説明

短繊維不織布およびその製造方法

【課題】耐摩耗性、反発感、強力、平滑性を有し、特に皮革様シート状物、研磨布、ワイパー、フィルター用途等の基布に適した短繊維不織布ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維長が1〜100mmの短繊維を含む不織布Aに高速流体処理を行い、その後乾熱温度170〜200℃および/または湿熱温度110〜150℃にてタテ方向に1.04〜1.20倍の倍率で伸長処理を行うことを特徴とする、短繊維不織布の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、反発感、強力、平滑性に優れた短繊維不織布ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
短繊維不織布と高分子弾性体からなる皮革様シート状物は、天然皮革に似たタッチを有しており、イージーケア性のような天然皮革にない優れた特徴を併せ持つことから、種々の用途に広く使用されている。
【0003】
かかる皮革様シート状物を製造するにあたっては、不織布・ウェブなどの繊維シート状物にポリウレタン等の高分子弾性体溶液を含浸せしめた後、その繊維シート状物を水または有機溶剤水溶液中に浸漬して高分子弾性体を湿式凝固せしめる方法が一般的に採用されている。
【0004】
しかし、強度、寸法安定性等を得るために多量の高分子弾性体が使用されるため、高分子弾性体の原料コストや製造プロセスの煩雑化等によって、皮革様シート状物は高価なものになっている。
【0005】
従って、ポリウレタン等の高分子弾性体を低減させた、若しくは実質的に含まない皮革様シート状物が望まれている。しかし、ポリウレタン等の高分子弾性体を低減、または無くすと、皮革様シート状物の物性、特に引張強力、引き裂き強力、耐摩耗性などの物性が低下することが問題となる。また、ポリウレタン等の高分子弾性体を低減、または無くすと、皮革様シート状物に必要な反発感が失われてしまう。
【0006】
かかる課題に対し、極細短繊維を用いた複数の抄造ウェブの層間に通気度が大きい
布帛を挿入した構造物を交絡一体化する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。この方法では、織物が積層されているため、皮革様シート状物として必要な引張強力、引き裂き強力を持つ不織布基材を製造することができる。しかし、極細繊維を固定するバインダーとしての高分子弾性体が含まれていないため、このような製品の表面を摩擦した際の耐摩耗性、および反発感が不十分だった。
【0007】
短繊維不織布の耐摩耗性を改善する技術としては、不織布の面積を収縮させ繊維をたるませた状態で固定するという技術が開示されている(例えば、特許文献2)。しかし、該技術は、たるませた繊維を固定するためにポリウレタンなどの高分子弾性体が必要であり、ポリウレタンなどの高分子弾性体を低減させた、若しくは実質的に含まない皮革様シート状物に適用することはできない。
【0008】
一方、短繊維不織布をタテ方向および/またはヨコ方向に伸長するという技術自体は以前から知られているが(例えば、特許文献3〜5)、しかしこれらはいずれも、本発明の目的と効果を達成するものではなかった。
【特許文献1】特開平7−109654号公報
【特許文献2】特表平8−507109号公報
【特許文献3】特開昭62−141164号公報
【特許文献4】特開平10−168763号公報
【特許文献5】特開2002−172724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐摩耗性、反発感、強力、平滑性を有し、特に皮革様シート状物、研磨布、ワイパー、フィルター用途等の基布に適した短繊維不織布ならびにその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため主として以下の構成を有する。すなわち、本発明の短繊維不織布は、繊維長が1〜100mmの短繊維を含み、引張強力が70N/cm以上、引き裂き強力が3〜50N、耐摩耗性が3〜5級、少なくともタテヨコいずれか一方の剛軟度が2.8〜4.0mN・cm、タテヨコいずれの剛軟度とも4.0mN・cm以下であり、実質的に非弾性ポリマーの繊維素材のみからなることを特徴とする短繊維不織布である。
【0011】
また本発明の短繊維不織布の製造方法は、目付が120〜550g/mの短繊維不織布の製造方法であって、繊維長が1〜100mmの短繊維を含む不織布Aに高速流体処理を行い、その後乾熱温度170〜200℃および/または湿熱温度110〜150℃にて処理前の長さに対しタテ方向に1.04〜1.20倍の倍率で伸長処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐摩耗性、反発感、強度、平滑性を有し、特に皮革様シート状物、研磨布、ワイパー、フィルター用途等の基布に適した短繊維不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の短繊維不織布は、繊維長が1〜100mmの短繊維を含んでなるものである。より好ましくは、繊維長は1〜70mmである。繊維長が100mm以上の短繊維が主であると、風合いが堅くなり皮革様シート状物として適さない他、生産性も悪くなる。ただし、100mmを越える繊維長のものも、本発明の効果を損なわない程度であれば含まれていても良い。また、繊維長が1mm未満の短繊維があると脱落が多くなり、強度や耐摩耗性等の特性が低下する傾向があるため、繊維長は1mm以上とすることが好ましい。

上述の繊維長の短繊維を得る方法として好ましく採用されるのは、直接または複合繊維として得た未延伸糸を延伸した後に、ロータリーカッターやギロチンカッターでカットする方法である。生産性や得られるものの風合いを考慮して100mm以下にカットする。好ましくは70mm以下である。そして、本発明の極細短繊維不織布において、これらの短繊維は充実感や強度の点から絡合していることが好ましい。なお、本発明の極細短繊維不織布は、これから得られる皮革様シート状物における強度等の物性、品位等を考慮すると、各短繊維の繊維長が均一でない方が好ましい。すなわち1〜100mmの繊維長の範囲内において、短い繊維と長い繊維が混在することが好ましい。例えば1〜10mm、好ましくは1〜5mmの短い繊維と、10〜100mm、好ましくは20〜70mmの長い繊維が混在する不織布を例示することができる。このような不織布においては、例えば短い繊維長の繊維が表面品位の向上や緻密化等のために寄与し、長い繊維長の繊維が高い物性を得ることに寄与する等の役割を担う。
