説明

砥石車のツルーイング方法及び研削盤

【課題】砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことのできる砥石車のツルーイング方法、及び、このツルーイング方法を実現する研削盤を提供する。
【解決手段】砥石車の周速度をツルーイング加工時の周速度よりも遅くした状態で砥石車にツルアを接触させ、砥石車にツルアが接触した際に生じるアコースティックエミッション(AE)を検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサ(AEセンサ)の出力値が閾値に達した時点での砥石車に対するツルアの位置を基準として、所定のツルーイング加工を行うことを特徴とする砥石車のツルーイング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石車のツルーイング方法及び研削盤に関するものであり、詳しくは、アコースティックエミッションセンサを用いて砥石車とツルアとの接触を検出してツルーイングを行う砥石車のツルーイング方法、及び、このツルーイング方法を実現する研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
砥石車のツルーイングを行うに際しては、ツルア(ダイヤモンドドレッサ等の砥石の修正具)を砥石車に近づけて、砥石車にツルアが接触し始めた時点での砥石車に対するツルアの位置を基準として所定のツルーイング加工を行うことが一般になされている。なお、本書においては、砥石車とツルアとを相対的に移動させ、ツルアによって砥石車の砥石を除去することで、ワーク(工作物)に研削加工を施す砥石車の研削面の形状を修正したり、砥粒の良好な切れ味を再生したりする一連の作業を「ツルーイング」と称し、ツルアによって砥石を除去する加工を「ツルーイング加工」と称することとする。
【0003】
そして、以下の文献にあるように、アコースティックエミッション(以下「AE」という)を検出するアコースティックエミッションセンサ(以下「AEセンサ」という)を用いて、砥石車と、この砥石車とは異なる他の部材との接触を検出することは公知であり、本願発明者は、AEセンサによって砥石車とツルアとの接触を検出して上述のツルーイングを行う新規なツルーイング方法を案出した。
【0004】
【特許文献1】特開平6−339837号公報
【特許文献2】特開2005−262385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、AEセンサによって砥石車とツルアとの接触を検出して単にツルーイングを行うだけでは、以下のような問題が生じる。なお、以下では、図6に示すように、砥石車Sの外周面をツルアTによってツルーイングする場合を代表的に例示して説明する。
【0006】
図6に示すツルーイングは、砥石車Sの径方向を切込み方向、砥石車Sの軸方向をツルーイング送り方向として、砥石車Sに対してツルアTを、所定の切込み量となるように切込み方向に相対的に近づけた上で、所定の送り速度でツルーイング送り方向に相対的に移動させることで、砥石車Sの外周面のツルーイングを行うものである。ここで、砥石車Sに対してツルアTをツルーイング送り方向に移動させることを「ツルーイングストローク」と称すると、図6に示すツルーイングでは、所定の切込み量のツルーイングストロークが繰返されて、砥石車Sの外周面がツルーイングされる。そして、このようなツルーイングでは、砥石車SにツルアTが接触したツルーイングストロークをAEセンサによって検出し、このツルーイングストローク時における砥石車Sに対するツルアTの位置(砥石車Tの径方向の位置)を基準として所定のツルーイング加工を行うことで、ツルーイングが完了する。
【0007】
なお、図6では、説明の便宜上、切込み量を誇張してあるが、実際のツルーイングでは、切込み量は僅かなものである。また、このように切込み量を誇張した図示は、ツルーイングの状態を示す他の図(図2及び図4)においても同様である。
【0008】
ところで、AEセンサは、部材同士の接触によって生じた衝突音や破壊音等のAEを電圧に変換し、この電圧を検出信号として出力するものである。そして、このようなAEセンサによって砥石車とツルアとの接触を検出しようとした場合には、AEセンサからの出力値が閾値(予め定めた設定値)に達したことを条件として、砥石車にツルアが接触したと判断するのであるが、AEセンサから出力される検出信号にはノイズが含まれていることから、砥石車にツルアが接触した際に出力される検出信号をノイズと明確に区別できるように、上記閾値を高く設定することが余儀なくされる。これは、ノイズの出力値よりも十分に高い閾値を設定しないと、砥石車にツルアが実際には接触していなくても、ノイズによって砥石車にツルアが接触したと誤判断してしまう可能性があるからである。
