説明

石英ガラス製品の表層分析方法

【課題】石英ガラス管などの石英ガラス製品の表層に含有される金属を非破壊的に分析する方法において、エッチング液を表面に貯留する空間を簡単に形成できるようにすると共にエッチッング液の漏れが無いようにする。
【解決手段】石英ガラス管3の被分析面にポリエチレン樹脂製のリング状部材10を載置し、ホットプレート4によって加熱して溶融させて表面に溶着一体化してエッチング液の貯留空間を形成する。この貯留空間にフッ化水素酸を注いで貯留して一定時間接触させて深さ1μm相当を溶解した。この溶解液の一部を採取し、誘導結合プラズマ発光分析法にて溶解した石英ガラス量を定量した。また、残りの溶解液を蒸発乾固後、蒸発残渣を希硝酸で溶解して回収液を得、この回収液中の金属量を誘導結合プラズマ質量分析法により定量した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス素材から最終製品に至る石英ガラス製品の表面または内部(以下、表層という)に含有される金属等の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラス製品、例えば、半導体ウエハ基板の熱処理に用いられる炉心管、反応管など、マスク基板などの液晶用材料の熱処理や半導体材料、特に、ウエハの気相蒸着、酸化・拡散、CVDやプラズマ処理等の熱処理装置にはベルジャーやチャンバー、炉心管、反応管等として用途に応じて様々な形状の石英ガラス管が使用されている。
【0003】
石英ガラス管などの石英ガラス製品中には金属等が含まれており、その金属等は石英ガラス素材に含有されているもの、あるいは石英ガラス素材の加工段階で混入したものと考えられている。このように金属等が含有される石英ガラス製品を用いて例えば半導体ウエハのような被処理物に対し熱処理等の各種の処理をおこなうと、石英ガラス製品から被処理物に金属等が転写する可能性がある。この金属等の汚染が被処理物の仕様に影響するため、石英ガラス製品の表層の金属等の濃度を予め調べ、これらの被処理物の仕様を保証する必要がある。
【0004】
また、石英ガラス製品が素材の加工段階で金属等の汚染に曝される場合、汚染原因となる工程を把握することが重要であり、素材から最終製品までの加工工程における石英ガラス製品の表層に含有される金属等の定量が必要である。
【0005】
しかしながら、分析対象となる石英ガラス製品の中にはサイズが大きいものや、面形状が複雑で被分析面が平面、曲面、または段差のある面等様々な形状を有するものがある。
従来は前記のような石英ガラス製品を分析可能なサイズの試料片に切り出し分析していたため、金属等の分析のために完成品または半完成品の石英ガラス製品を消費しており、無駄があった。また、製品から試料片を切り出す際に金属等の汚染を被る危険性も挙げられる。更に、石英ガラス製品は非常に高価なものが多く、石英ガラス製品を非破壊で分析することが切望されており、石英ガラス管などの石英ガラス製品中に含有される金属を定量する分析方法が特許文献1(特開2005−114582号公報)等で提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−114582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された方法では、石英ガラス管の被分析面の形状に対応させた環状部材(治具)を作製し、被分析面と治具との間に隙間ができないように密接載置することによりエッチング液の貯留空間を形成しているが、この方法ではエッチング液の保持治具である環状部材と石英ガラス製品の被分析面との接触面が完全にシールされていないため、形成した貯留空間からエッチング液が漏れ易く、エッチング液を保持することができないといった問題があった。
【0008】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、石英ガラス素材から最終製品に至る石英ガラス製品の表層に含有される金属等をエッチング液または抽出液(以下、エッチング液等という)に接触させて非破壊的方法で分析する方法において、エッチング液等が貯留空間から漏出しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エッチング液等の貯留空間を形成するための部材と石英ガラス製品の被分析面との接触面をシールする方法を見出すべく、鋭意検討を重ねた結果、エッチング液等を保持する部材を石英ガラス製品の被分析面に溶着させることにより液が漏れない貯留空間を形成し、石英ガラス製品の表層に含有される金属等が分析できるようにしたものである。
【0010】
エッチング液等の貯留空間を形成するために対象の石英ガラス製品表面に溶着する部材の形状は特に限定されないが、図1に示すように環状のものが好ましく、また、部材の材質は、石英ガラス表面に溶着しエッチング液等の貯留空間を形成することができ、エッチング液等に侵されない材料が好ましい。また、この部材には含有される金属不純物の少ない材料が好ましく、特に限定されないが、金属不純物濃度がppbレベルまたはそれ以下のものを使用するのが好ましい。更に、使用前に部材を洗浄し、エッチング液等との接触中に部材からの金属溶出分が検出されないものを使用することが好ましい。
【0011】
前記の条件を兼ね備えた材料として例えば熱可塑性樹脂が挙げられるがこれに限定されるものではない。熱可塑性樹脂として、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましく、比較的融点の低い低密度ポリエチレン樹脂が更に好ましい。