【0014】
このように繊維長の異なる繊維を混合させる方法は特に限定されず、後述する海島型繊維において、島繊維長が異なる海島型複合繊維を使用する方法、種々の繊維長を有する短繊維を混合する方法、不織布としてから繊維長に変化を与える方法、等が挙げられる。本発明においては、特に容易に繊維長が混合された不織布を得ることができる点、後述する2種の絡合手段に適した繊維長をそれぞれの段階で発生させることが出来るという点で、不織布としてから繊維長に変化を与える方法が好ましく採用される。例えば、不織布の厚み方向に対して垂直に2枚以上にスプリットする方法(スプリット処理)によって、スプリット処理前には単一繊維長であっても、スプリット処理後には種々の繊維長からなる不織布を容易に製造することができる。ここでいうスプリット処理とは、一般の天然皮革の処理方法のおける分割工程に類似した処理であり、例えば室田製作所(株)の漉割機等によって行うものである。
【0015】
本発明の短繊維不織布を製造する方法として好ましく採用されるのは、ニードルパンチ法と高速流体処理を組み合わせる方法であるが、ニードルパンチを行う時点では繊維長が10〜100mm、好ましくは30〜70mmの繊維長である不織布とし、次いで厚み方向に垂直に2枚以上にスプリット処理することで、短い繊維を発生させ、高速流体処理を行うことで、物性に優れ、緻密な表面感を有する短繊維不織布を得ることができる。
また、本発明の短繊維不織布は、タテおよびヨコ方向のいずれの引張強力も70N/cm以上である。タテおよびヨコ方向のいずれの引張強力も80N/cm以上であることがより好ましい。タテまたはヨコ方向いずれかの引張強力が70N/cm未満であると、例えば皮革様シート状物の基布とする場合、後の工程における工程通過性が悪くなり、破れや寸法変化等が発生する傾向があるため好ましくない。なお、上限は特に限定されるものではないが、通常200N/cm以下となる。引張強力はJIS L 1096 8.12.1(1999)により、幅5cm、長さ20cmのサンプルを採取し、つかみ間隔10cmで定速伸長型引張試験器にて、引張速度10cm/分にて伸長させて求めた。得られた値から幅1cm当たりの荷重を引張強力(単位;N/cm)とした。これらの強度を得るためには、短繊維不織布の目付、繊維見かけ密度を後述の好ましい値に調整し、また不織布に含まれる短繊維の繊維長や短繊維繊度を好ましい値に調整することで達成できる。また、必要に応じて織物や編み物を積層することもできる。また、用いる繊維の強力が2cN/デシテックス以上であることが不織布強力の点で好ましい。
本発明の短繊維不織布の繊維見掛け密度は0.29〜0.7g/cm3であることが好ましい。繊維見掛け密度は、0.3〜0.6g/cm3であることがより好ましく、0.33〜0.5g/cm3であることがさらに好ましい。繊維見かけ密度が上述の範囲にある時、適度な引張強力、剛軟度、反発感、引き裂き強力、耐摩耗性を有する本発明の短繊維不織布となる。
また、本発明の短繊維不織布は、目付が120〜550g/mであることが好ましい。120〜450g/mであることがより好ましく、140〜350g/mであることがさらに好ましい。目付が上述の範囲にある時、適度な引張強力、引き裂き強力、耐摩耗性を有する、本発明の短繊維不織布となる。
本発明の短繊維不織布の繊維見かけ密度、目付を上述の好ましい値に調整するには、原綿を不織布にする際に、用いる原綿の量を調節すること、またニードルパンチや高速流体処理の条件を変更すること、また必要に応じて織物や編み物等を不織布に積層する事等で達成できる。ニードルパンチにおいて打ち込み密度を高くする、または高速流体処理において、処理回数を増やす、処理圧力を上げるなどの絡合工程の条件を強くした場合、繊維見かけ密度が高くなる傾向にある。
なお、繊維見掛け密度は、JIS L1096 8.4.2(1999)によって目付を測定し、次いでその厚みを測定して、それから得られる繊維見掛け密度の平均値をもって繊維見掛け密度とした。なお、厚みの測定には、ダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)を用い、サンプルを10点測定して、その平均値を用いた。本発明における繊維見掛け密度とは、繊維素材の見掛け密度を言う。従って、例えば繊維素材以外の樹脂が含浸されている不織布構造体の場合は、その樹脂を除いた繊維素材の見掛け密度を示す。
【0016】
さらに、本発明の短繊維不織布は、タテおよびヨコ方向のいずれの引き裂き強力も3〜50Nである。タテおよびヨコ方向のいずれの引き裂き強力も5〜30Nであることがより好ましい。タテまたはヨコ方向いずれかの引き裂き強力が3N未満であると、工程通過性が低下し、安定した生産が困難になる。逆に、タテまたはヨコ方向いずれかの引き裂き強力が50Nを越えると、一般に柔軟化しすぎる傾向があるため、風合いとのバランスが取りにくくなり、また緻密感に欠けた不織布となるため好ましくない。なお、引き裂き強力はJIS L 1096 8.15.1(1999)D法(ペンジュラム法)に基づいて測定した。これらの引き裂き強力を得るには、不織布として繊維見かけ密度を好ましい範囲に調整すること、そして製法としてはニードルパンチや高速流体処理等の絡合工程の条件を調整することで達成できる。一般に引き裂き強力は、高密度化すると低下し、絡合工程の条件を強くすると低下する傾向にある。絡合工程の条件を強くするとは、たとえばニードルパンチの場合、打ち込み密度を高くすることや、バーブの数が多い針を使用するといったようなことを指し、また高速流体処理においては、流体の圧力を高くすること、また加工速度を低くするといったことを指す。
【0017】
また、本発明の極細短繊維不織布は、タテ方向の10%モジュラスが8〜50N/cmであることが好ましい。10〜50N/cmであることがさらに好ましい。タテ方向の10%モジュラスが上述の範囲にあることによって、さらに用途に応じて行われる後工程における工程通過性が良好となる。上述の製造方法で製造する場合は、ニードルパンチ処理や高速流体流処理を十分に行うことで、10%モジュラスの値を向上させることができる。また織物および/または編み物等を積層させることによっても増加させることができる。
【0018】
また、これらの値は、当然染色処理や揉み処理を施すことによって低下するが、これらの処理を行う前の短繊維不織布の段階で、本発明の範囲にあることで、より良好な工程通過性と、良好な品位の皮革様シート状物として用いられる基布を得ることが容易に可能となる。 なお、10%モジュラスは、引張強力の測定方法と同様にして行い、10%伸長時の強力をその値とした。
