説明

研磨加工方法

【課題】樹脂製シートを定盤に平坦に装着することができ、被研磨物の平坦性向上を図ることができる研磨加工方法を提供する。
【解決手段】片面研磨機70の保持定盤71に保持パッド10を装着するときは、保持定盤71に保護シート30aを粘着剤で貼着しておく。保護シート30aの露出した平坦表面Qに保持パッド10を貼着する。研磨定盤72に研磨パッド20を装着するときは、研磨定盤72に保護シート30bを粘着剤で貼着しておく。保護シート30bの露出した平坦表面Qに研磨パッド20を貼着する。保持パッド10の保持面Sに適量の水を含ませ被研磨物78を押し付けることで、保持定盤71に被研磨物78を保持させる。被研磨物78および研磨パッド20間に研磨液を供給し、保持定盤71、研磨定盤72で被研磨物78に圧力をかけながら被研磨物78を研磨加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨加工方法に係り、特に、対向配置された2つの定盤を備えた研磨装置により被研磨物を研磨加工する研磨加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用アルミニウム基板、シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨パッド(研磨シート)を使用した研磨加工が行われている。一般に、研磨加工には、被研磨物を片面ずつ研磨加工する片面研磨機や両面を同時に研磨加工する両面研磨機が使用されている。
【0003】
片面研磨機、両面研磨機では、いずれも、鋳鉄やステンレス等の金属製で平坦表面を有する2つの定盤が対向配置されている。片面研磨機では、一方の定盤に研磨パッドが装着され、他方の定盤に被研磨物を保持させる。このとき、被研磨物が金属製の定盤と直接接触して生じる被研磨物表面のスクラッチ(キズ)等を回避するため、他方の定盤には保持パッド(保持シート)が装着される。一方、両面研磨機では、2つの定盤にそれぞれ研磨パッドが装着される。保持パッドや研磨パッドの装着には、通常、粘着剤が用いられる。研磨加工時には、被研磨物および研磨パッド間に研磨粒子等を含む研磨液(スラリ)が供給される。
【0004】
保持パッドや研磨パッドには、例えば、湿式成膜法で形成された発泡構造を有する樹脂製シートが使用されている。湿式成膜法では、樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させる。製造された樹脂製シートでは、表面側に緻密な微多孔が形成された厚さ数μm程度の表面層(スキン層)が形成されており、表面層より内側(成膜基材側)に表面層の微多孔より大きなセルが連続状に形成されている。微多孔が緻密に形成された表面層では、表面平坦性を有し被研磨物との接触性に優れるため、保持パッドとして好適に使用することができる。この場合は、表面層に水等の液体を含ませることで微多孔に浸入した液体の表面張力の作用により、被研磨物が保持パッドを介して定盤に保持される。また、表面層が表面平坦性に優れるため、研磨パッドとしても好適に使用することができる。この場合は、表面層側で被研磨物が研磨加工される。
【0005】
ところが、研磨パッド等の貼り替え(交換)に伴い定盤から粘着剤を除去するとき、被研磨物が装着や取り外しに伴い破損したとき等に、定盤表面にダメージ(損傷)を与えることがある。また、研磨パッド等の交換時に定盤にスラリが付着していると、スラリの水分、pH、酸化剤、砥粒などの影響により定盤表面にキズや腐食を生じさせ凹凸が形成されることがある。定盤表面の凹凸は、研磨加工時に、被研磨物表面の状態、特に、表面平坦性に影響を及ぼすこととなる。定盤が金属製のため、表面に一度キズ等が生じると、再生作業を行わない限り凹凸が解消されることはない。通常の再生作業では研磨機を停止し定盤表面を研削するが、ダメージがひどくなると、定盤を取り外しての再生作業や新しい定盤との交換作業が必要となる。
【0006】
定盤に対するダメージを抑制するために、例えば、定盤の研磨パッド等が貼着されていない部分を保護膜で覆う技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術では、定盤の露出部分が保護膜で覆われることで研磨液と直接接触しないため、定盤における錆の発生、この錆による被研磨物におけるスクラッチ発生や金属汚染が抑制される。研磨パッド等の貼着部分では、不透過性の粘着剤により、実質的に保護層が形成されていることになる。また、定盤の研磨パッド等が貼着されない部分に保護リングを取り付ける技術が開示されている(特許文献2参照)。この技術では、研磨パッド等の装着に伴いパッドを切断するときに保護リングが傷つけられることで定盤の損傷や腐食等が抑制される。更に、研磨機の光学終点検出用ホールを保護する(ふたをする)保護フィルムの技術が開示されている(特許文献3参照)。この技術では、光学終点検出用ホールからのスラリの液漏れによる腐食を抑制することができる。また、研磨加工の1回ごとに交換する樹脂製の使い捨てプレートの技術も開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−83337号公報
