説明

研磨パッド

【課題】研磨粒子の凝集を抑制し、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド1はポリウレタン樹脂で形成されたフィルムを有している。フィルムは、乾式成形により製造されており、イソシアネート基含有化合物と、硬化剤のポリアミン化合物と、発泡因子として熱膨張性を有する微粒子とを混合した混合液を型枠に注型し、加圧しながら硬化させた発泡体をスライスして製造される。フィルムの内部には、微粒子が硬化反応熱などにより膨張して生じた多数の発泡が形成されている。発泡は、硬化時の加圧処理により、いずれも同じ方向に楕円体状を呈している。発泡体がスライスされたフィルムの研磨面には多数の開孔4が形成されている。開孔4は、同じ方向に楕円状に形成されている。開孔4でのスラリの滞留が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに係り、特に、被研磨物を研磨するための研磨面に複数の開孔が形成されたプラスチックシートを有する研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク、液晶ディスプレイ用ガラス基板、カラーフィルタ、インジウム錫酸化物(ITO)成膜済み基板等の材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。通常、これらの被研磨物の研磨加工では、研磨粒子を含む研磨液(スラリ)を供給しながら被研磨物の加工面(被研磨面)が研磨加工されている。
【0003】
通常、研磨パッドは、被研磨物を研磨するための研磨面に複数の開孔が形成されており、内部に発泡が形成されたプラスチックシートを有している。このプラスチックシートは、湿式成膜法、または、乾式成形法で形成される。湿式成膜法では、プラスチック(樹脂)を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させる。凝固再生に伴い、プラスチックシートの表面には表面層を構成する微多孔が厚さ数μm程度に亘り緻密に形成され、表面層より内側には発泡が形成される。一方、乾式成形法では、通常、イソシアネート基含有化合物と、活性水素化合物を含む硬化剤とを反応により硬化させた発泡体がシート状にスライスされる。発泡体の内部に発泡を形成する方法としては、例えば、成形時に中空微粒子や不活性気体等を混合する方法が知られている。
【0004】
研磨加工時には、スラリが研磨面と加工面との間に十分に供給されていることが必要であり、研磨面に形成された多数の開孔にスラリが出入りすることで、スラリを保持させながら供給されている。湿式成膜法で製造された研磨パッドでは、微多孔が形成された表面層側をバフ処理(表面サンディング)することで、内部の発泡が開孔するので、スラリの保持性を向上させることができる。乾式成形法で製造された研磨パッドでは、発泡体をスライスすることで製造されるので、研磨面には開孔が形成され、その開孔部分にスラリを保持させることができる。スラリの保持性を向上させるため、例えば、研磨面に研磨面の径方向に対して交差している長尺な穴が形成された研磨パッドの技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007―214379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、湿式成膜法、乾式成形法、いずれの方法で製造された研磨パッドであっても、研磨面に形成された開孔が小さすぎると、研磨粒子の目詰まりが起こりやすくなる。逆に、開孔が大きすぎると、研磨粒子が開孔内に長時間滞留することがあり、その結果、凝集を起こして凝集物が形成される可能性がある。この凝集物が開孔内から放出されると、研磨面と加工面との間に入り、加工面にスクラッチを発生させ、被研磨物の平坦性を低下させる。また、特許文献1の技術では、パンチングにより研磨面に長円状の開孔を形成するため、パンチングによる開孔では開孔径、とりわけ短径を小さくすることが難しくなり、結果として開孔全体が大きくなる。このため、上述した開孔が大きすぎる場合と同様の問題が生じる。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、研磨粒子の凝集を抑制し、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、被研磨物を研磨するための研磨面に複数の開孔が形成されたプラスチックシートを有する研磨パッドにおいて、前記開孔は同じ方向に長円状に形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、研磨面に形成された複数の開孔が同じ方向に長円状なため、研磨加工時に開孔の長径に沿う部分が短径方向に伸縮し易くなり、開孔内でスラリの滞留が抑制され、開孔の長径方向でスラリの保持性が確保されるので、研磨粒子の凝集を抑制することができると共に、スラリが開孔から安定して放出されることで被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0010】
