説明

石綿の無害化処理方法

【課題】 石綿の無害化処理には多大な処理費用がかかる。また粉塵が発生して環境問題も起こる。
石綿は、粉塵を発生させること無く、低コストでガラス化することが必要である。
【解決手段】 石綿廃棄物に珪酸アルカリ溶液を含浸させる工程と、該珪酸アルカリを含浸させた石綿廃棄物をペレット化する工程と、該ペレットを硬化させる工程と、該硬化したペレットとテルミット剤を混合して加熱溶融、ガラス化する工程を備えてなることを特徴とする。
前記硬化したペレットとテルミット剤の混合比率が、重量比で、100:(5〜30)であることを特徴とする。
前記ペレットの製造に際して、発泡剤を添加、発泡させて、前記珪酸アルカリを含浸させた石綿廃棄物を泡で包んでペレット化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石綿あるいは石綿を含む廃棄物を溶融して無害化する方法に関するものである。
【背景技術】
従来技術は、石綿の溶融温度を下げることに主眼を置くものの、依然として溶融のためのエネルギーコストが高い欠点がある。
【0002】
石綿は、発がん性があって人体に対して有害であるために、従来より、石綿を溶融、ガラス化して無害化する方法が多く試みられている。
たとえば、特開2008−272535には、石綿にガラスフリット、溶融助剤(ソーダ灰、硼砂)を加えて、溶融温度を下げて溶融することが記載されている。
一方、高温加熱を必要としない方法、たとえば、石綿を塩酸または硫酸で溶解させる方法、あるいは石綿に水硬性セメント類を加えて固化させる処理方法、あるいは珪酸ソーダ水溶液あるいは合成樹脂エマルジョンなどで石綿の繊維表面を被膜する方法等もある。
従来技術は、石綿の溶融温度を下げる、あるいは加熱せずに処理してエネルギーコストを下げることに主眼が置かれているが、何れの方法でも石綿を含む処理物と処理剤を混合する工程は不可欠であり、かかる工程では、石綿の粉塵が発生して周囲環境に飛散することは避けられないのが実情である。
一方、有害物の粉塵の飛散を防ぐために、有害物を泡で包んで粉塵の飛散を防ぐことが行われている。
この発明は、本発明者の発明に係わるものであるが、泡剤は高温加熱の途中で消失して、加熱炉内で再び粉塵が発生して、炉外に粉塵が排出される。
【0003】
【特許文献1】特開2008−272535
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、石綿を加熱溶融して無害化処理する際、常温から高温に至るまで、その粉塵の発生を防いで、安価に溶融ガラス化或いは溶融スラグ化することが出来る新規な方法を提供することである。
【問題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題に関して鋭意研究を行った結果、次の知見を得た。
即ち、
石綿に珪酸アルカリ溶液を含浸させると、粘着性のある珪酸アルカリ液によって石綿粒子が捕捉されるために、細かく裁断、攪拌処理しても、粉塵が発生しないことが判った。また珪酸アルカリは加熱によって、その接着強度は大きくなり、炉中で加熱されても再び粉塵になって炉外に排出されることも無いことが判明した。
石綿と珪酸アルカリの配合割合は、重量比で、石綿100に対して珪酸アルカリ10〜50の範囲が好ましい。
下限値未満では、粉塵発生を防止できない。また上限を超えても粉塵発生の防止効果は変わらない。珪酸アルカリの量が増えると、相対的に処理する石綿の量が減るので、珪酸アルカリを増やすことは経済的ではない。
【0006】
石綿をペレット化するためには、小さく裁断、攪拌操作等が必須であるが、この際、発泡剤を添加して、発泡させて、泡で包んで処理すると粉塵の発生防止には更に効果があることが判明した。
【0007】
発泡剤は、水、有機溶媒等の溶媒成分に、発泡成分および粘着、接着成分が溶解された成分組成からなるものである。
発泡成分とは、液体中でガスをバブリングしたとき、泡を発生させる成分全般をさすものである。たとえば石鹸、洗剤、ゼラチン、界面活性剤等の成分である。特に、泡の性状としては起泡力と泡の安定性が重要であり、カルボキシル基、硫酸エステル基、スルフォン酸基、などの成分が好適である。
泡は、混合液にガスをバブリングさせて発生させる。
【0008】
