説明

研磨パッド

【課題】柔軟性に優れながら、耐久性にも優れる研磨パッドを提供すること。
【解決手段】表面に開口部を有する多孔層が存在する研磨パッドであって、多孔層が高分子弾性体とシリコーン系化合物からなることを特徴とする研磨パッド。さらには、シリコーン系化合物が変性シリコーンオイルであることや、多孔層が湿式凝固法により形成されたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに関し、さらに詳しくは精密機器である基盤やレンズ、液晶ガラス等を被研磨物とし、微粒子が溶液中に分散したスラリーによる研磨加工に最適に用いられる研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年コンピューターなどの情報処理技術の発達に伴い、磁気記録媒体やシリコンウエハーに対する高精度の表面仕上げが要求されている。例えば磁気記録媒体のハードディスク等を製造する場合、アルミニウム、ガラス等の表面を平滑化するために、微粒子が溶液中に分散したスラリーによって研磨する加工が行われている。そしてこの研磨加工には、高分子弾性体の多孔シートが広く用いられることが多い。高分子からできた弾性体は、さらに多孔化することによってより柔軟になり、被研磨物に傷を与えることを有効に防止しうる研磨パッドとなるのである。そしてこの研磨加工時に用いられる多孔シート状物においては、より高い均質性と平滑性が要求されてきている。高くなった被研磨物の仕上がりに対する要求特性を、十分に満たせるように加工しうる素材が求められている。
【0003】
このような研磨加工に用いられる多孔シートとしては、例えばポリウレタンの発泡体を作成し、それをフィルム、不織布、織布などからなる支持体の表面に張り合わせる製造方法が用いられている(特許文献1など)。しかしポリウレタンの発泡体として、圧縮特性に優れる湿式凝固ポリウレタンを用いた場合には、強度が弱く耐久性に劣るという問題があった。特にスラリーと呼ばれる研磨液を用いる場合、そのスラリーは一般に金属砥粒と水あるいは水酸化ナトリウム等の液体から構成されるため、研磨パッドに対するダメージが強く、より高い耐久性が要求され、現状の研磨パッドの物性は、まだ満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−175576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、柔軟性に優れながら、耐久性にも優れる研磨パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の研磨パッドは、表面に開口部を有する多孔層が存在する研磨パッドであって、多孔層が高分子弾性体とシリコーン系化合物からなることを特徴とする。
さらには、シリコーン系化合物が変性シリコーンオイルであることや、多孔層が湿式凝固法により形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、柔軟性に優れながら、耐久性にも優れる研磨パッドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の研磨パッドの断面模式図である。
【図2】実施例2の研磨パッドの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の研磨パッドは、表面に開口部を有する多孔層が存在する研磨パッドであって、多孔層が高分子弾性体とシリコーン系化合物からなるものである。
ここで本発明の、表面に開口部を有する多孔層が存在する研磨パッドとしては、通常は支持体の上に開口部を有する多孔層が存在するものである。この多孔層の支持体となる基体(シート)としては、その形態が不織布、織物、フィルム等のシート状物であればいずれも利用できるが、特には均質な厚みと硬度を持ったプラスチックシートであるこことが好ましく、さらに研磨パッドが均質な厚みを達成するためには、フィルム状であることが好ましい。
【0010】
基体を構成する素材としては、主にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)などの素材が挙げられるが、中でもポリエチレンテレフタレート(PET)がその均質性と取り扱いやすさから良好な素材として選定されうる。また、基体がフィルム状であるとき、その厚みは10〜300μmの範囲であることが好ましく、100μm〜250μmの範囲がより好ましい。フィルムの厚みが薄いと加工時に、折れたりシワになったりしやすく、平滑性が低下する傾向にある。逆に厚いと取り扱いは楽になり、加工性は向上するものの、得られた素材の剛性が高く、ロール状に巻き取るなどの加工が困難になり、また得られた素材に巻き癖が付きやすく、研磨パッドにそりが発生するなどの問題が発生する傾向にある。
【0011】
またこの多孔層の支持体となる基体としては、シート状物の上に接着層が存在することが好ましい。接着層としては高分子弾性体が用いられるが、さらには末端にイソシアネート基などの反応性の高い架橋剤を含んでいることが好ましい。
