説明

石膏の付着したボード原紙から石膏およびボード原紙を分離回収する方法

【課題】石膏ボード廃材から芯材を除去した後に生ずる石膏の付着したボード原紙から、石膏およびボード原紙を、それぞれリサイクル可能な純度で分離回収する方法を提供すること。
【解決手段】上記方法は、石膏ボード廃材から分離され、石膏の付着したボード原紙から石膏およびボード原紙を分離回収する方法であって、該ボード原紙に付着した石膏を半水石膏とし、次いで該半水石膏の付着したボード原紙を、二水石膏を含有する水系スラリーと接触せしめることを特徴とする方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏ボード廃材から芯材を除去した後に生ずる石膏の付着したボード原紙から、石膏およびボード原紙を分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏を主体とする芯材およびこれを被覆するボード原紙からなる石膏ボードは、防耐火性、遮音性等に優れ、安価であることから建設用材料として広く用いられている。
石膏ボード廃材の発生量は、年間約150万tである。このうち、約50万tは生産時や家屋等の新築内装工事の端材であり、石膏ボードメーカーがリサイクルを行っている。しかし、残りの約100万tは、家屋等の建造物の改装・解体工事で排出されるものであり、リサイクルされずに埋立処分されている。石膏ボード廃材の発生量は年々増加する傾向にあり、埋立地の不足、環境負荷の点から石膏ボード廃材の有効な処理方法が求められている。
石膏ボード廃材のリサイクルには、芯材をリサイクルして石膏をして再生する場面と、ボード原紙を回収して故紙原料として使用する場面とが考えられる。
【0003】
石膏ボード廃材のリサイクルのうち、芯材を構成する石膏を分離回収することについては、種々の技術が提案され、実用が試みられている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、ボード原紙のリサイクル技術は確立されておらず、ボード原紙の故紙原料への再生は実質上なされていない。この点、特許文献4には、ボード原紙が付着した石膏ボード廃材(芯材)を加熱した後、これを水と接触させて芯材とボード原紙とを分離回収する方法が開示されている。しかしながら、この技術は、芯材から原紙を完全に除いて石膏として回収することを主眼とした技術であり、この技術によって原紙から石膏を完全に除去することはできない。けだし、特許文献4の技術によると、確かに、原紙の付着した芯材を加熱することによって芯材の石膏は水系媒体に易溶の半水石膏となり、これが水系媒体と接触すると、瞬時にその温度での溶解度分だけ溶解する。しかし、半水石膏の溶解濃度は、二水石膏においては過飽和濃度であるため、半水石膏は溶解後直ちに二水石膏として再結晶化し、少なくともその一部は原紙の繊維上に再付着することになるため、ボード原紙から石膏を完全に取り除くのは非常に困難であった。使用する水系媒体の量の増加によってボード原紙上への二水石膏の再付着を防ぎつつ石膏を完全除去しようとすると、計算上、処理される石膏の約500倍程度の水系媒体が必要となり、工業的に現実的でない。更に、この方法によってボード原紙から分離された二水石膏の粒径は非常に小さいため、これをろ別するのは困難であり、使用用途は非常に限定されることとなる。かかる技術による廃石膏の回収率には一定の限界が存在するのである。
また、石膏が完全に除去されていないボード原紙は、故紙原料として使用することが困難である。
このように、石膏ボード廃材から、石膏およびボード原紙を、それぞれリサイクル可能な状態で完全に分離回収する技術は、未だ知られていない。
【特許文献1】特開平10−286553号公報
【特許文献2】特開2000−254531号公報
【特許文献3】特開2004−307321号公報
【特許文献4】特許第3221939号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、石膏ボード廃材から芯材を除去した後に生ずる石膏の付着したボード原紙から、石膏およびボード原紙を、それぞれリサイクル可能な純度で分離回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明よれば、本発明の上記目的および利点は、
石膏ボード廃材から分離され、石膏の付着したボード原紙から石膏およびボード原紙を分離回収する方法であって、
該ボード原紙に付着した石膏を半水石膏とし、次いで該半水石膏の付着したボード原紙を、二水石膏を含有する水系スラリーと接触せしめることを特徴とする、前記方法によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、石膏ボード廃材から分離され、石膏の付着したボード原紙から、石膏およびボード原紙を、それぞれリサイクル可能な純度で分離回収することができる。
本発明の方法により分離回収されたボード原紙は、石膏を実質的に含有しないため、故紙原料として好適に使用することができる。
本発明の方法により分離回収された石膏は、ボード原紙を含有せず、しかも粒径の大きな良質のものであり、石膏のバージン原料と同等の性能を示すことができ、例えば石膏ボード用として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の方法に供される石膏の付着したボード原紙は、石膏ボード廃材から芯材を除去した後に生ずる石膏の付着したボード原紙である。石膏ボード廃材からの芯材の分離は、公知の方法によって行うことができ、例えば特許文献1(特開平10−286553号公報)、特許文献2(特開2000−254531号公報)等に記載された方法によることができる。これらの方法により芯材を分離され、回収されたボード原紙に対して、更に特許文献4(特許第3221939号明細書)に記載された方法等の処理を施し、ボード原紙に付着した石膏の量が更に減少されたものであってもよい。これら公知の方法による分離の場合、分離後のボード原紙には有意量の石膏が付着しているため、更に本発明の方法に供することができる。
【0008】
本発明の方法に供される石膏の付着したボード原紙における石膏の付着量としては、ボード原紙と石膏との合計に対して、好ましくは10〜60質量%であり、より好ましくは20〜50質量%である。本発明の方法は、このような多量の石膏が付着したボード原紙からであっても、石膏およびボード原紙を、それぞれ再利用可能な純度にまで分離することができる利点を有する。
