説明

研磨方法及び研磨体

【課題】 少量多品種でもコストの面で良好であり、非磁性であれば被研磨物の形状や材質等を限定することなく規則的な加工面を形成することができる研磨方法及びそれにより得られる研磨体を提供する。
【解決手段】 磁性粒子、研磨粒子及び媒体を含有する磁気研磨流体1を用いる研磨方法であって、研磨対象となる被研磨物2の一方の面に上記磁気研磨流体1を配し、他方の面に外方に離れて磁極3を配し、上記磁極に磁界を発生させることにより上記磁気研磨流体1を増粘させると共に、上記被研磨物を移動させる研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラス、セラミック材料、プラスチック材料等の表面に規則的な加工面を形成することができる研磨方法、及び、それにより得られる研磨体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学的、電磁的に変化を有することが必要とされる回折格子等は、基材表面に規則的な加工面を形成したものが一般的に用いられている。ここでいう規則的な加工面とは、間隔、深さ等が一定範囲内となる微小溝が形成された面のことであり、外観的には、畳表状、ストライプ状等の状態を意味する。このような加工面は、平滑な加工面と異なり溝のピッチに対応した特定の波長を回折するため、光学的、電磁的に変化をもたらすものとなる。
【0003】
このような規則的な加工面を形成する方法としては、例えば、ダイヤモンドヘッドを有する溝加工機を用いた機械加工により溝を形成することが広く知られており、又は、フォトリソグラフィー等のエッチング技術を用いて溝を形成する(例えば、非特許文献1参照)等の方法が用いられてきた。
【0004】
しかしながら、ダイヤモンドヘッドによる加工技術は、ダイヤモンドヘッドが固体物であるため、非球面レンズ等の複雑な形状を有する被研磨物に対して適用することが困難であるという問題があった。また、フォトリソグラフィーによるエッチング技術は、非特許文献等に記載されているように、加工工程上マスクパターンが必要であるため、コストの問題から少量多品種製品に適用することが困難であり、更に、被研磨物としてはエッチング可能な材料に限定される等の問題があった。
【非特許文献1】津田穣 著 「超LSIレジストの分子設計」共立出版(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、少量多品種でもコストの面で良好であり、非磁性であれば被研磨物の形状や材質等を限定することなく規則的な加工面を形成することができる研磨方法及びそれにより得られる研磨体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、磁性粒子、研磨粒子及び媒体を含有する磁気研磨流体を用いる研磨方法であって、研磨対象となる被研磨物の一方の面に上記磁気研磨流体を配し、他方の面に外方に離れて磁極を配し、上記磁極に磁界を発生させることにより上記磁気研磨流体を増粘させて、上記被研磨物を移動させることを特徴とする研磨方法である。
【0007】
上記被研磨物が円筒である場合、内径面に磁気研磨流体を配し、外径面に外方に離れて磁極を配し、上記被研磨物を軸心回りに回転させてもよい。
上記被研磨物が円盤である場合、上面に磁気研磨流体を配し、下面側に離れて磁極を配し、上記被研磨物を水平回転させてもよい。上記研磨方法において、上記磁極は微小振動させることが好ましい。
【0008】
上記研磨方法は、磁性粒子は、平均粒径が1〜10μmであり、研磨粒子の平均粒径と磁性粒子の平均粒径との比が、0.01≦研磨粒子の平均粒径/磁性粒子の平均粒径<1であり、媒体は、シリコーンオイルである磁気研磨流体を用いることが好ましい。
上記磁性粒子が、エポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤によって処理されていることが好ましい。
上記磁気研磨流体が、ポリジメチルシロキサンを主鎖としその側鎖又は末端にアミノ基を含有するアミノ変性シリコーンオイルを添加剤として含有することが好ましい。
上記アミノ変性シリコーンオイルは、ポリジメチルシロキサンを主鎖としその側鎖にアミノ基を含有するものであることが好ましい。
【0009】
本発明は、上述の研磨方法により研磨されたことを特徴とする研磨体でもある。
上記研磨体は、研磨面の最大高さ(Ry)で表した表面粗さが1μm以下であり、断面視で間隔が0.1〜5μmで、深さが0.05〜0.5μmの溝を有することを特徴とすることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明で用いられる磁気研磨流体は、磁性粒子、研磨粒子及び媒体を含有するものである。
