説明

短パルスレーザ加工方法および装置

【課題】薄板状の被加工物を短パルスレーザ光の照射によって加工するレーザ加工において、被加工部位での温度上昇を確実に抑えて、加工の効率と精度の高い理想的な非熱加工を可能にする。
【解決手段】薄板状の被加工物10を短パルスレーザ光の照射によって加工する際に、レーザ照射側面の背面を液体40からなる衝撃吸収体に密着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板状の被加工物を短時間幅のレーザ光照射で非熱加工する短パルスレーザ加工する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
短パルスレーザ加工は、たとえば露光用マスクやインクジェットヘッドのノズル孔などを精密加工するのに利用されている。
【0003】
図3は、従来の短パルスレーザ加工装置の概略構成例を示す。同図に示す装置は、短パルスレーザ光Lpを出力するレーザ装置20、このレーザ装置20から出力された短パルスレーザ光Lpを被加工物10に集束させる光学系22、XYテーブル等の可動ステージ30、および可動ステージ30上で被加工物10を所定の加工位置に保持する治具35などによって構成される(特許文献1参照)。
【0004】
レーザ装置20からは短時間幅で高出力の短パルスレーザ光Lpが間けつ的(あるいは周期的)に出力される。この短パルスレーザ光Lpを光学系22で点状に集束して被、被加工部位に照射することにより、その照射個所が瞬間的かつ局所的にプラズマ化されて穿孔あるいは切削などの加工が行われる。
【0005】
この加工を、レーザ光Lpの照射位置と被加工物10の被、レーザ光Lpと被加工物10を相対移動させながら行うことにより、被加工物10に所定パターンの切断あるいは穴開け加工を施すことができる。これにより、たとえば露光用マスクやインクジェットヘッド等のノズル孔を高精度に形成することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−19587
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の短パルスレーザ加工技術には、次のような問題のあることが本発明者等により明らかとされた。すなわち、上述した短パルスレーザ加工では、被加工物10に高出力のレーザ光Lpを瞬間的に照射した際に、その被加工物10内で超音波の衝撃波が生じる。
【0008】
この衝撃波は、レーザ光の瞬間的な照射によって被、被加工部位にプラズムが発生したときの反跳によって生じると考えられるが、この衝撃波が被、被加工部位の温度を上昇させて加工の効率や精度を悪化させる原因になることが判明した。
【0009】
短パルスレーザ加工では、高出力レーザ光の瞬間的かつ局所的な照射により、被加工物10を加熱せずに穿孔や切削などの加工を行う、いわゆる非熱加工によって高効率かつ高精度の加工が可能であるが、その瞬間的なレーザ光照射にともなって発生する超音波振動が、熱エネルギーとなって被、被加工部位の温度を上昇させてしまうため、理想的な非熱加工が行われないという問題が生じる。
【0010】
被、被加工部位の温度が上昇すると、レーザ光Lpの注入光路にて屈折率に揺らぎが生じて正確な集光ができなくなってしまう。また、被、被加工部位の温度が加工材料の溶融温度近くまで上昇すると、光反射率が増えてレーザ光の照射効率(注入効率)が低下してしまうという問題も生じる。
【0011】
上述した問題はとくに、短パルスレーザ光Lpのパルス幅を短くするほど、また被加工物10の板厚が薄くなるほど顕著化する。とくに、パルス幅が200ps以下の短パルスレーザによる加工、板厚が1mm以下の被加工物では、短パルスレーザ光の照射にともなって発生する衝撃波を原因とする温度上昇が、非熱加工による高効率かつ高精度の加工を妨げる大きな原因となることが判明した。
【0012】
本発明は以上のような問題を鑑みたものであって、その目的は、薄板状の被加工物を短パルスレーザ光の照射によって加工するレーザ加工において、被加工部位での温度上昇を確実に抑えて、加工の効率および精度が高い理想的な非熱加工を実現させることにある。
【0013】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は次のような解決手段を提供する。
(1)薄板状の被加工物を短パルスレーザ光の照射によって加工するレーザ加工方法であって、レーザ照射側面の背面を衝撃吸収体に密着させた状態で加工を行うことを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【0015】
(2)上記手段(1)において、衝撃吸収体が液体であって、この液体の液面を被加工物に接触させることを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【0016】
(3)上記手段(1)または(2)において、衝撃吸収体として水を用いることを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【0017】
(4)上記手段(1)〜(3)のいずれかにおいて、短パルスレーザ光のパルス幅が200ps以下であることを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【0018】
(5)上記手段(1)〜(4)のいずれかにおいて、被加工物の板厚が1mm以下であることを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【0019】
(6)薄板状の被加工物を短パルスレーザ光の照射によって加工するレーザ加工装置であって、被加工物を所定位置に保持するための治具が液体容器を形成し、この容器内の液体液面がレーザ照射側面の背面に接触するようにしたことを特徴とする短パルスレーザ加工装置。
【発明の効果】
【0020】
薄板状の被加工物を短パルスレーザ光の照射によって加工するレーザ加工において、被加工部位での温度上昇を確実に抑えて、加工の効率と精度の高い理想的な非熱加工が実現される。
【0021】
上記以外の作用/効果については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明に係るレーザ加工技術を実施する装置の概略構成を示す。同図に示す装置は、基本的には従来と同様、短パルスレーザ光Lpを出力するレーザ装置20、このレーザ装置20から出力される短パルスレーザ光Lpを被加工物10に集束させる光学系22、XYテーブル等の可動ステージ30、および可動ステージ30上で被加工物10を所定位置に保持するための治具33などによって構成される。
【0023】
本発明では、上記構成において、被加工物10を所定位置に保持するための治具33が液体容器を形成し、この容器内に保持した液体40の液面がレーザ照射側面の背面(被加工物の裏面)に接触するようになっている。
