研磨材
【課題】研磨材の表面に設けた凹凸が繰返周期性を有するが故に発生する被研磨面の筋状の微凹凸が、生じない研磨材を提供する。
【解決手段】本体部1の一面に有する網状凹凸部2が凸条部3と、この凸条部で周囲を囲繞される凹陥部4からなる。凸条部の平面視形状である凸条パターン3Pを、凹陥部に対応する多数の開口領域Aを画成し、二つの分岐点Bの間を延びて開口領域を画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、開口領域が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンとする。開口領域の形状は、五角形、六角形及び七角形のうち2種以上を含んでいるのが好ましい。本体部を支持体を積層した2層構成でもよい。
【解決手段】本体部1の一面に有する網状凹凸部2が凸条部3と、この凸条部で周囲を囲繞される凹陥部4からなる。凸条部の平面視形状である凸条パターン3Pを、凹陥部に対応する多数の開口領域Aを画成し、二つの分岐点Bの間を延びて開口領域を画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、開口領域が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンとする。開口領域の形状は、五角形、六角形及び七角形のうち2種以上を含んでいるのが好ましい。本体部を支持体を積層した2層構成でもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、機械部品、光学部品などの各種物品の表面を研磨する研磨材に関する。
【背景技術】
【0002】
研磨材で被研磨体の表面を研磨する際に、研磨で生じた研磨屑によって傷が発生するのを防ぐために、研磨材の表面に、研磨屑を収納したり更には排出したりする溝や窪みを設けることが知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
図16の斜視図で示す研磨材20は、研磨面が縦横に配列した多数の溝21を有する網状凹凸部22となっている。また、図16とは凹凸が逆に溝21が凸条となり、この凸条以外の部分が窪んだ凹陥部となった網状凹凸部22を有する研磨材も知られている。
これらの網状凹凸部22が呈する凹凸パターン22Pは、図17(A)の様に図16で例示した正方格子の他、図17(B)の長方格子、図17(C)の六角格子など、いずれも特定の方向に繰返周期を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平8−362号公報
【特許文献2】特許第2980682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような網状凹凸部22を有する従来の研磨材20は、研磨に関与する凸部と研磨に関与しない凹部とを有するので、研磨性能は均一ではない。この研磨性能の不均一さのパターンが前記凹凸パターン22Pでもある。しかも、凹凸パターン22Pは、特定の方向に繰返周期を有するパターンであるが故に、研磨性能も周期性乃至は方向性を有する。
このため、被研磨体の被研磨面に、筋状の微凹凸を生じ易いという問題があった。
【0006】
すなわち、本発明の課題は、研磨材の表面に設けた凹凸が繰返周期性を有するが故に発生する被研磨面の筋状の微凹凸が、生じない研磨材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明では、次の様な構成の研磨材とした。
(1)本体部の少なくとも一面に網状凹凸部を有し、この網状凹凸部は凸条部と、この凸条部で周囲を囲繞される凹陥部とからなり、
前記凸条部を前記一面の法線方向から見たときの平面視形状である凸条パターンが、
前記凹陥部に対応する多数の開口領域を画成し、二つの分岐点の間を延びて前記開口領域を画成する多数の境界線分から形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口領域が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである、研磨材。
(2)上記開口領域の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含む、上記(1)の研磨材。
(3)上記本体部の網状凹凸部ではない面に、支持体が積層されている、上記(1)または(2)の研磨材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研磨材によれば、網状凹凸部の凸条部が呈する凸条パターンが、周期性がない特定のパターンであるために、凸条パターンが周期的パターンであるが故に被研磨面に発生する筋状の微凹凸を、防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による研磨材の一実施形態を説明する斜視図。
【図2】本発明による研磨材の別の実施形態を例示する断面図。
【図3】凸条パターンの一例を示す平面図。
【図4】凸条パターンに繰返周期が存在しないことを説明する平面図。
【図5】凸条パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図6】凸条パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図7】凸条パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図8】決定された母点群の分散の程度を絶対座標系と相対座標系で説明する図。
【図9】決定された母点からボロノイ図を作成して凸条パターンを決定する方法を示す図。
【図10】凹陥部の断面形状を例示する断面図。
【図11】研磨材の平面形状(A1)〜(A2)と、断面形状(B1)〜(B4)の各種例を示す図面。
【図12】網状凹凸部の形状を作製する方法の一例を示す説明図。
【図13】型面に於ける凹条形状と網状凹凸面に於ける凸条部の形状を示す断面図。
【図14】研磨剤粒子含有の本体部と支持体からなる研磨材の実施形態例を示す断面図。
【図15】凸条パターンが研磨材の寸法の1/3以上の大きさの単位パターン領域として繰り返された一例を示す平面図。
【図16】網状凹凸部を有する従来の研磨材の一例を示す斜視図。
【図17】従来の網状凹凸部の凹凸パターンを例示する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面は概念図であり、説明上の都合に応じて適宜、構成要素の縮尺関係、縦横比等は誇張されていることがある。
【0011】
先ず、本発明による研磨材を、図1の斜視図で示す一実施形態例を参照して説明する。
図1で例示する本発明の研磨材10は、本体部1の少なくとも一面に網状凹凸部2を有し、この網状凹凸部2は凸条部3と、この凸条部3で周囲を囲繞される凹陥部4とからなる。同図に示す本実施形態においては、本体部1の一面は、シート状乃至は平板状の本体部1の図面上方の面であり、網状凹凸部2の面となっている。
【0012】
前記凸条部3を前記一面の法線nの方向から見たときの平面視形状である凸条パターン3Pが、本発明に特有の非周期的なパターンとなっている。なお、前記一面に対する法線nは、網状凹凸部2の面の包絡面に対する法線nでもある。
この凸条パターン3Pは、凹陥部4に対応する多数の開口領域Aを画成し、二つの分岐点Bの間を延びて前記開口領域Aを画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口領域Aが一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである。
【0013】
このため、本実施形態では、上記凸条パターン3Pを呈する上記凸条部3が、従来のような周期的パターンでないために、凸条パターンが周期的パターンであるが故に被研磨面に従来発生していた筋状の微凹凸を、防ぐことができる。
【0014】
図2は、本発明の研磨材10の変形例を示す。本発明においては、図2の断面図で示す研磨材10の様に、本体部1と、本体部1の網状凹凸部2を有する一面以外の面(同図の実施形態では網状凹凸部2の面とは反対側の面)に積層された支持体5と、からなる構成でもよい。支持体5によって、本体部1は専ら研磨特性を主体に設計し、支持体5は専ら研磨材10の全体としての機械的強度、外形形状などを主体に設計することができる。
【0015】
以下、本発明に特徴的な凸条パターン3Pを有する凸条部3について先ず詳細に説明し、その後で、各構成要素の材料、形成法などについて説明する。
【0016】
〔凸条部〕
凸条部3は。研磨材10の研磨面でもある網目状凹凸部2のうちの凸部であり、被研磨体の被研磨面を積極的に研磨する部分となっている。網状凹凸部2の凸条部3以外の部分が、凹陥部4である。
【0017】
[凸条パターンとこれにより画成される開口領域]
凸条パターン3Pは、凸条部3を、凸条部3を有する網目状凹凸部2の面の包絡面(網状凹凸部2を有する、本体部1の一面でもある)に対する法線nに平行な方向から観察した場合における平面視形状である。以下、この凸条パターン3Pについて、図3および図9を主として参照しながら説明する。
【0018】
凸条パターン3Pは、図3に示す如く、二つの分岐点Bの間を延びて開口領域Aを画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが、3.0≦N<4.0、つまり、3.0以上で4.0未満であり、且つ、前記境界線分Lで画成された前記開口領域Aに繰返周期を持つ方向が存在しない領域を含んでなるパターンとなっている。
なお、凸条パターン3Pは、開口領域Aが繰返周期を持つ方向が存在しない配列となって、凸条パターン3Pが周期的パターンであるが故に被研磨面に発生する筋状の微凹凸を防ぐ効果が十分に発現される為には、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口領域Aの面積及び形状は一定でないようなパターンとすると良い。好ましくは、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口領域Aの50%以上が互いにその面積及び形状が異なるようにする。より好ましくは、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口領域Aを凸条パターン3Pの全域に亙って、全て互いにその面積及び形状が異なるようにする。これは、言い換えると、凸条パターン3Pに含まれる開口領域Aのうち、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一となる開口領域Aの形状及び面積がすべて同一ではなく、少なくとも一部は他と異なるものになると言うことを意味する。なお、ここで周囲を囲繞する境界線分Lの数とは、開口領域Aが多角形である場合は、その多角形の角数(或いは辺数)と一致する。また、以上に於いて、2つの開口領域A同士が互いに合同な図形であって且つその向きが異なる場合も、これらの2つの開口領域Aの形状は互いに異なると見做す。
【0019】