本発明で用いられる磁性粒子としては、磁性を有するものであれば特に限定されず、例えば、鉄、窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、二酸化クロム、低炭素鋼、ニッケル、コバルト;アルミニウム含有鉄合金、ケイ素含有鉄合金、コバルト含有鉄合金、ニッケル含有鉄合金、バナジウム含有鉄合金、モリブデン含有鉄合金、クロム含有鉄合金、タングステン含有鉄合金、マンガン含有鉄合金、銅含有鉄合金等の鉄合金;これらの混合物等から成る粒子を挙げることができる。
【0011】
本発明の研磨方法は、磁気研磨流体を用いて、特定の方法により被研磨物の研磨仕上げ磨き上げを行うことにより、被研磨物の形状、材料等に関わらず、規則的な加工面を有する研磨体を得ることができるものである。更に、本発明の研磨方法は、マスクパターン等を必要としないためコストの面で優れたものである。本発明の研磨方法は、研磨対象となる被研磨物の一方の面に上記磁気研磨流体を配し、他方の面に外方に離れて磁極を配し、上記磁極に磁界を発生させることにより上記磁気研磨流体を増粘させて、上記被研磨物を移動させる。なお、上記研磨方法において、磁極は、微小振動させることが好ましい。
【0012】
上記磁性粒子の平均粒径は1〜10μmであることが好ましい。上記磁性粒子の平均粒径が1μm未満であると、粒径が小さすぎるために磁場印加時の大幅な粘度上昇は期待できず、10μmを超えると、分散媒中で沈降しやすくなるため、流体中に磁性粒子を保持することが難しく、流体の不均質化が著しく起こり、研磨特性が変化するおそれがある。
【0013】
上記磁性粒子の配合量は、磁気研磨流体全体に対して10〜90質量%であることが好ましい。10質量%未満であると、得られる磁気研磨流体の磁場印加時の粘度上昇が小さく、90質量%を超えると、磁気研磨流体の流動性が低下することがある。より好ましくは、下限が50質量%であり、上限が85質量%である。
【0014】
上記磁性粒子としては、エポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤によって処理されたものを使用してもよい。上記磁性粒子をエポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤によって処理することにより、未処理の磁性粒子と比べて、遙に分散安定性に優れるものとなる。
【0015】
上記シランカップリング剤は下記一般式(1)によって表されるものであることが好ましい。
X−(Y)−SiR3−b・・・(1)
式中、Xはエポキシ基、環状エポキシ基又はアミノ基を表し;Yは(CH、エーテル結合、エステル結合又はケトン結合を含む炭化水素基を表し;Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基を表し;Lは、ハロゲン原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、又は、ホルミル基、アセトキシ基、ピロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等のアシルオキシ基を表し;bは1〜3の整数を表す。
【0016】
上記磁性粒子を、エポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤によって処理する方法としては、例えば、上記エポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤をアルコール等の溶剤に溶解させた溶液に、上記磁性粒子を浸漬するか、又は、上記シランカップリング剤溶液を上記磁性粒子に噴霧した後、溶剤を揮発させることによる。更に、溶剤を揮発させた後で、40〜150℃で5分〜24時間加熱処理を行ってもよい。
【0017】
本発明で用いられる研磨粒子としては特に限定されず、公知の物を使用することができ、例えば、α−Fe、ThO、ZrO、SnO、CeO、SiO、Al、ZnO等の酸化物;SiC、多結晶ダイヤモンド粒子等を挙げることができる。
【0018】
上記研磨粒子の平均粒径と上記磁性粒子の平均粒径との比は、0.01≦研磨粒子の平均粒径/磁性粒子の平均粒径<1であることが好ましい。「研磨粒子の平均粒径/磁性粒子の平均粒径」が0.01未満であると、磁性粒子に対する研磨粒子の表面積が小さすぎて加工性が劣る場合があり、1以上であると、磁性粒子に対して研磨粒子が大きく、磁性粒子による粘度増加によって研磨粒子を充分保持できず、良好な研磨特性が得られないおそれがある。