【0019】
本発明の短繊維不織布は、耐摩耗性が3〜5級である。本発明でいう耐摩耗性3〜5級とはJIS L 1096(1999)8.17.5 E法(マーチンデール法)家具用荷重(12kPa)に準じて測定される耐摩耗試験において、3000回および20000回の回数を摩耗した後の試験布の表面外観がJIS L 1076(1999)表2の判定基準表で、ピリング判定標準写真3を用いて判定した時、いずれも3〜5級を示すことを言う。3000回、20000回とも3−4級〜5級がより好ましく、4〜5級がさらに好ましい。3級未満では十分な品位を保持できておらず、5級が評価上、最も好ましい状態である。従来、本試験においては、外観上のエンドポイントとして、破れや、例えば特開2003−268680号公報に記載のように、織物層が露出するまでの回数で評価されていた。しかし、JIS L 1076(1999)表2の判定基準表を用いて、毛玉の有無といった変化を3000回と20000回で評価する点が本発明の最も重要なポイントであり、20000回は長期使用後の外観、3000回は短期使用後の外観に相当する。特に、20000回で外観が大きく変わらないことが形態の安定性を示すため重要だが、短期使用では外観変化が大きい場合もある。したがって、本発明では3000回時点でも変化のないことによってさらに高いレベルの耐久性を達成できる。
【0020】
さらに本発明の短繊維不織布は、JIS L 1096(1999)8.17.5 E法(マーチンデール法)家具用荷重(12kPa)に準じて測定される耐摩耗試験において、20000回後の摩耗減量は20mg以下が好ましく、15mg以下がより好ましく、10mg以下がさらに好ましい。摩耗減量が上述の範囲にあることによって、皮革様シート状物として用いた場合、毛羽が服などに付着する傾向が少なくので好ましい。一方下限は特に限定されず、本発明の皮革様シートであればほとんど摩耗減量がないものも得ることが出来る。これらの耐摩耗性を得るには、まず短繊維不織布に含まれる短繊維の繊維長、単繊維繊度、および短繊維不織布の繊維見かけ密度が適切な値に設定されていることが必要である。さらに、不織布の製法において、ニードルパンチ処理や高速流体処理を十分に行うこと、また高速流体処理の後に乾熱温度170〜200℃および/または湿熱温度110〜150℃にて処理前の長さに対しタテ方向に1.04〜1.20倍の倍率で伸長処理を行うことによって得ることができる。
【0021】
さらに、本発明の短繊維不織布は、少なくともタテヨコいずれか一方向の剛軟度が2.8〜4.0mN・cmである。3.0〜3.5mN・cmがより好ましい。また、タテヨコいずれの方向とも、4.0mN・cm以下である。タテヨコいずれの剛軟度とも、3.5mN・cm以下がより好ましい。2.8mN・cm未満であると、特に皮革様シートとして用いた場合、反発感が無く好ましくない。また、4.0mN・cmより大きいと、風合いが堅くなりすぎるので好ましくない。なお、本発明において剛軟度は、JIS L 1913 一般短繊維不織布試験方法 6.7.1 a)41.5°カンチレバー法により測定した。また、本発明において、剛軟度の測定を行う際には、試験サンプルの製品面を表にして測定した測定値を採用する。ここで、本発明の短繊維不織布において製品面とは、例えば皮革様シート状物として衣料品、家具、カーシート、車内装材などに用いられたとき、外観として用いられ、よって通常使用で人目にさらされる面のことを指し、また非製品面とは該用途の外観として用いられず、よって通常人目にさらされない面のことを指す。研磨布用途については、製品面とは被研磨材と接触させる面のことを指し、非製品面とは、被研磨材と接触させない面のことを指す。また、剛軟度の測定方法において、測定時に試験機と接触する面を裏とよび、接触しない面を表と定義する。上述のような測定方法は、製品面の剛軟度をより反映している。この測定方法における測定値が上述の好ましい範囲に入ったとき、適度な剛軟度、反発感を有する短繊維不織布となる。剛軟度が本発明にある短繊維不織布を得るには、短繊維不織布の目付、密度を好ましい範囲にするとともに、加熱伸長処理を後述する条件で行うことが必要である。
【0022】
本発明の短繊維不織布は、実質的にポリウレタン等の高分子弾性体を含まず、実質的に非弾性ポリマーの繊維材料のみからなるものである。
【0023】
ここでいう実質的に繊維素材のみからなるものとは、ポリウレタン等の高分子弾性体からなるバインダーが繊維に対して5重量%未満のものをいい、好ましくはバインダーが繊維に対して3重量%未満、より好ましくはバインダーが繊維に対して1重量%未満であり、さらに好ましくはバインダーを含まないものである。ここでいう非弾性ポリマーの繊維とは、ポリエーテルエステル系繊維やいわゆるスパンデックス等のポリウレタン系繊維などのゴム状弾性に優れる繊維を除くポリマーを意味する。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる繊維が挙げられる。前述した極細短繊維不織布を構成するポリマーが好適である。実質的に非弾性ポリマーの繊維素材からなることにより、充実感のある風合いを達成することができる。また、さらには、易リサイクル性、高発色性、高耐光性、耐黄変性等種々の効果が達成できる。特にケミカルリサイクルを行うためには、繊維素材がポリエチレンテレフタレートまたはナイロン6からなるものが好ましい。なお、本発明の極細短繊維不織布は、ポリエーテルエステル系繊維やスパンデックスなどのポリウレタン系繊維などの高分子弾性体を全く含まないものが最も好ましいが、本発明の効果を逸脱しない範囲において高分子弾性体が含まれていても構わない。また、例えば染料、柔軟剤、風合い調整剤、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤、耐侯剤等の機能性薬剤が含まれていても良い。
【0024】
また、本発明の短繊維不織布における短繊維は、単繊維繊度が0.0001〜0.5dtexの極細短繊維であることが好ましい。単繊維繊度は、0.001〜0.3dtexがより好ましく、0.005〜0.15dtexがさらに好ましい。単繊維繊度が上述の範囲にあることによって、引張強力、引き裂き強力、剛軟度、反発感、タッチに優れた、本発明の短繊維不織布となる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の範囲を越える繊度の繊維が含まれていても良い。