図3および図9に示すように、凸条パターン3Pのライン部Ltは、多数の分岐点Bを含んでいる。凸条パターン3Pのライン部Ltは、両端において分岐点Bを形成する多数の境界線分Lから構成されている。すなわち、凸条パターン3Pのライン部Ltは、二つの分岐点Bの間を延びる多数の境界線分Lから構成されている。そして、分岐点Bにおいて、境界線分Lが接続されていくことにより、開口領域Aが画成されている。言葉を換えて言うと、境界線分Lで囲繞され、区画されて1つの閉領域としての開口領域Aが画成されている。
【0020】
なお、図3および図9に示すように、ライン部Ltが境界線分Lのみから構成されているため、開口領域Aの内部に延び入って行き止まりとなるライン部Ltは存在しない。このような態様によれば、凸条部3による研磨作用と、凹陥部4の研磨屑の収納作用を付与することを効果的に実現することできる。
【0021】
一方、被研磨面に筋状の微凹凸の発生を防止するため、本実施形態による研磨材10の網状凹凸部(研磨面)2が有する凸条パターン3Pでは、その全領域が、開口領域Aが繰返周期を有する方向が存在しないようになっている。筋状の微凹凸を確実に解消する為には、凸条パターン3Pの全領域がこのような領域のみから構成されていることが好ましい。本実施形態はこの様な構成からなる。本件発明者らは、鋭意研究を重ねた結果として、単に凸条パターン3Pのパターンを不規則化するのではなく、凸条パターン3Pで画成される凹陥部4に対応する開口領域Aが一定の規則性を持った繰返周期で並べられた方向が存在しないように凸条パターン3Pのパターンを画成することにより、従来の周期性を有する凹凸パターン22を持つ研磨材20で生じる筋状の微凹凸を、極めて効果的に目立たなくさせることが出来ると判明した。
【0022】
[繰返周期の不存在]
図4は、凸条パターン3Pで画成される多数の開口領域Aが、一定の周期で配置されている領域が存在せず、繰返周期が存在しないことを説明する、網状凹凸部2の包絡面に平行な面に於ける平面図である。この面内において、同図では、任意の位置で任意の方向を向く一本の仮想的な直線diが選ばれている。
この一本の直線diが、ライン部Ltの境界線分Lと交差し交差点が形成される。この交差点を、図面では図面左下から順に、交差点c1,c2,c3,・・・・・,c9として図示してある。隣接する交差点、例えば、交差点c1と交差点c2との距離が、前記或る一つの開口領域Aの直線di上での寸法t1である。次に、寸法t1の開口領域Aに対して直線di上で隣接する別の開口領域Aについても、同様に、直線di上での寸法t2が定まる。そして、任意位置で任意方向の直線diについて、直線diと交差する境界線分Lとから、任意位置で任意方向の直線diと遭遇する多数の開口領域Aについて、該直線di上における寸法として、t1,t2,t3,・・・・・・,t8が定まる。そして、t1,t2,t3,・・・・・・,t8の数値の並びには、周期性が存在しない。
図4では、このt1,t2,t3,・・・・・・,t8は、判り易い様に図面下方に、直線diと共に凸条パターン3Pとは分離して描いてある。
【0023】
この直線diを図4で図示のものから任意の位置で任意の角度回転させて別の方向について各開口領域Aの寸法t1,t2,・・を求めると、やはり図4の場合と同様、直線di方向に対して繰返し周期性は見られない。
すなわち、このt1,t2,t3,・・・・・・,t8の数値の並びの様に、境界線分Lで画成された開口領域Aには繰返周期を持つ方向が存在しない。
言い換えると、開口領域Aの配置において、任意位置を通る任意方向の仮想的線分di上での開口領域Aの寸法tiの並びの数列が非周期関数となる。すなわち、t(i)=t(i+M)となるMが存在しない(i,Mはそれぞれ独立な正の整数)。
このように、開口領域Aが繰返周期を持つ方向が存在しないことを、開口領域Aが一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない、と表現する。
【0024】
さらに、本実施形態による研磨材10の網状凹凸部2の凸条部3が有する凸条パターン3Pでは、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっている。このように一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっている場合、凸条パターン3Pの配列パターンを、図17(A)に示された正方格子パターン(N=4.0)から大きく異なるパターンとすることができる。また、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0<N<4.0となっている場合には、図17(C)に示されたハニカム配列(N=3.0)からも大きく異なるパターンとすることができる。そして、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nを3.0≦N<4.0とした上で、開口領域Aの配列を不規則化して、区画領域Aが繰返周期を持って並べられた方向が安定して存在しないようにすることが可能となる。また、この様な開口領域Aに対応した凹陥部4とすることができる。その結果、凹陥部4内に収納された研磨屑によって、従来生じていた被研磨面の筋状の微凹凸を極めて効果的に目立たなくさせることが可能となることが、確認された。
【0025】
なお、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nは、厳密には、凸条パターン3P内に含まれる全ての分岐点Bについて、延び出す境界線分Lの数を調べてその平均値を算出することになる。ただし、実際的には、ライン部Ltによって画成された一つ当たりの開口領域Aの大きさ等を考慮した上で、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の全体的な傾向を反映し得ると期待される面積を持つ一区画(例えば、後述の寸法例で開口領域Aが形成されている凸条パターン3Pにおいては、10mm×10mmの部分)に含まれる分岐点Bについて延び出す境界線分Lの数を調べてその平均値を算出し、算出された値を当該凸条パターン3Pについての一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nとして取り扱うようにしてもよい。
【0026】
実際に、図3に示された凸条部3に於ける、凸条パターン3Pでは、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0<N<4.0となっている。一例を挙げると、図3の凸条パターン3Pの場合、合計387個の分岐点Bについて計測したところ、境界線分Lが3本の分岐点Bが373個、境界線分Lが4本の分岐点Bが14個であり(分岐する境界線分Lの数が5個以上の分岐点は0個)、分岐点Bから出る境界線分Lの平均本数(平均分岐数)は3.04個であった。
【0027】
[凸条パターンのパターン形状の作成方法]
ここで、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0であり且つ開口領域Aが一定の規則性を持った繰返周期で並べられた方向が存在しない凸条パターン3Pのパターンを作製する方法の一例を以下に説明する。
【0028】
ここで説明する方法は、母点を決定する工程と、決定された母点からボロノイ図を作成する工程と、ボロノイ図における一つのボロノイ境界によって結ばれる二つのボロノイ点の間を延びる境界線分Lの経路を決定する工程と、決定された経路の太さを決定して各境界線分Lを画定して凸条パターン3P(ライン部Lt)のパターンを決定する工程と、を有している。以下、各工程について順に説明していく。なお、上述した図3に示されたパターンは、実際に以下に説明する方法で決定されたパターンである。
【0029】
まず、母点を決定する工程について説明する。最初に、図5に示すように、絶対座標系O−X−Y(この座標系O−X−Yは普通の2次元平面であるが、後述の相対座標と区別する為、頭に「絶対」を付記する)の任意の位置に一つ目の母点(以下、「第1の母点」と呼ぶ)BP1を配置する。次に、図6に示すように、第1の母点BP1から距離rだけ離れた任意の位置に第2の母点BP2を配置する。言い換えると、第1の母点BP1を中心として絶対座標系XY上に位置する半径rの円の円周(以下、「第1の円周」と呼ぶ)上の任意の位置に、第2の母点BP2を配置する。次に、図7に示すように、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つ第2の母点BP2から距離r以上離れた任意の位置に、第3の母点BP3を配置する。その後、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つその他の母点BP2,BP3から距離r以上離れた任意の位置に、第4の母点を配置する。
【0030】
このようにして、次の母点を配置することができなくなるまで、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に母点を配置していく。その後、第2の母点BP2を基準にしてこの作業を続けていく。すなわち、第2の母点BP2から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に、次の母点を配置する。第2の母点BP2を基準にして、次の母点を配置することができなくなるまで、第2の母点BP2から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に母点を配置していく。その後、基準となる母点を順に変更して、同様の手順で母点を形成していく。
【0031】
以上の手順で、凸条パターン3Pが形成されるべき領域内に母点を配置することができなくなるまで、母点を配置していく。凸条パターン3Pが形成されるべき領域内に母点を配置することができなくなった際に、母点を作製する工程が終了する。ここまでの処理により、2次元平面(XY平面)に於いて不規則的に配置された母点群が、凸条パターン3Pが形成されるべき領域内に一様に分散した状態となる。
【0032】
このような工程で2次元平面(XY平面)内に分布された母点群BP1、BP2、・・、BP6(図8(A)参照)について、個々の母点間の距離は一定では無く分布を有する。但し、任意の隣接する2母点間の距離Rの分布は完全なランダム分布(一様分布)でも無く、平均値RAVGを挾んで上限値RMAXと下限値RMINとの間の範囲ΔR=RMAX−RMINの中で分布している。なお、ここで、隣接する2母点であるが、母点群BP1、BP2、・・からボロノイ図を作成した後、2つのボロノイ領域XAが隣接していた場合に、その2つのボロノイ領域XAの母点同士が隣接していると定義する。
【0033】
即ち、ここで説明した母点群について、各母点を原点とする座標系(相対座標系o−x−yと呼称し、一方、現実の2次元平面を規定する座標系を絶対座標系O−X−Yと呼称する)上に、原点に置いた母点と隣接する全母点をプロットした図8(B)、図8(C)、・・等のグラフを全母点について求める。そして、これら全部の相対座標系上の隣接母点群のグラフを、各相対座標系の原点oを重ね合わせて表示すると、図8(D)の如きグラフが得られる。この相対座標系上での隣接母点群の分布パターンは、母点群を構成する任意の隣接する2母点間の距離が0から無限大迄の一様分布では無く、原点oからの距離がRAVG−ΔRからRAVG+ΔR迄の有限の範囲(半径RMINからRMAX迄のドーナツ形領域)内に分布していることを意味する。
