説明

砥石車のツルーイング方法及び研削盤

【課題】形直し及び目立ての双方を効率よく行うことができるばかりでなく、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことのできる砥石車のツルーイング方法、及び、このツルーイング方法を実現する研削盤を提供する。
【解決手段】「(ツルアの周速度)/(砥石車の周速度)」で示すツルア周速度比が所定の値となるように砥石車に対するツルアの相対的な回転を制御して、砥石車とツルアとが接触する際に生じるアコースティックエミッション(AE)を検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサ(AEセンサ)の出力値が閾値(閾値2)に達するまで、小さなツルア周速度比でツルーイング対象面に第一段階のツルーイング加工を行った後、大きなツルア周速度比で同一のツルーイング対象面に第二段階のツルーイング加工を行うことを特徴とする砥石車のツルーイング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石車のツルーイング方法及び研削盤に関するものであり、詳しくは、回転する砥石車のツルーイング対象面を回転するツルアによってツルーイングする砥石車のツルーイング方法、及び、このツルーイング方法を実現する研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転する砥石車のツルーイング対象面を回転するツルア(ダイヤモンドドレッサ等の砥石の修正具)によってツルーイングするに際しては、従来、「(ツルアの周速度)/(砥石車の周速度)」で示すツルア周速度比が、常時、一定の値となるように、砥石車に対するツルアの相対的な回転を制御して、砥石車のツルーイング対象面に所定のツルーイング加工を施すことが一般的に行われている。ここで、本書においては、ツルアによって砥石の表面を切除する加工を「ツルーイング加工」と称し、砥石車とツルアとを相対的に移動させて所定のツルーイング加工を行うことで、ワーク(工作物)に研削加工を施す砥石車の研削面の形状を修正したり、砥粒の良好な切れ味を再生したりする一連の作業を「ツルーイング」と称することとする。
【0003】
ところで、ツルーイングでは、ツルア周速度比を、例えば「0.5〜0.9」といったような値に設定して、ツルーイングを行うことが通常である。なお、ツルアの回転方向については、砥石車との接触部分が砥石車と同方向に移動するように、砥石車の回転方向に対して逆方向とするのが通常であり、周速度比は、このように相対的に回転する砥石車の周速度とツルアの周速度との比が「+値(プラス値)」で表されている。
【0004】
このようなツルア周速度比でのツルーイングは、砥石の表面部分に、ツルアによる破壊力を加えることで、砥粒を破砕して切れ味を再生する所謂「目立て」を実現することができる。しかしながら、このようなツルア周速度比でのツルーイングでは、砥石の表面部分に、ツルアによる大きなせん断力を与えることができず、不要な砥粒や結合剤を除去して砥石の表面の形状を修正する所謂「形直し」について、必ずしも、効率よく行われているとは言えないのが実状である。特に、砥石車の砥石が、CBN砥石(立方晶窒化ホウ素砥石)等の高強度の砥石である場合に、形直しの効率が著しく低下するのが実状である。ここで、ツルア周速度比を小さな値に設定することで、砥石の表面部分に、ツルアによる大きなせん断力を与えることができるようにして、形直しを効率よく行うことができるようにすることも考えられるが、この場合には、良好な目立てを実現することができなくなってしまうといった不具合を生じる。
【0005】
これに対して、ツルーイング全体における適宜のツルーイング加工について、ツルア周速度比を変更することで、形直し及び目立ての夫々を行うようにしたツルーイング方法が案出されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−138532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、適宜のツルーイング加工についてツルア周速度比を単に変更するだけでは、以下のような問題が生じる。
【0008】