【特許文献2】特許4041577号公報
【特許文献3】特開2008−186887号公報
【特許文献4】特開2006−324498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、研磨パッド等の貼着部分以外を保護膜で保護し、貼着部分をパッド自体で保護するが、研磨パッド等の交換時や破損時における定盤表面のキズや腐食を抑制することが難しい。また、特許文献2の技術では、研磨パッド等の貼着部分以外ではキズ等が抑制できるものの、研磨パッド等の交換時等に定盤表面のキズ等を抑制することが困難である。更に、特許文献3の技術では、保護フィルムが光学終点検出用ホールを保護するものであり、定盤表面の全面にわたる平坦性やキズに関する対策が十分とはいえない。また、特許文献4の技術では、使い捨てのために高コストを余儀なくされ、プレート作製の精度面でも十分とはいえず、プレート取り付け後に修正を要することとなる。
【0009】
本発明は上記事案に鑑み、樹脂製シートを定盤に平坦に装着することができ、被研磨物の平坦性向上を図ることができる研磨加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、対向配置された2つの定盤を備えた研磨装置により被研磨物を研磨加工する研磨加工方法であって、一面側に平坦な表面を有する樹脂製保護部材の他面側を前記研磨装置の2つの定盤にそれぞれ貼付しておき、前記各保護部材の一面側に樹脂製シートをそれぞれ交換可能に装着し、前記シートの少なくとも一方で前記被研磨物の片面側または両面側を研磨加工する、ステップを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明では、研磨装置の定盤に樹脂製保護部材を貼付しておくことで定盤にキズが生じていても樹脂製保護部材の平坦な表面が露出し、平坦な表面に樹脂製シートを装着することで樹脂製シートの平坦性が確保されるので、少なくとも一方の樹脂製シートで片面側または両面側を研磨加工する被研磨物の平坦性向上を図ることができる。
【0012】
この場合において、樹脂製シートの一方を被研磨物の片面側を研磨加工するための研磨シートとし、他方を被研磨物を保持するための保持シートとすることができる。また、樹脂製シートを、いずれも、被研磨物のそれぞれ片面側を研磨加工するための研磨シートとしてもよい。貼付ステップにおいて樹脂製保護部材を定盤にそれぞれ交換可能に貼付しておき、樹脂製保護部材の交換間隔を、装着するステップにおける樹脂製シートの交換間隔より長くすることができる。このとき、樹脂製シートの樹脂製保護部材からの剥離強度が樹脂製保護部材の定盤からの剥離強度より小さいことが好ましい。樹脂製保護部材の平坦な表面の表面粗さRaを0.4μm以下としてもよい。また、樹脂製シートをポリウレタン樹脂製としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、研磨装置の定盤に樹脂製保護部材を貼付しておくことで定盤にキズが生じていても樹脂製保護部材の平坦な表面が露出し、平坦な表面に樹脂製シートを装着することで樹脂製シートの平坦性が確保されるので、少なくとも一方の樹脂製シートで片面側または両面側を研磨加工する被研磨物の平坦性向上を図ることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨加工に使用した片面研磨機の保護シート、研磨パッドおよび保持パッドを装着した部分を模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨加工で用いた保持パッドを模式的に示す断面図である。
【図3】実施形態の研磨加工で用いた研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図4】実施形態の研磨加工で用いた保護シートを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明を片面研磨機を使用した研磨加工に適用した実施の形態について説明する。
【0016】
(研磨機)
本実施形態では、図1に示すように、被研磨物78の研磨加工に片面研磨機70が使用される。片面研磨機70は、上側に被研磨物78を保持する保持定盤71、下側に研磨定盤72を備えている。保持定盤71は、研磨定盤72と対向するように配置されている。保持定盤71の下面および研磨定盤72の上面は、いずれも略平坦に形成されている。保持定盤71の下面には被研磨物78を保持するための保持パッド10が保護シート30aを介して装着されており、研磨定盤72の上面には被研磨物78を研磨加工するための研磨パッド20が保護シート30bを介して装着されている。
【0017】
(保持パッド)