【0012】
特に多孔層にウレタン樹脂を用いた場合、ウレタン基と反応性の高い置換基を持つ架橋剤が、接着層に存在することが好ましい。基体を構成するフィルムと、その上に存在する多孔層を形成する高分子弾性体との間で架橋反応が起こり、研磨パッドの剥離が発生しにくくなるためである。
【0013】
接着層の厚みとしては5〜50μmの範囲が好ましく、5〜35μmの範囲がより好ましい。接着層の厚みが薄すぎる場合、コーティング装置等の加工装置におけるちょっとした歪み等で接着不良等を起こす傾向が有る。一方厚すぎる場合は、接着層の厚さが素材の硬さに影響を及ぼす傾向にある。素材の剛性が高くなるとロール状に巻き取る際の加工性などが悪化し、巻き癖が付き、研磨パットにそりが発生するなどの問題点が発生しやすい傾向にある。
【0014】
また、支持体となるシート状物が不織布を含む場合には、高分子弾性体を含浸した不織布であることが好ましい。このような高分子と不織布からなるシート状物の場合には、厚さを調整して、研磨用パッドの圧縮率や硬度を調整することが可能である。これらの物性は、被研磨物の種類に応じて調整が可能であり、研磨に必要な圧縮特性を得ること必要である。高分子弾性体が含浸されたこのようなシート状物の厚みとしては、100〜1000μmの範囲であることが好ましく、さらに150〜800μmであることが、強度保持や圧縮特性の発現の点からより好ましい。シート状物の厚みが薄いと、繊維の交絡強度も低下し、研磨用パッドの引裂き力が低下する傾向にある上、十分な圧縮特性を発現しにくい。逆に厚すぎると、高くロール形状への巻き付けが困難になり、巻き癖が付き研磨パッドにそりが発生する傾向にある。
そして本発明の研磨パッドでは、上記のような支持体の上に、高分子弾性体とシリコーン系化合物からなる多孔層が存在することを必須とする。
【0015】
多孔層を構成する主要成分である高分子弾性体としては、ポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマー等が挙げられるが、なかでもポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー等のポリウレタン系のエラストマーであることが好ましい。これらポリウレタン系エラストマーは、例えば平均分子量500〜4000のポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリエステル・エーテルグリコール、ポリカプロラクトングリコール、ポリカーボネートグリコール等から選ばれた、一種または二種以上のポリマーグリコールと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレジンイソシアネート、トリレジンイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の有機ジイソシアネートと、低分子グリコール、ジアミン、ヒドラジン、又は有機酸ヒドラジッド、アミノ酸ヒドラジッド等のヒドラジン誘導体等から選ばれた鎖伸長剤を反応させて得られるものである。耐摩耗性に観点からは特にはポリカーボネート系のポリウレタンであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の研磨パッドにて用いられる高分子弾性体の物性としては、その100%モジュラスは2〜30MPaであることが好ましい。さらには2〜10MPaの範囲であることが好ましい。この100%モジュラスと多孔層における多孔の分布により、研磨加工に適した多孔シートとなるのである。本発明の研磨パッドは、多孔の高分子弾性体とシリコーン化合物からなる表面層が、その厚み方向に適度のクッション性を持たせることにより、被研磨物への表面密着性とフィット性をよくし、研磨パッドとしての性能の安定化を実現する。100%モジュラスが小さすぎる場合、安定した多孔層を成型しにくく、逆に100%モジュラスが大きすぎる場合、高分子中の結晶成分が多く、弾性挙動が少なくなり、研磨加工時の圧力の分散が不均一となる傾向にある。そして被研磨体表面におけるマイクロスクラッチなどの欠点が多くなる傾向にある。
【0017】
本発明においては、多孔層を構成する成分としては、高分子弾性体に加えてシリコーン系化合物が必須である。さらにはここで用いられるシリコーン系化合物としては、汎用のシリコーンオイルすなわちジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルに特殊な官能基を結合させ、機能性を付与させた変性シリコーンオイルであることが好ましい。
【0018】
変性シリコーンオイルとしては、その官能基の特性によって非反応性か反応性に分類されるが、本発明では、反応性の変性シリコーンオイルであることがより好ましく選択され、より高い耐摩耗性向上の効果を得ることが可能となる。
【0019】