【0019】
上記研磨粒子の配合量は、磁気研磨流体全体に対して0.1〜20質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、充分な研磨特性が得られず、20質量%を超えると、磁気研磨流体の流動性が低下することがある。より好ましくは、下限が0.5質量%であり、上限が10質量%である。
【0020】
本発明で用いられる媒体(キャリア流体)は、シリコーンオイルであることが好ましい。上記シリコーンオイルとしては、具体的には、下記一般式(2)中のR、R、R全てがメチル基であるポリジメチルシロキサンであることが好ましい。
上記シリコーンオイルの粘度は、25℃において10〜1000cpsであることが好ましい。10cps未満であると、沸点が低いため、著しい粘度上昇が起こった場合に溶媒の揮発による組成変化が起き、1000cpsを超えると、粘度が高すぎるために、流動性が悪化し、良好な研磨特性が得られない。より好ましくは、下限が10cpsであり、上限が100cpsである。
また、上記シリコーンオイルとしては、25℃における粘度と120℃における粘度とに変化が少ないものが好ましい。研磨部位においては摩擦熱発生による温度上昇が不可避であり、120℃程度まで温度が上昇するが、温度変化によっても粘度が変化しなければ、安定した研磨を行うことができる。
【0021】
上記磁気研磨流体は、更に、添加剤としてアミノ変性シリコーンオイルを使用することが好ましい。添加剤としてアミノ変性シリコーンオイルを配合することにより磁性粒子を安定して分散させることができるため好ましい。
上記アミノ変性シリコーンオイルは下記一般式(2)で表されるポリジメチルシロキサンを主鎖としその側鎖又は末端にアミノ基を含有するものであることが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
式中、R、R、Rは、少なくとも一つはY−NHを表し、他はメチル基を表す。Yは(CH、エーテル結合、エステル結合又はケトン結合を含む炭化水素基を表す。
上記アミノ変性シリコーンオイルとして、上記一般式(2)で表されるポリジメチルシロキサンを主鎖としその側鎖又は末端にアミノ基を含有するアミノ変性ポリジメチルシロキサンを用いる代わりに、フェニルシロキサン等を骨格とするアミノ変性シリコーンオイルを用いた場合は、フェニル基等による立体障害により磁性粒子にアミノ基が有効に吸着反応できず、優れた分散安定性を得ることはできない。
【0024】
また、上記アミノ変性ポリジメチルシロキサンの代わりに、カルボキシル変性ポリジメチルシロキサンやアルコール変性ポリジメチルポリシロキサンを用いた場合は、磁性粒子との馴染みが悪く、安定した分散性を得ることはできないおそれがある。
本発明で用いられるアミノ変性シリコーンオイルとしては、特にポリジメチルシロキサンを主鎖としその側鎖にアミノ基を含有するものが好ましい。
【0025】
上記磁気研磨流体は、その磁気研磨特性に重大な影響を与えない限りにおいて、酸化防止剤、老化防止剤又はその他の安定剤、防腐剤、粘度調整剤、難燃剤や、界面活性剤等の添加剤を併用することができる。
上記磁気研磨流体の作製方法としては、初めに材料を容器に投入しヘラ等で予備混合し、その後ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、3本ロール等の分散機で混合すればよい。
【0026】
本発明の研磨方法を図1を例に挙げて説明する。上記研磨方法は、被研磨物2の一方の面に磁気研磨流体1を配し、磁極3を磁気研磨流体1を配した側とは逆の面に、外方に離して配するものである。このような状態で、磁極3に磁界を発生させ、上記磁気研磨流体1を増粘させるものである。上記磁気研磨流体1が増粘した状態で、例えば、被研磨物2を移動させることにより研磨を行うものである。本発明の研磨方法は、上述のような方法により研磨を行うことにより、規則的な加工面を得ることができるものである。更に、上記研磨方法は、磁気研磨流体が流体としての柔軟性を有しているため、複雑な形状を有する被研磨物に対しても適用することができるものである。また上記研磨方法は、フォトリソグラフィーによるエッチングを行うものでは無いため、被研磨物が限定されない点からも優れたものである。
【0027】
上記被研磨物2として、非磁性体のものであれば特に限定されないが、例えば、ガラス、金属(ステンレス、黄銅、アルミニウム等)、セラミック材料、プラスチック材料等を挙げることができる。
