説明

破断特性推定方法及び破断特性推定装置

【課題】 試験片に対する引張試験を行う際にネッキングが発生しうる条件においても、歪み速度と破断歪みとの関係を正確に算出する。
【解決手段】 本発明に係る破断特性推定方法では、第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分を取得し(S01〜S04)、入力された第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を上記の差分を用いて補正して、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を算出し(S06)、補正された歪み速度の値に基づいて、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する(S07)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料の歪み速度と破断歪みとの関係を推定する破断特性推定方法及び破断特性推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料が破断する歪み(ひずみ)の値である破断歪みの値は、その樹脂材料が歪む速度の値に応じて大きく変化する。即ち、樹脂材料の破断歪みは強い歪み速度依存性を有する。従って、樹脂部品の複雑な変形過程の衝撃解析を精度よく実現するためには、破断歪みの速度依存性を考慮する必要がある。上記のような衝撃特性を解析するための手法として、特許文献1に記載されたような種々の引張試験により得られる歪み速度と破断歪みとの関係を用いているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−337784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、測定限界等で精度良い破断歪みを測定できない場合は、歪み速度と破断歪みとの精度良い関係を得ることができず、その結果、衝撃解析を正確に行うことができなかった。ここでいう測定限界とは、例えば、引張試験における引張速度の限界が挙げられる。
【0005】
測定限界は具体的には、引張試験を行うときに、延伸が試験片全体に対して一様に行われず部分的に行われるネッキングが発生することに起因する。ネッキングが発生した箇所では、局所的な歪みの増大や急激な歪み速度の上昇が起こり、正確な破断歪み及び歪み速度が不明になる。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、試験片に対する引張試験を行う際にネッキングが発生しうる条件においても、歪み速度と破断歪みとの関係を正確に算出することができる破断特性推定方法及び破断特性推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、歪み速度と破断歪みとの関係と、歪み速度と降伏応力との関係との2つの関係の間に所定の関連があることを発見して、当該発見を用いて本発明を完成させるに至った。
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る破断特性推定方法は、樹脂材料の歪み速度と破断歪みとの関係を推定する破断特性推定装置による破断特性推定方法であって、第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分を取得する差分取得ステップと、第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を入力して記憶する第2入力ステップと、第2入力ステップにおいて入力されて記憶された第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を、差分取得ステップにおいて取得された差分を用いて補正して、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を算出する歪み速度補正ステップと、歪み速度補正ステップにおいて算出された第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値に基づいて、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する関係推定ステップと、関係推定ステップにおいて推定された第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を示す情報を出力する出力ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る破断特性推定方法では、第1の温度と第2の温度との歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分が取得される。当該差分が用いられて、第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値から、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値が算出される。この値が用いられて、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係が推定される。
【0010】
上記のように本発明に係る破断特性推定方法では、ネッキングの発生により、第1の温度における破断歪みの値に対応する歪み速度が実測することが難しい樹脂材料であっても、歪み速度と降伏応力との関係を用いて、第1の温度における(第1の)破断歪みの値に対応する歪み速度を算出することができる。これを用いて第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を正確に算出することができる。即ち、本発明によれば、試験片に対する引張試験を行う際にネッキングが発生しうる条件においても、歪み速度と破断歪みとの関係を正確に算出することができる。
【0011】
差分取得ステップは、第1の温度及び第2の温度における樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を入力して記憶する第1入力ステップと、第1入力ステップにおいて入力されて記憶された樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報から、第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分を算出して取得する差分算出ステップと、を含むことが望ましい。この構成によれば、確実かつ適切に上記の歪み速度の差分が取得される。
【0012】