好ましい反応性シリコーンオイルとしては、アルコール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイルなどが挙げられる。変性シリコーンオイルは、反応性官能基に応じた機能を発現させることが可能であるが、本発明においては、耐衝撃性、可撓性、耐摩耗性、撥水性、離型性、潤滑性他様々な機能を多孔層を構成する樹脂に付与することができ、特に耐摩耗性の高い向上効果が得られる。
【0020】
また、本発明においては後述するように湿式凝固法により多孔化を発現させる場合が多いが、この凝固工程にシリコーンオイルを含む高分子弾性体溶液を使用した場合、凝固工程にてシリコーン成分が高分子弾性体の表面に局在する傾向にあり好ましい。湿式凝固工程では、高分子弾性体溶液中の溶剤が水と置換されて、多孔の高分子弾性体を形成するが、そのときにシリコーン成分の表面への移動が引き起こされるのである。そして研磨パッド表面にシリコーン成分が一様に存在すると、十分な耐摩耗性が発現することとなる。
【0021】
このように表面に局在するためには、シリコーン系化合物は、HLB値(界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値)の低いものであることが好ましく、より具体的にはポリエーテル変性シリコーンオイルであることが好ましい。変性シリコーンオイルの変性形態は、主鎖両末端変性あるいは側鎖変性であるが、特に限定されない。
また、多孔層中の高分子弾性体に対するシリコーン系化合物の混合比率としては、0.1〜10重量%、特には0.5〜5重量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明における表面に開口部を有する多孔層の多孔状態としては、おむすび型の大きな孔と微多孔からなる断面多孔が成形されたものであることが好ましい。このような形状とすることにより、研磨加工に適した弾性率を得ることができる。小変形時には大きな多孔が変形し、大変形時には微多孔や、弾性体事態が持つ弾性変形により、各種応力に対し連続的に被研磨物に掛かる荷重をコントロールしうるのである。高分子弾性重合体からなる多孔層はその厚み方向に適度のクッション性を持たせることにより被研磨物への表面密着性とフィット性をよくし、被研磨物の研磨精度を高めることができるようになる。
【0023】
厚さとしては200〜1000μmの範囲であることが、より好ましくは300〜900μmの厚さであることが好ましい。このような形状とすることにより、研磨パッドに適した弾性率を得ることができる。小変形時には大きな多孔が変形し、大変形時には微多孔や、弾性体事態が持つ弾性変形により、各種応力に対し連続的に被研磨物に掛かる荷重をコントロールしうるのである。またこの厚み方向に適度のクッション性を持たせることにより被研磨物への表面密着性とフィット性をよくし、被研磨物の研磨精度を高めることができるようになるのである。また、この多孔層の多孔構造が均一でその多孔層の基材側あるいは両側にスキン層を有するものであることが好ましい。特に多孔層と接着層の間に存在するスキン層は、圧縮による疲労性を向上させるために有効である。
【0024】
また表面層の多孔層の見かけ密度としては、0.10〜0.40g/cmの範囲であることが好ましく、0.15〜0.35g/cmであることがより好ましい。見かけ密度が小さすぎる場合には、加工時の圧力による研磨パッドの変形が大きくなり、被研磨物表面の大きな周期の加工斑が大きくなる傾向にある。応力分散が大きくなるために加工時の圧力が安定しにくいためである。また逆に密度が大きすぎる場合には、多孔層が圧縮された時の変形率が小さくなり、被研磨物表面の小さな周期の加工斑が大きくなる傾向にある。加工時に研磨パッドの反発性が高くなるが、どうしても部分的な応力集中が発生し、その部分だけ研磨が進むためである。
【0025】
本発明の研磨パッドは、表面に開口部を有する多孔層が存在するが、多孔層表面の孔径(開口径)としては、20〜130μmの範囲であることが好ましく、30〜100μmの範囲であることがより好ましい。孔径が小さい場合、研磨加工時に用いるスラリー(研磨液)の多孔層内での循環不良や、研磨加工時の削り粉が開口部入り口あるいは、多孔内部に詰まる傾向にある。この場合、スラリーの循環が妨げられ、研磨加工に時間を要する上、所望の研磨表面が得られない傾向にある。また、孔径が大きい場合、研磨パッド表面の被研磨物と接触する面積が減ることとなり、スラリーの循環量こそ増えるものの、研磨レートが低下する等、研磨加工の非効率化をもたらす傾向にある。多孔層表面と被研磨物の間に存在し得るスラリーが減少することにより、物理化学的な研削仕事量の低下を招いてしまうためである。
【0026】
このような本発明の研磨パッドは、例えばその製造方法として、基材となるシート上に、高分子弾性体を、例えば水を主成分とする凝固浴中にて湿式凝固することにより得ることができる。
【0027】
