説明

研磨工具及びその製造方法

【課題】
本発明の課題は、研磨工具の内部まで充分な量の加工液を短時間で含浸させることによって、早期に研磨能率が安定して高い除去深さ精度を得ることができ、かつ高い鏡面性が得られる研磨工具を工夫することである。
【解決手段】
多孔質の研磨工具に減圧又は加圧による外力、あるいは減圧と加圧とを組み合わせた外力を作用させることで、充分な量の加工液を短時間で研磨工具の内部まで含浸させることである。また、研磨工具の回転軸を中空軸とし、これを利用することによって、加工液を速やかに研磨工具内部まで含浸させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高精度研磨加工を行うための研磨工具及びその製造方法に関するものであり、光学素子あるいは光学部品の成形金型などの精密加工品を研磨する研磨工具の製造に利用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
精密研磨を行うための研磨工具の製造方法に関する従来技術として次のようなものがある。
(1)特開2004−209644号公報に基板の研磨方法に関する発明が記載されており、その課題、構成は次のとおりである。
課題:面粗度を高くした研磨面を平滑に仕上げると共に、研磨面に付着した微細なパーティクルを効率的に洗浄して除去できる基板の研磨方法及び装置を提供する。
構成:研磨工具面を基板の被研磨面(被加工面)に当接させ、該被研磨面を研磨・洗浄する基板の研磨方法であって、循環並進運動をし、かつ該循環並進運動による偏心量と基板の径とを加えた値に略同じ径を有する研磨工具面に、上記基板の被研磨面を所定の圧力で押圧し、該研磨工具面に分散配置して開口する複数の吐出孔から液を供給して上記基板の被研磨面を研磨・洗浄する。
【0003】
(2)特開2001−138233号公報に研磨工具の洗浄方法などに関する発明が記載されており、その課題、構成は次のとおりである。
課題:研磨装置の研磨工具に付着して固化した研磨剤や不純物を確実に除去でき、被研磨部でのスクラッチの発生を抑制でき、被研磨面の残留パーティクルを減少させることができる研磨装置、研磨方法および研磨工具の洗浄方法を提供する。
解決手段:回転自在に保持された研磨工具を洗浄する研磨工具洗浄方法であって、研磨工具に対して、研磨工具の被洗浄面との間に隙間を形成する対向面を備える洗浄用部材を配置し、対向面と被洗浄面との間に形成された隙間に洗浄液を供給して洗浄液膜を形成し、前記研磨工具を回転させて前記被洗浄面を洗浄し、被洗浄面と対向面との隙間への洗浄液の供給は、洗浄用部材に形成され、対向面に開口した供給孔を通じて行う。
【0004】
(3)特開平9−285965号公報に研磨工具に関する発明が記載されており、その課題、構成は次の通りである。
課題:研削研磨用工具によって被加工物を研磨加工する際に、該工具の加工面における面出し、段取りの工程を無くする。
解決手段:研削研磨用工具の少なくとも吸液性または吸湿性を有する本体部を加工液に浸漬させた状態で保管する。これによって、本体部の寸法が安定し、この本体部に形成される加工面の形状が維持される。
【0005】
〔従来技術の問題点〕
近年、光学素子等の加工のような高精度加工においては、数nmから数十nmのレベルの除去深さ精度、高研磨精度を望まれている。また、鏡面性も要求され、その被研磨面にスクラッチ等の欠陥がないことが要求される。
【0006】
従来技術において、特開2004−209644号公報に記載されているように、研磨工具面に分散配置して加工する複数の吐出孔から加工液を供給して基板の被研磨面を研磨・洗浄することで、表面粗さ精度を高くして研磨面を滑らかに仕上げるとともに、研磨面に付着したパーティクルを除去しているものがある。また、特開2001−138233号公報に示すように、研磨工具に付着して固化した研磨剤や不純物を除去するために、研磨工具を洗浄する洗浄部材を備え、洗浄液で研磨工具を洗浄することによってスクラッチの発生を抑制しているものもある。これらの従来例は被研磨面あるいは研磨工具を洗浄することでスクラッチ等の欠陥がない面に仕上げているが、研磨工具が加工液を充分含浸していないときの問題についての認識はない。
【0007】