発泡剤を添加する際、更に粘着、接着液を混合すると、乾燥後の石綿粉塵の飛散防止に更に効果がある。
粘着、接着成分とは、粘着性あるいは接着性がある組成物全般を意味し、水や溶剤が蒸発した後に固化・接着の機能を持つものである。たとえばニカワ、澱粉、糖蜜、天然ゴム、カゼインおよびPVP、PEO、POVAl、MC、CMC等の有機質糊材全般を意味するものである。
【0009】
珪酸アルカリを含浸、硬化させたペレットに、テルミット剤を混合して、加熱炉内で加熱溶融した時、テルミット反応が同時に生起され、テルミット反応熱が発生、更に、爆発的な衝撃波も発生して混合物は撹乱される。
加熱炉内の加熱は、混合物の表層加熱になり、表層部だけが溶融するに過ぎないが、テルミット反応の爆発的な撹乱作用で混合物の下層部分が表層に上がり上下均等に加熱され、溶融層の深さが深くなり、この結果、加熱炉の加熱だけの場合に比べて時間当たりの混合物の溶融量が増加する。
テルミット剤の添加によって、加熱炉単独の場合に比較して、120〜170%溶融量が多くなる。
【0010】
テルミット剤の混合割合(重量比)は、珪酸アルカリを含浸、硬化させたペレット石綿ペレット100に対してテルミット剤5〜40の範囲が好ましい。
上限値を超えると、溶融ガラスの粘度が高くなり湯流れが悪くなるので好ましくない。またテルミット剤を下限値以上添加した時に、加熱炉単独の場合に比べて、溶融ガラス量が120%以上に増加するので、下限値以上の添加が好ましい。
【0011】
前記石綿廃棄物と珪酸アルカリ液に、更に、(火山灰,硼砂、ガラス粉砕物)の群の中の一種あるいは二種以上を混合すると、混合物は、800〜1000℃で溶融し、溶融量は、130〜200%に増加する。
【0012】
石綿、珪酸アルカリおよび火山灰,硼砂、ガラス粉砕物の配合比率(質量%)は、下記範囲が好ましい。
石綿 :40〜65%
火山灰と硼砂とガラス粉砕物の合計:20〜40%
珪酸アルカリ :5〜25%
【0013】
前記混合物の溶融温度を1000℃以下にするためには、珪酸アルカリ、火山灰と硼砂、ガラス粉砕物の合計量は、いずれも下限値以上添加することが必要である。
また上限値を超える量添加しても混合物の溶融温度を下げる効果は変わらないので、上限を越える量の添加は不経済であるし、また火山灰と硼珪酸ガラス粉砕物等の量を増やすことは相対的に添加すべき石綿の量が減ることになるので、上限値を超える添加は好ましくない。
【0014】
珪酸アルカリとしては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム等の珪酸のアルカリ金属塩が好ましい。とりわけ珪酸ナトリウム(水ガラス)が最も好ましい。
シリカ成分とアルカリ金属酸化物の比率に特別な制約はないが、珪酸アルカリはアルカリ金属酸化物の比率が高いほど、より低い温度で溶融するので、アルカリ金属酸化物の比率が高いほど好ましい。
珪酸アルカリは、水あるいはその他の溶媒に溶解させた液状の珪酸アルカリを使用し、粘性を小さくして含浸させやすくするために、必要に応じて水で希釈してもよい。
【0015】
テルミット剤は、アルミ成分を含む原料と酸化鉄成分を含む原料を混合したものからなる。
アルミ成分を含む原料とは、飲料用の廃アルミ缶やアルミ地金の再溶解時に発生するアルミ残灰などのアルミ成分を含む廃棄物が有効であるが、これのみに限定されるものではない。
酸化鉄成分を含む原料とは、鉄屑、鉄錆、などの一般的な金属廃材や製鉄工業で発生する転炉ダストや高炉ダストなどの集塵灰、更には磁性酸化鉄製造時に副産物として発生する酸化鉄汚泥や、ボーキサイトから水酸化アルミニウムを製造する際の赤泥などが有効であるが、何らこれのみに限定されるものではない。
これらの原料は単一種類のまま使用してもよいし、あるいは出発原料の異なる二種以上を適宜混ぜ合わせて使用してもよい。
【0016】
上記したように、アルミニウム含有原料がアルミ缶の粉砕片の場合、酸化鉄含有原料と混合したものを板状にプレス圧着したものを適度の大きさに分割して焼却灰の中に混合、分散させても良い。
圧着片の厚さは、概ね3〜6mm程度、長さ5〜30程度が良い。アルミ缶の水分を蒸発させた圧着片には、粘着性の成分が残存し、適度の強度が発現する。
廃アルミ缶の粉砕片の大きさは、裁断機によって5〜10mm程度の小片に破砕した後、更に1〜3mm以下に二次粉砕した程度のもので良い。
【0017】
