説明

研磨方法及び基板の製造方法

【課題】ニッケルリンメッキディスク基板の研磨をより好適に行うことが可能な研磨用組成物及び研磨方法を提供する。
【解決手段】本発明の研磨方法は、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸及びグルタミン酸二酢酸並びにそれらのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩から選ばれるパッド劣化抑制剤と、酸化剤とを含有する研磨用組成物をスエードタイプの研磨パッドと併せて使用して研磨対象物を研磨する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルリンメッキディスク基板(Ni−Pディスク基板)を研磨する用途、特にNi−Pディスク基板を仕上げ研磨する用途で主に使用される研磨用組成物及びその研磨用組成物を用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni−Pディスク基板を研磨する用途に使用可能な研磨用組成物として例えば、水、酸化剤、約0.04M以上のリン酸イオン又はホスホン酸イオン、及び砥粒を含有する研磨用組成物が特許文献1に開示されている。また、特許文献2には水、酸化ケイ素、エチレンジアミン四酢酸鉄を始めとする金属配位化合物、酸化剤、及びpH調整剤を含有する研磨用組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1,2の研磨用組成物を含む従来の研磨用組成物を用いて研磨を行った場合には、研磨用組成物による腐食のために研磨パッドの劣化が経時的に起こる虞があり、その結果、実用上許容できないレベルの微小うねりが生じるなど、Ni−Pディスク基板の表面の仕上がりに悪影響が及ぶことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−535968号公報
【特許文献2】特開2004−127327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Ni−Pディスク基板の研磨をより好適に行うことが可能な研磨用組成物及び研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸及びグルタミン酸二酢酸並びにそれらのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩から選ばれるパッド劣化抑制剤と、酸化剤とを含有する研磨用組成物を提供する。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記パッド劣化抑制剤は、ジエチレントリアミン五酢酸若しくはグルタミン酸二酢酸又はそれらのアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩である請求項1に記載の研磨用組成物を提供する。
【0007】
請求項3に記載の発明は、フェノール化合物をさらに含有する請求項1又は2に記載の研磨用組成物を提供する。
請求項4に記載の発明は、リン酸塩をさらに含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨用組成物を提供する。
【0008】
請求項5に記載の発明は、砥粒をさらに含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨用組成物を提供する。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の研磨用組成物をスエードタイプの研磨パッドと併せて使用して研磨対象物を研磨する研磨方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Ni−Pディスク基板の研磨をより好適に行うことが可能な研磨用組成物及び研磨方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、パッド劣化抑制剤及び酸化剤を、好ましくはフェノール化合物、リン酸塩、砥粒及び酸の少なくとも一種とともに、水に混合することにより製造される。従って、研磨用組成物は、パッド劣化抑制剤、酸化剤及び水を含有し、好ましくはフェノール化合物、リン酸塩、砥粒及び酸の少なくとも一種をさらに含有する。
【0011】
本実施形態の研磨用組成物は、Ni−Pディスク基板を研磨する用途、特にNi−Pディスク基板を仕上げ研磨する用途で使用される。仕上げ研磨とは、予備研磨された後のNi−Pディスク基板を最終研磨することをいう。仕上げ研磨に供される予備研磨後のNi−Pディスク基板の表面粗さRaは10nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm、さらに好ましくは3nm以下である。また、仕上げ研磨後のNi−Pディスク基板の表面粗さRaは0.2nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.15nm以下である。なお、上記の表面粗さRaの値は、原子間力顕微鏡(AFM)などの走査型プローブ顕微鏡を用いて測定されるものである。
【0012】