本発明の短繊維不織布を構成する繊維には、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等適宜用途に応じて使用することができるが、染色性や強度、熱セット性の点で、ポリエステルおよび/またはポリアミドであることが好ましい。
【0025】
本発明の短繊維不織布に用いることのできるポリエステルとしては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体から合成されるポリマーであって、複合繊維として用いることが可能なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。本発明は、中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0026】
本発明の短繊維不織布に用いることのできるポリアミドとしては、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、等のアミド結合を有するポリマーを挙げることができる。 本発明の短繊維不織布は、サンドペーパーで起毛処理を行われ、染色されていることが好ましい。これらの処理を行うことによって、十分な耐摩耗性、反発感、引張強力、引き裂き強力、品位、充実感を有し、皮革様シート状物の基布として好適な短繊維不織布となる。
【0027】
続いて本発明の短繊維不織布の製造方法を示す。まず、不織布A及びその製造方法について示す。
【0028】
前述の通り、本発明の短繊維不織布は目付が120〜550g/mであることが好ましく、120〜450g/mであることがより好ましく、140〜350g/mであることがさらに好ましい。したがって、本発明の短繊維不織布の製造方法においては、最終的に目付が上記範囲となるように調整する。目付の調整は、例えば不織布Aの目付や後述する伸長倍率によって適宜調整できる。
【0029】
本発明の短繊維不織布の製造方法における不織布Aは、ウェブのように繊維が互いにほとんど交絡していないものでも構わないが、工程通過性の観点、最終的に得られる短繊維不織布の品位、表面の平滑性、および立毛状態の観点から、ニードルパンチ不織布のように繊維が強く交絡しているものが好ましい。上記の他強度を高めるために織物や編み物などを補助的に含んでいても構わない。また、工程通過性を高めるためカルボキシメチルセルロースやポリビニルアルコールなどの糊剤が含まれていても良い。
【0030】
また本発明の短繊維不織布の製造方法における不織布Aは、繊維が1〜100mmの短繊維を含まなければならない。繊維長が100mm以上の短繊維が主であると、風合いが堅くなり皮革様シート状物として適さない他、生産性も悪くなる。より好ましくは、70mm以下である。ただし、100mmを越える繊維長のものも、本発明の効果を損なわない範囲で含まれていても良い。また10mm未満であると脱落が多くなり、強度や耐摩耗性等の特性が低下する傾向があるため、繊維長は1mm以上とすることが好ましい。
【0031】
また、該短繊維は、単繊維繊度が0.0001〜0.5dtexの極細短繊維であるか、または単繊維繊度が上述の範囲にある極細短繊維を発生することができる極細繊維発生型繊維であることが好ましい。単繊維繊度は、0.001〜0.3dtexがより好ましく、0.005〜0.15dtexがいっそう好ましい。不織布Aの単繊維繊度が上述の範囲にあることによって、引張強力、引き裂き強力、剛軟度、反発感、タッチに優れた、本発明の短繊維不織布となる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の範囲を越える繊度の繊維が含まれていても良い。
上述のような不織布Aを得る方法として好適なものは、公知の方法で製造することができる。まず、極細繊維発生型繊維を紡糸し、所定の長さにカット、ウェブ化、続いてニードルパンチで不織布とした後に、極細繊維を発生させる乾式法、また極細繊維を直接紡糸し、カットした後抄造する湿式法などが挙げられるが、本発明においては望みの繊維長や繊度の極細繊維を含む不織布を容易に安定して得ることができる点で、乾式法を用いて繊維集合体を作成することが好ましい。
極細繊維発生型繊維としては、例えば海成分を除去することで極細繊維が得られる海島型複合繊維や、ニードルパンチや高速流体などの物理力で分割されて極細繊維を発生する分割型複合繊維などが例として挙げられる。これらの中で、皮革様シート状物にする際に、同種の染料で染色できる同種ポリマーからなる極細繊維を容易に得ることが出来る点で、海島型複合繊維によって製造することがより好ましい。
【0032】
本発明でいう海島型複合繊維とは、2成分以上の成分を任意の段階で複合、混合して海島状態とした繊維をいい、この繊維を得る方法としては、特に限定されず、例えば(1)2成分以上のポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸する方法、(2)予め2成分以上のポリマーを混練してチップ化した後、紡糸する方法、(3)溶融状態の2成分以上のポリマーを紡糸機のパック内で静止混練器等で混合する方法、(4)特公昭44−18369号公報、特開昭54−116417号公報等の口金を用いて製造する方法、等が挙げられる。本発明においてはいずれの方法でも良好に製造することが出来るが、ポリマーの選択が容易である点で上記(4)の方法が好ましく採用される。
【0033】
かかる(4)の方法において、海島型複合繊維および海成分を除去して得られる島繊維の断面形状は特に限定されず、例えば丸、多角、Y、H、X、W、C、π型等が挙げられる。また用いるポリマー種の数も特に限定されるものではないが、紡糸安定性や染色性を考慮すると2〜3成分であることが好ましく、特に海1成分、島1成分の2成分で構成されることが好ましい。またこのときの成分比は、島繊維の海島型複合繊維に対する重量比で0.30〜0.99であることが好ましく、0.40〜0.97がより好ましく、0.50〜0.80がさらに好ましい。0.30未満であると、海成分の除去率が多くなるためコスト的に好ましくない。また0.99を越えると、島成分同士の合流が生じやすくなり、紡糸安定性の点で好ましくない。
【0034】
また用いるポリマーは特に限定されるものではなく、例えば島成分としてポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等適宜用途に応じて使用することができるが、染色性や強度、耐久性、堅牢度、熱セット性の点で、ポリエステルおよび/またはポリアミドであることが好ましい。