図2に示すように、保持パッド10は、湿式成膜法で作製されたポリウレタン樹脂製のウレタンシート(樹脂製シート)2を有している。ウレタンシート2は、緻密な微多孔が形成されたスキン層(表面層)2aを有している。保持パッド10では、スキン層2aの表面が被研磨物78を保持するための保持面Sを形成する。ウレタンシート2のスキン層2aより内側には、厚さ方向(図2の縦方向)に沿って丸みを帯びた断面三角状のセル3が略均等に分散した状態で形成されている。セル3は、保持面S側の孔径が保持面Sと反対の面(背面)側より小さく形成されている。すなわち、セル3は保持面S側で縮径されている。セル3の間のポリウレタン樹脂中には、スキン層2aに形成された微多孔より孔径が大きくセル3より孔径が小さな図示しない発泡が形成されている。セル3および図示しない発泡は不図示の連通孔で網目状につながっている。換言すれば、ウレタンシート2は連続発泡構造を有している。ウレタンシート2の保持面Sの背面側には、厚さが一様となるようにバフ処理が施されている。
【0018】
また、保持パッド10では、ウレタンシート2の保持面Sの背面に、片面研磨機70の保持定盤71に保持パッド10を装着するための両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製等の可撓性フィルムの基材を有しており、基材の両面にアクリル系粘着剤等の感圧型粘着剤層が形成されている。両面テープ7は、基材の一面側の粘着剤層でウレタンシート2と貼り合わされており、他面側(ウレタンシート2と反対側)の粘着剤層が剥離紙8で覆われている。
【0019】
保持パッド10は、湿式成膜法により作製されたウレタンシート2と両面テープ7とを貼り合わせることで製造されたものである。湿式成膜法では、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を調整する準備工程、成膜基材にポリウレタン樹脂溶液を連続的に塗布する塗布工程、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、洗浄後乾燥させる洗浄・乾燥工程、厚さを均一化するバフ処理工程を経て帯状(長尺状)のウレタンシート2が作製される。以下、工程順に詳述する。
【0020】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)、添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、100%モジュラス(2倍長に引っ張る時の張力)が20MPa以下のポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、セル3の大きさや量(個数)を制御するカーボンブラック等の顔料、発泡を促進させる親水性活性剤、ポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を濾過することで凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
【0021】
塗布工程では、準備工程で調製されたポリウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布機により帯状の成膜基材に略均一に塗布する。このとき、ナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)を調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができるが、本例では、成膜基材としてPET製フィルムを用いる。
【0022】
凝固再生工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液中に案内する。凝固液中では、まず、ポリウレタン樹脂溶液の表面側に厚さ数μm程度のスキン層2aが形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂がシート状に凝固再生する。DMFがポリウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層2aより内側(ポリウレタン樹脂中)にセル3および図示しない発泡が形成され、セル3および図示しない発泡を網目状に連通する不図示の連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが凝固液を浸透させないため、ポリウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層2a側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きなセル3が形成される。
【0023】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂は、ロール状に巻き取られる。
【0024】
