説明

破傷風毒素の重鎖のカルボキシル末端ドメインをコードする配列の薬物としての使用

本発明は、好ましくは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置における、薬物としての破傷風毒素の重鎖のカルボキシル末端ドメインをコードする配列の使用に関し、ならびに前記疾患の処置のための該配列によりコードされるポリペプチドに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置における、薬物としての破傷風毒素の重鎖のカルボキシル末端ドメインをコードする配列の使用に関し、ならびに前記疾患の処置のための該配列によりコードされるポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ルーゲーリック病またはシャルコー病)は、髄質、延髄および運動皮質のレベルで運動ニューロンの変性に進行する進行性、不治性かつ致死性の疾患である。スペインの場合には、この病気は2/100,000の発生率および1/10,000の有病率を呈し、このことは、およそ40,000人のスペイン人がその生涯の、ある時にこの疾患を発現しうることを示唆している(出典: Spanish Amyotrophic Lateral Sclerosis Association-ADELA-)。
【0003】
長年にわたって認識されている疾患であったにもかかわらず、今もなおその原因は正確に知られておらず、この疾患の遺伝型が存在したとしても、遺伝的な起源を持たないように思われる症例も知られている。それゆえ、症例の10%が遺伝的原因、つまり家族型のものであると推定されており、そのうちの15〜20%がスーパーオキシドジスムターゼ酵素(SOD-1)における突然変異に相当し、この酵素における突然変異はこの病気の散発型でさえも観察されている(Brown, R.H. Jr. (1997). Arch. Neurol. 54(10) 1246-1250(非特許文献1))。ニューロフィラメント重鎖をコードする遺伝子NFHにおける突然変異も筋萎縮性側索硬化症の一部の罹患者において例外的な形で見出されている。
【0004】
したがって、この疾患の遺伝的固有性の研究は大変興味深い。
【0005】
近年では、この病気の動物モデルの作出が実験的な処置研究において最適なツールの一つとなっており、その原因に関するいくつかの疑問を解決する助けとなっているが、その原因は依然としてあまり正しくは理解されていない。SOD-1酵素に関するノックアウトマウスも、ヒトSOD-1酵素における種々の突然変異に関するトランスジェニック動物も、ヒトでの疾患に類似の臨床パターンを再現することができていない。この病気の発現に似通うところの最も多い動物は、93位での変異体スーパーオキシドジスムターゼのいくつかのコピーを呈するトランスジェニックであり、Jackson Laboratoryが供給している、いわゆる、SOD1G93Aである(Tu, P.H., et al. (1996.) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 93(7): 3155-3160.(非特許文献2))。
【0006】
原因および機構を理解するために多数の研究が行われているにもかかわらず、目下のところ、古典的な効果的処置は存在していない。現在、グルタミン酸アンタゴニスト、神経栄養因子および酸化防止剤の適用に基づき3系統からの研究が進行中であるが、今まで、これらのどれも効果的処置にはつながっていない。
【0007】
ここ数年の間に、神経栄養因子の能力は運動ニューロンを変性から救うことがわかってきた。各種の神経栄養因子(GDNF、CNTF、NI-4、IGF-1)を発現するアデノウイルスベクターを用いて動物モデルで行われ、有望な結果をもたらした遺伝子治療の経験から、大変な関心が生じている。とはいえ、アデノウイルスの注入は、それらが引き起こす重大な免疫反応のため、新生児期の動物に適用されなければならないという不都合を提起した。それゆえ、これらの結果は有用であったが、ALSに対する効果的な処置を可能にするためには、もっと免疫原性の低い新たなベクターを開発することが不可欠である。
【0008】
今までに行われた臨床試験に関して、Dr. Schuelpにより1996年の初め、満足な結果は得られなかった(http://www.wiley.co.uk/genetherapy)。この失敗に関しては試験に使われた神経栄養因子(CNTF)の性質および/またはそれが中枢神経系に到達しにくいといった原因が考えられた。1999年に、Axel Kahn博士のグループは、動物モデルでの該神経栄養因子のための投与経路が、実際、その治療効果において重要な因子であることを証明した(Haase et al. (1999) Ann. Neurol. 45(3) 296-304(非特許文献3))。この特異性の欠如も、皮下形態でのヒトにおけるBDNFの投与失敗の推定原因として提起されている。
【0009】
さらに、全身的に投与された神経栄養因子は、他の組織に作用する際に毒性に関する問題を起こす。このような多くの不利益があるものの、前臨床段階での有望な結果から、神経栄養因子の治療的可能性は引き続き研究されている。具体的には、Rochester Medical Center (Minnesota)で行われた最近の臨床試験は、前と同じように、神経栄養因子IGF-1の投与に基づいている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Brown, R.H. Jr. (1997). Arch. Neurol. 54(10) 1246-1250
【非特許文献2】Tu, P.H., et al. (1996.) Proc. Nati. Acad. Sci. USA. 93(7): 3155-3160.