ツルーイング全体において、予め定めた所定の第一段階のツルーイング加工を実行することで形直しを行い、その後、予め定めた所定の第二段階のツルーイング加工を実行することで目立てを単に行うこととすると、形直しが不十分となる場合がある。そして、このような形直しが不十分な砥石の表面に目立てを行っても、この目立てによっては、不十分な形直しを修正しきれないといった不具合が生じる可能性がある。
【0009】
これに対して、第一段階のツルーイング加工によって、形直しを確実に完了させようとすると、第一段階のツルーイング加工にて、砥石の表面から十分な量の砥石を除去しなければならず、砥石を過剰に除去することが余儀なくされる。ここで、ツルーイングにおいて砥石を過剰に除去することは、砥石を無駄に消費するばかりでなく、ツルーイング時間が無用に長くなることから、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことができるようにすることが要望される。
【0010】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、形直し及び目立ての双方を効率よく行うことができるばかりでなく、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うこともできる砥石車のツルーイング方法、及び、このツルーイング方法を実現する研削盤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「「(ツルアの周速度)/(砥石車の周速度)」で示すツルア周速度比が所定の値となるように砥石車に対するツルアの相対的な回転を制御して、回転する砥石車のツルーイング対象面を回転するツルアによってツルーイングする砥石車のツルーイング方法であって、
砥石車とツルアとが接触する際に生じるアコースティックエミッションを検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサの出力値が閾値に達するまで、小さなツルア周速度比でツルーイング対象面に第一段階のツルーイング加工を行った後、大きなツルア周速度比で同一のツルーイング対象面に第二段階のツルーイング加工を行うことを特徴とする砥石車のツルーイング方法」
である。
【0012】
上記構成のツルーイング方法では、ツルア周速度比を小さくした第一段階のツルーイング加工によって、形直しを効率よく行うことができ、一方、ツルア周速度比を大きくした第二段階のツルーイング加工によって、目立てを効率よく行うことができる。また、アコースティックエミッションセンサ(以下「AEセンサ」という)は、部材同士の接触によって生じた衝突音や破壊音等のアコースティックエミッション(以下「AE」という)を電圧に変換し、この電圧を検出信号として出力するものであり、このようなAEセンサの出力値を監視して、出力値が閾値に達することで、第一段階のツルーイング加工が完了したと判断すれば、形直しが完了したことを的確に把握することができる。よって、上記構成のツルーイング方法によれば、小さなツルア周速度比でのツルーイング加工によって形直しを効率よく行うことができ、大きなツルア周速度比でのツルーイング加工によって目立てを効率よく行うことができるばかりでなく、ツルーイング全体において、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことができる。
【0013】
上述した手段において、
「砥石車にツルアを接触させた状態で、砥石車に対してツルアを相対的に、砥石車のツルーイング対象面を超えた範囲に渡って移動させた際に、砥石車のツルーイング対象面の全体に渡ってアコースティクエミッションセンサの出力値が閾値に達することを前記第一段階のツルーイング加工の終了条件とすることを特徴とする砥石車のツルーイング方法」
としてもよい。
【0014】
AEセンサの出力値によって形直しが完了したことを判断するに際しては、ツルーイング対象面全体において、AEセンサの出力値が局部的に閾値に達することで、形直しが完了したと判断してもよい。
【0015】