なお、図8(D)からわかる様に、任意の1母点から見た他の母点の方位(角度)分布は等方的(乃至は略等方的)である。このことが、これらの母点(群)から生成される凸条パターン3Pに於ける開口領域Aの方位(角度)分布が等方的(乃至は略等方的)となることに対応する。
【0034】
以上の様にして、各母点間の距離を設定することによって、該母点群から以下に説明する方法で得られるボロノイ領域XA、更には、これから得られる開口領域Aの大きさD(乃至は開口領域Aの面積)の分布についても、一様分布(完全ランダム)では無く、有限の範囲内に分布したものとなる。
【0035】
この様に構成することにより、凸条パターン3Pが周期的パターンであるが故に凸条パターン3Pによって被研磨面に発生する筋状の微凹凸が、より一層、効果的に解消する。この筋状の微凹凸を解消すると共に被研磨面における表面仕上がり(残留微凹凸)を均一化するには、開口領域Aの大きさD(開口領域Aの大きさ)の最大値をDMAX、最小値をDMINとしたときに、当該大きさDの分布範囲ΔD=DMAX−DMINが大きさDの平均値DAVGに対して、
0.1≦ΔD/DAVG≦0.6
より好ましくは、
0.2≦ΔD/DAVG≦0.4
とする。
ここで、開口領域Aの大きさDは、全ての開口領域Aについて、以下の定義とする。
(1)或る一つの開口領域Aに属する全ての分岐点B(多角形の場合は全頂点)を通る円が描ける場合は、この開口領域Aの外接円直径を以って、大きさDとする。
(2)或る一つの開口領域Aに属する全ての分岐点B(多角形の場合は全頂点)を通る円が描け無い場合は、この開口領域Aに属する2分岐点B間の距離の最大値(多角形の場合は最大の対角線長)を以って、大きさDとする。
【0036】
なお、以上の母点を決定する工程において、距離rの大きさを変化させることにより、一つあたりの開口領域Aの大きさを調節することができる。具体的には、距離rの大きさを小さくすることにより、一つあたりの開口領域Aの大きさを小さくすることができ、逆に距離rの大きさを大きくすることにより、一つあたりの開口領域Aの大きさを大きくすることができる。
【0037】
次に、図9に示すように、配置された母点を基準にして、ボロノイ図を作成する。図9に示すように、ボロノイ図とは、隣接する2つの母点BP、BP間に垂直二等分線を引き、その各二等分線同士の交点で結ばれた線分で構成される図である。ここで、二等分線の線分をボロノイ境界XBと呼び、ボロノイ境界XBの端部をなすボロノイ境界XB同士の交点をボロノイ点XPと呼び、ボロノイ境界XBに囲まれた領域をボロノイ領域XAと呼ぶ。
【0038】
図9のように作成されたボロノイ図において、各ボロノイ点XPが、凸条パターン3Pの分岐点Bをなすようにする。そして、一つのボロノイ境界XBの端部をなす二つのボロノイ点XPの間に、一つの境界線分Lを設ける。この際、境界線分Lは、図3に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定してもよいし、あるいは、他の境界線分Lと接触しない範囲で二つのボロノイ点XPの間を種々の経路(例えば、円(弧)、楕円(弧)、抛物線、双曲線、正弦曲線、双曲線正弦曲線、楕円函数曲線、ベッセル関数曲線等の曲線状、折れ線状等の経路)で延びるようにしてもよい。なお、境界線分Lは、図3に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定した場合、各ボロノイ境界XBが、境界線分Lを画成するようになる。
【0039】
各境界線分Lの経路を決定した後、各境界線分Lの線幅(太さ)を決定する。境界線分Lの線幅は、作成された凸条パターン3Pを呈する凸条部3の土手幅である。この土手幅とは、後述図13で説明するように、注目する部分において凸条部3の延在方向に直交しなお且つ網状凹凸部2の包絡面の法線nに平行な面(これを主切断面とも言う)に於ける凸条部3のうち被研磨体の被研磨面に接触する上面3tpと同一水準面に於ける幅W3である。この土手幅W3は、凸条部3の研磨性能、並びに、凹陥部4の研磨屑の収納性能のバランスなどを勘案して、決定される。
以上のようにして、凸条パターン3Pのパターン形状を決定することができる。
【0040】
このような本実施形態によれば、研磨材10の網状凹凸部2における凸条部3が有する平面視形状であり凹陥部4を画成するる凸条パターン3Pが、二つの分岐点Bの間を延びて多数の開口領域Aを画成する多数の境界線分Lから形成されており、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっており、且つ、開口領域Aが繰返周期を持つ方向が存在しないようになっている。この結果、従来の研磨材において、凸条パターンが周期的パターンであるが故に被研磨面に発生する筋状の微凹凸を、効果的に防ぐことができる。
【0041】
[凸条部の断面形状]
凸条部3の主切断面における断面形状は特に限定はない。凸条部3は、図13(B)に示すように、凸条部3のうち被研磨体の被研磨面に接触する部分が、通常、平面をなす上面3tpとなる。凸条部3の底部の幅Wbは、同図の様に台形形状の場合は、土手幅W3よりも幅が大きくなる。
凸条部3の上面3tpの部分の幅である土手幅W3は、10〜1000μm程度である。凸条部3の高さは10〜1000μm程度である。
凸条部3のうち上面3tpを除いた部分である斜面は、凹陥部4の斜面でもある。よって、次に述べる凹陥部の断面形状と凸条部の断面形状とは相補的である。
又、凸条部3の主切断面に於ける上面3tp表面とは反対側に於ける幅Wb(これを底部の幅とも言う)は、10〜2000μm程度の範囲とする。土手幅W3及び底部の幅Wbとの関係は、W3=Wb、W3<Wbの何れも可能であるが、図12の如くの成形型で賦形する製法を採用する場合の離型性、及び凹陥部4内に収納された研磨屑の排出の容易性の点からは、W3<Wbとすることが好ましい。
【0042】
〔凹陥部〕
凹陥部4は、凸条部3が被研磨体の被研磨面に接触して、研磨で生じた研磨屑に対して収納作用を担う部分である。凹陥部4は、凸条部3が呈する凸条パターン3Pで画成される開口領域Aに対応する部分である。
【0043】
[凹陥部の断面形状]
凹陥部4の主切断面における断面形状は特に限定はない。例えば、図10(A)に示す直角四角形状、図10(B)に示す底辺を凸条部3の上面3tpと同一水準とする三角形状、図10(C)に示す上底に対して寸法の大きい下底を凸条部3の上面3tpと同一水準とする台形形状、図10(D)に示す切片(弦)を凸条部3の上面3tpと同一水準とする半円状形状、などである。前記半円状の円状とは、凸条部3の上面3tpと同一水準の切片以外が、凹陥部4の内部から外側に向かって凸形状をした、円、楕円などの曲線のみからなる形状であり、放物線曲線なども含む。
【0044】
凹陥部4の幅W4は10〜1000μm程度である。凹陥部4の幅W4とは、図10(B)で示すとおり、各凹陥部4について、凸条部3の上面3tpに於ける幅(切断面に応じて値は異なる)の最大値であり、開口領域Aの大きさDに対応する。
なお、凹陥部4の深さは、凸条部3の高さに等しい。
【0045】
〔網目状凹凸部の凹凸形状の形成方法〕
網目状凹凸部2の凹凸形状の形成方法は、特に限定されない。例えば、特許文献2で開示されている様な従来公知の研磨材における凹凸形成法を、網目状凹凸部2を構成する材料に応じて適宜採用すれば良い。例えば、網目状凹凸部2を構成する材料が金属である場合には、凸条パターン3Pのフォトマスクを用いたフォトエッチング法を採用することができる。或いは、網目状凹凸部2を構成する材料が研磨剤粒子を含有する樹脂である場合には、フォトポリマー法(2P法)を採用することができる。
【0046】
〔研磨材の層構成〕
網目状凹凸部2を有する本体部1を構成する材料は、特に限定はない。従来公知の研磨材における各種材料を適宜採用することができる。
網状凹凸部2の面は、図1で示した実施形態例のように研磨材10の全体を構成する本体部1の面とすることができる。この形態では、研磨材10は単層構成(乃至は単体構成)となる。
研磨材10は、図2で示した別の実施形態例の様に、網状凹凸部2を有する本体部1が
支持体5に積層された構成とすることもできる。この形態では、研磨材10は、2層(積層)構成、或いは2体構成となる。なお、前記した図1の単層構成は、支持体5が本体部1を兼ねているとも言える。
支持体5は、本体部1それ自身では機械的強度が不足する場合、本体部1の形成を容易にする場合などの為に、設けられる。
【0047】
〔本体部の材料〕
本体部1の材料としては、例えば、炭素鋼、或いは、樹脂バインダに高硬度の研磨剤粒子を添加した複合材料を、用いることができる。
上記炭素鋼としては、例えば、炭素工具鋼、炭素工具鋼にさらに3質量%以上のクロム、必要に応じさらにタングステン、モリブデン、バナジウム等の1種以上を含む合金工具鋼を用いることができる。
上記樹脂バインダに高硬度の研磨剤粒子を添加した複合材料は、その樹脂バインダの樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などを用いることができる。
上記研磨剤粒子としては、例えば、金剛石、鋼玉、酸化鉄(Fe2O3)、酸化セリウム、酸化ケイ素(Si02)等を用いることができる。研磨剤粒子の大きさは平均粒径で0.1〜100μm程度である。
上記樹脂バインダに高硬度の研磨剤粒子を添加した複合材料中における、研磨剤粒子と樹脂バインダとの組成比は、質量比で、研磨剤粒子/樹脂バインダ=100/100〜1400/100程度である。
【0048】
(支持体の材料)
支持体5の材料としては、本体部1が炭素鋼からなる場合は、例えば、炭素鋼、軟鉄、ステンレス鋼などの鉄系合金を用いることができる。
本体部1が、樹脂バインダに高硬度の研磨剤粒子を添加した複合材料からなる場合は、例えば、研磨材10をシート状とするときで言えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂シートを用いることができる。
【0049】
〔研磨材の全体形状〕
研磨材10としての全体形状は、要求される研磨が出来る形状であれば良く特に限定はなく、平面視形状、及び断面形状は各種あり得る。
例えば、平面視形状、つまり、網状凹凸部2をその法線方向から見た形状は、図11(A1)の様な直角四角形、図11(A2)の様な円形などである。
断面形状、つまり、網状凹凸部2の法線nを含む断面に於ける形状は、図11(B1)の様な直角四角形であって長辺の一辺を網状凹凸部2とする形状、図11(B2)の様な円形の一部で円弧の部分を網状凹凸部2とする形状、図11(B3)の様な台形形状で下底に対して小さい辺の片である上底を網状凹凸部2とする形状、図11(B4)の様な円形状で円周全周を網状凹凸部2とする形状、などである。
平面視形状における寸法は、縦・横寸法乃至は直径で、例えば、10〜300mm程度とすることができる。
断面形状における寸法は、厚み乃至は直径で、例えば、5〜100mm程度とすることができる。
【0050】
〔変形形態〕
本発明の研磨材10は、上記した形態以外のその他の形態をとり得る。ここでは、その一部を説明する。
【0051】
[開口領域の形状]
開口領域Aの形状は、少なくとも五角形と六角形とを含むことが好ましい。開口領域Aに少なくとも五角形と六角形とを含むことによって、被研磨面に発生する筋状の微凹凸を目立たなくさせることが出来ると共に、凸条パターン3Pの粗密をより均一化させることにより筋状の微凹凸の解消効果を被研磨面においてより均一化させることができる。更に好ましくは、開口領域Aの形状が五角形、六角形、及び七角形を含む様にする。
