説明

睡眠状態検出装置およびこれを用いた空気調和機、ならびに、睡眠状態検出方法および空気調和機制御方法

【課題】ヒトの睡眠状態の検出の結果を用いてヒトの睡眠状態に応じた制御を精度よく行うことができる空気調和機の提供。
【解決手段】就寝の開始を検知する就寝検知手段、ヒトの生体情報を検知して該生体情報を生体信号として出力する生体信号検知手段、生体信号を入力して生体情報にもとづいてヒトの睡眠の深さを表す睡眠状態指標を算出する睡眠状態指標算出手段、就寝の開始以降の異なる時刻に検知された生体情報にもとづいて算出された複数の睡眠状態指標を積算して指標積算値を導出する指標積算手段、および、指標積算値にもとづいてヒトの睡眠の進行の度合いを表す睡眠状態情報を出力する睡眠状態情報出力手段を備える睡眠状態検出装置と、空気調和機アクチュエータを制御する制御装置と、を有するし、制御装置は、睡眠状態情報を入力してヒトの睡眠の進行の度合いに従って制御設定パラメータを変更する、ことを特徴とする空気調和機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機に関し、特に、ヒトの睡眠状態に応じた制御を行うことができる空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
空調環境はヒトの睡眠の質に大きく影響を与えることが一般的によく知られている。よって、対人用空気調和機にあっては、睡眠中のヒトの生理状態に合わせて空調の制御設定を変更することが望まれる。
【0003】
ヒトは深い睡眠状態にある場合、代謝量が覚醒時のそれと比べて低くなる。また外界環境に対する知覚レベルも低下する。そのため、人体への負荷の軽減、および、省エネ性の観点より、夏季の場合には、空調設定温度はヒトが覚醒状態にあるときのそれよりも高くすることが望ましい。
【0004】
また、ヒトの就寝直後における空調環境と関連して、人体からの放熱を促すことにより、深睡眠に至るまでの時間の短縮、および、その後の深睡眠時間の長化効果があることが知られている。よって就寝直後においては、覚醒状態と比較して空調設定温度を下げることが望ましい。
【0005】
また、ヒトの起床時においては、覚醒後の人体の活動のために代謝レベルを高める必要がある。よって、起床時においては、空調設定温度を高くし、人体からの放熱を抑制することが望ましい。
【0006】
一般に、ヒトの睡眠状態(起床状態を含む)に応じた空調環境を実現するため、睡眠中のヒトの生体情報(体動、呼吸、心拍等)を検知し、該生体情報にもとづいてヒトの生理状態を推定し、推定された生理状態にもとづいて空気調和機制御が行われる。
【0007】
特許文献1は、空気調和機を開示する。特許文献1の空気調和機は、ヒトの体動を検出し、体動頻度を演算し、体動頻度からヒトの睡眠深度を推定演算し、ヒトの睡眠深度が深いほど目標温度を高くするように設定目標温度を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−106899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の特許文献1の発明のように人体の動き(体動)を検出してヒトの睡眠状態を推定する場合、一般に、体動の様子から「睡眠中」と判定される状態が一定期間にわたり持続して初めて、ヒトが入眠したと判断される。
【0010】
しかしながら、例えば、ヒトは、入眠した後、本人の意識レベルが覚醒状態に至らないまま脳波的に瞬時的な覚醒状態または覚醒に近い状態になった場合に、体動が発生することが多い。このような体動が発生すると、覚醒状態であると判定されてしまい入眠の検知が遅れてしまう場合がある。このように、体動に基づいて睡眠状態を判定する手法は、判定結果の安定性に課題を有しており、そのような判定結果を用いて空気調和機をヒトの睡眠状態に合わせて精度よく制御することは困難であった。
【0011】
上記課題を鑑み、本発明は、ヒトの睡眠状態を高精度に検出する睡眠状態検出装置を提供し、また、本発明により提供される睡眠状態検出装置の検出結果を用いてヒトの睡眠状態に応じた制御を精度よく行うことができる空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
また、この発明に係る空気調和機は、就寝の開始を検知する就寝検知手段、ヒトの生体情報を検知して該生体情報を生体信号として出力する生体信号検知手段、生体信号を入力して生体情報にもとづいてヒトの睡眠の深さを表す睡眠状態指標を算出する睡眠状態指標算出手段、就寝の開始以降の異なる時刻に検知された生体情報にもとづいて算出された複数の睡眠状態指標を積算して指標積算値を導出する指標積算手段、および、指標積算値にもとづいてヒトの睡眠の進行の度合いを表す睡眠状態情報を出力する睡眠状態情報出力手段、を備える睡眠状態検出装置と、空気調和機アクチュエータを制御する制御装置と、を有し、制御装置は、睡眠状態情報を入力してヒトの睡眠の進行の度合いに従って空気調和機アクチュエータの制御にかかる制御設定パラメータを変更する、ことを特徴とする空気調和機である。
【0013】
この発明に係る睡眠状態検出装置は、ヒトの生体情報を検知して該生体情報を生体信号として出力する生体信号検知手段と、生体信号を入力して生体情報にもとづいてヒトの睡眠の深さを表す睡眠状態指標を算出する睡眠状態指標算出手段と、異なる時刻に検知された生体情報にもとづいて算出された複数の睡眠状態指標を積算して指標積算値を導出する指標積算手段と、指標積算値にもとづいてヒトの睡眠の進行の度合いを表す睡眠状態情報を出力する睡眠状態情報出力手段と、を有する睡眠状態検出装置である。
【発明の効果】
【0014】
本睡眠状態検出装置は、検知したヒトの生体信号から算出した睡眠状態指標を時系列に沿って積算してヒトの睡眠の進行の度合いを表す情報(睡眠状態情報)を導出し、睡眠状態情報を用いてヒトの睡眠状態を高精度に検出することができる。そのため、当該睡眠状態検出装置を用いた空気調和機は、精度よくヒトの睡眠状態に応じた制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1による空気調和機の構成を示すブロック図
【図2】生体信号検知手段が検知する生体信号(呼吸信号)の例図
【図3】検知した生体信号(呼吸信号)を処理して得られる呼吸周期データの例図
【図4】検知した生体信号(呼吸信号)を処理して得られる呼吸深さデータの例図
【図5】生体信号検知手段の構成の詳細を示すブロック図
【図6】検知した生体信号(呼吸信号)のIQ平面上の軌跡を示す例図
【図7】検知した生体信号(呼吸信号)のIQ平面上の軌跡を示す例図
【図8】(a)睡眠深度測定結果の一例を示すグラフ、(b)同測定において算出された睡眠状態指標(自律神経指標)の時系列グラフ、(c)同測定において算出された睡眠状態指標(自律神経指標)を時系列にそって積算して導出される指標積算値(睡眠状態情報)の時系列グラフ
【図9】(a)睡眠深度測定結果の一例を示すグラフ、(b)同測定において算出された睡眠状態指標(自律神経指標)の時系列グラフ、(c)同測定において算出された睡眠状態指標(自律神経指標)に対して前処理を行い、前処理された睡眠状態指標を時系列にそって積算して導出される指標積算値(睡眠状態情報)の時系列グラフ
【図10】(a)積算前処理(ゲーティング処理)のフローチャート、(b)ゲーティング・フィルタの特性を示すグラフ
【図11】(b)積算前処理別例(シグモイド変換処理)のフローチャート、(b)シグモイド関数を示すグラフ
【図12】睡眠状態検出装置を備える空気調和機がする処理のフローチャート
【図13】温度制御動作(温度制御k(k:1、・・・、N))の詳細を示すフローチャート
【図14】空気調和機制御に用いるパラメータの例を示す図
【図15】生体信号検知手段が検知する生体信号(心拍信号)の例図
【図16】検知した生体信号(心拍信号)を処理して得られる心拍周期データの例図
【図17】検知した生体信号(心拍信号)を処理して得られる心拍数データの例図
【図18】生体信号検知手段の構成の詳細を示すブロック図
【図19】生体信号検知手段の構成の詳細を示すブロック図
【図20】生体信号取得動作の詳細を示すフローチャート
【図21】温度制御動作(温度制御k(k:2、・・・、N))の詳細を示すフローチャート
【図22】不快除去動作の詳細を示すフローチャート
【図23】不快除去動作の詳細を示すフローチャート
【図24】生体信号取得動作の詳細を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0017】
本発明の実施の形態による睡眠状態検出装置は、ヒトの睡眠進行度を高精度で検出することができる。また、本発明の実施の形態による空気調和機は、睡眠状態検出装置を内蔵し、または、接続されており、睡眠状態検出装置が睡眠状態情報として出力するヒトの睡眠進行度に関する情報にもとづいて動作することができる。そうすることにより、本空気調和機は、睡眠進行度(ヒトが就寝してから起床するまでの間のヒトの生理状態の変化)に応じて動作を制御するパラメータを自動的に設定し、また、変更し、より快適な環境を提供することが可能である。