上記磁極3としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、例えば、永久磁石(フェライト、サマリウムコバルト、ネオジウム、アルニコ等)、電磁コイル等を挙げることができる。
【0028】
上記磁極3を被研磨物2から離すべき距離は、被研磨物2を通して磁気研磨流体1に含まれる磁性粒子に作用して、磁気研磨粒子の増粘を引き起こすことができる距離であれば特に限定されない。重要なことは、磁気研磨流体を配した側ではない面に、被研磨物と接触することなく、磁極を配することである。このように磁極を配することにより、増粘した磁気研磨流体が被研磨物に密着し、研磨粒子が被研磨物の移動と共に被研磨物表面を研磨することができるため、規則的な加工面を得ることができるものである。
【0029】
図1において、上記被研磨物2の移動は、研磨粒子による被研磨物表面の研磨が可能であれば特に限定されないが、例えば、振動付与源4を用いて、周波数0.1〜100Hzで矢印方向に振動させることが好ましい。これにより、研磨粒子が被研磨物の移動と共に被研磨物表面を研磨することができるため、規則的な加工面を好適に得ることができる。
【0030】
本発明の研磨方法は、被研磨物の形状を限定するものではない。例えば、上記被研磨物が円筒の場合、図2に示したように、被研磨物(円筒)2の内径面に磁気研磨流体1を配し、外径面に所定距離外方に離れて磁極3を配し、上記磁極3に磁界を発生させることにより上記磁気研磨流体1を増粘させて、上記被研磨物2を軸心回りに回転させることにより、本発明の目的を達成することができる。このような研磨方法も本発明の一つである。
【0031】
上記被研磨物(円筒)2の形状は、円筒状であれば特に限定されず、任意の円筒状の基材に対して適用することができる。図2に示した方法において、被研磨物(円筒)2の材質、被研磨物(円筒)2の外径面と磁極3との距離、磁気研磨流体1は、図1の説明と同様である。
【0032】
図2において、磁極3の配置は、特に限定されないが、被研磨物(円筒)2の外径面に外方に離れて4等分箇所に配置することが好ましい。これにより、研磨効率を向上させることができる。磁極3は、例えば、図2で示したように、磁極ホルダー6により配置させることができる。磁極ホルダー6は、磁極3を固定することができるものであれば特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。
【0033】
図2において、チャック5は、連結した被研磨物(円筒)2を矢印で示した方向に回転させるものであり、このような回転をさせることができるものであれば特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。被研磨物(円筒)2の回転数は、被研磨物(円筒)2の大きさや形状、用いる磁気研磨流体1、磁極3の周波数等によって適宜設定することができ、例えば、100〜3000rpmである。
【0034】
このような研磨方法の場合、図2で示したように、磁極3を被研磨物(円筒)2の軸方向に移動させると共に微小振動させることが好ましい。これにより、被研磨物(円筒)2の内径面の全面を研磨することができるとともに、加工面を規則的に形成することができる。被研磨物(円筒)2の軸に沿う磁極3の移動は、例えば、図2で示すように磁極3に振動付与源4により微小振動を与えつつ、スプライン軸8を回転させてスライドテーブル7を移動させることにより行うことができる。ここで、図2において、磁極3の微小振動は、振動付与源4を周波数0.1〜10Hzとし、振幅±5mm程度で発生させることが好ましい。これにより、磁気粒子がクラスター化して増粘した中に分布した研磨粒子が磁極3の微小振動しながらの移動により被研磨物(円筒)2の内径面を研磨するので、規則的な加工面を好適に得ることができる。
【0035】
図2において、振動付与源4は、図1の説明と同様のものを用いることができる。また、スライドテーブル7、スプライン軸8は、磁極3を被研磨物(円筒)2に沿って移動させることが可能であれば、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
【0036】
また、被研磨物が円盤である場合、図3に示したように上面に磁気研磨流体1を配し、下面側に離れて磁極3を配し、上記磁極3に磁界を発生させることにより上記磁気研磨流体1を増粘させて、上記被研磨物2を水平回転させることにより、本発明の目的を達成することができる。このような研磨方法も本発明の一つである。上面とは、被研磨物(円盤)を水平方向に配置した場合の上側の表面であり、下面とは、被研磨物(円盤)を水平方向に配置した場合の下側の表面である。
【0037】
