砕石詰袋及びこれを用いた砕石収容体
【課題】鉄道用道床の敷設等に用いられる砕石詰袋及びこれを用いた砕石収容体において、該砕石詰袋の耐破断に係わる耐衝撃性及び耐変形に係わる形状安定性に優れるとともに、実用上十分な耐紫外線性の向上を得る。
【解決手段】砕石詰袋1のネット材2を構成する繊維の少なくとも一部として高強力繊維を用いるとともに、該ネット材2にラッセル網を用い、そのラッセル網の編目を菱目状に形成し、該砕石詰袋1に砕石3を詰めることで砕石収容体1’を構成する。
【解決手段】砕石詰袋1のネット材2を構成する繊維の少なくとも一部として高強力繊維を用いるとともに、該ネット材2にラッセル網を用い、そのラッセル網の編目を菱目状に形成し、該砕石詰袋1に砕石3を詰めることで砕石収容体1’を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砕石を詰めて鉄道用道床の敷設等に用いられる砕石詰袋及びこれを用いた砕石収容体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道の線路としては、硬く締めた盛土の上に、台形等の所定断面形状の床状構造となるように砕石を敷き詰めて道床を敷設し、その上に枕木を並べてレールを固定する構造が広く用いられている。
【0003】
ところで、有道床軌道においては、道床表面付近で個々の砂利や砕石等が移動しやすく、また、地震等の災害による道床の変状が発生するおそれがあるため、バラスト(砕石)止め工として、道床ののり尻部の一部を削って鉄筋コンクリートの擁壁を構築する場合があるが、コンクリート擁壁の構築には多大な労力と費用を要するとともに、旅客列車のみならず貨物列車も走行する場合には、真夜中等の短時間しか作業することができず、工事における時間的な制約もあった。
【0004】
そこで、少なくとも上面及び下面がネット状に構成された袋に砕石を詰めて積み重ねることにより、砕石を詰袋ごとに拘束し、地震等の災害でも容易に変状することのない道床を敷設する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−274627号公報
【特許文献2】実用新案登録第2593881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の砕石詰袋はポリエチレンやナイロン等の汎用繊維からなるため(例えば、特許文献2参照)、砕石を詰めて積み重ねる際、砕石との接触によりネットが破断しやすいという問題点があった。また、積み重ねた状態での安定性を確保するため、詰袋に砕石を詰めたものは一定の形状を保持する必要があるが、汎用繊維は荷重下で伸びやすいため、砕石の重量でネットの形状が変形しやすく、形状安定性に劣るという問題点もあった。
【0007】
より詳細に説明すると、砕石詰袋敷設工事では、砕石を詰めた袋は、単に積み上げただけでは、鉄道車両からレールに伝達されて道床に作用する水平方向力(以下、「道床横抵抗力」という。)が不足する。このため、振動コンパクタ(アスファルト舗装の締め固め等にも用いる機器)により、砕石を詰めた袋に振動を付加して締め固め(以下、「転圧」という。)作業を十分に行なう必要がある。この作業では袋に激しい衝撃が加えられ、袋の構成や構造が不適切な場合には、袋に多くの傷が入り、破損した箇所から砕石がこぼれ出して、砕石を袋詰めしたことによる形状保持の効果が保てなくなる場合がある。袋を破損しないように振動コンパクタでの転圧を弱くすると、道床横抵抗力が不足し、線路軌道の変状が生じるおそれがある。これを防ぐためには、袋の耐衝撃性を高めることと袋の保形性を高めることが効果的であることを見出した。
【0008】
ここで、袋の耐衝撃性とは、砕石を入れた袋を線路に沿って並べた上部を、締め固め作業で使用するいわゆるプレートコンパクタと称する機械で衝撃を与えながら締め固めていく作業において、この時に袋がプレートコンパクタのプレート状の金属部分と砕石の角で強く挟まれることに袋が耐え得るか否かということである。
【0009】
また、袋の保形性とは、砕石を詰めた袋を敷き詰める作業において、円筒状の容器に一定量の砕石を秤量した後、同容器の上部に袋を被せ、反転させて袋に砕石を落下させて袋に砕石を充填する方法が採用されているが、もし砕石の重量により袋が歪な充填形状となった場合には敷き詰め作業により袋を整然と並べることができず、さらに後のプレートコンパクタ作業において袋の特定個所が集中的に衝撃を受け、袋が傷付き易くなることから、砕石を充填した際に、袋が歪な形状とならずに一定にブロック状を保っているということを意味している。従って、袋が保形性を有しているということは、単に袋を敷き詰め易いということを意味するだけではなく、袋が傷つきにくいということにも繋がる、砕石詰袋敷設工事においての重要課題である。
【0010】
袋の保形性を得るためには、袋を構成する繊維として高強力繊維を用いればよいということが考えられるが、単に高強力繊維を用いただけでは耐衝撃性及び形状安定性が充分なものは得られず、袋の構造によっては、高強力繊維の有する優れた特性を充分に発揮できないことを本発明者等は見出した。さらに、一般的に高強度繊維は、素材が高分子材料であり、耐紫外線性に劣るとされているが、鉄道用道床に用いられる場合には、長期使用を前提とすることから、袋には耐紫外線性も要求されることとなる。
【0011】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐衝撃性、形状安定性に優れ、さらに実用上十分な耐紫外線性を有する砕石詰袋及びこれを用いた砕石収容体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前記目的を達成するために、砕石が詰められる袋状物からなる砕石詰袋において、前記袋状物を構成する繊維の少なくとも一部に高強力繊維を用いるとともに、前記袋状物の少なくとも一部をラッセル網によって構成し、そのラッセル網の編目を菱目状に形成している。
【0013】