さらには、基材となるシートが接着層を有する場合には、フィルム上に高分子弾性体を含有する接着処理液を塗布、乾燥して高分子弾性体からなる接着層とし、その表面に多孔層を形成すればよい。さらには、接着処理液には、架橋剤を含有することが好ましい。
【0028】
接着層の成膜時における乾燥温度は70〜80℃が好ましく、成膜後なるべく早いタイミングで多孔層の成膜を行うことが好ましい。このような低い温度にて乾燥させることにより、接着処理液を完全に乾燥することなく、その上に引き続き塗布する多孔層との接着性をより高めることが可能となる。高すぎる温度で乾燥した場合には、接着性が低下する傾向にあり、逆に乾燥温度が低すぎる場合には、接着層が粘着性を有し、次工程における不良の原因となる場合がある。
【0029】
本発明の研磨パッドは、例えば上記のような基体の表面に、引き続き高分子弾性体とシリコーン系化合物からなる有機溶剤溶液を塗布し、水を主成分とする凝固浴中にて湿式凝固して、多孔層を形成し、さらにその最表面を研磨処理することにより表面に開口部を生じさせることにより得ることができる。
【0030】
より具体的な高分子弾性体とシリコーン化合物からなる多孔層の成形方法としては、例えば高分子弾性体としてポリウレタンを用いた場合、高分子弾性体のジメチルホルムアミド溶液にシリコーン化合物を混合した処理液を、基体の表面に塗布する。このとき処理液中には、湿式凝固助剤としてセルロース系添加剤、着色剤としてトーナー、湿式多孔構造の形成助剤として、シリコーン系親水剤あるいは疎水剤と添加し、混合撹拌したものであることが好ましい。
【0031】
また、用いるシリコーン化合物としては、固形分濃度は、10〜100%の範囲が好ましく、さらには30〜50%がより好ましい。固型分濃度が100%の場合は通常粉体状態で用いられ、それ以下の濃度の場合は通常希釈溶剤に溶解して用いられる。希釈溶剤は、トルエン、イソプロパノール、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド等の汎用的な溶剤を主に用いることが好ましい。また、使用するシリコーン化合物の粘度は、例えばシリコーンオイルの場合、25℃における動粘度が30〜20000mm/sの範囲が好ましく、高分子弾性体の溶液に混合し、コート処理することが容易となる。
【0032】
このような処理液を作成後、ロールコート方式やナイフコート方式などにより、基体上に所定のクリアランスを設けて、コーティング液を塗布し、コーティング処理を行う。基体としては、プラスチックシート、プラスチックシート上に成膜された接着層を有するもの、あるいは高分子弾性体を含浸凝固した不織布を用いることができる。
【0033】
コーティング処理後、処理溶液中のジメチルホルムアミドと水の置換による湿式凝固成膜を行うため、0〜20%の範囲さらに好ましくは0〜10%の範囲のジメチルホルムアミド含有水溶液中に浸漬させ、湿式凝固法により涙型あるいは円筒型の大きな孔と微多孔からなる断面多孔を持つ多孔層を形成する。
【0034】
さらにこのような多孔層の形成後、水あるいは温水中に浸漬することにより、多孔層内に残留するジメチルホルムアミドを除去し、乾燥処理を行う。乾燥処理後、多孔層表面を開孔するためには、研磨機を用いて多孔層の表面を砥粒付きサンドペーパーを用いて研磨処理を行う。砥粒付きサンドペーパーの番手は、研磨量に応じて#120〜1000から適宜選択して使用することが可能である。
【0035】
このような製造方法等により得られる本発明の研磨パッドは、多孔層中にシリコーン系化合物が存在し、被研磨体と研磨パッドの間の滑り性を向上させ、接触摩擦抵抗の低い、加工中に屑の発生の少ない研磨パッドとなる。CMP(機械化学的研磨)と呼ばれる研磨加工においては、スラリー中に存在する研磨砥粒が研磨パッドの高分子弾性体表面と被研磨体の間に挟まれて物理的あるいは化学的な作用により研磨仕事が行われる。この際、研磨砥粒は、被研磨体表面を削るとともに研磨パッドの高分子弾性体表面をも削るため、被研磨体及び研磨パッド由来の研磨屑が発生する。このような加工中に生じた屑は、研磨パッドの表面に存在する多孔中に蓄積されることとなる。そしてスラリーの循環が悪化し、研磨加工効率が下がる一因となるが、本発明の研磨パッドは、耐摩耗性が向上し、研磨パッドの使用寿命が延び、交換頻度や交換時間が短縮されるため、効率良く研磨加工を行うことが可能となるのである。
【0036】
本発明の研磨パッドシートは、基体の接着層や表面層が存在しない側に両面テープを接着し、研磨加工機の定盤に両面テープを用いて接着することにより、研磨パッドとして用いることができるのである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお濃度は特に記載のない限り重量%である。
【0038】
(1)磨耗減量率
研磨パッドをテーバー磨耗試験にて研磨ペーパー#1000、研磨荷重1000gの条件下、研磨回数400回まで100回毎に摩耗減量量を測定し、摩耗試験前後の重量を計測して、次の計算式により、摩耗減量率を測定した。
摩耗減量率(%)