差分算出ステップにおいて、歪み速度の2つの領域を設定して、2つの領域における、樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係によって示される、歪み速度の対数値に対する降伏応力を一次式で近似し、それらの一次式の交点を算出して、傾向が切り替わる点とすることが望ましい。この構成によれば、確実に歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点を算出することができ、その結果、本発明を確実に実施することができる。
【0013】
第1入力ステップにおいて、樹脂材料の歪み速度の値に対応する降伏応力の、複数の値を入力して記憶し、それらの値からアイリングの式を用いて回帰分析を行って、第1の温度及び第2の温度における樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を算出して入力とすることが望ましい。この構成では、第1入力ステップにおいて、第1の温度及び第2の温度における樹脂材料の複数の歪み速度の値に対応する降伏応力の値が入力されればよく、また、それらの値からアイリングの式が用いられて第1の温度及び第2の温度における樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報が算出される。従って、この構成によれば、容易かつ適切に歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を得ることができ、その結果、容易かつ適切に第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定することができる。
【0014】
第2入力ステップにおいて、第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を入力して、関係推定ステップにおいて、第2入力ステップにおいて入力されて記憶された第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値にも基づいて、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する、ことが望ましい。この構成によれば、例えば、第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度が実測でき入力することができれば、より正確な歪み速度と破断歪みとの関係を算出することができる。
【0015】
関係推定ステップにおいて、歪み速度の対数値と破断歪みとは一次式で表される関係として、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値、及び第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値から回帰分析を行って第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定することが望ましい。あるいは、関係推定ステップにおいて、歪み速度の対数値と破断歪みの対数値とは一次式で表される関係として、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値、及び第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値から回帰分析を行って第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定することが望ましい。これらの構成によれば、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値、及び第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値から、確実かつ適切に第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定することができる。
【0016】
ところで、本発明は、上記のように破断特性推定方法の発明として記述できる他に、以下のように破断特性推定装置の発明としても記述することができる。これはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0017】
即ち、本発明に係る破断特性推定装置は、樹脂材料の歪み速度と破断歪みとの関係を推定する破断特性推定装置であって、第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分を取得する差分取得手段と、第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を入力して記憶する第2入力手段と、第2入力手段によって入力されて記憶された第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を、差分取得手段によって取得された差分を用いて補正して、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を算出する歪み速度補正手段と、歪み速度補正手段によって算出された第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値に基づいて、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する関係推定手段と、関係推定手段によって推定された第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を示す情報を出力する出力手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記のように本発明では、ネッキングの発生により所定の温度(第1の温度)における所定の破断歪みの値(第2の破断歪みの値)に対応する歪み速度が実測することが難しいものであっても、歪み速度と降伏応力との関係を用いて算出することができる。これを用いて所定の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を正確に算出することができる。即ち、本発明によれば、試験片に対する引張試験を行う際にネッキングが発生しうる条件においても、歪み速度と破断歪みとの関係を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る破断特性推定装置の構成図である。
【図2】ある樹脂材料(樹脂A)における歪み速度の対数値と破断歪みの値との関係を示すグラフである。
【図3】ある樹脂材料の高速引張試験の試験片を示す図である。
【図4】ある樹脂材料における歪み速度の対数値と破断歪みの値との実測値を示すグラフである。