例えば、図4の平面視パターン2Pについて、合計4631個の開口領域A(多角形)について計測したところ、
3角形 0個
4角形 79個
5角形 1141個
6角形 2382個
7角形 927個
8角形 94個
9角形 8個
10角形以上 0個
であった。
なお、この凸条パターン3Pについて、分岐点Bから出る境界線分Lの平均本数を計測したところ3.07であった。
【0052】
[単位パターン領域としての繰返し]
上述した実施形態では、研磨材10中の凸条部3を有する網状凹凸部2の全領域において、凸条部3の凸条パターン3Pによって画成される開口領域Aが繰返周期を持つ方向が存在しないようになっている例を説明した。しかしながら、図15の様に、その内部に於いて凸条部3が有する凸条パターン3Pの全領域が、単位パターン領域Sを複数集合して凸条パターン3Pの全領域が構成されるようにして、且つ各単位パターン領域S内に於いては、複数の開口領域Aが、所定の繰返周期のないパターンで配列されている領域からなるようにしてもよい。
すなわち、この形態に於いては、凸条パターン3Pの全領域中に、局所的に見たときに、同一パターンで開口領域群が配列されてなる単位パターン領域Sを2箇所以上含むようになる。この場合、特定方向について、一定周期で4箇所以上の繰返しが無ければ、単位パターン領域S同士の繋ぎ目は実質上目立ち難く、この繋ぎ目に起因する研磨傷や研磨面の外観ムラ等への影響は無視し得る。この例において、一つの単位パターン領域S内における凸条パターン3Pのパターンは、例えば、図5〜図9を参照しながら説明したパターン作成方法と同様にして作成することができる。
【0053】
特に、網状凹凸部2が大面積となる研磨材10に対しては、凸条部3が有する凸条パターン3Pが、複数の単位パターン領域Sの配列から構成されていて、且つ各々の単位パターン領域S内に於いては互いに同一のパターンで開口領域Aが配列されている構成とした複数の単位パターン領域Sを含む形態とした方が、凸条パターン3Pのパターン作成を格段に容易化することが可能となる点において好ましい。
【0054】
なお、特に一種類の単位パターン領域Sを図15に示す様に縦横に複数配置する例においては、特定方向(図面縦方向と横方向の2方向)で単位パターン領域Sとしての繰返しが存在する。図15の実施形態に於いては、横方向に繰返周期SP2、縦方向に繰返周期SP1を以って単位パターン領域Sが繰り返される。この条件下では、特定方向に於ける単位パターン領域Sの寸法をLsとし、該特定方向に延びる任意の直線dj上において単位パターン領域Sが寸法Ls内に開口領域AをM個有するとき、直線dj上の或る開口領域Aに注目すると、直線dj上では開口領域Aの個数がM個分だけ離れた位置には、全く同じ寸法tj及び形状の開口領域Aが常に存在するという規則性を有する。すなわち、開口領域Aの直線dj上での寸法tjについて、直線dj上で順番に数えてk番目の寸法tj(k)と、そこから更にM番目の(k+M)番目の寸法tj(k+M)とが同じとなる、tj(k)=tj(k+M)の関係が成立する(k,Mはそれぞれ独立な正の整数)。
【0055】
しかし、この規則性は、単位パターン領域Sとしての繰返周期(前記で言えば寸法Lsがその繰返周期に該当する)に基づくものであり、開口領域Aとしての繰返周期ではなく、各単位パターン領域S内に於いて開口領域Aが繰返周期を上記特定方向に持つことではない。
【0056】
図15に示された例では、研磨材10の網状凹凸部2が、同一の形状を有した六つの単位パターン領域Sに分割され、各単位パターン領域S内で、網状凹凸部2に存在する凸条部3が有する凸条パターン3Pが同一に構成されている。そして、六つの単位パターン領域Sは、図15の縦方向(図の上下方向)に繰返周期SP1で三つの領域が並ぶとともに、図15の横方向に繰返周期SP2で二つの領域が並ぶように配列されている。
【0057】
〔用途〕
本発明による研磨材10は、研磨テープ、金属やすり(鑢)などとして、各種物品の研磨に用いることができる。例えば、金属、樹脂、ガラス、セラミックス、木材などの材料からなる各種物品の表面の研磨用途が挙げられる。また、前記のような各種物品の切削用途に用いてもよい。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の研磨剤10の代表的実施形態として、研磨テープと金属やすり(鑢)について更に具体的に説明する。
【0059】
[実施例1]
研磨剤10として研磨テープを次の様にして作製した。
凸条パターン3Pとしては、図5〜図9を参照して説明した前記[凸条パターンのパターン形状の作成方法]に準拠して作製した図3と同様のパターンを作成する。
支持体5には、連続帯状(ウェブ状)で厚み38μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
本体部1を形成する本体部形成用材料としては、平均粒子径10μmの白色溶融アルミナ600質量部をポリエステルアクリレート系プレポリマー100質量部に配合した電離放射線硬化性樹脂組成物からなる塗工液を用いた。
【0060】
前記支持体5の片面に、上記塗工液を用いた以下の方法によって、厚み150μm(乾燥、硬化時の厚み)で、上記凸条パターン3Pを呈する凸条部3と凹陥部4とからなる網状凹凸部2を有する本体部1を形成して、研磨テープとして研磨材10が作製した。
【0061】
本体部1とその網状凹凸部2の所定パターンの凸条部3の形成は、図12に示す様な、円筒状の円筒成形型Mを用いる製造形態でフォトポリマー法により行う。
円筒成形型Mの型面には、図13(A)に示すような凹条3rを形成してある。この凹条3rは、図13(B)のような、これから形成する所定の凸条部3の凹状形状とは逆凹凸形状となっている。この凹条3rは、前記した凸条パターン3Pを用いて作製される。
円筒成形型Mは炭素鋼の中空円筒からなる鉄芯の表面にメッキにより銅層を被覆し、該銅層表面にフォトエッチング法により凸条パターン3Pを形成してなる。
【0062】
このような円筒成形型Mに対して、図12に示すように、先ず、前記フィルムからなる連続帯状(ウェブ状)の支持体5を巻取(図示せず)から繰り出して、本体部1を形成する為の前記塗工液を塗工する。塗工は、塗工ローラ31及び圧胴32などからなる塗工部33で、塗工液34を連続フィルム状の支持体5の片面に塗布する。次いで、塗工液34が希釈溶剤を含む場合は連続フィルム状の支持体5を乾燥装置35に通して、温風吹き付け等により希釈溶剤を蒸発させた後、押圧ローラ36により、支持体5の塗布面を、回転している円筒成形型Mに押圧し接触させ、塗布された塗工液34の一部を型面の凹部内部に充填させる。次に、円周方向に2機設置した電離放射線照射装置37a、37bにより電離放射線として紫外線を、回転している円筒成形型M上で塗工液34に順次照射して、塗布された塗工液34を硬化させると共に支持体5に密着積層した本体部1とする。次いで、剥離ローラ38で円筒成形型Mから、本体部1とこれに密着積層した支持体5とを一体として剥離することで、支持体5と本体部1との2層構成で、本体部1の表面に所定パターンの凸条部3及び凹陥部4を有する網状凹凸部2がが成形された、シート状の研磨材10が作製される。
【0063】
こうして、図3に示す凸条パターン3Pを有する凸条部3が、型面上で図13(A)に示す断面が台形形状の凹条3rから、本体部1に図13(B)に示す断面が台形形状の凸条部3が形成される。
【0064】
凸条部3の寸法は、凸条パターン3Pにおいて、境界線分Lの幅は、型面上において凹条3rの(底部の)幅であり本体部1に於いて凸条部3の幅W3に該当する。この凸条部3の幅W3は、上面3tpでの土手幅W3が80μm、凸条部3の底部側の幅Wbが100μmである。
凹陥部4の寸法は、凸条パターン3Pにおいて、各開口領域A内に於ける2分岐点B間の最大距離として定義される開口領域Aの大きさDの平均値DAVGは500μmである。開口領域Aは型面上に於いては凸部であり本体部1に於いて凹陥部4に該当する。
型面上において凹条3rの深さVは、本体部1において凸条部3の高さHであり、この深さVは130μmである。
【0065】
以上の様にして、図14の如き、支持体5上に、研磨剤粒子6を含有する本体部1が形成さたれ、研磨テープとしての研磨材10を作製した。
【0066】
[実施例2]
研磨剤10として金属やすり(鑢)を次の様にして作製した。
前記研磨テープの場合と同様にして、凸条パターン3Pを生成する。次に、この凸条パターン3Pを,銀塩感光性乳剤層を有する銀塩フィルムに露光し現像して、凸条パターン3Pのフォトマスク(原版)を作成する。
本体部1としては、厚さ3mm(3000μm)、縦150mm、横15mmの直方体形状の炭素工具鋼を用いる。
【0067】
上記フォトマスクを用いて、本体部1の表面に形成しておいたフォトレジスト塗膜に、凸条パターン3Pを露光し、現像した後、塩化第2鉄水溶液を用いてレジスト非形成部をエッチングして、凸条部3及び凹陥部4を有する網状凹凸部2を形成する。
【0068】
寸法は、境界線分Lの幅は400μm、開口領域Aの大きさDの平均値DAVGは2000μmで、最終的に形成される凸条部3の土手幅W3は350μm、底部の幅Wbは400μm、凹陥部4の幅W4は2000μmである。凸条部3の高さHは500μmである。
【0069】
以上の様にして、本体部1の表面が網状凹凸部2となった金属やすり(鑢)としての研磨材10がを作製した。
【0070】
[比較例1]
実施例1に於いて、凸条パターン3Pとして、開口領域Aの大きさDの平均DAVGに相当する対角線長さが500μmの正方形からなる正方格子とした研磨テープとした以外は、実施例1と同様した図16の様な研磨材20を作製した。
【0071】
[比較例2]
実施例2に於いて、凸条パターン3Pとして、開口領域Aの大きさDの平均DAVGに相当する対角線長さが2000μmの正方形からなる正方格子とした金属やすり(鑢)とした以外は、実施例2と同様した図16の様な研磨材20を作製した。
【0072】
[比較評価]
実施例1と比較例1の研磨テープ、実施例2と比較例2の金属やすり(鑢)とを、次の様にして比較評価した。
被研磨体として、ステンレス鋼板(厚さ3mm)を用意し、このステンレス鋼板の表面に、研磨材の研磨面を当てて、一方向に向かって3往復擦って研磨した後、被研磨面を目視観察して評価した。
その結果、被研磨面の筋状の微凹凸は、実施例1は比較例1に比べて少なく、実施例2は比較例2に比べて少なかった。
【符号の説明】
【0073】
1 本体部
2 網状凹凸部
3 凸条部
3P 凸条パターン
4 凹陥部
5 支持体
6 研磨剤粒子
10 研磨材
20 従来の研磨材
21 溝
22 網状凹凸部
A 開口領域
B 分岐点
BP 母点
L 境界線分
Lt ライン部(境界線分の集合)
M 円筒成形型
S 単位パターン領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、機械部品、光学部品などの各種物品の表面を研磨する研磨材に関する。
【背景技術】
【0002】
研磨材で被研磨体の表面を研磨する際に、研磨で生じた研磨屑によって傷が発生するのを防ぐために、研磨材の表面に、研磨屑を収納したり更には排出したりする溝や窪みを設けることが知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
