造方法と製造した機能水を着色汚濁水に添加して脱色浄化する簡便で経済的な着色汚濁水の浄化処理方法を提供する。
【解決手段】電解質を含む水溶液を電解反応槽に上向流で通液し、得られた電解水を気液分離し、脱色浄化に有効な電解機能水を排水に添加する方式の有機着色汚濁水の浄化処理方法である。陽極には酸化イリジウムまたは導電性ダイヤモンド系電極を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色汚濁水の脱色浄化処理に関するものである。具体的には有機着色物質を含む汚濁水の脱色に有効な機能水の製造方法及び使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
着色排水による公共水域の汚濁は美観を損なう。特に着色原因物質が有機物の場合、汚濁状態が進むと溶存酸素濃度が低下し、水中に生息する生き物を死滅させたり、不快臭が発生して周辺の住環境を悪くするため早急な改善が望まれている。
【0003】
従来からの有機着色汚濁水の脱色方法には、活性炭や活性アルミナあるいはイオン交換
体を用いた吸着法やイオン交換法、あるいは硫酸アルミニウムや鉄塩等の凝集剤を用いた
凝集沈殿法がある。
吸着法やイオン交換法では除去効果の低下した吸着剤あるいはイオン交換体は新品に交
換するか、もしくは再生して繰り返し使用する必要がある。新品と交換した場合にはその取替え費用が必要になりランニングコストが高くなる問題がある。また、再生して用いる場合には、再生操作に伴って高濃度の再生廃液が排出されるため、その処理処分が必要になり更なる経費が必要となる上、操作が煩雑になる問題がある。
凝集沈殿法では反応に伴い汚泥が生成するためその処理処分が必要になる課題がある。
【0004】
汚泥が生成しない脱色法として電解脱色法がある。電解反応槽に必要量の電流を投入した条件で着色排水を通液させて脱色する方法である。電解脱色法では着色排水の汚濁状態に応じて投入電気量や電解反応槽での滞留時間を設定して処理することで着色汚濁水の浄化が可能である。しかし、汚濁排水中の各種共存物の影響で電極表面の劣化を引き起こす場合が多く使用電極の耐久性が短くなり、極端な例では一ヶ月程度の短期間での連続使用で電解効率が低下し使用できなくなる例もある。したがって実用化にあたっては着色汚濁水中の懸濁物質を事前にろ別除去するなどの慎重な対応が必要である。
【0005】
また、着色溶液に電解質を含む水の電気分解によって生成した機能水を光照射下で着色液と接触させて脱色する方法も開発されている(特許文献1参照)。この方法では照射する光の着色溶液中への透過深度に限界があるため着色溶液と照射する光との接触効率が低く多量の着色汚濁水の浄化には長時間を要するなどの課題が残されている。
【0006】
また、電極の耐久性を改善したものとして、白金及び酸化イリジウムを電極活性物質として用いて調製した特殊な電極を陽極と陰極に用いた電解装置で、塩化物イオンを含有する水溶液中に一対の電極として浸漬し、一定時間ごとに極性を変換しながら直流電解して次亜塩素酸水を生成する方法も検討されている。この方法で生成した次亜塩素酸水の利用方法の1つに脱色が挙げられている(特許文献2参照)。この方法では電極の耐久性の改善は期待されるものの、一対の電極を一定時間ごとに極性変換するための電源操作回路が複雑になる等の課題がある。
【0007】
さらに、電解反応槽の処理済水を気液分離した後、後段の電解反応槽に通液処理することを特徴とする排水の処理方法がある(特許文献3参照)。この方法は被酸化性物質と電解質物質を含む排水を、導電性ダイヤモンド電極を用いた電解処理法であり、排水を直接電解反応槽に通液し、その処理済水の気液分離をすることで後段の電解反応槽での抵抗を下げるものである。これは排水を直接電極表面に接触させるため電極の早期劣化、コストがかさむ等の課題が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2000−79386号 広報
【特許文献2】特開平2004−204328号 広報
【特許文献3】特開平2003−236552号 広報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】水環境学会誌,22(6),498−504(1999)
【非特許文献2】水環境学会誌,22(11),938(1999)
【非特許文献3】火力原子力発電,51(12),1712(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決するために、電極の劣化がほとんど生じない着色汚濁水の脱色浄化に有効な電解機能水の製造方法と、製造した電解機能水を用いた脱色処理法を提供するものである。

【課題を解決するための手段】
【0011】
陽極に酸化イリジウム電極または導電性ダイヤモンド電極を用い、陰極にSUS電極を用い、両極を所定の間隔に設定して構成した流通型電解反応装置に電解質を含む水溶液を上向流で通液し、電解処理水の流出部に電解処理水と電解反応で発生したガス成分を分離する気液分離槽を設け、ガス成分分離後の電解機能水のみを有機着色排水に所定の割合で添加し反応させることで脱色と有機物の分解を行うことを特徴とするものである。