【0018】
そのため、本発明の実施の形態による睡眠状態検出装置は、適時、ヒトの生理状態(呼吸、心拍、体動等)を生体情報として検知し、その生体情報からヒトの睡眠深度(例えば、覚醒、浅眠〜深睡眠、REM睡眠といった状態)を示す指標(以下、睡眠状態指標(、あるいは、自律神経状態指標)と称する。)の値を算出し、所定のタイミング(例えば、就寝開始時刻)から現時点までの複数の時点における睡眠状態指標値を積算することによりヒトの睡眠進行度を表す量を導出し、当該量を睡眠状態情報として出力する。ここで、上記睡眠状態指標は、例えば、ヒトの睡眠深度に対して正の相関を有する。つまり、睡眠状態指標値は、ヒトの睡眠が深ければ深いほどに大きな値を有するように決定される。
【0019】
そして、空気調和機は、睡眠状態検出装置が出力する睡眠状態情報にもとづいて、動作を制御するパラメータを自動的に設定、変更して動作し、就寝中のヒトにとって快適な環境を提供する。
【0020】
本発明の実施の形態による睡眠状態検出装置は、ヒトの睡眠に一過性の覚醒度上昇が生じても、影響を受けにくく、安定した睡眠状態検出を行うことができる。そのため、空気調和機は、安定して睡眠用空調環境を設定することができる。また、上記の睡眠状態指標は、二値ではなく連続量(アナログ値)として算出可能であるため、ヒトの睡眠の質(深さ)を推定可能である。そのため、空気調和機は、ヒトの睡眠段階の進行(睡眠進行度)を考慮した空調制御を行うことができるようになる。また、空気調和機は、睡眠進行度に応じて、空調制御の設定変更を多段階的に行うことができるようになる。
【0021】
実施の形態1.(呼吸動作の検知に基づく空気調和機制御)
1−1.構成
空気調和機の構成
図1は、実施の形態1による空気調和機100の構成を示すブロック図である。
【0022】
空気調和機100は、中心中のヒトの睡眠の進行状態(睡眠進行度)を検出して睡眠状態情報として出力する睡眠状態検出装置5と、睡眠状態検出装置5が出力する睡眠状態情報にもとづいて空気調和機100の動作制御パラメータを設定し、または、変更し、動作制御パラメータにもとづいて自機を制御する制御装置1と、制御装置1の制御下で動作する空気調和機アクチュエータ3と、を有する。制御装置1は、専用回路で構成されてよい。また、制御装置1は、プロセッサおよび該プロセッサで動作するコンピュータプログラムで実現することも可能である。該プログラムは、予めインストールされてよい。また、該プログラムは、フレキシブル・ディスク、光ディスク、可搬性メモリ等に記録され、流通されてもよい。
【0023】
睡眠状態検出装置の構成
睡眠状態検出装置5は、ヒトの就寝開始を検知する就寝検知手段51と、睡眠状態検出対象であるヒトの生体信号(呼吸動作等に関する情報を有する信号)を検知するための生体信号検知手段52と、検知した生体信号から、ヒトの睡眠深度を表す睡眠状態指標の値を算出する睡眠状態指標算出手段53と、睡眠状態指標の値を時系列に沿って就寝開示時点から現時点まで積算(累計)する指標積算手段54と、その積算値にもとづいてヒトの睡眠の進行の度合い(睡眠進行度)を表す情報を睡眠状態情報として制御装置1へ出力する睡眠状態情報出力手段55と、を有する。また、睡眠状態指標算出手段53、指標積算手段54、および、睡眠状態情報出力手段55は、専用回路で構成されてよい。また、睡眠状態指標算出手段53、指標積算手段54、および、睡眠状態情報出力手段55は、プロセッサおよび該プロセッサで動作するコンピュータプログラムで実現することも可能である。該プログラムは、予めインストールされてよい。また、該プログラムは、フレキシブル・ディスク、光ディスク、可搬性メモリ等に記録され、流通されてもよい。
【0024】
睡眠状態指標算出手段53が算出する睡眠状態指標(自律神経状態指標)は、後述するように、その値がヒトの副交感神経の活動レベルを反映する(当該活動レベルに対し正の相関を有する)ように定義される指標である。ヒトの睡眠深度は、副交感神経の活動レベルと対応することが知られている。よって、当該指標は、その値がヒトの睡眠深度を反映する(睡眠深度に対し正の相関を有する)ように定義された指標であると言える。睡眠状態指標の値が大きければ大きいほど、ヒトの睡眠深度レベル(たとえば、覚醒、浅眠〜深睡眠、REM睡眠といった睡眠レベル)が深いことを表す。
【0025】
睡眠状態検出装置5は、睡眠状態指標算出手段53が算出した睡眠状態指標の値を就寝開始時点から現時点まで積算し、当該積算値または当該積算値にもとづく値をヒトの睡眠進行度を表す睡眠状態情報として制御装置1へ出力する。
【0026】
・就寝検知手段
就寝検知手段51は、ヒトが就寝を開始したことを検知する。就寝検知手段51は、空気調和機100のリモコン(図示せず)からのユーザ操作情報信号を受信し、ユーザがリモコン(図示せず)を操作して空気調和機100の動作モードを睡眠モードに設定したことを検知することによりヒトの就寝開始を検知してよい。
【0027】
また、就寝検知手段51は、撮像装置や光ディテクタ等の光検知手段を備え、周囲環境の照度変化を検知し、照度変化により(照度が一定レベルを下回ったことを検知することにより)ヒトが就寝のために照明を消灯したことを認識することによりヒトの就寝開始を検知してもよい。
【0028】
・生体信号検知手段
ヒトが呼吸を行う場合、体表面は呼吸筋、横隔膜の活動により変動する。そのため、ヒトの体表面の形状、位置、速度等の時系列情報は、ヒトの呼吸状態を表す生体情報として利用することができる。生体信号検知手段52は、ヒトの呼吸動作を検知するため、電波式ドップラセンサを備え、ドップラセンサから出射されヒト体表面において反射された反射波を受信し、反射波のドップラシフトから体表面の変位速度を求める。また、生体信号検知手段52は、求めた変位速度から体表面の位置や形状を導出してよい。
【0029】
また、生体信号検知手段52は、電波式ドップラセンサに加えて、または、電波式ドップラセンサに代えて、体表面の三次元形状を計測する三次元イメージセンサを備え、ヒト体表面の形状を求めてもよい。
【0030】
あるいは、生体信号検知手段52は、ヒトの直下または布団の下もしくはベッド内部に備えた圧力センサからの出力にもとづいてヒトの呼吸動作に伴う圧力変化を捉え、その圧力変化からヒトの呼吸動作の特性を抽出し生体情報としてよい。
【0031】
このようにして生体信号検知手段52が求めたヒトの生体情報(呼吸動作に関する情報)は、生体信号として睡眠状態指標算出手段53へ送られる。
【0032】
・睡眠状態指標算出手段
睡眠状態指標算出手段53は、生体信号検知手段52から送られる生体信号にもとづいて、ヒトの呼吸の安定度を推定し、ヒトの呼吸の安定度を示す睡眠状態指標を算出する。具体的には、睡眠状態指標算出手段53は、生体信号に含まれる生体情報(呼吸動作に関する情報)を所定の時間幅にわたって蓄積し、呼吸周期、および、呼吸深さ(呼吸による体表面の変動幅)の少なくともいずれか一方を求め、呼吸周期および呼吸深さの少なくともいずれか一方の安定度を数値として求める。そして、睡眠状態指標算出手段53は、そのようにして求めた安定度にかかる数値を睡眠状態指標(自律神経状態指標)として指標積算手段54へ出力する。
【0033】
以下、図2、図3、および、図4を参照して睡眠状態指標の算出手法を詳しく説明する。図2は、生体信号検知手段52が出力する生体信号の時系列プロットの一例である。図2の縦軸は、ヒトの体表面の位置を示す。つまり、図2は、生体信号検知手段52が、ヒトの体表面の位置に関する情報を生体信号として睡眠状態指標算出手段53へ出力する場合の生体信号の時系列プロットである。
【0034】
睡眠状態指標算出手段53は、生体信号から1回の呼吸に要した時間(呼吸周期)を求める。1回の呼吸に要した時間は、例えば、図2におけるプロットの谷から次の谷までの時間幅でよい。図3は、そのようにして睡眠状態指標算出手段53が求めた呼吸周期の時系列プロットである。図3の縦軸は、ヒトの呼吸周期(単位は時間)を示す。呼吸周期の実測データは、図3の黒点で示されるように時間に関し非等間隔な離散データ(非等間隔呼吸周期データ)であってよい。睡眠状態指標算出手段53は、非等間隔呼吸周期データを時系列に沿って補間して時間に関して等間隔な離散データ(等間隔呼吸周期データ)(図3の破線)を求めてよい。
【0035】
次に睡眠状態指標算出手段53は、呼吸周期データからヒトの呼吸の安定度を示す睡眠状態指標を算出する。睡眠状態指標算出手段53は、呼吸周期データにおいて時間的に近い(例えば隣接する)呼吸周期の差(呼吸周期変動振幅)を求め、さらに、呼吸周期変動振幅の逆数を算出し、睡眠状態指標とする。このようにして算出される睡眠状態指標は、呼吸周期変動振幅が小さければ小さいほどに大きな値を有する。呼吸周期の変動が小さいことは、ヒトの睡眠深度が深い状態にあることに対応するため、睡眠状態指標は、ヒトの睡眠深度に対して正の相関を有する指標となる。
【0036】