図16の斜視図で示す研磨材20は、研磨面が縦横に配列した多数の溝21を有する網状凹凸部22となっている。また、図16とは凹凸が逆に溝21が凸条となり、この凸条以外の部分が窪んだ凹陥部となった網状凹凸部22を有する研磨材も知られている。
これらの網状凹凸部22が呈する凹凸パターン22Pは、図17(A)の様に図16で例示した正方格子の他、図17(B)の長方格子、図17(C)の六角格子など、いずれも特定の方向に繰返周期を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平8−362号公報
【特許文献2】特許第2980682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような網状凹凸部22を有する従来の研磨材20は、研磨に関与する凸部と研磨に関与しない凹部とを有するので、研磨性能は均一ではない。この研磨性能の不均一さのパターンが前記凹凸パターン22Pでもある。しかも、凹凸パターン22Pは、特定の方向に繰返周期を有するパターンであるが故に、研磨性能も周期性乃至は方向性を有する。
このため、被研磨体の被研磨面に、筋状の微凹凸を生じ易いという問題があった。
【0006】
すなわち、本発明の課題は、研磨材の表面に設けた凹凸が繰返周期性を有するが故に発生する被研磨面の筋状の微凹凸が、生じない研磨材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明では、次の様な構成の研磨材とした。
(1)本体部の少なくとも一面に網状凹凸部を有し、この網状凹凸部は凸条部と、この凸条部で周囲を囲繞される凹陥部とからなり、
前記凸条部を前記一面の法線方向から見たときの平面視形状である凸条パターンが、
前記凹陥部に対応する多数の開口領域を画成し、二つの分岐点の間を延びて前記開口領域を画成する多数の境界線分から形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口領域が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである、研磨材。
(2)上記開口領域の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含む、上記(1)の研磨材。
(3)上記本体部の網状凹凸部ではない面に、支持体が積層されている、上記(1)または(2)の研磨材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研磨材によれば、網状凹凸部の凸条部が呈する凸条パターンが、周期性がない特定のパターンであるために、凸条パターンが周期的パターンであるが故に被研磨面に発生する筋状の微凹凸を、防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による研磨材の一実施形態を説明する斜視図。
【図2】本発明による研磨材の別の実施形態を例示する断面図。
【図3】凸条パターンの一例を示す平面図。
【図4】凸条パターンに繰返周期が存在しないことを説明する平面図。
【図5】凸条パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図6】凸条パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図7】凸条パターンを設計する方法において、母点を決定する方法を示す図。
【図8】決定された母点群の分散の程度を絶対座標系と相対座標系で説明する図。
【図9】決定された母点からボロノイ図を作成して凸条パターンを決定する方法を示す図。
【図10】凹陥部の断面形状を例示する断面図。
【図11】研磨材の平面形状(A1)〜(A2)と、断面形状(B1)〜(B4)の各種例を示す図面。
【図12】網状凹凸部の形状を作製する方法の一例を示す説明図。
【図13】型面に於ける凹条形状と網状凹凸面に於ける凸条部の形状を示す断面図。
【図14】研磨剤粒子含有の本体部と支持体からなる研磨材の実施形態例を示す断面図。
【図15】凸条パターンが研磨材の寸法の1/3以上の大きさの単位パターン領域として繰り返された一例を示す平面図。
【図16】網状凹凸部を有する従来の研磨材の一例を示す斜視図。
【図17】従来の網状凹凸部の凹凸パターンを例示する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面は概念図であり、説明上の都合に応じて適宜、構成要素の縮尺関係、縦横比等は誇張されていることがある。
【0011】
先ず、本発明による研磨材を、図1の斜視図で示す一実施形態例を参照して説明する。
図1で例示する本発明の研磨材10は、本体部1の少なくとも一面に網状凹凸部2を有し、この網状凹凸部2は凸条部3と、この凸条部3で周囲を囲繞される凹陥部4とからなる。同図に示す本実施形態においては、本体部1の一面は、シート状乃至は平板状の本体部1の図面上方の面であり、網状凹凸部2の面となっている。
【0012】
前記凸条部3を前記一面の法線nの方向から見たときの平面視形状である凸条パターン3Pが、本発明に特有の非周期的なパターンとなっている。なお、前記一面に対する法線nは、網状凹凸部2の面の包絡面に対する法線nでもある。
この凸条パターン3Pは、凹陥部4に対応する多数の開口領域Aを画成し、二つの分岐点Bの間を延びて前記開口領域Aを画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口領域Aが一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである。
【0013】
このため、本実施形態では、上記凸条パターン3Pを呈する上記凸条部3が、従来のような周期的パターンでないために、凸条パターンが周期的パターンであるが故に被研磨面に従来発生していた筋状の微凹凸を、防ぐことができる。
【0014】
図2は、本発明の研磨材10の変形例を示す。本発明においては、図2の断面図で示す研磨材10の様に、本体部1と、本体部1の網状凹凸部2を有する一面以外の面(同図の実施形態では網状凹凸部2の面とは反対側の面)に積層された支持体5と、からなる構成でもよい。支持体5によって、本体部1は専ら研磨特性を主体に設計し、支持体5は専ら研磨材10の全体としての機械的強度、外形形状などを主体に設計することができる。
【0015】
以下、本発明に特徴的な凸条パターン3Pを有する凸条部3について先ず詳細に説明し、その後で、各構成要素の材料、形成法などについて説明する。
【0016】
〔凸条部〕
凸条部3は。研磨材10の研磨面でもある網目状凹凸部2のうちの凸部であり、被研磨体の被研磨面を積極的に研磨する部分となっている。網状凹凸部2の凸条部3以外の部分が、凹陥部4である。
【0017】
[凸条パターンとこれにより画成される開口領域]
凸条パターン3Pは、凸条部3を、凸条部3を有する網目状凹凸部2の面の包絡面(網状凹凸部2を有する、本体部1の一面でもある)に対する法線nに平行な方向から観察した場合における平面視形状である。以下、この凸条パターン3Pについて、図3および図9を主として参照しながら説明する。
【0018】
凸条パターン3Pは、図3に示す如く、二つの分岐点Bの間を延びて開口領域Aを画成する多数の境界線分Lから形成され、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが、3.0≦N<4.0、つまり、3.0以上で4.0未満であり、且つ、前記境界線分Lで画成された前記開口領域Aに繰返周期を持つ方向が存在しない領域を含んでなるパターンとなっている。
なお、凸条パターン3Pは、開口領域Aが繰返周期を持つ方向が存在しない配列となって、凸条パターン3Pが周期的パターンであるが故に被研磨面に発生する筋状の微凹凸を防ぐ効果が十分に発現される為には、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口領域Aの面積及び形状は一定でないようなパターンとすると良い。好ましくは、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口領域Aの50%以上が互いにその面積及び形状が異なるようにする。より好ましくは、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一の開口領域Aを凸条パターン3Pの全域に亙って、全て互いにその面積及び形状が異なるようにする。これは、言い換えると、凸条パターン3Pに含まれる開口領域Aのうち、周囲を囲繞する境界線分Lの数が同一となる開口領域Aの形状及び面積がすべて同一ではなく、少なくとも一部は他と異なるものになると言うことを意味する。なお、ここで周囲を囲繞する境界線分Lの数とは、開口領域Aが多角形である場合は、その多角形の角数(或いは辺数)と一致する。また、以上に於いて、2つの開口領域A同士が互いに合同な図形であって且つその向きが異なる場合も、これらの2つの開口領域Aの形状は互いに異なると見做す。
【0019】
図3および図9に示すように、凸条パターン3Pのライン部Ltは、多数の分岐点Bを含んでいる。凸条パターン3Pのライン部Ltは、両端において分岐点Bを形成する多数の境界線分Lから構成されている。すなわち、凸条パターン3Pのライン部Ltは、二つの分岐点Bの間を延びる多数の境界線分Lから構成されている。そして、分岐点Bにおいて、境界線分Lが接続されていくことにより、開口領域Aが画成されている。言葉を換えて言うと、境界線分Lで囲繞され、区画されて1つの閉領域としての開口領域Aが画成されている。
【0020】
なお、図3および図9に示すように、ライン部Ltが境界線分Lのみから構成されているため、開口領域Aの内部に延び入って行き止まりとなるライン部Ltは存在しない。このような態様によれば、凸条部3による研磨作用と、凹陥部4の研磨屑の収納作用を付与することを効果的に実現することできる。
【0021】
一方、被研磨面に筋状の微凹凸の発生を防止するため、本実施形態による研磨材10の網状凹凸部(研磨面)2が有する凸条パターン3Pでは、その全領域が、開口領域Aが繰返周期を有する方向が存在しないようになっている。筋状の微凹凸を確実に解消する為には、凸条パターン3Pの全領域がこのような領域のみから構成されていることが好ましい。本実施形態はこの様な構成からなる。本件発明者らは、鋭意研究を重ねた結果として、単に凸条パターン3Pのパターンを不規則化するのではなく、凸条パターン3Pで画成される凹陥部4に対応する開口領域Aが一定の規則性を持った繰返周期で並べられた方向が存在しないように凸条パターン3Pのパターンを画成することにより、従来の周期性を有する凹凸パターン22を持つ研磨材20で生じる筋状の微凹凸を、極めて効果的に目立たなくさせることが出来ると判明した。
【0022】
[繰返周期の不存在]
図4は、凸条パターン3Pで画成される多数の開口領域Aが、一定の周期で配置されている領域が存在せず、繰返周期が存在しないことを説明する、網状凹凸部2の包絡面に平行な面に於ける平面図である。この面内において、同図では、任意の位置で任意の方向を向く一本の仮想的な直線diが選ばれている。