このように、袋状物を構成する繊維の少なくとも一部に高強力繊維が用いられるとともに、かつ袋状物の少なくとも一部にラッセル網が用いられ、その編目が菱目状となるように形成されていることから、耐衝撃性及び形状安定性が高められ、さらに耐紫外線劣化性に関しても実用上十分な耐紫外線劣化性が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐衝撃性及び形状安定性を高めることができ、さらに耐紫外線性も十分な耐紫外線劣化性が得られるので、長期使用が可能な砕石詰袋が得られる。これにより、砕石詰袋を用いて道床の敷設を行う際、砕石詰袋の破断や同袋が歪な形状となることを少なくすることができ、道床の敷設における作業性の向上を図ることができ、かつそのような詰袋に砕石を充填した砕石収容体を鉄道用道床に敷設することにより、長期間に亘り鉄道用道床の変状を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示す砕石詰袋の正面図
【図2】ネット材を構成する網糸の拡大図
【図3】ネット材を構成する網糸の断面図
【図4】ネット材の部分拡大図
【図5】砕石を詰めた砕石詰袋の平面図
【図6】砕石詰袋を積み重ねた状態を示す斜視図
【図7】砕石詰袋を用いた道床の部分断面図
【図8】角目状の砕石詰袋の正面図
【図9】試験結果を示す図
【図10】試験結果を示すグラフ図
【図11】試験結果を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1乃至図11を参照し、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
同図に示す砕石詰袋1は、その少なくとも一端を開口した袋状物として、その少なくとも上面及び下面がネットによって構成されていることを特徴としており、ネット材2を構成する繊維には、少なくとも一部として高強力繊維が用いられ、特に高強力繊維と汎用繊維とを併用するのが好ましい。高強力繊維としては、アリレート繊維(溶融液晶性全芳香族ポリエステル繊維)、パラ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維)、カーボン繊維等が挙げられ、これらのうちの単一繊維または二種類以上が併用される。なかでもアリレート繊維が耐衝撃性に優れ、さらに吸水・吸湿がないことから物性変化が少ないことから特に好ましい。また、汎用繊維としては、通常の汎用合成繊維(例えば、ポリエチレンやポリプロピレンで代表されるポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートで代表されるポリエステル類、ナイロン6やナイロン66等で代表されるポリアミド類、アクリロニトリルやその共重合体で代表されるアクリル系、ポリビニルアルコール系等の樹脂からの合成繊維)、再生繊維(例えば、レーヨンや溶剤紡糸型セルロース繊維)、天然繊維(例えば、綿、麻)等が挙げられ、合成繊維の場合には単一ポリマーからなる繊維でも、あるいは二種以上のポリマーからなる複合繊維や混合紡糸繊維でもよい。さらにこれら汎用繊維としては、上記繊維のうちの単一繊維を用いたものであっても、あるいは二種類以上を併用したものであってもよい。特に、汎用繊維として、耐紫外線性に優れ、更に吸水・吸湿がないことから物性変化が少ない点でポリエチレン系繊維が好ましい。
【0018】
ここで、高強力繊維とは、引張強度が12cN/dtex以上の値を有する繊維であり、好ましくは15cN/dtex以上、35cN/dtex以下の引張強度を有するものである。また、汎用繊維とは、引張強度が12cN/dtex未満の値を有する繊維であり、特に2cN/dtex以上10cN/dtex以下の合成繊維を用いるのが経済性の面で好ましい。この場合、ネット材2には、高強力繊維と汎用繊維の合計重量に対する高強力繊維の重量の割合が10%以上70%以下で用いられるのが好ましい。また、高強力繊維の割合の上限値としては特に限定はないが、70%を越えるとコストが高くなる割に性能の向上が得られず、耐紫外線性も徐々に低下する。
【0019】
特に、高強力繊維として、単繊維繊度が細い繊維からなるマルチフィラメント糸、例えば単繊維繊度2dtex以上20dtex以下のフィラメントを例えば20本〜200本束ね、トータル繊度を200dtex以上1000dtex以下としたマルチフィラメント糸を用い、一方、汎用繊維として、高強力繊維より単繊維繊度の大きい繊維からなるフィラメント糸、例えば単繊維繊度100dtex以上2000dtex以下のモノフィラメント糸を用い、これらの糸からネットを形成するのが好ましい。具体的には、高強力繊維として上記マルチフィラメント糸を用い、また汎用繊維として上記モノフィラメント糸を複数本、例えば2本〜20本用い、これらを集束し、トータル繊度を2000dtex以上10000dtex以下とした糸でラッセル網を編むと、高強力繊維が鎖編の表面を覆うように存在し易くなり、高強力繊維による耐衝撃性がより高度に発現できることとなり、好ましい。
【0020】
一般に、ネットを構成する編地としては、大別して、もじ網、本目網、蛙股網、無結節網およびラッセル網等があるが、本実施形態ではラッセル網を用い、それを菱目網となるように袋状とすると、強度異方性が少なく、形状安定性に優れ、本発明の効果をより顕著に発現できる。
【0021】
ラッセル網からなるネット材2は、編目が菱目状となるように使用されるが、ネット材2は、図2に示すように、鎖編糸2aと、網の強力を補強する挿入糸2bとから編組される網糸2cからなる。この場合、鎖編糸2aは挿入糸2bを中に抱え込むように編組されるため、図3に示すように鎖編みでは鎖編糸2aが挿入糸2bの外側に配置される。従って、鎖編糸2aに高強力繊維を配することで編地が耐衝撃性に優れたものとなる。特に好ましくは、鎖編糸2aの15重量%以上が高強力繊維から構成されている場合である。そして、特に挿入糸2bとして汎用性繊維を用いるのが好ましい。
【0022】
ここで、砕石詰袋の道床敷設において、砕石の一部が砕石詰袋のネット孔から突出することにより、上下に隣接する砕石詰袋が噛み合い、これら砕石詰袋同士が道床の横断方向にずれにくくなるので、積み上げた砕石詰袋が変形しにくく、道床の変形が抑制される特徴がある(特許文献1参照)。そこで前述したように、鎖編糸2aに高強力繊維を配し、挿入糸2bを中に抱え込むように編組すると、砕石の一部が砕石詰袋1のネット孔から突出した状態で砕石の角が網糸2cに直接的に擦り付けられても、高強力繊維の耐切創性により、耐衝撃性に優れるという効果がある。
【0023】
尚、菱目とは、袋を広げた場合に袋の端部に対して、編目を構成する鎖編が斜めに存在していて、その結果、編目が袋端部に対して菱形配置となるように存在していることを意味している。
【0024】