本発明の方法に供される石膏の付着したボード原紙の大きさは問わないが、例えば10〜200mm程度の破砕片を用いることができる。
ボード原紙に付着した石膏としては、二水石膏であることが好ましい。
【0009】
本発明の方法において、ボード原紙に付着した石膏は、先ず半水石膏とされる。この工程は、上記石膏を、ボード原紙ごと加熱する方法により行うことができる。加熱の温度は、好ましくは110〜200℃であり、より好ましくは120〜160℃である。加熱時間は、好ましくは2〜60分であり、より好ましくは5〜30分である。この加熱は、適宜の加熱装置、例えば熱風乾燥器、伝導電熱乾燥器等を用いて行うことができる。
このような加熱により得られる半水石膏の付着したボード原紙は、次いで、二水石膏を含有する水系スラリーと接触する。
このスラリーに含有される二水石膏の粒径としては、体積平均粒径として、10〜80μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。二水石膏の比表面積は、好ましくは0.1〜3m/gであり、より好ましくは0.2〜0.5m/g以下である。水系スラリー中の二水石膏の含有割合としては、好ましくは10〜300g/Lであり、より好ましくは60〜150g/Lである。
【0010】
半水石膏の付着したボード原紙に接触する上記水系スラリーの割合としては、半水石膏の量1gに対して上記水系スラリー中に含まれる二水石膏の表面積の合計が1m以上となる割合が好ましく、この値が1〜5mとなる割合がより好ましい。本発明の方法においては、付着した半水石膏が水系スラリーに一旦溶解した後、二水石膏として析出することとなるが、その際、上記水系スラリー中の二水石膏を種晶として析出することにより、ボード原紙とこれに付着した石膏との完全な分離を可能とするものである。従って、上記のような特定の表面積となる割合で二水石膏を含有する水系スラリーを用いることは、付着した半水石膏の良好な溶解性を確保しつつ、溶解した石膏のボード原紙上への再析出をより確実に避けることができることとなるため、好ましい。
接触時の水系スラリーの温度は、好ましくは室温〜70℃であり、より好ましくは30〜60℃である。接触時間は、好ましくは1〜60分であり、より好ましくは10〜30分である。
上記の接触処理後のボード原紙は、スラリーと分離後、好ましくは水洗された後、乾燥されて回収される。本発明の方法により処理され、回収されたボード原紙は、付着していた廃石膏が溶解により除去されたものであり、しかも溶解した石膏はボード原紙上には再析出していない。本発明の方法は、処理後のボード原紙における石膏の含有割合を、その全重量に対して1質量%以下とすることができ、更に0.1質量%以下とすることができる。
【0011】
本発明の方法により処理され、回収されたボード原紙は、上記の通り、実質上石膏を含んでいないから、故紙原料として好適に使用することができる。
一方、上記接触処理後の水系スラリー中に含まれる二水石膏は、これを種晶として、ボード原紙上から溶解した半水石膏が二水石膏として再析出しているから、その含有割合が増加している。この増加した二水石膏は、本発明の方法に再利用してもよく、あるいはその一部を回収して石膏原料として使用してもよい。本発明の方法により分離、回収された石膏は、例えば石膏ボード等の用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により、本発明方法について更に具体的に説明する。
【0013】
実施例1
石膏ボード廃材を乾式で破砕してふるい処理により石膏を分離したボード原紙(廃石膏が付着した長さ10〜200mm、幅10〜200mm程度の破砕片)を、熱風乾燥器中で150℃にて30分間加熱して、付着石膏を半水石膏とした。加熱後のボード原紙に付着していた半水石膏は、ボード原紙と石膏との合計に対して40質量%であった。
一方、体積平均粒径30μm、比表面積0.5m/gの二水石膏10質量部と水90質量部を混合し、二水石膏を含有する水スラリー(二水石膏スラリー)を得た。
この二水石膏スラリーを50℃に調温し、この中に上記加熱後のボード原紙4質量部を投入して15分間混合撹拌した後、スラリーおよびボード原紙を振動ふるい(ふるい目:2mm)上に投入した。投入直後、ボード原紙がふるい上に残ったほか、ボード原紙上に若干量の二水石膏が見られた。しかし、この二水石膏は、ボード原紙の繊維中から分離された状態の、粒径の大きなものであったため、ふるいを振動することにより容易にふるい下に落ち、ふるい上にはボード原紙のみが残った。
ふるい上のボード原紙を乾燥後、残留二水石膏の存在量を測定したところ、ボード原紙の全重量に対して0.5質量%であった。
また、ふるい下の二水石膏の体積平均粒径は30μmであった。
【0014】
比較例1
実施例1と同様の前処理を施した石膏ボード廃材を40質量部を、水100質量部に投入し、30分間混合撹拌した後、撹拌混合物を振動ふるい(ふるい目:2mm)上に投入した。投入直後、ふるい上に残ったボード原紙上に、更に100質量部の水を投入した。
ふるい上のボード原紙を乾燥後、残留二水石膏の存在量を測定したところ、ボード原紙の全重量に対して8質量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏ボード廃材から分離され、石膏の付着したボード原紙から石膏およびボード原紙を分離回収する方法であって、
該ボード原紙に付着した石膏を半水石膏とし、次いで該半水石膏の付着したボード原紙を、二水石膏を含有する水系スラリーと接触せしめることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記石膏の付着したボード原紙において、ボード原紙100重量部に対する石膏の付着量が10〜200重量部である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二水石膏の水系スラリーの使用割合が、
前記ボード原紙に付着した石膏を半水石膏としたした後の石膏の量1gに対して前記水系スラリー中に含まれる二水石膏の表面積の合計が1m以上となる割合である、請求項1または2に記載の方法。

【公開番号】特開2010−12381(P2010−12381A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172673(P2008−172673)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】