【0009】
しかしながら、閾値を高く設定すると、砥石車にツルアが実際に接触してはいるのであるがAEセンサの出力値が低い場合に、この接触を検出することができず、砥石を過剰に除去するツルーイングを行うことを余儀なくされる場合がある。この理由を、以下に説明する。
【0010】
AEセンサの出力値が閾値に達した時点で砥石車にツルアが接触したと判断しようとすると、例えば図7に示すように、砥石車にツルアが実際に接触するツルーイングストローク時に、AEセンサからノイズよりも高い出力値の検出信号が出力されたとしても、この検出信号の出力値が閾値よりも低いと(図6のツルーイングストロークA、及び、図7のA部分を参照)、このツルーイングストロークによっては、砥石車にツルアが接触したことを判断することができない。よって、閾値よりも高い出力値が得られる次のツルーイングストローク(図6のツルーイングストロークB、及び、図7のB部分を参照)によって砥石車にツルアが接触したと判断せざるを得ず、このツルーイングストロークを基準として、以降、例えば所定の切込み量で2回のツルーイングストロークを行う(図6のツルーイングストロークC,D、及び、図7のC,D部分を参照)といったような所定のツルーイング加工を行わなければならない。
【0011】
なお、図7のグラフは、AEセンサからの出力されたAE信号波形(電圧)と時間との関係を示すものであり、AE信号波形は、電圧0を基準に+域と−域とで振幅するのであるが、このグラフでは、振幅の上限値を直線で模式的に示すことで、振幅する波形の図示を省略してある。また、このような振幅する波形の図示の省略は、AEセンサからの出力されたAE信号波形(電圧)と時間とのグラフを示す他の図(図3及び図5)についても同様である。
【0012】
このように、閾値を高く設定すると、砥石車にツルアが実際に接触を開始する初回のツルーイングストロークを検出することができない場合がある。ここで、砥石車にツルアが実際に接触を開始する初回のツルーイングストロークを基準とすれば、砥石車の実際の形状寸法を、より正確に把握することができ、ツルーイング加工によって除去する砥石の量を減らすことができる(上述のツルーイングにおいては、1回分のツルーイングストロークを省略できる)のであるが、AEセンサによって砥石車とツルアとの接触を検出して単にツルーイングを行うだけでは、AEセンサから出力される検出信号にノイズが含まれるが故に、閾値を十分に高く設定せざるを得ず、砥石を過剰に除去するツルーイングを余儀なくされるのである。なお、ツルーイングにおいて砥石を過剰に除去することは、砥石を無駄に消費するばかりでなく、ツルーイング時間が無用に長くなることから、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことができるようにすることが要望される。
【0013】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことのできる砥石車のツルーイング方法、及び、このツルーイング方法を実現する研削盤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「砥石車の周速度をツルーイング加工時の周速度よりも遅くした状態で砥石車にツルアを接触させ、砥石車にツルアが接触した際に生じるアコースティックエミッションを検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサの出力値が閾値に達した時点での砥石車に対するツルアの位置を基準とすると共に、砥石車の周速度を前記ツルーイング加工時の周速度に変更して、所定のツルーイング加工を行うことを特徴とする砥石車のツルーイング方法」
である。
【0015】
本願発明者は、閾値を低くすれば上述の課題が解決できることを新規に着目し、如何にすれば閾値を低くできるかを鋭意研究した結果、砥石車の周速度を遅くすることで、換言すれば、砥石車の回転数を下げることで、AEセンサからの検出信号に含まれるノイズの出力値を低下させることができることを見出し、上記構成のツルーイング方法を完成させたのであり、上記構成のツルーイング方法によれば、閾値を低く設定することができ、これにより、砥石車の実際の形状寸法をより正確に把握することができる。よって、AEセンサによって砥石車とツルアとの接触を検出して単にツルーイングを行うだけよりも、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことができる。
【0016】