バフ処理工程では、洗浄・乾燥工程で乾燥させた成膜樹脂のスキン層2aの背面(裏面)側にバフ処理を施す。成膜基材に形成された成膜樹脂では、湿式成膜時に厚さバラツキが生じるため、スキン層2a側に凹凸が形成されている。成膜基材を剥離した後、スキン層2aの表面に、表面が平坦な圧接治具を圧接することで、スキン層2aの背面側に凹凸が出現する。背面側に出現した凹凸をバフ処理で除去する。本例では、連続的に製造された成膜樹脂が帯状のため、スキン層2aの表面に圧接ローラを圧接しながら、背面側を連続的にバフ処理する。得られたウレタンシート2では、厚さバラツキが低減し厚さが均一化される。バフ処理されたウレタンシート2の保持面Sの背面と両面テープ7とを貼り合わせ、円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い保持パッド10を完成させる。
【0025】
(研磨パッド)
図3に示すように、研磨パッド20は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有するウレタンシート(樹脂製シート)12を有している。ウレタンシート12は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂でシート状に形成されている。ウレタンシート12は、湿式成膜時に形成されたスキン層(緻密な微多孔が形成された表面層)側に、厚さが一様となるようにバフ処理が施されている。ウレタンシート12には、厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面三角状のセル13が略均等に分散した状態で形成されている。セル13は、研磨面P側の孔径が研磨面Pと反対の面(背面)側より小さく形成されている。すなわち、セル13は研磨面P側で縮径されている。ウレタンシート12では、バフ処理によりスキン層が除去されており、セル13が開孔することで、研磨面Pに開孔15が形成されている。セル13の間のポリウレタン樹脂中には、セル13より小さい孔径の図示しない発泡が形成されている。セル13および図示しない発泡は、不図示の連通孔で網目状に連通されている。換言すれば、ウレタンシート12は連続発泡構造を有している。
【0026】
また、研磨パッド20では、ウレタンシート12の研磨面Pの背面に、PET製等の支持フィルム6が貼り合わされている。支持フィルム6は、運搬時や研磨定盤72への装着時に研磨パッド20を支持する機能を果たす。支持フィルム6は、一面側が粘着剤等でウレタンシート12に貼り合わされている。支持フィルムの他面側には、保持パッド10と同様に、片面研磨機70の研磨定盤72に研磨パッド20を装着するための両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、基材の一面側の粘着剤層で支持フィルム6に貼り合わされており、他面側(支持フィルム6と反対側)の粘着剤層が剥離紙8で覆われている。
【0027】
研磨パッド20は、保持パッド10の製造と同様に、湿式成膜法により作製されたウレタンシート12と両面テープ7とを貼り合わせることで製造されたものである。以下、湿式成膜法の工程順に説明するが、説明を簡単にするために、保持パッド10の製造と同じ工程はその説明を省略し異なる箇所のみ説明する。
【0028】
準備工程では、有機溶媒のDMFに溶解させるポリウレタン樹脂としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等のポリウレタン樹脂から選択して用いられる。バフ処理工程では、洗浄・乾燥工程で乾燥させた成膜樹脂のスキン層側にバフ処理が施される。すなわち、成膜基材から剥離された成膜樹脂のスキン層の背面に圧接ローラを圧接しながら、スキン層側を連続的にバフ処理する。得られたウレタンシート12では、厚さが均一化され、バフ処理された面(研磨面P)に開孔15が形成される。バフ処理されたウレタンシート12と支持フィルム6、両面テープ7とを貼り合わせ、裁断、検査を行い研磨パッド20を完成させる。
【0029】
(保護シート)
保護シート30a、30bは、図4に示すように、可撓性を有するPET樹脂で形成された樹脂製保護部材としてのフィルム32を備えている。フィルム32は、一面側に平坦表面Qを有している。平坦表面Qは、表面粗さRaが0.4μm以下に設定されている。フィルム32の他面側には、片面研磨機70の保持定盤71および研磨定盤72にそれぞれフィルム32を貼着するための両面テープ27が貼り合わされている。両面テープ27は、例えば、PET製等の可撓性フィルムの基材を有しており、基材の両面にアクリル系粘着剤等の感圧型粘着剤層が形成されている。両面テープ27では、保持パッド10、研磨パッド20の両面テープ7に用いられる粘着剤と比べて粘着力の大きい粘着剤が用いられている。両面テープ27は、基材の一面側の粘着剤層でフィルム32と貼り合わされており、他面側(フィルム32と反対側)の粘着剤層が剥離紙28で覆われている。
【0030】