【0035】
本発明の短繊維不織布の製造方法に用いることのできるポリエステルとしては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体から合成されるポリマーであって、複合繊維として用いることが可能なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。本発明は、中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0036】
海島型複合繊維の海成分として用いるポリマーは、島成分を構成するポリマーよりも溶解性、分解性の高い化学的性質を有するものであれば特に限定されるものではない。島成分を構成するポリマーの選択にもよるが、例えばポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ポリエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ビスフェノールA化合物、イソフタル酸、アジピン酸、ドデカジオン酸、シクロヘキシルカルボン酸等を共重合したポリエステル等を用いることができる。紡糸安定性の点ではポリスチレンが好ましいが、有機溶剤を使用せずに容易に除去できる点でスルホン基を有する共重合ポリエステルが好ましい。かかる共重合比率としては、処理速度、安定性の点から5モル%以上、重合や紡糸、延伸のしやすさから20モル%以下であることが好ましい。本発明において好ましい組み合わせとしては、島成分にポリエステルを用い、海成分にポリスチレン又はスルホン基を有する共重合ポリエステルである。
【0037】
これらのポリマーには、隠蔽性を向上させるためにポリマー中に酸化チタン粒子等の無機粒子を添加してもよいし、その他、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤、抗菌剤等、種々目的に応じて添加することもできる。
【0038】
また海島型複合繊維を得る方法については、特に限定されず、例えば上記(4)の方法に示した口金を用いて未延伸糸を引き取った後、湿熱または乾熱、あるいはその両者によって1〜3段延伸することによって得ることが出来る。
なお、分割型複合繊維を用いる場合は、主に口金内で2成分以上を複合し、上述の海島型複合繊維の製造方法に準じて行うことができる。
繊維を適当な長さにカットする方法として好ましく採用されるのは、直接または複合繊維として得た未延伸糸を延伸した後に、ロータリーカッターやギロチンカッターで短繊維化する方法がある。
【0039】
短繊維をウェブ化する方法としては、押し込み法などによってクリンプを施した後、カードやクロスラッパー、ランダムウェバーを用いるカーディング法や、空気により輸送して積層するエアレイ法、または抄造法などが挙げられる。このうち、用いる繊維の繊維長の制限が広いことや、均一なウェブが得られることから、カーディング法でウェブを作成することが好ましい。
【0040】
続いて得られたウェブにニードルパンチ処理を施すことが好ましい。ニードルパンチでは、単なる工程通過性を得るための仮止めとしての役割ではなく、繊維を十分に絡合させることが、皮革様シート状物まで加工したときに品位、風合いや立毛状態の観点から良好なものが得られるので好ましい。従って好ましくは、100本/cm以上の打ち込み密度がよく、より好ましくは500本/cm以上、さらに好ましくは1000本/cm以上が良い。また、十分な強度を持たせるためこのときに織物や編み物などを積層してもかまわない。
【0041】
このようにして得られた複合短繊維不織布は、乾熱または湿熱、あるいはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。また、後の工程の工程通過性を向上させるため、この時にポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの糊材を添加することも好ましく行われる。
【0042】
続いて、不織布の目付を調整するため、そして繊維長が混合された不織布を得るために、スプリット処理することが好ましく行われる。
【0043】
次いで、極細化処理をおこなうことが好ましい。または極細化と同時に高速流体処理を兼ねることも可能であるが、少なくとも極細化処理が大部分終了した後にも高速流体処理を行うことが、より極細繊維同士の絡合を進める上で好ましく、さらに、極細化処理を行った後に高速流体処理を行うことが好ましい。
【0044】
極細化処理の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば機械的方法、化学的方法が挙げられる。機械的方法とは、物理的な刺激を付与することによって極細化する方法であり、例えば上記のニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法等の衝撃を与える方法の他に、ローラー間で加圧する方法、超音波処理を行う方法等が挙げられる。また化学的方法とは、例えば、複合繊維を構成する少なくとも1成分に対し、薬剤によって膨潤、分解、溶解等の変化を与える方法が挙げられる。特にアルカリ易分解性海成分を用いて成る極細繊維発生型繊維で複合短繊維不織布を作製し、次いで中性〜アルカリ性の水溶液で処理して極細化する方法は、有機溶剤を使用せず作業環境上好ましいことから、本発明の好ましい態様の一つである。ここでいう中性〜アルカリ性の水溶液とは、pH6〜14を示す水溶液であり、使用する薬剤等は特に限定されるものではない。例えば有機または無機塩類を含む水溶液で上記範囲のpHを示すものであれば良く、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、必要によりトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアミンや減量促進剤、キャリアー等を併用することもできる。中でも水酸化ナトリウムが価格や取り扱いの容易さ等の点で好ましい。さらにシートに上述の中性〜アルカリ性の水溶液処理を施した後、必要に応じて中和、洗浄して残留する薬剤や分解物等を除去してから乾燥を施すことが好ましい。
【0045】
これらの極細化処理と高速流体処理を同時に行う方法としては、例えば水可溶性の海成分からなる複合繊維を用い、ウォータージェットパンチによって除去と絡合を行う方法、アルカリ分解速度の異なる2成分以上の複合繊維を用い、アルカリ処理液を通して易溶解成分を分解処理した後に、ウォータージェットパンチによって最終除去および絡合処理を行う方法等が挙げられる。