【図5】ある樹脂材料における歪み速度の対数値と降伏応力の値との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態に係る破断特性推定方法(破断特性推定装置によって実行される処理)の構成図である。
【図7】別の樹脂材料(樹脂B)の高速引張試験の試験片を示す図である。
【図8】別の樹脂材料における歪み速度の対数値と破断歪みの値との実測値を示すグラフである。
【図9】別の樹脂材料における歪み速度の対数値と降伏応力の値との関係を示すグラフである。
【図10】別の樹脂材料における歪み速度の対数値と破断歪みの値との関係を示すグラフである。
【図11】更に別の樹脂材料における歪み速度の対数値と破断歪みの対数値との関係を示すグラフである。
【図12】更に別の樹脂材料における歪み速度の対数値と破断歪みの対数値との実測値を示すグラフである。
【図13】更に別の樹脂材料における歪み速度の対数値と降伏応力の値との関係を示すグラフである。
【図14】更に別の樹脂材料における温度と参照温度(−10℃)の歪み速度の値の差分との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面と共に本発明に係る破断特性推定方法及び破断特性推定装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
本実施形態に係る破断特性推定方法は、図1に示す本実施形態に係る破断特性推定装置10によって実行され、樹脂材料の歪み速度と破断歪みとの関係を推定するものである。ある樹脂材料(樹脂A)の歪み速度と破断歪みとの関係は、図2のグラフの直線Lに示すような歪み速度の対数値(図2に示すグラフでは底を10とした値)に応じた破断歪みの値を示す一次式である関係式によって表される。なお、図2において、横軸は歪み速度の底を10とした対数値(log歪み速度[1/s])であり、縦軸は破断歪みを示す値である。また、本実施形態では、破断歪みを「ln(破断時の伸び/元の長さ+1)」という式によって定義する。なお、破断歪みの値としては、「破断時の伸び/元の長さ」の値、また、破断箇所の歪みの計測値を「ln(破断時の伸び/元の長さ+1)」の替わりに用いてもよい。また、破断歪みは、温度依存性を有している。この破断歪みの値は、後述するように有限要素法によるシミュレーションのパラメータとして用いられる。
【0022】
所定の歪み速度の値に応じた破断歪みの値は、試験片を用いた試験によって得ることができる。例えば、図3に示す試験片を用いて引張試験を行うことによって得ることができる。ところで、上述したように試験片に対する引張試験を行う際に、試験片にネッキングが発生することがある。ネッキングは、低温及び(引張速度が)高速の条件下では発生し難くなるため、低温及び高速の条件でない場合、ネッキングが発生して、歪み速度の値に応じた破断歪みの値を得ることができないことがある。
【0023】
例えば、以下の条件で高速引張試験を行うものとする。
試験機:島津製作所製ハイドロショットHITS−T10
測定温度:−35℃、−40℃、−45℃(3種類の条件)
試験速度:0.01m/s、0.1m/s、1m/s、5m/s(4種類の条件)
試験片:図3に示すもの(幅:3mm、厚み:3mm、標線間(図3における長さM):10mm)
なお、引張試験は、試験片の一方の端部を固定し、もう一方の端部を上記の試験速度で引っ張るというものである。
【0024】
このような試験を行った場合、−35℃、−40℃、−45℃の3種類の温度において、0.01m/s、0.1m/s、1m/sの試験速度ではネッキングが発生し、5m/sの試験速度の場合のみしか(ネッキングが発生しない場合の)歪み速度の値及び破断歪みの値が測定できない。即ち、図4に示すようなデータした得ることができない。なお、図4のグラフにおける縦軸及び横軸は、図2のグラフと同様である。歪み速度は、標線間が歪む速度であり、従来と同様の方法で導出することができる(例えば、試験片が破断したときの標線間の長さで、試験速度を割ることで導出できる)。
【0025】
本発明による破断特性推定方法は、上記のように実測によって各温度における、歪み速度の値に応じた破断歪みの値のデータが一つの条件のものしか得られない場合に、歪み速度と破断歪みとの関係を推定するものである。
【0026】
引き続いて、本実施形態に係る破断特性推定方法が実行される破断特性推定装置10を説明する。破断特性推定装置10は、具体的には、ワークステーションやPC(Personal Computer)等のコンピュータである。破断特性推定装置10は、例えばCPU(Central ProcessingUnit)やメモリ等のハードウェアにより構成されており、これらの構成要素が動作することにより後述する破断特性推定装置10としての機能が発揮される。なお、本実施形態に係る破断特性推定方法をコンピュータに実行させるプログラムが破断特性推定装置10において実行されることにより本方法が行われてもよい。
【0027】
図1に示すように破断特性推定装置10は、第1入力部11と、差分算出部12と、第2入力部13と、歪み速度補正部14と、関係推定部15と、出力部16とを備えて構成される。
【0028】
第1入力部11は、第1の温度及び第2の温度における樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を入力して記憶する第1入力手段である。ここで、第1の温度は、破断特性推定方法によって推定する歪み速度と破断歪みとの関係の条件となる温度である。第2の温度は第1の温度とは異なる温度であり、第2の温度の条件下でのデータが第1の温度での条件下での関係の推定に用いられる。なお、第2の温度は、複数の温度が用いられてもよい。例えば、図4に示すデータの場合、−35℃の場合の関係を推定するものとすると、−35℃が第1の温度に相当し、−40℃及び−45℃が第2の温度に相当する。
【0029】
樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係は、例えば、図5のグラフに示す関係である。なお、図5において、横軸は歪み速度の底を10とした対数値(log歪み速度[1/s])であり、縦軸は降伏応力を示す値([MPa])である。この関係は、以下の式1によって示されるアイリング(Eyring)の式で示されることが知られている。
【数1】

【0030】
上記において上にドットが付されたεは歪み速度、σは降伏応力、Tは温度を示している。また、pはα,βを表す添え字であり、α,βは2つの変形モードを示している。また、Vは活性化体積であり、ΔUは、活性化エネルギーであり、上にドットが付されたε0.pは、材料定数である。Rは気体常数である。
【0031】