被研磨物の研磨加工を行うときは、片面研磨機70の保持定盤71および研磨定盤72にそれぞれ保護シート30a、30bを介して保持パッド10および研磨パッド20を装着する(図1参照)。保持定盤71に保持パッド10を装着するときは、まず、保持定盤71の下面に保護シート30aを貼着しておく。このとき、保護シート30aの剥離紙28を取り除き、露出した粘着剤層で保持定盤71に保護シート30aを貼着する。保持定盤71に貼着した保護シート30aでは、平坦表面Qが下側に露出することとなる。この平坦表面Qに保持パッド10を装着する。このとき、保持パッド10の剥離紙8を取り除き、露出した粘着剤層で平坦表面Qに保持パッド10を貼着する。一方、研磨定盤72に研磨パッド20を装着するときは、まず、研磨定盤72の上面に保護シート30bを貼着しておく。このとき、保護シート30bの剥離紙28を取り除き、露出した粘着剤層で研磨定盤72に保護シート30bを貼着する。研磨定盤72に貼着した保護シート30bでは、平坦表面Qが上側に露出することとなる。この平坦表面Qに研磨パッド20を装着する。このとき、研磨パッド20の剥離紙8を取り除き、露出した粘着剤層で平坦表面Qに研磨パッド20を貼着する。保持パッド10および研磨パッド20が装着された片面研磨機70では、保持定盤71の下面側に保持パッド10の保持面S(スキン層2aの表面)が露出しており、研磨定盤72の上面側に研磨パッド10の研磨面Pが露出している。
【0031】
被研磨物の研磨加工時には、図1に示すように、被研磨物78を保持定盤71に保持させる。このとき、保持パッド10の保持面Sに適量の水を含ませて保持定盤71に被研磨物78を押し付ける。保持面S側のスキン層2aの微多孔に浸入した水の表面張力が保持パッド10および被研磨物78間に作用すると共に、ウレタンシート2のポリウレタン樹脂の粘着性で被研磨物78が保持パッド10(および保護シート30a)を介して保持定盤71に保持される。被研磨物78および研磨パッド20間に研磨粒子を含む研磨液(スラリ)を供給すると共に、保持定盤71および研磨定盤72で被研磨物78に圧力をかけながら保持定盤71ないし研磨定盤72を回転させることで、被研磨物78の下面(加工表面)が研磨加工される。
【0032】
被研磨物78の研磨加工が終了したときは、被研磨物78を保持面Sから取り外す。水の表面張力により被研磨物78が保持面Sで保持されていることから、容易に被研磨物78を取り外すことができる。研磨加工の繰り返しに伴う寿命や保持面S、研磨面Pでのキズ発生等により、保持パッド10ないし研磨パッド20を交換するときは、保護シート30a、30bを残したまま、保持パッド10ないし研磨パッド20を平坦表面Qから剥がし取る。このとき、平坦表面Qの表面粗さRaが0.4μm以下に設定されており、両面テープ7の粘着剤が両面テープ27の粘着剤より粘着力が小さいことから、保持パッド10、研磨パッド20を容易に剥がし取ることができる。新品の保持パッド10ないし研磨パッド20を装着することで研磨加工を再開する。保持パッド10や研磨パッド20の交換等で保護シート30a、30bにキズ等が生じたときは、保護シート30a、30bを保持定盤71や研磨定盤72から剥がし取り、新品の保護シート30a、30bを貼着する。換言すれば、キズ発生等の支障がないときは保護シート30a、30bを交換することなく、保持パッド10ないし研磨パッド20を交換する。このため、保護シート30a、30bの交換間隔は、保持パッド10や研磨パッド20の交換間隔より長くなる。
【0033】
(作用等)
次に、本実施形態の作用等について、保護シート30a、30bの作用を中心に説明する。
【0034】
本実施形態では、研磨加工時に、保持パッド10および研磨パッド20がそれぞれ保護シート30a、30bを介して片面研磨機70に装着される。このため、保持定盤71や研磨定盤72にキズ等が生じていても、保護シート30a、30bを貼着しておくことで緩衝され保護シート30a、30bの平坦表面Qが露出する。平坦表面Qに保持パッド10、研磨パッド20を貼着することで保持面S、研磨面Pの平坦性が確保されるので、研磨加工による被研磨物78の平坦性向上を図ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、保持定盤71、研磨定盤72にそれぞれ保護シート30a、30bを貼着しておくための両面テープ27の粘着剤の粘着力が、保護シート30a、30bにそれぞれ保持パッド10、研磨パッド20を貼着するための両面テープ7の粘着剤の粘着力より大きく設定されている。このため、保持パッド10や研磨パッド20を交換するときに、保護シート30a、30bを保持定盤71や研磨定盤72に残したまま、保持パッド10や研磨パッド20を容易に剥がし取ることができる。これにより、保持定盤71や研磨定盤72の清浄化等の作業を低減することができる。また、本実施形態で用いた保護シート30a、30bでは、平坦表面Qの表面粗さRaが0.4μm以下に設定されている。表面粗さRaが0.4μmを超えている場合には保持パッド10や研磨パッド20の両面テープ7の粘着剤との接触面積が増大することで粘着性が高まるのに対して、接触面積の増大が抑制され粘着性が制限されることとなる。これにより、保持パッド10や研磨パッド20を保護シート30a、30bから剥がしやすくすることができる。従って、新品の保持パッド10、研磨パッド20への交換作業を比較的短時間で行うことができ、研磨加工の作業効率を向上させることができる。