また、上記特開平9−285965号公報に記載された従来技術においては、研磨工具を加工液に浸漬させた状態で保管することで、工具本体部の寸法を安定させ、形状を維持させることが記載されている。しかし、この例のように研磨用工具を加工液に浸漬させただけでは、研磨工具に充分な加工液を含浸させるのに長時間を要し、工具材質等によってその時間のばらつきが大きいという問題がある。また、浸漬のみでは研磨工具全体に充分な加工液の含浸がなされないことがある。研磨工具全体に充分な加工液の含浸がおこなわれていない場合は、これを使用して、加工液を供給しながら研磨を行うと、供給した加工液の一部が研磨工具の内部に吸収されることになり、研磨工具と被加工面との間に所要量の加工液が存在していない状態になることがあり、そのために、加工液の量の変動により除去能率が変動したり、加工液量の不足によって研磨工具自体が被加工面に擦れる状態(ボンド擦れ)となってスクラッチが発生したりする。このような状態では高精度研磨加工は実現されない。
【0008】
従来技術についての以上のような問題認識に基づいて、さらに高い除去深さ精度と鏡面性を達成するための研究を続けた結果、多孔質の研磨工具を使用して、その研磨工具に加工液を充分含浸させた状態で、単位時間当たり所要量の加工液を安定的に供給しながら研磨を行うことで、研磨能率が安定して、高い除去深さ精度が得られ、かつ高い鏡面性が得られるという知見が得られた。この知見に適う研磨工具を用いて、すぐに本番の研磨加工を行えるようにするには、充分な量の加工液を短時間で能率的に研磨工具の内部まで含浸させられる技術が必要である。この発明はそのために開発されたものである。
【特許文献1】特開2004−209644号公報
【特許文献2】特開2001−138233号公報
【特許文献3】特開平9−285965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、研磨工具の内部まで充分な量の加工液を短時間で含浸させることによって、早期に研磨能率が安定して高い除去深さ精度を得ることができ、かつ高い鏡面性が得られる研磨工具を工夫することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は、多孔質の研磨工具に減圧又は加圧による外力、あるいは減圧と加圧とを組み合わせた外力を作用させることで、充分な量の加工液を短時間で研磨工具の内部まで含浸させることである。また、研磨工具の回転軸を中空軸とし、これを利用することによって、加工液を速やかに研磨工具内部まで含浸させることができる。
多孔質の研磨工具全体に十分な量の加工液を予め含浸させているので、この研磨工具を使用して、加工液を安定的に供給しながら研磨を行うと、当初から工具と被研磨面との間に十分な加工液が介在して研磨能率が安定し、また、供給された加工液が研磨工具に吸収されることはなく、したがって、研磨工具と被加工面との間に一定量の加工液が常に存在する状態が安定的に確保されるから、研磨工具と被加工面との間に介在する加工液の量が変動することはなく、したがって、加工液量の変動による研磨除去能率の変動はなく、また、加工液量が一時的局部的に不足することによって研磨工具自体が被加工面に擦れる状態(ボンド擦れ)を生じてスクラッチが発生することもない。したがって、早期に研磨能率が安定して高い除去深さ精度を得ることができ、かつ、高い鏡面性が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の効果を請求項毎に整理すると次のとおりである。
(1)請求項1の発明
請求項1の発明は多孔質の研磨工具であって、研磨加工に使用する前に研磨工具の内部あるいは外部から、減圧又は加圧による外力、あるいは減圧および加圧による外力を作用させることによって、加工液をその内部まで十分に含浸させたものであるから、内部空隙に加工液が充満した研磨工具である。
そして、このような研磨工具は短時間で安定的に得られる。
【0012】
そして、研磨加工に使用する前に予め加工液を内部まで十分に含浸させたものであるから、研磨工具に加工液を含浸させるためのプレ加工を省略でき、あるいは短時間で終了でき、すぐに、本番の研磨加工を開始することができる。また、この発明の研磨工具は加工液が十分に含浸されているので、研磨加工中に一定量の加工液を安定供給することで、研磨開始当初から研磨工具と被加工面との間に所要の加工液を確実に介在させることができ、したがって、早期に研磨能率が安定し、高い除去深さ精度が得られ、かつ被加工面の高い鏡面性が得られる。
【0013】
(2)請求項2の発明
請求項2の研磨工具は多孔質の研磨工具であって、その内部空隙は内部から外部まで連通しており、また、この研磨工具に接合した回転軸は、加工液が流通できる中空軸であり、かつ当該回転軸の研磨工具内に位置する部分に半径方向貫通孔が多数設けられているから、加工液中に浸漬した研磨工具を回転軸側から吸引し、当該研磨工具に加工液を強制的に浸透させてその内部まで含浸させることができる。また、研磨工具の回転軸側から加工液を加圧して供給することによって、研磨工具内部まで加工液を速やかに含浸させることもできる。
【0014】
(3)請求項3の発明