この場合において、研磨面に形成された開孔の短径に対する長径の比を1.2〜2.5の範囲にすることが好ましい。このとき、開孔の短径を30μm以下としてもよい。また、プラスチックシートの密度を0.15g/cm〜0.80g/cmの範囲とすることができる。プラスチックシートのショアA硬度を20度〜90度の範囲とすることができる。プラスチックシートの内部には多数の発泡が形成されており、研磨面側がバフ処理ないしスライス処理されて開孔が形成されていてもよい。プラスチックシートは、研磨面の反対面側に基材が貼り合わされていてもよい。このとき、基材の両面に粘着剤が塗布されており、一面側の粘着剤でプラスチックシートと貼り合わされ、他面側の粘着剤が剥離紙で覆われていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨面に形成された複数の開孔が同じ方向に長円状なため、研磨加工時に開孔の長径に沿う部分が短径方向に伸縮し易くなり、開孔内でスラリの滞留が抑制されると共に、開孔の長径方向でスラリの保持性が確保されるので、研磨粒子の凝集を抑制することができ、スラリが開孔から安定して放出されることで被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0013】
(研磨パッド)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド1は、プラスチックシートとしてのフィルム2を有している。フィルム2は、一面側に、被研磨物を研磨するときに被研磨物に当接可能な研磨面Pを有している。フィルム2は、乾式成形により製造されており、イソシアネート基含有化合物と、活性水素化合物を含む硬化剤と、発泡因子として加熱されると膨張して中空状になる微粒子(以下、単に、微粒子という。)とを混合した混合液を型枠に注型し、加圧しながら硬化させた発泡体をスライスして製造される。フィルム2の内部には、微粒子が硬化反応熱などにより膨張して生じた多数の発泡3が形成されている。発泡3は、硬化時の加圧処理により、いずれも同じ方向に楕円体状を呈しており、発泡体がスライスされることで、研磨面Pに複数(多数)の開孔4が略均等に形成される。
【0014】
図2(A)に示すように、開孔4は、いずれも同じ方向に楕円状に形成されている。すなわち、それぞれの開孔4は、図2(B)に示すように、短径Hおよび長径Wを有している。開孔4は、短径Hに対する長径Wの比W/Hが1.2〜2.5の範囲になるように形成されている。また、開孔4は、短径Hが30μm以下になるように形成されている。フィルム2は、密度が0.15〜0.80g/cmの範囲に設定されている。また、フィルム2は、ショアA硬度が20〜90度の範囲に設定されている。なお、フィルム2の密度、ショアA硬度は、イソシアネート基含有化合物、硬化剤の種類や分子量、内部に形成される発泡3の数や大きさ等を調整することにより設定することができる。
【0015】
また、図1に示すように、研磨パッド1は、研磨面Pの反対面側に、研磨機に研磨パッド1を装着するための両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)フィルム製の基材7aを有しており、基材7aの両面には、図示を省略した粘着剤が塗布されている。両面テープ7は、基材7aの一面側に塗布された粘着剤でフィルム2と貼り合わされており、他面側に塗布された粘着剤が剥離紙7bで覆われている。なお、研磨パッド1では、両面テープ7の基材7aが研磨パッド1の基材を兼ねている。
【0016】
(研磨パッドの製造)
研磨パッド1は、準備、混合、注型、硬化、スライス、ラミネートの各工程を経て製造されるが、以下、工程順に説明する。
【0017】
(準備工程)
準備工程では、イソシアネート基含有化合物と、硬化剤のポリアミン化合物と、ポリオール化合物に微粒子を分散させた分散液とをそれぞれ準備する。
【0018】
イソシアネート基含有化合物としては、分子内に2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物とを反応させることで生成したイソシアネート末端ウレタンプレポリマ(以下、単に、プレポリマと略記する。)が用いられている。ポリオール化合物と、ジイソシアネート化合物とを反応させるときに、イソシアネート基のモル量を水酸基のモル量より大きくすることで、プレポリマを得ることができる。また、使用するプレポリマは、粘度が高すぎると、流動性が悪くなり混合時に略均一に混合することが難しくなる。反対に粘度が低すぎると、後述する硬化成型時に形成される発泡3が容易に移動して、偏在しやすくなるため、発泡3が略均等に分散した発泡体を形成することが難しくなる。このため、プレポリマは、温度50℃〜80℃における粘度を500〜4000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。このことは、例えば、プレポリマの分子量(重合度)を変えることで粘度を設定することができる。プレポリマは、50〜80℃程度に加熱され流動可能な状態とされる。
【0019】
プレポリマの生成に用いられるジイソシアネート化合物としては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン−1,4−ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。また、これらのジイソシアネート化合物の二種以上を併用してもよい。