本実施形態の研磨用組成物と併せて使用される研磨パッドは、不織布タイプのものよりはスエードタイプのものであることが好ましい。スエードタイプの研磨パッドは特に限定されるものでなく、例えば特開平11−335979号公報に記載のものや特開2001−62704号公報に記載のものを使用することもできる。スエードタイプの研磨パッドを使用した場合には、不織布タイプの研磨パッドを使用した場合に比べて、研磨後のNi−Pディスク基板の表面で測定される微小うねりのレベルがもともと小さく、かつ同じく研磨後のNi−Pディスク基板の表面で測定されるスクラッチの数も少なくできる。なお、スエードタイプの研磨パッドでは、ポリエステル系ポリウレタンなどの高分子材料の発泡成形によるナップ層がベース層の上に設けられており、ベース層側の表面で研磨機の定盤に固定され、ナップ層側の表面で研磨対象物を研磨する。ポリエステル系ポリウレタンとは、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのポリイソシアネート成分との反応に供されるポリオール成分の少なくとも一部がポリエステルポリオールであるポリウレタンである。ポリオール成分の一部がポリエステルポリオールである場合、それ以外のポリオール成分は、例えばポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールである。
【0013】
前記パッド劣化抑制剤は、研磨パッド、特にスエードタイプの研磨パッドの劣化を抑制する働きをする。研磨パッドの劣化が起こる要因として、研磨用組成物中の酸化剤が研磨パッドの研磨面に対して何らかの化学的作用をすることにより研磨面の弾力性が低下することがある。研磨面の弾力性が低くなると、研磨中の機械的な力によって研磨面のナップ層が表層から容易に擦り切れることになる。パッド劣化抑制剤は、この酸化剤の化学的作用を阻害することにより研磨パッドの劣化を抑制するものと考えられる。
【0014】
研磨用組成物に含まれるパッド劣化抑制剤は具体的には、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸及びグルタミン酸二酢酸、並びにそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる。その中でも好ましくはジエチレントリアミン五酢酸若しくはグルタミン酸二酢酸、又はそのアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩である。グルタミン酸二酢酸並びにそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩は、研磨用組成物中の酸化剤、特に過酸化水素に対する安定性が高い点で有利である。ジエチレントリアミン五酢酸並びにそのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩は、他のパッド劣化抑制剤に比べて研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度を向上させることができる点で有利である。なお、上記の各酸の溶解性に比べて同じ酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩の溶解性の方が高いことから、パッド劣化抑制剤は
上記の酸であるよりは上記の酸のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩であることが好ましい。
【0015】
研磨用組成物中のパッド劣化抑制剤の含有量の好ましい範囲は一般的には以下の通りである。
すなわち、研磨用組成物中のパッド劣化抑制剤の含有量は0.001mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.003mol/L以上、さらに好ましくは0.005mol/L以上である。パッド劣化抑制剤の含有量が多くになるにつれて、研磨パッドの劣化はより強く抑制される。この点、研磨用組成物中のパッド劣化抑制剤の含有量が0.001mol/L以上、さらに言えば0.003mol/L以上、もっと言えば0.005mol/L以上であれば、研磨パッドの劣化を実用上特に好適なレベルにまで抑制することができる点で有利である。
【0016】
研磨用組成物中のパッド劣化抑制剤の含有量はまた0.20mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.15mol/L以下、さらに好ましくは0.10mol/L以下である。パッド劣化抑制剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストが抑えられることに加え、研磨用組成物中に不溶解分が生じる虞が小さくなる。この点、研磨用組成物中のパッド劣化抑制剤の含有量が0.20mol/L以下、さらに言えば0.15mol/L以下、もっと言えば0.10mol/L以下であれば、費用対効果の点だけでなく、不溶解分の生成を十分に抑えることができる点でも有利である。
【0017】
前記酸化剤は、Ni−Pディスク基板の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度を向上させる働きをする。
研磨用組成物に含まれる酸化剤は、好ましくは過酸化水素、過硫酸塩、過酢酸などの過酸化物であり、中でも好ましいのは過酸化水素である。
【0018】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。酸化剤の含有量が多くになるにつれて、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度は向上する。この点、研磨用組成物中の酸化剤の含有量が0.01質量%以上、さらに言えば0.03質量%以上、もっと言えば0.05質量%以上であれば、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルまで向上させることができる点で有利である。
【0019】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量はまた1.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.2質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストが抑えられることに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷が軽減する。この点、研磨用組成物中の酸化剤の含有量が1.5質量%以下、さらに言えば1.2質量%以下、もっと言えば1.0質量%以下であれば、費用対効果の点だけでなく、廃液処理の負荷を大きく軽減することができる点でも有利である。