【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のガス成分分離電解反応装置図の概略図である。
【図2】実施例1〜5と比較例1〜5の残留塩素濃度測定結果のグラフである。
【図3】ノリ着色排水(比較例10)と実施例11の吸光度測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
陽極に用いる電極を酸化イリジウム電極とする場合、電極基材としては厚み1〜5mmのチタン材の表面に0.5〜5μmの厚みに酸化イリジウムの薄膜をコートしたものを用いることができる。基材に用いるチタン材の厚みは電解装置に用いる電極の大きさによってその強度を考慮して任意に選定できるが、実用上は厚み1〜5mmの範囲で用いられる。酸化イリジウム薄膜の厚みは0.5μm以上であれば良いが長期間の使用中での消耗を考慮すると1〜5μmが適している。しかし、製造コストが高くなることを容認すれば5μm以上としても性能上は問題ない。
【0014】
陽極に用いる電極を導電性ダイヤモンド電極とする場合の電極基材としては厚み1〜5mmのニオブ材の表面に2〜20μmの厚みに導電性ダイヤモンド薄膜をコートしたものを用いることができる。ニオブ基材の厚みは特に限定されないが通常は2〜3mmのものが用いられる。導電性ダイヤモンド薄膜の厚みは製造コストと性能の安定性を考慮すると3〜10μmのものが適している。
なお、電極基材にはニオブに代わってシリコーンを用いることもできる。シリコーンを基材に用いる場合は一枚の電極面積が400cm 以下の比較的小型の電極を用いる場合に限られ、それ以上の大型電極を用いる場合には電極強度の点でニオブを基材に用いる方が適している。
【0015】
電解質溶液としては塩化物イオンまたは硫酸イオンあるいはその両者を含む水溶液が用いられる。具体的には塩化物イオンと硫酸イオンを含む海水を用いることができる。海水の入手しがたい場所では塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムを所定濃度に溶かした水溶液を用いても対応できる。これらの水溶液中の塩類濃度は0.5〜5wt.%の範囲であればよいが電流効率を考慮すると1〜3wt.%の範囲が実用的である。
【0016】
電解質溶液を電解反応槽に通液する条件は上向流で行い。出来るだけ高流速の条件が望ましい。流速が遅い場合、電解反応によって生成したガスが電解反応槽内に留まる時間が長くなり、両極間の通電抵抗を高めて極間電圧が大きくなり使用電力量が増えるためランニングコストの上昇となり望ましくない。
【0017】
電解反応槽出口の電解処理水中には酸化活性物質の他に反応生成物であるガス成分を含んでいる。このガス中には陰極表面で生成した水素ガスが含まれており、陽極表面で生成し電解処理水中に含まれる酸化活性物質の活性を低下させる。したがって、電解槽出口の電解処理水は速やかに気液分離槽で分離し、酸化活性物質を含む電解処理水と分離した後液相部分を電解機能水として使用することが重要である。
気液分離槽の構造は気体と液体部分を効率よく分離する構造であれば特に制限されないが、最も簡単な構造は電解反応槽の上部に電解処理水の流出部を密閉構造とし、上部にガスの排出口を設け、下部に電解処理水が一定量貯留する構造とし、その液貯留部から液のみを流出させる液流出口を設置した構造とすれば良い。液の貯槽部の気液分離効果を高めるための不活性粒子を充填した構造(図1)とすればより有効であるが、より単純構造とするためには必ずしも充填物は充填しない構造でも目的を達成できる。

【0018】
実施例1〜5
陽極に厚さ2mmのチタン材料(サイズ:50mm×50mm)の表面に1〜3μmの厚みの酸化イリジウムをコートした電極材料を、陰極には同様サイズのSUS316Lを用い、電極間距離を5mmとなるように設定した電解反応セル内に塩化ナトリウム濃度を0.25〜3.0wt.%の範囲の所定濃度に調整した水溶液を3L/hで一過式で通液する方法で、投入電流を3Aの定電流条件で電解実験を行い、電解処理水を気液分離して得られた電解機能水を採取して残留塩素濃度を測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】













【0019】
比較例1〜5
実施例1で用いた電極の代わりに厚さ2mmのチタン材料(サイズ:50mm×50mm)の表面に2〜3μmの厚みの白金をコートした電極材料を陽極に、陰極には同様サイズのSUS316Lを用い、他は実施例1と同様な条件で塩化ナトリウムを含む水溶液の電解実験を行い、電解機能水中の残留塩素濃度を測定した。測定結果を表2に示す。
【表2】












表1を見て分かるように、電解質として用いたNaCl濃度が高くなるにつれて残留塩素濃度も高くなる傾向を示している。生成した残留塩素濃度を比較するとNaCl濃度0.5wt.%以上、なかでも1〜3wt.%の条件での濃度が高くなっていることが分かる。
また、白金電極を用いた場合では、酸化イリジウム電極を用いた場合に比べて電解反応で生成する残留塩素濃度が低いことが分かった。実施例1〜5の結果と比較例1〜5の結果を図2に示す。これらの結果より、電解質に塩化物イオンを含む電解質を用いる場合には白金電極よりも酸化イリジウム電極を用いる方が残留塩素の生成効率を高めるのに有効であることが分かった。