【非特許文献3】Haase et al. (1999) Ann. Neurol. 45(3) 296-304
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、破傷風毒素の重鎖の無毒性カルボキシル末端ドメイン(HcTeTx) (これは現在まで、融合タンパク質の作出を通じ、さまざまな神経栄養因子、およびSOD-1酵素のための媒体としてALSの処置で使用されているにすぎない)がそれ自体で疾患動物モデルの生存期間を延長できることについて記述した。
【0012】
したがって、本発明の第一の局面は、好ましくはALSの処置用の、薬物の作出のための単離HcTeTxのコード配列、その対立遺伝子変種、またはそれらの機能的断片を含むポリヌクレオチドの使用に関する。本発明の一つの好ましい態様において、HcTeTxのコード配列はHcTeTxのアミノ末端のアミノ酸V (バリン)のコード化トリプレットからアミノ酸D (アスパラギン酸)をコードするトリプレットまでを包含し、好ましくは、アクセッション番号(NCBI.: P04958)を有する配列のアミノ酸V (854)からD (1315)までを包含する。本発明のこの局面のさらにより好ましい態様において、HcTeTxのコード配列はSEQ ID NO:1であり、HcTeTx断片はSEQ ID NO:5である。以下、このポリヌクレオチドを「本発明のポリヌクレオチド」と呼ぶものとする。
【0013】
別の好ましい態様において、本発明のポリヌクレオチドには、とりわけALSの処置用の、薬物として作用するその能力に影響を与えない突然変異(欠失、挿入、反転、点突然変異など)がありうる。本発明の変異ポリヌクレオチドの治療効果の維持は、実施例IおよびIIのいずれかの再現を通じて試験することができる。本記述の全体を通じて、これらの変異ポリヌクレオチドを対立遺伝子変種ともみなすものとする。
【0014】
同様に好ましい態様において、本発明のポリヌクレオチドは、プロモーター配列、終結配列、サイレンシング配列、染色体または遺伝物質の任意のタイプの組織構造への挿入を促進する配列などを含むこともできる。
【0015】
本発明の第二の局面では、好ましくはALSの処置用の、薬物の作出のための本発明のポリヌクレオチドを含むベクターについて言及し、該ベクターはプラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、ヒト人工染色体(HAC)、アデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクター、または原核生物細胞もしくは真核生物細胞の内部で自身を複製できるその他の任意のタイプのDNAもしくはRNA分子を(制限のタイプなしに)含む群より選択される。以下、このベクターを「本発明のベクター」と呼ぶものとする。
【0016】
本発明の第三の局面では、好ましくはALSの処置用の、薬物の作出のためのトランスジェニック細胞の使用について言及し、該細胞は本発明のポリヌクレオチドおよび本発明のベクターを含む。
【0017】
本発明の第四の局面は、ALSの処置用の薬物の作出のための単離HcTeTxのコード配列、その対立遺伝子変種、またはそれらのその機能的断片を含む単離ポリヌクレオチドの使用に関する。本発明の好ましい態様において、HcTeTx配列は、アクセッション番号(NCBI.: P04958)を有する配列のアミノ酸V (854)からD (1315)までを包含する。本発明のこの局面のさらにより好ましい態様において、HcTeTxの配列はSEQ ID NO:2であり、HcTeTx断片はSEQ ID NO:6である。以下、このポリヌクレオチドを「本発明のポリヌクレオチド」と呼ぶものとする。
【0018】
別の好ましい態様において、本発明のポリペプチドは、たとえ上記の突然変異がALSの処置用の薬物として作用するその能力に影響を与えないにしても、変異(欠失、挿入、反転、アミノ酸の点置換など)している。本発明の変異ポリヌクレオチドの治療効果の維持は、実施例1および2の再現を通じて試験することができる。
【0019】
薬物または薬学的組成物の投与のために、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、トランスジェニック細胞、またはポリペプチドは、選択の投与経路によるその投与に適した薬学的形態に製剤化されうる。このために、薬学的組成物は、薬学的に許容されかつ選択の薬学的投与形態を作出するのに必要とされる媒体および賦形剤を含むであろう。薬学的組成物の作出において使用できる賦形剤または媒体に関する情報、および活性成分の薬学的投与形態に関する情報は、一般的に、C. Fauli i Trillo, 1st Edition, 1993, Luzan 5, S.A. de Edicionesによる書籍「Treatise of the Galenic Pharmacy」のなかで見出すことができる。
【0020】
薬学的組成物は、少なくとも、治療的有効量で見出されるべきである本発明のポリヌクレオチド、ベクター、トランスジェニック細胞、またはポリペプチドを含む群からの要素のいずれかを含む。本記述のなかで用いられる意味において、表現「治療的有効量」とは、所望とされる効果を生み出すように計算された選択要素の量をいい、一般的に、とりわけポリペプチド要素それ自体の特徴、および得られる治療効果、処置される個体の特徴、該個体が患う病気の重症度などによって判定される。以下、この薬学的組成物を「本発明の薬学的組成物または薬物」というものとする。
【0021】