【0012】
エッチング液は、石英ガラスをエッチングする液であれば特に限定されないが、例えばフッ化水素酸単独、またはフッ化水素酸と他の酸水溶液との混合液が挙げられる。また、エッチング液の代わりに石英ガラスは溶解しないが目的成分は溶解する抽出液を用いることができる。分析用途には石英ガラスの表面に付着した成分の分析が挙げられるが、その場合、石英ガラスを溶解する必要がないのでエッチング液の代わりに目的成分を溶解する液体、例えば超純水などの抽出液を選択する。
【0013】
部材を石英ガラス表面に溶着するという操作は、部材をその融点以上に加熱溶融し石英ガラス表面に接合して一体化することを指す。接合温度及び加熱保持時間は、材質及び形状により異なるが、樹脂の融点以上に石英ガラスを加熱し、樹脂の形状が保持できる時間内で加熱する。部材の加熱方法としては特に限定されないが、ホットプレートまたはラバーヒーターによる加熱方法が好ましく、石英ガラス全体を覆うことができるので、均一加熱という意味からはラバーヒーターによる加熱が望ましい。
なお、溶着不十分な場合は液漏れが生じるため、溶着が完全であることを確認する。例えば、分析前に超純水で液漏れのないことを確認する方法などが挙げられる。
【0014】
石英ガラス製品は、石英ガラス素材から最終製品までの各工程における半製品をも含むものである。また、石英ガラス製品の被分析面の形状については、部材が溶着可能な面であれば特に限定されるものではなく、例えば図2に示す平面状20、曲面21、または段差22などを挙げることができる。本願による加熱溶着法により、こうした曲面、段差面をも含む被分析面形状であっても分析が可能となる。
石英ガラス管の内面表層における金属等の量を分析する場合は、図3に示すように、石英ガラス管3の被分析面にポリエチレン樹脂製のリング状の部材10を載置し、ホットプレート4によって加熱して溶融させて表面に溶着一体化してエッチング液等の貯留空間を形成する。
【0015】
本発明の石英ガラス製品の金属分析方法は、部材を石英ガラス製品の被分析面に溶着し、エッチング液の貯留空間を形成する工程、この貯留空間にエッチング液を供給して被分析面にエッチング液を一定時間接触し溶解液を得る工程、エッチングした石英ガラス量を求める工程と、溶解液を加熱濃縮する工程、前工程で得た濃縮残渣に回収液を添加し該濃縮残渣を溶解する工程、回収液中に含有される金属量を定量する工程からなるものである。
【0016】
被分析面にエッチング液を接触する時間は、予め石英ガラステストピースなどを用いて実測したエッチング速度に基づいて、目的のエッチング深さに対応する時間接触させるのが好ましい。エッチングする面及び深さを制御することで、石英ガラス製品の被分析位置を3次元で選択することが可能である。
【0017】
エッチングした石英ガラス量を求める方法として、石英ガラス製品の被分析面をエッチング液にて溶解した液から一部採取し、そのケイ素量を原子吸光法または誘導結合プラズマ発光分析法にて定量して石英ガラス量に換算する方法が挙げられる。あるいは、エッチング前後の石英ガラス製品の重量差によってエッチングした石英ガラス量を求めてもよい。
【0018】
濃縮残渣を溶解する回収液として、濃縮残渣の目的金属成分を溶解することができれば特に限定されないが、無機酸単独、または複数の無機酸の混合液を使用するのが好ましく、希硝酸を使用するのが更に好ましい。
【0019】
回収液中に含有される金属量を分析する装置として、原子吸光分析装置、誘導結合プラズマ発光分析装置、または誘導結合プラズマ質量分析装置が挙げられる。定量した石英ガラスの量と金属の量から、石英ガラス製品の被分析位置の金属濃度を算出する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、石英ガラス管などの曲面の分析面を有する石英ガラス製品の表面に漏れの生じないエッチング液等の貯留空間を形成することができるため、石英ガラス製品の表層に含有される金属等の濃度を非破壊で正確に分析することが可能となった。また、エッチング液の代わりに石英ガラスは溶解しないが目的成分は溶解する抽出液を用いることにより、石英ガラスの試料最表面に付着した成分の分析が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1
表面を洗浄した直径150mmの高純度の透明合成石英ガラスウエハを準備した。内径60mmの低密度ポリエチレン容器を輪切りに切断し、ウエハとの接触面側をウエハ表面形状に合わせ切断してポリエチレン製の環状部材を作製した。この環状部材をフッ化水素酸と硝酸との混酸に1日以上全面浸漬させた後、超純水で洗浄した。洗浄した環状部材をウエハの片面中央部に載置し、ホットプレートで加熱溶着してエッチング液の貯留空間を形成した。
エッチング液の濃度と温度、及び石英ガラスの材質と表面粗さによってエッチング速度が変わってくる。このため予め諸条件におけるエッチング速度を測定しておき、所定のエッチング深さとなるように条件を設定する。
形成した貯留空間にフッ化水素酸を注いで貯留し、石英ガラスの被分析面と所定時間接触させて深さ1μm相当を溶解した。この溶解液から試料を一部採取し、誘導結合プラズマ発光分析法にて溶解した石英ガラス量を定量した。また、残りの溶解液を蒸発乾固後、蒸発残渣を希硝酸で溶解し回収液を得た。また、この回収液中の金属量を誘導結合プラズマ質量分析法により定量した。同試験を3回繰り返し実施した結果を表1に示す。分析した全ての元素の定量値が測定装置の定量下限値以下であることが判明した。なお、測定装置の定量下限値は標準溶液のブランクを10回測定し、その定量値の10σとした。(σは定量値の標準偏差である。)