しかしながら、このような態様では、ツルーイング対象面の局部的なツルーイング状態を把握することができるものの、ツルーイング対象面全体についてのツルーイング状態を把握することはできない。ここで、砥石車の研削面(ワークに研削加工を施す面)は、その全体がワークの研削加工によって均一に損耗するとは限らず、ツルーイング対象面の局部的なツルーイング状態によって形直しが完了したか否かを判断すると、ツルーイング対象面の一部に形直し不足を生じる可能性がある。
【0016】
そこで、上記手段では、ツルアを、砥石車のツルーイング対象面を超えた範囲に渡って移動させて、ツルーイング対象面の全体に渡ってツルーイング状態を監視して、ツルーイング対象面全体に渡って閾値に達した出力値が得られれば、形直しが完了したとして判断する。これにより、ツルーイング対象面の一部に形直し不足が生じることを防止できる。
【0017】
なお、ツルーイング対象面を超えた範囲に渡ってツルアを移動させるには、ツルアを、移動開始の位置である砥石車に接触しない逃がし位置から、移動終了の位置である砥石車に接触しない逃がし位置まで、ツルーイング対象面に沿ってツルーイング送り方向に移動させればよい。また、ツルーイング対象面が、円筒面、円錐面または平坦な端面等といったような平坦面である場合には、ツルアをツルーイング対象面に沿って移動させると、ツルアは、平坦面のツルーイング対象面に沿って直線状に移動することになるが、ツルーイング対象面が、研削加工を施すワークの形状に倣った面形状等の凹凸面である場合には、この凹凸面の断面の外形線に倣って移動することになる。
【0018】
上述した手段において、
「前記第一段階のツルーイング加工は、砥石車とツルアとの接触部分において砥石車とツルアとが逆方向に移動するように砥石車に対してツルアを回転させることでマイナスの値となったツルア周速度比のツルーング加工を含むことを特徴とする砥石車のツルーイング方法」
としてもよい。
【0019】
ここで、上記構成のツルーング方法は、第一段階のツルーイング加工の全体において、常時、ツルア周速度比がマイナスの値となるように、砥石車に対してツルアを相対的に回転させる態様、及び、第一段階のツルーイング加工の全体における一部において、ツルア周速度比がマイナスの値となるように、砥石車に対してツルアを相対的に回転させる態様の双方の態様を含むものである。
【0020】
ツルア周速度比がマイナスの値であると、砥石車のツルーイング対象面に対して、ツルアが逆方向に大きく移動する所謂「アップカット」の状態となり、砥石にツルアが食い込み易いばかりでなく、砥石の表面にツルアによる大きなせん断力が加わる。よって、ツルアによって砥石車のツルーイング対象面の表面部分を円滑に除去することができ、形直しを、より一層、効率よく行うことができる。
【0021】
なお、第一段階のツルーイング加工の全体における一部において、ツルア周速度比がマイナスの値となるようにする態様では、第一段階のツルーイング加工の初期段階においてツルア周速度比をマイナスの値に設定して、これにより、粗い形直しを行った上で、第一段階のツルーイング加工の後期段階においてツルア周速度比をプラスの値に設定して、これにより、仕上の形直しを行うようにすると、第一段階のツルーイング加工の開始当初において、ある程度ラフな寸法精度の形直しを効率よく行うことができる上に、第一段階のツルーイング加工の完了時に、形直しの高度な精度を確保できることから好適である。
【0022】
また、上述の課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「回転駆動される砥石車と、
回転駆動されると共に、前記砥石車に対して、砥石車の軸方向及び径方向に相対的に移動駆動されるツルアと、
砥石車とツルアとが接触した際に生じるアコースティックエミッションを検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサと、
「(ツルアの周速度)/(砥石車の周速度)」で示すツルア周速度比が所定の値となるように砥石車に対するツルアの相対的な回転を制御して、回転する砥石車のツルーイング対象面を回転するツルアによってツルーイングする制御装置であって、前記アコースティックエミッションセンサの出力値が閾値に達するまで、小さなツルア周速度比でツルーイング対象面に第一段階のツルーイング加工を行った後、大きなツルア周速度比で同一のツルーイング対象面に第二段階のツルーイング加工を行う制御装置と