【0020】
一方、プレポリマの生成に用いられるポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、および、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物のいずれも使用することができる。また、これらのポリオール化合物の二種以上を併用してもよい。
【0021】
硬化剤のポリアミン化合物としては、脂肪族や芳香族のポリアミン化合物を使用することができる。本例では、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと略記する。)を使用する。MOCAは、約120℃に加熱し溶融させた状態で用いられる。
【0022】
微粒子を分散させた分散液の調製に用いられるポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール(以下、PPGと略記する。)等の高分子量のポリオール化合物のいずれも使用することができる。数平均分子量1000〜2000のPPGが分散性や得られる研磨パッドの耐熱性の面から好ましく、本例では、数平均分子量約2000のPPGを使用し、これに、微粒子を5〜50重量%の割合で添加して分散液を調製する。分散液の調製時には、一般的な攪拌装置を使用して攪拌混合すればよく、微粒子が略均等に分散されていればよい。
【0023】
微粒子としては、例えば、低沸点炭化水素が内包され、殻部分が熱可塑性樹脂で形成される微小球体を用いることができる。殻部分を形成する熱可塑性樹脂の軟化温度が、内包した低沸点炭化水素の沸点よりも高温であるものが好ましい。膨張前の微粒子は、熱可塑性樹脂の軟化温度以上の熱が加えられると、熱可塑性樹脂の軟化及び低沸点炭化水素の気化が同時に起こり、体積膨張して中空となる。殻部分を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリルニトリル−塩化ビニリデン共重合体、アクリルニトリル−メチルメタクリレート共重合体が用いられる。微粒子に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等が用いられる。本例では、膨張後の微粒子の粒径が、5〜30μmの範囲のものを用いる。なお、内包させる低沸点炭化水素の量を調整することで、膨張後の粒径を調整することができる。
【0024】
(混合工程)
混合工程では、準備工程で準備したプレポリマ、ポリアミン化合物及び分散液を混合して混合液を調製する。プレポリマやMOCAに代表されるポリアミン化合物の多くがいずれも常温で固体または流動しにくい状態のため、各成分が流動可能となるように加温されている。混合液の調製時には、混合槽内で一般的な攪拌装置を使用して攪拌混合すればよく、各成分が略均一に混合されていればよい。
【0025】
(注型工程)
注型工程で混合液を注型するときは、混合液を混合槽の排出口から排出し、例えば、フレキシブルパイプを通じて型枠の対向する2辺間を往復移動する注液口に導液する。注液口を往復移動させながら、排出口の端部(フレキシブルパイプの端部)を注液口の移動方向と交差する方向に往復移動させる。混合液は、型枠に略均等に注型される。本例では、厚さ50mm、幅1050mm、長さ1050mm、で厚さは固定されているが、幅方向、長さ方向で圧力を加えたり減じたりできるように、350mmから1050mmの範囲で可動式の構造の密閉可能な型枠が用いられる。
【0026】
(硬化成型工程)
硬化成型工程では、注型された混合液を加圧しながら型枠内で反応、硬化させて発泡体を成型する。加圧処理は、混合液に対して型枠の上下方向と、対向する2辺間の方向との2方向から圧力を加えることで、混合液内の発泡3が同じ方向に長尺な楕円体状に形成されるように行われる。このとき、圧力は、スライス後に形成される開孔4の比W/Hが1.2〜2.5の範囲、短径Hが30μm以下になるように設定される。本例では、圧力が2方向ともに0.1〜5MPaの範囲に設定されている。なお、プレポリマとポリアミン化合物との反応によりプレポリマが架橋硬化しており、硬化後に加圧処理を解除しても発泡3は楕円体状に維持される。
【0027】
(スライス工程)
スライス工程では、硬化成型工程で得られた発泡体をシート状にスライスして複数枚のフィルム2を形成する。スライスには、一般的なスライス機を使用することができる。スライス時には発泡体の下層部分を保持し、上層部から順に所定厚さにスライスされる。スライスする厚さは、本例では、1.3〜2.5mmの範囲に設定されている。また、本例で用いた厚さが50mmの型枠で成型した発泡体では、例えば、発泡体の上層部および下層部の約10mm分をキズ等の関係から使用せず、中央部の約30mm分から10〜25枚のフィルム2が形成される。硬化成型工程で成型された発泡体は、いずれも同じ方向に長尺な楕円体状の発泡3が略均一に形成されているので、スライス工程で研磨面Pに形成される開孔4は、同じ方向に楕円状を呈している(図2(A)参照)。更に、開孔4は、比W/Hが1.2〜2.5の範囲、短径Hが30μm以下になるように形成される。
【0028】
(ラミネート工程)
ラミネート工程では、スライス工程で形成されたフィルム2と両面テープ7とが貼り合わされる。円形に裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド1を完成させる。