歪み速度と降伏応力との関係がアイリングの式に従うものとすれば、上にドットが付されたε0.p、ΔU、V、及びRの値をパラメータとして取得することが、(第1の温度及び第2の温度における)歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を取得することとなる。具体的には、第1入力部11は、上記のパラメータを入力することとしてもよい。
【0032】
あるいは、第1入力部11は、樹脂材料の歪み速度の値に対応する降伏応力の、複数の値を入力して記憶し、それらの値からアイリングの式を用いて回帰分析を行って、第1の温度及び第2の温度における樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を算出して入力としてもよい。例えば、図5のグラフにプロットされている、各温度における歪み速度の値に対応する降伏応力の値(−35℃の4つのデータ、−40℃の2つのデータ、−45℃の2つのデータ)を入力する。これらの値は、実測によって得ることができる。これらの値を用いて、アイリングの式を用いて回帰分析を行って、上記の上にドットが付されたε0.p、ΔU及びVを算出して記憶する。なお、樹脂材料の物性等によらないRは予め第1入力部11が記憶しておく。回帰分析は、従来と同様の方法をとることができ、第1入力部11は、回帰分析のソフトウェア等の実行によって回帰分析を行うことができる(なお、後述する演算処理についても、予め演算処理を行うための情報やプログラムが記憶、実行されることにより実現される)。
【0033】
差分算出部12は、第1入力部11によって入力されて記憶された樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報から、第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点(特異点)での歪み速度の差分を算出して取得する差分算出手段である。図5に示すように、歪み速度の対数値に対する降伏応力の変化は、2段階に変化している。即ち、−35℃における関係では、歪み速度の対数値が1[1/s]迄の降伏応力の増加率に比べて、それよりも歪み速度の対数値が大きい範囲では降伏応力の増加率が大きい。
【0034】
まず、差分算出部12は、第1の温度(−35℃)及び第2の温度(−40℃、−45℃)における、特異点での歪み速度の値(それぞれ、図5にS1,S2,S3として示す)を求める。具体的には、まず、差分算出部12は、第1入力部11によって入力され記憶された、歪み速度と降伏応力との関係を示すアイリングの式の情報を読み出す。続いて、アイリングの式によって示されるグラフ上の曲線において、曲線部(折れ曲がっている部分)から十分離れた部分の、曲線部より歪み速度が小さい領域と歪み速度が大きい領域とで、アイリングの式によって示される線に近似する一次式である直線A1,A2を求める。そして、それら2つの直線A1,A2の交点を求める。その交点が、歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点である。
【0035】
なお、上記の曲線部より歪み速度が小さい領域及び歪み速度が大きい領域は、予め設定されて差分算出部12に記憶されている。曲線部は、樹脂材料の物性値等から概ね歪み速度のどの範囲に位置するかを予測しえるので、その曲線部から十分離れた部分を予め上記の領域として設定できる。例えば、図5に示すグラフの例では、低速側では歪み速度の対数値が−3〜−1[1/s]の範囲を、高速側では歪み速度の対数値が3〜5[1/s]の範囲を上記の範囲とすることができる。差分算出部12は、これらの領域において、アイリングの式によって示される値に対して、それぞれ一次式で回帰分析を行うことによって上記の直線A1,A2を算出する。
【0036】
例えば、図5に示す例では、各温度における特異点での歪み速度の値は、以下の表1のようになる。
【表1】

【0037】
続いて、差分算出部12は、第1の温度(−35℃)と第2の温度(−40℃,−45℃)との間の、特異点での歪み速度の値の差分を算出する。ここでは、−35℃と−40℃との差分、及び−35℃と−45℃との差分が算出される。差分算出部12は、算出した差分を示す情報を歪み速度補正部14に出力する。ここで、差分を示す情報としては、例えば、−35℃と−40℃との差分、及び−35℃と−45℃との差分のように具体的な温度の差に対応付けられたものでもよいし、また、温度差5℃につき特異点の速度差およそ0.40(桁)等差分の大きさに応じた速度の差の大きさとした情報でもよい。
また、WLFの式(以下の式11)により回帰した情報でもよい。
【数2】


ここで、logaは歪み速度の値の差分、Tは温度、Trefは参照温度、C,Cは定数である。差分算出部12は、算出した差分の値の情報を歪み速度補正部14に入力する。
【0038】
上記のように第1入力部11及び差分算出部12は、第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分を取得する差分取得手段を構成している。
【0039】
第2入力部13は、第2の温度(−40℃,−45℃)における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を入力して記憶する第2入力手段である。第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値は、例えば、上述したように高速引張試験によって実測された値である。具体的には、図4の点D1,D2によって示される破断歪みの値に対応付けられた歪み速度の値である(点D1は−40℃に対応する値であり、点D2は−45℃に対応する値であり)。上記のように、第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値は、複数の値であってもよい。その場合、第1の破断歪みの値も複数の値となる。
【0040】
また、第2入力部13は、第1の温度(−35℃)における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を入力して記憶する。第2の破断歪みの値は、第1の破断歪みの値とは異なる値である。第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値も、例えば、上述したように高速引張試験によって実測された値である。具体的には、図4の点D3によって示される破断歪みの値に対応付けられた歪み速度の値である。
【0041】
破断特性推定装置10(の上記の第1入力部11及び第2入力部13等)への情報の入力は、例えば、破断特性推定装置10に接続された入力装置(図示せず)からユーザの操作によって行われる。また、破断特性推定装置10が予め記憶している情報を入力としてもよい。
【0042】