を備えることを特徴とする研削盤」
である。
【0023】
この研削盤によれば、上記の通り構成された制御装置を具備するため、形直し及び目立ての双方を効率よく行うことができるばかりでなく、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うことのできる上述のツルーイング方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0024】
上述の通り、本発明によれば、形直し及び目立ての双方を効率よく行うことができるばかりでなく、砥石を過剰に除去しない的確なツルーイングを行うこともできる砥石車のツルーイング方法、及び、このツルーイング方法を実現する研削盤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明に係る砥石車のツルーイング方法及び研削盤の実施形態の一例を、図面に従って詳細に説明する。
【0026】
図1に、研削盤10(具体的には円筒研削盤)の一例を示す。この研削盤10は、基台を構成するベッド20と、砥石車Sを支持する砥石台30と、ワークWを支持するワーク台40とを備えたものである。ここで、砥石台30は、砥石車Sの回転軸となる砥石軸32を回転自在に支承する軸頭31と、砥石軸32を回転させる砥石軸回転駆動装置(図示省略する)とを備えており、砥石車Sは、軸頭31の砥石軸32に着脱自在に装着されて回転駆動される。また、ワーク台40は、ワークWの一側端部を支持する主軸42、及び、この主軸42を回転させる主軸回転駆動装置(図示省略する)を有する主軸台41と、ワークWの他端側端部を回転自在に支持するセンタ44を有する心押し台43とを備えており、ワークWは、主軸台41の主軸42と心押し台43のセンタ44との間に支持されて、研削加工時において回転駆動される。
【0027】
砥石台30は、ベッド20上に、送りねじ機構やリニアモータ機構等の適宜のスライド機構によって、主軸42の径方向(以下「X軸方向」という)に移動自在に組付けられており、X軸駆動装置(図示省略する)によって、X軸方向に移動駆動される。また、ワーク台40は、ベッド20上に、送りねじ機構やリニアモータ機構等の適宜のスライド機構によって、主軸42の軸方向(以下「Z軸方向」という)に移動自在に組付けられており、Z軸駆動装置(図示省略する)によって、Z軸方向に移動駆動される。このような構成により、この研削盤10では、砥石車SとワークWとを、Z軸方向及びX軸方向に相対的に移動させることができる。
【0028】
また、主軸台41には、ツルアTが着脱自在に装着されたツルア台51が付設されており、砥石軸32には、砥石車SとツルアTとの接触を検出するAEセンサ52が組込まれている。よって、この研削盤10は、ツルーイング装置50を具備するものとなっており、ツルーイング装置50において、砥石車SとツルアTとを、砥石車Sの軸方向でもあるZ軸方向、及び、砥石車Sの径方向でもあるX軸方向に、相対的に移動させることができるものとなっている。
【0029】
なお、本例では、砥石車Sの砥石が、CBN砥石(立方晶窒化ホウ素砥石)によって構成されており、この砥石を良好にツルーイングできるように、ツルアTとして、円板状に形成される共に外周面の全周にダイアモンドが埋設され、ツルア台に組込まれたツルア回転駆動装置(図示省略する)によって、ツルーイングに際して回転駆動される回転タイプのツルアTが採用されている。また、AEセンサ52は、砥石軸32の先端に組込まれており、砥石軸32における砥石車Sの装着部分の剛性を確保し易い構造となっている。ここで、AEセンサ52は、砥石車Sの装着部分に近ければ近い程、砥石車Sが他の部材と接触した際に生じるAEを的確に検出でき、しかも、ノイズを拾い難くなるため、砥石軸32の剛性を十分に確保できるのであれば、砥石車Sの装着部分に組込むことも好適である。
【0030】
