説明

研削前のICタグ取付構造およびそれを用いたICタグ付き転がり軸受

【課題】ICタグを取付対象物の取付穴内で封入する接着剤層の表面への異物の付着を防止した研削前のICタグ取付構造を提供する。
【解決手段】取付対象物である内輪2の取付面2aに予め取付穴2bをあけておき、この取付穴2b内にICタグ11を配置した状態で接着剤を注入して、ICタグ11を取付穴2b内で封入する接着剤層12を形成する際に、その接着剤層12の表面を取付穴2bの開口縁よりも底側に形成し、取付面2aに研削が施される前に、取付穴2bの開口部近傍に蓋13を挿入して接着剤層12の表面を覆うことにより、ゴミや取付面2aの研削粉等の異物が接着剤層12の表面へ付着しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非接触通信により情報の交信が可能なICタグの研削前の取付構造と、その取付構造によりICタグを取り付けたICタグ付き転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触通信により情報の交信が可能なICタグは、近年、小型化、低廉化が進み、既に物流関係の分野を中心に広く使用されており、機械関係の分野においても用いられつつある。
【0003】
例えば、ICタグを転がり軸受等の機械装置の構成部品に取り付ける場合、ICタグには、その部品の種類や製造時期、製造ロット、製造履歴などの各種識別情報を記憶させることができる。そして、部品の保管時、流通時、使用前、使用中、使用後等の適宜の時期に、そのICタグに記憶された情報を読み取れば、即座にその部品の識別情報を把握することができる。したがって、ICタグを取り付けた機械装置では、メンテナンス時や故障時等に、従来のように部品に打たれた刻印を確認してメーカー等のコンピュータや帳簿で部品の識別情報を調べる必要がなく、効率よく保守作業や修理を行うことができる。
【0004】
ところで、機械装置の構成部品等へのICタグの取付構造が、ICタグを取付対象物の表面に貼り付けただけのものであると、ICタグが剥がれ落ちることがある。そこで、取付対象物の表面に開口する取付穴の内部にICタグを配置し、その取付穴を蓋で覆うことにより、ICタグの脱落が生じないようにすることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−226498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように非接触交信型のICタグを取付対象物の取付穴内に配置し、その取付穴を蓋で覆うICタグ取付構造では、取付穴内でICタグがしっかりと固定されていないので、取付対象物に加わる衝撃等によってICタグの位置がずれて、ICタグと外部のリーダライタ装置との間で適正な交信が行えなくなるおそれがある。
【0007】
これに対して、ICタグを取付穴内に配置し、その取付穴に注入した接着剤でICタグを封入する接着剤層を形成する構造とすれば、ICタグを適正な交信が行える位置で固定することができる。
【0008】
しかしながら、この接着剤層にICタグを封入するICタグ取付構造では、接着剤層を形成した後に接着剤層の表面に異物が付着することにより、外観品質が低下して出荷時の検査基準を満足できなくなることがある。
【0009】
例えば、図5に示すように、ICタグ51を取付対象物52に取り付けた後にその取付面52aを研削する場合は、通常、ICタグ51を封入するための接着剤を取付穴52b全体に充填しないので、取付面52aに接着剤層53の表面を底面とする凹部54が形成され、この凹部54にゴミや取付面52aの研削粉等の異物が溜まりやすい。そして、研削による表層除去量gは取付対象物52の寸法精度によって決まるため、この表層除去量gが小さいときに、異物が付着した接着剤層53の表面が研削されずに残ってしまうことになる。
【0010】
一方、取付穴全体に接着剤を充填する場合は、接着剤またはICタグが取付面の研削工程で一部除去されるおそれがあり、接着剤は研削ごみを巻き込む可能性、ICタグは最悪の場合破損に致り読み取り不能になる可能性がある。これは、研削による表層除去の必要量が取付対象物の熱処理変形の度合いによって変化することに起因する。
【0011】
そこで、本発明は、ICタグを取付対象物の取付穴内で封入する接着剤層の表面への異物の付着を防止した研削前のICタグ取付構造と、それを用いたICタグ付き転がり軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の研削前のICタグ取付構造は、非接触交信型のICタグを取付対象物の表面に開口する取付穴内に配置し、前記取付穴に注入した接着剤で前記ICタグを封入する接着剤層を形成した、前記取付穴の周囲への表面研削が施される前のICタグ取付構造において、前記接着剤層の表面を前記取付穴の開口縁よりも底側に形成し、前記取付穴の開口部近傍に前記接着剤層の表面を覆う蓋を挿入した構成を採用した。
【0013】
すなわち、ICタグを取付対象物の取付穴内で封入する接着剤層の表面を取付穴の開口縁よりも底側に形成し、取付穴の開口部近傍に蓋を挿入して接着剤層の表面を覆うことにより、異物が接着剤層の表面へ付着しないようにしたのである。
【0014】