【0029】
被研磨物の研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨パッド1を装着する。研磨定盤に研磨パッド1を装着するときは、剥離紙7bを取り除き、露出した粘着剤層で研磨定盤に接着固定する。被研磨物を加圧し、スラリを供給しながら研磨定盤を回転させることで、被研磨物の加工面が研磨加工される。
【0030】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨パッド1の作用等について説明する。
【0031】
本実施形態の研磨パッド1では、開孔4の短径Hが30μm以下に設定されており、比W/Hが1.2〜2.5の範囲に設定されている。短径Hが30μm以下で、比W/Hが1.2より小さい場合は、研磨粒子が開孔4に目詰まりしやすくなる。反対に比W/Hが2.5より大きい場合は、研磨粒子が開孔4内に長時間滞留することがあり、その結果、凝集を起こして凝集物が形成される可能性がある。この凝集物が開孔4内から放出されると、研磨面Pと加工面との間に入り、加工面にスクラッチを発生させ、被研磨物の平坦性を低下させる。本実施形態では、比W/Hを上述した範囲としたので、研磨粒子の凝集を抑制し、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0032】
また、本実施形態の研磨パッド1では、研磨面Pに形成された開孔4が同じ方向に楕円状に形成されている。このため、研磨加工時に開孔4の長径方向に沿う部分が短径方向に伸縮しやすくなるので、スラリが開孔4から放出されることで、開孔4内での研磨粒子の凝集を抑制することができる。更に、開孔4から放出されたスラリが研磨面Pと加工面との間に安定して十分に供給されるので、加工面の平坦性を向上させることができる。また、研磨加工時には研磨パッド1が回転するため、スラリの流入する方向がそれぞれの開孔4に対して一様ではなくなる。このため、スラリの流入方向が開孔4の短径方向に近づくと、スラリが開孔4に長時間滞留しないため、研磨粒子の凝集を起こさず、被研磨物のスクラッチを抑制することができる。逆に、スラリの流入方向が開孔4の長径方向に近づくと、長径方向の長さ分でスラリを保持することができる。
【0033】
更に、本実施形態の研磨パッド1では、フィルム2の密度が0.15〜0.80g/cmの範囲、ショアA硬度が20〜90度の範囲に設定されている。密度が0.15g/cmより小さい場合やショアA硬度が20度より低い場合は、研磨パッド1が柔らかくなりすぎてしまい、ロールオフなどが発生し易くなる。反対に、密度が0.80g/cmより大きい場合やショアA硬度が90度より高い場合は、被研磨物をソフトに研磨することが難しくなり、被研磨物の平坦性を低下させるおそれがある。従って、フィルム2の密度およびショアA硬度を上述した範囲に設定することで、研磨パッド1が適度な柔軟性を有するので、被研磨物をソフトに研磨することができ、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0034】
また更に、本実施形態では、混合液中での微粒子の分散性をよくする目的でポリオール化合物に微粒子を分散させた分散液が調製されるが、このポリオール化合物の一部がプレポリマと反応して、ウレタン結合を形成する。プレポリマと硬化剤のポリアミン化合物とが反応して形成されるウレア結合では、ウレタン結合と比べて水素結合が形成されやすいため、研磨加工時にスラリが供給されて湿潤状態となると水素結合が切断され硬度が低下する。このため、得られる研磨パッド1では、ウレタン結合が形成される分で水素結合の形成が減少することから、耐湿熱性が向上するので、研磨加工に伴い発熱しても研磨効率の低下を抑制することができる。
【0035】
更に、本実施形態の研磨パッド1では、両面テープ7の基材7aが研磨パッド1の基材を兼ねている。このため、研磨パッド1の搬送時や研磨機への装着時に柔軟なフィルム2が基材7aで支持されるので、研磨パッド1の取り扱いを容易にすることができる。
【0036】
なお、本実施形態では、研磨面Pに開孔4がいずれも同じ方向に楕円状に形成される例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、開孔4が同じ方向に長円状に形成されていればよい。すなわち、開孔4の長径に沿う部分が直線上でもよく、湾曲状でもよい。
【0037】
また、本実施形態では、微粒子を用いてフィルム2に発泡3を形成させる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、プレポリマ、ポリアミン化合物等の混合液に含まれるいずれの成分に対しても非反応性の気体を混合液の調製時に混合することで発泡を形成させるようにしてもよい。
【0038】
更に、本実施形態では、発泡3が硬化成型時の加圧処理により楕円体状に形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、開孔4が同じ方向に長円状に形成される方法であれば、いかなる方法で発泡3を形成してもよい。
【0039】