ところで、この研削盤10は、CNC制御装置等、コンピュータを用いて構成された制御装置60を備えている。ここで、制御装置60は、所定の加工プログラムを実行することで、数値制御により自動化された研削加工を行うものであり、また、所定のツルーイングプログラムを実行することで、数値制御により自動化されたツルーイングを行うものである。そして、制御装置60は、機能的構成として、X軸駆動装置を制御するX軸制御手段61と、Z軸駆動装置を制御するZ軸制御手段62と、主軸回転駆動装置を制御する主軸制御手段63と、ツルア回転駆動装置を制御するツルア制御手段64と、砥石軸回転駆動装置を制御する砥石軸制御手段65とを具備するものとして構成されている。
【0031】
また、制御装置60は、ツルーイングを行う場合に、「ツルア周速度比が所定の値となるように砥石車に対するツルアの相対的な回転を制御する」のであるが、加えて、AEセンサ52から出力される検出信号を監視しており、「AEセンサの出力値が閾値に達するまで、小さなツルア周速度比でツルーイング対象面に第一段階のツルーイング加工を行った後、大きなツルア周速度比で同一のツルーイング対象面に第二段階のツルーイング加工を行う」といったように、研削盤10(ツルーイング装置50)の砥石軸駆動装置、ツルア回転駆動装置、X軸駆動装置、Z軸駆動装置等の各種の機器の駆動を制御する。
【0032】
次に、ツルーイングの詳細について説明する。ツルーイングでは、砥石車SにツルアTが接触を開始した時点でのツルアTの位置を基準に、砥石車Sのツルーイング対象面にツルアTによって所定のツルーイング加工を施すことで、研削加工によって損耗した砥石車Sの研削面の形状の修正や、砥粒の切れ味を再生するのであるが、以下では、砥石車Sの外周面をツルーイング対象面として、このツルーイング対象面をツルーイングする状態を例示して説明する。なお、これに限らず、砥石車の端面等、適宜の研削面をツルーイング対象面とすることができる。また、以下では、平坦面である円筒状の砥石車Sの外周面をツルーイング対象面としているが、ツルーイング対象面は、平坦面ばかりでなく、研削対象のワークの形状にあわせた総型砥石の凹凸面であってもよく、この場合には、ツルアTを、所定の切込み量で、凹凸を有するツルーイング対象面に倣ってツルーイング方向に移動させることで、ツルーイングを行うことができる。
【0033】
図2に、砥石車Sの外周面をツルーイング対象面として、このツルーイング対象面をツルアTによってツルーイングする状態を示す。ここで、本例のツルーイングは、砥石車Sの軸方向を、ツルーイング加工に際してツルアTを移動させる「ツルーイング送り方向」とし、砥石車Sの軸方向を、ツルーイング加工に際して切除される砥石の量の方向を示す「切込み方向」とし、ツルアTを所定の切込み量でツルーイング送り方向に1回移動させることを1回の「ツルーイングストローク」とすると、複数回のツルーイングストローク(図2のツルーイングストロークA〜I参照)を繰返し行って、ツルーイングストローク毎に、ツルーイング対象面に沿って砥石の表面部分を徐々に除去するものである。また、各ツルーイングストロークにおいては、砥石車Sに対してツルアTを、砥石車Sに確実に接触しないツルーイング送り方向の一方の側の逃がし位置であるツルーイングストロークの開始端から、砥石車Sに確実に接触しないツルーイング送り方向の他方の側の逃がし位置であるツルーイングストロークの終了端に向かって、ツルーイング送り方向に移動させることで、ツルアTを、ツルーイング対象面を超える範囲に渡って移動させている。
【0034】
なお、図2では、ワークの研削加工によってツルーイング対象面の中央部分が大きく損耗している砥石の状態を示しており、説明の便宜上、砥石の損耗及びツルーイングスストローク毎の切込み量を誇張してあるが、実際には、砥石の損耗及び切込み量は僅かなものである。
【0035】
一方、このツルーイングに際しては、制御装置60によって、AEセンサ52から出力された検出信号を監視しており、図3に、AEセンサ52から出力されるAE信号波形の一例を示す。
【0036】
なお、図3のグラフは、AEセンサ52からの出力されたAE信号波形(電圧)と時間との関係を示すものであり、AE信号波形は、電圧0を基準に+域と−域とで振幅するのであるが、このグラフでは、振幅の上限値を直線で模式的に示すことで、振幅する波形の図示を省略してある。
【0037】