あるいは、睡眠状態指標算出手段53は、生体信号から呼吸周期を求めて呼吸周期の変動幅から睡眠状態指標を算出する代わりに、生体信号から呼吸深さを求めて呼吸深さの変動幅から睡眠状態指標を算出してもよい。呼吸深さは、例えば、図2におけるプロットの谷と隣接する山の頂点との隔たり幅でよい。図4は、そのようにして睡眠状態指標算出手段53が求めた呼吸深さの時系列プロットである。図4の縦軸は、ヒトの呼吸深さ(単位は長さ)を示す。呼吸周期の実測データは、図3と同様、黒点で示されるように時間に関し非等間隔な離散データ(非等間隔呼吸深さデータ)であってよい。睡眠状態指標算出手段53は、非等間隔呼吸深さデータを時系列に沿って補間して時間に関して等間隔な離散データ(等間隔呼吸深さデータ)(図4の破線)を求めてよい。
【0037】
次に睡眠状態指標算出手段53は、呼吸深さデータからヒトの呼吸の安定度を示す睡眠状態指標を算出する。睡眠状態指標算出手段53は、呼吸深さデータにおいて時間的に近い(例えば隣接する)呼吸深さの差(呼吸深さ変動振幅)を求め、さらに、呼吸深さ変動振幅の逆数を算出し、睡眠状態指標とする。このようにして算出される睡眠状態指標は、呼吸深さ変動振幅が小さければ小さいほどに大きな値を有する。呼吸深さの変動が小さいことは、ヒトの睡眠深度が深い状態にあることに対応するため、睡眠状態指標は、ヒトの睡眠深度に対して正の相関を有する指標となる。
【0038】
なお、睡眠状態指標算出手段53は、呼吸周期変動振幅から睡眠状態指標を算出する場合、および、呼吸深さ変動振幅から睡眠状態指標を算出する場合のいずれの場合においても、呼吸周期変動振幅または呼吸深さ変動振幅よりも十分に大きな定数から呼吸周期変動振幅または呼吸深さ変動振幅を差し引いて得られる値を睡眠状態指標としてもよい。この場合においても、睡眠状態指標は、ヒトの睡眠深度に対して正の相関を有する指標となる。
【0039】
なお、生体信号検知手段52が図5に示すような構成を有する場合には、睡眠状態指標算出手段53は、次のようにして睡眠状態指標を求めることができる。以下、図5、図6、および、図7を参照して、この場合における睡眠状態指標算出手段53の睡眠状態指標導出過程の別例を示す。
【0040】
図5は、電波式ドップラセンサ(ドップラレーダセンサ)21を有する生体信号検知手段52の構成の詳細を示すブロック図である。生体信号検知手段52は、さらに、ドップラレーダセンサ21の出力を受けるIQ検波器22と、IQ検波器22からの出力をフィルタリングするフィルタ23を有する。ドップラレーダセンサ21は、入射波を出射し、ヒトの体表面において反射された電波(反射波)を受信する。IQ検波器22は、反射波を入射波についての同相成分および直交成分に分解する。同相成分および直交成分の示す信号(IQ信号)は、フィルタ23へ入力される。フィルタ23には、バンドパスフィルタを備え、そのバンドフィルタは、IQ信号からヒトの呼吸動作と関係しない信号成分を除去することができるように通過帯域が設定されている。
【0041】
図6および図7は、そのようにしてフィルタリングされたIQ信号の時系列に沿った軌跡をIQ平面上にプロットした図である。図6は、軌跡例Tr1を示す図である。軌跡例Tr1は、ヒトの呼吸が安定している場合にIQ信号が描く軌跡の例である。図7は、軌跡例Tr2を示す図である。軌跡例Tr2は、ヒトの呼吸が安定していない場合にIQ信号が描く軌跡の例である。このように、IQ信号の軌跡は、体表面の時間変化の態様を反映して変化する。例えば、呼吸が安定している状態にあってはIQ信号の軌跡は、図6の軌跡例Tr1に例示されるような安定した軌跡を示し、呼吸が安定していない状態にあってはIQ信号の軌跡は、図7の軌跡例Tr2に例示されるような不安定な軌跡を示す。
【0042】
したがって、睡眠状態指標算出手段53は、一定期間(例えば、現時点から一定期間だけ遡った時点まで)のIQ信号を生体信号として入力し、そのIQ信号の軌跡の安定度を評価し、軌跡が安定であればあるほどに大きな睡眠状態指標値を出力してもよい。
【0043】
・指標積算手段
指標積算手段54は、一定期間中に生体信号検知手段52から送られる睡眠状態指標を積算(累計)し出力する。以下、指標睡眠状態指標の積算値(累計値)の意味について説明する。
【0044】
図8(a)は、ヒトが睡眠状態にあるときの、睡眠深度の時間変化の例を示すグラフである。図8(a)のグラフは、被験者の睡眠状態をポリグラフィ等の測定技術により測定した結果である。また、図8(b)および図8(c)は、図8(a)に示した睡眠深度の時間変化例の測定と同時に、睡眠状態検出装置5によって算出された睡眠状態指標および睡眠状態指標の積算値の時系列プロットである。図8(b)の縦軸は、睡眠状態指標値の大きさを示し、上に向かって睡眠状態指標の値は大きくなる。図8(c)の縦軸は、図8(b)に示す睡眠状態指標の値を就寝時から各時点まで積算(累計)した積算値(累計値)である。図8(c)中の値S1、S2、および、S3の意味について後で説明する。
【0045】
図8(a)および図8(b)を比較参照すれば、被験者の睡眠深度が深まると、睡眠状態指標の値はほぼ同時的に高くなり、被験者の睡眠深度が浅くなると、睡眠状態指標もほぼ同時的に低くなり、互いによく対応し、正の相関関係にあることがわかる。このことから、睡眠状態指標が高いことは、ヒトは深い睡眠にあり、副交感神経系が優位であることを示し、逆に、睡眠状態指標が低いことは、ヒトは浅い睡眠にあり、副交感神経系の優位度が低下した状態にあることを示すことがわかる。
【0046】
次に、図8(a)および図8(c)を比較参照すれば、ヒトが深い睡眠状態にある期間には、睡眠状態指標の積算値は、比較的大きく増大する(傾きが大きい)ことが分かる。逆に、ヒトが浅い睡眠状態にある期間には、睡眠状態指標の積算値の増大量は、比較的小さい(傾きが小さい)。
【0047】
このことから、睡眠状態指標(図8(b))は、各時点におけるヒトの睡眠の深さ(睡眠深度)を精度よく表し、睡眠状態指標の積算値(図8(c))の時間変化は、ヒトの睡眠の進行の態様(就寝時からの睡眠深度の変化の履歴)を精度よく表していることが分かる。
【0048】
ここで、図8(c)の値S1、S2、および、S3について説明する。S1、S2、S3は、指標積算値について予め設定され睡眠進行度の判定に用いられる閾値(睡眠進行度判定閾値)であり、指標積算値が各睡眠進行度判定閾値を初めて上回ると、睡眠状態情報出力手段55は、制御装置1に対し、指標積算値が各閾値を上回ったことを、つまり、ヒトの睡眠の進行が次の段階に進んだことを通知する。制御装置1は、当該通知にもとづいて、空気調和機アクチュエータ3の動作制御にかかるパラメータの設定変更や、制御アルゴリズム(後述の温度制御k(図12等))の変更を行い、ヒトの睡眠進行度に合わせた自機の自動制御を実現している。
【0049】
睡眠進行度判定閾値S1、S2、S3等の数は3つに限定されない、通例、N個(Nは自然数)の睡眠進行度判定閾値を予め設定しておけばよい。また、睡眠進行度判定閾値Sk(k:自然数)は、それぞれ、特定の睡眠進行度に対応した値であって、予め被験者に対して実験を行い統計的に求めた値でよい。
【0050】
例えば、睡眠進行度判定閾値Skは、入眠時(覚醒状態から睡眠状態へ移行する時点近傍の時間帯)に人体からの放熱を促進するように温度制御の設定温度を下げるように設定パラメータを変更するタイミングに対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値でよい。例えば、睡眠進行度判定閾値Skは、ヒトの睡眠状態が就寝を開始してから初めて深睡眠状態に至った時点に対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値であってよい。
【0051】
また例えば、睡眠進行度判定閾値Skは、睡眠の進行に合わせて温度制御の設定温度を上げるように設定パラメータを変更するタイミングに対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値でよい。例えば、睡眠進行度判定閾値Skは、最初の深睡眠状態が終了した時点によく対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値であってよい。また、例えば、睡眠進行度判定閾値Skは、深睡眠状態にある時間の総計時間が所定の値(起床するのに十分と考えられる量)に達する時点によく対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値であってよい。
【0052】
睡眠状態情報出力手段55は、指標積算値が睡眠進行度判定閾値Skを初めて上回ると、その旨を制御装置1に通知し、制御装置1は、制御アルゴリズムを後述の温度制御k(図12等)から温度制御k+1へ変更する処理を行い、ヒトの睡眠進行度に合わせて制御動作の変更を行う。
【0053】
なお、指標積算手段54は、睡眠状態算出手段53が出力した睡眠状態指標に対し所定の前処理を行ってから、前処理された睡眠状態指標を積算して指標積算値を導出してもよい。以下に前処理の例を示す。
【0054】