本発明の薬学的組成物は任意の適当な投与経路によって、例えば、経口経路、非経口経路、鼻腔(粘膜)経路などによって、典型的には、非経口経路によって、好ましくは、その筋肉内投与または皮下投与を通じて投与することができる。同様に、薬学的組成物はその投与に適した任意の提示形態で、例えば、選択の投与経路によるその投与に適した、固体形態(錠剤、カプセル、顆粒など)、液体形態(溶液、懸濁液、乳濁液など)などで存在することもできる。一つの好ましい態様において、薬学的組成物は適切な単位投薬量のための薬学的形態で製剤化される。
【0022】
好ましい態様において、薬学的組成物は、固体形態、好ましくは液体形態のいずれかで、経口によって投与され得、より好ましくは筋肉内経路による投与に簡便な液体形態で投与される薬学的形態でありうる。経口経路による薬学的投与形態の実例には錠剤、カプセル、顆粒、溶液、懸濁液などがあり、それらは凝集剤、希釈剤、崩壊剤、滑沢剤、保湿剤などのような、従来の賦形剤を含有することができ、従来の方法によって調製することができる。別の好ましい態様において、薬学的組成物を、例えば、適当な投薬形態の、溶液、懸濁液、または凍結乾燥された無菌生成物の形態で、非経口投与に適合させることもできる; この場合、薬学的組成物は緩衝剤、表面活性剤などのような適当な賦形剤を含む。どの場合でも、賦形剤は、選択される薬学的投与形態との関連で選択され得る。薬物の種々の薬学的投与形態およびその調製に関する概説は、上記で引用した、C. Fauli i Trillo, 10th Edition, 1993, Luzan 5, S.A. de Edicionesによる書籍「Treatise of the Galenic Pharmacy」のなかで見出すことができる。同様に、薬学的組成物は、さらに高い効率を複合物に供与する他のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、または細胞を含むこともできる。
【0023】
定義:
本書面において用いられる「ポリヌクレオチド」という用語は、任意の長さのヌクレオチドの重合形態をいい、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドでありうる。この用語はもっぱら、分子の一次構造をいう。したがって、この用語は二本鎖状および一本鎖状のDNA、ならびに二本鎖状および一本鎖状のRNAを含む。
【0024】
本記述の全体を通じて「単離(された)」という用語は、HcTeTxまたはそのコード配列に関連して用いられる場合、これらがヒトの体から単離されたという事実をいうだけではなく、治療的機能を遂行しうる融合タンパク質または融合酵素の一部をそれらが形成していないという事実もいう。
【0025】
「HcTeTxの機能的断片、その対立遺伝子変種、またはそれらをコードする配列」という表現は本記述の全体を通じて、薬物、より具体的にはALSの処置用の薬物として作用するその能力を維持した、HcTeTxの一部分、その対立遺伝子変種またはそのコード配列を含む、ペプチドまたはポリヌクレオチドをいい、ここでそれらの治療的能力の維持は、実施例1〜3の再現を通じて試験することができる。
【0026】
本記述の全体を通じて「対立遺伝子変種」という用語は、破傷風毒素の重鎖のC末端ドメインと極めて相同であり、かつ機能的に等価であるポリペプチドをいう。本明細書で用いられる場合、ペプチドは、そのアミノ酸配列が少なくとも60%、70%、85%のおよび、より好ましくは、少なくとも95%の、該ドメインのアミノ酸配列に関する同一性度を有する場合、該ドメインと「極めて相同」である。好ましくは、該ドメインのアミノ酸配列はSEQ ID NO:2である。この用語は同様に、本記述においてHcTeTxと機能的に等価である極めて相同なポリペプチドをコードできるポリヌクレオチドといわれる。このように、ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド配列が好ましくはSEQ ID NO:1である、HcTeTxのコード化ポリヌクレオチドと少なくとも40%、50%、60%、70%、85%または95%の相同性を有することができる。
【0027】
「機能的に等価な」という表現は、本記述の全体を通じて用いられる場合、ポリペプチドまたはポリペプチドが、その治療的能力の維持を実施例IまたはIIの再現を通じて試験できるときに、薬物、より具体的にはALSの処置用の薬物として作用するその能力を維持していることを意味する。
【0028】
当業者のために、本発明の他の目的、利点および特徴を、本記載の一部において、および本発明の実践の一部において明らかにする。以下の例は、例証の一様式を提供するものであり、それらは本発明を限定するものとみなされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】HcTeTx発現の検出のためのPCR増幅。プラスミドpCMV-HcTeTx (n=2、レーン1および2)ならびに空のプラスミドpCMV (n=2、レーン3および4)の筋肉内注射から10日後に、筋肉からRNAを抽出し、逆転写を行った。得られたcDNAを、遺伝子HcTeTxに関するPCRにより増幅した。レーン5は陽性対照(プラスミドpCMV-HcTeTx)を示しており、レーン6に反応の標的がロードされている。レーンMにはサイズマーカー100 bpが見られる。
【図2】ALS SOD1G93A疾患モデルマウスにおける症状発症時の、HcTeTxをコードするネイキッドDNAによる処置の効果。症状の顕在化は、対照群(n=10)と比較してHcTeTx処置群(n=10)で有意に遅延された。Kaplan-Meier生存分析(SPSS 13.0)を用いて積算確率を計算した。
【図3】ALS SOD1G93A疾患モデルマウスにおける生存期間に対する、HcTeTxをコードするネイキッドDNAによる処置の効果。生存期間は、対照群(n=10)と比較してHcTeTx処置群(n=10)で有意に増大した。Kaplan-Meier生存分析(SPSS 13.0)を用いて積算確率を計算した。