また更に、本実施形態では、上述した加圧処理の圧力が混合液に対して型枠の上下方向と、対向する2辺間の方向との2方向で同じに設定する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、2方向で圧力を変えてもよい。
【0040】
更にまた、本実施形態では、プレポリマとして、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させたプレポリマを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリオール化合物に代えて水酸基やアミノ基等を有する活性水素化合物を用い、ジイソシアネート化合物に代えてポリイソシアネート化合物やその誘導体を用い、これらを反応させることで得るようにしてもよい。また、多種のイソシアネート末端プレポリマが市販されていることから、市販のものを使用することも可能である。
【0041】
また、本実施形態では、ポリオール化合物に微粒子を分散させた分散液を調製する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、分散液がポリオール化合物および微粒子以外に、例えば、硬化成型に際し必要な添加剤等の成分を含むようにしてもよい。
【0042】
更に、本実施形態の研磨パッド1では、乾式成形法で製造したフィルム2を用いる例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、例えば、湿式成膜法で製造するようにしてもよい。このとき、例えば、延伸処理しながら熱処理することで、研磨面に形成された開孔を延伸方向と同じ方向に長円状に形成することができる。また、湿式成膜法の場合は、研磨面側にスキン層が形成され、スラリの保持性が不十分になる可能性もあることから、研磨パッドの平坦性及びスラリの保持性を向上させるために研磨面側をバフ処理してもよい。このようにすれば、内部に形成された発泡を研磨面で開孔させることができる。
【0043】
また更に、本実施形態の研磨パッド1では、フィルム2として、発泡体をスライスすることによりシート状に形成したものを例示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、例えば、1枚ずつシート状に硬化成型してもよい。この場合、例えば、研磨面側をバフ処理することにより開孔を形成することができる。
【0044】
更にまた、本実施形態の研磨パッド1では、フィルム2に両面テープ7を貼り合わせ、両面テープ7の基材7aが研磨パッド1の基材を兼ねる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、フィルム2と両面テープ7との間にPETフィルム等の基材を貼り合わせるようにしてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド1の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0046】
(実施例1)
実施例1では、プレポリマとして、イソシアネート基含有量が9〜9.3%の末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマ(Adiprene L−325)を用い、これを55℃に加熱し減圧下で脱泡した。硬化剤のMOCAは、120℃で溶解させ、減圧下で脱泡した。分散液は、数平均分子量約2000のPPGの50部に、微粒子(マツモトマイクロスフェアーF−30、松本油脂製薬株式会社製)の44部、触媒(トヨキャットET、東ソー株式会社製)の1部、シリコン系界面活性剤(SH−193、ダウコーニング社製)の5部をそれぞれ添加し攪拌混合した後、減圧下で脱泡することで調製した。プレポリマ:MOCA:分散液を重量比で100部:22.8部:5.3部の割合で混合した。得られた混合液を型枠に注型し、混合液の型枠の上下方向と、対向する2辺間の方向との2方向から圧力2MPaを加えながら硬化させて発泡体を得た。この発泡体を、厚さ1.3mmにスライスし研磨パッド1を作製した。
【0047】
(比較例1)
比較例1では、混合液の硬化時に加圧処理を行わない以外は、実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。
【0048】
(比較例2)
比較例2では、比W/Hが3.0になるように、硬化成型時に加圧処理の圧力を大きくする以外は、実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。
【0049】
実施例及び比較例について、研磨パッドの製造時にフィルム2の密度及び硬度を測定した。密度は、所定サイズの大きさに切り出した試料の重量を測定し、サイズから求めた体積から算出した。硬度としては、日本工業規格(JIS K 7311)に準じてショアA硬度を測定した。開孔の短径H及び長径Wの測定では、フィルム2の研磨面Pを、マイクロスコープ(KEYENCE製、VHX−6300)で約1.3mm四方の範囲を175倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(Image Analyzer V20LAB Ver.1.3)により処理し算出した。このとき、各試料の幅方向、長さ方向の四隅および中央部において、それぞれn=10で測定し、それぞれから得られた短径Hの平均値、長径Wの平均値から、比W/Hを求めた。
