説明

瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体及びその製造方法

【課題】吸水能力の瞬発性が高く、乾燥剤の溶出がなく、衛生的な問題がなく、吸水能力の寿命が長い瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】吸水性の酸化カルシウムとモレキュラシーブとを、ベースとなる合成樹脂成形材料に混合分散して一次混合成形材料を作製し、この一次混合成形材料に、さらに、瞬発吸水性の高分子吸水体を混合分散して二次混合成形材料を作製し、この二次混合成形材料を用いて射出成形法により成形し、この成形体10の合成樹脂ベース11中に、モレキュラシーブ12と酸化カルシウム13と高分子吸水体14とを混合分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い乾燥環境を必要とする内容物を収納する容器内に在中させて乾燥剤として使用する又は部材として使用する瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血糖値などのセンサー、尿蛋白検出などの検査紙、サブリメント、電子部品、有機エレクトロルミネッセンス素子などの高い乾燥環境を必要とする内容物を収納する容器内に、乾燥剤をベースとなる合成樹脂に混合分散させた成形材料を射出成形した乾燥剤含有樹脂成形体を在中させていた。例えば、ベース樹脂としてポリオレフィンを使用し、このポリオレフィン中に、乾燥剤として主体のモレキュラシーブとグリコールを混合分散させ、グリコールの吸水により低密度ポリエチレンの合成樹脂ベースに微細なクラックを発生させて、瞬発性を持たせた乾燥剤含有樹脂成形体が知られていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の従来の乾燥剤含有樹脂成形体は、グリコールを使用しているので、水分の吸収率が高くなって来ると、表面にグリコールが溶出し、グリコールの膜が表面に出来て来るため、容器に収納している内容物に悪影響をもたらす危惧があった。そして、グリコールの膜が出来始めると、急速に吸水能力が低下してしまう。また、グリコールが内容物や指に付着してしまう。そのうえ、乾燥剤の主体がモレキュラシーブであるため、吸水効果の消失が早く、トータルとしての吸水量が低かった。
【0004】
本発明は、上述の従来の乾燥剤含有樹脂成形体の問題点を解決したものであり、吸水能力の瞬発性が高く、乾燥剤の溶出がなく、衛生的な問題がなく、吸水能力の寿命が長い瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の第1の発明は、合成樹脂ベース中に、モレキュラシーブと酸化カルシウムと高分子吸水体とが混合分散していることを特徴とする瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体である。
【0006】
次に、本発明の第2の発明は、吸水性の酸化カルシウムとモレキュラシーブとを、ベースとなる合成樹脂成形材料に混合分散して一次混合成形材料を作製し、この一次混合成形材料に、さらに、瞬発吸水性の高分子吸水体を混合分散して二次混合成形材料を作製し、この二次混合成形材料を用いて射出成形法により成形したことを特徴とする瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体の製造方法である。
【0007】
そして、本発明の第3の発明は、一次混合成形材料の配合において、モレキュラシーブを25〜35重量%、酸化カルシウムを25〜33重量%、合成樹脂成形材料を40重量%以上にし、かつ、二次混合成形材料の配合において、一次混合成形材料に混合分散する高分子吸水体を5重量%以下にすることを特徴とする第2の発明に記載の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体は、図1に示すように、合成樹脂ベース(11)中に、モレキュラシーブ(12)と酸化カルシウム(13)と高分子吸水体(14)とが
混合分散している。この瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体を容器内に在中させると、容器内の高湿度環境下で吸水が開始するが、この吸水第一段階においては、図2(a)に示すように、表面に近い高分子吸水体が先ず吸水を開始する(図の符号14wが、吸水した高分子吸水体を示す)。次に、中湿度環境下の吸水第二段階においては、図2(b)に示すように、表面に近い酸化カルシウムも吸水を開始する(図の符号13wが、吸水した酸化カルシウムを示す)。そして、定湿度環境下の吸水第三段階においては、図2(c)に示すように、モレキュラシーブも吸水を開始し(図の符号12wが、吸水したモレキュラシーブを示す)、更に、吸水して膨張した高分子吸水体及び酸化カルシウムの周りの合成樹脂ベースに微細なクラック(11c)が発生して、内側のモレキュラシーブ、酸化カルシウム及びモレキュラシーブも吸水するようになる。この結果、本発明の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体は、吸水能力の瞬発性が高く、しかも、吸水能力の寿命が長い。
【0009】
また、本発明の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体は、従来の乾燥剤含有樹脂成形体のように乾燥剤としてグリコール系の成分を使用していないため、乾燥剤の溶出がなく、衛生的な問題がない。
【0010】
また、本発明の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体においては、混合分散する高分子吸水体が、酸化カルシウムの吸水膨張による合成樹脂ベースの強度劣化を緩和させ、また、酸化カルシウムの吸水による水酸化カルシウムの微量異物の発生を防止している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体の一実施形態について、図及び表を用いて詳細に説明する。
【0012】
本実施形態の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体(10)は、図1に示すように、合成樹脂ベース(11)中に、乾燥剤としてモレキュラシーブ(12)と酸化カルシウム(13)と高分子吸水体(14)とを混合分散したものである。使用するモレキュラシーブは、10〜30μmの粉体で、30重量%まで水分を吸収し、瞬発性に優れるものである。ゼオライトの一種で、3Aと言われる水の分子だけを吸収するタイプのものを使用する。酸化カルシウムは、10〜300μmの粉体で、30重量%まで水分を吸収し、体積が膨張するものである。高分子吸水体は、アクリル酸ナトリウムにアクリロニトリルを加えアルカリ加水分解させた三次元構造を持つ吸水体であり、10〜50μmの粉体で、400重量%まで水分を吸収し、高湿度環境下で瞬時に水分を吸収し、水分を吸収したときの量と膨張率が大きい。ベースの合成樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を使用するが、乾燥剤の酸化カルシウムや高分子吸水体は吸水すると膨張するため、適度の柔軟性を有することが望ましい。このため、必要に応じては、柔軟性を付与するために、エチレンプロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレン三次元共重合体(EPDM)をベースの合成樹脂に混合してもよい。また、ベースの合成樹脂として、柔軟性のあるスチレン系エラストマーやポリエチレンテレフタレート系エラストマーを用いてもよい。
【0013】
本実施形態の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体の製造方法は、吸水性のモレキュラシーブと酸化カルシウムとを、ベースとなる合成樹脂成形材料に混合分散して一次混合成形材料を作製し、この一次混合成形材料に、さらに、瞬発吸水性の高分子吸水体を混合分散して二次混合成形材料を作製し、この二次混合成形材料を用いて射出成形法により成形するものである。これら一次及び二次混合成形材料の組成配合を定めるために、次の様な各種配合評価を行った。
(一次混合成形材料の配合評価)
ベース合成樹脂とモレキュラシーブと酸化カルシウムの配合比率を変えた6種類の一次混合成形材料を作製し、これら一次混合成形材料を用いて、射出成形法により6種類の図
3に示すセンサー容器(20)の内容器(200)を作製し、これら内容器を40℃で90%RHの環境下で26時間保管したのち、それぞれの内容器の吸水量(初期吸水量)を測定した。その結果を表1に示す。なお、ベース合成樹脂は、低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとを1対1の比率で混合したものである。また、内容器(200)は、図3に示すように、周壁(201)と底板(204)とからなる外観円柱状の容器である。周壁の上端外周に、容器本体(110)の係止突条(114)で係止される挿着リング(203)を設け、挿着リングの下方の周壁外周面は、周方向へ連続する三角形状であり容器本体(110)の周壁(111)内周面との間に隙間(202)を形成し、そして、底板(204)の下面に、図3及び図4に示すように、容器本体(110)の底板(115)上面に当接する4個の当接リブ(205)を中心から放射状に等間隔で設けるものである。
【0014】
【表1】

