説明

砂防ダムの取水機構

【課題】構造が単純でメンテナンスがほとんど不要であり、かつ洪水等で流されてくる流木や岩石等によって破損することがなく、長期間の使用に耐えることが可能な砂防ダムの取水機構を提供しようとするものである。
【解決手段】砂防ダムの袖部上流側に配置した取水管を取り付けた中空本体、およびその上流側に設けた開口面に取り付けた除塵スクリーンを備えた取水施設と、
前記取水施設の中空本体の一室と連通するとともに、既存の水抜き孔の中を通して配管した排砂管とを有し、
取水施設周辺の土砂を流水とともに下流側に運搬排出することにより、取水施設周辺にウォータープールを形成し、かつ維持するようにして継続的な取水を可能にしたことを特徴とする砂防ダムの取水機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は砂防ダムに存在する既存の水抜き孔を利用して、取水部周辺の土砂を下流側に排出し、取水用のプールを形成、維持するための砂防ダムの取水機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
砂防ダムの機能は、洪水時に大量の土砂を上流側に蓄えて下流側を土砂災害から守ることである。しかし同時に、蓄えた土砂を洪水後には流下させ、速やかに貯砂能力を回復させて次の洪水に備えることもまた砂防ダムの重要な機能の一つである。したがって、砂防ダムからの取水を計画する場合、取水施設周辺に大量の土砂が押し寄せることを前提としなければならない。一方、砂防ダムには、水通しの直下に水抜き孔が数個設けられるのが通常である。
【0003】
以上のような砂防ダムの排砂手段としては下記のような先行技術が知られている。
まず、特開2000−273849号公報(特許文献1参照)には、上流から流れてきた土砂を堰き止める砂防ダムにおいて、上流と下流とを区画する堤体と、この堤体に至る上流側の河川底に形成した下流への下り斜面の下端と該堤体の下流側の河川底位置とを接続するように該堤体を貫通した放流開口と、常時は前記堤体の上流側の水平な河川底と略同一水平面に位置し、土砂の放流時に前記下り斜面の上端部に設けた回動軸を中心に、その先端部が前記放流開口へと傾動する傾動斜面と、この傾動斜面を傾動させるための駆動機構とを有したことを特徴とする砂防ダムが記載されている。
【0004】
また、特開2000−297420号公報(特許文献2参照)には、上流端が貯水ダム底の堆砂に対して開口し、堰堤本体の頂部を越えて延びる下流端が前記貯水ダム底よりも低い位置にある堆砂送給対象地に対して開口する排砂管を、堰堤本体の余水吐を通して敷設し、余水吐のゲートを閉鎖して排砂管の最高部位以上の高さに貯水位を上昇させることにより、排砂管内へ貯水を導入して管内部を充満し、排砂管の上流端と下流端との間の圧力差に起因する水の自然流動を惹起させ、排砂管の上流端開口を堆砂に当接して排砂管内への自然流水の流れにより堆砂を排砂管内に吸引し、排砂管の下流端開口から放出することを特徴とするサイフォンの原理を用いた貯水ダムの排砂方法が記載されている。
【0005】
特開2004−308377号公報(特許文献3参照)には、ダム堤体の上流側と下流側の間のサイフォン機能を備えた発電用通水管及び前後両端を開放した開口部付きのパイプを組として構成し、開口部付きのパイプの前部開口端をダム堤体の上流側に位置させると共に、開口部付きのパイプの後部開口端をダム堤体の下流側に位置させ、且つ、前記開口付きのパイプを発電用通水管の取水口近傍の下方位置に維持して配置し、前記開口付きのパイプの管路内を水が流れるに伴い生じる負圧により、前記開口付きのパイプの上流側開放端部より水を流入するに際して、発電用通水管の下部や周囲の沈殿物、堆積物をパイプ開口部から吸引させる通水管取水口付近の堆積土砂の除去方法及びその除去装置が記載されている。
【0006】
なお、特開平4−289313号公報(特許文献4参照)にみられるような砂防ダムの水抜き孔の土砂目詰まり防止機構が提案されているが、これは満砂後の水抜き孔の土砂目詰まりを防止して排水機能を持続させようとするものであって、この発明の目的とするような砂防ダムの排砂を目的とするもののではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−273849号公報
【特許文献2】特開2000−297420号公報
【特許文献3】特開2004−308377号公報
【特許文献4】特開平4−289313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち、特開2000−273849号公報においては傾動斜面を傾動させるための駆動機構等の作動機構が必要であってメンテナンス等が避けられず、砂防ダム等の用途には不向きである。