ところで、砥石車の周速度を、通常のツルーイング加工時の周速度よりも遅くして、砥石車とツルアとの接触を検出し、そのままの周速度で、ツルーイングを行ってもよい。しかしながら、ツルーイング加工時の砥石車の周速度は、ワークの研削加工時と同じ周速度に設定するのが好ましい。これは、ワークの研削加工時とは異なる周速度で砥石車を回転させてツルーイング加工を行うと、ツルーイング加工時と研削加工時とでの砥石車の回転数の違いにより、研削加工時に芯ズレを生じ、研削加工時にビビリが発生したり、高精度な研削加工を実現できなくなる虞があるからである。よって、上記構成のツルーイング方法では、砥石車とツルアとの接触の検出においては、砥石車の周速度を遅くするのであるが、所定のツルーイング加工を行う際には、砥石車の周速度を速くして、通常と同様のツルーイング加工を行うこととしてある。これにより、研削加工時にビビリが発生することがなく、また、高精度な研削加工を実現することができる。なお、ツルーイング加工時の砥石車の周速度については、研削加工時と同じ周速度とするのが好適であるが、本発明では、これに限定する必要はなく、砥石車とツルアとの接触の検出時よりも速い周速度であればよい。
【0017】
上述した手段において、
「砥石車にツルアを接触させた状態で、砥石車に対してツルアを相対的に、砥石車のツルーイング対象面を超えた範囲に渡って移動させた際に、砥石車のツルーイング対象面の全体に渡ってアコースティクエミッションセンサの出力値が閾値に達することを前記基準の条件とすることを特徴とする砥石車のツルーイング方法」
としてもよい。
【0018】
砥石車とツルアとの接触を検出する場合、例えば、ツルーイング対象面が砥石車の周面であればツルアを砥石車の径方向に近づけたり、ツルーイング対象面が砥石車の端面であればツルアを砥石車の軸方向に近づけたりするといったように、ツルアを砥石車のツルーイング対象面に対して直角方向から近づけて、砥石車にツルアが接触し始めた時点を検出するようにしてもよい。
【0019】
しかしながら、このような態様では、砥石車とツルアとの接触によって、ツルーイング対象面の局部的な形状寸法は把握することができるものの、ツルーイング対象面全体の形状寸法を把握することはできない。ここで、砥石車の研削面(ワークに研削加工を施す面)は、その全体がワークの研削加工によって均一に損耗するとは限らず、ツルーイング対象面の局部的な形状寸法を基準にツルーイング加工を行うと、ツルーイング対象面の一部にツルーイング不足を生じる可能性がある。
【0020】
そこで、上記手段では、ツルアを、砥石車のツルーイング対象面を超えた範囲に渡って移動させて、ツルーイング対象面の全体に渡って砥石車とツルアとの接触を検出することとする。これにより、ツルーイング対象面の一部にツルーイング不足が生じることを防止できる。なお、ツルーイング対象面を超えた範囲に渡ってツルアを移動させるには、ツルアを、移動開始の位置である砥石車に接触しない逃がし位置から、移動終了の位置である砥石車に接触しない逃がし位置まで、ツルーイング対象面に沿ってツルーイング送り方向に移動させればよい。ここで、ツルーイング対象面が、円筒面、円錐面または平坦な端面等といったような平坦面である場合には、ツルアをツルーイング対象面に沿って移動させると、ツルアは、平坦面のツルーイング対象面に沿って直線状に移動することになるが、ツルーイング対象面が、研削加工を施すワークの形状に倣った面形状等の凹凸面である場合には、この凹凸面の断面の外形線に倣って移動することになる。
【0021】
上述した手段において、
「前記アコースティックエミッションセンサは、砥石車の回転軸であり砥石車が着脱自在に装着される砥石軸に設けられたものであることを特徴とする砥石車のツルーイング方法」
としてもよい。
【0022】
本願発明者は、AEセンサを、砥石車の回転軸であり砥石車が着脱自在に装着される砥石軸に設けた場合に、砥石車の周速度を遅くすることで、AEセンサからの検出信号に含まれるノイズの出力値を著しく低下させることができることを、鋭意研究の結果、見出し、上記構成のツルーイング方法を完成させたのであり、上記構成のツルーイング方法によれば、閾値を大幅に下げることができ、これにより、ツルーイングに際して砥石が過剰に除去されることを的確に防止することができる。
【0023】
また、上述の課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「砥石車と、
該砥石車に対して、砥石車の軸方向及び径方向に相対的に移動駆動されるツルアと、
砥石車とツルアとが接触した際に生じるアコースティックエミッションを検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサと、