この一本の直線diが、ライン部Ltの境界線分Lと交差し交差点が形成される。この交差点を、図面では図面左下から順に、交差点c1,c2,c3,・・・・・,c9として図示してある。隣接する交差点、例えば、交差点c1と交差点c2との距離が、前記或る一つの開口領域Aの直線di上での寸法t1である。次に、寸法t1の開口領域Aに対して直線di上で隣接する別の開口領域Aについても、同様に、直線di上での寸法t2が定まる。そして、任意位置で任意方向の直線diについて、直線diと交差する境界線分Lとから、任意位置で任意方向の直線diと遭遇する多数の開口領域Aについて、該直線di上における寸法として、t1,t2,t3,・・・・・・,t8が定まる。そして、t1,t2,t3,・・・・・・,t8の数値の並びには、周期性が存在しない。
図4では、このt1,t2,t3,・・・・・・,t8は、判り易い様に図面下方に、直線diと共に凸条パターン3Pとは分離して描いてある。
【0023】
この直線diを図4で図示のものから任意の位置で任意の角度回転させて別の方向について各開口領域Aの寸法t1,t2,・・を求めると、やはり図4の場合と同様、直線di方向に対して繰返し周期性は見られない。
すなわち、このt1,t2,t3,・・・・・・,t8の数値の並びの様に、境界線分Lで画成された開口領域Aには繰返周期を持つ方向が存在しない。
言い換えると、開口領域Aの配置において、任意位置を通る任意方向の仮想的線分di上での開口領域Aの寸法tiの並びの数列が非周期関数となる。すなわち、t(i)=t(i+M)となるMが存在しない(i,Mはそれぞれ独立な正の整数)。
このように、開口領域Aが繰返周期を持つ方向が存在しないことを、開口領域Aが一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない、と表現する。
【0024】
さらに、本実施形態による研磨材10の網状凹凸部2の凸条部3が有する凸条パターン3Pでは、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっている。このように一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっている場合、凸条パターン3Pの配列パターンを、図17(A)に示された正方格子パターン(N=4.0)から大きく異なるパターンとすることができる。また、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0<N<4.0となっている場合には、図17(C)に示されたハニカム配列(N=3.0)からも大きく異なるパターンとすることができる。そして、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nを3.0≦N<4.0とした上で、開口領域Aの配列を不規則化して、区画領域Aが繰返周期を持って並べられた方向が安定して存在しないようにすることが可能となる。また、この様な開口領域Aに対応した凹陥部4とすることができる。その結果、凹陥部4内に収納された研磨屑によって、従来生じていた被研磨面の筋状の微凹凸を極めて効果的に目立たなくさせることが可能となることが、確認された。
【0025】
なお、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nは、厳密には、凸条パターン3P内に含まれる全ての分岐点Bについて、延び出す境界線分Lの数を調べてその平均値を算出することになる。ただし、実際的には、ライン部Ltによって画成された一つ当たりの開口領域Aの大きさ等を考慮した上で、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の全体的な傾向を反映し得ると期待される面積を持つ一区画(例えば、後述の寸法例で開口領域Aが形成されている凸条パターン3Pにおいては、10mm×10mmの部分)に含まれる分岐点Bについて延び出す境界線分Lの数を調べてその平均値を算出し、算出された値を当該凸条パターン3Pについての一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nとして取り扱うようにしてもよい。
【0026】
実際に、図3に示された凸条部3に於ける、凸条パターン3Pでは、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0<N<4.0となっている。一例を挙げると、図3の凸条パターン3Pの場合、合計387個の分岐点Bについて計測したところ、境界線分Lが3本の分岐点Bが373個、境界線分Lが4本の分岐点Bが14個であり(分岐する境界線分Lの数が5個以上の分岐点は0個)、分岐点Bから出る境界線分Lの平均本数(平均分岐数)は3.04個であった。
【0027】
[凸条パターンのパターン形状の作成方法]
ここで、一つの分岐点Bから延び出す境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0であり且つ開口領域Aが一定の規則性を持った繰返周期で並べられた方向が存在しない凸条パターン3Pのパターンを作製する方法の一例を以下に説明する。
【0028】
ここで説明する方法は、母点を決定する工程と、決定された母点からボロノイ図を作成する工程と、ボロノイ図における一つのボロノイ境界によって結ばれる二つのボロノイ点の間を延びる境界線分Lの経路を決定する工程と、決定された経路の太さを決定して各境界線分Lを画定して凸条パターン3P(ライン部Lt)のパターンを決定する工程と、を有している。以下、各工程について順に説明していく。なお、上述した図3に示されたパターンは、実際に以下に説明する方法で決定されたパターンである。
【0029】
まず、母点を決定する工程について説明する。最初に、図5に示すように、絶対座標系O−X−Y(この座標系O−X−Yは普通の2次元平面であるが、後述の相対座標と区別する為、頭に「絶対」を付記する)の任意の位置に一つ目の母点(以下、「第1の母点」と呼ぶ)BP1を配置する。次に、図6に示すように、第1の母点BP1から距離rだけ離れた任意の位置に第2の母点BP2を配置する。言い換えると、第1の母点BP1を中心として絶対座標系XY上に位置する半径rの円の円周(以下、「第1の円周」と呼ぶ)上の任意の位置に、第2の母点BP2を配置する。次に、図7に示すように、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つ第2の母点BP2から距離r以上離れた任意の位置に、第3の母点BP3を配置する。その後、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つその他の母点BP2,BP3から距離r以上離れた任意の位置に、第4の母点を配置する。
【0030】
このようにして、次の母点を配置することができなくなるまで、第1の母点BP1から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に母点を配置していく。その後、第2の母点BP2を基準にしてこの作業を続けていく。すなわち、第2の母点BP2から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に、次の母点を配置する。第2の母点BP2を基準にして、次の母点を配置することができなくなるまで、第2の母点BP2から距離rだけ離れ且つその他の母点から距離r以上離れた任意の位置に母点を配置していく。その後、基準となる母点を順に変更して、同様の手順で母点を形成していく。
【0031】
以上の手順で、凸条パターン3Pが形成されるべき領域内に母点を配置することができなくなるまで、母点を配置していく。凸条パターン3Pが形成されるべき領域内に母点を配置することができなくなった際に、母点を作製する工程が終了する。ここまでの処理により、2次元平面(XY平面)に於いて不規則的に配置された母点群が、凸条パターン3Pが形成されるべき領域内に一様に分散した状態となる。
【0032】
このような工程で2次元平面(XY平面)内に分布された母点群BP1、BP2、・・、BP6(図8(A)参照)について、個々の母点間の距離は一定では無く分布を有する。但し、任意の隣接する2母点間の距離Rの分布は完全なランダム分布(一様分布)でも無く、平均値RAVGを挾んで上限値RMAXと下限値RMINとの間の範囲ΔR=RMAX−RMINの中で分布している。なお、ここで、隣接する2母点であるが、母点群BP1、BP2、・・からボロノイ図を作成した後、2つのボロノイ領域XAが隣接していた場合に、その2つのボロノイ領域XAの母点同士が隣接していると定義する。
【0033】
即ち、ここで説明した母点群について、各母点を原点とする座標系(相対座標系o−x−yと呼称し、一方、現実の2次元平面を規定する座標系を絶対座標系O−X−Yと呼称する)上に、原点に置いた母点と隣接する全母点をプロットした図8(B)、図8(C)、・・等のグラフを全母点について求める。そして、これら全部の相対座標系上の隣接母点群のグラフを、各相対座標系の原点oを重ね合わせて表示すると、図8(D)の如きグラフが得られる。この相対座標系上での隣接母点群の分布パターンは、母点群を構成する任意の隣接する2母点間の距離が0から無限大迄の一様分布では無く、原点oからの距離がRAVG−ΔRからRAVG+ΔR迄の有限の範囲(半径RMINからRMAX迄のドーナツ形領域)内に分布していることを意味する。
なお、図8(D)からわかる様に、任意の1母点から見た他の母点の方位(角度)分布は等方的(乃至は略等方的)である。このことが、これらの母点(群)から生成される凸条パターン3Pに於ける開口領域Aの方位(角度)分布が等方的(乃至は略等方的)となることに対応する。
【0034】
以上の様にして、各母点間の距離を設定することによって、該母点群から以下に説明する方法で得られるボロノイ領域XA、更には、これから得られる開口領域Aの大きさD(乃至は開口領域Aの面積)の分布についても、一様分布(完全ランダム)では無く、有限の範囲内に分布したものとなる。
【0035】
この様に構成することにより、凸条パターン3Pが周期的パターンであるが故に凸条パターン3Pによって被研磨面に発生する筋状の微凹凸が、より一層、効果的に解消する。この筋状の微凹凸を解消すると共に被研磨面における表面仕上がり(残留微凹凸)を均一化するには、開口領域Aの大きさD(開口領域Aの大きさ)の最大値をDMAX、最小値をDMINとしたときに、当該大きさDの分布範囲ΔD=DMAX−DMINが大きさDの平均値DAVGに対して、
0.1≦ΔD/DAVG≦0.6
より好ましくは、
0.2≦ΔD/DAVG≦0.4
とする。
ここで、開口領域Aの大きさDは、全ての開口領域Aについて、以下の定義とする。
(1)或る一つの開口領域Aに属する全ての分岐点B(多角形の場合は全頂点)を通る円が描ける場合は、この開口領域Aの外接円直径を以って、大きさDとする。
(2)或る一つの開口領域Aに属する全ての分岐点B(多角形の場合は全頂点)を通る円が描け無い場合は、この開口領域Aに属する2分岐点B間の距離の最大値(多角形の場合は最大の対角線長)を以って、大きさDとする。
【0036】
なお、以上の母点を決定する工程において、距離rの大きさを変化させることにより、一つあたりの開口領域Aの大きさを調節することができる。具体的には、距離rの大きさを小さくすることにより、一つあたりの開口領域Aの大きさを小さくすることができ、逆に距離rの大きさを大きくすることにより、一つあたりの開口領域Aの大きさを大きくすることができる。