ここで、前記蓋は、ICタグのリーダライタ装置との交信に影響を与えにくい合成樹脂で形成することが望ましい。また、その内側面に前記接着剤層に刺し込まれる突起を設けたり、蓋自体を前記取付穴に圧入されるものとしたりして、蓋が取付穴から容易に脱落しないようにすることが望ましい。
【0015】
前記蓋は、前記取付穴の周囲への表面研削が完了した後に取り外されるものとしてもよい。その場合は、前記蓋に取り外し用のタブを設けるとよい。また、前記蓋の内側面を平面で形成し、この蓋の内側面で前記接着剤層の表面を形成するようにすれば、蓋を取り外したときに平坦な接着剤層表面が現れるので、外観上好ましい。
【0016】
また、前記取付穴の底面を円すい面で形成し、前記ICタグの取付穴底側の面を前記取付穴の底面に倣う円すい面で形成すれば、ICタグを取付穴の底に配置した際のすわりがよくなり、ICタグをより安定した姿勢で固定することができる。
【0017】
そして、本発明のICタグ付き転がり軸受は、上述した研削前のICタグ取付構造により、構成部品の少なくとも一つにICタグを取り付けたものとした。
【発明の効果】
【0018】
本発明の研削前のICタグ取付構造は、上述したように、取付対象物の取付穴の開口部近傍に蓋を挿入して、ICタグを取付穴内で封入する接着剤層の表面を覆うようにしたものであるから、接着剤層の表面への異物の付着を防止でき、従来よりも優れた外観品質が得られる。
【0019】
また、本発明のICタグ付き転がり軸受は、上述した研削前のICタグ取付構造により、構成部品の少なくとも一つにICタグを取り付けたものであるから、外観品質が良好な状態で出荷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態のICタグ付き転がり軸受の使用状態の要部の正面断面図
【図2】a〜dは図1のICタグの取付手順を説明する正面断面図、eはa〜dの蓋の外観斜視図
【図3】第2実施形態の研削前のICタグ取付構造の正面断面図
【図4】aは本発明と別の研削前のICタグ取付構造の正面断面図、bはaの平面図
【図5】従来のICタグ取付構造の正面断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は第1の実施形態のICタグ付き転がり軸受1の使用状態を示す。この転がり軸受1は、内輪2と外輪3の間に複数の円すいころ4と環状の保持器5を配した円すいころ軸受で、その内輪2および外輪3の一端面に非接触交信型のICタグ11が取り付けられており、ICタグのない円すいころ軸受6とともに複列でハウジングHと回転軸Aとの間に組み込まれている。
【0022】
この転がり軸受1は、前記内輪2が図1中の左側に位置する押圧部材7によって右側へ押圧されることにより予圧が付与されている。このため、内輪2に取り付けられたICタグ11に記憶された情報を読み取る場合には、例えば、押圧部材7を取り外してICタグ11を露出させた後、そのICタグ11にリーダライタ装置(図示省略)を接近させることとなる。また、外輪3に取り付けられたICタグ11に記憶された情報を読み取る場合には、そのICタグ11に前記リーダライタ装置が接近できる程度にまで転がり軸受1やその周辺の部材を分解した後、読み取り作業を行うこととなる。もちろん、部品の分解を伴わずに前記リーダライタ装置をICタグ11に接近させることができる場合には、その分解は不要である。
【0023】
図2は前記ICタグ11の取付手順を示す。その取付手順は、まず、図2(a)に示すように、取付対象物である内輪2の取付面(一端面)2aに、予め底面が円すい面となる円形の取付穴2bをあけておき、この取付面2aに開口する取付穴2b内にICタグ11を配置した状態で接着剤を注入して、ICタグ11を封入する接着剤層12を形成する。このとき、接着剤は取付穴2b全体に充填せず、接着剤層12の表面が取付穴2bの開口縁よりもかなり底側に形成されるようにする。
【0024】
そして、接着剤が完全に固化しないうちに、図2(b)に示すように、取付穴2bの開口部近傍に蓋13を挿入して、この蓋13で接着剤層12の表面を覆う。この蓋13は、ICタグ11の前記リーダライタ装置との交信に影響を与えにくい合成樹脂で円板状に形成されたもので、その内側面の周縁部に複数の突起13aが設けられ、外側面の中央部にはタブ13bが設けられている(図2(e)参照)。この蓋13の突起13aを接着剤層12に刺し込んで、内側の平面を接着剤層12表面に押し付けることにより、蓋13が取付穴2bから容易に脱落しないようにするとともに、接着剤層12の表面を平坦に形成することができる。
【0025】
次に、図2(b)の状態で内輪2の取付面2aを図中の破線の位置まで研削することにより、図2(c)の状態とする。すなわち、図2(b)の状態が本発明の第1実施形態の研削前のICタグ取付構造を示している。なお、この研削前のICタグ取付構造では、取付面2aの研削時に蓋13が研削されないように、蓋13全体が余裕をもって取付穴2b内に入り込む構成とすることが望ましい。
【0026】
最後に、接着剤が完全に固化した後、蓋13のタブ13bをつまんで、蓋13を取付穴2bから取り外すと、図2(d)の状態となる。このとき、蓋13の内側面で形成された平坦な接着剤層12表面が現れる。
【0027】