【0050】
また、実施例及び比較例の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でハードディスク用のアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨レートおよびスクラッチの発生状況を測定し研磨性能を評価した。研磨レートは、1分間当たりの研磨量を厚さで表したものであり、研磨加工前後のアルミニウム基板の重量減少から求めた研磨量、アルミニウム基板の研磨面積及び比重から算出した。スクラッチの発生状況については、研磨加工後のアルミニウム基板の表面を顕微鏡観察することでスクラッチの有無を判定した。各研磨パッドの開孔4の短径H、比W/H、フィルム2の密度及び硬度、研磨レート及びスクラッチの有無の測定結果を下表1に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:100g/cm
スラリ:コロイダルシリカスラリー(pH:10.0)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:ハードディスク用アルミニウム基板
(外径95mmφ、内径25mm、厚さ1.27mm)
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、比較例1の研磨面に形成された開孔は、比W/Hが1.0になり、ほぼ真円状であることがわかった。一方、実施例1及び比較例2の開孔は、比W/Hが1.0以上を示し、長円状の開孔が形成されていることが確認できた。また、比較例2の開孔は、比W/Hが2.5を超える長円形状を呈していることがわかった。比較例1の研磨パッドは、実施例1の研磨パッド1より低い研磨レートを示した。これは、密度や硬度の測定結果から、研磨加工に十分な硬さは備えているものの、スラリの保持性が低く、また、開孔が小さくなりすぎて目詰まりを起こしたためと考えられる。一方、比較例2の研磨パッドでは、スクラッチが発生していることから、開孔が大きくなりすぎて研磨粒子が凝集を起こしたことが考えられる。
【0053】
また、比較例1の研磨パッドでは、研磨加工後のアルミニウム基板の平坦性も十分ではないことが確認された。また、比較例2の研磨パッドでは、密度、硬度ともに低く、パッドが柔軟になりすぎたため、アルミニウム基板のロールオフが確認された。これに対して、実施例1の研磨パッド1では、アルミニウム基板の研磨加工で十分な平坦性を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は研磨粒子の凝集を抑制し、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供するため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドの断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドの開孔を示し、(A)は研磨パッドの平面図、(B)は開孔の大きさを模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
P 研磨面
1 研磨パッド
2 フィルム(プラスチックシート)
3 発泡
4 開孔
7 両面テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨するための研磨面に複数の開孔が形成されたプラスチックシートを有する研磨パッドにおいて、前記開孔は同じ方向に長円状に形成されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記開孔は、短径に対する長径の比が1.2〜2.5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記開孔は、前記短径が30μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記プラスチックシートは、密度が0.15g/cm〜0.80g/cmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記プラスチックシートは、ショアA硬度が20度〜90度の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記プラスチックシートは、内部に多数の発泡が形成されており、前記研磨面側がバフ処理ないしスライス処理されて前記開孔が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記プラスチックシートは、前記研磨面の反対面側に基材が貼り合わされていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項8】
前記基材は、両面に粘着剤が塗布されており、一面側の粘着剤で前記プラスチックシートと貼り合わされ、他面側の粘着剤が剥離紙で覆われていることを特徴とする請求項7に記載の研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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