【0046】
以上のような方法で得られた不織布Aに対して、本発明の短繊維不織布の製造方法においては高速流体処理を行うことを必須とする。高速流体処理を行うことで、皮革様シート状物に要求される引張強度や引き裂き強度などの物性を付与することができる。高速流体処理としては、作業環境の点で水流を使用するウォータージェットパンチ処理を行うことが好ましい。この時、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流を得るには、通常、直径0.06〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで噴出させることで得られる。かかる処理は、効率的な絡合性と良好な表面品位を得るために、ノズルの直径は0.06〜0.15mm、間隔は5mm以下であることが好ましく、直径0.06〜0.12mm、間隔は1mm以下がより好ましい。これらのノズルスペックは、複数回処理する場合、すべて同じ条件にする必要はなく、例えば大孔径と小孔径のノズルを併用することも可能であるが、少なくとも1回は上記構成のノズルを使用することが好ましい。特に直径が0.15mmを超えると極細繊維同士の絡合性が低下し、表面がモモケやすくなるとともに、表面平滑性も低下するため好ましくない。従ってノズル孔径は小さい方が好ましいが、0.06mm未満となるとノズル詰まりが発生しやすくなるため、水を高度に濾過する必要性からコストが高くなる問題があり好ましくない。また、厚さ方向に均一な交絡を達成する目的、および/または不織布表面の平滑性を向上させる目的で、好ましくは多数回繰り返して処理する。また、その水流圧力は処理する不織布の目付によって適宜選択し、高目付のもの程高圧力とすることが好ましい。さらに、極細繊維同士を高度に絡合させる目的で、少なくとも1回は10MPa以上の圧力で処理することが好ましく、15MPa以上がより好ましい。また上限は特に限定されないが、圧力が上昇する程コストが高くなり、また低目付であると不織布が不均一となったり、繊維の切断により毛羽が発生する場合もあるため、好ましくは40MPa以下であり、より好ましくは30MPa以下である。こうすることによって、例えば複合繊維から得た極細繊維の場合、繊維同士が集束した極細繊維束が主として絡合しているものが一般的であるが、本発明においては極細繊維束による絡合がほとんど観察されない程度にまで極細繊維同士が高度に絡合した極細短繊維不織布を得ることができ、またこれにより耐摩耗性等の表面特性を向上させることもできる。なお、ウォータージェットパンチ処理を行う前に、水浸積処理を行ってもよい。さらに表面の品位を向上させるために、ノズルヘッドと不織布を相対的に移動させたり、交絡後に不織布とノズルの間に金網等を挿入して散水処理する等の方法を行うこともできる。また、高速流体流処理を行う前には、厚み方向に対して垂直に2枚以上にスプリット処理を行うことが好ましい。このようにして、好ましくはタテ方向の10%モジュラスが8N/cm以上となるまで、より好ましくは10N/cm以上となるまで極細繊維同士を絡合させるとよい。本発明の短繊維不織布の製造方法における最大の特徴は、高速流体処理をした後に得られる短繊維不織布に対して、加熱をした状態でタテ方向に伸長することである。本発明の短繊維不織布の製造方法においては、該処理を加熱伸長処理と呼ぶ。本処理を行うことにより、十分な耐摩耗性と適度な反発感、剛軟度を有する短繊維不織布を得ることができる。ちなみに本発明の短繊維不織布の製造方法において、タテ方向とは、高圧流体処理における被処理不織布の進行方向を指し、ヨコ方向とはそれと布帛表面において垂直な方向を指す。
【0047】
加熱伸長処理は、高速流体処理の後に行わなければならない。高速流体処理の前、または高速流体処理中に行っても本発明の短繊維不織布の製造方法の耐摩耗性向上効果を得ることはできない。加熱伸長処理で耐摩耗性が向上する理由として、不織布表面の繊維が緊張することが挙げられるが、十分に絡合していないと本緊張効果が発揮されないからである。また、加熱伸長処理は、加熱と伸長を行うことが重要であり、加熱のみ、または伸長のみでは本発明の耐摩耗性向上効果を得ることはできない。加熱と同時に伸長でも、伸長した状態で固定して加熱するのでも構わない。また、伸長方向はタテでなければならず、ヨコ方向に伸長しても本発明の効果を得ることができない。
【0048】
加熱伸長処理の条件として、伸長条件としては処理前のタテ方向の長さに対し1.04〜1.20倍の倍率の長さになるようにする。より好ましくは、1.04〜1.10倍である。1.04倍未満であると、耐摩耗性に効果がある程、表面繊維が緊張しない。1.20倍より大きいと、繊維の塑性変形、切断、および絡合のすぬけなど、耐摩耗性に悪影響を与える構造変化がおこるため好ましくない。また、伸長倍率が1.20倍を越えると、該加熱伸長処理の際、工程張力が大きくなりすぎ、加熱伸長処理を行う設備に負荷がかかりすぎるため好ましくない。また加熱条件は乾熱で170〜200℃、湿熱で110〜150℃でなければならない。乾熱で170℃未満または湿熱で110℃未満であると、引っ張ることにより緊張した繊維を固定できないため好ましくない。乾熱で200℃より高いか、または湿熱で150℃より高いと、繊維が脆化し短繊維不織布の耐摩耗性が悪化するため好ましくない。また、処理時間は0.25分〜4分が好ましい。1分〜3分がより好ましく、1.5分〜2.5分がさらに好ましい。処理時間が0.25分より短いと、繊維の緊張状態を固定するのに十分な熱セット性が得られない。また処理時間が4分を越えると、熱セット性は十分であるが、極細繊維の結晶化度が上がりすぎ染色性が低下するため好ましくない。また加熱伸長処理を行う前に染色処理をおこなっても良い。
【0049】
加熱伸長処理における加熱は乾熱および湿熱のどちらか一方のみ行っても、もしくは両方行っても良く、短繊維不織布の繊維見かけ密度、目付、また短繊維の単繊維繊度、短繊維を構成するポリマーの種類などに応じて適宜条件を変更することができる。乾熱での加熱では加水分解が起こらないため繊維に高温をかけることができるが繊維内部への熱浸透性が低く、また湿熱での加熱では繊維内部への熱浸透性が高いが加水分解のため乾熱に比べ高温にできないという、両加熱条件において一長一短があることから、これを組み合わせて両加熱条件の長短を補い合うことは、本発明の好ましい様態の一つである。その場合、各条件の順序と伸長倍率は適宜変更することができるが、伸長することによって生じる工程張力をできるだけ押さえるという点で、最初に湿熱で加熱を行い、連続して乾熱で加熱を行うことが好ましい。また最終的な伸長倍率が高い場合、湿熱での加熱における伸長倍率を目標より低く設定しておいて、乾熱での加熱でさらに伸長し目標の伸長倍率にすることなどもできる。