図9は、図8と同様、ヒトが睡眠状態にあるときの睡眠深度の時間変化の例を示すグラフ(図9(a))と、図9(a)に示した睡眠深度の時間変化例の測定と同時に求められた睡眠状態指標の時系列プロット(図9(b))と、睡眠状態指標の積算値の時系列プロット(図9(c))である。図9(a)および図9(b)は、図8(a)および図8(b)と同一であり、図9(c)のみが図8(c)とは異なる。図9(c)に示す指標積算値のプロットは、指標積算手段54において睡眠状態指標を前処理することにより、睡眠状態指標算出手段53から入力された睡眠状態指標を、睡眠が深いときに相対的により大きな値となりかつ睡眠が浅いときに相対的により小さな値となるように変換して得た指標積算値の時系列プロットである。図8(c)および図9(c)を比較参照すれば、図9(c)の指標積算値は、睡眠が深いときと睡眠が浅いときの変化量の相違がより顕著であることがわかる。図9(c)の指標積算値の時系列プロットでは、睡眠が浅いときに指標積算値は殆ど増加せず、睡眠が深いときに指標積算値は相対的により大きく増大することがわかる。
【0055】
このような前処理は、図10や図11に示す変換処理によって実現される。
【0056】
図10(a)は、ゲーティング処理による前処理の例を示すフローチャートであり、図10(b)は、ゲーティング処理に用いられるゲート・フィルタの特性図である。
【0057】
指標積算手段54は、睡眠状態指標算出手段53が睡眠状態指標Aを算出し出力すると(ステップS11)、当該指標Aを入力し、指標Aの値が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS12)。そして、指標Aが所定の閾値以上であれば、指標Aをそのまま睡眠状態指標とし(ステップS13)、指標Aが所定の閾値未満であれば、指標Aの代わりにゼロを睡眠状態指標とし、指標の積算を行う。
【0058】
図11(a)は、シグモイド変換処理による前処理の例を示すフローチャートであり、図11(b)は、シグモイド変換処理に用いられるシグモイド関数の図である。
【0059】
指標積算手段54は、睡眠状態指標算出手段53が睡眠状態指標Aを算出し出力すると(ステップS21)、当該指標Aを図11(b)に示すようなシグモイド関数に入力する。そして、指標Aのシグモイド関数値を睡眠状態指標として(ステップS22)、指標の積算を行う。
【0060】
このような前処理を睡眠状態指標算出手段53が出力する睡眠状態指標に対して行ってから指標の積算を行うことにより、前処理を施さない場合と比べて更に、睡眠深度が深い状態に重点を置いた睡眠進行度を求めることができる。
【0061】
・睡眠状態情報出力手段
睡眠状態情報出力手段55は、指標積算手段54から入力された指標積算値や、就寝検知手段51が検知した就寝の開始からの経過時間にもとづいて、所定の信号を制御装置1に対して出力することにより、制御装置1の制御設定パラメータや制御動作そのものの変更動作の実行をトリガすることができる。睡眠状態情報出力手段55が出力する所定の信号が示す情報の内容は、制御装置1の仕様に応じて適宜決定されればよいが、例えば、指標積算値が上述の睡眠進行度判定閾値Skを上回ったことを通知するための情報や、指標積算値そのものを示した情報であってよい。加えて、睡眠状態情報出力手段55は、就寝の開始からの経過時間が所定の制限時間を超過したことを通知するための情報や、就寝の開始からの経過時間そのものを示した情報を出力することもできる。また、睡眠状態情報出力手段55は、上記各量を表す情報信号に加え、各時点において睡眠状態指標算出手段53が算出した睡眠状態指標を、制御装置1に対して出力してもよい。
【0062】
1−2.動作
次に、図12、図13、および、図14を参照し、実施の形態1による空気調和機100の動作について説明する。
【0063】
図12は、ヒトの就寝時に空気調和機100がする処理のフローチャートである。
【0064】
図12を参照すれば、空気調和機100の睡眠状態検出装置5は、その就寝検知手段51の作用により、ヒトが就寝したことを検知する(ステップS31)。
【0065】
睡眠状態検出装置5は、就寝の検知とほぼ同時的に就寝時間の計時を開始する(ステップS32)。
【0066】
ステップS33−0乃至ステップS33−Nは、空気調和機100が、睡眠状態指標およびその積算値にもとづいてヒトの睡眠進行度を推定し、睡眠進行度に合わせて空調設定温度を変更し、自機の動作を制御するための処理である。図12に示すフローチャートでは、互いに相異なる空調設定温度が設定可能な温度制御処理が温度制御0から温度制御N(Nは自然数)まで、N+1個用意される。つまり、空気調和機100は、睡眠進行度に合わせてヒトの就寝開始からN+1回の多段階的な空調設定温度の変更が可能である。
【0067】
ステップS33−kからステップS33−(k+1)への処理の移行は、睡眠状態検出装置5が出力する睡眠状態情報にもとづいて行われる。つまり、睡眠状態検出装置5は、空地調和機100の制御動作の変更をトリガする。
【0068】
以下の説明では、N=4とした場合を例に空気調和機100の動作を説明する。
【0069】
まず、空気調和機100は、ヒトの就寝を検知すると、制御モード「温度制御0」に移行する(ステップS33−0)。
【0070】
図13は、ステップS33−0乃至ステップS33−Nの処理(「温度制御k(k:0、2、・・・、N)」)の詳細を示すフローチャートである。図14は、温度制御kにおいて用いられる制御設定パラメータの例を示す図である。図14において、TimekおよびTkは、それぞれ、温度制御k(k:0、1、・・・、N)で用いられる制御設定パラメータである、温度制御k空調制御温度変更量パラメータ(Tk)および温度制御k継続時間制限パラメータ(Timek)、である。図14では制御設定パラメータの組を5つ挙げているが、パラメータは各温度制御kについて設定しておくことができる。よって、パラメータの組み合わせは、N+1個(Nは自然数)だけ予め記憶しておくことができる。また、図14に例示した制御設定パラメータは、温度制御k継続時間制限パラメータ(Timek)および温度制御k空調制御温度変更量パラメータ(Tk)の2つであるが、その他のパラメータを備えてもよい。例えば、風量に関するパラメータや風向きに関するパラメータ等を備えてもよい。
【0071】
図13を参照してステップS33−0の温度制御0(k=0)の処理を説明する。
【0072】
睡眠状態検出装置5の生体信号検知手段52は、生体信号を検知し、それを睡眠状態指標算出手段53へ出力する(ステップS41)。
【0073】
次に、睡眠状態指標算出手段53は、上述したように生体信号にもとづいて睡眠状態指標を算出し、それを指標積算手段54へ出力する(ステップS42)。
【0074】
次に、指標積算手段54は、入力された睡眠状態指標について上述した前処理(図10、図11等)を行い、前処理された睡眠状態指標を求める(ステップS43)。なお、本ステップは、省略されてもよい。
【0075】
次に、指標積算手段43は、前処理された睡眠状態指標または睡眠状態指標算出手段53から入力された睡眠状態指標について、就寝開始時から時間軸にそって積算(累計)し、指標積算値を導出し、それを睡眠状態情報出力手段55へ出力する(ステップS43)。
【0076】
次に、睡眠状態情報出力手段55は、指標積算値を睡眠進行度判定閾値S0と比較する(ステップS44)。なお、睡眠進行度判定閾値S0は、後述する理由から、非ゼロの任意の値でよい。
【0077】
睡眠状態情報出力手段55は、制御装置1へ睡眠状態情報を出力する(ステップS45)。睡眠状態情報出力手段55は、指標積算値が睡眠進行度判定閾値Skに到達した場合には、その旨を睡眠状態情報として送り、制御装置1へ通知して温度制御処理を温度制御kからその次のステップ(温度制御Sk+1)へ移行させる処理をトリガする。また、指標積算値が睡眠進行度判定閾値Skに到達する前に就寝時間が温度制御k継続時間制限パラメータ(Timiek)を超過した場合にも、睡眠状態情報出力手段55は、その旨を睡眠状態情報として送り、制御装置1へ通知して温度制御処理を温度制御kから次のステップ(温度制御Sk+1)へ移行させる処理をトリガする。
【0078】
指標積算値が睡眠進行度判定閾値S0に達していない場合(ステップS46における「No」)、睡眠状態情報出力手段55は、就寝時間(就寝開始時刻からの時間幅)と図14に示す温度制御0継続時間制限パラメータ(Time0)とを比較し、就寝時間が温度制御0継続時間制限パラメータ(Time0)を超過しているか否かを判定する(ステップS47)。図14を参照すれば温度制御0継続時間制限パラメータ(Timie0)は、ゼロである。よって、温度制御0においては、処理は、ステップS47からステップS41へ帰還することなく、ステップS48へ移行する。温度制御0においては、温度制御0継続時間制限パラメータ(Timie0)はゼロに設定されるため、睡眠進行度判定閾値S0は、任意の非ゼロの値でよい。
【0079】
すると、制御装置1は、温度変更量パラメータT0(図14)を参照し、空調設定温度を現在の空調設定温度から−0.5度だけ変化させてから(0.5度低くする)(ステップS48)、温度制御1の処理(図12のステップS33−1)へ移行する。
【0080】
このように、温度制御0の処理により、空気調和機100は、ヒトの就寝の直後に、就寝直前の空調設定温度よりも0.5度だけ低く空調設定温度を再設定し、直ちに、処理は温度制御1(図12)へ移行する。