表1に示すように、乾燥剤のモレキュラシーブが30重量%で酸化カルシウムが30重量%の配合のところに、初期吸水量のピークがあり、モレキュラシーブが25〜35重量%で酸化カルシウムが25〜33重量%の配合のところが、初期吸水量が大きいことが判明した。これは、酸化カルシウムの吸水による膨張により周辺のベース樹脂に微細なクラックが入って瞬発性が向上する効果と、瞬発性能力の大きいモレキュラシーブが多いことによる瞬発性が向上する効果の相乗効果である。なお、射出成形性の問題から、ベース樹脂は40重量%以上必要であることが判明した。
(二次混合成形材料の配合評価)
ベース合成樹脂とモレキュラシーブと酸化カルシウムを混合した一次混合成形材料に、アクリル酸系の高分子吸水体を配合比率を変えて混合して、4種類の二次混合成形材料を作製した。そして、これら二次混合成形材料を用いて、射出成形法により6種類の図3に示すセンサー容器(20)の内容器(200)を作製し、これら内容器を40℃で90%RHの環境下で26時間保管したのち、それぞれの内容器の吸水量(初期吸水量)を測定した。その結果を表2に示す。なお、ベース合成樹脂は、一次混合成形材料と同様に、低密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとを1対1の比率で混合したものである。また、内容器の仕様も一次混合成形材料と同様である。
【0015】
【表2】