菱目網を構成するラッセル網は、ネットの個々の編目の大きさを一辺10mm〜40mm程度とするのが耐衝撃性及び形状安定性の向上、さらに砕石がネットから抜けないことなどから好ましい。
【0025】
また、菱目網を構成するラッセル網は、図4に示すように、鎖編糸及び挿入糸からなる2本の網糸2cが交差して1本となって結節部2dを形成し、そしてこの結節部からまた2本の網糸2cに分かれることを繰り返すことにより目合いが形成され、その結果、目合いは菱目となり、この菱目の目合いが繰り返されて編地構造となる。
【0026】
本発明では、形状安定性の点で、2本の網糸2cが合わされて1本となっている部分、すなわち結節部2dの長さL1 を通常のラッセル網より長くするのが好ましく、具体的には、2本の網糸2cが独立して存在している部分(各結節部2dの間を斜めに結ぶ部分。以下、脚部2eという。)の個々の長さをL2 とした場合に、結節部2dの長さL1 と脚部2eの長さL2 との比L1 /L2 (以下、この比率を結節部長さ比という。)が0.4以上1.5以下、特に0.5以上1.2以下であるのが好ましい。結節部2dが長いと菱目より六角目に近い形状となるが、本発明では、六角目も含めて菱目状と称する。このように、各結節部2dの長さを長くすることによって、網糸2cが破断したときの袋の破損開口部が拡大しない特徴が得られる。また、強度異方性がなく、どの方向にも同じ引張強度を発揮することができる。
【0027】
以上のように構成された砕石詰袋1を用いて道床を敷設する場合は、砕石詰袋1に砕石3を詰めて、その少なくとも一端開口部を閉鎖することにより、ブロック状の砕石収容体1′(例えば、上面及び下面の一辺が400mmで高さが100mm)を形成し、これを地面4の上に並べて道床の法面部分を形成するとともに、法面部分の間にバラの砕石3を敷き詰めることにより道床5が敷設され、その上に枕木6を並べてレール7を固定することにより線路軌道が構築される。
【0028】
この線路軌道においては、その少なくとも上面及び下面がネット状の砕石詰袋1に砕石3を詰めた砕石収容体1′を積み重ねることにより道床5が形成されているため、バラの砕石3が各砕石詰袋1ごとに拘束され、地震等の災害でも道床5が容易に変状することがない。
【0029】
本発明の実施例1〜5及び比較例1〜2について、耐衝撃性(耐破断性、耐切創性)及び形状安定性の試験を行ったところ、図9の結果が得られた。本試験では、比較例1に汎用繊維のみを用い、実施例1〜5及び比較例2には、高強力繊維と汎用繊維を併用した。具体的には、高強力繊維として、アリレート繊維(引張強度:22cN/dtex、(株)クラレ製ベクトラン(登録商標)、単繊維繊度5.6dtexのフィラメントが100本集束したトータル繊度560dtexのマルチフィラメント糸)を用い、また汎用繊維として、ポリエチレン繊維(引張強度:3.0cN/dtex、単繊維繊度560dtexのモノフィラメント糸で繊維中にカーボンブラックを1.5重量%、市販の紫外線吸収剤を0.5重量%含む)をそれぞれ用いた。そして、実施例1〜5には高強力繊維が汎用繊維と高強力繊維の合計重量に対して10%以上の割合となるように用いられている。これら実施例および比較例において、鎖編糸として、あるいは挿入糸として、図9に記載の本数を引き揃えて鎖編みするとともに、編目の一辺が約25mmとなるように、さらに結節部長さ比が0.7となるようにラッセル製網し、形成されたラッセル網のネット材を用いた。
【0030】
尚、鎖編糸と挿入糸を1本ずつ用いて鎖編みした場合、図2のA−A断面のように挿入糸1本に対して鎖編糸3本分の編地構成となるため、例えば比較例1では、鎖編糸の高強力繊維(マルチフィラメント糸本数)が0本、鎖編糸の汎用繊維(モノフィラメント糸本数)が6本束×3=18本、挿入糸の高強力繊維が0本、鎖編糸の汎用繊維が6本束の合計24本の繊維からなる。また、比較例1及び実施例1〜5には編目を菱目状(図1参照)に形成したものを用いた。それに対し、比較例2の場合には、結節部が鎖編の交点のみの極めて短いラッセル網を用い、編目を角目状(図8参照)となるように製袋したものを用いた。
【0031】
耐破断性の試験では、JIS L1013法による引張試験により、鎖編みされた1本の繊維束の引張強力を測定し、引張強力が大きいほど優位性があるとして判定した。試験の結果、高強力繊維の割合が多くなるにしたがって耐破断性が高くなり、特に実施例1〜5がともに比較例1よりも優れているという結果が得られた。
【0032】
耐切創性の試験では、刃角度10゜に設定したカッターの刃に素材を当て、素材が完全に切断されるまでの引張強度(耐切創強力)を測定し、引張強度が大きいほど優位性があるとして判定した。試験の結果、実施例1〜5は比較例1よりも耐切創性に優れ、特に鎖編糸に高強力繊維を多く用いた実施例1〜3は、汎用繊維よりも耐切創強力の高い高強力繊維からなる鎖編糸が汎用繊維からなる挿入糸の外側に配置されるため、高強力繊維が同量用いられている他の実施例及び比較例1に対して耐切創性が格段に優れているという結果が得られた。
【0033】
形状安定性の試験では、砕石(粒径は、概ね20mm〜60mm)を入れた円筒形の容器(容量20リットル)にネット状の砕石詰袋を被せ、砕石詰袋ごと容器を反転させることにより容器内の砕石を砕石詰袋内に落下させ、砕石を収容した砕石詰袋の形状がブロック状の砕石収容体(上面及び下面の一辺が400mmで高さが100mm)の形状に近いか否かを外観を観察することによって行った。試験の結果、実施例1〜5はほぼブロック状に近い形状を保持したのに対し、比較例1は底面側が丸く広がったフラスコ状の形状となり、また比較例2は目ズレを生じたことから、実施例1〜5は比較例1〜2よりも形状安定性に優れているという結果が得られた。
【0034】
耐紫外線性の試験では、JIS L1096「一般織物試験」の6.30.1に準じ、耐候性試験機(スーパーキセノンウェザーメーター)を用いた促進曝露試験を行い、比較例1及び実施例1について促進曝露時間に対する引張強力及び耐切創強力を測定し(試験方法は前記耐破断性及び前記耐切創性の試験と同様)、図10及び図11の試験結果のグラフにより評価した。試験の結果、耐破断性については、図10に示すように比較例1(図中破線)及び実施例1(図中実線)は共に促進曝露時間の経過に伴って引張強力が低下するが、実施例1は常に比較例1よりも高い引張強力を維持しており、実施例1は比較例1よりも耐紫外線性における耐破断性に優れているという結果が得られた。尚、実施例1は促進曝露時間5000時間において、試験開始直後と比較して60%以上の引張強度を維持しており、実用上十分な耐紫外線性を有している。このことから、長期間の道床敷設において残存強度が目安として初期状態の50%を下回らないようにするためには、実施例1の高強力繊維の重量比の割合が好適であることの結果が得られた。