また特開2000−297420号公報や特開2004−308377号公報に示されたサイフォンの原理を用いたものにおいては、堰堤本体の頂部を越えて排砂管を配設する必要があるため、洪水等で流されてくる流木や岩石等によって破損しやすく、長期間の使用には耐え得ないという問題点があった。
【0009】
したがってこの発明の砂防ダムの取水機構は、構造が単純でメンテナンスがほとんど不要であり、かつ洪水等で流されてくる流木や岩石等によって破損することがなく、長期間の使用に耐えることが可能な砂防ダムの取水機構を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわちこの発明の砂防ダムの取水機構は、砂防ダムの袖部上流側に配置した取水管を取り付けた中空本体、およびその上流側に設けた開口面に取り付けた除塵スクリーンを備えた取水施設と、
前記取水施設の中空本体の一室と連通するとともに、既存の水抜き孔の中を通して配管した排砂管とを有し、
取水施設周辺の土砂を流水とともに下流側に運搬排出することにより、取水施設周辺にウォータープールを形成し、かつ維持するようにして継続的な取水を可能にしたことを特徴とするものである。
【0011】
この発明の砂防ダムの取水機構は、砂防ダムの袖部上流側に配置した取水管を取り付けた中空本体、およびその上流側に設けた開口面に取り付けた除塵スクリーンを備えた取水施設と、
前記取水施設の中空本体の一室と連通するとともに、既存の水抜き孔を排砂管の一部に利用することによって配管した排砂管とを有し、
取水施設周辺の土砂を流水とともに下流側に運搬排出することにより、取水施設周辺にウォータープールを形成し、かつ維持するようにして継続的な取水を可能にしたことをも特徴とするものである。
【0012】
以上のように、砂防ダムの袖部上流側に配置した取水管を取り付けた中空本体、およびその上流側に設けた開口面に取り付けた除塵スクリーンを備えた取水施設と、該取水施設の中空本体の一室と連通させ、既存の水抜き孔の中を通して配管した排砂管とを有するようにしたことにより、単純な構造の取水施設を砂防ダムの適所に取り付け、これに既存の水抜き孔の中を通して排砂管を配管することにより、砂防ダムの排砂を無理なく行うことができるようになる。
一方、洪水時には取水施設や排砂管が破損することを回避することができる。洪水が収束すれば排砂を再開することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
この発明は以上のように構成したので、構造が単純でメンテナンスがほとんど不要であり、かつ洪水等で流されてくる流木や岩石等によって破損することがなく、長期間の使用に耐えることが可能な砂防ダムの取水機構を提供することが可能となった。
【0014】
その他、既存の水抜き孔に排砂管を通したり、あるいは既存の水抜き孔を排砂管の一部に利用するに際しては、既存の水抜き孔を目詰まりさせている土砂を押し出すだけで簡単に設置あるいは開通させることができるので、排砂管の敷設や既存の水抜き孔の開通が簡単で、この発明の砂防ダムの取水機構の設置にはほとんど手間が掛かることはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の砂防ダムの取水機構の実施の形態を示す排砂時の正面図である。
【図2】その平面図である。
【図3】その内部構造を説明する概略側面図である。
【図4】この発明の砂防ダムの取水機構の他の実施の形態を示す排砂時の側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の砂防ダムの取水機構の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1ないし図3に示すように、この発明の実施例における砂防ダムの取水機構は、砂防ダム11の袖部12の上流側に配置した中空本体21、およびその上流側に設けた開口面22に取り付けた除塵スクリーン23を備えた取水施設13を備えている。
前記取水施設13はコンクリート等で中空本体21が作製され、その第1室21aの上流側に設けた開口面22には縦長のスリットを備えた金属製の除塵スクリーン23が取り付けられている。なお、前記開口面22はその下部において前記中空本体21を立ち上げた前壁24を備えており、除塵スクリーン23を通過してきた流水は、後述の排砂管14の開口端14aに直接流れ込むようになっている。前記中空本体21の第1室21aと隣接して設けた第2室21bには取水管16が取り付けてある。
【0017】
