説明

研磨用組成物とその製造方法およびそれを用いた研磨方法

【課題】高精度な研磨を高効率よく低コストで行える研磨用組成物(研磨スラリー)を提供する。
【解決手段】本発明の研磨用組成物は、砥粒と該砥粒を分散させる分散媒とからなり、被研磨材の研磨に用いられる研磨用組成物であって、砥粒は、無機原料を破砕した体積平均粒径が0.01〜5μmの破砕粒子からなり、分散媒はアルカリ性分散媒であることを特徴とする。この研磨用組成物に用いる破砕粒子は、例えば、石英ガラスガラスを破砕した破砕シリカ粒子が好ましい。本発明の研磨スラリーを用いれば、表面粗さが小さく安定した良好な研磨を高い研磨レートで行うことができる。しかも本発明の研磨用組成物によれば、レアアース等を用いる必要がないので、砥粒の低コスト化ひいては研磨スラリーの低コスト化を図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基板やディスプレー用ガラスなどに要求される高精度な研磨を効率的に行うことができる研磨用組成物とその製造方法およびそれを用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスを構成する各種基板、液晶ディスプレー等に用いられる各種ガラス、光学用レンズなどは、高精度の平面度や優れた表面粗さ等が求められる。このような精密品の製造には、研磨(特に化学的機械研磨(CMP))が不可欠である。
【0003】
この研磨の良否や効率は、研磨用組成物(研磨スラリー)、特に砥粒に大きく影響される。このため、従来から種々の研磨スラリーや砥粒が提案され、使用されている。例えば、酸化ジルコニウム、酸化鉄、二酸化ケイ素等を砥粒とする研磨スラリーの他、化学機械研磨(CMP)作用を発揮する酸化セリウムを砥粒とする研磨スラリーが最近よく使用されている。また、コロイダルシリカを砥粒とする研磨スラリーも使用されている。これらに関連する事項が、例えば、下記の特許文献に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2006/107116号公報
【特許文献2】WO2005/26051号公報
【特許文献3】特開2007−73686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸化セリウムを構成するセリウムは稀少なレアアースであり、その供給や価格が不安定である。このため、酸化セリウムの使用は抑制が求められている。また、略球状で微細なコロイダルシリカを砥粒とする研磨スラリーは、高精度な研磨が可能ではあるが、研磨レートが低く、仕上用研磨などに利用が限られる。このように、従来の研磨スラリーでは、研磨レートと表面粗さとを高次元で両立させることは困難であった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。つまり、高精度な研磨を効率的にかつ比較的低コストで可能とする研磨用組成物を提供することを目的とする。またその研磨用組成物の製造方法とその研磨用組成物を用いた研磨方法も併せて提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、破砕したシリカ粒子を研磨スラリーの砥粒に使用することを思いつき、実際に、粒度調整した破砕シリカ粒子をアルカリ性の水へ分散させた研磨スラリーを調製した。この研磨スラリーにより研磨してみたところ、高い研磨レートと良好な表面粗さを高次元で両立できることが新たにわかった。本発明者は、この成果を発展させることにより以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《研磨用組成物》
(1)本発明の研磨用組成物は、砥粒と該砥粒を分散させる分散媒とからなり、被研磨材の研磨に用いられる研磨用組成物であって、前記砥粒は、無機原料を破砕した体積平均粒径が0.01〜5μmの破砕粒子からなり、前記分散媒はアルカリ性分散媒であることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明の研磨用組成物によれば、被研磨材を高精度かつ効率的に研磨することができる。このような高い研磨性が得られる理由は必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。
【0010】
本発明に係る砥粒は、無機原料を破砕した破砕粒子からなる。この破砕粒子は、複数の平面が交差した尖頭部を多数有する鋭利な表面から構成され、従来の砥粒とは異なり滑らかな曲面(特に球面)では構成されていない。このため、被研磨材の研磨面上における破砕粒子の転動抵抗が大きく、また、破砕粒子は研磨パッド中にも長く滞留し易い。
【0011】
この傾向は、破砕粒子の粒径が上述した範囲内にあるときに特に顕著となる。しかも、破砕粒子の粒径がその範囲内にあるとき、被研磨材の研磨面の表面粗さも安定的に小さくなる。こうして本発明の研磨用組成物によれば、表面粗さの小さい高精度な研磨を、高い研磨レートで行うことができるようになったと考えられる。