【0035】
また、耐切創性については、図11に示すように比較例1(図中破線)は試験開始初期には、砕石詰袋の敷設施工時の転圧作業に耐え得る程度の高い耐切創強力を有しており、促進曝露時間の経過に伴って耐切創強力は低下するものの、長期間にわたり比較例1(図中破線)を下回ることがないという結果が得られた。この場合、砕石詰袋の敷設施工時のプレートコンパクタによる転圧作業に耐えるため、耐切創性の高い高強力繊維を砕石詰袋の一部に使用しており、これにより敷設後は高強力繊維が紫外線劣化により耐切創性が低下するが、汎用繊維を砕石詰袋の一部に使用することから、汎用繊維の耐切創性が維持され、砕石詰袋の長期間の耐久性を確保することができる。
【0036】
このように、本実施形態によれば、ネット材2を構成する繊維の少なくとも一部として高強力繊維を用いるとともに、ネット材2としてラッセル網を用い、そのラッセル網の編目を菱目状に形成したので、耐衝撃性及び形状安定性に優れ、さらに耐紫外線性においても実用上十分な性能が得られ、丈夫で形状安定性及び耐久性に優れた砕石詰袋1を構成することができる。これにより、砕石詰袋1を用いて道床5の敷設を行う際、砕石詰袋1の破断や変形を少なくすることができ、道床5の敷設における作業性の向上を図ることができる。
【0037】
この場合、ネット材2を高強力繊維と汎用繊維とから形成し、高強力繊維と汎用繊維の合計重量に対する高強力繊維の割合を10%以上としたので、耐衝撃性、形状安定性及び耐紫外線性の向上に極めて有利である。また、高強力繊維と汎用繊維の合計重量に対する高強力繊維の割合を70%以下としたので、コストが高くならずに十分な性能の向上を得ることができ、実用化に際して極めて有利である。
【0038】
更に、ネット材2の菱目を鎖編糸2aと挿入糸2bとから編組される編地によって形成し、鎖編糸2aに高強力繊維を用いることにより、汎用繊維2bよりも引張強力の高い高強力繊維からなる鎖編糸2aを汎用繊維からなる挿入糸2bの外側に配置することができるので、より一層の耐衝撃性向上に極めて有利である。
【0039】
また、前記砕石詰袋1に難燃性を有するネット材2を用いるようにしてもよい。これにより、例えば不用意なタバコの投げ捨てなど、線路上または線路脇で発火が生じた場合でも、砕石詰袋1のネット材2への類焼を防止することができるので、防火対策に極めて有利である。この場合、ネット材2の汎用繊維に、例えば難燃ポリエチレン、塩化ビニリデン、難燃ポリエステル、難燃ビニロン、難燃レーヨン等の難燃性素材を用いたり、あるいは高強力繊維の中でも、難燃性または耐熱性に優れるアリレート繊維、アラミド繊維、PBO繊維等を用いることにより、ネット材2に難燃性や耐熱性を付与することができる。また、ネット材2に、例えばアンチモン系やリン系の難燃剤を後加工でコーティングまたはディッピングすることにより、ネット材2に難燃性を付与することもできる。
【0040】
さらに、より一層、耐紫外線性を高めるために、ネット構成繊維に紫外線吸収剤を練り込んだものやカーボンブラックで代表される顔料等を練り込んだもの、あるいは繊維表面やネット表面に紫外線吸収剤や顔料を含有する塗料等を塗付したものでもよい。
【0041】
尚、前記実施形態では、袋状物としてネット材2を用いたものを示したが、片面のみがネット状の袋状物や土嚢袋状の袋状物であってもよい。
【0042】
また、前記実施形態では、砕石詰袋1を鉄道用道床5の敷設に用いる場合を示したが、例えば自動車用道路の盛土または切取法面等、他の用途に用いることも可能である。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、他の様々な態様にて実施することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…砕石詰袋、1′…砕石収容体、2…ネット材、2a…鎖編糸、2b…挿入糸、2c…網糸、2d…結節部、2e…脚部、3…砕石、5…道床。
【技術分野】
【0001】
本発明は、砕石を詰めて鉄道用道床の敷設等に用いられる砕石詰袋及びこれを用いた砕石収容体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道の線路としては、硬く締めた盛土の上に、台形等の所定断面形状の床状構造となるように砕石を敷き詰めて道床を敷設し、その上に枕木を並べてレールを固定する構造が広く用いられている。
【0003】
ところで、有道床軌道においては、道床表面付近で個々の砂利や砕石等が移動しやすく、また、地震等の災害による道床の変状が発生するおそれがあるため、バラスト(砕石)止め工として、道床ののり尻部の一部を削って鉄筋コンクリートの擁壁を構築する場合があるが、コンクリート擁壁の構築には多大な労力と費用を要するとともに、旅客列車のみならず貨物列車も走行する場合には、真夜中等の短時間しか作業することができず、工事における時間的な制約もあった。
【0004】
そこで、少なくとも上面及び下面がネット状に構成された袋に砕石を詰めて積み重ねることにより、砕石を詰袋ごとに拘束し、地震等の災害でも容易に変状することのない道床を敷設する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−274627号公報
【特許文献2】実用新案登録第2593881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の砕石詰袋はポリエチレンやナイロン等の汎用繊維からなるため(例えば、特許文献2参照)、砕石を詰めて積み重ねる際、砕石との接触によりネットが破断しやすいという問題点があった。また、積み重ねた状態での安定性を確保するため、詰袋に砕石を詰めたものは一定の形状を保持する必要があるが、汎用繊維は荷重下で伸びやすいため、砕石の重量でネットの形状が変形しやすく、形状安定性に劣るという問題点もあった。
【0007】