ツルーイング加工時の周速度よりも遅い周速度で砥石車を回転させた状態で、砥石車に対してツルアを相対的に移動させて砥石車にツルアを接触させ、アコースティックエミッションセンサの出力値が閾値に達した時点での砥石車に対するツルアの位置を基準とすると共に、砥石車の周速度を前記ツルーイング加工時の周速度に変更して、所定のツルーイング加工を行う制御装置と
を備えることを特徴とする研削盤」
である。
【0024】
この研削盤によれば、上記の通り構成された制御装置を具備するため、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことのできる上述のツルーイング方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
上述の通り、本発明によれば、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことのできる砥石車のツルーイング方法、及び、このツルーイング方法を実現する研削盤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明に係る砥石車のツルーイング方法及び研削盤の実施形態の一例を、図面に従って詳細に説明する。
【0027】
図1に、研削盤10(具体的には円筒研削盤)の一例を示す。この研削盤10は、基台を構成するベッド20と、砥石車Sを支持する砥石台30と、ワークWを支持するワーク台40とを備えたものである。ここで、砥石台30は、砥石車Sの回転軸となる砥石軸32を回転自在に支承する軸頭31と、砥石軸32を回転させる砥石軸回転駆動装置(図示省略する)とを備えており、砥石車Sは、軸頭31の砥石軸32に着脱自在に装着されて回転駆動される。また、ワーク台40は、ワークWの一側端部を支持する主軸42、及び、この主軸42を回転させる主軸回転駆動装置(図示省略する)を有する主軸台41と、ワークWの他端側端部を回転自在に支持するセンタ44を有する心押し台43とを備えており、ワークWは、主軸台41の主軸42と心押し台43のセンタ44との間に支持されて、研削加工時において回転駆動される。
【0028】
砥石台30は、ベッド20上に、送りねじ機構やリニアモータ機構等の適宜のスライド機構によって、主軸42の径方向(以下「X軸方向」という)に移動自在に組付けられており、X軸駆動装置(図示省略する)によって、X軸方向に移動駆動される。また、ワーク台40は、ベッド20上に、送りねじ機構やリニアモータ機構等の適宜のスライド機構によって、主軸42の軸方向(以下「Z軸方向」という)に移動自在に組付けられており、Z軸駆動装置(図示省略する)によって、Z軸方向に移動駆動される。このような構成により、この研削盤10では、砥石車SとワークWとを、Z軸方向及びX軸方向に相対的に移動させることができる。
【0029】
また、主軸台41には、ツルアTが着脱自在に装着されたツルア台51が付設されており、砥石軸32には、砥石車SとツルアTとの接触を検出するAEセンサ52が組込まれている。よって、この研削盤10は、ツルーイング装置50を具備するものとなっており、ツルーイング装置50において、砥石車SとツルアTとを、砥石車Sの軸方向でもあるZ軸方向、及び、砥石車Sの径方向でもあるX軸方向に、相対的に移動させることができるものとなっている。
【0030】
なお、本例では、砥石車Sの砥石が、CBN砥石(立方晶窒化ホウ素砥石)によって構成されており、この砥石を良好にツルーイングできるように、ツルアTとして、円板状に形成される共に外周面の全周にダイアモンドが埋設され、ツルア台に組込まれたツルア回転駆動装置(図示省略する)によって、ツルーイングに際して回転駆動される回転タイプのツルアTが採用されている。また、AEセンサ52は、砥石軸32の先端に組込まれており、砥石軸32における砥石車Sの装着部分の剛性を確保し易い構造となっている。ここで、AEセンサ52は、砥石車Sの装着部分に近ければ近い程、砥石車Sが他の部材と接触した際に生じるAEを的確に検出でき、しかも、ノイズを拾い難くなるため、砥石軸32の剛性を十分に確保できるのであれば、砥石車Sの装着部分に組込むことも好適である。
【0031】
ところで、この研削盤10は、CNC制御装置等、コンピュータを用いて構成された制御装置60を備えている。ここで、制御装置60は、所定の加工プログラムを実行することで、数値制御により自動化された研削加工を行うものであり、また、所定のツルーイングプログラムを実行することで、数値制御により自動化されたツルーイングを行うものである。そして、制御装置60は、機能的構成として、X軸駆動装置を制御するX軸制御手段61と、Z軸駆動装置を制御するZ軸制御手段62と、主軸回転駆動装置を制御する主軸制御手段63と、ツルア回転駆動装置を制御するツルア制御手段64と、砥石軸回転駆動装置を制御する砥石軸制御手段65とを具備するものとして構成されている。