【0036】
更に、本実施形態では、保持定盤71、研磨定盤72にそれぞれ保護シート30a、30bを貼着しておくため、保持パッド10や研磨パッド20を交換するときにカッタ等で切断しても、保持定盤71、研磨定盤72が保護シート30a、30bで保護される。このため、各定盤に対するキズ等の発生を抑制することができる。また、研磨加工時には、供給されるスラリが保持定盤71、研磨定盤72に直接接触することを抑制することができる。このため、各定盤に対する腐食等の影響が抑制されるので、保持定盤71、研磨定盤72の寿命向上を図ることができる。従って、キズや腐食等が生じた保持定盤71や研磨定盤72の再生(研削)作業や定盤自体の交換作業を減らすことができる。
【0037】
また更に、本実施形態では、保持パッド10や研磨パッド20の交換を繰り返すことで保護シート30a、30bにキズ等が生じたときに、保護シート30a、30bを交換することができる。保護シート30a、30bが両面テープ27の粘着剤で保持定盤71、研磨定盤72に貼着されているため、特別な作業を要することなく保護シート30a、30bを剥がすことができ、新品の保護シート30a、30bを貼着することで、各定盤表面に凹凸が形成されていても保護シート30a、30bの平坦表面Qを露出させることができる。また、保護シート30a、30bがキズ発生等がなければ交換不要のため、保護シート30a、30bの交換間隔を保持パッド10、研磨パッド20の交換間隔より長くすることができる。保持パッド10、研磨パッド20の交換作業が比較的短時間で可能なため、例えば、多数の被研磨物を連続して研磨加工する場合等に、作業効率の向上を図ることができる。従って、保持定盤71、研磨定盤72に可撓性を有する保護シート30a、30bを貼着しておくことにより、各定盤の保護、各定盤の平坦性や平滑性の改善、保持パッド10や研磨パッド20に対する接着性、吸着性の安定化が容易になることから、安定した研磨加工を継続することができる。
【0038】
従来片面研磨機では、研磨パッドや保持パッドの貼り替え(交換)に伴い定盤から粘着剤を除去するとき、被研磨物が装着や取り外しに伴い破損したとき等に、定盤表面にダメージを与えることがある。また、研磨パッド等の交換時に定盤にスラリが付着していると、スラリの水分、pH、酸化剤、砥粒などの影響により定盤表面にキズや腐食を生じさせ凹凸が形成されることがある。例えば、液晶用ガラス基板の研磨加工において、保持パッドを保持定盤の全面に貼り付けない場合があり、貼り付けられていない部分に腐食やキズが生じることはいうまでもない。定盤表面の凹凸は、研磨加工時に、被研磨物表面の状態、特に、表面平坦性に影響を及ぼすこととなる。定盤表面の凹凸を解消するために再生作業が行われるが、通常の再生作業では研磨機を停止し定盤表面が研削され、ダメージがひどくなると、定盤を取り外しての再生作業や新しい定盤との交換が必要となる。このような作業を要すると、研磨加工の効率を低下させることとなる。本実施形態は、これらの問題を解決することができる研磨加工である。
【0039】
なお、本実施形態では、湿式成膜法で作製したポリウレタン樹脂製のウレタンシート2、ウレタンシート12をそれぞれ有する保持パッド10、研磨パッド20を例示したが、本発明はこれらに制限されるものではなく、被研磨物の保持や被研磨物に対する研磨加工が可能であればよい。例えば、ウレタンシート2、12に代えてポリエステル等の樹脂製シートを用いるようにしてもよく、湿式成膜法に代えて乾式成型法等により作製するようにしてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、保護シート30a、30bを構成するフィルム32としてPET製フィルムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。フィルム32の材質としては、定盤保護の観点から、研磨液を浸透させず、耐食性に優れる材質であればよく、保持定盤ないし研磨定盤への装着を考慮すれば、可撓性を有していることが好ましい。このような材質としては、PET製フィルム以外に、例えば、ポリビニルクロライド(PVC)等を挙げることができる。
【0041】