請求項3の研磨工具は、含浸された加工液が砥粒を含有しているから、加工液と砥粒とを研磨工具内部まで十分含浸させるためのプレ加工を省略できるか、あるいは短時間で終了できる。したがって、すぐに、本番研磨加工を開始することができる。
【0015】
(4)請求項4の発明
請求項4の研磨工具製造方法は、請求項1乃至請求項3の研磨工具用の製造方法であり、多孔質の研磨工具を加工液に浸漬させた状態にし、この状態で減圧して、当該研磨工具に加工液を含浸させるものであるから、短時間で充分な量の加工液を研磨工具内部まで含浸させることができる。
【0016】
(5)請求項5の発明
請求項5の研磨工具製造方法は、研磨工具を加工液に浸漬させた状態で、回転軸の中空孔を減圧することで、回転軸から研磨工具内部の空気を吸引して、研磨工具に加工液を含浸させるものであるから、短時間で充分な量の加工液を研磨工具内部まで含浸させることができる。
【0017】
(6)請求項6の発明
請求項6の研磨工具製造方法は、研磨工具を加工液に浸漬させた状態で、回転軸の中空孔を減圧すると同時に、研磨工具を浸漬させた加工液を加圧することによって、回転軸から研磨工具内部の空気を吸引し、研磨工具に加工液を含浸させるものであるから、短時間で加工液を研磨工具内部まで速やかに含浸させることができる。
【0018】
(7)請求項7の発明
請求項7の研磨工具製造方法は、研磨工具の回転軸に、加工液を加圧して供給して、研磨工具に加工液を含浸させるものであるから、研磨工具内部まで短時間で加工液を含浸させることができる。
【0019】
(8)請求項8の発明
請求項8の研磨工具製造方法は、研磨工具の回転軸の中空孔に加工液を加圧して供給すると同時に、研磨工具が存在する空間を減圧することで研磨工具に加工液を含浸させるものであるから、加工液を短時間で研磨工具の内部まで含浸させることができる。
【0020】
(9)請求項9の発明
請求項9の研磨工具製造方法は、請求項4乃至請求項8の方法について、加熱した加工液を用いてこれを研磨工具に含浸させるものであるから、加工液は流動性を高く、研磨工具に浸透しやすく、その内部まで容易に含浸される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次いで、図面を参照しながら実施例を説明する。
研磨加工装置の例として図1に示すものがある。このものは、回転するタイヤ形状または球形状あるいはこれらの形状の一部からなる形状の研磨工具(または円盤状あるいは円筒状などの研磨工具)1が直動スライドを兼ねたスピンドルに固定されており、荷重発生機構部5により直動スライドに所定の荷重を与え、その荷重が研磨工具1に伝達されて同工具1と被加工物7の被加工面との間に荷重が発生するものである。発生した荷重を荷重センサ4で検知し、フィードバック制御して所定の荷重になるように、制御部(たとえばパソコン)によって荷重発生機構部5が制御される。なお、符号2は研磨工具の回転軸である。
被加工物7はX軸、Y軸、Z軸およびX軸、Y軸と平行な回転軸のA軸、B軸の動きによって被加工面の法線を工具荷重負荷方向と一致させる制御、いわゆる法線制御が行われる。
【0022】
図2に示すように所望の設計形状と被加工面の研磨前の形状測定結果との誤差を検出し、その誤差から各加工点における除去量または除去深さを決定する。対象とする加工面の加工開始前に、この加工面と同じ材料を加工することによって除去量または除去深さと加工条件との関係を事前に把握しておく必要がある。この関係について、従来より次式で示すようなプレストンの経験則が知られている。
【0023】
δ=k×P×V×t ・・・・・(1)
ただし、
δ;除去量、
k;比例定数、
P;圧力、
V;工具と加工点の相対速度(工具周速)、
t;滞留時間。
これにより各加工点における除去量または除去深さに対して加工条件を決めることができる。
本発明においては、δは除去深さ、Pは荷重と考えることができる。一般的に比例定数kは被加工物の材質や工具により決まる定数である。このようにして、光学素子成形用金型などの形状を高精度に仕上げる超精密研磨加工をおこなう。
【実施例1】
【0024】
実施例1で使用する研磨工具11は多孔質材料である木炭を粉砕して作成した粒子を樹脂バインダー(この実施例ではフェノール樹脂)と混練して成形したものであり、また、工具形状は球体の一部を切り出した形状で、これに回転軸11aを接合したものである。
図3に示すように、容器12に加工液13を入れ、そのなかに研磨工具11を入れて加工液13中に浸漬させる。これらを密閉容器である真空槽14内に配置して、この真空槽14に接続された真空ポンプによって真空槽14を減圧して、研磨工具11に加工液13を含浸させる。このときの真空度は約1Paである。約5分後に研磨工具11を取り出して、その重量を測定した。研磨工具は加工液含浸前の状態から約30重量%増加していた。この増加分が、研磨工具に含浸された加工液の量である。なお、この加工液含浸量は研磨工具11の空隙率の大きさに比例するものであり、空隙率が大きいほど加工液の含浸量が多くなる。