このツルーイングでは、まず、砥石車Sの周速度が、常時、実際にワークを研削加工する際の周速度(例えば120m/s)等の所定の周速度となるように、砥石車Sの回転を制御する。一方、ツルアTについては、その周速度を、砥石車Sの周速度よりも十分に遅くして(例えば36m/s)、ツルア周速度比が、後述する上仕上ツルーイング加工時よりも小さな値(例えば0.3)となるように回転を制御する。
【0038】
次に、砥石車Sに対してツルアTを、ツルーイングの開始位置aに位置させ、この開始位置aを開始端として、終了端に向かって、ツルーイング送り方向に所定の第一送り速度(例えば3000mm/min)で移動させて、1回目のツルーイングストロークAを行う。この時、砥石車SにツルアTが接触しなければ、所謂「空振り」であり、AEセンサ52からは、接触の検出信号が出力されず、ノイズ1だけが出力される(図3のA部分を参照)。
【0039】
次に、ツルアTを、1回目のツルーイングストロークAの終了端から所定の第一切込み量(例えば10μm)となるように砥石車Sの切込み方向に近づけた上で、この近づけた位置を開始端として、終了端に向かって、ツルーイング送り方向にツルーイングストロークAと同じ送り速度である所定の第一送り速度で移動させて、2回目のツルーイングストロークBを行う。この時、砥石車SにツルアTが接触すると、AEセンサ52からは、接触の検出信号が出力される(図3のB部分を参照)。ここで、AEセンサ52の出力値が、予め定められた所定の閾値1に達していなければ、ツルーイングストロークBと同量の切込み量でのツルーイングストローク(ツルーイングストロークC,D参照)を繰返し行う。すると、砥石車SとツルアTとの接触度合いが増加して、やがて、ツルーイング対象面の一部において、閾値1を超える出力値が得られる(図3のD部分参照)。
【0040】
このように、局部的ではあっても、閾値1に達した出力値が得られた時点で、第一段階の初期段階である粗ツルーイング加工を完了することとする。そして、次回以降のツルーイングストローク(ツルーイングストロークE〜G参照)では、送り速度及び切込み量を、夫々、第一送り速度よりも遅い所定の第二送り速度(例えば2000mm/min)、及び、第一切込み量よりも少ない所定の第二切込み量(例えば7.5μm)に変更して、ツルーイングストローク(ツルーイングストロークE〜G参照)を繰返して、第一段階の後期段階である中仕上ツルーイング加工を行う。
【0041】
次に、この中仕上ツルーイング加工において、AEセンサ52から、ツルーイング対象面全体に渡って予め定められた所定の閾値2を超える出力値が得られると(図3のG部分参照)、この時点で、ツルーイング対象面の形直しが完了したとして、以降、第二段階の上仕上ツルーイング加工を行う。
【0042】
この上仕上ツルーイング加工では、先回までのツルーイング加工時に比して、ツルアTの周速度を速くして(例えば90m/s)、ツルア周速度比の値を大きくし、しかも、「1」に近づけた値(例えば0.75)として、ツルーイング対象面に露呈する砥粒を破砕して研削面の良好な切れ味を再生する。また、送り速度及び切込み量を、夫々、第二送り速度よりも遅い所定の第三送り速度(例えば1000mm/min)、及び、第二切込み量よりも少ない所定の第三切込み量(例えば5μm)に変更して、最終的に、高度な寸法精度の形直しを完了させる。なお、本例では、上仕上ツルーイング加工を、2回のツルーイングストローク(ツルーイングストロークH,I参照)を行って、高度な寸法精度の形直し及び良好な切れ味の再生の双方を確実に行うことができるようにしてある。
【0043】
以上、本発明に係る砥石車のツルーイング方法及び研削盤の一例を説明したが、本発明はこれに限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更が可能である。
【0044】
例えば、本発明に係るツルーイング方法を実現する研削盤は、円筒研削盤以外の他のタイプの研削盤であってもよい。また、AEセンサは、砥石軸に設けられたものに限らず、砥石台側の他の部位、ツルア台等のテーブル台側の適宜部位や、ベッドの適宜部位に設けられたものであってもよい。さらに、本発明に係るツルーイング方法は、ツルーイング装置を具備する研削盤に限らず、ツルーイング専用の装置として独立したツルーイング装置によっても実現することができる。
【0045】