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2
直径150mmの高純度合成石英ガラスウエハの片面中央部に、表2に記載の各金属元素0.5ngを含む硝酸液を滴下した後、清浄な空気で乾燥し汚染試料を作製した。この汚染試料を用いて実施例1と同様の方法で金属量を計測した。測定値から算出した回収率[(定量値/添加量)×100]を表2に示す。表2から明らかなように、添加した全ての金属元素がほぼ100%回収されている。
【0025】
【表2】

【0026】
比較例1
ポリエチレン製の環状部材10を被分析面に溶着せず手で押し付けた他は実施例1と同様に試験した。被分析面にエッチング液を一定時間接触する工程でエッチング液が漏れたため金属の定量ができなかった。
【0027】
実施例3
表面を洗浄した150mm角の溶融石英平板ガラスの片面(分析面)をフッ化水素酸に一定時間浸漬させることにより1μm相当を溶解した。この溶解液から一部採取し、誘導結合プラズマ発光分析法にて溶解した石英ガラス量を定量した。また、残りの溶解液を蒸発乾固後、蒸発残渣を希硝酸で溶解し回収液を得た。この回収液中の金属量を誘導結合プラズマ質量分析法により定量した。定量した金属量を石英ガラス量で除することにより、溶融石英平板ガラス表層中の金属濃度を算出した。
【0028】
同試料を超純水にて洗浄後、同試料同分析面に対し実施例1と同様の方法で金属量を計測した。定量した金属量を石英ガラス量で除することにより、金属濃度を算出した。
従来の分析方法と本発明に係る分析方法との差異を表3に示す。
表3に示すように従来の分析方法と同等の分析値が得られており、本発明に係る分析方法により精度良く分析できることが確認された。
【0029】
【表3】

【0030】
実施例4
表面を洗浄したφ200×300mmの石英ガラス管3の内面に対し実施例1と同様に試験した(n=3)。定量した金属量を石英ガラス量で除して、金属濃度を算出した。得られた定量値を表4に示した。
被分析面が曲面であっても非破壊で含有金属量を分析できることが実証でき、また測定した4元素全てが定量的に精度良く分析できることが判明した。
【0031】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】エッチング液等の貯留空間を形成するための部材の斜視図と断面図。
【図2】石英ガラス製品の表面の形状例。
【図3】部材を石英ガラス管に載置する例を示す斜視図と断面図。
【符号の説明】
【0033】
10 環状部材
20 平面状石英ガラス製品
21 曲面状石英ガラス製品
22 段差を有する石英ガラス製品
3 石英ガラス管
4 ホットプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス製品の被分析面にエッチング液または抽出液の貯留空間を形成する部材を石英ガラス製品に加熱して溶着させることを特徴とする石英ガラス製品の表層分析方法。
【請求項2】
請求項1において、溶着させる部材が熱可塑性樹脂材料であることを特徴とする石英ガラス製品の表層分析方法。
【請求項3】
請求項2において、熱可塑性樹脂がフッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、またはポリプロピレン樹脂のいずれかである石英ガラス製品の表層分析方法。
【請求項4】
請求項1において、石英ガラス製品の被分析面が、平面、曲面、または段差のある面を有する形状である石英ガラス製品の表層分析方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、石英ガラス製品に形成した貯留空間にエッチング液を注いで一定時間接触し溶解液を得る工程、エッチングした石英ガラス量を求める工程、溶解液を加熱濃縮する工程、前工程で得た濃縮残渣に回収液を添加して濃縮残渣を溶解する工程、回収液中に含有される金属量を求める工程からなる石英ガラス製品の表層分析方法。
【請求項6】
請求項5において、回収液中に含有される金属量を求める工程が、原子吸光分析法、誘導結合プラズマ発光分析法、または誘導結合プラズマ質量分析法のいずれかにより行われることを特徴とする石英ガラス製品の表層分析方法。
【請求項7】
請求項5において、エッチングした石英ガラス量を求める工程が、エッチング溶解液中の石英ガラス量を原子吸光法、または誘導結合プラズマ発光分析法によるか、もしくは、エッチング前後の石英ガラス製品の重量差を求めるかのいずれかによりおこなうものである石英ガラス製品の表層分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−85252(P2010−85252A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254725(P2008−254725)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(507130912)株式会社 東ソー分析センター (6)
【出願人】(390005072)東ソー・クォーツ株式会社 (46)
【Fターム(参考)】