より詳細に説明すると、砕石詰袋敷設工事では、砕石を詰めた袋は、単に積み上げただけでは、鉄道車両からレールに伝達されて道床に作用する水平方向力(以下、「道床横抵抗力」という。)が不足する。このため、振動コンパクタ(アスファルト舗装の締め固め等にも用いる機器)により、砕石を詰めた袋に振動を付加して締め固め(以下、「転圧」という。)作業を十分に行なう必要がある。この作業では袋に激しい衝撃が加えられ、袋の構成や構造が不適切な場合には、袋に多くの傷が入り、破損した箇所から砕石がこぼれ出して、砕石を袋詰めしたことによる形状保持の効果が保てなくなる場合がある。袋を破損しないように振動コンパクタでの転圧を弱くすると、道床横抵抗力が不足し、線路軌道の変状が生じるおそれがある。これを防ぐためには、袋の耐衝撃性を高めることと袋の保形性を高めることが効果的であることを見出した。
【0008】
ここで、袋の耐衝撃性とは、砕石を入れた袋を線路に沿って並べた上部を、締め固め作業で使用するいわゆるプレートコンパクタと称する機械で衝撃を与えながら締め固めていく作業において、この時に袋がプレートコンパクタのプレート状の金属部分と砕石の角で強く挟まれることに袋が耐え得るか否かということである。
【0009】
また、袋の保形性とは、砕石を詰めた袋を敷き詰める作業において、円筒状の容器に一定量の砕石を秤量した後、同容器の上部に袋を被せ、反転させて袋に砕石を落下させて袋に砕石を充填する方法が採用されているが、もし砕石の重量により袋が歪な充填形状となった場合には敷き詰め作業により袋を整然と並べることができず、さらに後のプレートコンパクタ作業において袋の特定個所が集中的に衝撃を受け、袋が傷付き易くなることから、砕石を充填した際に、袋が歪な形状とならずに一定にブロック状を保っているということを意味している。従って、袋が保形性を有しているということは、単に袋を敷き詰め易いということを意味するだけではなく、袋が傷つきにくいということにも繋がる、砕石詰袋敷設工事においての重要課題である。
【0010】
袋の保形性を得るためには、袋を構成する繊維として高強力繊維を用いればよいということが考えられるが、単に高強力繊維を用いただけでは耐衝撃性及び形状安定性が充分なものは得られず、袋の構造によっては、高強力繊維の有する優れた特性を充分に発揮できないことを本発明者等は見出した。さらに、一般的に高強度繊維は、素材が高分子材料であり、耐紫外線性に劣るとされているが、鉄道用道床に用いられる場合には、長期使用を前提とすることから、袋には耐紫外線性も要求されることとなる。
【0011】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐衝撃性、形状安定性に優れ、さらに実用上十分な耐紫外線性を有する砕石詰袋及びこれを用いた砕石収容体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前記目的を達成するために、砕石が詰められる袋状物からなる砕石詰袋において、前記袋状物を構成する繊維の少なくとも一部に高強力繊維を用いるとともに、前記袋状物の少なくとも一部をラッセル網によって構成し、そのラッセル網の編目を菱目状に形成している。
【0013】
このように、袋状物を構成する繊維の少なくとも一部に高強力繊維が用いられるとともに、かつ袋状物の少なくとも一部にラッセル網が用いられ、その編目が菱目状となるように形成されていることから、耐衝撃性及び形状安定性が高められ、さらに耐紫外線劣化性に関しても実用上十分な耐紫外線劣化性が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐衝撃性及び形状安定性を高めることができ、さらに耐紫外線性も十分な耐紫外線劣化性が得られるので、長期使用が可能な砕石詰袋が得られる。これにより、砕石詰袋を用いて道床の敷設を行う際、砕石詰袋の破断や同袋が歪な形状となることを少なくすることができ、道床の敷設における作業性の向上を図ることができ、かつそのような詰袋に砕石を充填した砕石収容体を鉄道用道床に敷設することにより、長期間に亘り鉄道用道床の変状を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示す砕石詰袋の正面図
【図2】ネット材を構成する網糸の拡大図
【図3】ネット材を構成する網糸の断面図
【図4】ネット材の部分拡大図
【図5】砕石を詰めた砕石詰袋の平面図
【図6】砕石詰袋を積み重ねた状態を示す斜視図
【図7】砕石詰袋を用いた道床の部分断面図
【図8】角目状の砕石詰袋の正面図
【図9】試験結果を示す図
【図10】試験結果を示すグラフ図
【図11】試験結果を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1乃至図11を参照し、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
同図に示す砕石詰袋1は、その少なくとも一端を開口した袋状物として、その少なくとも上面及び下面がネットによって構成されていることを特徴としており、ネット材2を構成する繊維には、少なくとも一部として高強力繊維が用いられ、特に高強力繊維と汎用繊維とを併用するのが好ましい。高強力繊維としては、アリレート繊維(溶融液晶性全芳香族ポリエステル繊維)、パラ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維)、カーボン繊維等が挙げられ、これらのうちの単一繊維または二種類以上が併用される。なかでもアリレート繊維が耐衝撃性に優れ、さらに吸水・吸湿がないことから物性変化が少ないことから特に好ましい。また、汎用繊維としては、通常の汎用合成繊維(例えば、ポリエチレンやポリプロピレンで代表されるポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートで代表されるポリエステル類、ナイロン6やナイロン66等で代表されるポリアミド類、アクリロニトリルやその共重合体で代表されるアクリル系、ポリビニルアルコール系等の樹脂からの合成繊維)、再生繊維(例えば、レーヨンや溶剤紡糸型セルロース繊維)、天然繊維(例えば、綿、麻)等が挙げられ、合成繊維の場合には単一ポリマーからなる繊維でも、あるいは二種以上のポリマーからなる複合繊維や混合紡糸繊維でもよい。さらにこれら汎用繊維としては、上記繊維のうちの単一繊維を用いたものであっても、あるいは二種類以上を併用したものであってもよい。特に、汎用繊維として、耐紫外線性に優れ、更に吸水・吸湿がないことから物性変化が少ない点でポリエチレン系繊維が好ましい。