【図4】HcTeTxをコードするネイキッドDNAによる処置の効果。一定速度14 rpmで回転するロッドを通じ、180秒の進行(development)最大時間を用いて、運動活動を判定した。より高い運動活動は対照群(n=10)と比較してHcTeTx処置群(n=10)で認められた。
【図5】SOD1G93AマウスにおけるHcTeTxをコードするネイキッドDNAの筋肉内注射の効果。ハンギングワイヤ試験を用いてマウスにおける運動力および運動機能を試験した。マウス10匹を各群で用いた(n=10)。
【図6】SOD1G93AマウスにおけるHcTeTxをコードするネイキッドDNAの筋肉内注射の効果。HcTeTxにより処置したトランスジェニックマウスの体重の計測。マウス10匹を各群で用いた(n=10)。
【図7】110日齢であった症候性SOD1G93Aマウスの脊髄でのアポトーシスシグナル伝達経路に関わる遺伝子発現の分析。Casp1、Casp3、BaxおよびBcl2遺伝子ならびに対照(標的)マウスおよびHcTeTxにより処置したマウス(灰色)における平均の伝令RNA値の表示。先のマウス群を野生型マウス(黒色)と比較した(1群につきマウスn=5)。
【図8】110日齢であった症候性SOD1G93Aマウスの脊髄でのアポトーシスシグナル伝達経路に関わるタンパク質の分析。野生型マウス(黒色)と比較したHcTeTx処置マウス(灰色線)および対照マウス(黒色線)の脊髄での使用タンパク質中のプロCasp3、活性Casp3、BaxおよびBcl2のウエスタンブロット分析(1群につきマウスn=5)。
【図9】AktおよびErk 1/2タンパク質のリン酸化のウエスタンブロット分析。1群につきマウス5匹のサンプルを分析した。IVD (Intensity Density Value: 強度密度値)。ウエスタンブロットにより分析された量を、野生型マウスの値に関しβ-チューブリンに対する比率として示した。(P<0.05、**P<0.01; 誤差棒はSEMを示す)。この棒は、先の説明文において記述した同群に相当する。
【図10】ALS SOD1G93Aモデルマウスにおける生存期間に対する、破傷風毒素の重鎖のC末端ドメイン(HcTeTx)を含んだポリペプチドによる腹腔内処置の効果。生存期間は、対照群(n=3、実線)と比較してHcTeTx処置群(n=3、破線)で有意に増大した。Kaplan-Meier生存分析(SPSS 13.0)を用いて積算確率を計算した。
【図11】HcTeTxを注射したマウスの筋肉内処置はSOD1G93Aトランスジェニックマウスの脊髄におけるカルシウム恒常性に関連する遺伝子の発現に影響を及ぼす。HcTeTx (灰色)または空のプラスミド(白色)により処置したトランスジェニックマウスでの遺伝子Ncs1およびRradにおける発現のレベルを判定した。先のマウス群における伝令RNAのレベルの変化を野生型マウス(黒色)と比較した(P<0.05、**P<0.01; 誤差棒はSEMを示す; 1群につきマウスn=5)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
態様の詳細な開示
以下に、本発明者らが行った、薬物、およびより好ましくはALSの処置用の薬物として用いるのに、HcTeTxおよびそのコード配列が効果的であることを実証する試験を通じて本発明を例証する。
【0031】
実施例1 ネイキッドDNAの筋肉内注射によるHcTeTxの投与はSOD1G93Aマウスにおいて症状の発症を遅延し、生存期間を延長する。
種々の突然変異を有するヒトスーパーオキシドジスムターゼ-1 (SOD-1)の遺伝子を過剰発現するトランスジェニック動物の作出によって、疾患ALSの研究用の動物モデルを得た。これらの動物はALSに罹患するものなどの、臨床的および病理学的特徴を呈する。最も研究され特徴付けられているモデルの一つはSOD1G93Aトランスジェニックマウスであり、これは、SOD-1酵素の遺伝子上の93位にあるグリシンアミノ酸をアラニンと置き換えた突然変異を提示する。このモデル動物は各種の治療用化合物を用いて成功裏に試験されている。しかしこれは、不適切な投与経路によりおよび/または標的細胞に達する治療用分子の生物学的利用能の制限により、ヒト臨床試験では有効な治療法に結び付いていない。遺伝子治療戦略のなかにはアデノ随伴ウイルス(AAV)の使用を含むものがあり、このウイルスは筋肉内注射により運動ニューロンへ逆行的に輸送される。ウイルスベクターを使用する可能性は依然として存在するが、これは、処置される罹患者にさらなる損傷を与える可能性がある。ネイキッドDNAの使用は、特異的な遺伝子治療を患者へ届けるのに、より安全かつ適切な代替戦略である。
【0032】
材料および方法
1.1 HcTeTxをコードするネイキッドDNA
HcTeTx (破傷風毒素の重鎖のC末端ドメイン−462アミノ酸のSEQ ID NO:2)をコードする遺伝子を、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下で、真核生物発現プラスミドpcDNA3.1 (Invitrogen)にクローニングした。このベクターを化学的にコンピテントな細菌である大腸菌(Escherichia coli) (DH5a)中で産生させ、Sigma-Aldrich maxiprep GenEluteキットを用いて精製した。
【0033】
1.2 トランスジェニックマウス