【0020】
比較例6
実施例1〜5の条件のうち、塩化ナトリウムを硫酸ナトリウムに変え、同様の実験を行い、得られた電解機能水1mlをノリ排水(波長560nmでの吸光度0.103)50mlに添加して撹拌混合した後、約1時間静置後の吸光度を測定する方法で脱色効果の比較を行った。
この条件では脱色効果が得られなかった。これより電解質に硫酸イオンを含む水溶液を用いた場合、酸化イリジウム電極は適していないことが分かった。

【0021】
実施例6〜7、比較例7〜9
厚さ3mmのニオブ材料(サイズ:50mm×50mm)の表面に2.5〜3μmの厚みの導電性ダイヤモンドをコートした電極材料を陽極に、陰極にはSUS316Lを用いて、電解質を塩化ナトリウムから硫酸ナトリウムに、通液速度を3L/hから0.3L/hに変え、他は実施例1〜5と同様の条件で実験を行った。そこで得られた電解機能水1mlをノリ排水(波長560nmでの吸光度0.088)50mlに添加して撹拌混合した後、約1時間静置後の波長560nmでの吸光度を測定し、吸光度の変化量よりその減少率を求めた。結果を表3に示す。
【表3】












表3を見て分かるように、電解質濃度を高くしていくと脱色率が高くなっていることが分かる。これより、導電性ダイヤモンド電極を陽極に用い、電解質として硫酸ナトリウムを用いた電解反応により製造された電解機能水を用いることで脱色出来ることが分かった。また、比較例6、実施例6〜7より電解質に硫酸イオンを適量含む水溶液を用いる場合は陽極に導電性ダイヤモンドを用いることが適していることが分かった。

【0022】
実施例8〜11、比較例10
陽極に厚さ3mmのニオブ材料(サイズ:50mm×50mm)の表面に2.5〜3μmの厚みの導電性ダイヤモンドをコートした電極材料を、陰極には同様サイズのSUS316Lを用いた。電極間距離を10mmに設定した電解反応セル内を塩化ナトリウム濃度3.0wt.%の濃度に調整した水溶液を0.3L/hで一過式で通液する方法で、投入電気量を0.25〜1.5Aの投入電流で電解実験を行い、得られた電解機能水5mlをノリ着色排水40mlに添加して撹拌混合した後、約1時間静置後のTOC、T‐N、560nmでの吸光度を測定した。結果を表4に示す。
【表4】













表4を見てわかるように、電流値を上げていくと脱色率が高くなっていることが分かる。しかし、0.25〜1Aでの脱色率の上昇傾向に比べると電流値を1Aから1.5Aに上げた条件での脱色率の上昇率は低い。これより合理的に脱色するためには適切な電流値があることが分かった。また、電解機能水を添加することでTOC、T‐Nも減少していることより、有機物の分解、脱窒が行われており、電流値を上げることで減少率も高くなることが分かった。

【符号の説明】
【0023】
1.電解質溶液
2.排出ガス
3.電解機能水
4.陽極
5.陰極
6.気液分離槽
7.気液分離促進剤充填層
8.生成ガス
9.酸化イリジウム電極を用いた場合の電解機能水の残留塩素濃度測定結果
10.白金電極を用いた場合の電解機能水の残留塩素濃度測定結果
11.ノリ着色排水
12.3wt.%NaCl電解機能水添加後処理水


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化イリジウム電極または導電性ダイヤモンド電極を陽極に用いた電解反応装置に電解質を含む水溶液を上向流で通液した後、発生したガス成分と電解水を分離することを特徴とする電解機能水の製造方法と製造した電解機能水を有機着色排水に添加して所定時間反応させることを特徴とする有機着色排水の脱色浄化処理方法。
【請求項2】
酸化イリジウム電極がチタン基材表面に0.5〜5μmの薄膜の酸化イリジウムをコートした電極材料であることを特徴とする請求項1に記載する電解機能水の製造方法とその機能水を用いた有機着色排水の浄化処理方法。
【請求項3】
導電性ダイヤモンド電極がニオブ基材表面に2〜20μmの薄膜の導電性ダイヤモンドをコートした電極材料であることを特徴とする請求項1に記載する有機着色排水の脱色浄化処理方法。
【請求項4】
電解質を含む水溶液が塩化物イオン又は硫酸イオンあるいはその両イオンを含む水溶液、陽極に導電性ダイヤモンドを用いることを特徴とする請求項3記載の有機着色排水の脱色浄化処理方法。
【請求項5】
電解質に塩化物イオンを含む水溶液を用いた請求項1及び2記載の有機着色排水の脱色浄化処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−91164(P2012−91164A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211155(P2011−211155)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(510279457)大牟田電子工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】