また、上述の例では、上仕上ツルーイング加工として、ツルーイングストロークH,Iの2回のツルーイングストロークを行うが、これに限らず、1回のツルーイングストロークを行うこととしてもよい。しかしながら、少なくとも2回のツルーイングストロークを行うのが好適であり、少なくとも3回のツルーイングストロークを行うのが、より好適である。上仕上ツルーイング加工の直前のツルーイング加工にて除去した砥石の量に差異が生じていると、この差異が、次回のツルーイング加工である上仕上ツルーイング加工に影響を及ぼすため、高度な寸法精度のツルーイングや、砥粒の一定の切れ味を再生するツルーイングを実現し難くなるからである。
【0046】
上述の例では、粗ツルーイング加工、中仕上ツルーイング加工及び上仕上ツルーイング加工といったように、ツルーイング全体が3種類のツルーイング加工により構成されているが、粗ツルーイング加工を省略してもよい。また、粗ツルーイング加工においては、ツルア周速度比をマイナスの値として、ラフな形直しを行うこととしてもよい。さらに、上仕上ツルーイング加工によって構成された第二段階のツルーイング加工におけるツルア周速度比としては、常時一定とした従来のツルーイング方法と同様に「0.5〜0.9」の範囲で適宜設定して、砥粒の破砕を良好に行うことができるようにすればよい。そして、粗ツルーイング加工及び中仕上ツルーイング加工によって構成された第一段階のツルーイング加工におけるツルア周速度比としては、第二段階のツルーイング加工時の周速度比よりも小さな値(マイナス値を含む)を、適宜設定すればよい。
【0047】
ここで、本発明では、第二段階のツルーイング加工が、形直しよりも目立てを重要視したツルーイング加工であることから、第二段階のツルーイング加工時のツルア周速度比を、「0.5以上」、好適には「0.7以上」といったように、「1」に近い大きな値に設定しても、形直しの効率が大きく低下することがない。よって、第二段階のツルーイング加工時のツルア周速度比を大きな値に設定して、目立ての効率向上を積極的に図ることができる。特に、目立てを行う際のツルア周速度比が、特開平5−138532号公報に記載のもののように「0.3」といった小さな値であると、CBN砥石に対して良好な目立てを行うことができない虞があるが、「0.5以上」、好適には「0.7以上」といったように、「1」に近い大きな値に設定することで、CBN砥石に対して良好な目立てを行うことができる。
【0048】
また、本発明では、粗ツルーイング加工、中仕上ツルーイング加工及び上仕上ツルーイング加工といったような、送り速度及び切込み量が異なる複数種類のツルーイング加工を必須の要件としないことから、一連のツルーイングでの個々のツルーイング加工を、送り速度または切込み量の一方、或いは、送り速度及び切込み量の双方が同一条件のものとしてもよい。
【0049】
また、ツルアを、砥石車に確実に接触しない位置である開始位置(図2の位置a)に位置決めしてツルーイングを開始するに際しては、先回のツルーイングによって割出した砥石車Sの形状寸法に対して、所定の切込み量を加えた位置を開始位置とする等、先回のツルーイングによって把握した砥石車の形状寸法を参照して次回のツルーイング開始位置を決定することとすれば、初回のツルーイングストロークが、空振りのツルーイングストロークとなり難いツルーイングを行うことができ、これにより、空振りする無駄なツルーイングストロークを省略することができる。また、実際に研削加工を行ったワークの形状寸法から割出したツルーイング直前の砥石車の寸法形状を参照して開始位置を決定することで、初回のツルーイングストロークにて、ツルアを砥石車に確実に接触させるようにしてもよい。
【0050】
一方、先回のツルーイングや研削加工されたワークから割出した砥石車の形状寸法を参照して、初回のツルーイングストロークにて、ツルアが砥石車に確実に接触しないように開始位置を決定してもよい。このようにすることで、初回のツルーイングストロークにて、切込み量が多すぎるツルーイング加工が行われることを防止することができる。
【0051】