ここで、被研磨物(円盤)2の材質、被研磨物(円盤)2の下面と磁極3との距離、磁気研磨流体1は、図1の説明と同様である。
上記被研磨物(円盤)の水平回転における回転数は、100〜3000rpmであることが好ましい。これにより、研磨粒子が被研磨物(円盤)の表面を好適に研磨することができるため、規則的な加工面を好適に得ることができる。
【0038】
本発明の研磨方法により得られる研磨体も本発明の一つである。上記研磨体は、上記研磨方法により得られるものであるため、規則的な加工面を有するものである。上記規則的な加工面とは、例えば、畳表状、ストライプ状等の状態を意味する。本発明の研磨体はこのような表面状態を有するため、平滑なだけの研磨体と異なり、光学的、電磁的に変化をもたらすことができ、回折格子等の用途に好適に用いることができるものである。
【0039】
更に、上記研磨体は、研磨面の最大高さ(Ry)で表した表面粗さが1μm以下であることが好ましい。上記最大高さ(Ry)は、表面粗さ計を用いて測定される値である。
【0040】
更に、上記研磨体は、断面視で深さが0.05〜1μmの溝を有することが好ましい。このような研磨体は、概的には平滑であるため、光の散乱を抑えることができる。また、上記研磨体に形成された溝は、間隔が0.1〜5μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、磁性粒子、研磨粒子及び媒体を含有する磁気研磨流体を用いて、特定の方法により研磨仕上げを行なうことにより、平滑でかつ規則的な加工面模様を有する研磨体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
実施例1
下記の表1に示す配合に従い、磁気研磨流体を調製した。単位は質量部である。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に記載の各材料はそれぞれ以下のとおりである。
1)BASF社製 粒径5μm
2)チタン工業社製 0.3μm
3)大同特殊鋼社製 70μm
4)フジミインコーポレッド社製 粒径0.6μm
5)フジミインコーポレッド社製 粒径5.5μm
6)ポリビス0N 日本油脂製
7)日本ユニカー社製 10cSt
8)日本ユニカー社製 1000mm/s
【0046】
上記材料を予備混合したものを内径90mm、容量450ccのポットに100cc投入し、更に1/4インチスチールボール1000gを入れボールミル回転台で100rpm×24時間回転させ、磁気粘性流体を作製した。
【0047】
研磨方法
図2に示した研磨装置を用い、材質SUS304で外径20mm、内径18mmのパイプに磁気研磨流体を入れ、管の外径外側の間4等分箇所に磁極(永久磁石)を配置し、磁界をかけた状態でパイプを1800rpmで回転して、パイプ内面を磁気研磨流体で研磨した。磁極(永久磁石)の磁束密度は4000Gとし、振幅±5mm、周波数0.8Hz、時間15minの条件で加工を行った。また、研磨スタート時の温度は22℃とした。
【0048】
得られた研磨体について以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(1)外観
研磨処理後の被基材の表面状態を顕微鏡観察した。
(2)表面粗さ
研磨処理後の被基材の表面粗さ(Ry)を、表面粗さ計を用いて測定した。
【0049】
実施例2及び4
図1に示した研磨装置を用い、材質SUS304の平板(厚さ:10mm)の上部に表1に示した組成を有する磁気研磨流体を配し、基材の下面に磁極(永久磁石)を配置し、磁界をかけた状態で基材を振動させ研磨を行った。磁極(永久磁石)の磁束密度は4000Gとし、振幅±2mm、周波数100Hz、時間15minの条件で加工を行った。また、研磨スタート時の温度は22℃とした。
得られた研磨体について実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
実施例3
図3に示した研磨装置を用い、材質ガラス(径100mm、厚さ10mm)の円盤上部に表1に示した組成を有する磁気研磨流体を配し、基材の下面に磁極(永久磁石)を配置し、磁界をかけた状態で基材を振動させ研磨を行った。磁極(永久磁石)の磁束密度は4000Gとし、回転数400rpm、時間15minの条件で加工を行った。
得られた研磨体について実施例1と同様に評価を行った。
【0051】
実施例5
表1に示した組成を有する磁気研磨流体を用いて、磁極をスライドさせなかったこと以外は実施例1と同様にして研磨を行い、得られた研磨体の評価を行った。
【0052】
比較例1及び2