歪み速度補正部14は、第2入力部13によって入力されて記憶された第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を補正して、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を算出する歪み速度補正手段である。歪み速度補正部14は、上記の補正を差分算出部12によって算出された、第1の温度と第2の温度との間の、特異点での歪み速度の値の差分を用いて行う。
【0043】
歪み速度補正部14は、具体的には、第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の対数値に上記の差分を加える(歪み速度の値をシフトさせる)。差分を加えた値を第1の温度における第1の破断歪みに対応する歪み速度の対数値とする。図2の点D1で示される−40℃における第1の破断歪みの値(のうちの一つである値、およそ0.8)に対応する歪み速度の対数値に−35℃と−40℃との差分(上記の表1からも把握されるように0.40)を加える。差分が加えられた点である図2の点D1´を第1の温度(−35℃)における当該第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値とする。また、図2の点D2で示される−45℃における第1の破断歪みの値(のうちの一つである値、およそ0.6)に対応する歪み速度の対数値に−35℃と−45℃との差分(上記の表1からも把握されるように0.81)を加える。加えられた点である図2の点D2´を第1の温度(−35℃)における当該第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値とする。歪み速度補正部14は、このように算出した第1の温度(−35℃)における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を関係推定部15に出力する。
【0044】
上記のように、歪み速度補正部14では高速引張試験によって実測していない(実測できない)領域での、第1の温度での破断歪みに対応する歪み速度の値をえることができる。このように、歪み速度と降伏応力との関係に基づく値(特異点における歪み速度の差分の値)を用いて、第2の温度における破断歪みに対応する歪み速度の値を補正して、第1の温度における破断歪みに対応する歪み速度の値を導出するという方法は、降伏応力と破断歪みの温度依存性及び速度依存性は共に分子の運動性の温度依存性及び速度依存性に関連する現象であるという考えのもと、本発明者によって鋭意研究の結果により見出されたものである。
【0045】
関係推定部15は、歪み速度補正部14によって算出された第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値(図2の点D1´,D2´の歪み速度の値)に基づいて、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する関係推定手段である。また、関係推定部15は、上記の関係の推定に、第2入力部13によって入力され記憶された第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値(図2の点D3の歪み速度の値)を用いてもよい。
【0046】
上述したように、ある温度における歪み速度の対数値と破断歪みとは一次式で示される関係と考えられる。そこで、関係推定部15は、上記の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を用いて、歪み速度と破断歪みとの関係を示す以下の式を用いて回帰分析を行って、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する。
【数3】


ここで、εは破断歪みの値である。また、a,bは上記の一次式を特定するパラメータであり、上記の回帰分析により算出される値である。上述した図2の例では、a=−0.34、b=1.74と算出される。関係推定部15は、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を示す算出した一次式のパラメータa,bを出力部16に出力する。
【0047】
あるいは、歪み速度の範囲が広くなる場合、歪み速度の対数値と破断歪みの対数値とを一次式で示される関係と考えることが望ましい。この場合、関係推定部15は、上記の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を用いて、歪み速度と破断歪みとの関係を示す式(以下の式12)を用いて回帰分析を行って、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定してもよい。
【数4】


ここで、log(ε)は、破断歪みの対数値である。また、上記と同様にa,bは上記の一次式を特定するパラメータであり、上記の回帰分析により算出される値である。歪み速度の範囲が比較的広い場合には、破断歪みを対数でとったほうがより適切に回帰できるためである。
【0048】
出力部16は、関係推定部15によって推定された第1の温度(−35℃)における歪み速度と破断歪みとの関係を示す情報を出力する出力手段である。出力は例えば、当該関係を示す情報を用いるシミュレーションを行う装置に対して行われる。また、それ以外の出力、例えば、ユーザが参照するために表示出力が行われてもよい。
【0049】
引き続いて、図6のフローチャートを用いて、本実施形態に係る破断特性推定方法(破断特性推定装置10によって実行される処理)を説明する。破断特性推定装置10では、まず、第1入力部11によって、第1の温度(−35℃)及び第2の温度(−40℃,−45℃)での樹脂材料の歪み速度の値に対応する降伏応力の値(図5のグラフにプロットされている値)が入力されて記憶される(S01、第1入力ステップ、差分取得ステップ)。続いて、第1入力部11によって、上記の値が用いられて、アイリングの式を用いた回帰分析が行われて、第1の温度及び第2の温度における樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報が算出される(S02、第1入力ステップ、差分取得ステップ)。
【0050】
続いて、差分算出部12によって、第1入力部11によって算出された樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報から、第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点(特異点)が特定される(S03、差分算出ステップ、差分取得ステップ)。続いて、差分算出部12によって、それらの特異点間の歪み速度の差分が算出される(S04、差分算出ステップ、差分取得ステップ)。算出された差分の値の情報は、差分算出部12から歪み速度補正部14に入力される。
【0051】