【0032】
また、制御装置60は、ツルーイングを行う場合に、AEセンサ52から出力される検出信号を監視しており、「ツルーイング加工時の周速度よりも遅い周速度で砥石車を回転させた状態で、砥石車に対してツルアを相対的に移動させて砥石車にツルアを接触させ、アコースティックエミッションセンサの出力値が閾値に達した時点での砥石車に対するツルアの位置を基準とすると共に、砥石車の周速度をツルーイング加工時の周速度に変更して、所定のツルーイング加工を行う」といったように、研削盤10(ツルーイング装置50)の砥石軸駆動装置、X軸駆動装置、Z軸駆動装置等の各種の機器の駆動を制御する。
【0033】
次に、ツルーイングの詳細について説明する。ツルーイングは、砥石車SにツルアTが接触した時点のツルアTの位置を基準に、砥石車Sのツルーイング対象面にツルアによって所定のツルーイング加工を施すことで、研削加工によって損耗した砥石車Sの研削面の形状の修正や、砥粒の切れ味を再生するのであるが、以下では、砥石車Sの外周面をツルーイング対象面として、このツルーイング対象面をツルーイングする状態を例示して説明する。なお、これに限らず、砥石車の端面等、適宜の研削面をツルーイング対象面とすることができる。また、以下では、平坦面である円筒状の砥石車Sの外周面をツルーイング対象面としているが、ツルーイング対象面は、平坦面ばかりでなく、研削対象のワークの形状にあわせた総型砥石の凹凸面であってもよく、この場合には、ツルアTを、所定の切込み量で、凹凸を有するツルーイング対象面に倣ってツルーイング方向に移動させることで、ツルーイングを行うことができる。
【0034】
図2に、砥石車Sの外周面をツルーイング対象面として、このツルーイング対象面をツルアTによってツルーイングする状態を示す。また、このツルーイングに際しては、制御装置によって、AEセンサ52から出力された検出信号を監視しており、図3に、AEセンサ52からの出力値であるAE信号波形(電圧)と時間との関係のグラフを示す。
【0035】
このツルーイングでは、まず、砥石車Sの周速度を、ツルーイング加工時よりも遅い所定の周速度とした上で、砥石車Sに対してツルアTを、砥石車Sに確実に接触しない逃がし位置であるツルーイングの開始位置aに位置させた後、砥石車Sの軸方向に平行に、ツルーイング対象面を超える範囲に渡って、すなわち、砥石車の全幅を超える範囲に渡って、所定の送り速度で移動させて、1回目のツルーイングストロークAを行う。この時、砥石車SにツルアTが接触しなければ、所謂「空振り」であり、AEセンサ52からは、接触の検出信号が出力されず、ノイズ1だけが出力される(図3のA部分を参照)。ここで、このノイズ1は、砥石車Sの周速度をツルーイング加工時の周速度とした場合に生じるノイズ2よりも、低い出力値のノイズである。
【0036】
また、1回目のツルーイングストロークAにて、砥石車SにツルアTが接触したとしても、この接触の検出信号の出力値がノイズ1よりも低ければ、接触の検出信号がノイズ1に埋没してしまうため、接触の検出信号は、実質的に出力されないことになる。また、出力値がノイズ1を超えた場合でも、この出力値が閾値に達していなければ、制御装置60において、砥石車SにツルアTが接触したと判断せず、後述のように接触の判断がなされるまで、所定の切込み量で切込み方向(砥石車の径方向)に近づけ、再度、ツルーイングストロークを行うといったことを繰返す。
【0037】
次に、砥石車SにツルアTが十分に接触するツルーイングストロークBにて、AEセンサ52から閾値を超える出力値の検出信号が出力されると(図3のB部分を参照)、制御装置60において、砥石車SにツルアTが接触したと判断し、このツルアTの位置を基準として、以降、所定の切込み量で2回のツルーイングストロークC,Dを行うといったような所定のツルーイング加工を行う。ここで、所定のツルーイング加工を行うに先駆けて、砥石車Sの周速度をツルーイング加工用の周速度に変更するのであるが、このように周速度を変更することで出力値の高いノイズ2が発生しても、ツルーイング加工に支障を来たすことはない。なお、砥石車Sのツルーイング加工用の周速度は、ワークWを研削加工する際の周速度と同じ周速度であることが好ましい。
【0038】
ところで、上述したツルーイングにおいて、砥石車SにツルアTが接触したと判断するに際しては、砥石車Sのツルーイング対象面の全体において、AEセンサ52から閾値に達する出力値が得られたことを条件としており、これにより、部分的にツルーイング不足が生じることを防止している。具体的に説明すると、砥石車Sの研削面全体は、研削加工によって均一に損耗しているとは限らず、部分的に大きく損耗している場合もある。
