説明

石炭火力発電システム及び六価クロム溶出低減方法

【課題】多額の設備投資が不要で、かつ、薬剤を使用せずに石炭灰からの六価クロムの溶出を抑制することが可能な石炭火力発電システム、及び、この石炭火力発電システムにおける石炭灰からの六価クロムの溶出を抑制する六価クロム溶出抑制方法を提供する。
【解決手段】石炭火力発電システムは、石炭を燃焼させる燃焼ボイラと、前記燃焼ボイラの下流に設けられ、前記燃焼ボイラの排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収手段と、前記石炭灰回収手段で回収された石炭灰を貯蔵する石炭灰回収サイロと、を備える石炭火力発電システムであって、前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を加熱する還元処理手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電システム及び六価クロム溶出低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電システムにおいて石炭を燃焼させる方法としては種々の方式があるが、なかでも、石炭を微粉砕した粒子を炉内に吹き込んで燃焼させる、いわゆる微粉炭燃焼が主に採用されている。そして、燃焼後の残渣となる石炭灰、特に煤塵(フライアッシュ)は、資源の有効利用の観点から、コンクリートや土壌改良材等の土木建築材料として一部が使用されているが、余剰分については埋め立て処分されている。
【0003】
ところで、燃料となる石炭は炭素以外にも、ホウ素、フッ素、セレン、ヒ素、六価クロム等の有害な元素を微量ながら含んでいる(以下、上記有害な元素を「有害微量元素」という)。このため、環境への配慮から、石炭灰からの有害微量元素の溶出について、その許容濃度が法律で規定されている。
【0004】
特に、有害微量元素のうち六価クロムは、人体に多大な悪影響を与え、過去においては大規模な土壌汚染の原因物質ともなっている。このため、石炭灰からの六価クロム(以下、「六価クロム」という場合は、六価クロムの化合物を含む)の溶出については、その許容濃度が厳しく規制されている。
【0005】
しかしながら、日本に輸出される石炭種は、年間で100炭種以上もあり、それらのすべてが、上記の規制値を満足するわけではない。このため、石炭灰に含まれている六価クロムの溶出濃度を規制値以下に低減するための技術が検討されている。
【0006】
例えば、亜硫酸ソーダ、重亜硫酸ソーダ、及び、亜硫酸カルシウムのいずれか一つの水溶液を含浸させた人工ゼオライトをセメントに添加して、セメントから六価クロムの溶出を抑制するための溶出抑制剤が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、特許文献2には、土壌環境基準を上回る六価クロム溶出量を有するセメント固化した土壌を炭酸ガスに接触させた後、炭化物及び有機物から選ばれる少なくとも一種の成分を添加して、焼成することを特徴とする六価クロム汚染土壌の処理方法が開示されている。
【0008】
更に、特許文献3には、六価クロムを含有する土壌を、還元雰囲気下において200℃〜600℃で加熱処理することを特徴とする六価クロム含有土壌の処理方法が開示されている。
【0009】
加えて、特許文献4には、六価クロムを含有するセメントクリンカを、還元雰囲気下において650℃〜1100℃で加熱処理することを特徴とするセメントクリンカ中の六価クロム低減方法が開示されている。
【0010】
特許文献2から4に記載の発明によれば、簡単な方法によって六価クロムの溶出量を土壌環境基準以下に低下させることができるとされる。
【特許文献1】特開2005−112706号公報
【特許文献2】特開2002−219451号公報
【特許文献3】特開2003−334532号公報
【特許文献4】特開2004−018339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術で使用する亜硫酸ソーダ、重亜硫酸ソーダ、及び、亜硫酸カルシウムの薬剤の購入コストは高く、火力発電所において、実際にこれらの薬剤を使用して六価クロムの溶出の抑制を図ることは困難である。また、上記薬剤の製造設備を設け、薬剤の購入コストの低減を図ろうとしても、当然ながら、こうした製造設備の設置のためには多額な設備投資が必要となる。
【0012】
また、特許文献2及び3に記載の発明は、六価クロム汚染土壌を処理する方法であり、石炭灰の処理方法にそのまま適用できるものではない。更に、特許文献2から4に記載の発明においては、六価クロム汚染土壌やセメントクリンカを加熱処理するものであり、当該処理には大きなコストがかかるものである。
【0013】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、多額の設備投資が不要で、かつ、薬剤を使用せずに石炭灰からの六価クロムの溶出を低減させることが可能な石炭火力発電システム、及び、この石炭火力発電システムを用いた場合において石炭灰からの六価クロムの溶出を低減させる六価クロム溶出低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を行った結果、石炭灰回収サイロを用いて石炭灰を還元処理させることが、多額の設備投資をすることなく六価クロムの溶出低減を図るために有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
(1) 石炭を燃焼させる燃焼ボイラと、前記燃焼ボイラの下流に設けられ、前記燃焼ボイラの排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収手段と、前記石炭灰回収手段で回収された石炭灰を貯蔵する石炭灰回収サイロと、を備える石炭火力発電システムであって、前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を加熱する還元処理手段を備える石炭火力発電システム。
【0016】
(1)の発明は、石炭灰回収手段によって回収された石炭灰を石炭灰回収サイロに移し、この石炭灰回収サイロにおいて還元処理を行うための石炭火力発電システムである。石炭灰中に六価クロムが存在する場合、石炭灰回収サイロにおいて還元処理を行うことで、有害で不安定な六価クロムは無害で安定な三価クロムに還元される。