更に、本実施形態では、保持パッド10に基材を有する両面テープ7を使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、基材を有していない粘着剤のみを使用することも可能である。この場合は、ウレタンシート2と両面テープ7との間に、研磨パッド20の支持フィルム6のような基材を貼り合わせるようにしてもよい。また、本実施形態では、研磨パッド20に支持フィルム6、両面テープ7を使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、支持フィルム6を使用しなくてもよい。この場合は、両面テープ7の基材が研磨パッド20を支持する機能を果たす。支持フィルム6を使用する場合は、両面テープ7に代えて、基材を有していない粘着剤のみを使用してもよい。また、保持パッド10、研磨パッド20をそれぞれウレタンシート2、12のみで形成し、保持定盤71、研磨定盤72に装着するときに別に用意した粘着剤で貼着するようにしてもよい。
【0042】
また更に、本実施形態では、保護シート30a、30bを、フィルム32と、基材を有する両面テープ27とで構成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、フィルム32に直接粘着剤を塗工し、その表面を剥離紙で被覆するようにしてもよい。粘着剤としては、アクリル系、ゴム系等の再剥離性の粘着剤を使用してもよく、保持パッド10や研磨パッド20の両面テープ7の粘着剤と同じものを使用することも可能である。両面テープ7の粘着剤と同じ粘着剤を使用する場合は、保持パッド10や研磨パッド20の保護シート30a、30b(フィルム32)に対する粘着力と比べて、保護シート30a、30bの定盤に対する粘着力を高くするために、例えば、保護シート30a、30bの粘着剤層の厚みを両面テープ7の粘着剤層の厚みより大きくしてもよい。
【0043】
更にまた、本実施形態では、片面研磨機70を使用した研磨加工を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、両面研磨機を使用した研磨加工に適用することも可能である。両面研磨機の場合は、対向配置された2つの定盤にそれぞれ研磨パッド20を装着する。このとき、それぞれの定盤に保護シート30b(保護シート30aでも同じ。)を貼着しておき、露出した平坦表面Qに研磨パッド20を貼着すればよい。また、片面研磨機70において、上側に保持定盤71、下側に研磨定盤72が配された例を示したが、本発明は研磨機の構成に制限されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は樹脂製シートを定盤に平坦に装着することができ、被研磨物の平坦性向上を図ることができる研磨加工方法を提供するものであるため、研磨パッドや保持パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0045】
2 ウレタンシート(樹脂製シート)
7 両面テープ
10 保持パッド
12 ウレタンシート(樹脂製シート)
20 研磨パッド
27 両面テープ
30a 保護シート
30b 保護シート
32 フィルム(樹脂製保護部材)
70 片面研磨機(研磨装置)
71 保持定盤(定盤)
72 研磨定盤(定盤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された2つの定盤を備えた研磨装置により被研磨物を研磨加工する研磨加工方法であって、
一面側に平坦な表面を有する樹脂製保護部材の他面側を前記研磨装置の2つの定盤にそれぞれ貼付しておき、
前記各保護部材の一面側に樹脂製シートをそれぞれ交換可能に装着し、
前記シートの少なくとも一方で前記被研磨物の片面側または両面側を研磨加工する、
ステップを含むことを特徴とする研磨加工方法。
【請求項2】
前記シートは、一方が前記被研磨物の片面側を研磨加工するための研磨シートであり、他方が前記被研磨物を保持するための保持シートであることを特徴とする請求項1に記載の研磨加工方法。
【請求項3】
前記シートは、いずれも、前記被研磨物のそれぞれ片面側を研磨加工するための研磨シートであることを特徴とする請求項1に記載の研磨加工方法。
【請求項4】
前記貼付ステップにおいて前記保護部材を前記定盤にそれぞれ交換可能に貼付しておき、前記保護部材の交換間隔が前記装着するステップにおける前記シートの交換間隔より長いことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の研磨加工方法。
【請求項5】
前記シートの前記保護部材からの剥離強度は、前記保護部材の前記定盤からの剥離強度より小さいことを特徴とする請求項4に記載の研磨加工方法。
【請求項6】
前記保護部材は、前記平坦な表面の表面粗さRaが0.4μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の研磨加工方法。
【請求項7】
前記シートは、ポリウレタン樹脂製であることを特徴とする請求項6に記載の研磨加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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