酸化鉄含有原料として磁性酸化鉄製造時に副生する酸化鉄汚泥を使用する場合には、天日乾燥等で含有水分量を5〜1%程度に乾燥すれば良い。また更にアルミニウム原料との混合を良くするために、塊状物を細かく粉砕しておくことが好ましい。
【0018】
アルミニウム含有原料と酸化鉄含有原料を主原料とするテルミット反応組成物の中のアルミ含有量は5%以上が好ましい。
5%未満ではテルミット発熱反応が起きないので好ましくない。
アルミニウムと酸化鉄の混合比率は、アルミニウム含有量1に対して酸化鉄含有量2.5〜3.0の比率が好ましく、また混合物の中に酸化チタン3〜12重量%、酸化マンガン1〜3重量%含有させることが好ましい。
アルミ原料と酸化鉄原料に酸化チタンと酸化マンガンがすでに含まれて入るとき、アルミ原料と酸化原料を混合後、酸化チタンと酸化マンガンの不足分を新たに追加して加えれば良い。
酸化チタンと酸化マンガンの添加方法は、酸化チタンと酸化マンガンそのものを添加しても良いし、あるいは酸化チタン、酸化マンガン成分を含有するものを添加しても良い。酸化チタン、酸化マンガンを含む廃棄物の粉粒体を添加するのも有効である。
【0019】
アルミニウム含有原料と酸化鉄含有原料の比率が上限を超えると酸化鉄が過多になってテルミット発熱反応が起きなくなるので好ましくない。また、下限値未満では、アルミが過多になって反応生成物にアルミニウムが残存するので好ましくない。
【0020】
酸化チタン含有量が下限値未満ではテルミット反応生成物の粘性が高くて溶流性が悪くなり連続操業できなくなるので好ましくない。又、上限を超えて含有させてもそれ以上の溶流性の改善効果は見込めない。これら組成物の混合方法については、たとえば、フレットミルや高速混合機、ミキサーなど通常の撹拌混合機を用いて混合すればよく、酸化チタン、酸化マンガンなどの添加、混合方法についても特別な限定があるわけではない。
【0021】
テルミット剤は、顆粒状あるいはペレット(造粒物)に成形したほうが好ましい。
顆粒、造粒成形すると、粉粒体に比べて密度が高いために、燃焼熱の伝播速度が速く、より高い発熱効果が得られる。
顆粒あるいは造粒成形の方法は、組成物を構成しているアルミニウム成分が水分と反応しやすいので、乾式成形の方が好ましい。
乾式成形方法に付いては、ブリケットマシンによる高圧成形、あるいは粘着性の無機バインダーなどを添加すれば、容易に成形できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、石綿を低温、低コストで溶融、ガラス化することで石綿の針状結晶は完全に消失して無害化でき、またガラス化した溶融物は、建築、土木用二次製品として有効活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を、石綿原料としては、石綿を含む廃棄物、珪酸アルカリとしては水で希釈した3号水ガラス、火山灰には桜島の火山灰を使用した時を例に取り説明する。なお本実施の形態は、発明の趣旨をよりよく理解させるために具体的に説明するものであり、本発明がこれのみに限定されるものでないことはもちろんである。
【実施例】
【0024】
実施例1
ステンレス製攪拌器の中に、石綿を含む廃棄物80質量%、水ガラス20質量%入れ、次に水ガラスの5倍の水に、水の10%の廃糖蜜と水の10%の泡剤(洗剤)を溶解し、窒素ガスをバブリングさせて泡立てた水溶液を加えて、ステンレス製攪拌器の内容物全体を泡で包んで混合攪拌した。粉塵の発生はなかった。
軟泥状のものが得られた。
【0025】
次に、軟泥状混合物を直径8mmのひも状に押出し成形し、長さ10mmで切断してΦ8mm、長さ10mmの軟らかいペレットを得た。
粒は200℃で乾燥した。
硬くて手で折損できない強度を持つペレットが得られた。
【0026】
テルミット反応剤のペレット化
アルミ原料:アルミ地金の再溶解時に発生したアルミ残灰を粉砕したものを使用した。
酸化鉄成分:ボーキサイトから水酸化アルミニウムを製造する際の赤泥を使用した。
補助原料: 酸化チタン、酸化マンガンの廃棄物を粉砕したものを使用した。
上記アルミ原料、酸化鉄成分、補助原料を下記の成分組成(wt%)に調合して、これにコーンスターチ(糊剤)3%を混合して、ペレタイザーで直径8mm、長さ10〜20mmの大きさのペレットを作った。
テルミット反応剤の成分組成
アルミ成分 :18%