上述したように、この研削前のICタグ取付構造では、内輪2の取付穴2bの開口部近傍に蓋13を挿入して、ICタグ11を封入する接着剤層12の表面を覆うようにしたので、ゴミや取付面2aの研削粉等の異物が接着剤層12表面へ付着するおそれがない。また、蓋13を取付穴2bから取り外すと平坦な接着剤層12表面が現れ、従来よりも優れた外観品質が得られる。
【0028】
図3は第2の実施形態の研削前のICタグ取付構造を示す。この実施形態は、図2(b)に示した第1実施形態をベースとし、ICタグ11の取付穴2b底側の面を取付穴2bの底面に倣う円すい面で形成することにより、ICタグ11を取付穴2bの底に配置した際のすわりをよくして、ICタグ11をより安定した姿勢で固定できるようにしている。また、内側面に突起のない蓋13を用い、この蓋13を取付穴2bに圧入して取付穴2bから容易に脱落しないようにしている。
【0029】
この第2実施形態でも、第1実施形態と同様、接着剤層12表面への異物の付着を防止でき、蓋13を取り外すと平坦な接着剤層12表面が現れて、優れた外観品質を確保することができる。
【0030】
なお、上述した各実施形態では、内輪2の取付面2a研削後に蓋13を取り外すようにしたが、接着剤層を覆う蓋は必ずしも取り外さなくてもよい。その場合は、蓋の外側面にタブを設けたり、蓋の内側面を接着剤層の表面に押し付けたりする必要はない。
【0031】
また、図2および図3では転がり軸受1の内輪2のICタグ取付構造について説明したが、転がり軸受1の外輪3についても内輪2と同様の取付構造でICタグ11を取り付けることができる。
【0032】
そして、本発明は、実施形態のような円すいころ軸受に限らず、円筒ころ軸受、玉軸受等の他の種類の転がり軸受にも適用することができる。
【0033】
一方、図4(a)、(b)は、取付対象物21の取付面21aに開口する取付穴21bに、ICタグ11を収容したケーシング22を挿入して固定する場合に、ICタグ11表面に異物が付着しないようにした例を示す。この例では、取付穴21bが座ぐり部21cを有しており、ケーシング22はこの取付穴21bに嵌まり込む外形形状に形成されている。そして、ケーシング22の表面中央部にあけられた六角穴22aの底面の凹部にICタグ11が収容され、その六角穴22aの周囲に環状溝22bが設けられている。これにより、取付穴21bの周囲からケーシング22に近づく取付面21aの研削粉等の異物は、ケーシング22の環状溝22bに入り込んで滞留し、六角穴22aの底にあるICタグ11の表面に付着することがない。
【符号の説明】
【0034】
1 転がり軸受(円すいころ軸受)
2 内輪
2a 取付面
2b 取付穴
3 外輪
4 円すいころ
5 保持器
11 ICタグ
12 接着剤層
13 蓋
13a 突起
13b タブ
H ハウジング
A 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触交信型のICタグを取付対象物の表面に開口する取付穴内に配置し、前記取付穴に注入した接着剤で前記ICタグを封入する接着剤層を形成した、前記取付穴の周囲への表面研削が施される前のICタグ取付構造において、前記接着剤層の表面を前記取付穴の開口縁よりも底側に形成し、前記取付穴の開口部近傍に前記接着剤層の表面を覆う蓋を挿入したことを特徴とする研削前のICタグ取付構造。
【請求項2】
前記蓋を合成樹脂で形成したことを特徴とする請求項1に記載の研削前のICタグ取付構造。
【請求項3】
前記蓋の内側面に、前記接着剤層に刺し込まれる突起を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の研削前のICタグ取付構造。
【請求項4】
前記蓋が、前記取付穴に圧入されるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の研削前のICタグ取付構造。
【請求項5】
前記蓋が、前記取付穴の周囲への表面研削が完了した後に取り外されるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の研削前のICタグ取付構造。
【請求項6】
前記蓋に取り外し用のタブを設けたことを特徴とする請求項5に記載の研削前のICタグ取付構造。
【請求項7】
前記蓋の内側面を平面で形成し、この蓋の内側面で前記接着剤層の表面を形成するようにしたことを特徴とする請求項5または6に記載の研削前のICタグ取付構造。
【請求項8】
前記取付穴の底面を円すい面で形成し、前記ICタグの取付穴底側の面を前記取付穴の底面に倣う円すい面で形成したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の研削前のICタグ取付構造。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の研削前のICタグ取付構造により、構成部品の少なくとも一つにICタグが取り付けられたICタグ付き転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−203429(P2012−203429A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64436(P2011−64436)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】