【0017】
本発明によれば、既存の石炭火力発電システムに還元処理手段を設けるだけで、他に薬剤を必要とせずに、石炭灰からの六価クロムの溶出を低減させ、石炭灰の有効利用を図ることが可能である。
【0018】
加えて、本発明によれば、既存の石炭灰回収サイロを用いることから、還元処理用の新たな容器の導入及び石炭火力発電システムの改造にかかる負担を抑えることができるため、既存の石炭火力発電システムに対しても本発明に係る石炭火力発電システムを容易に適用することができる。
【0019】
(2) 前記還元処理手段は、水蒸気の保有する熱を前記石炭灰回収サイロに供給する手段である(1)記載の石炭火力発電システム。
【0020】
(2)の発明によれば、石炭火力発電システムにおいて多用されている水蒸気を熱源として用いることによって、新たに熱源を設けることなく、還元処理手段を設けることができる。
【0021】
(3) 前記石炭火力発電システムは、更に、前記燃焼ボイラで発生する熱を利用して給水を過熱して過熱蒸気を発生させる過熱器と、前記過熱器で発生した過熱蒸気の圧力を利用して回転する高圧・中圧タービンと、を備え、前記還元処理手段は、前記高圧・中圧タービンから抽気された抽気蒸気の保有する熱を前記石炭灰回収サイロに供給する手段である(2)記載の石炭火力発電システム。
【0022】
(4) 前記還元処理手段は、前記石炭火力発電システムから取り出される補助蒸気の保有する熱を前記石炭灰回収サイロに供給する手段である(2)記載の石炭火力発電システム。
【0023】
(5) 前記石炭火力発電システムは、更に、前記燃焼ボイラで発生する熱を利用して給水を過熱して過熱蒸気を発生させる過熱器と、前記過熱器で発生した過熱蒸気の圧力を利用して回転する高圧・中圧タービンと、前記高圧・中圧タービンから排出された水蒸気を、前記燃焼ボイラで発生する熱により再過熱する再熱器と、前記過熱器で過熱された過熱蒸気又は前記再熱器で過熱された再熱蒸気の保有する熱で水を加熱する熱交換器と、を備え、前記還元処理手段は、前記熱交換器において加熱された水が蒸発することにより発生する加熱用蒸気の保有する熱を前記石炭灰回収サイロに供給する手段である(2)記載の石炭火力発電システム。
【0024】
(3)から(5)の発明は、還元処理手段において石炭灰回収サイロに供給する水蒸気の保有する熱の供給源を具体的に規定したものである。
【0025】
このうち(3)の発明によれば、高圧・中圧タービンに対して仕事を行った後の抽気蒸気の保有する熱を用いることで、石炭火力発電システム全体の仕事効率の低下を抑えつつ、石炭灰からの六価クロムの溶出を低減することができる。
【0026】
また、(4)の発明のように、補助蒸気の保有する熱を用いることで、タービン設備の大幅な改造を伴うことなく、より簡便な工事によって既設の発電所にも容易に用いることができる。
【0027】
また、(5)の発明によれば、水蒸気の原料水に対してイオン交換等の処理を行う必要がないことから、工業用水や上水をそのまま水蒸気にすることができるため、還元処理手段を用いる際のランニングコストを抑えつつ、石炭灰からの六価クロムの溶出を低減することができる。
【0028】
(6) 前記還元処理手段は水蒸気を流通する密閉された管路であり、前記管路の外表面が石炭灰と接触している(3)から(5)のいずれか記載の石炭火力発電システム。
【0029】
(6)の発明によれば、水蒸気を流通する管路が密閉されており、水蒸気が直接的に石炭灰に接触しないため、石炭灰に含まれる有害微量元素が凝縮水(ドレン)に溶出することがない。また、水蒸気中に石炭灰が分散することがないので、水蒸気に対する石炭灰回収等の処理が不要になる。したがって、よりクリーンな石炭灰の還元処理手段を提供することができる。
【0030】
(7) 前記還元処理手段は前記石炭灰回収サイロの内部に水蒸気を移入する手段である(3)から(5)のいずれか記載の石炭火力発電システム。
【0031】
(7)の発明によれば、水蒸気を断続的に石炭灰回収サイロの内部に移入して、水蒸気を石炭灰回収サイロと接触させることにより、雰囲気の還元状態を保つことが容易であり、六価クロムから三価クロムへの還元反応をより進行させることができる。
【0032】
(8) 前記石炭火力発電システムは、更に、前記石炭灰回収サイロの内部に移入された水蒸気が凝縮した凝縮水を、前記石炭灰回収サイロの外部に排出する凝縮水排出手段を備える(7)記載の石炭火力発電システム。
【0033】
(9) 前記石炭火力発電システムは、更に、前記凝縮水排出手段から排出された排水を処理する排水処理手段を備える(8)記載の石炭火力発電システム。
【0034】
(10) 前記石炭火力発電システムは、更に、前記石炭灰回収サイロの底部から前記石炭灰回収サイロの内部に空気を送風する送風手段を備え、前記石炭灰回収サイロは、開閉自在な排気孔を備える(7)記載の石炭火力発電システム。
【0035】
(8)から(10)の発明は、石炭灰が水蒸気の熱を吸収することにより、又は還元処理の後に石炭灰が冷却されることにより、水蒸気が凝縮して生じる凝縮水を、石炭灰から分離して排出する手段を規定したものである。
【0036】
(8)の発明によれば、生じた凝縮水を凝縮水排出手段によって石炭灰回収サイロの外部に排出することができるため、石炭灰を乾灰として排出することができる。これにより、石炭灰の取り扱いが容易となる。
【0037】
(9)の発明によれば、凝縮水排出手段から排出された排水を、排水処理手段を用いて処理することにより、石炭灰から溶出して排水中に含まれることとなった有害微量元素を除去することができる。これにより、有害微量元素を含んだ排水による自然環境への負荷を軽減することができる。
【0038】
(10)の発明によれば、水蒸気を石炭灰回収サイロの内部に移入した後で石炭灰回収サイロを冷却する際に、送風手段によって石炭灰回収サイロの内部に強制的に空気を送り込み、排気孔から排気することができる。これにより、石炭灰回収サイロの内部に滞留した水蒸気が凝縮して凝縮水が生じることを防ぐことができる。
【0039】
(11) 前記石炭火力発電システムは、更に、燃焼ボイラで発生した排ガスを脱硫処理する脱硫装置を備えるとともに、前記石炭灰回収サイロからの排気を前記脱硫装置に移送する手段を備える(10)記載の石炭火力発電システム。