【0081】
図12を参照すれば、空気調和機100は、次に温度制御1の処理を実行する(ステップS33−1)。温度制御1における処理の詳細は、図13に示すフローチャートにおいてk=1とした場合に等しい。また、温度制御1における継続時間制限パラメータ(Timiek)および空調制御温度変更量パラメータ(Tk)には、それぞれ、Time1およびT1が用いられる(図14参照)。
【0082】
温度制御1の処理(図12のステップS33−1、図13におけるkを1とした場合の処理)は、指標積算値が睡眠進行度判定閾値S1を上回るか、または、就寝時間が温度制御1継続時間制限パラメータ(Timie1)(20分)を超過する、まで継続される。なお、ここでの睡眠進行度判定閾値S1は、ヒトの睡眠状態が就寝を開始してから初めて深睡眠状態に至った時点に対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値であってよい。上記いずれかの条件が満足されると、制御装置1は、温度変更量パラメータT1(図14)を参照し、空調設定温度を現在の空調設定温度からさらに−0.5度だけ変化させる(0.5度低くする)。
【0083】
そして、処理は、温度制御2(図12)へ移行する。
【0084】
温度制御2の処理(図12のステップS33−2、図13におけるkを2とした場合の処理)は、指標積算値が睡眠進行度判定閾値S2を上回るか、または、就寝時間が温度制御2継続時間制限パラメータ(Timie2)(120分)を超過する、まで継続される。なお、ここでの睡眠進行度判定閾値S2は、最初の深睡眠状態が終了した時点によく対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値であってよい。上記いずれかの条件が満足されると、制御装置1は、温度変更量パラメータT2(図14)を参照し、空調設定温度を現在の空調設定温度から1度だけ変化させる(1度高くする)。
【0085】
そして、処理は、温度制御3(図12)へ移行する。
【0086】
以上、温度制御0、温度制御1、および、温度制御2は、ヒトの入眠時における人体からの放熱を促すための制御である。
【0087】
温度制御3以降の処理では、人体への負荷の低減、および、省エネ性の向上のための制御が実施される。
【0088】
温度制御3の処理(図12のステップS33−3、図13におけるkを3とした場合の処理)は、指標積算値が睡眠進行度判定閾値S3を上回るか、または、就寝時間が温度制御3継続時間制限パラメータ(Timie3)(180分)を超過する、まで継続される。上記いずれかの条件が満足されると、制御装置1は、温度変更量パラメータT3(図14)を参照し、空調設定温度を現在の空調設定温度からさらに1度だけ変化させる(1度高くする)。
【0089】
そして、処理は、温度制御4(図12)へ移行する。
【0090】
温度制御4(図12のステップS33−4、図13におけるkを4とした場合の処理)は、起床に備えて人体からの放熱を抑制するための制御である。温度制御4の処理は、指標積算値が睡眠進行度判定閾値S4を上回るか、または、就寝時間が温度制御4継続時間制限パラメータ(Timie4)(480分)を超過する、まで継続される。なおここでの睡眠進行度判定閾値S4は、深睡眠状態にある時間の総計時間が所定の値(起床するのに十分と考えられる量)に達する時点によく対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値であってよい。
【0091】
温度制御4では、指標積算値が睡眠進行度判定閾値S4を上回るか、または、就寝時間が480分(Time4)(図14)を超過した時点で、制御装置1は、温度変更量パラメータT4(図14)を参照し、空調設定温度を現在の空調設定温度からさらに1度だけ変化させる(1度高くする)。なお、タイマ予約機能等により起床予定時刻が予め入力されている場合には、その値を参照して温度制御4継続時間制限パラメータ(Timie4)を決定してもよい。その場合、睡眠進行度判定閾値S4や図14の温度制御4継続時間制限パラメータ(Timie4)(480分)は無視してよい。
【0092】
以上、図14に示す制御設定パラメータを用いた空気調和機の制御について説明したが、制御設定パラメータを増やし、より細やかな多段階的な空気調和機の制御を行ってもよい。
【0093】
1−3.睡眠ナビ機能
睡眠状態検出装置5は、図8(b)および(c)、ならびに、図9(c)に示したような情報の少なくともいずれか1つをリモコンへ転送する手段をさらに備えてもよい。また、リモコンは、転送された情報にもとづいて睡眠状態の計測結果や空気調和機の制御の記録等を表示する手段を備えてよい。そうすることにより、ユーザの起床後にユーザにこれらの情報を閲覧させることが可能となる(睡眠ナビ機能)。ユーザは自身の睡眠状況や空調制御の状況(就寝から、深睡眠に至るまでの時間、深睡眠の総時間、本制御を行わない場合と比較した省エネ率など)を知ることができる。
【0094】
また、入眠後に睡眠深度が浅くなることが多かった場合(頻繁に睡眠状態指標が小さくなるなどにより判定する)、これを温熱不快によるものとして、設定温度を下げることを利用者に推奨する等のための動作を行ってもよい。
【0095】
また、睡眠状態検出装置5は、睡眠ナビ機能の1つとして、空気調和機の温度設定の推奨値や、風向設定(気流設定)の推奨値や、就寝する位置の推奨位置等を提供してよい。これにより、省エネ性の向上と、睡眠状態検出の精度向上とを図ることが可能である。
【0096】
1−4.制御設定パラメータ補正機能
また、例えば、深睡眠に至るまでの時間が長かった場合、設定温度変更量パラメータT0、T1がゼロに近すぎて、人体からの熱の放熱促進効果が不十分であったと判断し、次回使用時にこれらパラメータを補正することも可能である。当該補正は、ユーザからの指示にもとづいて行われてもよいし、空気調和機100が指標積算値の時間変化を記憶し、当該時間変化にもとづいて自動的に行ってもよい。
【0097】
1−5.実施の形態1まとめ
実施の形態1による空気調和機100は、以下の特徴を有する。
【0098】
空気調和機100は、ヒトの呼吸動作に関連する生体情報を検知し、当該生体情報にもとづいて自機の制御を行う。そのため、REM睡眠において特徴的な所謂「自律神経系の嵐」を精度よく検出することができる。そのため本手法は、体動を検知して睡眠状態を推定する手法に較べ、脳波的睡眠段階との整合において優れている。特に、本手法は、体動を検知して睡眠状態を推定する手法に較べ、REM睡眠の期間が長期化する睡眠後半期での脳波的睡眠段階との整合において優れている。また、呼吸に伴う体表面の変動量は、心拍に伴う体表面の変動量との比較において、大きい。そのため、本手法は、非接触で遠方から生体情報を測定する場合に有利である。
【0099】
また、空気調和機100は、睡眠進行度判定閾値Sk(k:1、2、...、N)を設定して当該閾値にもとづいて自機の制御設定パラメータを自動的に変更することができる。そのため、ヒトの睡眠の進行度合いに合わせて適切なタイミングで空調制御を行うことができる。また、睡眠進行度判定閾値は、指標積算値に対して設定されるため、中途覚醒があっても影響を受けにくい。また、睡眠中の空調制御に際し、空気調和機100は、ヒトの睡眠の進行度合いに合わせて設定変更を適切なタイミングで行うことができる。また、ユーザの睡眠の進行度に合わせて空調制御の設定を変更できるため、快眠を得やすい環境を提供するとともに、省エネ性能も向上させることができる。
【0100】
また、空気調和機100は、睡眠進行度判定閾値Sk(k:1、2、...、N)の1つを、ヒトの睡眠状態が就寝を開始してから初めて深睡眠状態に至った時点に対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値とすることができる。そのため、入眠促進の制御を行う場合に、設定変更の適切なタイミングを検出することができる。
【0101】
また、空気調和機100は、睡眠進行度判定閾値Sk(k:1、2、...、N)の1つを、最初の深睡眠状態が終了した時点によく対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値とすることができる。そのため、睡眠の第一周期の終わりを検知し、省エネ運転を適切なタイミングで開始できる。
【0102】
また、空気調和機100は、睡眠進行度判定閾値Sk(k:1、2、...、N)の1つを、深睡眠状態にある時間の総計時間が所定の値(起床するのに十分と考えられる量)に達する時点によく対応する睡眠進行度を表す(よく対応した)指標積算値の値とすることができる。そのため、利用者の起床のために空調制御を変更する際に、適切なタイミングで処理を開始できる。
【0103】
また、睡眠状態検出装置5の就寝検知手段51は、撮像装置や光ディテクタ等の光検知手段を備え、周囲環境の照度変化を検知し、照度変化により(照度が一定レベルを下回ったことを検知することにより)ヒトが就寝のために照明を消灯したことを認識することによりヒトの就寝開始を検知してもよい。そうすることで、ユーザは、就寝前に空気調和機100に対し特別の操作をする必要がなくなる。また、空気調和機100のセンサとして既にカメラ等の光検知手段が搭載されている場合、さらに就寝検知のためのセンサを搭載する必要性なしで、就寝検知の自動化を実現することができる。