図4で示したように、表1に示した組成を有する磁気研磨流体を磁極側に配したこと以外は、実施例1と同様にして研磨を行い、得られた研磨体の評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
比較例3
磁気研磨流体の組成を表1に示したように流動性をなくした湿った粉体状に変更したこと以外は、実施例1と同様にして研磨を行い、得られた研磨体の評価を行なった。
【0054】
表1より、実施例で得られた研磨体表面は、最大表面粗さが1μm以下の平滑な面でありながら、畳表状の規則的な表面模様を有することが示された。なお、実施例1及び比較例3で得られた研磨体の電子顕微鏡写真を図5及び図6にそれぞれ示した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、上述の構成よりなるので、被研磨物の表面形状に沿った研磨ができ、しかも表面平滑性と規則的な加工面模様を形成することができる研磨方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の研磨方法を行う研磨装置の一例を示す図である。
【図2】本発明の研磨方法を行う研磨装置の一例を示す図である。
【図3】本発明の研磨方法を行う研磨装置の一例を示す図である。
【図4】比較例1における評価に使用した研磨装置の概要を示す図である。
【図5】実施例1で得られた研磨体の加工面(畳状構造)の電子顕微鏡写真。
【図6】比較例3で得られた研磨体の加工面の電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0057】
1 磁気研磨流体
2 被研磨物(SUSパイプ)
3 磁極
4 振動付与源
5 チャック
6 磁極ホルダー
7 スライドテーブル
8 スプライン軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子、研磨粒子及び媒体を含有する磁気研磨流体を用いる研磨方法であって、
研磨対象となる被研磨物の一方の面に前記磁気研磨流体を配し、他方の面に外方に離れて磁極を配し、
前記磁極に磁界を発生させることにより前記磁気研磨流体を増粘させると共に、前記被研磨物を移動させることを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
被研磨物が円筒であり、内径面に磁気研磨流体を配し、外径面に外方に離れて磁極を配し、
前記被研磨物を軸心回りに回転させると共に前記磁極を微小振動させることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
被研磨物が円盤であり、上面に磁気研磨流体を配し、下面側に離れて磁極を配し、
前記被研磨物を水平回転させると共に前記磁極を微小振動させることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項4】
磁性粒子は、平均粒径が1〜10μmであり、
研磨粒子の平均粒径と磁性粒子の平均粒径との比が、0.01≦研磨粒子の平均粒径/磁性粒子の平均粒径<1であり、
媒体は、シリコーンオイルである磁気研磨流体を用いることを特徴とする請求項1、2又は3記載の研磨方法。
【請求項5】
磁性粒子が、エポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤によって処理されていることを特徴とする請求項4記載の研磨方法。
【請求項6】
磁気研磨流体が、ポリジメチルシロキサンを主鎖としその側鎖又は末端にアミノ基を含有するアミノ変性シリコーンオイルを添加剤として含有することを特徴とする請求項4記載の研磨方法。
【請求項7】
アミノ変性シリコーンオイルは、ポリジメチルシロキサンを主鎖としその側鎖にアミノ基を含有するものであることを特徴とする請求項6記載の研磨方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7のいずれかに記載の研磨方法により研磨されたことを特徴とする研磨体。
【請求項9】
研磨面の最大高さ(Ry)で表した表面粗さが1μm以下であり、断面視で間隔が0.1〜5μmで、深さが0.05〜1μmの溝を有することを特徴とする請求項8記載の研磨体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−116652(P2006−116652A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306815(P2004−306815)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】