【0040】
(12) 前記石炭火力発電システムは、更に、前記石炭灰回収サイロからの排気から石炭灰を回収する灰回収手段を備える(10)又は(11)記載の石炭火力発電システム。
【0041】
(11)の発明によれば、水蒸気を石炭灰回収サイロの内部に移入して石炭灰に接触させる際に、石炭灰回収サイロからの排気に含まれる硫黄酸化物を、脱硫装置によって排気中から除去することができる。これにより、石炭灰回収サイロからの排気に含まれる硫黄酸化物、例えば二酸化硫黄によって周囲の環境が汚染することを防ぐことができる。特に、既に燃焼ボイラで発生した排ガスを脱硫処理するために脱硫装置が設けられていれば、既設の脱硫装置を用いて、かかる脱硫処理をより効率的に行うことができる。
【0042】
(12)の発明によれば、水蒸気を石炭灰回収サイロの内部に移入して石炭灰に接触させる際に、石炭灰回収サイロからの排気に混入した石炭灰を、灰回収手段によって排気中から除去することができる。これにより、石炭灰回収サイロからの排気に含まれる石炭灰によって周囲の環境が汚染することを防ぐことができる。
【0043】
(13) (1)から(6)のいずれかに記載の石炭火力発電システムにおいて行われる、石炭灰から六価クロムの溶出を低減する六価クロム溶出低減方法であって、前記燃焼ボイラの排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収工程と、前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を250℃以上に加熱する還元処理工程と、を少なくとも有する六価クロム溶出低減方法。
【0044】
(14) (7)から(12)のいずれかに記載の石炭火力発電システムにおいて行われる、石炭灰から六価クロムの溶出を低減する六価クロム溶出低減方法であって、前記燃焼ボイラの排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収工程と、前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を250℃以上に加熱する還元処理工程と、を少なくとも有する六価クロム溶出低減方法。
【0045】
(13)及び(14)の発明は、上記(1)の発明を六価クロム溶出低減方法として捉えたものであり、上記(1)の発明と同様の効果が得られる。
【0046】
(15) 前記還元処理工程において、前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を、300℃以上に加熱する(14)記載の六価クロム溶出低減方法。
【0047】
(15)の発明によれば、還元処理工程を行う際に石炭灰が水蒸気の熱を吸収しても水蒸気が凝縮しにくくなることから、還元処理工程を通じて石炭灰が乾燥した状態を保つことができる。
【0048】
(16) 前記還元処理工程は、密閉された前記石炭灰回収サイロの内部に1MPa以上2.5MPa以下の圧力で水蒸気を移入する工程を有する(14)又は(15)記載の六価クロム溶出低減方法。
【0049】
ここで、還元処理工程において移入する上記圧力の水蒸気としては、例えば石炭火力発電システムの抽気蒸気又は補助蒸気を挙げることができる。
【0050】
(16)の発明によれば、還元処理工程において高圧の水蒸気を石炭灰回収サイロの内部に移入するとともに、石炭灰回収サイロを密閉して高圧な状態を維持することにより、6価クロムの還元反応の反応速度を向上させ、より効率的に石炭灰からの六価クロムの溶出の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、既存の石炭火力発電システムに還元処理手段を設けるだけで、他に薬剤を必要とせずに、かつ、多額の設備投資を要せずに、石炭灰からの六価クロムの溶出を低減させ、石炭灰の有効利用を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の一例を示す実施形態について、図面に基づいて説明する。図1は、石炭火力発電システムにおける微粉炭燃焼施設1を示すブロック図である。ここで、図1に示すように、微粉炭燃焼施設1は、微粉炭を燃焼する微粉炭燃焼部11と、微粉炭の燃焼により生成した石炭灰を回収する石炭灰回収部12と、石炭灰中の六価クロムを還元する還元処理部13とを備える。また、図2は、微粉炭燃焼部11における火炉111付近の拡大図であり、図4は、還元処理部13における石炭灰回収サイロ131付近の拡大図である。
【0053】
<A−3:微粉炭燃焼部>
微粉炭燃焼部11は、火炉(燃焼ボイラ)111と、火炉111を熱源とする加熱機112(熱交換ユニット)と、微粉炭とともに燃焼させる空気を火炉111に供給する空気供給機113と、を備える。
【0054】
火炉(燃焼ボイラ)111には、石炭微粉炭機101によって微細な粒度に粉砕された微粉炭を、微粉炭管(図示せず)を介して供給する。石炭微粉炭機101の種類としては、ローラミル、チューブミル、ボールミル、ビータミル、インペラーミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく微粉炭燃焼で用いられるミルであればよい。また、粉砕された微粉炭は、空気供給機113から供給された空気と混合される。これにより、微粉炭を予熱及び乾燥させて、燃焼を容易にできる。
【0055】
火炉111では、空気供給機113から供給されて加熱機112によって加熱された空気とともに微粉炭を燃焼する。加熱された空気を用いることにより、火炉111の燃焼温度が下がることを防ぐことができる。
【0056】
ここで、図2を参照して、火炉111について詳しく説明すると、図2において、火炉111は全体として略逆U字状をなしており、図中矢印に沿って燃焼ガスが逆U字状に移動した後、再度小さくU字状に反転し、火炉111の出口(図2における矢印の最後)は、図1における集塵装置121に接続されている。本実施形態に係る微粉炭燃焼施設1においては、火炉111の高さは30mから70mである。
【0057】