【0104】
また、空気調和機100は、温度制御k継続時間制限パラメータTimek(k:1、2、...、N)を設定して当該制限時間パラメータにもとづいて自機の制御設定パラメータを自動的に変更することができる。そのため、就寝中のヒトの生体信号の計測が正常になされなかった場合にも、空気調和機100は、空調制御を行うことができる。これによりユーザの体に過剰な負荷を与えることを防ぐことができる。
【0105】
また、空気調和機100は、睡眠状態検出装置5が導出した情報をユーザに伝えるための睡眠ナビ機能を備える。そのため、利用者が自覚できない、自身の睡眠記録、空気調和機100の運転状況を知ることで、健康管理や電力管理に役立てることができる。また、睡眠ナビ機能により、睡眠状態検出装置5の生体信号検知手段52のセンサが生体情報をセンシングし易い位置にユーザを誘導することができ、生体情報計測精度を向上させることができる。また、空気調和機100が空気環境を制御し易い位置へ利用者を誘うことで、快適性の向上、および、省エネ性の向上を図ることができる。
【0106】
実施の形態2.(心拍の検知に基づく空気調和機制御)
2−1.構成
空気調和機の構成
実施の形態2のよる空気調和機は、実施の形態1による空気調和機100とほぼ同様の構成を有する。以下、相違点について詳細に説明する。同様の構成については、説明を省略する。
【0107】
睡眠状態検出装置の構成
実施の形態2による睡眠状態検出装置は、生体信号としてヒトの心拍に関連した生体情報を検知する点を除き、実施の形態1による睡眠状態検出装置5とほぼ同様の構成を有する。本実施形態の睡眠状態検出装置5は、生体信号検知手段52と、睡眠状態指標算出手段53の構成が、実施の形態1による睡眠状態検出装置5と異なる。
【0108】
・就寝検知手段
本実施形態の就寝検知手段51は、実施の形態1のそれと同様の構成を有してよい。
【0109】
・生体信号検知手段
本実施形態の生体信号検知手段52は、睡眠状態検出対象であるヒトの心拍等に関する情報を検知して生体信号として出力することができる。
【0110】
ヒトの体表面では、心拍により脈動が生じる。そのため、ヒトの体表面の形状、位置、速度等の時系列信号は、ヒトの心拍を表す生体情報として利用することができる。生体信号検知手段52は、ヒトの心拍を検知するため、電波式ドップラセンサを備え、ドップラセンサから出射されヒト体表面において反射された反射波を受信し、反射波のドップラシフトから体表面の変位速度を求める。また、生体信号検知手段52は、求めた変位速度から体表面の位置や形状を導出してよい。また、生体信号検知手段52は、電波式ドップラセンサに加えて、または、電波式ドップラセンサに代えて、体表面の三次元形状を計測する三次元イメージセンサを備え、ヒト体表面の形状を求めてもよい。あるいは、生体信号検知手段52は、ヒトの直下または布団の下もしくはベッド内部に備えた圧力センサからの出力にもとづいてヒトの心拍に伴う圧力変化を捉え、その圧力変化からヒトの心拍の特性を抽出し生体情報としてよい。
【0111】
このようにして生体信号検知手段52が求めたヒトの生体情報(心拍に関する情報)は、生体信号として睡眠状態指標算出手段53へ送られる。
【0112】
・睡眠状態指標算出手段
睡眠状態指標算出手段53は、生体信号検知手段52から送られる生体信号にもとづいて、ヒトの心拍数の安定度を推定し、ヒトの心拍数の安定度を示す睡眠状態指標を算出する。具体的には、睡眠状態指標算出手段53は、生体信号に含まれる生体情報(心拍に関する情報)を所定の時間幅にわたって蓄積し、心拍周期を求め、心拍周期が示す瞬時的な心拍数の時系列データを補間して時間に沿って等間隔に並んだ心拍数の時系列データを生成し、この心拍数の等間隔時系列データから心拍数の安定度(心拍数のゆらぎ幅(変動幅))を数値として求める。そして、睡眠状態指標算出手段53は、そのようにして求めた安定度にかかる数値を睡眠状態指標(自律神経状態指標)として指標積算手段54へ出力する。
【0113】
以下、図15、図16、および、図17を参照して睡眠状態指標の算出手法を詳しく説明する。図15は、生体信号検知手段52が出力する生体信号の時系列プロットの一例である。図15の縦軸は、ヒトの体表面の位置を示す。つまり、図15は、生体信号検知手段52が、ヒトの体表面の位置に関する情報を生体信号として睡眠状態指標算出手段53へ出力する場合の生体信号の時系列プロットである。
【0114】
睡眠状態指標算出手段53は、生体信号から1回の心拍による脈動に要した時間(心拍周期)を求める。1回の脈動に要した時間は、例えば、図15におけるプロットの谷から次の谷までの時間幅でよい。図16は、そのようにして睡眠状態指標算出手段53が求めた心拍周期の時系列プロットである。図16の縦軸は、ヒトの心拍周期(単位は時間)を示す。心拍周期の実測データは、図16の黒点で示されるように時間に関し非等間隔な離散データ(非等間隔心拍周期データ)であってよい。
【0115】
次に睡眠状態指標算出手段53は、心拍周期から心拍数を求める。図17は、そのようにして睡眠状態指標算出手段53が求めた心拍数の時系列プロットである。図17の縦軸は、ヒトの心拍数を示す。心拍周期の実測データにもとづいて求めた心拍数データは、図17の黒点で示されるように時間に関し非等間隔な離散データ(非等間隔心拍数データ)であってよい。睡眠状態指標算出手段53は、非等間隔心拍数データを時系列に沿って補間して時間に関して等間隔な離散データ(等間隔心拍数データ)(図17の破線)を求めてよい。
【0116】
次に睡眠状態指標算出手段53は、等間隔心拍数データからヒトの心拍数の安定度を示す睡眠状態指標を算出する。睡眠状態指標算出手段53は、等間隔心拍数データにおいて時間的に近い(例えば隣接する)心拍数の差(心拍の揺らぎ幅を示す心拍数変動振幅)を求め、さらに、心拍数変動振幅の逆数を算出し、睡眠状態指標とする。このようにして算出される睡眠状態指標は、心拍数変動振幅が小さければ小さいほどに大きな値を有する。心拍数の変動が小さいことは、ヒトの睡眠深度が深い状態にあることに対応するため、睡眠状態指標は、ヒトの睡眠深度に対して正の相関を有する指標となる。
【0117】
なお、睡眠状態指標算出手段53は、心拍数変動振幅から睡眠状態指標を算出する場合、心拍数変動振幅よりも十分に大きな定数から心拍数変動振幅を差し引いて得られる値を睡眠状態指標としてもよい。この場合においても、睡眠状態指標は、ヒトの睡眠深度に対して正の相関を有する指標となる。
【0118】
・指標積算手段
本実施形態の指標積算手段54は、実施の形態1のそれと同様の構成を有してよい。
【0119】
・睡眠状態情報出力手段
本実施形態の睡眠状態情報出力手段55は、実施の形態1のそれと同様の構成を有してよい。
【0120】
2−2.動作
本実施形態の空気調和機100の動作は、実施の形態1のそれと同様でよい。
【0121】
2−3.睡眠ナビ機能
本実施形態の空気調和機100は、実施の形態1と同様の睡眠ナビ機能を備えてよい。
【0122】
2−4.制御設定パラメータ補正機能
本実施形態の空気調和機100は、実施の形態1と同様の制御設定パラメータ補正機能を備えてよい。
【0123】
2−5.実施の形態2まとめ
実施の形態2による空気調和機100は、実施の形態1による空気調和機100と同様の特徴を有し、さらに、以下の特徴を有する。
【0124】
本実施形態による空気調和機100は、ヒトの心拍に関連する生体情報を検知し、当該生体情報にもとづいて自機の制御を行う。そのため、REM睡眠において特徴的な所謂「自律神経系の嵐」を精度よく検出することができる。そのため本手法は、体動を検知して睡眠状態を推定する手法に較べ、脳波的睡眠段階との整合において優れている。特に、本手法は、体動を検知して睡眠状態を推定する手法に較べ、REM睡眠の期間が長期化する睡眠後半期での脳波的睡眠段階との整合において優れている。また、一心拍に要する時間は、一呼吸に要する時間よりも短い。そのため、本手法は、呼吸動作にかかる生体信号を検知する手法に較べ、短時間に睡眠状態指標を算出することができる。
【0125】
実施の形態3.(体動の検知に基づく空気調和機制御(その1))
3−1.構成
空気調和機の構成
実施の形態3による空気調和機は、実施の形態1および実施の形態2による空気調和機100とほぼ同様の構成を有する。以下、相違点について詳細に説明する。同様の構成については、説明を省略する。
【0126】
睡眠状態検出装置の構成
実施の形態3による睡眠状態検出装置は、生体信号としてヒトの体動に関連した生体情報を検知する点を除き、実施の形態1および実施の形態2による睡眠状態検出装置5とほぼ同様の構成を有する。なお、本実施形態の睡眠状態検出装置5は、生体信号検知手段52と、睡眠状態指標算出手段53の構成が、実施の形態1および実施の形態2による睡眠状態検出装置5と異なる。
【0127】
・就寝検知手段