【0037】
次に、図9に示すように、配置された母点を基準にして、ボロノイ図を作成する。図9に示すように、ボロノイ図とは、隣接する2つの母点BP、BP間に垂直二等分線を引き、その各二等分線同士の交点で結ばれた線分で構成される図である。ここで、二等分線の線分をボロノイ境界XBと呼び、ボロノイ境界XBの端部をなすボロノイ境界XB同士の交点をボロノイ点XPと呼び、ボロノイ境界XBに囲まれた領域をボロノイ領域XAと呼ぶ。
【0038】
図9のように作成されたボロノイ図において、各ボロノイ点XPが、凸条パターン3Pの分岐点Bをなすようにする。そして、一つのボロノイ境界XBの端部をなす二つのボロノイ点XPの間に、一つの境界線分Lを設ける。この際、境界線分Lは、図3に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定してもよいし、あるいは、他の境界線分Lと接触しない範囲で二つのボロノイ点XPの間を種々の経路(例えば、円(弧)、楕円(弧)、抛物線、双曲線、正弦曲線、双曲線正弦曲線、楕円函数曲線、ベッセル関数曲線等の曲線状、折れ線状等の経路)で延びるようにしてもよい。なお、境界線分Lは、図3に示された例のように二つのボロノイ点XPの間を直線状に延びるように決定した場合、各ボロノイ境界XBが、境界線分Lを画成するようになる。
【0039】
各境界線分Lの経路を決定した後、各境界線分Lの線幅(太さ)を決定する。境界線分Lの線幅は、作成された凸条パターン3Pを呈する凸条部3の土手幅である。この土手幅とは、後述図13で説明するように、注目する部分において凸条部3の延在方向に直交しなお且つ網状凹凸部2の包絡面の法線nに平行な面(これを主切断面とも言う)に於ける凸条部3のうち被研磨体の被研磨面に接触する上面3tpと同一水準面に於ける幅W3である。この土手幅W3は、凸条部3の研磨性能、並びに、凹陥部4の研磨屑の収納性能のバランスなどを勘案して、決定される。
以上のようにして、凸条パターン3Pのパターン形状を決定することができる。
【0040】
このような本実施形態によれば、研磨材10の網状凹凸部2における凸条部3が有する平面視形状であり凹陥部4を画成するる凸条パターン3Pが、二つの分岐点Bの間を延びて多数の開口領域Aを画成する多数の境界線分Lから形成されており、一つの分岐点Bから延びる境界線分Lの数の平均値Nが3.0≦N<4.0となっており、且つ、開口領域Aが繰返周期を持つ方向が存在しないようになっている。この結果、従来の研磨材において、凸条パターンが周期的パターンであるが故に被研磨面に発生する筋状の微凹凸を、効果的に防ぐことができる。
【0041】
[凸条部の断面形状]
凸条部3の主切断面における断面形状は特に限定はない。凸条部3は、図13(B)に示すように、凸条部3のうち被研磨体の被研磨面に接触する部分が、通常、平面をなす上面3tpとなる。凸条部3の底部の幅Wbは、同図の様に台形形状の場合は、土手幅W3よりも幅が大きくなる。
凸条部3の上面3tpの部分の幅である土手幅W3は、10〜1000μm程度である。凸条部3の高さは10〜1000μm程度である。
凸条部3のうち上面3tpを除いた部分である斜面は、凹陥部4の斜面でもある。よって、次に述べる凹陥部の断面形状と凸条部の断面形状とは相補的である。
又、凸条部3の主切断面に於ける上面3tp表面とは反対側に於ける幅Wb(これを底部の幅とも言う)は、10〜2000μm程度の範囲とする。土手幅W3及び底部の幅Wbとの関係は、W3=Wb、W3<Wbの何れも可能であるが、図12の如くの成形型で賦形する製法を採用する場合の離型性、及び凹陥部4内に収納された研磨屑の排出の容易性の点からは、W3<Wbとすることが好ましい。
【0042】
〔凹陥部〕
凹陥部4は、凸条部3が被研磨体の被研磨面に接触して、研磨で生じた研磨屑に対して収納作用を担う部分である。凹陥部4は、凸条部3が呈する凸条パターン3Pで画成される開口領域Aに対応する部分である。
【0043】
[凹陥部の断面形状]
凹陥部4の主切断面における断面形状は特に限定はない。例えば、図10(A)に示す直角四角形状、図10(B)に示す底辺を凸条部3の上面3tpと同一水準とする三角形状、図10(C)に示す上底に対して寸法の大きい下底を凸条部3の上面3tpと同一水準とする台形形状、図10(D)に示す切片(弦)を凸条部3の上面3tpと同一水準とする半円状形状、などである。前記半円状の円状とは、凸条部3の上面3tpと同一水準の切片以外が、凹陥部4の内部から外側に向かって凸形状をした、円、楕円などの曲線のみからなる形状であり、放物線曲線なども含む。
【0044】
凹陥部4の幅W4は10〜1000μm程度である。凹陥部4の幅W4とは、図10(B)で示すとおり、各凹陥部4について、凸条部3の上面3tpに於ける幅(切断面に応じて値は異なる)の最大値であり、開口領域Aの大きさDに対応する。
なお、凹陥部4の深さは、凸条部3の高さに等しい。
【0045】
〔網目状凹凸部の凹凸形状の形成方法〕
網目状凹凸部2の凹凸形状の形成方法は、特に限定されない。例えば、特許文献2で開示されている様な従来公知の研磨材における凹凸形成法を、網目状凹凸部2を構成する材料に応じて適宜採用すれば良い。例えば、網目状凹凸部2を構成する材料が金属である場合には、凸条パターン3Pのフォトマスクを用いたフォトエッチング法を採用することができる。或いは、網目状凹凸部2を構成する材料が研磨剤粒子を含有する樹脂である場合には、フォトポリマー法(2P法)を採用することができる。
【0046】
〔研磨材の層構成〕
網目状凹凸部2を有する本体部1を構成する材料は、特に限定はない。従来公知の研磨材における各種材料を適宜採用することができる。
網状凹凸部2の面は、図1で示した実施形態例のように研磨材10の全体を構成する本体部1の面とすることができる。この形態では、研磨材10は単層構成(乃至は単体構成)となる。
研磨材10は、図2で示した別の実施形態例の様に、網状凹凸部2を有する本体部1が
支持体5に積層された構成とすることもできる。この形態では、研磨材10は、2層(積層)構成、或いは2体構成となる。なお、前記した図1の単層構成は、支持体5が本体部1を兼ねているとも言える。
支持体5は、本体部1それ自身では機械的強度が不足する場合、本体部1の形成を容易にする場合などの為に、設けられる。
【0047】
〔本体部の材料〕
本体部1の材料としては、例えば、炭素鋼、或いは、樹脂バインダに高硬度の研磨剤粒子を添加した複合材料を、用いることができる。
上記炭素鋼としては、例えば、炭素工具鋼、炭素工具鋼にさらに3質量%以上のクロム、必要に応じさらにタングステン、モリブデン、バナジウム等の1種以上を含む合金工具鋼を用いることができる。
上記樹脂バインダに高硬度の研磨剤粒子を添加した複合材料は、その樹脂バインダの樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などを用いることができる。
上記研磨剤粒子としては、例えば、金剛石、鋼玉、酸化鉄(Fe2O3)、酸化セリウム、酸化ケイ素(Si02)等を用いることができる。研磨剤粒子の大きさは平均粒径で0.1〜100μm程度である。
上記樹脂バインダに高硬度の研磨剤粒子を添加した複合材料中における、研磨剤粒子と樹脂バインダとの組成比は、質量比で、研磨剤粒子/樹脂バインダ=100/100〜1400/100程度である。
【0048】
(支持体の材料)
支持体5の材料としては、本体部1が炭素鋼からなる場合は、例えば、炭素鋼、軟鉄、ステンレス鋼などの鉄系合金を用いることができる。
本体部1が、樹脂バインダに高硬度の研磨剤粒子を添加した複合材料からなる場合は、例えば、研磨材10をシート状とするときで言えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂シートを用いることができる。
【0049】
〔研磨材の全体形状〕
研磨材10としての全体形状は、要求される研磨が出来る形状であれば良く特に限定はなく、平面視形状、及び断面形状は各種あり得る。
例えば、平面視形状、つまり、網状凹凸部2をその法線方向から見た形状は、図11(A1)の様な直角四角形、図11(A2)の様な円形などである。
断面形状、つまり、網状凹凸部2の法線nを含む断面に於ける形状は、図11(B1)の様な直角四角形であって長辺の一辺を網状凹凸部2とする形状、図11(B2)の様な円形の一部で円弧の部分を網状凹凸部2とする形状、図11(B3)の様な台形形状で下底に対して小さい辺の片である上底を網状凹凸部2とする形状、図11(B4)の様な円形状で円周全周を網状凹凸部2とする形状、などである。
平面視形状における寸法は、縦・横寸法乃至は直径で、例えば、10〜300mm程度とすることができる。
断面形状における寸法は、厚み乃至は直径で、例えば、5〜100mm程度とすることができる。
【0050】
〔変形形態〕
本発明の研磨材10は、上記した形態以外のその他の形態をとり得る。ここでは、その一部を説明する。
【0051】
[開口領域の形状]
開口領域Aの形状は、少なくとも五角形と六角形とを含むことが好ましい。開口領域Aに少なくとも五角形と六角形とを含むことによって、被研磨面に発生する筋状の微凹凸を目立たなくさせることが出来ると共に、凸条パターン3Pの粗密をより均一化させることにより筋状の微凹凸の解消効果を被研磨面においてより均一化させることができる。更に好ましくは、開口領域Aの形状が五角形、六角形、及び七角形を含む様にする。
例えば、図4の平面視パターン2Pについて、合計4631個の開口領域A(多角形)について計測したところ、
3角形 0個
4角形 79個
5角形 1141個
6角形 2382個
7角形 927個
8角形 94個
9角形 8個
10角形以上 0個
であった。
なお、この凸条パターン3Pについて、分岐点Bから出る境界線分Lの平均本数を計測したところ3.07であった。
【0052】
[単位パターン領域としての繰返し]
上述した実施形態では、研磨材10中の凸条部3を有する網状凹凸部2の全領域において、凸条部3の凸条パターン3Pによって画成される開口領域Aが繰返周期を持つ方向が存在しないようになっている例を説明した。しかしながら、図15の様に、その内部に於いて凸条部3が有する凸条パターン3Pの全領域が、単位パターン領域Sを複数集合して凸条パターン3Pの全領域が構成されるようにして、且つ各単位パターン領域S内に於いては、複数の開口領域Aが、所定の繰返周期のないパターンで配列されている領域からなるようにしてもよい。
すなわち、この形態に於いては、凸条パターン3Pの全領域中に、局所的に見たときに、同一パターンで開口領域群が配列されてなる単位パターン領域Sを2箇所以上含むようになる。この場合、特定方向について、一定周期で4箇所以上の繰返しが無ければ、単位パターン領域S同士の繋ぎ目は実質上目立ち難く、この繋ぎ目に起因する研磨傷や研磨面の外観ムラ等への影響は無視し得る。この例において、一つの単位パターン領域S内における凸条パターン3Pのパターンは、例えば、図5〜図9を参照しながら説明したパターン作成方法と同様にして作成することができる。
【0053】