火炉111の下方には、火炉111内のバーナーゾーン111a’付近で微粉炭を燃焼するためのバーナ111aが配置されている。また、火炉111内のU字頂部付近には、火炉上部分割壁111b、最終過熱器111b’、第1の再熱器111f(いずれも熱交換ユニット)が配置されており、更にそこから横置き1次過熱器111c(熱交換ユニット)が続いて配置されている。更に、横置き1次過熱器111cと平行して第2の再熱器111f’が設けられており、横置き1次過熱器111cの終端付近からは、1次節炭器111d(熱交換ユニット)、2次節炭器111e(熱交換ユニット)が2段階に設けられている。ここで、節炭器(ECOとも呼ばれる)は、燃焼ガスの保有する熱を利用してボイラ給水を予熱するために設けられた伝熱面群である。なお、本実施形態においては、火炉111中、1次節炭器111dと2次節炭器111eとは、2段階に分離して設置されているが、このような形態に限定されない。すなわち、火炉111は単一の節炭器のみを有するものであってもよい。
【0058】
そして、火炉111を用いて微粉炭を燃焼することによって石炭灰(シンターアッシュ、クリンカアッシュ)及び排ガス(燃焼ガス)が生成し、このうち排ガスは石炭灰回収部12に排出される。
【0059】
<A−4:石炭灰回収部>
石炭灰回収部12は、排ガスに含まれる石炭灰(フライアッシュ)を回収する集塵装置121を備える。
【0060】
集塵装置121は、排ガスに含まれる石炭灰を電極で捕集して回収する装置である。この集塵装置121により回収された石炭灰は、石炭灰回収サイロ131に搬送される。また、石炭灰が除去された排ガスは、脱硫装置139を介した後に図示しない煙突から排出されることが好ましい。加えて、排ガスからの石炭灰の除去をより確実に行う観点から、この集塵装置121は複数段設けられていることが好ましい。
【0061】
<A−5:還元処理部>
還元処理部13は、石炭灰回収部12の集塵装置121で回収された石炭灰を貯蔵する石炭灰回収サイロ131と、石炭灰回収サイロ131に貯蔵された石炭灰を加熱する還元処理手段133とを備える。
【0062】
石炭灰回収サイロ131は、還元処理手段からの熱及び石炭灰の成分に対して、耐食性及び耐熱性がある容器を用いる。特に、後述のように水蒸気によって石炭灰を直接加熱する場合には、例えば図4に示すように、制御弁136a及び136bによって密閉状態と開状態とを切替えることで、内部を密閉又は開放することが可能な容器を石炭灰回収サイロ131として用いることが好ましい。これにより、石炭灰回収サイロ131内の水蒸気の圧力を一定に保つことが出来る。
【0063】
還元処理手段133は、石炭灰に対して250℃以上に加熱を行うことのできる手段であれば特に限定されず、高周波加熱器や電気加熱、バーナ、水蒸気を用いて加熱することが可能である。この中で特に、水蒸気を用いて加熱することが好ましい。還元処理手段133として水蒸気を用いることで、石炭火力発電システムにおいて多用されている水蒸気の熱によって石炭灰を加熱することができ、新たに熱源を設けることを要せずに、還元処理手段133を設けることができる。
【0064】
還元処理手段133として水蒸気を用いた場合には、水蒸気すなわち抽気蒸気、補助蒸気、又は加熱用蒸気の保有する熱を、石炭灰回収サイロ131に供給する。具体的には、抽気蒸気を用いる場合には、還元処理手段133は、図3に示す火力発電設備において、高圧・中圧タービン4又は低圧タービン6において用いられる蒸気の一部を取り出し、その保有する熱を石炭灰回収サイロ131に供給する手段133a、133bである。また、補助蒸気を用いる場合には、還元処理手段133は、石炭火力発電システムから取り出される補助蒸気の一部を取り出し、その保有する熱を石炭灰回収サイロ131に供給する手段(図示せず)である。また、加熱用蒸気を用いる場合には、還元処理手段133は、火炉111で発生する熱を間接的に用いて発生させた蒸気の保有する熱を石炭灰回収サイロ131に供給する手段(図示せず)である。これらの還元処理手段133は、制御弁136aを用いて間欠的に石炭灰回収サイロ131に水蒸気の保有する熱を供給することが可能な構造を有していることが好ましい。
【0065】
このとき制御弁136aは、時間の経過とともに段階的に開いていくことが好ましい。具体的には、制御弁136aが微開の状態で5分間保持した後で、開度10%で5分間、開度30%で5分間、開度50%で10分間それぞれ保持し、その後に開度を100%とする方法を用いることができる。但し、制御弁136aの制御方法はこの方法に限定されない。徐々に制御弁136aの開度を上げていくことで、冷却された石炭灰回収サイロ131に急激な温度変化を生じさせて石炭灰回収サイロ131にダメージを及ぼすことを防ぐことができる。加えて、石炭灰回収サイロ131に鉛直方向に複数箇所に温度計(図示せず)を設置し、それらの温度が250℃を越えた時点からタイマー(図示せず)を作動させて所定時間(例えば60分)後に制御弁136aを閉じて石炭灰を冷却することができる。温度計を複数設けることで、石炭灰の還元処理漏れが生じることを防ぐことができる。なお、制御弁136aの上流には、緊急用の遮断弁や安全弁(ともに図示せず)を別に設けることが好ましい。これにより、制御弁136aの動作不良時や石炭灰回収サイロ131において異常圧力が生じたときに、石炭灰回収サイロ131の内部の圧力上昇を防ぎ、石炭灰回収サイロ131の内部の異常昇圧を逃がすことで、石炭火力発電システムに影響が及ぶことを防ぐことができる。
【0066】
ここで、石炭灰回収サイロ131に送られた水蒸気は、石炭灰を間接的に加熱するようにしてもよい。具体的には、石炭灰回収サイロ131に、還元処理手段133として、外表面が石炭灰と接触しておりかつ密閉された銅管等の管路からなるコイルを伝熱手段として配し、コイルの内部に水蒸気を流通させて石炭灰を加熱することができる。この場合、水蒸気が直接石炭灰に接触せず、石炭灰に水蒸気の凝縮水が混ざることがない。そのため、排出された凝縮水に対する排水処理が不要となる。また、水蒸気中に石炭灰が分散することがないので、水蒸気から石炭灰を回収する必要がない。したがって、よりクリーンな石炭灰の還元処理手段を提供することができる。
【0067】