【0020】
前記フェノール化合物は、研磨用組成物を用いて研磨後のNi−Pディスク基板の表面で測定されるスクラッチ及び微小うねりを低減させる働きをする。フェノール化合物のこの働きは、研磨用組成物中の酸化剤による研磨パッドの研磨面に対する化学的作用をフェノール化合物が阻害することに基づくものと考えられる。
【0021】
研磨用組成物に含まれるフェノール化合物は、例えばアルコキシフェノールであり、好ましくはp−メトキシフェノールなどのp−アルコキシフェノールである。
研磨用組成物中のフェノール化合物の含有量は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。フェノール化合物の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストが抑えられることに加え、研磨用組成物中に不溶解分が生じる虞が小さくなる。この点、研磨用組成物中のフェノール化合物の含有量が5質量%以下、さらに言えば3質量%以下、もっと言えば1質量%以下であれば、費用対効果の点だけでなく、不溶解分の生成を十分に抑えることができる点でも有利である。
【0022】
前記リン酸塩は、研磨用組成物を用いて研磨後のNi−Pディスク基板の表面で測定されるスクラッチを低減させる働きをする。リン酸塩のこの働きは、Ni−Pディスク基板の表面に耐スクラッチ性を有する不動態膜が形成されることによると考えられる。
【0023】
研磨用組成物に含まれるリン酸塩は、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート又はフィチン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩又はアンモニウム塩である。その中でも好ましくは、リン酸水素二アンモニウム又はリン酸水素二カリウムである。
【0024】
研磨用組成物中のリン酸塩の含有量は3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。リン酸塩の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストが抑えられる。この点、研磨用組成物中のリン酸塩の含有量が3質量%以下、さらに言えば2質量%以下、もっと言えば1質量%以下であれば、費用対効果の点で有利である。
【0025】
前記砥粒は、Ni−Pディスク基板を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度を向上させる働きをする。
研磨用組成物に含まれる砥粒は、好ましくはシリカ、より好ましくはコロイダルシリカである。
【0026】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストが抑えられる。この点、研磨用組成物中の砥粒の含有量が30質量%以下、さらに言えば20質量%以下、もっと言えば10質量%以下であれば、費用対効果の点で有利である。
【0027】
研磨用組成物に含まれる砥粒の平均一次粒子径は1nm以上であることが好ましく、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上、最も好ましくは10nm以上である。平均一次粒子径が大きくなるにつれて、Ni−Pディスク基板を機械的に研磨する砥粒の作用が強まるため、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度は向上する。この点、砥粒の平均一次粒子径が1nm以上、さらに言えば3nm以上、もっと言えば5nm以上、さらにもっと言えば10nm以上であれば、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることができる点で有利である。
【0028】
研磨用組成物に含まれる砥粒の平均一次粒子径はまた100nm以下であることが好ましく、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは50nm以下、最も好ましくは30nm以下である。平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨後のNi−Pディスク基板の微小うねりを含む表面品質が良好になる。この点、砥粒の平均一次粒子径が100nm以下、さらに言えば60nm以下、もっと言えば50nm以下、さらにもっと言えば30nm以下であれば、研磨後のNi−Pディスク基板の表面品質を実用上特に好適なレベルにまで向上させることができる。なお、以上で説明した平均一次粒子径の値は、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出されるものである。
【0029】
前記酸は、Ni−Pディスク基板を化学的に研磨する作用を有し、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度を向上させる働きをする。
研磨用組成物に含まれる酸は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、スルファミン酸などの無機酸であってもよいし、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、マレイン酸などの有機酸であってもよい。好ましい無機酸は硫酸及びリン酸である。
【0030】
研磨用組成物中の酸の含有量は10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。酸の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストが抑えられる。この点、研磨用組成物中の酸の含有量が10質量%以下、さらに言えば8質量%以下、もっと言えば5質量%以下であれば、費用対効果の点で有利である。