本実施形態の就寝検知手段51は、実施の形態1および実施の形態2のそれと同様の構成を有してよい。
【0128】
・生体信号検知手段
本実施形態の生体信号検知手段52a、52bは、赤外画像センサ24(図18、図19)を用いて睡眠状態検出対象であるヒトの体動に関する情報を検知して生体信号として出力することができる。
【0129】
入眠時のヒトの体動は睡眠深度の深化に従って減少する。また、睡眠状態の切替わり時(REM睡眠の前後等)や、温熱快適性が低い場合などに体動の頻度が増大する。よって、ヒトの体動に関する生体信号を利用して睡眠状態指標を算出することができる。
【0130】
就寝時には、一般的に照明は消灯される。だが、赤外画像を撮像すれば、低照度環境においもヒトの体動を検知することができる。
【0131】
図18は、赤外画像を撮像してヒトの体動を検知する生体信号検知手段52aの構成の詳細を示すブロック図である。生体信号検知手段52aは、赤外画像センサ24を備える。人体は、体温に応じて赤外光を放射している。人体の体温は、周囲環境の温度と一般に異なるため、赤外光を捉えることが出来る赤外画像センサ24を用いれば、低照度環境下において体動を捉えることができる。
【0132】
図19は、赤外画像を撮像してヒトの体動を検知する生体信号検知手段の構成の別例(生体信号検知手段52b)を示すブロック図である。本構成では、赤外光を照射する赤外照射手段25が追加されており、赤外画像センサ24として、近赤外光を捉えることが可能な一般的なCCD撮像素子などを使用することができる。
【0133】
本実施形態の生体信号検知手段52a、52bは、赤外画像センサ24が撮像した赤外画像のデータを生体信号として逐次(例えば一定の時間間隔で)、睡眠状態指標算出手段53へ出力する。
【0134】
なお、本実施形態の生体信号検知手段52a、52bは、周囲環境の照度変化を検知することで、就寝検知手段51を兼ねることも可能である。
【0135】
・睡眠状態指標算出手段
図20は、本実施形態の睡眠状態指標算出手段53がする処理のフローチャートである。図20を参照し、本実施形態の睡眠状態指標算出手段53を説明する。
【0136】
睡眠状態指標算出手段53は、生体信号検知手段52から生体信号(赤外画像のデータ)を取得する(ステップS41−a1)。なお、ここでは、最後に取得した赤外画像を赤外画像Xと称し、以前に(例えば、前回に)取得した赤外画像を前回画像Yと称する。
【0137】
睡眠状態指標算出手段53は、赤外画像Xと前回画像Yとの時間差分画像を生成する(ステップS41−a2)。
【0138】
次に、睡眠状態指標算出手段53は、時間差分画像について、画素値(輝度差)が所定の閾値Kよりも大きい画素の数をカウントし、これを体動信号して求める(ステップS41−a3)。
【0139】
体動信号の値は、体動が生じた場合に大きな値になる。よって、体動信号の値が大きければ大きいほどに、交感神経系が優位である確率が高くなると考えられる。そのため、睡眠状態指標算出手段53は、体動信号の逆数や、体動信号よりも十分に大きな定数から体動信号を差し引いた値を、睡眠状態指標として算出する。
【0140】
・指標積算手段
本実施形態の指標積算手段54は、実施の形態1および実施の形態2のそれと同様の構成を有してよい。
【0141】
・睡眠状態情報出力手段
本実施形態の睡眠状態情報出力手段55は、実施の形態1および実施の形態2のそれと同様の構成を有してよい。
【0142】
3−2.動作
本実施形態の空気調和機100の動作は、実施の形態1および実施の形態2のそれと同様でよく、さらに、以下に説明する動作が可能である。図21は、本実施形態の空気調和機100がする温度制御k(k:2、3、・・・、N)の処理の詳細を示すフローチャートである。図21に示した処理フローでは、図13に示した処理に対し、ステップS49およびステップS50の処理が追加されている。
【0143】
温度制御k(k:2、3、・・・、N)は、温度制御1が終了したあと、すなわち、ヒトの睡眠進行度が十分な値に達し、人体からの放熱が十分になされたあとに行う温度制御処理である。
【0144】
本実施形態の空気調和機100は、生体信号から睡眠状態指標を算出し(ステップS42、S43)、算出した睡眠状態指標と所定の下限値(不快判定下限値)とを比較する(ステップS49)。
【0145】
比較の結果、睡眠状態指標が不快判定下限値よりも小さいと判断されると(ステップS49における「小」)、空気調和機100は、不快除去処理を実施する(ステップS50)。なお、体動が生じると睡眠状態指標は低くなる。そこで、空気調和機100は、睡眠状態指標が不快判定下限値を下回ったことを、温熱不快により体動が発生した、と判断し、図22および図23に示す不快除去処理を実施する。
【0146】
図22は、不快除去処理の一例を示すフローチャートである。
【0147】
空気調和機100は、風向きを、ヒトの方向に向けるように、変更する(ステップS51)。そして、空気調和機100は、一定時間(例えば、30秒間)の経過を確認した後(ステップS52)、風向きを、下の方向に戻す(ステップS53)。これにより、1回の不快除去処理は完了する。
【0148】
図23は、不快除去処理の別の一例を示すフローチャートである。
【0149】
空気調和機100は、空調設定温度を、現在の設定値よりも低くし(ステップS54)、急速冷房を行う。そして、空気調和機100は、一定期間の経過を確認した後(ステップS55)、空調設定温度を、下の値に戻す(ステップS56)。これにより、1回の不快除去処理は完了する。
【0150】
なお、不快除去処理(ステップS50)は、ステップS41乃至ステップS49の処理と並列的に行われる。
【0151】
不快除去処理は、上記の他、一定期間にわたり気流の設定をスイング気流にする、といった処理であってもよい。不快除去処理は、温熱不快を除去するための処理であればよい。
【0152】
3−3.睡眠ナビ機能
本実施形態の空気調和機100は、実施の形態1および実施の形態2と同様の睡眠ナビ機能を備えてよく、さらに、体動の回数などを利用者に提示してもよい。
【0153】
3−4.制御設定パラメータ補正機能
本実施形態の空気調和機100は、実施の形態1および実施の形態2と同様の制御設定パラメータ補正機能を備えてよい。
【0154】
3−5.実施の形態3まとめ
実施の形態3による空気調和機100は、実施の形態1および実施の形態2による空気調和機100と同様の特徴を有し、さらに、以下の特徴を有する。
【0155】
本実施形態による空気調和機100は、ヒトの体動に関連する生体情報を検知し、当該生体情報にもとづいて自機の制御を行う。体動は、呼吸や心拍に較べて短時間の現象である。そのため、長期間の生体情報を蓄積する必要がなく、また、睡眠状態指標の算出に要する時間も、呼吸や心拍を用いて睡眠状態指標を算出する場合に較べて、短時間ですむ。
【0156】
また、体動は、温熱不快によりその発生の確率が高まるため、睡眠状態情報を入眠後に温熱快適性が低下した場合等を示す不快レベルの指標として利用し、睡眠状態情報にもとづいて不快除去処理の実施の要否を判断することができる。
【0157】
実施の形態4.(体動の検知に基づく空気調和機制御(その2))
4−1.構成
空気調和機の構成
実施の形態4による空気調和機は、実施の形態3による空気調和機100とほぼ同様の構成を有する。以下、相違点について詳細に説明する。同様の構成については、説明を省略する。
【0158】
睡眠状態検出装置の構成
実施の形態4による睡眠状態検出装置は、実施の形態3による睡眠状態検出装置と同様、生体信号としてヒトの体動に関連した生体情報を検知する。なお、本実施形態の睡眠状態検出装置5は、睡眠状態指標算出手段53の構成が、実施の形態3による睡眠状態検出装置5と異なる。
【0159】
・就寝検知手段
本実施形態の就寝検知手段51は、実施の形態1、2、および、3のそれと同様の構成を有してよい。
【0160】
・生体信号検知手段
本実施形態の生体信号検知手段52は、実施の形態1、2、および、3のそれと同様の構成を有してよい。
【0161】
・睡眠状態指標算出手段
図24は、本実施形態の睡眠状態指標算出手段53がする処理のフローチャートである。以下、図24を参照し、本実施形態の睡眠状態指標算出手段53を説明する。なお、図20と同様の処理内容を有するステップについては、同様の参照数字を付し、その説明を省略する。
【0162】
睡眠状態指標算出手段53は、ステップS41−a1の処理の後、赤外画像Xと前回画像Yとの相関値を導出する(ステップS41−b2)。
【0163】
相関値は、体動が生じた場合に小さな値になる。よって、相関値が大きければ大きいほどに、副交感神経系が優位である確率が高くなると考えられる。そのため、睡眠状態指標算出手段53は、相関値を、睡眠状態指標として算出する。
【0164】
・指標積算手段
本実施形態の指標積算手段54は、実施の形態1、2、および、3のそれと同様の構成を有してよい。
【0165】
・睡眠状態情報出力手段
本実施形態の睡眠状態情報出力手段55は、実施の形態1、2、および、3のそれと同様の構成を有してよい。
【0166】
4−2.動作