【0050】
加熱伸長処理を行う方法は特に限定されず、シリンダードライヤーやピンテンターなどの連続処理機や、ジッガー等のバッチ式処理機で行うことができる。この内、コスト及び加工連続性に優れる点で、ピンテンター型乾燥処理装置等を用いるのが好ましい。
【0051】
また加熱伸長処理を行う前に染色処理やサンドペーパーによって起毛処理をしても良い。
【0052】
本発明の短繊維不織布の製造方法においては、皮革様シート状物や研磨布の基布とするために、例えばスエード調やヌバック調の皮革様シート状物の基布を得る場合には、サンドペーパーやブラシ等による起毛処理を行うことが好ましい。かかる起毛処理は染色の前または後、あるいは後で述べる染色前および染色後に行うことができる。続いてこの短繊維不織布を染色する。染色する方法は特に限定されるものではなく、用いる染色機としても、液流染色機の他、サーモゾル染色機、高圧ジッガー染色機等いずれでもよいが、得られる短繊維不織布の反発感、剛軟度、風合いが適度なものとなる点で液流染色機を用いて染色することが好ましい。
【0053】
また、本発明の短繊維不織布の製造方法においては、耐摩耗性を向上させる目的で微粒子を繊維素材へ付与する工程を含むことが好ましい。繊維素材へ微粒子を付与することによって、ドライ感やきしみ感等の風合いを与える効果を得ることもできる。用いる微粒子については前述した通りであるが、微粒子を付与する手段としては特に限定されるものではなく、パッド法の他、液流染色機やジッガー染色機を用いる方法、スプレーで噴射する方法等、適宜選択することができる。
【0054】
また、本発明の短繊維不織布の製造方法においては、滑らかな表面タッチを得るために、繊維素材へ柔軟剤を付与する工程を含むことも好ましい。用いる柔軟剤については前述した通りであるが、柔軟剤を付与する手段も特に限定されず、パッド法の他、液流染色機やジッガー染色機を用いる方法、スプレーで噴射する方法等を用いることができる。製造コストの点からは微粒子と同時に付与することが好ましい。
【0055】
なお、微粒子や柔軟剤は、好ましくは染色後に付与する。染色前に付与すると、染色時の脱落により効果が減少する場合や、染色ムラが発生する場合があるため好ましくない。また、微粒子を含む不織布は起毛されにくい傾向があるため、起毛する場合は起毛した後に微粒子を付与することが好ましい。
【0056】
以上の方法で得られた本発明の短繊維不織布は、十分な耐摩耗性、剛軟度、引き裂き強力、引張強力、平滑性などの物性、品位、適度な風合い、反発感を有し、特に皮革様シート状物、研磨布、ワイパー、フィルターなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。

(1)繊維目付、密度
目付はJIS L 1096 8.4.2(1999)の方法で測定した。また、厚みをダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”(登録商標))により測定し、目付の値から計算によって繊維見掛け密度を求めた。
(2)引張強力 JIS L 1096 8.12.1(1999)により、幅5cm、長さ20cmのサンプルを採取し、つかみ間隔10cmで定速伸長型引張試験器にて、引張速度10cm/分にて伸長させた。得られた値を幅1cm当たりに換算して引張強力とした。
【0058】
(3)引き裂き強力
JIS L 1096 8.15.1(1999)D法(ペンジュラム法)に基づいて測定した。
【0059】
(4)マーチンデール摩耗試験
JIS L 1096(1999)8.17.5 E法(マーチンデール法)家具用荷重(12kPa)に準じて測定される耐摩耗試験において、3000回および20000回の回数を摩耗した後の試験布の重量減を評価すると共に、JIS L 1076 表2の判定基準表及びピリング判定標準写真3に準じて外観から等級を判定した。
【0060】
(5)剛軟度
JIS L 1913 一般短繊維不織布試験方法 6.7.1 a)41.5°カンチレバー法に準じて測定した。また、本発明においては、本測定を行う際には、試験サンプルの製品面を表にして測定した測定値を採用した。
【0061】
実施例1

海成分としてポリスチレン50部、島成分としてポリエチレンテレフタレート50部からなる単繊維繊度3dtex、36島、繊維長51mmの海島型複合短繊維を用い、カード、クロスラッパーを通してウェブを作製した。次いで1バーブ型のニードルにて2500本/cmの打ち込み密度でニードルパンチ処理し、繊維見掛け密度0.210g/cmの複合短繊維不織布を得た。次に約95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール12%の水溶液に固形分換算で不織布重量に対し25%の付着量になるように浸積し、ポリビニルアルコール(以下、PVA)の含浸と同時に2分間収縮処理を行い、100℃にて乾燥して水分を除去した。得られたシートを約30℃のトリクレンでポリスチレンを完全に除去するまで処理し、単繊維繊度約0.046dtexの極細短繊維不織布を得た。次いで、室田製作所(株)製の標準型漉割機を用いて、厚み方向に対して垂直に2枚にスプリット処理した後、0.1mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルヘッドからなるウォータージェットパンチにて、6m/分の処理速度で表裏ともに10MPaと20MPaで処理し(計4回)、PVAの除去とともに絡合を行った。 十分に乾燥を行い水分を除去した後、ピンテンターを用い、フィードローラーとピン走行速度を調整することで、タテ方向にもとの長さに比べて1.09倍伸長されるように設定し、不織布をタテ方向に引っ張りながら180℃で2分乾熱にて加熱処理を行い、加熱伸長処理前の長さに比べてタテ方向に1.09倍となった不織布を得た。続いて短繊維不織布の表面を株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダで、粒度がP400の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーを用いて、繊維シートのバフによる減量が5重量%になるまでバフィングした後、サーキュラー染色機において分散染料で染色を施した。その後、“アルダック”(登録商標)SP−65(一方社油脂工業(株)製)10g/l、“シルスタット”(登録商標)1173(三洋化成(株)製)1g/lと、“ベビナー”(登録商標)S−783(丸菱油化工業(株)製)3g/lを混合した仕上げ剤をマングルを用いパッド法にて付与し、染色された短繊維不織布を得た。適度な反発感を有する短繊維不織布であった。物性を表1に示す。