【0031】
研磨用組成物のpHは4以下であることが好ましく、より好ましくは3以下である。pHが小さくなるにつれて、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度が向上することに加え、研磨用組成物を用いて研磨後のNi−Pディスク基板の表面で測定される微小うねりが低減する。この点、研磨用組成物のpHが4以下、さらに言えば3以下であれば、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルまで向上させることができるだけでなく、研磨用組成物を用いて研磨後のNi−Pディスク基板における微小うねりを実用上特に好適なレベルにまで低減させることができる点でも有利である。
【0032】
本実施形態によれば以下の利点が得られる。
本実施形態の研磨用組成物によれば、パッド劣化抑制剤が研磨用組成物に含まれているために、研磨パッドの劣化を抑制することができ、研磨後のNi−Pディスク基板における微小うねりのレベルが研磨パッドの劣化により増大することを抑制することができる。従って、研磨パッドを長時間交換しなくてもNi−Pディスク基板の表面を良好に仕上げることができる。よって、本実施形態の研磨用組成物は、Ni−Pディスク基板を研磨する用途、特にNi−Pディスク基板を仕上げ研磨する用途で好適に使用することができる。
【0033】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物には二種類以上のパッド劣化抑制剤が含有されてもよい。
【0034】
・ 前記実施形態の研磨用組成物には二種類以上の酸化剤が含有されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物には二種類以上のフェノール化合物が含有されてもよい。
【0035】
・ 前記実施形態の研磨用組成物には二種類以上のリン酸塩が含有されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物には二種類以上の砥粒、例えば平均一次粒子径が異なる二種類以上の砥粒が含有されてもよい。
【0036】
・ 前記実施形態の研磨用組成物には二種類以上の酸が含有されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物が酸を含有する場合には、pH緩衝作用を研磨用組成物に持たせるために塩を添加してもよい。
【0037】
・ 前記実施形態の研磨用組成物には必要に応じて防腐剤や防カビ剤のような公知の添加剤を添加してもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。多剤型とする場合、コロイダルシリカを含む剤のpHは6〜12であることが好ましく、より好ましくは6.5〜11である。このpHが低すぎる場合には、コロイダルシリカの分散安定性が良くないため、ゲル化が起こりやすい。逆にpHが高すぎる場合には、コロイダルシリカの溶解が起こる虞がある。
【0038】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することによって調製されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、Ni−Pディスク基板以外の研磨対象物を研磨する用途で使用されてもよい。
【0039】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
実施例1〜16では、パッド劣化抑制剤、酸化剤、フェノール化合物、リン酸塩、砥粒及び酸を適宜に水と混合することにより研磨用組成物を調製した。比較例1〜10では、パッド劣化抑制剤又はそれに代わる化合物、酸化剤、砥粒及び酸を適宜に水と混合することにより研磨用組成物を調製した。各例の研磨用組成物中のパッド劣化抑制剤又はそれに代わる化合物、酸化剤、フェノール化合物、リン酸塩及び酸の詳細、並びに研磨用組成物のpHを測定した結果を表1,2に示す。なお、表1,2には示さないが、各例の研磨用組成物は砥粒としていずれも平均一次粒子径が25nmのコロイダルシリカを8質量%含有している。
【0040】
表1,2の“研磨速度”欄には、各例の研磨用組成物を用いてNi−Pディスク基板を表3に示す研磨条件で研磨したときの研磨速度を測定した結果を示す。研磨速度の測定は下記の計算式に従って行った。
【0041】
研磨速度[μm/分]=(研磨前の基板の重量[g]−研磨後の基板の重量[g])/(基板表面の面積[cm]×ニッケルリンメッキの密度[g/cm]×研磨時間[分])×10
表1,2の“パッド表面粗度の変化率”欄には、各例の研磨用組成物を用いてNi−Pディスク基板を連続研磨したときの研磨パッドの劣化、すなわち研磨パッドの表面粗度の変化率に関する評価の結果を示す。具体的には、50時間研磨使用した研磨パッドのナップ層表面で測定される表面粗さRaの値を、10時間研磨使用した研磨パッドのナップ層表面で測定される表面粗さRaの値で除することにより表面粗度の変化率を求めた。そして、表面粗度の変化率が120%未満の場合には○(良)、120%以上130%未満の場合には△(やや不良)、130%以上の場合には×(不良)と評価した。なお、表面粗さRaの測定には東京精密株式会社製の“ハンディサーフE-35A”を使用し、測定条件は測定長:12.5mm、カットオフ:2.5mmとした。また、この評価時の研磨条件は、研磨時間を除いては表3に示すのと同じである。
【0042】