また、水蒸気を石炭灰回収サイロ131の内部に移入させて、石炭灰を直接的に加熱するようにしてもよい。具体的には、石炭灰回収サイロ131に貯蔵された石炭灰に水蒸気を吹き付けて直接接触させることで、石炭灰を加熱することができる。特に、水蒸気を断続的に石炭灰回収サイロ131の内部に断続的に移入することで、雰囲気の還元状態を容易に保つことができ、六価クロムから三価クロムへの還元反応をよりスムーズに進行させることができる。
【0068】
一方、還元処理工程133に用いる水蒸気としては、以下に示すような抽気蒸気又は補助蒸気をそのまま用いることができる。または、これら抽気蒸気又は補助蒸気を用いて加熱用蒸気を発生させ、その加熱用蒸気を用いるようにしてもよい。
【0069】
本実施形態の火力発電設備における、復水系統、給水系統の概略図を図3に示す。本実施形態にかかる火力発電設備は、微粉炭を燃焼させ、燃焼熱を発生させる火炉111と、火炉111で発生する熱を利用して給水管19より給水される給水を過熱し、蒸気を発生させる蒸発管2(節炭器、水壁、及び二次過熱器)と、蒸発管2で発生した蒸気の圧力を利用して回転する高圧・中圧タービン4と、高圧・中圧タービン4から排出された蒸気を、火炉111で発生する熱により再過熱する再熱器5と、再熱器5で再過熱された蒸気の圧力を利用して回転する低圧タービン6と、海水により蒸気を冷却して復水を生成するための復水器7と、復水に混入した空気を除去するための脱気器10と、復水器7から脱気器10へと復水を流通させるための復水管18と、を備える。
【0070】
ここで「抽気蒸気」は、上述の石炭火力発電システムの高圧・中圧タービン4で用いられている蒸気の一部を取り出したものである。抽気蒸気の保有する熱を石炭灰回収サイロ131に供給する場合には、複数段の高圧・中圧タービン4から抽気を取り、これらを混合して石炭灰の加熱に用いることが好ましい。複数段のタービンから抽気を取ることで、タービン間のヒートバランスが崩れることを防ぐことができる。抽気の例としては、高圧・中圧タービン4の出口付近の2抽気もしくは3抽気が挙げられる。
【0071】
一方で「補助蒸気」は、石炭火力発電システムから取り出される蒸気であって、発電所内の動力や熱源として用いられる蒸気をいう。補助蒸気を用いることで、タービン設備の大幅な改造を伴うことなく、より簡便な工事によって既設の発電所にも本発明を容易に適用することが可能である。
【0072】
また、「加熱用蒸気」は、火炉111で発生する熱を間接的に用いた蒸気であって、給水系統及び復水系統とは異なる系統の循環系統において発生する蒸気をいう。加熱用蒸気の保有する熱を石炭灰回収サイロ131に供給する場合には、加熱用蒸気を生成する水として、復水・給水とは異なる水(例えば工業用水や上水)を用いるとともに、熱交換器(図示せず)を用いて、抽気蒸気又は補助蒸気の熱で蒸気を発生させることが好ましい。給水はイオン交換等の処理がなされた超純水であって高価なため、加熱用蒸気を用いることで、本発明の石炭火力発電システムに要するランニングコストを抑えることができる。
【0073】
また、火炉111、抽気蒸気及び/又は補助蒸気を生成する水として、アンモニアを微量注入した水を用いてもよい。アンモニアを微量注入することで、高圧・中圧タービン4及び低圧タービン6の腐食を防止することができる。
【0074】
本実施形態の石炭火力発電システムにおいて、石炭灰回収サイロ131に貯蔵された石炭灰に直接水蒸気を接触させる場合には、石炭灰回収サイロ131は凝縮水排出手段を備えることが好ましい。石炭灰回収サイロ131の内部に移入した水蒸気が凝縮して生じる凝縮水を、凝縮水排出手段を用いて石炭灰回収サイロ131の外部に排出することで、還元処理後の石炭灰を乾灰として排出することが出来る。具体的には、図4に示すように、石炭灰回収サイロ131の底部にレベル計を設置し、レベル計において凝縮水が検知されたときに、凝縮水排出手段として設けられた制御弁136c(ドレン弁)を開くとよい。特に、石炭灰回収サイロ131の内外において圧力差があるときは、ドレン弁から流れ出た凝縮水は一旦バッファータンク134に貯留し、制御弁136dを閉じてバッファータンク134と石炭灰回収サイロ131を遮断してからバッファータンク134の圧力を逃がし、バッファータンク134に貯留された凝縮水を排出することが好ましい。
【0075】
ここで、バッファータンク134から排出された凝縮水は、排水処理手段135によって処理されることが好ましい。凝縮水排出手段から排出された排水を、排水処理手段135を用いて処理することにより、石炭灰回収サイロ131において水蒸気を石炭灰に接触させた際に、石炭灰から溶出して凝縮水に含まれることとなった有害微量元素を除去することができる。
【0076】
更に、本実施形態の石炭火力発電システムにおいて、石炭灰回収サイロ131に貯蔵された石炭灰に直接水蒸気を接触させる場合には、石炭灰回収サイロ131の底部から内部に空気を送風する送風手段137を備えることが好ましい。これにより、石炭灰回収サイロ131の内部を強制的に換気することで、石炭灰回収サイロ131の内部に滞留した水蒸気が凝縮して凝縮水となることを防ぐことができる。具体的には、図4に示すように、石炭灰回収サイロ131の底部に送風手段137としてファンを設け、水蒸気を移入した後に石炭灰回収サイロ131を冷却する際、このファンから石炭灰回収サイロ131の内部に風を送り込んで強制換気を行うとともに、制御弁136bを通じて排気させるとよい。
【0077】
制御弁136bから排出される排気は、灰回収手段138を通過させることが好ましい。すなわち、石炭灰回収サイロ131からの排気を灰回収手段138に通過させることで、排気中に存在する石炭灰を除去することができる。これにより、水蒸気を粉体である石炭灰に接触させる際に、排気に混ざって石炭灰が排出されることを防ぐことができる。具体的には、図4に示すように、石炭灰回収サイロ131の制御弁136bの下流に、灰回収手段138としてサイクロンを設けるとよい。ここで、灰回収手段138により回収された石炭灰は、石炭灰回収サイロ131に戻すことが好ましい。回収された石炭灰には六価クロムが含まれており、これらにも高温の水蒸気を接触させることで再利用が可能となる。
【0078】