【0012】
いずれにしろ本発明の研磨用組成物を用いれば、高精度な研磨を効率的に行え、高い研磨性を実現できる。しかも本発明の研磨用組成物では、砥粒にシリカ等の無機材料を利用でき、稀少なレアアースなどを用いる必要もないので、研磨用組成物の低コスト化を図れる。
【0013】
《研磨用組成物の製造方法》
本発明は、上述した研磨用組成物に限らずその製造方法としても把握できる。すなわち本発明は、無機原料を破砕して体積平均粒径が0.01〜5μmの破砕粒子を得る破砕工程と、該破砕粒子をアルカリ性分散媒へ分散させる分散工程とからなり、上述した本発明の研磨用組成物が得られることを特徴とする研磨用組成物の製造方法でもよい。
【0014】
《研磨方法》
さらに本発明は、上述した研磨用組成物を用いた研磨方法としても把握される。すなわち本発明は、研磨スラリーを研磨パッド上に供給するスラリー供給工程と、該研磨スラリーの供給された研磨パッドにより被研磨材を研磨する研磨工程と、を備える研磨方法であって、この研磨スラリーが上述した本発明の研磨用組成物からなることを特徴とする研磨方法としても把握される。
【0015】
《その他》
(1)本明細書でいう「体積平均粒径」は、測定対象であるサンプル(破砕粒子の粉末)について、その構成する各粒子の直径(粒径:d)にそれぞれの粒子の体積占有率(重み:v/V)をかけて求めた総和(Σd・v/V)である(Vはサンプル全体の体積)。具体的には、レーザー回折散乱式粒度分布計(シーラス社(フランス)製)を用いてJIS Z8825−1に準じて測定した。
【0016】
(2)本明細書でいう「研磨性」は、例えば研磨レートで評価できる。研磨レートは、単位時間あたりの研磨量で表される。研磨量は質量変化であってもよいし、断面が一定の被研磨材なら研磨面の寸法変化であってもよい。例えば、ガラスを被研磨材とする場合なら、研磨レートは0.3μm/min以上、0.35μm/min以上さらには0.4μm/min以上であると好ましい。
【0017】
(3)本明細書でいう「x〜y」は、特に断らない限り、下限値xおよび上限値yを含む。また、本明細書に記載した種々の下限値または上限値は、任意に組合わされて「a〜b」のような範囲を構成し得る。さらに、本明細書に記載した範囲内に含まれる任意の数値を、数値範囲を設定するための上限値または下限値とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】破砕シリカ粒子(試料No.1)のSEM写真である。
【図1B】別の破砕シリカ粒子(試料No.2)のSEM写真である。
【図1C】球状シリカ粒子(試料No.C1)のSEM写真である。
【図2】本発明の研磨方法を実施可能な研磨装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0019】
K 研磨装置
P 研磨パッド
W ウエハ(被研磨材)
10 定盤
20 ヘッド
30 コンディショナー
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明の研磨用組成物のみならず、その製造方法やそれを用いた研磨方法にも適宜適用される。上述した本発明の構成に、以降に示す構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加することができる。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0021】
《砥粒》
本発明の研磨用組成物に係る砥粒は、主に無機原料を破砕した破砕粒子からなる。
(1)無機原料は、無機材料の塊(無機塊材)であり、その組成やサイズ等は問わない。この無機材料は、例えば、酸化ケイ素(シリカ等)、酸化ジルコニウム(ジルコニア等)、酸化アルミニウム(アルミナ等)、酸化鉄などである。
【0022】
もっとも、研磨性やコストの点で、無機原料は酸化ケイ素からなると好ましい。つまり、無機原料は、全体を100質量%としたときに、50質量%以上さらには80質量%以上の酸化ケイ素(特にSiO)成分を含む無機塊材(ガラス材)であるとよい。特にそのガラス材はSiO の塊である石英ガラスであると好ましい。このような石英ガラスのサイズや製法等は問わないが、例えば、鉱物として産出される石英ガラスの塊を数mm程度の粒径にまで粗粉砕して得られたものを用いると好ましい。
【0023】
なお、無機原料の種類によっては、破砕した無機原料の酸化被膜が破砕粒子の表面に形成されていてもよい。
【0024】
(2)本発明に係る破砕粒子は、高精度な研磨を効率的に行うために、体積平均粒径が5μm以下、4μm以下、3.5μm以下さらには3μm以下であると好ましい。その下限値は特に拘らないが、敢えていうと、体積平均粒径は0.01μm以上さらには0.1μm以上であると好ましい。特に、石英ガラスを破砕して得られる破砕シリカ粒子の場合、体積平均粒径が0.3〜3μmさらには0.5〜2.5μmであると好ましい。体積平均粒径が過小でも過大でも、研磨レートの低下や表面粗さの増大を招く。