【0025】
このように加工液が含浸された研磨工具11を使用して、図1に示す加工装置で加工液と砥粒を供給しながらマルテンサイト系ステンレス鋼板の研磨を行った。なお、本番の研磨に先だって、プレ加工として所定の加工をダミーワークで行った。図10に示すように、研磨距離(スタート点からのツールパスの長さ)が増加すると除去深さが増加し、その後、除去深さが安定する状態になる。この状態が研磨工具表面に充分な砥粒と加工液が供給されている状態である。研磨距離が約2000mmとなったところで除去深さが安定するので、研磨距離が2000mmとなるまでプレ加工を行い、その後に、本番の研磨加工を行った。その結果、除去深さ精度は3σで27nmの精度が得られ、さらに被加工面にスクラッチの発生のない、目的どおりの加工面が得られた。
【0026】
〔比較例〕
比較例として、次ぎの加工を行った。
まず、加工液に侵漬しただけで十分に加工液を含浸させていない研磨工具を使用してプレ加工を行い、その後、本番の加工を行った。プレ加工の結果は、研磨距離が5000mmとなったところ(つまり本実施例の2倍以上の研磨距離)で除去深さが安定し、それまでの時間も、研磨距離に比例して本実施例の2倍以上を要した。本番の研磨加工の結果は、除去深さ精度が3σで40nmであった。これは、研磨工具に加工液が予め十分に含浸されていないために研磨工具と被加工面との間の加工液量が一定とならない(安定しない)ことに起因するものである。
【実施例2】
【0027】
実施例2の研磨工具21(図4)は檜を粉砕して得られた木粉(多孔質材料)を樹脂バインダー(ここではウレタン樹脂)と混練して成形したものである。また、図4に示すように、工具形状は球体で、これに回転軸21aを接合している。回転軸21aはその中を加工液が流通できる中空軸であり、当該回転軸21aの研磨工具21内に位置する部分21a’には多数の半径方向の貫通孔21bが設けられており、これにより、回転軸21aの中空孔21cが多孔質の研磨工具21の空隙と連通している。
【0028】
図6に示すように、容器12に加工液13と砥粒10を入れ、その中に研磨工具を侵漬して、研磨工具21に加工液13と砥粒10とを十分に含浸させる。このとき、攪拌装置(図示略)により加工液を攪拌して砥粒を加工液中に均一に分散させる。浸漬させた研磨工具21の回転軸21a側から真空ポンプで減圧して、研磨工具21の中空孔21cの空気を吸引して加工液13と砥粒10を研磨工具に含浸させる。
なお、図7のように、加工液13をコンプレッサ16で加圧することで、加工液13の研磨工具21への浸透が助長され、加工液13と砥粒10が研磨工具21の内部まで短時間で速やかに含浸される。
【0029】
このようにして加工液13が十分(飽和状態)に含浸された研磨工具21を使用して、図1に示した加工装置で加工液13と砥粒10を供給しながらマルテンサイト系ステンレス鋼板の研磨を行った。実施例1の場合と同様に、本番の研磨に先立って、プレ加工として所定の加工をダミーワークで行い、除去深さが安定してから、本番の研磨加工を行った。その結果、除去深さ精度は3σで30nmであり、また、加工面にスクラッチの発生のない、目的どおりの鏡面(平滑面)が得られた。
【実施例3】
【0030】
実施例3で使用する研磨工具31は炭(多孔質材)を粉砕して作成した粒子と樹脂バインダー(ここではフェノール樹脂)とダイヤモンド砥粒とを混練して成形したものである。この実施例では上記炭として竹を原料としたもの(竹炭)を使用した。また、実施例3の研磨工具の形状は、図5に示すように、球体から切り出した円盤形状であり、これに回転軸31aを接合している。回転軸31aはその中を加工液が流通できる中空軸であり、研磨工具部に位置する部分31a’は大径になっている。そして、この大径部31a’に多数の半径方向の貫通孔31bが設けられている。これにより、回転軸31aの中空孔31cと研磨工具31の内部の空隙とが連通している。
【0031】
図8に示すように、容器32に加工液13を入れて、この加工液を送液ポンプ35によって研磨工具31の回転軸31aに供給する。加工液13は回転軸31aから研磨工具31に供給され、研磨工具31内の空気を外部へ排出しながら加工液が内まで浸透する。図9に示すように、研磨工具31を真空槽33内に配置し、真空槽33内を真空ポンプ15により減圧すれば、加工液13の研磨工具31への浸透が助長される。この実施例3では予め加工液を50℃に加熱している。50℃に加熱された加工液13の動粘度は室温での動粘度よりも低いので、その分だけ加工液13の流動性が高く、研磨工具内部への含浸が速やかである。