G93A突然変異を有するヒトSOD1を過剰発現するトランスジェニックマウス(B6SJL-TgN[SOD1-G93A]1Gur)は、Jackson Laboratory (Bar Harbor, ME)から入手した。実験の全てにおいてヘミ接合体変異体(非トランスジェニック雌性マウスに交配した変異体雄性マウス)を用いた。Gurneyら(Gurney et al., 1994. Motor neuron degeneration in mice that express a human Cu, Zn superoxide dismutase mutation. Science, 264 (5166): 1772-5)に記述されているように、尾部から抽出したDNAのPCR増幅によってトランスジェニックマウスを特定した。これらの動物をサラゴサ大学の混合研究部(Mixed Research Unit)に保管した。それらに適宜、水と餌を与えた。サラゴサ大学の基準および実験動物の使用に関する国際的指針にしたがって、動物に対して行う全ての実験および動物に施すケアを作り上げた。
【0034】
1.3 ネイキッドDNAの筋肉内注射および筋肉の摘出
8週齢の時点でSOD1G93AトランスジェニックマウスにpCMV-HcTeTx 300 μgを大腿四頭筋(筋肉につき50 μgの注射2回)におよび上腕三頭筋(筋肉につき50 μgの注射1回)に筋肉内注射した。対照群のマウスには同じ量の空のプラスミドを注射した。筋肉内プラスミド注射から10日後に、接種を受けた筋肉を摘出し、これを液体窒素中で予め凍結し、その後、-70℃で保存した。
【0035】
1.4 RNAの抽出、cDNAの合成およびPCR増幅
これらの組織を液体窒素中で凍結し、その後、氷冷乳鉢中で挽いて粉末にした。全筋肉RNAをTRIzol試薬(Invitrogen)のプロトコルにしたがって抽出した。cDNA合成のため、SuperScript (商標) First-Strand Synthesis System (Invitrogen)キットを使用し、終量20 μL中RNA 1 μgから始めた。PCR反応を150 nMの各イニシエータ、150 μMのdNTPs、2 mMのMgCl2、1×緩衝液、0.2 UのTaqポリメラーゼおよびHcTeTx遺伝子断片の増幅のために10倍希釈したcDNA反応液各2 μLにより、終量20 μL中で行った。PCR反応は全てGeneAmp (登録商標) Thermal Cycler 2720 (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)中で行った。熱サイクルパラメータは次の通りであった: 94℃で3分間インキュベーション、ならびに94℃で30秒間、61℃で30秒間および72℃で30秒間を35サイクル。2%臭化エチジウムで染色した寒天ゲル中でHcTeTx遺伝子の増幅の存在を観察した。使用したフォワードおよびリバースプライマー配列は、それぞれ、SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4であった。単位複製配列のサイズは355 pbであった。
【0036】
1.5 ローターロッド試験、グリッド試験および生存試験
グリッド試験を用いて、筋力およびALS症状の発症を判定した。動物に8週齢から週1回この試験を行った。通常檻の蓋として用いたグリッド上に各マウスを置いた。次にグリッドを180°回転し、軟表面からおよそ60 cmの距離に維持して、いかなる損傷も回避した。各マウスが落下するまでの待ち時間を計った。各マウスに最大180秒間、反転したグリッドにつかまるよう3回試験し、その最長の時間を記録した。
【0037】
ローターロッド試験を用いて、運動協調性、運動力および運動バランスを評価した。動物を機器(ROTA-ROD/RS, LE8200, LSI-LETICA Scientific Instruments)の回転ロッド上に置いた。動物が一定速度14 rpmの該ロッド上にとどまることができた時間を記録した。各マウスに3回試験し、任意の制限時間180秒で、動物がロッドから落下せずにとどまることができた最長の時間を記録した。
【0038】
マウスの生涯の終点は、動物を仰臥位に置き、自らを回転させられなくなった時点であるとみなした。
【0039】
結果
2.1 筋肉におけるプラスミド発現の検出
最初に、構築したpCMV-HcTeTxがSOD1G93Aトランスジェニックマウスの筋細胞においてコード化遺伝子を発現する能力について確認した。これらのマウスではHcTeTx遺伝子の内因性発現の存在は認められないので、該分子のmRNA発現を検出するために、この遺伝子の断片のPCR増幅を注射した筋肉に適用した。図1に示されるように、遺伝子HcTeTxの発現は、空のプラスミドを注射した対照群では認められなかった。しかしながらPCRによって、HcTeTx遺伝子のコード化ベクターを接種した筋肉ではHcTeTx遺伝子の増幅の存在が明らかとなり、ベクターが筋細胞に成功裏に到達したこと、および該遺伝子の転写の過程が行われたことが示された。
【0040】
2.2 HcTeTxは症状の顕在化を遅延し、運動能力を改善し、SOD1G93Aトランスジェニックマウスの生存期間を延長する
HcTeTxをコードするネイキッドDNAによる筋肉内処置は、症状の発症の遅延をもたらし、運動活動を改善し、G93A突然変異およびヒトSOD1遺伝子を含んだ、ALSモデルマウスにおける疾患の終点を引き延ばした。症状の顕在化を記録し、同様に、マウスが3分間、反転したグリッド上にとどまれなかった最初の日を記録した。症状の発症は、対照群と比較した場合、HcTeTxを注射した動物の群においておよそ8日で有意に低下した(図2および表1)。図3および表1において見られるように、最大の生存期間はHcTeTx処置群のマウスにおいて検出され、平均136日に達し、対照群よりも16日長かった。12週目と13週目の間に対照群ではローターロッド上での活動の発現で有意な減少が見られたが、これらの不足は処置動物の群では16週目まで観察されなかった(図4)。
【0041】
(表1) 症状の顕在化および生存期間に関するデータを対照群およびHcTeTx処置群で、ならびにP値(Log Rank, Mantel-Cox)でまとめた表。

【0042】