表1,2の“基板微小うねりの初期値”欄には、10時間研磨使用することによりナップ層表面の表面粗さRaの値が安定した研磨パッドを各例の研磨用組成物と併せて用いて、表3に示す研磨条件でNi−Pディスク基板を研磨したときに研磨後のNi−Pディスク基板の表面で測定される微小うねりに関する評価の結果を示す。具体的には、Candela社製の“OSA6100”を使用して表4に示す測定条件で測定される表面粗さRaとしての微小うねりの値が0.5Å未満の場合には◎(優)、0.5Å以上0.58Å未満の場合には○(良)、0.58Å以上0.62Å未満の場合には△(やや不良)、0.62Å以上の場合には×(不良)と評価した。
【0043】
表1,2の“基板微小うねりの変化率”欄には、各例の研磨用組成物を用いて表3に示す研磨条件で研磨したNi−Pディスク基板の表面で測定される微小うねりの値の研磨パッドの使用時間による変化率に関する評価の結果を示す。具体的には、50時間研磨使用した研磨パッドを用いて研磨したNi−Pディスク基板の表面で測定される微小うねりの値を、10時間研磨使用した研磨パッドを用いて研磨したNi−Pディスク基板の表面で測定される微小うねりの値で除することにより微小うねりの変化率を求めた。そして、微小うねりの変化率が110%未満の場合には◎(優)、110%以上120%未満の場合には○(良)、120%以上130%未満の場合には△(やや不良)、130%以上の場合には×(不良)と評価した。なお、微小うねりの測定の詳細は上記に同じである。
【0044】
表1,2の“スクラッチ”欄には、各例の研磨用組成物を用いて表3に示す研磨条件で研磨したNi−Pディスク基板の表面で測定されるスクラッチの本数に関する評価の結果を示す。具体的には、Ni−Pディスク基板の表面のうち基板の外周縁から中心に向かって0〜15mmの間の部分で測定されるスクラッチの本数が12未満の場合には◎(優)、12以上18未満の場合には○(良)、18以上23未満の場合には△(やや不良)、23以上の場合には×(不良)と評価した。なお、スクラッチの計数にはVISION PSYTEC社製の“MicroMax VMX2100”を使用した。
【0045】
表1,2の“スラリー安定性”欄には、各例の研磨用組成物の研磨性能上の安定性に関する評価の結果を示す。具体的には、各例の研磨用組成物を調整後に常温保存したとき、保存後の研磨用組成物を用いてNi−Pディスク基板を研磨したときに測定される研磨速度の値が、調整直後の研磨用組成物を用いてNi−Pディスク基板を研磨したときに測定される研磨速度の値の85%にまで低下するのに要する日数を調べた。そして、その日数が調整後14日以上の場合には◎(優)、7日以上14日未満の場合には○(良)、3日以上7日未満の場合には△(やや不良)、3日未満の場合には×(不良)と評価した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

表1に示すように、実施例1〜16では、パッド表面粗度の変化率に関して120%未満という実用に足るレベルの値が得られ、基板微小うねりの初期値に関して0.58Å未満という実用に足るレベルの値が得られ、基板微小うねりの変化率に関しても120%未満という実用に足るレベルの値が得られた。しかも、実施例1〜16では、研磨速度に関して0.08μm/分以上という実用に足るレベルの値が得られ、スクラッチに関しても18本未満という実用に足るレベルの値が得られ、スラリー安定性に関する評価は良以上であった。
【0050】
これに対し、パッド劣化抑制剤を含まない研磨用組成物を用いた比較例2〜10では、パッド表面粗度の変化率と基板微小うねりの変化率がいずれも130%以上であり、パッド表面粗度の変化率及び基板微小うねりの変化率に関して実用に足るレベルの値が得られなかった。また、酸化剤を含まない研磨用組成物を用いた比較例1では、研磨速度が0.04μm/分であり、研磨速度に関して実用に足るレベルの値が得られなかった。
【0051】
前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
酸をさらに含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。この場合、酸の化学的研磨作用のために、研磨用組成物によるNi−Pディスク基板の研磨速度が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸及びグルタミン酸二酢酸並びにそれらのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる研磨パッドの劣化を抑制するパッド劣化抑制剤と、酸化剤とを含有する研磨用組成物をスエードタイプの研磨パッドと併せて使用して研磨対象物を研磨する工程を有することを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
前記パッド劣化抑制剤は、ジエチレントリアミン五酢酸若しくはグルタミン酸二酢酸又はそれらのアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
フェノール化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨方法。
【請求項4】
リン酸塩をさらに含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項5】
砥粒をさらに含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の研磨方法を用いることを特徴とする基板の製造方法。

【公開番号】特開2012−176493(P2012−176493A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141031(P2012−141031)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【分割の表示】特願2007−105830(P2007−105830)の分割
【原出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】