特に、網状凹凸部2が大面積となる研磨材10に対しては、凸条部3が有する凸条パターン3Pが、複数の単位パターン領域Sの配列から構成されていて、且つ各々の単位パターン領域S内に於いては互いに同一のパターンで開口領域Aが配列されている構成とした複数の単位パターン領域Sを含む形態とした方が、凸条パターン3Pのパターン作成を格段に容易化することが可能となる点において好ましい。
【0054】
なお、特に一種類の単位パターン領域Sを図15に示す様に縦横に複数配置する例においては、特定方向(図面縦方向と横方向の2方向)で単位パターン領域Sとしての繰返しが存在する。図15の実施形態に於いては、横方向に繰返周期SP2、縦方向に繰返周期SP1を以って単位パターン領域Sが繰り返される。この条件下では、特定方向に於ける単位パターン領域Sの寸法をLsとし、該特定方向に延びる任意の直線dj上において単位パターン領域Sが寸法Ls内に開口領域AをM個有するとき、直線dj上の或る開口領域Aに注目すると、直線dj上では開口領域Aの個数がM個分だけ離れた位置には、全く同じ寸法tj及び形状の開口領域Aが常に存在するという規則性を有する。すなわち、開口領域Aの直線dj上での寸法tjについて、直線dj上で順番に数えてk番目の寸法tj(k)と、そこから更にM番目の(k+M)番目の寸法tj(k+M)とが同じとなる、tj(k)=tj(k+M)の関係が成立する(k,Mはそれぞれ独立な正の整数)。
【0055】
しかし、この規則性は、単位パターン領域Sとしての繰返周期(前記で言えば寸法Lsがその繰返周期に該当する)に基づくものであり、開口領域Aとしての繰返周期ではなく、各単位パターン領域S内に於いて開口領域Aが繰返周期を上記特定方向に持つことではない。
【0056】
図15に示された例では、研磨材10の網状凹凸部2が、同一の形状を有した六つの単位パターン領域Sに分割され、各単位パターン領域S内で、網状凹凸部2に存在する凸条部3が有する凸条パターン3Pが同一に構成されている。そして、六つの単位パターン領域Sは、図15の縦方向(図の上下方向)に繰返周期SP1で三つの領域が並ぶとともに、図15の横方向に繰返周期SP2で二つの領域が並ぶように配列されている。
【0057】
〔用途〕
本発明による研磨材10は、研磨テープ、金属やすり(鑢)などとして、各種物品の研磨に用いることができる。例えば、金属、樹脂、ガラス、セラミックス、木材などの材料からなる各種物品の表面の研磨用途が挙げられる。また、前記のような各種物品の切削用途に用いてもよい。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の研磨剤10の代表的実施形態として、研磨テープと金属やすり(鑢)について更に具体的に説明する。
【0059】
[実施例1]
研磨剤10として研磨テープを次の様にして作製した。
凸条パターン3Pとしては、図5〜図9を参照して説明した前記[凸条パターンのパターン形状の作成方法]に準拠して作製した図3と同様のパターンを作成する。
支持体5には、連続帯状(ウェブ状)で厚み38μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
本体部1を形成する本体部形成用材料としては、平均粒子径10μmの白色溶融アルミナ600質量部をポリエステルアクリレート系プレポリマー100質量部に配合した電離放射線硬化性樹脂組成物からなる塗工液を用いた。
【0060】
前記支持体5の片面に、上記塗工液を用いた以下の方法によって、厚み150μm(乾燥、硬化時の厚み)で、上記凸条パターン3Pを呈する凸条部3と凹陥部4とからなる網状凹凸部2を有する本体部1を形成して、研磨テープとして研磨材10が作製した。
【0061】
本体部1とその網状凹凸部2の所定パターンの凸条部3の形成は、図12に示す様な、円筒状の円筒成形型Mを用いる製造形態でフォトポリマー法により行う。
円筒成形型Mの型面には、図13(A)に示すような凹条3rを形成してある。この凹条3rは、図13(B)のような、これから形成する所定の凸条部3の凹状形状とは逆凹凸形状となっている。この凹条3rは、前記した凸条パターン3Pを用いて作製される。
円筒成形型Mは炭素鋼の中空円筒からなる鉄芯の表面にメッキにより銅層を被覆し、該銅層表面にフォトエッチング法により凸条パターン3Pを形成してなる。
【0062】
このような円筒成形型Mに対して、図12に示すように、先ず、前記フィルムからなる連続帯状(ウェブ状)の支持体5を巻取(図示せず)から繰り出して、本体部1を形成する為の前記塗工液を塗工する。塗工は、塗工ローラ31及び圧胴32などからなる塗工部33で、塗工液34を連続フィルム状の支持体5の片面に塗布する。次いで、塗工液34が希釈溶剤を含む場合は連続フィルム状の支持体5を乾燥装置35に通して、温風吹き付け等により希釈溶剤を蒸発させた後、押圧ローラ36により、支持体5の塗布面を、回転している円筒成形型Mに押圧し接触させ、塗布された塗工液34の一部を型面の凹部内部に充填させる。次に、円周方向に2機設置した電離放射線照射装置37a、37bにより電離放射線として紫外線を、回転している円筒成形型M上で塗工液34に順次照射して、塗布された塗工液34を硬化させると共に支持体5に密着積層した本体部1とする。次いで、剥離ローラ38で円筒成形型Mから、本体部1とこれに密着積層した支持体5とを一体として剥離することで、支持体5と本体部1との2層構成で、本体部1の表面に所定パターンの凸条部3及び凹陥部4を有する網状凹凸部2がが成形された、シート状の研磨材10が作製される。
【0063】
こうして、図3に示す凸条パターン3Pを有する凸条部3が、型面上で図13(A)に示す断面が台形形状の凹条3rから、本体部1に図13(B)に示す断面が台形形状の凸条部3が形成される。
【0064】
凸条部3の寸法は、凸条パターン3Pにおいて、境界線分Lの幅は、型面上において凹条3rの(底部の)幅であり本体部1に於いて凸条部3の幅W3に該当する。この凸条部3の幅W3は、上面3tpでの土手幅W3が80μm、凸条部3の底部側の幅Wbが100μmである。
凹陥部4の寸法は、凸条パターン3Pにおいて、各開口領域A内に於ける2分岐点B間の最大距離として定義される開口領域Aの大きさDの平均値DAVGは500μmである。開口領域Aは型面上に於いては凸部であり本体部1に於いて凹陥部4に該当する。
型面上において凹条3rの深さVは、本体部1において凸条部3の高さHであり、この深さVは130μmである。
【0065】
以上の様にして、図14の如き、支持体5上に、研磨剤粒子6を含有する本体部1が形成さたれ、研磨テープとしての研磨材10を作製した。
【0066】
[実施例2]
研磨剤10として金属やすり(鑢)を次の様にして作製した。
前記研磨テープの場合と同様にして、凸条パターン3Pを生成する。次に、この凸条パターン3Pを,銀塩感光性乳剤層を有する銀塩フィルムに露光し現像して、凸条パターン3Pのフォトマスク(原版)を作成する。
本体部1としては、厚さ3mm(3000μm)、縦150mm、横15mmの直方体形状の炭素工具鋼を用いる。
【0067】
上記フォトマスクを用いて、本体部1の表面に形成しておいたフォトレジスト塗膜に、凸条パターン3Pを露光し、現像した後、塩化第2鉄水溶液を用いてレジスト非形成部をエッチングして、凸条部3及び凹陥部4を有する網状凹凸部2を形成する。
【0068】
寸法は、境界線分Lの幅は400μm、開口領域Aの大きさDの平均値DAVGは2000μmで、最終的に形成される凸条部3の土手幅W3は350μm、底部の幅Wbは400μm、凹陥部4の幅W4は2000μmである。凸条部3の高さHは500μmである。
【0069】
以上の様にして、本体部1の表面が網状凹凸部2となった金属やすり(鑢)としての研磨材10がを作製した。
【0070】
[比較例1]
実施例1に於いて、凸条パターン3Pとして、開口領域Aの大きさDの平均DAVGに相当する対角線長さが500μmの正方形からなる正方格子とした研磨テープとした以外は、実施例1と同様した図16の様な研磨材20を作製した。
【0071】
[比較例2]
実施例2に於いて、凸条パターン3Pとして、開口領域Aの大きさDの平均DAVGに相当する対角線長さが2000μmの正方形からなる正方格子とした金属やすり(鑢)とした以外は、実施例2と同様した図16の様な研磨材20を作製した。
【0072】
[比較評価]
実施例1と比較例1の研磨テープ、実施例2と比較例2の金属やすり(鑢)とを、次の様にして比較評価した。
被研磨体として、ステンレス鋼板(厚さ3mm)を用意し、このステンレス鋼板の表面に、研磨材の研磨面を当てて、一方向に向かって3往復擦って研磨した後、被研磨面を目視観察して評価した。
その結果、被研磨面の筋状の微凹凸は、実施例1は比較例1に比べて少なく、実施例2は比較例2に比べて少なかった。
【符号の説明】
【0073】
1 本体部
2 網状凹凸部
3 凸条部
3P 凸条パターン
4 凹陥部
5 支持体
6 研磨剤粒子
10 研磨材
20 従来の研磨材
21 溝
22 網状凹凸部
A 開口領域
B 分岐点
BP 母点
L 境界線分
Lt ライン部(境界線分の集合)
M 円筒成形型
S 単位パターン領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部の少なくとも一面に網状凹凸部を有し、この網状凹凸部は凸条部と、この凸条部で周囲を囲繞される凹陥部とからなり、
前記凸条部を前記一面の法線方向から見たときの平面視形状である凸条パターンが、
前記凹陥部に対応する多数の開口領域を画成し、二つの分岐点の間を延びて前記開口領域を画成する多数の境界線分から形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口領域が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである、研磨材。
【請求項2】
上記開口領域の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含む、請求項1記載の研磨材。
【請求項3】
上記本体部の網状凹凸部ではない面に、支持体が積層されている、請求項1または2記載の研磨材。
【請求項1】
本体部の少なくとも一面に網状凹凸部を有し、この網状凹凸部は凸条部と、この凸条部で周囲を囲繞される凹陥部とからなり、
前記凸条部を前記一面の法線方向から見たときの平面視形状である凸条パターンが、
前記凹陥部に対応する多数の開口領域を画成し、二つの分岐点の間を延びて前記開口領域を画成する多数の境界線分から形成され、一つの分岐点から延びる境界線分の数の平均値Nが、3.0≦N<4.0であり、且つ、前記開口領域が一定の繰返周期で並べられている方向が存在しない領域を含んでなるパターンである、研磨材。
【請求項2】
上記開口領域の形状が、五角形、六角形及び七角形から選ばれた2種以上の多角形を含む、請求項1記載の研磨材。
【請求項3】
上記本体部の網状凹凸部ではない面に、支持体が積層されている、請求項1または2記載の研磨材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−66983(P2013−66983A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208344(P2011−208344)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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