また、8週齢の時点から「ハンギングワイヤ」試験を開始することにより、マウスで処置を評価した(図5)。14週齢の時点で、SOD1G93Aマウスは衰弱の最初の兆候を示したが、HcTeTxで処置したマウスの群は14週目と16週目との間でなお力強いことが示された。また、対照群のマウスは14週齢の時点で体重を減らし始め、これは疾患に関係していた。しかしながら、HcTeTxによる処置は体重減少を顕著に食い止め、15週の時点で最大の体重を示した(図6)。
【0043】
実施例2 HcTeTxをコードするネイキッドDNAの筋肉内注射を用いて処置したSOD1G93Aマウスの脊髄におけるアポトーシスの阻害
材料および方法
1.1 HcTeTxをコードするネイキッドDNA
HcTeTxをコードする遺伝子(破傷風毒素の重鎖のC末端ドメイン−SEQ ID NO:1)を、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下で、真核生物発現プラスミドpcDNA3.1 (Invitrogen)にクローニングした。このベクターを化学的にコンピテントな細菌である大腸菌(DH5a)中で産生させ、Sigma-Aldrich Genelute maxiprepキットを用いて精製した。
【0044】
1.2 トランスジェニックマウス
G93A突然変異を有するヒトSOD1を過剰発現するトランスジェニックマウス(B6SJL-TgN[SOD1-G93A]1Gur)は、Jackson Laboratory (Bar Harbor, ME)から入手した。実験の全てにおいてヘミ接合体変異体(非トランスジェニック雌性マウスに交配した変異体雄性マウス)を用いた。Gurneyら(Gurney et al., 1994. Motor neuron degeneration in mice that express a human Cu, Zn superoxide dismutase mutation. Science, 264 (5166): 1772-5)に記述されているように、尾部から抽出したDNAのPCR増幅によってトランスジェニックマウスを特定した。これらの動物をサラゴサ大学の混合研究部に保管した。それらに適宜、水と餌を与えた。サラゴサ大学の基準および実験動物の使用に関する国際的指針にしたがって、動物に対して行う全ての実験および動物に施すケアを作り上げた。動物計12匹を用いた: 野生型(n=5)、pcDNA3.1を注射したSOD1G93Aマウス(対照、n=5)およびHcTeTxで処置したSOD1G93Aマウス(n=5)。
【0045】
1.3 ネイキッドDNAの筋肉内注射および脊髄の摘出
8週齢の時点でSOD1G93AトランスジェニックマウスにpCMV-HcTeTx 300 μgを大腿四頭筋(筋肉につき50 μgの注射2回)におよび上腕三頭筋(筋肉につき50 μgの注射1回)に筋肉内注射した。対照群のマウスには同じ量の空のプラスミドを注射した。
【0046】
筋肉内プラスミド注射から110日後に、脊髄を摘出し、これを液体窒素中で予め凍結し、その後、-70℃で保存した。これらの組織を液体窒素中で凍結し、その後、氷冷乳鉢中で挽いて粉末にした。サンプルの半分を用いてRNAを抽出し、残り半分をタンパク質抽出に用いた。
【0047】
1.4 脊髄由来のRNAの抽出およびcDNA合成
脊髄由来の全RNAをRNeasy (登録商標) Lipid Tissue Miniキット(Qiagen)のプロトコルにしたがって抽出した。cDNA合成のため、SuperScript (商標) First-Strand Synthesis System (Invitrogen)キットを使用し、終量20 μL中RNA2 μgから始めた。
【0048】
1.5 リアルタイムPCR
リアルタイムのPCR反応を終量10 μLにて、1×TaqMan (登録商標) Universal PCR Master Mix, No AmpErase (登録商標) UNG (Applied Biosystems)、1×非標識プライマーミックスおよび分析を行う各遺伝子用のTaqMan (登録商標) MGB (Applied Biosystems)プローブならびに10倍希釈したcDNA反応液各1 μLにより行った。標準化のため、3種の内因性遺伝子(18s rRNA、GAPDHおよびβ-アクチン)を用いた。調べる各遺伝子を増幅するために用いたプローブおよびプライマーの混合物を以下に言及した: カスパーゼ(caspasa)-3 (Mm00438023_m1)、カスパーゼ-1 (Mm00438023_m1)、NCS-1 (Mm00490552_m1)、Rrad (Mm00451053_m1)、18s rRNA (Hs99999901)、GAPDH (4352932E)およびβ-アクチン(4352933E)。ABI Prism 7000 Sequence Detection Systemサーマルサイクラ(Applied Biosystems)中で全てのPCR反応を行った。熱サイクルパラメータは次の通りであった: 95℃で10分間インキュベーション、ならびに95℃で15秒間および60℃で1秒間を40サイクル。カスパーゼ-3、カスパーゼ-1、NCS-1およびRradに対する発現を、3種の内因性遺伝子の幾何平均を適用して標準化した。
【0049】
1.6 脊髄由来のタンパク質の抽出およびウエスタンブロット分析
