説明

研磨用ワークキャリア

【課題】 ワークキャリアに必要な剛性を確保するとともに、表層の耐磨耗性を高めるすることにより耐久寿命及び研磨精度を改善せんとすること。
【解決手段】 芯材11の上下両面に接着層20a,20bを介して表層材12a,12bを貼着した研磨用ワークキャリアにおいて、前記芯材11がエポキシ樹脂含浸ガラスクロスなど無機物で強化したプラスチック又はステンレスであり、表層材12a,12bが超高分子量ポリエチレンであること。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は研磨用ワークキャリアに関し、詳しくは半導体ウエハ、ハードディスク、液晶ディスプレイガラス等のワーク(被研磨材)を研磨する際に、該ワークを保持してラッピング装置の上下定盤間に可動状に配設されるワークキャリアに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、半導体ウエハ等のラッピング装置は、図1に示すように、上定盤1と下定盤2との間に遊星歯車機構3を構成するようにワークキャリア100(以下、単にキャリアという)を配置している。そして、各キャリア100には、そのワークホール101に前記ウエハ等のワークWを収容保持させるとともに、研磨液4を供給しながらキャリア100を回転させて上定盤1及び下定盤2によりワークWの両面を研磨する。
【0003】
上記ワークWが一般に0.5〜1.2mmと比較的薄いために、前記キャリア100も相応の薄さにしなければならないが、このキャリア100は外周にギア部102を設けるので剛性が必要である。
そのため、従来は、上記キャリア100の材質としてエポキシ樹脂含浸ガラスクロスが使用され、また、三層構造のキャリアも知られているが、その場合でも芯材(中間層)にPET樹脂に無機フィラーを充填した材料を用い、表層材をエポキシ樹脂含浸ガラスクロスとしているものである。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
しかるに、上記従来キャリアにおいては、何れも表層がエポキシ樹脂含浸ガラスクロスであるために、キャリアの表面が研磨剤により磨耗しやすく使用可能な寿命が短いという不具合があり、また、磨耗により遊離したガラス粉が比較的柔らかいワークに付着して該ワークに不必要なキズをつけやすく研磨精度上の問題があった。
【0005】
本考案は、上記従来事情に鑑みその不具合、問題点を解消して、キャリアに必要な剛性を確保するとともに、表層の耐磨耗性を高めるすることにより耐久寿命及び研磨精度を改善せんとすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
斯る本考案は、芯材の上下両面に接着層を介して表層材を貼着した研磨用ワークキャリアにおいて、前記芯材が無機物で強化したプラスチックであり、表層材が超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする(請求項1)。
本考案によれば、キャリアに必要な剛性は、芯材である無機物で強化したプラスチックにより確保され、表層材である超高分子量ポリエチレンにより耐磨耗性が確保される。
【0007】
上記無機物で強化したプラスチックは、その無機物が特に限定されるものではないが、キャリアの剛性確保の点から、例えばエポキシ樹脂含浸ガラスクロスを採用することが好ましく(請求項2)、また、芯材として、前記無機物で強化したプラスチックに代えてステンレス材を採用すれば(請求項3)、研磨時に遊離するガラスなど無機物の悪影響をなくすことができる。
【0008】
上記表層材として使用する超高分子量ポリエチレンは、非常に長い分子鎖が複雑に絡み合った構造であるため、耐磨耗性や耐衝撃性に優れており、かつ炭素と水素のみの組成で100ppm程度の触媒残滓と1000ppm程度のステアリン酸塩を含むだけなので、ワークに悪い作用を及ぼさない。
一方、超高分子量ポリエチレンは、化学的に安定しているため接着し難いが、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸とを共重合させた変性ポリオレフィン、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸の誘導体とを共重合させた変性ポリオレフィン、あるいは前記両変性ポリオレフィンの混合物、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤、α−シアノアクリレート系接着剤を使用すれば、キャリアとして十分な強度で前記表層材に接着する。