【0062】
実施例2
加熱伸長処理の条件において、伸長率を加熱伸長処理前後で1.05倍と変更した以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。適度な反発感を有する短繊維不織布であった。物性を表1に示す。
【0063】
実施例3
加熱伸長処理の条件において、伸長率を加熱伸長処理前後で1.15倍と変更した以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。適度な反発感を有する短繊維不織布であった。物性を表1に示す
比較例1
加熱伸長処理の条件において、伸長率を加熱伸長処理前後で1.22倍と変更した以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を得ようと試みた。しかし、該加熱伸長処理において、短繊維不織布がピンテンターのピンが折れてしまい、短繊維不織布を得ることができなかった。
【0064】
比較例2
加熱伸長処理の条件において、伸長率を1.00倍と変更した以外は実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。表1に示すように、耐摩耗性が不十分であった。
【0065】
比較例3
加熱伸長処理の条件において、加熱温度を乾熱にて120℃と変更した以外は実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。表1に示すように、耐摩耗性が不十分であった。
【0066】
比較例4
加熱伸長処理の条件において、加熱温度を乾熱にて220℃と変更した以外は実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。表1に示すように、耐摩耗性が不十分であった。
【0067】
比較例5
加熱伸長処理の条件において、伸長方向をヨコ方向にし、加熱伸長処理前の長さに対しヨコ方向に9%伸長した以外は実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。表1に示すように、耐摩耗性が不十分であった。
【0068】
比較例6
加熱伸長処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。反発感を有さず、また表1に示すように、耐摩耗性が不十分な短繊維不織布だった。
【0069】
比較例7
ウェブを作成する際の繊維の量を調節する以外は実施例1と同様にして、繊維目付110g/mの短繊維不織布を得た。寸法がやや変化し、不均一な短繊維不織布であった。表1に示すように、引張強力が不足していた。
【0070】
比較例8
加熱伸長処理の代わりに、加熱温度150℃、5m/分の処理速度で加熱したカレンダープレスによって、厚みを0.45倍に圧縮した以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。表1に示すように、耐摩耗性は十分であったが、剛軟度が高いため、やや硬い短繊維不織布であった。
【0071】
比較例9
ウォータージェットパンチの条件において、6m/分の処理速度で表裏ともに25MPaで処理した(計4回)こと以外は比較例6と同様にして短繊維不織布を得た。反発感を有さない短繊維不織布であった。また表1に示すように、耐摩耗性は十分であった。
【0072】
比較例10
ウォータージェットパンチの条件において、6m/分の処理速度で表裏ともに5MPaで処理した(計6回)こと以外は実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。緻密感に欠け、また反発感を有さない短繊維不織布であった。表1に示すように、引き裂き強力が大きすぎる短繊維不織布であった。
【0073】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が1〜100mmの短繊維を含み、引張強力が70N/cm以上、引き裂き強力が3〜50N、耐摩耗性が3〜5級、少なくともタテヨコいずれか一方の剛軟度が2.8以上かつタテヨコいずれの剛軟度とも4.0mN・cm以下であり、実質的に非弾性ポリマーの繊維素材のみからなることを特徴とする短繊維不織布。
【請求項2】
単繊維繊度が0.0001〜0.5dtexの極細短繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の短繊維不織布。
【請求項3】
ポリエステル系および/またはポリアミド系繊維素材のみからなることを特徴とする請求項1または2に記載の短繊維不織布。
【請求項4】
目付が120〜550g/mの短繊維不織布の製造方法であって、繊維長が1〜100mmの短繊維を含む不織布Aに高速流体処理を行い、その後、乾熱温度170〜200℃および/または湿熱温度110〜150℃にてタテ方向に1.04〜1.20倍の倍率で伸長処理を行うことを特徴とする短繊維不織布の製造方法。
【請求項5】
不織布Aに含まれる短繊維の単繊維繊度が0.0001〜0.5デシテックスであることを特徴とする請求項4に記載の短繊維不織布の製造方法。
【請求項6】
不織布Aに含まれる短繊維がポリエステル系短繊維であることを特徴とする請求項4または5に記載の短繊維不織布の製造方法。
【請求項7】
高圧流体処理の後に、染色処理を施すことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の短繊維不織布の製造方法。
【請求項8】
高圧流体処理の後に、サンドペーパーにより起毛処理を施すことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の短繊維不織布の製造方法。

【公開番号】特開2007−191836(P2007−191836A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13449(P2006−13449)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】