本実施形態の空気調和機100の動作は、実施の形態3のそれと同様でよい。
【0167】
4−3.睡眠ナビ機能
本実施形態の空気調和機100は、実施の形態1、2、および、3と同様の睡眠ナビ機能を備えてよい。
【0168】
4−4.制御設定パラメータ補正機能
本実施形態の空気調和機100は、実施の形態1、2、および、3と同様の制御設定パラメータ補正機能を備えてよい。
【0169】
4−5.実施の形態4まとめ
実施の形態4による空気調和機100は、実施の形態3による空気調和機100と同様の特徴を有し、さらに、以下の特徴を有する。
【0170】
本実施形態による空気調和機100は、撮像時刻が異なる複数の赤外画像の相関性にもとづいて睡眠状態情報を算出する。そのため、各赤外画像の画素数が比較的少ない場合であっても、画像間の変化を抽出し、体動の有無を検知することができる。よって、赤外画像の取得や相関値の導出に用いるリソースを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、睡眠状態を精度よく検出することができ、検出結果に基づいて機器の制御を行う睡眠状態検出装置として有用である。当該睡眠状態検出装置は、例えば、空気調和機の制御に利用することも可能である。
【符号の説明】
【0172】
1 ・・・ 制御装置
3 ・・・ 空気調和機アクチュエータ
5 ・・・ 睡眠状態検出装置
21 ・・・ ドップラレーダセンサ
22 ・・・ IQ検波器
23 ・・・ フィルタ
24 ・・・ 赤外画像センサ
25 ・・・ 赤外照射手段
51 ・・・ 就寝検知手段
52 ・・・ 生体信号検知手段
53 ・・・ 睡眠状態指標算出手段
54 ・・・ 指標積算手段
55 ・・・ 睡眠状態情報出力手段
100 ・・・ 空気調和機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
就寝の開始を検知する就寝検知手段、ヒトの生体情報を検知して該生体情報を生体信号として出力する生体信号検知手段、前記生体信号を入力して前記生体情報にもとづいて前記ヒトの睡眠の深さを表す睡眠状態指標を算出する睡眠状態指標算出手段、前記就寝の開始以降の異なる時刻に検知された生体情報にもとづいて算出された複数の前記睡眠状態指標を積算して指標積算値を導出する指標積算手段、および、前記指標積算値にもとづいて前記ヒトの睡眠の進行の度合いを表す睡眠状態情報を出力する睡眠状態情報出力手段、を備える睡眠状態検出装置と、
空気調和機アクチュエータを制御する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記睡眠状態情報を入力して前記ヒトの睡眠の進行の度合いに従って前記空気調和機アクチュエータの制御にかかる制御設定パラメータを変更する、ことを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記睡眠状態情報の表す前記ヒトの睡眠の進行の度合いが、所定の度合いに達すると、前記制御設定パラメータを変更する、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記所定の度合いは、前記ヒトの睡眠が就寝を開始してから初めて深睡眠状態に至ったときに対応する前記ヒトの睡眠の進行の度合いである、請求項2に記載の空地調和機。
【請求項4】
前記所定の度合いは、前記ヒトの睡眠が就寝を開始してから最初の深睡眠状態が終了したときに対応する前記ヒトの睡眠の進行の度合いである、請求項2に記載の空地調和機。
【請求項5】
前記所定の度合いは、前記ヒトの深睡眠状態にある時間の総計時間が所定の値に達したときに対応する前記ヒトの睡眠の進行の度合いである、請求項2に記載の空地調和機。
【請求項6】
前記制御装置は、前記就寝の開始からの経過時間を計時し、前記経過時間が、所定の時間に達すると、前記制御設定パラメータを変更する、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項7】
前記就寝検知手段は、周囲の照度レベルを検知する光検知手段を備え、該光検知手段が検知した周囲の照度レベルにもとづいて前記就寝の開始を検知する、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項8】
前記就寝検知手段の前記光検知手段は、撮像素子である、請求項7に記載の空気調和機。
【請求項9】
前記生体信号検知手段が検知する前記生体情報は、ヒトの呼吸動作に関する生体情報である、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項10】
前記生体信号検知手段が検知する前記生体情報は、ヒトの心拍に関する生体情報である、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項11】
前記生体信号検知手段は、赤外画像を撮像する赤外画像センサを備え、前記赤外画像がセンサが撮像した前記ヒトの赤外画像データを前記生体信号として出力する、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項12】
前記睡眠状態指標算出手段は、異なる時刻に撮像された前記赤外画像データを用いて時間差分画像を生成し、該時間差分画像について画素値が所定の閾値よりも大きい画素の数をカウントし、前記カウント値にもとづいて前記睡眠状態指標を算出する、請求項11に記載の空気調和機。
【請求項13】
前記睡眠状態指標算出手段は、異なる時刻に撮像された前記赤外画像データ間の相関値を導出し、前記相関値にもとづいて前記睡眠状態指標を算出する、請求項11に記載の空気調和機。
【請求項14】
前記指標積算値の時間変化を記憶し、当該時間変化にもとづいて前記制御設定パラメータを補正する、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項15】
前記制御装置は、前記睡眠状態指標および前記指標積算値の少なくともいずれか1つにもとづいて前記ヒトの睡眠の状態を記録し、当該記録を表示手段に表示する、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項16】
前記制御装置は、温度設定の推奨値、風向設定の推奨値、気流設定の推奨値、および、就寝する位置の推奨位置の少なくともいずれか1つを、表示手段に表示する、請求項1に記載の空気調和機。
【請求項17】
就寝検知手段が、就寝の開始を検知するステップと、
生体信号検知手段が、ヒトの生体情報を検知して該生体情報を生体信号として出力するステップと、
睡眠状態指標算出手段が、前記生体信号を入力して前記生体情報にもとづいて前記ヒトの睡眠の深さを表す睡眠状態指標を算出するステップと、
指標積算手段が、前記就寝の開始以降の異なる時刻に検知された生体情報にもとづいて算出された複数の前記睡眠状態指標を積算して指標積算値を導出するステップと、
睡眠状態情報出力手段が、前記指標積算値にもとづいて前記ヒトの睡眠の進行の度合いを表す睡眠状態情報を出力するステップと、
空気調和機アクチュエータを制御する制御装置が、前記睡眠状態情報を入力して前記ヒトの睡眠の進行の度合いに従って前記空気調和機アクチュエータの制御にかかる制御設定パラメータを変更するステップと、を有することを特徴とする空気調和機の制御方法。
【請求項18】
ヒトの生体情報を検知して該生体情報を生体信号として出力する生体信号検知手段と、
前記生体信号を入力して前記生体情報にもとづいて前記ヒトの睡眠の深さを表す睡眠状態指標を算出する睡眠状態指標算出手段と、
異なる時刻に検知された生体情報にもとづいて算出された複数の前記睡眠状態指標を積算して指標積算値を導出する指標積算手段と、
前記指標積算値にもとづいて前記ヒトの睡眠の進行の度合いを表す睡眠状態情報を出力する睡眠状態情報出力手段と、を有する睡眠状態検出装置。
【請求項19】
さらに、就寝の開始を検知する就寝検知手段を備え、
前記指標積算手段は、前記就寝の開始の時点以降に検知された生体情報にもとづいて算出された複数の前記睡眠状態指標を積算して前記指標積算値を導出する、請求項18に記載の睡眠状態検出装置。
【請求項20】
生体信号検知手段が、ヒトの生体情報を検知して該生体情報を生体信号として出力するステップと、
睡眠状態指標算出手段が、前記生体信号を入力して前記生体情報にもとづいて前記ヒトの睡眠の深さを表す睡眠状態指標を算出するステップと、
指標積算手段が、異なる時刻に検知された生体情報にもとづいて算出された複数の前記睡眠状態指標を積算して指標積算値を導出するステップと、
睡眠状態情報出力手段が、前記指標積算値にもとづいて前記ヒトの睡眠の進行の度合いを表す睡眠状態情報を出力するステップと、を有する睡眠状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−202659(P2012−202659A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69848(P2011−69848)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】