上記接着剤は、エポキシ樹脂含浸ガラスクロス又はステンレス材からなる芯材とも接着可能であるが、芯材との接着に好適な接着剤、表層材との接着に好適な接着剤を選定して、異なる接着剤を用いた多層構造の接着層とすることも任意である(請求項4)。
【0009】
また、芯材の上下両面に表層材を貼着するキャリアにおいては、芯材と表層材との膨張係数の相異により表層材に若干歪みや反りを生ずることがある。その点を考慮すれば、上記芯材に上下に貫通する多数の通孔を穿孔し、それら通孔に表層材の超高分子量ポリエチレンを充填することが好ましい(請求項5)。
それによれば、上下両表層材を、通孔内の超高分子量ポリエチレンを介して一体化することができ、それにより芯材と表層材との膨張係数の差を緩和して歪みや反りの発生を防止し得る。
上記通孔は、強度(剛性)の低下を回避するためにギア部を形成する部分には開孔しないことが好ましい。
なお、上記通孔の大きさ及び個数は、芯材の大小にもよるが、一般には直径3〜6mm程度とする(請求項6)。
【0010】
【考案の実施の形態】
本考案の実施の形態を図面により説明すれば、図2は、ラッピング装置に使用されるキャリア10の一部切欠せる正面図およびその部分拡大図を示す。
キャリア10は、平面視円板状であって、上下に貫通する複数のワークホール13を開口して各ホール13にワークWを嵌め合い収容するとともに外周縁にギア部14を有するが、そのことは前述した従来のキャリア100と同様である。
【0011】
キャリア10は、図2(2)で拡大して示すように、中央層である芯材11の上下両面にそれぞれ接着層20a,20bを介して表層材12a,12bを貼着一体的ならしめたものである。
芯材11は、無機物で強化したプラスチックとして例示するエポキシ樹脂含浸ガラスクロスであり、表層材12a,12bは超高分子量ポリエチレンのシートである。
【0012】
次に、図3は他の実施形態を示すキャリア30の部分拡大図であり、図示しないがワークホール及びギア部を有することは前記キャリア10の場合と同様である。
このキャリア30は、ステンレス製円板を芯材31とし、その上下両面にそれぞれ接着層40a,40bを介して超高分子量ポリエチレンのシートからなる表層材32a,32bを貼着したものである。
【0013】
上記芯材31には、ワークホール及びギア部を除く部分に、上下に貫通する小孔からなる多数の通孔33を穿孔し、各通孔33に表層材と同一材の超高分子量ポリエチレン32cを充填する。
すなわち、前記接着層40a,40b及び表層材32a,32bを形成する前に、芯材31に通孔33を穿孔し該通孔に粉体状や微粉砕状などの注入方法により超高分子量ポリエチレン32cを充填し、その後に接着層40a,40bを塗布し、表層材32a,32bを貼着する。
上記通孔33は、直径3〜6mm程度の小孔であって規則的または不規則なピッチで適宜に配置する。
【0014】
【実施例】
上記キャリア10及び30について、図2(2)及び図3に対応させた実施例を図4及び図5に示す。
(実施例1)
図4は直径約600mmの円板からなるキャリア10の一部を示す実施例1であって、芯材11はエポキシ樹脂含浸ガラスクロス、表層材12a,12bは超高分子量ポリエチレンである。
また、接着層20a,20bは、それぞれが二層構造であって、接着剤21がポリオレフィンと不飽和カルボン酸の誘導体(無水マレイン酸)とを共重合させた変性ポリオレフィン、接着剤22がポリオレフィンと不飽和カルボン酸(メタクリル酸)とを共重合させた変性ポリオレフィンである。そして、上記各層の厚さ関係は、図中に記入したとおりであり(単位mm)、表層材12a,12bと芯材11とは約1対4とした。
この実施例1のキャリア10によれば、耐磨耗性がエポキシ樹脂含浸ガラスクロス単体の従来キャリアに比べて2.5倍に改善されたことが確認された。
なお、0.15mmの反りを生じたが、この程度では実用上の使用に特に支障はない。
【0015】
(実施例2)
図5は、実施例1のキャリア10と等大の円板からなるキャリア30の一部を示す実施例2であって、芯材31はステンレス板、表層材12a,12bは超高分子量ポリエチレンである。
また、接着層40a,40bは、接着剤41がエポキシ系接着剤、接着剤42がエチレン‐プロピレン‐ジェン ターポリマー(EPDM)からなる二層構造であり、芯材31、表層材12a,12bなど各層の厚さ関係は、図中に記入したとおり実施例1の場合と同一である(単位mm)。