野生型マウスの脊髄およびHcTeTxで処置したSOD1G93Aマウスのサンプルを、以下の組成を有する抽出用緩衝液により液体窒素中でホモジナイズした: 150 mM NaCl、50 mM Tris-HCl pH=7.5、1%デオキシコール酸(desoxicolate)、0.1% SDS、1% Triton X-100、1 mM NaOVa、1 mM PMSF、10 μg/mLロイペプチンおよびアプロチニンならびに1 μg/mLペプスタチン。これを4℃にて10分間3000 gで遠心分離した。BCA (9643 Sigma)法を用いて各サンプル由来の上清のタンパク質濃度を定量化した後に、タンパク質25 μgを10%アクリルアミドゲルにロードした。PVDF膜を転写過程に使用し、これを5%スキムミルクのTTBS溶液(20 mM Tris塩基、0.15 M NaCl、pH=7.5、0.1% Tween)で1時間ブロッキングした。その後、それらを終夜4℃で一次抗体(抗p-Akt (sc-7985R, Santa Cruz))とともにインキュベートした。GAPDH (グリセロアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ)を用いて、Aktで得た媒質を標準化した(抗GAPDH (sc-25778, Santa Cruz))。一次抗体とともにインキュベートした後に、膜をTTBSで洗浄し、それらを室温で1時間、二次抗体とともにインキュベートした。最後に、それらを化学発光(Western Blotting Luminol Reagent, sc-2048 Santa Cruz)によって発色させた。AlphaEase FC (Bonsai Technologies)ソフトウェアを用いてフィルムをスキャンし分析した。ANOVA検定およびStudent-Neuman-Keuls検定を用いて統計解析を行った。
【0050】
結果
本研究では、運動ニューロンの変性が存在している、SOD1G93A ALS疾患モデルマウスにおけるHcTeTxの適用から得た結果を示してある。発症期におけるこれらのマウスの脊髄の転写研究を図7に示す。野生型マウスおよびSOD1G93Aマウス脊髄での遅発性発症期(110日齢)におけるアポトーシスに関わるカスパーゼ-1、カスパーゼ-3、BaxおよびBcl2遺伝子の転写制御を比較した。これらの結果から、野生型と比較した場合、SOD1G93A対照マウスではカスパーゼ-1 (P<0.05)、カスパーゼ-3 (P<0.05)およびBcl2 (P<0.01)遺伝子の有意な誘導が示されたが、Bax (P>0.05)遺伝子のプロファイルに有意差は認められなかった(図7)。HcTeTx処置を受けたマウスの群において、カスパーゼ-1およびカスパーゼ-3発現のレベルは野生型で維持され、有意差は未処置マウスと比較した場合でしか認められなかった(それぞれP<0.05およびP<0.01)。しかしながら、これらのトランスジェニックマウスの脊髄において、BaxおよびBcl2遺伝子の発現は、HcTeTx処置(P>0.05)により影響されなかった(図7)。
【0051】
SOD1G93Aマウスの脊髄において細胞死を誘導しうるアポトーシスに転ずる機構に及ぼすHcTeTxの影響を評価するため、タンパク質解析も行った。このデータから、カスパーゼ-3 (P<0.05)遺伝子の活性化は対照群と比較してHcTeTxで処置したマウスにおいてかなり減少し、野生型マウスと同様のレベルに達したのに対し、トランスジェニック動物におけるプロカスパーゼ-3タンパク質のレベルは影響されないことが明らかになった。発現分析から得た結果とは対照的に、ウエスタンブロット試験において、BaxおよびBcl2タンパク質の量がHcTeTxで処置したマウスにおけるよりも低いことが認められた(図8)。
【0052】
HcTeTxによる作用方法の一つは、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼが媒介する遮断経路(blocking pathway)に関わる種々の増殖因子によって活性化されるキナーゼタンパク質Akt (Gil et al., 2003. Biochem J. 373:613-620)のリン酸化である。濃度(densiometric)での定量化から、リン酸化特異的抗体を用いたウエスタンブロット分析により判定したものによると、HcTeTxで処置した動物は空のベクター対照と比較した場合にSer473におけるリン酸化Aktのレベルが2倍超である(P<0.05)ことが示唆された(図9)。抗チューブリン抗体を用いた検出により、タンパク質の等モルのロードを確認した。HcTeTxによるERK1/2のリン酸化が培養皮質ニューロンにおいて以前に開示されている(Gil et al., 2003. Biochem J. 373:613-620)。MAPキナーゼ経路におけるHcTeTxの関与を確認するため、110日齢の時点でSOD1G93A処置および未処置マウスから得た脊髄抽出物のウエスタンブロット分析を行った。この結果から、HcTeTxで処置した群と比較した場合に対照マウスにおけるERK1/2の活性化の増大が示された(図9)が、発現レベルは野生型マウスのものと同様であった。
【0053】
実施例3 破傷風毒素の重鎖のC末端ドメイン(HcTeTx)を含んだポリペプチドの腹腔内注射の投与後の、SOD1G93Aによる筋萎縮性側索硬化症モデルマウスにおける生存期間の増大
材料および方法
1.1 破傷風毒素の重鎖のC末端ドメイン(HcTeTx)を含むポリペプチドの抽出
使用したポリペプチド(HcTeTxと呼ぶ)は、破傷風毒素の重鎖のC末端ドメインに相当し、SEQ ID NO:2の451アミノ酸の配列(SEQ ID NO:1)を含み、Gilら(Gil et al., 2003. Biochem J. 373,613-620)によって記述されているプロトコルにしたがって得られた。
【0054】
1.2 トランスジェニックマウス