【0039】
例えば、図4及び図5に示すように、砥石車Sの外周面の中央部分が大きく損耗している状態では、開始位置aから始まる初回のツルーイングストロークAは空振りであるが(図5のA部分を参照)、2回目のツルーイングストロークBにて、砥石車SにツルアTが接触する。ここで、このツルーイングストロークBでは、砥石車Sの左右両端部分にツルアTが接触するだけであり、砥石車Sの中央部分にはツルアTが接触しない。このようなツルーイングストロークBにおいて、AEセンサ52から閾値に達する出力値が得られたとしても、部分的なものであり、ツルーイング対象面の全体においてAEセンサ52からの出力値が閾値に達しておらず(図5のB部分を参照)、このツルーイングストロークBによっては、砥石車SにツルアTが接触したとは判断しない。
【0040】
そして、例えば、次の3回目のツルーイングストロークCにて、ツルーイング対象面の全体においてAEセンサ52からの出力値が閾値に達すると(図5のC部分を参照)、このツルーイングストロークCによって、砥石車SにツルアTが接触したと判断し、このツルーイングストロークCを基準とすると共に、砥石車Sの周速度をツルーイング加工用の周速度に変更して、以降、所定のツルーイング加工であるツルーイングストロークD,Eを行って、ツルーイングを完了させる。このようなツルーイングによれば、所定のツルーイング加工の基準となるツルーイングストロークにおいて、ツルーイング対象面の全体にツルアTを確実に接触させることができるため、以降の所定のツルーイング加工にて、部分的にツルーイング不足が生じることを防止することができる。
【0041】
なお、制御装置60にて、砥石車Sのツルーイング対象面全体においてAEセンサ52の出力値が閾値に達したか否かを判定させるためには、適宜の手法を採用することができる。例えば、個々のツルーイングストロークにおいて、制御装置60での処理により、ツルーイング対象面のツルーイング送り方向の寸法と、ツルアTのツルーイング送り方向の移動速度とから、ツルアTがツルーイング対象面全体を移動するのに要する時間を算出し、この算出した時間内での出力値が閾値を下回らなければ、ツルーイング対象面全体において出力値が閾値に達したと判定する手法を採用することができる。また、個々のツルーイングストロークにおいて、ツルアTがツルーイング対象面全体を移動する時間を予め設定しておき、この設定された時間内において出力値が閾値を下回らなければ、ツルーイング対象面全体において出力値が閾値に達したと判定する手法を採用することもできる。
【0042】
次に、砥石車SとツルアTとの接触を検出する際に砥石車Sの周速度をツルーイング加工用の周速度よりも遅くした場合の検証結果を示す。
【0043】
ツルーイング加工用の周速度を「120m/s」に設定するのに対して、砥石車SとツルアTとの接触を検出する際の周速度を「60m/s」に設定すると、AEセンサからの出力されるノイズの出力値を約1/2に低下させることができた。これにより、接触判断のための閾値を、約1/2の低い値に設定することができた。
【0044】
なお、砥石車Sの周速度を遅くすればする程、ノイズの出力値を低下させることはできるが、周速度が遅すぎると、砥石車SにツルアTを接触させた際に砥石が損傷してしまうといった不具合を生じる。よって、砥石車SとツルアTとの接触を検出する際の周速度は、ツルーイング加工用の周速度に対して、少なくとも30%、より好適には少なくとも40%の周速度とするのがよい。一方、砥石車Sの周速度がツルーイング加工用の周速度に近いと、ノイズの出力値を大きく低下させることができず、砥石車Sの周速度を遅くしたことにより得られる効果が薄らいでしまう。よって、ツルーイング加工用の周速度に対して、多くとも75%、より好適には多くとも60%の周速度とするのがよい。
【0045】
また、閾値の値は、ノイズの出力値よりも大きな値であれば、適宜設定することができるのであるが、誤判断防止の点から安全を見込んで、ノイズの出力値の少なくとも3倍の値に設定するのが通常である。そこで、本例においても、砥石車の周速度を遅くした状態で生じるノイズの出力値の3倍程度の閾値を設定すればよいが、ノイズの出力値が大きく低下すると、ノイズの検出信号と接触の検出信号とを明確に区別できるようになる。よって、本発明に係るツルーイング方法によれば、閾値を、ノイズの出力値の少なくとも2倍の値に設定することが可能となり、この点からも、閾値を大幅に低い値に設定することができる。
【0046】
以上、本発明に係る砥石車のツルーイング方法及び研削盤の一例を説明したが、本発明はこれに限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更が可能である。
【0047】