制御弁136bから排出される排気は、更に、脱硫装置139に移送した後に、図示しない煙突から排出させることが好ましい。すなわち、石炭灰回収サイロ131からの排気を脱硫装置139に通過させることで、排気中に含まれる硫黄酸化物を除去することができる。これにより、水蒸気を粉体である石炭灰に接触させる際に、排気に混ざって排出された二酸化硫黄等が外部に流出することを防ぐことができる。具体的には、図4に示すように、灰回収手段138の下流で、火炉111で発生した排ガスに脱硫処理を行っている脱硫装置139に、制御弁136bから排出される排気を移送するとよい。
【0079】
なお、本実施形態では、石炭灰回収サイロ131は、石炭灰を貯蔵する手段であるとともに石炭灰を還元処理する手段であるが、石炭灰を還元処理するための石炭灰封入容器を、石炭灰を貯蔵する石炭灰回収サイロ131とは別に設けることもできる。その場合、石炭灰封入容器において還元処理した石炭灰を、石炭灰排出手段(図示せず)を用いて石炭灰回収サイロ131に排出し、石炭灰回収サイロ131において石炭灰を貯蔵する。石炭灰排出手段の具体例としては、石炭灰回収サイロ131に接続され、石炭灰を上記サイロに供給することが可能な管(パイプ)と、石炭灰を石炭灰回収サイロ131に供給する動力となる送風機と、から構成された手段が挙げられる。その他の石炭灰排出手段としては、石炭灰を石炭灰回収サイロ131に供給するスクリューコンベアー等が挙げられる。また、石炭灰排出手段は、前もって搬送しておいた石炭灰を、石炭灰回収サイロ131に供給する手段であってもよい。しかしながら、石炭灰排出手段はこれらに限定されるものではなく、石炭灰を石炭灰回収サイロ131に供給することが可能であればどのような供給手段(供給装置)であってもよい。
【0080】
<B:本発明の六価クロム溶出低減方法>
本発明の六価クロム溶出低減方法は、石炭を燃焼させる火炉(燃焼ボイラ)111と、火炉111の下流に設けられ、火炉111の排ガスに含まれる石炭灰(フライアッシュ)を回収する石炭灰回収手段と、石炭灰回収手段で回収された石炭灰を貯蔵する石炭灰回収サイロ131とを備えた石炭火力発電システムにおいて行われるものであって、火炉111の排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収工程と、石炭灰回収サイロ131に貯蔵された石炭灰を250℃以上に加熱する還元処理工程と、を行うことにより、石炭灰からの六価クロムの溶出を低減させる方法である。この方法を、上記の微粉炭燃焼施設1を用いて説明する。
【0081】
石炭灰からの六価クロムの溶出を低減させる方法は、微粉炭を燃焼して石炭灰を生成する微粉炭燃焼工程S10と、火炉111の排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収工程S20と、石炭灰回収サイロ131に貯蔵された石炭灰を250℃以上に加熱して還元処理する還元処理工程S30とを含む。
【0082】
ここで、微粉炭燃焼工程S10は微粉炭燃焼部11において行われる。石炭灰回収工程S20は石炭灰回収部12において行われる。還元処理工程S30は還元処理部13において行われる。以下、各工程について説明する。
【0083】
<微粉炭燃焼工程S10>
微粉炭燃焼工程S10では、石炭微粉炭機101で生成された微粉炭が、火炉111において燃焼される。ここで、微粉炭の原料となる石炭は、具体的には瀝青炭、亜瀝青炭、又は褐炭等であるが、これらの石炭に限定されるものではなく微粉炭燃焼が行える石炭であればよい。また、火炉111に供給される微粉炭の平均の粒度は、微粉炭燃焼で一般的に用いられる粒径範囲であればよく、一般的には、74μmアンダー80wt%以上の粉砕度である。
【0084】
図2に示すように、バーナーゾーン111a’においては微粉炭が燃焼されるが、このときの温度は1300℃から1500℃に及び、燃焼によって生成される石炭灰は、矢印の方向に沿って上昇して排ガスとともに火炉上部分割壁111b、最終過熱器111b’、第1の再熱器111f、第2の再熱器111f’、横置き1次過熱器111c(いずれも熱交換ユニット)を通過し、1次節炭器111d(熱交換ユニット)、2次節炭器111e(熱交換ユニット)を順次通過する。上記のように、この熱交換ユニット付近は、450℃から900℃前後が維持されている領域であり、この燃焼ガスの保有する熱を利用してボイラ給水を予熱するために設けられた伝熱面群を通過することによって熱交換され、排ガスの温度が低下する。排ガスがバーナーゾーン111a’から節炭器付近まで到達するまでに要する時間は、おおむね5秒から10秒である。そして、その後排ガスは後段の集塵装置121に送られる。
【0085】
<石炭灰回収工程S20>
その後、微粉炭を燃焼することにより生成された排ガスは集塵装置121に送られる。集塵装置121で排ガス中から回収された石炭灰(フライアッシュ)は石炭灰回収サイロ131に搬送される。また、石炭灰が除去された排ガスは、脱硫装置139を介した後に、図示しない煙突から排出される。
【0086】
石炭灰回収サイロ131に供給される石炭灰は、特に限定されるものではないが、火炉111で発生して沈降した石炭灰(クリンカアッシュ・シンダアッシュ)以外の灰に対して用いるのが好ましい。なお、石炭灰の平均粒径は100μm以下であることが好ましい。
【0087】
<還元処理工程S30>
本発明の特徴の一つである還元処理工程S30は、還元処理手段133を用いて石炭灰回収サイロ131に貯蔵された石炭灰を250℃以上に加熱する工程である。
【0088】
ここで、本実施形態の六価クロム溶出低減方法においては、還元処理手段133として水蒸気を用いるとともに、水蒸気の保有する熱を石炭灰回収サイロ131に供給し、石炭灰を加熱して6価クロムの還元処理を行うことが好ましい。水蒸気としては、抽気蒸気、補助蒸気、又は加熱用蒸気を用いることができる。水蒸気の保有する熱による石炭灰の加熱温度は、250℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。石炭灰を250℃以上に加熱することで、石炭灰中の6価クロムの還元反応を効率的に進めることができる。また、300℃以上に加熱することで、還元処理工程S30を行う際に水蒸気が石炭灰に直接又は間接的に接触しても、水蒸気の凝縮を防ぐことができる。なお、還元処理工程S30は、常圧下では60分以上行うことが好ましいが、加圧下ではより短時間で本工程を行うことができるためなお好ましい。
【0089】