続いて、第2入力部13によって、第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値、及び第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値が入力されて記憶される(S05、第2入力ステップ)。これらの値は、上述したように例えば、高速引張試験によって得られたものである。
【0052】
続いて、歪み速度補正部14によって、第2入力部13によって入力されて記憶された第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値が補正されて、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値が算出される(S06、歪み速度補正ステップ)。上述したように、この補正は、差分算出部12によって算出された、第1の温度と第2の温度との間の特異点での歪み速度の値の差分が用いられて行われる。算出された、第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値は、歪み速度補正部14から関係推定部15に出力される。
【0053】
続いて、関係推定部15によって、歪み速度補正部14によって算出された第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値、及び第2入力部13によって入力され記憶された第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値に基づいて、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係が推定される(S07、関係推定ステップ)。上記の関係の推定は、上述したように歪み速度の対数値と破断歪みとの関係を示す一次式(式2)が用いられて、回帰分析が行われ一次式を特定するパラメータが算出されることにより行われる。第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を示す情報は、関係推定部15から出力部16に出力される。
【0054】
続いて、出力部16によって、関係推定部15によって推定された第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を示す情報が出力される(S08、出力ステップ)。以上が、本実施形態に係る破断特性推定方法である。
【0055】
上述したように本実施形態では、ネッキングの発生により、第1の温度における破断歪みの値に対応する歪み速度が実測することが難しいものであっても、あるいは、1つの破断歪みの値に対応する歪み速度のデータしか得られない場合であっても、歪み速度と降伏応力との関係を用いて、第1の温度における(第1の)破断歪みの値に対応する歪み速度を算出することができる。これを用いて第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を正確に算出することができる。即ち、本実施形態によれば、試験片に対する引張試験を行う際にネッキングが発生しうる条件においても、歪み速度と破断歪みとの関係を正確に算出することができる。
【0056】
なお、通常、補正元のデータに係る第2の温度は、歪み速度と破断歪みとの関係の推定対象となる第1の温度よりも低温である。これは、ネッキングの発生は、温度が高くなると生じやすくなり、より低い温度の方が実測データを得やすいためである。
【0057】
また、本実施形態のように、第1入力ステップにおいて歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を入力して、その情報に基づいて特異点間の差分を算出することが望ましい。この構成によれば、確実かつ適切に上記の歪み速度の差分が取得される。但し、上記の差分が予め求められていれば、当該差分の値を、(S01〜S04の代わりに)破断特性推定装置10に入力して、それを用いて歪み速度と破断歪みとの関係を推定してもよい。
【0058】
また、本実施形態のように2つの一次式を求めその交点から特異点を求めることが望ましい。この構成では確実に歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点を算出することができ、その結果、本発明を確実に実施することができる。
【0059】
また、本実施形態のようにアイリングの式を用いて回帰分析を行い、歪み速度と降伏応力との関係を算出することとしてもよい。この構成によれば、容易かつ適切に歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を得ることができ、その結果、容易かつ適切に第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定することができる。但し、歪み速度と降伏応力との関係が、予め求められていれば、当該関係の情報を、(S01,S02の代わりに)破断特性推定装置10に入力して、それを用いて歪み速度と破断歪みとの関係を推定してもよい。
【0060】
また、本実施形態のように、第1の温度における破断歪みの値に対応する歪み速度のデータが実測することができれば、その値を入力して歪み速度と破断歪みとの関係を推定してもよい。この構成によれば、より正確な歪み速度と破断歪みとの関係を算出することができる。但し、(S06において)第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を補正した第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値が、複数得られれば、それらの値を用いて歪み速度と破断歪みとの関係が推定できる。従って、そのような場合は、第1の温度における(第2の)破断歪みの値に対応する歪み速度の情報を必ずしも入力する必要はない。
【0061】
また、本実施形態のように、歪み速度の対数値と破断歪みとは一次式で表される関係として推定することが望ましい。
【0062】
引き続いて、上述した例とは別の樹脂材料(樹脂B)に対して、本実施形態に係る破断特性推定方法を適用した例を示す。この樹脂材料に対して、以下の条件で上述した高速引張試験を行うものとする。
試験機:島津製作所製ハイドロショットHITS−T10
測定温度:−35℃、−40℃、−45℃(3種類の条件)
試験速度:0.1m/s、1m/s、5m/s(3種類の条件)
試験片:図7に示すもの(幅:3.5mm、厚み:3mm、標線間(図7における長さM):2.5mm)
このような試験を行った場合、−35℃、−40℃、−45℃の3種類の温度において、0.1m/s、1m/sの試験速度ではネッキングが発生し、5m/sの試験速度の場合のみしか(ネッキングが発生しない場合の)歪み速度の値及び破断歪みの値が測定できない。ネッキングが発生しない場合のデータを図8に示す。なお、図8のグラフにおける縦軸及び横軸は、図2のグラフと同様である。上述した樹脂材料の例と同様に、このデータのみでは、各温度における破断歪みの歪み速度依存性を推定することはできない。上記の値は、第2入力部13による入力となる。