【0025】
(3)このような破砕粒子の粒度調整は、例えば、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、振動ミル等を用いて無機原料を破砕することにより可能である(破砕工程)。中でも、ビーズミルを用いるのが好ましい。ビーズミルは、縦型でも横型でもよく、またスパイクミル(株式会社井上製作所製)等でもよい。ビーズミルを用いることにより、破砕粒子の粒度分布をシャープにし易い。無機原料の破砕は乾式でもよいが、粒径の均一化や微粒化を図り易い点で湿式の方が好ましい。
【0026】
ビーズミルに用いるビーズには、無機原料の材質(成分組成)、破砕粒子の所望する粒度等に応じて適宜選択されるが、例えば、ジルコニアビーズ、ケイ酸ジルコニウムビーズ、アルミナビーズなどの硬質なセラミックスビーズが好ましい。なかでも、比重が大きく粉砕効率が高いという点でジルコニアビーズまたはケイ酸ジルコニウムビーズが好ましい。このようにジルコニウムを含むセラミックスビーズを用いた場合、研磨用組成物全体を100質量%として、ジルコニウム(Zr)が5〜10000ppm(0.0005〜1質量%)含まれることになる。
【0027】
(4)本発明に係る破砕粒子は研磨レートを高めるため、本発明の研磨用組成物は、砥粒濃度が低くても高い研磨性を発揮し得る。例えば、研磨用組成物全体を100%としたとき、本発明の研磨用組成物は、砥粒(破砕粒子)濃度が25%以下、15%以下さらには5%以下でも十分な研磨性を発揮する。もっとも、砥粒濃度が過小では研磨レートの向上を図れないので、砥粒濃度は1%以上さらには2%以上が好ましい。
【0028】
(5)破砕粒子は、成分や粒度分布の異なる複数種の破砕粒子から構成されてもよい。砥粒全体も同様に、複数種の粒子から構成されてもよい。例えば、破砕粒子と、それと形態(さらには組成)の異なる粒子(例えば、球状粒子)とが混在した複合粒子から砥粒が構成されてもよい。
【0029】
砥粒が複合粒子から構成される場合、それら粒子の配合割合は任意である。もっとも、本発明に係る砥粒は主に破砕粒子からなるため、破砕粒子でない無機粒子は、砥粒全体を100質量%としたときに50質量%未満であることは勿論、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下さらには15質量%以下であると好適である。なお、いずれの粒子も、セリウムなどの希土類元素を含まない無機粒子から構成されると好ましい。
【0030】
《分散媒》
本発明の研磨用組成物は、上記の砥粒を分散媒に均一に分散させた懸濁液(研磨スラリー)からなる。この分散媒の種類やpHは破砕粒子や被研磨材の種類に応じて適宜選択される。もっとも分散媒はアルカリ性であると好ましく、pHでいうと7.5〜14、9〜12さらには9.5〜11.5であると好ましい。pHが過小(pH7近傍)では研磨レートおよび表面粗さの向上を図れず、pHが過大では研磨時の作業性が低下したり、研磨装置に特殊な加工(耐薬品性加工)が必要となって好ましくない。さらに砥粒の組成(例えば、酸化ケイ素の場合)によっては、pHが過大になると砥粒表面が溶解し易くなり、粒子形状の保持が困難となる。
【0031】
pH調整には、水酸化カリウム(KOH)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))などを用いることができる。
【0032】
水系分散媒を用いる場合、被研磨材の汚染を抑止するために、不純なイオンなどを除去しイオン交換水を用いると好ましい。分散媒は、上述したpH調整剤の他、適宜、砥粒分散剤、キレート剤、酸化剤などの1種以上からなる添加剤を含有した混合液でもよい。なお、破砕粒子の分散媒への分散は、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の種々の攪拌装置により行える(分散工程)。
【0033】
《研磨方法》
本発明の研磨方法は、主にスラリー供給工程と研磨工程とからなる。
(1)スラリー供給工程
スラリー供給工程は、上述した研磨用組成物(研磨スラリー)を研磨パッド上に供給する工程である。この工程は、研磨スラリーを研磨パッド上に滴下する工程でも、研磨スラリーを研磨パッド上に噴霧する工程でも、研磨パッドを研磨スラリー中に浸漬する工程でもよい。
【0034】
(2)研磨工程
研磨工程は、供給された研磨スラリー中の砥粒を内包した研磨パッドと被研磨材とが相対的に摺動して、研磨面が形成される工程である。被研磨材を研磨パッド上へ押圧する圧力、研磨パッドと被研磨材との相対速度(相対回転数)などは、被研磨材の種類、研磨スラリーの構成、研磨面に要求される精度、タスクタイムなどにより適宜調整される。
【0035】
(3)研磨装置