G93A突然変異を有するヒトSOD1を過剰発現するトランスジェニックマウス(B6SJL-TgN[SOD1-G93A]1Gur)は、Jackson Laboratory (Bar Harbor, ME)から入手した。実験の全てにおいてヘミ接合体変異体(非トランスジェニック雌性マウスに交配した変異体雄性マウス)を用いた。Gurneyら(Gurney et al., 1994. Science, 264 (5166): 1772-5)に記述されているように、尾部から抽出したDNAのPCR増幅によってトランスジェニックマウスを特定した。これらの動物をサラゴサ大学の混合研究部(Mixed Research Unit)に保管した。それらに適宜、水と餌を与えた。サラゴサ大学の基準および実験動物の使用に関する国際的指針にしたがって、動物に対して行う全ての実験および動物に施すケアを作り上げた。
【0055】
1.3 動物におけるポリペプチドの腹腔内注射
12週齢の時点で、SOD1G93Aトランスジェニックマウスに、破傷風毒素のC末端ドメイン(HcTeTx)を含むポリペプチドの濃度0.5 μMで250 μlを腹腔内注射した。この注射をその全生涯にわたって毎週繰り返した。
【0056】
1.4 動物における生存期間の測定
マウスの生涯の終点は、動物を仰臥位に置き、自らを回転させられなくなった時点とみなした。
【0057】
結果
1.1.- HcTeTxはSOD1G93Aトランスジェニックマウスの生存期間を延長した
図10および表2において見られるように、最大の生存期間はHcTeTx処置群のマウスにおいて検出され、平均135日に達し、対照群よりも9日長かった。
【0058】
(表2) 対照群におけるおよびHcTeTx処置群における生存期間のデータ、ならびにP値を示す。

【0059】
実施例4 HcTeTxの投与はSOD1G93Aマウスの脊髄におけるカルシウム関連遺伝子の発現の変化を引き起こす
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関連した異常な細胞内カルシウム恒常性の証拠がある。ニューロンタンパク質NCS1は、神経分泌をカルシウム依存的に制御することが示されており(McFerran et al., 1998. J. Biol. Chem. 273: 22768-22772)、ニューロンのシグナル伝達に関与するカルシウム/カルモジュリン依存的な酵素の調節とも関連付けられている(Schaad et al., 1996. PNAS. 93: 9253-9258)。SOD1G93Aマウスの脊髄におけるNCS1の発現をHcTeTxによる処置後に50回試験した。RT-PCR実験において、NCS1遺伝子の発現は同齢の野生型マウスに関して遅発性総体症状を有するトランスジェニックマウスで抑制されることが分かった(P<0.05)。さらに、筋肉内HcTeTx処置を受けたマウスは、いっそう高いレベルのNCS1を有し(P<0.05)、野生型マウスのものに近づいた。同じサンプルを用い、伝令RNAのレベルをRas関連遺伝子において分析し、糖尿病遺伝子(Rrad)と関連付けた。本実施例において、Rradレベルは、同程度の年齢の野生型マウスと比較した場合、対照トランスジェニックマウスの脊髄においてほぼ2倍に増えた。しかしながら、対照と比べて、SOD1G93AマウスでのHcTeTxによる処置は、Rradの発現を有意に低減し(P<0.05)、野生型マウスで得られたものと同様の値を達成した(図11)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破傷風毒素の重鎖サブユニットのカルボキシル末端ドメイン(HcTeTx)のコード配列、その対立遺伝子変種またはそれらの機能的断片を含む単離ポリヌクレオチドの、薬物の作出のための使用。
【請求項2】
HcTeTxがSEQ ID NO:1によってコードされる、前記の請求項記載の使用。
【請求項3】
破傷風毒素の重鎖サブユニットのカルボキシル末端ドメインのコード配列断片がSEQ ID NO:6を含む、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記請求項のいずれか一項記載のポリヌクレオチドのいずれかを含むベクターの、薬物の作出のための使用。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載のポリヌクレオチドのいずれかを含むトランスジェニック細胞の、薬物の作出のための使用。
【請求項6】
薬物が筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置のためである、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
破傷風毒素の重鎖サブユニットのカルボキシル末端ドメイン(HcTeTx)、その対立遺伝子変種またはそれらの機能的断片を含む単離ポリヌクレオチドの、ALS処置用の薬物の作出のための使用。
【請求項8】
HcTeTxがSEQ ID NO:2を含む、前記請求項記載の使用。
【請求項9】
HcTeTxがSEQ ID NO:5を含む、前記請求項記載の使用。
【請求項10】
薬物が経口経路、非経口経路、筋肉内経路または鼻腔経路を通じて投与されるようにデザインされる、前記請求項のいずれか一項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−540599(P2010−540599A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527478(P2010−527478)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/ES2008/070186
【国際公開番号】WO2009/043963
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510092269)ウニベルシタッド デ サラゴサ (1)
【出願人】(510092270)ウニベルシダット オートノマ デ バルセロナ (1)
【Fターム(参考)】