【0063】
一方で、また、この樹脂材料の、歪み速度の値に対応する降伏応力の値を図9に示す。それらの値からアイリングの式を用いて回帰分析を行ったものが、図9のグラフにおいて実線で示す関係である。上述した例と同様に、各温度(−35℃、−40℃、−45℃)における特異点での歪み速度の値を求める。各温度における特異点での歪み速度の値は、以下の表2のようになる。
【表2】

【0064】
続いて、上述の例と同様に、第1の温度(−35℃)と第2の温度(−40℃,−45℃)との間の、特異点での歪み速度の値の差分を算出する。ここで、差分を示す情報としては、例えば、−35℃と−40℃との差分、及び−35℃と−45℃との差分のように具体的な温度の差に対応付けられたものでもよいし、また、温度差5℃につき特異点の速度差およそ0.40(桁)等差分の大きさに応じた速度の差の大きさとした情報でもよい。
【0065】
続いて、上述の例と同様に、第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の対数値に上記の差分を加える(歪み速度の値をシフトさせる)。差分を加えた値を第1の温度における第1の破断歪みに対応する歪み速度の対数値とする。図10の点D11で示される−40℃における第1の破断歪みの値(のうちの一つである値、およそ0.75)に対応する歪み速度の対数値に−35℃と−40℃との差分(上記の表2からも把握されるように0.39)を加える。加えられた点である図10の点D11´を第1の温度(−35℃)における当該第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値とする。また、図10の点D12で示される−45℃における第1の破断歪みの値(のうちの一つである値、およそ0.5)に対応する歪み速度の対数値に−35℃と−45℃との差分(上記の表2からも把握されるように0.80)を加える。加えられた点である図2の点D12´を第1の温度(−35℃)における当該第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値とする。
【0066】
続いて、上述した例と同様に第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値(図10の点D11´,D12´の歪み速度の値)、及び第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値(図2の点D13の歪み速度の値)に基づいて、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する。この推定は、上記の例と同様に式2を用いて行う。本例ではパラメータは、a=−0.36、b=1.93と算出される。求められた関係は、図10における直線Lで示される。
【0067】
また、表1と表2の各温度で、特異点の歪み速度を比較するとおよそ0.45の差であることがわかった。樹脂Aの破断特性を仮に0.45(桁)速度方向にシフトさせるとa=−0.34、b=1.89の直線となり、およそ樹脂Bの特性に近いことがわかる。即ち、材料間の降伏応力の特異点の差から材料間の歪み速度依存性の速度差を推定することも可能である。
【0068】
引き続いて、上述した例(樹脂A、樹脂B)とは別の樹脂材料(樹脂C)の歪み速度と破断歪みとの関係は、図11のグラフの直線Lに示すような歪み速度の対数値(図11に示すグラフでは底を10とした値)に応じた破断歪みの対数値(図11に示すグラフでは底を10とした値)を示す一次式である関係式によって表される。なお、図11において、横軸は歪み速度の底を10とした対数値(log歪み速度[1/s])であり、縦軸は破断歪みの底を10とした対数値(log破断歪み[−])である。また、本実施例では、破断歪みを「破断時の伸び/元の長さ」という式によって定義する。
【0069】
例えば、以下の条件で高速引張試験を行うものとする。
試験機:島津製作所製ハイドロショットHITS−T10
測定温度:−40℃〜23℃
試験速度:0.5mm/s〜11m/s
試験片:図3に示す試験片と同じ
【0070】
このような試験を行った場合、ネッキングが発生しない場合の歪み速度の値及び破断歪みの値が測定できないため、図12に示すようなデータした得ることができない。なお、図12のグラフにおける縦軸及び横軸は、図11のグラフと同様である。歪み速度は、標線間が歪む速度であり、従来と同様の方法で導出することができる。本実施例では、「試験前の試験片における標線間の長さで、試験速度を割ることで導出した。
【0071】
第1の温度は、破断特性推定方法によって推定する歪み速度と破断歪みとの関係の条件となる温度である。第2の温度は第1の温度とは異なる温度であり、第2の温度の条件下でのデータが第1の温度での条件下での関係の推定に用いられる。なお、第2の温度は、複数の温度が用いられてもよい。例えば、図12に示すデータの場合、−10℃の場合の関係を推定するものとすると、−10℃が第1の温度に相当し、−10℃以外の温度が第2の温度に相当する。
【0072】
樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係は、例えば、図13のグラフに示す関係である。なお、図13において、横軸は歪み速度の底を10とした対数値(log歪み速度[1/s])であり、縦軸は降伏応力を示す値([MPa])である。この関係は、上述したアイリング(Eyring)の式(式1)で示されることが知られている。
【0073】
例えば、図13に示す例では、各温度における特異点での歪み速度の値は、以下の表のようになる。
【表3】

【0074】
続いて、第1の温度と第2の温度との間の、特異点での歪み速度の値の差分を算出する。差分算出部12は、算出した差分を示す情報を歪み速度補正部に出力する。ここで、差分を示す情報としては、具体的な温度の差に対応付けられたものでもよいし、上述したWLFの式(式11)による回帰を用いても良い。たWLFの式(式11)によって、回帰すると図14に示す温度と参照温度(−10℃)の歪み速度の値の差分との関係を得る。
【0075】
歪み速度補正部14にて、WLFの式(式11)によって算出した差分を用いて補正すると図11に示す歪み速度の対数値と破断歪みの対数値との関係を得る。
【0076】
破断歪みの値に対応する歪み速度の値を用いて、歪み速度と破断歪みとの関係を示す上述した式12を用いて回帰分析を行って、第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する。上述した図11の例では、式12のパラメータであるa,bは、それぞれa=−0.199、b=−0.158と算出される。