【0032】
図1に示した加工装置で、加工液を供給しながら無電解ニッケルを被加工面とする金型の研磨を行った。このときの研磨は、研磨工具の回転数が500rpm、荷重が100gfで、滞留時間制御による研磨である。この研磨加工によって得られた除去精度は30nm以下であり、加工面にはスクラッチの発生がなく、目的どおりの研磨加工面が得られた。
加工液中に浸漬して加工液を含浸させただけの研磨工具を使用して、同様の研磨加工を比較例として行った。この比較例では、加工液の研磨工具内部への含浸が充分でないことから、研磨工具と被加工面との間の加工液量が一定とならず、このため、得られた除去精度は50nm程度でしかなく、また、加工初期にスクラッチが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】は、従来の研磨加工装置の一例の正面図である。
【図2】は、設計形状と被加工面の研磨前の形状測定結果との誤差を検出し、この検出データに基づいて研削量を演算し、研磨加工制御を行う精密研磨加工の説明図である。
【図3】は、実施例1の研磨工具に加工液を含浸させる方法の説明図である。
【図4】は、実施例2の研磨工具の平面図である。
【図5】は、実施例3の研磨工具の側面図である。
【図6】は、実施例2の研磨工具に加工液を含浸させる方法の説明図である。
【図7】は、実施例2の研磨工具に加工液を含浸させる他の方法の説明図である。
【図8】は、実施例3の研磨工具に加工液を含浸させる方法の説明図である。
【図9】は、実施例3の研磨工具に加工液を含浸させる他の方法の説明図である。
【図10】は、研磨拒理と除去深さとの関係を示し、研磨安定領域について説明するグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1,11,21,31:研磨工具
2,11a,21a,31a:回転軸
3:垂直スライド
4:荷重センサー
5:荷重発生機構部
6:コラム
7:被河口部
8:3軸直道テーブル
12,32:容器
13:加工液
14:真空槽
15:真空ポンプ
16:コンプレッサー
21b、31b:貫通孔
21c,31c:中空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の研磨工具であって、研磨加工に使用する前に、研磨工具の内部あるいは外部から、減圧又は加圧あるいは減圧および加圧して外力を作用させることによって、予め加工液を十分に含浸させていることを特徴とする研磨工具。
【請求項2】
内部から外部まで連通する空隙を有する多孔質材からなる研磨工具であって、当該研磨工具に接合した回転軸は加工液が流通できる中空軸であり、当該回転軸の研磨工具内に位置する部分に半径方向の貫通孔が多数設けられている請求項1の研磨工具。
【請求項3】
上記加工液が砥粒を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2の研磨工具。
【請求項4】
研磨工具を加工液に浸漬させた状態で当該研磨工具を減圧雰囲気内に配置して、研磨工具に加工液を含浸させることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の研磨工具用の研磨工具製造方法。
【請求項5】
研磨工具を加工液に浸漬させた状態で、上記回転軸の中空孔を減圧することによって同回転軸から研磨工具内部の空気を吸引し、研磨工具に加工液を含浸させることを特徴とする、請求項2又は請求項3の研磨工具用の研磨工具製造方法。
【請求項6】
研磨工具を加工液に浸漬させた状態で、上記回転軸の中空孔を減圧すると同時に、研磨工具を浸漬させた加工液を加圧することによって、上記回転軸から研磨工具内部の空気を吸引し、研磨工具に加工液を含浸させることを特徴とする請求項5の研磨工具製造方法。
【請求項7】
研磨工具の上記回転軸の中空孔に加工液を加圧して供給して、研磨工具に加工液を含浸させることを特徴とする、請求項2又は請求項3の研磨工具用の研磨工具製造方法。
【請求項8】
研磨工具の回転軸の中空孔に加工液を加圧して供給すると同時に、研磨工具が存在する空間を減圧することによって研磨工具に加工液を含浸させることを特徴とする、請求項7の研磨工具用の研磨工具製造方法。
【請求項9】
加工液を加熱してその粘性を低下させることを特徴とする、請求項4乃至請求項8の研磨工具製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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