表2に示すように、高分子吸水体の含有量に応じて、初期吸水量が増加する。しかしながら、高分子吸水体の含有量が7重量%になると、合成樹脂ベースに形状を損なうクラックが発生してしまうため、形状保持性の面から高分子吸水体の配合比率は、5重量%以下が望ましいことが判明した。
(各種内容器による容器内湿度評価)
次に、一次混合成形材料と二次混合成形材料を用いて、射出成形法により各2種類ずつ4種類の図3に示す内容器(200)を作製し、また、別途に、ポリプロピレンを用いて、射出成形法により図3に示す外容器(100)を作製し、4種類の内容器をそれぞれ外容器の容器本体(110)内に挿着して図3に示すセンサー容器(20)を4種類作製した。これら4種類のセンサー容器の内容器内に、それぞれ湿度検出センサーを挿入して蓋部を閉じて密封し、30℃で80%RHの環境下で保管し、容器内の湿度が10%RHになるまでの経過時間を測定した。その結果を表3及び表4に示す。なお、外容器は、図3に示すように、容器本体(110)の上端開口部に蓋部(120)が後方のヒンジ(201)を介して開閉可能に接続する外観円柱状の容器であり、容器本体は、周壁(111)と底板(115)とからなり、周壁の上端外周面に蓋部(120)との咬合リング(112)を設け、上方外周面に蓋部受けリング(113)を設け、上方内周面に周方向に内容器(200)を係止する複数の係止突条(114)を設け、蓋部(120)は、天板(121)と周壁(123)とからなり、天板下面に、容器本体を封止するインナーリング(122)(外周面を容器本体の周壁上端部内周面に密接)を垂設し、周壁の前方下端に開
閉用つまみ(125)を突設し、周壁の下端内周面に容器本体との咬合リング(124)を設けるものである。
【0016】
【表3】

一次混合成形材料により作製した2種類の内容器を、それぞれ外容器の容器本体内に挿着した2種類のセンサー容器の容器内湿度の10%RHになるまでの経過時間は、表3に示すように、モレキュラシーブが30重量%、酸化カルシウムが30重量%、ベース樹脂が40重量%の配合aの内容器の場合には、経過時間が6時間であり、モレキュラシーブが20重量%、酸化カルシウムが36重量%、ベース樹脂が44重量%の配合cの内容器の場合には、経過時間が7時間であった。
【0017】
【表4】

二次混合成形材料により作製した2種類の内容器を、それぞれ外容器の容器本体内に挿着した2種類のセンサー容器の容器内湿度の10%RHになるまでの経過時間は、表4に示すように、モレキュラシーブが36重量%、酸化カルシウムが20重量%、ベース樹脂が44重量%の一次混合成形材料にアクリル酸系の高分子吸水体を3重量%混合した配合hの内容器の場合には、経過時間が5時間であり、モレキュラシーブが20重量%、酸化カルシウムが36重量%、ベース樹脂が44重量%の一次混合成形材料にアクリル酸系の高分子吸水体を5重量%混合した配合iの内容器の場合には、経過時間が4時間であった。一次混合成形材料で作製した内容器の場合より二次混合成形材料で作製した内容器の場合の方が瞬発吸水性が大きかった。
【0018】
上述した一次混合成形材料の配合評価、二次混合成形材料の配合評価、各種内容器による容器内湿度評価の結果から、一次混合成形材料の配合を、モレキュラシーブを25〜35重量%、酸化カルシウムを25〜33重量%、合成樹脂成形材料を40重量%以上とし、一次混合成形材料へ混合分散する高分子吸水体を5重量%以下にして、二次混合成形材料を作製することにした。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体の合成樹脂ベース中に混合分散するモレキュラシーブ、酸化カルシウム及び高分子吸水体の吸水前の状態を示す説明図である。
【図2】図1に示す瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体の合成樹脂ベース中に混合分散するモレキュラシーブ、酸化カルシウム及び高分子吸水体の吸水前の状態を示す説明図であり、(a)は、吸水第1段階の状態であり、(b)は、吸水第2段階の状態であり、(c)は、吸水第3段階の状態である。
【図3】容器本体内に瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体からなる内容器を挿着する評価に使用した容器の断面図である。
【図4】図3の容器の内容器の底面図である。
【符号の説明】
【0020】
10……成形体
11……合成樹脂ベース
11c……クラック
12……モレキュラシーブ
12w……吸水したモレキュラシーブ
13……酸化カルシウム
13w……吸水した酸化カルシウム
14……高分子吸水体
14w……吸水した高分子吸水体
20……容器
100……外容器
101……ヒンジ
110……容器本体
111,123,201……周壁
112,124……咬合リング
113……蓋部受けリング
114……係止突条
115,204……底板
120……蓋部
121……天板
122……インナーリング
125……開閉用つまみ
200……内容器
202……隙間
203……挿着リング
205……当接リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂ベース中に、モレキュラシーブと酸化カルシウムと高分子吸水体とが混合分散していることを特徴とする瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体。
【請求項2】
吸水性の酸化カルシウムとモレキュラシーブとを、ベースとなる合成樹脂成形材料に混合分散して一次混合成形材料を作製し、この一次混合成形材料に、さらに、瞬発吸水性の高分子吸水体を混合分散して二次混合成形材料を作製し、この二次混合成形材料を用いて射出成形法により成形したことを特徴とする瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
一次混合成形材料の配合において、モレキュラシーブを25〜35重量%、酸化カルシウムを25〜33重量%、合成樹脂成形材料を40重量%以上にし、かつ、二次混合成形材料の配合において、一次混合成形材料に混合分散する高分子吸水体を5重量%以下にすることを特徴とする請求項2記載の瞬発性乾燥剤含有樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−99886(P2007−99886A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290886(P2005−290886)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】