さらに、砥石車とツルアとを相対的に近づけて、AEセンサによって砥石車とツルアとの接触開始を検出して、接触が開始した時点でのツルアの位置を基準にして一連のツルーイングを行うこととしてもよい。このような態様では、AEセンサの出力値が接触開始判断用の閾値に達することを条件に、砥石車とツルアとの接触が開始したと判断すればよいのであるが、AEセンサからの検出信号がノイズを含むことから、接触開始判断用の閾値を、ノイズと明確に区別できるように、十分に高く設定しなければならない。そこで、砥石車とツルアとの接触判断が完了するまでは、砥石車の周速度を、以降の一連のツルーイング加工時よりも遅くするとよい。砥石車の周速度を遅くすることで、ノイズの出力値を低下させることができ、砥石車とツルアとの高精度な接触開始位置を検出することができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る研削盤の一例を示す平面図である。
【図2】本発明に係るツルーイング方法によりツルーイングを行う状態を示す概略図である。
【図3】図2に示したツルーイング時のAE信号波形のグラフである。
【符号の説明】
【0053】
S 砥石車
T ツルア
W ワーク
10 研削盤
20 ベッド
30 砥石台
31 軸頭
32 砥石軸
40 ワーク台
41 主軸台
42 主軸
43 心押し台
44 センタ
50 ツルーイング装置
51 ツルア台
52 AEセンサ
60 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
「(ツルアの周速度)/(砥石車の周速度)」で示すツルア周速度比が所定の値となるように砥石車に対するツルアの相対的な回転を制御して、回転する砥石車のツルーイング対象面を回転するツルアによってツルーイングする砥石車のツルーイング方法であって、
砥石車とツルアとが接触する際に生じるアコースティックエミッションを検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサの出力値が閾値に達するまで、小さなツルア周速度比でツルーイング対象面に第一段階のツルーイング加工を行った後、大きなツルア周速度比で同一のツルーイング対象面に第二段階のツルーイング加工を行うことを特徴とする砥石車のツルーイング方法。
【請求項2】
砥石車にツルアを接触させた状態で、砥石車に対してツルアを相対的に、砥石車のツルーイング対象面を超えた範囲に渡って移動させた際に、砥石車のツルーイング対象面の全体に渡ってアコースティクエミッションセンサの出力値が閾値に達することを前記第一段階のツルーイング加工の終了条件とすることを特徴とする請求項1に記載の砥石車のツルーイング方法。
【請求項3】
前記第一段階のツルーイング加工は、砥石車とツルアとの接触部分において砥石車とツルアとが逆方向に移動するように砥石車に対してツルアを回転させることでマイナスの値となったツルア周速度比のツルーング加工を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の砥石車のツルーイング方法。
【請求項4】
回転駆動される砥石車と、
回転駆動されると共に、前記砥石車に対して、砥石車の軸方向及び径方向に相対的に移動駆動されるツルアと、
砥石車とツルアとが接触した際に生じるアコースティックエミッションを検出信号として出力するアコースティクエミッションセンサと、
「(ツルアの周速度)/(砥石車の周速度)」で示すツルア周速度比が所定の値となるように砥石車に対するツルアの相対的な回転を制御して、回転する砥石車のツルーイング対象面を回転するツルアによってツルーイングする制御装置であって、前記アコースティックエミッションセンサの出力値が閾値に達するまで、小さなツルア周速度比でツルーイング対象面に第一段階のツルーイング加工を行った後、大きなツルア周速度比で同一のツルーイング対象面に第二段階のツルーイング加工を行う制御装置と
を備えることを特徴とする研削盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−260880(P2007−260880A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92655(P2006−92655)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】