このように構成した砂防ダムの取水機構においては、排砂管14の開口端14aに設けたバルブ14b、および取水管16の開口端16aに設けたバルブ16bの操作によって取水や排砂がそれぞれ行われるようになっている。
すなわち、取水の際には排砂管14の開口端14aに設けたバルブ14bを閉じ、取水管16の開口端16aに設けたバルブ16bを開けばそのまま取水することができる。他方、排砂の際には取水管16の開口端16aに設けたバルブ16bを閉じ、排砂管14の開口端14aに設けたバルブ14bを開けば難なく排砂することができるのである。
【0018】
この発明における前記取水施設13の中空本体21の第1室21aには、鋼管等からなる排砂管14を連通するよう配設するとともに、この排砂管14を既存の水抜き孔15の中を通して配管してある。
このように既存の水抜き孔15に排砂管14を通すに際しては、既存の水抜き孔15を目詰まりさせている土砂を押し出すだけで簡単に設置することができる。
この発明の砂防ダムの取水機構においては、前記取水施設13周辺の土砂を流水とともに排砂管14を経由して下流側に運搬排出することにより、前記取水施設13の周辺にウォータープールを形成し、かつ維持するようにして取水管16からの継続的な取水を可能にしたのである。
【0019】
図4はこの発明の砂防ダムの取水機構の他の実施の形態を示すものである。
この実施例の砂防ダムの取水機構は、前記実施例と同様に、砂防ダム11の袖部12の上流側に配置した中空本体21、およびその第1室21aの上流側に設けた開口面22に取り付けた除塵スクリーン23を備えた取水施設13を備えている。
【0020】
他方、前記取水施設13の中空本体21には、鋼管等からなる排砂管14を連通するよう配設するとともに、この排砂管14を既存の水抜き孔15に連通するよう配管してある。
このように既存の水抜き孔15を排砂管14の一部に利用するに際しては、既存の水抜き孔15を目詰まりさせている土砂を押し出すだけで簡単に開通させることができる。
この発明の砂防ダムの取水機構においては、前記取水施設13周辺の土砂を流水とともに排砂管14および既存の水抜き孔15を経由して下流側に運搬排出することにより、前記取水施設13の周辺にウォータープールを形成し、かつ維持するようにして取水管16からの継続的な取水を可能にしたのである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明の砂防ダムの取水機構は以上のように構成したので、構造が単純でメンテナンスが容易であり、かつ砂防ダムから排水と、滞砂の発生時における排砂とを簡単に行うことが可能な砂防ダムの取水機構を提供することができる。
【符号の説明】
【0022】
11 砂防ダム
12 袖部
13 取水施設
14 排砂管
14a 開口端
14b バルブ
15 水抜き孔
16 取水管
16a 開口端
16b バルブ
21 中空本体
22 開口面
23 除塵スクリーン
24 前壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂防ダムの袖部上流側に配置した取水管を取り付けた中空本体、およびその上流側に設けた開口面に取り付けた除塵スクリーンを備えた取水施設と、
前記取水施設の中空本体の一室と連通するとともに、既存の水抜き孔の中を通して配管した排砂管とを有し、
取水施設周辺の土砂を流水とともに下流側に運搬排出することにより、取水施設周辺にウォータープールを形成し、かつ維持するようにして継続的な取水を可能にしたことを特徴とする砂防ダムの取水機構。
【請求項2】
砂防ダムの袖部上流側に配置した取水管を取り付けた中空本体、およびその上流側に設けた開口面に取り付けた除塵スクリーンを備えた取水施設と、
前記取水施設の中空本体の一室と連通するとともに、既存の水抜き孔を排砂管の一部に利用することによって配管した排砂管とを有し、
取水施設周辺の土砂を流水とともに下流側に運搬排出することにより、取水施設周辺にウォータープールを形成し、かつ維持するようにして継続的な取水を可能にしたことを特徴とする砂防ダムの取水機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−46937(P2012−46937A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189121(P2010−189121)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【特許番号】特許第4678893号(P4678893)
【特許公報発行日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(504435461)
【Fターム(参考)】