【符号の説明】
【0077】
10…破断特性推定装置、11…第1入力部、12…差分算出部、13…第2入力部、14…歪み速度補正部、15…関係推定部、16…出力部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料の歪み速度と破断歪みとの関係を推定する破断特性推定装置による破断特性推定方法であって、
第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分を取得する差分取得ステップと、
前記第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を入力して記憶する第2入力ステップと、
前記第2入力ステップにおいて入力されて記憶された前記第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を、前記差分取得ステップにおいて取得された前記差分を用いて補正して、前記第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を算出する歪み速度補正ステップと、
歪み速度補正ステップにおいて算出された前記第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値に基づいて、前記第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する関係推定ステップと、
前記関係推定ステップにおいて推定された前記第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を示す情報を出力する出力ステップと、
を含む破断特性推定方法。
【請求項2】
前記差分取得ステップは、
第1の温度及び第2の温度における前記樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を入力して記憶する第1入力ステップと、
前記第1入力ステップにおいて入力されて記憶された前記樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報から、前記第1の温度と前記第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分を算出して取得する差分算出ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の破断特性推定方法。
【請求項3】
前記差分算出ステップにおいて、歪み速度の2つの領域を設定して、2つの領域における、前記樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係によって示される、歪み速度の対数値に対する降伏応力を一次式で近似し、それらの一次式の交点を算出して、前記傾向が切り替わる点とすることを特徴とする請求項2に記載の破断特性推定方法。
【請求項4】
前記第1入力ステップにおいて、前記樹脂材料の歪み速度の値に対応する降伏応力の、複数の値を入力して記憶し、それらの値からアイリングの式を用いて回帰分析を行って、前記第1の温度及び第2の温度における前記樹脂材料の歪み速度と降伏応力との関係を示す情報を算出して入力とすることを特徴とする請求項2又は3に記載の破断特性推定方法。
【請求項5】
前記第2入力ステップにおいて、前記第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を入力して、
前記関係推定ステップにおいて、前記第2入力ステップにおいて入力されて記憶された前記第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値にも基づいて、前記第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する、
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の破断特性推定方法。
【請求項6】
前記関係推定ステップにおいて、歪み速度の対数値と破断歪みとは一次式で表される関係として、前記第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値、及び前記第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値から回帰分析を行って前記第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定することを特徴とする請求項5に記載の破断特性推定方法。
【請求項7】
前記関係推定ステップにおいて、歪み速度の対数値と破断歪みの対数値とは一次式で表される関係として、前記第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値、及び前記第1の温度における第2の破断歪みの値に対応する歪み速度の値から回帰分析を行って前記第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定することを特徴とする請求項5に記載の破断特性推定方法。
【請求項8】
樹脂材料の歪み速度と破断歪みとの関係を推定する破断特性推定装置であって、
第1の温度と第2の温度との間の歪み速度に対する降伏応力の変化の傾向が切り替わる点での歪み速度の差分を取得する差分取得手段と、
前記第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を入力して記憶する第2入力手段と、
前記第2入力手段によって入力されて記憶された前記第2の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を、前記差分取得手段によって取得された前記差分を用いて補正して、前記第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値を算出する歪み速度補正手段と、
歪み速度補正手段によって算出された前記第1の温度における第1の破断歪みの値に対応する歪み速度の値に基づいて、前記第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を推定する関係推定手段と、
前記関係推定手段によって推定された前記第1の温度における歪み速度と破断歪みとの関係を示す情報を出力する出力手段と、
を備える破断特性推定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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