=(摩耗試験0回時点の重量−400回時点の重量)/(0回時点の重量)×100
【0039】
(2)Wet動摩擦係数
研磨パッド表面(開孔面)のWet時の動摩擦係数を測定するため、摩擦係数測定器を用い、試験前に研磨パッドの表面に水を含ませ、研磨対象物をサファイアガラスとし、研磨対象物移動速度100cm/分、研磨パッドに付与する荷重を500gの条件にて測定し、Wet動摩擦係数とした。
【0040】
[実施例1]
接着処理液に用いる高分子弾性体としてポリエステルポリオール系接着剤(大日精化株式会社製、E−256)と、イソシアネート系架橋剤とを、重量比100:10となるように混合し、固形分濃度を25%となるよう溶剤で調整した溶液を準備した。
目付234g/m、厚み190μmのポリエステル(PET)フィルムの上に、上記接着処理液を、クリアランス100μmの条件にてコーティングし、80℃の乾燥機で2分乾燥させ、ポリエステルフィルムの上に25μmの接着層を形成したベース基材を得た。
上記で得られた接着層上に、100%モジュラスが11MPaであるポリカーボネート系ポリウレタンの15%濃度のジメチルホルムアミド(以下DMFとする)溶液に、ポリエーテル変性シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製、SF8428、固形分濃度30%、側鎖ポリエーテル変性、HLB=0)を1部添加し、コーティングした後、7%DMF水溶液の水バス中で凝固し、十分に水洗を行った後140℃で乾燥し多孔層を有するシートを得た。得られたシートの多孔層の表面を、#150のサンドペーパーでバフ処理し、表面の微多孔層が除かれた、開口部の孔の径が30〜70μm、目付が394g/m、厚み0.71mmのフィルムベースの研磨パッドを得た。
この研磨パッドの、摩耗減量率は0.155%と非常に低く、Wet動摩擦係数も0.18と低い、耐摩耗性に優れる研磨パッドであった。
【0041】
[実施例2]
ベース基材として、ポリエステル(PET)フィルムの代わりに、不織布に高分子弾性体を含浸した基材を用いた。すなわち、ポリエステル不織布(目付220g/m、厚さ1.10mm)に、ポリエーテルエステル系ポリウレタン(100%モジュラスが3MPa、原液固形分濃度が30%)をDMFにて希釈し、固形分濃度が15%になるように調整した処理液を、乾燥後の全体目付が300g/mとなるように含浸した後、10%DMF水溶液の水バス中で凝固した。さらに、十分に水洗を行った後140℃で乾燥し、厚さが1.20mmのポリウレタン含浸不織布基材とした後、基材の両面を#600のサンドペーパーでバフ処理して、最終的に厚さ0.85mmのベース基材とした。
さらに、ベース基材上に、100%モジュラスが11MPaであるポリカーボネート系ポリウレタンの15%DMF溶液にポリエーテル変性シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製、SF8428)を1部添加し、コート後の全体の目付が440g/mとなるようにコーティングした後、7%DMF水溶液の水バス中で凝固し、十分に水洗を行った後140℃で乾燥し多孔層を有するシートを得た。得られたシートの多孔層の表面を、#150のサンドペーパーでバフ処理し、表面の微多孔層が除かれた、開口部の孔の径が30〜70μmの研磨パッドを得た。
この研磨パッドの、摩耗減量率は0.125%と非常に低く、Wet動摩擦係数も0.19と低い、耐摩耗性に優れる研磨パッドであった。
【0042】
[比較例1]
ポリエーテル変性シリコーンオイルを添加しない以外は、実施例1と同様の方法で研磨パッドを得た。得られた研磨パッドの摩耗減量率を確認したところ、0.285%と非常に高く、動摩擦係数は、0.76と高い、耐摩耗性に劣る研磨パッドであった。
【0043】
[比較例2]
ポリエーテル変性シリコーンオイルを添加しない以外は、実施例2と同様の方法で研磨パッドを得た。得られた研磨パッドの摩耗減量率を確認したところ、0.247%と非常に高く、動摩擦係数は、0.77と高い、耐摩耗性に劣る研磨パッドであった。
【符号の説明】
【0044】
1 研磨パッド
2 プラスチックシート
3 接着剤層
4 多孔を持つ高分子弾性体多孔層
5 高分子弾性体が含浸された不織布層
6 両面テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口部を有する多孔層が存在する研磨パッドであって、多孔層が高分子弾性体とシリコーン系化合物からなることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
シリコーン系化合物が変性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
多孔層が湿式凝固法により形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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