このキャリア30の場合も、耐磨耗性がエポキシ樹脂含浸ガラスクロス単体の従来キャリアに比べて2.5倍に改善されたことが確認され、しかも実施例1と違い反りが発生しなかった。
【0016】
上記実施の形態及び実施例においては、ステンレスを芯材としたキャリア30に通孔33を穿孔し、該通孔に超高分子量ポリエチレンを充填した場合を説明したが、エポキシ樹脂含浸ガラスクロスを芯材とするキャリア10の場合に同様の構成とすることもよく、また、前記キャリヤ30の場合であっても超高分子量ポリエチレンを充填する通孔33を構成しないことも任意である。
また、上記実施例においては、上下各面に2種の接着剤を用いた二層構造の接着層を例示したが、三層以上の多層構造、あるいは各面一層の接着層とすることもよい。
【0017】
【考案の効果】
本考案によれば、芯材をエポキシ樹脂含浸ガラスクロスなど無機物で強化したプラスチックやステンレスとしたので、キャリアとして必要な剛性が確保され、また、表層材を超高分子量ポリエチレンとしたので、耐磨耗性や耐衝撃性が確保される。したがって、磨耗し難いキャリアの表面構造を呈して耐久寿命を長期にして使用することができるとともに、表層にガラス粉等の無機物が露出しないので、該無機物が研磨作業中に遊離することが抑制され半導体ウエハなどワークにキズをつけることなく研磨精度を高めることができる(請求項1〜3)。
【0018】
また、接着層を多層構造とする請求項4によれば、芯材に表層材を強固一体的に貼着することができ、さらに剛性の高いキャリアを提供することができる。
さらに、請求項5,6によれば、上下両表層材を連結一体的ならしめることにより、芯材と表層材との膨張係数差を緩和して歪みや反りを生じないキャリア構造となし得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一般的なラッピング装置を例示し、その(1)は定盤を省略した平面図、同(2)はその正面図である。
【図2】 本考案のワークキャリアを示し、その(1)は一部切欠せる正面図であり、同(2)は部分拡大図である。
【図3】 他の実施の形態を示すワークキャリアの部分拡大図である。
【図4】 実施例1のワークキャリアを示す部分拡大図である。
【図5】 実施例2のワークキャリアを示す部分拡大図である。
【符号の説明】
10:ワークキャリア 11:芯材 12a,12b:表層材
13:ワークホール 14:ギア部 20a,20b:接着層
30:ワークキャリア 31:芯材 32a,32b:表層材
33:通孔 32c:超高分子量ポリエチレン
40a,40b:接着層

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 芯材の上下両面に接着層を介して表層材を貼着した研磨用ワークキャリアにおいて、前記芯材が無機物で強化したプラスチックであり、表層材が超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする研磨用ワークキャリア。
【請求項2】 上記無機物で強化したプラスチックが、エポキシ樹脂含浸ガラスクロスであることを特徴とする研磨用ワークキャリア。
【請求項3】 上記芯材がステンレスであることを特徴とする請求項1記載の研磨用ワークキャリア。
【請求項4】 上記接着層が、異なる接着剤を用いた多層構造であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の研磨用ワークキャリア。
【請求項5】 上記芯材に上下に貫通する多数の通孔を穿孔し、それら通孔に表層材の超高分子量ポリエチレンを充填せしめたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の研磨用ワークキャリア。
【請求項6】 上記通孔が直径3mm〜6mmである請求項5記載の研磨用ワークキャリア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【登録番号】実用新案登録第3075614号(U3075614)
【登録日】平成12年11月29日(2000.11.29)
【発行日】平成13年2月27日(2001.2.27)
【考案の名称】研磨用ワークキャリア
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願2000−5814(U2000−5814)
【出願日】平成12年8月11日(2000.8.11)
【出願人】(391033827)作新工業株式会社 (5)