【0018】
ここで、高強力繊維とは、引張強度が12cN/dtex以上の値を有する繊維であり、好ましくは15cN/dtex以上、35cN/dtex以下の引張強度を有するものである。また、汎用繊維とは、引張強度が12cN/dtex未満の値を有する繊維であり、特に2cN/dtex以上10cN/dtex以下の合成繊維を用いるのが経済性の面で好ましい。この場合、ネット材2には、高強力繊維と汎用繊維の合計重量に対する高強力繊維の重量の割合が10%以上70%以下で用いられるのが好ましい。また、高強力繊維の割合の上限値としては特に限定はないが、70%を越えるとコストが高くなる割に性能の向上が得られず、耐紫外線性も徐々に低下する。
【0019】
特に、高強力繊維として、単繊維繊度が細い繊維からなるマルチフィラメント糸、例えば単繊維繊度2dtex以上20dtex以下のフィラメントを例えば20本〜200本束ね、トータル繊度を200dtex以上1000dtex以下としたマルチフィラメント糸を用い、一方、汎用繊維として、高強力繊維より単繊維繊度の大きい繊維からなるフィラメント糸、例えば単繊維繊度100dtex以上2000dtex以下のモノフィラメント糸を用い、これらの糸からネットを形成するのが好ましい。具体的には、高強力繊維として上記マルチフィラメント糸を用い、また汎用繊維として上記モノフィラメント糸を複数本、例えば2本〜20本用い、これらを集束し、トータル繊度を2000dtex以上10000dtex以下とした糸でラッセル網を編むと、高強力繊維が鎖編の表面を覆うように存在し易くなり、高強力繊維による耐衝撃性がより高度に発現できることとなり、好ましい。
【0020】
一般に、ネットを構成する編地としては、大別して、もじ網、本目網、蛙股網、無結節網およびラッセル網等があるが、本実施形態ではラッセル網を用い、それを菱目網となるように袋状とすると、強度異方性が少なく、形状安定性に優れ、本発明の効果をより顕著に発現できる。
【0021】
ラッセル網からなるネット材2は、編目が菱目状となるように使用されるが、ネット材2は、図2に示すように、鎖編糸2aと、網の強力を補強する挿入糸2bとから編組される網糸2cからなる。この場合、鎖編糸2aは挿入糸2bを中に抱え込むように編組されるため、図3に示すように鎖編みでは鎖編糸2aが挿入糸2bの外側に配置される。従って、鎖編糸2aに高強力繊維を配することで編地が耐衝撃性に優れたものとなる。特に好ましくは、鎖編糸2aの15重量%以上が高強力繊維から構成されている場合である。そして、特に挿入糸2bとして汎用性繊維を用いるのが好ましい。
【0022】
ここで、砕石詰袋の道床敷設において、砕石の一部が砕石詰袋のネット孔から突出することにより、上下に隣接する砕石詰袋が噛み合い、これら砕石詰袋同士が道床の横断方向にずれにくくなるので、積み上げた砕石詰袋が変形しにくく、道床の変形が抑制される特徴がある(特許文献1参照)。そこで前述したように、鎖編糸2aに高強力繊維を配し、挿入糸2bを中に抱え込むように編組すると、砕石の一部が砕石詰袋1のネット孔から突出した状態で砕石の角が網糸2cに直接的に擦り付けられても、高強力繊維の耐切創性により、耐衝撃性に優れるという効果がある。
【0023】
尚、菱目とは、袋を広げた場合に袋の端部に対して、編目を構成する鎖編が斜めに存在していて、その結果、編目が袋端部に対して菱形配置となるように存在していることを意味している。
【0024】
菱目網を構成するラッセル網は、ネットの個々の編目の大きさを一辺10mm〜40mm程度とするのが耐衝撃性及び形状安定性の向上、さらに砕石がネットから抜けないことなどから好ましい。
【0025】
また、菱目網を構成するラッセル網は、図4に示すように、鎖編糸及び挿入糸からなる2本の網糸2cが交差して1本となって結節部2dを形成し、そしてこの結節部からまた2本の網糸2cに分かれることを繰り返すことにより目合いが形成され、その結果、目合いは菱目となり、この菱目の目合いが繰り返されて編地構造となる。
【0026】
本発明では、形状安定性の点で、2本の網糸2cが合わされて1本となっている部分、すなわち結節部2dの長さL1 を通常のラッセル網より長くするのが好ましく、具体的には、2本の網糸2cが独立して存在している部分(各結節部2dの間を斜めに結ぶ部分。以下、脚部2eという。)の個々の長さをL2 とした場合に、結節部2dの長さL1 と脚部2eの長さL2 との比L1 /L2 (以下、この比率を結節部長さ比という。)が0.4以上1.5以下、特に0.5以上1.2以下であるのが好ましい。結節部2dが長いと菱目より六角目に近い形状となるが、本発明では、六角目も含めて菱目状と称する。このように、各結節部2dの長さを長くすることによって、網糸2cが破断したときの袋の破損開口部が拡大しない特徴が得られる。また、強度異方性がなく、どの方向にも同じ引張強度を発揮することができる。
【0027】
以上のように構成された砕石詰袋1を用いて道床を敷設する場合は、砕石詰袋1に砕石3を詰めて、その少なくとも一端開口部を閉鎖することにより、ブロック状の砕石収容体1′(例えば、上面及び下面の一辺が400mmで高さが100mm)を形成し、これを地面4の上に並べて道床の法面部分を形成するとともに、法面部分の間にバラの砕石3を敷き詰めることにより道床5が敷設され、その上に枕木6を並べてレール7を固定することにより線路軌道が構築される。
【0028】
この線路軌道においては、その少なくとも上面及び下面がネット状の砕石詰袋1に砕石3を詰めた砕石収容体1′を積み重ねることにより道床5が形成されているため、バラの砕石3が各砕石詰袋1ごとに拘束され、地震等の災害でも道床5が容易に変状することがない。
【0029】
本発明の実施例1〜5及び比較例1〜2について、耐衝撃性(耐破断性、耐切創性)及び形状安定性の試験を行ったところ、図9の結果が得られた。本試験では、比較例1に汎用繊維のみを用い、実施例1〜5及び比較例2には、高強力繊維と汎用繊維を併用した。具体的には、高強力繊維として、アリレート繊維(引張強度:22cN/dtex、(株)クラレ製ベクトラン(登録商標)、単繊維繊度5.6dtexのフィラメントが100本集束したトータル繊度560dtexのマルチフィラメント糸)を用い、また汎用繊維として、ポリエチレン繊維(引張強度:3.0cN/dtex、単繊維繊度560dtexのモノフィラメント糸で繊維中にカーボンブラックを1.5重量%、市販の紫外線吸収剤を0.5重量%含む)をそれぞれ用いた。そして、実施例1〜5には高強力繊維が汎用繊維と高強力繊維の合計重量に対して10%以上の割合となるように用いられている。これら実施例および比較例において、鎖編糸として、あるいは挿入糸として、図9に記載の本数を引き揃えて鎖編みするとともに、編目の一辺が約25mmとなるように、さらに結節部長さ比が0.7となるようにラッセル製網し、形成されたラッセル網のネット材を用いた。