また、特に水蒸気を石炭灰に直接接触させて加熱する場合においては、還元処理工程S30を行う際に、密閉できる構造の石炭灰回収サイロ131を用いることが好ましい。加えて、石炭灰回収サイロ131の内部に移入する水蒸気の圧力を1MPa以上2.5MPa以下として、高圧状態を維持することが好ましい。例えば図4に示すように、制御弁136a及び136bを閉じて石炭灰回収サイロ131を密閉した状態で上記圧力の水蒸気を移入し、高圧状態を維持することによって、6価クロムの還元反応の反応速度を向上させ、より効率的に石炭灰からの六価クロムの溶出の低減を図ることができる。なお、石炭火力発電システムから取り出される抽気蒸気又は補助蒸気は1MPa以上2.5MPa以下の圧力を有することが多いことから、上記圧力を有する水蒸気として、石炭火力発電システムの抽気蒸気又は補助蒸気を用いることが好ましい。
【0090】
そして、石炭灰回収サイロ131を密閉した後で、石炭灰回収サイロ131の底部から石炭灰回収サイロ131の内部に空気を送風するとともに、石炭灰回収サイロ131に設けられた制御弁136bを通じて排気を行い、石炭灰を冷却することが好ましい。石炭灰回収サイロ131の内部を強制的に換気することで、冷却の際に水蒸気が凝縮するのを防ぐことができる。この石炭灰の冷却方法は、密閉できる構造の石炭灰回収サイロ131のみならず、密閉構造を有しない石炭灰回収サイロ131に対しても好ましく用いることができる。
【0091】
石炭灰を冷却する際には、石炭灰回収サイロ131の底に溜まった凝縮水の排出を凝縮水排出手段により行うことが好ましい。この凝縮水は、石炭灰回収サイロ131の内部に移入された水蒸気が凝縮したものである。凝縮水を石炭灰回収サイロ131の外部に排出することで、石炭灰を乾灰として排出することができる。凝縮水の排出は、還元処理工程S30の後で石炭灰を冷却する場合に限らず、還元処理工程S30と並行して行ってもよい。
【0092】
ここで排出された凝縮水は、排水処理手段135によって処理されることが好ましい。この凝縮水には、石炭灰回収サイロ131において水蒸気を移入された水蒸気が凝縮するまでの間に、石炭灰から有害微量元素が溶出していることが多い。この排水を、排水処理手段135を用いて処理することで、最終的に排出される凝縮水から有害微量元素を除去することができる。
【0093】
一方で、石炭灰回収サイロ131の制御弁136bを通じて排出される排気は、灰回収手段138を通過させることにより、排気中の石炭灰を回収することが好ましい。回収された石炭灰は石炭灰回収サイロ131に戻すようにする。灰回収手段138を用いることで、石炭灰回収サイロ131からの排気に混入した石炭灰によって、周囲の環境が汚染されることを防ぐことができる。灰回収手段138として、具体的にはサイクロンを挙げることができる。
【0094】
灰回収手段138によって灰を回収された排気は、更に、脱硫装置139を介した後に、図示しない煙突から排出させることが好ましい。すなわち、石炭灰回収サイロ131からの排気を脱硫装置139に通過させることで、排気中に含まれる硫黄酸化物を除去することができる。
【0095】
なお、本実施形態の還元処理工程S30では、石炭火力発電システムの抽気蒸気、補助蒸気、又は加熱用蒸気の保有する熱を石炭灰回収サイロ131に供給する処理を行っているが、有害微量元素の溶出防止を可能とする燃料添加剤を水蒸気に加えて石炭灰回収サイロ131の内部に移入する溶出抑制添加剤処理工程を行うようにしてもよい。この処理によって、石炭灰からの六価クロムの溶出を抑制するばかりでなく、例えば、石炭灰からのフッ素、ホウ素等の有害微量元素の溶出を防止することができる。
【0096】
本実施形態において、石炭火力発電システムの高圧・中圧タービン4及び低圧タービン6に対して仕事を行った抽気には、合わせて8種類の温度及び圧力を有する抽気が存在し、それらの温度は45℃〜450℃まで存在する。これらの抽気を選択し又はブレンドした250℃以上の抽気を用いることが好ましい。250℃以上の抽気を用いることで、石炭灰を効率的に250℃以上に加熱することができる。また、補助蒸気の温度も250℃〜350℃あるため、補助蒸気を用いることにより、抽気同様に石炭灰を250℃以上に加熱することができる。加えて、抽気蒸気を断続的に石炭灰回収サイロ131に流入させることにより、雰囲気の還元状態を保つことが容易である。
【0097】
したがって、本実施形態の六価クロム溶出低減方法は、既存の石炭火力発電システムに設けられる既存の設備に軽微な改良を加えるだけで、石炭火力発電システムで排出される石炭灰からの六価クロムの溶出を低減することができるため、既存設備を有効利用することができ、コスト的にも有利な石炭灰の六価クロム溶出低減方法となる。
【0098】
なお、本実施形態の還元処理工程S30では、水蒸気のみを用いて石炭灰中の六価クロムを還元する方法を示したが、これに限定されず、還元性ガスを併用して六価クロムの還元を行ってもよい。例えば、石炭灰回収サイロ131の内部に還元性ガスを常時封入しておいてもよく、還元性ガスを水蒸気の保有する熱を用いて加温したガスを石炭灰回収サイロ131の内部に封入してもよく、還元性ガスを水蒸気とともに石炭灰回収サイロ131の内部に移入してもよい。還元性ガスを水蒸気とともに石炭灰回収サイロ131に移入する場合には、還元性ガスの存在によって反応速度を高めることができることから、還元性ガス種及びその濃度によっては、30分程度で六価クロムの還元反応を行うことも可能である。
【0099】
また、石炭灰が酸化カルシウム等を含有する場合をはじめ、石炭灰がアルカリ性を示す場合には、250℃以上に加熱しても石炭灰中の六価クロムが十分に還元されない場合もある。このような場合には、石炭灰を予め炭酸ガス等で中和した後で、石炭灰に対して還元処理工程S30を行うとよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一実施形態を示す石炭火力発電システムにおける微粉炭燃焼施設のブロック図である。
【図2】図1における火炉付近の拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す火力発電設備のブロック図である。
【図4】図1における石炭灰回収サイロ付近の拡大図である。
【符号の説明】
【0101】
1 微粉炭燃焼施設