このような本発明の研磨方法は、例えば、図2に概要を示すような研磨装置Kにより行うことができる。この研磨装置Kは、円盤状の定盤10と、この定盤10の上方に設けられ、保持材を介して被研磨材である円板状のウエハWを保持するヘッド20と、定盤10上に着脱自在に固定された研磨パッドPの表面を目立てする可動円板状のコンディショナー30と、研磨スラリー(または研磨液)Lを供給する滴下ノズル40とから主に構成される。
【0036】
ここで定盤10およびヘッド20は、それぞれモータ駆動されて、垂直な軸心まわりに回転し得る。これらの回転方向は変更可能であるが、例えば、図2に矢印方向で示した方向へ回転する。またコンディショナー30は、ロッド31の先端に枢支されており、自転しつつ研磨パッドP上を往復動し得る。
【0037】
この研磨装置Kを稼働させると、滴下された研磨スラリーLを含浸した研磨パッドPが定盤10と共に回転する。この回転する研磨パッドP上を、ヘッド20により押圧されたウエハWが自転しつつ摺動する。こうして、ウエハWの研磨面が、研磨パッドPに内包された砥粒によって徐々に研磨される。なお、コンディショナー30が研磨パッドP上を往復動することにより研磨パッドPの表面状態が常時整えられ、ウエハWの研磨面のプラナリティ、均一性、スクラッチフリーなどの研磨品質の安定化が図られる。
【0038】
《被研磨材》
被研磨材は、その種類や形態を特に問わないが、例えば、一般的なガラス、ディスプレー用パネル、電子デバイス基板(ウエハ)等である。より具体的には、SiO、NaCO、CaCO等からなる各種ガラス、シリコン、窒化物(GaN等)、炭化物(SiC等)等からなる各種基板などが被研磨材として挙げられる。
【実施例】
【0039】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《研磨スラリーの調製》
(1)砥粒
破砕粒子からなる砥粒は次のようにして得た。先ず、無機原料(無機塊材)である石英ガラスを乾式ボールミルで数100μm程度まで粗粉砕した。次に、その破砕片を横型湿式ビーズミルにより微粉砕した(粉砕工程)。こうして表1に示す粒度調整された各種の破砕シリカ粒子(粉末)を得た。
【0040】
なお表1中、体積平均粒径が1μmの破砕粒子はジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製/粒度1mm)を用いた湿式粉砕により、体積平均粒径が2μmの破砕粒子はケイ酸ジルコニウムビーズ(マテリアルサイエンス株式会社製/粒度1mm)を用いた湿式粉砕により、体積平均粒径が7μmおよび50μmの破砕粒子はアルミナビーズ(株式会社ニッカトー社製/粒度5mm)を用いた乾式粉砕により、それぞれ得た。
【0041】
また、表1中の球状粒子(体積平均粒径:1μm)には、真球状シリカ粒子(株式会社アドマテックス製:SO−C4)を用いた。
【0042】
さらに、表1の試料No.1に示した破砕粒子の10質量%を、上記の真球状シリカ粒子で置換した複合粒子からなる砥粒も用意した(試料No.7)。
【0043】
(2)分散
表1に示す各砥粒を、表1に示すpH調整剤により予めpH調整したイオン交換水(アルカリ性分散媒)中に入れて分散させた。こうして表1に示した各砥粒濃度の研磨スラリーを調製した(分散工程)。なお、砥粒の分散にはホモミキサーを用いた。
【0044】
《研磨》
(1)被研磨材
表1に示す各研磨スラリーを用いて、被研磨材であるソーダガラス(直径50mm、厚み2mmを研磨した。なお、研磨前に、ソーダガラスの表面を予めサンドペーパー(#400)ですりガラス状に粗らしておいた。
【0045】
(2)研磨
図2に示すような片面研磨装置(株式会社エム・エー・ティ社製、BC−15)を用いて、各研磨スラリーを25cc/minの割合で、ウレタン樹脂製の研磨パッド(九重電気株式会社製、KSP66A)上に滴下させた(スラリー供給工程)。この研磨パッド上で、上記のソーダガラスを押圧しつつ摺動させた(研磨工程)。
【0046】
このとき、研磨スラリーを内包した研磨パッドと被研磨材であるソーダガラスとの間の面圧は約140g/cm、研磨パッドの回転数は60r.p.m.とした。これを30分間行った。
【0047】
《測定》
(1)研磨レート
各被研磨材(ソーダガラス)の質量を、研磨前および研磨後に測定した。研磨前後の質量変化をソーダガラスの断面積で除して、被研磨材の厚みの減少量に換算した研磨レート(μm/min)を求めた。この結果を表1に併せて示した。
【0048】
(2)表面粗さ
研磨後のソーダガラスの表面を、表面粗さ計(株式会社東京精密社製サーフコム480A)により測定し、平均線粗さRa値を求めた。この結果を表1に併せて示した。ちなみに、研磨前のソーダガラスの表面粗さはRaで約0.2〜0.3μm程度であった。
【0049】
《研磨性の評価》