【0024】
治具33は、底部31と側方部32とからなる扁平な開放容器(トレー)であって、液体容器の縁をなす側方部32の上端面に薄板状の被加工物10の周辺部を載置することにより、被加工物10は所定の高さ位置に位置決めされるとともに、背面が液体40に面状に接触させられるようになっている。液体40としては水(純水)が使用されている。
【0025】
上記装置では、レーザ装置20からは短時間幅で高出力の短パルスレーザ光Lpが間けつ的(周期的)に出力される。この実施例で使用したレーザ装置20は、波長1560nm、パルス幅が1000フェムト秒(1ps)、発振周波数200KHz、平均出力200mWの短パルスレーザ光Lpを出力するように構成されている。
【0026】
図2は短パルスレーザ光Lpの出力波形(タイミングチャート)を例示する。同図において、Tは発振周期、Pwはパルス幅をそれそれ示す。パルス幅Pwは、非熱加工の依存度を高めるために200ps以下が望ましい。
【0027】
この短パルスレーザ光Lpを光学系22で点状に集束して照射することにより、その照射個所が瞬間的かつ局所的にプラズマ化されて穿孔あるいは切削などの加工が行われる。
【0028】
この加工を、レーザ光Lpと被加工物10を相対移動させながら行うことにより、被加工物10に所定パターンの切断あるいは穴開け加工を施すことができる。
【0029】
これにより、たとえば露光用マスクやインクジェットヘッド等のノズル孔を高精度に形成することができるのであるが、上記加工に際しては、短パルスレーザ光Lpが照射される被加工部位にてプラズマが発生するが、このプラズマの反跳によって超音波の衝撃波が発生する。
【0030】
しかし、その衝撃波は、被加工物10内に定在することなく、被加工物10の背面に密着している液体40に伝播して吸収される。これにより、衝撃波による被加工部位の温度上昇が確実に抑制されて、加工の効率と精度の高い理想的な非熱加工が行われるようになる。
【0031】
上記のように、本発明では、被加工物10を衝撃吸収体に密着させた状態で加工を行うことにより、被加工部位の温度上昇を抑えて、精度の高い理想的な非熱加工を行わせることができる。
【0032】
衝撃吸収体としては、被加工物との間に理想的な密着状態を確実かつ安定に形成することができる液体40がとくに好適である。この液体40として水とくに純水を用いると、加工後における被加工物10の洗浄を不要にできるといった利点が得られる。
【0033】
本発明による短パルスレーザ加工では、非熱加工を行わせるために、短パルスレーザ光Lpのパルス幅を短くした方がよい。良好な非熱加工条件を得るためには、パルス幅が200ps以下の短パルスレーザ光が望ましい。パルス幅を短くするほど、加工時の照射エネルギー(ピーク出力)を大きくして被加工部位のプラズマ化による加工効率および加工精度を高めることができる。
【0034】
短パルスレーザ光のパルス幅を短くすると、その短パルスレーザ光Lpを照射したときに超音波の衝撃波が発生しやすくなるが、この衝撃波は、被加工物に密着状態で接触している液体の衝撃吸収体により、被加工物10内に定在波として止まることなく、ただちにその吸収体に伝播して吸収される。
【0035】
また、超音波衝撃波による加工部位の温度上昇は、被加工物10の板厚が薄い場合、とくに、被加工物の板厚が1mm以下の場合に顕著となるが、この場合も、被加工物10を液体の衝撃吸収体に密着させた状態で加工を行うことにより、被加工部位での温度上昇を非常に効果的に低減あるいは解消させることができる。
【0036】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様が可能である。
たとえば、衝撃吸収体として用いる液体40は、被加工物10との密着状態を非常に確実かつ安定に形成することができるが、この液体40には水以外の液体、たとえばアルコールや油脂などであってもよい。
【0037】
衝撃吸収体をなす液体40は、たとえば水を過分に含んだゲル状であってもよい。また、粘性を有する流動体は好適な衝撃吸収体として使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
薄板状の被加工物を短パルスレーザ光の照射によって加工するレーザ加工において、被加工部位での温度上昇を確実に抑えて、加工の効率と精度の高い理想的な非熱加工が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による短パルスレーザ加工装置の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】短パルスレーザ光の出力波形を例示する図である。
【図3】従来の短パルスレーザ加工装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
Lp 短パルスレーザ光、
Pw レーザ光のパルス幅、
10 被加工物、
20 レーザ装置、
22 光学系、
30 可動ステージ、
31 底部、
32 側方部、
33 治具、
40 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の被加工物を短パルスレーザ光の照射によって加工するレーザ加工方法であって、レーザ照射側面の背面を衝撃吸収体に密着させた状態で加工を行うことを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【請求項2】
請求項1において、衝撃吸収体が液体であって、この液体の液面を被加工物に接触させることを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【請求項3】
請求項1または2において、衝撃吸収体として水を用いることを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、短パルスレーザ光のパルス幅が200ps以下であることを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、被加工物の板厚が1mm以下であることを特徴とする短パルスレーザ加工方法。
【請求項6】
薄板状の被加工物を短パルスレーザ光の照射によって加工するレーザ加工装置であって、被加工物を所定位置に保持するための治具が液体容器を形成し、この容器内の液体液面がレーザ照射側面の背面に接触するようにしたことを特徴とする短パルスレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−296534(P2007−296534A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124346(P2006−124346)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】