説明

石積み構造物および石積み工法

【課題】重量安定性が十分であり、しかも材料コストの低減にも寄与する石積み構造物および石積み工法を提供する。
【解決手段】護岸法面Aにフレーム構造の架台5を据付けた後、該架台5上に、二枚の格子枠2の間に植生マット3を挟んでなる基板4を敷き並べる。そして、予めアンカー6を植設した石材7の複数を、そのアンカー6を前記基板4を通しながら基板4上に載置し、その後、架台5の周囲を型枠で囲んで、その内部にコンクリートを打設し、コンクリート層8に前記アンカー6の先端部を埋込んで、重量の大きい石積み構造物を完成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、湖沼、海岸等の護岸や突堤の多自然化に向けて好適な石積み構造物および石積み工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、護岸等の多自然化を目的とした石積み構造物としては、たとえば、特許文献1、2に記載されたものがあった。このうち、特許文献1に記載されたものは、金網に複数の石材(自然石)を連結金具を用いて連結してなっており、一方、特許文献2に記載されたものは、複数の自然石で囲んだ区画空間内にコンクリートを打設して、コンクリート基板内に各石材に一端部を植込んだアンカーの他端部を埋込んでなっている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−98527号公報
【特許文献2】特開2006−132314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された石積み構造物では、石材の重量だけで自立するものとなっているため、台風等による激しい水流や潮流によってめくれ上がってしまう危険があり、重量安定性に欠けるという問題があった。また、特許文献2に記載された石積み構造物では、周囲に配列した自然石を型枠としてその内部にコンクリートを打設するため、自然石として大きさの揃った巨石(600mm程度)が必要で、自然石の入手が困難になって、材料コストの上昇が避けられないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、重量安定性が十分であり、しかも材料コストの低減にも寄与する石積み構造物および石積み工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る石積み構造物は、ネット状支持体とシート状物とを重ね合させて一体化した基板と、該基板の1枚または複数枚を上面に支持するフレーム構造の架台と、予めアンカーが植設され、該アンカーの一端部を前記基板を挿通して前記架台内に延在させた状態で該基板上に載置された複数の石材と、前記架台内に打設され、前記アンカーの一端部を埋込んだコンクリート層とからなることを特徴とする。
【0007】
このように構成した石積み構造物においては、石材が載置される基板を支持する架台内に打設したコンクリート層が一体となっているので、重量安定性は十分となる。また、シート状物を備えた基板が型枠として用いられるので、この上に載置する石材としては任意の大きさのものを選択できる。
【0008】
本発明の石積み構造物において、上記シート状物が植生マット望ましくはヤシマットであり、上記基板は、二枚のネット状支持体の間に該植生マットを挟んだサンドイッチ構造となっている構成としてもよい。このように基板を構成し場合は、植生マットの存在で植物の生育が促進される。
【0009】
本発明に係る石積み工法は、上記した石積み構造物の設置を行うもので、その第1の発明は、施工面に架台を据付けた後、該架台上に1枚または複数枚の基板を敷き並べ、次に、予めアンカーを植設した石材の複数を、該アンカーの一端部を前記基板を通して前記架台内まで延出させながら該基板上に載置し、しかる後、前記架台の周囲を型枠で囲んでその内部にコンクリートを打設することを特徴とする。
【0010】
また、石積み工法としての第2の発明は、1枚または複数枚の基板を上面に敷き並べた架台を施工面に据付けた後、予めアンカーを植設した石材の複数を、該アンカーの一端部を前記基板を通して前記架台内まで延出させながら該基板上に載置し、しかる後、前記架台の周囲を型枠で囲んでその内部にコンクリートを打設することを特徴とする石積み工法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る石積み構造物および石積み工法によれば、重量安定性が十分であることはもちろん、用いる石材の大きさに制限を受けないので材料コストが低減し、河川、湖沼、海岸等の護岸や突堤の多自然化に向けて好適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1および図2は、本発明に係る石積み構造物の一つの実施形態を示したものである。本石積み構造物1は、河川護岸の法面Aに設置されるもので、二枚のネット状支持体2,2の間に植生マット(シート状物)3を配設してなるサンドイッチ構造の基板4と、前記法面Aに据付けられ、複数の基板4を上面に支持するフレーム構造の架台5と、予めアンカー6が植設され、該アンカー6の先端部を基板4を挿通して架台5内に延在させた状態で該基板4上に載置された複数の石材7と、架台5内に打設されたコンクリート層8とから概略構成されている。