(1)表1に示した試料No.1〜6から明らかなように、体積平均粒径が1μmまたは2μmの破砕粒子からなる砥粒を用いた場合、表面粗さは小さく安定しており、かつ、高い研磨レートが確保されている。つまり、本発明に係る研磨スラリーによれば、試料No.5および試料No.6のように砥粒が多い場合は勿論、試料No.1〜4のように砥粒濃度が3質量%程度の場合でも、高精度の研磨と高効率の研磨が高次元で両立されることがわかる。この傾向は複合粒子からなる砥粒を用いた場合でも同様であった。
【0050】
一方、試料No.C5および試料No.C6のように、破砕粒子を用いてもその体積平均粒径が5μmより大きいと、表面粗さが急激に悪化し(大きくなり)、かつ研磨レートも低くなった。
【0051】
また試料No.C3のように、体積平均粒径が1μmの球状粒子からなる砥粒を用いた場合、表面粗さは良好でも、研磨レートは0.3μm/min未満と小さくなった。その砥粒濃度を20質量%にまで増加させても(試料No.C4)、やはり研磨レートは高々0.4μm/min未満に過ぎず、球状粒子からなる砥粒では効率的な研磨が困難であることがわかった。
【0052】
(2)もっとも、表1に示した試料No.1と試料No.C1とを比較すると明らかなように、同じ破砕粒子からなる砥粒を用いた場合でも、研磨スラリー(分散媒)が酸性(pHが7未満)であると、表面粗さが悪化し、研磨レートも低くなった。この傾向は、同じ体積平均粒径の球状粒子を用いた場合(試料No.C2と試料No.C3)でも同様であった。従って、高精度で高効率な研磨を行うには、研磨スラリー(分散媒)がアルカリ性、さらにはpH9以上であると好ましいことがわかる。ちなみに、この傾向は砥粒との相関で定まり、被研磨材の種類には基本的に影響されないと考えられる。
【0053】
(3)さらに試料No.7のように、複合粒子からなる砥粒を用いた場合でも、表面粗さは良好であり、しかも研磨レートは破砕粒子からなる砥粒を用いた場合(試料No.1)よりも、僅かながら向上した。これは、砥粒中に球状粒子(真球状シリカ粒子)が混在することにより、砥粒全体の分散性が向上し、被研磨材と研磨パッドとの加工領域へ砥粒が進入し易くなったためと考えられる。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と該砥粒を分散させる分散媒とからなり、被研磨材の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
前記砥粒は、無機原料を破砕した体積平均粒径が0.01〜5μmの破砕粒子からなり、
前記分散媒はアルカリ性分散媒であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記破砕粒子は、体積平均粒径が0.1〜3μmであり、
前記アルカリ性分散媒は、pHが9〜12の水からなる請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記無機材料は、全体を100質量%としたときに、酸化ケイ素成分を50質量%以上含むガラス材からなる請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記ガラス材は、石英ガラスである請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
ジルコニウム(Zr)を5〜10000ppm含む請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒は、前記破砕粒子と異なる1種以上の無機粒子をさらに含む複合粒子からなる請求項1〜5のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記無機粒子は、球状粒子からなる請求項6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記無機粒子は、前記砥粒全体を100質量%としたときに40質量%以下である請求項6または7に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記被研磨材は、ガラス、窒化物または炭化物である請求項1〜5のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項10】
無機原料を破砕して体積平均粒径が0.01〜5μmの破砕粒子を得る破砕工程と、
該破砕粒子をアルカリ性分散媒へ分散させる分散工程とからなり、
請求項1の研磨用組成物が得られることを特徴とする研磨用組成物の製造方法。
【請求項11】
研磨スラリーを研磨パッド上に供給するスラリー供給工程と、
該研磨スラリーの供給された研磨パッドにより被研磨材を研磨する研磨工程と、
を備える研磨方法であって、
前記研磨スラリーは、請求項1〜8のいずれかに記載の研磨用組成物からなることを特徴とする研磨方法。

【図2】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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