例えば、本発明に係るツルーイング方法を実現する研削盤は、円筒研削盤以外の他のタイプの研削盤であってもよい。また、本発明に係るツルーイング方法は、ツルーイング装置を具備する研削盤に限らず、ツルーイング専用の装置として独立したツルーイング装置によっても実現することができる。
【0048】
また、上述の例では、所定のツルーイング加工として、ツルーイングストロークC,Dの2回のツルーイングストロークを行うが、所定のツルーイング加工としては、これに限らず、1回のツルーイングストロークを行うこととしてもよい。しかしながら、少なくとも2回のツルーイングストロークを行うのが好適であり、少なくとも3回のツルーイングストロークを行うのが、より好適である。砥石車にツルアが接触し始めるツルーイングストロークでは、除去する砥石の量が、常時、均一とはならず、バラツキを生じ、この除去する砥石の量のバラツキが、次回のツルーイングストロークでのツルーイング加工に影響を及ぼすため、高度な寸法精度のツルーイングや、砥粒の一定の切れ味を再生するツルーイングを実現し難くなるからである。
【0049】
また、ツルアを、砥石車に確実に接触しない位置である開始位置(図2の位置a)に位置決めしてツルーイングを開始するに際しては、先回のツルーイングによって割出した砥石車Sの形状寸法に対して、所定の切込み量を加えた位置を開始位置とする等、先回のツルーイングによって把握した砥石車の形状寸法を参照して次回のツルーイング開始位置を決定することとすれば、初回のツルーイングストロークが、空振りのツルーイングストロークとなり難いツルーイングを行うことができ、これにより、空振りする無駄なツルーイングストロークを省略することができる。また、実際に研削加工を行ったワークの形状寸法から割出したツルーイング直前の砥石車の寸法形状を参照して開始位置を決定することで、初回のツルーイングストロークにて、ツルアを砥石車に確実に接触させるようにしてもよい。
【0050】
一方、先回のツルーイングや研削加工されたワークから割出した砥石車の形状寸法を参照して、初回のツルーイングストロークにて、ツルアが砥石車に確実に接触しないように開始位置を決定してもよい。このようにすることで、初回のツルーイングストロークにて、切込み量が多すぎるツルーイング加工が行われることを防止することができる。
【0051】
また、一連のツルーイングにて行われる個々のツルーイングストロークについて、常時、ツルアを一定の送り速度でツルーイング方向に移動させることとしてもよいが、砥石車にツルアが接触したとの判断が完了するまでのツルーイングストロークについては、所定のツルーイング加工を行う際の送り速度よりも速い送り速度でツルアを移動させることとしてもよい。このようにすることで、接触を判断するまでの時間を短縮化することができる。また、所定のツルーイング加工を構成する少なくとも最後のツルーイングストロークについて、所定のツルーイング加工を構成する他のツルーイングストロークの送り速度よりも遅い送り速度でツルアを移動させることとして、これにより、砥粒の良好な切れ味を再生する仕上のツルーイング加工を行うこととしてもよい。
【0052】
また、各ツルーイングストロークの切込み量を、常時、一定としてもよいが、砥石車とツルアとが接触したと判断するツルーイングストロークまで、或いは、所定のツルーイング加工の初期段階のツルーイングストロークまでは、各ツルーイングストロークの切込み量を多くして粗いツルーイング加工を行う一方で、ツルーイング加工の最終段階のツルーイングストロークについては、切込み量を少なくして仕上のツルーイング加工を行うようにしてもよい。このようにすることで、ツルーイング全体の時間の短縮化を図ることができるばかりか、少なくとも砥石車とツルアとが接触したと判断するツルーイングストロークでの切込み量が多いことから、このツルーイングストローク時に出力値の高い検出信号を得ることができ、接触の検出信号をノイズと明確に区別できるようになる。
【0053】
また、本例では、回転駆動されるツルアを採用しており、ツルーイングに際しては、所定の周速度比(ツルアの周速度/砥石車の周速度)となるように、ツルアを回転駆動させるのであるが、各ツルーイングストロークにおいて、砥石車の周速度が変更されても、常時、一定の周速度比となるようにツルアを回転させることとすればよい。ここで、周速度比が0.5〜0.9となるようにツルアを回転させると、ツルアによって砥粒を良好に破壊することができ、砥粒の切れ味を効率よく再生することができる。
【0054】