【0013】
上記基板4を構成するネット状支持体2は、ここでは図3に示されるように、鋼棒望ましくは防錆処理を施した鋼棒2aを縦横に配列してそれらの交差部を溶接してなる格子枠となっている。この格子枠2の目は、強度(剛性)をあまり低下させない範囲内で、できるだけ粗くするのが望ましい。一例として、その目の大きさは、50〜100mm四方程度に設定される。なお、前記ネット状支持体の種類は任意であり、前記格子枠2に代えて、エキスパンドメタル、パンチングメタル、亀甲金網等の金属系多孔体をはじめ、プラスチック製ネットを使用できる。これらの使用に際しても、前記同様に強度的に許容される範囲内で、できるだけ目の粗いものを選択する。また、プラスチック製ネットを使用する場合は、環境保全のために生分解性材料からなるものを選択するのが望ましい。
【0014】
また、基板4を構成する植生マット3の種類も任意であるが、入手容易でコスト的に安価であり、かつ環境に対する悪影響がないことからヤシマットを用いるのが望ましい。この植生マット3を格子枠2に固定するには、二枚の格子枠2の間に植生マット3を挟んだ状態で、その端縁部および中央部の適当箇所で二枚のネット2を適宜の連結具で連結すればよい。なお、基板4は、一例として縦2m、横1m程度の大きさとなっている。
【0015】
上記架台5は、図4によく示されるようにアングル、フラットバー等のフレーム5aを溶接により組んだ箱形状をなしている。この架台5は、基板4を複数枚(ここでは、二枚)載置できる大きさに形成されており、その上部には、上記石材7の載荷重に耐えるように基板4を安定支持するための補助フレーム5bが縦横に配列されている。
【0016】
上記石材7としては、自然石はもちろん、建設発生材や擬石を用いることができる。この石材6の大きさは任意であり、直径200〜500mm程度の中型石であっても、直径500mmを超える巨石であってもよい。この石材7に植設するアンカー6の種類は任意であり、たとえば、ホールアンカー、差筋アンカー等のメカニカルアンカーはもとより、接着剤によるケミカルアンカーを用いることができる。石材7に対するアンカー6の植設は、石材7に事前削孔した孔にアンカー6の一端部を打込むことで簡単に行うことができる。なお、石材7として巨石を用いる場合は、複数本のアンカー6を石材7に植設するようにしてもよい。
【0017】
上記石材7は、アンカー6を基板4に刺込んだ状態で該基板4上に載置され、一方、架台5内まで延ばされたアンカー6の先端部は、上記打設コンクリート層8に埋込まれている。これにより各石材7はアンカー6を介して強固にコンクリート層8に固定され、これと共に基板4が、架台5を含むコンクリート層8上に位置固定される。しかして、複数の石材7は、相互に部分接触する状態で基板4上に配置されており、これにより複数の石材7を法面Aに積上げた石積み護岸が出現する。
【0018】
上記石積み構造物1を護岸法面Aに設置するには、予め護岸法面Aの法尻に設置したコンクリート基礎10を起点に架台5を法面(施工面)A上に据付ける。この場合、コンクリート基礎10に沿う横方向へ複数の架台5を連接して据付けてもよく、複数の架台5を据付ける場合は、架台5同士を適宜の連結具により連結する。次に、前記架台5上に所要枚数の基板4を敷き並べ、所望により各基板4を架台5に連結する。なお、別の場所で架台5に基板4を組付けて、これを法面A上に搬入するようにしてもよい。次に、予めアンカー6を植設した石材7を、該アンカー6の先端部を基板4を通して架台5内まで延出させながら該基板4上に載置する。このとき、護岸法面Aの下側から積上げるようにして複数の石材7を載置するが、石材7の安定を図るため、図2に示されるように各石材7の間に小粒の間詰石11を介在させてもよい。
【0019】
次に、上記した1つまたは複数の架台5の側面を型枠(図示略)で囲み、該型枠と前記基板4とで囲まれた閉鎖域内にコンクリートを注入(打設)し、そのまま固化を待つ。コンクリートが固化することで、各石材7から延ばしたアンカー6の先端部がコンクリート層8に埋込まれ、これにて1つの架台5単位、または複数の架台5単位の石積み構造物1が完成する。その後は、側面の型枠を取外し、前記完成した石積み構造物1に連接して、護岸法面Aの上方向(必要により横方向)に次の新たな架台5を据付け、以降、上記した作業を繰返して新たな石積み構造物1を設置する。そして、対象となる護岸法面Aの全域に対して、前記した施工を繰返すことで、法面Aに石材7を積上げた多自然型護岸が完成する。
【0020】
上記のように完成した多自然型護岸は、低水域では、石材7同士の間隙が小魚の生息域として提供されるばかりか、エアレーションによる水質浄化にも役立つ。一方、中乃至高水域では、石材7同士の間隙が小動物や植物の生息域として提供される。本実施形態では特に、植生マット3を有する基板4が石材7の背面に配置されるので、該植生マット3に多くの植物が着生し、護岸の多自然化が促進される。この場合、予め植生マット3に植物の種子を播種することで、早期に植物が繁殖し、多自然化が著しく促進される。
【0021】