酸化鉄成分 :40%
酸化チタン :5%
酸化マンガン:2%
【0027】
上記石綿混合物のペレットとテルミット反応剤のペレットを100:30の割合に混合して、バーナー加熱炉(表面溶融焼却炉)で溶融テストした。
図1は、本実施例で使用したバーナー加熱炉の説明図である。
図中、1は溶融原料であり、上記石綿混合物のペレットとテルミット反応剤のペレットを100:30の割合に混合したものである。
【0028】
溶融原料1は、プッシャーで加熱炉2の傾斜炉床3の上に押し込む。
炉内に押し込まれた溶融原料1は溶融されながら傾斜炉床3から下に流れ落ちる。
バーナーの燃料には重油を使用した。
【0029】
石綿のみをバーナー溶融炉に入れて加熱すると、バーナー火炎で石綿粉が吹き飛ばされて炉内に粉塵が飛び散り、炉外に漏出することもあり、環境上好ましくないが、水ガラスで固化した石綿は、バーナー火炎で飛ばされることも無く、炉内で沈静して加熱ができ、炉外に粉塵が漏出することも無かった。
【0030】
石綿のみをバーナー加熱炉で溶融する時は、1350℃以上加熱する必要があり、100kgの溶融ガラスを得るのに要した時間は、12時間かかった。
一方、120kgの石綿ペレット(石綿純分100kg)に、36kgのテルミット反応剤のペレットを混合してバーナー加熱すると、加熱温度は1250℃で、全量溶融にわずか4時間しか、かからなかった。
【0031】
本発明方法は高温まで粉塵発生を防止でき、かつより低い温度で、短時間に溶融できる特徴があり、経済的に極めて低いコストで処理できることが判明した。また、焼結体の中には石綿の針状結晶は全く認められず、完全にガラス化して、無害化されていた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上詳述した様に、本発明は、石綿の粉塵を発生させること無く、低温度、低コストで完全無公害溶融できるものであり、石綿の無公害大量処理に多大の貢献をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明実施例1で使用するバーナー加熱炉の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 溶融原料
2 加熱炉
3 加熱バーナー
4 溶融スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿廃棄物に珪酸アルカリ溶液を含浸させる工程と、該珪酸アルカリを含浸させた石綿廃棄物をペレット化する工程と、該ペレットを硬化させる工程と、該硬化したペレットとテルミット剤を混合して加熱溶融、ガラス化する工程を備えてなることを特徴とする石綿の無害化処理方法。
【請求項2】
前記硬化したペレットとテルミット剤の混合比率が、重量比で、100:(5〜30)であることを特徴とする請求項1に記載の石綿の無害化処理方法。
【請求項3】
前記石綿廃棄物に、(火山灰,硼砂、ガラス粉砕物)の群の中の一種あるいは二種以上を混合することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の石綿の無害化処理方法。
【請求項4】
前記石綿廃棄物と珪酸アルカリおよび火山灰と硼砂とガラス粉砕物の合計の配合比率(質量%)が、
石綿廃棄物 :40〜65%
火山灰と硼砂とガラス粉砕物の合計:20〜40%
珪酸アルカリ :5〜25%
であることを特徴とする請求項3に記載の石綿の無害化処理方法。
【請求項5】
前記ペレットの製造に際して、発泡剤を添加、発泡させて、前記珪酸アルカリを含浸させた石綿廃棄物を泡で包んでペレット化することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の石綿の無害化処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−136320(P2011−136320A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13560(P2010−13560)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(510022554)
【出願人】(591273672)株式会社テラボンド (42)
【Fターム(参考)】