これに対して、砥石車とツルアとが接触したと判断するツルーイングストロークまで、或いは、所定のツルーイング加工の初期段階のツルーイングストロークまでは、小さな周速度比となるようにツルアを回転させる一方で、ツルーイング加工の最終段階のツルーイングストロークでは、大きな周速度比となるようにツルアを回転させるようにしてもよい。小さな周速度比でのツルーイング加工では、砥石にツルアによるせん断力が大きく加わり、砥石形状の修正を効率よく行うことができ、大きな周速度比でのツルーイング加工では、砥石にツルアによる破壊力が大きく加わり、砥粒の切れ味の再生を効率よく行うことができる。そして、大きな周速度比として、「0.5〜0.9」の値を設定すれば、大きな周速度比のツルーイング加工によって、良好な切れ味を再生する仕上のツルーイングを行うことができる。
【0055】
ところで、ツルアの回転方向については、砥石車との接触部分が砥石車と同方向に移動するように、砥石車の回転方向に対して逆方向とするのが通常である。そして、周速度比は、このように相対的に回転する砥石車の周速度とツルアの周速度との比を「+値(プラス値)」で表すのであるが、ツルアの回転を停止させると、周速度比は「0」となり、通常とは逆方向にツルアを回転させると、周速度比は「−値(マイナス値)」となる。よって、上記小さな周速度比は、「0」及び「−値」の周速度比を含むものである。特に、「−値」の周速度比でツルアを回転させると、砥石に大きなせん断力を与えることができ、砥石の形状を、より一層、効率よく、修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る研削盤の一例を示す平面図である。
【図2】本発明に係るツルーイング方法によりツルーイングを行う状態を示す概略図である。
【図3】図2に示したツルーイング時のAE信号波形のグラフである。
【図4】ツルーイングを行う状態の別例を示す概略図である。
【図5】図4に示したツルーイング時のAE信号波形のグラフである。
【図6】従来のツルーイング方法によりツルーイングを行う状態を示す概略図である。
【図7】図6に示したツルーイング時のAE信号波形のグラフである。
【符号の説明】
【0057】
S 砥石車
T ツルア
W ワーク
10 研削盤
20 ベッド
30 砥石台
31 軸頭
32 砥石軸
40 ワーク台
41 主軸台
42 主軸
43 心押し台
44 センタ
50 ツルーイング装置
51 ツルア台
52 AEセンサ
60 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石車の周速度をツルーイング加工時の周速度よりも遅くした状態で砥石車にツルアを接触させ、砥石車にツルアが接触した際に生じるアコースティックエミッションを検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサの出力値が閾値に達した時点での砥石車に対するツルアの位置を基準とすると共に、砥石車の周速度を前記ツルーイング加工時の周速度に変更して、所定のツルーイング加工を行うことを特徴とする砥石車のツルーイング方法。
【請求項2】
砥石車にツルアを接触させた状態で、砥石車に対してツルアを相対的に、砥石車のツルーイング対象面を超えた範囲に渡って移動させた際に、砥石車のツルーイング対象面の全体に渡ってアコースティクエミッションセンサの出力値が閾値に達することを前記基準の条件とすることを特徴とする請求項1に記載の砥石車のツルーイング方法。
【請求項3】
前記アコースティックエミッションセンサは、砥石車の回転軸であり砥石車が着脱自在に装着される砥石軸に設けられたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の砥石車のツルーイング方法。
【請求項4】
砥石車と、
該砥石車に対して、砥石車の軸方向及び径方向に相対的に移動駆動されるツルアと、
砥石車とツルアとが接触した際に生じるアコースティックエミッションを検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサと、
ツルーイング加工時の周速度よりも遅い周速度で砥石車を回転させた状態で、砥石車に対してツルアを相対的に移動させて砥石車にツルアを接触させ、アコースティックエミッションセンサの出力値が閾値に達した時点での砥石車に対するツルアの位置を基準とすると共に、砥石車の周速度を前記ツルーイング加工時の周速度に変更して、所定のツルーイング加工を行う制御装置と
を備えることを特徴とする研削盤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−260879(P2007−260879A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92654(P2006−92654)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】