一方、本石積み構造物1は、石材7が載置される基板4を支持する架台5内に打設したコンクリート層8が一体となっているので、台風等によって激しい水流が起こってもめくれ上がってしまう危険はなく、重量安定性は十分となる。また、基板4を型枠として用いてコンクリートを打設するので、基板4上に配置する石材7に大きさの制限を受けず、結果として石材7の入手が容易となって材料コストが低減し、その分、護岸の多自然化に要する施工コストが低減する。また、石材7として建設発生材を用いる場合は、廃棄物処理にも大きく寄与するものとなる。
【0022】
ここで、本石積み構造物1は、上記した護岸法面A以外にも適用可能である。図5は、本石積み構造物1を突堤20の全表面に配列した実施形態を示したもので、ここでは、突堤20の構築と併用されている。突堤20の構築に際しては、別途突堤20の外形状に相似のネット状籠体21を用意する。この籠体21は、その左・右傾斜壁部21aを河川の上・下流に向けると共に、その背面側の傾斜壁部21bを陸地に向けて設置工場所に据付けられる。
【0023】
上記ネット状籠体21は組立式となっており、現場で組立てて設置場所に据付ける。この場合、ネット状籠体21の左・右傾斜壁部21aの間に連結バー22を橋渡すのが望ましい。そして、ネット状籠体21の据付けが完了したら、この内部に中詰め材23を投入し、適宜の高さに堆積させる。このとき、連結バー22によって左・右傾斜壁部21aが連結されているので、該左・右傾斜壁部21aが外側へ広がることはなく、ネット状籠体21の形状は維持される。なお、中詰め材23の種類は任意であり、割栗石、砕石、コンクリート破砕ガラ等を用いることができる。
【0024】
その後は、護岸法面Aを対象にした上記実施形態と同様に、ネット状籠体21の左・右傾斜壁部21aに対する架台5の据付け、架台5上への基板4の設置、基板4上への石材7の設置、架台5内へのコンクリートの打設を順に行い、1つの架台5単位、または複数の架台5単位で石積み構造物1を完成させる。以降、ネット状籠体21内に対する中詰め材23の追加投入を行いながら、石積み構造物1を上方へ継ぎ足し、最終的に天端に石積み構造物1を設置し、これにて全面に石材7を敷き並べた多自然型の突堤20が完成する。このように施工する場合は、突堤20の完成と同時に石積み構造物1の設置も完了するので、多自然型突堤20の構築に向けて有用となる。
【0025】
なお、上記各実施形態においては、基板4として二枚のネット状支持体(格子枠)2の間に植生マット3を挟んだサンドイッチ構造のものを用いたが、この基板は、一枚のネット状支持体の片面に植生マット3を張付けた構造としてもよいものである。また、シート状物としての植生マット3は、アンカー6の挿通を許容すると共にコンクリートの漏出を規制する他の素材、たとえば、織布または不織布等からなるシートやラス金網に代えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る石積み構造物の一つの実施形態と護岸法面への設置状況を示す断面図である。
【図2】本石積み構造物の一部を拡大して示す断面図である。
【図3】本石積み構造物を構成する基板の構造を一部開放して示す斜視図である。
【図4】本石積み構造物を構成する架台の構造を示す斜視図である。
【図5】突堤の完成と同時に本石積み構造物の設置を終了させる突堤工法の実施状況を示す断面図である。
【図6】図5に示した突堤工法に用いるネット状籠体の構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 石積み構造物
2 格子枠(ネット状支持体)
3 植生マット(シート状物)
4 基板
5 架台
6 アンカー
7 石材
8 コンクリート層
20 突堤
A 護岸法面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネット状支持体とシート状物とを重ね合させて一体化した基板と、該基板の1枚または複数枚を上面に支持するフレーム構造の架台と、予めアンカーが植設され、該アンカーの一端部を前記基板を挿通して前記架台内に延在させた状態で該基板上に載置された複数の石材と、前記架台内に打設され、前記アンカーの一端部を埋込んだコンクリート層とからなることを特徴とする石積み構造物。
【請求項2】
前記シート状物が植生マットであり、前記基板は、二枚のネット状支持体の間に該植生マットを挟んだサンドイッチ構造となっていることを特徴とする請求項1に記載の石積み構造物。
【請求項3】
前記植生マットが、ヤシマットであることを特徴とする請求項2に記載の石積み構造物。
【請求項4】
施工面に架台を据付けた後、該架台上に1枚または複数枚の基板を敷き並べ、次に、予めアンカーを植設した石材の複数を、該アンカーの一端部を前記基板を通して前記架台内まで延出させながら該基板上に載置し、しかる後、前記架台の周囲を型枠で囲んでその内部にコンクリートを打設することを特徴とする石積み工法。
【請求項5】
1枚または複数枚の基板を上面に敷き並べた架台を施工面に据付けた後、予めアンカーを植設した石材の複数を、該アンカーの一端部を前記基板を通して前記架台内まで延出させながら該基板上に載置し、しかる後、前記架台の周囲を型枠で囲んでその内部にコンクリートを打設することを特徴とする石積み工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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