【0030】
尚、鎖編糸と挿入糸を1本ずつ用いて鎖編みした場合、図2のA−A断面のように挿入糸1本に対して鎖編糸3本分の編地構成となるため、例えば比較例1では、鎖編糸の高強力繊維(マルチフィラメント糸本数)が0本、鎖編糸の汎用繊維(モノフィラメント糸本数)が6本束×3=18本、挿入糸の高強力繊維が0本、鎖編糸の汎用繊維が6本束の合計24本の繊維からなる。また、比較例1及び実施例1〜5には編目を菱目状(図1参照)に形成したものを用いた。それに対し、比較例2の場合には、結節部が鎖編の交点のみの極めて短いラッセル網を用い、編目を角目状(図8参照)となるように製袋したものを用いた。
【0031】
耐破断性の試験では、JIS L1013法による引張試験により、鎖編みされた1本の繊維束の引張強力を測定し、引張強力が大きいほど優位性があるとして判定した。試験の結果、高強力繊維の割合が多くなるにしたがって耐破断性が高くなり、特に実施例1〜5がともに比較例1よりも優れているという結果が得られた。
【0032】
耐切創性の試験では、刃角度10゜に設定したカッターの刃に素材を当て、素材が完全に切断されるまでの引張強度(耐切創強力)を測定し、引張強度が大きいほど優位性があるとして判定した。試験の結果、実施例1〜5は比較例1よりも耐切創性に優れ、特に鎖編糸に高強力繊維を多く用いた実施例1〜3は、汎用繊維よりも耐切創強力の高い高強力繊維からなる鎖編糸が汎用繊維からなる挿入糸の外側に配置されるため、高強力繊維が同量用いられている他の実施例及び比較例1に対して耐切創性が格段に優れているという結果が得られた。
【0033】
形状安定性の試験では、砕石(粒径は、概ね20mm〜60mm)を入れた円筒形の容器(容量20リットル)にネット状の砕石詰袋を被せ、砕石詰袋ごと容器を反転させることにより容器内の砕石を砕石詰袋内に落下させ、砕石を収容した砕石詰袋の形状がブロック状の砕石収容体(上面及び下面の一辺が400mmで高さが100mm)の形状に近いか否かを外観を観察することによって行った。試験の結果、実施例1〜5はほぼブロック状に近い形状を保持したのに対し、比較例1は底面側が丸く広がったフラスコ状の形状となり、また比較例2は目ズレを生じたことから、実施例1〜5は比較例1〜2よりも形状安定性に優れているという結果が得られた。
【0034】
耐紫外線性の試験では、JIS L1096「一般織物試験」の6.30.1に準じ、耐候性試験機(スーパーキセノンウェザーメーター)を用いた促進曝露試験を行い、比較例1及び実施例1について促進曝露時間に対する引張強力及び耐切創強力を測定し(試験方法は前記耐破断性及び前記耐切創性の試験と同様)、図10及び図11の試験結果のグラフにより評価した。試験の結果、耐破断性については、図10に示すように比較例1(図中破線)及び実施例1(図中実線)は共に促進曝露時間の経過に伴って引張強力が低下するが、実施例1は常に比較例1よりも高い引張強力を維持しており、実施例1は比較例1よりも耐紫外線性における耐破断性に優れているという結果が得られた。尚、実施例1は促進曝露時間5000時間において、試験開始直後と比較して60%以上の引張強度を維持しており、実用上十分な耐紫外線性を有している。このことから、長期間の道床敷設において残存強度が目安として初期状態の50%を下回らないようにするためには、実施例1の高強力繊維の重量比の割合が好適であることの結果が得られた。
【0035】
また、耐切創性については、図11に示すように比較例1(図中破線)は試験開始初期には、砕石詰袋の敷設施工時の転圧作業に耐え得る程度の高い耐切創強力を有しており、促進曝露時間の経過に伴って耐切創強力は低下するものの、長期間にわたり比較例1(図中破線)を下回ることがないという結果が得られた。この場合、砕石詰袋の敷設施工時のプレートコンパクタによる転圧作業に耐えるため、耐切創性の高い高強力繊維を砕石詰袋の一部に使用しており、これにより敷設後は高強力繊維が紫外線劣化により耐切創性が低下するが、汎用繊維を砕石詰袋の一部に使用することから、汎用繊維の耐切創性が維持され、砕石詰袋の長期間の耐久性を確保することができる。
【0036】
このように、本実施形態によれば、ネット材2を構成する繊維の少なくとも一部として高強力繊維を用いるとともに、ネット材2としてラッセル網を用い、そのラッセル網の編目を菱目状に形成したので、耐衝撃性及び形状安定性に優れ、さらに耐紫外線性においても実用上十分な性能が得られ、丈夫で形状安定性及び耐久性に優れた砕石詰袋1を構成することができる。これにより、砕石詰袋1を用いて道床5の敷設を行う際、砕石詰袋1の破断や変形を少なくすることができ、道床5の敷設における作業性の向上を図ることができる。
【0037】
この場合、ネット材2を高強力繊維と汎用繊維とから形成し、高強力繊維と汎用繊維の合計重量に対する高強力繊維の割合を10%以上としたので、耐衝撃性、形状安定性及び耐紫外線性の向上に極めて有利である。また、高強力繊維と汎用繊維の合計重量に対する高強力繊維の割合を70%以下としたので、コストが高くならずに十分な性能の向上を得ることができ、実用化に際して極めて有利である。
【0038】
更に、ネット材2の菱目を鎖編糸2aと挿入糸2bとから編組される編地によって形成し、鎖編糸2aに高強力繊維を用いることにより、汎用繊維2bよりも引張強力の高い高強力繊維からなる鎖編糸2aを汎用繊維からなる挿入糸2bの外側に配置することができるので、より一層の耐衝撃性向上に極めて有利である。
【0039】
また、前記砕石詰袋1に難燃性を有するネット材2を用いるようにしてもよい。これにより、例えば不用意なタバコの投げ捨てなど、線路上または線路脇で発火が生じた場合でも、砕石詰袋1のネット材2への類焼を防止することができるので、防火対策に極めて有利である。この場合、ネット材2の汎用繊維に、例えば難燃ポリエチレン、塩化ビニリデン、難燃ポリエステル、難燃ビニロン、難燃レーヨン等の難燃性素材を用いたり、あるいは高強力繊維の中でも、難燃性または耐熱性に優れるアリレート繊維、アラミド繊維、PBO繊維等を用いることにより、ネット材2に難燃性や耐熱性を付与することができる。また、ネット材2に、例えばアンチモン系やリン系の難燃剤を後加工でコーティングまたはディッピングすることにより、ネット材2に難燃性を付与することもできる。