101 石炭微粉炭機
11 微粉炭燃焼部
111 火炉
111a’ バーナーゾーン
111a バーナ
111b 火炉上部分割壁
111b’ 最終過熱器
111c 横置き1次過熱器
111d 1次節炭器
111e 2次節炭器
111f 第1の再熱器
111f’ 第2の再熱器
112 加熱器
113 空気供給機
12 石炭灰回収部
121 集塵装置
13 還元処理部
131 石炭灰回収サイロ
133 還元処理手段
134 バッファータンク
135 排水処理手段
136a〜136d 制御弁
137 送風手段
138 灰回収手段
139 脱硫装置
2 蒸発管
3 ボイラ
4 高圧・中圧タービン
5 再熱器
6 低圧タービン
7 復水器
10 脱気器
18 復水管
19 給水管
S10 微粉炭燃焼工程
S20 石炭灰回収工程
S30 還元処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を燃焼させる燃焼ボイラと、
前記燃焼ボイラの下流に設けられ、前記燃焼ボイラの排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収手段と、
前記石炭灰回収手段で回収された石炭灰を貯蔵する石炭灰回収サイロと、を備える石炭火力発電システムであって、
前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を加熱する還元処理手段を備える石炭火力発電システム。
【請求項2】
前記還元処理手段は、水蒸気の保有する熱を前記石炭灰回収サイロに供給する手段である請求項1記載の石炭火力発電システム。
【請求項3】
前記石炭火力発電システムは、更に、前記燃焼ボイラで発生する熱を利用して給水を過熱して過熱蒸気を発生させる過熱器と、
前記過熱器で発生した過熱蒸気の圧力を利用して回転する高圧・中圧タービンと、を備え、
前記還元処理手段は、前記高圧・中圧タービンから抽気された抽気蒸気の保有する熱を前記石炭灰回収サイロに供給する手段である請求項2記載の石炭火力発電システム。
【請求項4】
前記還元処理手段は、前記石炭火力発電システムから取り出される補助蒸気の保有する熱を前記石炭灰回収サイロに供給する手段である請求項2記載の石炭火力発電システム。
【請求項5】
前記石炭火力発電システムは、更に、前記燃焼ボイラで発生する熱を利用して給水を過熱して過熱蒸気を発生させる過熱器と、
前記過熱器で発生した過熱蒸気の圧力を利用して回転する高圧・中圧タービンと、
前記高圧・中圧タービンから排出された水蒸気を、前記燃焼ボイラで発生する熱により再過熱する再熱器と、
前記過熱器で過熱された過熱蒸気又は前記再熱器で過熱された再熱蒸気の保有する熱で水を加熱する熱交換器と、を備え、
前記還元処理手段は、前記熱交換器において加熱された水が蒸発することにより発生する加熱用蒸気の保有する熱を前記石炭灰回収サイロに供給する手段である請求項2記載の石炭火力発電システム。
【請求項6】
前記還元処理手段は水蒸気を流通する密閉された管路であり、前記管路の外表面が石炭灰と接触している請求項3から5のいずれか記載の石炭火力発電システム。
【請求項7】
前記還元処理手段は前記石炭灰回収サイロの内部に水蒸気を移入する手段である請求項3から5のいずれか記載の石炭火力発電システム。
【請求項8】
前記石炭火力発電システムは、更に、前記石炭灰回収サイロの内部に移入された水蒸気が凝縮した凝縮水を、前記石炭灰回収サイロの外部に排出する凝縮水排出手段を備える請求項7記載の石炭火力発電システム。
【請求項9】
前記石炭火力発電システムは、更に、前記凝縮水排出手段から排出された排水を処理する排水処理手段を備える請求項8記載の石炭火力発電システム。
【請求項10】
前記石炭火力発電システムは、更に、前記石炭灰回収サイロの底部から前記石炭灰回収サイロの内部に空気を送風する送風手段を備え、
前記石炭灰回収サイロは、開閉自在な排気孔を備える請求項7記載の石炭火力発電システム。
【請求項11】
前記石炭火力発電システムは、更に、燃焼ボイラで発生した排ガスを脱硫処理する脱硫装置を備えるとともに、前記石炭灰回収サイロからの排気を前記脱硫装置に移送する手段を備える請求項10記載の石炭火力発電システム。
【請求項12】
前記石炭火力発電システムは、更に、前記石炭灰回収サイロからの排気から石炭灰を回収する灰回収手段を備える請求項10又は11記載の石炭火力発電システム。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の石炭火力発電システムにおいて行われる、石炭灰から六価クロムの溶出を低減する六価クロム溶出低減方法であって、
前記燃焼ボイラの排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収工程と、
前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を250℃以上に加熱する還元処理工程と、を少なくとも有する六価クロム溶出低減方法。
【請求項14】
請求項7〜12のいずれかに記載の石炭火力発電システムにおいて行われる、石炭灰から六価クロムの溶出を低減する六価クロム溶出低減方法であって、
前記燃焼ボイラの排ガスに含まれる石炭灰を回収する石炭灰回収工程と、
前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を250℃以上に加熱する還元処理工程と、を少なくとも有する六価クロム溶出低減方法。
【請求項15】
前記還元処理工程において、前記石炭灰回収サイロに貯蔵された石炭灰を300℃以上に加熱する請求項14記載の六価クロム溶出低減方法。
【請求項16】
前記還元処理工程は、密閉された前記石炭灰回収サイロの内部に1MPa以上2.5MPa以下の圧力で水蒸気を移入する工程を有する請求項14又は15記載の六価クロム溶出低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−72731(P2009−72731A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246074(P2007−246074)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】