【0040】
さらに、より一層、耐紫外線性を高めるために、ネット構成繊維に紫外線吸収剤を練り込んだものやカーボンブラックで代表される顔料等を練り込んだもの、あるいは繊維表面やネット表面に紫外線吸収剤や顔料を含有する塗料等を塗付したものでもよい。
【0041】
尚、前記実施形態では、袋状物としてネット材2を用いたものを示したが、片面のみがネット状の袋状物や土嚢袋状の袋状物であってもよい。
【0042】
また、前記実施形態では、砕石詰袋1を鉄道用道床5の敷設に用いる場合を示したが、例えば自動車用道路の盛土または切取法面等、他の用途に用いることも可能である。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、他の様々な態様にて実施することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…砕石詰袋、1′…砕石収容体、2…ネット材、2a…鎖編糸、2b…挿入糸、2c…網糸、2d…結節部、2e…脚部、3…砕石、5…道床。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砕石が詰められる袋状物からなる砕石詰袋において、
前記袋状物を構成する繊維の少なくとも一部に高強力繊維を用いるとともに、前記袋状物の少なくとも一部をラッセル網によって構成し、そのラッセル網の編目を菱目状に形成した
ことを特徴とする砕石詰袋。
【請求項2】
前記ラッセル網の網糸に高強力繊維と汎用繊維とを用い、高強力繊維を汎用繊維の外側に配置した
ことを特徴とする請求項1に記載の砕石詰袋。
【請求項3】
前記ラッセル網の網糸を鎖編糸と挿入糸とから構成し、鎖編糸の少なくとも一部に高強力繊維を用い、挿入糸の少なくとも一部に汎用繊維を用いた
ことを特徴とする請求項2に記載の砕石詰袋。
【請求項4】
前記袋状物を、高強力繊維と汎用繊維の合計重量に対する高強力繊維の重量の割合が10%以上70%以下になるように形成した
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の砕石詰袋。
【請求項5】
前記高強力繊維として単繊維繊度2dtex以上20dtex以下のフィラメントからなるマルチフィラメント糸を用い、前記汎用繊維として単繊維繊度100dtex以上2000dtex以下のフィラメントからなる糸を用いた
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の砕石詰袋。
【請求項6】
前記高強力繊維としてアリレート繊維を用い、前記汎用繊維としてポリエチレン系繊維を用いた
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の砕石詰袋。
【請求項7】
前記袋状物を構成する菱目網の結節部の長さL1 と結節部間を結ぶ脚部の長さL2 との比L1 /L2 が0.5以上1.5以下である
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の砕石詰袋。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の砕石詰袋に砕石を収容してなる
ことを特徴とする砕石収容体。
【請求項9】
鉄道用道床の敷設に用いられる
ことを特徴とする請求項8記載の砕石収容体。
【請求項1】
砕石が詰められる袋状物からなる砕石詰袋において、
前記袋状物を構成する繊維の少なくとも一部に高強力繊維を用いるとともに、前記袋状物の少なくとも一部をラッセル網によって構成し、そのラッセル網の編目を菱目状に形成した
ことを特徴とする砕石詰袋。
【請求項2】
前記ラッセル網の網糸に高強力繊維と汎用繊維とを用い、高強力繊維を汎用繊維の外側に配置した
ことを特徴とする請求項1に記載の砕石詰袋。
【請求項3】
前記ラッセル網の網糸を鎖編糸と挿入糸とから構成し、鎖編糸の少なくとも一部に高強力繊維を用い、挿入糸の少なくとも一部に汎用繊維を用いた
ことを特徴とする請求項2に記載の砕石詰袋。
【請求項4】
前記袋状物を、高強力繊維と汎用繊維の合計重量に対する高強力繊維の重量の割合が10%以上70%以下になるように形成した
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の砕石詰袋。
【請求項5】
前記高強力繊維として単繊維繊度2dtex以上20dtex以下のフィラメントからなるマルチフィラメント糸を用い、前記汎用繊維として単繊維繊度100dtex以上2000dtex以下のフィラメントからなる糸を用いた
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の砕石詰袋。
【請求項6】
前記高強力繊維としてアリレート繊維を用い、前記汎用繊維としてポリエチレン系繊維を用いた
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の砕石詰袋。
【請求項7】
前記袋状物を構成する菱目網の結節部の長さL1 と結節部間を結ぶ脚部の長さL2 との比L1 /L2 が0.5以上1.5以下である
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の砕石詰袋。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の砕石詰袋に砕石を収容してなる
ことを特徴とする砕石収容体。
【請求項9】
鉄道用道床の敷設に用いられる
ことを特徴とする請求項8記載の砕石収容体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−111830(P2011−111830A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270431(P2009−270431)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】
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